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第 2 章 精神疲労の評価方法に関する従来の研究と評価方法の考え方

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第 2 章 精神疲労の評価方法に関する従来の研究と評価方法の考え方
第2章
精神疲労の評価方法に関する従来の研究と評価方法の考え方
2.1 はじめに
1910 年頃より,日本では働く人を対象とした本格的な疲労の研究が始まった.1925 年
頃より,体温や脈拍などに代表される生体信号の測定技術の研究が始まり,生体信号の
測定手法は確立されている.しかし,疲労の評価に応用するまでにいたっていない[1-
2].疲労の発現メカニズムに関する研究や過労モデル動物を用いた研究など盛んに行わ
れているが[3],まだ明らかになっていない.
精神疲労の評価は主観的側面,生理的側面および他覚的側面の三側面からのデー
タを総合的に検討して評価する方法が採用されている.精神疲労の評価方法に関する従
来の研究を示し,その課題についてまとめ,精神疲労の評価方法の考え方を示す.
2.2 精神疲労の評価方法の種類
2.2.1 生体信号による評価方法
ストレスおよび精神疲労の評価方法には,生体信号による評価方法,生化学 的評価方
法,問診による評価方法が挙げられる.その主要評価項目を Table 2-1 に示す.その中
のいくつかの精神疲労の評価方法について示す.
心拍変動
心拍変動 (Heart Rate Variabi1ity:HRV)は種々の精神的ストレスの指標となるこ
とが知られており,負荷が強くなるに従って心拍変動は減少する.その際,心拍変動のど
の部分も同様にこれらのストレスに対して敏感に反応するわけではない.主として血管運
動系の変化を反映する MF 成分(0.10Hz 付近)は,最も感度が高い[4].
精神的ストレスで交感神経緊張が亢進し,低周波(Low frequency: LF)成分が著しく
増大し,高周波(High frequency: HF)成分の減少が見られる.この LF 成分(0.05Hz
以下)の変動は体温制御や精神的ストレスに対する緩やかな適応に関連すると言われて
いる.精神的ストレスによって減少する心拍変動も,記憶ストレスあるいは反応ストレスなど
ストレスの種類によって違いが見られる.暗算負荷を与えると,コントロールに比して HF 成
分がほとんど消失し LF 成分が著しく増大する.暗算負荷の間は LF 成分と HF 成分は
互いに明らかに鏡像を形成するが,負荷から開放されると,すぐ元の値に戻る.中間周波
(Median frequency: MF)成分の減少に比して HF 成分の変動が見られないのは,後
者にはストレスシグナルの反復頻度(通常 0.15Hz 以上)と呼吸の関係が強いのに対し,
前者には呼吸の影響が少ないことによる.これにより,ストレス負荷中は一般に呼吸数が
13
増すので MF 成分のほうが指標として安定していて優れていると考えられる.呼吸数が増
加すると呼吸性洞不整脈は減少する.したがって,もしストレス中に心拍変動の HF 成分
が減少した場合には,その理由としては呼吸数の増加,ストレスによる副交感神経の減退,
あるいはこれらの合併が考えられる[5].
このように,MF 成分がストレスの指標として考えられているが,呼吸数により変動するた
め,呼吸数を参照しながら判断しなければならないことが課題である.また,ストレスの初
期には副交感神経活動の減少と交感神経活動の増加などから心拍変動を指標として考
えることが出来る.心拍変動は自律神経系の交感神経と副交感神経の活動の指標に用
いられているが,まだ疲労の評価としては定かではない.
Table 2-1.Method of Estimating Stress and Fatigue
表 2-1 ストレス・疲労評価方法
Group
Item
Speech Sound
Fluctuation of Blood Flow Pulse Wave
Diagnostic Audiometry
Physiological
Information
Heart Rate Variability (HRV)
Critical Fusion Frequency of Flicker
Alpha Wave of Electroencephalogram
Optical Topography
Advanced Trail Making Test (ATMT)
Catecholamine
Cortisol
Blood
DHEA-S
Natural Killer Cells Activity
Biochemical
Biomarkers
Cytokine
Urine
Catecholamine
17-KS-S/17-OHCS
Saliva
Cortisol
Human Herpes Virus 6 (HHV-6)
Questions about subjective feelings of fatigue
NASA-Task Load Index (NASA-TLX)
Questionnaire
Cumulative Fatigue Symptoms Index (CFSI)
The General Health Questionnaire (GHQ)
Profile of Mood States (POMS)
Psychological Test Self-Rating Depression Scale (SDS)
14
フリッカー(ちらつき)値検査方法
中枢性神経の疲労をみる方法として,フリッカー値 (Critical Fusion Frequency of
Flicker)が用いられてきた.フリッカー値とは光の点滅頻度のことであり,この点滅頻度の
弁別能力をみるのがフリッカー検査と呼ばれる.フリッカー値の低下は覚醒水準の減衰に
起因する知覚機能の低下を反映し,脳内の知覚連合皮質における視覚情報処理能力の
減少を意味すると考えられている.このフリッカー値は,データや文章をキーパンチ機など
で入力するキーパンチャーの頸肩腕(けいけんわん)症候群障害防止のための作業時間
管理を考える際の基礎資料となった.フリッカー値が 5%以上の低下を示す例が作業者の
25%を超えないことを目標とすると,一日の作業穿孔時間は 300 分とすべきことや,一連
続作業時間は 60 分とすべきことが報告されている.また,作業時間が 45 分を超えると,
打鍵のミスが多くなるという研究結果もあり,現在 VDT(Visual Display Terminals)作
業の一連続作業時間は 60 分以下という目標値の根拠になっている.ただし,フリッカー
値が人間の何を示すものであるかについては,必ずしもはっきりしているとはいえない状況
である[6].
発話音声評価法
発話音声の集音と解析により,心身状態をモニタリングし,疲労・パニック等の事前兆
候を検出する方法である.過労・居眠り検出のための発話音声評価方法である.国土交
通省において「公共交通に係わるヒューマンエラー事故防止対策検討委員会」を設置し,
研究されている.
発話音声のストレンジ・アトラクタから算出される最大リアプノフ指数の値は,その発話者
の心身状態に依存して変化すると示している.眠い時,リアプノフ指数値は低くなり,高い
緊張状態にある時,疲れているが仕事をしている時は高くなることを明らかにした.
実験的に発話音声をカオス論的手法により分析することで,その発話者の大脳の活性
度(一般的にはストレス)を,定量的に評価するものである.航空機のパイロットや自動車
運転者の発話する音声を時系列に分析することが可能であれば,疲労等により事故を起
し易い心身状態になる前に,警告できると示している[7].発話音声に関して,車載型発
話音声分析装置の開発は製品化まで到達している.しかし,機能に関しては,検証中で
ある.
脈波の揺らぎ検出方法
東京大学,大分大学,島根難病研究所,デルタツーリング社の共同研究グループと鉄
道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)は,座席に取り付けたセンサにより入
眠予兆を検知する「居眠り運転防止シート」を開発している[8].
従来から行われてきた画像や脳波では予見できない覚醒時の入眠予兆(眠くなる前の
前兆)を,脈拍や呼吸数といった生体信号の揺らぎから検出する方法である.非侵襲で
15
取得が容易な脈波の揺らぎから前兆現象をとらえることが可能な信号を検出する方法で
ある.リラックスの度合いを示す最大リアプノフ指数と血流量の振幅に相当する情報を持
つパワー値の時系列微分波形を描いたものである.眠りが発生する場合には,入眠の数
分前から両者の波形が逆位相になる現象が見られる.これが入眠予兆である.
自動車が走行するときに路面から人体に伝わる振動は,一般道路と高速道路では異な
るが,このシートのシステムは,シートの骨格と人を支持するバネ系との間で振動を減衰さ
せ,路面振動の影響がセンサ部に入り難いため,路面の状態に左右されずに生体信号を
測定できる.生体信号を捕らえる埋め込みセンサは小型のため,運転シートは一般のシ
ートと同じ大きさである.
現在,入眠予兆と同じく,飲酒状態で現れる特徴的な脈拍や呼吸状態などの生体信
号の解明にも取り組んでおり,この信号を測定することで,飲酒状態で着座すると始 動し
ないようなシステムを作ることも可能だといわれている.また,座面圧力変化に基づく居眠
り検知方法も提案されている[9].
聴覚的方法
聴覚的方法によるものは,2 音融合現象を利用した方法がある[10].
まず,視覚的方法と聴覚的方法により測定した値の総称を P 値とする.視覚的方法に
よる測定値すなわちフリッカー値を F 値,聴覚的方法による測定値を T 値とする.P とはポ
テンシャルのことであり,2 点融合値は体温等と同じ一種のポテンシャル値と考えられる.
聴覚的方法は脳の活性度を現すといわれている.また P 値は脳波と同じく周期をもった一
種の波動としてとらえることができる.ただし,脳波よりは周期がはるかに遅い.波長が長い
ので測定方法も脳波とはまったく異なったものになる.
2 音が聴覚的に 1 音に聞こえる状態(融合状態)から徐々に時間的間隔 T2 を広げると,
それらは 2 音に聞こえはじめる.また,逆に,完全に 2 音の状態からそれらの時間間隔を
狭めていくと 1 音に近い状態になる.この両方の時間的間隔の平均値を 2 音融合臨界値
という.実際には 2 音の融合状態つまり 1 音に聞こえる状態から時間間隔を徐々に広げ 2
音に聞こえ始めたときの 2 音の時間間隔を 2 音融合臨界値とする.それを数回繰り返し(3
~5 回),その平均値をとる(単位はミリ秒).これを T 値とする.
測定は,ヘッドホンなどで作業前値と作業後値のそれぞれの T 値を求める.無負荷時
の P 値の変動を求め,負荷時の P 値の変動と比べる.作業負荷により P 値に歪みが生じ
るが,この歪みが作業疲労と関係すると示している.
脳波のアルファ波
アルファ波(α波)はヒト・動物の脳が発生する電気的信号(脳波)のうち,8~13Hz 成
分のことをさす.安静(リラックス)・閉眼時の脳波においては,他の周波数成分に比べて
α波の占める割合が高い.開眼や視覚刺激時,運動時,暗算計算などの精神活動時,
16
緊張時,睡眠時には減少する.現在のところ,リラックス時にα波が増えることが判明して
いる.東芝株式会社は,集中力の高さやリラックスの度合いを脳波から読み取る機器を開
発している.スポーツ選手が試合前に精神状態を安定させるために,この機器を活用する
場合がある.
2.2.2 生化学的評価方法
カテコールアミン・コルチゾール
生体の急性ストレス反応は,血中に放出されるカテコールアミンやコルチゾールの濃度
を測定することで観察できる.しかし,血液採取は医療行為という制限が伴い,穿針採血
によるストレス負荷で真のストレス状態を正しく測定・評価できない可能性がある.尿検査
では,即時的なストレス反応を検出し難く,代謝物質を含めて測る必要もある.
唾液で測定できるストレスマーカーは,血漿から唾液へ移行する成分(コルチゾール)と
唾液腺から分泌される成分(α-アミラーゼ,クロモグランニン A など)である[11-12].
血漿中の成分が唾液中に移行する場合,濃度は通常数十分の 1 程度に減少するが,数
~数十 nM レベルの唾液中のコルチゾールは,酸素免疫吸着測定法(ELISA)で測定で
きる.一方,カテコールアミンも唾液中に移行するが,濃度がサブ nM(10 億分の 1 モル
数)以下と極めて低く,しかも口腔内で直ちに分解が始まることから,正確に測定すること
は現在のところ行われていない.
ヒトヘルペスウイルス 6 型活性
ヒトヘルペスウイルス 6 型活性(HHV-6)は,1 歳半までに多くの人に感染し,突発性発
疹を起こす.ストレスによる疲労が,HHV-6 の再活性化を誘導し,再活性化した HHV-6
は唾液中に放出される.
ヒトヘルペスウイルスは初感染時のウイルス増殖後に増殖を一旦停止し,神経節やマク
ロファージ系細胞などで潜伏感染状態となるが,免疫力の低下とともに単純ヘルペスウイ
ルス 1 型(HSV-1)が再活性化し,口唇ヘルペスを発症する.疲労や慢性疲労症候群の
研 究 では, HSV-1 ではなく,活 性 化 頻 度 が高く,かつウイルスが唾 液 中に放 出 される
HHV-6 およびヒトヘルペスウイルス 7 型(HHV-7)の DNA 量が利用される[13].
コットンを用いて唾液を採取する.唾液中のウイルス量から疲労度を予測できる検査キ
ットの実用化が近いといわれ,唾液で測れる客観的な指標として期待されている.しかし,
いくつかの課題がある.
唾液は,大唾液腺(耳下腺・顎下腺・舌下線)と多数の小唾液腺から分泌され,漿液と
粘液が混合される.交感神経・副交感神経の二重支配を受けており,ホメオタシス(生体
の状態が一定に保たれるという性質)が維持されている血液とは異なり,唾液分泌量,粘
度,組成などの変動や個人差が大きい.たとえば,唾液採取前にうがいをすると,唾液は
17
希釈され濃度変化が生じる.それらを補正する成分も確立されていない.
日内変動リズムに加えて,運動,飲食,排泄,入浴,仕事など,すべての生活行動が常
に交感 神経 系と神経 内 分泌 系へ何 らかの影響 を及ぼすため,唾 液の成 分が変 動する
[14-15].
2.2.3 問診による評価方法
自覚症しらべ
日本産業衛生学会産業疲労研究会が,1954 年に「自覚症状調査票」を作成した.そ
の後改定し,1970 年に「自覚症状しらべ」,2002 年に「自覚症しらべ」を作成した.
現在使われている「自覚症しらべ」は,2001 年 10 月に 1956 名を対象に実施した試行調
査結果を因子分析し,訴えをⅠ群・ねむけ感,Ⅱ群・不安定感,Ⅲ群 ・不快感,Ⅳ群・だる
さ感,Ⅴ群・ぼやけ感の 5 因子,質問項目を 25 項目(Table 2-2),評価段階数を 5 段階
に設定したものである.「自覚症しらべ」の五つの項目群と各群に含まれる質問を Table
2-2 に示す.
作業者自身の簡単なチェックによって,作業の負荷に対応した症状がチェックできるこ
と,時間を追っての自覚症変化の把握ができること,さらに,作業負荷との対応や時間を
追っての変化を 5 因子構造のなかで考察できる[16].現在,疲労感の調査として研究や
現場調査で広く使われている.しかし,作業者の対象職場の特質を勘案しなければなら
ないこと,他の心理・生理機能検査などと組み合わせて調査を実施し,総合的に判断しな
ければならない.また,主観的な個人の判断によるところが多い点が課題である.
Table 2-2.Question about subjective feelings of fatigue (Working Group for
Occupational Fatigue, Japanese Society of Occupational Health)
[17]
表 2-2 「自覚症しらべ」の五つの項目群と各群に含まれる質問
【Ⅰ: drowsiness】
【Ⅱ: instability】
【Ⅲ: annoyance】
【Ⅳ: lassitude】
【Ⅴ: fuzziness】
drowsy
anxious
headache
dullness in the
arms
blinking
desire to lie down
depressed
heaviness in the
head
pain in the lower
back
eyestrain
yawning
restless
illness
pain in the hands
or fingers
pain in the eyes
lack of desire to
do anything
nervous
brain hot or
muddled
tired in the legs
dry eyes
tired in the whole
body
have difficulty in
thinking
dizziness
stiff in the neck
and shoulders
blurred vision
18
National Aeronautics and Space Administration Task Load Index : NASA
‐TLX
米国の NASA で開発されたタスクロード・インデックス(NASA‐TLX)は,簡便な主観的
ワークロード(作業負荷・負担)評価尺度として実験室でも実際の作業でも広く使われてい
る[18-19].
NASA-TLX を 構 成 す る 下 位 尺 度 は , (1)MENTAL DEMAND ( 精 神 的 要 求 ) ,
(2)PHYSICAL DEMAND(身体的要求),(3)TEMPORAL DEMAND(時間的圧迫
感),(4)PERFORMANCE(作業 達成度),(5)EFFORT(努力),(6)FRUSTRATION
LEVEL(不満)の 6 つである.NASA-TLX における尺度名とその説明文を Table 2-3 に
示す.
Table 2-3.NASA-TLX Questions[18],[20]
表 2-3 NASA-TLX における尺度名とその説明文
Title
Points
Descriptions
MENTAL DEMAND
Low /High
How much mental and perceptual activity
was required?
PHYSICAL DEMAND
Low /High
How much physical activity was required?
TEMPORAL DEMAND
Low /High
How much time pressure did you feel
about the rate or pace at which the tasks
or task elements occurred?
PERFORMANCE
Good /Poor
How successful do you think you were in
accomplishing the goals of the task set?
EFFORT
Low /High
How hard did you have to work to
accomplish your level of performance?
FRUSTRATION LEVEL
Low /High
How irritated, stressed and annoyed did
you feel versus content, relaxed and
complacent ?
作業のあとで被験者は 6 つの尺度それぞれに対する評定を,両極の間にひかれた目
盛りのない直線上に印をつけることによって行う. NASA-TLX 評価用紙の例 を Fig.2-1 に
示す.たとえば「精神的な負担」の場合,高いと低いの間の適当な位置にチェックする.実
験者は,被験者が印をつけた線分上の位置を定規で測り,0~100 の評定値をその下位
尺 度に与 える.これを素 点 とする. 三宅 らが提 案 した Adaptive weighted workload
(AWWL)法を使用して評価する場合は,6 つの素点に小さいほうから 1~6 位の順位づけ
をし,この順位をそのまま重み付け係数とする.同順位については平均順位をあてはめる.
19
この場合,重み付け総和を係数の総和である 21 で割って平均値を求める.得点が高いと
作業の負担が高いと感じていることを示す.作業の負担度を示す指標である.
Mental demand
Low
High
Physical demand
Low
High
Temporal demand
Low
High
Own performance
Good
Poor
Effort
Low
High
Frustration level
Low
High
Fig.2-1. NASA‐TLX Ratings.
12-cm lines are presented.
図 2-1
NASA‐TLX 評価用紙の例
12cm の線分が用いられる
蓄積的疲労徴候インデックス
蓄積的疲労徴候インデックス(Cumulative Fatigue Symptoms Index: CFSI)は,慢
性疲労に関する問診票である.心身の症状・状態などに関する 81 の質問からなっている.
これらの各質問について,対象者の最近の症状や体験を問う方式であり, 一定の時点で
の症状ではなく,ときどき,または何日間か停滞しているような症状・状態,違和感の有無
をたずねる.CFSI は,心身の症状・状態などに関する 81 の質問に対する答えを,8 特性
の分類を行う. 各特 性の名 称は,因子 分析(主成 分分 析)により 分 類された「質 問項 目
群」の共通するイメージ,または,その特性を表現すると考えられる典型的な質問項目に
よって名づけられている[21].
8 特性とは,(1)NF1(9 項目)気力の減退,(2)NF2-1(10 項目)一般的疲労感,(3)
NF2-2(7 項目)身体不調,(4)NF3(7 項目)イライラの状態,(5)NF4(13 項目)労働意欲
の低下,(6)NF5-1(11 項目)不安感,(7)NF5-2(9 項目)抑うつ感(抑うつ状態),(8)
NF6(8 項目)慢性疲労徴候である.
CFSI は,労働・生活による心身負担の主観的評価法として開発された「評定尺度」で
あって,職場や職種など一定単位集団の応答結果を「特性項目群」別に「平均訴え率」
の形でとらえる方式をとっている.さらに、それらを「基本パターン」上に展開し,その「模
様」から対象集団の「負荷」の度合いを判定しようとするものである.すなわち,当該集団
20
に共通する負荷要因(勤務条件等)を探る.
評価の対象となる集団は,特定の「職場・職種」などであって,対象数も限定されること
が多く,集計上年齢分布等を考慮するまでに至らない場合がある.年齢段階区分による
資料分析を行ったとしても,例数が少ない場合は,単なる名目的な区分に終わることもあ
る[22].
具体的には,CFSI の 8 特性の分類から項目ごとに「訴え者率」を求める.
対象となった集団の,特性別平均訴え率を 8 特性について説明する.
当該特性における訴え総数
平均訴え率=
 100
(%)
各特性の項目数  対象人数
その値を「基本パターン」に載せ,図示する.これが,「CFSI 応答パターン」である.
「基本パターン」は,男子 37646 例,女子 23835 例の各平均訴え率と 70 パーセンタイ
ル値,Q 3 値(3/4 位値)に基づいて設定している.
以上のように,質問調査票や問診票による疲労の評価方法が開発されている.本研究
では,これらの問診票と合わせて総合的に評価が行える定量的な評価方法を構築する.
2.3 精神疲労の評価方法の考え方
2.3.1 作業負荷方法の選定
生体信号による新たな精神疲労の評価方法を作成するために,疲労を誘発する課題
作業について検討し,ISO(国際標準化機構)10075 におけるワークモデル[23]に準拠し
た.ISO(国際標準化機構)10075 におけるメンタルワークロードモデルを Fig.2-2 に示す.
ISO10075 に お け る メ ン タ ル ワ ー ク モ デ ル で は , 課 題 作 業 ( TASK ) , 装 置
( EQUIPMENT ) , 物 理 的 環 境 (PHYSICAL) , 社 会 的 環 境 ( SOCIAL
ENVILONMENTAL)が精神疲労(MENTAL FATIGUE)を与えると定義している[24].
また,課題は,NASA-TLX における尺度名(主観的評価尺度)の知的・知覚的要求,身
体的要求,タイムプレッシャー,作業成績,努力,フラストレーション,全体的な負荷の内
の一つであるため,本研究では,課題作業を疲労の誘発課題として選択した.課題作業
の中でも,VDT 作業と暗算作業を選択した.VDT 作業は,厚生労働省が「VDT 作業に
おける労働衛生管理」というガイドラインを出しており,VDT 作業による心身の疲労の予防
に留意するようにすすめている[25].また,暗算作業は精神疲労を誘発する作業と言わ
れている[26].
専門家の用いる専門用語と日常 語との間には意味の違いがあるため,言語上の困難
が生じるかもしれない.日常語の負荷には,やや否定的な意味合いがあるが,この国際規
格では負荷に全く中立的な意味をもたせており,個人が外部から受けて精神的に影響を
被る評価可能なすべての要因を含むものとしている.従って,専門用語としての“精神的
負荷”の中には,日常会話の用法で“負担からの開放”と表現されるような外部影響が含ま
21
れている.
WORK ENVIRONMENT
TASK
EQUIPMENT
PHYSICAL
ENVILONMENRAL
SOCIAL
ENVILONMENTAL
MENTAL STRESS
INDIVIDUAL
MENTAL STRAIN
ACTIVATION
WARMING UP
MENTAL
FATIGUE
MONOTONY
FACILITATING EFFECTS
REDUCED
VIGILANCE
SATIATION
IMPAIRING EFFECTS
Fig.2-2.The stress-strain-effects model of ISO 10075[23]
図 2-2 ISO(国際標準化機構)10075 におけるメンタルワークロードモデル(Nachreiner,
F.,Industrial Health,37,p.129,1999,の Fig.1 より転載)
精神疲労および関連する用語は,ISO(国際標準化機構)10075 で定義されている内容
であり,下記に示す[27].
1)精神的負荷(MENTAL STRESS):外部から人間に対して及ぼし,かつ精神的に作
用する評価可能な影響の全体.
2)精神的負担(MENTAL STRAIN):精神的負担によって個人の内部に直ちに起こる
影響(長期にわたる影響ではない)であって,各人の対処様式を含み,個人の習慣及び
その時の条件(Precondition)に依存するもの.
3)精神的負担の影響
・促進的効果(FACILITATING EFFECTS)
ウオーミングアップ効果(WARMING‐UP EFFECT):ある活動を始めたすぐ後に,
当初に要した努力に比べてその活動を行うために必要な努力が少なくてすむよう
になるような,精神的負担によって普通に起こる影響.
活性化(ACTIVATION):精神的及び身体的機能の効率に差がある内部状態.な
お,精神的負担は,その持続期間と強さとによって,活性化の程度に違いを起こし,
活性化が最適であるような領域すなわち機能の最高の効率が保証される領域があ
る.あまり急激な負担の増大は,好ましくない過剰な活性化をもたらすことを意にと
どめる.
22
・減退的効果(IMPAIRING EFFECT):減退的効果は,回復の時間的パターンおよ
び回復の方法によって区別する.また,症状によっても区別される.回復にかかる
時間,又は回復のための活動の多様性の点で,減退的効果はより普遍的であるこ
ともあり,より特殊であることもある.
・精神疲労(MENTAL FATIGUE):事前の精神的負担の強さ,持続期間及び時間
的パターンに依存する精神的及び身体的機能の効率の一時的な減退.精神疲
労の回復は,活動の変化よりも回復作用によって行われる.この機能の効率の低
下は,例えば,疲労感,努力のわりに成果があがらない,過誤の種類や発生頻度
などによって明らかになる.
・疲労様状態(FATIGUE‐LIKE STATUS):状況がほとんど変化しないために生じる
精神的負担の影響を受けている個人の状態.この状態は,任務 または環境・状況
が変わればすぐに消失する.この状態に,単調 感,注意力低下,心的飽和がある.
精神疲労と同様に疲労感は,通常,疲労様状態でも生じる.しかし,疲労様状態
は,一時的であるという点で,精神疲労とは異なる.特に,このような疲労様状態で
は,著しい個人差がみられる.
・単調感(MONOTONY):長時間の,単一の,繰り返しの任務又は活動の間に起こり
やすい.活性化の減退がゆっくり進行する状態であり,主として心拍変動の増加の
ほか,眠気,疲労感,遂行能力の低下及び変動,並びに適応力及び責任感の低
下を伴うもの.
・注意力低下(REDUCED VIGILANCE):ほとんど変化のない監視任務で,(例えば
レーダや計器パネルの監視中)発見能力の低下がゆっくり進行する状態.
・心的飽和(MENTAL SATIATION):反復的な任務又は状況に対し神経的に不安
定になって,強い感情的な拒否を示す状態であり,経験的には“ぐずぐずする”ま
たは“うまくいかない”というような状態.
その他,作業負荷:作業強度,作業密度,作業困難度,時間的制約,作業のトラブル
などが上げられる[28].
2.3.2 生体情報の選定と測定機器
精神疲労の急性疲労期を評価するために使用する生体情報の項目の選択について
検討した.
測定項目として 1)主観量,2)生理量,3)行動量の 3 つの範疇より検討した.1)主観量
は,「自覚症しらべ」,「疲労感の変化」,「NASA‐TLX」を使った問診票,2)生理量は,呼
吸機能(呼吸数),神経機能(脳波,筋電図),循環機能(血圧,心電図,心拍数,皮膚
血流量),視覚機能(瞬目),体温調節機能(表面皮膚温度(熱電対センサ・サーモトレー
サー)),代謝・分泌機能(発汗・唾液),3)行動量は,作業量とミス回数である.実験の時
間 帯 , 生 体 情 報 の 種 類 , 測 定 時 間 , 測 定 機 器 , 測 定 方 法 ,セ ンサの 貼 り付 け 位 置 ,
23
「VDT 入力作業管理ソフト」の作動状況,自覚症しらべを記入するタイミング,被験者の
体調等を管理する事前調査票の質問事項等を検討した.そこで,測定項目が適正か予
備実験を行った.
予備実験は,6 名の被験者に対し合計 6 回の実験を行った.被験者に痛みや違和感
がなく,測定項目が多すぎて実験自体で疲労しないか,また,VDT 入力作業の障害にな
らないかなど検討し,急性疲労に速く反応する自律神経系の測定項目に絞った.
最終的には,前額部および鼻尖部の表面皮膚温度,心拍数または脈拍数,皮膚血流
量,呼吸数とした.
前額部の表面皮膚温度の変化は,中枢系の活動の伴う温度変化を反映していると言
われ通常は変化しにくい.鼻尖部の表面皮膚温度は,情動反応や緊張感などに起因す
る精神性ストレスから影響を受けるといわれ,不快状態の時には,交感神経の作用により
血流が減少し温度が下降すると言われている[29].中枢の活動の指標として前額部の皮
膚温度を,情動ストレスによる心理状態を表す指標として鼻尖部における表面皮膚温度
を測定した.心拍数は,交感神経および副交感神経の活動を反映する. 皮膚血流量は,
レーザードップラー血流計を使用して測定した赤血球容量と速度との積とした.呼吸数は,
心理的状態を反映する.
疲労の主観的な評価は,既に使用されている「自覚症しらべ」と「疲労の変化」を使用し
た.「疲労の変化」は,筆者が作成したもので,疲労感を 0~9 の数字で表す.これは,0 を
疲労感無し,9 を作業が続けられないほどの疲労感とした.作業の負担度を示す指標で
ある NASA-TLX を使用した.
以上より,負担の指標として下記の項目を選択し測定した.
(1)主観的指標
・自覚症しらべ,疲労の変化,NASA-TLX
(2)生理・心理的指標
・前額部および鼻尖部の表面皮膚温度
・心拍数または脈拍数
・前腕または手掌部の皮膚血流量
・呼吸数
生体信号は環境(室温,湿度,照度,騒音,気圧,電磁波など)と被験者の体調に左
右されやすい.また,VDT 作業を行う室内の温度は 17~28 度,湿度は 40~70%,エア
コンの風などが作業者に直接当たらないようにすることが重要といわれている[30-32].
よって,表面皮膚温度を測定することを考慮して周囲の環境を一定にできる人工気候室
や実験室で行い,条件は,室温 25℃,湿度 60%,騒音 60dB,照度 680Lux,上着衣量
140g,風速 0.2m / s,シールド使用(減衰率 40dB 以上(at 0.5~200MHz))とした.実
験場所は,室温などを設定できる人工気候室または室温を設定できる実験室を使用し,
24
計測する表面皮膚温度に影響を与えないように環境要因を排除した.人工気候室は,温
度及び湿度環境を精密にコントロールして,温湿度環境に対する人の生理的反応を計測
する装置である.
つぎに,センサおよび電極の位置を Fig.2-3 の(a),(b),(c)に示す.測定部位の微妙
な位置のずれ,被験者の筋肉のつき方などにより,生体情報が抽出しにくい場合がある.
実験を始める前に,測定部位と波形の状態を十分確認した.表面皮膚温度の測定に使
用する熱電対センサは実験室内の雑音を拾いやすいので,エポキシ系樹脂でコーティン
グした CC 熱電対を使用した.また,実験中の電撃事故防止のため,被験者の右肩に必
ずアースを取り付けた.呼吸数の測定は,サーミスター方式の呼吸ピックアップを使用した.
心拍数は,心電図の R 波から計測した.前額部・鼻尖部の表面皮膚温度,前腕の皮膚
血流量,心拍数,呼吸数は,90 分間連続して測定し,10 秒おきに記録した.なお,心拍
数と呼吸数は 1 分間の平均値として記録した.
Surface skin temperature
(forehead)
Respiratory rate
Surface skin temperature
(tip of nose)
(a) Surface skin temperature at forehead and tip of nose and
respiratory rate.
(a) 前額部および鼻尖部の表面皮膚温度と呼吸数
Electrocardiogram
Earth
(b) Electrocardiogram (heart rate).
(b) 心電図(心拍数)
25
Skin blood flow in the
forearm
(c) Skin blood flow in the forearm.
(c) 前腕の皮膚血流量
Fig.2-3.Points of measurement.
図 2-3 測定部位.
実験で使用した測定機器の一覧を Table 2-4 に示す.実験室内の環境を一定にする
ために,実験中は,実験室内に被験者以外は立ち入らなかった.実験室で測定した生体
情報は,無線で監視室に送 った.また,被験者に指示をする場合は,監視室のマイクを
使用した.
Table 2-4.The measuring instruments
表 2-4 測定機器一覧
Item
Measuring instrument
Unit
Thermo-couples (copper-constantan)
degree Celsius
Thermo-couples (copper-constantan)
degree Celsius
Heart rate
ECG monitor (model:Bioview 1000
PB1402,NEC,Tokyo)
/minute
Skin blood flow
Laser-doppler flow meter (model:
BPM-403A,TSI,St.Paul,MN)
ml/min/100cc
Respiratory rate
Thermistor
/minute
Surface skin temperature (forehead)
Surface skin temperature (tip of nose)
2.3.3 被験者の選定
被験者の選定に当たって,若年者を対象者とした.高齢者の生体データは個人差があ
りばらつきが大きいと言われている.また,出来る限り個人差を排除するために,条件を統
26
一した.飲酒,睡眠,タバコ,カフェイン,女性の生理周期の影響を少なくするために, 被
験者の条件を統一した.被験者は,40 歳以下の若年者で健康な男女,VDT 作業経験
年数が 5 年以上 10 年以下,非喫煙者であり,女性の被験者の場合,実験は生理日以外
に行った.被験者には,前日に調査票を渡し,前日からアルコールおよびコーヒーは摂取
せず,十分な睡眠時間をとるよう指示し当日確認した.調査票を Fig.2-4 に示す.
調
査
票
本日の実験を行うにあたり、以下の質問に正直にお答え下さい。
氏名
年齢
性別
1.本日の体調はいかがですか
(
職業
良好 ・
普通 ・不良 )
2.昨夜の睡眠についてお尋ねします。
(ア)
睡眠時間について
(イ)
睡眠時間は何時間でしたか
(ウ)
目覚めたときの気分はどうでしたか
昨夜(
)時頃就寝、今朝(
(
時間
)時 起床
分)
( 良好 ・
普通 ・
不良)
(
)本
3.喫煙しますか
(ア) はい
→
今朝起床してから何本吸いましたか
今日最後に吸ったのは今からどれ位前ですか (
(イ) やめた
→
いつやめましたか (
)分位前
年くらい前)
(ウ) いいえ
4.昨夜、飲酒しましたか
(ア) はい
→
どれ位飲みましたか
(
)合くらい
(イ) いいえ
5.今日、コーヒーを飲みましたか
(ア) はい
→
今朝起床してから何杯飲みましたか
(
今日最後に飲んだのは今からどれ位前ですか (
)杯
)分位前
(イ) いいえ
6.現在治療している疾患がありますか
(
はい ・
いいえ
)
→(疾患名
)
7.最近、服薬している薬剤はありますか
(ア) はい
→ (薬剤名
)
(イ) いいえ
8.VDT 作業について教えてください
(ア) 作業経験
約
(
)年くらい
(イ) 作業頻度
1.
毎日平均で何時間くらい VDT 作業を行いますか
(
)時間
2.
休日には VDT 作業をどれくらい行いますか
(
)時間
(ウ) 通常の入力方法はどれですか
(
(エ) ブラインドタッチはできますか
ローマ字入力 ・ かな入力 ・ その他
( はい
・ いいえ
)
・何となく )
9.上肢、指先、腰等に痛みやこり等がありませんか
(ア) はい
→ (
部位:
症状:
)
(イ) いいえ
10. 最後に食事をしたのはいつですか
(
)時間前
Fig.2-4.Questionnaire.
図 2-4 調査票
2.4 まとめ
先行研究における精神疲労の評価方法を検討した.
1) 生体信号による評価方法は,声の変化,脈波の揺らぎ,聴力の変化,心拍の低周波
高周波の増減,脳波のα波の割合などによって,ストレスや居眠りを検出する.製品
27
化に到っているものもあるが,疲労を検出するまでに到っていない.疲労のメカニズム
が解明されていないため,疲労時に現れる生体信号の変化を捉えることによって,スト
レスなどを評価する方法である.
2) 生化学的な疲労の評価方法は,急性ストレスを評価できるためストレスマーカーが今
後疲労の評価方法として期待されている.ただし,唾液の濃度の不均一や痛みを伴う
血液採取などが課題となっている.
3) 質問調査票や問診票による主観的な疲労の評価方法は,作業者の簡単なチェックに
よって作業の負荷に対応した症状が確認できる.疲労感の調査として有用であり広く
使用されている.定量的な精神疲労の評価方法と合わせて使用すると結果の信頼度
が高くなると思われる.
質問調査票や問診票による主観的な精神疲労の評価方法に合わせて,新たな定量的
な精神疲労の評価方法を作成し,総合的に評価することにより,信頼度の高い精神疲労
の評価が可能と思われる.そこで,いくつかの生体信号を組み合わせて疲労と結びつけ、
生体信号から精神疲労の定量的な評価方法を構築する.
先行研究から,精神疲労の評価には以下の課題が見られた.先行研究の生体信号に
よる評価では疲労のメカニズムが明確に立証されていないため,複雑な疲労現象を生体
信号で評価できないことが,精神疲労の評価方法が確立されていない原因である(課題
1).また,精神疲労は,免疫・自律神経・循環器系など複雑な系が係わっているため,精
神疲労の現象を数式モデルで構築することが難しい.そのため,精神疲労を数値化する
ことができていない(課題 2).
課題 1 を解決するために,いまだ解明されていない疲労のメカニズムは未知として生体
信号から独立成分を抽出できる ICA による疲労に関連する信号の抽出手法を構築する.
その結果を受けて,課題 2 を解決するために,局所モデルを構築し,作成したモデルを用
いて出力を推定するため,非線形システムに対しても高い推定精度が得られる LOM を使
用して,疲労度の推定手法を構築し,加えて実用化に向けて LOM の手法を取り入れた
疲労度ソフトセンサの開発を行なう.
精神疲労の評価方法の考え方として,生体信号による新たな精神疲労の評価方法を
作成するために,作業負荷方法の選定,生体情報の選定 と測定機器,被験者の選定に
ついて検討した.精神疲労を誘発するために,ISO(国際標準化機構)10075 に準拠した
課題作業による作業負荷を与える.生体情報の選定として,急性疲労に速く反応する自
律神経系の測定項目に絞り,前額部および鼻尖部の表面皮膚温度,心拍数 または脈拍
数,皮膚血流量,呼吸数の 5 項目とする.被験者の選定に当たっては,若年者を対象と
し,出来る限り個人差を少なくするために,飲酒,睡眠,タバコ,カフェイン,女性の生理
周期の影響を排除する.
28
第 2 章参考文献
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30
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