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技術革新による テレビ視聴およびライフスタイルの変遷
技術革新による テレビ視聴およびライフスタイルの変遷 東京電機大学 大学院 理工学研究科 情報社会学専攻 澤間 務 概要 本研究は、テレビ放送を技術的な観点から経緯をたどり、テレビの視聴およびライフ スタイルの変遷をたどるものである。技術のみが先行して 1 人歩きしているような時代 において、放送技術がどのように変化を遂げてきたのかを、生活との関連性から示し ていく。 第 1 章では、研究の目的および背景を論述している。その他、1.1.3 においては、放 送の制度と概念について論述している。 第 2 章では、放送の歴史、テレビ視聴の歴史、地上デジタル放送についての 3 点に ついて論述している。その中でも、地上デジタル放送についての記述に注力している。 地上デジタル放送は、2003 年 12 月に開始されたばかりの放送技術である。そのため、 放送サービスについての認知が乏しく、今後の活躍が未知な技術である。また、この 技術の展望と課題についても論述している。 第 3 章では、本研究の締めくくりとして、結論を記述している。 Abstract This research traces Television Broadcasting from a technical viewpoint. And, it is the one to trace the transition of the television reception and the lifestyle. Broadcasting is in the situation in which only the technology goes ahead now. What change has the broadcasting technology done? I show it from the relation to life. Chapter 1 states the purpose and the background of the research. Additionally, the system of broadcasting and the concept of broadcasting are stated in 1.1.3. Chapter 2 describes the following three points. It is a history of broadcasting, a history of the television reception, and the digital broadcasting. Especially, it concentrates on the description of digital broadcasting. Digital broadcasting is a broadcasting technology begun in December, 2003. It generally lacks the recognition of the broadcasting service. It is a technology that the activity in the future is expected. This chapter states the view and the problem of this technology. Chapter 3 describes the conclusion. 目次 第 1 章 序論............................................................................................... 1 1.1 本研究の目的および背景 .................................................................... 1 1.1.1 本研究の目的 .............................................................................. 1 1.1.2 テレビは何を伝えるのか ................................................................. 2 1.1.3 放送制度と放送概念の変遷 ........................................................... 4 第 2 章 本論............................................................................................... 6 2.1 放送の歴史 ....................................................................................... 6 2.1.1 テレビの誕生 ............................................................................... 6 2.1.2 カラー放送開始............................................................................ 9 2.1.3 衛星放送開始 .............................................................................11 2.1.4 放送サービスの多様化 .................................................................14 2.1.5 デジタル放送の時代 ....................................................................18 2.2 テレビ視聴の歴史..............................................................................20 2.2.1 映像メディアの誕生 ‐娯楽メディアから総合メディアへ‐ .....................20 2.2.2 新しいテレビの視聴法 -リモコン・家庭用VTRの誕生- .......................22 2.2.3 テレビによる生活時間の変化 .........................................................26 2.3 地上デジタル放送がもたらす革新 ........................................................30 2.3.1 なぜデジタルなのか .....................................................................30 2.3.2 地上デジタル放送がもたらすものとは ..............................................35 2.3.3 双方向サービスの可能性 ..............................................................41 2.3.4 地上デジタル放送の展望とその課題...............................................46 第 3 章 結論..............................................................................................50 脚注..........................................................................................................52 参考文献 ...................................................................................................56 謝辞..........................................................................................................57 -i- 第 1 章 序論 1.1 本研究の目的および背景 1.1.1 本研究の目的 テレビ放送開始から 50 年が過ぎ去り、ますます発展する現代社会において、テレビ の役割が重要視されている。かつては、1 家に 1 台であったが、現在ではテレビの複数 台所有が当たり前であり、世帯普及率はほぼ 100%に達している。テレビはこれまで、日 本だけにとどまらずに世界全体の動きを人々に伝えてきた。いま、テレビはわれわれに とってなくてはならない存在ともいえる。そして、テレビは人々の生き方や考え方に影 響を与え、新しい文化をも生み出してきた。 テレビが始まって半世紀、放送技術は、これまでにさまざま技術を生み出し、進化し、 テレビは多くの情報を視聴者へと伝えてきた。技術の変化は、視聴形態に変化をもた らし、人々のライフスタイルをも変えてきた。これは、年々発展する放送技術による、新 しいテレビの見方の誕生によるところが大きい。新しい技術が生まれることで、新しい 視聴の形が生まれ、技術の発展によりテレビの視聴形態に変化が見られている。この ような中で、2003 年 12 月地上デジタル放送が開始された。これは、テレビ放送の新た なる進化ともいえる、大きな転機である。このデジタル放送の開始により、現行のアナロ グ放送は 2011 年 7 月 24 日に完全に終了することになっている。また、デジタル放送 開始の影響からか、高額で高性能なテレビ受像機の売り上げが伸びてきている。現在 では、これまで主流であったブラウン管テレビの売上金額を液晶テレビやプラズマテレ ビに代表される薄型テレビの売上金額が上まっている状況にある。これからのテレビに、 視聴者は何を求めているのであろうか。現在、技術のみが先行して 1 人歩きしているよ うな時代であり、それは放送技術についても例外ではない。この技術の変化は本当に 視聴者の求めるものなのであろうか。日々進化を続ける放送技術と生活との関連性を 示していきたい。 本研究では、これまでのテレビ放送の経緯を技術的背景から見て、歴史をたどり、考 察していく。そして、放送技術の変遷により得られるテレビ視聴およびライフスタイルの 変化を追っていく。また、放送の新技術である地上デジタル放送の展望についても考 察していく。 -1- 1.1.2 テレビは何を伝えるのか 現在、テレビは日常生活の中に溶け込んでおり、人々は特に目的意識を持ってテレ ビを視聴しているわけではない。図 1.1 は 1963 年と 2002 年に実施された「テレビの視 聴理由」の調査をまとめたものである。結果は、「世間の出来事を知らせてくれるから」。 「気軽に楽しめるから」、「日常生活に役立つ知識を与えてくれるから」と続く。特徴的な のは、1963 年の結果と 2002 年の結果に大きな回答差がないという点である。1963 年 は、テレビ誕生から約 10 年が経過した年である。その年から約 40 年経過した年と比較 しても、人々がテレビに求めるものが変化していないのである。 78 80 世間の出来事を知らせてくれるから 64 気軽に楽しめるから 日常生活に役立つ知識を与えてくれるから 50 77 61 28 33 心を豊かにしてくれるから 35 30 教養を高めてくれるから 18 21 教育的にためになるから 24 20 見ているとなんとなく疲れが休まるから 見るのが習慣になっているから 18 26 2002年東京圏 1963年東京23区 15 15 芸術性を味わえるから 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 % 1963 年 3 月 テレビ機能特徴調査 2002 年 10 月 テレビ 50 年調査 (出展:テレビ視聴の 50 年 P235) 図 1.1 テレビの視聴理由(1963 年と 2002 年の比較) テレビに求めるものは変化をしていないのだが、テレビとは何を伝えるものなのだろう か。これまで、テレビは報道番組、娯楽番組、教育・教養番組と大きく 3 つに分類され ると思われる内容の番組を放送してきた。それまで、新聞やラジオが伝えてきたものと 内容的にはそう大差ないものである。しかしながら、テレビはほぼ 100%の人々に普及 し、利用したことのない人がいないほどの大きなメディアへと成長を遂げている。その 伝達力、影響力は大きなものととられており、幾度にわたる民放局買収のニュースは 記憶に新しい。 -2- テレビは、技術の進化とともに表面的な受信機の形や伝送経路、形式などさまざま な変化を遂げてきた。このような形の変化に対応して、テレビの役割はどのように変化 を遂げ、生活の中に浸透をしてきているのか。テレビが技術の進化・変化とともに歩ん できたその役割の変化を考察していきたい。 -3- 1.1.3 放送制度と放送概念の変遷 日本において、放送は、電波法や放送法で規定されている。これらは、1950 年に電 波三法として成立、施行された。この電波三法とは、電波法、放送法、電波管理委員 会設置法(電波管理委員会設置法は 1952 年に廃止される)の 3 つのことで、電波に関 する法律である。この法律の施行により、戦前の無線電信法1) が廃止された。そして、 新しく特殊法人日本放送協会と電波管理委員会2)が生まれた。放送法により、民間放 送の法的根拠も明らかとなり、1951 年に、初の民間放送局 2 局が開局した。ここで、受 信料によって支えられるNHKと広告放送で収益を得て運営される民間放送が全国各 地域に並立される。 この放送法および電波法において、「放送」とは次のように定義されている。「「放送」 とは、公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信をいう」(放送法 第 2 条)。 また、1972 年に制定された有線テレビジョン放送法3)における定義では、「「有線テレ ビジョン放送」は、公衆によって直接受信されることを目的とする有線電気通信の送信 である」(有線テレビジョン放送法第 2 条)。このように、日本では、無線による放送と有 線による放送に分けて定義がなされていますが、両者をまとめて「放送」の要素と考え ると、「公衆」、「直接受信」、「無線通信(あるいは有線電気通信)の送信」とこれら3つが 放送を規定するキーワードととれる。 放送技術や、通信技術の発展に伴って、放送と通信の境界が不鮮明になり、さらに 放送番組の伝送方法の多様化によって、現在の放送環境は、放送法が制定された 1950 年当時の放送状況とは大きく様相を変えており、放送と通信の融合、多チャンネ ル化、さらにはデジタル放送の実用化など、その放送を取り巻く技術面での進化が見 られる。中でも、通信衛星は、放送と通信の境界線上のサービスともとれるサービスで ある。通信衛星は、最初は大規模な電気通信事業者が、大陸間などの長距離通信に 利用していたが、その後の技術の発達に伴って、衛星からの電波を比較的簡便な受 信機器を使って個人でも受信できるようになり、通信衛星を利用した放送である CS 放 送が利用可能になった。また、通信回線を利用したコンピュータのネットワークのインタ ーネットは、文字情報に限らず、映像や音声も伝えることができ、テレビ放送に似たサ ービスを提供できるようになった。 -4- 社会学的な観点から考えてみると、放送は、 1.広域性(広域に番組を送り届けることができる) 2.一方向性(放送局から受信者に一方的に放送を送る) 3.同時性(同時に多くの人が視聴できる) 4.一回性(再放送がない限り 1 回しか放送されない) という特徴を持ってきた4)。これらが、法による制度から生まれた放送の特徴とも言え る部分であり、送り手と受け手が 1 対 1 の関係にある通信とは異なり、放送は誰もが受 信できるというところに大きな特徴が見られる。 「放送(服部孝章)」では、放送の公然性、通信の限定性といった従来の枠組みには 収まらない新しい放送関連メディアが登場してきたことに対し、問題提起している。そ れは、放送法などの定義のキーワードになっている「公衆」、「直接受信」、「無線通信 (あるいは有線電気通信)の送信」をもとに、さまざまな放送関連事業を、そしてまたそ の事業が送信する番組を、一律に規律する法体系は、放送を公共の福祉に適合する ように規律し、その健全な発達を図るとした「放送法」の法理念や法の目的に合致し続 けるのかという問題である。確かに、CATV5)・衛星放送6)・地上波放送7)の 3 つのメディ アの連携と競合の関係が深化する中で、通信と放送の区分に有効性があるのかわか りかねる。不特定多数の「公衆」を相手に放送活動を行っている現在の地上波放送に 対し、一方、特定の契約者・加入者に対してのみ番組を伝えているCATVやCS放送8) の存在は、放送法等に規定された「公衆」の範疇を超えてしまっていることを示してい る。 -5- 第 2 章 本論 2.1 放送の歴史 2.1.1 テレビの誕生 1926 年 12 月 25 日、高柳健次郎(1899∼1990)により『イ』の文字をはっきりとブラウ ン管に映し出すことに成功した(図 2.1)。これが、日本のテレビの歴史の始まりともいえ る出来事である。高柳がテレビ研究を志すきっかけとなったのは、1923 年にフランスの 雑誌に見つけた未来のテレビを描いたポンチ絵9)が動機であったという。1925 年には、 すでに撮像と受像の両方に電子式の装置を用いるテレビ研究を開始しており、当時の 技術条件、実験条件の中で、『イ』の文字を映し出すことに成功。そして、1928 年には、 人物の送像のテレビ実験に成功するまでにいたった。この当時の映像は、走査線10)40 本、毎秒送像数 14 枚のものであった。 (出展:NHK ホームページ) 図 2.1 「イ」の字の復元 1930 年になると、日本放送協会により NHK 放送技術研究所(以下 技研)が設立さ れ、同研究所にてテレビ研究が開始される。この研究所に高柳も参加し、本格的な研 究が始まる。1931 年に走査線 100 本、毎秒 20 枚のテレビ実験に成功。1936 年には走 査線 245 本、毎秒の送像数 30 枚の全電子式テレビを完成させた。そして、改良を重 ね、1937 年に当時の世界最高水準の走査線 441 本、毎秒 30 枚という現在のテレビに 匹敵する受像機を完成させた。 1930 年代以降、世界では欧米各国でテレビ放送の実用化の準備が活発化していた。 -6- 特にドイツでは 1936 年のベルリン五輪に向けて、国家の威信をかけた開発が進めら れた。テレビ試験放送は、ドイツが最初で 1935 年 3 月に走査線 180 本で始まった。フ ランスも同年 4 月、同じ 180 本で試験放送を開始した。本放送は、世界でイギリスが一 番早く、当時画期的であった走査線 405 本のテレビ本放送を開始した。日本も 1938 年には、テレビジョン調査委員会が走査線 441 本、画像毎秒 25 枚、跳び越し走査の 暫定標準規格を決定した。 1936 年 5 月、NHK は、1940 年 9 月開催の東京五輪へ向けて、テレビの実用化への 本格的な取り組みを決定した。これは、東京五輪に向けての国家的プロジェクトであっ た。しかし、1938 年 7 月に東京五輪は開催返上となり幻となったが、テレビ研究は続け られた。そして、この東京五輪プロジェクトの成果によって、日本のテレビ放送技術は、 短期間で実用レベルへと到達したのである。1939 年 5 月 13 日に、東京の内幸町に完 成した放送会館と NHK 技術研究所との距離 13km の間で、日本で初めての電波を使 ってテレビジョンの公開実験をした。走査線 441 本、画像毎秒 25 枚、映像周波数 4.5MHz、出力 500W の当時の日本の標準方式による放送であった。放送会館の予備 放送機室に備えられた 4 台の受像機には、まずテストパターンが現れ、続いて実験画 像が映し出された。 戦時中、テレビ産業は、軍需産業に転換されるものが多く、アメリカでもテレビ放送を 中 止した。日本でのテレビ研究も中断された。そして戦後、1945 年占領軍司令部 (GHQ)は、「言論・新聞の自由に関する覚書」「日本に与える新聞準則」「ラジオ準則」 などを出し、新聞、放送などのメディアへの対策を重視していた。こうした禁止令が出さ れていたテレビ研究は、1946 年には再開され始めた。 1953 年 2 月 1 日、NHKがテレビの本放送を開始した。NHKには、専用のテレビスタ ジオはまだ 1 つしかなかったが、使用した機器は、イメージオルシコンカメラ11)を除き、 すべてNHK放送技術研究所が設計した国産品であった。NHKが実験に着手して 23 年、高柳健次郎が研究を始めてほぼ 30 年が経過していた。本放送開始当日の受信 契約数は、866 件、うち都内の契約は 664 件。そのうち、482 件がアマチュアによる自作 の受像機であった12)。 NHK によるテレビ本放送に伴い、1953 年 8 月 23 日に民法の本放送開始の一番手 として、日本テレビ放送網が開局した。日本のテレビ放送は、当初から NHK と民法の -7- 併存体制で進んでいた。その中で、民法の中で先頭を切って 1951 年に日本テレビ放 送網の計画が発表されたのである。日本に民間テレビ放送網を設立するという、当時 としては大規模な構想であった。この構想は、アメリカからも資金援助を受け、技術・施 設ともにアメリカの最新式のものを導入する計画であった。その後に、相次いで民法も テレビ局の免許申請をした。1959 年までには、日本テレビ放送網、東京放送、フジテ レビ、全国朝日放送 (テレビ朝日) の民放 4 局体制が成立し、さらに地方局に大量免 許が交付された。その結果、テレビの全国化が進んだ。関東エリアでは、当初、民放 は独自に送信アンテナを設けたが、視聴者が向けるアンテナ方向ぎ7 ∀ト " 2.1.2 カラー放送開始 1960 年 9 月 10 日、日本は、世界でアメリカ、キューバに次いで 3 番目にカラーテレ ビ本放送が開始された。方式は、アメリカと同じNTSC方式13)で、これは、全米テレビジ ョン方式委員会が決定したものである。この方式の最大の特徴は、白黒テレビ受像機 でも、カラー放送の内容を見ることができるようにしたことであった。初期のカラー放送 は、まだ放送局の設備も十分ではなく、外国のカラー映画の放送やスポーツ中継、そ れに短時間の教養番組などが中心であった。本放送から 7 ヶ月たった段階でも、NHK 総合のカラー番組は、1 日 1 時間、日本テレビ放送網は 2 時間 42 分、ラジオ東京(現 TBS)は 6 分ほどであったという。当時のカラーテレビは、21 インチ型で 1 台 50 万円も したので、庶民にはとても手が出ず、カラー放送開始時点では、1200 台程度しか普及 していなかった。1966 年 3 月には日本電信電話公社14)による全国カラー放送用マイク ロ回線網が完成し、カラー放送の全国視聴可能範囲は、93%になった。 1964 年 10 月に開催された東京五輪は、日本のテレビ産業の発展へとつながる一大 イベントであった。NHK をはじめ日本の放送関係者が総力を挙げて取り組んでいった。 放送に使用する一連の機器を国産で開発し、東京五輪を静止衛星シンコム 3 号の利 用により、世界に始めて生中継した。中継には、白黒の受像機を見る多くの人々のた めに、白黒でも画質が落ちないよう設計されたカメラが使用された。また、競技を VTR で収録して、それを再生するスローモーション VTR、説話マイクなど新しいテレビ技術 が一斉に登場した。この東京五輪では、世界に日本の放送技術の高さを示すとともに、 日本のテレビ産業が世界に大きく飛躍する機会ともなった。 カラー放送から 6 年たった 1966 年 3 月には、全国カラー放送用マイクロ回線網が完 成し、カラー放送の全国での視聴可能範囲は 93%になった。そして、1970 年 4 月には、 日本テレビ放送網は夜のゴールデンタイム15)を完全カラー化し、1971 年 10 月には、 NHKの全放送時間が完全カラー放送となった。1972 年のカラー受信契約数は、1000 万台を超えて 1179 万に達し、白黒テレビの契約 1172 万と逆転した。 1975 年当時、テレビ受信契約数は、2575 万件に達し、テレビ受信機の普及は 4600 万台(うちカラーテレビ約 3200 万台)となっていた。また、NHKの「国民生活時間調査 16」 」によると、10 歳以上の国民がテレビを見る視聴時間は、平日で 1 日 3 時間 19 分、 日曜日は 4 時間 11 分となった。テレビに毎日接触する人が 95%に達し、国民の日常生 -9- 活に深く根付いたのである。また、放送技術も驚異的な発展を遂げた。放送局の送信 側の設備、カメラや中継、取材システム、番組の制作、中継システムなどの革新、視聴 者側の受信機の発展、VTR、リモコンの登場などが、放送の中身であるコンテンツの充 実を支援した。 - 10 - 2.1.3 衛星放送開始 1957 年 10 月 4 日、ソ連は世界最初の人工衛星スプートニク 1 号を打ち上げ、地球 を回る軌道に乗せることに成功した。アメリカ、ソ連を中心に宇宙開発競争がスタートし たとともに、後の衛星中継技術へとつながる第一歩であった。1962 年 7 月 10 日、初の 送受信機を積み込んだ本格的通信衛星テルスター1 号が打ち上げられた。同日、アメ リカから送信されたテレビ電波が中継され、大西洋を越えてフランスとイギリスの地球 局がこれを受信し、テレビの大陸間中継に成功した。日本への初のテレビ衛星中継と なったのは、1963 年に発生した、ケネディ大統領暗殺のニュースである。このニュース は、リレー1 号衛星を用いてアメリカとほぼ同時に日本にも伝えられた。衛星中継により 世界に起こる出来事を互いに瞬時に、同時に知る時代が到来したことを、日本人は衝 撃的なニュースで知ったのである。その後、1964 年、太平洋上に打ち上げられた静止 衛星シンコム 3 号により、日米間で 24 時間自由に衛星中継することが可能となった。 そして、1969 年 7 月 21 日、アポロ 11 号が月面に着陸、その映像が世界中に中継さ れた。「一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍だ」という 言葉を、世界で 7 億 2400 万以上の人々が同時に耳にしたと推定されている。それは、 テレビというメディアが可能にした地球規模での同時中継であった。 宇宙空間の人工衛星から電波を送れば、一挙に広い範囲に対して通信や放送がで きる。しかも、地球の自転周期と同じ周期で地球を公転する静止衛星であれば、3 機 の衛星で南北両極を除く世界中をカバーできる。これは、イギリスの空想科学小説家 アーサークラークが 1945 年に提案したアイデアである。20 年後の 1965 年、NHK 前田 義徳会長は自前の衛星を打ち上げて、各家庭で直接電波を受信する衛星放送を行う 構想を発表した。これによれば 1 機の衛星で日本中あまねく放送を行うことが可能にな る。そして、1984 年 5 月 12 日、日本で世界初の本格的な直接受信衛星放送が開始さ れる。この衛星放送によって日本のテレビ難視聴地域問題は、放送開始以来ようやく 解消された。 NHK放送技術研究所による衛星放送の研究は、1966 年より開始された。衛星本体、 管制、搭載用中継器、家庭用受信機等の研究に着手した。小型で、楕円低軌道の周 回衛星ではあるが、音声 1 チャンネルを放送するA型衛星(重量約 10kg)、テレビ 1 チ ャンネルのB型衛星(重量約 45kg)の設計・製作を行い、宇宙環境試験室も整備して - 11 - 各種試験を実施した。現在の放送衛星が、機体だけでも 500kg以上あることから比べ ると、非常に小さな衛星ではあったが、1968 年に実験機を完成させ、衛星放送の開始 に向けた貴重な経験を得た。国としての実用衛星開発計画も本格的に開始され、 1969 年には宇宙開発事業団 ( NASDA ) が発足した。また 1971 年の世界無線主管 庁会議( WARC‐BS )17)では、衛星放送のために 12GHz帯を使用することが決定され た。1973 年に国の宇宙開発委員会で実験用放送衛星 ( BS ) の開発計画が了承され、 NHKの中継器や衛星搭載用アンテナの研究等の成果がBSの設計に反映された。ま た、NHK関係者はNASDAに出向してプロジェクトの推進にあたるとともに、アメリカの GE社18)に駐在し、中継器の設計・製作支援を行った。 このBSは当時の衛星用中継器としては格段に高出力である 100WのTWT19)を 3 台 搭載し、2 チャンネルの放送を行うものであった。また、衛星の姿勢制御方式も三軸安 定型20)であり、スピン安定型21)が主流であった当時としては新しい技術であった。地球 から約 3 万 6000km離れた軌道を持つ人工衛星の周期は、地球の自転周期と一致す る。このため地球上から見ると静止して見える。これが静止衛星の考え方である。衛星 から地球を臨むと、ちょうど腕を伸ばした手のひら上のバスケットボール程度の大きさ に地球が見える。このため、経度 120 度間隔に配置した 3 機の衛星でほぼ地球全土が カバーできる。 また、地球からは衛星が静止している状態なので、アンテナが一方向に固定できる ため受信設備も簡単になる。宇宙空間から発射される電波は容易に世界各国に届く。 世界各国で衛星放送計画が盛り上がる中で、1977 年の世界無線主管庁会議 では、 各国で使用する放送衛星の軌道位置や周波数の割り当てが行われた。NHK は、技 研で独自開発した計算機プログラムを駆使して、この会議における周波数割り当て計 画の作成作業に貢献した。これにより日本は欧州各国よりも多い 8 チャンネルの割り当 てを確保することができた。 衛星放送の実現のためには、衛星だけでなく小型の受信アンテナと高感度の受信 機が必要である。それまでの衛星通信では低出力の衛星を用いていたため、受信ア ンテナのサイズは数mから数十mという大きさで、とても家庭に設置できるものではな い。このため、衛星の出力を高めるとともに、低廉で高感度な受信機が必須となる。技 研では新たに立体平面回路を考案して、安価でしかも高感度で小型アンテナが使用 - 12 - できる受信機を実現した。 - 13 - 2.1.4 放送サービスの多様化 白黒テレビからカラーテレビへと発展した後、衛星放送という新しい伝送路を開拓す るとともに、社会の多情報化の流れに呼応してニューメディアと呼ばれるさまざまな放 送が開発された。この背景には、IC、CPU、メモリなどのデジタル技術が発達して新し いサービスが行えるようになったこと、ラジオやテレビの電波の隙間に新たに信号がの せられる技術 (多重化) を使えるようになったことなど、いろいろな技術の発展がある。 技研では、下記のようなサービスを開発した。 ○ 音声多重放送(1978) テレビの音声信号にさらに音声を多重して、ステレオ、2 か国語、解説等の新たなサ ービスを行える。 ○ 緊急警報放送(1985) 特別なコード信号を送って受信機を自動的に起動させ、大規模地震の予知情報な ど緊急情報を知らせる。 ○ 文字放送(1985) テレビの映像信号に文字や図形、画像などを多重して送り、聴覚障害者への字幕サ ービス、ニュース、天気予報などの情報サービスを行う。漢字の文字数が多いことから、 当初、文字をパターンで伝送する方式で開発されたが、ICや誤り訂正技術等の発達 により、コード伝送方式22)を取り入れたハイブリッド伝送方式23)に変更された。 ○ FM 多重放送(1994) FM放送にデジタルデータを多重し、番組関連情報や独立したニュースなどのサー ビスを行う。移動体向けに設計された初めての放送システムで、現在VICS24) により交 通情報が提供されている。 このように、放送サービスの多様化が見られるようになってきた。それは、今までの放 送をよりよく見せるように付加的に追加されたものや、視聴が困難な人たちに対しても テレビ放送を楽しんでもらうことのできるサービスの提供などと、多岐にわたっている。 サービスだけでなく、そこに付随する技術の発展もより顕著に見られるようになってき た。技術的にも高レベルなものを作り出すことができるようになったテレビは、「未来の テレビ」開発を模索し始めていたのである 25) 。その中で、技研にて、高精細テレビ (HDTV:High Definition Television)の研究が始まる(1964 年)。この研究の開発には、 - 14 - 2 つのアプローチがあった。ひとつは、将来のテレビシステムとして求められるべき将 来像やテレビシステムの物理的条件を詰めて、そこから「未来テレビ」をイメージするこ と。もうひとつは、人間の視覚特性や心理効果を研究して、どのような画面・映像が、 本当に人間にとって見やすく、しかも好ましいかを再検討する道である。立体テレビな ど多くの選択肢の中から、技研は高精細テレビに方向を定め、高品位テレビと名づけ て研究を進めた。1985 年には、これをハイビジョンと命名した。人間が好む画面の比 率:アスペクト比 ( 横縦比 ) は、標準の 4:3 よりも横長にした方が好まれることや、ア スペクト比を変化させた時の効果を、写真のスライドを投射した画像で評価し、アスペ クト比は 5:3 ないし 6:3 が望ましいことを明らかにした。その後、映画との互換性を考慮 してアスペクト比 16:9 に決定した。ハイビジョンの魅力は、単に画面が精細であるだけ でなく、臨場感をはじめとする人間の心理的要求を満足することである。現行テレビの 走査線は 525 本で、その粗さを目立たなくするには画面の高さの 6∼7 倍の距離から 見る必要がある。この場合画面に対する視角は 10 度程度で、画面から受ける迫力も 小さい。テレビにとって最も重要な臨場感を測る心理実験の結果から、視角は 25 度以 上、できれば 30 度以上が好ましいことが明らかとなった。また、画面の横縦比も、評価 実験の結果から、従来よりも横長の 5:3 とした。したがって、視距離は画面の高さ (H) の 3 倍に設定する必要がある (50 インチのディスプレイで約 2m)。視力 1.0 の人の分 解能は視角 1 分であり、3Hの距離では走査線 1100 本以上が望ましいことになる。こ れにさらに現行方式との互換性を加味して、1125 本の走査線が導き出された。 ハイビジョンを開発するテレビ技術者にとって、次世代のテレビは、標準テレビのよう に国ごとに異なる方式ではなく、世界共通の規格となることが夢であったという。ハイビ ジョンは、1981 年、初めてアメリカで実演展示が行われて、関係者にその映像の美しさ で大きな衝撃を与えたのである。ハイビジョン規格は、その豊かな将来性ゆえに、企業 間競争や国家間の駆け引きなどで、大きな国際的問題となった。1986 年 5 月の国際 標準化会議CCIR ( 現ITU‐R ) 総会26)では、ヨーロッパ諸国が総走査線数 1250 本、 50 フィールド方式を主張し、世界統一とならなかった。1987 年以降はデジタル技術の 論議もそれに拍車をかけて、さまざまな方式が提案された。しかし、1990 年に成立した 規格をベースに、1997 年有効走査線数が 1080 本に、2000 年には総走査線数が 1125 本に世界統一された。 - 15 - 東京五輪の頃からハイビジョンの研究が進められたが、ハイビジョン放送を普及させ るうえでも、薄くて軽い大画面ディスプレイの開発が期待された。技研では 1971 年頃 からハイビジョンに適した大画面の平面ディスプレイの研究を開始した。当時、液晶、 EL27) や発光ダイオードなどの平面ディスプレイの可能性を検討し、その中でPDP28) が 大画面の平面ディスプレイの実現に最短距離にあると判断し、PDPの研究を進めてき た。PDPの発光原理は蛍光灯と同様、放電による発光現象を利用している。小さな蛍 光灯を多数並べて、画面を構成するというこのような考えは古くからあり、1960 年代初 めにアメリカで最初のPDPが試作された。だが当時のPDPはオレンジ色単色の文字表 示がやっとで、テレビ画像を表示するにはカラー化と高輝度化が問題であり、さらにハ イビジョンに対応するための大型化が大きな技術課題であった。テレビ受像機としての 使用を目指していた技研では、まずカラー化に取り組み、赤青緑の 3 原色を発光する 蛍光体とそれに適した封入ガスを開発した。しかし、当時試作したPDPは画面が非常 に暗かった。このため引き続き高輝度化に取り組み、発光時間が長くなるメモリー駆動 法や、発生した光を有効に取り出せる白色障壁や反射蛍光面などのPDP構造の改善 により、実用的な輝度が得られるようになった。 雲仙・普賢岳の大火砕流災害報道、また阪神・淡路大震災報道などで、人々の事件 報道に対する関心が高まった。衛星放送、それに簡便化した取材報道体制の整備で、 テレビは、大災害の報道も即時、継続的に行なえるようになった。テレビ映像を家庭に 届けるには、その現場の映像を中継局にまず送り、そこからテレビ局を経て、放送する。 そのためには、高い山や見通しのいい場所をみつけて、中継場所を確保するのが、 避けられない技術の壁であった。それが 1988 年頃から、赤道上空 3 万 6000kmに静止 している衛星を中継局として利用し、ニュース素材を伝送するSNG ( Satellite News Gathering ) システム29)が実現し、地球上のどこからでも放送できる条件が整った。日 本では、このSNGシステムが各放送局に導入され、近年はデジタル化され、またハイビ ジョンへの対応もできるようになりつつある。 また、家庭用テレビの技術の発展もみられるようになってくる。離れたところからテレ ビや VTR を操作することができるリモコンは、著名な発明者がいるわけでもなく、地味 な存在であるがテレビの見方を変えたという意味においては、画期的な発明のひとつ といえる。テレビ用のリモコンは、日本では 1960 年に誕生した (東芝製 14EA 型) 。ワ - 16 - イヤードリモコンと呼ばれる機械式で、テレビとコードで結ばれていた。このリモコンで はチャンネルのチューニングと音量の調整ができた。この便利さが人気を呼び、当時 13 万台以上も製造された。その後、メーカーでのテレビのカラー化が一巡した 1972 年 以降、再び機能を向上させたリモコンが開発された。超音波リモコン、赤外線リモコン など各種のものが現れ、さらに、電子チューナーの登場により機能が著しく向上した。 最初、テレビのオプションだったものが、今やテレビの操作に欠くことのできない装置 のひとつになった。操作性も格段に向上し、VTR などさまざまな機器にも普及した。こ のリモコンに関しては、後に記載するテレビ視聴の歴史において、ライフスタイルのと かかわりをより深く考えていく。 - 17 - 2.1.5 デジタル放送の時代 2000 年 12 月 1 日、日本でBSデジタル放送がスタートした。ハイビジョンとデータ放送 が両輪となった 21 世紀の放送であるデジタル放送のはじまりである。ハイビジョンをデ ジタルで放送することは、放送技術者の長い夢であったという。さらにデジタル技術は、 放送を「見るテレビ」から「使うテレビ」へ大きく飛躍させるものとなった。デジタル技術 が、放送メディアの世界へ導入されたのは、1967 年のPCM録音機30)の開発などからで ある。そして、1980 年代初頭にはコンパクトディスク ( CD ) が音質や操作性の良さで 瞬く間にそれまでのレコードにとって代わって普及した。デジタル技術が放送にどのよ うに活かせるかというテーマは、ハイビジョン開発と並ぶ技研の大きな研究テーマであ った。1982 年には、技研は世界に先駆けて将来のデジタル放送の概念として、「ISDB ( Integrated Services Digital Broadcasting : 統合デジタル放送 ) 」を提唱した。これは、 映像・音声・文字情報・静止画情報など、すべてをデジタル信号でまとめて 1 つの電波 で放送するという新しい放送サービスの考え方である。ISDBはその後CCIR におい て研究課題となり、世界的にも認知された概念となっていく。20 世紀の終わり、2000 年 12 月 1 日に、NHKと在京民放を基盤とするデジタル放送事業者が参画したBSデジタ ル放送がスタートした。このデジタル放送は、ISDBが形になった最初のもので、高画質、 高音質のデジタルハイビジョン番組、5.1chサラウンドステレオ、各種データ放送、リモ コンによる双方向番組、電子番組ガイド ( EPG ) 、限定受信システム( CAS ) 機能、 それに電波を利用して受信機側のソフトウェアを更新するダウンロード機能を持つなど、 これまでのテレビを大きく超える高機能で柔軟性あるサービスを可能としている。 ハイビジョンと並び注目されるデータ放送も、地上波の文字放送と比較して格段に 情報量が拡大するとともに、サービスが拡充された。「いつでもニュース」、郵便番号に よる地域の天気サービス、株価サービスなども可能となった。この放送は、これからは じまるデジタル放送革命の第 1 幕にすぎない。デジタルによって、テレビは、「見るテレ ビ」から「使うテレビ」への発展の基盤を与えられた。地上波テレビのデジタル化では、 固定受信機だけでなく、移動体・携帯受信機向けにも高画質、高機能のサービスを可 能にする。さらにISDBは、ホームサーバーの実用化により、視聴者が欲しい情報をい つでも、どこでも、誰にでも手に入れられる夢を実現しようとしている。標準テレビの 6 倍もの情報量を持つハイビジョンを放送するために、映像の圧縮技術と伝送技術の研 - 18 - 究が地道に行われた。1990 年に、地上放送の帯域幅でHDTVを伝送できるデジタル テレビの方式がアメリカGI社によって開発された。その後、圧縮技術は、国際標準化 機構 (ISO) および国際電気標準会議(IEC) の作業部会MPEG31)で検討が進められ、 1994 年にDCT (離散コサイン変換) とMC (動き補償技術) を基本とした技術を用いて HDTVの圧縮も含むMPEG‐2 国際規格がまとめられた。ヨーロッパでは、MPEG‐2 と変 調方式にQPSK32)を用いたDVB‐S33)と呼ばれるデジタル衛星放送方式が作られ、1995 年から多チャンネル放送を実用化している。日本でもDVB‐S方式をもとに、1996 年に CSデジタル放送が開始された。 BS デジタル放送の伝送方式については、NHK と在京民放キー局のすべてが、限ら れたチャンネル数の中でハイビジョンを中心とするサービスを行えるように、変調方式 としてトレリス符号化 8 相 PSK を採用した。これにより欧米で開発された方式より広帯域 で柔軟な運用ができるようになった。 このデジタル放送に関しては、後述の 2.3 においてより詳しく論述していく。デジタル 放送は、今後の放送を支えると考えられている期待のこめられた技術なのである。 - 19 - 2.2 テレビ視聴の歴史 2.2.1 映像メディアの誕生 ‐娯楽メディアから総合メディアへ‐ 耳だけが頼りであったラジオとは異なり、音声と映像とを楽しむテレビは、ラジオとは 違う「視覚による要素」という部分に新しさがあり、売りともいえる部分であった。正確に 言えば、テレビは映像と音声を併せ持つメディアであるが、既存のラジオとの差別化を 図るということからすれば「見える」ということに決定的な新しさがあった。テレビ放送開 始を目前に控えて発表された「NHK 東京テレビジョン放送番組編成方針について」で は次のように記されている。 「耳だけが頼りであったラジオの場合と異なり、視覚による要素が決定的に支配する テレビジョンの力を活かすことを当座の編成方針とし、視聴覚教育の完成、視覚的芸 能番組の開拓、ニュースの視覚化、フィルムによる海外との番組交換に重点を置くな どテレビジョンが国民の新しい文化財となるよう斬新な番組の企画編成を行う34)。」 このように、テレビ放送では「見える」もしくは「見せる」ということに主眼が置かれ、視 覚による要素を提供することで多くの視聴者に楽しんでもらう編成を行ってきた。ここに 公衆で楽しむことのできる手軽な映像メディアが誕生したのである。 しかし、テレビ誕生当時、テレビ受像機は非常に高額な商品であり、速やかな普及 にはつながらなかった。民間の放送局として初めに開局した日本テレビは、民間放送 局として広告収入を軸に経営をしていくため、より多くの人にテレビを視聴してもらう必 要性があった。そこで、日本テレビは、街頭テレビという手法を考え出し、行った。これ は、テレビの台数を増やすのではなく、テレビを見る人の数を多くするための行動で、 1 台のテレビを大勢の人に見せるという手法である。この街頭テレビには黒山の人だか りとなり、テレビ受像機の普及は低いものの、視聴人数は大きく広がっていった。そして、 この街頭テレビの人気に目をつけた喫茶店、食堂、美容院などが客寄せ用にテレビを 購入し始め、最終的には一般家庭へと普及していったのである。 テレビ放送開始当初の番組は、アメリカのホームドラマや映画、また、プロレスやプロ ボクシング中継などといった番組編成であった。他に娯楽の少ない時代でもあったた めか、当時のテレビは、「大娯楽の時代」と呼ばれていたようである。それまでなら、わ ざわざ出かけていって、しかもお金を払って入場しなければ見られなかった演劇やス - 20 - ポーツなどのイベントが、家庭にいながらして見られるということを売り物にして、普及 が図られたようである35)。このように、開始当初のテレビ放送は娯楽メディアとしての位 置づけが強く、そこに普及の糸口を模索していた部分があった。 テレビ放送開始直後は、技術的にも人材的にも乏しく、金銭的にも十分ではなかっ た。そのため、テレビニュースは速報性に乏しく、現在のようにテレビで最新ニュースを 知るといった習慣には至っていなかった。しかしながら、テレビの取材や制作に関連す る技術がすすみ、それらの利用が容易になるにつれて、放送の内容も充実していった。 特に、テレビニュースに関連した技術革新によってテレビの映像的速報性が向上し、 本格的なものに近づいていったのである。当時、テレビニュースや報道ドキュメンタリ ーは娯楽番組の添え物程度にしか編成されてなく、現在のようなコンテンツ力を持っ ていなかった。その後、テレビの映像的速報性を求める姿勢が強まり、こうしたニュー スに関連した技術的変化により、放送機材の技術的発達が見られるようになってくる。 放送用VTRの発達により、それまで生放送であった番組は、VTRが用いられるようにな り、番組制作に幅が広がっていった。こうして、はじめは単なる娯楽メディアとしてしか 捉えられていなかったテレビは、報道的要素が強くなっていき、次第に総合メディアへ と変化していくのである36)。 開始当初のテレビ放送は、娯楽要素が強く、視聴者を楽しませるための媒体と取ら れてきたのだが、放送技術の革新によって、生活全般をカバーする総合メディアへと 変革を遂げてきたのである。いつの時代であっても、テレビの発展は技術の革新と深 い関係にあった。離れた場所で行われているイベントを家庭にいながらにしてみること ができるというのは、それまでの生活では考えられないほど大きな出来事であり、新し い経験であった。技術の進歩によって番組の魅力が増し、より多くの家庭でテレビを購 入するようになると、今度は量産の生み出すメリットによってテレビの価格が低下し、普 及がさらに加速していくのである。これらの総合的な結果としてテレビはわずか 10 年余 りの間に、全国のほとんどの世帯に普及していったのである。 - 21 - 2.2.2 新しいテレビの視聴法 -リモコン・家庭用 VTR の誕生ここでは、テレビの見方を変えた技術である「リモコン」と「家庭用ビデオテープレコー ダー(VTR)」について触れていく。 リモコンというと現在のテレビには欠かすことのできないものである。それは、テレビだ けにはとどまらない。家庭には、複数個のリモコンが部屋の中に存在している状態であ り、日常生活の中でごく自然に使用するものとなっている。 テレビ用のリモコンは、日本では 1960 年に東芝製 14EA型の誕生に始まる。当時登 場したリモコンは、ワイヤードリモコンと呼ばれる機械式で、テレビとコードで結ばれて いた。このリモコンではチャンネルのチューニングと音量の調整ができた。この便利さ が人気を呼び、当時 13 万台以上も製造されたのである。その後、メーカーでのテレビ のカラー化が一巡した 1972 年以降、再び機能を向上させたリモコンが開発された。超 音波リモコン、赤外線リモコンなど各種のものが現れ、さらに、電子チューナーの登場 により機能が著しく向上した37)。最初、テレビのオプションだったものが、今やテレビの 操作に欠くことのできない装置のひとつになったのである。 リモコンは、離れた場所からいつでもチャンネルをかえることができるという、大変便 利なものである。そのため、リモコンの使い方により、リモコン登場以前の視聴法と登場 後の視聴法に違いが見られるようになってきた。 まず、リモコン登場以前の視聴法について触れてみる。テレビ放送開始直後は、テ レビを見るために、人々は非常に熱心であった。当時、まだテレビは非常に高価な代 物であり、大きな普及に至っていなかったのだが、人々のテレビに対する興味・関心は 強いものがあった。テレビ 50 年調査からの抜粋データによると、「自転車でとなりの駅 まで行き、街頭テレビでプロレスやボクシングをよく見た」や「毎日駅前の街頭テレビを 夕食抜きで見物していた」、「正座して近所の家で見た」、などのエピソードがあった。 こうしたことからもわかるように、当時の人々はテレビにいかに夢中になっていたかがわ かるのである38)。リモコン登場後の視聴法の大きな特徴は、視聴の分散が見られるよう になってきたことである。リモコンの登場により、チャンネルを変えるときにわざわざテレ ビに近づいてつまみを回す必要がなくなった。そのため、いろいろ見ることができるよう になり、さらにその中から見たい番組を探し選択することが容易になったのである。そ してその結果、その後のテレビ視聴を大きく変えることになったのである。 - 22 - 番組がCMにはいると、ついリモコンに手がいきチャンネルを回してしまうような現象 が少なくない。このような、CM、昼夜の番組途中でのチャンネルの切り替えをザッピン グと呼んでいる。これは、より面白い番組を求めて行う現象であり、面白いところをつま んでみていくための行為と取れる。つまり、番組を全部見ることなく、1 部分のみを見る という断片的な見方にいたっている。この断片的な見方を年層別に示したのが図 2.1 である。このデータによると「気がつくとリモコンでチャンネルを次々とかえていること」と 「リモコンでたくさんの番組の面白いところだけをつまみ見していくこと」の両項目とも行 っているのは、16∼19 歳と 20 代の若い世代で約半数となっている39)。このように、断片 的な見方は、若い世代を中心に行われていることがわかる。 そして、断片的な見方が行われることによって、テレビをつけたままにしておくという 視聴法が広がってくる。図 2.2 は、つけっぱなしの見方を年齢層別に示したものである。 この図からわかるように、「見たい番組がなくてもテレビをつけたままにしておくこと」と いう項目では、16∼19 歳、20 代、30 代、40 代と広い世代で半数を上まっており、つけ っぱなしの広がりを示している。これは、テレビを集中してみている人が減少してきたと もとれるデータである40)。 リモコンの登場によって人々のテレビや、その楽しみ方が大きく変わった。放送開始 当初は、テレビの前に競うようにして人々が集まり、家族みんなで番組をはじめから終 わりまでじっくり鑑賞する楽しさだった。しかし現在は、1 つの番組を熱心に集中して視 聴するということはまれになってきており、常にテレビをつけたままにしておいて、ある 1 部分のみを見て面白いところだけをつまんでみていくような断片的な見方をするように なってきた。その結果、テレビの視聴法は変わり、今までとは違った楽しみ方を見つけ てくるようになってきたのであるといえる。 - 23 - 16∼19歳 20代 30代 年齢層 40代 50代 60代 70歳代以上 0 10 20 30 % リモコンでたくさんの番組の面白いところだけをつまみ見 していくこと 気がつくとリモコンでチャンネルを次々と変えていること 40 50 60 (1997年3月テレビと情報行動調査) (出展:テレビ視聴の 50 年 P.212) 図 2.1 リモコンによる断片的な見方(年齢層別) 16∼19歳 20代 30代 年齢層 40代 50代 60代 70歳代以上 0 10 20 30 40 50 60 70 % 画面を見ないで音だけを聞いていること 見たい番組がなくてもテレビをつけたままにしておくこと (1997年3月テレビと情報行動調査) (出展:テレビ視聴の 50 年 P.213) 図 2.2 つけっぱなしな見方(年齢層別) - 24 - テレビの見方を変えた技術としてもう 1 つ、家庭用 VTR があげられる。家庭用 VTR というと、ソニーが開発したベータマックスと日本ビクター主導の VHS の 2 つの方式が 対立し、家電メーカーが 2 つの陣営に分かれて激しい競争を展開したのが有名である。 この競争の中で、性能と操作性が大幅に改善されていった。 この競争は約 10 年続き、1988 年に、VHSの勝利で終わったのである。勝因は、家電 最大手の松下電器がVHS側に加わったこと、ベータマックスよりも長時間の録画が可 能だったこと、VHSの豊富なビデオソフトが出回ったことなどであった。これらの要因に より、1980 年にわずか 2%ほどであった家庭用VTRの普及率は、1985 年に 28%、1988 年 53%、1993 年になると 75%と上昇していったのである41)。 この家庭用 VTR の誕生により、放送時間に合わせてテレビを見るという制約から解 放された。そのため、録画した番組を好きな時間に見ることが多くなった。このような家 庭用 VTR の普及は、番組開発や編成にも影響を及ぼし始めたのである。 家庭用 VTR の誕生は、時間の制約を解消することができ、テレビの楽しみ方に変化 をもたらした新しい技術であったことがうかがえる。 - 25 - 2.2.3 テレビによる生活時間の変化 生活の中にテレビが入ることによって、ライフスタイルのさまざまな変化が見られるよう になってきた。特に生活時間の変化が顕著である。現在、一日のテレビ視聴の平均時 間は、2003 年以降 4 時間を超えている(図 2.3 参照)42)。これは、1 日の 16%を占める ことになり、テレビが生活の中に浸透し、日常化したものと考えられる。NHKが 1960 年 より 5 年ごとに行っている生活時間調査(2000 年)によると、日常生活 1 日における生 活時間において、テレビ視聴行動時間を超える行動は、睡眠、学業・仕事、家事の 3 つのみとなっている。生活時間調査において、睡眠と家事は「必需行動」、学業・仕事 は「拘束行動」と分類されており、それぞれ誰しもが生活において欠かすことのできな い行動である。テレビ視聴という行動は、それらの生活時間に次ぐ行動であり、1 日に おける行動においてテレビ視聴がいかに長い時間を占めているかが伺える。そして、 図 2.4 より、1 日においてテレビをまったく視聴しないという人の数はごくわずかであるこ とがわかる。特に 5 時間または 6 時間以上視聴しているというヘビーユーザーは全体 の 20%ほどを占めている結果となっている。 また、図 2.5 からもわかるように、生活において毎日テレビを視聴しているという人の 割合は 93%となっている(2005 年現在)43)。生活時間調査(2000)による 1 日の行為者 率においても、テレビ視聴は 9 割を超える結果を残している。この行為者率とは、1 日 の中で 15 分以上その行動をした人の割合を表している。行為者率の中で 9 割以上を 示しているものは、テレビ視聴を除くと睡眠、食事、身の回りの用事(洗面・着替えなど) の 3 つのみとなっている。このデータは、ほとんどの人がテレビ視聴という行動を行って いるものであり、加えて、睡眠や食事のように生きていくうえで欠かせない行動に匹敵 する行動であるということを示している。 このように、テレビ視聴という行動は、日常生活のごく当たり前の行動となっており、 ほとんどの人たちの生活時間の一部となっている状況にある。テレビの視聴法は、何 か他のことをしながらテレビを視聴するという「ながら視聴」と、テレビを集中して視聴す る「専念視聴」の 2 つに大きく分類されるが、その点を考慮しても 1 日の中で非常に大 きな行動割合を占めているものであることがわかる。 テレビ視聴の時間が増加した原因の 1 つ目としては、テレビの複数台所有が目立っ てきたことがあげられる。これにより、家庭における家族の団欒が減少したものの、個人 - 26 - 視聴という新しいテレビの視聴方法が見られるようになってきた。テレビというと、かつ ては家族そろって視聴するものという認識が強かったが、現在ではそうではなく、1 人 でテレビを視聴するという行動は当たり前のものとなっている。このテレビの複数代所 有というのは、テレビの大きな普及に伴う技術の進化の賜物なのである。テレビが、 人々の生活に定着すると同時に、テレビを製造している各メーカーはより安価なテレビ 受像機の開発を目的に高い技術を生み出し、利用者に提供していく。この循環が、テ レビの普及へとつながり、つまりは生活時間の変化をさせるに至った原因とも考えられ る。 5:00 4:00 3:00 3:36 3:39 3:53 3:47 3:48 3:51 2:38 2:33 2:32 2:37 3:53 3:44 3:48 2:31 2:39 2:31 2:39 3:45 4:05 4:02 2:53 2:52 4:06 3:03 2:28 2:27 1:08 1:11 1:15 1:14 1:16 1:14 1:14 1:15 1:13 1:09 1:13 1:10 1:03 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 年 2000 2001 2002 2003 2004 2005 時:分 2:00 1:00 0:00 テレビ総計 民放総計 NHK総計 (全国個人視聴率調査の結果より 2005年4月現在) 出展:NHK 放送文化研究所 「4 時間を超えたテレビ視聴時間」 「日本人とテレビ 2005」 図 2.3 テレビ視聴時間(1 日) - 27 - 2005年 4 13 23 2000年 3 13 26 年 1995年 2 16 1990年 3 16 29 1985年 3 16 27 0% 24 23 27 20% 25 23 22 40% 14 11 12 14 10 12 13 9 8 12 9 8 10 9 13 60% 80% ほとんど見ない 1時間ぐらい 2時間 3時間 4時間 5時間 6時間以上 100% % (「日本人とテレビ 2005」調査) (出展:NHK 放送文化研究所ホームページ) 図 2.4 テレビ視聴時間 2005年 93 31 2000年 95 21 年 1995年 94 31 1990年 94 21 1985年 94 31 0% 10% 20% 30% 40% 50% % 毎日 週3・4回 週1・2回 60% 70% 80% 90% 100% (「日本人とテレビ 2005」調査) (出展:NHK 放送文化研究所ホームページ) 図 2.5 テレビ視聴頻度 - 28 - 原因の 2 つ目として、生まれた時から家庭にテレビがあり、テレビがある生活が当たり 前になっていることがあげられる。総務省から発表されている 2004 年 10 月 1 日現在の 日本人の総人口は、およそ 127,687,000 人である44)。生まれた時点ですでに家庭にテ レビがあった人は、おおよそ 51 歳以下の人々であると考えられる。2004 年 10 月 1 日 現在、51 歳以下の人々の総人口は、およそ 78,606,000 人である。この数値からわかる ことは、生まれながらにしてテレビと接触し、生活をともにしている年代の人々が、現在 ではすでに総人口に対して半数以上の割合を占めているということである。データ上と はいえ、これは、非常に大きな要因ではないだろうか。いまや、テレビは日常生活に欠 かせない生活家電となっており、この現象も、特に意識もなくテレビに慣れ親しんだ時 間が多い人々が増加してきた結果であると感じる。 このように、生活の中でテレビを視聴する時間が増加してきたことで、他の生活時間 に変化が生じてきている。特に顕著なのが、睡眠時間の変化である。1960 年の平日平 均睡眠時間は、8 時間 13 分であったのに対し、2000 年の平日平均睡眠時間は、7 時 間 26 分となっている45)。この結果だけでは、一概に睡眠時間に影響をあたえたとはい えない。しかしながら、1960 年のテレビ視聴の平日行為者率が 40%、平日視聴時間 が 1 時間 19 分であったのに対し、2000 年のテレビ視聴の平日行為者率が 91%、平 日視聴時間が 3 時間 44 分となっていることから、わずかながらも関係性があると考えら れる。 - 29 - 2.3 地上デジタル放送がもたらす革新 2.3.1 なぜデジタルなのか 地上デジタル放送の技術について言及するよりも先に、まず、なぜ放送をデジタル 化するのかについてふれていきたい。 地上波放送は、デジタル化によって高画質化、高音質化、多チャンネル化、双方向 性など、より便利な放送サービスを利用できるようになる。このような放送サービスを高 度化していくことが地上テレビ放送をデジタル化する大きな目的である。また、国が進 めているIT(Information Technology:情報通信技術)戦略の柱として、「家庭における IT化の進展」「周波数の有効利用」という面でも、地上波放送のデジタル化は大きな役 割を果たしている46)。 放送・通信とも世界的にデジタル化が進んでいる中、懸念されているのがデジタル 化によって生じる情報格差(デジタルデバイド)である。パソコン中心のデジタル化では、 一部の人たちが必要な情報を手に入れられなくなる恐れがある。しかし、全世帯に普 及しているもっとも身近なメディアである地上波放送をデジタル化することにより、デジ タルテレビを使って、子供からお年寄りまでも誰もが、簡単な操作で多様な情報を入 手し、活用することができるようになる。放送と通信を意識することなくシームレスに、誰 でも、いつでも、どんな番組や情報にも簡単にアクセスできるようになる。このような家 庭生活における IT 技術の普及・進展が、地上波放送のデジタル化によってもたらされ ると考えられている。 周波数の有効利用について示してみる。現在、地上波放送はVHF12 チャンネルと UHF50 チャンネルの計 62 チャンネルの電波を使って行われている。地上テレビ放送 がアナログ放送からデジタル放送へ完全に移行し、アナログ放送が終了した段階では、 3 分の 2 の約 40 チャンネルの電波でテレビ放送を行い、残りの約 3 分の 1 のチャンネ ルを空けることが決まっている。アナログ放送の終了後には、この空いたチャンネルを、 テレビ以外の放送や通信サービスなどに有効に利用できるようになる。これは、切迫し ている電波状況からして、非常によい試みである。このような、周波数の有効利用もデ ジタル化の大きな役割である47)。 2003 年 12 月に開始された地上デジタル放送の、現在の開局状況を示してみる。 - 30 - 2003 年 12 月には、東京・大阪・名古屋における 19 局が地上デジタルを開始した。そし て、2004 年 10 月に、茨城県と富山県における 3 局が開始した。ついで、11 月に岐阜 県で 1 局、12 月に NHK 神戸・サンテレビジョン・テレビ神奈川と続いた。直接受信世帯 は、開始当初の約 1200 万世帯から 1 年で約 1800 万世帯へと増加した。 2004 年 12 月に総務省が公表した「放送開局ロードマップ」によると、受信世帯は、 2005 年中に約 2700 万世帯、2006 年中までには 3700 万世帯に広がり、その時点で、 全世帯の約 8 割をカバーする予定となっている48)。 東京・大阪・名古屋の 3 大都市圏以外の地方局は、もともと 2006 年までに地上デジ タル放送を開始することになっていた。しかしながら、半年から 1 年ほど開始時期が前 倒しになっている局が多くみられる。その背景には、各地でデジタル電波を発信する 前提となる対策の進捗状況があった。このデジタル電波発信の前提として、アナログ 周波数変換対策、ブースター障害対策、集合住宅への飛び込み障害対策などがある。 これらの対策作業が予定に比べ順調にすすんでいることにより、放送局のデジタル化 が前倒しされてきている。現在のアナログ放送の終了時期は、2011 年 7 月 24 日と定 められている(図 2.6 参照)。 (出展:テレビ視聴の 50 年 P.266) 図 2.6 放送スケジュール 受信機の出荷は順調な推移を見せている。2004 年 11 月末までの地上デジタル対 応受信機の出荷総数は、約 258 万台となっている。これは、BSデジタル放送に対応す - 31 - る受信機の同期間での出荷数の 3 倍ほどになる49)。順調な出荷の背景には、家電メー カーの積極的開発・製造が見られる。その結果、機種の多様化、品質の高度化、そし て価格低下がすすんでいる。 地上デジタル放送の大きな特徴は、前述したようにこれまでのアナログ放送に変わ ってデジタル化されたことによる放送技術の向上である。テレビ放送は、1953 年(昭和 28 年)に開始されて以来、白黒からカラー、そしてハイビジョンへと進展してきた。デジ タル化には以下のような特徴が挙げられる。 ○ 信号処理により大幅に情報量を圧縮することが可能 ○ 妨害による影響を軽減できる誤り訂正技術の導入が可能 ○ 映像、音声、データ、制御信号などのさまざまな信号が「0」と「1」のみなので、こ れらを統一的に扱うことが可能 ○ 信号処理回路の LSI 化が容易 そして、次のようなメリットがある。 ○ 1 チャンネル分の帯域でハイビジョン放送や多チャンネル放送が可能 −映像・音声信号の情報量を圧縮するため、アナログ放送と同じ 1 チャンネル分の 帯域で、ハイビジョン放送が可能となる。また、標準画質のテレビ番組であれば、3 番組程度を同時に放送することが可能。 ○ ゴーストのない鮮明な映像 −反射波などの妨害に強い伝送方式により、アナログ放送で生じる二重、三重のゴ ースト画面がなくなり、鮮明な映像を受信することができる。 ○ 安定した移動受信 −移動中でも安定して受信することができる伝送方式も採用されているので、自動 車などの移動体で受信する場合でも、アナログ放送のように映像が乱れることがな い。 ○ 周波数の有効利用 −混信に強い伝送方式を採用しているため、隣り合う送信所同士が同じチャンネル - 32 - を使用でき、周波数を有効に利用することができる。 ○ 高機能化 −地域に密着したニュースや気象情報などを「データ放送」としてテレビ番組と同時 にサービスし、視聴者が見たいときに自由に引き出すことが可能。電話などの通信 回線で双方向サービスも可能。 テレビ新時代 知っておきたい 地上デジタル放送 ―NHK 受信技術センター編― ;NHK 受信技術センター;NHK 出版(2003) より 具体的に視聴者が利用するサービスとしては、テレビ番組のマルチ編成、5.1 チャン ネルサラウンド50)、電子番組ガイド、字幕サービス、データ放送、双方向サービス、コン テンツのダウンロードなどがある。 これらのサービスの現在の具体的なサービス状況であるが、東京・大阪・名古屋の 3 大都市圏で開局した当初のサービスは、ハイビジョン放送が基本、番組費連動の独立 型データ放送はほとんどの局が実施、番組連動型データ放送・マルチ編成・双方向サ ービスはほとんどなし、となっている。ハイビジョン放送の比率は、NHK 総合で約 9 割、 民放キー局で約 4 割と、決して高い水準とはいえない状況が見られる。 番組連動型データ放送は、プロ野球中継などのスポーツ番組やローカル番組等で 実施され始めたが、データ放送に使用できる帯域が多くないこともあり、全体としては ごく一部にとどまっている。 マルチ編成については、NHKがアテネオリンピックを 40 時間以上にわたり、複数の 競技をマルチ編成で放送した。また、10 月からはデジタル教育で定時編成としてマル チ編成が始まっている。平日は毎日 10 時間が 2 チャンネル、土曜と日曜はそれぞれ 12 時間と 8 時間が 3 チャンネルとなっている。そのほか、プロ野球中継や単発ドラマ等 でマルチアングル51) などの実験的な放送を始めており、ごく一部であるが少しずつ増 え始めている。 双方向サービスについては、3 パターンのサービスが利用されている。それは、デジ タルテレビからダイヤルアップで放送局のシステムとつながる方法、デジタルテレビの 持つブロードバンド・インターネット機能を使用して各種詳細情報を取得する方法、携 帯電話を使用して番組関連情報を取得する方法の 3 パターンである。これらのサービ - 33 - スもまだごく一部にとどまっている現状である52)。 - 34 - 2.3.2 地上デジタル放送がもたらすものとは 「ハイビジョンによる鮮明な映像、演奏会場にいるのと変わらないような 5.1chサラウン ドによるリアルな音響。話し方が早いと感じれば話すスピードを少し遅くし、天気予報 はいつでもデータ放送で調べることができる。もし、野球中継が延びても定時になれば マルチ編成でニュースと野球を並行してみることも可能。また、携帯テレビがあれば車 でも歩きながらでも放送をキャッチできる。究極は関心のある番組をすべてまとめ録り して、後はお好みの時間と場所で再生OK、等々」53) これが、デジタル技術が可能にする、後の放送のあり方である。デジタル放送は、こ れまでのアナログ放送に比べて高画質かつ高音質な放送を実現する。それに加えて 特徴的なのが、時間や場所の制約がないということである。これは、今後の視聴行動 に大きな変化を与える要因である。 テレビの視聴形態に時間や場所の制約がなくなるとどうなるのであろうか。これまで のテレビ放送は、決まった時間にテレビの前にいなければ目的の番組を視聴すること ができなかった。その後、ビデオデッキが販売されたことにより、利便性が向上し、時間 の制約が解消されるが、録画時間に限界があることや画質の問題により満足のいくも のとはいかなかった。その点、デジタル放送では、ハードディスクへのデジタル録画に より高画質かつ高音質のまま録画でき、なおかつ 100 時間以上録画できるのが当たり 前なため録画時間の限界を感じさせない。そのため、決まった時間にテレビの前にい なくても見たい番組を自分の都合に合わせて見ることができる。つまり、視聴のタイム シフト化が実現するのである。 これにより、テレビの視聴方法にも変化が生じるであろう。それは、実時間に本放送 を視聴することがなくなるのではないかという点である。これにより、番組視聴率の低下 が見られてくるのではないだろうか。視聴率は、各放送局の最重要項目ともとれるもの で、この数字を高い水準で維持していないと十分な利益を得ることができなくなってし まう。しかしながら、個人個人の視聴時間の量は減少することはないであろう。視聴時 間は、増加していくのではないか。なぜなら、今後の放送環境では、いままで視聴をす ることができなかった時間帯の番組を手軽に視聴することができるからである。つまり、 現状では固定の時間に放送している番組の時間というものは、今後はまったく関係の ないものとなってしまうように感じる。 - 35 - 図 2.7 は放送事業者 128 社に対して行ったデジタル普及によるテレビ視聴の変化に 対するアンケート結果である。この結果をみると、視聴のタイムシフトが行われるのは 3 割未満と考えている放送事業者が 6 割ほどに上ることがわかる。また、デジタル録画は 不在時録画に限られるという意見が約 3 割ある。放送事業者は、デジタル録画機の普 及による視聴の変化は大きく表れないと考えている傾向がうかがえる。デジタル録画 機は、まだ本格的な普及にはいたっていないため、今後の動向が気になる。 ○デジタル録画機の普及で、視聴者のテレビの見方はどう変わると思いますか。 1.基本的にタイムシフトで TV を見るようになる ··········································· 2.5% 2.録画機経由は増でタイムシフトは半分程度··············································2.5 3.録画機経由は増でタイムシフトは 2∼3 割··············································31.7 4.録画機経由は増でタイムシフトは 1 割以下············································25.8 5.デジタル録画は不在時録画に限られる ··················································28.3 6.録画・再生にはあまり利用されない·····························································0.8 7.わからない ·········································································································5.8 8.その他·················································································································1.7 不明·······················································································································0.8 NHK 放送文化研究所による 放送事業者 128 社へのアンケートより (出展:放送研究と調査 1 月 P.30 第 41 問) 図 2.7 デジタル普及でのテレビの見方の変化 このように、テレビの利用の仕方が変化することで、利用形態も変化がみえてくる。そ れが、「「見るテレビ」から「使うテレビ」へのシフト」である。これまでのテレビは、「電源を いれ、チャンネルを選択し、視聴をする」といういたって単純なもので非常に手軽に使 用できる生活家電であった。けれども、これからのテレビは、多くの情報を引き出すこと のできる高性能な家電製品へと進化を遂げていくことが予想される。地上デジタル放 送では、文字や画像などのさまざまなデータをテレビの映像とは別に表示させることが できる。テレビを見ているときに気になる情報は、データ放送を通じて情報を得ることが でき、それに付随する関連情報までも得ることができる。また、これまで電話や FAX、メ ール等を通して行われてきた参加型番組も、テレビの操作を行うだけでリアルタイムに - 36 - 参加できるようになってくる。まさに、「見る」という行動だけにとどまらない能力を持ち合 わせ始めるのだ。それゆえに、楽しみ方の幅も広がっていくのである。 「使うテレビ」へとシフトしていくことで、テレビの機能は放送局から一方的に送られる 電波を受信するだけにはとどまらなくなる。これまで、番組情報を保存し蓄積させるも のはビデオデッキによるビデオテープへの録画であった。こうした状況を変化させつつ あるのが、ハードディスクにテレビの番組を録画できるパソコンやホームサーバー機器 の登場である。こうした機器では、電子番組表を利用した予約録画を行うことができ、 視聴者がいちいちラベルに書き込みビデオテープに貼るという作業が必要なくなる。 また、ホームサーバーでは、視聴者の好みに合わせた番組をサーバーが選択して示 し、視聴者がその中から選ぶといった機能がついており、そのサーバーから各部屋の テレビ、あるいはパソコンへと、放送されているテレビ番組や録画した番組を配信する ような機能を持つ機器も登場している。こうした大容量のホームサーバーを前提に、検 討されているのがサーバー型放送である。ホームサーバーに蓄積された番組や関連 情報、インターネットからの番組や情報、そして今視聴している番組が関連付けられる。 その結果、今視聴している番組に関する情報をホームサーバーやインターネットから 取り入れて画面に呼び出す、あるいは、ホームサーバーに見たい番組が蓄積されてい なければ、インターネット経由で放送局のサーバーから番組をダウンロードして視聴す るなど、これまでよりも大きく進歩した視聴法が見られるようになってくる。しかしながら、 このサービスにおいて、放送事業者は積極的ではない。図 2.8 は将来的な自社のサ ーバー型放送についてのアンケート結果である。これによると、「まったく実施していな い」と「まだ検討したことがない」の 2 つの項目で約 6 割を占めていることがわかる。これ により、放送事業者はサーバー型放送に対して関心を寄せていない現状がわかる。こ れからの視聴法を大きく変化させるかもしれないサービスだけに、放送事業者の動向 は非常に気になる点である。 サーバー型放送の実現などにより、デジタルテレビは、映像と音に重点を置いた高 度なパソコンともとられるようになる。テレビは、インターネットや地域情報などとつなが り、情報蓄積機能を発展させ、家庭の情報センターと位置づけられていくかもしれな い。 - 37 - ○将来的(2010 年)ごろには、御社のサーバー型放送は どうなっていると思いますか 不明 1% 積極的に実施 している 0% その他 1% 多少は放送し ている 5% わからない 16% ほとんど実施し ていない 17% まだ検討したこ とがない 31% まったく実施し ていない 29% NHK 放送文化研究所による 放送事業者 128 社へのアンケートより (出展:放送研究と調査 1 月 P.29 第 26 問) 図 2.8 将来的な自社のサーバー型放送 しかしながら、こうした視聴法には問題もある。テレビをいつ、どう見るかは、視聴者 がきめることができ、視聴者にとって大変便利なものなのだが、放送局側からすると、 視聴者が定時に番組を視聴する機会が減り、また、関心のある番組しか視聴しない状 況を作り出してしまうのである。今後の番組の編成のあり方に多大なる影響を与えるこ ととなる。 そのほかの問題もある。ハードディスクレコーダーを利用する多くの人は、CM をとば して放送を視聴しているという点である。これは、2005 年 5 月に野村総合研究所から発 表されたレポートである。それによると、ハードディスクレコーダーを利用する人の過半 数は CM をとばして視聴しており、それによって失われるテレビ CM 広告費は約 540 億円になるとのことであった。CM は、民放放送局が各企業とのスポンサー契約として 収入を得る代わりに、番組と番組との間、もしくは番組内にて放送している広告放送で ある。最近では、CM の CM と銘打ったものも放送されている。CM は民間放送局にと って非常に大きな収入源となっているもので、CM とばし問題は CM の価値を落として - 38 - しまうと同時に、放送局の大事な収入源が失われてしまう原因となる。今後、こうした、 CM をとばす視聴法が確立されてしまうかもしれない。 また、地上デジタル放送開始による大きな活用法が見られている。2004 年は、台風 が 10 個も日本に上陸し、各地に大きな被害をもたらし、新潟県中越地震の発生など、 災害の目立つ年であった。その中で 10 月 23 日に発生した新潟県中越地震に際して、 NHK は安否情報を地上デジタルで始めて提供し、新しい放送の今後の可能性を示し た。NHK は、地震発生直後から、被災者の安否情報を NHK 教育・FM・インターネット のホームページ、そして地上デジタルの教育テレビと BS デジタル放送のデータ放送 で伝えた。取り扱った安否情報の総数は約 1 万 7000 件であった。データ放送による安 否情報は、アナログ放送とインターネットの欠点を克服しており、テレビを見ながら、リ モコンを使用して探している人の性や名を記入すれば、それを含むすべてのメッセー ジを列挙するシステムとなっていた。この段階で視聴者は閲覧する件数を限定できる ので、知りたい情報を簡単に探し出せるようになる。伝送手段は放送なので、通信のよ うにアクセス集中によるトラブルは起こらず、停電や倒壊などで放送の中継局の機能 が停止しない限り、災害時には簡単で便利な情報伝達システムになりえることが示さ れた。 また、全国知事会の情報化推進特別委員会が提言したもので、デジタル放送の普 及と有効活用を訴えているものがある。その提言としては、行政情報の提供について である。実証実験などに積極的に取り組み、その成果の情報公開をするとともに、地 方公共団体への導入促進のための各種施策を検討するべきと述べている。地上デジ タルには、新聞や地上アナログと異なり、インターネットと同様の双方向機能持ち始め ていることから、期待が寄せられている。東京・大阪・名古屋の 3 大都市圏の放送局の 中には、データ放送で実際に自治体が発信する地域情報を流しているところもあり、 利用が始まりだしている。行政情報の発信以外にも、地上デジタル波、通信との連携 でサービスの可能性を拡大すると見られている。 いずれの活用法もまだまだ試験段階ともいえるものであり、まだ試行錯誤されている 部分が強い。けれども、テレビによって利用できるサービスとあり、あらゆる世代の人た ちに利用してもらえる非常に利便性の高いサービスである。 放送のデジタル化によってもたらされるものは、われわれ視聴者にとってはおおむね - 39 - メリットのあるものである。テレビを視聴する上で、さまざまなサービスを受けることにより、 これまでよりもより多くの情報を受信することができるようになる。また、自分の趣向に合 った内容の放送を視聴することが簡単に行うことができるようになり、視聴の幅が広が る。地上波放送のデジタル化による視聴者側の問題点を挙げるとすれば、テレビ受像 機の交換作業であろう。ただし、地上波放送は、2011 年 7 月 24 日以降に完全にデジ タル化されるため、これまで使用してきたブラウン管テレビでは番組を視聴することが できなくなる。デジタル放送受信用のチューナーもしくは、地上デジタル放送対応のテ レビ受像機を購入する必要がある。それはつまり、購入費用が必要になってくる点で ある。これらの機器は非常に高額なものとなっており、すべての人々が手軽に購入で きるものではなく、これまで手軽にテレビ放送を楽しんできた人たちにとって大きな問 題である。視聴者側にいるわれわれにとって、この金銭面の問題の解決が地上デジタ ル放送の普及の第一歩である。 - 40 - 2.3.3 双方向サービスの可能性 地上デジタル放送が始まって 1 年半が経過した。ここでは、地上デジタル放送の中 の1つである「双方向サービス」について取り上げ、考察していきたい。 双方向サービスとは、放送局からの情報を受信するだけでなく、視聴者から情報を 送信できるようになり、放送事業者と視聴者が双方向に情報のやり取りをしていくこと ができる技術である。これまでの放送のように一方的に情報を受信するのではなく、放 送局と視聴者との両者間において情報のやり取りをするというところに特徴がある。こ の双方向サービスの現状としては、3 パターンのサービスが登場している。1 つ目は、 デジタルテレビからダイヤルアップで放送局のシステムとつながる方法。2 つ目は、デ ジタルテレビの持つブロードバンド・インターネット機能を使って、放送を入り口に各種 詳細情報を取得する方法。そして 3 つ目は、番組自体もしくはデータ放送をきっかけ にして、携帯電話を使って番組関連情報を取得する方法である。 1 つ目のサービスは、NHK が 2003 年大晦日に紅白歌合戦の投票を実施したほか、 2004 年 5 月のデジタルフェアなど数本の番組を放送した。民放のローカル番組でも実 験的に多少の番組が放送されたが、全体としてはごく一部にとどまっている。 また、2 つ目のサービスとしては次のものがある。データ放送画面をきっかけにしてイ ンターネット経由で放送局のサーバーにアクセスして、放送では伝えきれない詳細な 情報を取得するもので、それは、NHK が 2003 年 4 月 26 日から本格的に始めている。 番組内の名場面の静止画を呼び出すことや、過去のデータ放送のコンテンツにアクセ スできるバックナンバー・サービスなどが行われている。民放のローカル番組でも、番 組で紹介したお店の地図が画面に表示できるサービスが実験的に行われている。こ れらはいずれも、データ放送では容易に電送できない写真や地図など、重いデータを 通信経由で短時間に伝送することを可能にしたものである。このサービスを活用して、 行政情報をデジタルテレビに送り届ける実験が、2004 年 2 月から岐阜県で行われてい る。行政情報の見出し情報をデータ放送で送り届け、その詳細情報は通信経由でで きるシステムである。公共施設の利用予約などもできるように設定されていた。総務省 が実施するこの実験は、平成 17 年度も続けられる予定になっている。 3 つ目の携帯電話を利用した双方向サービスは、データ放送で関連のコンテンツを 送るタイミングだけを表示させ、そのタイミングで携帯インターネット経由により、携帯電 - 41 - 話端末に放送の関連情報を表示させるというものである。視聴者の操作が簡単なこと や放送局側で大量のデータ放送コンテンツを制作しなくてすむことから、こうしたサー ビスを模索する民放局が増えている。具体的には、番組内のクイズに携帯電話経由で 回答するという行為や、番組関連情報を携帯電話で取得できたりするサービスなどで ある。 これまでのテレビ放送は、視聴するだけのいわば一方通行のサービスであった。そ のため、現在では、テレビはただ視聴するためのものという認識が強い傾向にある。 NHK 放送文化研究所によると、各家庭のテレビ視聴時間は、4 時間を超えており、こ れは 1 日の 16%もの時間を占める計算になる。しかしながら、その 4 時間の視聴のうち テレビを視聴することだけに集中して行動している時間はあまり多くないように考えられ る。それをあらわしているのが、テレビを見ながらにして何か他のことをしている「ながら 視聴」と呼ばれるものである。これは、テレビを視聴するというよりも、ただ電源を入れて おいて面白いところだけを視聴するという行動の表れである。テレビ放送が、BGM と化 しているのかもしれない。このような点を変えてくれるのが、双方向サービスであると考 えられる。双方向サービスは、テレビに対して見るだけではなく、「使う」という行為が加 わる。それにより、テレビは、ただ見るだけではなく使う電化製品へと変貌することにな る。使うという行為が加わることにより、ながら視聴ではなく、その番組を比較的集中し て視聴するようになるだろう。いわば、専念視聴へと近づくであろうと思う。これは、固定 番組への視聴率向上へとつながるひとつの要因となりえる。しかしながら、NHK 放送 文化研究所が地上テレビジョン放送事業者 128 社に対して行ったアンケート調査より、 図 2.9 から、2006 年ごろの双方向サービスを「積極的に実施している」と「多少は放送 している」を含めてもわずか 15.8%にしか満たない結果となっている。また図 2.10 より、 2010 年ごろの予測は?という質問に対しても、「積極的に実施している」と「多少は放 送している」を含めて約 50%の結果となっている。この結果が示すように、各放送局は、 双方向サービスに対してまだまだ大きな期待を持っていない部分が強いように感じる。 確かに、地上デジタル放送は開始されたばかりのサービスであり、まだまだ未知の部 分が多く、大きくサービス利用へ踏み切ることができないところはあるかもしれない。 図 2.11 の双方向サービスに対する経営的位置づけに対するアンケート結果を見て みると、プラスとなる結果は少なく、「経営的なプラスはあまりない」と「経営的なプラス - 42 - はまったくない」の結果を合わせると複数回答ながら約 30%になり、また、「設備投資増 など経営的にはマイナス」と挙げる放送局も 30%近くに上っている。放送局がみる双方 向サービスでは、まだまだ肯定的な意見がもたれていない現状にある。 双方向サービスとは、テレビとの関係が革新的に変化するように見えるが、それはご く 1 部の年齢層のみに偏るのではないのだろうか。テレビとは 100%に近い普及率を持 つもっとも身近な家電製品であり、最も簡単に使用できる家電製品でもある。電源を入 れ、チャンネルを選び、見る。ボタン 1 つで視聴することができ、自らの判断で番組を 選局し楽しむものである。決して機械に強いか弱いかなどは関係のない代物である。 このような手軽さがよく、また、何を気にすることもなく利用できる点に利点があると考え られる。しかし、双方向サービスが登場しても、それを利用するのは、若者などのごく一 部の年齢層に限られ、多くの高齢者は、これまでのテレビに、地上デジタル放送が利 用できるチューナーを取り付けてこれまでのようにテレビ放送を楽しむのみになると考 えられる。現状の放送サービスに大きな不満はなく、どんなに便利なサービスが登場し ようとも利用形態が複雑であると大きな利用には至らないのが現状である。このような 年代別に利用状況の2分化が表れるのではないだろうか。事実、NHK 放送文化研究 所による「地上デジタル放送視聴意向世論調査(年齢別)」(図 2.12)によると若い世代 では、地上デジタル放送を見たいと答える人が 60%以上の結果を残しているのに対し、 60 代以上の高齢者になると 38%と落ち込んでしまっている。逆に、女性 60 代以上は地 上デジタル放送を見たいと思わないと答える人が 57%と半数を上回ってしまっている。 このようなことは、双方向サービスの普及遅れの要因のひとつになってしまうと考えら れる。 双方向サービスの開始により、テレビがより身近になる。欲しい情報は、見ているそ の場で手に入り、参加型番組の登場により、離れた場所にいながらして自らも番組へ 参加し楽しむことができる。これらの新しいテレビ放送の楽しみ方が生まれてくる。しか しながら、現状のテレビ放送に大きな不満がないためか、双方向サービスに対してそ れほど大きな期待はもたれていなく、放送局側は地上デジタル放送の設備投資にば かり目が行ってしまっている。世間へ認知が広がるのはまだ先の話になるかもしれな い。 - 43 - ○ 全国で地上デジタルが始まる 2006 年ごろでは、御社 の双方向サービスはどうなっていると思いますか 不明 0% 積極的に実施 している 3% その他 1% わからない 11% 多少は放送し ている 13% まだ検討したこ とがない 9% まったく実施し ていない 25% ほとんど実施し ていない 38% NHK 放送文化研究所による 放送事業者 128 社へのアンケートより (出展:放送研究と調査 1 月 P.28 第 18 問) 図 2.9 2006 年ごろの自社の双方向サービス ○ 将来的(2010 年ごろ)には、御社の双方向サービスは どうなっていると思いますか。 不明 0% その他 1% 積極的に実施 している 11% わからない 19% まだ検討したこ とがない 18% まったく実施し ていない 3% 多少は放送し ている 40% ほとんど実施し ていない 8% NHK 放送文化研究所による 放送事業者 128 社へのアンケートより (出展:放送研究と調査 1 月 P.28 第 19 問) 図 2.10 将来的な自社の双方向サービス - 44 - ○双方向サービスは経営的にはどんな位置づけになるとみていますか。 1.他媒体に比べメディア価値を向上············································ 47.5% 2.新 CM 出稿開拓などで広告収入増に寄与する ··················· 11.7 3.デジタルの他特長と合わせ広告収入増に寄与 ············· 15.0 4.広告収入以外の収入増につながる ··········································· 9.2 5.CM 単価の上昇につながる ·························································· 1.7 6.視聴率向上の一つの要因になる·············································· 22.5 7.経営的なプラスはあまりない······················································· 27.5 8.経営的なプラスはまったくない····················································· 5.8 9.設備投資等増など経営的にはマイナス·································· 27.5 10.わからない······················································································· 11.7 11.その他 ································································································ 3.3 不明 ··········································································································· 0.0 NHK 放送文化研究所による 放送事業者 128 社へのアンケートより (出展:放送研究と調査 1 月 P.20 第 28 問) 図 2.11 双方向サービスの経営的位置づけ 68 20代 23 62 30代 26 60 40代 32 54 50代 33 38 60代以上 0 49 20 40 60 80 女性 60 代以上は 57% 見たいと思う 100 % 見たいと思わない NHK放送文化研究所による世論調査 (出展:放送研究と調査 7 月 P.42 図 20) 図 2.12 地上デジタル放送視聴意向調査(年齢別) - 45 - 2.3.4 地上デジタル放送の展望とその課題 これまでは、地上デジタル放送の良い部分を見てきたが、この新しい技術にはまだ いくつかの課題がある。 まず、地上デジタルのサービスをアナログ放送時代と同じエリアに変わらず届けるこ とが挙げられる。しかしながら、NHK 放送文化研究所が約 120 社の放送事業者に行っ たアンケートによると、多くの放送事業者がそれは困難なこととみている。アンケートに よると、「エリア内中継局のうち半数以上のデジタル化を 2011 年までに予定していな い」という事業者が半数以上を占めている。これは、人口比率では数%をカバーできな いという実態であり、この状況のままでは予定通りアナログ放送を停止することができ ず、強行すると地上波テレビが見られない家庭が出現してしまうことになる。このような 背景には、放送事業者の経営問題が見られる。 ○ 地上デジタル放送開始から 2011 年アナログ停波までの御 社のデジタル化投資(アナログ放送のみと比べたときの新たな 出費)の総額は実際にはどの程度になるでしょうか 不明 2% その他 3% 20億円未満 2% 20億円以上 7% 300億円以上 2% 200億円以上 150億円以上 1% 2% 100億円以上 7% 70億円以上 9% 30億円以上 15% 50億円以上 29% 40億円以上 21% NHK 放送文化研究所による 放送事業者 128 社へのアンケートより (出展:放送研究と調査 1 月 P.29 第 28 問) 図 2.13 自社のデジタル化投資の総額 - 46 - 各局のデジタル化に際しての投資額は、県域民放の平均で 50 億円以上と試算され ている。一方、2003 年 3 月期の県域民放 114 社の経常利益の平均値は約 5 億円とな っている。つまり、地上デジタルに際して県域民放は、平均しておよそ 10 年分の経常 利益を設備投資等に投入しなければならない計算になり、非常に厳しい現実が見ら れる。図 2.13 は放送事業者各社のデジタル化投資の総額に対するアンケート結果で ある。結果から見てもわかるように非常に高額な設備投資が必要であり、金銭的問題 は大きいことがうかがえる。 そのほかにも金銭的な問題がある。放送サービスが地上デジタルの普及にあまり関 係していない点である。放送事業者に対するアンケートによると、従来の番組製作コス トに加えデジタル番組の費用を上積みするという意見はごくわずかで、デジタル番組 費用を削減する、もしくは番組制作費全体を圧縮するという局が大半なのである。 上記意見のように、デジタル放送のサービスに積極的でない背景には、放送局の収 入源のひとつである広告ビジネスによる部分が大きい。ハイビジョン放送については、 直接的な広告ビジネスへの関連性は薄い。しかし、放送のマルチ編成については、広 告ビジネスが主となる民放では積極的な普及が先送りとされている。そのほか、データ 放送・双方向サービスなどについては、広告ビジネスの論理とは別に、今後の拡大が 期待できるサービスといえる。データ放送については、それ自体は広告ビジネスの大 きなマイナスとならず、新たな広告収入を得ることができるなど、収益への可能性はあ る。現在の利用はごく一部ながらも、普及に対して積極的な姿勢が見られるようである。 双方向サービスについても同様のことがいえ、新しい広告の開発や、テレビショッピン グや有料会員システムなどの広告以外の収入につながる可能性から価値を見出し始 めている。 金銭的問題が強く挙げられるが、この問題は先行投資により解決される部分もあり、 解決の糸口があるかもしれない。しかしながら、非常に高額な技術投資に放送事業者 は悩まされているのが現実である。 視聴者側の問題もある。それは、現在 4800 万世帯で使用されている 1 億台のテレビ をどうデジタルに置き換えていくかである。現在、デジタル対応テレビの売り上げが順 調であるととられている部分もあるが、それはごく一部の裕福な家庭などに見られる現 象である。また、一世帯に複数代の所有が当たり前となっている現在において、一台 - 47 - 目のテレビにのみデジタル対応テレビが利用されているというケースが多い。こちらも、 金銭面での問題である。図 2.14 と図 2.15 は放送事業者の考えている 2011 年 7 月時 点の状態である。これらのアンケート結果を見てみると、2011 年 7 月の時点では多くの 人々が地上波放送を視聴できないという予測になっている。特に、どちらの結果でもア ンケート内容に対して「わからない」と答える放送事業者が 2 割以上に上っている。こ れは、今後の予測の難しさなどをあらわしているのかもしれないが、このアンケート結 果から確実にわかるのは、2011 年 7 月 24 日の時点で、地上波放送を視聴することが できない世帯が存在するということである。これは、視聴者にとっても放送事業者にとっ ても大きな痛手であり、ぜひとも解決して欲しい課題である。 ○ 地上デジタル放送の 2011 年 7 月の時点での視聴世帯数を どう見ていますか。 不明 3% 4800万世帯 12% その他 0% わからない 25% 4200万世帯以上 19% 2400万世帯に達 しない 1% 2400万世帯以上 7% 3000万世帯以上 10% 3600万世帯以上 23% NHK 放送文化研究所による 放送事業者 128 社へのアンケートより (出展:放送研究と調査 1 月 P.26 第 4 問) 図 2.14 2011 年 7 月時点の視聴世帯数 - 48 - ○ 地上デジタル放送の 2011 年 7 月時点でのデジタル受 信機数をどう見ていますか。 不明 0% 1億台 3% その他 1% わからない 24% 9000万台以上 6% 8000万台以上 14% 7000万台以上 10% 5000万台以上 11% 6000万台以上 31% NHK 放送文化研究所による 放送事業者 128 社へのアンケートより (出展:放送研究と調査 1 月 P.26 第 5 問) 図 2.15 2011 年 7 月のデジタル受信機数 - 49 - 第 3 章 結論 テレビ視聴およびライフスタイルは、技術革新により、多くの変化をしてきた。 テレビの誕生は、気軽に楽しむことのできる映像メディアの誕生であった。音声と映 像とを楽しむテレビは、「視覚による要素」に強い魅力があり、これにより、大きな普及を してきた。 放送開始当初のテレビ受像機は、非常に高価なものであった。それを解決したのも、 技術革新によるものであった。2.1 において、放送技術の歴史をたどってきた中で、カ ラーテレビの誕生や衛星放送開始などさまざまな技術が見られた。これらのような新し い放送技術が誕生し、普及することで、開発者は、開発への資金を得てより高い技術 を作り出し提供する。これは、当たり前のような経済循環であるが、これらの経済循環 によりテレビ受像機が普及し、現在のように普及率約 100%に至る家電製品へと成長 を遂げたのである。 そして、技術革新に伴いテレビが普及していくことで、人々の生活は様相を変えてき た。それは、2.2 において、テレビ視聴の歴史をたどる中で検討してきた。そもそも、テ レビの誕生により、「テレビを見る時間」が誕生したことがライフスタイルを変化させた大 きな原因である。現在、テレビのない生活は考えられないような状況にあり、1日のテレ ビ視聴時間が4時間を超えている現状から考えても、テレビ誕生以前と現在とを比較し たライフスタイルが違っているのが伺える。顕著であったのは、生活時間の変化であっ た。1日におけるテレビ視聴時間は、睡眠、学業・仕事、家事に次いで長い時間を記 録している。これにより、生活の中でテレビを視聴する時間というものがいかに長く、多 くの生活時間を占めているのかということがわかる。 テレビを利用する中で、より便利にテレビを利用するための技術も誕生した。代表的 なのが、リモコンや家庭用 VTR である。これらの技術は、視聴の様相を大きく変化させ、 よりテレビを楽しみやすいものへとさせてくれた。 最後に、地上デジタル放送について取り上げた。これは、今後のテレビ放送を大きく 変化させると考えられる技術革新であり、すでに一部地域では利用が開始されている ものである。地上デジタル放送の開始により、テレビは、これまでよりもより多くの番組を 視聴する機会を得る。そしてそれは、視聴するという行為だけにとどまらず、コンテンツ - 50 - の利用をするという行為に発展していく。これだけが地上デジタル放送の到達点では なく、この技術は多様性を持ち合わせている。 技術革新は、視聴者の視聴行動を変化させるとともに、放送局側の編成も変化をさ せてきた。また、放送局側の編成の変化とともに、視聴者の視聴行動も変化をしてきた と考えることもできる。これからの放送は、これまでのアナログ形式のからデジタル形式 へと進化し、視聴者の視聴行動もより多様なものへとなっていくものと考えられる。この 先、テレビを利用する数多くの視聴者の 1 人として、今後の動向が気になるとともに、 テレビ放送全般についてさらに深い考察をしていきたいと考える。 - 51 - 脚注 1) 無線電信法 1915 年に施行された法律。この法律により、個人が自由に電波による無線通信を 行うことが規制されるようになった。 2) 電波管理委員会 電波の割り当てや放送局に関する事項、それまでの公益法人から特殊法人とな ったに本放送協会の役務に関する事項などをつかさどる機関のこと。 3) 有線テレビジョン放送法 日本における有線テレビジョン放送(ケーブルテレビ)の施設の設置や運営を規 律する法律である。一定の基準を満たす有線テレビジョン放送事業を営もうとする ものは、この法律に基づき、総務大臣の許可を得なければならないことになってい る。 4) テレビを超えるテレビ(参考文献を参照) P.50 より出展 5) CATV ケーブルテレビ(Cable television)のこと。ケーブルテレビとは、同軸ケーブルや光 ケーブルなどを用いて行われる有線の放送である。正式な略称としては、CATV (Common Antenna Television, Community Antenna Television :共同受信の略) が用いられる。 6) 衛星放送 人工衛星を用いて行う公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の 送信の総称である。 7) 地上波放送 テレビ開始時の放送方式は、地上局から発信される無線波によってアナログの映 像や音声信号を一斉同報するものであった。その後、有線の CATV や、衛星を利 用した BS や CS などが出現したことにより、従来のテレビを区別するため「地上波」 という言葉が加えられたものである。 8) CS 放送 CS とは、Communications Satellite:通信衛星のことで、マイクロ波帯の電波を用い た無線通信を目的として宇宙空間に打ち上げられた人工衛星である。この技術を 用いた放送のことを指す。 9) ポンチ絵 現在の漫画のことを指す。 10) 走査線 走査とは、テレビジョンやファックスなどの画像伝送技術において、画像を電気信 号(映像信号)に変換する技術の1つである。 - 52 - 簡単に説明すると、画面を縦方向に細かく分割し、分割した右端を直下の分割部 の左端につなげて1本の紐のような、1次元の信号の流れに変換する。この1本の 紐のようなものをさすのが、走査線である。 11) イメージオルシコン 肉眼に近い感度を持ったテレビ・カメラ用の高感度撮像管のこと。 12) NHK 放送技術研究所ホームページ 「テレビは進化する」より 13) NTSC 方式 NTSC とは、National Television Standards Committee の略で、アナログカラーテレ ビ放送に関する規格である。 14) 日本電信電話公社 かつて存在した特殊法人。現在の日本電信電話(NTT)グループの全身の組織。 15) ゴールデンタイム Golden time(和製英語)のことで、テレビ業界で 19:00∼22:00 の時間帯を指す用 語である。 16) 国民生活時間調査 日本人の生活時間(参考文献参照)より。NHK が、人々の生活を時間の面から捉 え、生活実態に沿った放送を行うために、1960 年以来 5 年おきに実施しているも の。 17) 世界無線主管庁会議 現在の世界無線通信会議(WRC:World Radio communication Conference)に該 当する会議。各周波数帯の利用方法、衛星軌道の利用方法、無線局の運用に関 する各種規定、技術基準等をはじめとする国際的な電波秩序を規律する無線通 信規則の改正を行うための会議。 18) GE 社 アメリカの電機メーカー。 19) TWT 進行波管のこと。通信増幅器の役割を果たす。 20) 三軸安定型 上下左右の 3 次元の方向に対してどの方向を向いてもピタッと止まって動かないよ うな制御方式のこと。 21) スピン安定型 機体自身がこまのようにゆっくり回っていることで、その姿勢を保つ役割を果たす 型のこと。 22) コード伝送方式 文字放送の伝送方式の 1 つ。ほかにパターン伝送方式などがある。 23) ハイブリッド伝送方式 - 53 - 24) 25) 26) 27) 28) 29) 30) 31) 32) 文字放送における伝送方式のこと。文字の種類・位置・表示するタイミング・文字 の色や大きさなどを「0」と「1」のデジタル信号に置き換えて、放送局から送られる。 その信号を、テレビの中に組み込まれた文字放送用のチューナーが解読し、テレ ビ画面に字幕として表示する仕組み。 VICS 道路交通情報通信システム(VICS:Vehicle Information Communication System) のこと。財団法人道路交通情報通信システムセンターが、収集、処理、編集した 道路交通情報を通信・放送メディアによって送信し、カーナビゲーションなどの車 載装置に文字や図形として表示させるシステムである。 NHK 放送技術研究所ホームページ 「テレビは進化する」より ITU-R ITU とは、International Telecommunication Union:国際電気通信連合のことで、国 際連合の専門機関のひとつである。無線通信と電気通信分野において各国間の 標準化と規制を確立することを目的としている。その中で、ITU-R は無線通信部 門を担当している。 EL EL とは、Electroluminescence:エレクトロルミネッセンスのことで、主に半導体中に おいて、電界を印加することによって得られるルミネセンスをさす。 PDP PDP とは、Plasma Display Panel:プラズマディスプレイのことで、放電による発光を 利用した平面型表示素子の一種である。 SNG システム SNG:Satellite News Gathering とは、衛星を使ったニュース素材収集システムのこ とである。 PCM PCM とは、Pulse-code modulation:パルスコードモジュレーション,パルス符号変 調のことで、音声などのアナログ信号をパルス列に変換する方法の 1 つである。ア ナログ信号を標本化・量子化し、得られた信号の大きさを 2 進の数値データとして 表現する。 MPEG Moving Picture Experts Group と呼ばれる動画のための標準規格化グループによ り作られた、動画等の標準規格の名称のこと。 QPSK PSK とは、phase shift keying:位相偏移変調のことを指し、一定周波数の搬送波の 位相を変化させることで変調するものである。その中で、QPSK(quadrature phase - 54 - 33) 34) 35) 36) 37) 38) 39) 40) 41) 42) 43) 44) 45) 46) 47) 48) 49) 50) 51) 52) 53) shift keying)は、1 回の変調(1 シンボル)で 2bit 伝送するもので位相変化を 4 値と する。 DVB-S DVB とは、Digital Video Broadcasting:デジタルビデオブロードキャスティングの略 称で、国際的に承認されたデジタルテレビのための公開標準規格である。 その中で、DVB-S とは、衛星放送により利用される規格である。 テレビ視聴の 50 年 P.16「日本放送協会報」(昭和 28 年 1 月 27 日号)より出展 同上 P.15 を参照 同上 P.121 を参照 NHK 放送技術研究所ホームページ 「テレビは進化する」を参照 テレビ視聴の 50 年 P.207 「テレビ 50 年調査」2002 年 10 月より テレビ視聴の 50 年 P.212 より テレビ視聴の 50 年 P.213 より 放送の 20 世紀 P.271 より NHK 放送文化研究所ホームページ 「4時間を超えたテレビ視聴時間」および「日 本人とテレビ 2005」を参照 NHK 放送文化研究所ホームページ 「日本人とテレビ 2005」を参照. 総務省ホームページより テレビ視聴の 50 年 P.144 より D-pa 社団法人地上デジタル放送推進協会ホームページより参照 テレビ新時代 「知っておきたい地上デジタル放送」より参照 総務省と全国地上デジタル放送推進協議会より発売される地上デジタルテレビジ ョン放送開局ロードマップの公表 放送研究と調査 1 月 P.8 より 5.1 チャンネルサラウンド スピーカーを、センター、左右、リア左右、ウーファーの最大 5.1 チャンネルを使っ たサラウンドのこと。(ウーファーは低音域の信号しか含まれていないため 0.1 チャ ンネルと数える) マルチアングル 現在、DVD-Video において使用されている技術で、1 つの場面に対して複数の映 像を収録し、ユーザーが切り替えて楽しむことができるもの。 放送研究と調査 1月 P.5 より テレビ視聴の 50 年 P.267 より - 55 - 参考文献 ・ 放送 テレビは 21 世紀のマスメディアたりえるか;桂敬一 ほか;大月書店(1997) ・ 放送の 20 世紀 ラジオからテレビそして多メディアへ;NHK 放送文化研究所;NHK 出版(2002) ・ テレビ視聴の 50 年;NHK 放送文化研究所;NHK 出版(2003) ・ テレビ新時代 知っておきたい 地上デジタル放送 ―NHK 受信技術センター編 ―;NHK 受信技術センター;NHK 出版(2003) ・ テレビを超えるテレビ 世界のデジタル放送;NHK 放送文化研究所メディア経営 部;NHK 出版(2003) ・ 放送文化 2003 冬号 「地上デジタル放送」は何をもたらすのか;NHK 出版(2003) ・ 放送研究と調査 1 月号;NHK 放送文化研究所;NHK 出版(2005) ・ 放送研究と調査 7 月号;NHK 放送文化研究所;NHK 出版(2005) ・ D-Pa 社団法人 地上デジタル放送推進協会;http://www.d-pa.org/index.html ・ NHK放送技術研究所ホームページ;http://www.nhk.or.jp/strl/ ・ NHK放送文化研究所ホームページ;http://www.nhk.or.jp/bunken/ ・ 総務省ホームページ;http://www.soumu.go.jp/ ・ 日本人の生活時間<2000>−NHK 国民生活時間調査;NHK 放送文化研究所; NHK 出版(2000) - 56 - 謝辞 本論文の完成にあたり、本研究の遂行において、ご指導、ご協力をいただいた方々 に感謝の意を表します。 本研究の遂行ならびに本研究の作成にあたって、終始ご指導とご鞭撻を賜った東 京電機大学大学院理工学研究科石塚正英教授に心から深甚なる感謝の意を表しま す。 また、同じ感性文化学研究室の川島君、平野君には、研究の運営から日程の整理 など多岐にわたってお世話になりました。 ここに厚くお礼申し上げます。 - 57 -