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山 形 大 学 紀 要(教育科学)第1
5巻 第2号 平成2
3年2月
Bul
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,Educ
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0
1
1
3
7
ADHDにおける実行機能の指標としての事象関連電位
大 村 一 史
地域教育文化学部 地域教育学科
(平成2
2年9月30日受理)
要 旨
注意欠陥・多動性障害(at
t
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nde
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hype
r
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c
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ydi
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r
de
r
:ADHD)は衝動性、
注意散漫や多動を特徴とする発達性の行動障害であり、神経伝達物質のドーパミンの異常
や、前頭葉-線条体(f
r
o
nt
o
s
t
r
i
a
t
a
l
)のシステム不全が指摘されている。ADHDの生物学
的基盤が明らかになりつつも、未だにADHD診断の基本は行動特徴に基づく判断基準に
依っている。この背景には、ADHD固有の決定的な生物学的マーカーが存在しないという
理由がある。これにより現実的な診断場面においては、ADHDを規定する難しさがつきま
とう。近年、実行機能という観点から、ADHDの本質的な障害が衝動性(行動制御の弱さ)
にあり、その認知過程を反映する指標として事象関連電位(e
ve
nt
r
e
l
a
t
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dpo
t
e
nt
i
a
l
:ERP)
が有効であることが示されてきている。本論文では、行動抑制を対象とした認知課題の観
点からADHDにおけるERP研究を選択的にまとめ上げ、ADHDの実行機能を評価する指標
としてのERPの適用を検討する。
1 はじめに
注意欠陥・多動性障害(a
t
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hype
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ydi
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de
r
:ADHD)は、衝動性、
注意散漫や多動を特徴とする発達性の行動障害であり、その行動特徴の組合せから、不注
意優勢型、多動性-衝動性優勢型および混合型に分類される1,2)。疫学的な傾向として、混
合型が多く、多動性-衝動性優勢型は比較的少ないことが報告されている3)。ADHDの生
物学的基盤は、双生児研究、遺伝子研究、機能的磁気共鳴画像法(f
unc
t
i
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na
lma
gne
t
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c
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na
nc
ei
ma
gi
ng:f
MRI
)に代表されるニューロイメージングを用いた認知神経科学研
究等の進歩によって徐々に明らかにされるようになってきた。一貫したコンセンサスとし
て、脳内ネットワークの情報伝達に欠かせない神経伝達物質であるドーパミンの異常や、
前頭葉-線条体(f
r
o
nt
o
s
t
r
i
a
t
a
l
)のシステム不全が指摘されている。近年では実行機能と
いう観点から、ADHDの本質的な障害が衝動性(行動制御の弱さ)にあり、注意散漫や多
動は二次的に現れたものとする考え方が提唱されており4)、単に注意や多動といった一見
顕著な行動特徴だけに注目するのではなく、将来の目標遂行のために目前の反応を制御し
ていくことに主眼をおいた実行機能の観点から障害を捉えることによりADHDが示す本
質的な認知行動特徴の理解に迫ることが可能となってきた。
このようにADHDの生物学的基盤が徐々に明らかになりつつも、未だにADHDの診断の
基本は「診断と統計の手引き・第4版(DSMI
V)
」5) の行動に基づく判断基準に依ってい
13
1
大村 一史
3
8
るという現実がある。ADHD固有の決定的な生物学的マーカーが存在しないことから、
ADHDを規定する難しさがつきまとい6)、診断にあたる臨床医によってその判断基準にブ
レが生じる要因ともなっている。現実的には、いわゆる教科書的なADHDはむしろ珍し
く、それぞれの児童生徒が示すADHDの行動特徴には大きな多様性(個人差)があること
からも、客観的な生物学的マーカーの同定は是非とも強く望まれるところである。
近年、ヒト高次脳機能を対象とした神経画像(ニューロイメージング)研究は隆盛を極
め、様々な認知機能の基盤となる脳内メカニズムを探るために、機能的磁気共鳴画像法
(f
unc
t
i
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na
lma
gne
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i
cr
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s
o
na
nc
ei
ma
gi
ng:f
MRI
)が広く利用されている。f
MRI
はADHD
研究においても活用されており1)、このf
MRI
が客観的な生物学的マーカーの探索手法とし
ては最も有望に思われるが、大がかりな装置を必要とすることや、ADHD児が示す体動に
よるアーチファクトが影響しやすいといった現実的な問題から、その幅広い利用にはもう
少し時間を要するものと思われる。
新勢力のf
MRI
に対して、脳波(e
l
e
c
t
r
o
e
nc
e
pha
l
o
gr
a
m:EEG)を用いたADHD研究は従
来より比較的多く行われており、比較的安定した結果を示してきた7,8)。f
MRI
の隆盛によ
り、一時はこのまま衰退していくかと思われたEEGではあるが、非侵襲式のBMI
(br
a
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nei
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e
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f
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)またはBCI
(br
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omput
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f
a
c
e
)と呼ばれるヒトと機械をつな
ぐ新技術の登場9,10) や、高密度多チャンネル脳波計の登場などにより、f
MRI
では対応でき
ない範囲をカバーするという相補的な意味合いからその利用価値が再考されるようになっ
てきた11)。脳波は、高額なf
MRI
、ポジトロン断層撮影法(po
s
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nemi
s
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gr
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phy
:
PET)や脳磁図(ma
gne
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e
pha
l
o
gr
a
phy
:MEG)といった他の大がかりな装置よりも、
比較的安価で手軽に利用しやすいメリットがあるため、特に、文学部や教育学部で行う心
理学研究では有用性が高いものとなっている。
本論文では、実行機能のうち、行動抑制を中心にそれにまつわる注意機能を対象とした
認知課題の観点からADHDの事象関連電位(e
ve
nt
r
e
l
a
t
e
dpo
t
e
nt
i
a
l
:ERP)研究を概観す
る。ERPにより測定された実行機能が、ADHDの生物学的マーカーとしてどのように貢献
することができるのかという観点から先行研究を選択的に検討する。ERPを実行機能の指
標とすることで、ADHDの本質的な行動特徴の神経基盤を解き明かすことにつなげていく
ことが期待される。
2 ADHDの実行機能に関する事象関連電位(ERP)
脳波の発生源は、大脳皮質にあり、主として大錐体細胞の後シナプス電位(po
s
t
s
yna
pt
i
c
po
t
e
nt
i
a
l
:PSP)が作るニューロン周辺の電場が同期的に加算されたものである12)。脳波は、
f
MRI
のように空間的分解能が高くないため、脳の活動部位の同定や脳深部の活動を捉え
ることを苦手とする。しかし、その時間的分解能の高さから、連続的に課題を遂行してい
く際に観察される微弱な脳波を捉えることは得意である。課題に随伴し、呈示される刺激
時点を基準として加算平均処理を行うことによって、その刺激に特有の、いわゆるその事
象に関連した脳の反応電位(事象関連電位:ERP)を導き出すことができる。ERPは刺激
の物理特性のみならず、刺激に対する内因的な認知処理も反映し、特にADHD研究の実行
機能を検討するのに適した指標と考えられている7,8)。
13
2
ADHDにおける実行機能の指標としての事象関連電位
3
9
先行研究の知見より、一般的に、ADHD児は健常児より認知処理を反映するとされる後
期陽性成分P3(またはP
3
0
0)の振幅が低下しており、潜時の延長が見られることが報告
されている13)。同様にこのP3の障害が、ADHDにおける障害の指標としての利用できう
る こ と も 指 摘 さ れ て い る13,14)。ま たN2 成 分15)、随 伴 陰 性 変 動(c
o
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i
nge
ntne
ga
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va
r
i
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i
o
n:CNV)の振幅低下16,17) やミスマッチ陰性電位(mi
s
ma
t
c
hne
ga
t
i
vi
t
y:MMN)
の振幅低下18)もADHDにおける認知課題遂行中に観察されることも報告されている。この
ようにERP波形に違いが見られるように、前頭葉-線条体システム異常に代表される
ADHDにおける脳機能の障害がERPに反映されていることが有力視されおり、ERPの実行
機能の指標としての有用性が確認されている19)。
実行機能とは、将来の目標を達成するために、適切に問題処理をこなしていく処理過程
であり20)。ワーキングメモリと文脈情報の統合によって、現在の状況に対処して最適な行
動を導き出し、遂行するための選択肢に関する情報を維持しながら意思決定を促進する
トップダウン処理である1,21)。ここでは、行動抑制とそれに付随する注意機能を中心とした
実行機能を測定する認知課題として、主に連続遂行課題(Co
nt
i
nuo
usPe
r
f
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s
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:
2
2,
2
3)
CPT)
とSt
o
ps
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gna
l
課題24)を取り上げ、それぞれの課題遂行時のERP成分をまとめ上げ
る。
敢 連続遂行課題(Cont
i
nuousPer
f
or
manceTes
t
:CPT)
CPT22,23) は連続的に呈示される非標的刺激に混じって呈示される標的刺激に反応を行う
課題で、注意機能と反応抑制機能の評価に利用される。非標的刺激には反応抑制が要求さ
れ、標的刺激の呈示を見逃さないために持続的な注意の配分が要求される。CPTのオリジ
ナルは1
9
5
0年代に提案され、その後、様々な派生型を生み出しながら、現在まで、ADHD
の認知機能を測定するテストとして広く用いられている23)。このCPTをもとにして作成さ
2
5
,
2
6
)
れた商業用テストには、TheCo
nne
r
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’Co
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usPe
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、GDS(Go
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2
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8)
29)
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n)
などが存在する23)。
CPTのタイプは、Xt
ypeCPT、AXt
ypeCPT、XXt
ypeCPT、no
t
Xt
ypeCPTなどに
大きく分けられるe.g.,23)。Xt
ypeCPTでは、被験者に特定の標的刺激(X)が呈示されたら
常に反応を求める。警告刺激(A)の後に呈示される標的刺激(X)のみに反応させる課
題はAXt
ypeCPTとなる。XXt
ypeCPTでは、標的刺激(X)が先行して呈示された場合
の標的刺激(X)に対して反応を求める。no
t
Xt
ypeCPTでは、標的刺激(X)が呈示さ
れた場合は反応しないように教示される。課題成績として、r
e
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c
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i
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i
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(反応潜時)
、
c
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(標的刺激に対する正しい反応の数または正答率)
、c
o
mmi
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ne
r
r
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r
(CE:
反応してはならない刺激に反応した数または誤答率)、o
mi
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o
r
(OE
:反応すべき刺
激に反応しなかった数または誤答率)
、t
o
t
a
lr
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(総反応数)、t
o
t
a
le
r
r
o
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s
(CE+OE)、
また信号検出理論に基づいた指標として、s
e
ns
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y(d’,dpr
i
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)、r
e
s
po
ns
ebi
a
s
(β,
be
t
a)などが算出され、認知機能の評価に利用される23)。標的刺激に対する無反応(ミス
またはOE)は不注意の指標、非標的刺激に対する誤反応(フォールスアラーム:FAまた
はCE)は衝動性の指標とされる30)。
主にAXt
ypeCPTを用いたERP研究は広く行われており3,19)、本邦においても、ADHD児
13
3
大村 一史
4
0
と健常児の比較を通じた様々な研究が行われてきたe.g.,15,30,31,32,33)。これらの研究から、CPT
において惹起されるいくつかのERP成分がADHDの認知機能を反映する指標となりうる
ことが確認されるようになってきた。Ke
ne
ma
ns
らの報告3) によると、一般的なERPの検
討は、警告刺激(A)に続いて標的刺激(X)が呈示された条件(AX:Go
条件)に対す
るERPと警告刺激(A)に続いて標的刺激(X)が呈示されなかった条件(Ano
tX:No
go
条件)に対するERPの比較を通じて行われる。Go
条件に比べて、No
go
条件において、潜時
2
0
0ミリ秒から3
0
0ミリ秒の間に前頭部(f
r
o
nt
a
l
)で大きなN2成分(Nogo
N2)が認めら
れ、続いて潜時3
0
0ミリ秒以降に前頭部から中心部(f
r
o
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o
c
e
nt
r
a
l
)にかけて大きな陽性電
位(f
r
o
nt
a
lP3,No
go
P3)が認められる3)。これに対して、No
go
条件に比べて、Go
条件
においては、潜時3
0
0ミリ秒以降に頭頂部(pa
r
i
e
t
a
l
)にかけて大きな陽性電位(pa
r
i
e
t
a
lP
3b,Go
P3)が認められることが報告されている3,34,35)。N2(Nogo
N2)およびf
r
o
nt
a
l
P3(No
go
P3)はNo
go刺激の反応抑制に関連し3,36,37,38)、pa
r
i
e
t
a
lP3b(Go
P3)はgo
刺
激に関連した注意を反映していると考えられている3,39)。N2に関しては、Nogo
条件にお
けるN2(No
go
N2)の振幅増加が反応抑制の要求水準の高さを反映するとする考え方
(i
nhi
bi
t
i
o
nhypo
t
he
s
i
s
)34)がある一方で、予期していた刺激と実際に呈示された刺激が食い
違うことから生じるコンフリクトモニタリングに関連しているとする考え方(c
o
nf
l
i
c
t
4
0)
hypo
t
he
s
i
s
)
もある。N2の発生源がコンフリクトモニタリングの役割を果たすとされる
前部帯状回付近であると報告されていることからも40,41)、N2がコンフリクトの検出を反
映していることが強く推測される3)。また最近の研究では、反応すべき標的刺激(X)に
先行する刺激(X o
rno
tX)によってN2の振幅が変化することが示されており15)、同一刺
激の繰り返し(X-X)ではなく、別の刺激(no
tX)から標的刺激(X)に切り替わった
ときの方が、N2がより強く反応することが示された。この結果からもc
o
nf
l
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thypo
t
he
s
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s
はさらに補強されるように思われる。表面上に現れる行動実験の結果では、反応抑制を測
定していると仮定されるものの、その脳内メカニズムの一端がコンフリクトモニタリング
の反映としてERP上に描き出されることは興味深い。
N2やP3に加えて、ADHDにおいてCNVの振幅低下が観察されている16,17)。CNVは運
動等の準備に関連しており、後に続く試行への予期や注意を反映するとされている。こう
いった報告からもCPTで見られるERPは反応抑制を反映しているのではなく、むしろ刺激
に対する予期を反映しているのではないかと考えられている3)。
しかしながら、N2およびP3に関しては先行研究の結果において、ある程度の一貫性が
見られるものの、Ba
r
r
yらがまとめ上げているように、ADHD群の選定や課題プロパティ
(刺激様式、刺激間間隔I
SI
や視覚・聴覚の呈示モダリティ)の差異などにより、健常者群
とADHD群の比較において統計的有意差が見られず、結果の一致を見ない研究も存在す
る19)。結果の解釈においては、実験条件により結果が左右されうる課題設定の難しさがあ
ることを留意する必要があるだろう。
柑 St
ops
i
gnal
課題
CPT以外に反応抑制を測定する実験課題として広く利用されているものとして、St
o
ps
i
gna
l
が挙げられる42,43)。Lo
ga
nによると、St
o
ps
i
gna
l
課題は、被験者に遂行途中の反応を
やめるように要求することで、ヒトが遂行している行為や思考を中断したり変更したりす
13
4
ADHDにおける実行機能の指標としての事象関連電位
4
1
る状況を実験場面に反映させたものであり24,44)、ADHD児の行動抑制メカニズムを検討す
る課題の一つとしても発展してきた。St
o
ps
i
gna
l
課題における反応抑制と衝動性との関連
が示唆されており44,45)、メタアナリシスからもADHD児の反応抑制を検討する課題として、
St
o
ps
i
gna
l
課題の有効性が確認されている44,46)。St
o
ps
i
gna
l
課題では、例えば、被験者はコ
ンピュータのディスプレイ上にあるターゲット刺激を見た後に素早くキーボード上のキー
を可能な限り素早く正確に押すこと(Go
反応)を求められる。あるターゲット刺激に続き、
別の刺激が呈示された場合にはどのキーも押すことのないよう(St
o
p反応)に教示される。
CPT同様に、刺激に対する反応時間、反応してはならない刺激に反応する誤答数・率
(c
o
mmi
s
s
i
o
ne
r
r
o
r
,CE)や反応すべき刺激に反応しない誤答数・率(o
mi
s
s
i
o
ne
r
r
o
r
,
OE)等が測定指標として用いられている47)。
さらに、この課題では、実行中の反応を抑制する処理過程を反映した速度を推定するこ
とができる。具体的には、反応を抑制できた試行の割合の分布から、重み付けされた反応
時間が推定され、St
o
ps
i
gna
l
に対する反応時間をSt
o
ps
i
gna
lr
e
a
c
t
i
o
nt
i
me
(SSRT)という
指標により算出することになる3,24)。このSSRTが長いということは、被験者の課題に対す
る反応抑制が弱いことを意味している。SSRTの妥当性は、ある仮定のもと(例えば、選
択反応と抑制処理が独立していること)で確証されるのだが、行動実験においてはこの仮
定が常に保証されるとは限らない。これに対して、ERPを併用した研究では行動実験にお
いて要求される仮定を満たさなくても、反応抑制の基盤となる神経メカニズムを脳活動の
観点から明らかにすることができるというメリットがあるとされている3)。
Ke
nema
ns
ら3) によると、St
o
ps
i
gna
l
に対するERP反応(s
t
o
pERP)を始めて報告した
のは、DeJ
o
ngらの研究48)だとされる。この研究では、反応抑制ができた場合とできなかっ
た場合を比較すると、1
5
0ミリ秒から3
5
0ミリ秒の潜時で、反応抑制に関連して前頭部から
中心部(f
r
o
nt
o
c
e
nt
r
a
l
)に分布して、大きな陽性電位(s
t
o
pP3)が確認された。この成
分は後に続く研究でも確認されているが、ADHD児ではこの電位の振幅が減少しているこ
とから、反応抑制の処理過程の相違を反映していることが示唆されている3,49)。
CPTと同様に、St
o
ps
i
gna
l
課題においても、St
o
pP3よりやや早い付近の潜時にN2が観
察される。反応抑制ができた場合とできなかった場合の比較では、その振幅の差異につい
てP3ほど一貫した結果が得られているわけではないが、健常児よりもADHD児の方が、
小さな振幅を示すことが知られている3,49)。CPTにおける解釈のようにSt
o
ps
i
gna
l
課題に
おいても、反応抑制そのものというよりも、s
t
o
p刺激とgo
刺激とのコンフリクトを反映し
ていると考える立場もあり3,50)、Ke
ne
ma
ns
らは総説中でその主張を支持している3)。
桓 その他の課題
CPTやSt
o
ps
i
gna
l
課題の他にも、ADHDの生物学的マーカーとして有用なERP成分を惹
起することができる課題が存在する。その中で歴史的に見て最も良く使用されている課題
がOddba
l
l
課題51) である。出現頻度の高い標準刺激系列に低頻度の標的刺激を織り交ぜる
ことによって、その標的刺激に注意を向けたときに惹起される大きなERPにはP3がある。
ADHD児群では健常児群より、P3の振幅が低く7,13,52,53)、潜時も延長する13)ことが示されて
いる。
Oddba
l
l
パラダイムを利用してMMNを検討することも多い7,52,53,54,55)。MMNは聴覚事象
13
5
大村 一史
4
2
の変化に対して潜時約1
0
0ミリ秒から2
0
0ミリ秒で生じる電位である。刺激の大部分を高頻
度標準刺激で構成し、その刺激系列の中に低頻度偏奇刺激を混入すると、被験者が偏奇刺
激に注意を向けなくともこの電位が観察される。MMNは無意識下で行われる刺激弁別の
自動処理を反映していると考えられている7,14,54)。これに対して、注意を向けている意識下
での刺激弁別における意識的な処理はne
ga
t
i
vedi
f
f
e
r
e
nc
ewa
ve
(Nd)に反映されると考え
られている7)。ADHD児群では健常児群に比べて、MMN56,57) およびNd58) ともに低振幅で
あることが報告されている7,53,59,60)。
Ba
r
r
yらはADHDのERP研究を広く概観した総説の中で、聴覚的Oddba
l
l
課題がDSMI
V
で見られるADHDの症状との相関が高く、ADHDの差異を見出すのに役立つ最も信頼でき
る指標であると述べている19)。
3 ADHDの客観的な生物学的マーカー解明に向けて
現段階でのADHDの診断の基本は、DSMI
V準拠の行動的な判断基準に従っている。こ
のため、ADHD診断には臨床医の技量や経験などの差により、ある程度の誤差が生じうる
ことから、将来的には、ERPを含めたニューロイメージング研究や遺伝子研究を包含した
生物学的マーカーに基づく統合的な診断が必要になってくるであろう47,61)。現在は、それ
ぞれの知見を集積している段階であり、実用上運用可能なレベルに至るまでは、その精度
が高まっているわけではないが、ADHDの神経生物学的基盤は着実に解明されつつあると
言える。その中で、ERPはf
MRI
等の他のニューロイメージング技法の守備範囲外を補い
つつ、ある一定の重要な役割を担っていくものと考えられる。
現在の実験パラダイムの限界として、行動に基づく判断によって、ADHD群と健常群に
群分けし、それぞれのERP成分を比較している点が指摘できる。つまり、現実的には均質
な被験者群を用意することは難しく、ADHDサブタイプや年齢など群内でのばらつきを考
慮に入れる必要があるために、ADHD群を一括りにできない可能性が残るということであ
る。これを補うために、むしろ明確な群分けを行わずに、被験者間のばらつきを個人差と
して捉え、拙著で総括したような遺伝的に規定される生物学的因子(例えば、神経心理学
検査や行動実験によって測定される実行機能など)を想定した中間表現型という概念を導
入したアプローチが必要になってくるように思われる47,61)。ERPについて言えば、生理指
標(ERP)と行動指標(心理行動実験)の組合せによって測定される実行機能をADHDの
中間表現型に据えて、ADHDに関連する遺伝子多型により実行機能(課題成績および脳活
動)がどのように影響を受けるのかを検討する方法が考えられる。
ADHDの多様性、複雑性、さらに診断の困難性などを総合的に考えると、大胆なアイデ
アではあるが、ADHDは類型的な区分ができるような単純な障害ではなく、むしろ様々な
行動特性の複合体としての表現型の1タイプとさえ言える可能性があるように思われる。
個人差のばらつきの観点から障害の示す特徴を考えるという立場から、そろそろADHDを
含めた発達障害全体を捉え直す岐路に立っているのかもしれない。その流れの中で、ERP
をはじめとした生物学的マーカーが、表現型としての行動特性の複合体を説明するのに有
力な中間表現型として活用されていくことになるであろう。
さらに最新のADHDモデルでは、実行機能だけで病態を全て説明することは困難である
13
6
ADHDにおける実行機能の指標としての事象関連電位
4
3
と考えられており、実行機能の障害に加え、新たに報酬系機能の障害を併せた「皮質-線
条体-視床-皮質回路(c
o
r
t
i
c
o
s
t
r
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おりe.g.,64)、今後ERPは、実行機能系障害を対象とした研究で得られてきた知見を補う形で、
中間表現型と表現型を結びつける指標としての広がりを見せていくことが予想される。
謝 辞
本論文は科研費(若手研究(A)
)の援助を受けたものである。
引用文献
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0.岡崎慎治,前川久男,二上哲志,立川和子,松田素子,& 市川正嗣.
(1
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1.岡崎慎治.(20
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2)
.注意欠陥/多動性障害(ADHD)児の認知機能に関する評価をめ
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(4
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,43
5-44
0.
3
2.松本秀彦,荒木章子,& 諸富隆.
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3).注意欠陥・多動性障害児の反応抑制の中枢
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におけるNOGO電位を用いた検討-.臨床脳波,
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(9
),57
9-58
4.
3
3.松本秀彦,& 諸富隆.
(2
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0
4)
.AD/
HD児における反応抑制とエラー認知機能の評
価CPT課題におけるERPを指標として-.生理心理学と精神生理学, 22
(1
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,4
557.
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5.澤田将幸,飯田順三,根來秀樹,姜昌勲,高橋弘幸,岩坂英巳,& 岸本年史.(200
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