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フランスの平等概念とパリテ CJCE 30 juin 1988, no 318/86
2006 年 12 月 3 日(日)ジェンダー法学会 シンポジウムⅡ フランスの平等概念とパリテ 関東学院大学 糠塚 康江 はじめに 「法の前の平等(権利における平等 égalité en droit)」/形式的平等 égalité formelle Ⅰ 平等原則の適用 1 第 5 共和制憲法下における憲法学説 (1) 「法の一般原則」から「憲法規範」へ 「法における平等 égalité dans la loi」 (2) 憲法院による定式化 「平等原則は、立法者が異なる事情を異なるやり方で規制することも、一般利益を理由に平等 原則に違背することも禁じていない。但し、どちらの場合にあっても、その結果生ずる取扱い の差異が、それを設ける法律の目的と密接な関係になければならない」(consid.10 in décision no87-232 DC du 7 janvier 1988) ① 事情の違いに対応する別異取扱い:「相対的平等」 ② 「一般利益」による平等原則の後退 ③ 差異主義の拒否 2 フランス的積極的是正措置(discrimination positive:DP) 「法による平等 égalité par la loi」/「機会の平等 égalité des chances」 (1) 背景:フランス型福祉国家の動揺 自律性の回復が困難な層の出現←→「均質な社会」構想 (2)平等原則との調和 cf.憲法上禁止された区別の標識(出生、人種、宗教、性) 平等原則による DP のふりわけ:「地域」による「別異取扱い」 Ⅱ 男女平等とパリテ(男女同数制 parité) 1 男女平等の到達点と限界 (1) 女性の個人としての解放 「法律は、女性に対して、すべての領域において、男性のそれと平等な権利を保障する」 (1946 年憲法前文 3 項) (2) 非差別原則の確立:「同一取扱い」 CJCE 30 juin 1988, no 318/86, Commission de Comunautés européennes c/ France (3)「一般利益」による女性に対する DP 是認:「間接差別」への予防的措置 2003-483 DC du 14 août 2003 年金改正法合憲判決 (4)性別クォータ制の否認 根拠:1958 年憲法 3 条「主権条項」 +1789 年人権宣言 6 条「法の前の平等」 ・「公務就任権」 「市民という資格は、年齢や法的無能力や国籍を理由とする除外、また、選挙人の自由や選出 された議員の独立性の保護を理由とする除外のほかは、すべての人に同一の条件で選挙権と被 選挙権を与えていること、これらの憲法的価値を有する諸原理は選挙人や被選挙人のカテゴリ ーによるあらゆる区別と対立すること、そのことはすべての政治的選挙の原則であり、とりわ けコミューン議会議員選挙についてそうであることが、帰結する」(consid.7 in décision no 1 2006 年 12 月 3 日(日)ジェンダー法学会 シンポジウムⅡ 82-146 DC du 18 novembre 1982) 2 パリテの導入 ←EU 加盟国中下から2番目の女性議員率という「スキャンダル」 (1)パリテ論争 ① 普遍主義 VS 差異主義 : 「市民」には「性差」があるのか →新たな「普遍主義」 ※女性という表象の定義は本質主義と必然的に結びつくのか? ② 「性差」は他の区別の標識とは違うのか ※女性(50/50 の存在)はマイノリティではないし、女性は男性とともに存在する。 (2)1999 年 7 月 8 日憲法改正と限界 3 条 5 項「法律は選挙による議員職と選挙によって任命される公職への男女の均等なアクセス を促進する(favorise) 」 :立法者非拘束性 4 条 2 項「政党は、法律によって定められた条件で、3 条の最終項(=5 項)で表明された原則 の実施に貢献する」 (3)パリテ実施の選挙法制と成果(参考資料) ① 男女交互名簿式比例代表制 1 回投票制 ② 6 人ユニット男女同数名簿式比例代表制 2 回投票制 ③ 男女候補者比率に応じた公的助成金額調整により政党にインセンティヴを与える方法 3 パリテの論理の適用対象の拡大:雇用分野 (1)背景:パリテ導入のための憲法改正提案の際の政府の理解←アムステルダム条約 Cf.Marschall 事件判決 (2)男女平等実現の基本的枠組み:労使間対話による直接の取り組み 1983 年 7 月 13 日 男女職業平等法(←男女均等待遇指令 76/207) →改正:2001 年 5 月 9 日ジェニソン法:職業における男女平等を労使交渉の重要テーマ化 (3)パリテの視座と男女格差解消への取り組み: 「男女の釣り合いのとれた代表」 (4)政治部門(パリテの視座:改正条項) VS 憲法院(平等原則:非改正条項) 2001-445 DC du 19 juin 2001 司法官職高等評議会組織法違憲判決 2001-455 DC du 12 janvier 2002 労使関係現代化法解釈留保付合憲判決 2006-533 DC du 16 mars 2006 男女給与平等法違憲判決 →憲法改正提案(2006 年 5 月 31 日) 34 条 11 項の後「法津は職業上のおよび社会的な責任ある地位への男女の均等なアクセスを 促進する」を挿入 おわりに――残された課題 立法の嚮導装置としてのパリテと平等原則との調和 日本への示唆 【参考文献】 神尾真知子「EC/EU と労働における男女平等とフランス」時の法令 1542 号(1997)、 「フラン スの男女職業平等関連資料」尚美学園大学総合政策論集 2 号(2005) 柴山恵美子ほか編著『EU の男女均等政策』,同編訳『EU 男女均等法・判例集』日本評論社(2004) 辻村みよ子編(東北大学 21 世紀COEジェンダー法・政策研究叢書第 1 巻) 『世界のポジティヴ・ アクションと男女共同参画』東北大学出版会(2004) 2 2006 年 12 月 3 日(日)ジェンダー法学会 シンポジウムⅡ 辻村みよ子『ジェンダーと法』不磨書房(2005) 糠塚康江『パリテの論理』信山社(2005)、 「雇用分野におけるフランスの男女平等政策」関東学 院法学 16 巻 2 号(2006) Miyoko Tsujimura et Daniel Lochak(éd.),Egalité des sexes:la Discrimination positive en question,2006,Paris 【参考資料】 (出典: 『パリテの論理』第 3 章,第 4 章) 【政治におけるパリテの制度設計と結果】 ① 男女交互名簿式比例代表制 1 回投票制 比例代表1回投票制について候補者名簿登載順を男女交互とする。名簿の構成が条件を満たしてい ない場合、届出を受理しない。これはきわめて厳格にパリテの要請を貫くものである。対象となる選 挙は、比例代表で実施される元老院議員選挙、欧州議会議員選挙、フランス領ポリネシア、ニューカ レドニア、ワリス=エ=フツナ、マイヨットの領土議会議員選挙である。 元老院議員比例選挙 100% 80% 65.1 73 60% 85.2 男性議員率 女性議員率 92.9 100 100 40% 20% 34.9 27 14.8 7.1 0 1989 0% 1992 0 1998 1995 2001 2004 選挙年 欧州議会議員選挙 100% 90% 80% 59.8 70% 56.4 70.1 60% 77.8 79 79 男性議員率 女性議員率 50% 40% 30% 40.2 20% 43.6 29.9 10% 22.2 21 21 1979 1984 1989 0% 1994 1999 2004 ② 6 人ユニット男女同数名簿式比例代表制 2 回投票制 比例代表 2 回投票制について、候補者名簿登載順 6 人ごとに男女同数とする。名簿の構成が条件を 満たしていない場合、届出を受理しない。1回目の投票でどの名簿も過半数を得られなければ、条件 を満たした名簿を対象として第 2 回目の投票が行われる。この第 2 回目の投票の名簿は修正が可能な ため、名簿間の駆け引きの余地を残すように「6 人ごと」という幅を持たせた。 「6人」という数字は、 シミュレーションの結果「6 人ごと」であればほぼパリテの効果が得られたことによる。対象となる 選挙は、人口 3500 人を超えるコミューン議会議員選挙、地域圏 (レジオン)議会議員選挙、コルシカ 議会議員選挙、サン=ピエール=エ=ミクロン領土議会議員選挙である。 3 2006 年 12 月 3 日(日)ジェンダー法学会 シンポジウムⅡ コミューン(3500人以上)議会議員選挙 100% 90% 80% 52.5 70% 74.3 60% 男性議員率 女性議員率 50% 40% 30% 47.5 20% 25.7 10% 0% 1995 2001 地域圏議会議員選挙 100% 90% 80% 52.4 70% 72.5 60% 男性議員率 女性議員率 50% 40% 30% 47.6 20% 27.5 10% 0% 1998 2004 ③ 男女候補者比率に応じた公的助成金額調整により政党にインセンティヴを与える方法 小選挙区 2 回投票制で実施される国民議会議員選挙については、政党・政治団体に対する公的助成 金の調整によって、政党・政治団体に女性の政治参画促進措置へのインセンティヴを与える。政党な いし政治団体に帰属する各性の候補者の開きが候補者全体数の 2%を超えると、当該政党ないし政治 団体に配分される公的助成金のうち、国民議会議員選挙で獲得された得票に対する配分について減額 される。女性候補者が全体の 49%を占めれば減額されない。海外領土の場合は、各性の候補者の人数 の開きが 1 名を超えたときに減額の対象となる。減額率は、一方の性の候補者の比率と他方の性の候 補者の比率との差の半分に等しいものとする。例えば一方の性の候補者の比率が 45%、他方の性の候 補者の比率が 55%であるとき、その差は 10%であるから、減額率はその半分の 5%ということになる。 極端な場合、ある政党が同一の性の候補者を 100%擁立したとき、公的助成金は半分に減額される。 国民議会議員選挙 100% 90% 80% 70% 60% 50% 94.7 94.1 94.3 93.9 89.1 87.8 男性議員率 女性議員率 40% 30% 20% 10% 0% 5.3 5.9 5.7 6.1 1981 1986 1988 1993 10.9 12.2 1997 2002 4