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NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
Nerval の Cainisme について
Author(s)
岡, 隆
Citation
長崎大学教養部紀要. 人文科学. 1962, 2(1), p.18-34
Issue Date
1962-03-31
URL
http://hdl.handle.net/10069/9493
Right
This document is downloaded at: 2017-03-30T11:48:56Z
http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
18
Nerval の Cainisme について
(Le Cainisme de Nerval)
岡隆
(1961.10.20)
1850年Ie National紙上に東邦紀行(Les Nuits du Ramazan)の一部と
して発表された(Histoire de la Reine du matin et de Soliman, prince
des genies)は,ソロモンをたずねたシバの女王をめぐって,ソロモンと
ツロの工匠アドニラムの争い,更にシバの女王バルキスとアドニラムとの
宿命的な恋を語ったものであるが,後くAurelia)に於てネルヴァルの魂を
天上に導き彼の魂の救済に重要な役割を果すく永遠の母)の原型としてシ
バの女王が見られるところから1),くAurelia)を頂点とする所謂ネルヴァ
ル伝説を形成する一群の(Les Filles du Feu)に連なる重要な作品と考え
られる. Jean Gaulmierはその重要性を認めてL'Histoire de la Reine
du Matin et de Soliman est un des textes-cles de Nerval, 1 un de ceux
qui eclairent le plus intensement une psychanalyse nervalienneと述
べている.その意味で注目されるのは主人公アドニラムを通して全篇に示
されるCamismeである.即ちその天才の故にソロモン,同時代人或いは
人類に対立するアドニラムは,火の元素から生れたカインの子孫であるこ
とによってその天才を与えられ,ソロモン及びその同時代人は,主アドナ
イによって泥から作られたアダムの子孫としての凡庸さの故にアドニラム
の侮蔑の対象となるのである.更にシバの女王とアドニラムとを結ぶ梓は,
二人がこの他に残された唯二人のカインの子孫であるという宿命によるも
ので,火の精霊である霊鳥Huppeによって二人は結ばれるのである.尚
NervalのCainismeについて
19
Huppeは(Aurelia)に於てく永遠の母)と共に,ネルグァルを天上に導
く重要な役割が与えられている3).従って物語の主要なモチ-フは,アダ
ムの子孫に対するカインの子孫の優越性を示すことにあるような印象を与
えるのである.しかしこの物語が(Aurelia),くLes Filles du Feu)に連な
る作品であることを考え,後者がいずれもネルヴァルのParadis perduを
求めての魂の遍歴の記録である点併せ考えるとき,神に対する叛逆者カイ
ンの子孫としての自負を示す,物語のCainismeはネルヴァルにあっては
異質的な印象を与えるのである.従って小論に於ては,作品に示された
Camismeが,ネルヴァルに於ていかなる意味を持つかについて検討した
LID
◇
◇
先ず作品に示されたCa'mismeについて一見しておくがその中核をなす
ものは,第6章L'Apparition及び第7章Le Monde Souterrainに語ら
れるアドニラムの地下の国訪問であろう.この一種の夢想は,アドニラム
がシバの女王をしてO grandeur ! 6 puissance du genie de ce mortel,
qui soumet les elements et dompte la nature !4)と讃嘆させたく青銅の海)
の製作が,部下の三人の職人の裏切りによって挫折し絶望に囚えられたア
ドニラムが廃塊に仔むところから始まる.その時焔の中から現われたトバ
ル・カインの亡霊は彼をカインの一族の集う地下の国に導く.そこでカイ
ンはアドニラムに向って語る.まずその出生についてHevafutmamさre;
Eblis, l'ange de lumiとre, a glisse dans son sein retincelle qui m'anime
et qui a regenere ma race; Adam, petri de limon et depositaire d'une
Ame captive,--と,泥で作られたアダムとの出生の相違を示し,更に言
葉を続けて彼のアペル殺害についてAvant d'enseigner le meurtre a la
terre, j'avais connu l'ingratitude, ['injustice et les amertumes qui cor-
20
岡隆
rompent le coeur. Travaillant sans cesse, arrachant notre nourriture
au sol avare, inventant, pour le bonheur des homm.es, ces charrues
qui contraignent la terre a produire, faisant rena王tre pour eux, au sem
de Pabondance, cet Eden qu'ils avaient perdu, j'avais fait de ma vie
里堅_里垂:e^. (下線は引用者)と,人類の幸福のため,彼らの失なった
楽園を回復させるため,その生涯を犠牲にしたことを語る.更にその彼
の努力に対するアダム,イブ及びアペルの彼に対する忘恩を非難し,また
彼の神に対する供物を蔑すむ神の不当を詰りCest ainsi que ce Dieu
jaloux a toujours repousse le genie inventif et fecond, et donne la
puissance avec le droit d'oppression aux esprits vulgairesと語る.即
ちその罪の故に永遠の神の呪いを招いたアペル殺害の原因は,カインの天
才に対する主アドナイの嫉妬にあり,またアドナイの創造物である人類の
無智忘恩もカインの怒りを誘うのであった.更にカインはDelAprovmt
la premiとre lutte des djins ou enfants des Eloi'ms, issus de l'element du
feu, contre les五Is d'Adonai", engendres du limon".ここに於て火の元素よ
り生れたカイン一族と泥で作られたアダムの子孫との争いが始まったと教
えるのである.一方,火の一族の優越性は,人類のために楽園を回復しよう
とするその天才によって示されるのである.更にトバル・カインによって
アドニラムに語られるカインの一族の集う地下の国の秘密によって(火)の
もつ意味は更に明確に示される.即ちカインの一族により地下の国に守ら
れたくIe feu central)或いはくIa sanctuaire du feu)は,選ばれたカインの一
族の永遠の生命の源であり,更に地球及び人類の生命の源であった.永遠
の生を得た地下の国は亦無限の自由が与えられた国でもあったIci regne
sans partage la lignee de Ka'in. Sous ces forteresses de granit, au
milieu de ces cavernes inaccessibles, nous avons pu trouver en丘n la
NervalのCainismeについて
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liberte. C'est la qu'expire la tyrannie jalouse d'Adonai, 1A quon
peut, sans p芭rir, se nourir des fruits de l'Arbre de la Science85. (下線
は引用者)カインの国は,その名が与える地獄的印象にも拘らず一種の理
想的な世界として描かれている.これらのimageはネルヴァルの創作で
はなく様々な秘教伝説によって組立てられていることはくAurelia)と同じ
であるが,既にその方面についてはJ. Richer及びF. Constantの研究
が見られるので小論ではふれないことにする. (更に附言しておくと,ネ
ルヴァルが東邦旅行中に使用したと思えるCarnet de notes9-*には,この
作品及び以後の作品に関係のある数々のメモがあり,それも出典を見る参
考になる.) F. Constantはこのカイン一族の社会改革的な性格を指摘し
て,サンシモン主義或いはフリ- ・メ-・ソンの理想社会の思想が影響を及
ぼしたと見ている10)尚主人公アドニラムについては,明らかにフリ---・
メ-ソンの伝説的害順台者ヒラムをモデルにしたものである11)
さて諸々の秘教・伝説・或いは思想の複雑な影響によって形成されたカ
イン及びカイン一族の地下の国も,カインの子らの宿命がこの国にさまよ
うアドニラムの父の亡霊によって告げられるに至って, Cainismeはネル
ヴァル的な意味をもつに至る.父の亡霊は神によって告げられたカインの
子の宿命をアドニラムに語るII (Dieu) reprit: --tes descendants
naitront faibles; leur vie sera courte; l'isolement sera leur partage.
!.
L'ame des genies conservera dans leur sein sa precieuse etincelle, et
leur grandeur fera leur supplice. Superieurs aux hommes, ils en seront
les bienfaiteurs et se verront l'objet de leurs dedains; leurs tombes
seules seront honorees--12)その偉大さの故に世間の侮辱を招き,孤
立する天才の姿,それはネルヴァルにとって狂気という異様な体験に裏付
けられたものであり,胸に宿る高貴な火花,それはネルヴァルにとって,
岡隆
22
幻想的な夢想の世界を開いてくれる狂気の火を意味するのではなかろうか.
呪われたカインの一族の宿命は,狂気という宿命を負わされたネルヴァル
の宿命ではないか.この神によって告げられたカインの子孫の宿命は,ネ
ルヴァルのCamismeがいかにして形成されたかを暗示するものであろう.
以下,この問題につき考察を加えてみよう.
◇
◇
ネルヴァルにあって,その社会的叛逆性は早くからあった.即ち1835
年発表された詩篇(La Grand'mさre)はそれより前1832年に発表された
詩篇くFantaisie)と共に,ネルヴァルの特異な回想形式を示した最初の作
品としてMarie-Jeanne Durryによってその重要性が指摘されているが13)
一方(La Grandmさre)はネルヴァルの社会に対する精神的な叛逆性を示
した作品として注目される.
La Grand'm芭re
voici trois ans qu'est morte ma grand'mere,
-La bonne femme,-et, quand on l'enterra,
Parents, amis, tout le monde pleura
D une douleur bien vraie et bien am.占re.
Moi seul j'errais dans la maison, surpris
Plus que chagrin; et, comme j'etais proche
De son cercueil,-quelqu'un me氏t reproche
De voir cela sans larmes et sans cris.
Douleur bruyante est bien vite passee:
Depuis trois ans, d autres emotions,
Des biens, des maux,-des revolutions,
NervalのCainismeについて
Ont
des
ca〇urs
sa
memoire
23
effacee.
Moi seul j'y songe, et la pleure souvent;
Depuis trois ans, par le temps prenant force,
Ainsi qu'un nom grave dans une ecorce,
Son souvenir se creuse plus avant !14)
(下線は引用者)
周囲の人達の速かに消え去る悲しみに対し,年とともに深く刻みこまれ
る彼の悲しみを強調し,祖母の死に際して涙を流さなかったために非難さ
れた思い出を苦々しく想起するのである.社会の無知,凡庸さに対する怒
りから自己の独自な世界を強調するネルヴァルの意図をこの詩篇の中に見
出すことができるであろう.その意味に於て物語に語られるカインの子孫
の人類に対する叛逆性の爾芽をこの詩篇の中に見出すことができるのであ
る.しかしこの社会との隔絶が,呪われたカインの子孫の宿命として自覚
されるには,今少し重大な原因を持たねばなるまい.
物語に示されたカインの子孫アドニラムはその重大な契機を暗示すると
思われる.アドニラムは,ソロモンの主アドナイに捧げる寺院建設のため
部下の職人を統べ,日夜精根を傾けるのであるが,一方彼の魂はこの偉大
な仕事を一種の侮蔑の眼をもって眺めるPlus 1 ouvrage avangait, plus
la faiblesse de la race humaine lui paraissait evidente, plus il gemissait
sur l'insu丘Lsance et sur les moyens bornes de ses comtemporains15).
人類の無力さ,同時代人の無能に対し,一方彼は巨大な仕事を夢想するの
であるson cerveau, bouillonnant comme une fournaise, enfantait des
monstruosites sublimes, et tandis que son art etonnait les princes des
Hebreux, lui seul prenait en pitie les travaux auxquels il se voyait
24
岡隆
reduit16¥更にアドニラムは弟子ベノニに向い真の芸術は創造にあると諭
L Quand tu dessines un de ces ornements qui serpentent le long des
fraises, te bornes-tu A copier les neurs et les feuillages qui rampent
sur le sol? Non: tu inventes, tu laisses courir le stylet au caprice de
l'imagination, entremsIant les fantaisies les plus bizarres17). (下線は引用
者)ど語る.相場のように沸とうした頭脳にこの上もなく奇妙な幻想を抱
き,人類の想像力の乏しさを憐れむアドニラムの姿は,直ちに錯乱時のネ
ルグァルを想像させる.アドニラムの天才の故の人類に対する侮蔑は,錯
乱によって並外れた想像力を与えられたネルヴァルの社会に対する侮蔑を
示すのでほないであろうか.従ってこの作品に示されるネルヴァルの
Camismeを生むに至った決定的要因は彼の精神錯乱という異常な体験に
求めることができるのではなかろうか.この事を解明すると思われる二通
の書簡がある.一過は1841年ネルヴァルが生涯最初の精神錯乱を経験し
て後,日ならずして書かれたMmedeGirardin宛の書簡である.彼はその
中でHeureusement, le mal a cede presque enti芭rement anjourd'hui: je
veux dire i'exaltation d'un esprit romanespue, a ce qu'il parait; car
j ai le malheur de metre cru toujours dans mon bon sens. J'ai peur
d'stre dans une maison de sages et que les fous soient au dehors18).
と述べている.彼の錯乱後の重要なる関心事は,狂気によって社会に与え
た自己の精神的破産者としての印象をいかにして拭い去るかに掛っていた
ことが,彼の他の書簡によってもうかがわれ,上記の書簡の内容も自己の
正常さを示そうとする逆説的表現と見ることができよう.しかし他の一過,
その年の11月東邦旅行に先立ってMme Dumasに送られた書簡と併せ
考えるとき,その逆説的表現の底に彼の実感がこめられていることが感じ
られる.その書簡の中でL'illusion, le paradoxe, la presomption sont
NervalのCamismeについて
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toutes choses ennemies du bon sens, dont je n'ai jamais manque.と先
ず狂気の印象を和らげ乍らAu fond, j'ai fait un rsve tres amusant, et
je le regrette; j'en suis msme A me demander s'il n'etait pas plus
vrai que ce qui me semble seul explicable et naturel aujourd'hui;
mais comme il y a ici des medecins et des commissaires qui veillent
A ce qu'on n'etende pas le champ de la poesie aux depens de la voie
publique一一更に錯乱の後,その夢想の世界をしのんでje me trouve
tout desoriente et tout confus en retombant du ciel ou je marchais de
plain-pied, il y a quelques mois. Quel malheur qu'a defaut de gloire
la societe actuelle ne veuille pas toutefois nous permettre l'illusion
dun revecotinuel.と記している.此等の書簡に幾度にも繰り返される,
狂気を詩的幻想のevocateurとして,その消滅を惜しむネルヴァルの言葉
は,最早社会に向けられた単なる擬態とのみは考えられず,従って狂気によ
って開かれた神秘的な内面世界を理解せず狂人として分類しようとする社
会に対する彼の憤臓は,彼のraison d'etreを脅かされることに対する怒り
であったと解することができよう.それと同時に彼は社会と自分とを分つ
宿命的な何物かを感じたと思われる.書簡の中で彼は次の様に記している.
A 1 aide des di丘nitions incluses dans ces deux articles, la science a le
droit d'escamoter ou reduire au silence tous les prophetes et voyants
predits dans l'Apocalypse, dont je me flattais d'etre l'un ! Mais je me
resigne a mon sort, et si je manque a ma predestination, j'accuserai
le docteur Blanche d'avoir subtilise l'esprit Divin20-1.彼の従来から見ら
れた神秘的傾向,或いは(La Grand'm占re)に示された社会的叛逆性はそ
の拠るべき世界を狂気によって与えられ,以後彼は自己の内面世界に彼の
宿命のよって来た原因をあらゆる知識を動員して探ろうとしたのであろう.
26
岡隆
彼はそれを自己に与えられた使命であると意識したのである.彼自らを幻
視者,予言者になぞらえた真意はここにあると考えられる.この事は以後
彼の関心が秘教伝説に向けられることによって示され,特に人類発生更に
は宇宙創造に関する彼の関心は,自己の宿命のよって来た原因を潮り人類
或いは宇宙の創造の歴史の中にそれを見出そうとしたことを示すであろう.
1844年VArtisteに発表されたくDiorama),或いは1846年発表された
東邦紀行くLe Harem)に収められた(L'lle de Roddah)に示される宇宙
創造の伝説は彼の関心の所在を示すものであろう1844年発表された
くParadoxe et verite)の一節Je ne demande pas A Dieu de rien changer
aux evenements, mais de me changer relativement aux choses; de me
laisser le pouvoir de creer autour de moi un univers qui m'appartienne,
de diriger mon rsve eternel au lieu de le subir. Alors, il est vrai, je
serais Dieu.は,如上のネルヴァルの意図につながるものである.従っ
て狂気に続いて行われた東邦旅行は彼に絶好の材料を与えてくれたと思わ
れる.東邦に伝わる秘教伝説は,彼の神秘的な内面世界に自己の宿命の原
因を探ろうとするネルヴァルにこの上もない武器となったであろう. -si
comme d'autres fables de l'antiquite, c'etait la verite fatale sous un
masque de folie? "Eh bien, me dis-je, luttons contre 1 esprit fatal,
luttons contre le dieu msme avec les armes de la tradition et de la
science''彼は相伝の武器をひっさげて,神そのものともたたかうと宣言
する. (この文はくAurelia)中の一文であり,時代的に少し後になるが,
彼のCainismeに至る道程にはこの様な決意もあったものと思われる.)
ネルヴァルの東邦旅行中使用したと思われるCahier de Notesには,シ
バの女王,ソロモン,カインに関するノートと共に,読書によって知った
と思われる様々な秘教的伝説のノ-トが見られることも,彼の以上の様な
NervalのCa'inismeについて
27
意図を裏づけするものと思える.更に,それは,ネルヴァ7レのCai'nisme
が,その東邦旅行中徐々に形成されて来たことを示すのであろう.彼は呪
われた一族としてカインのimageを東邦に見出し,自己の宿命のよって
来た原因を神に対する人類最初の叛逆者カインの伝説的imageに求めた
のである.彼は東邦にカインを信奉する人達を見出しl'on retrouve en
Syrie des traces nombreuses de la Religion des Kai'nites ou Enfants
de Cam14).と記している.しかしEnfant de Camは呪われた宿命の幻
影に追われるネルヴァル自身の謂そあったであろう.彼のCainismeはこ
の様にして精神錯乱という異常な体験による宿命の自覚のもとに,生れた
と見ることができよう.
◇
◇
彼の東邦旅行は以上の様なネルヴァルの個人的な体験と結びついてその
Cainismeを生んだと思われるが,その旅行は同時に古代世界-の憧憤を
も生んだのである.狂気によって神秘的世界の実在を知ったネルヴァルに
とって,古代の伝説にみちた東邦諸国はく母なる国)を想起させた.彼は
エジプトについて・ -・n est-ce pas toujours, d'ailleurs, la terre antique
et maternelle oil notre Europe, a travers le monde grec et romain,
sent
remonter
ses
origines?
Religion,
morale,
Industrie,
tout
para王t
de
ce centre A Ia fois mysterieux et accessible, ou les genies des premieres
temps ont puise pour nous la sagesse? 5)この古代世界に対する憧懐は,
その世界を支配した神々に対する共感を呼び,更にそれら異教の神々を追
放したキリスト神エホバに対する叛逆を生んだと思われる.アドニラムは
ベノニに語るSouviens-tu des vieux Egyptiens, des artistes hardis et
nai'fs de l'Assyrie. N'ont-ils pas arrache des且ancs du granit ces sphinx,
ces cynocephales, ces divinites de basalte dont 1 aspect revoltait le
28
岡隆
Jehovah duvieux Daoud?アドニラム-ネルヴァルは,同じく神によっ
て呪われた種族としてキリス日中に対する叛逆を,その作品によって示し
たものとして,古代エジプト,アツシリヤの芸術家達を想起するのであ
る.それは同時に古代世界への憧憶に連なるものであり,ネルヴァルの
Ca'inismeの一つの特徴として,その古代世界-の憧懐を挙げることがで
きるのであろう.くLes chimさres)中の-篇くAnteros)は,以上の様な古
代の神々に対する共感とキリスト神に対する怒りから生れたものであろう.
更にその憧懐は時代のネオ・パガニスムの風潮と結びついて,古代世界の
復活,神々の復活を希求するに到るのである1845年発表された詩篇
(Del丘ca)は,その願いを反映して古代の神々の復活を予言する.
Us reviendront, ces Dieux que tu pleures toujours !
Le temps va ramener l'ordre des anciens jours;
La terre a tressailli d'un souffle prophetique-..27)
従ってアドニラムの自負を示す言葉Que lon me donne cent mine
praticiens armes du fer et du marteau: dans le bloc enorme je taillerai
la tete monstrueuse d'un sphinx qui sourit et丘xe un regard
implacable sur le ciel. Du haut des nuees, Jehovah le verrait et palirait
destupeur2の中で,アドニラムによって刻まれるスフィンクスは復活
する古代の神々を示し,それを見て色蒼ざめるエホバは,追放した神々の
蘇生を驚くキリスト教世界を意味するものと考えられるであろう.従って
アドニラムがト!てル・カインによって導かれる地下の国のカインの一族は,
永遠の生と自由を守り乍ら復活の日を待ちわびる古代の神々の姿を想起さ
せるのである.人類に失われた楽園を再現させるために生涯を犠牲にした
カインに対し,その天才を嫉妬する主アドナイは,古代の神々を追放し,
人類に絶望を教えたキリスト神であり,亦カインの努力にも拘らず主アド
NervalのCai'nismeについて
29
ナイと共に不当な仕打ちによってアペル殺害にカインを追い込み,カイン
の永遠の放浪の原因を作ったアダム一族は,亦古代の神々をキリスト神に
よって追放したキリスト社会であった.カインの主アドナイに対する怒り,
人類の忘恩に対する怒りには,この様なネルヴァルの古代世界に対する憧
憶を底に秘めるものであろう.
以上の様にその東邦旅行はネルヴァルをして,古代世界-の憧憶を生み
同じく呪われた種族として古代の神々-の共感を生んだのであるが,
Cahier de Notesには今一つ注目すべき文字を見る.即ちPoursuivre les
msmes traits dans des femmes diverses. / Amoureux d un type eternel.
/la fatalite29).様々な女性の中に同一の容貌を求めること,それが彼の宿
命であるとすれば-・・,ここに(Aurelia)的発想を見るのであるが,これ
は同時に彼の女神イシスに対する関心のよって来た原因を示すのであろう.
愛する女性の容貌をとって現れるというイシスは,彼の宿命を導くく永遠
の母)でもあり,女神イシスと合一することによって彼の魂の救済を果す
ことができるとする意識をネルヴァルに与えたのであろう.彼の古代世界
に対する憧慨は,女神イシスに対する憧憶によって個人的な救霊の問題に
連なるのである.彼は古代の神々の復活を予言する前記(Del丘ca)と同じ
午,イシス信仰に関する一文(Le Temple crisis, souvenir de Pomj漣i)
を発表し,その結びにCette M芭re divine, ce Sauveur, quune sorte de
mirage prophetique avait annocs?a et lA dun bout A l'autre du
monde, apparurent en丘n comme le grand jour qui succcとde aux vagues
clartes de laurore3.と女神イシスの出現を告げるのである.
この意味に於て注目すべき一文を物語に見る.即ちソロモンが初めてシ
バの女王に会った時,その神秘的な美しさに打たれてII voyait s'animer
a ses cotes l'ideale et mystique figure de la deesse Isis31).この一文は,
30
岡隆
シバの女王と女神イシスのネルヴァノL的融合を示すものではないであろう
か.更にそれを想像させるのは,アドニラムの地下のカイン一族の国の訪
問が,物語と同年に,物語に先立って同じくIe National紙に発表された
東邦紀行くLes Pyramides)の一章(Les Epreuves)に記されたイシス礼
拝のinitiationの試棟に非常に類似点があることである.中でもinitieは
その試煤を終えて後,一人の女性と結ばれるがその女性は試蝶の途中で垣
間見たイシスの容貌とそっくりでありtelle etait la creature divine qui
devenait la compagne et la recompense de l'initie triomphant3.これを
物語と比べて見ると,アドニラムがその一種の地獄下りの試煤の後にシバ
の女王と結ばれる点,内容的に極めて類似していると云えるであろう.こ
の様に考えると,シバの女王と女神イシスとの内面的融合は推定できるで
あろうし,シバの女王を同じくカインの子孫として設定したネルヴァルの
意図もシバの女王と女神イシスとの融合によって理解されるであろう.更
にシバの女王と,彼が苦い思い出を持つジェニー・コロンとは既に1837年
頃ネルグァルの心を分有していたことが彼の回想録(ボへミヤの城)によ
って示される.彼は当時を回想してLa Reine de Saba, c'etait celle, en
effet, qui me preoccupait alors,-et doublement. - - Elle m apparaissait radieuse, comme au jour ou Salomon l'admira s'avangant vers
lui dans les splendeurs pourprees du matin. - Qu'elle etait belle !
non pas plus belle cependant qu'une autre reine du matin (Jenny)
dont l'image tourmentait mes journees. Cette derniere realisait vivante
monrsveidealetdivin3.と記している.ジェニ-,シバの女王,イシス
この三者の内面的合体は,彼のCahier de Notesに示された彼の宿命の
導く方向を示すものと考えられ,アドニラムとシバの女王の宿命的梓によ
る結合は, (永遠の母)との合体により彼の魂の救済を示すかに見えるの
NervalのCainismeについて
31
である.更にシバの女王をめぐるソロモンとアドニラムの争いは,く永遠
の母)をめぐっての古代世界とキリスト世界との争いというアレゴリック
な意味に考えられ,シバの女王とアドニラムの和合は古代の世界の復活,
及びく永遠の母)イシスの復活を示すものと考えられる.
しかしここで注意すべきは,一見カインの子孫の勝利を示すこの作品の
中に,その調和を乱す幾つかの場面が挿入されていることである.まず主
アドナイ及びアダム一族に対し,抗戦的な言葉を発した後,カインは,
《Habel, mon nls, Habel, Habel ! - -qu as-tu fait de ton frさre Habel?)34'
とアダムの声がひびくと,絶望にとらえられて地に倒れるのである.カイ
ン一族の地下の国にひびくアダムの声は,呪われた宿命を示すと同時に,
ネルヴァルのキリスト教に対する信仰の抜き難く存在することを示すと思
われる.更に詩篇くAnteros)に於けるアペルとカインの提示は,ネjL/ヴ
ァJL,のCamismeが徹底的な叛逆の形をとり得ないことを示すものであろ
ラ.尚詩篇に於て注目されるのは両者の対立が明らかに同一人物の相貌と
して示されていることである.
Oui, je suis de ceux-1A qu'inspire le Vengeur,
II m'a marque le front de sa l占vre irritee,
Sous la paleur d'Abel, helas ! ensanglantee,
J ai parfois de Cain l'implacable rougeur I353
(下線は引用者)
これはくAurelia)に於て神秘的な女性オーレリアをめぐるネルヴァルの
善と悪の二つの分身の争いを想起させ,それは更に,シバの女王をめぐる
アドニラムとソロモンの争いを思わせるのである.この事から,ソロモン
とアドニラムが,ネルヴァルの分身としてその魂を分有するものと考えら
れるかも知れない・ともあれ,アドニラムとシバの女王が一度結ばれ乍ら,
32
岡隆
ソロモンに対する顧慮から互いに分れ,アドニラムはそのモデルであるフ
リーメーソンの伝説的創始者の故事に倣って,部下の三人の職人によって
虐殺される件りほ,ネルヴァルのく永遠の母)との合体は果されず,古代
世界のキリスト世界に対する決定的勝利を示さないものと考えられる.ア
ドニラムがソロモンに告げる.別れの言葉《Quoi qu'il advienne, seigneur,
soyez a jamais assure de mon respect, de mes pieux souvenirs, de la
droiture de mon cceur. Et le soupgon venait a votre esprit, dites-vous:
Comme la plupart des humains, Adoniram ne sappartenait pas; il
fallait qu'il accompl王t ses destinees !》36)は,彼の宿命を求めて,叛逆的
な異教の世界に足を踏み入れたネルヴァルの,キリスト神に向けられた言
葉と考えることができるであろう.シバの女王はアドニラムと別れるに際
しくやがて永久に一緒になりましょう)と励ますのであるが,アドニラムネルグァルが, (永遠の母)を再び見出し,魂の救済が果されるためには,
キリスト世界と古代性界,聖母マリヤと女神イシスの神秘的な調和をまた
ねばならない.その輝かしい時はくAurelia)のくMとmorables)によって
語られ聖母マリヤ,女神イシス,シバの女王,ジェニ-,ネルヴァルの生
母の融合したく永遠の母)によって,ネルヴァルの魂は永い放浪から天上
へと導かれるのである.
以上の如く物語に示されたネルヴァルのCa'inis甲eは,錯乱を契機とし
て自覚された宿命の源を創生記によって示された呪われた種族の父カイン
の秘教的image中に求めようとする意識によって生れたのであろラ.し
かし,神に対するその叛逆的姿勢の後ろにParadis perduを求めようとす
る切なる願いがこめられていたことが知れるのである.この意味に於て,
くHistoire de la Reine du matin et de Soliman)は,以後のくLes Filles
du Feu)及びくAurelia)と密接な関係を持ち,特にくAurelia)とは,形
NervalのCainismeについて
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式こそ伝説,自伝の相違こそあれ,内容的には固く結ばれているのである.
〔註〕テキストとしては次のものを使用した. G. de Nerval: Oeuvres t. I.
(Biblioth芭que de la Pleiade, 1952)同じくOeuvres t II. (Bibliothとque de la
Pleiade, 1956)以下各々PI. I.及びPI. II.と略号を使用する.
1) cf. I., Aurelia, Memorables, p. 409.
2) Jean Gaulmier: G. de Nerval et les Filles du Feu (Librairie Nizet, 19t>6)
p.29.
3) cf. op. cit. 1) p. 410.
PL II. Voyage en Orient, Les Nuits de Ramazan, Histoire de la Reine du
matin et de Soliman, prince des genies, V La Mer d'airain p. 553.
5) ibid. VII. Le Monde Souterrain, p. 561.
6) ibid.
7) ibid.
8) ibid. VI L'Apparition, p. 557.
9) cf. PL II., Carnet de Notes du Voyge en Orient, pp. 705-730.
10) cf. Frangois Constant : Deux Enfants du Feu (Mercure de France, mai-aoat
1948) pp. 44-45.
ll) cf. ibid.及びPierre Audiat: L'Aurelia de Gerard de Nerval (Librairie
Champion, 1926) p. 58.
12) op. cit. 5) p. 566.
13) cf. Marie-Jeanne Durry: G. de Nerval et le Mythe, pp. 7-10.
14) PI. I., Odelettes, La Grand'mere, p. 45.
15) op. cit. 4), I Adoniram, p. 510.
16) ibid.
17) ibid. p. 513.
18) PI. I., Correspondance, 85 bis-A Madame Emile du Girardin. [27 avril
1841] p. 851.
19) ibid. 86-A Madame Alexandre Dumas. Le novembre [1841] pp. 853-854.
20) ibid. p. 853.
21) cf. PL II., Diorama, pp. 1233-1236.及びPI. II. Voyage en Orient, Les
Femmes du Caire, III-Le Harem, VI L'lle de Roddah, pp. 199-201.
22) PI. I., Paradoxe et Verite, p. 427.
23) ibid., Aurelia, chap. IX, pp. 381-382.
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岡隆
24) PI II., Appendice II, IV La Legende de Soliman, p. 690.
25) op. cit. 21), Les Femmes du Caire, I Le Passe et L'Avenir, p. 181.
26) op. cit. 17).
27) PI. I., Les Chimさres, Delfica, p. 31.
28) op. cit 15) p. 512.
29) op. cit. 9), page 3. p. 706.
30) PL I., Isis, p. 324.
31) op. cit. 28), II Balkis, p. 521.
32) op. cit. 25), Les Pyramides, Les Epreuves, p. 229. cf. pp. 226-231.
33) PI. I., Petits Chateaux de Boheme, p. 91.
34) op. cit. 5), p. 562.
35) op. cit. 27. Anteros, IP quatrain, p. 30.
36) op. cit. 5), X L'Entrevue, p. 590.
〔附記〕
本稿は1961年10月29日九州大学に於ける九州フランス文学会で発表するた
めに記されたものであるが,原稿の蹄切りが学会の期日に先行したため覚え書程度
のものになった.後日詳細を期したい.
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