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地政学リスクと原油価格からの 3つのシナリオ

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地政学リスクと原油価格からの 3つのシナリオ
2011年3月2日
情報提供資料
地政学リスクと原油価格からの
3つのシナリオ
1月にチュニジアで発生した反政府デモは、わずか1ヵ月の間に東はインド洋から西は大西洋まで広がりま
した。それでも先々週まで株式市場への影響はほとんどありませんでしたが、先週の世界の株式市場はこの
材料を嫌気して大きく下落しました。今回はこの株価の下落と今後の見通しについて考えてみます。
ヨルダン
チュニジア
イラン
イラク
モロッコ
アルジェリア
クウェート
リビア
政変の起きた国
エジプト
バーレーン
サウジ
アラビア
オマーン
デモ・反政府集会の
発生国
モーリタニア
イエメン
ジプチ
出所:読売新聞、日本経済新聞より大和住銀投信投資顧問作成
世界的な株安のきっかけとなったのは、世界第8位の石油埋蔵量を抱える産油国リビアでの政府側と反政
府側の衝突激化です。独BASFなど欧州系の石油会社が駐在員を国外に撤去、操業を停止したため、リビア
の原油生産量は「日量160万バレルから120万バレルに低下」(日本経済新聞、2月25日)したとの指摘があり
ます。
WTIと北海ブレント先物価格(日次)
110
100
1350
1040
WTI
北海ブレント
90
80
70
10年9月 10年10月 10年11月 10年12月 11年1月 11年2月
出所:Bloomberg
S&P500とTopix(日次)
1080
120
Topix(左)
S&P500(右)
1000
1300
1250
960
1200
920
1150
880
1100
840
1050
800
10年9月 10年10月 10年11月 10年12月 11年1月 11年2月
1000
出所:Bloomberg
実際に石油供給に支障が出て来たことから、既に上昇していた北海ブレントに加えて、WTIの価格も急騰し
ました。これまで世界の株式市場はデモ拡大にもかかわらず景気回復期待などから上昇を続けていましたが、
原油の急騰により世界経済の先行きを懸念する声が広まったことから、これまでと異なり株価は下落しました。
各国の反政府デモは続いており、簡単に収束するとは思われません。リビアのような状況が他の産油国に
拡大して原油価格が一段と上昇、世界の景気や企業業績に悪影響を与える可能性も出て来ました。したがっ
て従来見ていたよりは、株式市場の下振れリスクに注意する必要があると考えています。
■当資料は情報提供を目的として大和住銀投信投資顧問が作成したものであり、特
定の投資信託・生命保険・株式・債券等の売買を推奨・勧誘するものではありません。
■当資料は各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確
性・完全性を保証するものではありません。■当資料に記載されている今後の見通
し・コメントは、作成日現在のものであり、事前の予告なしに将来変更される場合があ
ります。■当資料内の運用実績等に関するグラフ、数値等は過去のものであり、将来
の運用成果等を約束するものではありません。■当資料内のいかなる内容も、将来
の市場環境の変動等を保証するものではありません。
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大和住銀投信投資顧問株式会社
金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第353号
加入協会 (社)投資信託協会 、(社)日本証券投資顧問業協会
ただし、原油高が世界経済に直接与える悪影響はそう大きくないと見ています。WTI先物価格と世界経済
の動向を示すOECD景気先行指数の動きを比較すると、OECD景気先行指数が先に動いてWTI先物価格が
それに追随している様に見えます。つまり、「景気が改善(悪化)→原油上昇(下落)」であり、その逆ではないと
いうことです。
OE CD景気先行指数( G7) とWTI先物価格( 月次、前年比)
200%
150%
WTI(左)
OECD(右)
米原油在庫とWTI先物価格( 週次)
15%
380
160
10%
360
140
340
120
320
100
300
80
280
60
100%
5%
50%
0%
0%
-5%
-50%
-10%
-100%
1999年 2001年 2003年 2005年
出所:Thomson Reuters Datastream
-15%
2007年 2009年 2011年
在庫(100万バレル、左)
WTI(ドル、右)
260
240
2006年
2007年
2008年
出所:Thomson Reuters Datastream
40
20
2009年
2010年
2011年
実際、2002-03年や2004-05年には原油価格が前年比で50%以上上昇した局面もありましたが、世界経済
への影響は軽微なものにとどまりましたし、2000年や2007-08年の景気悪化は原油高というよりもITバブル
の崩壊やサブプライム・ショックによるものです。これが、原油高の景気に対する影響は限定的と見ている理
由です。
原油価格の上昇余地も2008年に比べて小さいと見ています。当時の米国の原油在庫は2.8-3.2億バレル程
度で推移していましたが、現在は3.5億バレルと高い水準です。また、米国の原油先物取引におけるネットポ
ジション(買い建て玉と売り建て玉の枚数の差)はデータが手元にある1993年以来で最高ですが、これは投機
筋による買いポジションが既に積み上がっており、更なる買い余力が小さいことを示しています。
米原油先物建て 玉( 週次、千枚)
400
300
ネット
買い
北アフ リカ・中東の主な長期政権
国名
売り
元首
就任年
在任年数
シリア
アサド大統領
2000
11
アルジェリア
ブーテフリカ大統領
1999
12
イエメン
サレハ大統領
1990
21
スーダン
バシル大統領
1989
22
チュニジア
ベンアリ大統領
1987
24
エジプト
ムバラク大統領
1981
30
リビア
カダフィ革命指導者
1969
42
200
100
0
-100
2006年
2007年
2008年
出所:Bloomberg、非商業部門
2009年
2010年
2011年
出所:外務省などより大和住銀投信投資顧問作成、在任10年以上
■当資料は情報提供を目的として大和住銀投信投資顧問が作成したものであり、特定の投資信託・生命保険・株式・債券等の売買を推奨・勧誘するものではありませ
ん。■当資料は各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。■当資料に記載されている今後
の見通し・コメントは、作成日現在のものであり、事前の予告なしに将来変更される場合があります。■当資料内の運用実績等に関するグラフ、数値等は過去のもので
あり、将来の運用成果等を約束するものではありません。■当資料内のいかなる内容も、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。
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このように考えて、リビア以外に数ヵ国の産油国で石油供給に支障が生じることにでもならない限り、原油価
格が一段と上昇して景気や株式市場に悪影響を与える可能性は小さいと考えています。最後に、北アフリカ/
中東情勢と原油価格の観点から見た今後の標準・楽観・悲観の市場シナリオを紹介させて頂きます。
標準シナリオ:反政府デモは続くも、石油供給への影響は限定的
リビアがこうした状況に陥ったのは、カダフィ大佐(革命指導者)の独裁が長期に亘る厳しいものであったた
め反動が強く、またカダフィ大佐が反政府デモに対して強硬な姿勢を採ったことにより、政府側・反政府側の
武力衝突に至ったためです。しかし、中東の産油国は多くは豊かで国民の生活水準も高く、政権に対する国
民の不満はリビア程強いものではないと考えられます。
また他の独裁国では、「(イエメンの)サレハ大統領が・・軍や治安部隊にデモ隊との衝突回避に努めるよう命
じた」(日本経済新聞、2月25日)とか、アルジェリアのブーテフリカ大統領が「非常事態令の解除を決定・・失業
対策も打ち出した」(毎日新聞、2月25日)など、国民を懐柔することにより、リビアの二の舞を回避しようとする
姿勢が見受けられます。
以上の観点から、反政府デモは続くも石油供給に支障を生じる事態がリビア以外に飛び火する可能性は小
さいと考えています。その結果、世界経済への影響がほとんどないまま原油価格は頭打ちとなり、各国株式
は横這いから次第に上昇に転じ、逆に質への逃避で買われた債券は反落すると予想しています。これが標
準シナリオです。
楽観シナリオ:カダフィ大佐が早期に出国、リビアの石油供給が回復
カダフィ大佐が早期に抵抗を断念すれば、リビアでは混乱は続くにしても内戦状態は終結し、石油・天然ガ
ス生産の再開も見えてくると思います。この場合、標準シナリオよりも前倒しで原油と債券は反落、株式は上
昇に転じるとのシナリオです。
悲観シナリオ:政府・反政府の衝突が他の産油国に拡大、世界の石油供給が減少
もし、リビア以外にも同様の状況に陥る産油国がいくつか出てくれば、原油価格は2008年の高値を超えて
上昇、世界経済にも影響が現れると思います。この場合、株式は一段と売られ、債券は買われることになるで
しょう。
更に悪いシナリオとしては、原油高が引き金となってインフレ率が一気に高まり、新興国だけでなく主要先進
国の中央銀行までも大幅利上げを余儀なくされることが考えられます。こうなれば石油危機同様にスタグフ
レーションということにもなり、株式だけでなく債券もインフレと金融引締めから下落することになるでしょう。た
だし、これは極端な悲観シナリオであり可能性は小さいと考えています。
以上
■当資料は情報提供を目的として大和住銀投信投資顧問が作成したものであり、特定の投資信託・生命保険・株式・債券等の売買を推奨・勧誘するものではありませ
ん。■当資料は各種の信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。■当資料に記載されている今後
の見通し・コメントは、作成日現在のものであり、事前の予告なしに将来変更される場合があります。■当資料内の運用実績等に関するグラフ、数値等は過去のもので
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