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キャンパスからのル・マン挑戦
キャンパスからのル・マン挑戦 田中 智大(東海大学 工学部 動力機械工学科 林義正研究室 開発コース) 1.はじめに 世界 3 大自動車レースの 1 つで 「世界一過酷な耐久レース」, 「偉大 な草レース」などと呼ばれているレ ースが「ル・マン 24 時間耐久レー ス」である. 私たち東海大学工学部動力機械 工学科林義正研究室 開発コースで は,このル・マン 24 時間耐久レー スへの参戦そして入賞を目指した TOP03(Tokai Original Prototype 3 型)の研究・開発を行っている. そのため,研究室内はレーシングチ ームさながらに, 図1 SUGO でのシェークダウン走行 ・ マネージャー班 「YR40T」を搭載した先行実験車 産学連携により開発された.その特 ・ ボディ班 「Study Car」である. 徴は,林義正教授が開発し,92 年 のデイトナ 24 時間耐久レースで総 ・ エンジン班 ・ 足回り班 2.YR40T,Study Car とは 合優勝を飾ったマシンに搭載され この Study Car は,先行実験車 「世界最強エンジン」と呼ばれた という言葉からも分かるように実 VRH35Z の戦闘力をそのままに, そして,去る 5 月 30 日にスポー 際の参戦マシンではない.冒頭の 全長を 50 ㎜短縮し,重量を 20 ㎏ ツランド SUGO にて記念すべき日 TOP03 の研究・開発を推進するた 軽量化したことである.最高出力は を迎えた.あるマシンがその大きな め,ジャガーXJR のモノコックを リストリクター(φ34.2×2)を装 エンジン音を響かせて動き始めた ベースに改造し,TOP03 に搭載す 着した状態で 368kW以上を発生 のである.この「あるマシン」とは, る 4ℓ,V8 のツインターボエンジン させることが出来る.また,従来の 私たち東海大学工学部動力機械工 である YR40T を搭載している. 高出力は燃費が悪いという常識に ・ 人間工学班 という 5 つの班に分かれている. 学科林義正研究室と株式会社ワ ここで,この YR40T について説 挑戦し,急速燃焼によるリーン化と イ・ジー・ケーの産学連携により開 明する.このエンジンは前述のよう 徹底的なフリクションロスの削減 発されたレーシングエンジン に株式会社ワイ・ジー・ケーとの により 258g/kWh 以下という低燃 こ の こ と か ら も Study Car が 費も実現している. TOP03 の先行実験車であることが 理解していただけると思う. ただし,大きく異なっている点が ある.それは,エンジンへの空気の Study Car 車両主要諸元 車両名称 Study Car 全長 4620㎜ 全幅 1900㎜ 全高 1165㎜ ホイールベース 2720㎜ トレッド(前) 1590㎜ トレッド(後) 1500㎜ 車両重量 900㎏以上 トランスミッション Hewland製 手動5速 ようにしているが,Study Car では ブレーキ(前) AP製 13inch ブレーキ(後) AP製 13inch サイドから吸い込む方式を採用し サスペンション(前) ダブルウイッシュボーン 吸い込み方である.TOP03 では, フロントタイヤ付近から吸い込む ている.これは,既存のモノコック 図 2 YR40T 表1 を用いたことにより余儀なくされ サスペンション(後) ダブルウイッシュボーン タイヤ(前) 240/640-R18 タイヤ(後) 325/680-R18 たためである. 次に,この高い戦闘力を持つエン ジン YR40T を搭載している Study この空気の取り 入れ方の相違は Car の特徴について説明する. 大変困難な課題であった.しかし, 3.そしてル・マンへ これまで紹介してきたように このマシンの大きな特徴は, TOP03 の研究段階より,1つの考 Study Car のシェークダウンも無 TOP03 のマシンレイアウトに非常 えに固執せず多方面からアプロー 事完了し,我々のル・マンプロジェ に近い形で作り上げられているこ チを行っていたため,Study Car クトはいよいよ目に見える形で動 とである.具体的には図 3 のように, でのサイドからの吸い込み方式へ き始めた.その Study Car は現在 1.新開発の YR40T の変更に対しても,素早く対応する 改修中である.これが終了次第,ス 2.クローズドボディ ことが出来た. ピードトライアルを行う予定であ 今後,この Study Car はエンジ り,近く皆様方にもさらに進化した である.これらの点は TOP03 のマ ン や空力など各種データを集める Study Car の勇姿をご覧頂けるこ シンレイウトで重要なポイントで という役目を担っている.そして, とと思う. ある. そのデータを TOP03 にフィードバ それと平行して,ル・マン参戦マ ックし,より戦闘力のあるマシンに シンである TOP03 の開発も急ピッ 作り上げていく戦略である. チで進行している.そして,私たち 3.フロントラジエター 研究生も産学連携の取り組みの中 クローズドボディ で,真のプロフェッショナルの方達 と共に活動することによって,急ピ ッチで成長してきている. フロントラジエター なので,私たちの「必ずや夢を叶 えてやる」という強い思いと,皆様 方からの温かい応援があれば,この 大学初のル・マン参戦そして入賞と いう一見無謀とも思える大きな夢 YR40T 図3 TOP03 外観図 は必ずや近いうちに叶うと確信し ている.