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女子刑務所における特別改善指導(薬物依存離脱指導)(1)
女子刑務所における特別改善指導(薬物依存離脱指導)(1) ――調査の概要と方法の検討―― ○日本学術振興会 平井秀幸 中央大学 古賀正義 成城大学 南保輔 成城大学 岩田一正 東京学芸大学連合大学院 仲野由佳理 【報告要旨】 いわゆる「受刑者処遇法」の成立により、刑務所内での改善指導や教科指導が義務化されるとともに、 麻薬、覚せい剤その他の薬物への「依存」者に対する処遇の必要性が「特別改善指導」として同法に明 記されることになった。法務省矯正局では、「薬物事犯受刑者処遇研究会」の討議をふまえ、2006 年以 降「薬物依存離脱指導」の標準プログラムを策定しており、複数の施設において上記標準プログラムに 沿ったグループワーク(GW)を中心とした処遇実践が開始されている。 本報告は、「矯正施設における教育研究会(研究会統括:広田照幸(日本大学) )」が 2006 年 8 月か ら 2007 年 2 月にかけて実施した A 女子刑務所での「薬物依存離脱指導」を対象としたフィールド調査 (指導実践の観察、指導者および受講者への聞き取り)に基づくものである。本報告では、上記調査の 概要と特質を説明し、「薬物依存離脱指導」を対象とした上記調査の意義と現代的役割、及びその問題 点を考察したい。 本調査は、A 女子刑務所において 2006 年の 7~9 月に実施された「薬物依存離脱指導」 (夏プログラム: SP)についての第1調査(調査実施は 8 月と 10 月)と、2006 年 10 月から 2007 年 2 月に実施された「薬 物依存離脱指導」(秋プログラム:FP)についての第2調査(調査実施は 2006 年 10 月~2007 年 2 月) から構成されている。第一調査、第二調査ともに、プログラムへの参与観察、プログラム期間中の受講 者への継続的インタビュー、プログラム終了後のフォローアップインタビュー、指導者へのインタビュ ーを実施した。 われわれの調査対象となったプログラムは、時間的・空間的に特殊な一事例である。また、本調査は 多岐に渡る施設生活の中から「薬物依存離脱指導」を切り取って分析するものであり、そこで得られた 知見が施設生活全般や薬物処遇全般を説明するものでもない。同時に、本調査は施設内の限られた期間 のみの縦断的調査であり、再犯や再非行に対するプログラムの効果や「エビデンス」の発見をもたらす ものでもなく、質的デザインを採用している点において、そもそも受講者の「変化」や「更生」の“実 態”を把捉することも目指さない。 こうした限界の中で、本調査はいかなる意義を有するのであろうか。 第一に、本調査は矯正処遇の中に GW や教育的活動、心理医療的アプローチなどが組み込まれる諸メ カニズムや、その結果として観察される諸機能を了解するうえでは、強みを発揮しうる。第二に、実践 の意味付与活動を記述することは、職員や受刑者の「暗黙知」を理解的に言語化することで実践に対す るインストラクション効果を持つだろう。そして第三に、特に、現代の矯正が置かれた困難な状況下に おいて、本調査は社会に対して矯正処遇実践の情報を公開していく役割を担うと思われる。それは計量 的な「エビデンス」とは別様であるが、等しく重要な現代的意義と考えられよう。