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見る/開く - 茨城大学

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見る/開く - 茨城大学
ROSEリポジトリいばらき (茨城大学学術情報リポジトリ)
Title
花の開閉運動の教材化
Author(s)
鈴木, 昌友 / 丸山, 友一 / 長岡, 勝典
Citation
茨城大学教育実践研究(12): 113-124
Issue Date
URL
1993
http://hdl.handle.net/10109/12283
Rights
このリポジトリに収録されているコンテンツの著作権は、それぞれの著作権者に帰属
します。引用、転載、複製等される場合は、著作権法を遵守してください。
お問合せ先
茨城大学学術企画部学術情報課(図書館) 情報支援係
http://www.lib.ibaraki.ac.jp/toiawase/toiawase.html
茨城大学教育実践研究12(1993),113−124
花の開閉運動の教材化
鈴木 昌 友* ・丸山 友一* ・長 岡 勝典**
(1993年4月30日受理)
Observation on the Opening e Closing Movements of Flowers
as the Teaching Materials for Primary School Pupils
Masatorno SuzvKi, Tomoichi MARuyAMA and Katsunori NAGAoKA
キーワード:開閉運動,身近な植物,観察可能,教材化
新学習指導要領で「植物の運動」が小学校から登場し,これに適した教材が必要となっ
た。身近に生育し,誰でも見たことのある植物で開閉運動をするものに注目し,今回は花
の開閉運動について,カタバミ(カタバミ科),セイヨウタンポポ(キク科),カントゥタ
ンポポ(キク科)の3種について4月から5月にかけて観察した。カタバミは雨天は開花
しない。曇り日でも温度,照度に関係し,10℃以下,5,◎00Lux以下では開花しない。直射
日光が当ると開花する。曇り日でも20℃以上だと開花がみられた。カタバミは吊花の時刻
はおおよそ14時∼15時であった。セイヨウタンポポは13℃以上の温度になると開花がみら
れる。晴天の日は7時30分頃から急激に開花がみられ,15時頃,照度が下ると閉花する。
暗箱でおおうと約2時間後に閉花する。カントウタンポポも18℃位の温度になると開花す
る’
B晴天の日は8時30分位から開花し,セイヨウタンポポより開花の時刻は遅い。閉花は
15時から16時で,閉花の時刻はカントウタンポポ,セイヨウタンポポ共にほぼ等しい。こ
れらの現象は気象という外的条件の変化と対応しているので環境教育にもつながるものと
考える。
は じ め に
今回の小学校学習指導要領の改訂にともない’),小学校第4年次から「植物の運動」について学
習することになり,この学習に適した教材の開発が必要となっている。運動については生物体が能
動的に起す各種の動きを示すもので2),運動には生命の重要な識別的特徴もあり,動物界において
は高度に発達しているが,植物でも単細胞の細菌や藻類ではかなりの運動性をもつものが多い。高
*茨城大学教育学部 **常陸太田市立瑞竜小学校
一113一
茨城大学教育実践研究12(1993)
等植物でも膨圧運動と成長運動とが区別され,古くから知られている。小学校4年次の児童でも,
人間や他の動物の運動は容易に理解できるであろうが,植物についてはどうだろうか。一般には植
物は静的なものとしてとらえられ,もし知っているとしても特殊な植物であって身近なものではな
い。植物も運動を行っていることに気付かせるには,身近な教材で何度でも見ること(観察)ので
きる植物でなければならない。そこで筆者らは身近に存在するもので,動きのわかる植物に注目し
た。菌類や藻類の胞子,遊走子,配偶子,また原形質流動などの顕微鏡を用いなければ観察できな
い運動はさけ,今回は被子植物の開花運動について観察したのでその結果について報告する。
開花運動をする植物
今までに開花運動をする植物の例は多数知られており,Yin(1938)3),坂村(1959)4),郡場(1961)5),
柴岡(1981)6),らによって報告されている。しかしこれらの例のすべてが昼間に野外で観察できる
ものではなく,むしろ植物生理学
表1 身近に見られ開閉運動をする植物
的な研究である。身近に見られる
Nymphαeα SPP.(スイレン)
植物で開花運動の知られている植
Nymphαeαtetrαgone Georgi var.αngttstαCasp. (ヒツジグサ)
物の主なものを表1に示す。アサ
Nelumbo nuciferαGaertn. (ハス)
ガオ(一Phαrbitis 2>il Choisy)は
Oxα9is corniculαtαL. (カタバミ)
Oxαlis corymbosαDC. (ムラサキカタバミ)
短日植物で知られ,普通に栽培さ
Tarαxacurrt SPP. (タンポポ)
れているものであるが7),校庭ま
Phαrbitis Nil CHOエs. (アサガオ)
Mirαbilis Jご雄ρα1. (オシロイバナ)
たは家庭での観察では早朝4時頃
Po tulacαgrαndiflorαHoOK. (マツバボタン)
にはすでに開花が始まっており,
7観ραGesneriana L. (チューリップ)
一般的には不適である。マツヨイ
GrOCtLS spp. (クロッカス)
Mesembr:yαnthemurn Sρectabile HAW. (マツバギク)
グサ属のオオマツヨイグサ(Oen−
Stellαriα αquatica ScOP, (ウシバmべ)
otherαLαmαrckiαnαSer.)も開
Stellαria mediαVillars. (ハコベ)
花現象を観察することはできるが,
GerberαJamesonii HOOK. (ガーベラ)
Crocus satiVLtS L. (サフラン)
一般には夕方18時頃から薯が割れ
Dianthus bαrbatiLS L. (ヒゲナデシコ)
出し,20時頃までに開花が終る。
DimorphoyhecαEchlonis D C. (デモンホセカ)
Gazαniα×splendens H。,t. (ガザニア)
この植物も日中の観察には不適で
Adonisαmurensis Regel e七Raddle (フクジュソウ)
ある。スイレン属のヒツジグサ
Pαeoniα1αctiflora Pall. (シャクヤク)
EschscholziαeαlifomicαCHAM.(ハナビシソウ・カルフォルニアポピー)
(Nymphaea tetragona Georgi
Gentiαnαscαbra Bunge var.buergeri Maxim. (リンドウ)
var.αngαsta Casp.)は和名の
Zeρh:yrαnthes candida HERB. (タマスダレ)
示す通り未の刻,すなわち午後2
Helichrysurrt brαcteatum WエLLD. (ムギワラギク)
時に開花するからヒツジグサと名
Oenothera SPP. (マツヨイグサ)
付けられたものだが8),開花時間
は必ずしも一定せず,もう少し早いこともある。閉花の時間は午後6時(18時)頃で,花は3日間,
開閉をくり返す。しかし,同属の西洋スイセンは夜咲きがあり,日本産のヒツジグサとは性質を異
にする。ハス(Nelumbo nucifera Caertn.)は茨城南部から霞ケ浦周辺では栽培が盛んで,比較
一114一
鈴木ほか:花の開閉運動の教材化
的児童・生徒の眼にふれることの多い植物であるが,早朝に開花し,15時頃に花が閉じる。これを
4日闇くり返し,4日目に花弁が散る。開花の様子を見ることはできなくとも,開花している花,
閉じている花を見ることは可能であろう。
身近に栽培されているオシロイバナ(Mirabilis Jalapa L.)も古くから9)鵬開閉運動をするこ
とで知られ,日没前,4時頃に開花し翌朝9時頃にしぼみ出す,と記されている。ただオシロイバ
ナの花弁状に見えるものは蕪で,この亭亭の花とは異なる。花の開閉運動は生長運動の例として挙
げられ,温度差で起るもの(傾熱性生長運動),光度差で起るもの(傾光性生長運動)がある。さ
らに内生リズム(EndogeRous rhythm)または三日リズム(Circadian rhythm)が強く支配して,
花の開閉を続けるものも多い。
材料 と 方 法
花の開閉運動を観察するための材料として次の植物をとりあげてみた。これらはいずれも身近に
見られ,よく知られている種類である。
カタバミ Oxαlis comiculαta Linn.
カントウタンポポ Tαra:xaeum plαt:ycarJ)um Dahlst.
セイヨウタンポポ Tarαxaeum officinale Weber
観察方法
1991年4月から1993年3月にかけて茨城大学内及び附属小学校と水戸周辺に生育する上記植物の
花の開閉状態を定性的に調べた。観察対象の個体にラベルを付けてマーキングを行い,開花の様子
と気温・照度(地表から10cm上部)を計測した。開花の状態変化は固定したカメラで撮影し
A
⊂}嚢
多つ 帯
1
2
3
4
5
齢
甲”葡・− “ o一噸嘩
1 2
R 4
図エ 開花段階1∼5を示す。A:カタバミ B:タンポポ類
一115一
5
茨城大学教育実践研究i2(1993)
(Plate参照)同時に数分間,時間をきめてビデオで撮影した。開花状態を示すため開花段階を定
めた(図1)。カタバミでは開花段階1は花弁が巻き込んで完全に閉じた状態,開花段階2は花弁の
上部が離れ始めた状態,開花段階3は花弁が開き始めた状態開花段階4は花弁の上部が開いた状
態,開花段階5は花弁が後方にそり返り完全に開いた状態とした。タンポポ類の開花状態も5段階
とし,セイヨウタンポポで図示した。開花段階1は小花は閉じていて花弁の先端が互いに合着して
いる状態開花段階2は小花の先端が開き始めた段階,開花段階3は小花の先端は開き外返しだし
た状態,開花段階4は内総苞片の先端まで外返し水平状態に見える段階,開花段階5は外側の小花
は外返しそり返っている状態とした(図1参照)。
観察結果
1 予備的観察,野外に生育しているカタバミ,セイヨウタンポポ,カントウタンポポが昼間花
を開き,夜間は花を閉じているのを確認した。カタバミの場合は葉の開閉運動も行っていることを
概観した。
2 カタバミの継続観察
カタバミの生育している場合を2ケ所設定し,群落Aと群落Bにした。群落Aは地表にカタバミ
が数個体生育し,他の植物は混生していない場所であり,群落Bはカタバミの他にシロツメクサ,
10鴫Lux
隔花度
o
開花度
1量照 度
5
10
CO
5
温度
9
4
8
3e
3
6
20
2
4
10
1
4
4
3
7
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甑q駈(rktp。Ktlte一(齢。齢礁◎映.簾一一(☆
3
1
2
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一一一
8 9 IO 11 12 13 14 t5 16 17 18
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8 9 10 鷹で 12 13 14 15 睾6 雀7 18
☆☆
劇被度
・ 開照
度露点
照叙拙
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花
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度度
温 度 ○ 温度 ☆
開照
A群落における開花度 ⑭ B群落における開花度 ☆
度5講
評肱B
ダ 蝋、
1991.5,16(雨)
醐げ・
カ
図
図2 カタバミの開花度と温度・時刻
ヨ
時刻
時刻
ニワホコリ,ナズナ,ミミナグサ,コハコベなどの混生する場所である。それらA,B群落におい
て開花段階の時間変化を気温,照度の変化とともに図2∼5に示した。
雨天日の観察 図2は開花段階と温度を示したもので,図3は開花段階と照度を示したものであ
る。温度は地表の温度を測定したもので,朝8時から18時までA,B群落ともに22℃前後であるが,
開花段階は1段階であった。また開花段階と照度については照度3,000から10,000Luxであったが,
一116一
鈴木ほか:花の開閉運動の教材化
開花段階は1段階であった。雨天時にはカタバミは開花しないことが解った。
晴天日の観察 晴天時におけ.るカタバミの開花段階と温度及び照度を示したのが図4と図5であ
る。図.4ではAi群落とB群落の開花段階と温度を示してある。朝8時から18時まで測定した。 A群
落では8時には開花段階1を示して.いたが、9時を過ぎた頃から開花の様子がみられ,10時30分には
花は開花段階5を示した。その時刻の温度は23∼28℃の間を上下するが開花段階は5で,花は完全
温慶
誕
1
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度度
花
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8
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時刻
ig91.5.13(晴)
A群落開花度 ⑭ B群落開花度 ☆
照度○『 照度☆
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12:00 13:00 14二〇〇 圭5:00 16二〇〇
晴れ
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図5 カタバミの開花と照度。時刻との関係
関
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暗む
9/11
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晴れ
図6 カタバミの開花・閉花時刻と天気との関係
○開花 ☆閉花繋iiiiiii開花時間
一117一
茨城大学教育実践研究12(1993)
に開いた状態を示していた。14時を過ぎた頃から徐々に段階4を示すようになり16時には開花状態
になり,段階1と変化した。群落Bは朝8時から9時にかけては群落Aと同様開花段階1を示して
いたが,その状態は11時頃まで続き,11時を過ぎてから開花運動を始め12時には段階4を示し,13
時には完全に花が開いていた。その後14時を過ぎると徐々に閉じはじめたが,この現象は群落Aと
同様であった。温度は群落Bでも変化がみられたが,20∼30℃の間で上下し,A群落よりもやや高
い温度を示す時間帯(14時∼16時)も観察された。両群落ともに開花のパターンは似ていると考え
られる。
照度と開花段階を図5で示す。A群落では朝8時30分頃までは開花段階1であったが9時を過ぎ
ると開花現象がみられ,10時から13時頃までは開花段階5を示した。その後14時頃から徐々に閉花
しはじめ15時を過ぎると花は閉じた。照度も朝から昼にかけて上昇し,日中多少の変化は認められ
たが50,000Lux以上を示し,その後15時頃には10,000Lux内外に変化した。 B群落でも10時過ぎか
ら開花段階が上り,11時頃には開花段階5を示した。14時を過ぎる頃から閉花し出すことはA群落
と同様であったQ
図6は季節を異にして6月末から9月中頃までのカタバミの開花時間,閉花時閤と観察日の天気
を示した。晴天の時は朝9時頃から開花しはじめ13時を過ぎると閉花の様子が見られ出すことを示
している。開花期間は5月上旬から9月下旬までにおよぶ。開花期の長い植物といえよう。
照 度
1e’ Lux
10
照 度
淵
窪
覆
鷲
10ぐ Lux
10
9
9
40
B
40
7
30
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4
”A
一//
い ♂一。B
7
30
6
20
4
5
5
3
10
8
3
10
2
1
2
1
6:30 7:00 7:30 8:00 8SO 9:00 9:30 10:00
6:30 7;OO 7:30 S:oo e:30 9:00 9;30 to:oo
図7 カントウタンポポの開花
e速さと照度との関係
時刻
図8 セイヨウタンポポの開花
e速さと照度との関係
1991. 4 .28
1991. 4 .28
カントウタンポポの1頭花の直径 ⑳
セイヨウタンポポの1頭花の直径(A盆花・B頭花) ⑭
照度 ☆
照度 ☆
3 タンポポ類の継続観察
セイヨウタンポポとカントウタンポポの生育している場所を選び,その開花運動を記録した。
一般に野外でタンポポ類が何時頃開花を始めるのか,地域やその生育環境による差も考えられる
が,水戸市の草原内に生育するカントウタンポポについて,時刻と野花の直径 照度について記録
してみた。晴天の朝,開花しそうなカントウタンポポを選び,30分おきに,頭花の直径を測定し,
同時に照度を測定した。7時30分位までは照度は3,000から5,000Luxであったが8時頃から上昇し
一118一
鈴木ほか:花の開閉運動の教材化
mm 5e
照度
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78910桐2可31415161718
1:9B 穐9 鴫0 9溺 eo9 鴨⑪
時刻
図9カントウタンポポ・セイヨウタンポポ
図10 カントウタンポポとセイヨウタンポポ
の開花と照度・時刻との関係 1991。5.2
の開花時刻と速さ 1990.4.30
カントウタンポポの1頭花段階 ⑳ 照度 ○
セイヨウタンポポの1頭花段階 ☆ 照度 ☆
Aカントウタンボポ Bセイヨウタンポポ
7,000から10,000Luxになり,9時30分近くになって急激に上昇し60,000から70,000Lux近くになる。
それと関連してカントウタンポポの野花も開き,9時30分位からは完全に開き終る形となった。8
時附近から9時30分頃までに徐々に開花していく現象がみられた(図7)。
セイヨウタンポポの場合は同じ環境同じ地域においてカントウタンポポよりもやや早く反応し,
7時頃から開花運動が見られ7時30分頃から8時頃に急激に開花した。8時過ぎると開花は完了す
る。この現象は別な二つの個体の野花(A頭花,B頭花)においても同じような反応を示している
ことから,カントウタンポポよりもセイヨウタンポポの方が,時刻的にやや早い反応を起すことが
解る(図8)。約1時間から1時間前山セイヨウタンポポの方が早く開花する。
1日継続観察では,朝8時から9時までには両方のタンポポは開花が完了する。その後,セイヨ
ウタンポポの生育している場所の照度が変化し10,000Luxから70,000Luxの範囲で変る。13時過ぎ
てから日影が作られ出すと照度に変化が見られ,それと関連してセイヨウタンポポの閉業現象が見
られ出した。15時を過ぎると開花段階で1を示した。カントウタンポポの場合,9時頃に開花は完
了し,その後,15時頃まで開花段階5を示したが,その頃天候が曇り出し照度が20,000Lux近く
に下り出した。それに伴って開花段階も4を示すようになった。15時から16時には両方のタンポポ
において閉花現象が見られた。また照度が下ってくると,もう少し早い時刻でも閉花が見られるこ
とが観察された(図9)。この点に注目して1993年4月,暖かい日を選んで開花しているセイヨウ
タンポポに,13時に,内側を黒くぬった段ボーール箱でおおいをして2時間後,3時間後に観察した
所2時間後の個体は40%,3時問後の個体は90%も花が閉じていた。従って,照度が関係している
ことが解る。天候によっても開花は左右され,雨の臼はタンポポ類の開花は見られなかった。
頭花の大きさは一般に生育しているセイヨウタンポポとカントウタンポポでは無作為に抽出して
測定するとセイヨウタンポポの方が大きい測定結果が得られているが17),株の大きさを合わせるよ
うにしてセイヨウタンポポとカントウタンポポの頭花を測定してみると,カントウタンポポの方が
やや大きい結果が出た(図10)。この点については再度調査をする必要があるので今後の問題とし
一119一
茨城大学教育実践研究12(1993)
たい。
察
考
1 カタバミについて
カタバミの花の開閉運動は柳沢12),0.Tamakai3),らがすでに報告しているように,植物生理学的
には二日リズム(サーカディアンリズム)によって開閉していることは考えられる。しかし小学校
4年忌が植物の運動を観察する場合,咲いていた花がしぼんだ,閉じていた花が開いたという現象
を身近な野外で見ることが出来ればいい。その材料としてカタバミは優れていると言えよう。柳
沢’2)が指摘したように雨天日には開花しない。しかし柳沢らの見解と異なって,曇りの日でも開花
がみられた。柳沢らはムラサキカタバミを用いているので,野生種のカタバミと多少性質を異にし
ているかも知れない。開花しなかった雨天日の照度は5,000Lux以下,温度10℃前後で,その状態
がi日中続いた。曇りの日で温度が上らない場合には開花は見られない,直射日光が当り出すと開
花をはじめるが,その時の照度は5月で20,000Lux以上である。直射日光が当らなくとも,温度が
25℃以上に上昇すると開花していることが観察された。カタバミの花の開花には傾熱性と傾光性が
あるのではないかと考える。カタバミの花が閉じ始める時刻は,開花時刻や開花時間に関係なく13
時頃から14時頃である。15時には閉乱しているものが多い。従って下校時前に小学4年生が観察す
ることはできよう。開花時刻も8時から10時頃で,照度が上れば開花し,照度が下れば閉花してい
く。個体にラベルを付けて観察すれば,開花と二二の状態を見ることは容易である。また開花期も
長く春から秋の初めまで花が観察できる。花が小さい,という意見もあるが,小学生にとって小さ
い花とは,どれ位までを言うか。肉眼で見て花が咲いている,花が閉じているということが理解で
きれば,運動するという見方につながるものと考えられる。生理的な性質にまで言及する必要はな
いと考える。
2 タンポポ類について
タンポポ属(Tarαxαcum)は世界の温帯,亜寒帯に分布し,特に北半球に多い植物である。世
界に約70Pt’4)が生育している。日本では北村’5),大井’6)によって22種4変種が記載されている。茨
城県では6種7)が報告されているが,その分布は,県北地域はエゾタンポポが見られ,県西地域に
はシロバナタタンポポが生育している。カントウタンポポは山野の草原や開発されていない平地に
見られ,セイヨウタンポポは全域に見られる。タンポポ類の教材化については多くの論文があるが,
鈴木ら18)はカントウタンポポの1頭花当りの小花数は平均133個,セイヨウタンポポ1頭花当りの
小花数は平均228個であることを数えている。頭花の直径はカントウタンポポで平均4.5cra,セイヨ
ウタンポポで平均5.5cmで今回の観察とは逆になっている。
Tanaka19),田中2e)タンポポの花の開閉運動を,温度変化や概日リズムが関係し,傾光性生長運動
だけではないことを述べているが,一定温度(20℃位)以上になっている場合,暗箱をかけて観察
したように,2∼3時間後に花が閉じることから照度が関係しているものと考える。主因は光の強
弱の変化であろう。晴れた日や曇りの日は開花するが,雨天日には開花しない。田中はシロバナタ
ンポポ,セイヨウタンポポ,カンサイタンポポでは,より低い温度では,温度の上昇に反応して開
一120一
鈴木ほか:花の開閉運動の教材化
花する傾熱性があり,より高い温度では光に反応して開花する傾光性のあることを指摘しているが,
今回の観察でもこの見解を支持する結果であった。水戸地域でもセイヨウタンポポの方が開花時刻
が早いことから植物に内在する生理的性質が異なることが解り,生物と環境について考える素材に
もなり得ると思う。セイヨウタンポポは13℃以上の,カントウタンポポは18℃以上の温度が開花に
必要な温度と思われる。セイヨウタンポポは朝7時頃から開閉運動が見られ,カントウタンポポは
8時30分頃から急激に花が開く。開花時刻の早いのは前述の温度とも関係するものと思われる。
曇り日の開花時刻は晴天時より遅い。開花時間は水戸地域ではセイヨウタンポポで8∼11時間,カ
ントウタンポポは9時間位で,田中21)のいうセイヨウタンポポが13∼14時間,カンサイタンポポで
8∼11時間よりは短い時閤になる。しかしこれは地域差が原因であり,気候の問題も関係して来る。
むしろこのような事を環境教育に導入していきたい。自然状態で開花する現象を見るには,30,000
Lux内外の照度があり,16℃以上の温度が測定されるような時期,時間になると開花の観察はしゃ
すいと推測する。
3 教材化する上での問題点
今まで植物の運動を扱う学年は中学校や高校でのみ挙げられ,それも葉の就眠運動,花の開閉運
動,つる巻運動,オジギソウの接触運動,食虫植物の閉葉運動などであるが,今回小学校4年生で
扱う内容1)として「(1>身近な植物を探したり育てたりして,植物の運動や成長と環境とのかかわり
を調べることができるようにする。ア 植物の運動や成長は,天気や時刻などによって違いがある
こと」とある。すなわち,低学年に植物の運動を扱わせること,植物の運動と生育環境とのかかわ
りに着目するという観点がある。植物生理学上の問題点を学ぶためのものではない。野外での観察
では天気という外的条件の変化と直接的に対応しているので,植物も環境が変化するのに反応しな
がら生活を営んでいることに気づかせることが大切である。カタバミ,セイヨウタンポポ,カント
ウタンポポは都市化された校庭にも市内でも,また原野でも見ることができる。開花する現象閉
じる現象を見ることは時間的な制約もあって授業中に観察できないこともあるが,対象植物にラベ
ルを付けることによって開いていた,閉じていたは解るし,理科器材としてビデオを取り入れるこ
とも可能であろう。
注
1)文部省『小学校学習指導要領』(大蔵省印刷局,1989).
2)山田常雄,前川文夫,江上不二夫,八杉竜一,小関治男,古谷雅樹日高敏隆『生物学辞典』第2版(岩
波書店,1977),p.94.
3) H.C.Yin “Diaphotoropic movement of the leave$ of Molva neglecta.” Amer. Jour. Bot .
25 (1938), 1−6.
4)坂村 徹『植物生理学下巻』(裳華房・1959)・P・ 468・
5)郡場 寛『植物生理生態』(養賢堂,1961),p.403.
6)柴岡孝雄i『UPバイオロジー44動く植物』(東京大学出版会,1981)。
7)滝本敦『ひかりと植物』(大日本図書,1973),pp.94−120.
一121一
茨城大学教育実践研究12(1993)
8)牧野富太郎『新日本植物図鑑』(北隆館,1961),p.ユ64.
9)貝原益軒『花譜』(1698).
10)員原益軒『大和本草』(1708).
11)飯沼慾斉『草本図説』(1856).
12)柳沢新一「ムラサキカタバミにおける傾光性」『植物学雑誌』46.Nα 2,(1971)p.64.
13) O.Tanaka,H.Murakami,H.Wada,Y.Tanaka & Y.Naka,“Flower OpeRing and Closing of
Oxalis martiana” Bot. Mag. Tohyo 102,(1989) pp.245−252.
14)A.Engler, S:ソllabus der pflanz2enfamilien ll(GebrUder Borntraeger,1964), P.496.
15) S.Kitamura,“Cornposkae japonicae Pars sexta” Mem.Coll.Aci. Univ.Kyoto Ser. B24,
Ne.1 (Biolgy), (1954), pp.1−42.
16)大井次三郎『新日本植物誌』(至文堂,1992),pp.1552−1558.
17)鈴木昌友,他『茨城県植物誌』(茨城県植物誌刊行会,1981),p.295.
18)鈴木昌友,菅波洋平,申村直美「身近な生物の教材化一タンポポを例として」『教育研究所紀要』10(茨城
大学教育学部,1978),pp.21−32.
19) O.Tanaka,Y.Tanaka and H.Wada, “Photonastic and Thermonastic opening of Capitalum
in Dandelion,Taraxacum officinale and Taraxacum japonicum” Bot. Mag. Tpkyo 101,
(i988), pp.103.
20)田中 修「タンポポの花の開閉運動」『生物教育』28巻 3.4号(1988),pp.169−172.
21)田中 修「タンポポの頭花の開閉は傾光性によるのか」『採集と飼育』50巻No, 3(1988), pp.118−121.
一122一
鈴木ほか:花の開閉運動の教材化
Pl.1 カントウタンポポの開花(水戸市茨城大学構内 1gge.4.25晴)
A:7時10分
B:8時00分
C:8時20分
D:8時40分
E:9時00分
F:9時30分
123
茨城大学教育実践研究i2(1993)
脇
麟
A
撫
鹸
。
もへ
/
ゆ
矯
隆
茎
飾
3
Pl.2 カントウタンポポの開花(水戸市三の丸.附属小学校 1991.5,2晴)
A
:7時00分
B:7時40分
c
E
:8時10分
D:8時30分
:8時40分
F:8時50分
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