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住宅における再生可能エネルギー発電設備の導入意向の要因 分析
Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No. 6 住宅における再生可能エネルギー発電設備の導入意向の要因 分析 Factor Analysis of Introduction Intention of Renewable Energy Power Generation in Households 鷲 見 宏 明 *・ 長 谷 川 泰 洋 Hiroaki Sumi ** ・ 林 希 一 郎 Yasuhiro Hasegawa * Kiichiro Hayashi (原稿受付日 2014 年 2 月 14 日,受理日 2014 年 10 月 10 日) To accelerate the introduction rate of renewable energy in households, it is crucial important to pull up the citizen’s mind to install renewable energy equipments. For the effective support policy making, it is necessary to grasp the actual situation of the citizen’s intention of the introduction of renewable energy power equipments to households and to clarify the decisive factors of the intention. In this study, we conducted the questionnaire survey on the introduction intention of renewable energy equipments to an individual house in Nagoya and Kanazawa cities. We analyzed the regional differences of two cities, the decisive factors of the intention and the impacts of the information affecting the intention. As a result, we found that the intention had a correlation with many factors, such as interests in environmental problems, power-saving actions, time preference, and participation in volunteer and NPO activities. In addition, it was suggested that the stimulation of interests in environmental problems, the increasing supply of large renewable energy power plants, and the enhancement of subsidy systems would be effective to increase the intention rate. られる.このため,住宅における再生可能エネルギー発電 1.はじめに 地球温暖化等の環境問題や化石燃料資源の枯渇への対策 設備の導入意向の実態とその導入意向の背景となる要因を ⅰ) 実証的に把握する必要性は高いⅳ). として,再生可能エネルギーの導入が進んでいる .2011 (平成 23)年 3 月の東日本大震災および福島第一原子力発 電所の事故後は,日本国内においてエネルギー,とりわけ 2.既往研究と本研究の視点 電力に対する関心が高まり,最適な電源構成(ベスト・ミ ックス)などの議論がなされている 再生可能エネルギーの賦存量(ポテンシャル)や利用可 1) .住宅における再生 3) 能量の推計を行った研究として,中口ら 5) 6) 7) ・藤野ら 4) ・分 8) 可能エネルギー発電設備の導入の促進のために,国による 山ら ・杉原ら ・分山ら ・鷲見ら が挙げられる.これ 太陽光発電の設置補助金が 2009 年から再開し,また地方自 らの研究では,住宅における太陽光発電等の推計では設置 治体による設備導入に対する補助金も設定され,さらに 面積を世帯数によって定義して,住宅での再生可能エネル 2012 年 7 月 1 日からは法律に基づき固定価格買取制度によ ギーの利用量を検討しているが,住民等の設備導入意向を る余剰電力の買い取りが開始されるなど,再生可能エネル 考慮に入れた推計ではない. ギーの導入を推進するための制度の整備も進んでいる 2) ⅱ) 住宅用太陽光発電の導入意向ⅴ)に関する研究として,白 . 以上のような背景のもと,再生可能エネルギーの供給可 井ら 2) では,住宅用太陽光発電に対する補助金の全国の地 能性に関する調査や研究の蓄積が進んでいる(詳しくは2 方自治体における導入実態,補助金に対する住民認知,導 節参照) .しかし,実際の導入状況を見ると,民生分野での 入意向の規定要因等を分析している.導入意向の規定要因 再生可能エネルギー供給にとって重要な住宅(自宅)にお のモデル化では,設置条件(初期投資負担額・売電収入) ける当該設備の導入はあまり進んでいない.例えば,10kW だけでなく設置主体による太陽光発電の評価も導入意向を ⅲ) 未満の太陽光発電設備の既設置率 は,全国では 3.45%, 規定し,経済的支援だけでなく,太陽光発電の導入による 名古屋市では 1.53%,金沢市では 1.33%であり,低い水準 社会性・便益性に関する認知の向上を図ることで導入意向 にとどまっている.住宅における再生可能エネルギーの普 を高めることができると示している.また,補助金の認知 及のためには,種々ある要因の 1 つとして住民の導入意向 に関連して,太陽光発電全般に関する認知や情報入手先に を把握し,効果的な普及施策を検討することが重要と考え ついて調査した結果,地方自治体における設置補助金制度 を住民が十分認知しておらず,啓発事業等も役割を発揮し * 名古屋大学エコトピア科学研究所 〒464-8601 名古屋市千種区不老町 ** 名古屋大学大学院環境学研究科 〒464-8601 名古屋市千種区不老町 ていないことを示した.また,白井ら 9) では,住宅用太陽 光発電の既設置者と未設置者に WEB アンケート調査を実 施し,発電設備の導入意向を設置行動に移行させる要因や 1 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No. 6 手段を分析している.導入意向は社会性・便益性認知(地 表1 球温暖化防止等の問題解決・家計便益等)によって規定さ れ,設置行動は社会性・便益性認知に加え,負担容易性認 アンケート調査概要 対象 20歳以上の男女 地域 名古屋市,金沢市 知に強く規定されることを明らかにしている.情報手段と サンプル 各市350サンプル,計700サンプル(すべて有効回答) して,社会性・便益性認知を高めるためには多様なメディ 時期 アが有効だが,負担容易性認知を高めるには専門性の高い 方法 2013年12月5日(木)~2013年12月9日(月) インターネット調査会社(楽天リサーチ株式会社)の モニターを利用したWEBアンケート 基礎属性(年齢,性別,職種,個人収入所得,環境・ エネルギー関係のNPO・ボランティア活動への参加経 験・意向,日頃利用する情報媒体,自宅の建て方,家 族構成,電気代) 再生可能エネルギー発電設備の導入意向 環境問題への関心(回答者特性) 省エネ・節電配慮行動(回答者特性) 行動状況 具体的な行動項目(省エネ・節電行動得点) エネルギー問題に対する知識(回答者特性) 調査項目 メディアを活用することが効果的であると示している.さ らに,八木田ら 10)では,2011 年夏の節電行動の規定要因に ついて,先行研究で挙げられている環境リスク評価・対処 有効性評価・社会的責任感・社会規範評価・便益評価・費 用評価・実行可能性評価に加え,先行研究以外の規定要因 としてリスク評価(危機感・脅威感)と震災関連の文言を 時間選好(回答者特性) 各種情報提供後の再生可能エネルギー発電設備の導入 意向(表3) 売電収入目的での導入意向 再生可能エネルギーの大型発電施設からの電力購入意 向 追加して分析している.加えて東日本大震災後の状況を勘 案して,メディアによる節電行動への影響(節電知識・他 者取組・電気予報)も検討している.メディアの影響では 節電知識が,規定要因では有効性評価・危機感・脅威感・ 便益評価が,それぞれ効果的と示している. 表2 以上のように,再生可能エネルギーについて利用可能量 (賦存量)の推計は行われているが,住宅(民生部門・家 庭)における再生可能エネルギーの利用可能量を推計する 年代 年齢を集約(20代,30代,40代,50代,60代以上) 性別 男性,女性 業種を集約(1次産業従事者,2次産業従事者,3次産業従事 者,学生・主婦・主夫,無職・その他) 200万円未満,200~300万円未満,300~400万円未満,400~ 500万円未満,500~600万円未満,600~700万円未満,700~ 800万円未満,800~900万円未満,900~1000万円未満,1000 万円以上 職種 際,実際に設備が導入される可能性に関わる導入意向率は 勘案されていない.また,情報の影響について,入手先の 個人収入所得 媒体は検討されているが,具体的に情報の中身の導入意向 NPO・ボランティア 活動への参加 に対する影響についての検討は十分なされていない. 情報媒体 本研究では,住民の再生可能エネルギー発電設備の導入 自宅の建て方 意向(以下, 「導入意向」とする)に及ぼす基礎的な要因の 家族構成 電気代 把握を目的とし,アンケート調査を実施した.具体的には, 基礎属性の構成 参加していない,参加してみたい,参加している 口コミ,新聞,雑誌,ラジオ,テレビ,インターネット(分 析時は,口コミと新聞と雑誌,ラジオとテレビをそれぞれ統 合) 一戸建(持ち家),一戸建(賃貸・借家),長屋建(持ち 家),長屋建(賃貸・借家),共同住宅(集合住宅) 家族構成人数(うち,未成年の人数) 世帯の月平均の電気代 住民の基礎的な属性別(基礎属性,環境問題への関心等の 回答者特性)の導入意向の実態把握と,導入意向の決定に 上男女)に合わせて各市 350 サンプル,合計 700 サンプル 影響を及ぼすと考えられる要因の分析を行った. を回収した.ただし, 「金沢市 60 歳代以上女性」のみ調査 会社の登録モニター数の関係で人口構成比に合ったサンプ 3.研究の方法 ルの回収が困難なため,この層のサンプルの不足分を「金 3.1 沢市 50 代女性」から補填した.既往研究 9)においては,持 アンケート調査概要 アンケート調査の概要を表 1・表 2 に示す.本研究では ち家(一軒家)在住の家計決定権のある者に回答者を限定 インターネットによる WEB アンケートを実施した.アン したものがあるが,本研究では,住宅における再生可能エ ケート目的は,自宅に再生可能エネルギーの発電設備を導 ネルギーの発電設備の設置を将来行う可能性がある若年層 入したいかどうかについての意向調査とした.注意事項と の意見も導入意向の実態把握には重要と考えた.なお,実 して,1)個人の考えを回答する,2)単身赴任や下宿等を 施したアンケートは WEB モニター登録者というバイアス している場合は,自分が自宅(実家)で生活していると想 がかかるが,広範囲の住民に対して同時に安価でアンケー 定して回答する,3)「再生可能エネルギー」は化石燃料や トが実施できるため,本研究ではこれを採用した. アンケートの対象地域は,名古屋市と金沢市を選択した. 鉱物資源を使わず,繰り返し(半永久的に)使用可能な自 然にあるものを使うエネルギー(を使って発電した電力) これは,再生可能エネルギー発電の推計では各地域の自然 のこと,を記した.対象は世帯主であることや家計決定権 条件等がその供給量に大きな影響を及ぼすからである.例 の有無等に関係なく 20 歳以上の男女とした.調査対象であ えば,太陽光発電に影響する日射量(最適傾斜角日射量の る名古屋市と金沢市の性別・年代別の人口構成比(20 歳代 年平均値,kWh/m2・日)ⅵ)は,名古屋市では 4.21,金沢市 男女・30 歳代男女・40 歳代男女・50 歳代男女・60 歳代以 では 3.56 である.世帯年間使用電力量(MWh)ⅶ)は,名古 2 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No. 6 屋市が 5.78,金沢市が 7.64 である.また,補助金等の支援 表3 設問文 再生可能エネルギーの導入意向についてうかがいます.自宅に再生可能 エネルギーの発電設備を導入したいと思いますか? 将来,再生可能エネルギーの固定価格買取金額が下がった場合,再生可 固定価格低下 能エネルギーを導入したいと思いますか? 固定価格買取制度などで再生可能エネルギーの普及を図るとき,普及が 進めば進むほど価格は下がっていく傾向にありますが,一方その過程で 電気代上昇 制度の影響で電気代が上昇する可能性があります.この場合,再生可能 エネルギーを導入したいと思いますか? 再生可能エネルギーを導入するとき,国や自治体からの補助金などが 補助金なし まったくなく,自らが設置などの費用をすべて負担する場合,再生可能 エネルギーを導入したいと思いますか? 再生可能エネルギーを導入した後,維持・管理費が掛かりますが,再生 維持管理費 可能エネルギーを導入したいと思いますか? 将来,人口が減少し,エネルギー消費総量も減少した場合,電力の供給 人口減少 量に余裕が出てくる可能性があります.このような状況の中,再生可能 エネルギーを導入したいと思いますか? 将来,LED照明などの省エネ家電がいっそう普及した場合,省エネ・節 電が進み,電力消費(利用)量が減少し,電力の供給量に余裕が出る可 省エネ家電普及 能性があります.それを考慮したとき,再生可能エネルギーを導入した いと思いますか? 最後にもう一度,再生可能エネルギーの導入意向についてうかがいま 情報後意向 す.ここまでの設問を考慮した上で,もう一度伺います.自宅に再生可 能エネルギーの発電設備を導入したいと思いますか? (注)黄色が情報前意向,緑色が情報提供意向,青色が情報後意向を示す. 政策は国や都道府県単位だけではなく市町村単位でも行わ れている 情報前意向 2) ⅱ) .以上のことから,調査対象地域として太平 洋側と日本海側を代表する都市を 1 つずつ選択したⅷ). 3.2 情報前意向・情報提供意向・情報後意向の設問 項目 アンケートの構成 再生可能エネルギー発電設備の導入意向の設問は,再生 可能エネルギー発電に関する情報の提供前と提供後の 2 回 尋ねた.以下, 「情報前意向」, 「情報後意向」とする.なお, 「情報後意向」の設問には,アンケート内で提示された情 報を考慮して回答するよう注意書きを付した.また,本研 究では,情報による再生可能エネルギー発電設備の導入意 向への影響を調査するために,関連する情報を提示したⅸ) のちに導入意向(以下,「情報提供意向」)を回答する複数 節電配慮行動(行動状況)である. の設問を設けた(表 3).アンケートには,個々の情報の影 響を分けて分析するために,これらの設問を行う前に,そ NPO・ボランティア活動への参加についての選択肢は,1 れぞれの設問にある条件は重ねずに単独の設問として回答 が「参加していない」,2 が「参加してみたい」 ,3 が「参加 するように,との注意書きを記した.ここで提供する情報 している」であり,数値が大きいほど参加意思が高い. は,既往研究や社会情勢を参考にして,固定価格買取制度, 3.3 分析手法 補助金(設備設置費用) ,維持管理費,将来の人口減少,省 本研究では,再生可能エネルギー発電設備の導入意向に エネ家電普及に関する内容とした.なお,本研究では,今 及ぼす基礎的な要因の把握と導入意向の決定に及ぼすと考 後予測される政策や社会状況等を勘案し,再生可能エネル えられる情報に関する知見を得るために,以下の 3 つの視 ギー発電設備を導入する誘因を低下させると考えられる情 点からの分析を行った. 報を情報提供意向の設問で提示した後,情報前意向と情報 (1) 地域間差の分析 地域間の違いの有無を明らかにするために,以下の分析 提供意向との意向差を求め,これを情報の影響についての を行った.①2 市全体および市別の再生可能エネルギー発 分析に用いた. 導入意向や関心・行動水準を問う設問では,「1:ない」 電設備の導入意向率を算出し,合わせて導入目的の結果も 「2:あまりない」 「3:どちらともいえない」 「4:少しある」 分析した.②2 市間の導入意向の違いについて,情報前意 「5:ある」等の 5 段階評定尺度(5 件法)で測定した.エ 向の地域間差に関する平均値の検定(t 検定)を行った. ネルギー問題に対する知識を問う設問(以下,知識問題) (2) 導入意向の要因分析 導入意向の回答者特性および決定要因を明らかにするた では,5 項目の中で正しいと思う個数を回答する設問(5 項目すべて正しい内容)とした.よって,回答は「1:0 個」 めに,以下の分析を行った.①情報前意向別に平均値を求 から「6:5 個」の 6 段階評価となる.また,具体的な省エ め,各設問の回答傾向を把握した.平均値の差の検定には ネ・節電配慮行動を問う設問では,10 項目の具体的行動内 一元配置分散分析を実施した.②各設問の相関係数を求め, 容の選択肢それぞれについて 3 段階で評価し,その合計得 関連のある要因間の相関を分析した.③情報による導入意 点(以下,省エネ・節電行動得点)を求めた.得点は, 「行 向への影響を検討するために,標本ごとに情報前意向と, 動していない・やっていない」を 1 点, 「気づいたら(一部) 情報提供意向および情報後意向との差を求め,情報の影響 行動する」を 2 点, 「必ず(全て)行動する」を 3 点とした. を分析した.差は, (情報提供意向)-(情報前意向)およ 合計得点は 10 点から 30 点の間となる.さらに, 「時間選好」 び(情報後意向)-(情報前意向)で計算した.④導入意 について,電力等のエネルギー問題について考えるときに 向の決定要因および情報の影響を回帰分析により分析した. どのくらい将来のことを考えて自らの意見を決めるかを問 前者では,情報前意向を従属変数,基礎属性等を独立変数 う設問を設け把握した.これは,どれほど先の将来を考慮 として順序ロジットモデルによる回帰分析を用いた.なお, して自らの意見を決定するかは,未来についての情報を受 独立変数の選択の基準は導入前意向と各項目の相関係数が け取る際に影響すると考えられるためである.選択肢項目 有意確率 p<0.05 で有意なもののみ投入した.その後,回帰 は 5 つ(考慮しない・関心がない,現在~数年先,数十年 分析の結果,有意確率 p>0.1 の変数および全回答者(n=700) 先,50 年前後~100 年先,100 年以上先)とした.その他, に聞いていない項目を手動で除外し,残りの変数で再度回 回答者特性に関する設問は,環境問題への関心,省エネ・ 帰分析を行った.後者では,情報前意向と情報後意向との 3 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No. 6 意向差を従属変数,情報前意向と情報提供意向との意向差 を独立変数として二項ロジスティック回帰分析を用いた. この分析では,提供した情報の内容が再生可能エネルギー 発電設備の導入に対しての誘因を低下させるものであるた め,情報前意向より情報提供意向が高まったまたは変化し なかった標本と,導入意向が低下した標本を分けて分析し た. (3) 自由回答の分析 アンケートの最後に意見やコメントを自由に記入しても 図1 らう設問(以下,自由記述回答欄)を設定した.得られた 導入意向のある発電方式 自由記述を書き出し,いくつかの見出し語で分類すること によって,導入意向の決定要因の分析に用いた変数につい 節電・省エネのため 電気代節約のため て関連する記述や用いた変数以外で導入意向の決定要因に 電気を自給するため 環境問題への対策のため 関連すると思われる内容の記述を抽出し,導入意向の要因 エネルギー問題への対策のため 補助金があるから を検討する際に考慮すべき事項を整理した. 流行しているから 近所や周りの人が設置しているから 非常電源として 売電のため 4.結果と考察 4.1 その他 再生可能エネルギー発電設備の導入意向率と導入目 0 10 20 30 40 50 60 70 ( 件) 的 できれば導入したい 必ず導入したい 既設置 アンケートの結果(n=700)では,「できれば導入したい 図2 (n=200)」「必ず導入したい(n=9)」を選択した回答者を 再生可能エネルギー発電設備を導入する一番の目的 導入意向のある標本とした場合,2 市全体の再生可能エネ ルギー発電設備の情報前導入意向率は 29.9%(n=209)で約 は名古屋市と金沢市のサンプル間に差はみられなかった. 3 割の回答者が自宅への設備導入の意向があった.再生可 再生可能エネルギー発電設備の一番の導入目的(図 2) 能エネルギー発電設備の既設置率は 2.1%(n=15)であった. は, 「できれば導入したい(n=200) 」 「必ず導入したい(n=9)」 市別(それぞれ n=350)の情報前導入意向率は,名古屋市 「既設置者(n=15)」を選択した回答者に尋ね,「電気代節 が 28.9%,金沢市が 30.9%であった.市別の既設置率は, 約のため」が最も多く,次いで「節電・省エネのため」 , 「エ 名古屋市が 2.3%,金沢市が 2.0%であった.再生可能エネ ネルギー問題への対策のため」 , 「電気を自給するため」, 「環 ルギー発電の利用可能量の推計を行う際に,導入意向率を 境問題への対策のため」が続いた.一方, 「近所や周りの人 1 つの変数として推計式に盛り込むことを考慮する可能性 が設置しているから」を選択した回答者は 0 人, 「流行して が考えられる(2節参照) .例えば名古屋市・太陽光発電の いるから」を選択した回答者は 1 人であった.節約に関す 場合は,0.289(名古屋市の導入意向率)×0.890(名古屋市 る選択肢が上位となり,環境・エネルギー問題への対策の の導入方式における太陽光発電選択割合)=0.257 で導入意 ために導入したいといった理由も多かった.一方,既往研 向率が 25.7%であり,この数値を踏まえると実際に利用可 究 能な量は,資源賦存量とは乖離する可能性が指摘できる. 目と情報の入手先との関係について,家族・友人・近隣の 設備導入する場合の発電方式(図 1)は,情報前意向に 人との会話も関係が強いとの報告があるが,本研究では, 9) では,太陽光発電の社会性・便益性についての認知項 おいて「どちらともいえない(n=292)」 「できれば導入した 導入意向に対しては「近所や周りの人が設置しているから」 い」「必ず導入したい」を選択した回答者(n=501)に複数 や「流行しているから」といった近隣の状況等の影響は少 回答で尋ねた.この結果,太陽光を 451 人(87.4%) ,太陽 なく,再生可能エネルギー発電設備の導入については個人 熱を 138 人(26.7%) ,小型風力を 94 人(18.2%) ,バイオ 自らの意思で決定を行っている結果が得られた. マスを 57 人(11.0%) ,小水力を 27 人(5.2%) ,その他を 4.2 情報前意向の地域差 9 人(1.7%)が選択し,多くの回答者が太陽光発電を選択 情報前意向について名古屋市と金沢市のサンプル間( 「既 した.市別では,太陽光発電は名古屋市の方が,小型風力 設置」と回答した回答者(n=15)は除いた)の平均値の差 発電は金沢市の方が,それぞれ割合が大きくなったⅹ).こ (地域差)について t 検定を行った結果,t(683)=0.105,p>0.1 れは日照時間等の気象・自然条件を回答者が勘案したもの となり,2 市のサンプル間に有意差は確認できなかった. と考えられる.なお,後述するように情報前意向について 名古屋市と金沢市では先述したように自然条件等が異なる 4 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No. 6 が,情報前意向には有意な差が認められなかった. 表4 本研究では再生可能エネルギー発電設備の導入意向や利 情報前 意向 項目 情報前意向別の選択肢および数値平均値 環境問題 への関心 省エネ・節電 配慮行動 省エネ・節電 行動得点 (10~30) 知識問題 (1~6) 時間選好 NPO・ ボランティア 活動への参加 個人 収入所得 電気代 用可能量について気候等の自然条件が影響すると想定し, 導入 したくない 3.29 3.23 19.43 4.42 2.63 1.07 3.04 11666 太平洋側である名古屋市と日本海側である金沢市を対象地 あまり 導入したくない 3.54 3.32 19.58 4.38 2.71 1.07 2.84 10775 どちらとも いえない 3.61 3.43 20.65 4.35 2.74 1.19 2.78 10811 できれば 導入したい 4.13 3.67 21.63 4.59 2.95 1.39 3.43 11734 必ず 導入したい 4.44 4.11 23.89 3.56 3.22 1.56 3.44 9778 既設置 4.20 4.00 21.60 5.07 3.00 1.33 2.53 8517 P値 0.00 0.00 0.00 0.03 0.03 0.00 0.08 平均値 (選択肢 または 数値) 域として選択したが,結果として導入意向に有意な差は見 られなかった.少なくとも両市間において,気象等の自然 条件が住民の再生可能エネルギー発電設備の導入意向に影 響を及ぼすことは確認できなかった.しかし,個々の回答 検定 有意 *** *** 者を個別に見ると,自由記述回答欄には地域差に関する記 述がみられた(詳細は 4.7 参照) . 表5 名古屋市および金沢市の間において導入意向には有意差 が認められなかったことから,以下の分析では両市の数値 Spearman 情報前 意向 を統合して分析を行った. 4.3 *** ** ** *** 知識 問題 売電収 入目的 0.78 * (注)表中の項目は表1に対応.また,***はP<0.01,**はP<0.05,*はP<0.1を示す. 環境問 題への 関心 省エネ 節電 行動 相関係数 省エネ 節電 行動 目的 省エネ 節電 行動得 点 大型発 電施設 からの 購入 NPO・ボ ラン ティア 活動へ の参加 .281** .286** .169** .157** .183** .335** .407** 時間選好 .135** .203** .143** .162** .135** .092* .086* .145** .077* (注)表中の項目は表1・2・3に対応.**:相関係数は1%水準で有意(両側).*:相関係数は5%水 準で有意(両側).有意な項目のみ表記(情報提供意向を除く). 情報前意向 情報前意向別の回答者特性 次に情報前意向と回答者特性との関係を示す.なお,本 節では回答者特性の傾向をみるために,データを連続型数 値として扱っている. 表6 情報前意向別の回答者特性平均値の一元配置分散分析に 固定価格 低下 よる検定結果を表 4 に示す.環境問題への関心,省エネ・ 正 0 節電配慮行動,省エネ・節電行動得点,知識問題,時間選 負 正-負 好,NPO・ボランティア活動への参加については有意な差 167 361 172 -5 情報前意向と情報提供意向の差 電気代 上昇 補助金 なし 184 371 144 40 138 306 256 -118 維持 管理費 137 322 241 -104 人口減少 181 331 188 -7 省エネ 家電普及 239 328 133 106 情報後 意向 197 361 142 55 (注)各情報提供意向を情報前意向と比較し,導入意向が上昇した標本数を「正」,変化しなかった標本 数を「0」,下降した標本数を「負」とする.数値は該当サンプル数. (p<0.05)があることが認められた.一方,電気代との関 係では有意な差は認められなかった. や相関があるとの結果が得られ,より遠い将来を考慮して 環境問題への関心や省エネ・節電配慮行動では,導入意 いる者の方が環境問題への関心が高いことが示唆された. 向がある回答者および既設置者の方が高い傾向にあった. 4.5 知識問題の正答率は「既設置者」が一番高くなった一方, 情報による導入意向への影響 本節の分析では, 「既設置」と回答した回答者(n=15)は 「必ず導入したい」を選んだ回答者の正答率は一番低かっ 除いた. た.時間選好では,導入意向がある回答者や既設置者がよ 情報による導入意向への影響を検討するために,情報前 り遠い将来を考慮してエネルギー問題を考える傾向にある 意向と,各情報提供意向および情報後意向を比較し,情報 ことが示された.NPO・ボランティア活動への参加では, 提供意向・情報後意向での選択が,正の方向(より導入意 導入意向がある回答者の方が参加する意思が高いことが示 向が高い選択肢)へ変化したか,負の方向(より導入意向 された.本研究では,時間選好について調査した結果,導 が低い選択肢)へ変化したかを調べた.その結果を表 6 に 入意向と時間選好の関係が有意に示された. 示す.6 つの情報(表 3)のうち,補助金なし,維持管理費 4.4 の情報提供意向が低下した.一方,省エネ家電普及の情報 情報前意向・時間選好と関係する要因 本節の分析では, 「既設置」と回答した回答者(n=15)は 提供意向は上昇した.提示したすべての情報を勘案した情 除いた. 報後意向では上昇の傾向を示した. 情報前意向および時間選好と,回答者特性との Spearman 自己が負担する費用の上昇に関する情報である補助金な 順位相関係数の一覧を表 5 に示す. しや維持管理費の設問で負の方向へ変化した者が多い.既 情報前意向との相関では,環境問題への関心とは 0.286 往研究 2,9) においても導入意向に負担容易性が関係するこ でやや相関があるとの結果が得られた.大型発電施設から とが示されているが,本研究でも自己負担費用が上昇する, の購入意向とは 0.407 で正の相関があり,NPO・ボランテ あるいは過大であることが再生可能エネルギーの導入・普 ィア活動への参加とは 0.281 とやや相関があった.導入意 及に妨げとなっていることが示唆された. 向が高いと,環境問題への関心,大型発電施設からの購入 4.6 意向,NPO・ボランティアへの参加意思が高いことが示唆 導入意向の要因分析 本節の分析では, 「既設置」と回答した回答者(n=15)は された. 除いた.分析ソフトは IBM 社の SPSS を使用した. 時間選好との相関では,環境問題への関心と 0.203 でや 導入意向の決定要因を明らかにするために,情報前意向 5 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No. 6 表7 導入意向の決定要因(順序ロジットモデル) B 標準誤差 Wald 有意確率 るため,情報前意向より情報導入意向が上昇したまたは変 95%信頼区間 下限 上限 化しなかった標本と,導入意向が低下した標本を分けて分 環境問題への関心 .301 .081 13.693 .000 .142 .460 析した(表 6).ここでは,導入意向が上昇したまたは変化 売電収入目的 .417 .085 24.323 .000 .251 .583 しなかった者を「1」 ,導入意向が下降した者を「2」と変換 .723 .107 45.288 .000 .512 .934 .731 .178 16.856 .000 .382 1.081 Cox・Snell Nagelkerke .263 .284 大型発電施設 からの購入 NPO・ボランティア 活動 モデル適合 表8 有意確率 .000 疑似R2値 して分析を実施した.その結果を表 8 に示す.B が回帰係 数,Exp(B)がオッズ比を表す.情報後意向と情報提供意向 McFadden .116 の質問項目は導入意向を聞く類似の内容であり(表 3) ,各 回答の相関がやや高い(相関係数 0.557~0.754)ことには 情報の影響(二項ロジスティック回帰) B 固定価格低下 標準誤差 .042 .018 .633 1.655 .403 3.330 電気代上昇 補助金なし 維持管理費 人口減少 省エネ家電普及 モデル係数のオムニバス検定 有意確率 .000 .413 .431 .382 .402 .373 .366 Wald .010 .002 2.754 16.975 1.168 82.579 R2値 Cox-Snell Nagelkerke R2 R2 .402 .653 有意確率 .919 .967 .097 .000 .280 .000 留意が必要だが,モデル係数のオムニバス検定における有 オッズ比 Exp(B) 意確率は p<0.01,Nagelkerke の R2 値は 0.653 が得られた. 1.043 1.018 1.884 5.233 1.496 27.945 有 意 確 率 p < 0.1 と な っ た 独 立 変 数 は , 補 助 金 な し ( B=0.633 ・ Exp(B)=1.884 ), 維 持 管 理 費 ( B=1.655 ・ Exp(B)=5.233),省エネ家電普及(B=3.330・Exp(B)=27.945) であった. Hosmer・Lemeshow検定 χ2 3.856 補助金なしと維持管理費の設問は,自己負担しなければ 有意確率 .426 ならない費用が増加することを意味する情報を提供したも のである.アンケートでは発電設備の導入に対する誘因に を従属変数,基礎属性等を独立変数として,順序ロジット 負の影響を与える情報を提供しているため,情報提供意向 モデルによる回帰分析を実施した.独立変数には情報前意 における導入意向が情報前意向より下降するということは, 向と有意な相関が見られた項目(表 5)を選択した.そし その情報の内容が住民にとって再生可能エネルギー発電設 て,該当するすべての変数を用いて回帰分析を行った後に, 備の導入に負の影響を与えていると考えることができる. その結果,有意確率 p>0.1 の変数および全回答者(n=700) ここから,負担しなければならない費用が増加するほど導 に聞いていない項目を取り除き,最終的な結果を得た.そ 入意向が低下することが示唆された.また,補助金なしの の結果を表 7 に示す.B が回帰係数を表す.有意確率 p<0.1 情報提供意向と関連して,補助金制度を充実させることに の変数として,環境問題への関心(B=0.301),売電収入目 よって再生可能エネルギーの普及(導入意向の増加)を促 的(B=0.417) ,大型発電施設からの購入(B=0.723) ,NPO・ すことが示唆される.4.5 でも述べたように住民の導入意向 ボランティア活動への参加(B=0.731)が選択された.モデ は費用に関する情報・条件に敏感であることが示された. ルの有意確率は p<0.01 で,Nagelkerk の R2 値は 0.284 が得 省エネ家電普及の情報は「省エネ家電が増えれば電力消 られた.環境問題への関心を高めること,NPO やボランテ 費が減少する」というもので,再生可能エネルギーの導入 ィア活動への参加を促すこと,再生可能エネルギーの売電 の必要性が低下するという情報であるⅹⅰ).4.5 で述べたよ や大型施設からの電力購入を推進することによって,再生 うにこの設問については導入意向が上昇した標本が多かっ 可能エネルギーの導入意向が高まると考えられる.本研究 た.省エネ家電が普及することにより,消費される全体の では,既往研究 2,9)で指摘されている費用(負担)の要因の 電力消費量が軽減することが考えられ,そのようなときに 他に,先行研究では抽出されていない NPO・ボランティア は再生可能エネルギーを導入することによって電力が賄え 活動への参加と導入意向との関連も示された。導入意向と ると回答者が考えた可能性が示唆される.ここから再生可 NPO・ボランティア活動への参加は、ともに「社会貢献意 能エネルギー発電設備の導入意向を上昇させるための方策 欲」が背景にあると考えられる.一方,大型施設からの再 として省エネ家電の普及が有効と考えられる.しかし,ア 生可能エネルギー電力購入は, 「社会貢献意欲」の他に原発 ンケートで提示した情報の内容が理解し難かったことも考 等へのリスク意識も影響する要因と考えられる. えられ,提供された情報の内容を回答者が的確に把握して 導入意向への情報による影響を明らかにするために,情 いるかについては留意する必要がある. 報前意向と情報後意向との意向差を従属変数,情報前意向 4.7 と情報提供意向との意向差((情報提供意向)-(情報前意 導入意向に関する自由回答の分析 自由記述回答欄の回答数は合計 117 件であった.抽出さ 向)および(情報後意向)-(情報前意向)で計算)を独 れた内容は,北陸地方の自然条件,原子力発電所,費用・ 立変数として二項ロジスティック回帰分析を実施した.こ 補助金,アンケートによる学習効果,集合(共同)住宅・ の分析では,提供した情報が再生可能エネルギー発電設備 賃貸住宅での設置,再生可能エネルギーへの否定的意見, の導入に対しての誘因を低下させるような内容のものであ 電源方式の多様化,環境問題・省エネ節電への意見,政府 6 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No. 6 表9 導入意向の決定要因に関する自由回答 北陸の 自然条件 (n=4) 北陸は,日照時間が短い(少ない)ため太陽光電力は 向かないと思う. 北陸は曇りから雨の日が多く再生可能エネルギー導入 には向かないと思う. 北陸での太陽光発電は,実際にプラスになるのかが不 明. 原発 (n=13) 原子力の最終処分場が決まって無いので,原発は増や す事は絶対ダメ. 脱原発,放射能廃棄物が出る. 原発などの維持,点検に使うお金があるなら,もっと 再生可能エネルギー導入に補助金を出し,利用促進す れば国中の原発が必要なくなるのではないか?,と思 う. 費用 (n=24) 太陽光発電などコスト面では不利が予想される電力に 関することは国策,つまり国の費用をつぎ込んで進め るべきである,と思う. 導入はしたいものの,初期費用がかかりすぎて,我が 家には現実的に思えません. 設備を導入するのにこんなに費用がかかるとは思って いなかった. 補助金 (n=9) 再生エネルギーに関する補助金制度を今まで以上に充 実させてほしい. 補助金が安いので導入しづらい. 維持・ 管理費 (n=2) 維持費がかかるのが大変だと思います. 太陽光導入後のメンテナンス費用が不安. 学習効果 (n=9) 太陽光発電に興味があったが.将来的に助成金などが 減ったりすると言うことを知ってただ単に節約のため に設置したいと思っていた自分にとってショックだっ た. 再生エネルギーのメリット,デメリットについていろ いろ考えるきっかけになりました. 集合住宅 ・賃貸 (n=8) マンション等の集合住宅では設備を導入したくても出 来ない. 賃貸住宅でも自分たちで電気を作るようなことができ ればいいと思う. マンションに住んでいるが,マンションの屋上に太陽 光発電機を置けるように政府が助成金を出せばいいの にとおもう. 電源方式 (n-5) いつも疑問に思うのは,何故,太陽光発電だけが脚光 を浴びているのかということ.もっと多様な発電形式 があるのに. 風力発電を各家庭でできるようにしてほしい. 日本の場合,原子力より地熱発電の方が遥かに有効だ と思います. 年齢的 (n=3) もっと年齢的に若ければ導入したいと思うが,今は自 分で節電するのがベターだと考える. 先が短く再生発電は導入しづらい,それよりも,節電 の方が手っ取り早い,オール電化やLED照明,省エネエ 家が古いので無理なのが残念です. アコンを導入してエネルギー消費量は減ったと思う. 生きている間だけ自分だけ住みやすくなれば良い. 化学は進歩しているし,先のことは社会情勢などでい ろいろ変わるので,できれば将来は楽観的に考え,そ の時点での良いやり方を見つけたいと思っています. 時間選好 (n=4) 多少コストはかかっても再生可能エネルギーの利用を エネルギー 促進させていくのが,日本のためになると思います. 安全保障 エネルギーの自給自足ができれば,すごい強みになる (n=2) と思うし,そのための開発のために資本を投入してい けば,経済もまわるのでは? エネルギー問題のみならず,個人,企業,自治体とも に,30年,50年以上先のことを十分考えたうえで実施 できるようになっていければよいのだが.とにかく世 の中,長い目で見て無駄が多すぎる. 将来的に,自家用電力は,自分で賄い,余分電力や発 電電力は,産業に使う構造にして災害にも対応するよ うになったらいいのではないかと思います. (注)アンケート回答を原文通り示した.ただし,誤字脱字は修正した. への意見,個人的主張・意見・考え方,に大別された.そ 集合住宅や賃貸住宅では,設備が設置困難という意見 の中で導入意向の決定要因の分析に用いた変数について関 (n=8)があった.個人所有でない住宅への設置は居住者が 連する記述や用いた変数以外で導入意向の決定要因に関連 判断できないことや集合住宅では設置困難な構造であるこ すると思われる項目の記述を表 9 に示した. となどが考えられる.本研究では,情報前意向の選択肢平 前述(4.2)したとおりアンケートでは当初想定していた 均値が,一戸建(持ち家)回答者が 2.99(n=367) ,一戸建 名古屋市と金沢市の結果の間に有意な差は見られなかった. (賃貸・借家)回答者が 2.90(n=21) ,長屋建(持ち家)回 しかし自由記述回答欄では,北陸地方の自然条件について, 答者が 3.50 (n=2), 長屋建 (賃貸・借家) 回答者が 3.00 (n=5) , 特に日照時間に言及する回答者(n=4)が少数ながら存在し 共同住宅(集合住宅)回答者が 2.89(n=305)で,一元配置 た.また,電源方式について触れる回答者(n=5)もいた. 分散分析の結果が p>0.1 となり,自宅の建て方別の情報前 太陽光発電だけではなく風力発電についても検討したいと 意向に有意な差は見られなかった. の意見があった.アンケートでは,情報を提示した導入意 時間選好に関する回答では,生きている間自分だけ住み 向に関する設問(情報提供意向,表 3)において気象条件 やすければいい,との意見があった.将来性の議論が重要 の情報を提示しなかったが,金沢市の回答者に日照時間等 となる再生可能エネルギーの政策においては,将来におけ の自然条件についての情報を提示した場合,導入意向の判 る普及への意識を促す政策も合わせて必要になると考えら 断に影響がある可能性を示唆している. れる. 費用に関係する回答(n=24)も多くみられた.再生可能 エネルギー設備導入に掛かる初期費用について懸念する意 5.結論と今後の課題 見,補助金制度の充実を求める意見,維持・管理費への不 本研究では,再生可能エネルギーの推計において考慮す 安が見られた.上述の各情報提供意向の変化(4.5)を見て べきと考えられる住宅における再生可能エネルギー発電設 も同様の傾向が見られ,費用負担に関する情報後の情報提 備の導入意向とその要因,導入意向の決定に影響すると考 供意向は情報前意向より低下した.情報前意向と情報提供 えられる情報の種類ついての WEB アンケート調査を実施 意向・情報後意向の比較において費用負担に関する情報提 した.設問には,時間選好や具体的な情報を提示すること 供の後には意向が低下する傾向が見られた. による導入意向への影響を把握するための設問を設定した. 7 Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No. 6 平均値の差の検定により,環境問題への関心,省エネ・節 tm.(アクセス日 2014.2.3) 電配慮行動,知識,時間選好,NPO・ボランティア活動へ 2) 白井信雄,大野浩一,東海明宏;住宅用太陽光発電の の参加が,導入意向に一定の関係性があることを示した. 普及における地域施策の役割,環境情報科学論文集, 導入意向に関する回帰分析の結果によると,環境問題への 25,(2011),317-322. 関心の向上,NPO やボランティア活動への参加促進,再生 3) 中口毅博,青木雅樹;全国における再生可能エネルギ 可能エネルギーの売電や大型施設からの購入の推進,補助 ー導入候補市町村の抽出とその分布特性,環境情報科 金制度の充実が,導入意向の要因変数として抽出された. 学論文集,20,(2006),463-468. これらの結果を踏まえて,具体的な施策の実施にあたり, 4) 藤野純一,日比野剛,榎原友樹,芦名秀一;低炭素社 住民の環境問題等への関心を向上させること,例えば広報 会に向けたエネルギー選択に関する考察,地球環境, やイベントの開催が有効であるとともに,補助金等の再生 12-2,(2007),171-178. 可能エネルギーの普及政策によって発電設備の設置に対す 5) 分山達也,江原幸雄;GIS を用いた再生可能エネルギ る負担を軽減することなどを進めていくことで,導入意向 ー評価-長崎県雲仙市の例-,日本エネルギー学会誌, が上昇する可能性がある.また,費用負担等の再生可能エ 88-1,(2009),58-69. ネルギー発電に関連する具体的な内容の情報を提示するこ 6) 杉原弘恭,山下潤,生駒依子,秋澤淳,柏木孝夫;メ とが,住民の導入意向に影響を及ぼすことが示された.本 ッシュ気候値を用いた全国住宅の太陽光発電のポテ 研究で明らかになった導入意向の要因を踏まえ,具体的な ンシャルに関する研究,太陽エネルギー,37-1,(2011), 政策に活かしていくことが課題である. 41-48. その他の課題として以下の項目が挙げられる.太平洋側 7) 分山達也,江原幸雄;GIS を用いた再生可能エネルギ と日本海側で地域差が見られると思われた導入意向につい ーのポテンシャル評価とその九州地方への適用,日本 て,本研究では,名古屋市と金沢市の 2 市の比較について エネルギー学会誌,91,(2012),391-404. であるが,有意な差は確認できなかった.自由記述回答か 8) 鷲見宏明,林希一郎,大場真;被災地域における再生 らは導入意向の地域差が存在することが示唆されるため, 可能エネルギー賦存量と実現可能性に関する検討,環 さらに再生可能エネルギーによる発電にとっての自然条件 境情報科学,41-4,(2012),75(ポスター発表) . が異なる地域へアンケート実施地域を広げ,より詳細な検 9) 白井信雄,正岡克,大野浩一,東海明宏;住宅用太陽 討を進めていく必要がある.また,当初,時間選好と情報 光発電の設置者特性と設置規定要因の分析,エネルギ の受け取り方には関係があると想定していたが,本研究で ー・資源学会論文誌,33-2,(2012),1-9. は関係性を確認できなかった.しかし,将来に関連する情 10) 八木田克英,岩船由美子,荻原美由紀,藤本剛志;東 報についての価値判断には時間選好が影響すると考えられ 日本大震災後の家庭における節電行動の規定要因,エ るので,より詳細な分析が必要である.本研究では,導入 ネルギー・資源学会論文誌,33-4,(2012),7-16. 意向に対する要因として,補助金や維持管理費といった費 11) 鳥取市;鳥取市再生可能エネルギー賦存量調査業務委 用に関するものが抽出された.費用と導入意向との関係性 託報告書,(2011) を明確にすることも課題である.また,再生可能エネルギ 12) 山梨県;クリーンエネルギー賦存量等調査報告書, ー発電設備の普及が進めば増大すると考えられる補助金や (2011) 固定価格買取制度等の政策を維持するための社会的費用に 13) 石村貞夫,石村光資郎;入門はじめての分散分析と多 ついての検討も課題である. 重比較,東京図書,(2008) 14) 菅民郎;多変量解析の実践(上),現代数学社,(1993) 謝辞 本研究を進めるにあたり,匿名の査読者,大場真主任研 (注) 究員(国立環境研究所)および林研究室各位には大変貴重 ⅰ) なご指導・ご助言をいただいた.ここに感謝を記す.なお, 動 本研究には名古屋大学大学院工学研究科博士課程助成金の http://www.enecho.meti.go.jp/energy/newenergy/new/p1.html . 一部を活用した. (アクセス日 2014.1.31) ⅱ) 参考文献 1) 経済産業省資源エネルギー庁 新エネルギーを巡る 向 ; 経済産業省資源エネルギー庁ホームページ く!再生可能エネルギー なっと 固定価格買取制度; 経済産業省資源エネルギー庁;エネルギー白書,(2013), http://www.enecho.meti.go.jp/saiene/kaitori/index.html.(アクセ http://www.enecho.meti.go.jp/topics/hakusho/2013/index.h ス日 2014.1.31),愛知県ホームページ 8 平成 26 年度電力・ Journal of Japan Society of Energy and Resources, Vol. 35, No. 6 エ ネ ル ギ ー 政 策 パ ッ ケ ー ジ ; http://app7.infoc.nedo.go.jp/metpv/monsola.html.(アクセス日 http://www.pref.aichi.jp/0000070107.html . ( ア ク セ ス 日 2013.4.30) 再生可能エネルギー; ⅶ) 都道府県別の数値を市町村の世帯数で按分し,市の使 http://www.city.nagoya.jp/kurashi/category/7-7-21-0-0-0-0-0-0-0 用電力量を推計した.総務省統計局;平成 24 年日本統計年 2014.5.29),名古屋市ホームページ .html.(アクセス日 2014.5.29),金沢市ホームページ 可 能 エ ネ ル ギ ー の 導 入 再生 鑑,(2012).(アクセス日 2014.1.13) ; ⅷ) アンケートの回収想定サンプル数から回収可能な都 http://www4.city.kanazawa.lg.jp/25001/seisaku/ondanka_boushi 市部を選択した. /saiene-dounyu/saiene-dounyuu.html.(アクセス日 2014.5.29) ⅸ) 関連する情報を作成するにあたり,以下に示す各種ホ ⅲ) なっと ームページを参照した.経済産業省.環境省.資源エネル 再エネ設備認定状況(件数、出 ギー庁.国立社会保障・人口問題研究所.太陽光発電協会 太 市 区 町 村 別 認 定 ・ 導 入 量 ; 陽光発電普及拡大センター.EIC ネット.環境ビジネスオ http://www.fit.go.jp/statistics/public_sp.html . ( ア ク セ ス 日 ンライン.SOLAR PARTNERS.ECOSORA.みんなで学ぶ, 2014.8.26).既設置率は,(新規認定分)+(移行認定分) みんなで守る 生物多様性. /(世帯数) ,で計算した.世帯数は平成 20 年住宅・土地 ⅹ) 鳥取市 11)では太陽光発電の導入意向率が 30.1%,太陽 統計調査における居住世帯のある住宅総数. 熱温水器の導入意向率が 10.5%,小型風力発電の導入意向 経済産業省資源エネルギー庁ホームページ く!再生可能エネルギー 力 ) ⅳ) 鳥取市 11) での太陽光発電や小型風力発電の利用可能 率が 34.5%であった.また,太陽光発電の既設置率が 2.1%, 量の推計では,一般家庭を対象としたアンケートによって 太陽熱温水器の既設置率が 18.6%,太陽光発電と太陽熱温 調査した「導入意向率」を推計式に含めている. 水器両方設置しているのが 1.2%であった. ⅴ) 引用論文では「設置意向」と表記. ⅹⅰ) 電力消費量(使用量)が減少するということは,新 ⅵ) たな再生可能エネルギー発電設備を導入する誘因が低下す NEDO 日 射 量 デ ー タ ベ ー ス 閲 覧 シ ス テ ム ることを意味するため. MONSOLA-11; 9