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高放熱・高反射のアルミナ表層窒化アルミニウムMID

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高放熱・高反射のアルミナ表層窒化アルミニウムMID
特集「制御機器・デバイス技術」
高放熱・高反射のアルミナ表層窒化アルミニウムMID
High Heat Radiation and High Reflection Rate Aluminium Nitride MID with Alumina Surface
木下 直輝* ・ 佐藤 正博* ・ 小林 充** ・ 立田 淳** ・ 武藤 正英***
Naoki Kinoshita
Masahiro Sato
Mitsuru Kobayashi
Jun Tatsuta
Masahide Muto
放熱性に優れた 3 次元形状の基板を得るため,射出成形した窒化アルミニウムの表面にアルミナ層を
形成することで,レーザ加工による回路パターン形成時に,その熱による窒素脱離に伴うアルミニウム
の析出を防止できる MID を開発した。また,このアルミナ層の構造をアンカ状にして厚膜化すること
によって,高い回路密着力の維持と反射率の向上を実現している。
これらにより,高輝度 LED 用パッケージなどに適した高放熱 MID が可能となった。
In order to obtain a three-dimensional substrate with high heat radiation, an MID package has been
developed by forming an alumina layer on the surface of injection-molded aluminum nitride. The alumina
layer prevents precipitation of aluminum caused by laser processing heat during circuit pattern forming. In
addition, by modifying the surface alumina layer to an anchor structure, the high adhesion strength of circuit
patterns and improved surface reflection rate have been achieved.
The developed high heat radiation MID is suited for high power LED packages.
1. ま え が き
2. 窒化アルミニウムMIDの開発目標と課題
近年,白熱灯や蛍光灯に代って LED 照明が脚光を浴び
ている。長寿命や省エネルギーだけでなく,調光や色調
2.1 開発目標
当社の MID 製造プロセスは,図 1 に示すように成形
変更も可能でデザイン性が増すことから,2008 年に 133
技術,メタライジング(薄膜形成)技術,レーザ加工技
億円規模であった LED 照明の市場は 2012 年には 4 倍の
術,めっき技術,切断技術などの要素技術を複合した加
1)
578 億円に成長するといわれている 。しかし照明が全
面的に LED に置き換わるには,高出力化,高発光効率化,
低コスト化などの課題がある。そのため,LED パッケー
ジには高放熱性,高反射率,小型などの特性が求められる。
このような背景から,立体的なセラミックス成形品の表
面に直接電気回路を形成する,MID を用いたパッケージ
工技術であり,これらを総称して MIPTEC(Microscopic
Integrated Processing Technology) と 呼 ん で い る * 1),2)。
MIPTEC はレーザを用いて基材に直接回路形成を行う工
法であり,高精度で微細な 3 次元回路パターンと高いベア
チップ実装信頼性を特徴としている。
このような工法を窒化アルミニウム基板に適用し,用途
が注目されている。MID は機構部品としての機械的機能,
として LED モジュールなどを想定すると,開発目標は表
および配線回路としての電気的機能を有しており,小型化
1 のようになる。以下に,表 1 の各目標値について課題を
に加えて組立合理化と高精度化を図ることが可能である。
概説する。
筆者らは,熱伝導率の高い窒化アルミニウムを用いた
MID 基板を開発し,その表面を改質することで高放熱性,
高反射率,小型化,および組立性の向上を実現した。本稿
ではその技術と応用事例について述べる。
* 生産技術研究所 Production Technologies Research Laboratory
** 制御機器本部 コネクタ事業部 Connector Division, Automation Controls Business Unit
*** 制御機器本部 ものづくり革新センター Manufacturing Inovation Center, Automation Controls Business Unit
16
パナソニック電工技報(Vol. 58 No. 4)
一般的に,セラミックス部品において高い寸法精度が要
求される場合には,研削などの後加工を行うことがある。
①成形
・絶縁材料を3次元形状に成形
・個片をシート状に多数配置
しかし窒化アルミニウムは強度が低く,研削加工を行うと
図 3 のようにクラックが生じるおそれがある。そこで後加
工をせずに,高い寸法精度を達成する必要がある。
②メタライジング
・成形品の表面に導電膜を形成
③レーザーパターンニング
・回路パターンの輪郭部の導電膜除去
・回路部と非回路部を絶縁
チップ実装部
平面度 0.01 mm以下
④銅めっき・ソフトエッチング
・回路部のみ電気銅めっき
・ソフトエッチングにより非回路部の
導電膜を除去
リフレクタ用斜面
⑤ニッケル・金(銀)めっき
・ニッケル・金(銀)めっきの順に電気めっき
⑥シートを各個片に分割切断
・シートを切断して各個片に分割
実装部肉厚0.3 mm
図 1 MIPTEC による MID 製造プロセス
表 1 窒化アルミニウム MID の開発目標
項目
基板
形状
基板
特性
0.8∼
1.5 mm
LED パッケージ平面図
A−A 断面図
図 2 一般的な LED パッケージ形状
目標値
シートサイズ(X×Y)
40×40 mm
シート反り
0.1 mm以下
実装面平面度
0.01 mm以下
重要寸法精度
±1 %以下
薄肉部の厚み
0.3 mm
熱伝導率
170 W/m・k以上
回路密着力(90 °ピール強度)
1 N/mm以上
反射率
70 %以上
MIPTEC で回路形成可能
レーザ照射時にアルミニウムの
析出がないこと
個片裏面
クラック
500 µm
図 3 研削加工後のクラック例
2.2 高精度薄肉成形の課題
一般的に LED パッケージは,すり鉢状の形をしてい
2.3 高機能表面処理の課題
る(図 2)
。これは斜面を反射板(リフレクタ)として活
窒化アルミニウム基板の表面にレーザを照射すると,熱
用し,LED モジュールとしての発光効率を高めるためで
エネルギーを受けて窒素が脱離し,金属であるアルミニウ
ある。また LED チップを実装する部分は放熱性を考慮し
ムが析出する。そのため,MIPTEC で用いられているレー
て薄くすることが必要とされ,部位により厚みが大きく異
ザ輪郭除去法においては,回路と非回路部が導通して回路
なる。薄肉部の厚みは 0.3 mm 程度であることが望ましく,
形成が不可能になる問題があることから,基板表面には耐
実装面平面度は 0.01 mm 以下と高い寸法精度が要求される。
レーザ性を高めるための保護膜が必要となる。
また MIPTEC では,生産性を高めるために複数の個片
また LED は動作時に高温になるため,MID には温度変
を一体化したシートで加工を進め,最後に各個片に切断す
化に耐える高い回路密着力が要求される。前述の保護膜を
る。そのため窒化アルミニウム基板もシート状に成形する
形成する場合,この膜と下地の窒化アルミニウム基板との
必要があり,最終工程の切断を考慮するとシートの反りを
間にも高い密着力(1 N / mm 以上)が必要である。
0.1 mm 以下に抑える必要がある。
さらに,LED パッケージのリフレクタ部分には高い反
パナソニック電工技報(Vol. 58 No. 4)
17
射率が望まれる。図 4 に,窒化アルミニウムと一般的な
て設定する。
セラミックス材料であるアルミナの熱伝導率および反射率
②射出成形により,3 次元回路基板の成形体を得る。
の比較を示す。窒化アルミニウムは放熱性が高いことか
③脱脂工程で,成形体に含まれる樹脂バインダを熱分解
ら LED モジュールなどの材料に好適であるが,反射率が
きわめて低いために発光効率が低下する。したがって,窒
化アルミニウムを用いる場合は反射率の向上(70 %以上)
して除去する。
④温度 1800 ∼ 1850 ℃の窒素雰囲気で焼結する。なお,
焼結の際には基板は 15 %以上収縮する。
⑤温度 1000 ∼ 1200 ℃の大気雰囲気で加熱して窒化ア
が必要となる。
ルミニウム基板の表面を酸化し,耐レーザ性と高反射
100
180
(波長 405 nm)
率の機能を兼ね備えたアルミナ層を形成する。
80
① 成形材料(窒化アルミニウム粉末+樹脂バインダ)
140
反射率(%)
熱伝導率(W/m・K)
160
120
100
80
60
40
④ 焼結
60
40
20
0.5 mm
20
0
窒化アルミ
ニウム
アルミナ
0
(a)熱伝導率
窒化アルミ
ニウム
アルミナ
② 射出成形
(b)反射率
⑤ アルミナ層形成(熱酸化)
図 4 窒化アルミニウムとアルミナの熱伝導率と反射率
3. 窒化アルミニウム基板
③ 脱脂(樹脂バインダを熱分解)
3.1 成形法
2 章で述べた課題を解決するため,以下の技術開発が必
要となる。
図 5 窒化アルミニウム射出成形プロセス
(1)高精度 3 次元形状を成形するための窒化アルミニウム
射出成形技術
(2)耐レーザ性と回路密着力を高め,かつ高い反射率を得
るための酸化膜形成技術
説明する。
3 次元形状の窒化アルミニウム基板を成形する方法とし
3.2 高精度薄肉成形
ては,射出成形法のほかにプレス成形法や積層セラミック
ス法がある。しかし,プレス成形法は複数の個片から成る
3.2.1 成形材料
セラミックスの射出成形では,一般的に樹脂バインダ量
シートを作製する場合は金型が複雑になること,積層セラ
を多くすると流動性は向上するが,焼結時の収縮が大きく
ミックス法は平板を貼り合わせて構成するために他の成形
なり寸法ばらつきが大きくなる。したがって,薄肉成形が
法に比較して熱伝導率が低下することが欠点となる。これ
可能な流動性を確保しつつバインダ量を低減させる必要が
に対し,射出成形法は形状自由度に優れるという利点があ
ある。
ることから,筆者らはこれを採用する。
そこで筆者らはバインダ配合を見直し,高温度領域での
また窒化アルミニウムを酸化することで,表面に酸化膜
流動性を保ったまま,開発当初は 41 vol%であったバイン
であるアルミナ層を形成することができる。アルミナは非
ダ量を 39 vol%まで低減することを実現した。開発した成
常に安定な酸化物であり,耐レーザ性が期待できる。さら
形材料の流動性をフローテスタ CFT-500D(島津製作所製,
に図 4 に示すとおり,アルミナは高い反射率を有するため,
ダイス:径 1 mm,長さ 1 mm)で測定した結果を図 6 に
基板の反射率の向上が期待できる。
示す。
本プロセスを以下に示す。また,その模式図を図 5 に示
す。
①射出成形をするため,窒化アルミニウム粉末に樹脂バ
インダを配合した材料を用意する。樹脂バインダの配
合は,成形性のみならず,成形後の脱脂工程を考慮し
18
各工程のポイントを,2 章に提示した開発課題に対して
パナソニック電工技報(Vol. 58 No. 4)
開発当初の材料
3.2.4 寸法精度
このようにして得られた窒化アルミニウム基板の寸法精
開発材料
度として,実装面平面度と,基準から一番遠い個片位置の
流動性(mL/s)
1
ばらつきを図 9 に示す。実装面平面度は表 1 に示した要求
0.1
精度 10 μm を十分に下回っており,高いベアチップ実装性
を有していると判断できる。また,個片位置の精度も± 0.1
0.01
%程度と要求精度± 1 %を十分に満たしており,切断後も
高い個片寸法精度を維持できるといえる。
0.001
100
110
120
130
140
150
60
160
材料温度(℃)
評価数;270個片
図 6 成形材料の流動性
3.2.2 射出成形法
焼結の際に全体を均一に収縮させて高い寸法精度を実現
するためには,射出成形の際に材料をキャビティー内へ均
割合(%)
50
10 µm 以下
40
30
20
10
0
0
5
10
15
平面度(µm)
3)
一に流す必要がある 。図 7 に,40 mm 角の平板におけ
(a)実装面平面度
る実験結果を示す。ゲート形状により焼結後の変形が大き
50
く異なり,成形材料を均一に流すためにはファンゲートを
40
使用するのが有効である。
30
11.5 mm
26.3 mm
Ǎy(µm)
20
線に沿って
外形が変形
10
0
-10
-20
ゲート側
ゲート側
(a)ストレートゲート
寸法精度 ±0.1 %の範囲
-30
-40
(b)ファンゲート
-50
-50
図 7 ゲート構造による焼結品の変形
-40
-30
-20
-10
0
10
20
30
40
50
Ǎx(µm)
(b)個片位置の図面に対するずれ量
3.2.3 焼結法
図 8 に焼結温度とシートの反りの関係を示す。正の反り
図 9 寸法精度
はシートが上に凸,負の反りはシートが下に凸となる方向
を示す。このように,シートの反りは焼結温度に大きく影
3.3 高機能表面処理
響を受ける。そこで後述する表面の酸化条件との関係も考
3.3.1 耐レーザ性
窒化アルミニウム基板表面の耐レーザ性を高めるため,
慮し,シートの反りが小さくなる焼結温度を設定する。
基板を大気中で 1000 ∼ 1200 ℃に加熱して表面に安定な
シート反り(mm)
0.3
個々の測定値
平均値
0.2
上に凸
アルミナ層を形成する。図 10 に窒化アルミニウム基板に
に反る
レーザを照射したものと,その表面にアルミナ層を形成し
た基板にレーザ照射したものを示す。
0.1
0
−0.1
下に凸
−0.2
に反る
−0.3
低
高
焼結温度
図 8 焼結温度とシート反り量の関係
パナソニック電工技報(Vol. 58 No. 4)
19
このように,酸化膜中に窒化アルミニウムとアルミナの
傾斜膜が形成されてアンカ構造となることで,線膨張係数
差を緩和するとともに回路密着力を大幅に向上できる(図
レーザ未照射
13)。なお,回路密着力の測定には(株)島津製作所製の
EZ-test を用い,回路幅 2 mm,ピール角度 90 °で実施し
ている。
3.0
100 µm
100 µm
(a)アルミナ層なし
(b)アルミナ層あり
図 10 レーザ照射後,基板表面変化
アルミナ層を形成していない基板では表面に金属が析出
ピール強度(N/mm)
レーザ照射
し,光沢が見られる。一方,アルミナ層を形成している基
2.5
2.0
1.5
開発目標
1.0
0.5
0.0
板の表面ではレーザによる加工溝は見られるが,表面の変
色は見られず,金属析出を防止できている。
膜厚 2 µm
膜厚 4 µm
従来品
開発品
図 13 ピール強度
3.3.2 回路密着力
通常,窒化アルミニウム基板の表面を熱酸化すると,窒
化アルミニウムとアルミナの線膨張係数の差により界面強
膜厚 24 µm
度が低下する。そのため,アルミナ層の上に金属回路を形
3.3.3 反射率
表面にアルミナ層を形成することで反射率は向上するが,
成して回路剥離試験を実施すると,基板と金属回路の界面
一般的に厚み 5 μm 以上の酸化膜を形成すると基材との線
ではなく基板内のアルミナ層と窒化アルミニウムの界面で
膨張係数差により酸化膜に割れや剥離が発生する。した
剥離が起こり,十分なピール強度が得られない。
がって,通常の方法では厚膜化は困難であり,十分な反射
そこで筆者らは,窒化アルミニウム材料の焼結助剤量と
率を得ることはできない。しかし前述のアンカ構造の傾斜
焼結温度をある一定以上に設定することで,粒界層の複合
酸化膜を形成することで,酸化膜の割れや剥離を抑制して
酸化物の結晶構造を変化させ(図 11)
,その部位から酸化
厚膜化できる。図 14 に従来構造とアンカ構造の酸化時間
を進行させる方法を見いだした。これにより,図 12 に示
と膜厚の関係を示す。アンカ構造の酸化膜では粒界から酸
すようにアルミナ層である酸化膜を従来の板状構造から傾
化が促進され,その後粒内が酸化されていくため,通常の
斜膜構造にすることが可能となる。
表面から均質に酸化される膜と比較して短時間での厚膜化
が可能である。図 15 にアンカ構造の酸化膜厚と反射率の
関係を示す。5 μm 以上の厚膜化の達成により,目標であ
る 70 %の反射率を十分に満足していることがわかる。
ただし,アンカ構造の傾斜酸化膜を形成しても膜厚が 20
μm を越えると微細クラックが発生する(図 16)
。そこで
筆者らはクラックが発生しない領域で酸化膜を厚くしてい
5 µm
5 µm
(a)従来品
(b)開発品
る。
なお反射率の測定には,U-3010 形分光光度計(
(株)日
図 11 窒化アルミニウムの破断面
立ハイテクノロジーズ製,測定波長 405 nm)を使用して
いる。
表面
表面
酸化層
(アンカ状)
酸化層
窒化アルミ
ニウム
30 µm
30 µm
(a)従来の窒化アルミニウム基板
(b)開発した窒化アルミニウム基板
図 12 アルミナ層の比較
20
パナソニック電工技報(Vol. 58 No. 4)
窒化アルミ
ニウム
や,アルミナなどのセラミックスが用いられているが,そ
平均酸化膜厚(µm)
30
酸化保持温度:1100 ℃
れぞれに問題がある。
25
開発品
前者は,樹脂が光によって劣化,変色し,発光効率が低
20
下する。また LED チップとの線膨張係数の違いから,使
15
用環境によっては LED チップと金属板との界面が剥離す
10
従来品
る。
5
0
後者は,焼結前にペースト等を用いて電極を形成する場
0
5
10
15
20
25
酸化保持時間(h)
る場合は反射板をもった凹形状でなく,平板にしなければ
ならないなどの制約がある。
図 14 酸化時間と平均酸化膜厚の関係
図 17 に,LED チップを複数個実装可能なパッケージの
従来構造と MID 構造を示す。
80
従来の樹脂パッケージやセラミックパッケージでは困
波長=405 nm
78
反射率(%)
合は微細なパターン形成が難しく,焼結後に回路を形成す
難であった凹形状パッケージの底面への微細回路形成を,
76
MIPTEC のレーザパターニング技術を用いることで実現
している。これにより,複数の LED チップを高密度にフ
74
リップチップ実装することが可能となり,ワイアボンディ
72
70
ング実装の場合と比べてパッケージの小型化ができる。
0
5
10
15
20
窒化アルミニウム MID
リフレクタ
LED チップ
平均酸化膜厚(µm)
フリップチップ
実装(小型化)
ワイアボンディング
実装
図 15 平均酸化膜厚と反射率の関係
表層のみ
アルミナ
(高反射)
基板(窒化アルミ)
・フリップチップ(高発光効率)
・ワイアボンディング
金ワイア
影になる
発光層
配線パターン
図 17 従来構造と MID 構造の比較
5 µm
図 16 酸化膜のクラック
金バンプ
配線パターン
(b)MID 構造
(a)従来構造
50 µm
放熱
放熱
接着剤
LED
LED
発光層
また,発光面とパッケージの距離が近いことと,金属で
ある電極を介して放熱経路が確保されていることから,放
4. 窒化アルミニウムMIDの適用事例
以下に,本稿で開発した窒化アルミニウム MID の使用
事例を示す。
熱性が良くなって発光効率も向上する。
さらに,ベースとなる材料の窒化アルミニウムはアルミ
ナよりも放熱性が良く,前述したようにその表面を酸化さ
せてアルミナ層を形成することで,高反射率を確保してい
4.1 MIDパッケージの事例1
LED 照明の高出力化は,LED チップを大型化すること
る。
で可能である。しかし大型化した場合,チップ歩留の低下
によるコストアップや,チップ中央での自己発熱,半導体
4.2 MIDパッケージの事例2
高輝度 LED は可視光の照明用途だけでなく UV 光を用
の光起電力作用による発光効率の低下といった問題があ
いた工業用途にも活用されている。
る。したがって最近の電球型 LED ランプでは,小型で安
図 18 に示すように,UV インクの硬化に用いる水銀ラ
価な LED チップを複数個実装したものが主流となってい
ンプは,幅広い波長域と複数のピークエネルギーを有して
る。しかしこの場合,パッケージが大型化するデメリット
いる。そのため発光効率が低く,熱による製品の変色や変
もある。
形といった問題があり,UV インクの用途は製品のロット
また高出力化を達成するには,LED チップから発生する
番号捺印などに限定されていた。
熱を効率良く逃がすために熱伝導性の良いパッケージが要
しかし最近では,インクの進化と,それらの硬化に用い
求される。そのため,高輝度 LED のパッケージは銅やア
る UV 照射機の光源の LED 化により,カラー印刷機やイ
ルミニウムの金属板に白色の樹脂で反射板を形成したもの
ンクジェットプリンタにも UV インクが用いられてきてい
パナソニック電工技報(Vol. 58 No. 4)
21
る。
凸部(ワイアボンディング部)
また光源の LED 化により,光ピックアップ用のレンズ
接着など,従来熱に弱かったアクリルへの使用も可能とな
保護素子実装部
mm
5.1
り,部品接着用途への拡大が期待されている。
1.1 mm
UV 相対強度(%)
100
紫外線(水銀)
LED 光源
ランプ光源
mm
5.4
2.9
50
mm
外部接続端子
0
200
300
400
500
LED チップ実装部
図 19 UV-LED 用パッケージ
波長(nm)
図 18 UV 光源の波長領域
5. あ と が き
図 19 に MID である UV-LED 用パッケージを示す。中
放熱性に優れた 3 次元形状の基板を得るため,射出成形
央部には UV 光を発する LED チップが実装され,その右
した窒化アルミニウムの表面にアルミナ層を形成すること
側の凹部には UV-LED を静電気などから守る保護素子が
で,レーザ加工による回路パターン形成時に,その熱によ
る窒素脱離に伴うアルミニウムの析出を防止できる MID
実装される。
また,LED チップ実装部の左右には凸部が設けられ,ワ
を開発した。また,このアルミナ層の構造をアンカ状にし
イアボンディングのワイアを最短にするだけでなく,光の
て厚膜化することによって,高い回路密着力の維持と反射
拡散を防止する効果も兼ねている。
率の向上を実現した。
これらにより,高輝度 LED 用パッケージなどに適した
さらに MIPTEC では側面にもパターン形成ができるた
め,はんだ時に十分なフィレット形成が可能になり,信頼
高放熱 MID が可能となった。
今後は,放熱性や反射率などの特性をさらに向上した
性の高い実装ができる。
パッケージの開発を進めるとともに,回路パターンの微細
化と高精度化,および低コスト化を促進し,高放熱基板の
用途展開を加速していきたい。
●
注
* 1)MIPTEC:当社登録商標
*参 考 文 献
1)日経 BP 社:日経エレクトロニクス,2009 年 9 月 21 日号,p. 38-47
2)小林 充,立田 淳,武藤 正英,中原 陽一郎,井上 浩:セラミック MID の高反射銀めっきと電磁両立性の向上,松下電工技報,
Vol. 56, No. 3, p. 43-49(2008)
3)加藤 和典,安達 正純,中村 一成,安原 鋭幸:セラミックスの射出成形における脱脂時のゆがみとその生成特性,日本機械学会
論文集(C 編)
,Vol. 67, No. 657, p. 415-421(2001)
◆執 筆 者 紹 介
22
木下 直輝
佐藤 正博
小林 充
立田 淳
武藤 正英
生産技術研究所
生産技術研究所
博士(工学)
コネクタ事業部
コネクタ事業部
制御ものづくり革新センター
パナソニック電工技報(Vol. 58 No. 4)
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