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住育学校 2015

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住育学校 2015
これからの住まいについて学ぼう
住育学校 2015
第3回
100年持つ素材
製作
一般社団法人住まい教育推進協会
著者
川上
幸生
Contents 3 100年持つ素材
Chapter9
木材の話
Chapter10
漆喰の話
Chapter11
Chapter12
瓦の話
寿命の話
Chapter9 木材の話
木材について
木材を住宅に使用する際にはなるべく乾燥し
たものを用いたほうが良く、ただちに荷重を
受ける場合の平均含水率は20%以下にする
必要があります。乾燥の目的は強度的な機械
的強さの増進以外にも重量の軽減、使用後の
収縮、干割れ、反り、狂いの防止、腐朽の防
止、塗料、注入剤の効果増大などがあげられ
ます。木材の強度は含水率とヤング係数とい
う数値を用いて判断していきます。
含水率に関しての強度の変化は下記の図のよ
うに30%を境に含水率が大きくなるほど強度はほぼ一定となり、含水率が3
0%以下に下がって行く場合は乾燥とともに強度は増大していきます。
木材の強度的な欠点と考えられるのは節、丸身、
繊維の傾斜(目切れなど)、割れ、曲がり、ね
じれ、入皮(材中に樹皮が入りこんだもの)、
あて(色が濃く繊維素が少ない異常生長部分を
いう)、かなすじ(材中に鉱物性結晶が沈積し
たもの)などがありますが、特に節による影響
は最も大きく節のあるものと無いものでは節
の無いものを力がかかる部分には使用した方がいいと思います。ただ節の無い
木材は価格が高く、一般的には柱の見える真壁の和室には節の無い柱、大壁で
柱が見えなくなる部分には節のある柱と見えるか見えないかでどちらが使われ
るかが決められています。
樹齢100年のヒノキは、伐採された時より100年位経過した方が強度的に
強くなります。その後1000年以上かけて徐々に強度が落ちてゆきます。千
葉大学名誉教授の小原二郎氏は著書「木の文化をさぐる」の中で、 木材は伐採
後200年から300年間の間は圧縮強さや剛性がじわじわと2∼3割上昇し、
そこから緩やかに下降し始める。築1300年の法隆寺の古材は新材よりもな
お1割程度強い状態である と書かれています。
木は山で伐採されてから自然乾燥の過程で少しづつ強度を増していきます。
樹種によりその差はありますが、日本の多くの地域で木造住宅に使われる木
(檜・杉・松)は長持ちしています。それは「歴史も証明」しています。です
から、プレバブ住宅等より木造住宅は長持ちするはずです。(木以外の一般的
な建築資材は製造直後から劣化していきます)
経年変化により強度が増すという事実から考えると、木造住宅を建てれば10
0年以上持つと思うのですが、現在の住宅をみるとそうでもなさそうです。
では、何が大きく違うのか?
それは自然乾燥の木材(自然乾燥材
AD 材)か強制乾燥の木材(強制乾燥材
KD 材)という違いが大きいようです。
広葉樹
針葉樹
5%
5%
20%
30%
45%
45%
セルロース
ヘミセルロース
リグニン
微量成分
20%
30%
木材の組成
木は主に「水分」と「セルロース」(いわゆるデンプンです)をなどの組成に
より構成されています。「水分」は自然乾燥という過程で自然と抜けていきま
す。0%にはなりませんが、含水率で30%程度にはすぐに落とすことができ
ます。
そこからはあまり含水率は落ちていきません。ここからは時間を掛けて水分を
抜くことが木を長持ちさせる点で重要になります。なぜなら、木は「セルロー
スが硬化する」ことで強度を増します。短期間で強制的に水分を抜くと水分と
いっしょにセルロースも抜けてしまいます。そのような木は、経年変化と共に
劣化していきます。
長持ちさせる木を作るには、ゆっくりとした乾燥時間が必要になります。自然
乾燥材を生み出せるのは地域の材木屋さんです。
木造住宅の骨組みは木で出来ています。木は、たとえ伐採されて木としては生
きていないとしても湿気を吸ったり吐いたりすることや、伐採されてから木材
が乾燥していく事で強度が増すなどの利点がありますが、欠点は腐朽(ふきゅ
う)です。木材は腐朽菌(ふきゅうきん)やキノコが繁殖することや、バクテ
リアなどに分解される事で腐朽したり、シロアリなどの食害により耐久性にも
影響します。
木は腐朽=腐るから長持ちしないと思われるユーザーは多いのですが、時間が
経過すると木材が腐っていくのではありません。腐朽菌や昆虫等が木材を腐朽
させるのであり、その条件としては、空気(酸素)、湿気(水分)、温度、栄養
などが必要となり、どの因子が欠落しても木材の腐朽は進まないのです。とい
う事はどれかをカットすれば木は朽ちる事なく使用する事が出来ます。栄養は
木そのものが栄養源となるので無くす事は出来ないため、実際は空気、湿気、
温度をどう管理していくかになります。また、木材の腐朽の進み具合は、樹種
や使用環境によって大きく異なります。腐朽の進みにくい樹種としては、ヒノ
キやクリ、ケヤキなどが有名です。使用環境によって例えば室内では水分が、
水中では空気(酸素)が供給されにくいため、木の腐朽は進みません。ただ水
中でもフナクイムシ(船食虫)という二枚貝の仲間が付着すれば腐朽してしま
います。
建物でも床下などの地面と接する場所や外壁など雨で直接濡れる部分などは腐
朽しやすい場所ですし、キッチンやお風呂などの水回りは水道管が結露したり、
経年変化などで漏水を起こしたりして腐朽が急激に進む可能性があるので定期
的な点検が必要な部分でもあります。
腐朽菌の繁殖の条件は
1、適当な温度( 20∼30℃、25℃前後が活発である )
2、高い湿気
( 相 対 湿 度 は 高 いほ どよ い、 木 材 の 含 水率 は2 0 % 以 上、5 0 ∼ 1 0 0% が 最 も 活 発に 活 動 す る )
3、空気の供給
4、栄養分の4つであり、
腐朽しない防腐の方法は、湿気を帯びないように良く乾燥させるか、
水中に
沈め空気を遮断するなどですが住宅では新築時には地面から1m の高さまでク
レオソート油などの防腐剤を塗布する事で腐朽しない対策がとられています。
建物に使われている構造材が腐朽すると、特に地震時などには建物が非常に危
険になる恐れが大きく注意が必要です。建物の腐朽には湿気(水分)の存在が
大きく関係していて、一度湿るといつまでも湿ったままになっている部分にあ
る木材が腐朽しやすくなります。このような場所は、日当たりや風通しの悪い
廊下や建物の北側、雨にさらされる部分で外壁の地面に近い部分や、雨もりを
起こしやすい屋根裏や外壁、それに水回りや外壁の内部などの結露しやすい部
分になります。 住宅を長持ちさせるには床下の高さを確保して床下などの湿気
やすい場所の風通しを良くしたり、敷地内の排水を良くしたり、土台などの地
面に近く湿気やすい部分に使用する木材には、耐久性の高いヒノキ、ヒバの芯
持ち材などを使用するといいと思います。また腐朽しないため湿気ないような
対策はシロアリの予防にもつながります。
水回りである台所や浴室等のタイルの壁の裏側や外壁などでは、一度水分が壁
体内部に浸入した場合、乾燥が非常に遅くなり木材の腐朽を進行させるので壁
の中の見えない部分も換気が十分に行えるような構造にして、木材の乾燥をは
かることも大切です。
木材には虫がつきます。虫はたいてい木材を食べてしまいますが、木材を食害
する害虫としては次のような種類が有名です。
ヤマトシロアリ
イエシロアリ
日本全国に分布、土台など湿材の辺材を食う。
神奈川県以西に棲息、春材部を食う。被害甚大。
ヒラタキクイムシ
ラワン、ナラなど広葉樹の辺材を食う。
シロアリは枯れ木の中に巣穴を作って生活しているヤマトシロアリと、地下に
穴を掘り、木くずや土でかためられた大きな巣を作るイエシロアリの2種類が
有名です。ヤマトシロアリは表面に木くずを積み重ねたトンネルを造りながら
木を食べて移動していきます。広い面積を食べることは少なくイエシロアリに
比べて被害は少ないです。日本全国に分布していて、土台など湿材の辺材を食
べます。一方のイエシロアリは神奈川県以西に棲息しており、地中の巣の中に
女王がいて、この巣を中心にしてトンネルをあちこちに掘り、建物に食害が及
ぶ場合には大きな被害が出ます。巣を発見して摘出することによって被害の進
行をある程度止めることが出来るものの、根絶は非常に難しい厄介者です。
シロアリに侵され易い木材の種類としては、松、杉、もみの木、とうひ、か
ば、泥やなぎなどの種類があり、逆にシロアリに侵され難い木材はチーク、く
す、けやき、かし、ひばなどがあります。
シロアリ以外での木材の害虫と言えばヒラタキクイムシが有名です。このほか、
ナガシンクイ科やシバンムシ科の木材害虫やタマムシ類やカミキリムシ類など
多数います。ヒラタキクイムシは、夜に活動する体長が3∼8mm の茶褐色で
細長い昆虫です。1年に1回程度発生し、成虫になってからの寿命は3∼5週
間程度です。成虫が木から脱出する時に木粉や糞を虫孔から排出するため、食
害にあった木材の下に盛り上がった白い粉を見つけて被害に気が付くことがほ
とんどです。最近は暖房の普及によりアフリカヒラタキクイムシという種類が
増えつつあるようです。アフリカヒラタキクイムシはヒラタキクイムシより繁
殖力が旺盛で、年に数回発生し、日中に飛翔します。またアメリカヒラタキク
イムシという種類も主に関西地方で発生しており、最近国内に侵入したものだ
そうです。逆に、ケヤキヒラタキクイムシ、ナラヒラタキクイムシなどの広葉
樹の木材を加害していた種類は暖房の効いた部屋よりも、外気温に近い環境を
好むため最近の住宅での被害は少なくなってきているそうです。虫害を見つけ
るには直径2mm 程度の穴が木材の表面に空いていないかどうかを探して、穴
に殺虫剤を噴射して駆除していきます。木材表面に殺虫剤を分蒸しても穴の中
の虫を駆除する事は出来ませんが、新たな産卵を避ける効果はあるようです。
虫を防ぐ基本は、直接的には虫の建物への侵入阻止、間接的には、木材が湿ら
ないようによく換気して木材を乾燥させる事です。
効果的な防虫の方法としては、
・床下と外壁周囲の地盤に対して、防蟻剤で土壌処理をします。処理の方法と
しては、散布法、混合法、加圧注入法などがあります。
・ 床下にコンクリートを打ち、防湿をはかると共に地中からシロアリの浸入を
防止します。
・木材に対してはクレオソート油などを塗っておきます。
木材を住宅で使う際のもうひとつの心配事は、木材が燃えるという事でしょ
うか。確かに木材は燃えますが、木材の燃焼は以下のプロセスをたどります。
約160℃:可燃性ガスの発生
約260℃:口火を近づけると引火――出火危険温度
約450℃:口火なしで発火する――発火点
柱などの場合、火災時には表面が燃えますが、燃焼とともに炭化します。炭化
する事で燃焼のスピードは鈍りますのでもし万が一火事になったとしても逃げ
る時間は稼げますのであわてず迅速に避難する事が大切です。
KD材とAD材
自然乾燥材
強制乾燥材
集成材
*それぞれの木材の切り口、自然乾燥材は表面に割れが出ています。強制乾燥剤は少し色合い
が黒く木材の中心部分が割れています。集成材はいくつかの木片を接着して作られます。
KD材とは蒸気乾燥などで人工的に乾燥をおこなった構造材を表します。KD
は、Kiln
Dry (キルンドライ、乾燥炉を使用して乾燥させること)の省
略です。人工乾燥あるいは強制乾燥材といいます。ハウスメーカーでは普通に
使われている割れない無垢の柱がこれになります。木材の表面の割れを施工者
はユーザーからのクレームが来ると考えそれを不良品と判断しています。その
ため、人工乾燥は、木材表面が割れないように乾燥されています。大きなカマ
に木材をいれてフタをして加熱して、含有される水分を強制的に蒸発させます。
蒸気乾燥の方法は安価で安定した性能をもちます。人工乾燥の際に、木を切り
出した直後に炉に入れてしまうと乾燥度の異なる木材が混ざり過乾燥または未
乾燥の材料ができてしまいますので、天日乾燥として一時屋外に出した後、最
後の乾燥の行程を乾燥炉で行います。
平成12年住宅瑕疵法という法律が施工されて、120℃で処理する高温乾燥
が杉の柱などで実施され始めました。この方法では、木材に含まれるリグニン
という成分を軟化させて、乾燥の行程で木材に引っ張りの力が生じたとき割れ
を起こさないように処理します。リグニンの軟化温度は、85℃以上なので8
5℃以上の温度で、約13時間ぐらい蒸して、次に120℃の温度で24時間
処理するのが基本となります。リグニンを軟化させることは木の組織結合する
組成を破壊させ、強度の成分をなくすことになります。また、120℃という
高温での処理は木材の主成分のセルロースが糖分にかわりシロアリに食べられ
やすくなるとの話もあります。
しかし、日本の住宅は、30年で建て替えているとの現状がありますので極論
は30年持てば、良いということなのでしょうか。人工乾燥で、木の組織が破
壊されようが、木が黒くなろうが、香りが焦げ臭かろうが、間伐材を安く使う
には、当然許されることだと国も判断しているのです。
長期耐用住宅にこだわった地域の製材屋は、そのような人工乾燥ではなくて、
処理温度が50℃の低い低温除湿に変更しています。それでもやはり木材にダ
メージがある事は否めないと思うので、プロの方ならば自然乾燥材をユーザー
には提案してもらいたいと考えます。木造建築の良さはどこかと考えたとき、
節だらけの、焦げくさい、木肌の焦げた、木の自然さのない木を使うのは誰も
望まないと思います。
AD材とは自然乾燥された木材を指、自然乾燥材といいます。自然乾燥では、
内部より表面の乾燥が早く進みます。木材は乾燥すると収縮するため、表面側
がまず収縮しますが内部は未乾燥で元の体積を維持しますから表面には年輪方
向の引っ張り応力が発生し、
「ひび割れ」が発生します。このひび割れは、強度
に無関係なのですが、外観の悪さからユーザーに理解が無いとクレームになる
ので商品の価値がないとされています。強度的には蒸気での人工乾燥は自然乾
燥とも同じ強度を保っているとのデータがあります。多くの方はクレームの少
ない人工乾燥を選ばれると思いますが、データには現れない木材の乾燥の仕方
で考えれば、たとえ表面が割れたとしても、自然乾燥の方が木は生きていると
思います。厳密には樹は切られて木となり、光合成はおこなわれないので生き
ているとは言いません。木材の調湿性などは、木の組織が生きていなければお
こなえないと考えるのが普通です。自然乾燥材の表面の割れは背割りという昔
から行われてきた乾燥前に柱の見えない部分に故意に割れ目を作っておく事で
大概は解決できます。
家を長持ちさせるには私はKD材では無くAD材を使用した方がいいと思いま
す。もうひとつ集成材というものもあります。これはいくつかの木片を圧力を
かけて接着剤で張り合わせて1本の木材にするものです。中には表面に無垢材
の表面を大根の桂むきのように薄くそいだ紙のような板、単板を貼付けている
ので表面だけみても切り口をみないと解らないものがあります。完全な工業製
品ですので品質のばらつきが無く、構造の計算ができるので大きな建築物やハ
ウスメーカーさんの家でよく使われます。価格も最も高いものになります。し
かしこれはあくまで接着剤で張り合わせたものなのでいずれ外れてしまうと思
います。
住宅に使う柱の吸放湿性能(調湿効果)実験
最初にお断りしておきますがこの実験は私が大工さんからいただいた柱の木切
れ(長さ30cm)と水を張るために使用したプラスチックの衣装ケースとキッ
チンで料理を作る用のハカリで計測したあくまで夏休みの自由研究の延長線上
なので細かい数値や、確証については正確ではありませんがあくまでこういう
方向性が示されたとしてお読みくださいね。先ほど強制乾燥材、自然乾燥材、
集成材の事について書きましたが、本当に耐久性がどうなのかは何年もたたな
いと解らないと思いますので木の特性、呼吸するという部分に関して実験をし
てみました。
木の良さは質感と風合い以外にも調湿作用がある事です。湿気を吸う事で高温
多湿の日本では快適に過ごす事ができます。湿気の多い日は水分を吸収し、乾
燥している日は水分を放出して湿度を一定に保つ性質があるのです。またその
柔らかい材質は空気を多く含んでいる訳で木材の中の空気によってコンクリー
トの約2倍もの断熱性もあるのです。その反面、『縮む』『膨らむ』という性
質があり、多少の反りや割れが起こります。
新築住宅に使う柱の調湿性能がどの程度なのか、実際にサンプルを使って調
べてみました。方法は30cmの3寸5分(約10.5cm)の自然乾燥材、人工
乾燥材、集成材のサンプルを準備してそれぞれの重さを最初に計り、それを2
4時間水に付けてその後の重量の変化を調査しました。
実験の結果は水を一番良く吸ったのは自然乾燥材で浸水前を100%とすると
13%プラスの113%重量が増加しました。人工乾燥材と集成材は6%∼
8%の増加にとどまりました。これにより自然乾燥材が水分、湿気を良く吸う
事が実証されました。
その後の乾燥の進み具合ですが96時間後には全ての材で1%程度に減少、こ
れは測定の誤差程度かと思いますのでほぼ水に付ける前に戻ったのと同じ状態
かと考えられます。人工乾燥、集成材共調湿性能は低く6∼8%しかなく、対
して自然乾燥は13%で約2倍の水を含む事ができます。ただ自然乾燥材は乾
燥時に新しい割れが発生しました。この結果を大工さんにも話したのですが、
大工さんが驚いたのは人工乾燥材が水を吸わなかった事。大工さんは自然乾燥
材と同じくらいは調湿作用があると思っていたそうです。
その他の木材についての知識を書いてみると、
芯持ち材
芯材を中心に製材した(樹心を持った)材を芯持ち材(心持ち材)、樹心を持た
ない材を芯去り材(心去り材)といいま
す。芯持ち材は、四面が板目で節も出ま
すが、強度があり、過重のかかる場所に
使います。心去り材は、乾燥しても割れ
が入りにくく、柾目の面が美しいので、
見栄えの大切な場所に使います。
柾目と板目
木取り(製材)の仕方によって、板の表面に年輪が
柾目や板目になって現れます。年輪に対して直角に
挽いた面を柾目といいます。木目がまっすぐな縦縞
になります。板目は、年輪に接する方向に切るので、
木目は山形や等高線形の不規則なものとなります。
木表と木裏
木室のキメが細かく木目が
美しいため、柱などにも使
われ高級木材として親しま
れてきました。針葉樹とし
ては「強度が有る」のが特
徴です。
樹皮に近い側を木表、樹心に近い側を木裏といいます。柾目板には、木表木裏
がほとんどないため割れにくく、狂いにくいといわれています。一方、板目板
は木表と木裏がはっきりしており、乾燥すると木表側に反る傾向があります。
天井や床に板を張る場合は、表面に木表が出るように使うのが一般的です。
節
死に節
生き節
節には生節と、死節があります。枝が生きたまま包み込まれたのが生節で、木
目に溶け込んでいます。枝が枯れてから包み込まれたのは死節といいポロリと
抜け落ちることがあります。その場合は木片を埋めて補修します。木材は、全
く節の無い材は「無節」といい高級品として珍重されますが、節があっても強
度が劣るわけではありませんし、価格も安くなります。木に枝があるのが当た
り前であれば、木材に節があるのも当たり前の話です。
ヤニ
樹木がヤニを出すのは自分自身の身を守るためです。ですから雨の多い土地に
育つ木ほどヤニが多いといわれています。ヤニが多いことで知られる松は、材
に粘りがあり、強度もあります。
住宅に使われる国内の木材の種類を書き出してみると
針葉樹なら、
アカマツ、クロマツ
松は本州の北部から四国、九州、
屋久島にまで広く分布していま
す。アカマツとクロマツの区別
の仕方は、アカマツは、一般的
に海辺から離れた場所に多く、
対してクロマツは海辺に近い処
で見られ、海岸の防風林として
広く造林されています。また、
両者の間の雑種のアイグロマツと呼ばれるものもあります。
カラマツ
冬に葉が落ちる松で海抜が 1000mを超えるような場所にあります。樹形はやわ
らかいイメージですが、木材は褐色で硬質な感じがします。
檜(ヒノキ)
白い木目は寺社仏閣によく似合
い、多用されたことから高級なイ
メージが付いたのだろうと思い
ますが、年輪がはっきりとはして
いない均一で加工しやすい材料
のため、非常に多くの用途に使用
できる木材です。仏像や浴槽など
にも使われます。独特の匂いがあ
り、かんななどで綺麗に仕上げると美しい光沢が出てきます。
杉(スギ)
最近は人工造林されたものがほと
んどですが、屋久杉や秋田杉、吉野
杉などの有名な産地も多く、柾目だ
けでなく、板目や杢目などの美しい
様々な表情を見せてくれる木材の
ひとつです。匂いも良く、和菓子の
箱などを思い浮かべてもらうとわ
かると思います。割り箸から高級な天井の板まで様々な用途で幅広く使われて
いるオールラウンダーです。中心部の赤味と呼ばれる部分は水に強く腐りにく
いのでここを使うと長持ちします。
杉の赤身の写真
栂(ツガ)
モミの木と共に山の比較的低い
所で林となっている事が多く、
成長が遅いために年輪の幅が狭
いのが特徴。最近は米栂(ベイ
ツガ)が代用されていますが、
米栂は年輪の間隔が広い。関西
地方では建具の材料としてよく
つかわれました。
ヒバ、アスナロ
アスナロという言葉は明日はヒ
ノキになろうという希望を込め
た名前で、聞いたことがある人
も多いのではないでしょうか。
ヒバは能登の方ではアテとも呼
ばれています。強い匂いが特徴
で、匂いで他の樹種と区別する
ことができ、この匂いの成分ヒ
ノキチオールは養毛剤にも使わ
れていたりします。水にも強い材料ですので腐りやすい土台や風呂桶などに使
われています。
広葉樹では、
欅(ケヤキ)
日本ではもっとも重要な広葉樹
材の一つで、和風の家具を中心
として使うことがブームとなっ
ている感があります。全国に造
林されていますが、北海道には
分布していません。比較的低い
処に生育しているので、目に触
れ易く、東京都内でも並木とし
て植えられることがあり、府中のケヤキ並木などは有名です。需要が多いため、
最近は南洋ケヤキなどといって安い南洋材をケヤキらしく見せて販売していま
す。年輪の境に大きい道管が環状に配列しているため、年輪がはっきりと見え、
肌目が粗くなっています。このような組織のため、成長がよいと年輪幅が広く
なり、比重が高く重硬になり、木材の表面は光沢が目立つようになります。成
長が悪いとちょうどその逆になり、木材は軽軟になり、光沢が少なくなります。
大径になったケヤキには、こぶがあったりするため、木材の中の繊維の配列が
不規則になりいろいろな形の「もく」が現れます。美しい「もく」があると、
その化粧的な価値が高くなり高価になります。
桜(サクラ)
ヤマザクラは本州、四国、九州、
朝鮮にも分布します。サクラ類に
は、本州中部以北、北海道、南千
島、サハリン、中国東北部、シベ
リアなどに分布するシウリザクラ、
北海道、本州、四国、九州に分布
するウワミズザクラをはじめとし
て、多数の種類、品種があり、木材として利用される量は少なく、貴重な材料
となります。ヤマザクラの樹皮の内側からは桜皮と呼ばれる生薬がとれ、煎じ
て咳の薬としたり、鎮咳薬としても使われます。マカンバあるいはミズメなど
のカンバ類の木材のことをサクラあるいはカバザクラ、ミズメザクラと呼んで、
あたかもサクラ類の木材であるようにして明治時代から取り扱っていますが、
実はカンバ類は色がやや似ている程度で、材面はずっと均一で変化がありませ
んが、サクラ類はより不均一な材面をもっているため、装飾的な用途により適
しているといえます。
栗(クリ)
北海道南部から本州、四国、九州
に分布しています。福島、宮城、
岩手、島根県などには特に多いと
されています。主には食用のクリ
を採取するために植栽されていま
すが、建築用木材としても水に強
く、硬くて強度があり、しかも耐
久性が高いので高く評価されてい
ます。柱がクリで建てられている建物などもありますし、水に強いという特性
から土台などにもよく使われています。
桐(キリ)
野生のものはなく、北海道南部から南の各地に植栽されています。有名な産地
としては福島の会津桐、岩手の南部桐や新潟、茨城などです。桐は高い寸法安
定性があり、家具などによく使われます。婚礼家具の代表と言えばやはり桐の
箪笥という所でしょうか。かつては「娘が生まれたら、キリを植えて嫁入りの
ときに伐って箪笥をつくってやる」というようなことも行われていました。そ
のくらい成長は早く、短期間で木材が得られる樹種でもあります。
楢(ナラ)ミズナラ
北海道、本州、四国、九州、さらにサ
ハリン、南千島、朝鮮などに広く分
布し、日本の代表的な産地は北海
道です。広葉樹材としては日本の
みでなく、ヨーロッパにおいても
代表的なもので、フランスのルー
ブル博物館の展示品の家具のなか
には、ヨーロッパ産のミズナラの木材が使われているものがあります。最近日
本においても住宅様式の欧風化と本物指向に伴ってミズナラのもつ木材の味わ
いが見直されるようになり、ミズナラの家具の人気が高くなっているようです。
ミズナラの家具はヨーロッパでは高級用材として珍重され、北海道からも厚板
に製材して古くから輸出されています。木材の少ない日本から海外へ輸出され
た珍しい例です。
掬(ブナ)
北海道南部から本州、四国、九州に分布しています。かつてブナ類は良質材と
はされていませんでしたが、蓄積が多く、利用技術の開発が精力的に進められ
た結果、広く使われるようになりました。板目面ではゴマのような濃い色の点
となり、柾目面では帯状の模様(とらふ)となります。保存性が低く、伐採後
直ぐに薬剤処理をしないと、変色や腐朽をおこし易いのが難点です。また防腐
剤を注入しにくく、鉄道の枕木などに使用するときは、表面に刃物ですじをつ
けて注入したりします。また、乾燥によって狂いが出易い樹種です。特性とし
ては曲木にしやすい性質があり、曲木家具の代表的な樹種になります。日本の
ブナは家具として大量に用いられて現在は枯渇してしまい、熱帯材で代替しよ
うとしていますが、今でも曲木部分についてはブナが多く使われています。
木材の種類について(財)日本木材総合情報センターのウェブサイトを参考 Chapter10
漆喰の話
壁などを仕上げる事を左官(さかん)と言いますが、左官の意味を調べると、
左官とは建物の壁や床、土塀などを鏝を使って塗り仕上げる職種の事、なまっ
てしゃかんとも言うと書かれています。左官という言葉は宮中の営繕を行う職
人に四等官の主典(さかん)として出入りを許したからという説があり、実際
に左官という言葉が使われだしたのは桃山時代からだそうです。木を扱う木造
建築の職人を「右官(うかん)」と呼び土を扱う左官と対になっていました。
左官が扱う壁の仕上げの材料は多岐にわたり、また水を使わない大工の乾式工
事(かんしきこうじ)と反対に水が工事を行う時に必要な湿式工事(しっしき
こうじ)と呼ばれ区別されています。
湿式工事は乾式工事に比べ乾燥などの時間が必要で工事期間が長くなる傾向が
あり最近の家作りでは敬遠されていますが、仕上った物にはえも言われる雰囲
気があり手間がかかる分耐久性もいいのでもっと見直されるものだと思います。
湿式の壁の仕上げ材の種類を紹介すると
聚落土(じゅらくつち)
土壁の上塗りとして適した灰褐色の粘土質の土で気品ある仕上がりとなる。元
来は京都の聚楽第付近の土を指していましたが、現在ではほかの土地の土でも
聚落土とされています。色合いによって本聚落、黄聚落、白聚落などの名前が
つけられています。
色土(いろつち)
自硬性がある粘土質の土で褐色系、白系、黄系、黒系、水色系など多様な種類
があります。主に上塗りに使われ、静岡から西の地方では白土、浅葱(あさぎ)
土、黄土(きずち)、赤土などが使われています。京土と呼ばれる色土は稲荷山
(いなりやま)と呼ばれる山吹色や大阪土(赤色)京錆(きょうさび)と呼ば
れる褐色の物などがあります。
珪藻土(けいそうど)
プランクトンの死骸が海底や湖底に堆積した粘土状の汚泥で多孔質なので高い
断熱性、調湿作用、吸音性、吸臭性に優れています。昔からコンロの材料など
に使われてきましたが、粉末にした珪藻土に繊維と凝固剤を混ぜて壁仕上げ材
として使用できます。色土などを混ぜて様々な色あいが表現が出来、山砂など
を混ぜて木鏝で押さえる叩き土間にも使用できます。
色砂(いろすな)
天然の色がついた砂でその他に貝殻などの粉末も色砂と呼ぶ場合もあります。
壁に塗る場合にはニカワなどの糊と混ぜて仕上げます。
漆喰(しっくい)とは
色漆喰(いろしっくい)は漆喰に酸化鉄を主原料とするベンガラや酸化黄な
どの顔料や灰墨(はいずみ)を混ぜて着色した物で、浅葱漆喰(あさぎしっく
い)、鼠漆喰(ねずしっくい)、卵漆喰、曙漆喰などがあります。冬場は色むら
を起こしやすいので塗る際には春から秋のうちに工事を行います。また漆喰の
上塗りの上にきめ細かい漆喰に松煙(しょうえん)や灰墨を混ぜた黒いノロを
塗って仕上げた黒漆喰と呼ばれる物もあります。
土佐漆喰(とさしっくい)
高知県は土佐地方独特の漆喰で、塩焼き灰(しおやきばい)に発酵させた藁を
入れて練り、寝かせた物を使用します。5∼7mm の厚塗りを基本とし、さらに
ノロを薄く塗り、鏝で押さえて最後に雲母で磨いて仕上げる。塗った当初は淡
黄色をしていますが藁が脱色して次第に白く変化するのが特徴です。
塩焼き灰とは石灰岩を粉末にして焼いた生石灰(きせっかい)を水和させて製
造する消石灰(しょうせっかい)の事で空気中の炭酸ガスを吸って硬化し、再
び原料と同質の物にもどります。
画家のキャンバスは接着剤
私はまだ訪れた事がないのですが、ヨーロッパ諸国には教会の壁に美しい絵画
が描かれておりその美しさは多くの人を魅了しています。私も一度は実物を見
てみたいと思っています。この教会の壁に描かれた絵画の多くはフレスコ画と
いう技法で描かれています。フレスコ画はルネサンス期にも盛んに描かれ、ミ
ケランジェロの『最後の審判』などは皆さんも聞いた事があると思います。
フレスコ画のフレスコとはイタリア語で「新鮮な」という意味だそうでフレス
コ画の描き方は、まず壁に漆喰(しっくい)を塗って、その漆喰がまだ生乾き
の新鮮な間に水または石灰水で溶いた顔料で絵を描いていくそうです。やり直
しが効かないため高い技術力を必要とし、失敗した場合は漆喰をかき落とし、
もう一度やり直すという根気のいる作業で描かれています。
古くはラスコーの壁画なども洞窟内の炭酸カルシウムが壁画の保存効果を高め
た天然のフレスコ画といわれ、古代ローマのポンペイの壁画もフレスコ画だっ
たのではと考えられています。日本では高松塚古墳にも漆喰が使われています。
漆喰とはこのように絵画を描くための下地にも用いられ、本来の使用目的は古
代から接着剤として使われてきました。ローマでは日干しレンガを積む際の接
着剤として使われ、日本でもお城の建築や、現在でも屋根の瓦の棟などの固定
に漆喰が使われています。そして壁の仕上げ材料として壁に塗られているあの
美しい白い壁の材料なのです。
漆喰は、石灰(消石灰)に麻の繊維を加えて海藻(かいそう)を加えて水で塗
り混ぜたものであす。主材となる消石灰は比重や粒子の細かさによって品質が
分類され、上塗り用・下塗り用と別れています。古民家では非常になじみの深
い材料で、昭和初期から中期頃までは、左官材料として最も一般的に使用され
ていました。漆喰は水を加えて壁に塗る事から水が無くなる事によって固まる
(水硬性)と思われがちですが実は少し違います。漆喰の主成分の消石灰とい
うのは水では固まらない性質を持っています。ではどうやって固まるのかとい
いますと空気中の二酸化炭素を吸収して固まるのです。つまり気硬性と呼ばれ
る性質を持っています。水を足すのは塗りやすくするためだけなのです。ただ
気硬性の反応は固まるまで時間がかかり、石灰が固まる時間より水が蒸発する
ほうが早く、そうすると石灰がぼろぼろ剥がれてきてしまうのでそれを押さえ
るために海藻を入れて、海藻の接着成分で固定しています。やがて時間が経っ
て石灰が固まると固い漆喰壁となるのです。
最後は土になる究極のエコ材料
古民家の壁には土で作られた壁が用いられています。塗り壁、左官壁(さかん
かべ)、日本壁など様々な呼び方がされていますが最も一般的な名前は土壁(つ
ちかべ)でしょう。土壁の土はその土地や風土で特徴があり、それらを活かす
ために地域によっては室内側と外部とで土を替えたり、気候に合わせて土作り
の作業の時期も替えたりしていたようです。基本的には土に藁(わら)などを
練り込んでそれをしばらく寝かせます。藁の練り込み方も藁をそのまま切った
もの、藁をもんで軟らかくしたものなどと用途に合わせて使い分けます。
藁を練り込む目的は、壁の補強や亀裂の防止、曲げ強度の向上など壁としての
強度を向上させる補強材としての役割と、塗る時の作業性を向上させることが
あります。塗り壁材に弾力性を持たせ作業に使う鏝(こて)の伸びや鏝ばなれを良
くする働きもあり、藁による保水効果も期待できます。
この練りこみに使う藁を関西では「すさ」、関東では「つた」と呼びます。なお
藁によって土を補強する事は古くから行われており、日干し煉瓦などにも藁が
練り込まれていました。壁への塗り方は、まず竹などを材料として小舞(こま
い)と呼ばれるわら縄で固く組み上げた格子状の枠を作ります。竹にも種類が
いろいろありますが、土壁に向く竹の種類は真竹か淡竹(はちく)と呼ばれる
竹で、タケノコとして食べやすい中国から来た孟宗竹(もうそうちく)という
種類があり、日本の竹林のほとんどが孟宗竹ですが、孟宗竹は虫が付くために
土壁の材料には向いていません。竹は 4∼5 年成長したものを 10∼12 月頃の寒
い時期に伐採して使用します。組んだ木舞に土を塗っていく事を左官(さかん)
といい、片側の壁を塗り、塗り終わってからその裏側の壁を塗ります。片面を
塗り終えて残った片面を塗る事を裏返しといいます。
その後大直しといって両面をもう一度塗る4工程が基本です。さらに表面を漆
喰(しっくい)などで仕上げる場合には下塗り、上塗りなどの工程が加わり表
面を平滑に仕上げていきます。乾燥すると収縮してひび割れが入りますので乾
燥してから全体を何度も塗り直す工程が必要になります。このように完成まで
はある程度の時間がかかるのです。
ここまで手間をかけても土壁を作るのはそれに見合うメリットがあるからで、
土壁の特徴は防火性、断熱性、遮音性、吸放湿性、耐久性に優れ、高温多湿の
日本の気候風土に合うという点です。特に最近は断熱性能と調湿性能が注目さ
れ、室内は外気温の影響を受けにくく、温度と湿度の変化が一日中穏やかであ
るという事が証明されています。また、自然素材ですので健康にも良い体に害
のない材料として安心して使う事ができます。
ただ、現代よく使われるビニールクロスなどの材料と比べると、4倍以上のコ
ストアップになること、工事期間が長いのが難点でもあります。でも土壁は耐
久性も高く、最終的にはまた土に帰る訳ですから究極のエコ材料でもあります。
長い目で見ればやっぱりお得なのでもっと普及するといいですよね。
土壁のつくりかた
土壁を仕上げる工程をもう少し詳しく書きます。まず土と藁に水を加えて練り
混ぜる水合わせをおこないます。山や池の底などから採取した粘性の高い砂ま
じりの粘土に切った藁を混ぜ一定期間置いておき、それから壁に使用します。
寝かせておく事で藁が腐り、藁の繊維質が土となじんで粘りのある土になるか
らです。古い土壁は粘性が落ちているものの、新しい土と混ぜる事で再使用す
る事が出来ます。土を寝かせる期間は様々ですが、藁の発酵を促すためには低
温では難しいため「土は夏の土用を越させてから使え」と言われます。
土壁を塗る際には最終的な仕上がりの厚みを計画して柱などに仕上がりの線を
しるしてから作業に掛かります。この仕上がりの線を散り墨(ちりずみ)とい
います。普通12cm 程度の柱の場合、柱の前から 1/4 から 1/5 下がった所が壁
の仕上がりとされ、仕上がりから逆算して壁を塗っていきます。
土壁をつけるための小舞いは、柱に小さな穴を開けて間渡し竹と呼ばれる丸竹
や割った竹を 45cm から 60c 程度の等間隔で渡し、さらに一回り小さな竹で方
眼状にシュロ縄などで結んでいきます。小舞いは一般的には竹を使う事が多い
ですが、竹の代わりに木を使った木小舞下地(きごまいしたじ)や木摺り下地
(きずりしたじ)と呼ばれる 4cm 以下の幅で厚みも 8mm 程度の杉の板などを
1cm 程度の隙間を開けながら水平に間柱などに打ち付けていく下地もあります。
ただし木摺り下地の場合は土壁を作るというよりは、その上に漆喰などを下塗
り、中塗り、上塗りと3回程度塗り重ねて仕上げる左官壁の下地とする方法で
明治以降の洋風建築で用いられた施工法で、壁の内部が空洞となる場合があり
ます。
小舞い下地が完成したら、荒壁塗りが行われます。これは土壁の最下層の下地
で古民家の構造の一部となる部分でもあります。荒壁には特に粘性の高い土が
必要で、関東から東北に分布する灰褐色の荒木田土(あらきだつち)という粘
土は有名です。
古民家の場合には壁の片面にしか土壁を付けていないものもありますが、壁の
強度を考えると両面に塗られたものの方が耐震性は高くなります。両面土を塗
る事で小舞いの竹は空気に触れなくなり、腐食から守る役割もあります。
下塗り(したぬり)は仕上げが二層以上になる場合の最初に塗る層の事で下地
と強固に接着して剥がれない事を要求されます。またその後に塗る上塗りなど
の材料の接着も要求される訳ですから、櫛(くし)目や箒(ほうき)目を入れ
て表面積が増える工夫がされています。下塗りに先立ち、下地の凹凸や小さな
穴などを補修して平滑にしておく作業を付け送りなどと呼んでいます。
土や仕上げに使う漆喰は収縮の大きな材料で乾燥すると柱との間に隙間などを
生み出します。隙間を防ぐために柱などとの接合部分を帯状に塗って補強して
おく事を散り回り塗り(ちりまわりぬり)と言います。
中塗り(なかぬり)とは仕上げ塗りと、下地塗りを結ぶための目的で塗られる
もので主な目的は仕上げ塗りが普通薄く塗って仕上げられるので、表面の平滑
さの精度を高めるために塗られる工程である。通常は木で出来た木鏝(きごて)
を使い平滑に仕上げられ、寒冷紗(かんれいしゃ)と呼ばれるメッシュ状の繊
維を塗り込める事で表面の割れを防ぐ事ができる。中塗りに先立って下塗りの
補正を行う作業を特に斑直し(むらなおし)と呼んだりもします。
上塗り(うわぬり)は最終仕上げで丁寧な仕上げの場合にはさらに下付け(し
たづけ)上付け(うわづけ)と2回に分けて塗る場合もあります。中塗りが半
乾きの追っかけて塗る
追っかけ塗りと、一週間以上中塗りを完全に乾かせて
から塗る場合があります。仕上げに使う鏝は金属製の鏝で平にならしてさらに
硬く押さえつけるようにして仕上げます。漆喰などの場合にはさらに最終工程
として雲母などで表面を磨き上げて仕上げたりします。
Chapter11
瓦の話
屋根の角度と葺く材料
屋根は建物の大きさや、形状、屋根に葺く材料によって角度が変わってきます。
この屋根の角度の事を勾配(こうばい)と言います。
勾配は水平1尺(30cm)に対して垂直にどれだけ立ち上がるかの距離で表わさ
れます。例えば5寸勾配の屋根と言えば底辺が1寸(10尺)に対して垂直に5寸
上がった角度の屋根を表わします。難しく書くと、tanθ=0.5という事になり
ます。勾配が急なほど工事は難しくなりますが、雨を早く流す事が出来るので
茅葺きなどの屋根はカネ勾配と呼ばれる45度の角度を持つ10寸勾配などが使
われます。屋根の勾配が取れない緩やかな屋根の場合は、金属など継ぎ目のな
い1枚が長い屋根材で葺かなければいけません。瓦屋根の場合なら4.5寸以上の
勾配をとる必要があります。
屋根の形いろいろ
屋根は色々な形があります。日本の建築は屋根の建築であると言われるように
昔の人たちは丈夫で美しい屋根を作るために相当の努力をしてきました。
雨漏りは建物の耐久性を著しく低下させるので日本のように雨の多い土地では、
降った雨をいかに早く建物の外に排水するかが重要です。屋根の事を学ぶには、
屋根が屋根の表面を覆う葺き材と屋根の形を作る下地=小屋組み(こやぐみ)
の両方を知る必要があります。屋根の形状は屋根に降った雨を何方向に分けて
落とすかになります。
一方向に雨水を流す片流れ屋根(かたながれやね)。
二方向に流す切り妻屋根(きりづまやね)。
切り妻屋根の勾配が途中で変化する腰折れ屋根(こしおれやね)や小屋裏の換
気に配慮した越屋根(こしやね)。
四方向以上に雨水を流す寄棟(よせむね)。
屋根の頂点が1か所に集まる方形(ほうぎょう)屋根。
入母屋、錣屋根(しころやね)などのバリエーションがあります。
錣屋根の錣とは兜の鉢から垂れ下がっている首筋を守る部分を指します。棟か
ら軒先までが 1 つの面でなく途中で勾配が変わる屋根の形です。
切り妻屋根と寄棟屋根はどっちが偉いか?
よく、寄棟屋根の方がコストがかかるので上級の屋根仕上げだとする人がいま
す。確かに近年の屋根で考えると寄棟の方が上級な仕上げの様ですが、決して
切り妻屋根が劣っているわけではありません。ただ面白い事に、神社は切り妻
屋根が多く、お寺は寄棟屋根が多く使われており、東日本に多い形状でもあり
ます。
ちなみに切り妻屋根の妻という言葉、妻とは建物の中央に対して端を意味する
端(つま)が語源で、配偶者の呼び名の妻は家屋の「つまや」に居たことから
名付けられたそうで、妻という言葉は建物から実は来たのです。料理の添え物
として用いられる代表的な「刺身のつま」も同じ意味をもつそうです。添え物
という意味なんて失礼な!明日からは旦那さんには妻と呼ばせず奥様と言わせ
ましょうね。
東京とケープタウンは同じ気候?
東京の気候は温暖湿潤気候。気温の年較差が大きく夏場高温多雨で四季の変化
が明快で判りやすいのが特徴です。最寒月平均気温が-3℃以上18℃未満、最暖
月平均気温が22℃以上と定義されています。
対して一方の南アフリカにあるケープタウンの気候は地中海性気候とされ、夏
は乾燥していて日差しが強いのが特徴です。気候や風土は全然違うこの二つの
町ですが、共通しているのは緯度が同じ35度付近という事です。
緯度とは経度とともに、天体上の位置を示す座標の1つで、判り易く言えば赤道
からどれだけ離れているかということです。
東京は北緯35度、ケープタウンは南緯34度。緯度は赤道を0度とし、北極や南
極が90度となります。皆さんが思っているより日本は南にある(赤道に近い)
のです。
ヨーロッパは北緯50度付近にあるので日本の方がかなり赤道よりという事です。
アフリカなら砂漠が広がるような所ですからいかに夏が苛酷なのか……
そんな日本の熱い日差しを一身に受けて耐えているのが建物の屋根という事で
す。強い日差しだけでなく、日本の1年間の平均降雨量は 1800mm程度、多い
ところでは 4000mmにもなるそうで、毎日焼けるような太陽の光を浴びて、大
雨にも耐える屋根は縁の下ではありませんが縁の上の力持ち、頭が下がる思い
です。古民家の屋根は大量の雨を効果的に流すように勾配が付けられて、軒先
を深く出して、夏の直射日光を室内に差し込むのを防いでいます。また、軒が
深く出ることで外壁に直接雨がかかるのも防ぎ保護しています。
テリとムクリが日本の美
古民家を眺めていて屋根の端がツンっと反り上がっているのに気が付かされる
と思います。屋根のこれを軒反り(のきそり)といいます。軒反りの反り具合
がその家の隆盛を語るとも言われます。また屋根の流れに沿ってたるみを付け
たのを照り(てり)屋根、逆に流れの中央部に膨らみを持たせたのを起り(む
くり)屋根と呼ばれます。照り屋根は寺社仏閣でよく使われる形状ですがシャ
ープな印象を与えます。まるで手を広げて今にも飛び出していきそうなそんな
印象です。対して起り屋根は古民家などでも見られおおらかな曲線を描くその
姿はかわいらしくて温かみを感じます。いずれにしても高度な技術を要する屋
根の流れの形状にこだわる日本人の美意識の高さを感じずにはいられないと思
います。
瓦の三大産地
瓦は日本全国、原料の粘土を産する所ならどこでも造られていますが大量生産
の産地として有名なのは、愛知県の三河地方の三州(さんしゅう)瓦、島根県
の石州(せきしゅう)瓦、又兵庫県の淡路島の淡路(あわじ)瓦、などがあり
ます。西日本ではこの他に産地として京都、泉州、奈良、岐阜、四国等が、又
東日本では静岡、新潟、埼玉、福島等がありそれぞれの地方の特質を発揮して
います。
焼き直したら新品になる瓦の不思議
瓦というのが初めて登場したのは約 2800 年前の中国と言われています。日本に
は 588 年に百済から仏教の伝来と共に伝わったと言われています。現存する日
本最古の瓦は飛鳥時代の物で元興寺の極楽坊本堂と禅室に葺かれている瓦とさ
れています。年数が経って苔むした瓦はいい感じですが、残念ながら瓦は経年
変化により含水率が悪くなってきます。昔は水を吸わないぴちぴち肌だったの
が、年老いて水を吸うようになるのです。人間なら年老いてみずみずしいのは
いい事でしょうが、雨水から建物を守る瓦にとっては致命傷。廃棄処分される
運命なのです。でも、方法が全くないわけでは無くて、実は焼き直しといって
古い瓦をもう一度窯に入れて焼き直しをすることで新品に近い性能が蘇るので
す。これは瓦屋さんでもあまり知らない瓦の不思議です。
Chapter12
寿命の話
点検部位
主な点検項目
コンクリー
ひび割れ、欠損、沈
ト基礎立ち
下、換気口のふさが
上がり
り、錆び、蟻道等
伝統構法
蟻道、湿気、腐朽、
(木部)束
浮き独立基礎との
回り
ズレ等
点検のサイ
メンテナンスのサ
クル(年)
イクル(年)
調査重要度
60
☆
5
チェック欄
基礎
10年ごとにズレ
構
造
躯
体
☆
5
基礎からのズレ、腐
土台
土台
朽、浮き、断面欠損、
5 年ごとに防蟻処
5
理
蟻害等
大引き、根
床組
腐朽、蟻害、傾斜、
たわみ、床鳴り、振
太
動等
等の調整
20 年目にレベル
5
等調整
柱、間柱、
軸組
差
垂木、母屋、
小屋組
傾斜、断面欠損、腐
筋違い、胴
10
☆
10
雨漏り跡、小屋組の
棟木、小屋
束
☆
朽、蟻害等
接合部の割れ
ずれ、はがれ、浮き、
10 年目にズレ等
屋根
仕上げ材
割れ、雨漏り、変形
5
調整
等
屋
根
・
外
壁
・
開
口
部
等
漆喰、板張
傾斜、割れ、欠損、
り等
浮き、剥がれ等
外壁
☆
5
20 年目塗り替え
☆
3
15
3
6
☆
3
15
☆
5
20
☆
5
20
☆
5
20
3
15
3
15
3
15
割れ、欠損、浮き、
サイディン
剥がれ、シーリング
グ
の破断等
破損、詰まり、はず
雨樋
雨樋
れ、ひび、軒樋の垂
れ下がり
腐朽、雨漏り、はが
軒裏
軒天
れ、ひび割れ
屋外に面す
建具周囲の隙間、建
る開口部
具の開閉不良等
開口部
給水管
漏水、赤水、給水流
量の開閉不良等
配管設
備
漏水、排水の滞留、
配水管
臭い
器具の取り付け状
設
備
水廻り
態、がたつき、浮き
等
建具などの開閉具
可動部
合、がたつき、破損
電気部分
漏電、作動不良
異常な熱、漏電、圧
給湯器
力不足による給湯
3
15
5
20
5
15
5
15
5
15
流量の低下、錆等
仕上げ材のはがれ、
天井
傾斜、垂れ下がり、
雨漏り跡等
仕上げ材のはがれ、
内
部
仕
上
げ
壁面
陥没、傾斜、雨漏り
跡等
傾斜、摩耗、陥没、
床
床鳴り等
がたつき、破損、摩
造作家具や内部建具
耗、そり、作動不良
等
上の表は、私が教本を書かせて頂いている厚生労働省認可財団法人職業技能振
興会の認定資格「古民家鑑定士」が行なう古民家の現在のコンディションを調
査する「古民家鑑定」で鑑定書に表記をされる予防保全計画書という今後のメ
ンテナンスのスケジュール表の項目と点検のサイクルを定めた表です。
古民家を調査して、今後点検のサイクルに従って定期的な点検が必要ですし、
メンテナンスのサイクルとは大規模な工事を行なったり、交換が必要な年数を
示しています。これは古民家などの古い家の場合でしょ…新築ならもっと長く
持つのでは…
実は新築でも同じです。
どんな高性能なものにも寿命があります。寿命(じゅみょう)とは、命がある
間の長さのことであり、生まれてから死ぬまでの時間のことである。転じて、
工業製品が使用できる期間、あるいは様々な物質・物体の発生・出現から消滅・
破壊までの時間(Wikipedia より転載)です。
一般的なものの寿命は、
・コンクリート
約 100 年(コンクリートは現在川の砂ではなく、海の砂が使
われる場合が多いので私は60年程度と見ています)
・橋
約 60 年
・高速道路
60 年以下
・道路の白線
・下水道
・墓石
2∼3 年
50 年以下
100 年以上
・消防車
最長 20 年
・新幹線
約 15 年
・船舶
・飛行機
最長 50 年
約 20 年
では人間の寿命は何年でしょうか。実は人間の平均寿命の延びは凄まじいので
す。
縄文時代の寿命は最長で 30 歳、平均寿命は 12 歳。
明治時代の初期でさえ男女共に 30 台半ば。
1950 年で男性が 59.57 歳、女性が 62.97 歳
2010 年で男性が 79.59 歳、女性が 86.35 歳
公衆衛生のインフラ整備が進んで、伝染病で亡くなる人が激減したのが、平均
寿命が延びた最大の要因です。
では住宅の寿命はどれぐらいかご存知ですか。
日本の平均住宅代替周期でいくと現在は 30 年です。その多くが戦後の高度経済
成長時に建てられた住宅です。
その当時は経済復興を最優先としてスクラップ&ビルドが推し進められ質より
量が求められました。しかし、欧米諸国と比べ極端に短命であることは問題で
す。
日本は世界有数の最先端の工業国で高い技術をもっています。そんな優秀な日
本の住宅がなぜ短命なのでしょうか。技術的に無理なのでしょうか。
そこにはメンテナンスという意識が欠落しているように思います。車でさえ車
検を定期的に受けます。電化製品などは最近は使い捨てになりましたが昔は壊
れたら修理して使うという事が当たり前でした。
住宅も定期的なメンテナンスが必要という意識が少なかったり、購入時に精一
杯の借り入れを行なって後のメンテナンス費用が捻出出来なかったり、メンテ
ナンスが必要な事をプロが事前に話さない事が日本の住宅寿命の短さだと思い
ます。
例えば、古民家がなぜ残っているかということですが、長持ちするいい素材を
使っているのもありますが、昔の人たちは家を大切に守ってきました。手入れ
を怠らなかったからだと思います。古民家だってメンテナンスをしていない場
合は、朽ち果ててしまいます。今の住宅もしっかりメンテナンスをしてあげる
事。そして家造りの大切な事をしっかりと学ぶことだと思います。
その中でよりメンテナンスサイクルの長い素材、簡単な素材を選ぶとすれば工
業製品より自然素材だと思います。例えば家の外壁も自然素材の漆喰の場合は
約20年ごとのメンテナンスですが、サイディングなどの工業製品は 15 年、た
った5年と思うかも知れませんが、30年のスパンなら漆喰は 1 回の塗り替え
ですが、サイディングは 2 回目には張り替えが必要になります。金額的に見て
もこの差は大きいです。
木材と同じく自然素材の多くは経年変化で味がでます。しかし工業製品の多く
は新品の時が最も美しく、経年変化で強度が落ちていきます。
自然素材で家を建てると高く付く…たしかにコストは少し高いのかもしれませ
ん。しかし、家の寿命を30年で区切るのではなく、50年、100年、自分
たちの子どもや孫の代まで残すという考え方、また自身の寿命が80年近くあ
るのに家が30年しか持たないのであれば人生のうちに家を3回、住宅ローン
も3回組まなければならないと考えれば、自然素材のコストは高くないと思い
ます。
発行元 一般社団法人住まい教育推進協会 東京都港区北青山2-7-26 フジビル28 2階 TEL 03-6233-9157 FAX 089-967-7787 発行日
平成27 年1月30日
本書の内容についての無断転載等を禁じます
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