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薔薇と楠当世事情
第22号 中部大学産業経済研究所 平成27年5月発行 薔薇と楠当世事情 産業経済研究所 所長 石 そのむかし、アリストテレスの論理学というも のを教わったことがあります。大学の教養課程で 開講されている入門講座だったので、専門的な知 識ではもちろんありません。けれども、なるほど と考えさせられることではありました。同一律 (l aw ofi de nt i t y)は「AはAである」というこ とであり、 矛盾律 (l aw ofc ont r adi c t i on) は 「Aは非Aではない」というようなことであった と記憶しています。なんだか当たり前のことのよ うな気もしましたが、どんな分野でもおそらく自 明なことから出発するものでしょう(たぶん)。 矛盾という言葉を教わったのは中学の国語の時 間だったような気がしますが、不思議な気持ちに させられたことを覚えています。言わずもがなで 恐縮ですが、ご高尚のとおり、ある商人が矛を売 るときは、この矛は何でも突き刺すことができる と言い、同じ商人が盾を売るときは、この盾なら 何でも防ぐことができると言ったというあの話で す。商人の説明を聞いていた人から、あなたの矛 であなたの盾を突いたらどうなりますかと問われ て、商人が返答に窮したことから矛盾という言葉 ができたということでした。 実際に盾の表側から矛を突き刺せば、商人の言 うとおり、矛は盾の途中か内側ぎりぎりの所まで 到達することになるでしょう。矛は盾を突き刺す という役目を果たし、盾は身を守るという役割を まっとうしたことになり、つじつまが合わないこ とはありません。このことから言えることは、 「矛盾は矛盾でない」であります。同一律はどこ へ? 昨今話題になり、またしばらくすると確実に世 間の話題に上ると予想されるテーマの1つが消費 税の増税問題です。消費税が間接税であることは、 どなたもご存じのとおりです。間接税は、税の負 担者である消費者が自分自身で税を納めに行くわ けではなく、業者が消費者から買い物のときに税 田 昌 夫 を預かり、これを納税義務者として当局に支払う ものと理解されています。つまり、税が租税負担 者である消費者から業者を経由して、間接的に税 務当局に納められることから間接税と呼ばれると いうわけです。 中学の「公民」や高校の「政治・経済」の教科 書に次のようなことが書かれています。すなわち、 市場のしくみは右下がりの需要曲線と右上がりの 供給曲線からなりたっており、2本の曲線の交わ るところで取引が行われるということです。供給 曲線は、売り手が商品をある量だけ供給したいと 思うとき、その商品1単位当たりにたいして受け 取れればよいと考える価格を表すグラフです。こ の商品に消費税がかけられることになれば、売り 手はできればその分を消費者に負担してもらいた いと考えるでしょう。すると、供給曲線は、消費 税分だけ上に移動することになります。紙の切れ 端かなにかに書いていただくとすぐにお分かりに なりますように、このとき、価格の上昇分は税の 負担分には及びません。 税の負担分を価格の上昇を通して消費者に移転 しようとしても、通常のケースを想定する限り、 税負担の全額を値上げによってまかなうことはで きないということになります。業者は納税義務者 ですから、不足分は自分のポケットから補ってで も税を支払う義務を負っています。この場合、税 は業者のポケットから直接税務当局に納められる ので、間接税とはなりません。つまり、「間接税 は間接税でない」ことになります。 〔系〕「消費税は消費者が支払うわけではない」 ということもご容易に理解いただけるでしょう。 次は、 「直接税は直接税でない」ことの論証 (?) です。直接税は、所得税に代表されるように、税 を負担する人が、自身で租税の支払いをする、す なわち税が納税義務者によって税務当局へ直接支 払われるので直接税だと理解されています。たし Re s e ar c hI ns t i t ut ef orI ndus t r yandEc onomi c s ,ChubuUni ve r s i t y 1 かに、2月の後半から、確定申告のために、全国 の税務署に大勢の方々が列をなして順番待ちをし ておられる光景を、風物詩として何度もご覧になっ たことでしょう。 けれども、給与所得者のうちでも少なからぬ人 達は、自分で確定申告をせずに、会社などの経理 課まかせで済ましておられることも、周知の事実 に属します。これらの人達は、自分の負担すべき 税を、自分自身ではなく、事業所を経由して間接 的に納めているわけです。これは、言葉の記法に より、「直接税は直接税でない」ことを示してい ます(Q. E. D. )。 〔付加価値税負担分増量〕 ・増税は税収を増加させる? 例えば消費税なら、 税収は税率と消費量の積で求められ、税率の増 加は消費量を減少させるので(需要曲線は右下 がり)、その積が大きくなる保証はありません。 商品を値上げしさえすれば(=高く経営?)、 売上が増えると単純に考える経営者はいないで しょうね。消費の減退が景気を悪化させれば、 所得税や法人税など他の税目は、確実に(!)減 少します。 増税しなくても(=税率を上げなくても)、 消費量が増えれば税収は必ず増加します(これ は増税ではなく、自然増と呼ばれます)。 ・カゼは非課税。治療費にも処方薬にも税は課さ れません。 ・低賃金率は効率的? グローバリズムの嵐はき ついですね。 ・講座は口座。「ただのランチはない」のは経済 の鉄則ですね。 ・マニュアル人間でない人材を選抜するための浩 瀚なマニュアル。(よその国の話です。念のた め) 〔おまけのおまけ〕 ・参事官は3時間。(古川貞治郎元内閣官房副長 官の睡眠時間) ・退職者は小食者。年を取ると胃が縮小するので す。なので、腸が不調。 ・港区民は皆解く。(優秀なのですね) ・公聴会が不調。 ・仲がよいのに献花台。 平成26年度研究課題 中部大学産業経済研究所の平成26年度における 研究課題は、継続5件、新規2件の計7件でした。 継 続 研究期間 平成25年4月~27年3月 研究課題Ⅰ 長期不況・高齢・格差拡大社会にお ける社会保障と費用負担のありかた 石田 研究期間 平成25年4月~27年3月 研究課題Ⅱ 中部圏中堅企業の チャイナプラスワン戦略 舛山 Re s e ar c hI ns t i t ut ef orI ndus t r yandEc onomi c s ,ChubuUni ve r s i t y 誠一(国際関係学部教授) 研究期間 平成25年4月~27年3月 研究課題Ⅲ 環境ベンチャー企業における 技術革新と組織マネジメント手法に 関する分析 -テスラ・ モーターズを事例として- 趙 寺澤 偉(経営情報学部教授) 朝子(経営情報学部教授) 研究期間 平成25年4月~27年3月 研究課題Ⅳ データセンター及びデータセンター を活用したビジネスの将来動向に関 する調査・研究 小川 永井 裕克(経営情報学部教授) 義明(経営情報学部非常勤講師) 研究期間 平成25年4月~27年3月 研究課題Ⅴ 大学と商店街の連携による持続可能 なまちづくり、自立分散型「勝川ス タイル」の提案に向けた研究 -春日井市勝川駅前通り商店街を 事例として- 羽後 岡本 川田 水野 2 昌夫(経営情報学部教授) 静子(国際関係学部教授) 肇(中部高等学術研究所講師) 健(愛知文教大学教授) 隆(春日井商工会議所副会頭) 新 規 研究課題Ⅰ 研究期間 平成26年4月~28年3月 研究課題Ⅵ アメリカ太陽光発電の多様性と ライフサイクル・アセスメント 河内 福島 信幸(国際関係学部教授) 崇宏(名古屋外国語大学非常勤講師) 研究期間 平成26年4月~28年3月 研究課題Ⅶ デザイン主導型製品 開発手法の研究 小山 太郎(研究推進機構講師) 長期不況・高齢・格差拡大社会 における社会保障と費用負担の ありかた 石田 昌夫(経営情報学部教授) 研究概要 長期にわたる景気低迷のもとで、人口構造の高 齢化と格差の拡大は、当面の課題であるばかりで なく、中・長期的にもわが国経済の重い問題とし て解決が求められている。このような状況のもと で、国民の幸福な暮らしに欠かせない持続可能な 安心・安全の社会保障制度をいかに確立していく か、またそのための費用負担はどのようであるべ きかが問われなければならない。 この問いに答えるためには、多面にわたる広範 な検討がいやが上にも求められることとなる。本 研究においては、安心・安全の社会保障制度を安 定的に支えるための費用負担面から、問題に接近 していく。費用負担面のうちでもとくに、近年大 きなテーマとして論じられている消費税について、 考察を進める。さらに限定すると、消費税の税率 上昇にともなう逆進性の増大にいかに対応するか が、本稿の直接の課題である。 まず、消費税の増税時に導入が検討されている 軽減税率について検討する。本稿では、軽減税率 を含むより一般的な複数税率という形で分析して いる。複数税率のもとでは、生活必需品にゼロ税 率を適用したり、高額商品に高税率を課すなどの 操作により、いわゆる生活弱者と呼ばれる人々の 生活実感に配慮を加えることができる。高額商品 に高率の税を賦課することにより、政策実行に必 要な財源確保に資すことも可能である。 反面、必需品の範囲、税率差別化の程度などを 確定しようとすることには、著しい困難が巻き起 こされる。食料が生活必需品であるとしても、い わしとぶり、ネギとマスクメロンではずいぶん違 いがあるようにみえる。鉛筆は小学生にとっての 必需品であろうが、筆記具一般を必需品とすれば、 高級万年筆も書道高段者向けの秘蔵の筆も筆記具 であることから、軽減税率対象商品とせざるを得 ない。複数税率のもつ長所・短所を網羅した上で、 本稿では、複数税率導入の可否を、マスグレイブ の租税原則によって判定した。マスグレイブの租 税原則からは、総合的には単一税率が好ましいと の結論が下される。 これらの分析の後、今後の展望について言及し た。ありうる選択肢として、簡素な給付措置、給 付付き税額控除、負の所得税、直接税型消費税、 ブランド税、ラムゼーの逆弾力性命題からの翻案、 価格を課税標準とすること等が検討の対象となる ことを示した。これらについての本格的な検討に ついては、他日を期したい。 Re s e ar c hI ns t i t ut ef orI ndus t r yandEc onomi c s ,ChubuUni ve r s i t y 3 研究課題Ⅱ 研究課題Ⅲ 中部圏中堅企業の チャイナプラスワン戦略 舛山 誠一(国際関係学部教授) 研究概要 2年間の継続研究の最終年度である。前年度の 研究において、中国からASEAN諸国、インドへ の投資シフトを行う「チャイナプラスワン」戦略 の大きな枠組を提示した。その中で、キャッチアッ プ成長と人口動態の複合作用からなる市場間の優 位性変化が背景となっていること、新しい市場で 要請される経営戦略は、市場が変わることを除け ば中国におけるものと基本的には同様であること、 国際生産戦略に対して国際マーケティング戦略の 重要性が相対的に高まっていることを明らかにし た。そこで今年度の研究においては、アジア地域 における国際マーケティング戦略の課題について、 アジアの立地環境の特徴の分析の下で、日本企業 の行動についての論文・雑誌新聞記事を国際マー ケティングの枠組みで論点として整理することを 試みた。 個々の企業に必要となる戦略は、個別企業の経 営資源、置かれた状況によって異なる。本研究に よって提示した広範な課題リストは、個々の企業 がその中から自らの状況にあった戦略を形成する ための選択肢という性格のものである。課題リス トには、以下のようなものがある。 市場ターゲティングに関しては、所得・文化な どの多様性の大きいアジア市場においては細分化・ ターゲティングの重要性が高い。所得階層区分で は台頭する中間層が主要なターゲットとなる。こ の階層の所得は先進国の中間層に比べて低いので、 それに対応したより機能を絞った低価格の商品の 提供が必要になる。しかし、所得格差の大きいア ジア諸国では富裕層の市場の規模も大きく成長性 も高い。この市場における欧米気企業などとの競 争に対応してブランド力の強化が必要である。人 口構成の若さから日本に比べてシェアと成長性の 高い子供市場、若者市場も重要なターゲットであ る。経済の発展段階の低さからインフラ市場の重 要性が高く、また、早期参入利益の大きな市場の 多い。ASEAN市場の統合や地域のムスリム人口 の多さから、地域横断的な市場ターゲティングへ の動きもある。 この他、アジアにおける商品戦略、流通戦略、 プロモーション戦略などについての課題について の論点整理を行った。 4 Re s e ar c hI ns t i t ut ef orI ndus t r yandEc onomi c s ,ChubuUni ve r s i t y 環境ベンチャー企業における 技術革新と組織マネジメント 手法に関する分析 -テスラ・ モーターズを事例として- 趙 寺澤 偉(経営情報学部教授) 朝子(経営情報学部教授) 研究概要 昨年度は「電気自動車市場の特徴と将来展望― テスラ・モーターズ社を中心として―」(産業経 済研究所紀要第2 4号)と題して、電気自動車市場 にイノベーティブな変化が生じていることを考察 した。その際、電気自動車とガソリン車を比較し、 製造上の特徴を明らかにした。特に、テスラ・モー ターズ社に焦点を当てて、そのビジネスモデルの 新奇性について紹介した。また、テスラの組織的 な強みや生産現場の特徴を明らかにすることを今 後の課題として研究を続けた。2014年8月には、 米国において現地調査も行ったが、予想以上にテ スラの組織内部に関する資料を入手することが難 しく、テスラの生産現場の組織に関する詳細な分 析は困難となった。他方、日本では燃料電池自動 車の普及に向けた大きな動きも生まれつつあり、 電気自動車市場を取り巻く状況が現在も目まぐる しく変化している。そこで、本年度は、その後の 日米の電気自動車の製造をとりまく状況と、電気 自動車の普及に向けた動きを改めて考察し、次世 代自動車の一つの選択肢として、電気自動車がど のような展開をたどることになるのかを検討する こととした。 電気自動車は一部の富裕者層でしか普及してい ないのが現状である。テスラ・モーターズ社のロー ドスター(現在は生産を終了)やモデルSは、他 の野心的な電気自動車企業が淘汰されていく中で、 いまだに大胆な展開を行っている。こうした同社 の競争優位性を製造、開発、販売の3つの視点か ら分析した。 製造においては、テスラ・モーターズ社はトヨ タとGMの合弁企業であるNUMMI の跡地と人材 をうまく活用し、技術力の高い企業との綿密な連 携関係を築くことによって、オープンなネットワー クの利点をうまく活かしている。技術開発に関し ては、自動車基幹技術をゼロから手がけたと考え られる。中核部品でありながら、電気自動車普及 の妨げともなっているリチウムイオン電池に関し ては、ギガファクトリーの建設によって、課題解 決の道筋を世間に示している。 テスラ・モーターズ社は、電気自動車を普及さ せるために、着々とステップを踏みつつある。ロー ドスターという走りを追求した超高級スポーツカー という第一世代から、高級車のモデルSとモデル Xの第二世代を経て、第三世代が、2017年に発売 を予定している「モデル3」である。他の電気自 動車製造企業は、普及の次の段階で足踏みしたり、 企業存続が難しくなったりしているが、テスラだ けが、経験値を蓄積しつつ、次のステップを目指 している。その結果がどうなるか、今後もその動 向を注視したい。 研究課題Ⅳ 研究課題Ⅴ データセンター及びデータセンター を活用したビジネスの将来動向に 関する調査・研究 小川 永井 裕克(経営情報学部教授) 義明(経営情報学部非常勤講師) 研究概要 当研究は、データセンター(DC)事業とDC利 用動向、DCの技術革新について調査・研究し、 DC事業の今後の方向性を探ることを目的として いる。2ヵ年計画の2年目となる。今年度は初年 度の追跡調査と共に、DC利用者及び中部地域を 中心としたDC事業の動向、DCにおけるセキュリ ティ対策などの技術動向等について研究を行った。 DC事業は、クラウドサービスの拡大と共に、 今後も順調に拡大することが見込まれる。地域別 では、関東と関西で75%と地域分散が進まず、 中部地域も4%程度に過ぎない。中部地域の市場 規模が小さい理由として、製造業やサービス業の 割合が多い、自社でDCを所有している、東海地 方、 特に海岸沿いは地盤が弱い、 I BM AS400 (Sys t e m i )を利用している企業が多い、等が考 えられる。また中部地域では、通信キャリアが積 極的にDC事業を展開しており、ハウジングとホ スティングの割合が高い。 ユーザー企業の外部DC利用は現在50%程度で あるが、今後の拡大が見込まれる。DC利用の目 的は、BCP対策、運用コストの削減、セキュリ ティの強化が主であるが、コストの高さやデータ の安全性に不安という理由で利用しない企業も多 い。利用中のDCは、オフィスから比較的近い距 離のケースが多く、DC訪問頻度も高い。DCの近 接性の重要性を減らす工夫が必要となる。 DC事業の今後の課題の一つとしては、ネット ワークを介した大量のデータの収集・処理・発信・ 連携の拡大の流れへの対応が必要となる。 DC技術動向については、省エネルギー、低コ スト化の要望に応える技術開発が進んでいる。 DCには幅広い利用分野が開けているので技術開 発の動向も多様化している。またビッグデータや I oTなど、大量かつスケーラブルなデータ処理に 向けた技術が進展している。クラウドサービスで 特に重要となるセキュリティ技術、特に検索可能 暗号方式、量子暗号方式などが注目を集めている。 大学と商店街の連携による持続可 能なまちづくり、自立分散型「勝 川スタイル」の提案に向けた研究 -春日井市勝川駅前通り商店街を事例として- 羽後 岡本 川田 水野 静子(国際関係学部教授) 肇(中部高等学術研究所講師) 健(愛知文教大学教授) 隆(春日井商工会議所副会頭) 研究概要 本研究は、継続研究2年目である。報告は、以 下の4報告により構成されている。「「感覚値」に よる勝川駅前周辺地区に関する意見抽出」(岡本 肇) 、 「郷土史家から勝川の歴史資源に対する意識: 勝川ブランド構築のために」(川田健)、「自立分 散型の街づくりをめざして:みんなでやらない街 づくりプロジェクト」(水野隆)、「元気!子育て ママたちによる多文化共生の「勝川スタイル」~ 中部ESD生命流域モデルの中の女性の役割~」 (羽後静子)。特に国連「持続可能な開発教育の10 年」の最終年を盛り上げるユネスコESD世界会 議で発表された「あいち・なごや宣言」と中部 ESD拠点協議会が同会議に提出した「中部生命 流域圏ESDモデル」 で、 後者の一翼となった 「勝川スタイル」を、中部地域の伝統的な「もの づくり」文化の伝統を踏まえ、特に急激に人口構 成が変化する日本の地域において自立分散型の 「未来づくり」に向けた「人づくり」の問題とし て把握するための四つの手がかりを取り上げてい る。第一は勝川駅周辺の住民自身の地域づくりに ついての寄与の可能性を中心にした自立分散型開 発の道をさぐることである。第二は、日本列島に おける人口構成の変容の中での、勝川商店街の人 口構成が全国に比べて子育て世代の若い女性の購 買者としての役割に期待することで、脱補助金時 代の中で生き抜くことができる道の模索である。 第三は、春日井市のなかでも勝川の歴史資源と 「神話」による個性の発見の道である。第四は、 「あいち・なごや宣言」が強調するローカルな地 域から子育て女性など女性の活躍による日本社会 への貢献、さらには海外の移住女性を介しての世 界に開かれた地域のまちづくりにおける女性の役 割が注目されていることである。 Re s e ar c hI ns t i t ut ef orI ndus t r yandEc onomi c s ,ChubuUni ve r s i t y 5 研究課題Ⅵ 研究課題Ⅶ アメリカ太陽光発電の多様性と ライフサイクル・アセスメント 河内 福島 信幸(国際関係学部教授) 崇宏(名古屋外国語大学非常勤講師) 研究概要 アメリカでは、約75%の人々が太陽光発電シス テムを導入できない条件にあると推定される。そ れは、屋根の狭さ、形状や方角、不向きな屋根材 が問題であったり、住居が他の建物の陰になって いたりするためである。このような状況の人々は、 残念ながら太陽光発電システムのメリットや恩恵 に与することができない。 そこで、アメリカでは、誰もが太陽光発電シス テムの恩恵を享受できる「コミュニティ・ソーラー」 (Communi t y Sol ar ) の仕組みが導入されつつ ある。このシステムは、最近になって、地域によっ て「シェアード・ソーラー」(Shar e d Sol ar )、 「コミュニティ・ソーラー・ガーディンズ」 (Communi t ySol arGar de ns ) 、 「コミュニティ・ シェアード・ソーラー」(Communi t y Shar e d Sol ar )などとも呼ばれるようになり、次第に注 目を浴びるようになってきた。 これは、 バーチャル・ネットメータリング (Vi r t ualNe tMe t e r i ng:VNM)と呼ばれる、 遠隔地にある太陽光発電システムや、自らの所有 ではない太陽光発電システムを、あたかも自分の 家の屋根に設置しているように利用できる仕組み が考案されるようになったためである。すでに 「 コミュニティ・ソーラー」(Communi t y Sol ar ) として、同じ地域内の別の場所にある太陽光発電 システムの発電量を、あたかも自分の家の屋根に 設置したシステムで発電したかのように、自分の 電気料金に組み込むことができるシステムになり つつある。(たとえば<ht t p: //bl ogs . yahoo. c o. j p /hos e _s ol ar /32 038142. ht ml >参照) このような「コミュニティ・ソーラー」システ ムの根底には、製品やサービスに対する環境影響 評価の手法であるライフサイクル・アセスメント (Li f eCyc l eAs s e s s me nt :LCA)の考え方があ る。LCAは、主に個別の商品の製造、輸送、販 売、使用、廃棄、再利用までの各段階における環 境負荷を明らかにし、その改善策をステークホル ダーとともに議論し検討するものである。 6 Re s e ar c hI ns t i t ut ef orI ndus t r yandEc onomi c s ,ChubuUni ve r s i t y デザイン主導型製品 開発手法の研究 小山 太郎(研究推進機構講師) 研究概要 本研究では、生活の質(クオリティ・オブ・ラ イフ)を上昇させるような高級品を開発する手法 として、イタリアのデザイン・プロジェクトに焦 点を当てた。イタリアのデザイン・プロジェクト では、デザイン・コンセプトが最終的に幾何学的 に見て美しいフォルム(形)となるようにフォル ムが徹底的に検討される(フォルムのクオリティ の確保)。イタリアから見るならば、日本では身 の回りにある商品すべての寸法(縦・横・奥行の 長さ)・面積/体積・角度 (勾配)、 要するに形 (フォルム)が狂っており不恰好である。企画し た新製品を、最終的に見映えがよくバランスが取 れた美しい形(フォルム)へと落とし込むのはイ タリアではわざわざ言及するまでもなく至極当然 のことであるが―ごく当たり前のことであるだけ にわざわざ文献等で注意喚起されないが―、日本 ではいびつなフォルムのまま発売されてしまう (肝心なところで空振りしている)。その理由とし て、日本では自然に対する作為をほどよいところ で停止し(たとえば奈良の長谷寺)、自然の表情 を感じながら自然とともに生きていく伝統がある ため、ものの形は非線形(非シンメトリック;非 対称)な造形となることが挙げられる。これは、 物事の幾何学的な構造を把握し、設計(=世界の 再構築・創造)に活かすというイタリアの(病的 な)設計熱とは対照的である。日本の独創的な自 然哲学者である三浦梅園(1723~1789)などは、 幾何学的に見て純粋な四角形は自然界には存在せ ず作為的なものであると述べており、日本の自然 に範を取った非線形なデザインの可能性が日本に はあるかもしれないが、製品美観の世界標準がイ タリアの対称的で幾何学的な美であるとするなら ば、日本製品には改良の余地が多いにある。 産業経済研究所講演会 平成26年12月10日(水)15時30分より17時まで、 早野利人産業経済研究所副所長による講演会「ア ベノミクスと日本の挑戦」が、中部大学リサーチ センター2階大会議室において開催された。これ には、学内外から42名が参加したが、このうち26 名が学外からの参加者であり、外部の関心の高さ が反映された格好となった。 産業経済研究所石田所長が挨拶の冒頭で多治見 市の古川雅典市長のメッセージを紹介し、今回の 講演会講師早野副所長の経歴・研究歴の概略を披 瀝した。さらに、適切で総合的な経済政策による、 日本経済の早期回復への期待を表明した。 早野教授は、まず、第二次安倍政権の経済政策 であるアベノミクスの骨子が、3本の矢である、 ①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間 投資を誘発する成長戦略によって、長期デフレ経 研究発表会開催 平成26年度の産業経済研究所研究発表会が、平 成27年3月11日(水)10時から15時30分まで、中部 大学リサーチセンター2階大会議室において開催 された。この日の発表会には、学外から27名、学 内から16名、合計43名の参加があった。 まず、産業経済研究所石田所長から、景気の回 復は、日本経済全体はもとより、大学のような教 育・研究機関においても、入学・学習・卒業後の 進路の3つの面から切望される旨の挨拶が行われ た。発表会は、各研究課題ごとに、発表20分、質 疑10分の形で進められた。研究発表の内容に関す る詳細は別記の通りであるが、第1報告の研究課 題Ⅰでは、石田昌夫経営情報学部教授による「長 期不況・高齢・格差拡大社会における社会保障と 費用負担のありかた」のテーマのもと、おもに消費 税増税における複数税率制の可否と今後の消費税 の望ましいあり方に関する研究成果が報告された。 第2報告は、研究課題Ⅱ「中部圏中堅企業のチャ イナプラスワン戦略」に関するもので、舛山誠一 国際関係学部教授より、今後の日本企業の海外進 出におけるアジアの重要性およびアジア各国の置 かれている経済事情についての綿密な検討の必要 性が論じられた。 第3報告で、経営情報学部趙偉教授および同寺 澤朝子教授による研究課題Ⅲ「環境ベンチャー企 業による技術革新と組織マネジメント手法に関す る分析―テスラ・モーターズを事例として―」の 成果報告が行われた。そこでは、技術マネジメン トについての理論分析と、アメリカで実施された テスラ・モーターズ社へのインタビューの分析結 済からの脱却を目指すことにあることを確認した。 次いで、3本の矢の背景・歴史的経緯および内実 の詳細を、綿密な資料調査により説明した。 さらに、アベノミクスの評価として、①明暗分 ける金融経済と実態経済、②再び停滞する実態経 済、③経済好循環への正念場および、④異次元緩 和の限界という流れで考究した。日本の挑戦では、 日本経済の諸課題として、①低下する潜在成長 力、②拡大する5つの格差、③悪化する交易条件、 ④財政再建へのハードルを挙げるとともに、民 間企業の挑戦で、①求められるコーポレート・ガ バナンス( 企業統治) 改革、②中小企業に求められ る“グローバル・ニッチ・トップ(GNT)”への 挑戦の必要性を論じた。 この後、参加者との間の、経済の現実感にあふ れた熱心な討議が交わされ、予定時間いっぱいま で、白熱した議論が展開された。 果が明らかにされた。 昼食休憩をはさんで、午後からは、第4報告の 研究課題Ⅳ「データセンター及びデータセンター を活用したビジネスの将来動向に関する調査・研 究」が、経営情報学部小川裕克教授及び同非常勤 講師永井義明氏により発表された。そこでは、デー タセンターの意義と今後の動向、技術面での現状 及び課題が浮き彫りにされた。 第5報告は研究課題Ⅴ「大学と商店街の連携に よる持続可能なまちづくり、自立分散型「勝川ス タイル」の提案に向けた研究―春日井市勝川駅前 通り商店街を事例として―」で、国際関係学部羽 後静子教授・中部高等学術研究所岡本肇講師・春 日井商工会議所副会頭水野隆氏・愛知文教大学川 田健教授により、春日井市勝川町の商店街発展に 向けて展開されている実際の試みが、多彩な角度 から報告された。 第6報告となる研究課題Ⅵでは、「アメリカの シェールガス革命と原発問題」と題して、国際関 係学部河内信幸教授により、アメリカのシェール ガスの現状と見通し、原発を含むエネルギー問題 の深刻な現状が、豊富な研究実績に基づき、報告 された。 第7報告の研究課題Ⅶ「デザイン主導型製品開 発手法の研究」では、研究推進機構小山太郎講師 により、デザイン開発手法におけるブランドの重 要性、日本とイタリアにおけるデザインの位置づ けの相異などに関する知見が披瀝された。 最後に早野研究所副所長から、各研究発表の手 際よい総括及び明かされたそれぞれの研究成果の 意義づけが再確認され、発表者と参加者にたいす る懇切な謝辞により研究発表会が終了した。 Re s e ar c hI ns t i t ut ef orI ndus t r yandEc onomi c s ,ChubuUni ve r s i t y 7 平成27年度研究課題一覧 平成27 年度研究課題は、以下のように継続2件、 新規3件の計5件です。 継 続 研究期間 平成26年4月~28年3月 研究課題Ⅰ アメリカ太陽光発電の多様性と ライフサイクル・アセスメント 河内 福島 信幸(国際関係学部教授) 崇宏(名古屋外国語大学非常勤講師) 研究期間 平成26年4月~28年3月 研究課題Ⅱ デザイン主導型製品開発手法の研究 小山 新 太郎(研究推進機構講師) 規 研究期間 平成27年4月~29年3月 研究課題Ⅲ 我が国製糖業界を巡る現状と 課題について ―国内産糖と糖業― 田中 高(国際関係学部教授) 研究期間 平成27年4月~29年3月 研究課題Ⅳ 不正リスクに関する 新たなモデルの提唱 田中 智徳(経営情報学部講師) 研究期間 平成27年4月~28年3月 研究課題Ⅴ わが国の経済発展と財政赤字縮小に 向けての租税政策探究 石田 斧を掲げて淵に入るのは、魚を捕るために 斧は直接の役に立ちにくいから、愚かなこと だとされるのでしょう。けれども、手元に斧 しかない場合には、手持ちの斧を日頃から磨 き上げ、切れ味をよくしておくことで、何か の役に立つこともあるでしょう。魚を捕ると き、斧でもあれば、素手よりは有利な場面も あり得ます。ある方面の才能のないことを嘆 くより、自分のもてる才能をよく磨き、活か すことを考える方が生産的のように思えます。 景気の回復が、思ったほどにははかどらな いようです。季節の春は、ためらいながらで もかならず訪れるのに、景気の春がかならず 到来するとは限りません。経済力の回復で、 格差や貧困の問題が、解消とまではいかなく とも、緩和の方向への展望が開けることを祈 るばかりです。 後の世の人達に感謝されるような、平和で 暮らしやすい世の中を実現するために、今の 世代に課せられた課題は多様です。行き過ぎ た競争主義や個人主義一辺倒で、住みよい社 会が実現するようには思えません。和を重ん じる古人の智恵とのバランスの回復が切望さ れるところです。 スケプティシズムと呼ばれる懐疑主義は、 学問や研究を進めるためには欠かせない姿勢 です。通説への懐疑、常識への懐疑とともに、 悲観主義への懐疑も必要とされることでしょ う。それでも、懐疑主義の根底は楽観主義で ありたいものです。懐疑、思索、検討、議論 を経ることによって、状態は改善されるはず だという希望の上に立った探求を、根気よく 継続できればと願うものです。 (昌) 昌夫(経営情報学部教授) 中部大学産業経済研究所 ht t p: / /www3. c hubu. ac . j p/i ndus t r i al _e c onomy/ 8 編集後記 Re s e ar c hI ns t i t ut ef orI ndus t r yandEc onomi c s ,ChubuUni ve r s i t y 事務局 〒487-8501愛知県春日井市松本町1200 Phone/0568-51-4067 Fax/0568-52-1505