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『ハウルの動く城』 『ゲド戦記』
目次 ジブリと児童文学 004 鈴木敏夫×宮崎吾朗×川上量生 スペシャルトーク なぜ、賛否両論だったのか? 今だから話せる『ハウル』と『ゲド』のこと 010 手嶌 葵インタビュー 吾朗監督のミューズが語る ジブリ作品とのシンパシー 012 柏木吉一郎×奥井 敦 対談 『ハウルの動く城』 『ゲド戦記』ブルーレイ制作秘話 014 きゃりーぱみゅぱみゅインタビュー ファン代表の声“私がジブリの世界を大好きな理由” 016 改めて考える 『ハウルの動く城』 『ゲド戦記』 の魅力 018 宮崎 駿の著書から読み解く 020 特別付録! 電子ジブリぴあ直筆しおり 今、 改めて確認したい児童文学の力、 そして気になる新作のこと ◎鈴木敏夫/題字 ジブリと 児童文学 今回ブルーレイになった 『ハウルの動く城』と『ゲド戦記』は、 海外児童文学を原作にしたジブリ作品である。 文字で書いた文学と映像で描いた映画では 内容や人物の解釈、 表現にどんな違いがあるのだろう。 今だから話せるスタッフの裏話や 宮崎 駿監督が語る児童文学の魅力、 手嶌 葵による『ゲド戦記』の思い出、 きゃりーぱみゅぱみゅが語るジブリの魅力、 ブルーレイの制作秘話まで、 ! 必読の内容満載で送る 「電子ジブリぴあ」 3 2 (スタジオジブリ プロデューサー見習い) 川上量生 ●かわかみ・のぶお 年生まれ。オンラインゲームの 会 社 と し て ド ワ ン ゴ を 創 業。代 表取締役会長として活躍しなが ら、現在はスタジオジブリでプロ デューサー見習いをしている。 (映画監督) 宮崎吾朗 ●みやざき・ごろう 年生まれ。三鷹の森ジブリ美術 館のデザインを手掛け、館長とし て活躍後、映画監督に。 年『ゲド 戦 記 』、 年夏『 コ ク リ コ 坂 か ら 』 を発表した。 が立って「こんなのはジブリじゃない」と 求めているところがある。それが無いと腹 て、自分の理想のジブリらしさというのを す。ジブリ作品は観る人の思い入れがあっ じゃないか」という評価に変わったんで (笑)。それが今回見直して「結構いけるん たよね。でも僕はDVDで『ゲド』を観て、 ているんじゃないかという議論がありまし て い る 時 に、 『ゲド』に比べて美術が劣っ んです。それと『コクリコ坂から』を作っ から諦めながら観たら、とても面白かった ときはそのことは知っていますから、最初 思って観るのをやめました。 ケ バ ケ バ に な っ て い て、 こ れ は ダ メ だ と 宮 崎 前 に『 ゲ ド 』 の D V D を も ら っ て、 夜中にひとりで観ようとしたら、色が凄く は、メチャメチャ綺麗なんだって(笑) 。 『 ハ ウ ル 』 に し ろ『 ゲ ド 』 に し ろ、 一 本 の 映画にデータが三桁で入っている。でも普 通のDVDは二層にしてもデータ量は ギ ガバイトに収めなくてはいけない。方やブ ルーレイは一層で ギガあるので二層だと ギガ入る。大雑把に言えば、5倍良くな るということなんです。だから『ゲド』に 描かれた中間の背景色も、元の感じに近い 形で表現できるようになっている。 川上 細かく描いているものは、ブルーレ イでなければだめだということを発見しま した。 『ゲド戦記』は綺麗じゃないですか。 ジブリの中でも最高レベルだと思います よ。背景のことで言ったら『ハウル』より も綺麗でした。 宮崎 それは多分、コントラストの強い絵 にしてあるからだと思います。黄色い砂漠 に紫色の影だとか。あれってアブノーマル だ か ら、 普 通 の ジ ブ リ 作 品 で は や ら な い。 このときは美術監督が武重洋二さんで、「好 きにやって」 と言ったらああなったんです。 た面が見えてくる。僕は『ハウル』の場合、 には余計な期待がない分だけ、もっと違っ 作品は二回観たほうがいいですよ。二回目 Dでは全部色が潰れていたんですよ。本当 色合いが変わるところが多い。それがDV は砂漠や空のシーンなど、単色でちょっと 今回ブルーレイを観てわかりました。『ゲド』 すよ。でも汚いのはDVDが原因だったと、 えた南側なんです。武重さんは、そのアル ないんですよ。青くなるのはアルプスを越 行くと、アルプスよりも北は空の色が青く な色が好きなんです。例えばヨーロッパへ う人は色の趣味がハッキリしていて、明快 鈴木 実は『ハウル』と『ゲド』の美術は、 同 じ 人 が や っ て い る ん で す。 宮 崎 駿 と い 最初に観た時は戦争シーンがなかったのが 「この美術って、汚いじゃん」と思ったんで 欲求不満だったんです。でも二度目に観た いうことになるんだけれど、やはりジブリ 映画ってデータで作るんです。そうすると 鈴木 参考として言うと、それは数字に置 き 換 え る と 分 か り や す い。 ジ ブ リ の 場 合、 年 生 ま れ。徳 間 書 店で「 ア ニ メージュ」を創刊し、宮崎 駿と出 会 う。そ の 後、ス タ ジ オ ジ ブ リ 設 立に携わり、現在は代表取締役プ ロデューサーを務める。 ●すずき・としお (スタジオジブリ プロデューサー) 鈴木敏夫 ブルーレイで分 か っ た 『ゲド戦記』の美しさ 今回ブルーレイになった『ハウルの動く 城』はダイアナ・ウィン・ジョーンズの、 『ゲ ド戦記』はアーシュラ・K・ル=グウィン の 小 説 を 原 作 に し て い る。 『借りぐらしの アリエッティ』や三鷹の森ジブリ美術館の 短編作品などもそうだが、スタジオジブリ ジブリ作品のなかで、 『ハウルの動く城』 と 『ゲド戦記』 は賛否両論がはっきりと分かれた作品。 原作は児童文学のこの2作を、宮崎親子がそれぞれどのような想いを込めて描いていったのか。 今だから話せるスタッフ側の感想と裏話とは−−。 9.4 では多くの児童文学 を 題 材 に 作 品 を 作 っ て きた。ただ面白いのは原作をそのままアニ メーション化するのではなく、それぞれの 作り手が原作の世界観を独自に解釈し、今 の時代に向けて内容を再構成したり、ある い は 自 分 自 身 に も っ と 引 き つ け る こ と で、 オリジナリティのあ る ジ ブ リ 映 画 へ と 姿 を 変えていることだろう。ここではスタジオ ジブリの鈴木敏夫プロデューサーと『ゲド 戦記』を監督した宮崎吾朗、さらにドワン ゴの代表取締役会長 で 現 在 は ス タ ジ オ ジ ブ リのプロデューサー 見 習 い で も あ る 川 上 量 生 の 3 人 に ブ ル ー レ イ 化 さ れ た『 ハ ウ ル 』 と『ゲド』の魅力と、宮崎 駿&吾朗親子が それぞれ児童文学の世界と、どのように向 き合ったのかを存分に語っていただいた。 なぜ、 賛否両論だったのか? 今だから話せる 『ハウル』 と 『ゲド』 のこと 25 '11 川上 僕は今日『ハウル』と『ゲド』をブ ルーレイで見直して、意外や意外。『ゲド』 場合は最初映画館で 観 て 、 そ の と き は イ マ イチだと思ったんで す が 、 二 度 目 に D V D で観て本当に感動したんです。それで(『ハ ウル』は)今回が三度目だったんですが、『ゲ ド』に関しては半年 前 ジ ブ リ に 見 習 い と し て入ってからDVD で 初 め て 観 て 、 か な り 50 '67 '48 腹が立つところがあ っ て 、 面 白 く な か っ た ©2004 二馬力・GNDDDT '68 Goro Miyazaki Nobuo Kawakami Toshio Suzuki が面白かったんですよ(笑)。『ハウル』の ● 4 5 '06 ©2006 二馬力・GNDHDDT Special Talk Session に伝わった。そこが、一番ショックを受け た部分です。また多分ソフィーは魔法で年 をとったんじゃなくて、本当の話では最初 から年をとっていたと思うんです。にもか かわらず恋愛をする。見かけは年寄りだけ れど、中身には若い部分が残っているんだっ て、それに気付いてくれって強烈なメッセー た い と 思 っ て い る け れ ど、 宮 崎 駿 と 組 む プスの北側の空を一度でいいから表現し あったつまらない、でも大切にしていた思 婆になった少女が姥捨て山で若いころに んだと。魔法じゃなく普通に年をとって老 姥捨て山ですよ。つまり山へ死にに行った 来 の 姿 は 若 い。 要 す る に 若 い け れ ど 年 を は外見こそおばあちゃんになるけれど、本 宮崎 川上さんが鋭いと思うのは、僕もこ れは老人同士の恋愛だと思って。ソフィー いかと。そこにもショックを受けたんです。 生っぽくてイヤでした。宮崎 駿が母親に 言い訳し て い る よ う に 見 え た ん で す (宮崎) と「ダメだ。青くし ろ 」 と 言 わ れ る 。 で も い出をなつかしんでいたのです。つまりそ ジですよね。だからこれは悲しい話ではな 吾朗君が「いいよ」と言ったので、『ゲド』 というくらいが本当 の 話 だ っ た と 思 う ん で 会って、ちょっと優 し い 言 葉 を 掛 け ら れ た ない女の子が身分違 い の カ ッ コ い い 人 と 出 ハウルに会いますよ ね 。 こ れ は 下 町 の 冴 え と考えたんですけれ ど 。 最 初 に ソ フ ィ ー が するなら、この物語 を 現 実 に 置 き 換 え た ら じゃあ、ハウルがも し お と ぎ 話 じ ゃ な い と 作 品 全 体 か ら 伝 わ っ て く る か ら な ん で す。 実じゃないんです」というメッセージが れはおとぎ話です。 フ ァ ン タ ジ ー で す 。 現 まうんですね。それはなぜかと言うと、「こ い感じがいいんです 。 で も 観 る と 泣 い て し 川上 世界観で言うと、僕は『ハウル』が 宮 崎 駿 作 品 の 中 で 一 番 好 き で、 あ の 明 る ていた。でも『ハウル』はラストで「これ だと分かったし観ていて馬鹿馬鹿しくなっ んなの願望を描いてきたけれど、それは嘘 ジーは「こうだったらいいよね」というみ 残ったと思うんです。これまでのファンタ があったらいいよね」という純粋な願いが 描いている。その結果「世界でこんなこと て、ここではほんの数分で戦争終結の件を と は 現 実 に は な い 嘘 だ と。 そ う 割 り 切 っ その上で戦争終結へと向う。でもそんなこ 打たれたとか、そういうことを延々とやる。 少年の勇気が心を動かしたとか、愛の力に ンタジーだ ったらいろんな闘いがあって、 いい加減に終わりますよね。今までのファ たと思うんです。映画では、最後に戦争も テーマは入っていますよね? 川上 ここでは年寄りの恋愛でも若者の恋 愛と、何ら変わりはないんだと。そういう だろうと。それがテーマにあったのかなと。 ていくことをどんな風に受け止めていくん 後に彼が作ったものを考えると、年をとっ 宮 崎 え え、 で す か ら 宮 崎 駿 作 品 の 中 で 一番エロティックじゃないですか。その前 川上 何か情動を感じますよね。作品から 人間の感情の揺れ動きというか。 とした覚えがありますね。 こういうものをまだ持っているのかと愕然 と 感 じ た ん で す。 そ こ ま で 年 を と っ て も、 ど、 最 初 観 た 時 に「 随 分 脂 っ こ い 話 だ な 」 駿の年齢と関係があると思うんですけれ と 思 っ た ん で す。 こ れ は 作 っ て い る 宮 崎 なってしまう。つまり年寄りの三角関係だ ているけれど、途中で本来の老いた自分に でしょう。荒地の魔女は魔法で外見を隠し も、本当は荒地の魔女と同じくらいの年齢 とっている。ハウルは見かけが若いけれど ではそれをやってい る ん で す 。 こで見たのは、マッチ売りの少女のような 死の直前の幻です。自分が大切にしていた 一番の思い出、それに続きがあるとすれば すよ。ところがその 子 に と っ て 、 そ れ は 大 はおとぎ話です」と割り切って説明をいい 宮崎 駿の私情 が 見 え る 『ハウルの動く城』! どんな物語だったのか。その幻の話が、お き な こ と で、 宝 物 の よ う な 自 慢 話 だ っ た 。 とぎ話ではない『ハウル』の本当の話だっ それでソフィーは見 た 目 が お ば あ ち ゃ ん に 宮崎 鏡さえなければ、人間は 歳を超え ると中身ってそれほど変わらないじゃない 変 わ ら な い と い う こ と を、 宮 崎 駿 は や っ ですか。見た目さえ見なければ精神的には いう風に変わってきていると思うんです。 崎 駿 は 自 分 自 身 の 何 か を 描 い て い る、 と ウル』以降は今やっている新作にしても宮 に結びついていると思うんです。そこだけ 多分このやり取りって、作品の深いテーマ 言われたことがない」 と逆ギレしますよね。 というと、ソフィーは「私なんて美しいと 変になって 「美しくなかったら意味が無い」 さがある。映画の中でハウルが、髪の色が 川上 かつてあって欲しかった青春を重ね 合わせているんでしょうね。そういう悲し 何かわかるなと。 のがないと。川上さんのような受け止め方 しれない。年をとっていく実感のようなも これは若いときに観てもピンとこないかも ると思いますね。そういうことから言えば、 ている感じとは、全然違うものになってい めている気がしました。映画は原作が持っ いう題材に、極端に私小説っぽいことを込 よ」と言っていると。だから『ハウル』と ルになって「お婆ちゃんになっても好きだ 宮崎 いや、僕は自分の母親に言い訳して いる感じがしたんです。要するにおばあちゃ 川 上 『 ハ ウ ル 』 に 関 し て は、 ソ フ ィ ー が 宮崎さん自身という感じがしましたね。 ではなく、この映画にはキャラクターの本 て い く の は、 中 高 年 の お ば さ ま な ん で す。 当の叫びが詰まっている。逆にストーリー は、若いときに出来ないかもしれませんね。 んになったソフィーに対して、自分がハウ が浮かび上がってくるものではないから、 川上 そんなことはないですよ。今の子た ちは挫折の経験も早いから、 代はいける 作品だと感じたんです。 壊すシーンですね。このままじゃ、ハウル んじゃないかな。それと宮崎さんが感情的 吾 朗 さ ん は「 『ハウル』は何をしたかった 川上 豪華な舞台設定で、やっていること は凄く内面的。贅沢な映画ですよね。前に はだしくて。 をやったんだ。何の意味もないだろう」 と。 小 さ く な っ て 復 活 す る。 「 結 局、 お 前 は 何 らって、お城を戻すんですよ。すると城が が殺されるといってソフィーがお城を壊 おっしゃっていたことがありますけど? 矛盾は許すという気になるん ですけれど。 絶 対 彼 女 は B 型 だ と 思 い ま し た( 笑 ) 。で だと僕は感じたんです。 きちんとあると。でも『ハウル』はつれづ 鈴木 その分かれ目は、お話としてのウェ ルメイドということでしょう。起承転結が が嫌いという人は周りに結構います。 もハウルのことが好きなんだから、そんな 宮 崎 駿 は そ れ ま で、 誰 に 向 け て 映 画を作るんだということをやってきたと思 こういう展開の唐突さも含めて、 『ハウル』 歳の女の子に向けて作っている。 でも 『ハ 宮崎 うんです。それがなくなったのが 『ハウル』 す。それですぐ後に、ハウルと会いたいか のか、まったく分からない」とイベントで にこれを作っていると感じたのは、お城を 宮崎 ただ絵はゴージャスだし、やってい ることも派手だから、そのギャップがはな も、もっと心の動きを汲み取ったリアルな ファンタジーの体裁をとっているけれど 館内のショップで 『ハウル』 のグッズを買っ るころ、 僕はジブリ美術館にいたんですが、 て い る の か な っ て。 『ハウル』をやってい 20 20 6 7 ©2004 二馬力・GNDDDT ©2004 二馬力・GNDDDT 川上 これは私小説っぽいですよね。 宮 崎 『 千 と 千 尋 の 神 隠 し 』 は 知 り 合 い の 10 がこうあってほしいという願望だけが純粋 鈴 木 敏 夫 × 宮 崎 吾 朗 × 川 上 量 生 加 減 に し た こ と で、 宮 崎 駿 監 督 が 世 の 中 な ぜ、 賛 否 両 論 だ っ た の か? 今 だ か ら 話 せ る 『 ハ ウ ル 』と『 ゲ ド 』の こ と なって「この街に居 ら れ な い 」 と 行 く あ て Special Talk Session のない旅に出る。こ れ は 本 当 の 話 だ っ た ら ©2004 二馬力・GNDDDT 川 上 さ ん の よ う に 深 く 観 て く れ る こ と で、 子 供 に 観 せ よ う と い う ん で す か ら( 笑 )。 語った映画はないん で す よ 。 し か も そ れ を が ね。 あ そ こ ま で 赤 裸 々 に 自 分 の こ と を 鈴木 これまで映画は公的なもので、個人 を語るべきではないといっていた宮崎 駿 材で、こんなことを試みたということでも。 川上 だから、僕にとっては『ハウル』が 最高傑作なんです。 フ ァ ン タ ジ ー と い う 題 はこういうことか、 と か ね 。 鈴木敏夫成分が『ゲド』 は多いのかなと思っ たというし、作品にも口出しをした。何か 督作ですよね。絵コンテを鈴木さんが教え た感じもして。これは吾朗さんの最初の監 ド的に無理矢理最後の敵を作って終わらせ 戦いは何だったのかと。ちょっとハリウッ は勝ったけれど、それは崩れた世界のバラ のクモ様との戦いです。クモ様との戦いに 川上 それに引き換え『ゲド』は……(笑) 。 やはりストーリーが単純すぎますよ。半分 父と同じ構成案、 違う表現で 生まれた『ゲド戦記』 前半ゲド に 感 情 移 入 す る の に 、 後半彼は戦わない。怒りの一番でした (川上) れなるままに、今の 心 境 を 語 っ た よ う な 映 画ですから。でも語 っ て い る ひ と つ ひ と つ には凄くリアリティ が あ る 。 今 自 分 が 持 っ 作 品 の 謎 が 解 け て く る。 一 方 で 吾 朗 君 は、 たんですけれど? ているものをすべて ぶ つ け た 。 年 を と る と そ こ に 自 分 の 親 父 を 観 て い る わ け だ よ ね。 鈴木 いや、作品には吾朗君が出ています よ。原作のどこをやったらアピールしやす んでいなかった第4 巻 『 帰 還 』 と 外 伝 を 読 なので映画にならな い と 言 わ れ て 。 ま だ 読 んですが、ずっと洞 窟 の 中 で 展 開 す る 物 語 人的には第2巻『こ わ れ た 腕 環 』 が 好 き な という案もあったけ ど 、 何 か 違 う な と 。 個 最初は原作の第1巻 『 影 と の 戦 い 』 を や る や れ ば よ か っ た の か な と 思 い ま す け れ ど。 宮崎 今から思えば原作3巻目『さいはて の島へ』の、ずっと 旅 を し て い る と こ ろ を いるんです。あれが 怒 り の 一 番 で し た ね 。 とロープに縛られて い て 、 解 説 者 に な っ て ていたのに、クモ様 と の 戦 い の 時 に は ず っ ピンチの時にはゲド が 助 け て く れ る と 思 っ 川上 もったいないと思ったのは、前半を 観るとゲドに感情移 入 す る ん で す 。 後 半 も になるのは当然なん だ か ら 。 つければ、それで解 決 す る の か と い う こ と 何だって、クモ様に集約させてね。でもやっ 鈴木 後になってそう思った。僕も共犯だ けれど、世界がおか し く な っ て い る 理 由 は 川上 クモ様のエピソードは、いらなかっ た気がしますね。 そこに力点を置いて い な い ん で す か ら 。 鈴木 物語がどうの こ う の と 言 っ て 見 逃 し て い た ら、 も っ た い な い と 思 う ん で す よ 。 川 上 やはり今度のブルーレイで、みなさ んもう一度観るべき映画ですよ。 ら、今では別の感想 も あ り ま す ね 。 では作り方と主題が変わってきましたか はそう感じましたけ れ ど 、 こ れ 以 前 と 以 後 をみんなに観せるの は ど う だ ろ う と 。 当 時 宮崎 生っぽくてイヤでしたね。生々しい ことを、勿体付けて 凄 い 映 像 で 描 く 。 そ れ もだめなんだと分かりましたから。 で す。 宮 崎 駿 と 同 じ こ と を や ろ う と し て はり『コクリコ』は作れなかったと思うん 宮 崎 『 コ ク リ コ 坂 か ら 』 が 終 わ っ て 思 う の は、『 ゲ ド 』 を や っ て か ら じ ゃ な い と や なくてはいけない。そこへの不満があった。 宮崎 駿としては、当然そこから進化してい して作っていたでしょう。でもそれを見た 吾朗君は親父の描いたものを見本や参考に 現で、そこに宮崎 駿は不満をもっていた。 も構成案は似てくる。問題は後半部分の表 それもベースに使っているから、どうして 翻 案 し た ら こ う な る という作品なんです。 て い る。 こ れ は『 ゲ ド 戦 記 』 を 宮 崎 駿 が 昔描いた絵物語『シュナの旅』が原案になっ ト を 見 れ ば わ か り ま す け れ ど、 宮 崎 駿 が を 言 っ て い る ん で す。 『ゲド』のクレジッ く大きな発言でしょう。彼は構成案のこと てもこうなった」と言いました。これは凄 鈴 木 映 画 が 完 成 し て か ら、 宮 崎 駿 の 感 想が面白かったんです。第一に「俺がやっ いと思うようになっていったんです。 味な話に惹かれて、そういうものをやりた した。 ときは、事件が起こらなきゃと思っていま もっと評判になったな。そういうことはだ が面白いし、すごくいい。あのままふたり きなのは前半ですね。アレンとゲドの会話 ら。僕は客観的に判断し難いけれども、好 映画は監督が現場で作っていくものですか いかとか企 画の部分では考えますけれど、 いう部分を強く表現しているよね。 『コクリコ坂から』では、前回よりもそう うふたつの問題があるんだよ。ただ今度の 上で出来るかと、表現として出来るかとい んだろう、吾朗君だって。これは気持ちの らいじゃないと。それで彼女のほうも抱き 弱いの。もっと相手の骨が折れるようなく を抱きしめるでしょう。あの抱きしめ方が 鈴木 僕が予想する『ゲド』に対する宮崎 駿の一番の不満は、最後にアレンがテルー 川上 確かにそういうところはありますね。 す。でも吾朗君はサラッといくんだよね。 官能的というのがジブリの正統派なんで ブリアニメというのは高畑、 宮崎を含めて、 ど、吾朗君への不満はそこなんですよ。ジ 鈴 木 「 宮 さ ん の 画 面 は、 い ち い ち 官 能 的 だ」という高畑 勲の名言がありますけれ 宮崎 おそらく肉感的なんですよね。いち いち官能的というか(笑)。 鈴木 ゲドとテナーの再会なんかは、宮崎 駿だとすごいことになるわけですよ(笑) 。 でも良くなるのか。 あの映画に対するストーリーの不満はどう 鈴木 人物たちの登場の仕方も良かったか ら、それで僕は安心した。それでみんな出 は一生懸命理屈で描いていました。 ンスとは関係ないわけです。じゃあ、あの くらいまでは面白かったのに、問題は後半 息子としてそれは、 ど う な の ? んでみると、4巻目 で は ゲ ド が 魔 法 を 使 え やってもこうなった。でも俺がやれば表現 鈴 木 『 ゲ ド 』 の 宮 崎 駿 の 感 想 は、 「俺が いぶ経ってからわかるんです。やっている の 会 話 だ け で す す め て い っ た ら、 作 品 は なくなって、ただのおじさんになっている。 る ん だ ね。 映 画 に は 二 種 類 あ る ん で す よ。 違っている。吾朗君の中で変化が起きてい とクモ様との戦いは、僕は好きだったけれ 鈴木 展開は王道に乗っ取っているんだも ん。後半は油断したね。ただ最後のアレン どうすればいいのか分からなかった。 てきて、これからどうするとなってから。 ストーリーが単純で表現が豊かな作品と、 ど。次に吾朗君は本当に単純な物語をやっ は違うぞ」ということに、 終始するんです。 ストーリーが複雑で表現が単純なのと。『ゲ いく物語だったんで す 。 そ う い う も の に 共 ド』の前半部分はストーリーの展開はなく たほうがいいと僕は思っていますよ。 宮崎 どうにもならなくて終わればよかっ た ん で す よ ね( 笑 )。 で も あ の と き に は、 て、 ちょっとした表情の変化で魅せている。 宮 崎 僕も今度は、ストーリーが単純で表 現が豊かなものをやりたいと思っています。 鈴木 抱きしめるシーンだけでも今回の映 画はいっぱいあって、それが『ゲド』とは 違えて力を失った男 の 話 と か 、 や た ら と 地 宮崎 駿は「俺がやってもこうなった。 でも表現は違うぞ」と言っているんです (鈴木) そこが良かったと思うんです。 川上 それは観てみたいですね。同じ構成 案 で も 宮 崎 駿 さ ん の 表 現 だ っ た ら、 僕 の ©2006 二馬力・GNDHDDT 感を覚えました。外 伝 の 魔 法 の 使 い 方 を 間 返さないといけないんだよ。分かっている それもダメな人にな っ て い る 彼 が 再 生 し て 鈴 木 敏 夫 × 宮 崎 吾 朗 × 川 上 量 生 川上 最後にタグボートから俊君が海ちゃ んを抱き寄せる場面だとか。 な ぜ、 賛 否 両 論 だ っ た の か? 今 だ か ら 話 せ る 『 ハ ウ ル 』と『 ゲ ド 』の こ と 宮崎 前半は感覚だけで描いていて、後半 8 9 Special Talk Session ©2006 二馬力・GNDHDDT ◎ インタビュー 手嶌 葵 声 も 担 当 し た 手 嶌 葵。 彼 女 は は じ め、 歌 『 ゲ ド 戦 記 』 の 挿 入 歌『 テ ル ー の 唄 』 で 歌手デビューを飾り 、 ヒ ロ イ ン ・ テ ル ー の 小説を読むように脚本と向き合っていまし んなこと を言えて何を言えていないのか。 「テルーが どんな女の子なのか、彼女がど りにキャラクターを読み取っていった。 声を録音したときには、まだテルーの絵 が出来上がっていなかったので、脚本を頼 の作品で本当に良かったですね」 た気がして。だから『ゲド戦記』が初めて れであなたはいいんだよ”と言ってもらえ 認 め ら れ た 気 が し て 嬉 し か っ た で す。 “そ ま し た が、 『テルーの唄』で私の歌い方が れで周りはいいのかなと思ったこともあり 手で、淡々と歌うタイプだったんです。そ い、観る側に言い聞かせる部分も入ってい するときは、夢もあるけれど、ちょっと怖 いました。ジブリさんが児童文学を映画に ていた世界が鮮やかに表現されていると思 ホート・タウンなどは、自分がイメージし 立 つ 草 原 や、 ア レ ン が 迷 い 込 む 混 迷 の 町 原作は違うと思いましたけれど、テルーが い唄なんだろうって(笑)」 合っていて。ただ全 体 と し て は 、 何 て 悲 し 語とちょっともの悲 し い メ ロ デ ィ が と て も られていると感じま し た 。 そ の 綺 麗 な 日 本 に詞を読んで、とて も 綺 麗 な 日 本 語 が 並 べ 作曲されたのは谷山 浩 子 さ ん で し た 。 最 初 間 が 短 か っ た で す ね。 作 詞 は 吾 朗 さ ん で、 ルーの唄』を歌う段 階 に な る ま で 、 結 構 時 「 ジ ブ リ さ ん に お 話 を い た だ い て か ら『 テ る感じがしました」 たので。自分に似てい 言えないところがあっ がら、言いたいことが だろうか?』と思いな まれて『これでいいん 高校生の時、大人に囲 なんだろうって。私も ら強がっている女の子 女文学集を、子供のと で、家にあった少年少 ませない家庭だったの 「元々両親が漫画を読 でに読んでいたという。 の原作も中学のとき、す があった。 『ゲド戦記』 書委員長も務めたこと 実は彼女は読書家 で、小学校の時には図 が、自分らしい愛の歌になると思いました。 はなく大切な友達や家族に向けて歌うほう 人に向けた愛の歌です。でも私は、恋人で 「 『さよならの夏』は元々、大人の女性が恋 そして今年、吾朗監督の『コクリコ坂か ら』では主題歌『さよならの夏』を歌った。 感じがしますね」 ミックスされていて、バランスが丁度いい 一方で海外の史跡や竜など欧米の雰囲気も 歌う人間はオーディションで決めると聞 か さ れ て い た が、 す ぐ に 彼 女 が 選 ば れ た 。 アルバム『ゲド戦記歌 映画の内容も高校生の初々しい恋物語だ 程なくテルーの声も オ フ ァ ー さ れ る 。 集』が役に立った。 ヒロインの友人役をやらせてもらいまし し、主人公たちの両親の過去も描かれます。 「 最 初、 声 の 出 演 は お 断 り し た ん で す 。 演 「あの歌集はすべて吾 た。『 ゲ ド 戦 記 』 の と き は、 吾 朗 さ ん 助 け きから読むのが好きで 技の勉強もしていな か っ た で す し 、 ジ ブ リ 朗さんが作詞をなさっ 絵が入った本などを読 てくださいという感じでしたが、今度は一 彼らは両親が愛し合って自分たちがいるこ 作品はきちんとした 俳 優 さ ん や 声 優 さ ん を ていたので、映画の中 んでいて、童話やファ 緒に頑張りたいという気持ちで臨めまし した。『ピーターパン』 使 っ て 作 ら れ て き ま し た か ら、『 テ ル ー の に描かれていなかった ンタジー小説は、単に た。久しぶりに会った吾朗さんは、凄く私 や 『小公子』が好きだっ 唄』で歌手デビュー す る か ら と 言 っ て 、 中 テルーの気持ちが、歌 明るさや優しさを描い に 対 し て 明 る く 話 し て く だ さ い ま し た! またその役柄を理解 する上で、同時期に録 途半端に私が参加し て い い の か な と 思 っ た 集に書かれているん た世界ではなく、怖くて暗い中に光が見え 話もたくさんして、すごく楽しく仕事をさ 音していたファースト んです。でも吾朗さ ん が 、 私 の 唄 を 劇 中 に じゃないかと。それだ る感じだと感覚的に思っていました。です せていただきました」 とを知る物語ですから、家族を思い浮かべ 使うから、唄とテル ー は 同 じ 声 で 行 き た い けでなくアレンの歌もありましたから、テ からジブリ作品でも『となりのトトロ』の ながら歌えたことはよかったと思います」 とおっしゃったので 。 そ れ な ら 吾 朗 さ ん に ルーや彼女の周りの人たちの気持ちが何と よ う に 明 る く て か わ い い も の よ り も、 『ゲ 二度あることは三度ある。また宮崎吾朗 監督と組む機会があれば表現者としてさら たんですが、イギリス 力を貸してもらって 一 生 懸 命 に や れ ば 、 ど なく歌詞から分かって、アフレコにも活か ド戦記』は自分に合っているかなって。最 に成長した彼女を見ることができるだろう。 の児童文学が持つ、暗 うにか大丈夫かなと 思 い ま し た 。 ア フ レ コ せ た 気 が し ま す。『 ゲ ド 戦 記 』 は 準 備 段 階 初にお話をいただいたとき、原作のどこを い雰囲気に惹かれてい は、はじめに仮の本 読 み を 2 日 く ら い か け では緊張したんですけれど、 凄く楽しくて。 映画にするのか興味がありました。映画と でも小さ な役をお願いします”と言って、 てやった後、本番に 臨 み ま し た 。 急 に 怒 る 作品を作り上げていく過程では、勉強にも 自分から声優で参加することも志願した。 「せっかくの機会ですから“役をください。 とか真面目な感じで 怒 鳴 る こ と が な か な か なりました。私は楽しい感情を出すのが苦 た ん で す。 ア ー サ ー・ 声で表現出来なくて 、 一 言 ず つ 吾 朗 さ ん に ラッカムの写実的な挿 て、その感覚は日本人的だと感じるんです。 た。おそらくテルーは頑固で、怖がってい ●てしま・あおい 手として鈴木敏夫プ ロ デ ュ ー サ ー と 宮 崎 吾 不安だった自分の歌い方を、 ” これでいいんだよ と “ 言われた気がしたんです NOW ON SALE 『Collection Blue』 YCCW-10162 2,625円 1987年生まれ。鈴木敏夫と宮崎吾朗に 見出され、『ゲド戦記』 で主題歌・挿入歌 の歌唱、ヒロインの声も務めることに。 デビュー曲『テルーの唄』 はロングヒット を記録。映画『コクリコ坂から』 では再び 主題歌を歌唱した。現在、コレクション アルバム 『Collection Blue』 が発売中。 るのを見せたくないか Aoi Teshima 朗監督に見出された 。 最初はテルーの 役 を お断りしたんで す 手嶌 葵が『ゲド戦記』で歌手としてデビューしたのは18歳の時。 宮崎吾朗監督の第2作『コクリコ坂から』を経て、 彼女はジブリ作品にどんなシンパシーを感じているのだろうか。 アドバイスしてもら い ま し た 」 ©2006 二馬力・GNDHDDT 10 11 吾朗監督のミューズが語る ジブリ作品とのシンパシー (パナソニック ハリウッド研究所所長) 柏木吉一郎 Yoshiichiro Kashiwagi 容量の中に収めなくてはいけないことで で見ていただくため に 画 を 作 り 込 ん で い ま 光で映像を見ている 。 私 た ち は ス ク リ ー ン スクリーンの場合は 、 光 を 当 て て そ の 反 射 奥井 フラットパネルのTVはバックライ トで光を透過させた 映 像 な ん で す 。 し か し た大前提として“圧縮ひずみ”を出さない くてはいけませんから厳しいんですよ。ま 場合と同じ質感や画の柔らかさを表現しな たデータレートの中で、スクリーンで見る 取られることになる。本編に使える限られ 典が増えれば増えるほどそちらにデータを 柏木 例えば映像にタイル上のブロックが 出てしまうひずみですとか、アニメーショ Atsushi Okui スクリーンで観た作品の 柔らかさを再現! 『ハウルの動く城』と『ゲド戦記』のブルー レイ化にあたってはスタジオジブリの映像 部部長で、これまでジブリ作品の映像演出 や撮影監督を務めてきた奥井 敦と、ブルー レイの映像圧縮技術を開発したパナソニッ ク・ハリウッド研究所の柏木吉一郎が連繋 し て 作 業 し た。 ふ た り に 今 回 の 2 作 品 と、 ジブリ映画をブルーレイ化することの難し さについて伺った。 ● おふたりの作業の流れを教えてください。 も一番高かったんじゃないかな。パーツも ブリの試写室で上映した状態が再現されて 奥井 それは明らかに違いますね。ブルー レイではデジタル作品に限って言うと、ジ 奥 井 『 ゲ ド 戦 記 』 は 宮 崎 吾 朗 監 督 の 第 1 作だったこともありますし、原作の世界観 な、微妙な色使いなんです。 かったんです。データレート的な問題もあ べての情報を再現するには、ちょっと苦し れました。それでも、映像が持っているす 開発の段階から参加していましたが、当時 柏 木 画 素 の 密 度 だ け で も ブ ル ー レ イ は、 DVDの6倍なんです。僕はDVDの規格 を作り出すために色使いを含めて、作品作 数年前でしたか 考えうる最高の仕様でDVDの規格は作ら りの段階からスタッフも苦労していまし りましたし、圧縮技術も す。その調整が難しかったですね。また『ゲ 柏木 データレートが下がることは、圧縮 によるちょっとした色ずれにも繋がるんで どうすればすべてを再現できるのか。そこ 毎回多くて、限られたデータレートの中で られていると思いますね。ただ特典映像が がりましたし、ジブリさんの要望にも応え ら、今と比べると見劣りします。ブルーレ ド戦記』は、それほど動きのある作品では が悩みの種なんですけれど。特典と本編の イになって圧縮の効率や性能ははるかに上 ない。アニメーションでは、動いていない データレートが一番いいバランスになるよ うに、いつも考えています。 奥井 そのバランスは、最初にブルーレイ 化した『崖の上のポニョ』からの付き合い ど、現在考えうる一番いい状態のソフトに の倍になると苦しいかもしれませんけれ ですから柏木さんにお任せして。特典が今 ユーザーとしてはこれまでのDVDと 気になると思うんですが? (奥井) ジブリ試写室で見た映像になるべく 近づけたいと思っています なっていると思います。 今回のブルーレイが、どれだけ違うのかが DVDでは成し得なかった ベストの映像を目指して の調整にも気を使いました。 とひずみが分かりやすくなるんですよ。そ たような色の世界なんです。 た。それで辿り着いたのが、あのくぐもっ 柏木 色合いが微妙でした。何も考えない で作業をすると少し色がずれてしまうよう をそのままお届けできる。 よ く 動 く し、 ア ニ メ ー シ ョ ン 特 有 の グ ラ 『ゲド戦記』に関しては? いますから、私たちが見て欲しかった映像 らかさ”ですね。映像の柔らかさに対する 見た目を再現する上で一番重要なのは、“柔 ていく作業になります。スクリーン上での ら、さらに調整や味付けをしながら仕上げ 見た目を再現して欲しいということですか ます。でもジブリさんは、スクリーンでの 同じに見えるようにしてくださいと言われ 柏木 他社さんの場合は、ブルーレイ用の マスターとして制作した映像を、そのまま 願いをするんです。 印象になるべく近づけてくださいというお た印象が違いますから、試写室で上映した TVのフラットパネルとスクリーンでは見 成画面です」と柏木さんに見ていただく。 で 完 成 し た デ ー タ を 試 写 し て、「 こ れ が 完 チェックをして作品を作り込みます。そこ ブリの場合は、ジブリの試写室で最終的な かを、柏木さんに伝えることです。通常ジ 成した映像として制作側が認識しているの ことです。大事なのは、どういうものを完 奥井 私の作業は完成した映画のデータを すべて漏れがなく、柏木さんにお渡しする | | デーションも『ハウル』は多いですから。 ハードルは、これまでのジブリ作品の中で (スタジオジブリ 映像部部長) 奥井 敦 こ だ わ り が ジ ブ リ さ ん は 大 き い で す か ら、 す。 すから、フラットパ ネ ル で 見 る と 硬 く 見 え 典をすべて入れることになりますから、特 てしまうんです。柏 木 さ ん は ス ク リ ー ン で 圧縮ひずみとはどういうものですか? ンの場合はイラスト線などのエッジの部分 ようにすっきりした線でなくなってしま 柏木 そのための特別なツールも開発しま した。また、我々が 開 発 し た エ ン コ ー ダ ー う。そういうひずみが出ないようにするの は、多くの調整パラメーターを持っていて、 それを変えることで 画 の 調 子 も 変 わ り ま す (映像を圧縮データに変換するシステム) し、動きのスムーズ さ な ど も 調 整 で き る ん (笑)。ひずみが見えないようにするための 柏 木 ま た 特 典 映 像 も 盛 り 沢 山 で す か ら、本編に使えるデータレートが厳しくて アできると信じていました。 お願いしていると思いましたけれど、クリ 奥 井 『 ハ ウ ル 』 の 場 合 は D V D 化 の と き にも苦労しています。今回も難しいことを をクリアするだけで大変でした。 ものだと、ひずみが出やすいんです。これ く城』のように絵柄が細かくて動きが多い が大前提なんですが、今回の『ハウルの動 ですね。そこにノイズが乗って元の映像の に、様々な調整をし て く れ て い ま す 。 ということもありますし。 ギガバイトの中に映画本編と映像特 出来るだけ要望に応 え よ う と し て い ま す 。 (柏木) 『ハウルの動く城』は圧縮ひずみが、 出やすい 作 品 で 大 変 で し た 映画館で見た作品の印象を、そのまま家庭へお届けする。 ブルーレイに対するジブリのこだわりを、制作担当者のおふたりに聞いた。 見た時の柔らかさや 風 合 い を 再 現 す る た め 50 12 13 | | 10 ブルーレイ制作秘話 です。ただ大変なの は 、 デ ー タ を 限 ら れ た 柏木さんの働く、パナソニック ハリウッド研究所 のブルーレイ・エンコーディングルームと、デジタ ルシアター(DLP シネマ画質評価ルーム)。 | | | | 『ハウルの動く城』 『ゲド戦記』 ◎ インタビュー きゃりー ぱみゅぱみゅ ジブリ作品がないと 日本人は生きていけないと、 た。 中には私も知らない曲があって、全部 1500件くらいコメントが返ってきまし 最高に素敵だと思うんです。それでCDを な大好きだと思うし、何と言っても音楽が んかかわいかったです。ジブリ映画はみん る大根の形をした、オシラ様という神様な 神隠し』でエレベーターのところに出てく たいか”という話になったとき、みんなが 友達と“ジブリ作品の中で、誰と付き合い 「ハウルって超絶イケメンだと思って (笑) 。 ウルの見た目も魅力なのだとか。 『ハウルの動く城』 今回ブルーレイになる は、彼女が好きなジブリ作品のひとつ。ハ 品が楽しめると思うんです」 そうしたらいろんな体験ができて、より作 たいなテーマパークを作って欲しいです。 りたいですから、できればジブリランドみ CGアニメーションが多くて、それはそれ から、とても嬉しかったです。今は3Dの 一枚手で描いているタッチのほうが好きだ になりましたよね。私はああいう風に一枚 ら『崖の上のポニョ』で、また全部手描き し、あの絵のタッチが好きなんです。だか 「特に日本を舞台にした作品は、観ていて たのは“素朴な絵”というフレーズである。 彼女がジブリ作品の感想として何度も言っ 話を聞いていて、彼女は絵から様々な感 情を受け取ることが多い感じがした。その 私は思っていますよ スCDアルバム『き ゃ り ー ぱ み ゅ ぱ み ゅ の の曲を聴き直してみました。そのブログの デレが好きな子が多いので、ああいうタイ “ハウル”と言うし。性格的にも今はツン ぱみゅぱみゅ。彼女 は 今 年 2 月 に ジ ブ リ 作 好きなんだろう 作 る と き、“ み ん な は、 ど の ジ ブ リ の 曲 が くる湯婆婆がやって い る 湯 屋 の モ デ ル だ と にある古い銭湯の建 物 が 、 映 画 の 中 に 出 て た て も の 園 ” と い う 場 所 が あ っ て、 そ こ われてたんです。実 家 の 近 く に “ 江 戸 東 京 テールにしていて“ 千 尋 に 似 て る ね ” と 言 生 の 時 な ん で す が、 そ の こ ろ 私 は ポ ニ ー 思い入れがあります 。 初 め て 観 た の は 小 学 ま す ね。『 千 と 千 尋 の 神 隠 し 』 に は、 特 に しまうんです。好き な 作 品 は 何 度 も 見 返 し ついついジブリ作品 コ ー ナ ー に 足 が 向 い て 魅力なんです。自分でそういう世界の中に 観に引っ張られていくのが、私にとっては して、あることがキッカケで不思議な世界 「ジブリ作品は何気ない日常からスタート 化したいという願望を持っているようだ。 自分で“脳内ファンタジー”なところが あると言う彼女は、ジブリの作品世界に同 ントリーロード』が、 人気が高かったですね」 ピュタ』の曲、 それと『耳をすませば』の『カ では『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラ ムを作りたかったんですよ。みなさんの声 の曲を、原宿系っぽくアレンジしたアルバ がいいんですよね」 最終的にハッピーエンドというのも気持ち も 印 象 的 だ っ た し、 映 像 が 凄 く 綺 麗 で す。 ね。この映画はしゃべる炎のカルシファー のおばあちゃんと重ねて見ちゃいました るところがあると思いました。だから自分 に優しくて、うちのおばあちゃんに似てい かわいくて癒されました。ソフィーも本当 なったとき、そのおばあちゃんぶりが凄く 最初は悪いんですけれど途中で本当の姿に で す。 映 画 の 中 に 出 て く る 荒 地 の 魔 女 が、 と私は、おばあちゃんがメッチャ好きなん プがいいと思うんじゃないですかね。それ ジブリの楽曲のCDアルバムを作った彼 女には、次なる野望としてぜひやってみた と私は思っているんですよ(笑) 」 ブリ作品がないと日本人は生きていけない たどの世代にも愛されていると思うし、ジ そういう絵のタッチが、私たち からも手描きであって欲しいと思います。 しました。だからジブリ作品は絶対にこれ 走ってくるポニョとか、その表現には感動 ニョ』では繊細な波の感じとか、波の上を Gでは表現できないと思うんです。 また 『ポ が描く素朴な少女の顔立ちなんかは3DC で観やすいし面白いですけれども、ジブリ ”とブログに書いたら、 品の楽曲の中から自 ら が 選 曲 し た リ ミ ッ ク 知って、その建物に 行 き た く て よ く 行 っ て 入 り た い と 思 い ま す ね。 『千と千尋』の世 代を含め 何度か見かけたこと が あ り ま す よ 」 い ま し た。 近 所 で 宮 崎 駿 さ ん ら し き 人 も 、 ? しみじみします。主人公の顔立ちも素朴だ ジ ブ リ セ ッ ト 』 を プ ロ デ ュ ー ス す る な ど、 人気投票の結果と、自分が好きな曲から選 ファッションモデルや歌手として活躍 し、世界中にファンを持つ、 歳のきゃりー 自他共に認めるジブ リ ・ フ ァ ン で も あ る 。 曲していったんです。誰もが好きなジブリ 1993年生まれ。原宿で写真を撮られたことをキッカケに読 者モデルとして活動を始め、ブログなどでその独特な“かわ いい” 世界観が女子中高生を中心に人気となる。'11年夏には ミニアルバム『もしもし原宿』 で歌手デビュー。収録曲とな る『PONPONPON』 は23ヵ国のiTunesで配信。世界から注 目を集める存在に。12月7日には新曲『つけまつける』 が全 世界で配信スタート。1月11日 (水) にCDがリリースされる。 Kyary Pamyu Pamyu ●きゃりーぱみゅぱみゅ を借りて観ています。レンタル店に行くと、 ハウルは超絶イ ケ メ ン で 、 大好きなんです(笑) モデルとして、歌手として、今、女子中高生の間で大人気の原宿系ガール、 きゃりーぱみゅぱみゅの世界観は、ジブリに影響を受けていた!? “ジブリが大好き”と語る彼女から、その理由を訊いた。 「 暇 が 出 来 る と、 今 も ジ ブ リ 映 画 の D V D 18 た。キャラクターも 面 白 い で す よ ね 。 マ ニ 供のときに観て大好 き で 、 思 わ ず 笑 い ま し が突然笑い出して壊 れ る 場 面 。 あ そ こ は 子 さんとお風呂に入っ て い る と き 、 お 父 さ ん 『となりのトトロ』でサツキとメイがお父 ンを言い合ったりし ま す 。 私 の 名 シ ー ン は 「みんなで映画に出てくるセリフや名シー り上がることがある と い う 。 彼女の友達にもジ ブ リ が 大 好 き な “ ジ ブ ラー”は多く、作品 の 中 身 を 話 し て い て 盛 いただきました。本当にジブリの世界へ入 さを出しながら、キキも強めに入れさせて て し ま う の で( 笑 )、 金 髪 で き ゃ り ー ら し するとキキの残念なコスプレみたいになっ 自分で再現したかったんです。ただ黒髪に に、どうしても『魔女の宅急便』のキキを ますよ。アルバムでもジャケ写を作るとき “ 出 て お い で ~” と 叫 ん で み た こ と も あ り くろくろす け”がいそうな場所を探して、 には会ってみたいです。 子供のころに “まっ 界はちょっときつそうですけれど、トトロ んかを好きで読んでいました」 す か ら 今 も 読 み ま す よ。 『ぐりとぐら』な 読んでいて楽しいし、気分がほっこりしま したね。それと私は、 絵本が好きなんです。 原話を読むと、けっこう残酷だなと思いま 「グリム童話なんかは、一通り読みました。 できたのだろうか? みゅは子供のころ、どんな児童文学を読ん ではファンタジー好きなきゃりーぱみゅぱ 『ハウルの動く城』はダイアナ・ウィン・ ジョーンズの児童文学を映画化したもの。 また彼女にとっての、リアルなのだろう。 ことと密着しているように感じた。それも 単なる絵空事ではなく、生活や生きている 生まれたときからジブリ作品が身近に あった彼女にとって、ジブリが描く世界は か叶えてみたい夢ですね」 じゃないかと思うので。それはぜひ、いつ を や っ た ら、 自 分 も そ の 世 界 に 入 れ る ん キャラクターの少女になった気持ちで声優 「ジブリ作品の声優をやってみたいんです。 いことがあるらしい。 アックかもしれませ ん け れ ど 『 千 と 千 尋 の 10 14 15 実はこの人も “ジブラー” だった! “私がジブリの世界を大好きな理由” 改めて考える 『ハウルの動く城』 『ゲド戦記』 の魅力 宮崎 駿と宮崎吾朗。ふたりの監督は、自分たちの映画にどんな思いを込めたのか。 その作品をもう一度鑑賞することで見えてくる新たなる魅力とは? 木 敏 夫 プ ロ デ ュ ー サ ー は「 今 度 の 宮 崎 駿 『ハウルの動く城』を作っているとき、鈴 は進化している」と言っていた。表面的に 見てもこれは、ジブリのタブーを破った映 画である。 歳の老女ソフィーを主人公に 者を誘う、宮崎吾朗監督の挑戦作なのだ。 語」であり、ファンタジーの枠外へと観る 背負いながら「行きて生き続ける人々の物 迷する現代に暮らす我々と同様に、現実を になっていくことだろう。つまりこれは混 めたテルーはさらに人間から孤立した存在 カは問題の原因を探り続け、竜として目覚 う現実と向き合わねばならないし、ハイタ との戦いを終えてもアレンは父親殺しとい た世界の1ピースでしかない。だからクモ いているに過ぎず、その存在も均衡が崩れ はだかるが、クモはハイタカへの私怨で動 後半には彼らの前に魔法使いのクモが立ち 解 決 さ れ な い 現 実 を 観 る 者 に 突 き つ け る。 円を迎えるのに対し、この作品は最後まで ある問題に対する解決策を持ち帰って大団 であり、主人公は冒険を経ることで成長し、 ファンタジーの大半は「行きて帰りし物語」 そ れ す ら 各 々 の 問 題 の 解 決 に は な ら な い。 擬 似 家 族 と し て の あ る 調 和 を 見 つ け る が、 彼 ら は テ ナ ー の 家 で 一 緒 に 暮 ら す こ と で、 が改善されるのかという術を誰も知らない。 いのか。登場人物たちは、どうすれば事態 たとき、人々は何を拠りどころにすればい する。ベースとなる価値観が見えなくなっ し、孤立することで生きる力を高めようと ルーは、他人との交流を出来うる限り遮断 ることは出来ない。暗い過去を持つ少女テ れた原因を探ろうとするが、答えを見つけ いの大賢人ハイタカ(ゲド)は、均衡が崩 る父の国王を殺して国を飛び出し、魔法使 界の変化に政治によって立ち向かおうとす 自分のダークサイドに怯えるアレンは、世 実を描いた作品である。死の影を背負った 世界を舞台に、混沌の中で生きる人々の現 『ゲド戦記』は均衡(バランス)が崩れた よって表現した大いなる実験作なのである。 愛した。 」ことの真実を、アニメーションに 実写映画でも描いたことのない「ふたりが られていたが、もっと素直に言えばこれは、 「ふたりが暮らした。 」というコピーがつけ ンスが味わい深い。公開時のポスターには こそこの作品は、ひとつひとつのシークエ 自由に自分の愛と向き合っている。だから いくのに対し、ソフィーやハウルはもっと 場人物はその段取りに行動が絡め取られて 愛の成就や破綻に向けて物語が展開し、登 て描いたのだ。 また恋愛映画のほとんどが、 る。つまり恋愛を説明ではなく、実感とし を、そのままアニメーションで表現してい 愚かにも思える恋愛中の男女の行動や言動 し、 宮崎監督は端から見れば滑稽だったり、 人間の心情告白を描くものであるのに対 くの恋愛小説、恋愛映画がその渦中にいる で全編が貫かれたものはなかった。また多 ソフィーとハウルのように“愛している” いる”に変わる青春映画は多々あったが、 カップルの気持ちが“好き”から“愛して の 恋 愛 映 画 に 挑 戦 し た。 そ れ ま で 主 人 公 ことがわかるはず。宮崎監督はここで直球 化の本質はそういう表面的な部分ではない る。 た だ 見 直 し て も ら え ば、 宮 崎 駿 の 進 リ作品とは、ルックスが明らかに違ってい 何かを獲得したり実現するそれまでのジブ だ。少年少女が、限られた自分たちの力で も在り”の世界を描いていることもそう したこともそうだし、魔法を使った“何で 90 16 17 宮崎 駿監督が絢爛たる絵の中に描き出す、惹かれあう男女の真実。 ブルーレイでは、細密な表現も見事に再現されている。 ミニマムな世界から、現実社会の大局を見据えた宮崎吾朗監督のデビュー作。 ブルーレイは映像の綺麗さにも驚くことだろう。 脚本・監督:宮崎 駿 プロデューサー:鈴木敏夫 声の出演:倍賞千恵子、木村拓哉、美輪明宏、 我修院達也、神木隆之介、大泉 洋 公開日:2004年11月20日 STAFF 父親の帽子店で働く18歳のソフィーは、あ る日、荒地の魔女に呪いをかけられ90歳の おばあちゃんになってしまう。居場所がな くなり街を出た彼女は魔法使いのハウルと 出会い、共同生活を始めることに……。 原案:宮崎 駿『シュナの旅』 (徳間書店刊) 監督:宮崎吾朗 脚本:宮崎吾朗、丹羽圭子 声の出演:岡田准一、手嶌 葵、田中裕子、 香川照之、風吹ジュン、菅原文太 公開日:2006年7月29日 多島海世界アースシー。世界の均衡が崩れつ つある原因を探っていたゲドは、父を殺し た王子アレンと出会い、旅を共にする。ホー ト・タウンに辿りつくふたり。そこでアレ ンは、謎の少女を助けるが拒絶され……。 『ハウルの動く城』 『ゲド戦記』 STORY ©2004 二馬力・GNDDDT STAFF STORY ©2006 二馬力・GNDHDDT “恋愛とは何か” を絵で表現した、 宮崎 駿の実験作 ファンタジーの形を借り、 答えのない現実を描く作品 宮崎 駿の著書から読み解く 児童文学は作品を作るとき 教科書になりました モリの翼をもったトカゲにしたくないので す。かといって、日本や中国の竜ともちが います。竜がこの物語の世界をとても奥深 岩波 書の第2パートは前述した小冊子に掲載さ メージしようとしていることが分かる。新 彼は児童文学を読むとき、文章からキャ ラクターの造型を想像したり、世界観をイ くしているのです」 少年文庫を語る』は、彼が長年親しんでき れたインタビューと、テレビ番組『ジブリ 宮崎 駿監督その人と作品は、児童文学か ら多くの影響を受けてきた。現在岩波新書 た岩波少年文庫を中心に、児童文学と自分 から発売されている『本へのとびら 冊。それだけでは な く 彼 の 映 画 を 作 る 上 で の 姿 勢 や 考 え 方、 の本棚』収録時に行われた阿川佐和子との とのかかわりを語った 対談を基に再構成されているが、ここでは | 3月 日の震災を経て新作映画の制作に着 1 の児童文学への想いを掘り下げてみよう。 伝えている。この本を手がかりに、宮崎 駿 手している、現在の心境を余すところなく し た 石 井 桃 子、 あ る い は『 い や い や え ん 』 外児童文学の翻訳者に興味を惹かれている が詳細に語られている。面白いのは彼が海 児童文学との出会いや自分にとっての魅力 文庫』の中からセレクトした 冊の短評を 『ゲド戦記』に関してもキャラクターの原 などの絵本を書いた中川李枝子を尊敬し、 1 れ た 小 冊 子 を 基 に、 宮 崎 駿 が『 岩 波 少 年 ことだ。外国の古典を翻訳して日本に紹介 この新書は3つのパートから構成されて いる。第 パートは昨年非売品として配ら 11 化したヨハンナ・シュピリ作『ハイジ』に プスの少女ハイジ』としてアニメーション 白 い。 例 え ば 彼 と 高 畑 勲 が か つ て『 ア ル どんなところに惹かれたかに着目すると面 掲載したもの。 彼がどんな作品を選んだか、 めて文字だけの本を読んだのは9歳の『人 駿の人生に即してダイジェストすれば、初 の 発 言 か ら 伺 え る。 児 童 文 学 体 験 を 宮 崎 ングなどに影響を与えていることがこれら 文学が、宮崎作品のキャラクターのネーミ た清水真砂子の翻訳を絶賛している。児童 名「スパローホーク」を「ハイタカ」とし 属し、そのサークルにいたおかげで児童書 ついて、その短評を抜粋してみよう。 を随分読むようになったとか。ただ『岩波 魚姫』 。大学に入って児童文学研究会に所 いますが、この作品はちがうと思っていま 少年文庫』 をまとめて読んだのは、アニメー いう人がいます。ぼくも半分位そう思って す。見、読みくらべてみて下さい。ぼくら 巻の短評には、本の内容ではなくアニメー このように自分たちの仕事を再評価して いるものもある。また『ゲド戦記』の第1 スに、 「これを」と出せる企画を持たずに、 通るわけじゃないんですが、何かのチャン た。探したところで、そのとおりに企画が 「アニメーションを始めて、映画の企画を ションの仕事をしてからだという。 ション作家ならではの視点が入っている。 手ぶらでいてもしょうがないわけです。そ た。この国だけではありません。破局は世 きていくのに困難な時代の幕が上がりまし 「突如歴史の歯車が動き始めたのです。生 「要するに児童文学というのは、 ど 「うにも けないと、 児童文学を例に挙げて力説する。 界規模になっています。おそらく大量消費 文明のはっきりした終わりの第一段階に ら読んだんです」 いう時代に彼はどんな作品を作り、何を伝 ろしい風が吹き始めた時代だという。こう そ う い う 今 を 宮 崎 駿 は 死 を は ら み、 毒 を含む、人生を根こそぎにしようとする恐 生きることの肯定を児童文学から受け取 り、アニメーションという形で再構築しな 思います」 児童文学が生まれた基本的なきっかけだと 入ったのだと思います」 『借りぐらしのアリエッ そ の 頃 に 彼 は、 ティ』の原作『床下の小人たち』と出会っ 栄子さんの『魔女の宅急便』をつくるとき 勉 強 に な り ま し た。( 中 略 ) た と え ば 角 野 に巧妙だなとか、そういうことはずいぶん り方として、構造として、これはひじょう 「感動した 本ももちろんあるし、話のつく ジーの世界を描いてきた。しかし今は、そ これまで彼はこの世が生きるに値するこ と を 子 供 た ち に 伝 え る た め に、 フ ァ ン タ のだと思います」 したが、その姿勢はこれからこそ問われる ちや、ときどき中年相手にぶれたりもしま 「僕らは、 こ 「 の世は生きるに値するんだ 」 という映画をつくってきました。子どもた 出される時代が来ることを願っている。 宮崎 駿が答えを出せない新しいファンタ こ れ か ら も 続 い て い く。 そ し て そ の 先 に、 ら れ る の か。 そ の 作 り 手 と し て の 格 闘 は、 ちにどんな“生きる”に値する人生を伝え がら表現してきた彼が、これからの子供た に、主人公の女の子をどういうふうに描く れを描くべきではないという。 なり刺激を受けたらしい。特にイギリス・ そういった物語の作劇法やキャラクター 作りに関しても影響されたが、挿絵にもか たちが ほ 「んとうに観てよかった 」と思え るファンタジーがあるはずですが、今の僕 ま す。 ( 中 略 ) こ う い う 時 代 で も、 子 ど も う幸せな映画を当面つくれないと思ってい ジーが、今を生きる少年少女によって生み か、ああこれならいっぱい教科書があると ヴィクトリア時代の『アンドルー・ラング には分かりません」 子どもたちが楽しみに観るような、そうい 世界童話集』に収録された、当時の画家た 向き合っているのだ。確かにそれは幸福を 『本へのとびら−岩波少年文庫を語る』 岩波新書 定価:1,050円 「 今 フ ァ ン タ ジ ー を 僕 ら は つ く れ ま せ ん。 ちの挿絵は、 枚の絵から物語が感じられ そういいながら彼は、関東大震災の場面 が登場する、自分の父親世代の日本を描い の父親は9歳で関東大震災を経験し、彼は た 新 作 映 画 に 取 り 掛 か っ て い る。 宮 崎 駿 歳で東日本大震災を経験することで、同 語るファンタジーにはならないだろう。だ じような風が吹いた父親の時代と、作品で 新書の第3パートは、今回の本のため新 たに行った インタビューを基にしたもの。 からと言って子供たちに絶望を語ってはい 日 の 震 災 を 経 て、 宮 崎 駿 が 子 供 た 『岩波少年文庫』だけではなく、宮崎 駿が 刺激を受けた児童文学の本の挿絵もふん だんに盛り込まれた、見ても読んでも楽 しい 1 冊。『岩波少年文庫の50冊』では有 名作品ばかりを選んでいるわけではない が、彼の私的な思いあふれる児童文学の ブックガイドとしても、ジブリ作品を読 み解く副読本としても面白い。 でいたからです」 思いました。それは児童書をたくさん読ん 宮崎作品にどんな影響を与えたのだろう。 えようとしているのか。 ん だ 」と い う も の な ん で す。 (中略)子ど もたちに エールとして送ろうというのが、 学 と は ち が っ て、 生 「 まれてきてよかった ならない、これが人間という存在だ 」とい う、人間の存在に対する厳格で批判的な文 自分たちで探さなければいけなくなりまし がいまでもできません。ありきたりのコー 「 (この物語に出てくる)竜を形にすること います」 はいい仕事をしたと、今でも誇りに思って 「アニメより原作を本で読んだ方がいいと 50 ている。 仕事の一環として読んだ児童文学は、 れでたまたまあった子どもの本を片っ端か 今ファンタジーを 僕 らはつくれません 『本へのとびら−岩波少年 文庫を語る』に掲載されて いる写真。宮崎監督の選ん だ 岩 波 少 年 文庫50冊 へ の 短評が、手書きで綴られて いる。400点を越える少年 文庫の中から、再読しなが らじっくり時間をかけてセ レクトしたのだとか。 生まれてきてよかったと 伝えるのが児童文学です て好きだったという。 1 ちに託す思いがここでは綴られている。 3月 11 Check ! 続きはこちらで! 宮崎 駿の “児童文学への想い” 岩波新書から10月に発売された宮崎 駿監督の著書から、 映画ライターの金澤 誠氏が宮崎 駿の児童文学への想いを読み解く。 1941年生まれ。東映動画 に入社後、高畑 勲と組ん でアニメ作品を発表。『ル パン三世・カリオストロの 城』で長編映画初監督、そ の後『風の谷のナウシカ』な ど数々の傑作を生み出す。 '85年、高畑氏とスタジオ ジブリを設立。『千と千尋 の神隠し』では、米アカデ ミー賞で長編アニメーショ ン部門作品賞を受賞した。 18 19 70 今、改めて確認したい児童文学の力、 そして気になる新作のこと ●みやざき・はやお 特別付録! 電子ジブリぴあ直筆しおり B lu -r a y D a ta 取材でご登場いただいた方々に、直筆でメッセージをいただきました。 プリントアウトして使うのもよし、ながめるだけでもよし。 工夫して使ってくださいね。 『ハウルの動く城』 【発売日】2011年11月16日(水) 【発売元】ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン 【ブランド】ジブリがいっぱいCOLLECTION 2004年製作/日本/本編:約119分 © 2004 二馬力・GNDDDT 《ブルーレイディスク》セル用 7,140円(税込)/6,800円(税抜) 【価格】 BD50/1枚/MPEG-4AVC 【仕様】 【画面サイズ】 16:9ワイドスクリーン 1920×1080P FULL HD 日本語(2.0chステレオ/リニアPCM) 【音声】 日本語(6.1ch/DTS-HDマスターオーディオ (ロスレス)) 英語、フランス語(5.1ch/DTS) ドイツ語、イタリア語、韓国語、広東語 北京語(5.1ch/ドルビーデジタル) 【字幕】 日本語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、韓国語 中国語(繁体字・広東語)、中国語(繁体字・北京語) 【映像特典】 ○絵コンテ(本編映像とのピクチャー・イン・ピクチャー) ○アフレコ台本 ○世界のハウル(約9分) ○原作者 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ インタビュー(約8分) ○英語吹き替え版 監督 ピート・ドクター インタビュー(約7分) ○メビウス・宮崎駿 対談(約17分) ○全米プレミア試写 記録映像(約11分) ○ラセターさん、こんにちは(約16分) ○ハウルの城はこうして動いた。 (約20分) ○「ハウルの動く城」音図鑑~音と風景~(2005年5月放送) (約28分) ○予告編集 TM ※特殊パッケージ仕様 『ゲド戦記』 ◎きゃりーぱみゅぱみゅ/作 【発売日】2011年11月16日(水) 【発売元】ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン 【ブランド】ジブリがいっぱいCOLLECTION ◎手嶌 葵/作 ◎川上量生/作 ◎鈴木敏夫/作 2006年製作/日本/本編約115分 © 2006 二馬力・GNDHDDT 《ブルーレイディスク》セル用 【価格】 7,140円(税込)/6,800円(税抜) 【仕様】 BD50/1枚/MPEG-4AVC 【画面サイズ】 16:9ワイドスクリーン 1920×1080P FULL HD 【音声】 日本語(2.0chステレオ/リニアPCM) 日本語(6.1ch /DTS-HDマスターオーディオ (ロスレス)) 英語、フランス語(5.1ch/DTS) イタリア語、韓国語、広東語、北京語(5.1ch/ドルビーデジタル) ドイツ語(2.0chサラウンド/ドルビーデジタル) スペイン語(2.0chステレオ/ドルビーデジタル) 【字幕】 日本語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、韓国語 中国語(繁体字・広東語)、中国語(繁体字・北京語) 【映像特典】 ○絵コンテ(本編映像とのピクチャー・イン・ピクチャー) ○アフレコ台本 ○予告編集 ○ゲド戦記 音図鑑Vol.1「『テルーの唄』はこうして生まれた。」 (約30分) ○ゲド戦記 音図鑑Vol.2「映画音楽はこうして生まれた。」 (約60分) ○公開記念特番「岡田准一『ゲド戦記』との出会い」 (約44分) ○キャスト・アフレコ&インタビュー(約48分) TM ※特殊パッケージ仕様 21 ◎宮崎吾朗/作 ©2011 高橋千鶴・佐山哲郎・GNDHDDT 20 ©2006 二馬力・GNDHDDT 『ハウルの動く城』 『ゲド戦記』ブルーレイ発売記念 電子ジブリぴあ 発行人 唐沢徹 編集人 酒井靖仁 発 行 ぴあ株式会社 Staff 執筆 金澤 誠 写真 中川有紀子(P2-3、P12)/源賀津己(P4、P14)/星野洋介(P19) デザイン 小泉太郎 編集 古口春菜 製作 岡 政人 編集協力 東宝アド株式会社 宣伝企画室/デジタルメディア戦略室 技術協力 日本デジタルオフィス株式会社/日本マイクロソフト株式会社 企画 西田信貴 Special Thanks, スタジオジブリ ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン 株式会社ヤマハミュージックコミュニケーションズ 佐多美保、高野詩織 株式会社ランデブー 東村昌紀、杉本一徳 パナソニック ハリウッド研究所 柏木吉一郎 ◎宮崎吾朗/イラスト ©2011 高橋千鶴・佐山哲郎・GNDHDDT アソビシステム株式会社 中川悠介、野崎 誠、山崎 諭、渡辺夏姫 きゃりーぱみゅぱみゅ ©2004 二馬力・GNDDDT © 2006 二馬力・GNDHDDT 本書の内容は、2011年12月現在のものです。 本書の無断転載・画像等の無断使用を禁じます。