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7/04 - 名古屋大学経済学部・経済学研究科
2013/7/1 ミクロ経済学II(第13回) 平成25年度 名古屋大学経済学部 花薗 誠 情報の観点から見た完全競争市場 • 完全競争市場:「対称情報」の世界 財・サービスに関する情報は費用無で取得可 • 例:自動車保険の売買に関連して 1. 保険価値は契約者の特性に依存 2. 保険金発生は契約者の契約後の行動に依存 3. 保険会社のサービスは会社の特性に依存 上記情報は共有されているか? 1 2013/7/1 非対称情報 1. 隠れた行動:どれだけ「努力」するか 自動車保険の例:契約後に注意深く運転するか? 契約者が決定. 通常,保険会社には見えない. 2. 隠れた情報:財やその財を売買する当事者の特性 自動車保険の例:契約者の性格,保険会社の倒産可能性など 各当事者の私的情報. • 以下,非対称情報下の経済活動の分析. キーワード:インセンティブ設計 隠れた努力や情報を引き出すインセンティブ(誘因/動機)を, できるだけ費用をかけずに与えられるか. モラルハザード 2 2013/7/1 隠れた行動:自動車保険を例に 注意深く運転することは 1. 当事者には面倒(時間,心理的費用等) 2. 以下の条件下では,社会的に必要 (事故の社会的費用)× (注意により低下する事故確率) > (注意の個人的費用) 3. 保険会社には観察できない モラルハザード • 損害補償の充実 ⇒ 注意を怠る危険性 • 隠れた行動の成果によらず経済状況が変わらないため,行 動主が努力を行わないことをモラルハザードが生じてい るという. “サボってもバレない時,努力の成果が将来所得に影響し ないのなら,サボる方が得!” • モラルハザードを回避するには? 3 2013/7/1 モラルハザードと保険契約 • 事故確率: αH (注意しない時) αL (注意する時) αL < αH 注意するコスト: c > 0 • 保険料(一括):P 保険金(一括):Q • 事故が起きた時の所得: W1 = W – L + (Q – P) 無事故の時の所得: W2 = W – P インセンティブ設計 • 注意することが社会的に望ましい状況: cが小さく, αH -αL が大きい • 注意を払う動機(インセンティブ)の付与: (注意する時の効用) ≥ (注意しない時の効用) ⇔ αL u(W1)+(1–αL) u(W2) – c ≥ αH u(W1)+(1–αH) u(W2) • インセンティブ整合性(Incentive Compatibility)の条件とよぶ 4 2013/7/1 インセンティブ整合性 ⇔ (αH – αL)[u(W2) – u(W1)] ≥ c ⇔ u(W2) – u(W1) ≥ c/(αH – αL) > 0 ⇒ W2 > W1 • インセンティブと保険のトレードオフ: 努力のインセンティブと完全保険は両立しない • 事故時には,可処分所得が適宜低くなるように保険を設 計する必要性.(免責事項) 他の関係にみるモラルハザード • • • • 労働者と雇用者:セールスマンなど. 資金提供者(株主や銀行)と経営者. 国民と公務員. 大学教授? • プリンシパル(依頼主)-エージェント(代理人)関係: プリンシパルは業務をエージェントに委託.結果は観察不 可能なエージェントの努力と攪乱項に依存. 5 2013/7/1 インセンティブ契約 • 隠れた行動を引き出すには: 観察可能な結果に依存した報酬ルール(インセンティブ 契約)を作り, 間接的に動機づける. • 例: 保険の免責事項;事故時、一定額は当事者負担 歩合制・成果主義的賃金(セールスマンなど) 株式による報酬支払(経営責任者,執行役員など) 隠れた行動:情報精度の観点から 1. 監視の強化,情報精度の向上(人的,技術的) 例:運送の運転手の運転履歴(時間,経路,速度など)を記録する装置 の設置, 事業仕分け 2. 情報の有効利用: 相対評価;比較を通じて努力の個別情報を得る 足の引っ張り合いをする可能性あり(妨害工作) 3. チームの活用(連帯責任制): 同僚の効果:叱咤激励,助力,協力や協調など フリーライダーが出ないように注意する必要あり 6