...

クレジットデリバティブの取引処理効率化の進展

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

クレジットデリバティブの取引処理効率化の進展
2006 年 6 月
クレジットデリバティブの取引処理効率化の進展
∼コンファメーションバックログ問題のその後と今後の課題∼
近年、海外ではクレジットデリバティブ(以下、クレデリ)市場が急速に拡大する中、コンファメー
ションと呼ばれる契約締結処理が未完状態のものが積みあがり、問題視されていること(いわゆ
るコンファメーションのバックログ問題)を、以前、本レポート1 で紹介した。以降、業界関係者はそ
の改善に向け、様々な対応を行ってきた。その結果、バックログも減少しつつあり、問題も一服し
たかに見える。しかし、バックログ問題の本質的課題は未だ解決されておらず、今後、バックログ
問題が再燃する可能性が残されている。
大幅に減少したクレデリのコンファメーションバックログだが
2005 年 9 月にニューヨーク連銀が主要なクレデリ取引業者を招集し、バックログ問題の解決を
要請した。その後、取引関係者の努力により、バックログは着実に減少しており、2005 年 9 月末に
15 万件以上あったものが、2006 年 3 月末には 7 万 4 千件になっている。また、取引から 30 日以
上経過しているものについては、9 万 8 千件から 2 万 9 千件と実に 70%以上減少しており、目標を
上回る進捗となっている。
このバックログ問題を解決するために、各クレデリ取引業者は、処理自動化のためのシステム
の導入や、スタッフを増員し対処している模様で、ISDA2の最新の統計3 によると、取引処理スタッ
フに対するトレーダの割合の減少率が、クレデリに関して最も大きいことが分かる(図表1参照)。
この比率が減少するということは、フロントのトレーダの減少か、取引処理スタッフの増加が要因と
して考えられるが、後者の影響と考えるのが自然であろう。バックログ問題を重視したクレデリ取
引業者が、マンパワーを投入し、バックログ解消に向け集中的に動いていることを裏付けるものと
言えよう。
図表1 OTCデリバティブのフロント業務処理指標
※
トレーダ数/取引処理担当者数 バックログ指標(大手業者)
調査実施年
2005
2006
変化率(%)
2005
2006
商品
FRA(Forward Rate Agreement)
7.4
9.1
金利スワップ(バニラ)
10.6
13.6
1.2
1.2
0%
金利スワップ(エキゾチック)
16.4
18.0
金利オプション
12.1
14.5
通貨オプション
1.5
1.4
-7%
5.3
7.9
エクイティ(バニラ)
15.3
20.7
2.1
1.7
-19%
エクイティ(エキゾチック)
20.6
30.5
クレジット
23.5
16.2
1.1
0.8
-27%
コモディティ
1.7
1.4
-18%
20.2
23.3
※ 当指標はコンファメーション未完契約数÷1日の取引件数により求められる
(出所) ISDA資料より野村総合研究所作成
詳しくは 2005 年 12 月のマンスリーレポート「クレジットデリバティブ取引処理の効率化に向けた動き」
(http://www.kessaicenter.com/kaigai/monthly33.pdf)を参照のこと。
2 国際スワップ・デリバティブズ協会(International Swaps and Derivatives Association)
3 “ISDA 2006 Operations Benchmarking Survey”(2006.6, ISDA)
1
本レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。
Copyright (c) 2004 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
1
2006 年 6 月
このように、バックログは順調に減少してきたが、実はこれからが正念場だという声も聞かれる。
というのも、これまでに解消されたコンファメーションのバックログは契約内容が単純な取引が中
心で、依然残されているものは契約内容が非常に複雑な取引と言われている。また、ディーラー
間取引のコンファメーションバックログは解消されたが、比較的バックオフィス機能の弱いバイサイ
ドを相手とする取引が残されていることも問題視されている。これを解消するためには、単なる人
海戦術だけでは無く、バックオフィス業務のエキスパートや外部コンサルタント、場合によっては取
引を行ったトレーダまで巻き込んで、集中的にコンファメーションを完了させる必要がある。当然、
これには相当の時間を要するため、これまでのペースでクリアしていくのは難しいが、避けては通
れない。
残された課題と解決に向けた動き
これまで触れてきたバックログ解消は、積みあがってしまったものをどうやって減らすかといっ
た単なる目先の対応に過ぎない。今後、恒常的にバックログの増加を防ぐためには、抜本的な改
善が必要である。バックログ増加の要因の1つとして、誤った取引情報の連携が挙げられる。この
原因は、「19 世紀のやり方」とグリーンスパン元 FRB 議長が評する4クレデリの取引処理方式にあ
る。現在、クレデリ取引の多くは、電話等を通じたボイストレードで執行されている。そして、その結
果が紙に記録されミドル・バックオフィスに情報伝達されることが多い。このフロントからもたらされ
る取引情報に誤りがある割合が急激に高まっており、ISDA が 2005 年に実施した調査(大手取引
業者の場合)では 11%であったものが、2006 年調査では 20%と倍近くに達している(図表2参照)。
つまり、5 件に 1 件は誤った取引情報がフロントから送られてきているのである。エラーの傾向、原
因等については明確にされていないが、取引が予想以上のペースで拡大していることや、より複
雑な条件を内包する取引が増えてきていることが一因として考えられる。このようなエラーは迅速
なコンファメーションの阻害要因ともなり、バックログ増加にもつながりかねない。
図表2 OTCデリバティブのフロント業務処理精度指標
※
商品
調査実施
年
FRA(Forward Rate Agreement)
金利スワップ(バニラ)
金利スワップ(エキゾチック)
金利オプション
通貨オプション
エクイティ(バニラ)
エクイティ(エキゾチック)
クレジット
コモディティ
※
平均取引件数/週
フロントエラー発生率(%)
2005
2006
2005
2006
126
154
3
9
842
1072
13
12
199
304
19
21
192
232
11
14
2597
2538
12
12
395
626
15
18
143
417
9
19
644
1450
11
20
576
916
7
6
※ 平均取引件数、フロントエラー発生率は共に大手業者の数値
(出所) ISDA資料より野村総合研究所作成
この問題の解決に向け、決済機関やシステムベンダ等の動きが最近、活発化してきている。米
DTCC は、クレデリ大手インターディーラブローカ3社5と協力し、AffirmXpress というフロントオフィ
ス向けサービスをこの6月にリリースした。トレーダ等取引担当者はこの機能を利用することによ
4
5
“Greenspan Expresses Concerns On Derivatives”(The Wall Street Journal, 2006.5.19)
GFI Group、ICAP、Tullett Prebon の3社。来年には他の大手業者の参加が予定されている。
本レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。
Copyright (c) 2004 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
2
2006 年 6 月
り、インターディーラブローカ経由で行った取引の確認をスクリーン上で行うことができる。また、確
認済みの取引情報を DTCC のコンファメーションマッチング機能に送信することが可能となる予定
である(図表3参照)。また、バイサイドとセルサイドを結ぶ取引基盤である Thomson TradeWeb や
T-ZERO などのサービスも DTCC のコンファメーションマッチング機能に接続対応されており、シス
テム基盤は着々と整備されつつある。
業界はこれまでバックログを減らすために、DTCC のコンファメーションマッチング機能の活用を
進めてきたが、今後はコンファメーションの「川上」にあたる取引執行/取引マッチング処理からの
情報接続の自動化が鍵となる。当機能の自動化に対する業界の意識は非常に高いため、クレデ
リ取引処理の業務効率化は急速に進展するものと思われる。これを実現して初めて、クレデリの
コンファメーションバックログ問題が沈静化したと言えるのではないだろうか。
なお、本邦では、海外ほどクレデリの取引件数が多くない6ため、現在のところバックログ問題は
発生していないが、金利の上昇等投資環境の変化に伴い、今後、クレデリ取引が活発化すれば、
海外業者と同様の取引処理の効率化が求められてこよう。
図表3 クレデリ取引処理の STP 例(DTCC サービス利用のケース)
①取引
①取引
インターディーラブローカ
(GFI,ICAP など)
トレーダー
②取引データ接続
フロント
フロント
トレーダー
③取引内容確認
③取引内容確認
④確認後データの接続
⑤コンファメーション
⑤コンファメーション
バックオフィス
バックオフィス
AffirmXpress
DTCC コンファメーシ
ョンマッチング機能
クレデリの次は・・・
最後にクレデリ以外の OTC デリバティブの取引処理について触れてみたい。既に気づかれた
かもしれないが、図表1、2より、エクイティデリバティブのコンファメーションのバックログ日数や取
引情報の連携エラー率が悪化している事が分かる。バックログに至っては平均で 30.5 日分となっ
ている。商品性が全く違うため、単純に日数だけでは比較できないものの、これまで問題視されて
きたクレデリのコンファメーションバックログでも 30 日に達したことは無い。取引件数こそクレデリ
の 1/4 程度であるが、既に海外の規制当局は、この状況を問題視しており、クレデリのコンファメ
ーションバックログ問題が一段落した後、次に矛先が向くのはこのエクイティデリバティブの取引
処理問題ではないかとも言われている。
本レポートは、日本証券業協会証券決済制度改革推進センターからの委託に基づき、㈱野村総合研究所
金融 IT イノベーション研究部が作成したものである。
取引件数は市場の動向にもよるが、平均すると海外の大手業者は 1500 件弱/週で、本邦大手業者は 200∼
300 件/週。
6
本レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法および国際条約により保護されています。
Copyright (c) 2004 Nomura Research Institute, Ltd. All rights reserved. No reproduction or republication without written permission.
3
Fly UP