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止まり木でスギ人工林への鳥類による種子散布は増加するのか? Do
石川県立自然史資料館研究報告 第4号
Bulletin of the Ishikawa Museum of Natural History, 4: 37-44 (2014)
止まり木でスギ人工林への鳥類による種子散布は増加するのか?
大須賀さや 1・北村俊平 1, 2, *
Do bird perching structures elevate seed rain in a Japanese cedar forest?
Saya OSUKA1 and Shumpei KITAMURA1, 2, *
要旨
人工林の生態系サービスを高める手法の一つとして針葉樹人工林の広葉樹林化が進められてい
る.本研究では,針葉樹人工林内に止まり木を設置し,鳥類による広葉樹種子の加入を促進するこ
とができるかを検討した.石川県林業試験場内のスギ人工林に 2 箇所の調査プロットを設定し,そ
れぞれに 10 個の種子トラップ(止まり木あり 5 個と止まり木なしのコントロール 5 個)を設置した.
2012 年 7 月から 12 月に 2 週間間隔で種子トラップの内容物を回収し(計 10 回),鳥類が散布した広
葉樹種子を計数した.調査期間内に 25 種 3,347 個の種子を回収し,そのうち鳥散布種子は 10 種 40
個(止まり木:9 種 17 個,コントロール:8 種 23 個)だった.トラップあたりの平均鳥散布種子数
は止まり木とコントロールで統計的に有意な差はなかった.そのため,針葉樹人工林に止まり木だ
けを設置しても鳥類による広葉樹種子の加入は促進されず,針広混交林化に貢献することは難しい.
キーワード:石川県林業試験場 果実食鳥類 種子トラップ 針広混交林 鳥散布
Key words: Ishikawa Forest Experiment Station, frugivorous birds, seed trap, mixed needleleaf/broadleaf
forest, ornithochory
はじめに
進されている(今,2010; 島田・野々田,2010; 田
森林は,雨水等による土壌の浸食や流出を防ぐ土
内,2010 ).針葉樹人工林の混交林化には,針葉樹
壌保全機能,山地災害防止機能,水源涵養機能,物
人工林内への広葉樹の進入を促進すること,すな
質生産機能など,さまざまな生態系サービスを担っ
わち広葉樹の種子が針葉樹人工林へ散布される必
ている.温帯地域では,多くの広葉樹林が人工林に
要がある.日本の温帯林を構成する樹種の多くは
転換されており( Hartley, 2002 ),日本でも,1950 年
種子散布を動物に依存している( Kominami et al.,
代以降,薪炭林等の天然林を人工林に転換する「拡
2003; Noma & Yumoto, 1997; 大谷,2005 ).一方,
大造林」が進められた(林野庁,2012 ).その結果,
多くの森林性の哺乳類や鳥類は果実を餌として利用
日本の森林の 4 割は人工林が占めており,これらの
し( Koike & Masaki, 2008; Otani, 2002; Tsuji et al.,
人工林でも生物多様性を含む多様な生態系機能を発
2011; Yoshikawa et al., 2009 ),それらの種子散布に
揮させることが求められている(藤森,2012 ).
貢献している.
人工林の生態系サービスを高める手法の一つと
針葉樹人工林にもさまざまな広葉樹の種子がげっ
して,針葉樹人工林を広葉樹林へ変換または針葉
歯類や鳥類によって運ばれている(平田ほか,2006,
樹と広葉樹の混交林にする針広混交林化などが推
2007; 佐藤・酒井,2003 ).例えば,四国の針葉樹
1
石川県立大学 生物資源環境学部 環境科学科 植物生態学研究室 〒 921-8836 石川県野々市市末松 1 丁目 308 番地 1 Laboratory
of Plant Ecology, Department of Environmental Science, Faculty of Bioresources and Environmental Sciences, Ishikawa Prefectural
University, 1-308, Suematu, Nonoichi, Ishikawa, 921-8836, Japan;2 石川県地域植物研究会 〒 921-8062 石川県金沢市新保本 2-14-1 2
Association for Botanical Researches and Data Service in Ishikawa Prefecture, 2-14-1 Shinbohon, Kanazawa, Ishikawa 921-8062, Japan;
*
責任著者 * Corresponding author
37
大須賀さや・北村俊平
人工林では,ヒヨドリ,メジロ,キツツキ類,ツグ
ラスなどがいる(矢田,1992 ).
ミ類,ヒタキ類,カラ類などの果実食鳥類がアカメ
林業試験場内のスギ人工林に 2 箇所の調査プロッ
ガシワ,カラスザンショウ,タラノキ,ヤマハゼ,
トを設定した(図 1 ).プロット 1 の西側には桜品種
イイギリの種子散布に貢献している(佐藤・酒井,
保存園があり,他はスギ人工林に囲まれている.プ
2001, 2003, 2004, 2005a, b, 2006 ).そのため,針葉
ロット 2 の西側にはハンノキが植えられており,他
樹人工林へのこれらの果実食鳥類による広葉樹種子
はスギ人工林で囲まれている.
の種子散布を人為的に増やすことができれば,広葉
本研究では,開口部面積 0.5m2,深さ 80cm の円
樹の進入を促進することにつながると考えられる.
錐型の種子トラップを使用した(図 2 ).トラップ
鳥類は止まり木に滞在している時に種子を糞とし
の網部分には,園芸用の白色寒冷紗を使用し,トラ
て排泄したり,口から吐き戻したりすることが多
ップ開口部の高さが地上から 1m になるよう水平に
い( Charles-Dominique, 1986 ).そのため止まり木
設置した.風でトラップの中身が飛散しないように
を設置することで,鳥類による種子散布を増加さ
網内に石を入れ,ビニール紐で網の下部と地上に設
せ,森林生態系の回復を促進する研究が世界各地で
置したペグで固定した.この種子トラップを各プ
行われてきた( Aide & Cavelier, 1994; Heelemann
ロット内に 20m 間隔で 10 個ずつ,計 20 個設置した
et al., 2012; Holl, 1998; McClanahan & Wolfe, 1993;
(図 1 ).種子トラップ周辺に低木が多いと人工的に
Shiels & Walker, 2003; Shoo & Catterall, 2013;
設置した止まり木の効果が損なわれる可能性があ
Zanini & Ganade, 2005 ).日本でも裸地斜面に止ま
る.そのため種子トラップは,潜在的な止まり木と
り木を設置することで,広葉樹種子の加入が促進さ
なりうる低木の真下を避けて設置した.各プロット
れることが知られている(境・柴田,2001 ).
の半数の種子トラップには,止まり木を設置し(以
本研究では,針葉樹人工林内において鳥類の種子
下,止まり木トラップ),残りの半数は種子トラッ
散布による広葉樹種子の加入を促進する方法とし
プのみを設置した(以下,コントロール).止まり
て,人工的な止まり木に着目した.針葉樹人工林内
木トラップには,トラップ開口部から 10cm 上部に
に止まり木付きの種子トラップと止まり木のない種
長さ 80cm,幅 1.5cm の円柱型木材を交差させた止
子トラップを設置し,鳥類による種子散布を定量的
まり木を設置した(図 2 ).
に評価することで,人工的に設置した止まり木を用
2012 年 7 月 19 日にプロット内に種子トラップを
いた鳥類の種子散布の促進効果について検討した.
設置し,12 月 3 日までの 137 日間,約 2 週間間隔で
種子トラップ内のリターをすべて回収した(計 10
調査地と調査方法
回).各回収物は回収年月日,プロット番号,トラ
調査は 2012 年 7 月から 12 月に石川県農林総合研
ップ番号を記入して紙袋に保存した.回収物は石
究センター林業試験場(以下,林業試験場)で行っ
川県立大学の実験室内で送風低温恒温器( yamato
た.林業試験場は石川県白山市三宮町(北緯 36 度
DNE600 ) を 利 用 し て, 摂 氏 60 度 の 条 件 で 48
25 時 45 分,東経 136 度 38 時 34 分)に位置し,敷
時 間 乾 燥 さ せ た. 乾 燥 後, リ タ ー の 乾 燥 重 量 を
地面積 43.77ha,標高 130m から 380m にあたる(矢
UW8200S SHIMADZU(測定誤差 0.1g )で測定し
田,1992 ).林業試験場内の苗畑に設置されてい
た.その後,サンプル内の種子を同定・計数した.
る気象観測システム(標高 220m )による 2012 年
種子の同定や散布様式の決定には,日本種子図鑑
度の年平均気温は 13.0 度,年間降水量は 2,936mm
(中山ほか,2006 ),草木の種子と果実(鈴木庸夫
である(石川県農林総合研究センター林業試験場,
ほか,2012 )を利用した.動物散布型の果実の種
2013 ).調査地で初夏から晩秋にかけて普通に見ら
子のうち,果肉の付着していない種子は,鳥が糞と
れる果実食鳥類には,キジ,キジバト,アオバト,
ともに散布したと判断し( Kominami et al., 2003 ),
アオゲラ,コゲラ,サンショウクイ,ヒヨドリ,ト
それらを鳥散布種子,トラップ周辺の結実個体から
ラツグミ,クロツグミ,シロハラ,ヤブサメ,ウグ
自然落下した可能性が高い種子を自然落下種子とし
イス,キビタキ,オオルリ,エナガ,ヤマガラ,シ
て解析した.
ジュウカラ,メジロ,カワラヒワ,イカル,ムクド
潜在的な止まり木の分布を把握するため,各トラ
リ,カケス,オナガ,ハシブトガラス,ハシボソガ
ップの中心から半径 5m 以内で,高さ 2m 以上の植
38
止まり木でスギ人工林への鳥類による種子散布は増加するのか?
P1
P2
図 1 石川県林業試験場内に設定した調査プロットの位置と各プロット内に設置した種子トラップの位置(●:止まり
木トラップ,○:コントロール).
図 2 止まり木トラップの概要.コントロールにはこの写真の種子トラップ上部に設
置してある止まり木がない種子トラップのみを設置した.
39
大須賀さや・北村俊平
物を対象として調査を行った.トラップの中心か
た.しかし,当初の予測とは異なり,本研究では,
らの方角,距離( 1cm 単位),胸高周囲長( GBH,
止まり木をつけることで針葉樹林内への鳥類による
0.1cm 単位)を測定した.方角の測定には簡易方
広葉樹種子の種子散布を増加させることはできなか
位磁針,距離と GBH の測定にはスチールメジャー
った.
( Tajima Engineer Pocket EPK-10 )を用いた.さら
止まり木の効果がなかった理由の一つとして,ス
に各トラップの中心,地上高 1.5m の位置から全天
ギ人工林を利用する果実食鳥類が少なかった可能性
写真を撮影した.全天写真の撮影には,デジタルカ
が考えられる.鹿児島県のスギ人工林と広葉樹林を
メ ラ( NIKON COOLPIX990 ) と 魚 眼 レ ン ズ(フ
対象として 120 個の種子トラップ( 0.5m2 )を用い
ィッシュアイコンバータ FC-E8 )を使用した.全天
て 19 カ月間にわたり鳥散布種子を定量化した研究
写真は,フリーの画像解析ソフト CanopOn2( http://
によると(平田ほか,2006 ),スギ人工林内に設置
takenaka-akio.org/etc/canopon2/ ) を 利 用 し て, 空
した種子トラップ 120 個で回収された鳥散布種子は
隙率(空が見える立体角の割合)を算出した.
月平均 0.35 個,広葉樹林では月平均 2.01 個であっ
止まり木トラップとコントロール間で空隙率,
た.本研究では,月平均 0.40 個の種子が回収され
リ タ ー の 乾 燥 重 量, 鳥 散 布 種 子 数, 自 然 落 下 種
ており,先行研究のスギ人工林で得られた結果と同
子数の平均値を Welch's t-test で比較した.統計処
程度の値を示している.しかし,これらの人工林へ
理には,フリーソフトの R 2.15.2 を利用した( R
の散布種子数は先行研究で広葉樹林に散布された種
Development Core Team, 2013 ).
子数の 5 分の 1 にすぎない(平田ほか,2006 ).広
葉樹林と人工林で鳥類相を比較した研究では,人工
結果
林では鳥類の種数は少なく,その種構成も広葉樹林
調 査 期 間 内 に 25 種 3,347 個 の 種 子 を 回 収 し た
とは異なることが知られる( Ohno & Ishida, 1997;
(表 1 ).風散布型種子は 9 種(草本 2 種,針葉樹 3
Yamaura et al., 2007 ).本研究では,調査期間内に
種,広葉樹 4 種),動物散布型種子は 13 種(すべて
果実食鳥類の調査を行っていないため,果実食鳥類
広葉樹),同定できなかった種子が 3 種だった.種
がどの程度スギ人工林を利用していたのかは不明で
子数の上位は,スギ( 2,821 個),サワラ( 268 個),
ある.しかし,止まり木に誘引するべき果実食鳥類
ハンノキ( 116 個)の風散布樹種で,全体の 95.8%
そのものがスギ林をあまり利用していなかった可能
を占めた.
性が考えられる.
鳥散布種子はアオハダ,アカメガシワ,ウワミズ
止まり木の効果が認められなかった二つ目の理由
ザクラ,エノキ,カラスザンショウ,クマノミズ
として,鳥類がスギ人工林を訪問した際に止まり木
キ,クロモジ,サクラの一種,サンショウ,ツタウ
に誘引されなかった可能性がある.止まり木を利用
ルシ,ヤブデマリの 10 種 40 個だった.このうち,
した先行研究の多くは,草本植物が優占する牧場,
止まり木トラップで 9 種 17 個,コントロールで 8 種
森林の皆伐跡地,地すべり跡地など,本研究の調査
23 個が回収された.この他に鳥が散布する可能性
地と比較して空間構造が単純な場所に止まり木を
が高い樹種の種子でエゴノキ,エノキ,カラスザン
設置している( Aide & Cavelier, 1994; Heelemann
ショウ,ミズキの 4 種 59 個は自然落下と考えられ
et al., 2012; Holl, 1998; McClanahan & Wolfe, 1993;
た.
Shiels & Walker, 2003; Zanini & Ganade, 2005 ).今
止まり木トラップとコントロール間で,周辺の樹
回,調査地として利用したスギ人工林内には,鳥類
木個体数,空隙率,リターの乾燥重量,鳥散布種子
の止まり木となりうる低木も存在する.そのため,
数,自然落下種子数の平均値に有意差はなかった
果実食鳥類がスギ人工林を訪れたとしても設置した
(表 2 ).
止まり木を利用する頻度が低く,結果的に種子散布
量が増加しなかった可能性が考えられる.
考察
1990 年代から研究が継続されてきた海外と比べ
種子トラップ周辺の樹木数,種子トラップ上の空
て,日本国内で止まり木を利用した種子散布の促進
隙率,リターの乾燥重量,鳥散布以外の種子の加入
に関する知見は限られている.海外の先行研究で
量の結果から,止まり木の設置環境に偏りはなかっ
は,潜在的な種子散布者となる果実食鳥類やコウ
40
止まり木でスギ人工林への鳥類による種子散布は増加するのか?
表 1 石川県林業試験場のスギ人工林において,止まり木をつけた種子トラップ(止まり木)と種子トラップのみ(コ
ントロール)で 2012 年 7 月から 12 月にかけて回収された種子の種構成と散布型.鳥散布:動物散布型の果実の
種子のうち,果肉の付着していない種子.自然落下:トラップ周辺の結実個体から自然落下した可能性が高い動
物散布型の果実の種子または風散布種子.
止まり木
コントロール
自然落下
総計
科
種名
和名
散布型 鳥散布
鳥散布 自然落下
Aceraceae
Acer palmatum
イロハモミジ
風
0
1
0
1
2
ツタウルシ
動物
0
0
1
0
1
Aquifoliaceae
Ilex macropoda
アオハダ
動物
0
0
6
0
6
Cannabaceae
Celtis sinensis
エノキ
動物
3
0
5
1
9
Anacardiaceae Rhus ambigua
ヤブデマリ
動物
1
0
1
0
2
Swida brachypoda
クマノミズキ
動物
2
0
0
0
2
Swida controversa
ミズキ
動物
0
55
0
0
55
Caprifoliaceae Viburnum plicatum
Cornaceae
Cupressaceae
Chamaecyparis pisifera サワラ
Cryptomeria japonica
Euphorbiaceae Mallotus japonicus
風
0
114
0
154
268
スギ
風
0
1207
0
1614
2821
アカメガシワ
動物
1
0
1
0
2
Juglandaceae
Pterocarya stenoptera
シナサワグルミ
風
0
3
0
5
8
Lauraceae
Lindera umbellata
クロモジ
動物
1
0
0
0
1
Liliaceae
Cardiocrinum
cordatum
ウバユリ
風
0
0
0
6
6
Pinaceae
Larix kaempferi
カラマツ
風
0
11
0
0
11
Polygonaceae
Reynoutria japonica
イタドリ
風
0
0
0
2
2
Rosaceae
Prunus grayana
ウワミズザクラ
動物
5
0
3
0
8
Prunus sp.1
サクラの一種
動物
1
0
0
0
1
Zanthoxylum
ailanthoides
カラスザンショウ 動物
2
1
4
0
7
動物
1
0
2
0
3
Rutaceae
Zanthoxylum piperitum サンショウ
Styracaceae
Styrax japonica
エゴノキ
動物
0
0
0
2
2
Theaceae
Stewartia
pseudocamellia
ナツツバキ
風
0
2
0
1
3
Ulmaceae
Alnus japonica
ハンノキ
風
0
76
0
40
116
不明
sp.03
sp.03
-
0
5
0
3
8
sp.24
sp.24
-
0
1
0
1
2
sp.25
sp.25
-
0
1
0
0
1
17
1477
23
1830
3347
総計
表 2 石川県林業試験場のスギ人工林に設置した種子トラップ(止まり木とコントロール)周辺の環境
条件,回収されたリターの乾燥重量,鳥散布種子数,自然落下種子数の平均値(標準偏差)の比較.
調査項目
止まり木
コントロール
Welch's t-test
トラップ周辺の樹木数
5.0 (1.1)
7.1 (3.3)
P = 0.083
空隙率(%)
8.4 (0.9)
8.1 (0.7)
P = 0.525
146.0 (54.1)
122.6 (45.2)
P = 0.309
1.7 (1.9)
2.3 (1.9)
P = 0.487
147.7 (57.2)
183.0 (57.6)
P = 0.186
リターの乾燥重量(g)
鳥散布種子数
自然落下種子数
41
大須賀さや・北村俊平
モリ類を止まり木に誘引するために餌となる果実
( Holl, 1998 )や果実の匂い( Bianconi et al., 2007,
引用文献
Aide, T.M. & Cavelier, J. (1994) Barriers to lowland
2012 )を止まり木と組み合わせて利用している.
tropical forest restoration in the Sierra Nevada
日本国内で山腹工事後ののり面に止まり木を単独
de Santa Marta, Colombia. Restoration Ecology
で設置した場合には,月平均 3.6 個の種子が散布さ
2: 219-229.
れるが,擬似果実を設置した止まり木では種子数
Bianconi, G.V., Mikich, S.B., Teixeira, S.D. & Maia,
が 3.8 倍(月平均 13.9 個)に増加している(境・柴
B. (2007) Attraction of fruit-eating bats with
田,2001 ).疑似果実は比較的低コストで設置・維
essential oils of fruits: A potential tool for forest
持することができ,適宜,擬似果実を付け替えるこ
restoration. Biotropica 39: 136-140.
とで鳥類の採食行動や好奇心を刺激し,止まり木へ
Bianconi, G.V., Suckow, U.M.S., Cruz-Neto, A.P. &
の訪問頻度や滞在時間を増加させる効果が期待され
Mikich, S.B. (2012) Use of fruit essential oils
る.自然条件下でも結実木の周辺には同時期に結実
to assist forest regeneration by bats. Restoration
している果実の種子が多く散布されることが知られ
Ecology 20: 211-217.
ており( Takahashi & Kamitani, 2003; Takahashi &
Charles-Dominique, P. (1986) Inter-relations between
Kamitani, 2004 ),擬似果実は止まり木に鳥類を誘
frugivorous vertebrates and pioneer plants:
引する手法の一つとして有効であると考えられる.
Cecropia, birds and bats in French Guyana.
針葉樹林内で天然更新する広葉樹の種構成や個体
Frugivores and seed dispersal: 119-136.
数は過去の土地利用パターンや種子供給源となる周
辺広葉樹からの距離など様々な要因の影響を受ける
藤森隆郎( 2012 )森づくりの心得 . 全国林業改良普
及協会,東京,353 pp.
( Ito et al., 2003; 2004; Kodani, 2006; 小 谷,2012;
Hartley, M.J. (2002) Rationale and methods for
長池,2000 ).できるだけ地域の生態的環境を攪乱
conserving biodiversity in plantation forests.
せずに針広混交林化を進めるには,その地域に生育
Forest Ecology and Management 155: 81-95.
する広葉樹の種子が針葉樹人工林内へ供給されるこ
Heelemann, S., Krug, C.B., Esler, K.J., Reisch, C.
とが重要である.本研究の結果からは,針葉樹人工
& Poschlod, P. (2012) Pioneers and perches:
林内に今回の調査で利用した止まり木を設置しても
promising restoration methods for degraded
鳥類による広葉樹種子の加入を促進することは困難
renosterveld habitats? Restoration Ecology 20:
であると考えられた.今後は擬似果実を設置するな
18-23.
ど,鳥類の誘引効果がある手法と止まり木と組み合
平田令子・畑邦彦・曽根晃一( 2006 )果実食性鳥
わせた調査や果実の結実量や果実食鳥類の個体数の
類による針葉樹人工林への種子散布.日本森林
年次変動の調査など,本調査地での追跡調査や各地
学会誌 88: 515-524.
での事例収集を進め,さらに研究を進展させる必要
がある.
平田令子・高松希望・中村麻美・渕上未来・畑邦
彦・曽根晃一( 2007 )アカネズミによるスギ
人工林へのマテバシイの堅果の二次散布.日本
謝辞
森林学会誌 89: 113-120.
本研究の遂行にあたり,石川県農林総合研究セン
Holl, K.D. (1998) Do bird perching structures
ター林業試験場の小谷二郎氏,矢田豊氏,八神徳彦
elevate seed rain and seedling establishment in
氏に調査の便宜をはかっていただいた.種子の同定
abandoned tropical pasture? Restoration Ecology
にあたり,石川県立自然史資料館の中野真理子氏,
6: 253-261.
金沢大学の木村一也氏に意見をいただいた.本研究
石川県農林総合研究センター林業試験場( 2013 )
の実施にあたり,金沢大学の中村浩二氏と木村一也
石川県農林総合研究センター林業試験場業務報
氏,石川県立大学生物資源環境学部環境科学科植物
告 No. 50(平成 24 年度).石川県農林総合研究
生態学研究室の遠藤拓さんと由利萌さんに協力して
センター林業試験場,石川県,50 pp.
いただいた.ここに深く感謝する.
Ito, S., Nakagawa, M., Buckley, G.P. & Nogami, K.
(2003) Species richness in sugi (Cryptomeria
42
止まり木でスギ人工林への鳥類による種子散布は増加するのか?
japonica D. Don) plantations in southeastern
Research 12: 119-129.
Kyushu, Japan: the effects of stand type and age
Ohno, Y. & Ishida, A. (1997) Differences in bird
on understory trees and shrubs. Journal of Forest
species diversities between a natural mixed
Research 8: 49-57.
forest and a coniferous plantation. Journal of
Ito, S., Nakayama, R. & Buckley, G.P. (2004) Effects
Forest Research 2: 138-153.
of previous land-use on plant species diversity
Otani, T. (2002) Seed dispersal by Japanese marten
in semi-natural and plantation forests in a warm-
Martes melampus in the subalpine shrubland of
temperate region in southeastern Kyushu, Japan.
northern Japan. Ecological Research 17: 29-38.
Forest Ecology and Management 196: 213-225.
Kodani, J. (2006) Species diversity of broad-leaved
trees in Cryptomeria japonica plantations in
大谷達也( 2005 )液果の種子散布者としての中型哺
乳類の特性-おもにニホンザルを例として-.
名古屋大学森林科学研究 24: 7-43.
relation to the distance from adjacent broad-
R Development Core Team (2013) R: A language
leaved forests. Journal of Forest Research 11:
and environment for statistical computing. R
267-274.
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