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新型電気機関車 黒部峡谷の大自然を行く、新型電気機関車
現 場 を 訪 ね て 宇奈月 欅平 後曳橋 小屋平 鐘釣 猫又 出平 笹平 森石 柳橋 宇奈月 黒部峡谷鉄道(株)/富山県黒部市 黒薙 黒部峡谷の大自然を 黒部峡谷の大自然を行く、 新型電 気機関車 新型 黒部市 富山 黒部峡谷鉄道 欅平 富山県 8 Kawasaki News 168 2012/10 9 現 場 を 訪 ね て 川崎重工が製造した2両の 新型電気機関車が今夏から運転を開始 乗客の人気も上々で問い合 わせ多数 黒 部 峡 谷 鉄 道・宇 奈月駅 構内で、川崎重工が設計・ 製造した新型電気機関車 「EDV34」 と 「EDV35」 が、 初 秋 の 陽を受けて出 番を 待っている。 10 秘境探訪のトロッコ客車を牽引する 輸送効率の向上と 新型電気機関車 工事用資材などの搬送能力の増強 9月初旬のある日の朝。 黒部峡谷鉄道・宇奈月駅の改札口で は、多くの乗客が午前9時発欅平行き の改札を待っていた。中高年の男女が 多い。改札が始まると、 駆け込むように乗 り込んだ。 その客車の可愛いこと。 いわ ゆる “トロッコ電車” である。 黒部峡谷鉄道(関西電力の100%子 会社) は、黒部峡谷での電源開発の資 材運搬用として順次、建設が進められ、 昭和12年(1937年) に欅平まで開通し た。幅の狭い山腹を走るため、 線路の幅 は新幹線の約半分の762mm。 だから、 機関車も客車もミニサイズだ。 この鉄道は当初、地元の人たちには 利便のため無料で供されていたが、黒 部峡谷の自然美を探訪できる格好の足 として観光利用の声が高まった。有料 運転は昭和4年(1929年) に始まり、 その 後の経緯を経て昭和46年(1971年)、 関西電力(株)が設立した黒部峡谷鉄 道が経営を引き継ぎ現在に至っている。 9時発欅平行きは13両編成。普通客 車(オープン型) と特別客車(窓付き) 、 リ ラックス客車(窓付き) で構成されている が、 人気があったのは普通客車だった。 この日は晴天でまだまだ気温が高かっ たため、開放感のあるオープン型客車 が選ばれたようだ。 この13両編成のトロッコ電車を牽引 するのが、 川崎重工が設計・製造した新 型電気機関車(「EDV34」と「EDV 35」) である。13両の場合は2両重連で 運行する。 午前9時。 トロッコ電車は定刻に宇奈 月駅の1番ホームを発車した。 「これまで19両の電気機関車で運行 していましたが、 このほど2両を加えまし た。増車したのは輸送効率の向上と、 黒 部川水系の大型改良工事などの資材 搬送能力の増強を図るためです」 (黒 部峡谷鉄道・技術部電気車両課主任 みなみづか の南塚進さん) 川崎重工が、同鉄道向けの電気機 関車を設計・製造するのは初めてのこと だった。サイズは全長6,900mm、全幅 1,662mm、 全高2,730mm。 サイズのすべ てがJRの在来線(線路の幅:1,067mm) を走る電気機関車のおよそ2分の1とい うミニタイプである。 「とにかくすべてが小さく、 戸惑いの連 続でした。 当然ながら、 小さくてもJR貨物 などの機関車とほぼ同じ機器・装置を内 蔵しているわけで、考えてみれば凄いこ となのです。線路の幅が狭いため、 台車 も小さく、狭いスペースに機器や部品を どう機能的に配置するか、 検討を重ねま した。 さらに、台車に連結器が搭載され ているなどの特徴があり、荷重条件をど う考えるかなどでも苦労しました」 (川崎 重工・車両カンパニー営業本部西部営 みのはた 業部の箕畑忠道係長) Kawasaki News 168 2012/10 交流モータで駆動し、 6月6日にデビュー、 回生電力の活用などで省エネ 運行ダイヤの問い合わせが増加 従来の機関車は、直流電流で直流 モータを動かす方式だが、新型の2両 は 直 流 電 流を交 流 電 流に変 換し、 交流モータを駆動させる方式だ。 これを VVVFインバータ制御方式という。車体 に「V」の文字が大きく書かれているの は、 このことを表している。 この機関車は、下り坂などでのブレー キ時に発生する熱を電力に変換し (回 生電力という) 、 他の機関車の動力に活 用できる回生ブレーキを採用している。 さ らに、 照明や表示灯の多くにLED (発光 ダイオード) を採用し、省エネルギーに貢 献している。 トロッコ電車は、万緑の黒部峡谷に 沿って山肌を縫うようにしてゆっくりと走っ ていく。折々に景色の見どころや地名の 由来などをガイドする声の主は、富山県 出身の女優、 室井滋さんである。 黒部峡谷鉄道は、冬の降雪量の多 寡によって全線開通の時期が左右され る。 今年は非常に雪が多かったため、 4月 18日に宇奈月−笹平間の運行から始 め、 5月1日に猫又まで伸ばし、 全線開通 は6月1日だったという。 そして、川崎重工が製造した新型電 気機関車がデビューしたのは6月6日 だった。以後、昼間はトロッコ客車の牽 引を1日に2∼3往復、夜間は工事資材 や工事廃材などの搬送に活躍してい る。夜間の資材などの搬送業務は来年 一杯続く予定という。 「新しい機関車が牽引するトロッコ電 車の人気が高く、 ダイヤなどの問い合わ せがぐんと増えました。 うれしい限りです」 と、 同鉄道運輸部運転課課長の高崎辰 昼間は観光客、 夜間は工事用資材などの搬送に活躍 2両の新型電気機関車は川崎重工・ 兵庫工場(神戸市兵庫区)で製造さ れ、2011年10月初旬、宇奈月駅に搬入 された。兵庫工場からトラックで運び、 ま ず側線に台車を降ろし、 その上に車両 本体を降ろして固定した。 その後、車両 倉庫に移して点検し、同駅構内で試験 的に動かした後、 本線で走行試験が行 なわれた。 「昼間はトロッコ電車を運行している ため、走行試験は夜間に行ないました。 走行試験が始まった10月上旬は半袖で (上) 川崎重工・兵庫工場 で製 造された2両の 新 型 電 気 機 関 車は 2011年10月初旬、 トラックで宇奈月駅に 運ばれて搬入された。 (右) 女優、室井滋さんの 声 で 紹 介された 仏 石。天然石だが石仏 によく似ている。 雄さんと技術部電気車両課車両区主 任の橋本洋さんは顔をほころばす。 「新型の2両は現在、 まったく問題なく 順調に運行しています」 (橋本洋さん) 宇奈月9時発のトロッコ電車は黒薙 あとびき 駅を出ると右にカーブし、後曳橋を渡っ て行く。沿線で最も峻険な谷に架かる橋 で、高さ約60m、長さ約64m。言い伝え では、 かつて入山者があまりに谷が深い ので後ろに引き下がったことからこの名 が付いたとか――。 トロッコ電車は、秘境の名にふさわし い黒部峡谷の大自然の中を走りながら、 終着点の欅平を目指す。宇奈月−欅平 間は20.1km。 この間を約1時間20分で 結ぶ。 なお、 トロッコ電車の運行は毎年11月 30日までとなっている。 その頃から、黒部 峡谷は厳しく長い雪の季節を迎えること になる。 も暑いくらいでしたが、11月下旬にはもう 一面の雪の中。黒部の季節の移ろいを 強く感じながらの作業でした」 (川崎重 工・車両カンパニー技術本部 システム 設計部 第一システム課 田中歩主事) ほとけいし 室井滋さんの声のガイドで、 仏石や猿 だしろっぽう 専用吊り橋、 出六峰などが紹介され、客 車内に歓声が湧く。 線路幅が狭い (762mm) ため機関車は何もかもがミニサイ 宇奈月発午前9時の欅平行き “トロッコ電車” ( 1 3 両 編 成 )に ズ。運転席のスペースもごく限られている。 乗り込む乗客。普通客車 (オープン型) の人気 が高かった。 ❶黒薙駅を通過するトロッコ電車。見どころいっぱいの秘境だけに、 カメ ラを覗く体が自然と前に乗り出していく。❷黒薙駅に入ってきたトロッコ電 車。曲がりくねった幅の狭いホームが路線の狭隘さを物語っている。❸ 川崎重工製の新型電気機関車2両が牽引するトロッコ電車が、 万緑の 後曳橋を渡っていく――。 Kawasaki News 168 2012/10 11