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と 思 い 込 ま な い で
特 別 企 画 使ってみませんか 本人・家族と 話のきっかけづくりに新ツール 首都大学東京の副田あけみ教授を中心とする研究者のグループはこのほど、虐待のおそれの あるケースを解決に導くためのアセスメントツールを開発しました。「虐待」というと一刻 も早くサービスにつなげることに目が向き、虐待をしている家族(養護者)との関係が築け ず苦心するパターンになりがちです。このツールでは、家族のプラス面を評価しながら早期 に信頼関係を築けるように工夫されています。 支援が難しいのはなぜ? 高齢者虐待については、1990 年代から社会的関心が 寄せられてきました。介護負担によるストレスが虐待を導く、 土屋典子 副田あけみ 立正大学 社会福祉学部講師 首都大学東京 都市教養学部教授 首都大学東京 都市教養学部准教授 月刊ケアマネジメント 2010.7 インテーク (相談・通報時) ①危害リスク 確認シート ②安 全 探しシ ー ト 家庭訪問 (高齢者・家族との 信頼関係形成) ③タイムシート ①は 32 ページ、②は 33 ページ、③は 34 ページ、④は 35 ページ参照 ⑤、⑥は右下の「安心づくり・安全探しアプローチ(AAA)」ホームページ をご参照下さい 家庭訪問 ケース会議 家庭訪問 (高齢者・家族との 支援プラン作成前の 情報収集) ④安心作りシート (高齢者・家族との 支援プラン作成) ⑥プランニング シート(話し合い ⑤プランニング シート(機関用) 用) (編集部) 「 安心づくり・安全探しアプローチ」で “ 家族の力 ”を評価、早期解決へ 長沼葉月 と 思い込 ま ないで 32 図 1 対応の流れと各ステップで使用するシート い結果をもたらすおそれがあります。 ながりを保つようにします。 そこで私たちは、高齢者や虐待する家族との関係性を作 ③タイムシートの活用を通して、ご家族とある程度の信頼 り出し、対話のなかから状況変化を引き出す支援モデルと 関係を築くことができ、虐待行為または虐待につながる危険 して、「安心づくり・安全探しアプローチ」を開発しました。 性のある状況について話し合える段階になったら、④安心 このアプローチは、解決志向アプローチの考え方を基盤に、 づくりシートを使用します。「心配なこと(虐待等)が生じるパ 客観的な事実に基づいたねぎらいや、例外(虐待しそうに ターン」について訊くとともに、「そのパターンに陥らないで なったのにもかかわらずしなかったとき)探しなど、よい関係 済むとき(例外) 」に焦点を当て、例外がなぜ起きたかをて の形成と状況変化の糸口を見出すための具体的なスキルお いねいに訊くことで、状況変化に役立つ強みや資源を把握 よびツールを示しているのが特徴です。 します。 だから、介護サービスを整備充実し、それを活用して介護 そして、より重要なのは、高齢者やご家族とともにプランを 一定の情報を収集できたら、関係者によるケース会議を 負担を軽減し虐待を防止する、高齢者虐待防止の啓発活 作っていくという援助職としての基本的な考え方と姿勢であ 行い、⑤プランニングシート(機関用)を用いて、「できて 動を行ってきた関係者の間には、こうした観念が当初、一 ると私たちは考えています。 いること」「心配なこと」「危険なこと/対策が必要なこと」 般的でした。しかし、2000 年以降、介護サービスの充実 が図られたにもかかわらず、虐待事例に対応しているケア マネジャーの方々の大半は、「虐待の援助に苦慮している」 相談・通報から訪問調査、 プランニングまで に情報を整理します。また、スケーリング評価を使って職種 間の情報や判断基準のズレを確認し、当面の目標について 話し合い、役割分担を行います。 (88%)と答えています( 『家庭内における高齢者虐待に 図1は、高齢者虐待対応の流れと各ステップで使用する 高齢者やご家族と④安心づくりシートを活用した話し合い 関する調査報告書』医療経済研究機構 2004 年) 。その主 シートを示しています。インテークとして、ここでは高齢者虐 ができたら、⑥プランニングシート(話し合い用)を使って な理由は、「虐待している人が介入を拒む」「どのようにか 待の相談・通報があったときを想定しています。このステッ 現在の状況について評価をしてもらい、どうなっていたいか かわればよいのか、技術的に難しかった」などでした。 プでは、①危害リスク確認シートと、②安全探しシートを使 という希望や、当事者としての「目標」をご本人たちの言 います。①を使って分離保護が必要かどうかの目安を得ま 葉で語ってもらうようにします。そして、その個別的な目標に 連携して高齢者虐待事例に対応していくことになりましたが、 す。分離保護が必要な場合でも、②安全探しシートや、③ 向かって、当面の目標という小さな取り組み課題を設定する その職員もまた、その大半(91%)が虐待対応に困難を感 タイムシートで関わりの糸口を探すという「安全探しの発想 よう促します。高齢者やご家族が参加するケース会議でこ じています(藤江慎二、「高齢者虐待の対応に困難を感じ 法」をもっていただきたいと思います。②は、安全な状況を のプランづくりに取り組むこともできます。 る援助者の認識―地域包括支援センターの援助者へのア 作る要素となる「資源」を探すためのシートです。 2006 年度からは、地域包括支援センターが行政機関と ンケート調査をもとに」高齢者虐待防止研究 5(1)、 2009 年) 。 今回は、紙幅の関係で、インテーク時のシート活用から 家庭訪問の際には③タイムシートを使います。これは、生 家庭訪問における安心づくりシートの活用までの①~④をご 困難感の主な理由は、やはり「虐待者が介入を拒む」「援 活時間様式研究会(代表 : 小林良二東洋大学教授)が作 説明します(本アプローチについては、下記のホームページ 助者としての自分の技術不足」です。困難感は、「なるべ 成した様式ですが、小林教授の了解を得て使用させてもらっ をご参照下さい) 。 くかかわりたくない」という気持ちをもたらします。 ています。朝起きてから夜就寝するまでの、高齢者および こうした「回避感情」は、虐待する家族との支援関係形 ご家族の生活の様子を具体的にお聞きするもので、虐待状 成を難しくし、虐待状況の変化を引き出していくことを困難に 況を直接聞くものではないため、比較的抵抗なく答えていた します。結果として、高齢者ご本人やご家族に対する適切 だけます。ただし、最初の家庭訪問でこのシートを使えると な支援の遅れや、ご本人やご家族の意に反した分離保護 は限りません。そういう場合、ご本人たちから生活の様子を の実施など、ご本人やご家族にとって必ずしも益とはいえな 細かくお聞きすることが大事、という認識をもって接触し、つ 安心づくり安全探しアプローチ(AAA)研修会のご案内 ★ 9 月 4 日(土)と 5 日(日)の 2 日間、東京の秋葉原で、 本アプローチによる高齢者虐待防止研修を開催いたします。 詳しくは、安心づくり安全探しアプローチ研究会のホームページ (http://www.elderabuse-aaa.com/)をご覧下さい。 月刊ケアマネジメント 2010.7 33