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無電解めっきと電気めっきによるセラミックス上への白金厚膜析出
Title Author(s) Citation Issue Date 無電解めっきと電気めっきによるセラミックス上への白 金厚膜析出 菊地, 竜也; 渡辺, 健; 坂入, 正敏; 高橋, 英明; 丸子, 智弘 表面技術, 59(1): 51-56 2008-01 DOI Doc URL http://hdl.handle.net/2115/34637 Right Type article (author version) Additional Information File Information kikuchi1.pdf Instructions for use Hokkaido University Collection of Scholarly and Academic Papers : HUSCAP 【論文題目】 無電解めっきと電気めっきによるセラミックス上への白金厚 膜析出 ( Thick Platinum Layer Deposition on Ceramics by Electroless- and Electro-plating) 【著者名】 菊地竜也 ※ ( Ta t s u y a 、渡辺健 ※ KIKUCHI 、坂入正敏 ※ , ※ Ta k e s h i 、高橋英明 ※ WATA N A B E 、丸子智弘 ※ , ※ ※ Masatoshi S A K A I R I ※ , H i d e a k i TA K A H A S H I ※ , a n d To m o h i r o M A R U K O ※ ※ ) 【研究機関名】 ※北海道大学大学院工学研究科 〒 060-8628 北海道札幌市 北 区 北 13 条 西 8 丁 目 ( G r a d u a t e S c h o o l o f E n g . , H o k k a i d o U n i v. , N 1 3 W 8 , K i t a - k u , Sapporo, Hokkaido, 060-8628) ※※(株)フルヤ金属 西 市 森 添 島 1915 ( Furuya Metal 研究開発部 〒 308-0861 茨城県筑 下館第一工業団地 Co. Ltd., R&D Group, Shimodate Daiichi Kogyodanchi 1915, Morisoejima, Chikusei, Ibaraki, 308-0861) 1 Abstract Thick platinum metal layer was deposited on ceramics using electroless- and electro-plating. The ceramics, which consist of ZrO2, Al2O3, SiO2, Na2O, and other oxides, were etched in HF electroless N2H4 as a solution, plating and solution reducting then immersed containing regent. The in a platinum Pt(NH3)2(NO2)2 mass of the and ceramics specimen slightly decreased with the electroless plating time and then increased at a rate depending on temperature, but independent of Pt2+ concentration. Tw o µ m t h i c k p l a t i n u m layer could be deposited uniformly on ceramics by electroless plating for 14.4 ks at 323 K. Electroplating of platinum in Pt(NH3)2(NO2)2 solution after electroless plating caused the f o r m a t i o n o f s e v e r a l t e n s µ m t h i c k p l a t i n u m l a y e r, a n d m a n y cracks were formed on the platinum layer after long period of electroplating. 2 要旨 無電解めっきと電気めっきにより厚い白金金属層をセラミ ッ ク ス 上 に 析 出 さ せ た 。 ZrO2、 Al2O3、 SiO2、 Na2O、 お よ び 他 の 酸 化 物 か ら な る セ ラ ミ ッ ク ス を HF 水 溶 液 中 で エ ッ チ ン グ し た の ち 、 Pt(NH3)2(NO2)2 お よ び 還 元 剤 と し て N2H4 を 含 む 白 金無電解めっき溶液中に浸漬した。セラミックス試料の質量 は、無電解めっき時間とともに若干減少したのち、温度に依 存 し て 一 定 速 度 で 増 加 し た が 、 Pt2+濃 度 に は 依 存 し な か っ た 。 323 K、 14.4 ks の 無 電 解 め っ き に よ り 、 2 µm の 厚 さ を 有 す る 白 金 層 を セ ラ ミ ッ ク ス 上 に 析 出 で き た 。無 電 解 め っ き の の ち 、 Pt(NH3)2(NO2)2 溶 液 中 で の 白 金 電 気 め っ き に よ り 、 厚 さ 数 10 µm の 白 金 層 を 形 成 で き た が 、 め っ き 時 間 が 長 く な る と 白 金 層に多くのクラックが生成した。 3 キーワード Platinum, Electroless Plating, Electroplating. 4 1. 緒言 液 晶 用 の 高 純 度 ガ ラ ス 基 板 を 作 製 す る た め に は 、ガ ラ ス を 高温で溶融し、撹拌する工程が必要である 1) 。それらの工程 に お け る ガ ラ ス の 温 度 は 1 6 0 0 K 以 上 で あ り 、溶 融 ガ ラ ス の 粘 度が極めて大きいことから、ガラス溶解槽および撹拌槽の材 料として、耐高温特性、化学的安定性、および機械的強度に 優れた白金を用いるのが一般的である。この白金槽は、耐熱 セラミックス上に白金板を貼り合わせた構造を有しているが、 耐熱セラミックスの形状に合わせて白金板を加工する必要が あり、その製造には長い時間と労力を必要とする。また、近 年の白金地金価格の高騰により、白金使用量を極力少なくす ることでコストの削減が期待できるため、セラミックス上に 均一な厚さの白金層を容易に形成する技術の開発が求められ ている。 セ ラ ミ ッ ク ス 上 に 薄 膜 白 金 層 を 形 成 す る 方 法 と し て 、ス パ ッ タ リ ン グ 、溶 射 、お よ び 無 電 解 め っ き な ど が あ げ ら れ る が 、 三次元形状を有するセラミックス槽に白金をコーティングす る手法として最も簡便なものは、無電解めっきであると考え られる。しかしながら、一般的に無電解めっきにより得られ る電析層の厚さは極めて薄いため、これに電気めっきを組み 5 合 わ せ て 数 10 数 100 µm の 厚 さ を 有 す る 白 金 層 を 形 成 す る 必要がある。 白 金 無 電 解 め っ き に 関 す る 研 究 報 告 は 極 め て 少 な い が 、塩 化 白 金 酸 ( H 2 P t C l 6 )、 塩 化 白 金 酸 カ リ ウ ム ( K 2 P t C l 6 )、 ジ ニ ト ロ ジ ア ン ミ ン 白 金 ( P t ( N H 3 ) 2 ( N O 2 ) 2 )、 テ ト ラ ニ ト ロ 白 金 酸 カ リ ウ ム ( K 2 P t ( N O 2 ) 4 )、 お よ び ヘ キ サ ヒ ド ロ キ ソ 白 金 酸 ナ ト リ ウ ム ( Na2Pt(OH)6) な ど を 用 い た 無 電 解 め っ き 溶 液 が 提 案 さ れており 2) 8) 、多 く の 場 合 、還 元 剤 と し て ヒ ド ラ ジ ン( N 2 H 4 ) が用いられている。それぞれのめっき溶液により、得られる 白 金 析 出 層 の 特 徴 は 異 な る が 、 こ の 中 で も Pt(NH3)2(NO2)2 を 用いためっき溶液は、光沢のある析出層が得られ、白金塩の 利用効率が高い特徴を持つ 9) 。 一 方 、白 金 電 気 め っ き に 関 し て は 比 較 的 多 く の 研 究 報 告 が あり、用いる白金塩のほとんどが無電解めっきのものと共通 である。代表的なめっき溶液の白金塩としては、塩化白金酸 系 ( H2PtCl6 、 K2PtCl6 ) ( Pt(NH3)2(NO2)2) 6 )、 1 3 ) 10 ) 12 ) お よ び ア ン ミ ン 錯 体 系 が あ げ ら れ る が 、 Pt(NH3)2(NO2)2 を 用いためっき溶液は、良好な光沢を持つ厚い白金電析層を形 成することが可能である 14) 。 し か し な が ら 、 Pt(NH3)2(NO2)2 を用いた無電解めっきおよび電気めっきにおける白金濃度、 溶液温度、およびめっき時間と白金析出挙動との関係を詳細 6 に報告した文献はほとんど見られない。 本 研 究 に お い て は 、白 金 無 電 解 め っ き お よ び 白 金 電 気 め っ き の 白 金 塩 と し て Pt(NH3)2(NO2)2 を 用 い 、 白 金 無 電 解 め っ き における白金析出量とめっき時間、溶液温度および溶液組成 との関係を詳細に検討するとともに、セラミックス試料に白 金無電解めっき/電気めっきの連続プロセスを行うことによ り、厚い白金析出層の形成を試みた。 7 2.実験方法 2.1 試料の前処理 白 金 め っ き に 用 い た 基 板 は 、 ZrO2、 Al2O3、 SiO2、 Na2O お よびそれらの複合酸化物からなる焼結セラミックス(厚さ 5.5mm) で あ る 。 セ ラ ミ ッ ク ス 試 料 を 耐 水 研 磨 紙 に よ り 研 磨 し た の ち 、 C2H5OH 中 で 超 音 波 洗 浄 を 600 s 行 っ た 。 そ の 後 、 一 部 の 試 料 を 11 . 5 % H F 水 溶 液 ( 室 温 ) 中 に 6 0 0 s 浸 漬 し 、 試 料表面をエッチングした。 エ ッ チ ン グ 試 料 を 0.13 kmolm-3 SnCl2 / 0.12 kmolm-3 HCl 混 合 溶 液 ( 303 K) 中 に 180 s 浸 漬 し 、 試 料 表 面 に Sn2+を 吸 着 さ せ た( 感 応 化 処 理 )の ち 、た だ ち に 試 料 を 0 . 0 2 8 k m o l m - 3 P d C l 2 / 0.036 kmolm-3 HCl 混 合 溶 液 ( 303 K) 中 に 180 s 浸 漬 し 、 試 料 表 面 に 白 金 無 電 解 め っ き の 析 出 核 と な る Pd 微 粒 子 を 還 元 析 出 さ せ た( 活 性 化 処 理 )。試 料 の 表 面 を 共 焦 点 走 査 型 レ ー ザ ー 顕 微 鏡 ( C S L M : 1 S A 2 1 、 L A S E RT E C ) に よ り 観 察 し た 。 2.2 白金無電解めっき P d 析 出 試 料 を 、P t ( N H 3 ) 2 ( N O 2 ) 2 お よ び N 2 H 4 を 含 む 白 金 無 電 解めっき溶液中(表1)に浸漬し、試料表面に白金を析出さ せ た 。 め っ き 溶 液 の 温 度 ( T 8 = 313 333 K) お よ び Pt(NH3)2(NO2)2 濃 度 ( CPt = 0.0039 0.019 kmolm-3) を 種 々 変 化 さ せ た さ い の 、 試 料 質 量 ( Δ W1) の 時 間 変 化 を 追 跡 す る と と も に 、 試 料 の 表 面 お よ び 断 面 を CSLM に よ り 観 察 し た 。 ま た 、 X 線 回 折 装 置 ( XRD: JDX-3500、 JEOL) を 用 い て 試 料 の 回折パターンを測定した。 2.3 白金電気めっき 白 金 無 電 解 め っ き 試 料 を 、表 2 に 示 し た 白 金 電 気 め っ き 溶 液 ( 353K) 中 に 浸 漬 し た の ち 、 電 流 密 度 i = 100 Am-2 の 条 件 で 定 電 流 カ ソ ー ド 分 極 を 32.4 ks ま で 行 っ た 。 白 金 電 気 め っ きにおける試料の質量変化を追跡するとともに、表面および 断 面 を CSLM に よ り 観 察 し た 。 9 3.実験結果および考察 3.1 無電解めっきにおける白金の析出挙動 図1は、セラッミクス試料を表1に示した白金無電解めっ き 溶 液( P t ( N H 3 ) 2 ( N O 2 ) 2 濃 度 C P t = 0 . 0 0 3 9 k m o l m - 3 、温 度 T = 3 2 3 K) 中 に 浸 漬 し 、 め っ き 時 間 t = 14.4 ks ま で 無 電 解 め っ き を 行ったさいの、セラミックス試料のみかけ単位面積当たりの 質 量 変 化 ( Δ W1) を 示 し て い る 。 図 中 、 a) の 曲 線 は セ ラ ミ ッ ク ス 試 料 に HF エ ッ チ ン グ を 施 し て い な い 試 料 、b)の 曲 線 はエッチングを施した試料のものであり、それぞれの試料を 感応化処理および活性化処理したのち、無電解めっきを行っ て い る 。 エ ッ チ ン グ を 行 っ て い な い 試 料 に お い て は 、 Δ W1 はほとんど変化していないことがわかる。これに対して、エ ッ チ ン グ 試 料 の 場 合 に は 、 Δ W1 は 初 期 に 若 干 減 少 し た の ち 、 t1 と と も に 増 大 し 、 t1 = 14.4 ks に お い て Δ W1 = 55 gm-2 の 値 を 示 す 。ま た 、Δ W 1 の 増 加 速 度 は 、t 1 の 値 が 2 k s を こ え る と 、 めっき時間とともに増大していることがわかる。エッチング 試料の無電解めっきにおいては、試料表面から多量のガス発 生が観察された。 図 2 は 、 無 電 解 め っ き 前 後 ( t1 = 0, 14.4 ks) に お け る a) エ ッ チ ン グ を 施 し て い な い 試 料 お よ び b) エ ッ チ ン グ 試 料 の 10 表 面 を 、 CSLM に よ り 観 察 し た も の で あ る 。 a) に お い て 、 無 電解めっき前の表面は、試料が種々の酸化物からなるセラミ ックスであるために反射率が異なった複雑な模様を有してい る。この試料に無電解めっきを施しても、表面の外観にほと ん ど 変 化 は 見 ら れ な い 。一 方 、b )エ ッ チ ン グ 試 料 に お い て は 、 HF エ ッ チ ン グ に よ り 形 成 さ れ た 黒 い 溝 が 観 察 さ れ る と と も に、無電解めっきにより金属光沢を有する析出層が形成され て い る こ と が 明 ら か で あ る 。XRD 測 定 よ り 、こ の 析 出 層 は 純 白金であることがわかった。 図1においてエッチング未処理試料を無電解めっき溶液中 に浸漬しても白金が析出しないのは、感応化処理および活性 化 処 理 に よ り Pd 触 媒 核 が ほ と ん ど 生 成 し な い た め と 考 え ら れ る 。H F エ ッ チ ン グ 前 後 の セ ラ ミ ッ ク ス 試 料 表 面 の 化 学 組 成 を E P M A に よ り 測 定 し た と こ ろ 、H F エ ッ チ ン グ に よ り N a お よ び S i の 溶 出 が 認 め ら れ た 。ま た 、図 2 お よ び 後 述 す る 図 6 に 示 す と お り 、 セ ラ ミ ッ ク ス 試 料 表 面 は HF 浸 漬 に よ り 大 き くエッチングされていることが明らかである。したがって、 上述のエッチング未処理試料に白金がほとんど析出しない理 由 は 、( 1 )セ ラ ミ ッ ク ス 試 料 表 面 の 微 細 な 凹 凸 の 有 無 、( 2 ) セラミックス試料表面の化学組成の変化が考えられる。その い ず れ か の 理 由 に よ っ て 、H F エ ッ チ ン グ に よ る セ ラ ミ ッ ク ス 11 試 料 上 へ の Sn2+吸 着 量 お よ び Pd 触 媒 核 析 出 量 が 大 き く 増 大 したためと予想される 15) 。一 方 、エ ッ チ ン グ 試 料 に お い て め っ き 初 期 に Δ W 1 が 減 少 す る 理 由 は 、種 々 の 酸 化 物 か ら な る セ ラ ミ ッ ク ス 試 料 の 一 部 、 例 え ば Al2O3 が め っ き 溶 液 中 ( pH=10.2) に 溶 解 し た た め と 考 え ら れ る 。 エ ッ チ ン グ 試 料 の表面積は未処理のものに比べて表面積が極めて大きいため、 上 述 の セ ラ ミ ッ ク ス の 溶 解 に よ り Δ W1 が 大 き く 減 少 す る と 考えられる。このような溶解期間は、セラミックス試料表面 を白金析出層が完全に覆うまで続くものと考えられる。本研 究において用いた白金無電解めっき溶液の白金析出反応は、 以下のように表される。 2Pt2+ + N2H4 + 4OH- = 2Pt + 4H2O + N2 (1) エ ッ チ ン グ 試 料 を め っ き 溶 液 中 に 浸 漬 す る と 、N 2 ガ ス 発 生 を 伴 い な が ら Pd 触 媒 核 上 で 白 金 の 析 出 が 生 じ る 。 無 電 解 め っ き 時 間 の 増 大 と と も に 、セ ラ ミ ッ ク ス 基 板 の 溶 解 量 は 減 少 し 、 Δ W 1 が 増 加 す る と と も に 、そ の 増 加 速 度 も 大 き く な る 。最 終 的に、白金析出層がセラミックス基板上を完全に覆うと、Δ W1 の 増 加 速 度 は 定 常 値 を 示 す と 考 え ら れ る 。 図 3 は 、 CPt = 0.0039 kmolm-3 の 条 件 で 溶 液 温 度 を 種 々 変 化 さ せ て ( T = 313 333 K) 白 金 無 電 解 め っ き を t1 = 14.4 ks ま で 行 っ た さ い の 、Δ W 1 の 時 間 変 化 を 示 し た も の で あ る 。い ず 12 れ の 温 度 に お い て も 、Δ W 1 は 無 電 解 め っ き 初 期 に 減 少 し た の ち 、 め っ き 時 間 と と も に 増 大 す る こ と が わ か る 。 ま た 、 Δ W1 の 増 加 速 度 は 温 度 と と も に 高 く な る こ と が 明 ら か で あ る 。T = 3 3 3 K に お い て 、め っ き 時 間 が 6 k s を 過 ぎ る と Δ W 1 の 増 加 速 度が急激に減少するのは、白金無電解めっきの進行により、 溶液中の白金塩濃度が大きく減少するためと考えられる。そ れ ぞ れ の め っ き 温 度 に お い て t1 = 14.4 ks ま で 無 電 解 め っ き を 行 っ た さ い の 、 試 料 の 表 面 CSLM 写 真 お よ び そ の 断 面 模 式 図 が 図 4 で あ る 。 a) T = 313 K に お い て は 、 試 料 表 面 の 一 部 に 直 径 10 20 µm 程 度 の 大 き さ を 有 す る 白 金 粒 子 の 析 出 が 観 察されるが、セラミックス試料を完全には覆っていないこと がわかる。すなわち、白金無電解めっきの速度は極めて遅い こ と が 明 ら か で あ る 。 b) T = 323 K に な る と 、 若 干 の 凹 凸 を 有する緻密な白金析出層がセラミックス試料全面に析出して い る 。 c) T = 333 K に お い て は 、 直 径 数 µm の 微 細 な 白 金 粒 子からなるめっき層が析出しており、金属光沢はほとんど無 いことがわかる。これは、無電解めっき溶液の温度が高温で あるために、白金無電解めっき析出核が数多く生じたためと 考えられる。 図 5 は 、 無 電 解 め っ き 溶 液 の 温 度 を T = 323 K と し 、 CPt = 0.0039 0.019 kmolm-3 の 条 件 で 白 金 無 電 解 め っ き を t 13 1 = 14.4 k s ま で 行 っ た さ い の 、Δ W 1 の 時 間 変 化 を 示 し た も の で あ る 。 CPt の 増 大 と と も に 、 Δ W1 が 定 常 的 な 速 度 で 増 大 し 始 め る 時 間 が 長 く な っ て い る こ と が わ か る 。ま た 、そ の 後 の Δ W 1 の 増 大 速 度 は CPt に 依 存 せ ず 、 い ず れ の CPt に お い て も 7.1 10-3 gm-2s-1 で あ る 。 こ の よ う な 白 金 の 析 出 挙 動 は 以 下 の よ う に 説 明 で き る 。 め っ き 溶 液 中 の Pt2+は 、 セ ラ ミ ッ ク ス 試 料 表 面 の P d 微 粒 子 に 吸 着 し 、 N 2 H 4 と の 反 応 式( 1 ) に よ り 白 金 に 還 元 さ れ る 。 こ の さ い 、 め っ き 溶 液 中 の Pt2+量 が 多 い ほ ど 、 Pd 微 粒 子 表 面 に 吸 着 す る Pt2+の 量 が 増 大 し 、 白 金 析 出 速 度 は 高 く なる。そのため、白金析出層がセラミックス試料を完全に覆 う ま で の 時 間 が CPt の 増 大 と と も に 減 少 し 、 Δ W1 が 定 常 的 に 増大するまでの時間が短くなるものと考えられる。一方、 ( 1 )式 に 示 し た 通 り 、無 電 解 め っ き は N 2 ガ ス 発 生 を 伴 い な がら進行するため、白金めっきの進行とともに、試料表面に おける窒素の吸着量が増大するものと予想される。これによ り 、 試 料 表 面 へ の Pt2+の 吸 着 が 困 難 と な る た め 、 白 金 の 析 出 速 度 は CPt に 依 存 し な く な る と 考 え ら れ る 。 図 6 は 、 エ ッ チ ン グ し た セ ラ ミ ッ ク ス 試 料 を CPt = 0 . 0 1 2 k m o l m - 3 の 白 金 無 電 解 め っ き 溶 液 中 に 浸 漬 し た の ち 、T = 323 K お よ び t1 = 14.4 ks の 条 件 で 白 金 め っ き を 行 っ た 試 料 の 断 面 CSLM 写 真 を 示 し て い る 。 図 中 、 上 部 の 黒 い 部 分 が エ ポ 14 キシ樹脂、下部の複雑な模様を有する黒い部分がセラミック ス基板、および白い部分が白金析出層である。セラミックス 基 板 は HF エ ッ チ ン グ に よ り 大 き な 凹 凸 を 有 し て お り 、 そ の 表 面 に 2 µm 程 度 の 均 一 な 厚 さ を 有 す る 白 金 析 出 層 が 観 察 さ れる。白金は、エッチングされたセラミックス基板の深部に も析出していることが明らかである。白金とセラミックス基 板との密着性は極めて優れていた。 3.2 電気めっきによる厚膜白金析出層の形成 図7は、図6の試料を表2に示した白金電気めっき溶液中 に 浸 漬 し た の ち 、 温 度 T = 353 K お よ び 電 流 密 度 i = 100Am-2 の 条 件 で カ ソ ー ド 分 極 を 行 っ た さ い の 、 め っ き 時 間 ( t2) と 試 料 の 質 量 変 化 ( Δ W2) と の 関 係 を 示 し て い る 。 Δ W2 は め っき時間とともにほぼ直線的に増大しており、その増加速度 は 0.034 gm-2s-1 で あ る 。 こ の 値 は 、 無 電 解 め っ き の そ れ と 比 べておよそ5倍程度大きい。白金電気めっきにおいては、試 料表面から若干のガス発生が観察された。本研究において用 いた白金電気めっき溶液の白金析出機構は不明な部分が多い が、水溶液中の白金錯体の配位子が水と置換することにより P t ( H 2 O ) 4 2 + が 生 成 し 、以 下 の 反 応 に よ り 白 金 が 析 出 す る も の と 考えられている 2 )、 1 6 )、 1 7 ) 。 15 Pt(H2O)42+ + 2e- = Pt + 4H2O 図 8 は 、白 金 電 気 め っ き を a )t 2 (2) = 1 0 . 8 k s お よ び b )3 2 . 4 k s 行 っ た セ ラ ミ ッ ク ス 試 料 の 断 面 CLSM 写 真 を 示 し て い る 。 い ずれの写真においても、上部の黒い部分がエポキシ樹脂、中 央の白い部分が白金析出層、および下部の黒い部分がセラミ ッ ク ス 基 板 で あ り 、 a) の 場 合 に は 厚 さ 20 µm、 b) の 場 合 に は 厚 さ 70 µm の 白 金 電 析 層 が 形 成 さ れ て い る こ と が わ か る 。 白金は、エッチングされたセラミックス基板の深部にも析出 しており、セラミックス基板と白金析出層との間に、アンカ ー 効 果 に よ る 良 好 な 密 着 性 が 期 待 で き る 。 し か し な が ら 、 b) の写真に見られるように、白金析出層の内部には若干のボイ ドが観察される。このようなボイドは、エッチングを施した セラミックス基板の表面が凹凸を有しているために形成され たと考えられる。これらの写真から、この白金電気めっきに お け る 白 金 の 析 出 速 度 は お よ そ 7 µms-1 で あ っ た 。 図 9 は 、 図 8 b) の 試 料 の 表 面 を CSLM に よ り 観 察 し た も のである。写真中央を上下にわたってクラックが生じている ことが明らかである。このような白金析出層のクラックは、 電 気 め っ き 時 間 が 10 ks を 越 え る と 生 じ た 。 電 気 め っ き 時 間 の増大とともにクラックの数が多くなり、その幅も太くなる ことがわかった。この白金電気めっきにおける白金電析層は 16 大きな内部応力を有しており、めっき層が厚くなるとともに 内部応力によってクラックが生じるものと考えられる。内部 応力が生じる原因は、電気めっきにおける水素ガス発生およ び水素の取り込みによるものであると思われるが、今後は白 金電気めっきにおけるめっき条件と内部応力との関係を検討 することが重要である。 17 4.結論 Pt(NH3)2(NO2)2 を 白 金 塩 と す る 白 金 無 電 解 め っ き お よ び 白 金電気めっきを用い、セラミックス基板に厚い白金析出層の 形成を試みた結果、以下のことが明らかとなった。 ( 1 ) セ ラ ミ ッ ク ス 試 料 を HF 水 溶 液 に よ り エ ッ チ ン グ し た の ち 、 Pt(NH3)2(NO2)2 を 白 金 塩 、 N2H4 を 還 元 剤 と す る 白 金 無 電解めっき溶液中に浸漬することにより、均一な厚さを有す る白金析出層を形成することができる。白金の析出速度は溶 液温度とともに増大するが、白金塩の濃度には依存しない。 ( 2 ) セ ラ ミ ッ ク ス 試 料 を 白 金 無 電 解 め っ き し た の ち 、 Pt(NH3)2(NO2)2 を 白 金 塩 と す る 電 気 め っ き 溶 液 中 に 浸 漬 し 、 電 気 め っ き を 行 う こ と に よ り 、 厚 さ 70 µm の 白 金 析 出 層 を 形 成 す る こ と が で き る 。 電 気 め っ き の 時 間 が 10 ks( 20 µm) を 越えると、白金表面にクラックが発生する。 18 文献 1)多 賀 康 訓 、塚 田 俊 久 、平 尾 孝 編 ; 薄 膜 作 製 応 用 ハ ン ド ブ ッ ク , p. 273 (1997) 2 ) C . 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S a v i n o v a , a n d G . A . Ts i r l i n a ; E l e c t r o c h i m . A c t a , 5 1 , 4 4 7 7 ( 2 0 0 6 ) 19 1 1 )S . A . G . E v a n s , J . G . Te r r y, N . O . V. P l a n k , A . J . Wa l t o n , L . M . K e a n e , C . J . C a m p b e l l , P. G h a z a l , J . S . B e a t t i e , T- J u S u , J . Crain, and A. R. Mount ; Electochem. Commun., 7, 125(2005) 1 2 )D . S t o y c h e v, A . P a p o u t s i s , A . K e l a i d o p o u l o u , G . K o k k i n i d i s , a n d A . M i l c h e v ; M a t e r. C h e m . P h y s . , 7 2 , 3 6 0 ( 2 0 0 1 ) 13 ) N. Kubota and E. Sato ; Kinzoku Hyomen Gijutsu, 39, 185(1988) (in Japanese) 14) 表 面 技 術 協 会 編 ; 表 面 技 術 便 覧 , p. 273 (1998) 15) 表 面 技 術 協 会 編 ; 表 面 技 術 便 覧 , p. 328 (1998) 1 6 ) A . J . G r e g o r y, W. L e v a s o n , R . E . N o f t l e , R . L . P e n v e n , a n d D. Pletcher ; J. Electroanal. Chem., 399, 105(1995) 1 7 )W. L e v a s o n , D . P l e t c h e r , A . M . S m i t h , a n d A . R . B e r z i n s ; J . Appl. Electrochem., 28, 18(1998) 20 図のキャプション(英文) Ta b l e 1 The composition of Pt electroless plating solution and operating conditions. Ta b l e 2 The composition of Pt electroplating solution and operating conditions. Fig. 1 Relationship between the mass change of the specimen, Δ W1, and the electroless plating time, t1, at 323 K; a) after and b) before chemical etching in HF solution. Fig. 2 CSLM images of the surface of a) non-etched and b) etched specimens before / after Pt electroless plating. Fig. 3 Relationship between the mass change of the specimen, Δ W1, and the electroless plating time, t1, in Cpt = 0 . 0 0 3 9 k m o l m - 3 s o l u t i o n a t d i f f e r e n t t e m p e r a t u r e s , T. Fig. 4 CSLM images and schematic models of the specimen after Pt electroless plating at a) T = 313 K, b) 323 K, and c) 333 K. Fig. 5 Relationship between the mass change of the specimen, Δ W1, and the electroless plating time, t1, at 323 K and different Cpts. Fig. 6 CSLM image of the vertical cross-section of the specimen after Pt electroless plating at 323 K for 14.4 ks. 21 Fig. 7 Relationship between the mass change of the specimen, Δ W2, and the electroplating time, t2, with 100 Am-2 at 353 K. The electroplating was carried out after electroless plating for 14.4 ks at 323 K. Fig. 8 CSLM images of the vertical cross-section of the specimen after Pt electroplating at 323 K for a) t2 = 10.8 ks and b) 32.4 ks. Fig. 9 CSLM image of the surface of the specimen after Pt electroplating at 323 K for 32.4 ks. 22 図のキャプション(日本文) 表1 白金無電解めっき溶液の組成とめっき条件 表2 白金電気めっき溶液の組成とめっき条件 図1 HF 溶 液 中 で の 化 学 エ ッ チ ン グ の 有 無 に よ る 試 料 の 質 量 変 化 ( Δ W1) と 無 電 解 め っ き 時 間 ( t1) と の 関 係 図2 白 金 無 電 解 め っ き 前 後 の a) 非 エ ッ チ ン グ 試 料 お よ び b) エ ッ チ ン グ 試 料 表 面 の CSLM 写 真 図3 Cpt = 0.0039 kmolm-3 溶 液 中 、 異 な っ た 温 度 ( T) に お け る 試 料 の 質 量 変 化 ( Δ W1) と 無 電 解 め っ き 時 間 ( t1) と の 関係 図4 a) T = 313 K、 b) 323 K、 お よ び c) 333 K の 白 金 無 電 解 め っ き 試 料 の CSLM 写 真 お よ び 模 式 図 図5 3 2 3 K お よ び 異 な っ た C p t に お け る 試 料 の 質 量 変 化( Δ W1) と 無 電 解 め っ き 時 間 ( t1) と の 関 係 図6 323 K、 14.4 ks の 白 金 無 電 解 め っ き 後 の 試 料 の 断 面 CSLM 写 真 図7 100 Am-2、 353 K の 条 件 に お け る 試 料 の 質 量 変 化 ( Δ W2) と 電 気 め っ き 時 間 ( t2) と の 関 係 。 電 気 め っ き は 14.4 ks お よ び 323 K の 無 電 解 め っ き の の ち に 行 わ れ た 図8 a )1 0 . 8 k s お よ び b )3 2 . 4 k s の 白 金 電 気 め っ き( 3 2 3 K ) 後 の 試 料 の 縦 断 面 CSLM 写 真 23 図9 323 K お よ び 32.4 ks の 白 金 電 気 め っ き 後 の 試 料 の 表 面 CSLM 写 真 24 Ta b l e 1 The composition of Pt electroless plating solution and operating conditions. Pt(NH3)2(NO2)2 0.0039 – 0.019 kmolm-3 NH4OH 1.9 kmolm-3 (NH3OH)Cl 1.8 kmolm-3 N2H4 H2O 0.25 kmolm-3 Te m p e r a t u r e , T 313 – 333 K Plating time, t 1.8 – 14.4 ks pH 10.2 菊地竜也、渡辺健、坂入正敏、高橋英明、丸子智弘 25 Ta b l e 2 The composition of Pt electroplating solution and operating conditions. Pt(NH3)2(NO2)2 0.051 kmolm-3 CH3COONa 0.85 kmolm-3 Na2CO3 0.94 kmolm-3 Te m p e r a t u r e , T 353 K Plating time, t C u r r e n t d e n s i t y, i pH 10.8 – 32.4 ks 100 Am-2 11 . 6 菊地竜也、渡辺健、坂入正敏、高橋英明、丸子智弘 26 a) Etching b) No-etching Electroless plating time, t1 / ks Fig. 1 Relationship between the mass change of the specimen, ΔW1, and the electroless plating time, t1, at 323 K; a) after and b) before chemical etching in HF solution. 菊地竜也、渡辺健、坂入正敏、高橋英明、丸子智弘 a) Non-etched specimen t1 = 14.4 ks t1 = 0 s 30 µm b) Etched specimen t1 = 0 s 30 µm t1 = 14.4 ks 30 µm 30 µm Fig. 2 CSLM images of the surface of a) non-etched and b) etched specimens before / after Pt electroless plating. 菊地竜也、渡辺健、坂入正敏、高橋英明、丸子智弘 T = 333 K 323 K 313 K Electroless plating time, t1 / ks Fig. 3 Relationship between the mass change of the specimen, ΔW1, and the electroless plating time, t1, in Cpt = 0.0039 kmolm-3 solution at different temperatures, T. 菊地竜也、渡辺健、坂入正敏、高橋英明、丸子智弘 a) T = 313 K Pt Ceramics Pt 30 µm b) T = 323 K 30 µm c) T = 333 K 30 µm Fig. 4 CSLM images and schematic models of the specimen after Pt electroless plating at a) T = 313 K, b) 323 K, and c) 333 K. 菊地竜也、渡辺健、坂入正敏、高橋英明、丸子智弘 0.012 kmol m-3 Cpt = 0.019 kmol m-3 0.0039 kmol m-3 Electroless plating time, t1 / ks Fig. 5 Relationship between the mass change of the specimen, ΔW1, and the electroless plating time, t1, at 323 K and different Cpts. 菊地竜也、渡辺健、坂入正敏、高橋英明、丸子智弘 Epoxy resin Pt Ceramics 50 µm Fig. 6 CSLM image of the vertical cross-section of the specimen after Pt electroless plating at 323 K for 14.4 ks. 菊地竜也、渡辺健、坂入正敏、高橋英明、丸子智弘 Electroplating time, t2 / ks Fig. 7 Relationship between the mass change of the specimen, ΔW2, and the electroplating time, t2, with 100 Am-2 at 353 K. The electroplating was carried out after electroless plating for 14.4 ks at 323 K. 菊地竜也、渡辺健、坂入正敏、高橋英明、丸子智弘 a) t2 = 10.8 ks Epoxy resin Pt Ceramics 50 µm b) t2 = 32.4 ks Epoxy resin Pt Voids Ceramics 50 µm Fig. 8 CSLM images of the vertical cross-section of the specimen after Pt electroplating at 323 K for a) t2 = 10.8 ks and b) 32.4 ks. 菊地竜也、渡辺健、坂入正敏、高橋英明、丸子智弘 30 µm Fig. 9 CSLM image of the surface of the specimen after Pt electroplating at 323 K for 32.4 ks. 菊地竜也、渡辺健、坂入正敏、高橋英明、丸子智弘