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金融危機後の 中国における石油資源確保の動き
JOGMEC 調査部 竹原 美佳 アナリシス ドルから資源へ、金融危機後の 中国における石油資源確保の動き はじめに 金融危機後、中国政府は金融収縮や油価の下落を資源確保の好機と見て素早く動いた。産油国への融 資協定と原油長期輸出協定あるいは油ガス田開発やパイプライン投資を組み合わせた、いわゆる“Loan for Oil(Gas) ”について複数の産油国との間で合意した。合意額は 2 0 0 9 年 2 月から 7 月までの半年で 4 6 5 億ドルに達しており、ロシアやエクアドルに対して段階的な融資が始まっている模様である。 中国が資源分野への対外投資を加速していることについて、資源企業の買収が集中した豪州など一部 の資源国では警戒の声が高まっている。しかし、少なくとも“Loan for Oil”については産油国政府ある いは企業にとり資金調達コスト軽減、安定した供給先(市場)の確保、中下流を含む事業提携など複数の 利点がある。 世界最大の外貨準備保有国である中国にとって、“Loan for Oil”は石油の安定供給(調達多様化)はも ちろんのこと、原油や天然ガスという実物資産を担保に持った上で、外貨を長期かつ安定的に運用する ことができ、銀行の 「国際化」 戦略にも合致する有効な手段のようだ。 政府の対外投資奨励策や国際化を進める銀行の戦略が企業の対外投資を強力に後押ししており、メイ ンプレイヤーである国有石油企業の他に、国家ファンド、中国投資有限責任公司(CIC)や中国中化集団 公司(Sinochem)のような貿易系国有企業も資源投資に向かっている。しかし、企業の対外投資は産油 ほんろう 国の資源ナショナリズムに翻弄される事例も見受けられる。 中国は金融危機による需要・価格低迷期に備蓄原油の調達にも素早く動いた。国家石油備蓄4基地の 備蓄原油購入を完了し、現在 2 期、3 期の国家石油備蓄の計画を急ピッチで進めている。 政府の求める外貨運用多様化、石油安定供給と、個別企業の戦略は必ずしも同じではないが、金融危 機後、政府から国有企業に至るまで、金融資産から資源へという流れができており、資源価格に大きな 変化が起きない限りこの傾向は当分変わらないと思われる。 本稿では金融危機後の中国政府による石油資源確保の動き、外貨の運用多様化、勢いづく国有石油企 業の対外資源投資、加速する国家石油備蓄についてまとめた。 1. 金融危機後の中国政府による石油資源確保 (1) 金融危機後、政府が主導した石油資源確保(Loan for Oil) む)を組み合わせた、いわゆる“Loan for Oil(Gas)”を複 数の産油国との間で合意した。合意額は 2 0 0 9 年 2 月か 金融危機後、中国首脳はブラジル、ベネズエラなど大 ら 7 月の半年で約 4 6 5 億ドルに達している。執行状況に 産油国あるいは今後増産ポテンシャルの高い産油国を訪 ついて詳細は不明だが、ロシア Rosneft は 9 月までに合 問した。そして、国家開発銀行などと産油国国営石油企 意額 1 5 0 億ドルのうち 5 9 億ドルを受領 * 1、ブラジル 業間の融資協定と両国石油企業間の原油長期購入契約や Petrobrasは10億ドルを受領していると報じられており、 中国国有石油企業の上中流事業への投資(資産買収を含 段階的に実施されている模様である。 1 石油・天然ガスレビュー アナリシス (2) 各産油国との Loan for Oil 概要 例えば 2 0 0 4 年には中国輸出入銀行がアンゴラ輸出入銀 中国はこれまでも石油の安定供給ならびに外交政策の 行に低利融資を行い、その後の追加融資を含め、現在ア 一環として、産油国に対し相当額の融資を行ってきた。 ンゴラは中国に融資の返済として約 4 万バレル / 日を輸 いわゆる “オイルバックローン” (原油の先払い金として 出している* 2。しかし今回の Loan for Oil は自ら提案し 融資を行い、返済を原油で受け取る融資) の事例もある。 たエクアドルを除き、いわゆる“オイルバックローン” で ロシア ・融資 ・原油輸出 ・パイプラインの建設運営 カザフスタン ・融資 ・上流参加 (CNPC) 250 30 17 ベネズエラ ・共同基金への拠出増額 ・原油輸出 ・上流参加 (CNPC) 40 8∼20? 10 10 ★ 40 300∼400 エクアドル トルクメニスタン ・融資 ・原油輸出 ・融資 ・天然ガス輸出 (上流参加?) 108 20 契約金額 億ドル 原油供給量 万b/d ガス供給量 億m /年 3 ブラジル ・融資 ・原油輸出 ・上流参加 (Sinopec) 表1 金融危機後に締結した主な Loan for Oil(Gas)案件 融資契約 長期供給契約 その他 融資先、融資額 国家開発銀行 原油購入契約 2009 年 2 月 CNPC、PDVSA と共同で 中国とベネズエラの「共同 ベネズエラ:PDVSA ベネズエラ (習近平副主席訪問時基本合 重質油開発、成熟 5 油田の 投資基金」への拠出額を 40 中国:CNPC 意) 埋蔵量評価等で合意 億→ 80 億ドルに 数量:8 万~ 20 万 b/d 国家開発銀行 原油購入契約 CNPC は Transneft と太平 2009 年 2 月 Rosnest:150 億ドル ロシア:Rosneft 洋原油パイプライン中国向 ロシア (セーチン副首相訪中時基本 Transneft:100 億ドル 中国:CNPC け(大慶)支線建設、運営 合意、3 月最終合意) 融資額計:250 億ドル (2011 ~ 30 年:30 万 b/d)について合意 国家開発銀行 原油購入契約 2009 年 2 月 習近平副主席訪問時合意 Petrobras:100 億ドル ブラジル:Petrobras (習近平副主席訪問時基本合 Sinopec は Petrobras とブ ブラジル 国立経済社会開発銀行 中国:Sinopec 意、5 月ルラ大統領訪中時 ラジル沖合 2 探鉱鉱区権益 (BNDES):8 億ドル (2009 年:15 万 b/d 最終合意) 付与で交渉中 融資額計:108 億ドル 2010 ~ 19 年:20 万 b/d) 共同資産買収 カザフスタン:Kazmunaigaz 2009 年 4 月 中国:CNPC 中国輸出入銀行 - カザフスタン (ナザルバエフ大統領訪中時 (CNPC が Kazmunaigaz に 融資:17 億ドル 合意、調印) 33 億ドル支払い、 Mangistaumunaigas の所有 権 49%を取得) 天然ガス購入契約 トルクメニスタン: 2009 年 6 月合意、調印 国家開発銀行 Turkmengas トルクメニスタン (タギエフ副首相訪問時合 - 融資:40 億ドル 中国:CNPC 意、調印) (2010 ~ 30 年:最大 400 億 m3/ 年) 国家開発銀行 原油購入契約 エクアドル 2009 年 7 月合意、調印 - 融資:10 億ドル (2 年間、10 万 b/d) 産油国 合意時期 出所:各種情報に基づき JOGMEC 作成 2009.11 Vol.43 No.6 2 ドルから資源へ、金融危機後の中国における石油資源確保の動き はない。原油は債務返済不履行の際の担保にはなってい 設立しており、ベネズエラの成熟 5 油田(Yopales、Sur、 るようだが、 融資協定と輸出協定は別立てとなっている。 Oca、Leos、Merey)に対する埋蔵量評価を共同で行う 中国は 2 0 0 5 年にロシアへ行った融資の教訓から、今 ことについて合意した。 回の Loan for Oil の条件設定は慎重に行ったようだ。具 中国側の公式見解は出ていないが、9 月にチャベス大 体的には、次のような事情がある。 統領は中国が今後 3 年で重質油開発に 1 3 0 億ドルを投じ 2 0 0 5 年 1 月、CNPC は Rosneft に 6 0 億ドルを原油購 ると述べた。ベネズエラの財政を支える石油産業は油価 入 に 係 る 先 払 い 金 と し て 融 資 す る こ と で 合 意 し た。 下落と経済危機により深刻な資金不足に陥っており、中 2 0 0 5 年 2 月以降 2 0 1 0 年末までに、融資額相当の原油を 国の投資に期待している。 中国向けに鉄道で供給するというもの(初年度は約 1 0 中国のベネズエラからの原油輸入量は 1 3 万バレル / 万 b/d、2 0 0 6 年以降は約 1 8 万 b/d)で、融資の金利は 日(輸入全体の 3.6 %)で、それほど多くはないが、CNPC LIBOR+3 %、原油契約価格は Brent のロンドン ICE 月間 は 1 9 9 7 年の同国上流事業への参入以降、PDVSA との 平均価格に対し3ドル /バレルのディスカウントという条件 提携を拡大している。また、2 0 0 9 年 7 月には Total と共 であった。中国は融資の代わりに原油を安く調達したいと 同でオリノコ(カラボボ)重質油鉱区の入札に参加してい の思 惑 があり、Rosneft はYukos子会社Yuganskneftgaz る。また CNPC は PDVSA と広東省掲陽市に合弁製油所 の買収資金を急いで調達する必要があり、契約は非常に (処理能力 2 0 万バレル / 日)建設を計画している* 4。現 ジエヤン 短期間で締結された。 在スタディを実施中であり、2 0 0 9 年末までに着工する し か し、 そ の 後 Rosneft 側 の 環 境 が 大 き く 変 化 し、 可能性がある。両社が折半出資する輸送会社がベネズエ Rosneft は CNPC に対し条件の見直しを要請した。2 0 0 5 ラの原油を中国に輸送する。 ~ 2 0 0 7 年にかけて LIBOR *3 が上昇した。更にウラル 原油と Brent のスプレッド(値幅)が縮小し、ルーブルの ② ロシア 対ドルレートが上昇、輸送費や資機材コスト上昇とも相 ~ロシア企業は低コストで資金調達、ロシア政府は まって、2 0 0 7 年に Rosneft の対中原油は 5 ドル / バレル 公的支援の負担を軽減~ の損失となっていた。数カ月に及ぶ交渉の末、CNPC は 2 0 0 9 年 2 月、セーチン副首相が訪中し、温家宝首相 LIBOR+0.7 %、原油の契約価格は Brent の ICE 月間加重 と王岐山副首相立ち会いの下、2 件の融資協定、東シベ 平均に対し 2.3 2 5 ドル / バレルのディスカウントという リア・太平洋パイプライン(以下、ESPO パイプライン) 条件見直しに応じた。ところが、その後 LIBOR が急落、 中国支線建設と運営に関する協定および、原油輸出協定 ウラルと Brent のスプレッドが急速に拡大し、CNPC は の計4件について合意した。その後、金利等をめぐり交 割安に原油を購入するつもりだったのが、Brent とほぼ 渉が難航していると伝えられていたが、3 月 3 1 日に最終 等価の割高なウラル原油を購入する羽目となり、原油長 合意した。 期購入交渉の難しさを痛感したようだ。 〔融資協定〕 ① ベネズエラ 中国国家開発銀行はロシア国営石油企業 Rosneft、パ ~資金不足にあえぐベネズエラは重質油開発で中国 イプライン事業者の Transneft と融資協定を締結した。 の投資に期待~ 同行は Rosneft に 1 5 0 億ドル、Transneft に 1 0 0 億ドル 2 0 0 9 年 2 月、ベネズエラと中国はエネルギー協力に を融資する。返済期間は 2 0 年である。この融資協定は ついて政府間協定を調印した。両国は、2 0 0 7 年に中国 輸出協定とは別立て、となっている。 とベネズエラが共同で設立した石油産業や社会福祉向け 今般の協定締結は金融危機によるロシア国有企業の資 「投資基金」への拠出額増額で合意した(中国の拠出額は 金難が契機となっている。ロシア国営石油企業は自社の 4 0 億から 8 0 億ドルに、ベネズエラの拠出額は 2 0 億から 株式を担保に外資系銀行から借入を行っていたが、金融 4 0 億ドル、基金総額は 1 2 0 億ドルに増加した) 。 危機後に株価が大幅に下落し、短期借入金の借り換えも また、ベネズエラは中国向けの原油輸出増加(2 0 万バ 困難な事態になった。Rosneft は 2 0 0 8 年末にロシア政 レル / 日程度)について合意した。ベネズエラは原油輸 府から 4 2 億ドルの公的支援を受けたが、なお多額の債 出代金の一部を中国国家開発銀行向けの返済に充てる模 務を抱え、2 0 0 9 年中に 9 6 億ドルの債務を返済しなけれ 様である。また、CNPC と国営 PDVSA は探鉱開発に係 ばならないという状況にあった。同じく Transneft も 2 4 るジョイントベンチャー(CNPC4 0 %、PDVSA6 0 %)を 億ドルの債務を抱えていた。またロシア政府による公的 3 石油・天然ガスレビュー アナリシス 支援の金利は約 1 0 %であったが、中国の貸付金利は 〔原油輸出協定〕 LIBOR 連 動 で、 上 限 6 % 程 度 と 報 じ ら れ て お り、 Rosneft と CNPC は 長 期 原 油 輸 出 協 定 を 締 結 し た。 Rosneft や Transneft は資金調達コストを削減すること Rosneft は 2 0 1 1 年 1 月以降 2 0 年間、1,5 0 0 万トン / 年 (3 0 ができ、ロシア政府も国有企業への公的支援の負担を軽 万バレル / 日)の原油を CNPC 向けに輸出する。原油輸 減することが可能となった。 出は ESPO パイプラインを通じて行う。原油は CNPC と 9 月までに、Rosneft は中国からの 1 5 0 億ドルの融資 Rosneft の下流ジョイントベンチャー* 6 が天津(濱海新 のうち 5 9 億ドルを受け取っており、債務の返済に充て 区)に建設する 3 0 万バレル / 日の製油所で処理する予定 *5 た模様である 。 である。製油所建設事業費は 2 1 0 億 5,9 0 0 万元(約 2,7 0 0 億円)で 2 0 1 0 年中に着工、2 0 1 2 年の竣工を目指してい る (図 1) 。 中国 〔ESPO パイプライン中国支線建設と運営に関する協定〕 ①中国国家開発銀行 1. 融資協定(①:②、①:③) Transneft は 1 0 0 億ドルの融資を受け、その一部を ESPO 中国支線の建設に充てる。ESPO パイプラインの ロシア ④CNPC 2. 長期原油輸出協定 2011∼2030年=30万b/d (②:④) 建 設 計 画 は 1 期( タ イ シ ェ ッ ト ~ ス コ ボ ロ デ ィ ノ 間 ②Rosneft:15B$ 2,6 9 4km)と 2 期(スコボロディノ~ナホトカコズミノ間 ③Transneft:10B$ 2,0 8 7km)で構成されており、輸送能力はスコボロディ ノまでが 6 0 万バレル / 日(1 0 0 万バレル / 日への増強計 3. ESPO パイプライン中国支線建設と 運営に関する協定(③:④) 画あり)である。 中国支線とはスコボロディノから中国東北部黒龍江省 出所:各種情報に基づき JOGMEC 作成 大慶までを指す。設計輸送能力は30万バレル/日である。 図1 融資による原油供給のスキーム:ロシア スコボロディノ~中国国境(6 7km)の建設は Transneft が行うことになっており、4 月 2 7 日に着工した。中国国 ロシア バンコール 東シベリア堆積盆地 西シベリア堆積盆地 ヤクーツク チャヤンダガス田 オホーツク海 ベルフネチョン油田 アルダン タラカン油田 デカストリ トムスク タイシェット コビクタ クラスノヤルスク サハリン 10万バレル/日 スコボロディノ ( 2008.12) バイカル湖 アンガルスク プリゴロドノエ ハバロフスク イルクーツク 国境 州境 市 油田 ガス田 既存石油パイプライン 計画済み石油パイプライン 既存ガスパイプライン 計画済みガスパイプライン 大慶 中国 1,000km 960万t/年 バレル/日 ウラジオストク 500 LNG 20万 ( 2011) モンゴル 0 30 万 バレル/日 (2009.3) (2006.10) ナホトカコズミノ 日本海 30万バレル/日 (2009.12) 日本 東京 出所:JOGMEC 図2 太平洋パイプライン(ESPO)概略図 2009.11 Vol.43 No.6 4 ドルから資源へ、金融危機後の中国における石油資源確保の動き 境~大慶(9 6 0km)は CNPC が建設することになってお 〔原油輸出協定〕 り、2 0 0 9 年 5 月に黒龍江省漠河県興安で着工した。5 月 PetrobrasとSinopecは輸出協定を締結した。Petrobras 1 8 日の起工式には王岐山副首相が出席した。 は 2 0 0 9 年に 1 5 万バレル / 日、2 0 1 0 ~ 2 0 1 9 年まで 2 0 万 ESPO パイプラインは 1 0 月 2 2 日にコズミノの原油貯 バレル / 日を Sinopec 傘下の貿易企業 Unipec 向けに輸出 蔵設備に原油が到着した。中国支線は 1 0 月現在、約 する。 4 0 0km 敷設されている。2 0 1 0 年中に完成し、2 0 1 1 年 1 2 0 0 8 年のブラジルからの原油輸入量は約 6 万バレル / 月から 3 0 万バレル / 日の輸送を開始する見通しである。 日であり、2 0 1 0 年以降供給量は大幅に増加することに なるが、輸入全体に占めるシェアは当面 1 割を超えるも ③ ブラジル のではない。 ~石油企業は深海油田開発の巨額投資資金調達コス トを軽減~ 〔中国企業のブラジル沖合探鉱への参加〕 2 0 0 9 年 2 月に習近平副主席がブラジルを訪問した際、 Sinopec はブラジル沖合 2 鉱区(非プレソルト)の探鉱 国家開発銀行とブラジル国営 Petrobras は最大 1 0 0 億ド 開発事業への参加について Petrobras と合意、現在交渉 ルの融資について覚書を交わした。Petrobras は CNPC・ を行っている。 Sinopec の 2 社と原油輸出について覚書を交わした。5 月のルラ大統領訪中時に融資協定とともに石油探鉱開発 〔資機材やサービスにおける提携〕 や貿易等 1 3 項目について最終合意した。 中国とブラジルは石油貿易のみならず資機材やサービ Petrobras はロシア国有石油会社と異なり、短期融資 スの面でも提携が拡大している。2 0 0 9 年 7 月、中国の の借り換えなどで資金難に陥ってはいない。Petrobras 南通中遠船務(中遠船務集団< COSCO SHIPYARD >子 は今回の融資を中国からの財・サービス等購入の資金や 会社)は Petrobras 向けに第 6 世代のセミサブマーシブル 同社のプレソルト *7 開発を含む 5 カ年計画(総投資額約 *8 リグ「SEVAN DRILLER」 を受注した(図 3) 。 1,7 0 0 億ドル)に充てるとしている。5 カ年計画初年であ る 2 0 0 9 年の投資額は 2 8 6 億ドルで、Petrobras はブラ ジル国立経済社会開発銀行(BNDES)や金融機関のコン ソーシアムから融資を得ることになっているが、ブラジ ④ カザフスタン ~融資と引き換えにカザフスタンの上流資産を CNPC に譲渡~ ルは今回の融資協定により、調達金利を抑えることがで 2 0 0 9 年 4 月、ナザルバエフ大統領の訪中時、中国と きるとしている。 カザフスタンは石油・天然ガス分野における協力と融資 について合意した。 〔融資協定〕 融 資 協 定 は 2 件 で、国家開発銀行は Petrobras へ の 〔合意内容〕 100億ドルの融資に加え、 BNDESに8億ドルを融資する。 2 0 0 9 年 4 月、CNPC とカザフスタン国営 Kazmunaigaz 金利は 6.5 %以下と伝えられている。 は「CNPC と Kazmunaigaz の石油天然ガス分野における 協力拡大ならびに 5 0 億ドルの融資サポート枠組み合意」 と「CNPCとKazmunaigazによるMangistaumunaigas共同 中国政府 買収合意」に調印した。5 0 億ドルのうち 3 3 億ドルは CNPC が Kazmunaigaz から Mangistaumunaigas の株式 ①中国国家開発銀行 2. 原油輸出協定 2009年=15万b/d 2010∼ 2019年=20万b/d (②:④) 1. 融資協定(①:②、①:③) ④Sinopec (Unipec) ブラジル ②Petrobras:10B$ ③国立経済社会開発銀行 :0.8B$ 出所:各種情報に基づき JOGMEC 作成 図3 融資による原油供給のスキーム:ブラジル 5 石油・天然ガスレビュー 権 5 0 %を取得するために支払い、1 7 億ドルは中国輸出 入銀行が Kazmunaigaz に融資する。 本件は実質的には中国企業(CNPC)によるカザフスタ ン石油企業Mangistaumunaigasの買収に係る合意である。 買収は当初 7 月に完了予定であったが、Kazmunaigaz が中国側に追加資金を要請し、遅延している(1 0 月末現 在完了していない) 。9 月に Kazmunaigaz の探鉱開発子 会社 Kazmunaigaz Exploration は Mangistaumunaigas 株 式を親会社より取得すると表明、買収は 1 0 月中に完了 アナリシス 油を中国に輸出していたが、輸送上の制約からカスピ海 中国 1.7B$ 融資 中国輸出入銀行 カザフスタン 寄りのケンキャック、北ブザチ油田などの権益原油は中 Kazmunaigaz 国に輸送できず、カザフスタンからの輸入量は 1 1 万バ レル / 日程度にとどまっている。 Mangistaumunaigas 49% 51% 3.3B$ 買収 CNPC 68% 株式取得 11% CIC しかし 2 0 0 9 年 9 月にケンキャック-クムコル間原油 Kazmunaigaz E&P パイプライン(7 9 2km、2 0 万バレル / 日)が完成し、ケ ンキャック、北ブザチ油田などの原油も中国向けに輸送 できるようになった。また物理的にはカスピ海産原油も 中国に輸送することが可能となった。パイプラインは 出所:各種情報に基づき JOGMEC 作成 4 0 万バレル / 日への増強計画がある。 図4 融資による原油供給のスキーム:カザフスタン ⑤ トルクメニスタン ~巨大ガス田開発資金と供給多様化確保に向け中国 サマーラ ウファ チェルヤビンスク ヴォルガ川 カザフスタン カラガンダ ケンキャック CNPC クムコル CNPC カスピ海 バルハシ湖 アラル海 ウズベキスタン 60E タシケント 都市 アシュガバット 首都 ガラ グ 石油パイプラインム 40N ドゥシャンベ 央アジアガスパイプライン(2 0 1 0 年稼働開始予定、設計 百口泉 カラマイ 輸送能力 3 0 0 億 m3/ 年)を通じ、中国向けに最大 4 0 0 億 ウルムチ 独山子 阿拉山口 アルマトイ ビシュケク キルギスタン ことを明らかにした。トルクメニスタンは中国向けの中 タイ 山 脈 アタス 第1 期 北ブザチ 開発向けとしてトルクメニスタンに 4 0 億ドル融資する アル イルテ ィン川 Petrokazakhstan 第2期 2 0 0 9 年 6 月、中国国家開発銀行は南ヨロテンガス田 パボロダール アスタナ アトラウ に接近~ ノボシビリスク オビ 川 オムスク m3/ 年の天然ガスを供給することで合意した。 コルラ トルクメニスタンは現在、ロシアとイランに天然ガス 脈 山 山 天 カシュガル 輪台 塔中 マカン タクラ 砂漠 タジキスタン 75E を販売しているが、供給先の多様化を志向しており、中 国に接近している。トルクメニスタン政府は基本的に陸 中 国 上の天然ガス田開発権益を外国企業には付与せず、必要 出所:JOGMEC な作業のみ請け負わせる方針であるが、CNPC に対して は中央アジアガスパイプラインの供給ソースとなる 図5 カザフスタン~中国間原油パイプライン Bagtiyaryk 鉱区権益を付与した。また、英コンサルタ ント Gaffney Cline が原始埋蔵量 6 兆 m3(2 1 1Tcf)と評 価した巨大ガス田、南ヨロテンガス田開発の一部に 石油パイプライン(既存) 予定である。後述するが、最近国外の資源企業への投資 CNPC を参加させることについても基本的に合意したと を 加 速 し て い る 中 国 の 国 家 フ ァ ン ド CIC が、9 月 に 伝えられる(図 6) 。 Kazmunaigaz E&P の株式 1 1 %を取得している。 Mangistaumunaigas は 2 0 0 8 年の生産量は Kalamkas、 ⑥ エクアドル Zhetibai油田など11万バレル/日程度、 埋蔵量は原油(2P) ~債務返済に追われ、産油国側からオイルバックロー が 3 億 7,0 0 0 万バレル、天然ガス(in-Place)は 4 1 8 億 m ンを要請~ 3 程度、この他 Pavlodar 精油所の権益を保有しているが、 2 0 0 9 年 7 月、エクアドルは中国と融資および原油輸 CNPC の所有権に製油所は含まれない。 出について合意した。中国国家開発銀行が原油購入に係 CNPC と子会社 PetroChina(どちらも国外上流投資を る前払い代金としてエクアドル向けに 1 0 億ドルを融資 行っている)の国外権益原油生産量(2 0 0 8 年末現在石油 した模様である。 換算で約 6 9 万バレル / 日)をスーダンと 2 分するのがカ エクアドルは 2 0 0 8 年 1 2 月、旧政権が違法に投資家と ザフスタンである。CNPC は 1 9 9 7 年の Aktyubinsk 社買 約定したとして 2 0 1 2 年償還のグローバル債について債 収や 2 0 0 4 年の Petrokazakhstan 社買収などによりケン 務不履行(デフォルト)となり、国際的な係争案件となっ キャック、北ブザチ、クムコル油田などで生産中である。 ている。同国の債務額は 2 0 0 9 年初めの 2 億 3,0 0 0 万ド 2 0 0 5 年に開通したアタス~新疆阿拉 山 口間パイプラ ルから 3 月には 7 億 3,0 0 0 万ドルに増加し、今回の融資 イン (2 0 万バレル / 日) によりクムコル油田の自社権益原 はその返済に充てられるようである。 ア ラ シャンコウ 2009.11 Vol.43 No.6 6 ドルから資源へ、金融危機後の中国における石油資源確保の動き 0 RUSSIA KAZAKHSTAN 360km カザフスタン・中国国境 596km 337km コルガス ウルムチ KYRGYZSTAN 2,400km トルファン アルマティ タラス 525km MONGOLIA 独山子 シムケント UZBEKISTAN 輪南 ウズベキスタン・カザフスタン国境 TURKMENISTAN TADZHIKISTAN 靖辺 トルクメニスタン・ ウズベキスタン国境 中衛 徐州 CHINA IRAN 1,000 km 洛陽 AFGHANISTAN 上海 KAZAKHSTAN ア ム ダ リ ア 河 PAKISTAN UZBEKISTAN 南昌 NEPAL TURKMENISTAN 湘潭 広州 BANGLADESH Bagtiyaryk鉱区 INDIA 南寧 海口 Am uda South Caspain Basin 2,400km rya 湛江 深圳 香港 Bas in 南ヨロテン油・ガス田 IRAN AFGHANISTAN 出所:JOGMEC 図6 中央アジア・第 2 西気東輸パイプラインと供給源となる鉱区、ガス田 エクアドルは中国向けに2年間原油300万バレル/月(9 豪州では海外からの投資を規制する外国投資買収法 万 6,0 0 0 バレル / 日)を供給することで合意した。2 0 億 (Foreign Acquisitions and Takeover Act 1975)により、 ドル全額が 2 年間のターム契約の先払い金であるとする 外国人(外国企業の豪州子会社を含む)による 1 億豪ドル と、エクアドルは中国向けに半値以下の約 2 8 ドル / バ 以上の資産を有する豪州企業への出資比率が 1 5 %以上 レルで輸出することになり、 にわかには信じがたい。ター となる投資に対して FIRB(豪州外国投資審査委員会)の ム契約の延長あるいは他のオプションがあると思われ 承 認 が 必 要 と さ れ て い た が、2 0 0 9 年 9 月、FIRB の る。ともかく、中国の 2 0 0 8 年のエクアドルからの原油 Patrick Colmer 委員長は、「海外国有企業(SOEs)からの 輸入量は約 2 万バレル / 日(輸入量全体の 0.6 %)だが、 豪州資源分野への投資は、これから開発が行われるプロ 2 0 1 0 年以降の 2 年間は現在のカザフスタンからの輸入 ジェクト(Green Field)には 5 0 %以下に、国内の主要資 量並み (輸入量全体の3%程度) に急拡大することになる。 源企業(Major Producers)への出資比率は 1 5 %以下に抑 えることが好ましい」と発言した * 9。 (3)Loan for Oil により産油国が得たもの しかし、エネルギー行政を所管する国家能源局の張国 ~資金(調達コスト軽減) 、安定した供給先(市場)、 宝局長は、中国が資源分野への対外投資を強化している 中下流を含む事業提携~ ことについて「中国は対外投資を通じ、世界全体の資源 中国の資源分野への対外投資が加速していることにつ の供給能力を高めている。投資対象国の多くも中国の投 いて、一部の資源国から警戒の声が上っている。中国資 資を歓迎している」と語っている。各産油国で事情は異 源企業による鉱山買収が盛んに行われている豪州では、 なるが、“Loan for Oil”のみを取り上げるのであれば、 海外国営企業による資源分野への投資に制限を設けよう 張局長の言うとおり産油国にとっても悪い話ではなかっ としている。 たように思う。 7 石油・天然ガスレビュー アナリシス エクアドルやロシアなど、債務を抱える産油国政府、 金融危機後、中国の石油需要は若干落ち込んだが、中 あるいは国営石油企業は今回の融資で割安に資金調達を 長期的には需要が増大し、需給ギャップが拡大する見通 行い、デフォルトを回避できた。また Petrobras のよう しである。IEA の中期石油見通し * 1 0 によると 2 0 1 4 年 に巨額の油田開発投資が控えている企業は、低い金利で までに年率約 3 %、毎年平均して 2 9 万バレル / 日程度消 資金調達をすることができた。産油国政府は中国からの 費が伸びる見通しである(図 8) 。 融資により自国国営石油企業への公的支援を軽減するこ 2008年の中国の石油純輸入量は約400万バレル/日で、 とができた。 日本の輸入量(約 4 5 7 万バレル / 日)とほぼ肩を並べてい また、原油輸出協定は、産油国にとって安定した供給 るが、早晩日本を追い抜くことになる。中国は世界第 5 先の確保につながる。ロシアやベネズエラは中国国内に 位の産油国で、3 9 0 万バレル / 日程度の国内供給があり、 自国原油対応の合弁製油所を建設する計画を進めてお 石油輸入依存度は現在 5 0 %。9 割を超える日本に比べ、 り、これは自社の事業多様化にもつながっている。例え それほど焦る必要はないようにも見える。しかし、IEA ばトルクメニスタンの場合、開発資金調達のみならず天 の中期石油見通しによると、中国は今後 5 年で現在より 然ガスの供給多様化という同国の戦略にも合致してい 1 7 0 万バレル / 日程度多く、5 7 0 万バレル / 日もの石油 る。 を輸入しなければならない。更に、中国国内のエネルギー 専門家の見通しによると、2 0 2 0 年には現在の二倍の (4)Loan for Oil による中国の成果 8 0 0 万バレル / 日前後* 1 1 の石油を輸入しなければなら ①産油国への公的融資 (Loan for Oil) と石油安定供給戦略 ない成り行きのようである。中国において今後増加する 複数の産油国との間で合意した Loan for Oil の合意額 分をどこから、どうやって調達するか、石油の安定供給 は約半年で 4 6 5 億ドル(4 兆円)に達したが、6 0 万バレル 戦略(現物の確保)に熱が入るのももっともなのである。 / 日以上の原油新規調達につながっており、石油の安定 中国政府は、Loan for Oil の他にもサウジアラビアや 供給戦略上一定の成果があったと言える。中国政府が巨 イランなどの大産油国と製油所、鉄道、港湾などへのイ 額の公的資金を産油国に融資する理由の一つは石油の安 ンフラ投資をコミットし、原油長期契約の増量を含むエ 定供給確保にある。中国は経済発展、モータリゼーショ ネルギー協力関係の強化を図っている。胡錦涛主席が ンの進展に伴い、1 9 9 0 年代に石油需要(特にガソリン、 2 0 0 9 年 2 月にサウジアラビアを訪問した際、サウジア 軽油、ナフサなど中・軽質留分) が急増した。1 9 9 7 年か ラビア政府は「いかなる時でも中国への原油供給を保証 ら 2 0 0 8 年の石油消費の伸び率は約 6.7 %、毎年平均して する」ことを公にした他、SaudiAramco の上級副社長は 3 6 万バレル / 日ずつ消費が伸びたことになる。同時期の 「2 0 1 0 年以降中国向けに原油 1 0 0 万バレル/日を供給す 世界石油消費の伸び率は 2 %足らずであり、中国の消費 る」と語った(サウジアラビアの中国向けの供給量は現在 は世界の石油消費の牽引役であったと見ることができ 7 6 万バレル/日程度)。 る(図 7)。 18 % 石油需要 万b/d 国内生産量 輸入依存度 16 % 60 1,000 900 58 14 800 12 700 56 10 600 54 500 8 300 4 50 200 2 0 52 400 6 48 100 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 年 出所:IEA 資料に基づき作成 中国の石油需要伸び率(1997 ~ 2008 年、 図7 2009 年は予測) 0 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014年 46 出所:IEA MEDIUM-TERM OIL MARKET REPORT JUNE (以下、MTOMRJUNE)2009 に基づき作成 図8 中国の石油需給見通し(2008 ~ 2014 年) 2009.11 Vol.43 No.6 8 ドルから資源へ、金融危機後の中国における石油資源確保の動き ② Loan for Oil と調達の多様化 中国政府は石油の安定供給戦略 として、調達の多様化を重視して 23 いる(参考①「中国のエネルギー基 60 本戦略と石油関連政策」を参照) 11 が、今回の Loan for Oil による石 40 油調達 (特にルート) の多様化につ 600 いても一定の成果が得られたと思 万b/d 500 われる。 400 中国は輸入する原油の 8 割強が 300 海上輸送である。 そして日本同様、 315 中東やアフリカからの原油は基本 468 現在(万b/d) 的にマラッカ海峡を通るが、中国 マラッカ 中南米 陸路 200 11% 100 0 2014年(万b/d) 12% 現在 18% 2014年① (陸路) では安全保障上の理由などからも マラッカ海峡に過度に依存するこ 18% 2014年② (陸路+中南米 マラッカ迂回) 出所:IEA MTOMRJUNE2009 に基づき作成 とは危険という考えが一定の力を 図9 中国の調達ルート多様化 持っており、 自ら資金を拠出して、 マラッカ海峡を通過しないで済 む、陸路のパイプライン建設を進 めている。現在中国向けに稼働・建設中の国際パイプラ パイプラインの輸送能力は現在のところ 2 0 万バレル / インは、原油についてはロシアの太平洋パイプライン 日だが、4 0 万バレル / 日に増強する計画があり、物理的 (ESPO、建設中)、カザフスタン~中国間パイプライン に 4 0 万バレル / 日の原油を得ることが可能となるかも の 2 本、天然ガスがトルクメニスタン~中国間中央アジ しれない。その場合、ロシアとカザフスタンを合わせ、 アガスパイプライン(建設中)の合計 3 本あるが、中国 輸入の 2 割近くがパイプラインや鉄道など陸路で入る可 (CNPC)が各国企業とジョイントベンチャーを設立する 能性がある。2014年に中国が輸入する原油のうち、マラッ 形ですべてのパイプライン建設に携わり、建設資金を拠 カ海峡を通過する原油の比率は 8 2 %の 4 6 8 万バレル / 日 (約 6 4 万トン / 日)に低減する可能性がある(図 9) 。 出している。 IEA によると、2 0 0 6 年に中国や日本などアジア地域 また、中南米からの原油輸入量は、現在 2 5 万バレル / 向けに原油約 1,2 0 0 万バレル / 日がマラッカ海峡を通過 日(輸入量の約 7 %)だが、ベネズエラやブラジルとの している。2 0 0 8 年の中国の原油輸入量は約 3 6 0 万バレ Loan for Oil によりロシア陸路と同量の 5 0 万~ 6 0 万バ *12 )で レル / 日に増加する可能性がある。中南米の原油はタン あり、そのうちロシアとカザフスタンによる陸路の輸入 カー運賃等のコストを考えれば、VLCC で喜望峰~マ と東南アジア (マラッカ海峡を通過しない国) からの輸入 ラッカ海峡経由となるが、パナマ運河を使うことも可能 を差し引いた輸入の 8 8 %(約 3 1 7 万バレル / 日) がマラッ である(パナマ運河は現在拡張工事を行っており、2 0 1 4 ル/日 (約 5 0 万トン / 日;2 5 万トンの VLCC 約 2 隻 カ海峡を通過している計算になる *13 。 年の完工後には 1 2 万トンの Aframax タンカーや 1 4 万ト 既述のように IEA の中期見通しによると、2 0 1 4 年の ンの Suezmax タンカーが通過可能となる)。 中国の原油輸入量は約 5 7 0 万バレル / 日に増加する見通 あくまでコストを考慮せず非常時に限った想定だが、 しである。 中国の、 ロシアとカザフスタンの陸路等マラッ 中国は陸路と中南米原油を合わせ、輸入原油の 3 割を、 カ海峡を通過しない輸入(量)がこのまま続いた場合、 マラッカ海峡を通過せずに輸送することが可能となる。 2 0 1 4 年には中国の輸入する原油の 9 2 %の約 5 2 4 万バレ 中国が経済性とセキュリティ両面のバランスをどう ル / 日(約 7 2 万トン / 日;VLCC 3 隻弱に相当)がマラッ 取っていくのか興味深いが、中国が巨額の公的融資を行 カ海峡を通過する計算となる。しかし、今般のロシアと い、輸入パイプラインを建設し、自ら探鉱開発を行い、 の輸出協定により、中国はロシアからパイプラインや鉄 供給源を確保するという姿勢は、各事業を単体でとらえ 道 *14 により物理的には 6 0 万バレル / 日の原油を陸路で 得ることが可能になった。またカザフスタンからの原油 9 石油・天然ガスレビュー た場合、経済性に疑問はあるものの、資源の安定調達に はつながっているようだ。 アナリシス 2. 外貨の運用多様化と対外資源投資 石油安定供給戦略の観点だけでは昨今の巨額公的融資 ぐる議論を踏まえ、「市場化」「商業化」「国際化」 を目標 による石油資源の確保や、企業あるいは国家ファンドの に掲げている。同行以外の銀行も 2 0 0 6 年以降、海外の 資源買収の動き(後述)は説明できない。外部環境(金融 銀行の買収や海外支店・事務所の開設に向けた動きが見 収縮、資源価格下落) と中国の国内要因 (外貨の運用多様 られるとのことである(「注目を集める中国開銀の国際業 化という側面からの対外資源投資奨励政策、金融緩和、 務」季刊中国資本市場研究 2 0 0 7Autumn)。 中国の銀行の国際化志向など)が絡み合い、Loan for Oil や国有企業による積極的な対外資源投資が一斉に行われ (3)対外資源投資の主なプレイヤー ① 中国における対外資源投資の旗手、国有石油企業 ているという印象を受ける。 中国の対外資源投資の中核を担っているのは国有石油 (1) 外貨の運用多様化と対外資源投資 企業 3 社(CNPC、Sinopec、CNOOC)である。 中国は2008年のGDPが米国と日本に次ぐ約4兆4,000 「中国対外直接投資統計公報」(商務部、国家統計局、 億ドルで、世界最大の外貨準備保有国(2 0 0 9 年 9 月時点 国家外貨管理局発表)によると、2 0 0 7 年末の中国非金融 で 2 兆 2,7 2 6 億ドル)である。外貨準備は主に米国に投 部門対外直接投資の上位 4 0 社のうち、CNPC 以下国有 資されており、米国債の残高は 2 0 0 9 年 5 月現在 8,0 1 5 石油企業 3 社が 1 位から 3 位を占めている。なお、ここ 億ドルとなっている。中国において米ドル安や米国債 数年、対外投資を加速している国有資源大手の Chinalco 下落により保有資産が目減りすることを懸念し、運用 や中国五鉱集団も上位 2 0 位以内に入っている(表 2)。 の多様化を求める声が高まっている。政府は 2 0 0 7 年 9 中国の対外直接投資(非金融)は国有企業が主に行って 月に外貨準備の運用機関(国家ファンド)として CIC を いるが、なかでも石油や金属(採鉱業)が大きなウエート 設立した。金融危機後も中国は米国債を買い増しして を 占 め て い る。 中 国 経 済 を 支 え る 中 央 企 業 の う ち、 *15 、運用が弾力的な短期債の比率を高めて CNPC は規模や利潤が最も大きな企業の一つである。中 いる模様であり、政府や為替当局が運用の多様化につ 央企業とは国有資産監督管理委員会が管轄する石油、電 いるものの うかが いて方策を講じようとしている姿勢が窺える *16 。 力、通信、航空、海運、石炭分野等の大手国有企業を指 今回、産油国に対し行った一連の融資は長期ではあ す。2 0 0 9 年 9 月末現在 1 3 5 社* 1 9、石油関連では CNPC・ るが、比較的低リスクで安定した利回りが得られるも Sinopec・CNOOC に加え、Sinochem やイランとの石油 のといえる。 貿易を行う珠海振戎(Zhenrong)などが含まれる。 2 0 0 9 年 7 月、温家宝首相は外貨準備を活用し、企業 2 0 0 6 年の中国非金融部門による対外直接投資額は による対外進出と資産買収を支援すると表明した。ま 2 1 1 億ドルで、そのうち採鉱業は 4 割の 8 4 億ドルを占め た、同月政府は対外投資時の外貨管理規定の変更(調達 た。2 0 0 7 年は油価高騰の影響もあり石油部門の対外投 制限の撤廃や国外投資で得た利益の対外再投資を容認) 資は減速、直接投資額全体の 1 5 %、4 1 億ドルに落ち込 など一連の規制緩和、対外投資奨励策を打ち出し、企 んだ。2 0 0 8 年についても石油部門の対外投資は、2 0 0 6 業の対外直接投資を奨励する姿勢を明確にしている。 年のような勢いはない(表 3) 。 専門家は中国政府は外貨準備と金融資産を積み上げる CNPC 傘下の中核子会社 PetroChina の 2 0 0 8 年純利益 代わりに、実物資産を積み上げたいと考えていると指 摘している* 1 7。 中国非金融部門対外直接投資における 表2 石油・金属企業のランキング (2) 金融緩和と銀行の 「国際化」 中国は金融危機後 4 兆元(約 5 4 兆円)の景気刺激策と ともに、 2 0 0 8 年から融資拡大などの金融緩和政策を採っ ており、大手国有企業にとっては資金調達をしやすい状 順位 企業名 1 中国石油天然気集団公司(CNPC) 2 中国石油化工集団公司(Sinopec) 3 中国海洋石油総公司(CNOOC) 況が続いている。 18 中国アルミ業公司(Chinalco) また、政府は銀行の国際化戦略を進めている。野村資 20 中国五鉱集団公司 本市場研究所の関根氏レポートによると、国家開発銀行 34 中国有色鉱業集団 は全国金融工作会議における政策性銀行 *18 の改革をめ 出所:2007 年度中国対外直接投資統計公報(商務部他) 2009.11 Vol.43 No.6 10 ドルから資源へ、金融危機後の中国における石油資源確保の動き 〔Sinochem〕 中国の対外直接投資における採鉱業 表3 (単位:万ドル) 採鉱業 金融 その他 対外直接投資計 2006 年 853,951 40% 352,999 17% 909,446 43% 2,116,396 100% Sinochem は CNPC などと同様中央企業だが、石油貿 易や石油化学などに携わっており、国内では石油探鉱開 2007 年 406,277 15% 166,780 6% 2,077,552 78% 2,650,609 100% 発事業を行っていない。2 0 0 2 年に対外石油資源投資を 開始した。企業買収(Atlantis 社を 1 億 5 0 0 万ドル)によ り中東・北アフリカの資産を取得。2 0 0 3 年にはエクア 出所:2007 年度中国対外直接投資統計公報(商務部他) ドル鉱区に参入した。その後進出の動きはなかったが、 2 0 0 8 年以降企業買収による対外進出を再開、最近では は約 1 兆 8,0 0 0 億円である。国有石油企業 3 社 CNPC・ シリアやコロンビアで権益を保有する英新興独立系石油 Sinopec・CNOOC は国内の石油産業をほぼ独占してい 企業の Emerald Energy を 8 億ドルで買収した。また、 る と い う 強 み か ら、 中 国 国 内 の み な ら ず 石 油 産 業 英新興独立系 Gulf sands Petroleum(中東・メキシコ湾 (upstream)においても相対的に高い位置にいる。米 に資産を保有)に対し 8 億 7,8 0 0 万ドルで買収を提示する Energy Intelligence 社 の“Petroleum Intelligence など、活動を活発化させている。 Weekly”誌において毎年発表される World's top 5 0 oil 〔CITIC〕 companies の総合ランキングにおいて、CNPC は 5 位、 Sinopec は 2 5 位、CNOOC は 4 8 位に付けている。 CITIC は中国の国有投資企業(前身は中国国際投資信 託 公 司 ) で あ り、1 9 9 7 年 に 子 会 社 CITIC Resources ② Sinochem、CITIC (CITIC が株式の 6 0 %を所有)を設立した。2 0 0 3 年に中 ~貿易から業務多角化で資源投資へ~ 国大港油田のカナダの Ivanhoe の孔南(Kongan)鉱区に 中国中化集団公司(Sinochem)と中信集団(CITIC)の 参入した。2 0 0 6 年に、クウェート Kufpec のインドネシ 対外資源企業(資産)への投資は 3 大国有石油企業に比べ ア保有権益取得に続き、カザフスタンに資産を持つカナ 少なく、歴史も浅い。 ダ Nations Energy を 1 9 億ドルで買収するなど活発な動き 産油国政府 財務部 出資 出資 政策性銀行 2007.09 1 兆 5,500 億元 (2,000 億$相当) 国家ファンド(SWF) 中国投資 (CIC) 投資 融資 100% 中央匯金 輸出入銀行 融資 2008.12 1,461 億元 (209 億$相当) 融資 (貿易主体) ブラジル ベネズエラ エクアドル 銀行、投資基金等 ブラジル国立経済社会開発銀行(BNDES) 中国ベネズエラ共同投資基金 他 PDVSA(ベネズエラ) CNPC Sinopec 86.4% 75.8% Rosneft(ロシア) PertoChina SinopecCorp CITIC Sinochem CNOOC Transneft(ロシア) 64.4% CNOOCLtd. 100% Petrobras(ブラジル) Kazmunaigaz(カザフスタン) 投資 CITIC Resources 出所:JOGMEC 図10 対外資源投資関係者相関図 11 石油・天然ガスレビュー カザフスタン 国営(国有)石油企業 投資 (探鉱開発主体) トルクメニスタン ロシア外国貿易銀行(VTB) 融資 国有企業 石油企業 ロシア 国家開発銀行 出資 金融市場 2008.12 1,540 億元 (220 億$相当) Turkmengaz(トルクメニスタン) アナリシス を見せたが、その後対外石油資源投資の動きはない。 ダ ー の Noble Group 株 式 1 4.5 % を 8 億 5,0 0 0 万 ド ル で、 2 0 0 9 年 3 月、CITIC Resources は投資家に対し、2 0 0 8 年 またインドネシア最大の石炭生産者 Bumi Resources は素材価格の影響で打撃を受けたと説明しており、当分 を 1 9 億 ド ル で 買 収 し た。 さ ら に カ ザ フ ス タ ン 国 営 積極投資に転じる気配はないようだ。 Kazmunaigaz の探鉱子会社 Kazmunaigaz E&P(ロンド ン上場)の株式(Global Depositary Receipts :GDR) ③国家ファンド CIC 1 1 %を 9 億 3,9 0 0 万ドルで取得した。 ~証券・金融への投資から資源企業にも触手を伸ばす~ 国家能源局の張国宝局長は 9 月 2 5 日の記者会見にお 2 0 0 7 年 9 月、中国財政部は 1 兆 5,0 0 0 億元(2,0 0 0 億ド いて、 「CIC は独立した投資部門で、投資戦略は自主的 ル相当)の特別国債を発行し、CIC を設立した。初年度 に決定している。CIC は国家ファンドとしての特殊性ゆ にCICは2件の大口投資 (米プライベートエクイティファ え投資行動に関心が集まるが、CIC の資源分野への投資 ン ド の Blackstone Group 株 式 8 % を 3 0 億 ド ル で、 額は必ずしも大きくない。元々同ファンドは証券、金融 Morgan Stanley 株式 9.9 %を 5 0 億ドルで)を行ったが、 分野への投資が中心であった。資源分野への投資に転じ 国際金融危機で損失が生じ、国内で非難された。 た理由は、それが中国の経済発展戦略に合致し、更にリ 同ファンドの2008年報告によると、 50%が対外投資で、 スクも低いと見たためではないか」* 2 0 と語った。 2 0 0 8 年の対外投資利益率は-2.1 %、しかし全額出資子 ちなみに、CIC は 2 0 0 7 年 7 月に BG の株式 0.4 6 % (1,5 5 0 会社中央匯金による国内金融機関への投資利益率が6.8% 万株)を取得、4 月には BP 株式の 0.5 ~ 0.7 5 %を取得(9 で対外投資の赤字を相殺した模様である。 億 8,0 0 0 万~ 1 4 億 8,0 0 0 万ドルに相当)した。2 0 0 8 年 2 CIC は 9 月以降、資源企業への投資を立て続けに行い 月には INPEX 株式を最大 1 0 0 億ドル調達することを検 内外の注目を集めた。シンガポールの農業・商品トレー 討、INPEX の株価が値上がりしたと報じられている。 表4 主要国有石油企業の企業規模 中国石油天然気股份有限公司 (PetroChina) 中国石油化工股份有限公司 (Sinopec Corp.) 中国海洋石油有限公司 (CNOOC Ltd.) 親会社(略称) 中国石油天然気集団公司 (CNPC) 中国石油化工集団公司 (Sinopec) 中国海洋石油総公司 (CNOOC) 親会社設立時期 1988 年 9 月 1983 年 7 月 1982 年 2 月 株式上場時期 2000 年 4 月 香港、米国 2000 年 10 月 香港、米国、英国 2001 年 2 月 香港、米国、英国 86.42% 75.84% 64.41% 親会社(政府)株式保有比率 主要業務 石油・天然ガス探鉱開発、輸送、 精製・石化、輸送、販売、石油・ 石油探鉱開発、LNG 輸入、精製・ 精製・石化、販売 天然ガス探鉱開発 石化 以下、上場子会社の状況 売上高(億円) 149,960 198,845 1,764 純利益(億円) 17,731 3,668 621 総資産(億円) 167,184 107,496 2,243 23,600 7,630 5,256 探鉱開発投資額(億円) 従業員数(人) 477,780 358,304 3,584 確認埋蔵量 (原油:百万バレル) 11,221 2,841 1,578 確認埋蔵量 (天然ガス:10 億立方フィート) 61,189 6,959 5,623 生産量(原油:千 b/d) 2,379.0 811.0 422 生産量(天然ガス:MMcf/ 日) 5,093.3 801 621 1元= 14 円として円換算。 1バレル≒ 159ℓ cf:立法フィート、1cf ≒ 0.0283m3 注:売上高以下はすべて 2008 年の数値。 出所:各社 2008 年年報 2009.11 Vol.43 No.6 12 ドルから資源へ、金融危機後の中国における石油資源確保の動き 〔中国国家開発銀行〕 国家開発銀行は近年、国際展開を強化している。対外 ~対外資源投資の貸し手として急成長~ 投資事業への貸付残高は 2 0 0 6 年の 1 8 7 億 6,0 0 0 万ドル 国家開発銀行は Loan for Oil や国有企業の対外投資に から 2 0 0 7 年末には 3 0 4 億 9,0 0 0 万ドルへと大幅に増加 おいて重要な役割を担っている。 した。資源企業への融資では 2 0 0 6 年に CITIC によるカ 中国国家開発銀行は主として国内インフラ整備等への ナダ Nations Energy 買収 1 7 億 1,0 0 0 万ドルの融資や、 融資を行う銀行である。2 0 0 8 年 1 2 月、財政部と CIC 子 中国五鉱集団(国有大手金属企業)によるチリ国営企業と 会社の中央匯金投資有限責任公司 (以下、中央匯金)が同 の共同開発プロジェクト 2 0 億のうち 3 億 3,0 0 0 万ドルの 行に対しそれぞれ約1,540億元 (約2兆1,560億円) 、 約1,461 融資を実施している* 2 1。2 0 0 9 年 9 月には CNPC に対し 億元 (約 2 兆 4 5 4 億円) を出資、財務基盤を強化した。 対外投資向けに 3 0 0 億ドルの融資枠を供与した。 3. 勢いづく国有石油企業の対外投資 金融危機後の資源価格下落を受け、中国国内の石油需 パイプライン投資額が 2 倍以上に膨らんでおり、全体の 要は減退し、国有石油企業 3 社もその影響を免れてはい 投資額は 1 兆円を超えている)。 ない。中国の製油所は常に90%以上の高い稼働率であっ しかし、彼らは国内の逆風をものともせず、政府の た が、 金 融 危 機 発 生 後、 需 要 が 落 ち 込 み、CNPC や Loan for Oil(Gas)とは別に、資産買収や入札参加など Sinopec は最大で 2 0 0 9 年 1 月に 7 0 %にまで稼働率を低 の対外石油資源投資を積極的に展開している。金融危機 下させた。 による信用収縮、資金繰り悪化で石油上流 M&A が低迷 また PetroChina は 2 0 0 9 年上半期の原油生産量を前年 するなか、Sinopec は 2 0 0 9 年 6 月にイラクやナイジェリ 同期比4.8%抑制し、 探鉱開発投資額は約388億元 (約5,430 アに権益を持つ Addax を中国企業による石油上流の買 億円)と、前年同期比 1 8 %減らした。 (もっとも、国内 収としては史上最高の 8 8 億ドルで買収した。2 0 0 9 年第 表5 金融危機後の主な対外投資 合意時期 企業 内容 2009 年 2 月 CNPC Verenex Energy 買収(4 億ドル) リビア政府が先買い権を行使、9 月に国家ファン ド LIA は CNPC の提示額を 3 割下回る 2.7 億ド ルで買収合意 2009 年 4 月 CNPC Kazmunaigaz から Mangistaumunaigas 株式 (49%)取得(33 億ドル) Kazmunaigaz と買収交渉中 2009 年 4 月 Sinopec Total からカナダのオイルサンド(Northern Light)権益 10%を取得 2009 年 5 月 CNOOC BG の豪 Curtis LNG の上中流権益(液化設備 10%、上流権益 5%)を取得 豪 Curtis LNG の長期売買契約とのパッケージ 2009 年 6 月 Sinopec Addax 買収(88 億ドル) イラク・クルド地区の油田資産取得、イラク政 府から入札参加資格を取り消される 2009 年 6 月 CNPC/BP イラク・ルメイラ油田サービス落札 10 月に契約 2009 年 7 月 CNOOC/ Sinopec 米 Marathon からアンゴラ深海 Block32 の権益 20%取得(13 億ドル) 9 月にアンゴラ国営 Sonangol が先買い権行使を 表明 2009 年 7 月 Sinochem 英新興独立系 Emerald Energy を買収(8.8 億ドル) 2009 年 8 月 PetroChina 2009 年 9 月 CNPC カナダ Athabasca Oil Sands からオイルサンド権 益(MacKay River/Dover ventures60%)取得 (17 億ドル) イラン NIOC から南アザデガン権益 70%取得 出所:各種情報に基づき JOGMEC 作成 13 石油・天然ガスレビュー 備考 ― ― カナダ連邦政府承認手続き中 ― アナリシス 2 四半期の石油上流 M&A のうち Sinopec、CNPC が買収 3 社は財務健全性が比較的良好で、融資緩和策もあり国 総額の 4 3 %(計 1 2 1 億ドル)を占めた。また、CNPC は 内金融機関からの資金調達にも苦労しないようだ。既述 同 6 月に BP と共同でイラク・ルメイラ油田のサービス の通り、CNPC は 9 月に国家開発銀行から対外投資向け 契約を落札し、同 8 月にはカナダのオイルサンド権益取 に 3 0 0 億元(約 4,5 0 0 億円)の融資枠を得ている。3 社と 得で合意。その上、同 9 月にはイラン NIOC と南アザデ もに今後も積極的に対外投資を行う旨表明しており、こ ガン油田開発の 7 0 %権益取得に関する契約を締結する の傾向は当分続くと思われる。 など積極的に活動している。 もっとも、Sinopec と CNOOC が共同で行ったアンゴ CNOOC の対外投資は、他の 2 社に比べ控え目で、米 ラ深海油田権益の買収ならびに、CNPC が合意したリビ Marathon のアンゴラ深海油田買収(不成功)を除き、買 ア資産を持つカナダ企業 Verenex の買収については立 収は行っていない。同国の国外探鉱開発投資額は約 1 4 て続けに産油国国営石油企業に先買い権を行使されてお 億ドル(探鉱開発投資額全体の 2 7 %)で、主に権益を保 り、産油国の資源ナショナリズムに翻弄される場面も散 有するナイジェリア油田開発に充てられている。 見される。 中国国内の石油産業をほぼ独占している国有石油企業 4. 国家石油備蓄積み増しの動き (1) 金融危機後、国家石油備蓄用原油購入を加速 中国は金融危機による後の需要・価格低迷をとらえ、 めて、約 5,1 0 0 万 kl(約 3 億 2,1 3 0 万バレル、前年の石油 純輸入量ベースで約 7 0 日分)である。 備蓄原油の購入を行った。中国では 2 0 0 1 年に全人代で 承認された第 1 0 次 5 カ年計画(2 0 0 1 ~ 2 0 0 5 年)におい (2)2 期、3 期国家石油備蓄構築を急ぐ中国 て「国家石油備蓄」構築を明示、段階的に進めている。1 2 0 0 9 年 9 月、新疆独山子で 2 期国家備蓄基地の建設が 期として国家石油備蓄基地 4 基地(貯蔵容量合計:1,6 4 0 始まった。独山子備蓄基地は 2 0 1 1 年 7 月に竣工する予 万 kl(約 1 億バレル)が建設され、2 0 0 5 年に完成した鎮 定である。1 期は 1 0 万 m3 のタンク 3 0 基(3 0 0 万 m3)を建 海基地をはじめ 4 基地すべての備蓄が完了している。中 設する。増強後の貯蔵規模は540万m3、総事業費は約2,500 国の国家石油備蓄事業は国家能源局が所管し、2 0 0 7 年 億円で、主にカザフスタンとロシアの原油を備蓄する計 1 2 月に設立された国家石油備蓄中心が管理・運営して 画である。新疆独山子周辺には独山子製油所をはじめカ いる。2 0 0 9 年 6 月、国家能源局は 2 0 0 8 年に備蓄用原油 を 5 8 ドル / バレルで調達したことを明らかにした。 国家石油備蓄基地完成前の 2 0 0 6 年頃、中国の企業の 運転在庫(精製処理量ベース)約 2 1 日分のみと言われて いた。しかし 1 期の国家石油備蓄量完了により、中国は ★ 独山子(新疆) 北京 2 0 0 8 年の石油純輸入量ベースで約 2 6 日分の備蓄を保有 ★ 大連(遼寧) したことになる。 黄島(山東)★ 2 0 0 9 年 8 月時点の中国の原油在庫(国家石油備蓄なら 舟山(浙江) ★★ 鎮海(浙江) びに CNPC・Sinopec の原油在庫)は約 2 億 8,5 0 0 万バレ ルあり、国家石油備蓄約 1 億バレルを除いた約 1 億 8,0 0 0 万バレルが企業の運転在庫とすると、精製処理量ベース 石油純輸入量ベースで約43日分となる。 で約25日分*22 、 企業の運転在庫を全量備蓄と見なすことはできないが、 中国は現在石油純輸入量の 1 カ月程度の備蓄を保持して いると言える。ちなみに日本の国家石油備蓄基地は 1 0 基地。石油備蓄量は民間製油所等の借り上げタンクを含 ★ 1期国家石油備蓄基地 ★ 2期国家石油備蓄基地(建設中) 出所:JOGMEC 図11 中国の国家石油備蓄基地 2009.11 Vol.43 No.6 14 ドルから資源へ、金融危機後の中国における石油資源確保の動き ザフスタンからパイプラインや鉄道で輸送された原油を あり、備蓄の規模もそれに見合い引き上げていかなけれ 処理する製油所が複数ある。 ばならない。1 0 月に北東アジア石油フォーラムにおい 同月、国家能源局の張国宝局長は 2 0 2 0 年までに 4 億 て CNPC が発表した「中国の 2 0 2 0 年石油需給見通し」に 4,0 0 0 万バレル、純輸入量の 9 0 ~ 1 0 0 日分の国家石油 基づき2020年時点の輸入量を800万バレル/日とすると、 備蓄を行う計画であることを公表した。それによれば、 1 ~ 3 期を通した国家石油備蓄量 4 億 4,0 0 0 万バレルは、 2 期として 2 0 1 5 年までに 8 基地(貯蔵容量 1 億 7,0 0 0 万バ 純輸入量ベースで 5 5 日分となる。日本は国家石油備蓄 レル) 、3 期は 2 0 1 5 年以降新設あるいは既存基地の拡張 の他に、民間石油備蓄を実施しているが、中国も民間石 により合計約 1 億 7,0 0 0 万バレルの備蓄を行う計画であ 油備蓄制度を導入する計画で、2 0 2 0 年時点で国家石油 る。中国の国家石油備蓄は 3 期が完了すれば、日本の現 備蓄と民間石油備蓄を合わせ、純輸入量ベースで 9 0 ~ 在の国家石油備蓄の規模を上回る見通しである。 1 0 0 日分(7 ~ 8 億バレル)を持つことを目指しているの 中国の石油需要 (輸入量) が増加を続けることは必至で ではないかと思われる。 表6 中国の国家石油備蓄基地 国家石油備蓄(1 期) 貯蔵容量(万 kl) 貯蔵容量(万バレル) タンク数 備考 鎮海(浙江省) Zhenhai(Zhejiang) 520 3,276 10 万 kl × 52 基 備蓄完了 舟山(浙江省) Zhoushan(Zhejiang) 500 3,150 10 万 kl × 50 基 備蓄完了 黄島(山東省) Huangdao(Shandong) 320 2,016 10 万 kl × 32 基 備蓄完了 大連(遼寧省) Dalian(Liaoning) 300 1,890 10 万 kl × 30 基 備蓄完了 1 期貯蔵容量計 1,640 10,332 ― ― 国家石油備蓄(2 期) 貯蔵容量(万 kl) 貯蔵容量(万バレル) タンク数 備考 10 万 kl × 30 基 2011 年 7 月 1 期完成予定 2 期増強計画あり 独山子(新疆) Dushanzi(Xinjiang) 300 1,890 選定中(7 基地) 2,380 14,994 ― ― 2 期貯蔵容量計 2,680 16,884 ― ― 国家石油備蓄(3 期) 貯蔵容量(万 kl) 貯蔵容量(万バレル) タンク数 備考 3 期貯蔵容量計 2,680 16,884 ― ― 1 ~ 3 期貯蔵容量計 7,000 44,100 ― ― 出所:China OGP、IEA MTOMR に基づき作成 表7 中国の国家石油備蓄量と日数の現状 / 見通し 備蓄量(万バレル) 日数 ( 純輸入量ベース )* 備蓄量(万バレル) 日数 (2020 年純輸入量ベース試算 )** 1 期国家石油備蓄 (2009 年現在) 2 期国家石油備蓄 (~ 2015 年) 3 期国家石油備蓄 (~ 2020 年) 計 10,332 - - 10,332 26 - - 26 1 期国家石油備蓄 2 期国家石油備蓄 (~ 2015 年) 3 期国家石油備蓄 (~ 2020 年) 計 10,332 16,884 16,884 44,100 13 21 21 55 *:2008 年の石油純輸入量 400 万 b/d を基準に計算 **: 「中国の 2020 年石油需給見通し」(北東アジア石油フォーラム 2009)に基づき輸入量 800 万 b/d で試算 出所:China OGP、BP 統計に基づき作成 15 石油・天然ガスレビュー アナリシス さいごに 金融危機後というよりもそれ以前から、中国の一挙手 めていると自らを肯定する姿勢である。 一投足に世界の関心が高まっている。本稿は石油の確保 中国政府は外貨運用多様化、石油安定供給などの国家 という観点から中国を俯瞰したにすぎないが、中国のエ 戦略で動いており、国有石油企業は企業規模拡大戦略に ネルギー安定供給、外貨運用多様化、金融の国際化など 基づき対外投資を行っている。政府と企業の目的は必ず さまざまな国家戦略が相互に連関し、4兆円以上の公的 しも一致しているわけではないが、金融危機後、政府各 資金が Loan for Oil として産油国に投じられ、国有石油 部門から国有企業に至るまで、金融から現物資産への大 企業の積極的な対外投資につながっている姿が浮かび上 きな流れができており、原油を含む資源価格や中国経済 がった。 に余程大きな変化が起きない限り、この傾向は当分変わ Loan for Oil は産油国(企業)側にとって、債務不履行 らないと思われる。 の回避や資金調達コストの軽減などの利点があり、中国 中国の市場に頼らない(公的融資、インフラ整備、探 にとってはもろもろの国家戦略に合致し、かつ双方に利 鉱開発投資等による)資源調達は、各事業を単体でとら 点のある事業と言える。中国の旺盛な資源投資について えた場合経済性に疑問が生じるものがあり、市場の撹乱 警戒心を強める産油国も出ているが、相対的に中国の資 要因と映ることもある。しかし、中国の行動が資源の安 金力や需要に対する期待の方が高いのではないか。中国 定調達や自国のプレゼンス拡大につながっていることも 自身、対外投資を通じ、世界全体の資源の供給能力を高 また事実である。 ふ かん かくらん 参考①:中国のエネルギー基本戦略と石油関連政策 中国のエネルギー基本戦略は2004年6月に国務院常務会議において採択された「エネルギー中長期発展計画綱要 (2004~2020年)」*23が最もよく体現している。このなかに、「国内外の資源と市場を十分に利用し、国内のエ ネルギー探査に立脚点を置いて建設するか、または開発し、それと同時に世界中のエネルギー資源の協力と開発に積 極的に参与する」という項目がある。 より具体的な政策として第10次 (2001~2005年)や第11次5カ年計 画(2006~2010年)における石油・ 天然ガス関連政策があるが、供給につい て「国内資源の探鉱開発強化(大慶など 東部の成熟油田の生産維持、西部や海洋 の探鉱強化、CBMなど非在来型石油・ 天然ガス資源の開発・研究)を進めつつ、 不足分は国外の資源・市場を利用する」 と示されている。調達については地域や 手法の多様化(カザフスタンなどからの 国際パイプライン建設と国有石油企業に よる対外資産投資等)を進め、石油資源 の安定確保とリスク分散を図ろうとする 様子が窺える。 2009年1月には、中国の鉱物資源開 発を所管する国土資源部が「全国鉱産資 源規画」 (2008~2015年)を発表した。 「エネルギー中長期発展計画綱要 (2004 ~ 2020 年) (草案) 」 1 エネルギー節約を第1位に置き、エネルギー節約制度と措置を全面的か つ厳格に実施し、エネルギーの利用率を著しく高める。 2 エネルギー構造を大いに調整して優秀化させ、石炭を主体として、電力 を中心として、石油・ガスと新エネルギーを全面的に発展させる戦略を 堅持する。 3 エネルギー発展を合理的に分布させ、東部地区と中西部地区、都市と農 村経済社会発展の需要に配慮を加え、それにエネルギー生産、輸送と消 費の合理的配置を総合的に考え、エネルギーと交通との共通の発展を促 進する。 4 国内外の資源と市場を十分に利用し、国内のエネルギー探査に立脚点を 置いて建設するか、または開発し、それと同時に世界中のエネルギー資 源の協力と開発に積極的に参与する。 5 科学技術の進歩と革新に頼る。エネルギーの開発あるいはエネルギー節 約はすべて、科学技術理論の革新を重要視し、先進的技術を広く使い、 時代遅れの設備、技術を淘汰し、科学的管理を強めなければならない。 6 切実に環境保護を強め、資源の制限と環境を十分に考え、エネルギー生 産と消費の環境への影響を減らすことを目指して努力する。 7 エネルギー安全を高度に重要視し、エネルギー供給を多角化させ、石油 戦略備蓄の建設を早め、エネルギー安全警告応急システムを完備する。 8 エネルギー発展を保障する措置を制定し、エネルギー資源政策とエネル ギー開発政策を完備し、市場メカニズムの役割を十分に発揮し、エネル ギーへの投資を増やす。改革を推し進め、幾らかゆとりのある社会の全 面的建設と社会主義市場経済発展の需要に適応するエネルギー管理体制 とエネルギーコントロール・システムを形成させることを目指す。 (2004 年 6 月 30 日、国務院常務会議 にて原則採択) 国内供給強化については海洋の開発、天 2009.11 Vol.43 No.6 16 ドルから資源へ、金融危機後の中国における石油資源確保の動き 然ガスや非在来型石油・天然ガス資源の開発が強調されている。また対外開放とともに特に国内で需給ギャップが大 きい石油・天然ガス、鉄、クロム、カリウム、銅などの国外事業に中国企業が積極的に進出するよう求めている。 2009年2月、国家能源局が主催した全国能源工作会議において第12次5カ年計画(2011~2015年)のエネ ルギー部分について事前研究を開始した*24。国内資源の探鉱開発強化(特に深海、非在来型石油・天然ガス資源)、 国外資源・市場の利用、調達の多様化、備蓄等の基本路線について大きな変更はないと思われる。 第 10 次、11 次 5 カ年計画における石油・天然ガス政策 10・5 計画(2001 ~ 2005 年) 国内石油・天然ガス 探鉱開発 11・5 計画(2006 ~ 2010 年) 国内石油探鉱を強化し、埋蔵量を追加する。 石油・天然ガス資源の探鉱と評価を強化する。 東部の安定した生産を維持し、西部陸上と海洋の 生産を更に拡大する。 石油と天然ガスをともに重視し、原油生産量を安定させ、 天然ガス生産量を増加させる。 ― 深海ならびに(西部)タリム・ジュンガル・オルドス・チャイ ダム・四川盆地などの石油・天然ガス資源開発を加速する。 非在来型石油・ガス 資源探鉱開発 ― 炭層メタン (CBM)、オイルシェール、オイルサンド、メタ ンハイドレートなど非在来型資源の探鉱・調査を展開する。 国外石油・天然ガス 探鉱開発 国内、国外の二つの資源と市場を利用し、国外にお ける石油・天然ガス探鉱開発業務を更に発展させる。 平等協力、双方有利(win-win)の立場を堅持し、国外に おける油ガス資源の共同開発を拡大する。 天然ガスインフラの整備を加速させ、エネルギー 構造を改善。 石油・天然ガスの導管ならびに設備の建設を加速し、パイ プライン網ネットワークを整備する。 国内石油・天然ガス パイプライン建設 ― 輸入石油・天然ガス パイプライン LNG 輸入 石油備蓄 「西油東輸」、「北油南輸」製品パイプラインを建設する。 ― 適当な時期に、第 2「西気東輸」ならびに陸路の輸入石油・ 天然ガスパイプラインを建設する。 ― 沿海地域において、LNG 液化プロジェクトを適宜建設する。 節約を励行し、戦略石油備蓄を構築する。 石油備蓄基地の拡張と新設を進める。 参考②:中国国有石油企業の国際展開 中国国有石油企業が国外で本格的に上流投資を行うようになったのは21世紀に入ってからである。2000年から 2001年にかけて3社が米国・香港で新規株式公開(IPO)を行い、資金調達能力が向上したことで対外上流投資が 飛躍的に拡大した。3社の進出地域(探鉱開発事業に限る)は2000年の約20カ国から2008年末時点で約40ヵ国 に拡大しており、3社権益分の原油・天然ガス生産量は2000年の約30万バレル/日(石油換算)から2008年末に は93万バレル/日(同)に増加した。 特に2005年から2006年にかけてCNPCのPetrokaza- 国有石油企業 3 社の権益分生産量推移 (2004 ~ 2008 年) khstan買収(38億7,000万ドル)など10億ドルを超えるよ うな大型の開発・生産中資産の買収が集中的に行われたため、 権益分生産量は2004年の約42万バレル/日(同)からほぼ倍 100 増した。 90 また、Sinopecが2005年にアンゴラ国営Sonangolと提携 80 し、アンゴラの2005~2006年入札で、探鉱鉱区1鉱区に史 70 上最大の10億ドル(約1,210億円)のサインボーナスを提示 し、深海3鉱区(Block15/06、17/06、18/06*25)の権 益を取得した。 CNPC CNOOC Sinopec 60 50 40 30 2006年後半から2008年にかけて入札への参加ならびにイ 20 ランのヤダバラン油田やイラクのアフダブ油田など大型の石油 10 契約の締結 *26が行われたが、国有石油企業の上流資産買収は 0 17 石油・天然ガスレビュー 万boe/日 2004 2005 2006 2007 2008年 アナリシス 低迷していた。原油価格高騰に伴い資産買収価格が上昇したため、国内投資に回帰したことによるのではないかとい う見方が多い。北米など一部の地域を除き石油上流の資産買収は全般的に沈滞ムードで、北米外で活発な資産買収を 行っていたのは主に中東産油国系の国家ファンドであった。この時期の中国企業が行った大型の資産買収は Sinopecによるシリアに資産を持つカナダTanganyika Oil買収(17億9,000万ドル)程度である。 中国国有石油企業の高額資産買収ベスト 5(2005・2006 年) 時期 企業 金額 (億ドル) 2005 年 8 月 CNPC 38.8 2006 年 6 月 Sinopec / Rosneft 35.0 2006 年 1 月 CNOOC 22.7 2006 年 10 月 CITIC 19.1 2005 年 9 月 CNPC / Sinopec 14.2 主要資産 備考 (買収時生産量) カザフスタン カザフスタン国営 Petrokazakhstan 買収 Kumkol 油田他(15 万 b/d)Kazmunaigaz に 33%譲渡 TNK-BP 子会社 Udmurtneft Udmurt 地域油田 2006 年 11 月、Rosneft 買収 11.6 万 b/d に権益 51%譲渡 Akpo 油田 ナイジェリア South (生産プラトー:コンデン Atlantic Petroleum から深 ― セート 17.5 万 b/d、天然 海油田資産権益 45%を買収 ガス 320MMcfd) カザフスタン カザフスタン国営 Nations Energy 買収 Karazhanbas 油田他(約 Kazmunaigaz に権益約 5 万 b/d) 47%*譲渡 エクアドル 東部オリエンテ地区 5 鉱 EnCana のエクアドル資産 区:Block15、Tarapoa、 ― 買収 Block14、17、Shiripino Block (約 7.5 万 b/d) 内容 * 2007 年 2 月、 Kazmunaigaz は Nations Energy が 94.6%を保有 する子会社 Karazhanbasmunai 株式の 47.3%を取得するオプションを取得、 カザフスタン政府は本買収を承認。 中国国有石油企業の主な進出国 欧州・北米1カ国 FSU5カ国 中東7カ国 アフリカ諸国14カ国 アジア・オセアニア7カ国 南米諸国5カ国 ※本資料での進出とは、探鉱・開発・生産および PL 建設等を含む 出所:IEA、JOGMEC・IEEJ 資料と各紙報道より作成 2009.11 Vol.43 No.6 18 ドルから資源へ、金融危機後の中国における石油資源確保の動き <注・解説> *1:Interfax2 0 0 9/9/3 *2:International Oil Daily 2 0 0 9/1 0/1 アンゴラは 2 0 0 9 年 9 月にも原油での返済を条件に民間金融機関の融資を受け、 返済義務量は少なくとも 2 5 万バレル / 日に達している模様。 *3:London Interbank Offered Rate *4:East &West Report2 0 0 9/8/2 4 *5:Interfax2 0 0 9/9/3 *6:両社は 2 0 0 7 年 1 0 月に製油所建設ならびに石油小売り事業ジョイントベンチャーを設立。中露東方石化(天津)有 限公司 (Russian-Chinese Eastern Petrochemical Company) を設立、出資比率は CNPC5 1 %、Rosneft4 9 %。 *7:下部白亜系の岩塩層直下の炭酸塩岩を貯留岩とする大水深・大深度の新プレイ。 *8:設計水深 1 万 2,5 0 0ft(3,8 1 0m) 、掘削深度 4 万 ft(1 万 2,1 9 2m) 、DPS クラス 3。原油貯蔵能力 1 5 万バレル。 *9:JOGMEC 金属資源情報 ニュースフラッシュ No.0 9-3 7 9 月 3 0 日 * 1 0:IEA MEDIUM-TERM OIL MARKET REPORT JUNE2 0 0 9。 * 1 1: 「中国の 2 0 2 0 年石油需要見通し」 (北東アジア石油フォーラム 2 0 0 9) * 1 2:原油の長距離輸送で一般的に使われるタンカーは積載重量 2 0 万~ 3 0 万トンの VLCC。 * 1 3:ベネズエラなど中南米からの原油が太平洋ルートで輸送されているとの報道もあるが、ここでは全量アフリカ喜 望峰ルートとする。 * 1 4:現在行われているロシアから中国向けの鉄道輸送による輸出(約 1 8 万バレル / 日)は 2 0 1 0 年に期限を迎えるが、 中国は引き続き鉄道による供給をロシア側に求めており、ロシア側も既存の設備を有効活用することに前向きと 伝えられる。また、 ロシアがこれまでどおりカザフスタン~中国パイプラインを引き続き利用する可能性もある。 ふ っ しょく * 1 5:5 月に米国のガイトナー財務長官が訪中し、中国で高まるドル資産下落についての懸念払拭に努め、中国による 米国債の継続購入に強い期待を表明。同月に 3 8 0 億ドル買い増しした。 * 1 6:日本経済新聞 2 0 0 9 年 7 月 2 3 日 * 1 7:Financial Times2 0 0 9 年 7 月 2 2 日 * 1 8:1 9 9 4 年に設立された国家開発銀行、中国輸出入銀行、中国農業発展銀行を指す。 * 1 9:国有資産監督管理委員会設立当時(2 0 0 3 年)は 1 9 6 社あったが、統合・合併等により 1 3 5 社まで減少。同委は更 に 2 0 1 0 年までに 8 0 ~ 1 0 0 社に削減する計画。全企業一覧は http://www.sasac.gov.cn/n1 1 8 0/n1 2 2 6/n2 4 2 5/ index.html 参照。 * 2 0:中国新聞網 2 0 0 9 年 9 月 2 9 日。 * 2 1: 「中国企業の対外直接投資の現状と展望」野村資本市場研究所金融・資本市場動向レポート 2 0 0 8 年 1 2 月、関根栄 一。 * 2 2:2 社の 2 0 0 9 年 1 - 8 月平均処理量ベース 7 1 1 万 b/d で試算 * 2 3:新華網 2 0 0 4 年 6 月 3 0 日。 * 2 4:中国通信 2 0 0 9 年 2 月 9 日。 * 2 5:Block1 5、1 7、1 8 は、1 9 9 0 年代にアンゴラが公開した深海鉱区で、Chevron、ExxonMobil、Total、BP が取得し、 2 0 万バレル / 日以上の油田が相次いで発見された“golden block”として知られており、既発見油田の開発移行に 伴い、鉱区の未発見部分が放棄され、2 0 0 5 ~ 2 0 0 6 年入札で、Block1 5/0 6、1 7/0 6、1 8/0 6 として入札に付され た。 * 2 6:2 0 0 7 年 1 2 月、Sinopec はイラン NIOC とヤダバラン油田開発に係るバイバック契約を締結。2 0 0 8 年 1 1 月、 CNPC はイラク SOMO とアフダブ油田開発に係る石油契約締結。前政権との PS 契約を見直し、1 0 年間のサービ ス契約を締結。イラク SOMO 権益は 2 5 %、CNPC・Norinco 連合が 7 5 %の権益を保有。 19 石油・天然ガスレビュー アナリシス 【参考文献】 1. IEA Energy Outlook2 0 0 8、Medium-Term Oil Market Report (June,2 0 0 9) 2. International Oil Daily(Energy Intelligence) 3. PFC Energy 各種レポート 4. East & West Report(東西貿易通信社) 5. China Oil, Gas & Petrochemicals (China OGP)(Xinhua News Agency) 6. CNPC ウェブサイト 7. PetroChina、CNOOC 、Sinopec ウェブサイトおよび年報 8. 中国通信 (中国通信社) 9. 中国能源網 1 0. 中国情報局 1 1. 中国人民政府網 1 2. 中国人民銀行ウェブサイト 1 3. 商務部ウェブサイト 1 4. 国家開発銀行ウェブサイト 1 5.「中国の対外直接投資の現状と展望」 野村資本市場研究所 金融・資本市場動向レポート 2 0 0 8 年 1 2 月(関根栄一氏) 1 6.「注目を集める中国開銀の国際業務」 野村資本市場研究所 季刊中国資本市場研究 2 0 0 7Autumn(関根栄一氏) 1 7.『中国は世界恐慌にどこまで耐えられるか』 (仲大軍著、草思社 2 0 0 9 年 3 月) 1 8. JOGMEC 石油天然ガス資源情報 (http://oilgas-info.jogmec.go.jp/)「中国国有石油企業の国際展開 ~ 2 0 0 8 年の 動向と今後の見通し~」 (2 0 0 8 年 1 2 月竹原) 1 9. JOGMEC 石油天然ガス資源情報 (http://oilgas-info.jogmec.go.jp/)「ベネズエラ:チャベス大統領、続投への道開 けるも、油価下落で石油産業は苦境」 (2 0 0 9 年 3 月舩木) 2 0. JOGMEC 石油天然ガス資源情報 (http://oilgas-info.jogmec.go.jp/) 「中国:国をあげて石油資源調達へ-エネルギー 安全保障と外貨準備の運用-」 (2 0 0 9 年 3 月竹原) 2 1. JOGMEC 石油天然ガス資源情報 (http://oilgas-info.jogmec.go.jp/)「ブラジル:プレソルト探鉱・開発の現状と法 制改革の見通し」 (2 0 0 9 年 6 月舩木) 2 2. JOGMEC 石油天然ガス資源情報 (http://oilgas-info.jogmec.go.jp/) 「ユーラシア:天然ガスを巡る攻防が白熱」 (2 0 0 9 年 7 月古幡) 2 3. JOGMEC 石油天然ガス資源情報 (http://oilgas-info.jogmec.go.jp/)「中国:備蓄と資産買収による資源(現物) 確保 を加速する中国」 (2 0 0 9 年 7 月竹原) 2 4. JOGMEC 石油天然ガス資源情報 (http://oilgas-info.jogmec.go.jp/)「ロシア:サハリン― ハバロフスク ―ウラジ オストック・パイプラインの将来展望」 (2 0 0 9 年 9 月本村) 2 5. JOGMEC 石油天然ガス資源情報 (http://oilgas-info.jogmec.go.jp/)「中国:国家石油備蓄の現状と見通し」(2 0 0 9 年 1 0 月竹原) 2 6. JOGMEC 金属資源情報 (http://www.jogmec.go.jp/mric_web/)ニュースフラッシュ No.0 9-3 7 9 月 3 0 日 執筆者紹介 竹原 美佳(たけはら みか) 東京都出身 平成5年4月:石油公団(当時)入団 9年4月~13年1月:石油公団中国室 13~16年2月:石油公団企画調査部(中国担当) 16年3月~現在:現職(中国ならびにサブサハラ担当) 管弦楽が好きになりつつありますが、日本や米国の'80sポップスを聴きながら、運動することが最大の ストレス解消法です。膨張を続ける中国のエネルギー事情について、今後も把握に努めたいと思います。 2009.11 Vol.43 No.6 20