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I. インド新会社法の施 - CSR義務とテレビ会議システム等を通じた
アジアニューズレター トピックス Ⅰ. インド新会社法の施行 - CSR 義務とテレビ会議システム等を通じ た取締役会の運営 Ⅱ. 台湾における裁量労働制(責任制)について Ⅲ. UAE 商事会社法とその改正の動向 2014 年 5 月号 インド新会社法の施行 - CSR 義務とテレビ会議システム等を通じた取締役会の運営 執筆者:久保光太郎、桑形直邦、今泉勇 インドの新会社法(The Companies Act, 2013)(以下「新会社法」)はその大部分が 2014 年 4 月 1 日に施行されました。 元々、新会社法は 2013 年 8 月 29 日に成立していましたが、インド企業省(Ministry of Corporate Affairs)からの同年 9 月 12 日 の通知により定義や罰則に関する一部の規定が施行されて以降、その他の規定の施行が待たれていました。 2014 年 2 月 27 日の通知により企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility)(以下「CSR」)義務に関する規定の施行が 同年 4 月 1 日とされたことに続けて、会社設立、株式、社債、取締役会、取締役その他会社の機関に関する規制等、大部分の規 定が同日に施行されることが通知されました。加えて、同年 3 月 27 日から 31 日にかけて関連する施行規則が公布されました。 すなわち、現時点においては、明文の経過措置のある規定を除き、新会社法による会社のガバナンスやコンプライアンス関係の 規定(本稿で説明する内容を含みます)は、既に全て施行されていることになります。なお、上記各通知で施行対象とされなかった 会社法審判所に関する条項、会社法審判所が管轄する事項(合併及びスキーム・オブ・アレンジメント等の組織再編、会社の清算 等)に関する条項、その他の条項についての施行時期は明らかではありません。 本稿では、実務的な関心の高い CSR 義務及びテレビ会議システム等を通じた取締役会の運営について解説します。 1. CSR 義務への対応について (1) CSR 活動の内容 CSR とは、企業活動において社会的公正や環境等への配慮を組み込み、従業員、投資家、地域社会等の利害関係者に対して 責任ある行動をとるとともに、説明責任を果たしていくことと理解されています。新会社法上の具体的な CSR 活動としては、教育 の推進、男女同権・女性の権利強化の推進、環境の持続可能性の確保、雇用機会を増大させる職業訓練等が列挙されています (新会社法別紙 VII(2014 年 2 月 27 日付け通知による修正後のもの)。 本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法又は現地法弁護士の適切な助言 を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、当事務所又は当事務所のクライアントの見解ではありませ ん。 本ニューズレターに関する一般的なお問合わせは、下記までご連絡ください。 西村あさひ法律事務所 広報室 (Tel: 03-5562-8352 E-mail:[email protected]) Ⓒ Nishimura & Asahi 2014 -1- (2) CSR 義務の発生要件(135 条(1)) 公開会社か非公開会社かを問わず、以下のいずれかに該当する場合には、後述する CSR 義務が発生します。 (i) 純資産が 50 億ルピー以上 (ii) 売上高が 100 億ルピー以上 (iii) 純利益が 5,000 万ルピー以上 2014 年 3 月期において純利益が 5,000 万ルピー以上である場合、2014 年 4 月 1 日から CSR 義務が発生していることになりま す。いったん発生した CSR 義務は、連続する 3 会計年度上記要件に該当しない状態になるまで継続します((会社法施行規則(企 業社会的責任)(以下「CSR 規則」)第 3 条(2))。 (3) CSR 義務の内容 ① CSR 委員会の設置 会社は、原則として取締役 3 名以上(うち独立取締役 11 名以上)で構成されるCSR委員会を設置する必要があります。 非公開会社や非上場の公開会社の場合、独立取締役の選任義務自体がないことから、CSR 委員会の構成上も独立取締役の 選任義務はありません(CSR 規則第 5 条(1)(ⅰ))。また、取締役が 2 名の非公開会社であれば当該 2 名のみで CSR 委員会の設 置が可能です(同(ⅱ))。 ② CSR 活動のための予算確保及び説明義務 直近 3 年の平均純利益の 2%以上の金額を CSR 活動に向けた支出のため、予算確保する必要があります(新会社法第 135 条 (5))。「平均純利益」とは、税引前の数字を用いるとされています(新会社法第 198 条(5)(a))。 会社が CSR 予算を支出しなかった場合、取締役会は、取締役会報告(Board Report)において理由の説明を尽くす必要がありま す(新会社法第 135 条(5)第二但書)。取締役会報告においては、施行規則が指定する様式で CSR に関する年次報告についても 報告対象とする必要があります(CSR 規則第 8 条)。また、取締役会は、CSR 委員会の推薦を受け CSR 指針を承認し、これを取 締役会報告(及びウェブサイトを有している場合には当該ウェブサイト)にて開示する必要があります(CSR 規則第 9 条)。 2. テレビ会議システム等を通じた取締役会の運営 (1) 制度の概要 旧法下では、インド企業省による 2011 年 5 月 20 日付け Circular において、一定の要件の下テレビ会議システム等を通じた取 締役会の開催を認めていましたが、新会社法では法令自体に規定がなされました(新会社法第 174 条(1))。なお、新会社法上、取 締役は全ての取締役会に出席する義務及び年間最低 1 回は物理的に出席する必要があり、12 ヶ月間にわたって取締役会に欠 席すると自動的に取締役を失職することになりますので注意が必要です。 (2) テレビ会議システム等による運営 テレビ会議システム等を通じて取締役会に参加した取締役は、定足数の算定上出席者として数えられます。 テレビ会議システム等を通じて取締役会に参加しようとする取締役は、会社がテレビ会議の準備をするために十分余裕のあるタ 1 当該会社や役員と金銭的関係や親族関係がないほか、新会社法第 149 条(6)所定の要件を満たす取締役をいいます(新会社法第 2 条(47))。 Ⓒ Nishimura & Asahi 2014 -2- イミングで通知する必要があります(会社法施行規則(取締役会及びその権限)(以下「取締役会規則」)第 3 条(3)(d))。 テレビ会議を実施した場合、録画及び媒体の保存を行う必要があり、インターネットを介した単純な映像/音声の通信のみでは 足りません。このような技術的な要件を満たすため、実務的な対応として外部業者に委託することも考えられます。なお、認めら れたのはあくまで映像と音声を伴うテレビ会議方式であり、音声だけの電話会議システムによる参加は認められないと解されま す。 (3) テレビ会議システム等による取締役会では決議できない事項 以下の事項については、テレビ会議システム等を通じた取締役会において 決議することができません(取締役会規則第 4 条)。 (ⅰ) 毎年の財務諸表の承認 (ⅱ) 取締役会報告書の承認 (ⅲ) 目論見書の承認 (ⅳ) 監査委員会の会議の実施 【かつて奴隷王朝の権勢の象徴であったデリーのク トゥヴ・ミーナール。今では、世界各国から多くのビジ ネスパーソン、観光客がデリーを訪れ、その上空を 旅客機が往来する。】 (ⅴ) 組織再編の実施の承認 (4) 書面その他電磁的方法を通じた取締役会決議 上記のテレビ会議システム等による方法の他、新会社法では、取締役に対して、取締役会の決議書案・参考資料を手交、郵送 する方法に加えて、電子メール等の電磁的方法で送付し決議を取る方法も認められました(新会社法第 175 条、取締役会規則第 5 条)。より具体的な決議方法は法令上明記されていませんが、当該電子メールを印刷したものに取締役が日付とともに署名を し、次回の取締役会で当該決議を確認し、署名済みの決議書を保管するというプロセスが一例として考えられます。 もっとも、新株の発行、借入、主要経営責任者の選解任等、取締役会の法定決議事項については上記方法によることはできま せん(新会社法第 179 条(3)、取締役会規則第 8 条)。現実的には、会社が発行する宣誓書に対するオフィサーへの署名権限の付 与等、日常的に生じる業務に関する事項で、緊急性が高い場合に限定されるものと考えられます。 また、取締役の 3 分の 1 以上が当該議案を会議の場において決議すべきことを求めた場合、当該議案は取締役会を開催した 上で決議する必要があります(新会社法第 175 条(1)但書)。 3. まとめ 新会社法施行を受けて、本稿で触れた CSR 義務及びテレビ会議システム等の採否も含め、インドに進出している企業が見直し をすべき点は多岐に亘ります。施行後も各規定の解釈、運用については不明確な点が多く、今後も本ニューズレターにおいて現 地の最新動向を踏まえた情報を発信していきます。 Ⓒ Nishimura & Asahi 2014 -3- く ぼ こう たろ う くわがた なおくに 西村あさひ法律事務所 弁護士 シンガポール事務所共同代表 [email protected] シンガポール事務所パートナー・共同代表。2007 年から 6 年以上にわたる米国、インド、シンガポールでの実務経 験を生かし、現在はシンガポールを拠点として、シンガポール、インド、パキスタン、ラオスを含むアジア新興国案件 に携わる。 久保 光太郎 西村あさひ法律事務所 弁護士 [email protected] 2004 年弁護士登録。事業再生/倒産、紛争処理、M&A、一般企業法務に加え、インドへ進出する日系企業案件を担 当。2014 年 3 月からデリーに出向中。 桑形 直邦 いまいずみ いさむ 西村あさひ法律事務所 弁護士 [email protected] 2006 年弁護士登録。国内案件における M&A、一般企業法務の経験を生かし、現在は、アジア各地の新興国へ進 出・展開する日系企業案件を担当。2012 年 9 月よりインドの Khaitan & Co 法律事務所への出向を経て、現在は東 京事務所にて勤務。 今 泉 勇 台湾における裁量労働制(責任制)について 執筆者:孫櫻倩、呉盈徳 1. はじめに 台湾においても、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務を行 う、いわゆる裁量労働者について、労働基準法が定める勤務時間等に係る一定の制限の適用を排除し、労使間で別途勤務時間 や定期休暇について約定することができるという意味での裁量労働制(以下、現地での中文表記に則り、「責任制」といいます)を 採用することが認められています。もっとも、日本企業の台湾子会社の中には、この責任制を誤って理解し、その結果、残業代を 法律に基づき適正に支払っていない実態も、少なからず散見されます。 そこで本稿においては、責任制の適用に係る要件及び効果、並びに責任制の誤用に伴う法的リスクについて、それぞれ概説し ます。 2. 責任制の適用に係る要件及び効果 (1) 責任制を適用するための要件 台湾労働基準法(以下「労基法」といいます)及び同法施行細則によれば、責任制を適用するための要件は以下の通りとされて います。 ① 中央主管機関が指定し、公告した業種及び職種に該当すること: 責任制の適用対象は、中央主管機関に当たる行政院労働部が、特定の業種における労働力に対する特別の需要並びに 当該業種において特定の職種に就いている労働者の業務の性質及び遂行方法等を勘案した上で、行政命令として指定及 Ⓒ Nishimura & Asahi 2014 -4- び公告した特定の業種及び職種に限定されます(労基法 84 条の 1 第 1 項) 2。 なお、ここでいう「業務の性質及び遂行方法等を勘案し」て責任制の適用対象とされる職種に就く労働者のカテゴリーとし ては、労基法上 4 種類 3が限定列挙されていますが、現行の適用対象リストによれば、実際に責任制を適用し得る労働者 は、例えば、航空会社に勤務している航空機内客室乗務員、不動産仲介業者の下で勤務する宅地建物取引主任者 4、法律 事務所に雇用されている弁護士、又は病院の手術室での医療従事者等、相当具体的に限定されています。 ② 使用者と①に該当する労働者との間で、勤務時間、定期休暇、女性労働者の深夜勤務等の事項に関し、書面による個別 契約を締結すること: ③ 上記②の契約書を添付書類とし、使用者の所在地を管轄する地方主管機関に対して責任制適用の届出を行い、同機関に よる審査・承認を経ること: 責任制に係る労使間における約定内容については、あくまでも労基法が定める基準や趣旨が参考とされるべきであり、労 働者の健康及び福祉を損ねるものであってはならないと解されています。 上記①乃至③の各要件がいずれも満たされる場合に、初めて責任制の適用が認められます。 (2) 責任制が適用される場合の効果 責任制の適用が認められる場合には、以下の労基法上の勤務時間等に係る制限及び規制の適用が除外されます。 項目及び条文 制限及び規制内容 ①法定通常勤務時間(労基法 30 条) 1 日当たり 8 時間、かつ 2 週間あたり 84 時間 ②法定通常勤務時間を超えた延長勤務時間(残業時間)(同法 法定の 1 日当たりの通常勤務時間に延長勤務時間を加えても 32 条) 最長 12 時間、かつ 1 ヶ月当たりの延長勤務時間は最長 46 時 間 ③定期休暇(同法 36 条) 7 日ごとに少なくとも 1 日の休暇を与えることが必要 ④女性労働者の深夜勤務(同法 49 条) 原則、午後 10 時から翌朝午前 6 時までの時間帯に勤務させる ことの禁止 もっとも、責任制の適用を届け出た際、各地方主管機関では、予め公表した 基準に従い当該労使間における上記①乃至④に関する約定の内容を実質的 に審査し、労働者の健康及び福祉を損なう恐れがあると判断する場合には、使 用者に対して当該約定内容の修正を求める運用がなされています。また、(台 湾における)責任制は、日本法上のみなし労働時間制とは別概念であり、仮に 責任制が適用される場合であっても、労働者の実際の勤務時間が労使間にお いて約定された通常勤務時間を超えるときは、使用者は、かかる約定時間外 における労務の提供に対する対価として、残業代を支払う義務を負うことにな る点、注意が必要です。 【大勢の人々で賑わう台湾名物「夜市」の光景(基隆 廟口夜市にて)】 2 行政院労働部により公告された責任制の適用対象となる具体的な業種及び職種のリスト(以下、「適用対象リスト」といいます)については、以下の URL より閲覧及びダウンロードが可能です。 http://www.mol.gov.tw/cgi-bin/siteMaker/SM_theme?page=4c465788 3 「監督又は管理業務を行う者」、「一定の業務責任を求められる専門職」、「監視又は断続的業務に従事する者」及び「その他特殊性を有する勤務に 従事する者」の 4 種類を指します。 4 中文表記では、「不動産経紀人」。 Ⓒ Nishimura & Asahi 2014 -5- 3. 責任制の誤用に伴う法的リスク 使用者たる企業が上述した責任制に違反し、労働者に対して本来支払うべき残業代を適正に支払っていなかった場合、当該労 働者(解雇した又は退職した元従業員を含みます)から、台湾民法の規定に基づき、過去 5 年間 5に遡り、不払いとなっていた残業 代の支払請求を受ける可能性があります(民事上のリスク)。 また、主管機関が当該企業の営業場所に対して立入り検査を行い、当該企業が誤った責任制の理解の下残業代の不払いを続 けてきた実態が明らかとなった場合、当該企業には、労基法 79 条の規定に基づき 2 万新台湾ドル以上 30 万新台湾ドル以下の 過料 6が課される可能性があります(行政上のリスク)。 更に、労基法違反の認定を受けた企業は、その企業名及び責任者名並びに期限を定めた改善命令の内容が公告されますの で、企業のレピュテーション・ダメージに繋がるリスクも考えられます。 4. ま と め 台湾において既に子会社を有している又はこれから台湾に現地法人を設立し若しくは台湾会社を買収すること等により台湾に 進出しようとする日本企業には、日本における裁量労働制と台湾における責任制の適用要件や効果についての相違も踏まえた 上で、上述した法的リスクにも鑑み、台湾現地子会社又は対象会社に、責任制の誤用に伴う違法な残業代不払いの実態が存し ないか、十分確認することが薦められます。 そん いんちぇん 西村あさひ法律事務所 外国法事務弁護士 [email protected] 2003 年台湾弁護士登録(台北弁護士会)。2014 年外国法事務弁護士登録(第一東京弁護士会)。 2003 年~2006 年台北の寰瀛法律事務所(Formosan Brothers 法律事務所)ほかにて勤務。 日本を拠点として活動する数少ない台湾弁護士の一人として、M&A、ファイナンス、国際取引法務、独占禁止法、及 び知財争訟などを中心に、日台間の幅広い渉外案件に関与。 孫 ご 櫻倩 えい とく 西村あさひ法律事務所 台湾法弁護士 [email protected] 2011 年台湾弁護士登録(台北弁護士会)。2011 年~2014 年台北の寰瀛法律事務所(Formosan Brothers 法律事務 所)にて勤務。2014 年 4 月に西村あさひ法律事務所に入所。M&A、コーポレート、知的財産案件などに広く携わる。 呉 盈徳 UAE 商事会社法とその改正の動向 執筆者:森下真生 1. UAE 商事会社法改正の動向 1971 年に建国されたアラブ首長国連邦(以下「UAE」といいます。)の商事会社法 (Commercial Companies Law)は、1984 年に制 定されました。この商事会社法については、1998 年にフリーゾーン(以下「FZ」といいます。)の会社を適用除外とするなど何度か改 正を経ていますが、時代遅れになっているとの懸念から、より全体的な改正が求められていました。 2004 年から議論がなされてきたこの改正は、2011 年 12 月 4 日に閣僚評議会(Council of Minister)によって署名された後、2013 年 5 月 28 日に UAE における一院制の議会である連邦国民評議会(UAE Federal National Council)によって承認されており、よう 5 台湾民法によれば、雇用契約に基づく報酬債権の消滅時効期間は 5 年間とされています。 6 参考までに、現在の外国為替相場に基づき 1 新台湾ドル=約 3.4 円にて換算すると、約 7 万円以上約 102 万円以下の過料に相当します。また、 問題状況に改善が認められない場合には、上記過料が繰り返し課される可能性もあります。 Ⓒ Nishimura & Asahi 2014 -6- やく最終段階に入っています。UAE 憲法で定められた連邦法の改正プロセスのうち、残すは、UAE7 首長国の首長で構成される 連邦最高評議会(Supreme Council)による承認(ratification)、アブダビ首長が兼ねる大統領による署名、そして官報(UAE Federal Official Gazette)による公表ですが、間近と言われながら、まだ実現に至っていません。 2. UAE 商事会社法と外国企業 現行の UAE 商事会社法下で認められている会社形態は、①合名会社(general partnership)、②合資会社(simple limited partnership)、③合弁事業会社(joint venture company)、④公開株式会社(public joint stock company)、⑤非公開株式会社 (private joint stock company)、⑥有限責任会社(limited liability company)、⑦株式合資会社(partnership limited by shares)、⑧外 国会社の支店又は駐在員事務所です。外国会社を除き、会社経営については、UAE 国民が行うべきという理念が支配しており、 どの会社形態でも業務執行権限を有する者の全員又は過半数が UAE 国民であることが求められています。①から⑦の会社形 態のうち、最も一般的なのは有限責任会社です。外国投資家は 49%までしか出資できませんが(もっとも、表面上は出資制限の 要件を満たしつつ、外国投資家が裏で表面上の出資額以上の出資を行い、かつ、現地出資者との間で必要な合意を行うことによ り、実質的に外国投資家支配の会社を実現することは広範に行われています。)、有限責任会社は、利益と損失の分配について 出資比率に捉われない取り決めができ、また最低資本金の要求もないため、外国投資家にとっても最も用いられる会社形態で す。 出資比率と業務執行権限の問題を明確にクリアできる進出形態のひとつが支店又は駐在員事務所ですが(外国所在の外国資 本支配会社の支店又は駐在員事務所が設置可能)、駐在員事務所は情報収集等のみが許容されて事業活動自体は行えず、ま た支店又は駐在員事務所いずれの場合でもその設置に現地スポンサーが必要になるという制約があり、これは今回の商事会社 法改正後も変わらないことになりました。 もうひとつは FZ 内の会社です。FZ に設置される会社は、FZ 独自の法律に基づいて設立又は設置されます。例えば、代表的な FZ であり、UAE で最も洗練された FZ とも言われるドバイ国際金融センター(Dubai International Financial Centre: DIFC)では、そ の独自の会社法(Companies Law)下で、株式会社(company limited by share)、有限責任会社(limited liability company)及び登録 外国会社(recognized company)のみが許容されています。こうした FZ 内の会社は、外資 100%保有が可能であり、税務面での優 遇措置、他の UAE 国内とは別個独立した国際水準の法律整備等、外国企業が事業を行いやすい環境が整っていますが、原則 として UAE 国内事業は FZ 内でしか行えないという制限があり、完全ではありません。なお、商事会社法は、FZ 内でしか UAE で 事業を行わない会社には適用されませんが、FZ に拠点(支店を含む。)を置きつつ、UAE 国内で事業を行う場合には適用され得 ます。現行法下では、いかなる範囲で適用されるのが不明確でしたが、改正法下では、その適用関係が政令(cabinet decree)によ り明確化されることが予定されています。 3. UAE 商事会社法改正の内容 今回の改正により、コーポレートガバナンスの強化、会社の透明性の向上、資金調達の円滑化等、国際通用力のある先進的な 水準を実現するための努力はなされているといえます。まだ改正に至っていないため、変更の可能性は残りますが、2013 年 5 月 の連邦国民評議会による承認後の商事会社法改正案から、例えば、同法下の主要な会社形態である有限責任会社と公開株式 会社においては、以下のような点について改正が見込まれています。 有限責任会社 ・ 2 名以上の持分保有者(partner)が必要とされていたところ、一人会社が可能に ・ 持分保有者の最大数が 50 名から 75 名に増加 ・ 有限責任会社の持分に対する質権設定が可能であることが明確化 ・ 現行法では最大 5 名とされている業務執行者(manager)の人数の上限が撤廃 ・ 業務執行者の競業避止義務の創設 ・ 総会の招集通知の通知期限の変更(21 日前までから 15 日前までへ) ・ 総会の定足数の変更 Ⓒ Nishimura & Asahi 2014 -7- ・ 株式会社に関する規定の有限責任会社への適用 公開株式会社 ・ 最低資本金の 1000 万ディルハムから 3000 万ディルハムへの増額 ・ 取締役の最大数の 12 名から 11 名への変更 ・ 取締役選任について累積投票を導入 ・ 取締役会の最低開催回数(年 4 回)の導入 ・ 株主総会の招集通知の通知期限の変更(21 日前までから 15 日前までへ) ・ 株主総会の定足数の変更 ・ 発行済株式の 2 倍を超えない範囲の授権資本制度の導入 ・ 株主が当該会社の株式又は社債を購入する際の資金援助の禁止 ・ 取締役等への貸付禁止の範囲の拡大 ・ 現行法下では新株引受権の付与が義務的であることが問題とされていたところ、戦略的パートナーへの新株発行時を除外 ・ 新株引受権の売却が可能に ・ 従業員持株制度の導入 ・ 利用可能資本以上の社債発行の解禁 この改正で特に注目されていたのは、外国資本による出資を 49%までしか 認めない出資比率制限の撤廃、それに伴い公開株式会社の取締役の過半 数が UAE 国民でなければならないとする規定の外国資本支配会社への不 適用、外国会社の支店又は駐在員事務所を設置する場合に義務的とされて いた現地サービス代理人(スポンサー)の選任(UAE 国民又は UAE 国民 100%所有の UAE 法人の選任が必要となり、その報酬額は 1 年につき 5 万 ディルハムから 15 万ディルハム程度)を任意的なものとするといった、外国投 資における障害の除去でした。これらについては、当初の期待に反し、連邦 国民評議会での審議を経て、採用されないこととなりました。国際的ビジネス 都市としての競争力強化よりも自国民の利益保護が優先されたともいえ、両 者のバランスをいかに取るかは今後の立法においても大きな問題になると思 【ドバイの 7 つ星ホテルのブルジュ・アル・アラブ】 われます。もっとも、出資比率制限については、この後改正が予定されている 外国投資法(foreign Investment law)において定められるとされており、今後そ の動向にも注目する必要があります。 もりした まさお 西村あさひ法律事務所 弁護士 [email protected] 2004 年弁護士登録。2007 年国際協力銀行、2010~2011 年丸紅株式会社、2012~2013 年英国 Norton Rose Fulbright 法律事務所、2013 年~現在 Marubeni Middle-East & Africa Power Limited 各出向。国際プロジェクトファ イナンス案件を中心に国際取引に関与。現在は UAE ドバイにおいて、中東・アフリカ関連業務を行う。 森下 真生 Ⓒ Nishimura & Asahi 2014 -8- 書籍・論文情報 ◆「西村高等法務研究所叢書(8) アジア進出企業の法務 - M&A 法制を中心として」 執筆者: 小口光、久保光太郎、福沢美穂子、孫櫻倩、吉本祐介 詳細: http://www.jurists.co.jp/ja/publication/book/article_13819.html ◆「アジア子会社と事業再生・撤退」 執筆者: 松嶋英機、柴原多、久保光太郎、張翠萍、佐藤正孝 掲載誌: 季刊事業再生と債権管理 No.144 ◆「米国 FCPA と中国・亜細亜各国を中心とする贈収賄の実情と対策」 執筆者: 木目田裕、森本大介、野村高志、吉本祐介 掲載誌: 経営法友会リポート No.482 ◆「マレーシア点描「ビジネス関係法の概観」 執筆者: 小山晋資 掲載誌: ASEAN 経済通信第 266 号 当事務所のアジアネットワーク 東京事務所: Tel: 03-5562-8500 E-mail: [email protected] バンコク事務所: Tel: +66-2-168-8228 E-mail: [email protected] ハノイ事務所: Tel: +84-4-3946-0870 E-mail: [email protected] ホーチミン事務所: Tel: +84-8-3821-4432 E-mail: [email protected] シンガポール事務所: Tel: +65-6922-7670 E-mail: [email protected] ヤンゴン事務所: Tel: +95-1-255070 E-mail: [email protected] 当事務所のアジアプラクティスは、日本とベトナム、インドネシア、シンガポール、フィリピン、タイ、マレーシア、ラオス、カンボジア、ミャンマー、イン ド、中国、台湾、香港、韓国等を含むアジア諸国との間の、国際取引を幅広く取り扱っております。例えば、一般企業法務、企業買収、エネルギー・天然資源関 連、大型インフラ、プロジェクト・ファイナンス、知的財産権、紛争処理、進出及び撤退等の取引について、同地域において執務経験のある弁護士が中心とな り、同地域のビジネス及び法律実務を熟知した、実践的な法律サービスの提供を行っております。本ニューズレターは、クライアントの皆様のニーズに即応すべ く、同地域に関する最新の情報を発信することを目的として発行しているものです。 西村あさひ法律事務所では、アジア・中国・ビジネスタックスロー・金融・事業再生等のテーマで弁護士等が時宜にかなったトピックを解説したニューズレター を執筆し、随時発行しております。バックナンバーは<http://www.jurists.co.jp/ja/topics/newsletter.html>に掲載しておりますので、併せてご覧下さい。 Ⓒ Nishimura & Asahi 2014 -9-