...

赤痢菌の検査法

by user

on
Category: Documents
12

views

Report

Comments

Transcript

赤痢菌の検査法
Ⅱ. 赤痢菌の検査法
1.はじめに
赤痢菌は、
1) 3類感染症菌:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律
(感染症新法;平成 11 年4月施行)
2) 食中毒菌:食品衛生法施行規則の一部改正(平成 12 年 12 月 28 日施行)
3) ヒト及び高等なサルに病原性を有する。
4) 経口的に摂取されると下痢、発熱、腹痛を主懲とする細菌性赤痢の原因とな
る。典型的な例では便に粘液・血液が混じった、しぶり腹を訴える。
2.分類
赤痢菌は生化学的性状と血清学的性状によって、次の4亜種に分けられる。
A 亜群(志賀赤痢菌 S. dysenteriae):型特異抗原により1~12 型に分類され
る。
B 亜群(フレキシネル菌 S. flexneri):型特異抗原(Ⅰ~Ⅵ型)と群抗原(3、
4、6、7、8)により分類される。
C 亜群(ボイド菌 S. boydii):型特異抗原により1~18 型に分類される。
D 亜群(ソンネ菌 S. sonnei):1菌型のみ
3.性状
表1
集落性状
表2
分離培地
集
落
性
状
SS 寒天培地
直径 1~2mm の無色半透明
(SSS 寒天培地)
集落。ソンネ菌では、中心
部が淡桃色を帯びることが
ある。
DHL 寒天培地
BTB 加乳糖寒天
培地(ドリガルスキー
改良培地)
無色半透明集落。SS 寒天培
地に比べて集落が大きい。
青色半透明の集落
各分離培地上集落所見:
円形、湿潤、比較的扁平
乳糖、白糖非(遅)分解のため
無色半透明
血清学的性状
O抗原によって血清型別する。
(赤痢菌はH抗原を持たない)
A 亜群、B 亜群、C 亜群、D 亜群
主な生化学的性状
性状
TSI 乳糖 利用性
ブドウ糖 酸
ガス産生
反応
d
+
d
-
-
d
-
d
LIM リジンデカルボキシラーゼ
運動性
インドール
クエン酸 シモンズ
酢酸ナトリウム
+:90%以上が陽性
-:90%以上が陰性
d:菌株によって反応が異なる
dを示す株は、
* D 亜群は乳糖と白糖を遅れて分解。
* TSI でガス産生:S.flexneri6 の一部
* インドール産生:一部の株(表3参照)
* 酢酸ナトリウム分解株:
S. flexneri 4a の一部(表3参照)
Ⅱ.1
表3
D群
Shigella
sonnei
C群
Shigella boydii
B群
Shigella flexneri
A群
Shigella dysenteriae
亜群
菌
型
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
1a
1b
2a
2b
3a
3b
4a
4b
5a
5b
6
X
Y
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
赤痢菌の分類と特異的生化学性状
抗原構造
多価
血清
A
A1
型血清
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
B
Ⅳ
Ⅴ
C
C1
C2
C3
D
群血清
Ⅵ
-
-
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
共通抗原を
持つ大腸菌等
O112a、O112c
O124
O144
O152
4
(4)、6
4
7
(4)、6、7
(4)、6
(4)
6
4
7
(4)
7
4
相;Ⅰ、Ⅱ
O143
O112a、O112b
Pleshiomonas
shgelloides
特異的性状
インドール
ガス
乳糖
マンニット
酢酸 Na
-
+
-
-
-
-
+
+
-
-
-
-
-、+
-、+
-、+
-、+
+
+
+、-
+、-
+
+
-
+、-
+、-
-
-
-
-
+
-
+
-
+
-
+
-
+
-
+
・
・
・
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
+、-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
・
・
・
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
+
+
+
+
+
+
+、-
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+
+、-
+
+
+
+
+
+
+
+、-
+
・
・
・
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-、+
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
・
・
・
-
-
-*
+
-
・:分離株数が少ないので、陽性率を示すまで至らない.*:乳糖遅分解(S. sonnei)
Ⅱ.2
4.検査法
1) 便
発病初期で抗生物質投与前の新鮮な排泄便1~2gをキャリ・ブレア培地に採取
する。自然排泄便が採取できない場合直接採取するが、その場合通常量が少ないた
め乾燥しやすく、赤痢菌の死滅が早いことから、採便後直ちに培養するよう心がけ
る。
分離培養
(SS 寒天培地)、DHL 寒天培地
36℃± 一夜培養
疑わしい集落を釣菌(複数個)
確認培養:TSI、LIM
36℃± 一夜培養
確認培地観察
赤痢菌の性状
である
血清型別
分離培地の種類:
【SS 寒天培地】選択性強い
【SSS 寒天培地】
【DHL 寒天培地】選択性弱い
*SS、DHL を併用する
疑わしい集落:
培地色コロニー(乳糖・白糖非分解)
赤痢菌の性状
ではない
検査終了
赤痢菌陰性
多価血清による凝集反応(スライド凝集)
各因子血清による凝集反応(スライド凝集)
確認培養:
一次確認培地:【TSI】【LIM】
二次確認培地:【VP】【酢酸ナトリウム】
【シモンズ・クエン酸 Na】【尿素培地】
確認培地の使い分け(の一例)
集団感染事例(検体は多数)・・
一次確認培地のみ
接触者検便等(検体は少ない)
VP、酢酸 Na、シモンズクエン酸 Na
を同時に行ってもよい
血清型決定
赤痢菌性状:
TSI
-/+
ガス(-)・・・例外あり
LIM
リジン(-)
インドール・・・血清型で異なる
(表3参照)
運動性(-)
線刺線に沿って発育
血清型別:
*血清型別はスライド凝集法で行う。
*赤痢菌の性状を有し、市販血清
に凝集しない株は、新しい血清
型の可能性があるので、型別を
感染研等に依頼する。
Ⅱ.3
2)飲料水
採水容器は滅菌したものを用い、採水量は1L を目安とする。被検水がすでに塩
素消毒されている場合は、採水容器にチオ硫酸ナトリウム粉末 0.05gを入れて高圧滅菌し
た容器に採取する。また、飲料水中の赤痢菌の菌数は一般にきわめて少なく死滅し
やすいので、採水後少なくとも2時間以内に培養する。
飲料水 (約1L 採取)
* 《大腸菌群測定》
* 《一般生菌数測定》
* 採水量は、1L を目安とする。
* 大腸菌群、一般生菌数を測定する。
(上水試験法に準じて行う)
赤痢菌検査(約 800ml)
(1)増菌培養法
検体約 400ml+2倍濃厚ブイヨン培地 400ml
36℃±
一夜培養
分離培養
・ 増菌培養法:
* 2倍濃厚ブイヨン培地を作成。
(TSB、普通ブイヨン、HI ブイヨン等)
* 検体に等量の2倍濃厚ブイヨンを
加え、36℃±で一夜培養する。
* 分離培養
1白金耳を分離培地に塗布し、
以後便検査と同様の手順で検
査を進める。
以後便検査と同様の手順
(2)濾過集菌法
検体約 400ml
ミリポアフィルター濾過装置で吸引濾過
分離培養
濾紙表面を少量の生食水ですすぎ、
白金耳で分離培地に接種する。
以後便検査と同様の手順
Ⅱ.4
・ 濾過集菌法:
* 滅菌したミリポアフィルター濾過装置
を準備する。
(0.45μm or 0.22μm)
* 約 400ml を吸引濾過する
・ 分離培養
* 濾紙を少量の生食水(PBS、ブイ
ヨン培地でも可)ですすぐ。
(濾紙のすすぎ方)
① 濾過終了後の濾紙を丸めて
中試験管に入れる
② 約 1ml の生食水を入れる
③ ミキサーで撹拌し濾紙表面に付
いた菌を洗い出す。
* すすぎ水の1白金耳を分離培地
に画線培養する。
(分離培地は必要に応じ 1~10 枚
使う)
* 以後便検査と同様の手順で検査
を進める。
5.血清型別法
生化学的性状で赤痢菌と同定された菌株について、赤痢診断用抗血清で血清型別
を行う。
1) 多価血清
* S. dysenteriae :A 多価血清、
A1 多価血清
* S. flexneri
:B 多価血清
* S. boydii
:C、C1、C2、C3 多価血
清
* S. sonnei
:D 多価血清
2) 因子血清
* S. dysenteriae:型因子血清
A 多価血清(1・2・3・4・5・6・7)
A1 多価血清(8・9・10・11・12)
* S. flexneri
B 多価:
型因子血清:Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴ・Ⅵ
群因子血清:(3)4、6、7(8)
* S. boydii:型因子血清
C 多価血清:1・2・3・4・5・6・
7
C1 多価血清:8・9・10・11
C2 多価血清:12・13・14・15
C3 多価血清:16・17・18
血清型別の手順
* A~D の各多価血清と生理食塩水
を1滴ずつスライドグラスに
とる。
* TSI 斜面の菌を白金線でとり、各
血清とよく混和する。
【陽性】:約1分以内にいずれか1
つの血清に明瞭な凝集
塊が認められる。
:生理食塩水には凝集なし。
生理食塩水で凝集・・・
自発凝集で型別に適さない
【陰性】:いずれの多価血清にも凝集
が認められない.
:全ての血清に凝集する.
:生理食塩水に凝集する.
* 対応する亜群が決定したら
因子血清による型別を行う。
血清型別に当たっての注意点
* 大腸菌には赤痢菌と同一抗原を持つ菌や、一部と交叉凝集する菌がある。
そのような菌の場合、生化学的性状を第一に考え赤痢菌の同定を行う。
* 生化学的性状、血清反応で大腸菌との区別がつかないときには、
・・・・病原因子検索(LAMP)を行う。
赤痢菌の病原因子:細胞侵入性因子(ipaH)
Ⅱ.5
表4
血清
型
亜
型
S. flexneri の抗原構造と凝集反応
凝
集
反
型因子血清
応
群因子血清
簡略化した
抗原構造表
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ Ⅴ
Ⅵ (3)、4
6
7、(8)
1a
++
-
-
-
-
-
++
-
-
Ⅰ:4
1b
++
-
-
-
-
-
(+)
++
-
Ⅰ:4、6
2a
-
++
-
-
-
-
++
-
-
Ⅱ:3、4
2b
-
++
-
-
-
-
-
-
++
Ⅱ:7、8
3a
-
-
++
-
-
-
(+)
++
++
3b
-
-
++
-
-
-
(+)
++
-
Ⅲ:(3、4)6、
7(8)
Ⅲ:(3、4)6
4a
-
-
-
++
-
-
(+)
-
-
Ⅳ:(3、4)
4b
-
-
-
++
-
-
-
++
-
Ⅳ:6
5a
-
-
-
-
++
-
++
-
Ⅴ:(3)4
5b
-
-
-
-
++
-
-
-
++
Ⅴ:7、8
6
-
-
-
-
-
++
(+)
-
X
-
-
-
-
-
-
-
-
++
-:7、8
Y
-
-
-
-
-
-
++
-
-
-:3、4
1
2
3
4
5
++:強い凝集反応、
Ⅵ:(3、4)
(+):弱い凝集または凝集なし、
Ⅱ.6
-:凝集なし
6.食品からの S.sonnnei の検出(付録)
A. 検査の流れ
増菌培養
検体 25g + ノボビオシン加 Shigella broth 225ml
嫌気培養(44℃、18-24hr)
LAMP 法
LAMP 法よる ipaH 遺伝子のスクリーニング
検出
不検出
S.sonnei 陰性
Beads 法
免疫磁気ビーズで S.sonnei を集菌
分離培養
DHL 寒天培地、CHROMagar O157 TAM、SS 寒天培地に接種
培養(35-37℃、18-24hr)
確認培養
S.sonnei と疑われるコロニーを TSI 培地、LIM 培地等に接種
培養(35-37、18-24hr)
観
察
生化学的性状試験、血清型別試験
B. 検査法の出典
平成 14 年 1 月 9 日 事務連絡
厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長
赤痢菌の試験方法について
Ⅱ.7
発
2)増菌培養
A.
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
使用する機材・試薬等
フィルター付きストマッカー袋
秤量器
Shigella broth (OXOID社)
ノボビオシン
(Becton、 Dickinson社)
Tween 80
(関東化学(株))
50ml用遠心チューブ
吸い口の広い1000µl用マイクロチップ
(ART-1000G (Molecular BioProduct社)等)
⑧ 嫌気培養用容器
⑨ 嫌気性用ガス発生キット
⑩ 嫌気性指示薬
B. ノボビオシン加Shigella brothの調整(500ml/2検体)
① Shigella broth 15gを蒸留水500mlに溶解する。
② 50ml用遠心チューブの中に0.75g(0.75ml程度)のTween 80を測り取る。
Tween 80の採取は、吸い口の広い1000µl用マイクロチップを使うと良い。
③ 遠心チューブに、溶解したShigella broth(①)の一部(20ml程度)を加えた後、
遠心チューブに蓋をし、振り混ぜてTween 80を懸濁させる。
④ 懸濁させたTween 80(③)を残りのShigella broth(①)に加える。
⑤ 121℃、15分間オートクレーブした後、温浴中で約50℃まで冷ます。
⑥ 20mg/10mlに調製したノボビオシン溶液125µl(0.25mg相当)を加える。
C. 赤痢菌液の調製
① Smooth型コロニーを作るS.sonneiを増菌培地に接種し、一晩、振とう培養。
増菌培地はHeart infusion broth、Trypticase soy broth等を用いる。
② 培養液を滅菌済み生理食塩水で10-7倍希釈する。
希釈培養液は、1陽性検体に1ml必要(D. ③)。
D. 増菌培養
① 検体25gをストマッカー袋に測り取る。
検体数+1(陽性検体分)を作成する。
② 各検体にノボビオシン加Shigella broth 225mlを分注し、手で揉み撹拌する。
③ 陽性検体には、赤痢菌液(C.)1mlを加える。
④ 各検体を別々の嫌気培養用ジャーに入れる。
⑤ 嫌気性用ガス発生キット、嫌気性指示薬を嫌気培養用容器にセットする。
⑥ 容器を密閉し、44℃で18-24時間培養する。
Ⅱ.8
E. 増菌培養の選択性
① 増菌培養の条件
44℃で培養:糞便系大腸菌や赤痢菌は44℃でも生育
嫌気培養:赤痢菌は通性嫌気性菌なので嫌気性条件下でも生育
② ノボビオシン加Shigella broth
ノボビオシン:雑菌(Pseudomonas属菌、Klebshiella属菌、Citrobacter属菌、
Proteus属菌等)の発育を抑制
胆汁酸塩:グラム陽性菌の発育を抑制
Tween 80:培地中で菌を拡散させる作用及び増殖中の菌への脂肪酸供給源として
働くことで、赤痢菌の増殖を高める。
3)LAMP 法による赤痢菌病原因子(ipaH)の検出
赤痢菌の病原因子である ipaH 遺伝子を検出する。
ipaH 遺伝子はゲノム上に存在しており、殆どの赤痢菌株が保有しているが、その機
能(赤痢菌が腸上皮細胞に侵入する際の宿主の免疫機構への応答等)は不明な点が多
い。他の病原因子として invE もあるが、invE 遺伝子はプラスミド上に存在している
ため、菌株によっては既に脱落している場合もある。
なお、ipaH、invE は腸管組織侵入性大腸菌も保有しているので、病原因子の遺伝子
の検出だけでは赤痢菌と判定できず、生化学性状や血清型も試験する必要がある。
A. 使用する機材・試薬等
① プライマー
FIP : 5’-TTTCCAGCCATGCAGCGACCGATACCGTCTCTGCACGC-3’
BIP : 5’-CTCTGCGGAGCTTCGACAGCTCCTCACAGCTCTCAGTGG-3’
F3 : 5’-GTTCCTTGACCGCCTTTCC-3’
B3 : 5’-GAGGGTTTTCCGGAGATTGT-3’
Loop-F : 5’-TGTTCACGGAATCCGGAGGTA-3’
※ 2
Loop-B : 5’-TTCGCTGTTGCTGCTGATG-3’
※ 1
※ 1
Song T、Toma T et al.
Sensitive and rapid detection of Shigella and enteroinvasive Escherichia coli
by a loop-mediated isothermal amplification method.
FEMS Microbiol Lett. 2005 Feb 1 ; 243(1);259–263
※ 2
当室で作成したプライマー。
Ⅱ.9
②
③
④
⑤
⑥
⑦
Loopamp 蛍光・目視検出試薬
(栄研化学(株))
200 µl マイクロチューブ(nuclease free の物)
1.5 ml マイクロチューブ(nuclease free の物)
マイクロチップ(nuclease free の物)
PCR 装置
紫外線照射装置
B. RM ipaH の調整
① 各プライマーを 100µM に調製する。
② 以下の容量でプライマー及び試薬を調整する。
2 × Reaction Mix.
312.5 µl
FIP
10 µl
BIP
10 µl
Loop-F
5 µl
Loop-B
5 µl
F3
1.25 µl
B3
1.25 µl
蒸留水
155 µl
RM ipaH
500µl / 25 反応
C.
①
②
③
④
⑤
DNA 抽出
培養液を小試験管に 5ml 程度採取し、20-30 分静置して食品成分を沈降させる。
EX F 50µl をマイクロチューブに分注する。
マイクロチューブに 30 分静置した培養液(①)の上清 50µl を加える。
よく混合した後、ヒートブロックで 95℃、5 分間加熱する。
マイクロチューブを遠沈し、氷上で保存する。
Ⅱ.10
D. 試薬調製(氷上操作)
① 1 検体あたり RM ipaH 20µl、Bst polymerase 1µl を使用する。
マイクロチューブに“食品検体+陽・陰性コントロール 2 検体”分の試薬を分注
して、ボルテックスで泡立たない様に注意しながら混和する。
② 検体数分の 200µl マイクロチューブを準備し、試薬(①)を 20µl づつ分注する。
③ 試薬を分注したマイクロチューブに氷上で保存してある DNA 抽出液 5µl を加えて、
ピペッティングでよく混和する。
④ 陽性コントロールに Shigella DNA を 5µl 加え、ピペッティングでよく混和する。
⑤ 陰性コントロールには EX F を 5µl 加え、ピペッティングでよく混和する。
⑥ 気泡が生じている場合は、卓上簡易遠心機で遠心して気泡を除去する。
RM ipaH
E.
①
②
③
④
LAMP 反応
試薬調整前にリアルタイム濁度計の電源を入れておく。
ボンネットの温度が一定温度に到達していることを確認して、検体をセットする。
63℃、60 分で LAMP 反応を行い、その後、80℃で 2 分加熱して酵素を失活させる。
直ぐに判定しない場合は 4℃で保存する。
F. 判定
LAMP 反応の進行に伴い、副生成物のピロリン酸マグネシウムが生成する。リアルタ
イム濁度計は濁りを検出することで、陽性又は陰性を判定する。
リアルタイム濁度計を用いなくても、蛍光試薬の FD 試薬と PCR 法装置でも LAMP 反
応を行える。FD 試薬には、カルセインカルシウムが含まれており、LAMP 反応の進行
に伴いピロリン酸カルシウム及びカルセインイオンが生成する。カルセインイオンは、
紫外線の照射により蛍光を発する。
Ⅱ.11
4) ビーズ法による赤痢菌の濃縮
A.
①
②
③
④
⑤
使用する機材・試薬等
磁気ラック:DYNAL MPC®-M
(Invitrogen 社)
免疫血清:赤痢菌免疫血清「生研」
(デンカ生研(株))
®
免疫磁気ビーズ:Dynabeads M-280 Sheep anti-Rabbit IgG
洗浄液:PBS with Tween 20
(Sigma–Aldrich 社)
分離培養培地 : DHL 寒天培地、SS 寒天培地
CHROMagar O157 TAM
(OXOID 社)
B.
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
⑨
ビーズ法の手順
培養液を小試験管に 5ml 程度採取し、20-30 分静置して食品成分を沈降させる。
マイクロチューブを磁気ラックにセットする。
磁気板を抜き取り、各マイクロチューブにソンネ赤痢菌 I 相血清 20µl を分注する。
静置した培養液(①)の上清 1ml をマイクロチューブに加える。
室温で 1 時間、振とうして免疫血清と赤痢菌を反応させる(抗原抗体複合体)。
免疫磁気ビーズ 20µl を添加する。
室温で 1 時間、振とうし、抗原抗体複合体(⑤)と免疫磁気ビーズを反応させる。
磁気板を磁気ラックにセットし、3 分間静置する。
チューブの蓋を注意深く明けて、液を吸い取る。
この際、免疫磁気ビーズを吸い込まないよう注意深く行う。
Ⅱ.12
(Invitrogen 社)
⑩ 磁気板をセットしたままで、洗浄液 1ml 加えた後、注意深く吸い取る。
この操作を 2 回繰り返す。
⑪ 洗浄液 150µl 加えて、免疫磁気ビーズを懸濁する。
免疫磁気ビーズ
Shigella sonnei
抗原抗体複合体
ソンネ赤痢菌I相血清
C. 分離培養
① DHL 寒天培地、CHROMagar O157 TAM、SS 寒天培地に、ビーズ懸濁液(B. ⑪)
50µl ずつを白金耳で培地上に広げ、35~37℃で 18~24 時間培養する。
② 同様に食品成分を沈降させた培養液(B. ④)も鑑別培地に塗布し培養する。
D. DHL 寒天培地と SS 寒天培地
① 用途
Salmonella 属菌、Shigella 属菌の分離培養に適した選択培地。
② コロニーの性状
Shigella 属菌は乳糖遅分解菌のため無色透明なコロニーを形成。
SS 寒天培地:乳糖分解菌はレンガ色のコロニーを形成
DHL 寒天培地:乳糖、白糖分解菌は赤色から桃色のコロニーを形成
乳糖・白糖分解 → 酸産生 → pH↓ → ニュートラルレッド(指示薬)赤変
SS 寒天培地
DHL 寒天培地 :硫化水素産生菌はコロニーが硫化鉄の生成により黒変
Ⅱ.13
③ 選択性
胆汁酸塩、クエン酸塩、チオ硫酸塩
:グラム陽性菌の発育抑制
ブリリアントグリーン
SS 寒天培地は、DHL 寒天培地と比べて、胆汁酸塩やクエン酸塩等の含量が高く選
択性が強いため、Salmonella 属菌や Shigella 属菌(S.dysenteriae や S.sonnei)の
発育を抑制することがある。SS 寒天培地の単独使用は避ける。
5) 確認培養
A. 生化学的性状試験、血清型別試験
① 分離培地上の S. sonnei と疑われるコロニーを釣菌し、ソンネ赤痢菌 D 多価血清
によるスライド凝集反応を行う。
② 凝集反応のあったものは TSI 培地、LIM 培地等に接種し、37℃で 18-24 時間培養す
る。
③ S.sonnei の生化学的性状を示したものは、プレート凝集法により血清型別試験を
行い、S.sonnei かを判定する。
(S.sonnei の生化学的性状)
ブドウ糖分解能:+
乳糖・白糖分解能:-
ガス産生:-
硫化水素産生:-
リジン脱炭酸能:-
インドール産生:-
運動性:-
マンニット分解能:+
酢酸ナトリウム分解能:-
B. Smooth(S)型コロニーの分離
Shigella 属菌(特にソンネ菌)は、S-R 変異(S 型菌から Rough(R)型菌への変異)
を起こしやすい。S-R 変異は O 抗原に関する rfc 遺伝子の変異により生じる不可逆的
な変異である。R 型菌は自己凝集しやすく、血清型別試験には S 型菌を用いるのが望
ましい。分離培養後、培地上に S 型の菌が見られない場合は、以下の方法で S 型菌を
回収する。
① 輪郭が比較的スムースなコロニーを 幾つか掻き取り 、Heart infusion broth
(pH7.8)4ml に接種する。
Ⅱ.14
② 37℃で 1 夜静置培養する。
③ 白金耳の輪部分を培養液の液面に浸け(S 型菌を採取)、それを別に分注した Heart
infusion broth(pH7.8)4ml に接種する。
弱アルカリ性条件下では S 型は上層に、R 型は下層に分布する。培養液を揺らすと
S 型と R 型が混ざってしまうので揺らさない。
④ 37℃で 4 時間静置培養する。
⑤ 液面付近の培養液を白金耳で採取し、選択性が低い培地に塗布する。
採取した培養液が少ないので、培地に塗布する際のストロークの間隔は広くする。
⑥ 37℃で 1 夜培養する。
⑦ S 型コロニーを選び、生化学的性状確認培地に接種し、培養する。
⑧ 生化学的性状試験や血清型別試験により赤痢菌と判定する。
(Heart infusion broth)
ウシ心筋抽出液、ペプトン、塩化ナトリウムから成る。
心筋抽出液は、肉エキスより菌の発育促進物質を豊富に含んでいるだけでなく、ペ
プトンやカンテン中の発育阻害物質をある程度無毒化する作用も持つ。
また、心筋抽出液は、肉エキスよりグリコーゲンの含有量が少ない。このため、菌
が過剰増殖するのを抑え、菌が S-R 変異が起こしにくくなっている。
Ⅱ.15
Fly UP