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2014年、保険業界を占う
~デジタルが変える保険ビジネスの有り方
ITの活用によってビジネスの変革が可能になり、あらゆる企業が次々と新しい
技術の発掘、導入に勤しんでいる。昨今は、このような新しいITを「デジタル」と
呼ぶ流れが定着しつつある。
スマートフォンに関しては弊害も指摘されているが、肌身離さず持ち歩き、時間
があれば常に使う。さらには新しいアプリをどんどんダウンロードする。こうし
てやり取りされるデータの中には、テキストベースのデータ以外に動画、音声、
そして、今後ますますいわゆるM2M(Machine to Machine)という形で、あら
ゆるモバイルデバイス(例えばウェアラブル端末)、自動車、各種家電、中には
電動歯ブラシといったものまでがGPSや各種センサーを搭載し、これらの作動
履歴のデータを通信し、クラウド上に貯めこんでいく環境というものが、私たち
渡辺 宣彦
が東京オリンピックを待ちながら生きていく時代である。このような動きが
1991年 アクセンチュア㈱入社
保険業にどのような影響を与えるのか、年頭に当たり考えてみたい。
金融サービス本部
マネジング・ディレクター アジアパシフィック 保険グループ統括
デジタル技術の評価と進展
ことを通じてビジネスのネットワーク
従 来 の パ ソ コ ン よ りも非常に身近な を拡大し、人と組織の有機結合を可能
モバイルデバイスが爆発的に普及した にしていくことであると考えている。
ことによって、ニワトリが先か卵が先
かという議論はあるものの、いわゆる
「デジタル技術」が台頭してきた。「デジ
タル」という言葉についての混乱を避
変動費化、OPEX 化を実現していくか
という段階に入っている。
デジタル技術で顧客はどう変わるか
モ ビ リ テ ィ に つ い て は、 前 述 の 通 り デジタル技術の浸透、進展によって、
デジタルの先導役を果たす領域と見て
保険業界の顧客層、マーケットにも大き
いる。
な影響があると考える。図表 2 に私が
ける意味で、図表 1 に示した通り、ここ アナリティクスに関しては、ハーバー
では「SMAC」という切り口でデジタル ドビジネスレビューでも取り上げられ
考える市場・顧客トレンドと、保険業
界のビジネスへの影響を整理してみた。
技術を整理してみる。SMAC とは、ソー
たこともあって「データサイエンティ
字を取った略語であり、弊社のリーダー
きが深いと考えているが、ビッグデー
ろう。ある生き方が主流で、他は傍流
シップ層は最近好んでこのキーワード
タの可能性が喧伝される割には具体的
という様な切り分けは既に無く、グロー
を使用している。
な活用方法に関してはかなりエキセン
バルに見れば人種、民族、宗教、性的
トリックな事例の話が多いように感じ
指向等、国内であれば性別、家族観、
ている。特に、非常にコンサバティブ
社会階層等、あらゆる切り口で細分化
ている。
バリエーションを整えていくことが求
まず、ライフスタイルの側面では、現
シャル、モビリティ、アナリティクス、 スト」というものが脚光を浴びている。 在よりもさらに多様な生き方、人それ
クラウドという 4 つの主要技術の頭文 これの位置付け、可能性は非常に奥行 ぞれの価値観が対象になってくるであ
ソ ー シ ャ ル に つ い て は、facebook、
twitter、YouTube 等 の 身 近 に な っ た な保険業界に適用して考えると、直近 された顧客に対して、フレキシブルに
SNS を置き換える形で、これらのサー ある程度限定的に見る方が良いと考え 答 え ら れ る よ う な 商 品、 サ ー ビ ス の
ビスは古くてスローすぎると感じてい
るティーンエイジャーに、もっと受け
められる。
入れられるような SNS が次々と市場に クラウドについては、保険業界でも既
入ってくるであろう。また、日本の場 に大手を含めて多数の活用事例があり、 情報量、スピードが増すにつれ、必要
合、ゲームの果たす役割が大きいと考
ファーストステージは完了している。 な情報をすぐに手に入れることができ
える。お遊びの世界でこれらを活用す
既 に、 如 何 に 活 用 領 域 を 広 げ、 高 度 るようになった顧客は、待つというこ
るステージの次は、これらを活用する
活用を図ることで、インフラコストの
13
とができず、その時点での興味をすぐ
図表 1 デジタル=「SMAC」が保険を変える
SMAC
図表 2 デジタルによる保険市場・顧客の変化
SMAC
S : ソーシャル
M : モビリティ
S : ソーシャル
市場トレンド
M : モビリティ
A : アナリティックス
A : アナリティックス
C : クラウド
ビジネスへの要求・影響
多様な生き方、
ライフスタイル
わがまま化
十人十色
バリエーション
フレキシビリティ
情報の氾濫
増し続けるスピード感 待てない消費者
短いセールスサイクル
利用可能技術、
タッチポイントの多様化
顧客情報獲得機会の増加
エクスペリエンス向上の可能性
C : クラウド
© 2014 Accenture  All rights reserved.
に満たすことを重視する。これを前向
デジタルを活用した
きにとらえれば、保険のセールスも短
Target Operating Model
オペレーション改革を実施 し た 姿 を
いサイクルで終えられるようになる可
前述の様なデジタル技術の進展、そし
イメージしている。
能 性 が 出 て く る。 そ の 一 方 で、 保 険
(Online
to Offline) を 念 頭 に 置 い た
て、顧客・マーケットの変化に確実に
デジタル技術の活用というテーマで、
会社が気をつけるべきことは、顧客が 対応していくためのモデルとして、弊社
タブレット端末の導入に取 り 組 ん で
誤った理解、判断に基づいて保険商品 で は、 デ ジ タ ル を 活 用 し た 保 険 業 の
いる保険会社は多いが、その効果はペー
を契約することである。必要も無い高 TOM(Target Operating Model)と呼ぶ
パーレス化にとどまらない。オペレー
価なブランド品などを衝動買いした罪 ものを定義した。
ション全体を俯瞰して改革を徹底すれ
悪感のような、認知的不協和(cognitive
ば、営業生産性の向上や、事務プロセ
dissonance)によるブランドイメージ 図表 3 に示すのは、その TOM の全体
ス改善に対して、従来型の施策とは比
への悪影響を排除しながら、真に商品 像であるが、そのポイントを簡潔に言
較にならないほどの圧倒的な効果が期
うと以下の 3 点に要約できる。
を必要とする顧客を見つけ出し、短い
待される。
サイクルで商品を提供していくことが ① デジタルマーケティングをフル活用
大切である。
見込顧客を認識してから証券発送まで
したリード獲得
の期間(TAT)については、不備率が限
② ダイレクトチャネルでのナーチャ りなく
0% に近付くこと、また、ニーズ
化については、保険会社に多くの可能 リング
喚起や保険設計から申し込みにつなが
性 を も た ら す と 考 え て い る。 今 ま で
るセールス過程において、顧客の面前
保険会社が手に入れることの難しかっ ③ 対面チャネルでの迅速、確実な刈り
での設計書の修正・最終化できるよう
た真の顧客理解を得る機会はますます 取り
になることから、初回あるいは 2 回目
増え、いわゆるカスタマーエクスペリ
ネット上、あるいはダイレクトチャネ 等、早い段階の面談で契約をクローズ
エンスを改革し、より高い顧客満足を
ルだけで 完結するような保険マーケ する事が可能になると考える。インター
実現することが出来るようになるであ
ティング、販売の形態は既に複数社が ネ ッ ト お よ び、 コ ー ル セ ン タ な ど の
ろう。
取り組んでおり、一定の成果を収めて ダイレクトチャネルの段階で顧客ニー
い る。 こ こ で は、 伝 統 的 な 対 面 チ ャ ズを明らかにし、コンサルティングの
利用可能技術、タッチポイントの多様
ネルを持つ保険会社が、いわゆる O2O
実施を含めた事前のナーチャリングを
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図表 3 デジタル保険の TOM(Target Operating Model)
1
契約に繋がる可能性が高い
見込み顧客(Hot Lead)の獲得
リード獲得
(Lead Generation)
ステージ
2
リード育成
(Lead Nurturing)
申込から契約における
業務プロセスの電子化
セールス活動
(Sales Process)
LG1
LG2
LN1
LN2
LN3
LN4
SQ1
SQ2
SD1
SD2
SD3
リード接触
リード獲得
リード識別
リード選別
リード育成
リード評価
案件化
検討
販売
チャネル
検討
商談開始
提案
商談
クロー
ジング
ステータス
マーケティングリソース管理
キャンペーン管理
カスタマーエクスペリエンス管理
カスタマーエクスペリエンス管理
インバウンドマーケティング
エージェンシー管理・コンテンツ管理
インバウンドマーケティング
エージェンシー管理・コンテンツ管理
メールマーケティング
ソーシャルマーケティング
求められる
機能
ソーシャルマーケティング
マーケティングオートメーション
営業への送客
営業計画
商談管理
取引先管理
パイプライン管理
顧客管理
マーケティング分析・ダッシュボード
セールス分析・ダッシュボード
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徹底的に行うことで、熟度が高まった
問い合わせに対する成約率は、圧倒的
アマゾンでリコメンドエンジンとして
リードだけを対面チャネルに送客、営
に高まることが期待できる。
活用されている「協調フィルタリング」
業生産性の飛躍的向上を実現できると
考えている。
また営業・事務領域におけるデジタル
化の推進は、従来、存在していた商品
を用いることで、引受緩和型商品等の
代替提案を行う等、デジタルの活用に
よって開かれそうな可能性は 枚 挙 に
既に SNS やキャンペーンサイトへの来
やチャネルによる事務プロセスの違い
訪などオンラインにおける接点をもっ
についても間接的に解消していくトリ
ている見込顧客や既存顧客に関してい
ガーとなるべきである。そもそもペー
えば、オンライン上の顧客動向・ビヘ
パーレスとなることおよび、不備率が ここでは、2014 年の保険をデジタルと
暇がない。
まとめ
イビアから、顧客のニーズや関心事を、 限りなく 0% となる事から、従来の営業 いう観点から書いてきたが、デジタル
データアナリティクスにより明らかに
事務プロセスにかかる事務量は 7 割~
のインパクトは今年に限らず、当分の
することで、その後、オフラインで実
9 割の削減が達成できるだろう。
間私たちの生活やビジネスのあり方を
際に顧客にあうタイミングでは、顧客
に対する一定の情報、例えば、家族構
成 や リス ク 選 好 を 踏まえた営業アプ
ローチが可能である。また、前述のよ
うに、何度となく訪問のアポを取るこ
となく、購入意欲が高まったタイミン
グで「鉄を熱いうちに打つ」事が可能
となるために、少なくとも、自発的な
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その他にも、タブレット上で動作する
アプリケーションを契約者本人が操作
しながら申し込み(告知含む)を行う
ことで、引受プロセスにシームレスに
連携し、引受・医療査定を可能な限り
自動化することができ、成立・証券発
行にかかる時間を極小化できる。また、
変え続けるであろう。デジタルの世界
は猛スピードで変化し続けており、ど
こまでの変化があるのか、誰にも分か
らないだろう。数年間のデジタルの進
展を、2020 年の東京オリンピックと
同じように楽しみにしていきたい。
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