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固定資産の減損会言
経 営 論 50巻 集 第4号 2003年3月 固定資産の減損会計 AccountingfortheImpairmentofLong-LivedAssets 平井 1減 克彦 損 処理 の実施 減 損 は最 近 の 企 業 会 計 に お け る大 きな テ ー マ の 一 つ で あ る。 わ が 国 に お い て減 損 が 顕 著 な例 は バ ブル 期 に 土 地 を大 量 に購 入 した企 業 や 本 社 ビ ル を 新 築 し た企 業 全 般 に 見 られ る 。 特 に,不 動 産,建 設,流 通,銀 行,生 命 保 険 な どの 業 界 で 不 動 産 の 価 値 の 著 しい 下 落 に よっ て減 損 の 幅 が 大 き くな って い る 。 ま た,半 導 体 製 造 装 置 な どの 生 産 設 備 で も,製 品 の 市 況 が大 幅 に下 が っ た場 合 に は減 損 処 理 が 必 要 に な る こ とが あ る1)。 不 動 産 会 社 や 大 手 の 建 設 会 社 は,減 損 会 計 が 近 い 将 来 に実 施 され る こ と を見 越 して前 倒 しす る か た ち で 事 業 用 不 動 産 や販 売 用 不 動 産 に生 じて い る 多 額 の含 み 損 の 処 理 に乗 り出 した 。 三 菱 地 所 は 平 成14年3月 2715億 円,建 期 に 土 地 ・建 物 の 価 値 を洗 い 直 した 。 含 み 損 の 処 理 額 は事 業 用 土 地 で 物 と販 売 用 土 地 で1624億 円 の総 額4339億 円 に の ぼ る 。 事 業 用 土 地 は,簿 定 資 産 税 評 価 額 に 評 価 替 え し,損 益 計 算 書 を 通 さず に 含 み 損2715億 時 限 立 法 と さ れ て い る 土 地 再 評 価 法 を適 用 して 生 じた 含 み益9624億 土 地(再 評 価 後 の価 額)・ 建 物 価 格(簿 益 還 元 価 格)と 比 較 して,簿 価)と 円 を 平 成14年3月 価 を固 まで の 円 で 埋 め た 。 賃 貸 ビル は, 将 来 の 収 益 見 通 しを基 準 に算 出 した評 価 額(収 価 に 比 べ て 評 価 額 が30%以 上 下 落 した 物 件 に つ い て 建 物 評 価 損 を計 上 した 。 バ ブ ル 期 に 開発 した ビル の 評 価 損 が 大 き く,横 浜 ラ ン ドマ ー ク タ ワ ー(横 浜 市 西 区)に つ い て883億 円 の 損 失 を計 上 した 。 こ の他 に,販 売 用 土 地 も時 価 が 簿 価 を30%以 っ た物 件 の 評 価 損 を 計 上 した 。 評 価 損 の 額 は 建 物 で1579億 円,販 上下 回 売 用 土 地 で45億 円 に な る 。 こ の 結 果,連 結 最 終 損 益 は前 年 秋 に 見 込 ん だ205億 円 の 黒 字 予 想 か ら赤 字 に な っ た。 三 菱 地 所, は 今 回 の損 失 計 上 で,含 み損 処 理 は ほ ぼ終 わ り,固 定 資 産 の 減 損 会 計 が 導 入 され て も二 次 損 失 は 出 な い と して い る2)。 三 井 不 動 産 は ゴル フ場 開発 子 会社 の 整 理 統 合 に合 わせ て,簿 価 の 高 い ゴ ル フ場 の含 み 損 を処 理 した 。 東 京 建 物 は 子 会 社 三 社 が 保 有 す る 賃 貸 ビ ル や マ ン シ ョ ン につ い て,平 成12年12月 期 経 2 に 約350億 営 論 集 一 円 の 評 価 損 を計 上 した3)。 住 友 不 動 産 は 固 定 資 産 の 減 損 会 計 導 入 で 損 失 処 理 を迫 ら れ る公 算 の 大 きい 賃 貸 資 産 が1400億 円 に達 して い る とす る 内 部 試 算 を ま とめ た。 こ の う ち 含 み 損 は 約1000億 円 に の ぼ る4)。 不 動 産 会 社 と と もに不 良 資 産 が 多 い ゼ ネ コ ン(総 合 建 設 会 社)で 圏 の 賃 貸 ビ ル3-4棟 は 平 成15年3月 2001年3月 を対 象 と して,平 成13年3月 期 に 含 み 損144億 も,大 手 の 鹿 島建 設 が 首 都 円 を計 上 した 。 鹿 島 建 設 期 ま で に 固 定 資 産 の 土 地 の含 み 損 処 理 を完 了 す る 予 定 で い る5)。 清 水 建 設 も の 連 結 決 算 に お い て1000億 円強 の 開発 事 業 整 理 損 を計 上 した 。 こ の う ち の287億 円 は賃 貸 ビル な どの 固 定 資 産 に係 わ る もの で,土 地 に つ い ての 減 損 が 中心 で あ っ た6)。 減 損 会 計 が 導 入 され る と,バ ブ ル 期 に 土 地 を取 得 した ゼ ネ コ ン(総 合 建 設 会 社)や 不 動 産 会 社 だ け で な く,過 去 に過 剰 な設 備 投 資 を した 製 造 業 へ の 影 響 も避 け られ な い。 最 新 鋭 の 生 産 設 備 に 多 額 の 投 資 を して きた 半 導 体 メ ー カ ー な どで は情 報 技 術(IT)不 況が響 いて稼働率 が低下 し,資 産 の 減 損 が 発 生 す る可 能 性 が あ る7)。 進 歩 の 速 い情 報 技 術(IT)な どの 先 端 分 野 で は 製 造 設 備 も陳腐 化 しや す い。 米 国 基 準 の 会 計 制 度 を導 入 し て い る 日立 製 作 所 は半 導 体 市 況 が 激 し く落 ち 込 ん だ 際,関 支)で 連 設 備 の 取 得 原 価(簿 価)を 先 行 き得 ら れ る キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー(現 金収 回収 しき れ な い と判 断 して,減 損 処 理 を行 っ て い る8)。 ソニ ー は1989年 は約40億 に 米 国 の 映 画 会 社 を買 収 し た際 の投 資 金 額 と純 資 産 評 価 額 の 差 額(買 ドル)を 営 業 権 と して 処 理 して い た 。 しか し,ヒ ッ トに恵 まれ ず,映 収時 画事 業が 将来 稼 ぎ出 す 収 益 で 年 間 約100億 円 の 償 却 負 担 を吸 収 して い くの は 困 難 で あ る と判 断 した。そ こで, 映 画 事 業 担 当 の 米 国 子 会 社 ソニ ー ・ピ クチ ャ ー ズ ・エ ン タ テ イ ン メ ン トの 営 業 権2652億 円を 減 損 処 理 して い る9>。 五 減 損 の概 念 わ が 国 の 商 法 第34条2項 に 固 定 資 産 の 減 損 に関 す る規 定 が あ る 。 そ こ に は 「固定 資 産 二付 イ テハ 予 測 ス ル コ ト能 ハ ザ ル 減 損 ガ生 ジ タ ル トキハ 相 当 ノ 減 額 ヲ為 ス コ トヲ要 ス 」 と規 定 され て い る。 この 規 定 は商 法 学 者 の 問 で 機 械 ・設 備 な どの 物 理 的 破 損 や ,機 能 的 な陳 腐 化 を想 定 し た も の と解 釈 され て い る10)。 こ の 規 定 は,前 節 で見 た よ う な,近 越 して 前 倒 しす る か た ちで 行 って い る 減 損,す い 将 来 に実 施 さ れ る こ と を見 なわ ち,'企 業 が 所 有 す る土 地 や 本 社 ビ ル な ど に つ い て の 最 近 話 題 の減 損 を想 定 した もの で は な い 。 前 節 で 見 た よ う な 減 損 処 理 が わ が 国 に お い て 公 式 に 会計 上 問 題 に さ れ る よ う に な っ た の は 企 業 会 計 審 議 会 第 一 部 会 が 平 成12年6月23日 に公 表 した 『固定 資 産 の 会 計 処 理 に 関 す る 論 点 の 整 理 』(以 下 『論 点 整 理 』 とい う)に お い て で あ る 。 『論 点 整 理 』 は 「固定 資 産 の会 計 処 理 に つ い て 検 討 す べ き点 を公 表 した もの で あ り,今 後,広 く各 界 か ら寄 せ ら れ る 意 見 も参 考 に し,固 一 固定 資 産の 減損 会計 一 3 定 資 産 の 会 計 処 理 の 具 体 的 な 見 直 し に 向 け た 審 議 を 続 け て い く ・ ・」 た め に 公 表 さ れ た も の で あ る 。 そ の 後,企 業 会 計 審 議 会 に よ っ て 平 成13年7月6日 議 の 経 過 報 告 』(以 下,『 経 過 報 告 』 と い う)が に 行 わ れ,平 『固 定 資 産 の 会 計 処 理 に 関 す る 審 成14年8月9日 に に 係 る 会 計 基 準 の 設 定 に 関 す る 意 見 書 』(以 下,『 意 見 書 』 と い う)・ 会 計 基 準 』(以 下,『 減 損 会 計 基 準 』 と い う)が 公 表 さ れ,平 『固 定 資 産 の 減 損 『固 定 資 産 の 減 損 に 係 る 成17年4月1日 以 後 開 始 され る 事 業 年 度 か ら減 損 会 計 が 導 入 され る こ と に な っ た 。 『論 点 整 理 』 は,減 損 会 計 を わ が 国 に 導 入 す る た め の 参 考 と し て,す で に公 表 さ れ て い る 二 つ の 代 表 的 な 減 損 会 計 の 基 準 を 紹 介 し て い る 。 一 つ は 米 国 の 財 務 会 計 基 準 審 議 会(Financial AccountingStandardsBoard)が1995年3月 に 公 表 し た 財 務 会 計 基 準 書(StatementofFinancial AccountingStandards)第121号(以 下,FAS121と い う)「 長 期 性 資 産 の 減 損 お よ び 処 分 予 定 の 長 期 性 資 産 の 会 計 処 理 」(AccountingfortheImpairmentofLong・LivedAssetsandforLongLivedAssetstoBeDisposedOf)に 基 づ く処 理 で あ る 。 他 の 一 つ は 国 際 会 計 基 準 委 員 会 (lnternationalAccountingStandardsCommittee)が1998年6月 (lnternationalAccountingStandards以 IASの 下,IASと に公 表 した 国 際 会 計 基 準 い う)第36号(以 邦 訳 に つ い て は 日本 公 認 会 計 士 協 会 国 際 委 員 会 訳 に 財 務 会 計 基 準 書 第141号(以 あ る 。 な お,FAS121に 下,FAS141と つ い て は, 公 表 さ れ, 以 後 に 開 始 さ れ る事 業 年 度 か ら適 用 さ れ て い る。 減 損 に つ い て,FAS141は 「長 期 性 資 産(資 る 状 況 を い う 」(para.7)1Dと 産 グ ル ー プ)の 帳 簿 価 額 が そ の公 正 価 値 を超 え 定 義 し て い る 。 ま た,IAS36は,減 損 につ いて 帳 簿 価 額 が 使 用 又 は 売 却 に よ っ て 回 収 さ れ る 金 額 を 超 過 す る 場 合 に は,回 価 額 を 付 さ れ て い る こ と に な る 。 こ の よ う な 場 合 に は,資 わ ち,IAS36は,減 的)12)と の 収 可 能 価 額 を超 え る 基 述 べ て い る。 す な 損 と は 帳 簿 価 額 が 回 収 可 能 価 額 を 超 過 す る 額 と規 定 し て い る 。 ま た,『 意 見 書 』 は,「 固 定 資 産 の 減 損 と は,資 た 状 態 に あ り,減 「資 産 は,そ 産 は 減 損 し て い る も の と さ れ,本 準 書 は 企 業 が 減 損 損 失 を 認 識 す る こ と を 要 求 し て い る 」(IAS36目 損 処 理 と は,一 産 の 収 益 性 の 低 下 に よ り投 資 額 の 回 収 が 見 込 め な く な っ 定 の 条 件 の 下 で 回収 可 能 性 を 反 映 させ る よ う に 帳 簿 価 額 を 減 額 す る 会 計 処 理 で あ る 」 と 規 定 し て い る 。 減 損 と は,固 あ る い は,固 同 文 館2001 い う)「 長 期 性 資 産 の 減 損 あ る い は 処 分 の 会 計 処 理 」(AccountingfortheImpairmentorDisposedofLong-LivedAssets)が 2001年12月15日 い う 。 な お, 『国 際 会 計 基 準 書2001』 年 に よ っ て い る)「 資 産 の 減 損 」(lmpairmentofAssets)で 2001年8月 下,IAS36と 定 資 産 に つ い て 収 益 性 が 低 下 し た こ と, 定 資 産 に つ い て 将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 獲 得 能 力 が 減 少 し た こ と を い う も の と 理 解 で き よ う 。 ま た,減 損 処 理 と は,一 定 の 条 件 の 下 で,正 常 な 収 益 力 あ るい は将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 獲 得 能 力 を 反 映 さ せ る よ う に 帳 簿 価 額 を 減 額 す る 会 計 処 理 で あ る と 考 え ら れ よ う。 一 4 経 営 論 集 一 で は,減 損 は どの よ う な場 合 に 生 ず る の で あ ろ うか 。 減 損 の 兆候 の例 と して,FAS141は の も の を挙 げ て い る。 「(a)長 期 性 資 産(資 性 資 産(資 産 グル ー プ)の 市 場 価 値 の 著 しい 下 落,(b)長 次 期 産 グ ル ー プ)が 使 用 され る程 度 あ る い は 方 法 に お け る著 しい 悪 化 ま た は資 産 の 著 し い物 的 悪 化,(c)当 局 に よ る 不 当 な規 制 あ る い は課 徴 金 を含 め て,長 期 性 資 産(資 産 グ ル ー プ) の 価 値 に影 響 を及 ぼ す 法 的 要 素 あ る い は企 業 環 境 に お け る 著 しい 悪 化,(d)長 期 性 資 産(資 産 グ ル ー プ)の 取 得 あ る い は建 設 の た め に 当 初 予 定 した 金 額 を著 し く超 過 した 原 価 総 額,(e) 過 年 度 の 営 業 損 失 あ る い は キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー損 失 と 関連 す る当 期 営 業 損 失 あ る い は キ ャ ッシ ュ ・フ ロー 損 失,ま た は,長 期 性 資 産(資 る こ と が 明 らか な計 画 あ る い は 予 測,(f)長 産 グ ル ー プ)の 使 用 と 関連 して 継 続 的 に損 失 が 生 ず 期 性 資 産(資 産 グ ル ー プ)が 当 初 の 見 積 も り耐 用 年 数 よ り も著 し く早 期 に処 分 さ れ る よ うな 見 込 み 」(para.8)13)。 IAS36は 次 の もの を 減 損 の 兆 候 と して 挙 げ て い る 。 外 部 の 情 報 源 と して,「(a)当 期 中 に, 時 間 の 経 過 又 は正 常 な使 用 に よ っ て 予 想 され る以 上 に,市 場 価 値 が 異 常 に 低 下 して い る;(b) 企 業 が 営 業 して い る技 術 的,市 場 的,経 済 的 若 し くは 法 的 環 境 に お い て,又 は 資 産 が利 用 さ れ て い る市 場 にお い て,当 期 中 に企 業 に と って 悪 影 響 の あ る 著 しい 変 化 が 発 生 した か,又 い 将 来 に発 生 す る と予 想 さ れ る;(c)市 期 中 に上 昇 し,か つ,こ 場 利 率 又 は 投 資 につ い て の そ の 他 の 市 場 収 益 率 が 当 れ ら の上 昇 が 資 産 の 使 用 価 値 の 計 算 に用 い られ る割 引 率 に影 響 して資 産 の 回 収 可 能 価 額 を著 し く減 少 させ る 見 込 み で あ る;(d)報 そ の 企 業 の 株 式 の市 場 価 値 を超 過 して い る 」(para.9)14)こ 報 源 と して,「(e)資 は,近 告 企 業 の 純 資 産 の 帳 簿 価 額 が, と を挙 げ て い る 。 ま た,内 産 の 陳 腐 化 又 は物 的 損 害 の証 拠 が 入 手 で き る;(f)資 部の情 産 が使 用 され て お り又 は使 用 さ れ る 範 囲 若 し くは方 法 に 関 して,当 期 中 に企 業 に と っ て 悪 影 響 の あ る著 しい 変 化 が 発 生 し,又 は近 い 将 来 に発 生 す る と予 測 さ れ る。 これ らの 変 化 は,資 産 の属 す る事 業 の 廃 止 又 は リ ス トラ ク チ ャ リ ン グ又 は予 定 さ れ て い た期 日以 前 の 資 産 の 処 分 の計 画 を 含 む;及 び(g) 資 産 の 経 済 的 成 果 が 予 測 して い た よ り悪 化 し又 は悪 化 す る で あ ろ う とい う こ と を示 す 証 拠 が 内 部 報 告 か ら入 手 で き る」(para.9)15)こ と を挙 げ て い る 。 ま た,内 部 報 告 か ら入 手 した 報 告 で 次 の 事 項 が 存 在 して い る 場 合 に も資 産 が 減 損 して い る 可 能 性 が あ る と考 え て い る。 「(a)当 該 資 産 の 当 初 予 算 よ り も極 め て高 額 な,資 産 を取 得 す る た め の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー,又 は そ の後 の 資 産 の 裸 業 若 し くは維 持 に必 要 な資 金i(b)予 算 よ り も著 し く悪 化 して い る実 際 の 正 味 キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー 又 は資 産 か ら発 生 す る 営 業 損 益;(c)資 正 味 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー 若 し くは 営 業 利 益 の 著 しい 悪 化,又 増 加,又 は(d)当 産 か ら発 生 す る 予 算 化 さ れ て い た は予 算 化 され て い た損 失 の 著 しい 期 の 数 値 を 将 来 の 予 算 上 の 数値 と合 計 した 場 合 の 当 該 資 産 に か か る 営 業 損 失 又 は正 味 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー」(para.11)16)。 わ が 国 の 『減 損 会 計 基 準 』 ・ 「二 減 損 損 失 の 認 識 と測 定 一1減 損 の 兆 候 」 は,減 損 の 例 と 一 して,次 固定資産の減損会計 一 5 の もの を挙 げ て い る 。① 資 産 又 は資 産 グ ル ー プが 使 用 され て い る 営 業 活 動 か ら生 ず る 損 益 又 は キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー が,継 続 して マ イ ナ ス と な っ て い るか,あ る い は継 続 して マ イ ナ ス と な る見 込 み で あ る こ と。 ② 資 産 又 は 資 産 グ ル ー プ が使 用 され て い る 範 囲 又 は 方 法 につ い て,当該 資 産 又 は 資 産 グ ル ー プ の 回収 可 能 価 額 を著 し く低 下 させ る 変 化 が 生 じた か,あ る い は,生 ず る見 込 み で あ る こ と。 ③ 資 産 又 は 資 産 グ ル ー プが 使 用 さ れ て い る事 業 に 関 連 して,経 営 環 境 が 著 し く悪 化 した か,あ る い は,悪 化 す る 見 込 み が あ る こ と。 ④ 資 産 又 は 資 産 グ ル ー プの 市 場 価 格 が 著 し く下 落 した こ と。 減 損 の 兆 候 の 例 と して,FAS141,IAS36,わ が 国 の 『減 損 会 計 基 準 』 は 市 場 価 値 のi著しい 下 落 を一 例 に 挙 げ て い る。 あ る 場 合 に は,時 価 の 下 落 は,将 来 獲 得 可 能 な キ ャ ッ シュ ・フ ロ ー の 減 少 の兆 候 の 例 と して 挙 げ られ よ う。 しか し,時 価 が 下 落 した 資 産 の すべ てが 獲 得 可 能 な キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 減 少 に つ なが る わ けで は な い。1000万 円 で 購 入 した建 物 が 時 価800万 円 に値 下 り した とす る。 この 建 物 が 販 売 用 不 動 産 で あ っ て,市 況 の悪 化 に よ っ て 時 価 が 下 落 した よ う な 場 合 に は,そ の 時 価 の 下 落 は将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 減 少 を判 断 す る証 拠 に な る で あ ろ う。 ま た,こ の 建 物 が 使 用 目的 の 店舗 で あ っ て,立 地 条 件 の悪 化 に よ っ て 時 価 が 下 落 した よ う な 場 合 に は,そ の 時 価 の 下 落 は将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 減 少 を判 断 す る証 拠 と な る で あ ろ う。 しか し,時 価 が 下 落 した と して も周 辺 の 土 地 価 格 が 下 落 した だ け で,客 足 が 衰 えず に将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ーの 減 少 を もた ら さ な い な ら ば,資 産 は減 損 して い る とは い え な い で あ ろ う。 単 に 時 価 が 下 落 した だ け で は 減損 の 対 象 と は な ら な い点 に お い て,減 損 会 計 は,時 価 の 変 動 を必 ず 取 り上 げ な けれ ば な ら な い 時 価 主 義 会計 と異 な る。 資 産 と は,IASのframeworkに る資 源 を い う(para.49)17)。 よれ ば,将 来 の 経 済 的 便 益 が そ の 企 業 に流 入 す る と期 待 さ れ ま た,資 産 が 有 す る 将 来 の 便 益 と は企 業 へ の 現 金 お よ び現 金 同 等 物 の 流 入 に直 接 的 ま た は 間 接 的 に 貢 献 す る潜 在 能 力 を意 味 す る(para.83)18)。 企 業が固 定 資 産 に 対 して 投 資 す る の は 投 資 額 以 上 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 獲 得 を期 待 して の こ とで あ る。 しか し,固 定 資 産 につ い て事 業 環 境 の 悪 化 や 設 備 投 資 計 画 の失 敗 等 に よ っ て そ の 収 益 性 が低 下 す る こ とが 起 こ りう る。 そ う した場 合 に は,将 来 に流 入 が 期 待 さ れ る キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ーが 減 少 す る こ とに な り,そ の 価 値 は 取 得 原 価 を 下 回 る こ とに な る 。 収 益 性 が 低 下 した 固 定 資 産 は, 当 初 予 定 され た キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー が 期 待 で きず,投 資 採 算 が 取 れ な くな る可 能 性 が あ る。 こ の よ うな 収 益 性 が低 下 した 固 定 資 産 に適 用 され る の が 減 損 会 計 で あ る 。つ ま り,減 損 会 計 と は, 減 損 の 兆 候 の あ った 期 に 固 定 資 産 の 帳 簿 価 額 を そ の 収 益 性 を 示 す 価 額 まで 切 り下 げ,同 時 に 減 損 損 失 を計 上 す る 会 計 で あ る。 減 損 会 計 は,収 益 性 が 低 下 した 固 定 資 産 に つ い て,簿 価 を 切 り下 げ て 損 失 を計 上 す る 臨 時 的 処 理 で あ るか ら,そ の処 理 方 法 に は 臨 時 償 却 と似 て い る部 分 が あ る。 しか し,臨 時 償 却 は減 価 一 6 経 営 論 集 償 却 の 一 種 で あ って,固 定 資 産 の 耐 用 年 数 を当 初 予 測 す る こ とが で き な か った 事 情 に よ っ て 短 縮 し,過 去 の 減 価 償 却 の 不 足 分 を計 上 す る もの で あ る 。 つ ま り,臨 時 償 却 が あ く まで も減 価 償 却 の 問 題 で あ る の に 対 して,減 損 会 計 は 減 価 償 却 と は異 な る 会 計 処 理 で あ る。 な お,減 価 償 却 な ど を修 正 して帳 簿 価 額 を減 額 させ る過 年 度 修 正 は わが 国 で は修 正 年 度 の損 益 と され て い る。 過 年 度 修 正 に よ る損 失 も減 損 に よ る損 失 も認 識 され た年 度 の 損 失 と して 扱 わ れ る 点 に お い て 同 じで あ る。 そ こで,『 経 過 報 告 』 は 「当 面 こ の 部 分 を 減 損 と 区分 しな くて も, 我 が 国 の 実 務 に大 きな 支 障 は 生 じな い」 と して 「回 収 を見 込 め な い 帳 簿 価 額 の 切 下 げ を一 纏 め に して,減 損 の 会 計 処 理 を適 用 す る」 と述 べ て い る 。 しか し,減 損 と過 年 度 修 正 とで は そ の性 質 も そ の 背 景 も まっ た く異 な る 。 処 理 年 度 の損 益 に 影 響 す る もの で あ るか ら両 者 を 区 別 しな く て 良 い と い う こ とに は な ら な い 。 減 損 会 計 が 減価 償 却 の対 象 と な らな い 土 地 に つ い て も実 施 さ れ る もの で あ っ て み れ ば,減 損 と過 年 度 修 正 とは 区 別 して 考 え るべ き もの で あ る。 ま た,減 損 も過 年 度 修 正 も,そ の損 益 を認 識 した期 に処 理 をす る もの で あ る け れ ど も,減 損 は投 資 の 失 敗 で あ る とか 過 剰 設 備 で あ る とか経 営 政 策 の 失 敗 に よ る も の で あ る の に対 して,過 年 度 修 正 損 益 は 耐 用 年 数 の見 積 り誤 りにす ぎな い 。 損 益 計 算 とい う点 で は 同 じで あ って も情 報 開 示 とい う点 か ら は,両 者 に は概 念 的 に大 きな 違 い が あ る。 減損 が 投 資 の失 敗 で あ る と か過 剰 設 備 で あ る と か経 営 政 策 の失 敗 を 明 らか に す る もの で あ っ て み れ ば,両 者 は概 念 的 に 明 確 に 区 別 さ れ る べ き で あ ろ う。 減 損 処 理 につ い て,『 経 過 報 告 』 は 「本 来,投 資 期 間 全 体 を通 じた投 資 額 の 回 収 可 能 性 を評 価 し,投 資 額 の 回 収 が 見 込 め な くな っ た 時 点 で,将 来 に損 失 を 繰 り越 さな い た め に帳 簿 価 額 を 減 額 す る 会 計 処 理 で あ る」 と説 明 し て い る。 こ の説 明 は,次 節 で 見 る よ う に,減 損 会 計 の 目的 を損 益 計 算 に置 い ての もの で あ る。 『経 過 報 告 』 は,続 け て,そ の 観 点 か ら 「期 末 の 帳 簿 価 額 を将 来 の 回 収 可 能 性 に照 ら して見 直 す だ け で は,収 益 性 の 低 下 に よ る減 損 を正 し く認 識 す る こ とは で きな い。 帳 簿 価 額 の 回 収 が 見 込 め な い 場 合 で あ って も,過 年 度 の 回 収 額 を考 慮 す れ ば 投 資 期 間全 体 を通 じて投 資 額 の 回収 が 見 込 め る場 合 もあ る」 と述 べ て,減 損 と過 去 の 減 価 償 却 の 修 正 と を 区 別 し て い る 。 た とえ ば,1000万 円 の投 資 を し て,期 待 さ れ た キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー を現 在 に 引 き直 してみ た 時 に,す で に そ の投 資 額 を 回 収 して い る 固 定 資 産 につ い て 未 償 却 残 高 が200万 円 あ る とす る。 そ し て,そ の200万 円 の 回 収 見 込 み が な い場 合,そ の200万 円 を評 価 替 減 額 す る こ とは 減 損 処 理 の 問 題 で は な い 。 そ れ は単 に過 去 の 減 価 償 却 に つ い て修 正 す る もの で あ る 。 ま た,「 過 年度 の 減価 償 却 な ど を修 正 した と き に は,修 正 後 の 帳 簿 価 額 の 回 収 が 見 込 め る 場 合 もあ り得 る」(『経 過 報 告 』)。た とえ ば,取 得 原 価1000万 の 固 定 資 産 に つ い て 回収 可 能 額 が150万 を修 正 す る こ とに な るが,こ 円,減 価 償 却 累 計 額800万 円 円 で あ る原 因 が 見 積 耐 用 年 数 の 誤 りで あ る 場 合,そ の 修 正 は 減 損 と は異 な る会 計 処 理 で あ る 。 れ 一 皿 固定 資産 の減 損会 計 一 7 減 損 会 計 の 目的 減 損 会計 で は,固 定 資 産 の 減 損 の 兆 候 が 明 ら か に な っ た 時 に,固 定 資 産 の 帳 簿 価 額 を引 き下 げ る こ と に な る。 で は,何 の た め に 減 損 の 処 理 が 必 要 なの で あ ろ うか 。 『論 点 整 理 』 は,固 定 資 産 に つ い て 減 損 処 理 を行 う 目的 を次 の よ う に 述 べ て い る 。 「事 業 用 資 産 で も,収 益 性 が 当 初 の 予 想 よ り も低 下 して投 資 額 の 回 収 が 見 込 め な くな っ た よ う な場 合 に は,価 値 の 下 落 を帳 簿 価 額 に 反 映 させ る の が,伝 統 的 な 考 え方 で もあ る 。 そ れ は,帳 簿 価 額 を下 方 に だ け修 正 す る点 で 時 価 評 価 とは 異 質 だ が,棚 卸 資 産 の 低 価 評 価 や 固 定 資 産 の 臨 時 償 却 な ど,取 得 原 価 の 期 間配 分 を 通 じて広 い意 味 で の 資 産 評 価 に 組 み 込 ま れ て きた」。 す な わ ち,r論 点 整 理 』 は,「 資 産 価 値 の 下 落 を反 映 させ る」 と しな が ら も,固 定 資 産 の 減 損 を 「伝 統 的 な考 え 方」 に よ る も の と して 期 間損 益 計 算 の 枠 組 み の な か に お け る 原 価 配 分 の 一 環 と し て捉 え て い る19)。 『経 過 報 告 』 も 『論 点 整 理 』 で示 さ れ た と 同 じ方 向 で,原 価 配 分 の一 環 と して 捉 えて い る と の こ とで あ る 。 辻 山 栄 子 教 授 は 『経 過 報 告 』 の 方 向 に つ い て次 の よ う に説 明 さ れ て い る 。 「減 損 会 計 と言 い ます と,今,企 業 が 保 有 して い る固 定 資 産 の 時 価 が さが って い る,そ の 含 み 損 を表 面 に 出 さ なけ れ ば い け な い か ら導 入 さ れ る の だ と,一 般 に は と らえ られ て い る よ うで す が,そ うで は な い とい う こ とが 明 示 され て い る わ け で す 」20)こ う した 期 間 損 益 計 算 の 観 点 か ら減 損 を取 り上 げ て い る先 行 研 究 と して 米 山正 樹 教 授 の 『減 損 会 計 一配 分 と評 価 一 』 が あ る 。 教 授 は,減 損 処 理 につ い て 「期 間 配 分 の対 象 と な る財 で 不 利 な 環 境 変化 を被 っ た も の(正 確 に は そ の 一 部)の 簿価 を, 正 規 の 配 分 手 続 外 で 追 加 的 に 切 り下 げ る もの 」21)と 見 て い る。 そ して,そ 正 を 「配 分 と異 質 な思 考 で しか サ ポ ー トで き な い もの で は な く,・ の追加 的 な簿価修 ・ 酒 己分 に固 有 の ロ ジ ッ ク か ら求 め られ る」22)も の で あ る と して次 の よ う に説 明 され て い る 。 「資 本 設 備 に収 益 力 の低 下 が 生 じた と き,に もか か わ らず この 事 態 を放 置 す る と,低 下 後 の 収 益 力 との 対 比 に お い て過 大 とな って し ま っ た償 却 負 担 が 営 業 活 動 か ら生 み 出 さ れ る 利 益 を圧 迫 し,相 殺 して し ま う。 そ う な る と保 有 者 に 固有 の 使 途 を つ う じて よ り多 くの 成 果 を具 現 化 させ た事 実 は,期 間 損 益 に反 映 され な い こ と とな る」23)と され て い る。 「追 加 的 な簿 価 修 正 は投 資 期 間全 体 をつ う じて 十分 な 資 金 の 回収 が 見 込 め な くな る よ う な事 態 の 発 生,す 契 機 と して 行 わ れ る。 … な わ ち投 資 の 失 敗 が 中 途 で判 明 した事 実 を 過 去 の誤 っ た意 思 決 定 に 起 因 す る 過 大 な償 却 負 担 が,資 本 財 の 利 用 か ら生 み 出 され て い る は ず の 成 果 を相 殺 して し ま うか らで あ る。 こ うい う事 態 を 回避 す る た め,原 価 の う ち キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー を生 み 出 さ な い と い う意 味 で 過 剰 な部 分,す な わ ち,有 用 性 が 失 わ れ た 部 分 を切 り捨 て る手 続 が 求 め ら れ る の で あ っ た」24)と 述 べ られ て い る。 た と え ば,1000万 の200万 円 を投 資 した 固定 資 産 に つ い て現 在 に引 き直 して800万 円 分 を 回 収 した段 階 で 残 り 円 の 回 収 見 込 み が な い と し よ う。 この 場 合,そ の200万 円 を減 価 償 却 費 と して 次 期 以 降 に配 分 す る こ と は次 期 以 降 の営 業 活 動 か ら生 み 出 さ れ た 収 益 に対 応 しな い 費 用 を計 上 す る こ 一 8 経 営 論 集 一 と に な る と い うの で あ る 。 ま た,教 授 は 「資 本 設 備 に係 る 配 分 計 画 の 修 正 は,取 得 原 価 の う ち 投 資 期 間 中 に 生 み 出 さ れ る い ず れ の 成 果 と も対 応 しな い 部 分 を正 規 の 配 分 計 画 外 で 損 失 処 理 し,成 果 の 獲 得 に 貢 献 す る犠 牲 だ け を 各 期 に配 分 す る た め の 手 続 と理 解 で き る」25)と 述 べ ら れ て い る。 減 損 処 理 は,不 動 産 業 や 建 設 業 が 所 有 す る償 却 資 産 につ い て,費 用 配 分 とい う観 点 か ら説 明 さ れ て い る。 しか し,最 近 の テ ー マ で あ る 減 損 は,減 価 償 却 の 対 象 と な っ て い な い 土 地 を も, む しろ,主 と して土 地 を減 損 処 理 の 対 象 とす る もの で あ る こ と考 え る と,償 却 費 の 期 間 配 分 と い う よ り も減 損 会 計 は 含 み損 を表 面 化 させ,有 用 な資 産 価 値 の み を時 期 に繰 り越 す 処 理 で あ る と み る べ きで は な い だ ろ うか 。 償 却 資 産 に つ い て も非 償 却 資 産 につ い て も統 一 して 説 明 す る た め に,減 損 に つ い て資 産 の 価 値 と い う観 点 か ら説 明 して み た い。 資 産 の 価 値 は 将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー を どれ だ け獲 得 で きる か に よ っ て判 断 され る。 そ れ は,交 換 資 産 で あ っ て も,使 用 資 産 で あ っ て も同 じこ とで あ る。 た だ,交 換 を 日的 と した 交 換 資 産 と使 用 を 目 的 と した 使 用 資 産 と で は 時 価 との 関係 に お い て 評価 の仕 方 が 異 な る 。 筆 者 は, 従 来 か ら恩 師 ・木 村 重 義 先 生 に 習 っ て,資 産 に つ い て交 換 価 値 を有 す る交 換 資 産 と使 用 価 値 を 有 す る使 用 資 産 と に 区 別 して きた 。 交 換 資 産 の 典 型 的 な もの と して は,棚 卸 資 産,売 買 目 的 有 価 証 券 な どが あ げ ら れ る 。 こ れ ら 交 換 資 産 は 交 換 価 値 を有 す る資 産 で あ る の で,将 来 そ の資 産 が 交 換 され る と き に どれ ほ ど の キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー を どれ だ け獲 得 で きる か に基 づ い て評 価 が 行 な わ れ る こ と に な る。 棚 卸 資 産 は そ れ が 販 売 され る と き にい か ほ ど で販 売 さ れ うる か に よっ て そ の 評 価 が 行 な わ れ る こ と に な る 。 棚 卸 資 産 に つ い て の 時 価 の 下 落 は,将 来 獲 得 可 能 な キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー が 減 少 す る兆 候 が 現 れ た こ とで あ り,そ の棚 卸 資 産 に つ い て 評 価 損 が 計 上 され る こ とに な る。 使 用 資 産 に 属 す る もの に は 有 形 固定 資 産,無 形 固定 資 産 な どが あ げ られ るが,使 用 資 産 は,使 用 す る と きに どれ ほ どの キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー を ど れ だ け獲 得 し うる か に よ っ て そ の 評 価 が行 な わ れ る 。そ れ ゆ え, 時 価 の 下 落 が 下 落 した と して も,将 来 獲 得 可 能 な キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー が 減 少 し ない 場 合 に は設 備 資 産 に つ い て減 損 が 問題 に な は な ら な い 。 た とえ ば,パ に,パ ソ コ ンが 商 品 で あ る とす れ ば,新 ソ コ ン等 の備 品 を考 えて み よ う。 仮 製 品 が 発 売 され て 時価 が 下 落 した 場 合,交 換 価 値 は減 少 す るで あ ろ う。 これ に対 して,備 品 と して 使 用 され て い る の で あ れ ば,新 製 品 が 発 売 され て の 時 価 の 下 落 は使 用 価 値 の 減 少 に は 結 び つ か な い で あ ろ う。 時 価 の 下 落 が 使 用 価 値 の 下 落 の 兆 候 と判 断 で きる もの につ い て は,時 価 の 下 落 に基 づ い て 減 損 処 理 を 行 わ な け れ ば な らな い が, 時 価 が 下 落 して も資 産 価 値 の 減 少 しな い もの につ い て は 減 損 処 理 をす る必 要 は な い の で あ る 。 先 に見 た よ う に,減 損 の 兆 候 の 例 と して,FAS141,IAS36,わ が 国 の 『減 損 会 計 基 準 』 は 市 場 価 値 の 著 しい 下 落 を一 例 に 挙 げ て い る。 しか し,時 価 が 下 落 した 資 産 の す べ て が 獲 得 可 能 な 一 固定資産の減損会計 一 9 キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー の 減 少 につ な が る わ け で は な い 。1000万 円 で購 入 した 建 物 が 時 価800万 円 に値 下 り した とす る 。 この 建 物 が 使 用 目的 の店 舗 で あ っ て,立 落 した よ うな 場 合 に は,そ 地 条 件 の悪 化 に よ っ て時 価 が 下 の 時 価 の下 落 は将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 減 少 を判 断 す る証 拠 と な る で あ ろ う。 時 価 が 下 落 した と して も周 辺 の 土 地 価 格 が 下 落 した だ け で,客 足 が 衰 え ず に 将 来 の キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー の 減 少 を も た ら さ な い な らば,減 損 処 理 を行 う必 要 は な い で あ ろ う。 減 損 が 問 題 に な るの は,将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 減 少 を も た らす と判 断 さ れ る 場 合 で あ る。 先 にFASBやIASに 見 た よ う に,減 損 の 兆 候 に は種 々 の もの が あ り,資 産 ご と に 減 損 の兆 候 は 異 な っ て い る。 た と え ば,日 立 製 作 所 が,半 導 体 市 況 が 著 し く落 ち込 ん だ こ と を理 由 に生 産 設 備 につ い て 減 損 処 理 を行 っ て い る よ う に,製 品 市 況 が 大 幅 に 下 が っ た よ う な 生 産 設 備 は,将 来 獲 得 可 能 な キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ーが 減 少 す る 兆 候 が 現 れ た と判 断 して,減 損 処 理 をす る こ とに なる。 時 価 の 下 落 が 使 用 資 産 の価 値 の 減 少 の 兆 候 と判 断 され る最 も顕 著 な例 と して は,賃 貸 収 益 あ る い は資 本 増 価 ま た は そ の 両 方 を 目的 と して保 有 す る不 動 産,あ る い は 不 動 産 業 以 外 の 業種 が 保 有 して い る 賃 貸 ビル 等 の投 資 不 動 産 が 挙 げ られ よ う。 こ れ らの投 資 不 動 産 は 時 価 の下 落が 将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 減 少 を もた らす 資 産 の 一 つ の 例 で あ る 。先 に見 た よ うに,三 菱 地 所, 三 井 不 動 産,鹿 島建 設 等 は 時価 が 下 落 した 賃 貸 ビル に つ い て 減 損 会 計 を 実 施 して い る。 資 産 と は,「 将 来 の経 済 的 便 益 が そ の 企 業 に 流 入 す る と期 待 され る 資 源 」26)で あ り,「 資 産 が 有 す る 将 来 の 便 益 と は企 業 へ の 現 金 お よ び 現 金 同等 物 の 流 入 に直 接 的 ま た は 間 接 的 に 貢献 す る 潜 在 能 力 を 意 味 す る」27)で あ っ て,資 産 の 価 値 は将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー を どれ だ け獲 得 で きる か に よ っ て判 断 さ れ る 。 た と え ば,棚 卸 資 産 を将 来 に150万 円 で販 売 で き る こ とを期 待 して100万 円 の投 資 を行 う。 この 場 合,こ の棚 卸 資 産 は将 来 に流 入 す る と期 待 され る キ ャ ッ シ ュ ・フ ロー の額 を現 在 に 引 き直 した 価 額150万 円 ×100/150=100万 価 で 評 価 さ れ る 。 そ の 後,こ れ ば,将 円,す なわ ち,取 得 原 の 棚 卸 資 産 が135万 円 で しか販 売 で き ない こ とが 予 測 され た とす 来 に 流 入 す る と期 待 さ れ る キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 額 を 現 在 に 引 き 直 して135万 100/150ニ90万 円 に 評 価 替 え す る こ と に な る。 取 得 原 価100万 に 下 落 した とす れ ば,そ 円× 円 の 棚 卸 資 産 の 時 価 が90万 円 の 棚 卸 資 産 は 当 初 予 定 した価 格 で は販 売 で きな い で あ ろ う と判 断 を し て 評 価 損 を計 上 す る の で あ る 。 こ れ は 拙 著(『 制 度 会 計 論 』p.177)に お い て 紹 介 し た恩 師 ・木 村 重 義 先 生 の 低 価 主 義 の 理 論 で あ る。 棚 卸 資 産 につ い て 説 明 した よ う に,棚 卸 資 産 を将 来 に 150万 円 で 販 売 で き る こ と を期 待 して100万 円 の投 資 を 行 う。 そ れ は 固 定 資 産 に つ い て も同 じ で あ る。 企 業 が 固 定 資 産 に 対 して投 資 す る の は投 資 額 以 上 の 将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー を獲得 す る こ と を期 待 し て の こ と で あ る 。 そ して,そ の 固 定 資 産 は 将 来,流 入 が 期 待 され る キ ャ ッ シ 一 10 経 営 論 集 ユ ・フ ロ ー に基 づ い て 現 在 に 引 き直 して 算 定 され た 評 価 額,す され る。 毎 年300万 な わ ち,取 得 原 価 に よ っ て 評 価 円 の キ ヤ ッシ ュ ・フ ロ ー を生 み 出 す こ と を期 待 して 耐 用 年 数5年,残 存価 額 ゼ ロの 償 却 資 産 を1000万 円 で 取 得 した とす る。 こ の償 却 資 産 を3年 間使 用 した後 に こ の資 産 の 収 益 性 が30%落 ち て4年 目 か ら は毎 年210万 円 しか キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー を 生 み 出 さ な くな っ た とす る 。 資 産 と は,「 将 来 の 経 済 的 便 益 が そ の 企 業 に流 入 す る と期 待 さ れ る資 源 」 で あ り, 「資 産 が 有 す る将 来 の便 益 とは 企 業 へ の 現 金 お よび 現 金 同 等 物 の 流 入 に 直接 的 また は 間 接 的 に 貢 献 す る 潜 在 能 力 を意 味 す る 」 の で あ る か ら,120万 円 の 減 損 を行 う こ とに な る 。 た と え ば, 毎 年50万 円 の キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー を生 み 出 す こ と を期 待 し て1000万 円 の土 地 を取 得 し た とす る 。 この 土:地の 収 益 性 が30%落 た と す る 。 こ の 場 合,土 ち て毎 年35万 円 しか キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー を生 み 出 さな くな っ 地 の価 値 は30%減 少 す る こ と に な る 。 そ して,有 用性が 失 われ て将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー を生 み 出 さ な く な っ た300万 円 を 減 損 処 理 し,有 用 な原 価 の み を次 期 以 降 に繰 り越 す こ とに な る。 こ の 「原 価 の う ち キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー を生 み 出 さ な い とい う意 味 で 過 剰 な 部 分,す な わ ち, 有 用 性 が 失 わ れ た部 分 を切 り捨 て る手 続 が 求 め られ る 」 とす る考 え 方 は,棚 卸 資 産 に つ い て の 低 価 主 義 を 説 明 す る場 合 に,有 用 な 原 価 を繰 り越 す とい う考 え 方 に 通 じ る 考 え 方 で あ ろ う 。 『経 過 報 告 』 は 固 定 資 産 の 減 損 会 計 に つ い て 「本 来,投 資 期 間全 体 を 通 じた 投 資 額 の 回 収 可 能 性 を評 価 し,投 資 額 の 回収 が 見 込 め な くな っ た時 点 で,将 来 に 損 失 を 繰 り越 さ ない た め に帳 簿 価 額 を減 額 す る 会 計 処 理 で あ る」 と説 明 して い る。 これ は,棚 卸 資 産 につ い て 時 価 が値 下 り し て,当 初 期 待 し た とお りの キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー を獲 得 で き な い 場 合 に,評 価 損 を計 上 す るの と 同 じ論 理 で あ る 。 V[減 損 の戻 入 れ 減 損 計 上 後 は そ の額 が そ の 後 の 固 定 資 産 の 帳 簿 価 額 に な る 。 しか し,次 期 以 降 の 状 況 の 変 化 に よ っ て 減 損 の 一 部 が 回復 す る場 合 が あ りう る。 そ の 場 合,そ 題 が あ る 。 戻 し入 れ は,い れ を どの よ うに扱 う か とい う 問 っ た ん 減 損 を認 識 した後 に そ の 資 産 の 時 価 が 回 復 した と か,機 械 の よ う な資 産 で あ れ ば製 品市 況 が 回復 した とか に よ っ て 資 産 価 値 が 回復 した場 合 に,そ れ を ど の よ う に 扱 う か と い う問 題 で あ る 。 こ の 問題 に つ い て,『 経 過 報 告 』 は 次 の よ う に述 べ て い る 。 「固 定 資 産 の 収 益 性 の低 下 に よ る 減 損 処 理 は,前 述 の よ う に 減 損 の 存 在 が 相 当 程 度 に確 実 な場 合 に,回 収 可 能 価 額 の 見 積 も りに基 づ い て 行 わ れ る 。 こ の た め,減 損 処 理 後 の年 度 に お い て, 回収 可 能 価 額 の 見 積 も りに 減 損 処 理 額 を 減 額 す る よ う な変 化 が 生 じた場 合 に は,減 損 損 失 の 戻 し入 れ を行 うべ きで あ る とす る考 え方 が あ る。 特 に土 地 に つ い て は,長 期 の 保 有 の 間 に 収 益 性 が 回復 す る こ と も考 え られ る。 しか しな が ら,収 益 性 が 回 復 した とは い っ て も,い か な る場 合 一 固定 資産 の減損 会計 一 11 に減 損 損 失 の戻 し入 れ が 認 め られ るべ きか 必 ず し も明 らか で な く,ま た,取 得 原 価 の 範 囲内 で あ っ て も利 益 の 実 現 を待 た ず に期 待 の変 化 だ け で 収 益 とな る 戻 し入 れ を認 識 す る の が 適 当か な ど,減 損 損 失 の 戻 し入 れ に は さ ま ざ まな 問 題 点 が 指 摘 され て い る。 さ ら に,実 務 上 の 適 用 を考 慮 す る 場 合,減 損 損 失 の 戻 し入 れ は帳 簿 価 額 を再 度 修 正 す る必 要 が あ る た め,事 務 的 負 担 を増 大 させ る と の 懸 念 もあ る。 こ の よ う な観 点 か ら,減 損 損 失 の 戻 し入 れ を行 わ ない こ とが 適 当 で あ る と考 え ら れ る 」。 『経 過 報 告 』 は 「減 損 損 失 の 戻 し入 れ を行 わ な い」 と して い る が,「 減 損 損 失 の 戻 し入 れ を行 うべ き で あ る とす る 考 え方 が あ る」 こ と も認 め て い る。 戻 し入 れ につ い て は 二 つ の考 え方 が 存 在 す る。FASBは 「減 損 を認 識 し た後 は,長 期 性 資 産 の 調 整 後 の 簿 価 が 新 しい 取 得 原 価 に な る」(para.15)28)と FASBは して 減 損 の戻 入 れ を認 め て い な い 。 減 損 処 理 を行 っ た 後 の 固 定 資 産 は新 し く公 正 価 値 で 購 入 した 資 産 と考 え て い る ので あ る。 つ ま り,FASBは,原 価 主 義 会 計 に 固 執 して い て,減 損 損 失 を認 識 した後 の 帳 簿価 額 は新 た な 原 価 で あ る と見 な して い る の で,ひ 損 失 が 回復 して も,戻 と た び 原 価 を設 定 した以 上,そ の 時 価 が 上 昇 し,減 損 し入 れ は 認 め な い とい うの で あ る。 これ に対 して,IASは,原 則 と して,減 損 損 失 の戻 入 れ を認 め て い る(para.94)29)。 た だ し, 戻 入 れ 後 の 帳 簿 価 額 が 過 去 に 減 損 損 失 が な か っ た と仮 定 した場 合 の 帳 簿 価 額(減 価 償 却 後)を 超 え て は な ら な い と して い る(para.102)。IASで の理 由 で 回復 した場 合 に は,戻 は,い っ た ん 認 識 した 減 失 が そ の 後 な ん らか し入 れ を行 っ て,資 産 の 帳 簿 価 額 をそ れ に 見 合 っ て 増 額 す る こ とに して い る。 た だ し,上 限 が 設 け られ て お り,戻 入 れ 後 の 帳 簿 価 額 は,減 損 が な か っ た と仮 定 した場 合 の 減 価 償 却 後 の 帳 簿 価 額 を超 え て は な ら な い と さ れ て い る。 そ の 資 産 か ら得 られ る 経 済 的 な便 益 が もは や 期 待 で き な くな っ た とい う こ とで 減 損 の処 理 を す る の で あ るか ら,そ の 後 減 損 を認 識 す る に 至 っ た状 況 が 解 消 し,将 来 の 経 済 的 便 益 が 回復 した と き は,戻 し入 れ を認 め る の が 当 然 だ と考 え るの で あ ろ う。 V問 題点 終 わ りに あ た っ て,減 損 会計 の 問 題 点 を指 摘 して お きた い 。 『論 点 整 理 』 は次 の よ う に述 べ て い る。 「と りわ け 不 動 産 を始 め 事 業 用 資 産 の 価 格 や 収 益 性 が 著 し く低 下 して い る昨 今 の 状 況 で は,そ れ らの 帳 簿価 額 が 価 値 を過 大 に表 示 した ま ま,将 来 に損 失 を繰 り延 べ て い る お ぐ れ は少 な くな い 。 そ の 疑 念 が,財 務 諸 表 へ の 社 会 的 な信 頼 を損 ね て い る とい う指 摘 もあ る。 投 資 者 に と っ て有 用 な情 報 を提 供 す る う え で,固 定 資 産 の 評 価 は避 け て 通 れ な い 問 題 に な っ て い る」。 す な わ ち,『 論 点 整 理 』 は,投 資 家 へ の 有 用 な 情 報 の 開示 と い う観 点 か ら も減損 会 計 が 必 要 で あ る と して い る。 しか し,投 資 家 へ の 有 用 な情 報 の 開 示 とい う観 点 か ら固 定 資 産 の 評 価 を 問 題 に す る の で あ れ ば,減 損 の み が 対 象 と され るべ きで はな く, 一 12 経 営 論 集 一 評 価 増 も 当 然 に 問 題 に さ れ る べ きで あ ろ う。 『論 点 整 理 』 が 評 価 増 を 問 題 に し て い な い の は 減 損 を 原 価 主 義 ・損 益 計 算 の 枠 組 み の な か で 捉 えて い る か らで あ ろ う。 しか し,投 資 家 へ の情 報 開 示 と い う点 か ら減 損 を 問題 とす るの で あ れ ば原 価 主 義 ・損 益 計 算 の 枠 組 み の なか で捉 え るべ きで は な い 。 原 価 主 義 は情 報 開示 の た め に は 比 較 的 不 向 き で あ っ て,そ の た め に 今 日多 くの 提 案 が な さ れ て い るの で あ る 。 真 に,情 報 開 示 を行 お う とす る な ら ば,原 価 主 義 ・損 益 計 算 の 枠 組 み か ら脱 却 して い か な け れ ば な ら な い。 企 業 が 減損 処 理 を実 施 した に は 「含 み 損 益 を顕 在 化 させ て貸 借 対 照 表 の 透 明 性 を高 め,時 価 ベ ー ス で の 資 産 効 率 向 上 を 目 指 す 方 針 」30)か らで あ る 。 減 損 会 計 を先 取 り して 実 施 して い る 企 業 は,た と え 減 価償 却 の対 象 とな っ て い る 建 物 につ い て さえ も費 用 配 分 を考 え て 減 損 処 理 を し て い る わ け で は ない 。 す な わ ち,株 主 資 本 か ら見 た 資 産 効 率 を 開示 し,「 財 務 諸 表 の 信 頼 性 と透 明性 が 大 幅 に 高 め られ る 」(岩 沙 弘 道 ・三 井不 動 産 社 長)31)と 判 断 して 行 わ れ て い るの で あ る 。 こ う 考 え て み る と,情 報 開 示 とい う点 か ら検 討 して み る 必 要 が あ る の で は な い だ ろ う か。 情 報 開 示 とい う点 か ら,損 益 計 算 書 と貸 借 対 照表 と を比 較 して み る と,損 益 計 算 書 は 結 果 を 表 示 して い る の に対 して,貸 借 対 照 表 は,こ れ だ け の 資 産 ・負 債 を用 い れ ば,ど れだけの成 果 を 挙 げ ら れ る か,将 来 を予 測 させ る もの で あ る 。 した が っ て,貸 借 対 照 表 に 表 示 さ れ て い る 資 産 は,将 来 に どれ だ け の キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー を獲 得 で き る か を示 す もの で な け れ ば な ら な い 。 こ れ は,LへSのframeworkが る 資 源 」(para.49)32)と 「資 産 とは,将 来 の経 済 的 便 益 が そ の 企 業 に 流 入 す る と期 待 さ れ 定 義 し,「 資 産 が 有 す る将 来 の 便 益 とは 企 業 へ の現 金 お よ び現 金 同 等 物 の 流 入 に直 接 的 また は 間 接 的 に 貢 献 す る潜 在 能 力 を意 味 す る 」(para.83)33)と 述べ てい る こ とか ら も明 らか で あ ろ う。 つ ま り,資 産 と は,将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー獲 得 能 力 を い うの で あ る か ら,何 らか の事 情 に よ って,将 来 の キ ャ ッシ ュ ・フ ロー 獲 得 能 力 が 低 下 す る時 に は,そ れ に 応 じ て資 産 価 値 も低 下 す る こ とに な る。 資 産 は 将 来 の キ ャ ッシ ュ ・フ ロ ー を獲 得 で き る有 用 な 価 値 で 貸 借 対 照表 に示 さ れ る べ きで あ る。 当初 予 定 した よ り も将 来 の キ ャ ッ ッシ ュ ・フ ロ ー獲 得 能 力 が 低 下 した 固 定 資 産 に つ い て は適 切 な資 産 価 値 を示 す よ う に評 価 替 減 額 を す る必 要 が あ る。 減 損 会 計 は,収 益 性 が 低 下 した 固 定 資 産,あ 減 少 し た 固 定 資 産 につ い て,一 る い は,将 来 の キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー獲 得 能 力 が 定 の 条 件 の 下 で,正 常 な 収 益 力 あ る い は正 常 な 将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 獲 得 能 力 を反 映 させ る よ うに 帳 簿 価 額 を 減 額 す る 会 計 処 理 で あ る。い って み れ ば, い わ ゆ る 含 み 損 の みが 問 題 に され て い る 。 しか し,正 常 な収 益 力 あ る い は将 来 の キ ャ ッ シュ ・ フ ロ ー 獲 得 能 力 を反 映 させ る よ う に資 産価 値 を示 す とい う点 か ら言 え ば,減 損 の み が 問題 に さ れ る べ きで は な い であ ろ う。 あ る 条 件 に よ っ て は,帳 簿 価 額 よ り も資 産 価 値 が 上 昇 す る こ とが 一 固定資産の減損会計 一 13 あ りう る。 上 に挙 げ た 賃 貸 ビル 等 の 投 資 不 動 産 の 例 は,時 価 の 上 昇 が使 用 資 産 の 価 値 の 上 昇 の 兆 候 と判 断 され る最 も顕 著 な例 で もあ ろ う。 IAS40の 下 記 の 文 言 は 時 価 主 義 に よ る 評 価 を述 べ た もの で あ る が,投 資 不 動 産 と時 価 の 関 係 に つ い て の 記 述 が み られ る。 こ こ で は,投 (para.29)34),次 資 不 動 産 の 市 場 に お け る 時 価 を公 正 価 値 と 呼 ん で の よ う に 述 べ て い る 。 「賃 貸 収 益 と公 正 価 値 の 変 化 とは,投 資 不 動 産 の財 務 業 績 の不 可 欠 な構 成 要 素 と して複 雑 に結 合 して お り,そ の財 務 業 績 を意 味 の あ る方 法 で 報 告 し よ う とす る の で あ れ ば,公 正 価 値 に よ る 測 定 が 必 要 で あ る」35)(B44)。 す な わ ち,公 正 価 値 が 変 動 した 場 合 に 賃 貸 収 益 も変 動 す る とい うの で あ る。 した が っ て,投 資 不 動 産 は公 正 価 値 が 下 落 した 場 合 に は 減 損 処 理 す る こ と に な る 。 反 対 に,投 資 不 動 産 に つ い て公 正 価 値 が 上 昇 した 場 合 に も公 正 価 値 に よ っ て 表 現 す る の で あ る か ら,評 価 替 増 額 す る こ と に な る。 IAS40の 上 記 の 規 定 は 時 価 主 義 に つ い て の 規 定 で あ る が,評 価 替 増 額 とい う点 で参 考 に な る 規 定 で あ る。 減 損 会 計 は,い わ ゆ る含 み損 の み を問 題 に して い る が,正 常 な 収 益 力 あ る い は正 常 な 将 来 キ ャ ッ シ ュ ・フ ロ ー の 獲 得 能 力 を反 映 させ る よ う に資 産 価 値 を 示 す とい う点 か らい え ば,減 損 の み が 問 題 に され るべ きで は な い で あ ろ う。 固 定 資 産 の 評 価 替 増 額 につ い て は,反 対 意 見 も多 い 。IAS40が 紹 介 す る下 記 の 反 対 意 見 は 固 定 資 産 の 時 価 主 義 に つ い て の もの で あ る が,評 価 替 増 額 につ い て も 同 じ よ う な反 対 意 見 が あ る と思 わ れ る 。「(1)投 資 不 動 産 の た め の 活 発 な 市 場 は 多 くは な い(多 くの 金 融 商 品 と は異 な る)。 不 動 産 取 引 は 頻 繁 で は ない し,ま た 同 質 で もな い 。 各 投 資 不 動 産 は 独 特 で あ り,そ の 売 却 は そ れ ぞ れ 多 大 な 交 渉 を条 件 とす る 。 そ の結 果,特 に評 価 専 門 職 が 十 分 に確 立 して い ない 国 にお い て は,公 正 価 値 を信 頼 性 あ る基 準 で 決 定 で きな い の で,公 正 価 値 の 測 定 は 比 較 可 能 性 を 高 め な い で あ ろ う。 減 価 償 却 後 の 取 得 原 価 に よ る測 定 は,よ な 測 定 を提 供 す る 。(2)投 り整 合 的 で,変 動 の 少 な い,よ り客観 的 資 の た め 保 有 す る資 産 に対 し て よ り も公 正 価 値 が 明 らか に適 切 で あ る と主 張 す る 余 地 の あ る短 期 の 資 産(棚 卸 資 産 の よ う な)に 対 して 原 価 基 準 が 使 用 され て い る」 (B46)。36) ま た,『 経 過 報 告 』 も投 資 不 動 産 の 時 価 評 価 に 反 対 して,減 損 会 計 を 原 価 主 義 の枠 の な か で 説 明 して い る。 『経 過 報 告 』 は次 の よ うに 述 べ て い る。 「活 発 な 市 場 を有 す る 一 部 の金 融 資 産 に 比 べ,投 資 不 動 産 の 時 価 を客 観 的 に把 握 す る こ とは 困難 で は な い か と い う懸 念 が あ る 。 ま た, 工 場,本 社 建 物 の み な らず 外 形 的 に は 賃 貸 収 益 を 目 的 と して 保 有 さ れ る よ う な不 動 産 で あ っ て も,直 ち に 売 買 ・換 金 を行 う こ とに 事 業 遂 行 上 等 の 制 約 が あ る場 合 等,事 え ら れ る もの が あ り,こ の よ う な事 業 投 資 で は,一 実 上,事 業 投 資 と考 般 に,時 価 の 変 動 を企 業 活 動 の成 果 とは 捉 え な い と い う考 え 方 」 で あ る 。 そ して,『 経 過 報 告 』 は 「こ の考 え が 妥 当 で あ る 」 と し た。 さ ら に,「 そ の 保 有 目 的 等 を全 く考 慮 せ ず に時 価 評 価 を行 う こ とは,必 ず し も,企 業 の 財 政 状 態 一 14 経 営 論 集 一 及 び経 営 成 績 を適 切 に 財 務 諸 表 に反 映 させ る こ とに な ら な い と考 え られ る」 と して,投 資 不 動 産 につ い て も,時 価 の 変 動 を そ の ま ま損 益 に算 入 せ ず,他 準 に よ る 会 計 処 理 を行 い,必 の有 形 固 定 資 産 と同様 に取 得 原 価 基 要 が あ れ ば 減 損 処 理 を行 う こ とが 妥 当 で は な い か と考 え ら れ る 」 とす る 。 そ こ で,『 経 過 報 告 』 は 投 資 不 動 産 につ い て 「原 価 評 価 を継 続 し,他 の 固 定 資 産 と 同 様 に 減 損 会 計 を適 用 す る」 こ とに した とい うの で あ る 。 減 損 会 計 は い わ ゆ る 含 み 損 の処 理 だ け を求 め て い る が,含 み益 も 問題 にす べ きで あ る 。 貸 借 対 照 表 に 資 産 の 真 実 の 価 値 を示 さ ない な らば,株 主 資 本 は実 態 か ら か け 離 れ た ま ま に な って し ま う。 こ れ で は 株 主 資 本 利 益 率(ROE)は 計 算 で き な い 。 含 み 損 を そ の ま ま に し て お くこ と が 企 業 の 貸 借 対 照 表 が 真 実 の 姿 を示 して い ない の と同様 に,含 み益 を抱 え て い る 企 業 は株 主 資 本 を 過 小 表 示 して い る こ とに な る 。ROEは 過 大 表 示 され て い る こ と に な る。 現 在,ROEは 最 も重 要 な投 資 尺 度 の 一 つ で あ る こ と を考 え る と減損 の み を問 題 に な る こ と につ い て は不 満 が 残 る と こ ろ で あ る。 注 1)『 日経 産 業 新 聞 』2001.8.2 2)『 日本 経 済 新 聞 』2002.3.6 3)『 日本 経 済 新 聞 』2000.11.1] 4)『 日 本 経 済 新 聞 』2002.10.29 5)『 日 本 金 融 新 聞 』2002.4.19 6)『 日 経 産 業 新 聞 」2001.8.2 7)1日 本 経 済 新 聞 』2002.4.19 8)『 日 経 産 業 新 聞 』2000.10.31 9)『 日 経 産 業 新 聞 」2000.10。31. 10)『 日 経 産 業 新 聞 』200L8.2 11)FAS141para.7 12)IAS36目 的 13)FAS141para.8 14)IAS36para9 15)IAS36para.9 16)IAS36para.11 17)IASframeworkpara49 18)IAS丘ameworkpara,83 19)辻 山 栄子 『固 定 資 産 の 評 価 」 企 業 会 計53-1 20)辻 山 栄子 「「固 定 資 産 の 減 損 会 計 」 に つ い て 聞 く 』(座)JICPAジ 21)米 山正 樹 『減 損 会 計 一 配 分 と 評 価 一 』(は 22)同 上,(は 23)同 上,90頁 24)同 上,95頁 25)同 上,95頁 しが きii) しが きii) ャ ー ナ ル13-9 一 26)囲ffameworkpara49 27)IASframeworkpara.49 28)FAS121para,15 29)IAS36para.94 30)『 日 本 経 済 新 聞 」2002.3.11 31)「 日 本 経 済 新 聞 」2002.3.11 32)鵬frameworkpara.49 33)鵬frameworkpara.83 34)IAS40para.29 35)】 邸40B40 36)IAS40B40 固定資産の減損会計 一 15