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2010年12月発行 - 東京大学分子細胞生物学研究所

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2010年12月発行 - 東京大学分子細胞生物学研究所
1
東京大学 分子細胞生物学研究所 広報誌
12月号(第45号)2010.12
IMCB
Institute of Molecular and Cellular Biosciences
University
of Tokyo
The University
of Tokyo
目 次
研究分野紹介(発生分化構造研究分野)…………………… 1∼4
受賞者紹介…………………………………………………………… 5
転出のご挨拶(八杉徹雄、成田新一郎、松本高広)…………… 6
着任のご挨拶(泉奈津子、金井隆太、古俣麻希子、須谷尚史、
坂東優篤、廣井誠)………………………… 7∼8
留学生手記(Pieter Bas Kwak) ………………………………… 9
ドクターへの道(包明久)………………………………………… 10
研究室名物行事(染色体動態研究分野)…………………… 11∼12
国際会議に出席してみて……………………………………… 12∼17
オープンキャンパス …………………………………………………
事務部 業務紹介 ……………………………………………………
動物慰霊祭 ……………………………………………………………
防災訓練 ………………………………………………………………
18
19
20
20
お店探訪 ……………………………………………………………… 20
OBの手記(篠田雄大)……………………………………………… 21
海外ウォッチング(梅津大輝)…………………………………… 22
分生研シンポジウム ………………………………………………… 23
高校生来所見学 ……………………………………………………… 24
留学生サマースクール ……………………………………………… 24
知ってネット………………………………………………………… 24
編集後記……………………………………………………………… 24
研究紹介(伊藤弓弦、千住洋介、丹野悠司、
中村(藤山)沙理)………………………………… 25∼26
研究最前線(神経生物学研究分野、放射光連携研究機構生命科学部門、
染色体動態研究分野)…………………………… 27∼28
研究分野紹介 発生分化構造研究分野
真核生物の遺伝情報制御機構に関する
概念的枠組みの解明に向けての取組みと成果
細胞運命は遺伝情報の維持及び発現変換によって決定され、夥しい数の相互作用及び化学反応によって制
御されている。1950-60年代には、二重らせんDNA構造の発見(Nature , 171, 737-738, 1953)を端緒として、
オペロン説(J.Mol.Biol. , 3, 318-356, 1961)、遺伝暗号(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. , 47, 1588-1602, 1961)など生
命情報の維持・変換の原理が見出され、分子生物学の黎明期を迎えた。1970年代以降はそれら原理に基づい
た各論研究の萌芽期を迎えつつ、新しい研究成果が様々な研究領域で生まれ、分子生物学の黄金時代が1980
年代に形成されていくことになった。本研究分野主任である堀越は、この時期に研究生活を開始し、学生時代、
ロックフェラー大学時代を通じて、真核生物の転写制御機構研究を転写伸長因子S-IIや転写開始因子TFIID
などを中心に行い、世界をリードする経験に恵まれてきた。そういった状況の中で、
「生命現象に関する基本
原理の発見は今後行われるのか?」と自問自答を絶えず繰り返してきた。帰国後は、それまで同様、最低で
も10年先を見据えて研究を行うことは勿論のこと、各論研究に飽き足らず、基本的には生物学上の大きな枠
組みとしての新しい原理・原則・概念を見い出すことを生涯の課題とし、未踏領域であったクロマチン研究
を各論研究の題材として選んだ上で研究を進めることにした。
真核生物DNAはヌクレオソームを基本構造単位としているため(Science , 184, 868-871, 1974)、遺伝情報
制御の基本的枠組みは、ヒストンの出現により新たな局面を迎えた。ヒストンは、遺伝情報制御にどのよう
な新しい枠組みを与えたのであろうか?新しい枠組みを担う中心的なクロマチン構成因子を得るため、ヒス
トンフォールドを有する転写制御の司令塔とされるTFIIDの機能未知ドメインを用い、クロマチン研究がま
だ萌芽期を迎えたばかりの頃から現在までに、多様な種類の新規相互作用因子の単離・機能解析に成功し
てきた(J.Biol.Chem. , 272, 30595-30598, 1997; Cell , 102, 463-473, 2000; Genes Cells , 5, 221-233, 2000; Genes
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Cells , 5, 251-263, 2000; Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. , 99, 9334-93339, 2002; J.Biol.Chem. , 279, 9615-9624, 2004;
Nature Struct.Mol.Biol. , 11, 275-283, 2004; Nature Struct.Mol.Biol. , 13, 331-338, 2006; Mol.Cell.Biol. , 28, 11711181, 2008, etc.)。それら機能未知因子を用い、染色体機能領域・境界領域の決定機構モデル Negotiable
border model (Nature Genet. , 32, 370-377, 2002; Genes Cells , 9, 499-508, 2004)、ヒストン化学修飾からヌ
クレオソーム構造変換を通しての遺伝情報制御モデル Hi-MOST model (Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. , 107,
8153-8158, 2010)、ヒストン(H3-H4)2四量体からH3-H4二量体への分割活性をヒストンシャペロンCIAに見
出した(“Yawara split model”)上で、半保存的ヌクレオソーム複製モデル Semi-conservative nucleosome
replication model 、エピジェネティック情報伝達機構モデル Epigenetic inheritance model (Nature , 446,
338-341, 2007; Cell.Mol.Life Sci. , 65, 414-444, 2008)を相次いで提唱することに成功した。これらの成果は、
ヌクレオソーム・クロマチン・染色体レベルでの遺伝情報の維持及び発現変換機構に関する分子生物学上の
中心課題に解答を与えるものであり、研究競争が極まっている遺伝情報制御研究領域においても世界を先導
する真にオリジナルな研究成果を日本からでも生み出せることを示している。また、真核細胞転写制御の中
心因子であることを示したTATAボックス結合因子TBPで手掛けた三次構造解析(Nature , 360, 40-46, 1992)
の貴重な経験を基に、クロマチン関連因子の機能及び作用機構解析が十分に進んでいない状況で、それら及
び相互作用因子との複合体の三次構造解析を共同研究者と共に進め、その成果は新たな生化学的機能の発見
や遺伝情報制御機構の提案にもつながった(J.Biol.Chem. , 279, 1546-1552, 2004; J.Biol.Chem. , 279, 9615-9624,
2004; Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. , 104, 4285-4290, 2007; Nature , 446, 338-341, 2007; J.Mol.Biol. , 365, 1047-1062,
2007; J.Biol.Chem. , 282, 4193-4201, 2007; Structure , 15, 179-189, 2007; J. Mol. Biol. , 378, 987-1001, 2008; Proc.
Natl.Acad.Sci.U.S.A. , 107, 8153-8158, 2010)。
ヒストンは遺伝情報制御の中心因子であることから、ヒストン全アミノ酸に点変異を導入し、全核内反
応機構を明らかにする戦略を世界に問うた(Genes Cells , 12, 13-33, 2007; Genes Cells , 14, 1271-1330, 2009;
Genes Cells , 15, 553-594; 2010)。現在、転写以外に、複製、修復、組み換え、染色体分配など様々な分野で
の成果を発表し始めている(Genes Cells , 15, 945-958, 2010, 及び投稿中)
。この戦略の着想はTATAボック
ス結合因子を用いて一部発表し(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. , 89, 2844-2848, 1992; Mol.Cell.Biol. , 12, 5189-5196,
1992; Nature , 369, 252-255, 1994)、ヒストンへの適用は、1998年から始め、2000年にはほぼ完成していた。様々
な理由から発表が遅れたものの2005年に米国キーストン・シンポジアで講演したところ、大きな反響があり、
2008年には米国で追随する2つのグループが現れた。その一方で、点変異体を用いた網羅的解析を通して、
テイル領域の化学修飾残基が細胞増殖に影響を与えない頑強性を有することを示す知見を同時に得、その知
見が“Histone code hypothesis”
(Nature , 403, 41-45, 2000)に大きく矛盾することを示した。この成果を基に、
各化学修飾をシステムの構成要素(ノード)として捉え、化学修飾間関係(リンク)全体のシステムがスケー
ルフリー性を有するネットワーク構造であることを見出した
( Modification web theory )
。
更に、
“Modification
web”が不定形構造領域を主に基盤とすることから、不定形構造が、情報の受容、処理、および伝達を一括
して担い、化学修飾間関係を容易に形成させ、成長させる仕組みをも説明する Signal router theory を提唱し、
真核生物蛋白質の約50%に上るとされる不定形構造の生理的機能意義を初めて示した(Genes Cells , 14, 789806, 2009)。これら2つの理論の提出は、1)生物学反応を従来通りの1:1反応一辺倒で考えるのではなく、
多:多反応としてシステム全体を考えることが、生物の示す頑強性の解明につながること、2)現在までコ
ンポーネントの示す特性として着目されてはきたものの、研究対象として主流にはならなかった不定形構造
の生理的機能意義を世界に先導する形で示したこと、など30年に及ぶ研究の中でも最も独創性の高い研究と
なった。なお、研究分野主任が米国から発表した筆頭筆者としての最初の論文(Cell , 54, 665-669, 1988)が、
不定形構造の働きを扱っていることを特記しておく。
以上の研究成果の概略は次の4項目に示したが、競合研究者(敬称略:ABC順:Pierre Chambon, Ronald
M. Evans, Gary Felsenfeld, Michael Grunstein, Leonard Guarente, Stephen P. Jackson, Roger D. Kornberg,
Mark Ptashne, Robert G. Roeder, Phillip A. Sharp, Bruce Stillman, Keith R. Yamamoto)の外部評価では、
オリジナリティー溢れる成果として高く評価されている(分生研ホームページ(http://www.iam.u-tokyo.
ac.jp/evaluation/result-foreigner-08.pdf)には、Roger D. Kornbergの評価が掲載されている)
。オリジナリ
ティーで太刀打ちすることが非常に困難な、競争が厳しいとされる遺伝情報制御研究領域において、独自の
視点から新しい道を常に自ら切り開き、学生にも独創的な研究を行う姿勢・着想を伝授し、その経験を積む
ことができる機会を提供してきたこと。また米国から帰国して以来、構造生物学、及びクロマチンあるいは
エピジェネティクス研究が分子生物学において大きな位置を占めていくであろうことを予想し、日本の研究
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者がその研究動向を認識し、立ち遅れないように長年働きかけてきた。分生研でも、増設された2つのセンター
を含め、大半の研究室が現在それらの研究に携わっている。新しい独創性に富んだ研究を目指す研究者であ
るのか、その後をなぞるように研究を進める研究者に甘んじるのか、科学社会でのあり方を若い研究者にど
う伝えていくべきかは、明確であるものの、非常に困難な作業であることを痛感している。このようなことは、
優れた理解者が常にいた研究分野主任の学生時代やロックフェラー大学時代には決して経験しなかったこと
であった。今後は、共同研究者との研究をより深く、緊密に進める一方で、生物の持つ頑強性(Robustness)
や脆弱性(Fragility)を示すネットワーク構造の解析を基盤に、進化という大きな視点から、より根源的か
つ広範性のある原理・原則・概念を発見・構築していくことが、今まで以上に独自性のある道を走り続けて
いくことにつながると考えている。
1.新規クロマチン因子の単離・解析、及びヒストン点変異ライブラリーの構築、複合体の三次構造解析を
通しての各種核内反応制御基盤の共通性・多様性の解析
真核生物DNAは、4種のコアヒストンと共にヌクレオソームを形成する。ヌクレオソームに様々なタイ
プの作用因子が働き、更に高度に折り畳まれたクロマチン構造をとる。従って、DNAを鋳型とした核内反
応の制御には、ヌクレオソーム・クロマチン構造の変換が必要である。クロマチン研究の勃興期に世界に
先駆け、様々な新規クロマチン作用因子を単離し、その質・量は当時世界最大となった(J.Biol.Chem. , 272,
30595-30598, 1997; Cell , 102, 463-473, 2000; Genes Cells , 5, 221-233, 2000; Genes Cells , 5, 251-263, 2000; Proc.
Natl.Acad.Sci.U.S.A. , 99, 9334-93339, 2002; J.Biol.Chem. , 279, 9615-9624, 2004; Nature Struct.Mol.Biol. , 11, 275283, 2004; Nature Struct.Mol.Biol. , 13, 331-338, 2006; Mol.Cell.Biol. , 28, 1171-1181, 2008, etc.)。同時進行的に、
ヌクレオソーム表面に対するクロマチン作用因子の作用制御、及びそれに付随するDNA-ヒストン間もしく
はヒストン-ヒストン間相互作用の変換制御といったようにクロマチン反応を二段階に分け、全ヒストン残
基の点変異体を作製し、包括的機能解析を行った(Genes Cells , 12, 13-33, 2007; Genes Cells ,14, 1271-1330,
2009; Genes Cells ,15, 553-594, 2010)。分子機構論を構築するにあたっては、あらゆる困難に遭遇しながら
も、TATAボックス結合因子TBPの構造解析(Nature , 360, 40-46, 1992)を行った際の初志、つまり機能解
析だけでは機構論の構築には至らないと考え、機能生物学者でありながら構造生物学を中心において研究を
進める方針を貫き、様々な構造解析を行い、機能生物学者としての新境地を切り開いた(J.Biol.Chem. , 279,
1546-1552, 2004; J.Biol.Chem. , 279, 9615-9624, 2004; Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. , 104, 4285-4290, 2007; Nature ,
446, 338-341, 2007; J.Mol.Biol. , 365, 1047-1062, 2007; J.Biol.Chem. , 282, 4193-4201, 2007; Structure , 15, 179-189,
2007; J. Mol. Biol. , 378, 987-1001, 2008; Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. , 107, 8153-8158, 2010)。
2.ヌクレオソーム構造を基盤とした転写活性化機構“Hi-MOST model”及び染色体機能領域・境界領
域の形成機構“Negotiable border model”の提唱
真核生物の遺伝子制御における最大の特徴は、ヌクレオソーム、クロマチン、そして染色体を介すること
であり、真正細菌の遺伝子制御研究で提唱されたDNAエレメントやDNA結合性転写調節因子のみで説明す
るオペロン説やσカスケードだけでは解明できない。本研究分野では、ヌクレオソーム、クロマチン及び染
色体レベルでの遺伝情報制御機構の解明に取り組み、ⅰ)DNA結合性転写調節因子依存に起こるヌクレオソー
ムの化学修飾から構造変換を通して転写活性化に至る機構、ⅱ)染色体を構成するユークロマチン、ヘテロ
クロマチンといった染色体機能領域及び両者の境界領域の形成機構、といったヌクレオソーム及び染色体レ
ベルでの最重要課題を説明することに成功した。これらの成果は、世界に先駆けて単離・解析した進化的高
保存因子ヒストンシャペロンCIA(Genes Cells , 5, 221-233, 2000)及びヒストンアセチル化酵素MYST-HAT
(J.Biol.Chem. , 272, 30595-30598, 1997)を中心に展開したものであり、各々“Hi-MOST model”
(Nature , 362,
179-181, 1993; Genes Cells, 5, 221-233, 2000; Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. , 99, 9334-9339, 2002; Nature , 446, 338341, 2007; Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. , 107, 8153-8158, 2010)及び“Negotiable border model”
(J.Biol.Chem. , 272,
30595-30598, 1997; Nature Genet. , 32, 370-377, 2002; Genes Cells , 9, 499-508, 2004)として提唱するに至った。
ヌクレオソームが形成されていない状態でのDNA結合性転写調節因子による転写活性化機構をTATAボック
ス結合因子TFIID複合体を中心として示し、転写制御研究領域でのブレークスルーとなった“Recruitment
model”
(Cell , 54, 665-669, 1988; Cell , 54, 1033-1042, 1988; Cell , 54, 1043-1051, 1988)と合わせ、真核生物にお
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ける遺伝情報制御研究領域での3つの大きな課題を全て解明する端緒となった。
3.ヒストンシャペロンCIAによるヌクレオソーム構造変換からの半保存的ヌクレオソーム複製及びエピジェ
ネティック情報継承モデルの提唱
真核生物の遺伝情報の継承を正確に行うには、ヌクレオソームレベルでの複製が正しく行われることが重
要となる。細胞維持を担うDNA複製はWatson&Crickによる二重らせんDNA構造モデル、Meselson&Stahl
の華麗な実験によって半保存的であると示された。DNAにヒストンが加わった場合、親鎖DNA上のヌク
レオソームは2本の娘鎖DNAにどのように分配されるだろうか?様々な生化学的実験及び三次構造解析か
らヒストンH3-H3間の相互作用が安定であることが示され、親鎖DNA上の(H3-H4)2 四量体はH3-H4二量
体に分割されずに娘鎖DNAに無作為に分配されるという分散的複製モデルが、30年もの間定説となってい
。ヒストン分配の鍵となるのはヌクレオソー
た(Epigenetics , Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2007)
ムの破壊・形成反応を担うヒストンシャペロンであると考え、本研究分野では、単離・解析を進めていた進
化上最も保存され、ヒストンH4と相互作用するヒストンH3のC末端領域に結合するヒストンシャペロンCIA
(Genes Cells , 5, 221-233, 2000)に注目し、(H3-H4)2四量体への作用を解析した。その結果、安定とされて
いた(H3-H4)2 四量体がH3-H4二量体に分割され、CIA-H3-H4三量体が形成されること、またX線結晶構
造解析により、CIAはヒストン化学修飾に影響を与えないコア領域内のヒストンH3-H3相互作用を遮断する
位置に結合することを示した。これらの結果から、
(H3-H4)2 四量体はCIAによって分割され、2本の娘鎖
DNAにH3-H4二量体が等量ずつ分配されるという半保存的ヌクレオソーム複製モデルを提出した(Nature ,
446, 338-341, 2007)。この着想は大きな謎に包まれていたヌクレオソーム機能を中心としたエピジェネティッ
ク情報継承機構の完成につながることを意味している(Cell.Mol.Life Sci. , 65, 414-444, 2008)。また、この成
果は、定説を覆すものであったためか、国内外で根拠なき反論もあったが、最近in vivoでも半保存的ヌクレ
オソーム複製の起こることが追証されつつある(Science , 328, 94-98, 2010, 及び投稿中)。
4.不定形構造を機能的基盤とした Modification web theory 及び Signal router theory の提唱、
及び化学修飾部位としてのハブ特定用 DESS strategy の提唱
ヒストン化学修飾による遺伝情報制御研究は、
「化学修飾は他因子による認識を介して更なる化学修飾や
次反応を導き下流反応を制御する」とした“Histone code hypothesis”を中心に展開した。一方で、ⅰ)修
飾部位としてのヒストンテイルを切除した出芽酵母が生存することとの矛盾、ⅱ)様々な蛋白質への化学修
飾を引き起こす修飾酵素の変異を通して修飾部位の機能解析が続けられてきたという問題などがあった。更
に、テイル残基の点変異のほぼ全てが増殖能に異常を生じないことも見出してきた(Genes Cells , 12, 13-33,
2007)
。システム全体を俯瞰せず、分子生物学における一般的な手法を用い、ヒストン化学修飾を1:1対
応の反応系として個別の解析に終始したことを“Histone code hypothesis”の内部矛盾の原因と考え、個々
の化学修飾間反応をシステムの一部として捉え直した。その結果、このシステムがスケールフリー性を有し
(
“Modification web”
)
、
その特性が化学修飾システムの頑強性の基盤であることを見出した。
この
“Modification
web”を構成する化学修飾の多くが、不定形構造であるテイル上に起こることから、不定形構造が情報の受
容、処理、伝達を担う情報処理装置“Signal router”を生み出すと考え、このシステムを構成する水溶性の
高い不定形構造がテイル領域での化学修飾間関係を形成、成長、進化させることにつながっていると提案
した(Genes Cells , 14, 789-806, 2009)。このようなネットワーク構造を司る構造的ハブ残基を特定するため
の新しい戦略(“DESS strategy”; Defect of Enzyme activity(by inhibitor), Substrate residue(by point
mutation), and System activity(by drug))を導入し、新たな機能的ハブ残基を見出すことにも成功を収め
つつある(Genes Cells , 15, 553-594, 2010)。全体を俯瞰する発想、グラフ理論と化学修飾研究の融合、及び
その構造的基盤の意義解明と、論文の根底に流れる論理には様々な独自性が組み込まれていることに加え、
真核生物タンパク質の約50%を占めると推定される不定形構造の生理的機能意義を理解する端緒となる生体
成分の特性に関して根元的な問いかけを行ったことが、概念性・発展性の大きい研究成果につながった。
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受賞者紹介
受賞者氏名:伊藤 幸裕(生体有機化学分野/博士課程3年)
賞 名:第8回次世代を担う有機化学シンポジウム 優秀発表賞
受 賞 日:2010年5月14日
受賞課題名:プロテインノックダウン法の開発 ∼低分子CRABP分解誘導剤の創製∼
伊藤 幸裕さん
受賞者氏名:高瀬比菜子(発生・再生研究分野/博士課程3年)
賞 名:第17回肝細胞研究会 優秀ポスター賞
受 賞 日:2010年6月19日
受賞課題名:FGFシグナルによるマウスオーバル細胞の制御
高瀬比菜子さん
受賞者氏名:依田真由子(RNA機能研究分野/博士課程2年)
賞 名:ロレアル−ユネスコ女性科学者日本奨励賞 生命科学分野
受 賞 日:2010年8月23日
受賞課題名:small RNA の作用メカニズム ∼ small RNA医薬品の実用化に向
けて∼
依田真由子さん
受賞者氏名:後藤由季子(情報伝達研究分野/教授)
賞 名:塚原仲晃賞
受 賞 日:2010年9月2日
受賞課題名:大脳新皮質神経幹細胞の運命を制御するメカニズムの解析
後藤由季子教授
受賞者氏名:延 珉榮(核内情報研究分野/学振特別研究員)
賞 名:American Society for Bone and Mineral Research(ASBMR)
Young Investigator Award
受 賞 日:2010年10月17日
受賞課題名:Jmjd5, JmjC-domain-containing protein, is an osteoclastogenic
repressor
延 珉榮さん
受賞者氏名:原田 隆平(計算分子機能研究分野/博士課程3年)
賞 名:分子シミュレーション討論会 学生優秀発表賞
受 賞 日:2010年11月25日
受賞課題名:マルチスケールシミュレーションで探る生体分子の自由エネルギー
地形
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原田 隆平さん
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転出のご挨拶
形態形成研究分野(現・神経生物学研究分野)
助教 八杉徹雄
2010年5月に大学院修士・博士課程、助教と、7年あまり在籍した分生研を退職し、オー
ストリアのInstitute of Molecular Biotechnology(IMBA)にポスドクとして移ってきました。
IMBAはウィーンの中心部から近いにもかかわらず、研究所の周りは落ち着いた雰囲気で気に
入っています。こちらでの生活にも慣れてきて、週末は美術館巡りやウィーンの森散策などを
楽しんでいます。
形態形成研究分野ではショウジョウバエ幼虫期における神経上皮細胞から神経幹細胞への分
化メカニズムに焦点をあてた研究を行いました。こちらでは神経幹細胞の非対称分裂と未分化
性維持機構に焦点を当てた研究を続けたいと考えています。分生研で学んだ研究を続けていく
姿勢、研究対象へのアプローチの仕方、研究成果の発表方法などをこちらでも活かしていきた
いと考えています。また、これからも多くの事を学び、いつか成長した姿をお見せできるよう、
研究に勤しんでいきたいと思います。
在籍中は、多羽田先生、形態形成研究分野のメンバーをはじめ、分生研の皆様には大変お世話になりました。この
場を借りて御礼申し上げます。末筆ながら、分生研の皆様の益々のご活躍を願っております。
細胞形成研究分野 助教 成田新一郎
6月末日に分生研を退職し、7月より京都大学ウイルス研究所の特定助教として秋山芳展教
授の研究室で細菌表層タンパク質の秩序維持機構に関する研究を行っております。
分生研では徳田元教授の研究室に1999年から2年間ポスドクとして、2003年からは助手・助
教として計9年間にわたり在籍しました。徳田先生の指導を賜り、細菌リポタンパク質の輸
送機構に関して世界をリードする研究に携われた事とともに、松山伸一先生、西山賢一先生は
じめスタッフの皆さん、優秀な学生の皆さんと一緒に研究に取り組むことができた経験は私に
とってかけがえのない財産となっております。
編集委員を勤めさせていただいた分生研ニュースでは「教授に聞く」欄の編集作業に苦闘し
つつも、第一線の研究者である分生研教授陣の多様性に触れられたことは役得でした。着任当
時はこれほど長い間分生研にお世話になるとは思いませんでしたが、今年3月には定年退職さ
れた徳田先生を見送り、
「4研」の区切りに立ち会うという貴重な体験をさせていただきました。転出に際しては秋
山所長ならびに分生研の先生方、橋本先生、小林先生はじめ生体有機研究分野の皆様、冨岡先生、事務部の皆様、前
4研で心循環器再生研究分野の石原さん、横田さんに特にお世話になりました。この場をお借りして厚く御礼を申し
上げます。
地元京都で東山を望んで鴨川河畔を自転車で大学に向かいながら、人は山に囲まれて暮らすと安心するという自説
を再認識しています。深く山気を吸い込み、インスピレーションを得て、味のある研究をしたいと思います。
先導的研究教育プログラム 講師 松本高広
2010年7月1日付けにて徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部動物資源研究部門に
准教授として赴任いたしました。分生研では核内情報研究分野・加藤茂明先生のもとで10年も
の間ご指導いただき、その間、40名を超える大所帯のラボで、スタッフ、ポスドクや学生はも
とより、臨床や製薬企業からの様々なバックグラウンドをもつ方々と研究を行う機会を与えて
もらいました。また、だいの大人達が学生を差しおいて、練習しともに戦ったソフトボールは
かけがえのない時間 でありました。
徳大では、昨年に10億円規模で改修を終えた動物実験施設の運営と研究室の立ち上げに奔走
中でありまして、 地方大学だからという言い訳は口にしない と堅く心に誓いながらも、研
究室のセットアップや予算、人集めの想像以上の大変さに目をうるうるさせながら、右往左往
している次第であります。ご不要の実験機器がございましたらご一報を心よりお待ちしており
ます。とは言いましても、これからどの様な研究テーマを展開させていこうか、希望と期待に胸膨らませ思案する時
間も独立して初めて実感できる喜びであります。そんな妄想にふけっていると、
「あのさー、もっと概念的な仕事を
しろよ」と加藤先生の声が聞こえたような気がして。あーいかん、いかん大分疲れてるし、空耳、空耳と言い聞かせ
ながらも、襟を正すのであります。次の10年が一体どの様な10年になるか判りませんが、人事を尽くす所存でおりま
すので、今後ともご指導ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。
末筆になりましたが、分生研のさらなる発展を祈念するとともに、皆様方のご活躍を心よりお祈り申し上げます。
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着任のご挨拶
先導的研究教育プログラム 助教 泉奈津子
2010年6月からRNA機能研究分野、泊研究室で助教をさせていただいております、泉奈津
子と申します。どうぞ宜しくお願い致します。
私は大学卒業後数年間、研究所などで技術補佐員として働いた後、横浜市立大学大学院医学
研究科に進学し、大野茂男先生、山下暁朗先生の御指導のもと、NMD(翻訳領域中に終止コ
ドンを生じた異常mRNAを認識し分解する機構)に関わるリン酸化酵素の研究で昨年末に学
位を取得いたしました。その後山下先生からの泊先生をご紹介いただき、幸運にも採用してい
ただき現在に至ります。
泊研は和気あいあいとした自由な雰囲気の中、タンパク質をコードしない小さなRNAがど
のようにして機能するのかについて、さまざまな観点から研究に取り組んでいます。学生さん
は皆優秀な方ばかりで、助教という立場ですが、私自身が勉強させていただくことが多々ある
毎日です。競争も厳しい分野ですが、研究においては広い視野をもつことを心がけ、焦らず自分の最善を尽くすよう
努力したいと思っております。
分生研の皆さまにはこれまでにもさまざまな面でお世話になっています。至らぬ点が多くご迷惑をおかけすること
があるかと思いますが、どうか今後とも宜しくご指導いただけますようお願い申し上げます。
先導的研究教育プログラム 助教 金井隆太
今年7月から先導的研究教育プログラムの助教として膜蛋白質解析研究分野(豊島近研究室)
に着任しました金井隆太と申します。着任して既に約5ヶ月が経ちますが、新しい課題である
イオンポンプを勉強しながら実験する毎日はとても充実しています。
私は学部生のころ、
免疫学の本質の1つである自己と非自己を認識するメカニズムとは何か、
逆にそのような認識メカニズムはどのような生命現象で見られるか、それらの進化的な起源は
どこにあるのか、ということに興味を持ち、研究の世界に進みました。
メカニズムの解明にはそれを担う分子の立体構造を知る必要がある、そう思って、大学院で
はX線結晶構造解析を学べる研究室に進みました。研究内容はα-アミラーゼに関連する酵素の
反応メカニズムの解明で自分の興味とは全く異なる課題でしたが、放任的な指導教官の下で自
分で実験を計画して実行し結果をまとめる作業は大変、面白かったし、今思えば、研究とは何
かを学ぶ上で良い時間だったと思っています。
それからアメリカに渡ることになり、本来の興味に当てはまるToll-like receptorの解析に取り組みました。留学自
体はとても貴重な充実した時間でしたが、約5年近くの滞在の間に数多くのToll-like receptorの構造が明らかになる
中で自分の研究はなかなかうまくいかず、研究者としての力不足を感じました。そこで、それを鍛えるために新しい
環境を求めて今回の着任に至りました。
イオンポンプの能動輸送メカニズムの本質的理解に取り組んでいる豊島近教授の研究には私にとって学ぶことがた
くさんあり、良く出来ているイオンポンプをゼロから知る喜びと同時に、ここで精進することで研究者としてより成
長していきたい思いでいっぱいです。まだまだ頼りない自分ですが、どうぞ宜しくお願い致します。
若手研究者自立促進プログラム 特任助教 古俣麻希子
この度、平成22年7月1日付けで若手研究者自立支援プログラムにて特任助教として採用し
ていただきました古俣麻希子と申します。大学時代の恩師に白髭先生を紹介していただき、修
士課程から白髭先生にお世話になっております。白髭研究室が、理化学研究所 横浜研究所→
東京工業大学→そして本学、分生研と研究室が移動する度に、私自身も移動してきました。学
生時代は一貫して出芽酵母の複製チェックポイント制御シグナルに興味をもち、研究を進めて
きました。チェックポイント因子のひとつであり、複製フォークの構成タンパクMrc1がDNA
傷害の種類を認識するメカニズムを発見し、今年2月に学位を取得しました。現在、姉妹染色
分体間接着確立と複製との分子的連携機構の詳細を明らかにすることを目的とし、研究に取り
組んでいます。優秀な研究者がたくさんいる分生研で研究できることは、幸せです。自分で満
足できる質の良い研究を、少しでも社会に還元できるよう、研究を進めて行ければと思います。
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ゲノム情報解析研究分野 助教 須谷尚史
本年8月1日付けで、ゲノム情報解析分野(白髭克彦教授)の助教に着任しました須谷尚史と申し
ます。これまでは東京工業大学において白髭教授のもと助教として研究を行っておりましたが、この
度分生研助教として採用していただき、分生研に移った白髭研究室にて引き続き研究を行う機会を与
えていただきました。よろしく御願い致します。
私の研究上の興味は染色体の高次構造です。具体的にはコンデンシン、コヒーシンと呼ばれる、染
色体を捻ったり束ねたりする役割をもつ2つの複合体に着目して研究をおこなっており、染色体構造
を介したゲノム維持、転写調節、細胞分化の制御機構を解き明かそうとしています。
私が研究者として手ほどきを受けたのは京都大学理学研究科、柳田充弘教授の下ででした。ここで
染色体が細胞周期とともにダイナミックに姿をかえる様に魅せられ、またコンデンシン、コヒーシン
という染色体ダイナミクスのキープレーヤーに巡り会いました。1999年に学位を取得した後は、生化
学的・構造生物学的な側面からコンデンシン・コヒーシンの研究を進めるべくハーバード大医学部
Stephen C. Harrison教授のもとにポスドクとして赴き、研鑽を積みました。そして2005年に、今度はゲノム学的な見地からの
研究を開始すべく白髭研究室に加わらせていただきました。
コンデンシン複合体がゲノム上のどこに局在し機能しているかは、様々な研究にもかかわらずまだよくわかっていない問題
です。白髭研究室の強みとするChIP-on-chip法、ChIP-seq法を活用しこの問題を解明しようというのが現在の研究テーマの一つ
です。これはなかなかの難題でしたが、近年の技術的ブレイクスルーにも助けられてようやくその局在が見えてきたのでない
かと現在考えているところです。
分生研に移ってきて感じたのは、ここで行われている研究の質の高さ、研究室間の交流がもたらすよい 刺激 、そして様々
なサポートの手厚さです。この恵まれた環境に感謝しつつ、それにふさわしいよい成果をあげられるよう精進したいと思って
います。ご指導ご鞭撻のほどよろしく御願い申し上げます。
ゲノム情報解析研究分野 助教 坂東優篤
本年8月1日付けで、エピゲノム疾患研究センターゲノム情報解析分野(白髭研究室)助教に着任
しました坂東優篤と申します。私の現在の研究テーマは、コヒーシン複合体の機能と制御機構の解明
です。東京工業大学 生命理工学研究科 白髭研究室に助教として所属し、約3年前に、染色体上で
働く因子の局在領域を網羅的に決定できるChIP-chip法を中心にした解析から、インシュレーター因
子CTCFとともに染色体の上で機能することを明らかにし、さらに引き続きこの研究を進めています。
この発見は、CTCFのそのとき知られていた機能から考えられることとして、コヒーシンは、酵母か
らヒトまで広く知られた機能である姉妹染色分体間接着以外に、染色体高次構造の形成に関わってい
ることを示しています。私は、コヒーシンの解析を通して、様々な機能をもつ個々の細胞が、どのよ
うな染色体の高次構造をもち、またそれがどのように制御されているかについてその一端を明らかに
できればと考えています。
白髭研究室が分生研に移って、半年あまり経ちましたが、他の研究室の方々の研究に対する積極的
な姿勢はもちろんですが、加えて研究以外の活動(新人歓迎会、ソフトボール)に対して活発に取組む姿勢には驚かされてし
まいました。分生研では幅広い分野で活躍されている方々の研究セミナーが多く開かれ、また他の研究室との研究交流などが
活発で、このような刺激的な研究環境で研究ができることをうれしく思います。これから、皆様に様々な場面でご指導、ご鞭
撻を頂くことがあると思いますが、どうぞよろしくお願い致します。
神経生物学研究分野 助教 廣井 誠
神経生物学研究分野の助教として9月に着任いたしました廣井誠と申します。分生研において研究
に参加させて頂く機会をいただけましたことに喜びを感じ、また同時に気が引き締まる思いでおりま
す。
私は2000年に九州大学を卒業後、2年間谷村禎一先生の指導のもと分子生物学、行動学の手法を学
んだ後、フランス郊外ベルサイユにある国立農学院(INA P-G)で昆虫の電気生理学を学ぶ機会を得
ました。博士号を取得後は2006年より米国カリフォルニア大学バークレー校において、Kristin Scott
博士の下、ポスト・ドクトラルフェローとして研究に携わってきました。これまで研究は味覚の受容
機構をテーマにやって参りました。大学院に入った当時はちょうどショウジョウバエ最初のゲノム解
読が終った頃で、数ある候補遺伝子の中から味覚受容体遺伝子を機能的に同定していき、異なる味物
質を受容する神経細胞がどのように中枢に伝達・処理され行動として出力されているかをボトムアッ
プ式に解析していくことを目標としてきました。一貫した研究内容の一方で、
その間の日本、
フランス、
米国での研究生活は実に変化に富むものでした。特にフランスから米国に移った時は、研究室のスタイルの違いから自転車レー
スから突然オートレースに転向したような気分だったことを覚えています。入ってくる情報量の違いに、戸惑う暇もなく日々
圧倒されていましたが、行く先々での優秀な同僚・先生方に刺激を受けこれまで研究を続けてくることができました。
この度幸運にも多羽田教授の下で助教として採用していただき、ショウジョウバエを用いた学習および記憶の分子機構につ
いての研究に取り組むことになりました。研究テーマが少し変わり不安な面もありますが、第一線の研究者が集まる分生研に
啓発され、これまで以上にモチベーションを維持して研究に邁進していけると期待しております。また私は体を動かすことと
仲間との共同作業が好きで、研究に限らず、様々な場面で皆様のご指導を賜る場面が出てくるかと思います。その時はどうか
よろしくおねがいいたします。
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留学生手記
RNA機能研究分野 博士課程2年 Pieter
In 1983, I was born in Winterswijk, a small
country-side town in the east of the Netherlands
just a few kilometers away from the border with
Germany. The town, with its ∼30,000 inhabitants,
enjoys the benefits of being in the periphery of the
country, with days passing by rather quietly as
if quenched by the surrounding natural scenery.
Looking back, I can say that the there was not
really much to do in the town itself(although I
am sure some locals will contest this), but perhaps
this is why I now feel fortunate to have grown up
there. The mix of rural landscape, tradition and
modernity has, for me and my two sisters(one
two years older, the other two years younger),
been a great environment for growing up.
During my late teens my interest were
broad and ranged from windsurfing to playing
computer games. When I started my B.Sc.
studies at Wageningen University(WAU)I was
taken away by the biology of life(pretty much
all specializations), and this radically changed
my interests and became the focal point of my
attention. Once I graduated from my B.Sc. in
2006, I decided to study for my M.Sc. at the
Nanjing Agricultural University(NJAU), a sister
university of WAU, in China. An odd choice in the
opinion of most people around me at the time, but I
thought it would be a great learning experience in
an academic and cultural sense. When I graduated
from NJAU, three years later, I was extremely
satisfied with the choice I had made and could
never have imagined the impact it would have on
me beforehand. I literally had no time to celebrate
my graduation though, as I had to quickly pack
and get ready to move to Tokyo.
In 2008, I had applied for a position in
Laboratory of RNA Function and was fortunate
enough to be considered, and in the summer
of that year I and was given the chance to
participate in the entrance exams. This resulted
in my arrival in front of the IMCB at the very end
of March, 2009 - with a suitcase that had broken
down on the way - just in time for hanami, ready
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Bas Kwak
to start my Ph.D. as a student of the University
of Tokyo. Now, 1.5 years into my Ph.D. research,
I feel privileged being here as I am surrounded
by extremely friendly colleagues, am engaged
in tremendously compelling research, have an
understanding supervisor always capable of finding
order in apparent chaos.
What I like about being in Japan/Tokyo is just
being here. I appreciate the people, society and
how well-ordered and clean everything is. When
I walk around my apartment in Kameari I find
myself surprised and enjoyed by the peace and
quietness that seems to so readily coexist with a
city of so many millions. In addition, I have never
heard of cases of car-radio thefts here, nor have
seen graffiti on many a piece of exposed concrete
(quite unlike in the Netherlands). The general
friendliness and politeness of people surprises
me still. A great example would be the civil
servants like those guiding traffic during road
construction, who greet and instruct me with
kindness and consideration even at midnight. The
above highlights just several facets of all that I
appreciate so much and that have made my stay
here an immensely positive experience. Besides
sightseeing in and around Tokyo I have not yet
taken the time to travel through much of the
rest of the country. Most of the holidays I take
go up on obligatory visits to my girlfriend and
parents, regrettably leaving little time for domestic
travelling. Nevertheless I have had some great
leisure experiences, and it will be hard to forget
windsurfing on the ocean near Kamakura with
the sun setting next to Mt. Fuji in the distance. I
cannot think of anything that I specifically miss
from the Netherlands, besides the people that are
dear to me, but perhaps I have been away too
long?
I would like to thank the University of Tokyo,
IMCB and my supervisor Tomari-san for having
me and my colleagues for putting up with my
incessant questioning and their friendliness and
kindness, making every day enjoyable.
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ドクターへの道
包 明久(RNA機能研究分野 博士課程2年)
「なぜ研究者になりたいと思ったのですか?」と
い、)ということにようやく気付いたのだ。そんな
聞かれることがある。大体「高校の生物の授業で感
折りに冒頭の授業と出会った。根が単純な私は、生
動したので」と答えることにしている。DNAの複
物の体って面白いじゃん、よーし研究者になっちゃ
製や 転写・翻訳のメカニズムを習ったときの「こ
うぞ、と至極単純に考えた。研究者になるには大学
んな精密機械のような仕組みが、自分の体の中、細
院に行かねばなるまい、と、このとき既に博士課程
胞一つ一つに入っているのか!」という感動は、間
まで進むことまであっさり決心していた。博士の置
違いなく私が生物学を志した直接的な切欠だった。
かれる厳しい状況は薄々知っていたが、根が脳天気
また、
生物の先生がいかにも分子生物学大好きです、
でもあるので何とかなるだろうと適当に考えてい
という感じで、とても楽しそうに話されていたこと
た。その後今に至るまで就活というものをしたこと
も大きな要因だった。しかしそもそも、そういうミ
はない。
クロの世界の仕組みに感動できる、という素地は、
しかし結果的に、博士課程進学に際して大きな転
幼い頃から両親の影響によって作られてきたものだ
機が二つあった。一つは、泊研究室に来たことであ
と思う。
る。学部4年生から修士課程に進むときも研究室を
あまり両親の過去や仕事について根掘り葉掘り聞
変えているので、短いスパンで研究室を移っていく
いたことはないし、向こうも積極的に話さなかった
ことに不安は感じていたが、今から考えれば正解
ので詳しくは知らないが、二人は某化粧品会社の研
だった。泊研究室での研究生活はとても充実してい
究所で同僚だったのだと聞いた。父は(おそらく母
て、毎日が楽しい。研究テーマにも環境にも大変満
も)有機合成をやっていたという。私はそんな両親
足している。周りが優秀すぎて時々物凄く不安に駆
が時々「フグの毒って何だったかしら?」「テトロ
られるのが、悩みと言えば悩みではある。
ドトキシンだろ」なんて会話をするのを聞きながら
もう一つは、博士課程進学と同時に結婚したこと
育ったのだ。(実話である。)そんなわけで、小学校
である。それまでは「研究が続けられれば一生六畳
を卒業する頃には「全ての物質は分子というものか
一間でもいいや」などと脳天気に考えていたのだが、
らできていて、その分子は原子という小さな玉がつ
そうもいかなくなってしまった。妻は働いているの
ながったものらしい。」とか、「電子レンジは水の分
で、無収入の私はヒモ状態である。きちんと恩返し
子を振動させて暖めているらしい。アンマンの餡が
ができるように、少しは真面目にやろうかな、など
やたら熱くなるのはそのためである」とか「リンゴ
と考えるところである。
が赤く見えるのは、沢山ある色の光のうち赤だけ反
最後に、こんな私を支えてくれる研究室の皆様、
射しているからだ」などということを知っていた。
家族、こんな文章を最後まで読んでいただいたあな
目に見えるこの世界は、目に見えない小さな世界で
たに感謝したい。本当にありがとうございました。
成り立っているのか、すげぇ、なんて思っていた。
これからもよろしくお願いします。
(と思う。)
そんな私だが、最初は医者になりたいと思ってい
た。理由は簡単である。私が小学4年生のとき、日
本人初の女性宇宙飛行士として向井千秋さんが宇宙
へ飛び立った。彼女の職業はお医者さんだ、と聞い
て、
「医者で宇宙飛行士なんてかっこいいー!」と
憧れたのだ。我ながら単純である。この単純な動機
による夢は幾つか後付けの理由を加えられて高校ま
で続き、そこであっさり捨てられた。医学部は高く
て経済的にやや苦しい、私はそもそも「痛い」映像
や話が苦手である、グロテスク系もできれば遠慮し
たい、(そして私には医学部に行けるほどの頭はな
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研究室名物行事
染色体動態研究分野 石黒啓一郎
意外とイベントの多い渡邊研
渡邊研の研究室行事というと、夏の新歓旅行と冬
のスキー・スノボー旅行があります。それ以外に春
のお花見、バトミントン、ソフトボール、テニス、
カラオケ大会、ボーリング大会、定例の飲み会をい
れると月平均2回くらいは何かの企画あります。意
外とラボぐるみのレクリエーション的イベントが多
いです。もちろん渡邊先生も積極的に参加してます。
これは、研究は普段から人と人とのコミュニケー
ションから支えられるという渡邊先生の熱い持論に
よるところが大きいのかもしれません。
軽井沢旅行
今回は、塚原君&新人さん歓送迎会の意を込めて、
7月29-30日の1泊2日で軽井沢に旅行に行ってき
ました。行きの新幹線で皆は座席に座って弁当買い
出し組のM2の3人を待っていました。その3人何
を勘違いしたのか、改札で突っ立って待機していた
とのこと。おかげで発車ベルがプルプル鳴る中、猛
ダッシュで駅構内を駆け抜け、出発寸前にハァハァ
息を切らせて乗り込む羽目に。さすが幹事の浅岡君
(M2)、機転を利かしラグビー部体型の厚い胸板を
生かしてドアに挟まれれば列車の発車を遅らせて、
他の出遅れた2人を乗り込ませることができると
思ったようです。本当に堅い友情で結ばれた新人同
期、将来の研究室の一翼を担うに相応しい人材だと
感心しました。
初日はあいにくの雨天でしたが、さすが渡邊研こ
んな天候でも目的のものは外さないという強い意志
の中テニスを強行。文武両道の渡邊先生、容赦なく
攻めてラケットにくい込むボールの
勢いは諸橋さん(女性ポスドク)の
右手のひらに豆ができるほどでした。
いうものでした。これは渡邊先生がPaul Nurseのラ
ボにいたときのラボリトリートで毎年恒例になって
いた企画だそうで、大変お気に入りだったので渡邊
研にも導入しようという意図だったのです。ここに
至るまでの自らの生い立ち、過去の出来事、将来の
夢、ラボのあり方や方向性への提言など、何でもい
いから、即興で語れというのです。
さて急に言われても何やそれ!、しかも宴会でも
ない真っ昼間の企画にしては、かなり照れ臭いもの
です。なんとなく互いに目配せをしながら口火を切
る者もなく膠着状態が続くと、渡邊先生自らが語り
始めました。
ちょっと意外だったのは、理学部生化の学生だっ
た頃、周りの秀才をよそ目にいつも自分が劣等感を
感じていたこと、D3のときに学振がはずれたら就
職しかないと考えていたとのこと。などなど。。。。
研究者としての成功の陰に隠れた人間臭さを感じた
のでした。
その他、自らの武勇伝を展開する者、屈折した過
去の生い立ちを語る者、夢を語る者などいろいろ話
がでてきました。 ラボのあり方や方向性への提言
について切り込む者が少なかった点は、今後のラボ
としての課題であろうと思います。ところが、そん
な中で秘書の大段さんだけが、我々の心を打つ提言
をされたのです。曰く、皆さんもっと夏休みを取っ
た方がええんとちゃいますぅ?と。実に渡邊研のセ
ミナースケジュールは、世の中夏休みモード全開の
8月といえども、渡邊先生の出張期間の1週だけを
除いて、論文紹介、仕事紹介のセミナーはほぼ通常
通りあるのです。実際、研究から一歩引いた立場の
己を語らう緊急企画
降りしきる雨、せっかくここまで
きて何もせずに時間を持て余すわけ
にいきません。
渡邊先生の提案で急遽、宴会場を
借りて「己を語らう緊急企画」にな
りました。この場では、
「自分がな
ぜ渡邊研にいると思うか?」を議題
に1人5分ほどのプレゼンをすると
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プロセスシアンプロセスマゼンタ
プロセスシアン
プロセスマゼンタプロセスイエロー
プロセスイエロープロセスブラック
プロセスブラック
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視点からすると、院生からポスドク、教員まで研究
する者はおよそ夏目漱石の小説にでてくる野々宮君
のような変人に映っているのかもしれません。正直
皆の心の奥底では、本当に思っているところを普通
のセンスで代弁してくれたのではないかと感動して
いた模様です。
トランプ大貧民罰ゲーム企画
夜はバーベキューと花火企画で盛り上がりまし
た。さて、渡邊研では夜のトランプ大貧民企画が恒
例です。たかがトランプごときに、みんな真剣で熱
くなってました。それもそのはずで、最後にビリに
なった人には分生研ニュース投稿の義務が科せられ
るのでした。それにしても、プログレスレポートと
論文紹介のラボセミナーの順番が頻繁に回ってくる
渡邊研で、こんな余計な仕事が回ってくるのは正直
言って面倒くさいのです。
ルールは3チームに分かれた予選で、各チームか
ら大貧民・貧民・2人を選出し、最終ビリ決定戦で
真の大貧民を争うという間抜けな企画です。何故か
初めてのド素人のはずの韓国からの留学生でわしの
愛弟子のキムさん(D1)が大勝ちして、細かいルー
ルを指示していかにもえらそうだった進くん(M2)
とわしとが最下位を争うことになりました。わしは
屈辱的にも、大富豪のキムさんに貢ぎ続ける大貧民
の役に徹することになっていたのです。最終ビリ決
定戦のカードの配分を見てわしは嫌な予感が過ぎり
ました。そういえば2006年5月号の分生研ニュース
の原稿もこの罰ゲームで書くはめになったのでし
た。結果はそんなこんなで、今わしが研究室行事の
報告を書いてます。
緊張の就寝
この旅行でわしには、とても不安なことが一つあ
りました。実はわしはいびきをかいて寝る習性があ
るのです。かねてよりラボ旅行では皆から指摘され
て肩身の狭い思いをしています。家庭では夫婦げん
かにまで発展したこともあります。今回は恐れ多くも
渡邊先生と同室だったので、この不安はさらに増長
されました。体は十分疲れてるんだけど、教授の安
眠を妨害することを思うと不安で不安で一睡もでき
ないんではないかと心配でした。ところが酒を飲ん
だらそんな不安は吹っ飛んで、熟睡できました。案
の定、翌朝は教授からいびきがうるさくて眠れなかっ
たと笑って言われました。
(ほっと。
)以前にも同じこ
とがあったようですが、わしは覚えていません。
野鳥の森散策
2日目は浅間山ふもと鬼押し出し園のごつごつ溶
岩の景色や、野鳥の森なる深く木の生い茂った自然
を散策しました。さて本題の野鳥の森なのですが、
渡邊先生、岐阜で育った幼少の頃の記憶が再燃した
のか、何故か本来の趣旨からずれてクワガタ探しの
ほうに気がいってそわそわしてる様子。そこに新種
甲虫発見歴まで持つ虫にはかなりうるさい澁谷君
(M2)も加わり、なんだか2人でクワガタ探しに
熱中の模様。オオクワ発掘のセオリーをディスカッ
ションするその様子は、目標にひたむきに、まっし
ぐらに向かう研究姿勢を彷彿させるものがありまし
た。最後は温泉につかっていい湯でした。
ラボ旅行総括
このたった2日の短い時間だけでも随分いろいろ
な事ができるんだなと、なんだか濃厚な充実した気
分を味わいました。同じ2日という時間をラボの実
験で過ごしている時は、たったこれだけのことしか
進んでいないとふと空しく思うこともあるもので
す。でも逆に言い換えると、日々我々が1日、2日
とこつこつ仕事をこなしていくことは実感では小さ
くても、研究の進展へとつながる濃厚な重みがある
のではないかと思い知らされるのでした。
― 国際会議に出席してみて ―
核内情報研究分野 助教 藤木亮次
会議名称:2010 キーストンシンポジウム:核内受容体
(Keystone symposia: Nuclear receptors:
signaling, gene regulation and cancer)
開催期間:2010年3月21日∼3月26日
この度は財団法人応用微生物学研究奨励会からの
ご支援(国際学会出席費補助金)をいただき、上記
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プロセスシアンプロセスマゼンタ
プロセスシアン
プロセスマゼンタプロセスイエロー
プロセスイエロープロセスブラック
プロセスブラック
の学会に参加することができましたので、ご報告い
たします。
本学会の開催地となったキーストンはロッキー山
脈にある米国でも屈指のスキーリゾートです。この
スキー場は、その優れた景観と雪質から全米のみな
らず、世界中のセレブやスキーヤーが憧れる場所で
もあります。私も胸を弾ませて当日を迎えましたが、
現地に着いて愕然…。実はこのキーストンリゾート、
リフト乗り場の標高が2,829メートル。山頂の標高
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13
は富士山とほぼ同じ、3,782メートルもあります。
何をしなくても息が切れます。しかし、写真を載せ
ましたが、標高差953メートル、1,274ヘクタール(東
京ドーム277個分)もの広大な敷地を滑るのは爽快
で、会期中の昼休みに少しだけ贅沢なひとときを満
喫しました。
さて、キーストンシンポジウムは世界で最も大き
い学会のひとつで、それぞれのミーティングごとに
話題が分かれています。今回参加した核内受容体の
ミーティングは、転写の分野ではクロマチンのミー
ティングとあわせ、世界中から研究者が集まります。
その様子は、さながら核内受容体の「知」の祭典で
オーラルだけでも100近い最先端の研究が発表され
ます。特に、最新の次世代シーケンサーを使った核
内受容体群の標的遺伝子の探索には、基礎科学者は
応用生命化学専攻土壌圏科学研究室
特任助教 石井 聡
会議名称:第110回 アメリカ 微 生 物 学 会 大 会(the
110th American Society for Microbiology
General Meeting)
開催期間:2010年5月23日∼5月27日
第110回 ア メ リ カ 微 生 物 学 会 大 会 は、 平 成22
年 5 月23日 ∼ 27日 の 日 程 で ア メ リ カ 合 衆 国San
Diego Convention Center(写 真 1) に て 開 催 さ れ
た。 ア メ リ カ 微 生 物 学 会(American Society for
Microbiology、以下ASM)は規模が大きく、今回
の第110回大会でも3,000を越えるポスター発表、
200以上の口頭発表があった。内容も医学系から農
学・工学系までさまざまな分野をカバーしている。
日本の微生物学の分野は、主に医学系と農学系で分
かれており、前者は細菌学会、後者は農芸化学会が
中心となっている。さらに専門分野によって、微生
物生態学会、土壌微生物学会、生物工学会、ゲノム
微生物学会等に細分化されている。私の専門分野は、
微生物生態学および土壌微生物学であるが、他の微
生物学の分野から学ぶことは多いので、ASMのよ
うな大規模の学会に参加することは意義深い。また、
最近は学際的研究が盛んに行われており、工学分野、
特にナノテクノロジーの微生物学への応用が進展
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もちろんのこと、製薬に携わる企業の研究者たちか
らも熱い注目を集めているようでした。これらの研
究からわかったこととして、核内受容体の標的配列
周辺には特徴的な転写因子が必ず存在し、その組合
せが性ステロイドホルモン受容体などのホルモン応
答性を決めているといった内容があげられます。こ
のような核内受容体を含めた転写因子間のクロス
トークは、どうやら染色体レベルでのクロマチン状
態と関係しているようでした。すなわち、核内受容
体が活性化するとクロマチン構造を局所的に動か
し、さらにはその他転写因子との結合を介して染色
体レベルでの構造が変化するといったモデルが提唱
されていました。中には、活性化した核内受容体が
染色体の構造をダイナミックに調節し、その結果、
ガンなどでよく見られる染色体転座の原因となって
いるといった驚愕な発表も見られました。今後はま
すます目が離せなくなってくる、何かブレークス
ルーが起きそうな、朝から晩までそんな熱い雰囲気
を感じさせる6日間でした。
以上のような貴重な勉強の機会と最先端の研究に
触れる感動を与えてくださった応用微生物学研究奨
励会の方々に、深く感謝申し上げます。
著 し い。ASMのOpening Symposiumで はStanford
UniversityのStephan Quake教授によるマイクロ流
体工学(Microfluidics)を用いた微生物研究の発表
が行われた。Quake教授はマイクロ流体工学の第
一人者で、最近ではSingle cell分離デバイスや、第
三世代シーケンサーとも呼ばれるSingle molecule
sequencing技術(Helicos Sequencing)を開発して
いる。
私はSingle cell isolationと呼ばれる、微生物を一
細胞ずつ単離する手法に興味を持って取り組んでお
り、ASMでもこの内容についてポスター発表した
(写真2)。土壌微生物の多くはいままで培養され
たことのない、いわゆる難培養微生物であると考
えられている。Single cellを分離してから培養する
写真1:San Diego Convention Center
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写真2:学会でのポスター発表
方法では、基質の競合がおこらないためいままで
培養が難しかった微生物につても単離培養できる
ようになる可能性がある。上述のASMのOpening
Symposiumでも取り上げられたように、Single cell
microbiologyは現在最もホットなトピックのうちの
ひとつである。
今回は学会後に一日余分な日を設けて、San Diego
郊外La JollaにあるJ. Craig Venter InstituteのRoger
情報伝達研究分野 博士課程3年 岡崎朋彦
会議名称:Keystone Symposium Innate Immunity:
Mechanisms Linking with Adaptive
Immunity
開催期間:2010年6月7日∼6月12日
ダブリン市の中心にあるトリニティカレッジで開
催された今回の学会は、参加者が500人程度の中規
模の学会でしたが、自然免疫の分野の最先端で活躍
する研究者をスピーカーに大勢迎えた、非常にレベ
ルの高いものでした。開催期間を通じて参加者が一
つの会場にいる為、こちらが一方的に知っていた憧
れの研究者にディスカッションをしかけたり、ポス
ターセッションで知り合った人と仲良くなったり、
といったことがやりやすかったのも魅力の一つだっ
たと思います。また、最先端の内容をまとめて聞く
ということで、これから数年間に渡る自然免疫研究
の潮流を肌で感じることが出来たのも大きな収穫で
す。これは、日本にいて実験に忙殺されている毎日
においては、つい忘れがちであると感じました。も
ちろん短時間ではありますが、学会の空き時間には、
機会がなければ滅多に足を運ぶことの無い、ダブリ
ン観光にも行って来ました。ダブリンはパブと音楽
の街として有名で、実際街の至る所でギネスの看板
を掲げるパブや、ストリートミュージシャン達を見
かけました。学会が終わった帰り道、ケルト音楽を
ベースにした美しいバンド演奏に思わず足を止め、
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Lasken博士のラボを訪ねた。彼はDNA polymerase
の研究者で、Phi 29 DNA polymeraseを利用した全
ゲノム増幅(whole genome amplification)の開発
者である。この技術を応用して、Single cellから培
養を経ることなくゲノムDNAを得ることが可能に
なった。Single cellからゲノムを増幅し、全ゲノムの
塩基配列を解読すること(Single cell genomics)も
いくつか報告例があるが、技術的にはまだいくつか
解決すべき課題がある。我々もSingle cell isolation
の技術を利用してSingle cell genomicsに取り組んで
みようと考えているので、Roger Laskenのラボを見
学したことは、今後の研究にも大きく役立つことが
期待される。
今回、財団法人応用微生物学研究奨励会から補助
を受けてASM大会に参加し、研究成果を発表するこ
とができた。また、新たな知識を吸収し、Single cell
genomicsの最先端を直に見ることができ、大変有意
義であった。この場を借りてお礼申し上げるととも
に、今回の経験を今後の研究に生かしていきたい。
その日の学会を振り返っていると、ふと思いついた
ことがあります。研究もバンドと同じであると。学
会では、競争相手同士がまるで旧知の仲であるかの
ように気さくに話をし、お互いの研究を尊重しあい、
意見を交換する場面を何度も目にしました。それは、
互いの領域に踏み込まないようにするという消極的
なスタイルではなく、互いに補い合い、協力してひ
とつの目標を目指すという美しいスタイルです。ダ
ブリンの街角で、このような考えに至った経験は本
当に得難い(once)ものであったと思います。
最後になりましたが、応用微生物学研究奨励会並
びに関係者の方々の多大なご援助のおかげで、この
ような素晴らしい経験を積む事が出来ました。深く
感謝致します。
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応用生命工学専攻細胞遺伝学研究室
博士課程2年 小林 哲
会議名称:2010 Yeast Genetics and Molecular
Biology Meeting
開催期間:2010年7月27日∼8月1日
本会議は酵母の遺伝学および分子生物学をテーマ
とした会議であり、世界中から数多くの著名な研究
者が参加していた。会議は朝9時から始まり、途中
にシンポジウムなどを挟んで、夜8時から11時まで
はポスターセッションが開かれた。食事の時間以外
は、まとまった休憩時間がなく、かなりタイトなス
ケジュールであったが、その分、興味深い情報をか
なり得ることができた。
主催がアメリカ遺伝学会だけあって、口頭発表、
ポスターともに網羅的な遺伝学的解析に関する発表
が多く、これらの技術が現在の酵母研究の主流に
なっていることを実感するとともに、得られた膨大
な情報に対して詳細な解析が追い付いていないとい
う印象を受けた。また、3人のノーベル賞受賞者に
よる講演やシンポジウムが開かれた他、科学がどの
ように社会に関わっていくのかについての特別シン
ポジウムもあり、活発な議論が交わされていた。特
に、研究成果をどう世間にアピール、または還元す
応用生命工学専攻細胞機能工学研究室
博士課程1年 尾崎太郎
会議名称:第60回 工 業 微 生 物 学 会 年 会(SIM
Annual Meeting and Exhibition)
開催期間:2010年8月1日∼8月5日
Hyatt Regency San Franciscoで 開 催 さ れ た 第
60回工業微生物学会年会に発表者として参加し、
「Catalytic promiscuous indole prenyltransferase
from Streptomyces coelicolor A3(2)」というタイ
トルのポスターを展示した。本発表では、放線菌
Streptomyces coelicolor A3(2)よりクローニング
したプレニル基転移酵素遺伝子の組換えタンパク質
情報伝達研究分野 博士課程2年 鈴木菜央
会議名称:Gordon research conference, neural
development
開催期間:2010年8月15日∼8月20日
2010年8月15日より6日間、ニューポートで開催
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るかについて議論
がなされ、北米で
も日本と同様の問
題があるのかと驚
かされた。さらに、
宗教が理科教育に
おいて障害となっ
ている現状も垣間
見えた。
ポ ス タ ー セ ッ
ションは、日本の
学会と同様にポス
ターの前で質問を
受け付ける形であった。今回の発表ではマイナーな
酵母を扱っていることもあり、人が来るのか心配で
はあったが、10人程の人と議論することができた。
中にはこの酵母で全く同じ遺伝子を解析しているグ
ループの人もいて、危機感を抱かされたが、的確な
指摘を受けるとともに、様々な情報を提供していた
だいた。また、同じ酵母を使用している企業の研究
者の方とも話すことができ、特に技術的な面で有益
な情報が得られた。
最後に、国際会議に出席するという貴重な機会に
おいて支援して下さった財団法人応用微生物学研究
奨励会の関係者の方々に深く感謝いたします。
の機能解析について発表した。ポスターセッション
2においては、他の参加者に対して本ポスターの内
容について口頭で説明をすると同時に、研究を進め
る上で有用な指摘・示唆を受けた。
また、他のポスターおよび口頭発表に参加し、情
報の収集に努めた。特に、セッション16 Natural
products‒Prenylation reactions in secondary
metabolism(天然物分野 二次代謝におけるプレニ
ル化反応)では、自身も対象とするプレニル基転移
酵素に関する最新の報告を聴講し、情報収集を行っ
た。
この他に、Banquetなどでは参加者とより密なコ
ミュニケーションをとり、議論を交換することがで
きた。
されたゴードン会議“neural development”に参加
しました。ニューポートはボストンから車で3時間
ほどの小さな港町です。本会議は2年に一度開催さ
れ、毎回、神経発生時における様々なイベントをテー
マに第一線で活躍している研究者がトークをしてく
れます。参加者数が200人未満と少ないことも特徴
です。さらに全員が会場となる大学のドームに宿泊
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するため、参加者同士はいつでもディスカッション
できる環境にあります。
本会議では、午前と夜にトークがあり、夕方がポ
スター発表の時間です。トークでは、トップジャー
ナルを飾る研究者たちによる面白い話を日々聞くこ
とができました。必ずunpublished dataを入れなけ
ればならない、という会議の方針もあり、最先端の
研究を肌で感じることができました。さらに、それ
らのトークに対する、参加者たちからの質疑もとて
も厳しいものが多く、刺激的な毎日でした。
ポスター会場においても、参加者たちのactivity
は非常に高く、活発な議論がなされていました。一
番驚いたことは、大御所研究者たちがポスター会場
を見て回っていて、学生やポスドクたちとディス
カッションしていることでした。
このポスター会場で私は、マウス大脳新皮質発生
において神経系前駆細胞の時期依存的な分化運命決
定にポリコームタンパク質群が重要な役割を果たし
ていることを発表しました。ポスターを聴きにきて
くれた人の中には、今まで読んでいた論文の著者た
ちもいました。とても緊張しましたが、拙い英語で
説明した後、
「good job!」と握手されたことがよ
い思い出です。これから論文にまとめるにあたり、
多くの人と非常に有意義な議論をかわすことができ
ました。
ただ、もう少
し英語を思うよ
うに話すことが
で き た な ら、
もっと会議全体
を楽しめたと思
い ま す。 朝、
昼、夜の食事の
ときの歓談には
ほとんどついて
いけませんでし
た。ルームメイ
トだったトルコ
人ポスドクとも、いまいち会話が盛り上がりません
でした。英語にまつわる話では、ポスターで「It is
largely unclear.」が全く通じなかったことも非常に
苦い思い出です。日本に帰ってからの英語学習のモ
チベーションが上がりました。
最後になりましたが、このような有意義な経験を
積む機会を与えてくださった応用微生物学研究奨励
会と関係者の皆様に心より深く感謝致します。今回
の貴重な経験を、今後の研究に生かして行きたいと
思います。
発生・再生研究分野 博士課程3年 高瀬比菜子
常に勉強になりました。質疑応答は特に活発に行わ
れましたが、私の英語力ではそのスピードと情報量
に理解が及ばないことが多く、英語の必要性を痛感
しました。この学会で特に印象的だったのは女性の
活躍で、PIも学生も高いレベルでのサイエンスを目
指しており、自信を持って発表や質問をする姿に刺
激を受けました。
自分のポスター発表では、幸いにもたくさんの研
究者が拙い英語に耳を傾けてくれ、3時間という発
表時間があっという間に感じられました。この分野
会議名称:2 0 1 0 F A S E B S u m m e r R e s e a r c h
Conferences
開催期間:2010年8月15日∼8月20日
ア メ リ カ の コ ロ ラ ド 州 ス ノ ー マ ス で 開 催 さ れ
た 2010 FASEB Summer Research Conferences
“Liver Growth, Injury & Metabolism/Basic &
Applied Biology”に参加して参りました。スノー
マスはスキーリゾートということで高山に位置し、
美しい星空が印象的な土地でした。
学会は200人弱の参加者が一つの会場で発表を聞
く形式で、肝臓の分野における理学的なアプローチ
が発表の中心でした。肝線維化や肝癌を含む病態、
あるいは肝再生時のメカニズムに関する話題が多
く、マウスを用いた遺伝学的手法を駆使して解析を
進めているラボが目立ちました。私が現在興味を
持って研究している成体肝幹/前駆細胞(オーバル
細胞)に関しても多くの発表がなされ、肝臓研究分
野の中でもホットな話題であることを認識しまし
た。口頭セッションは大半が招聘によるものだった
ので、発表者のほとんどはPIであり、どの発表もそ
れぞれのラボを代表する最新かつ興味深い内容で非
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で最先端をいく研究者とも直接議論をすることがで
き、
充実した時間を過ごすことが出来たと思います。
ポスター発表での質問や指摘が今後の研究に有意義
であったことはもちろん、私のデータを面白いと評
価してくれる人も多数おり、自分の研究に対する自
信も得られる貴重な経験になりました。
参加者が1日3回の食事を同じ会場でとる形式
だったことや、ルームメイトがカンザス大学の大学
院生だったことは、英語でコミュニケーションをと
るよい機会になりました。また、海外で活躍してい
る日本人研究者のお話も聞くことができ、改めて留
学したいという思いを強くしました。海外で開催さ
れた学会に参加するのは初めてでしたが、この経験
をモチベーションへと繋げて今後も研究に邁進した
いと思います。
最後になりましたが、このような貴重な機会を与
えてくださった財団法人応用微生物学研究奨励会な
らびに関係者の皆様に心からお礼申し上げます。
応用生命化学専攻生物有機化学研究室
博士課程2年 永井千晶
マであるCHH受容体に関しても活発な議論をする
ことができ、鋭い意見に身が引き締まる思いがしま
した。一方、発表以外の場でも甲殻類内分泌学分野
の研究者に自ら英語で質問したり、同世代の研究者
に自ら話しかけ雑談したりすることができ、自身の
成長を感じることができました。これらの経験は、
今後の研究を行う上で非常に有意義であると感じて
います。
開催地であるペーチは2010年の欧州文化首都に指
定されていることから、街の中心部は非常に整備さ
れており、景観の美しさと共に、ゴミが一つもない
ことに感動しました。半日ほどの自由時間で世界遺
産などを観光し、また、大会プログラム内のエクス
カーションを通し、僅かながらもハンガリーの文化・
歴史に触れることができました。ハンガリー出身の
研究者との交流の際、相手の日本の知識が非常に豊
富であり、自身のハンガリーについての知識の不十
分さを申し訳なく思いました。次回参加する機会が
あれば開催地の文化・歴史についてもある程度の下
調べはするべきだと感じました。
最後になりましたが、本大会への参加費用の補助
をしてくださいました応用微生物学研究奨励会に深
く感謝致します。
会議名称:The 25th Conference of the European
Comparative Endocrinologists
(CECE2010)
開催期間:2010年8月31日∼9月4日
私は、2010年8月31日から9月4日にハンガリー
の ペ ー チ に て 開 催 さ れ た“The 25th Conference
of the European Comparative Endocrinologists
(CECE2010)”に参加、発表させて頂きました。
CECEは比較内分泌学分野のヨーロッパでの最大の
学術会議であり、1962年にロンドンで第1回が開催
されて以来、2年に1回開催されています。私の研
究テーマである甲殻類の内分泌学がヨーロッパで盛
んに研究されていることから、本大会に参加するこ
とと致しました。
本大会では、Plenary lectures 5題、State of the
Art 17題、および、10の小分野に分類されたOral
presentation 78題、Poster presentation 47題の演題
発表が行われました。発表内容については、脊椎動
物から無脊椎動物と幅広い生物種を対象としていま
したが、本大会では比較的昆虫関連の発表が多く見
られ、また、多くが基礎研究でありました。開催地
のアクセスの問題からか、参加者は150名程度と前
回の半分以下でありましたが、興味深い演題が多く、
また、参加者が少ない分、初対面の異分野の方とも
お話しさせて頂く機会も多く得られました。
本大会では、私は「クルマエビにおける糖代謝関
連酵素に対する甲殻類血糖上昇ホルモン(CHH)
の影響」という演題でポスター発表を行いました。
私にとって本大会での発表は、前大会(CECE2008)
に続き2回目の国際会議での発表でありました。前
回は最初の国際会議参加ということで、慣れない英
語発表に気後れし、思った通りの発表には至らな
かったのですが、本大会では、その経験を活かして
余裕をもった発表をすることができ、多くの貴重な
ご質問・ご意見を頂きました。また、現在の主要テー
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右から2番目、筆者
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オープンキャンパス2010
心循環器再生研究分野 竹内 純
本郷オープンキャンパスにおける「高校生のた
担当となった竹内から心臓細胞の運命プログラムと
めの東京大学オープンキャンパス2010」が8月4
運命再構成について解説を行ないました。心疾患も
日(水)に開催されました。毎年、分子細胞生物学
後天性発症率が高く、今後エピジェネティック因子
研究所では分かり易くホットな研究分野を紹介する
に着目した研究によって発症原因だけでなく、心不
「高校生の為の生命科学シンポジウム」をテーマと
全予防や回復につなげることが可能となる将来の研
して行なってきました。その中で今年は「次世代を
究方向について話をいたしました。
担うエピゲノム疾患研究」に焦点を当てた講演会と
講演後、30名強の参加者が本講演を概説した研究
関連分野の研究室見学を行ないました。当日は高校
者の研究室巡りを行ないました。実際にエピジェネ
生を中心に165名の参加者があり、分生研所内の研
ティック研究をどのようなアプローチを用いて推進
究に対する興味の高さを感じました。講演前には所
しているのか、各研究室オリジナルな研究スタイル
内研究室の研究内容のポスターセッションを行ない
を直に聞き、目にすることで、時代の最先端研究を
ました。会場に入りきらないほどの参加者が各研究
知ることが出来たのではないかと思います。全日程
室代表のプレゼンターの発表を熱心に聞いていたこ
は1時間ほど超過して終了致しました。
とと、多くの質問をしていたことが大変印象に残り
これからのサイエンスは基礎生物学と臨床研究と
ました。また、エピジェネティクス研究の興味の高
のトランスレーショナルなリサーチが重要な課題と
さが感じられました。
なってくると思われます。そのためには、様々な生
講演会はIML棟3階大会議室で、秋山所長からの
命現象に「不思議さと興味」を感じるような感度の
挨拶とエピゲノム疾患研究センターの紹介がありま
良いセンサーを磨いておく必要があると思います。
した。エピゲノム疾患研究センターは加藤茂明教授
オープンキャンパスは、我々研究者の「熱い想い」
をセンター長とする今年から開始された分生研の新
を分かり易く解説する場だけでなく、高校生からの
しい試みであるとともに、後天的に発症する様々な
「素朴な疑問」を貰う場でもあると思います。この
疾患を分子の言葉で理解し臨床研究へ橋渡しする研
ような「キャッチボール」は相互の意識の発展に必
究センターであることを概説され、その中で癌幹細
ず直結するものであると今年度参加させて頂きまし
胞解明にはエピジェネティックな作用における研究
て、感じた次第です。
が必須であることについて解説を頂きました。
質問し易い解説を目指して下さいました講演者の
センター所属の一番手として、武山健一准教授か
先生方、ポスター発表の各研究室のプレゼンターの
らは、エピジェネティクスの基本概念から始まり、
皆様、当日雰囲気作りと会場設置、チラシ配りに徹
性ホルモン関連因子の異常から後天的な疾患に至る
して下さいました磯山さん、反町さんはじめ総務
経路を分かり易く解説されました。特に印象深かっ
チームの方々には深謝致します。末筆ですが、この
たのは、「ミツバチの社会生活」や映画の「ニモ」な
ような勉強させて頂く機会を頂けましたこと、秋山
ど身近な生物を取り上げることで生物学的に重要な
所長、加藤センター長はじめ関係者の皆様に感謝致
ポイントを順序立てて優しく導入させていたところ
します。
だったと思います。講演会会場に入りきらないほど
多くの参加者が熱心に聞いていました。今井祐記特
任講師からは実際の病気との関連を分かり易く説い
て下さいました。骨粗鬆症は我々ヒトが長寿社会を
営む上で避けて通れないテーマです。「遺伝学的」
な疾患のなり易さだけでなく、環境下における「非
遺伝的」な疾患発症とエピジェネティクスの関連を
臨床医と生物学の両方の観点から解説されていたこ
とが大変興味を抱かされました。最後には今年度の
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事務部 業務紹介
事務長
諸 田 清
もろだ きよし
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2.信 念 は 何 事 に も フ ェ ア プ
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ながしま さとあき
1.総務チームの統括
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1.大学運営費、予算・決算
2.よろしくお願いします。
係長
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2.明鏡止水の心境でありた い。
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2.よろしくお願いします。
チームリーダー(専門員)
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1.財務会計チームの統括
2.レーシングカートでドリ
フトしてます。
係長
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村 上 靖 朋
おおしま ひでゆき
むらかみ やすとも
1.科研費&寄附金
2.本年7月に着任しました。
よろしくお願いします。
1.受託研究,共同研究,補
助金の受入
2.後日を待って行道せんと
思うことなかれ
育休:橘
※1.
は担当業務、2.は一言
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動物慰霊祭
エピゲノム制御因子 武山健一
去る10月26日(火)午前10時より、第13回「東京大学分子細胞生物学研究所
実験動物慰霊祭」が農学部附属動物医療センター奥の動物慰霊碑前において執
り行われました。本年は秋雨が例年より長引き、足下悪い状況にもかかわらず、
昨年より多い106名の参列者がありました。慰霊祭は、副所長の挨拶、動物実
験委員長から一年間の動物実験概要の報告に続いて、参列者による一分間の黙
祷および焼香がしめやかにおこなわれました。
分生研では所内実験動物施設でマウスやウサギ等をはじめとした実験動物が
飼育・解析されております。主として、マウスは遺伝子改変マウス作製及びそ
の解析、ウサギは抗体作製などに用いられました。研究内容には、骨・脂質・
内分泌代謝に関する研究、癌化の分子機構に関する研究、肝臓の発生・再生・疾患に関する研究、哺乳類細胞の運命
制御の解析、細胞骨格・細胞膜の形態制御に関する研究、減数分裂に関する研究、活性化型mTORの影響に関する研
究など、幅広い生命現象の探究が7研究分野で実施されました。
近年、生命現象を分子レベルで証明するために、低分子化合物、遺伝子、タンパク質、細胞、個体へと一つの現象を様々
な視点で検証することが問われています。特に遺伝要因を的確に捉える動物解析は、研究の信頼性を再現するだけで
はなく、既知概念との整合性との間で新たな発見が導かれる事が多く、極めて有用なツールとなっています。さらに
組織特異的に標的分子の機能解析も可能となり、実験動物の需要は益々大きくなりつつあります。実際、これらの研
究手法は世界水準として、我々が欧米諸国と同等やそれ以上の研究成果を示すには必須であります。一方でこれらの
実験動物の失われた尊い命を、有意義な研究成果にかえられるよう、個々の意識を高めることも忘れてはなりません。
分生研では毎年、動物実験従事者に対する再教育訓練を行っておりますが、この慰霊祭においても、研究目的・意
義が明確で、科学的手法により再現性・普遍性のある結果を導くために、必要最小限の動物を用いて、最大限の研究
成果とその質の向上が得られるよう心がけることや、本学「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針」
の法令遵守の徹底を周知しました。
最後に、
分生研の研究活動のために尊い命を捧げてくれた実験動物たちの御霊に、
感謝と追悼の意をここに表します。
総合防災訓練を実施
平成22年10月25日(月)の12時15分から約1時間半にわたり、農学部と合同
で総合防災訓練が実施された。今回、分生研においては本館3階廊下から出火
したとの想定で訓練が開始された。火災発生現場では担当者が火災発生をフロ
ア全体に大声で周知し、実際に非常ベルを鳴らし、全館に避難の館内放送を行
なうなど迫真の訓練だった。館内放送後、担当者の誘導によりただちに避難が
開始され、訓練開始からわずか6分間で全113人の避難を完了することが出来
た。その後、農学部3号館前で、本郷消防署による放水訓練、ハシゴ車での救
出訓練、消火器訓練を見学した。その間、希望者は起震車、煙ハウスの体験を
することができ、大変有意義であった。最後に本郷消防署より、防災・防火に
対する心構えなどの講評があり、訓練は無事終了した。
お店探訪
― アトリエ・タント・マリー ―
発生・再生研究分野 修士2年 江波戸一希
今回ご紹介させて頂くのは湯島天神の近くにあるこちらのケーキ工
房、丸の内や銀座にも出店する人気ケーキ屋の本店だ。この店で何よ
りもお薦めしたいのは看板商品の一つ、
「カマンベールチーズケーキ」
である。筆者はいつも決まって、小さいホールサイズ(12cm/2,500円)
を購入する。愛らしい丸い箱を開けた瞬間、カマンベールチーズの独
特な香りが漂ってくる。やや重いケーキにナイフを入れ口へと運ぶと、
控えめの甘さとともに濃厚でいてコクのあるチーズの味が口の中いっ
ぱいに広がる。ちょっと大人のチーズケーキ、と言うよりはカマンベー
ルチーズそのものを食べているような印象すら受ける。スイーツとし
て紅茶やコーヒーと一緒にいただいても良いが、赤ワインのアテにし
てもイケる(と思う)、チーズ好きの人には是非一度試していただき
たい逸品である。
ただこのお店、場所が非常にわかりづらいのが難点。伺う前には一
度地図を確認しておくことをすすめる。また、チーズケーキ、焼き菓
子以外は前日に予約が必要なのでご注意ください。
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「アトリエ・タント・マリー(Tante Marie)」
住 所:東京都文京区湯島2-26-5
T E L:03-3836-3358
営業時間:10時∼18時
定 休 日:日曜日
2010/12/20 9:25:46
21
OBの手記
理化学研究所 生命分子システム基盤研究領域システム研究チーム 元生体超高分子分野(現 高難度蛋白質立体構造解析センター膜蛋白質解析研究分野)
篠田 雄大
分生研ニュースに書かせていただくのは『ドク
が際立つように感じます。理研SSBCは私と同世代
ターへの道』に続き2度目となりますので、いわば
の20代後半から40代前後の研究者が多数を占めま
今回は『ドクターのその後』の話になります。
すので、何かと比較しやすい(orされやすい)環境
生体超高分子分野(現 高難度蛋白質立体構造解
で、現在の自分の能力や考え方を見つめ直したり、
析センター膜蛋白質解析研究分野)豊島研究室で
あるいは、5∼10年後にどうあるべきかを考える上
2004年10月から2008年12月まで博士課程を過ごさせ
で参考にしたり、あるところでは反面教師としたり
ていただきました。豊島研から巣立ってまだ2年程
と、私にとってはいろいろな意味で良い環境なのだ
度ですので研究室での実験の日々は未だに新鮮な記
と思っています。
憶です。一方で、先日久々に弥生キャンパスを訪れ
他の若手研究者と比較すると、私には欠けている
た際、購買がキレイに改築され、分生研新棟の横に
能力や知識の多いことを思い知らされ悲しくなるほ
おしゃれなレストランが建てられているのを見たと
どです。一方、豊島研で身につけた能力や経験が私
きには過ぎた時間を否応なく感じさせられました。
の数少ないアドバンテージになっていることも良く
現在は理化学研究所横浜研究所生命分子システム
わかります。今更ながら、豊島先生に養っていただ
基盤研究領域(SSBC)に特別研究員(=ポスドク)
いた顕微鏡での観察眼や結晶化成功体験が私にとっ
として勤務しています。豊島研での4年間で膜蛋白
てかけがえのない財産であることに気付き、そのお
質や脂質、界面活性剤を扱う面白さと結晶の美しさ
かげで仕事を良い方向に進めることが出来ていま
に魅せられ、理研SSBCでも相変わらず膜蛋白質の
す。5∼10年後、あるいはその先にどういう研究者
X線結晶構造解析を目指した精製と結晶化に取り組
であるべきか…競争力を維持するにはどうしたらよ
んでいます。理研横浜研究所は鶴見の海沿いの工場
いのか…(当たり前ですが)豊島研で得た財産だ
地帯にありますので、高い階からは東京湾が望め、
けでは数年のうちに競争力を失うはずですので、
少し遠くにベイブリッジやランドマークタワーを見
「+α」の部分を開拓していく必要性を感じていま
ることができます。反面、風向きによっては工場の
す。今は目の前の仕事を形にすることに全力で取り
排煙や近くのゴミ処理場のにおいが研究所周辺に立
組んでいますが、その過程で欠けている能力を取得
ち込めますので、豊島研にいた頃は反応時間の間な
し、「+α」の素になるようなことに取り組んでい
どに外に出て気分転換出来ましたが、今は極力建物
けたらと思っています。
から出ないようにしています。息は詰まりますが、
最後になりますが、この度執筆の機会を与えて下
おかげ様で実験に向かう時間が増えました。
さった編集委員の皆様に御礼申し上げます。
私の所属する理研SSBCシステム研究チームは何
人いるかわからないほど大所帯のラボです。圧倒的
な物質量、各種発現系について強力な発現・生産能
力を備え、結晶観察も自動化されている…言わば蛋
白質結晶の生産工場です。豊島研にいた頃でも物質
的な不自由は全く感じませんでしたが、この研究環
境は「さすが理研」と思わされます。これに慣れて
しまい、
「出て行きたくない」と言う同僚もいますが、
その気持ちは良くわかります。私自身、この環境の
おかげでこれまでの2年間弱で多種多様な膜蛋白質
を扱い、その難しさと奥深さを存分に堪能すること
が出来ています。
これほど施設が充実していてやりたいことを試せ
る環境では、研究者・実験者の能力や考え方の違い
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11月某日、研究所から見た風景。手前には鶴見川と工
場地帯、奥にはベイブリッジ(正面)が望める。(別角
度ではランドマークタワーも)
2010/12/20 9:26:35
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海外ウォッチング
Max Planck Institute of Molecular Cell Biology and Genetics
元多羽田研究室 梅津大輝
のだとは考えていませんでした。以前はこの“共有”
ドイツのドレスデンにあるマックスプランク分子
にストレスを感じていたものですが、今では、無駄
細胞生物・遺伝学研究所に私がポスドクとして留学
な実験をしなくなったし何より経済的だと自分に言
して来て早3年半になります。ドレスデンはドイツ
い聞かせ、納得できるようになってきました。
東部、ポーランドとチェコとの国境近くに位置し、
この研究所にいると研究は議論から始まるものだ
かつては旧東ドイツに属しました。風光明媚なエル
ということを実感させられます。共同研究が盛んな
ベ河の河畔に800年ほど前に開かれた緑豊かな街に
ことは述べましたが、その他にも学生、ポスドク、
は今も多くの歴史的建造物が建ち並びます。私の所
グループリーダー、それぞれのリトリートが年一回
属する研究所はドイツのマックスプランク協会が現
行われます。また、毎週木曜日には世界の第一線で
在抱える80の研究所の一つです。研究グループの数
活躍する研究者を招待してのセミナー、金曜日には
は20程ですので、分生研とさほど変わりません。研
所内の博士課程の学生やポスドクによるセミナーが
究スタッフの6割がドイツ国外から来ているため、
あります。セミナーの後に、発表者を囲んでビール
ドイツとは言え、共通言語は英語です。英語を母国
を片手に交流をする場が設けられているのはドイツ
語としない人がほとんどですが、訛りこそあれ、ほ
らしいところでしょうか。ソフトボール大会がない
ぼ例外なくネイティブ並みの流暢な英語を話すのは
代わりにバイオリンピックと呼ばれる研究室対抗ス
なぜなのでしょうか。
ポーツイベントがありますが、その他にもサマー
細胞がどう組織を形作るか が研究所全体の共
パーティー、クリスマスパーティーなどのイベント
通のゴールですが、そのアプローチの方法は多岐に
があります。パーティーでは、生バンドによる演奏、
わたります。特に、生物物理、情報科学に重点を置
7人の小人に扮したディレクターたちによる寸劇、
くグループの数が多いのはこの研究所の際立った特
バレリーナに扮したグループリーダーのおじさんた
徴だと思います。視点の違いを活用すべく、所内の
ちによる白鳥の湖のダンスなど、分生研の新人歓迎
研究グループ同士での合同セミナーや共同研究が盛
会とはまた異なった趣で盛り上がりを見せます。白
んに行われています。昨今、境界領域的な研究の推
鳥の湖は今後ぜひ分生研でも取り入れてほしいもの
進ということをよく耳にしますが、この研究所はそ
です。
のトレンドにうまく適応していると思います。ま
せっかくの留学という貴重な機会なので、結果を
た、研究所には研究グループの数とほぼ同数の施設
出すこともさることながら、できるだけ多くのこと
部が設置されています。これらは具体的には、光学
を学びたいものです。悪い部分と良い部分とを見極
顕微鏡、電子顕微鏡、タンパク質精製、抗体作製、
め、良い部分をうまく取り込んで自分の最善のスタ
DNAシークエンシング等のサービスを提供する研
イルを確立することが重要だと思いますが、それに
究サポートグループです。私達のニーズに合わせ、
はもう少し時間がかかりそうです。
最新機器の導入の検討や画像解析技術、ハードウェ
アの開発なども行います。個人や各研究室
単位で方法・技術論までカバーするのは難
しいので、このような専門家と連携して研
究を進められる環境はとても恵まれている
と思います。その一方で不便に感じる点も
あります。共焦点顕微鏡など高額なものは
共用となっており予約が必要です。人気の
ある機器は一週間以上前から予約を入れな
ければならず、思いついた時にすぐに実験
するというわけにはいきません。さらに、
研究室一つ一つに目をやると、実験機器の
ラインアップが驚くほど貧相です。ここに
来るまで、蛍光顕微鏡やPCRなど日常的に
2009年、ポスドクリトリートより(後列左から5番目)
。
使うものまでも隣のラボ同士で共有するも
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2010/12/20 9:27:04
23
第15回分生研シンポジウム
世話人 ゲノム情報解析研究分野 田村勝徳
講演の模様(佐々木先生)
質疑応答の模様(柳澤先生)
去る11月2日に東京大学弥生講堂にて、(財)応
用微生物学研究奨励会との共催により、恒例の分生
命制御”/古関 明彦(理研 免疫研)“The role of
Polycomb body to mediate Hox repression”/竹内
研シンポジウムが開催されました。今回は、今年の
4月に発足したエピゲノム疾患研究センターの設立
を記念して、『エピゲノム研究の最先端』というテー
純(東大 分生研)“クロマチンを紐解くと分かる心
臓研究”/藤木 亮次(東大 分生研)“核内糖修飾シ
グナルを介するエピゲノム制御”/佐々木 裕之(九
マのもとで、この分野の最前線で活躍されている所
内外の研究者に最新の研究成果を発表していただき
ました。会場には学生、研究者を含む例年以上の参
加者(346名)が集い、活力溢れる研究報告と熱気
のこもった討論を通じて、疾患遺伝学の新たなパラ
ダイムであるエピジェネティクスについて理解を深
めていただけたと思います。また、シンポジウムの
終了後には、応微研奨励会主催の懇親会が盛大に行
われ、講演者や参加者相互の交流と親睦を図ること
大 生防研)“生殖細胞のエピゲノムと小分子RNA”
/仲野 徹(阪大院 医)“Regulation of DNA methylation in early embryogenesis”/村上 洋太(北大
院 理)
“ヘテロクロマチンの機能構造のダイナミッ
クな制御機構”/白髭 克彦(東大 分生研)
“Transcriptional and cell cycle regulation by Cohesin
acetylation and deacetylation”/柳澤 純(筑波大院
生命環境)“核小体ダイナミクス”/石井 俊輔(理
研 筑波研)
“Inheritance of stress-induced epige-
ができました。最後に、本シンポジウムを開催する
に当たり、
ご協力いただいた方々にお礼申し上げます。
以下、講演者名(所属)“演題名”
武山 健一(東大 分生研)“核内受容体を介したエ
netic change”/橋
本 祐一(東大 分生
研)“分子標的の形
と状態を狙う生理
ピゲノム制御機構”/田中 稔(東大 分生研)“Regulation of liver development by cell-cell interac-
活性物質創製”/今
井 祐記(東大 分生
tions”/平林 祐介(東大 分生研)“ポリコーム群
タンパク質による大脳皮質神経系前駆細胞の分化運
研)“性ホルモンに
よる骨代謝制御の
分子基盤”/谷上 賢
瑞(東 大 分 生 研)
“大腸癌の生死とエ
ピゲノム制御”/牛
島 俊和(国立がん
セ)“Gene-specific
induction of aberrant DNA methylation by Helicobacter
pylori infection”
(敬
称略)
懇親会風景
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プロセスシアンプロセスマゼンタ
プロセスシアン
プロセスマゼンタプロセスイエロー
プロセスイエロープロセスブラック
プロセスブラック
農正門の立看板
2010/12/20 9:27:24
24
高校生来所見学
2010年7月14日に、スーパーサイエンスハイスクールである鳥取
東高校の生徒約20名が来所されました。まず、生徒たちには、向ヶ
丘ファカルティハウスのセミナー室において、多羽田教授と私の講
義を聴いて頂きました。私は、細胞の形態形成について、細胞は脂
肪であるところの脂質膜とタンパク質からできる細胞骨格によって
形態が形成されることをお話ししました。多羽田教授は、発生の仕
組みについて、ショウジョウバエをモデルとした研究についてお話
しました。次いで、生徒は2班にわかれ、多羽田教授および私の研
究室を見学し、簡単な実習を行いました。私のところでは、実体顕
微鏡をつかって生徒自身の皮膚を観察して頂き、さらに、培養細胞
細胞形態研究分野 末次志郎
を見て頂きました。多羽田教授の研究室では、GFPで光るショウジョ
ウバエの脳を見学されたとのことです。生徒たちの好奇心おう盛な
表情が印象的でした。見学と実習は、最後
に生徒代表の丁寧な挨拶で締めくくられま
した。また、生徒たちの事前学習レポート
も頂きました。事務および関係者の方々の
ご協力有り難うございました。今回の訪問
が、未来の日本の科学を担う高校生たちに
とって少しでも刺激と希望を与えることに
なっていると期待したいと思います。
分生研留学生サマースクール開催
バイオリソーシス研究分野 横田 明
平成22年10月1日(金)に分生研留学生サマースクールが開催さ
れました。日本文化に触れる機会を提供するために留学生対象に日
帰りの見学旅行です。弥生キャンパスを朝7時50分に出発する強行
軍でしたが、好天にめぐまれ、日光での見学先をゆっくりまわるこ
とができました。参加者は中国、韓国、タイ、オランダ、コロンビ
アなどからの留学生で、引率者を含め11名で東京大学日光植物園、
日光東照宮などを見学しました。日頃なかなか行く機会が少ない所
の見学ですが、英語のガイドさんもついてたいへん勉強になる小旅
行でした。このサマースクール開催には応用微生物研究奨励会から
もご援助をいただきましたので感謝いたします。
教職員の異動等について
以下のとおり異動等がありましたのでお知らせします。
○平成22年3月31日付
〈配置換〉貝田 綾子 事務長
:文学部・人文社会系研究科事務長へ
〈任期満了退職〉市原 美香 総務チーム一般職員
○平成22年4月1日付
〈配置換〉諸田 清 事務長
:史料編纂所事務長より
〈配置換〉反町 有子 総務チーム主任
:法学政治学研究科等公共政策大学院係より
○平成22年5月14日付
〈辞 職〉八杉 徹雄 助教(形態形成研究分野)
○平成22年6月1日付
〈採 用〉泉 奈津子 助教(先導的研究教育プログラム)
○平成22年6月30日付
〈辞 職〉成田 新一郎 助教(細胞形成研究分野)
松本 高広 講師(先導的研究教育プログラム)
○平成22年7月1日付
〈採 用〉金井 隆太 助教(先導的研究教育プログラム)
〈採 用〉古俣 麻希子 特任助教(若手研究者自立促進プログ
ラム)
〈昇 任〉及川 栄子 技術専門職員(発生・再生研究分野)
:技術職員から
〈配置換〉大島 秀之 財務会計チーム一般職員
:総務部渉外・基金課より
〈出 向〉米畑 宏美 財務会計チーム一般職員
:(独)国立美術館国立新美術館へ
○平成22年7月22日付
〈臨時的採用〉岡崎 紀子 総務チーム一般職員
:橘真奈美主任の産休代員として
○平成22年8月1日付
〈採 用〉須谷 尚史 助教(ゲノム情報解析研究分野)
〈採 用〉坂東 優篤 助教(ゲノム情報解析研究分野)
○平成22年9月1日付
〈雇用更新〉樋口 麻衣子 助教(情報伝達研究分野)
〈採 用〉廣井 誠 助教(神経生物学研究分野)
○平成22年10月1日付
〈採 用〉武田 泰子 技術職員(分子情報研究分野)
組織改編に伴う配置換については多数のため省略させていただき
ました。
編 集 後 記
編集委員長の土本です。本号より年2回発行とさせていただくことにな
りました。その分、内容を充実させようと思いますので、今後とも分生研
ニュースをよろしくお願い申し上げます。
(戦略企画室・染色体動態研究分野 土本卓)
今号ではじめて分生研ニュースの編集委員になりました。ふだん何気な
く手に取っていた分生研ニュースでしたが、実際には土本先生をはじめと
する編集委員の皆さんのボランティア精神と、こころよく執筆を引き受け
てくださる分生研メンバーの皆さんのハートが融合した熱い冊子であると
いうことがわかりました。今号ではあまり戦力になれず、少々申し訳ない
気持ちです。次回はもう少しお役に立てるようにがんばります。
(発生・再生研究分野 西條(及川)栄子)
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分生研ニュース第45号
2010年12月号
発行 東京大学分子細胞生物学研究所
編集 分生研ニュース編集委員会(土本卓、石川稔、樋口麻衣子、村
上智史、西條(及川)栄子)
お問い合わせ先 編集委員長 土本卓
電話 03―5841―8471
電子メール [email protected]
2010/12/20 9:29:29
25
セレノシステインの組み込みを担う
tRNAの立体構造
細胞形態研究分野 伊藤弓弦(助教)
私は昨年度まで本学の理学研研究
科・生物化学専攻に所属し、セレノ
システイン(Sec)という特殊なア
ミノ酸の翻訳系を対象に構造解析を
行っていた。これまでに決定したタ
ンパク質、RNAの立体構造の中か
らRNAに絞って紹介する。RNAの
結晶構造解析は特に困難であり、機
能性RNAの立体構造情報は充実し
ていない。SecのtRNA(tRNASec)の立体構造も未知であっ
たが、ヒトのtRNASec(Itoh Y, et al., Nucl. Acids Res ., 2009)
の 他、 古 細 菌(Chiba S, et al., Mol. Cell , 2010) と 細 菌 の
tRNASecの立体構造決定に成功し、tRNASec構造の全容を明
らかにすることができた。
tRNASecは90 ∼ 100ヌクレオチドの単鎖RNA(分子量∼
30 kDa)で、全tRNA中最大である。構成するヌクレオチド
残基の大半がヘリックスを形成し、しばしば非標準塩基対を
含む。ヒトtRNASecには3つのG:U対と、U:U対、G:A対が存
在する(図a-c)。G:U対はRNAに普通に存在する塩基対で
カベオラにおけるF-BAR/EFCドメイン
タンパク質pacsin2の機能解析
先導的研究教育プログラム 細胞形態研究分野 千住洋介(助教)
エンドサイトーシスに見られる細胞
膜の陥入構造では、形成される膜小
胞は特定の大きさ(曲率)を持ってい
る。最近の研究から、このような膜曲
率の決定機構にF-BARドメインを持
つタンパク質ファミリーが寄与してい
ることが明らかにされた。F-BARド
メインは、湾曲した三日月形の二量体
を形成し、凹面は塩基性アミノ酸に富
んでいるため正に帯電している(図)
。したがって、負に帯電し
ているリン脂質と静電相互作用し、その曲率を鋳型として細胞
膜を湾曲させる能力を有する。Pacsin2はN末端にF-BARドメイ
ンを持つタンパク質であるが、その機能は未だ明らかにされて
いない。我々は、
クラスリンやカベオリン-1
(カベオラの構成分子)
などのエンドサイトーシスに関与する分子とpacsin2の相互作用
を調べた結果、pacsin2の誘導する陥入構造にカベオリン-1が局
在することを蛍光顕微鏡で見いだした。さらに、pacsin2がカベ
オリン-1とin vitro で相互作用することを、GST融合タンパク質
を用いたプルダウンアッセイで確認した。また、カベオラではダ
イナミン2によって小胞が切断されることが明らかにされている。
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ある。ヘリックス中のミスマッチ塩基はフリップアウトす
ると思われがちだが、実際にはほとんどが塩基対を形成す
る。3次構造形成を担うドメイン間接触面では非標準U:A
対と、tRNASecに特徴的なU:U対やU:G:C塩基三重を見い出
した(図d-f)
。tRNASecの2次構造は特殊で、立体構造も標
準アミノ酸のtRNAと異なり、Sec翻訳系のタンパク質群と
の特異的相互作用を可能にしている。しかし、「特殊」であ
るtRNASecのドメイン間塩基対は他のtRNAより少なく、む
しろ「単純」な構造である。近縁にある真核生物と古細菌の
tRNASecだけでなく、2次構造が異なるの細菌のtRNASecも
立体構造の輪郭が共通することはSec翻訳系の成り立ちを考
える上で興味深い。
図 ヒトのtRNASecの立体構造
そこで、野生型のダイナミン2とpacsin2をHeLa細胞に共発現さ
せると、pacsin2に誘導される細胞膜の陥入構造は減少した。し
かしながら、ダイナミン2のドミナントネガティブ変異体であり、
GTPase活性を欠損しているダイナミン2 K44Aとpacsin2を共発
現させると、pacsin2に誘導される細胞膜の陥入構造は顕著に増
加した。これらの結果は、カベオラでpacsin2によって形成され
る細胞膜の陥入構造が、ダイナミン2によって切断されることで
膜小胞に移行していることを示唆している。今後はpacsin2がど
のようなメカニズムで活性化され、膜の曲率を生成するに至る
か研究していきたい。
図 Pacsin2 F-BARドメインの立体構造
。
細胞膜への挿入部位(wedge loop)が存在する(Shimada et al ., 2010)
2010/12/20 13:09:20
26
動物細胞における姉妹染色分体
接着保護機構の解析
酸化部位をアラニンに置換した非リン酸化型のSgo1を作製
し細胞に発現させたところ、興味深いことにインナーセント
ロメアではなく動原体への局在が観察された。また、非リン
酸化型Sgo1を発現する細胞では、接着保護機構に異常が見
先導的研究教育プログラム 染色体動態研究分野 丹野悠司(助教)
られた。これらの結果から、Aurora BによるSgo1のリン酸
化は、Sgo1のインナーセントロメア局在を促進することが
細胞の増殖は、遺伝情報の担い手
明らかとなった。また、染色体の整列前にインナーセントロ
である染色体の複製・分配というサ
メアにおいて見られるSgo1のリン酸化レベルが、整列して
イクルを通じて行われる。分配異常
動原体へと局在変化した後には低下していたことから、脱リ
による染色体数の変化は、細胞死お
ン酸化が局在変化の引き金となる可能性が考えられる。
よび癌やその悪性化の引き金とな
これらの結果をもとに、「Sgo1のリン酸化を介した局在制
り、生殖細胞の場合にはダウン症な
御が、接着保護機構のスイッチとして機能する」というモデ
どの先天性疾患の原因となり得る。
ル(図)を描きながら、さらなる解析を進めている。現在
均等な分配のためには、複製された
は、リン酸化がどのようにしてSgo1のインナーセントロメ
染色体が分離されるまでの間、接着してペアを形成している
アへの集積を促進するのか、そのメカニズムを調べている。
ことが重要である。我々の研究室において同定された「シュ
Sgo1の局在変化は、セントロメアという小さな領域での出
ゴシン」タンパク質Sgo1は、分裂期に姉妹動原体間の領域(イ
来事であるが、適切な染色体分配のために非常に大きな意味
ンナーセントロメア)に集積して接着を保護する因子である。
を持つと思われる。
Sgo1は、染色体が整列後、分離する際に動原体へと局在変
化することで保護機構を解消することが知られている。しか
しながら、局在変化の分子機構は謎に包まれたままであった。
また、分裂期キナーゼAurora Bは、Sgo1のインナーセント
ロメア局在を制御することが報告されていたが、そのメカニ
ズムについては未解明であった。
我々は、Sgo1がin vitro において分裂期キナーゼAurora B
の基質となることを見出し、リン酸化部位を同定した。リン
図 Sgo1の局在変化による接着保護機構の解除
核内巨大分子量複合体を介した
クロマチン構造調節機構の解明
我々はこの点を明らかにするため、プロテオミクスの手法と、
ショウジョウバエ分子遺伝学を組み合わせた解析を行い、既知
のヒストン修飾酵素およびクロマチンリモデリング複合体を含む
分子量5 MDaの新規巨大分子量複合体の取得に成功した。さら
核内情報研究分野 中村(藤山)沙理 (助教)
なる解析から、同複合体が機能するクロマチン領域の選択性と、
複合体構成因子の機能欠損によるクロマチン構造調節の異常が
細胞核内におけるクロマチン構造
見出された。このことから、種々の機能複合体を会合させ、一
調節とは、時期・組織特異的な遺伝
つの巨大分子量複合体を形成することにより、クロマチン構造
子発現やDNA修復・複製に必須な機
の調節を担っている可能性が推察された。今後はさらなる複合
構であり、その破綻は遺伝子発現の
体構成因子群の詳細な作用機序の解析と、新規巨大分子量複合
異常や癌化等の疾病へと繋がると考
体の探索を行うことにより、新たなクロマチン構造調節機構の
えられている。クロマチン構造は図に
解明へと繋げたい。
示す主に2種に大別される。凝集した
ヘテロクロマチンには転写装置がアク
セスできないため転写が不活性化しており、弛緩したユークロ
マチンではDNA配列が露出し転写が活性化している。これらク
ロマチン構造を調節する機構には、ヒストン修飾やDNAメチル
化等エピゲノム修飾やクロマチンリモデリングなどがある(図)
。
これらの反応を制御する因子群は複合体を形成して機能し、一
カ所の標的とするクロマチン領域上において複数種類の機能複
合体群が他段階的に作用すると考えられている。しかし、これ
ら複合体群がどのような順番でクロマチン上にリクルートされ、
またその順番がどのように制御されているかについては、ほとん
ど解明されていない。
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図 クロマチン構造調節機構の概要
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正確な神経回路を形成するメカニズム
―ショウジョウバエ視覚系をモデルとして
(神経生物学研究分野)
正確な神経回路を形成するためには必要な数の神経細胞を産
生し、正しい組み合わせでシナプスを形成する必要がある。こ
のメカニズムについてショウジョウバエの視覚系の解析を通して
新たな知見を得た。
メダラ神経の形成においては、神経上皮細胞列の内側から外
側に向かって、順次proneural遺伝子を発現することを見出し
proneural waveと名付け、この発現が神経前駆細胞の規則正し
い形成に必要であることを明らかにした。この系では上皮から
神経前駆細胞にいたる発生の時間的進行が発生進度の異なる細
胞の連続した配列として空間的に配置されており、精度の高い
解析を可能にしている。Proneural waveではEGFシグナルが活
性化しており、それが順次隣の神経上皮細胞のEGFシグナルを
活性化することによりNeural waveが進行し、神経前駆細胞の
分化を進める。その過程はNotchシグナルにより制御されてお
り、その観点からこの過程を細分化することができる。また神経
分化様式の違いにおけるNotchの機能分化を提唱した(八杉ら,
2010)
。
同じ神経上皮から分化しながらラミナ神経は全く異なった発
生様式をとる。ショウジョウバエの一次視覚系神経節であるラミ
ナでは、発生時に視神経軸索(シナプス前)とラミナ神経細胞
(シナプス後)が規則正しいカラム構造を形成する。両者は後に、
視細胞の分布が脳へ正しく投射されるような規則正しいシナプ
GET3によるTail-anchored proteinの
膜挿入メカニズム
Genes to Cells, 15, 29-41(2010)
山形敦史、三村久敏、佐藤裕介、山下雅美、吉川梓、深井周
也(放射光連携研究機構生命科学部門)
スを形成するが、この時
期のカラム構造はその基
礎をなすもので、ラミナ
神経細胞が視神経軸索を
特異的に認識すると考え
た。本研究では脊椎動物
のNephrinホ モ ログ で あ
る細胞 接着因子、Hibris
(Hbs)がラミナ神経細胞
で発現すること、パート
ショウジョウバエ視覚系の発生
ナ ー 分 子 とし てNEPH1
ホモログであるRoughest
(Rst)が視神経軸索で発現して相互作用を司っていることを明
らかにした(杉江ら,2010)
。
1)八杉徹雄,杉江淳,梅津大輝,多羽田哲也
Coordinated sequential action of EGFR and Notch
signaling pathways regulates proneural wave progression
in the Drosophila optic lobe. Development , 137, 3193-3203,
2010
2)杉江淳,梅津大輝,八杉徹雄,Karl-Friedrich Fischbach,
多羽田哲也
Recognition of pre- and postsynaptic neurons via
nephrin/NEPH1 homologs is a basis for the formation of
the Drosophila retinotopic map.
Development, 137, 3303-3313, 2010
入機構モデルを提唱した(図2)
。
同 じ タ イ ミ ン グ で、 シ カ ゴ 大 のKeenanら がADP•AlFx
結合型の閉じた二量体構造をNature Articleに発表した他、
我々とほぼ同じ構造をCalTechのClemonsらやハイデルベ
ルク大のSinningらがPNAS に、アラバマ大のShaらがPLoS
Oneに発表するなど、我々を含めて5グループの激しい競争
があったことを付記しておきたい。
C末 端に 一回 膜 貫 通 ヘリックスを持 つタン パク質(Tail
anchored protein; TA protein)は全膜タンパク質の5%を占
め、その中にはSNAREやトランスロコンサブユニットなど多く
の重要なタンパク質が含まれている。TA proteinの小胞体膜へ
の挿入は、トランスロコンによる翻訳共役型の膜挿入ではなく、
ATP依存的な翻訳後膜挿入によって行われる。近年、ATP依
存的な翻訳後膜挿入を行う因子としてヒトのTRC40(酵母では
GET3)が同定された。
我々は、GET3のヌクレオチド非結合型とADP結合型の結晶
構造を、それぞれ2.8Åと3Å分解能で決定した(図1)
。GET3
は結晶中で開いた二量体構造をとっており、亜鉛イオンが二量
体間に結合していた。また、GET3はヌクレオチド結合ドメイン
と二本の長いヘリックスからなるヘリカルドメインから成ってい
た.共発現法を用いた結合実験によりヘリカルドメインがTA
proteinの膜貫通ヘリックスを特異的に認識することを明らかに
したと共に架橋実験によってGET3がATP加水分解依存的に開
いた二量体から閉じた二量体に構造変化することを明らかにし
た。これらの結果から、GET3によるTA proteinの翻訳後膜挿
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サイクリン依存性キナーゼによる
リン酸化反応が染色体分配の方向を制御する
ことを発見しました。さらに、オーロラキナーゼ複合体は、
このリン酸化に依存して、セントロメアに局在するタンパク
質・シュゴシンと直接結合することによりセントロメアに局
塚原達也、丹野悠司、渡邊嘉典(染色体動態研究分野)
在できることを明らかにしました。また、分裂酵母を用いて
明らかにしたこれらの機構が、ヒトの細胞でも保存されてい
Nature 467, 719-723, 2010.
ることを証明しました。これにより、サイクリン依存性キ
ナーゼの染色体分配における新しい役割が明らかになると同
サイクリン依存性キナーゼは、細胞周期促進因子として広
時に、細胞のがん化の一つの経路が明らかになった可能性が
く知られたタンパク質リン酸化酵素であり、その制御異常が
考えられます。
細胞のガン化の主要原因であることが知られています。しか
し、サイクリン依存性キナーゼの染色体分配における役割は
Tatsuya Tsukahara, Yuji Tanno and Yoshinori Watanabe.
不明でした。今回、酵母を用いた研究で、このサイクリン依
Phosphorylation of the CPC by Cdk1 promotes chromosome
存性キナーゼの構成因子サイクリンに特殊な変異が生じる
bi-orientation. Nature 467, 719-723(2010).
と、染色体分配の方向に異常が生じることを見出しました。
オーロラキナーゼ複合体は動原体の間に局在し、微小管と動
原体の結合部位をリン酸化することにより、間違った結合を
修正する働きがあります(図)。今回単離したサイクリン変
異株では、オーロラキナーゼ複合体のセントロメア局在が低
下することが分かりました。これに端緒を発して、サイクリ
ン依存性キナーゼがオーロラキナーゼ複合体をリン酸化する
ことによって、そのセントロメア局在を促進する役割がある
2つのヒストンのリン酸化によって
染色体のセントロメアが規定される
ることを突き止めました。また、この2つのヒストンのリン
酸化は、動原体に局在するBub1キナーゼと、染色体ペアの
接着部位に局在するHaspinキナーゼによって担われており、
*
*
山岸有哉 、本田貴史 、丹野悠司、渡邊嘉典(染色体動態
これらのリン酸化が空間的に交わった部位にセントロメアが
研究分野)
形成されることを意味します。
酵母とヒトの細胞の解析から、
この機構は保存された機構であることを証明しました。本研
Science 330, 239-243, 2010.(*同等貢献)
究は、染色体のセントロメアという場が空間的にどのように
規定されるかという生物学の根本的な問題を明らかにしまし
細胞の染色体は遺伝情報を担うことで知られています。体
た。
細胞の染色体分配のときに、複製された染色体のコピーが2
つの娘細胞へ均等に分配されるためには、染色体の中心部分
Yamagishi, Y.*, Honda, T.*, Tanno Y. and Watanabe, Y.
にある動原体が反対方向からのスピンドル微小管によって捕
Two histone marks establish the inner centromere and
らえられることが重要です。オーロラキナーゼ複合体は動原
chromosome bi-orientation. Science 330, 239-243(2010)
体の間のセントロメアという場所に局在し、微小管と動原体
の結合部位をリン酸化することにより、間違った結合を修正
する働きがあります。このように、セントロメアは染色体が
正しく分配されるために必須の機能を果たしている染色体上
の場所として古くから知られていましたが、その形成機構は
今まで分かっていませんでした。今回の研究により、セント
ロメアは染色体上に広く存在するヒストン複合体のリン酸化
によって決まることが明らかになりました。すなわち、オー
ロラキナーゼ複合体が、シュゴシンというタンパク質と協調
して、ヒストン複合体の構成因子であるH2AとH3の特異的
なアミノ酸のリン酸化を直接認識してセントロメアに局在す
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