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我が国企業の国際競争力強化にむけた 知的財産戦略の評価に関する

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我が国企業の国際競争力強化にむけた 知的財産戦略の評価に関する
平成18年度
特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書
我が国企業の国際競争力強化にむけた
知的財産戦略の評価に関する
調査研究報告書
-知的財産統計に関する調査研究-
平成19年3月
財団法人
知的財産研究所
【お知らせ】
2002年(平成14年)7月3日に決定された知的財産戦略大綱において、従来の
「知的所有権」という用語は「知的財産」、「知的財産権」に、「工業所有権」という用語
は「産業財産」、「産業財産権」に、それぞれ改めることとなりました。本報告書におい
ても、可能な限り新しい用語を使用しております。
※法律名や組織名については、一部従来の用語のまま使用しております。
要
Ⅰ.
約
序論
知財政策を論じる上で、統計データに基づいた客観的な分析は必要不可欠である。また、
各企業が知的財産戦略を改善し、競争力の向上を図っていくためには、まず自社の知的財
産戦略の状況を客観的に評価する必要がある。このため、特許庁では平成 12 年 12 月に「知
財戦略指標(改訂版)」を公表し、企業の知財戦略レベルの改善を促している。近年、我が
国の知的財産制度は、職務発明制度の改革や審査請求期間の短縮等、種々の見直しや検討
が行われてきており、こうした状況に応じて、企業経営における知財戦略の評価方法や、
採るべき知財戦略にも大きな変化が生じていることが予想される。かかる情勢から、
「知財
戦略指標(改訂版)」についても、見直しが必要な時期が来ている。
そこで、本調査研究では、こうした新たな「知的財産戦略指標」の策定にも資するべく、
企業の直面する知財制度・環境の変化が知財戦略に与える影響を、統計データに基づき実
証的に分析することをその主な目的とする。とりわけ、特許出願や審査請求・権利化に係
る特許ポートフォリオ戦略を中心として、ライセンスなど知的財産権の活用状況を含めた
我が国企業の知的財産戦略について、様々な視点から実証的な分析を行う。さらに、諸外
国における知的財産指標の実態を調査することで、我が国の「知的財産戦略指標」策定に
対する示唆を得ることもその目的の一つとしている。
また、我が国には、企業の知的財産活動の実態を把握する目的で特許庁が実施している
アンケート調査「知的財産活動調査」があるが、定量的な知財戦略指標の策定に資するべ
く、この調査項目の見直しを行うことも本調査研究の目的である。
本調査研究の概要は別に紹介することとして、最後に第Ⅱ部で行われた諸分析から得ら
れる含意を述べる。
本調査研究報告書の第Ⅱ部では、企業の知財戦略に影響を与えている要因や、制度変更
の効果などに対して、
「知的財産活動調査」及び IIP パテントデータベースなどを活用して
計量経済学の手法による実証分析を行っている。中にはデータの制約から現段階では確定
的な結果が得られていない分析もあるが、特許制度や知財環境の変化に応じた企業の効率
的な知的財産活動や、あるいは望ましい特許制度の在り方そのものを考える際に、いずれ
の分析も有益な知見を提供しているものと考える。
(長岡
ⅰ
貞男)
Ⅱ.
日本企業の知的財産戦略に関する分析
1.
日本企業の審査請求行動の分析
日本企業の審査請求行動についての企業別あるいは技術分野別のパネルデータの分析に
よれば、
(1)日本企業による長期的な審査請求率の上昇の重要な原因は、特許の平均請求項数の
増大にあると考えられる。クロスセクションでも時系列的な変化においても、請求項
数が多いあるいはそれを増大させた企業の審査請求率は高い。日本では、分析の対象
とした企業における平均の特許の出願件数自体は 1986 年から 2002 年の間に平均 260
件から平均 305 件とそれほど増大していないが、一件当たりの特許出願に盛り込まれ
る発明は約5倍となり、個別の特許の価値が高まったために、審査請求率は徐々にで
はあるが長期的に大きく上昇したと考えられる。
(2)2001 年の 10 月以降の出願に適用された審査請求期間の短縮は審査請求率の大幅な
上昇をもたらしたが、以下の特性を有している企業でその影響は大きかった:(1)従
来7年目に高い割合で審査請求を行っていた企業、及び(2)研究開発集約度が低く、
比較的質の低い特許を保有している企業。産業別には、特許価値の不確実性の高い医
薬品産業で審査請求率はほとんど上昇しなかったのが注目されるが、医薬品の場合に
は特許の不確実性が長期にわたって解消しない(中期的にはかなり解消されるが3年
目では解消しない特許価値の大きな不確実性に直面している企業ではない)ことにそ
の原因があるのではないかと考えられる。
(3)2004 年に行われた料金制度の変更(審査請求料金の値上げと年金の低下)は、2005
年の時点では、出願された特許の審査請求をある程度抑制した効果が認められる。2002
年と比べて、最初の 18 か月で約 2.5%ポイント程度審査請求率が低下している。技術
分野のクロスセクションによる予備的な結果であるが、そのうち約 1.2%ポイントが審
査請求料金改定の影響であると推計される。同時に行われた特許料の値下げは審査請
求率を高める効果があるがその影響の評価は技術分野のクロスセクション分析では困
難であった。
審査請求期間を短くしたことで、他企業を牽制するために特許性が乏しい出願が放置さ
れることを抑制することが期待されているが、審査請求行動についての本章の実証的な分
析が示すように、審査請求期間の短縮は比較的質の低い発明についても審査請求を企業が
行うことを促し、審査請求率を上昇させる効果がある。理論的な分析はなぜそれが必然か
を示している。このため、審査請求期間の短縮で、特許数の増大と質の低い特許の割合の
上昇がもたらされる危険性がある。他方で、審査請求料金の値上げ(プラスその年金値下げ
による還元)は、審査請求の質を高める効果があり、審査請求期間の短縮のこのようなマイ
ⅱ
ナスの経済効果を相殺する効果があり、補完的な制度改革として重要だと言えよう。
(長岡
2.
貞男、西村
陽一郎、山内
勇、大西
宏一郎)
バイオ特許を用いた審査請求行動の分析
本研究では、1991 年から 2002 年にかけて日本に優先権を有するバイオ特許を用いて、
審査請求行動に関する決定要因を分析した。具体的には、出願日から審査請求日までの経
過期間を従属変数としたハザード・モデルを推定し、以下の結果を得た。まず、同一発明
の外国出願が、国内特許に関する審査請求までの期間を短縮する効果を確認した。一方、
請求項数や特許技術の範囲が出願人の主観的価値を反映していると推測し、経過期間との
相関をみたが、両者の間に明確な関係は得られなかった。ただし、前方引用件数を基に作
成した(客観的)価値指標が経過期間に対して説明力を持った。これらの結果から判断す
ると、特許価値に不確実性が小さく、価値が高いとみなされる特許ほど早期に審査請求さ
れると結論付けて良いだろう。また、出願人のタイプが経過期間に与える影響を推定した
ところ、審査請求期間短縮以前は、出願人が民間企業であることが経過期間を延長させる
効果を持ったが、制度改正後はそうした効果は認められなかった。大学や公的研究機関と
いった公的部門については、近年のプロパテント政策と審査請求行動との関連性を探った
が、特に影響は認められなかった。また、上場企業や出願数の多い出願人ほど審査請求ま
での経過期間が長いことが示された。これは、豊富に補完的資産を有する企業ほど、質の
低い発明からでも事業化の利益を生み出すことができるため、経済的価値の不確実性が高
い発明までも特許化するインセンティブを持つことと関連がある。つまり、それらの出願
人は、審査請求期間を特許ポートフォリオの最適化を行う期間として利用していると示唆
される。
(中村
3.
健太、小田切
宏之)
日本企業による国内特許と海外特許の保有・利用の比較分析
日本企業の国内保有特許件数は海外保有特許件数と比較して著しく多い。本章ではその
理由を、海外における事業展開の重要性、発明の質、特許の利用構造に着目して検討した。
その結果、日本企業が保有する国内特許と外国特許の利用パターンが非常に良く似ている
ことが明らかになった。主たる原因は日本企業のグローバル化がまだ進んでいない点に求
められると考えられる。より詳細には以下のとおりである。
第1に、国内出願と比較して米国に出願し、国内保有特許と比較して海外保有特許を多
ⅲ
数保有している産業は医薬品産業である。これに続いて、通信・電子・電気計測器工業、
食品工業、自動車以外の輸送用機械工業、精密機械工業等において特許出願の国際性が高
い。これらの産業に共通している特徴は事業展開がグローバルでありまた高度な水準で研
究開発に従事している企業の海外出願比率が高い。
第2に、各産業内の企業間の差に注目しても、輸出比率が高く、研究開発集約度が高く、
また海外にライセンスを行っている企業が、有意に国内特許に対する外国特許の保有比率
が高い。
第3に、産業分野の差、及び企業間の差はあるものの、国内特許と外国特許の利用構造
はかなり類似している。すなわち、自社実施率、他社実施率及びブロッキング特許の割合
において、国内特許と外国特許は類似している。日本の特許制度と米国などの特許制度の
差、企業の国内の補完的資産と海外の補完的資産の整備の差など、国内特許と外国特許の
利用のパターンに影響する基本的な要因がかなり異なるにもかかわらず、これが成立して
いる。
(長岡
4.
貞男、西村
陽一郎)
研究開発戦略と企業の財務構造
本章では、研究開発費のような戦略的な投資と知的財産活動の成果が負債比率にどのよ
うに関連するかを検討した。
研究開発は企業内部の活動であるので、企業外の主体がその内実を把握することは難し
い。このことが企業の資金調達における情報の非対称性を生み出し、通常、負債比率に負
の効果を与える。しかし、研究開発投資の成果である特許は外部からも認識が可能な情報
である。もし、これらの研究活動の成果やその成果を活用した企業行動が、当該企業の技
術に関する名声を高めることになるのならば、特許や特許を用いた企業間連携が盛んな企
業に対しては、情報の非対称性が緩和される可能性がある。つまり特許は負債比率に正の
効果を与える可能性がある。
データについて、研究開発費、特許関連の知的財産データに関しては特許庁の「知的財
産活動調査」、その他の企業の財務データに関しては有価証券報告書を用いている。推計方
法は、最小2乗法とパネル分析であり、標本数は 269 企業である。
推計により以下の結果を得た。
・総資産の有形固定資産に対する比率は負債比率に対して正で有意であった。
・売上高に対する研究開発費の比率は、負債比率に対して負であるが有意ではなかった。
・研究者1人当たり特許所有件数は、負債比率に対して正で有意となる傾向が見られた。
・所有特許数当たり他社利用許諾特許件数は、負債比率に対して有意ではないが正となっ
ⅳ
た。
投資活動の中でも、外部に対して顕示的な有形固定資産への投資が負債比率に有意な正
の効果が認められるのに対して、外部からは評価しづらい研究開発投資の大きさをとらえ
る指標は負債比率と有意ではないものの負の影響を観察した。研究者1人当たりの特許所
有件数が負債比率に対して有意に正の効果を持つことは、
「研究開発の成果を目に見える形
にする特許取得は、企業の資金調達を容易にする」という仮説を支持している。さらに、
所有特許数当たりの他社利用許諾特許件数がレバレッジに対して正の効果を持つことは、
特許取得に加えてその特許をライセンス契約その他の技術取引の対象としても活用するこ
とによって、企業の研究開発活動の社外からみた不透明性が低下し、企業の資金調達を容
易にするより一層の効果を持つことが分かった。これらは先行研究等にはない新しい推計
結果である。負債の構成に知的財産戦略が反映することは、知財戦略指標の策定において、
企業の財務構造についても何らかの形で考慮すべきであると示唆している。
(小谷田
5.
文彦、舟岡
史雄、徳井
丞次)
企業の特許ポートフォリオ管理に関する定量分析
本章においては企業の知財戦略について、特許ポートフォリオ管理という観点から分析
を行った。企業の特許ポートフォリオ管理は、まず未実施のまま保有するかあるいは実施
するか、次に実施する際には自社実施なのかライセンスかという2段階で考えると分かり
やすい。ここでは「知的財産活動調査(特許庁)」統計と IIP パテントデータベースを用い
て、上記のそれぞれの判断がどのような要因によって影響を受けるのかについて定量的な
分析を行った。
企業における補完的資産の保有状況などの企業規模の関する変数と技術市場における特
許の混雑度や集中度に関する変数との関係について分析を行ったところ、まず未実施特許
の保有については技術市場の状況と関係があることが分かった。具体的には集中度が高く、
かつ技術分野ごとのクレーム数が多い技術分野に面している企業ほど未実施割合が高いと
いう傾向である。自社実施かライセンシングの判断については、まず企業の補完的資産が
大きいほど自社実施の傾向が強まるという仮説どおりの結果が得られた。また、技術市場
の状況については、集中度が高い技術市場に面している企業ほど自社実施割合が高いとい
う技術市場における Rent Dissipation 仮説と整合的な結果が得られた。
(元橋
ⅴ
一之)
6.
多角的特許取得と企業価値
本章では、多角的に取得された特許が企業価値にどのような影響を与えるかについて実
証分析を行った。多角的な研究開発活動は範囲の経済性の効果により、その効率性を上げ
ることがいくつかの先行研究で示されている。本章では、特許を多角的な研究開発活動の
アウトプットとしてとらえ、特許と企業価値(トービンの Q)との相関関係を実証分析す
る。
研究開発の成果として特許をとらえた上で、特許の多角的な取得と企業価値との関係に
ついて研究したものはほとんどない。特許の多角化が企業価値にどのような影響を与えて
いるかについて実証的に明らかにすることが本章の意義である。
結果は、特許を多角的に取得している企業ほど、企業価値が高いと実証された。また、
多角的に特許を取得すると、特許の管理、保持に伴うコストが増加し、非効率が生じると
いう範囲の不経済性の効果についても分析した。結果は統計的に有意でないものの、それ
を暗示させるものであった。
(頼末
7.
晃、小田切
宏之)
発明補償制度と訴訟リスク、企業戦略に関する分析
長岡・西村 (2005)では、企業が補償制度を導入する要因として、研究者のインセンティ
ブを高めるためというよりはむしろ、特許法第 35 条に対応することがあることを実証的に
示した。しかし、35 条への順法意識が導入の契機であるならば、特許を実施しているすべ
ての企業で補償費が支払われていなければならない。にもかかわらず、現実には支払って
いない企業は多数存在する。例えば、知的財産研究所 (2003)のアンケート調査では、特許
の実施実績に対して補償費を支払っていない企業は、大企業で 26%、中小企業では 80%に及
ぶ。
そこで本章では、企業が発明補償制度を導入する要因として、訴訟リスクに対する企業
の態度が影響していることを実証的に検証した。分析結果では、予想どおりリスク回避的
な企業ほど補償費を手厚く支払っていることが明らかになった。また、異質な研究者を抱
えやすい企業、特許からの収益が大きい企業、情報の非対称性により対価の額が発明者と
食い違いやすい企業において補償費が大きくなっていることも明らかとなった。さらには、
35 条が適用されるかどうか不確実であった海外実施特許が補償費に与える効果は小さく、
改めてインセンティブ契約として補償制度が運用されていないことも示された。これらの
効果は、出願件数や特許の実施件数をコントロールしても変わりはなく、頑健性の高いも
ⅵ
のと言える。以上の結果は、多くの企業が従業員による対価請求訴訟を回避するために補
償制度を運用しており、研究者のインセンティブについては十分に注意を払っていないこ
とを強く示唆している。
(大西
Ⅲ.
宏一郎、永田
晃也)
「知的財産活動調査」調査項目の見直し
「知的財産活動調査」は、我が国の知的財産政策を企画立案するに当たっての基礎資料
を整備するため、我が国企業等の知的財産活動の実態を把握することを目的に、平成 14
年度から特許庁が実施しているアンケート調査である。
このアンケート調査は、企業のライセンス収支や産業財産権の実施状況など、実際に企
業の担当者に聞かなければ手に入らない、数多くの研究上非常に有益な情報を提供してい
る。「知的財産活動調査」は平成 19 年度で6年目となるが、この間、調査の有用性を一層
高めるべく、調査項目や推計手法等の見直しについて、特許庁により、あるいは特許庁委
託の調査研究委員会により検討が重ねられてきた。
本調査研究報告書においても、平成 19 年度の「知的財産活動調査」が3年ぶりの大規模
調査(悉皆調査+標本調査)の年であることを踏まえ、より精度の高い分析が可能となる
よう、更なる改善案について検討を行った。
その結果、回答率の上昇に資するような改善案、研究上の有用性からみた修正案・新規
項目の追加案などが提出された。
Ⅳ.
海外における知的財産指標の作成・利用について
特許統計は近年急速に整備されてきている。それはイノベーション政策における意思決
定、企業の知財戦略の評価、技術動向の把握などに有用となる指標を作成するに当たって、
基本的かつ有益な情報を提供する。こうした特許統計の重要性を踏まえ、欧州特許庁(EPO)
と経済協力開発機構(OECD)は共同で特許統計に関するワークショップを開催している。
本調査研究では、2006 年秋に開催された「政策意思決定のための特許統計」ワークショ
ップにおいて報告された研究の中から、特に特許指標に関する研究を採り上げ整理・紹介
していく。これにより、海外においてどのような知的財産指標が作成され、活用されてい
るかを把握し、「知的財産戦略指標」の策定に対する示唆を得る。
指標作成に当たって現在特に注目されているデータは、サイテーションデータやパテン
トファミリーデータである。こうした統計データの整備が進んでいけば、特許の価値や各
ⅶ
国の技術動向などを表す、より精度の高い指標を作成することが可能となる。それにより、
出願・権利化行動ひいてはイノベーション動向に対する国家レベルあるいは企業レベルで
の判断材料の信頼性が増すと同時に、知的財産戦略指標の策定に資する正確で質の高い実
証研究が蓄積されていくことが予想される。
(山内
Ⅴ.
勇、長岡
貞男、元橋
一之)
本調査における分析の「知的財産戦略指標」への活用
本報告書第Ⅱ部の第1章から第7章にかけて、新たな「知的財産戦略指標」の策定にも
資するべく、企業の直面する知財制度・環境の変化が知財戦略に与える影響を実証的に分
析してきた。また、第Ⅳ部では、海外における特許指標の作成・活用に関する取り組みを
紹介した。
第Ⅴ部では、これらの実証分析及び海外の特許指標への取り組みが「知的財産戦略指標」
の策定や改訂にどのように利用できるかを、企業による特許の出願・審査請求、権利化・
活用状況などに着目しつつ検討を行った。
その結果、企業の権利取得行動、ライセンス活動、国際化、財務構造などを評価する際、
知的財産戦略の観点からどのような点に着目すべきかについて、それぞれの分析から有益
な示唆が得られた。
(事務局)
ⅷ
はじめに
企業の知的財産戦略は、制度・政策変更、技術市場の状況、他企業の動向など様々な要
因によって影響を受けている。こうした要因が個別にどのような効果を持っているかを把
握し、企業や政府が意思決定を行う際の客観的かつ厳密な判断材料を提供するに当たって
は、統計データを用いた質の高い分析が必要である。
知的財産研究所では、これまでもこうした要請に応えるべく、日本を代表する経済学者
からなる委員会を組織し、企業の知財戦略や研究開発行動、政策の効果等について実証的
な調査研究を実施してきたところである。
本調査研究では、これまで蓄積してきた研究の成果及び海外の知財指標に対する知見を
取り入れつつ、特許庁の実施している「知的財産活動調査」を含め近年整備が急速に進展
してきている特許統計を用いて、直近の制度変更や技術市場の動向に対応した企業の知財
戦略の変化・実態について実証分析を行った。
この実証分析の成果が、学術的な貢献だけでなく、実際に企業が自社の知的財産活動を
評価する際の指標として、あるいは政策決定の資料として活用され、ひいては我が国の知
的財産活動の効率化の一助となりイノベーションの促進に寄与することができれば幸いで
ある。
最後に、本調査研究の遂行に当たり、ご指導及びご協力いただいた委員各位、オブザー
バ各位には、深く感謝する次第である。
平成19年3月
財団法人
知的財産研究所
我が国企業の国際競争力強化にむけた知的財産戦略の評価に関する調査研究
知的財産統計に関する調査研究委員会 名簿
委
員
長
長岡
一橋大学イノベーション研究センター 教授
後藤
晃
東京大学 教授
舟岡
史雄
信州大学経済学部経済学科 教授
委
貞男
員
小田切
宏之
一橋大学大学院経済学研究科 教授
元橋
一之
東京大学先端科学技術研究センター 教授
永田
晃也
九州大学大学院経済学研究院 助教授
山内
勇
(財) 知的財産研究所 研究員
木原
美武
特許庁 総務部 技術調査課長
杉江
渉
特許庁 総務部 技術調査課 技術動向班長
坂元
健二
特許庁 総務部 技術調査課 統計係長
冨山
輝男
経済産業省 経済産業政策局 調査統計部 統計企画室 参事官補佐
徳井
丞次
信州大学経済学部経済学科 教授
オブザーバ
小谷田
文彦
西村
陽一郎
神奈川大学経済学部 専任講師
大西
宏一郎
文部科学省 科学技術政策研究所 第2研究グループ 研究員
中村 健太
事
弘前大学人文学部 助教授
(独)日本学術振興会 特別研究員
晃
一橋大学大学院経済学研究科 修士課程
野口
修一
三井情報開発株式会社 総合研究所 主席研究員
陣門
亮浩
三井情報開発株式会社 総合研究所 副主任研究員
濱口
友彰
三井情報開発株式会社 総合研究所 研究員
福士
哲生
三井情報開発株式会社 総合研究所 研究員
山内
勇
(財)知的財産研究所 研究部 研究員
按田
光久
(財)知的財産研究所 研究部 主任研究員
杉浦
淳
(財)知的財産研究所 研究部長
務
頼末
局
目次
要約
はじめに
委員名簿
Ⅰ.
序論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
Ⅱ.
日本企業の知的財産戦略に関する分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
1.
日本企業の審査請求行動の分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
2.
バイオ特許を用いた審査請求行動の分析・・・・・・・・・・・・・・・ 37
3.
日本企業による国内特許と海外特許の保有・利用の比較分析・・・・・・ 81
4.
研究開発戦略と企業の財務構造・・・・・・・・・・・・・・・・・・・108
5.
企業の特許ポートフォリオ管理に関する定量分析・・・・・・・・・・・120
6.
多角的特許取得と企業価値・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・136
7.
発明補償制度と訴訟リスク、企業戦略に関する分析・・・・・・・・・・154
Ⅲ.
「知的財産活動調査」調査項目の見直し・・・・・・・・・・・・・・・・171
1.
「知的財産活動調査」における調査項目の見直しの方向性について・・・171
2.
「知的財産活動調査」の見直し案のまとめ・・・・・・・・・・・・・・185
Ⅳ.
海外における知的財産指標の作成・利用について・・・・・・・・・・・・188
Ⅴ.
本調査における分析の「知的財産戦略指標」への活用・・・・・・・・・・199
なお、本報告書は、委員会での議論を基に各委員と事務局が分担して執筆している。執
筆の分担は以下のとおりである。
Ⅰ.
長岡貞男
Ⅱ.
1.
長岡貞男、西村陽一郎、山内勇、大西宏一郎
2.
中村健太、小田切宏之
3.
長岡貞男、西村陽一郎
4.
小谷田文彦、舟岡史雄、徳井丞次
5.
元橋一之
6.
頼末晃、小田切宏之
7.
大西宏一郎、永田晃也
Ⅲ.
1.
各委員、事務局
2.
各委員、事務局
Ⅳ.
山内勇、長岡貞男、元橋一之
Ⅴ.
事務局
Ⅰ.
序論
知財政策を論じる上で、統計データに基づいた客観的な分析は必要不可欠である。また、
各企業が知的財産戦略を改善し、競争力の向上を図っていくためには、まず自社の知的財
産戦略の状況を客観的に評価する必要がある。このため、特許庁では平成 12 年 12 月に「知
財戦略指標(改訂版)」を公表し、企業の知財戦略レベルの改善を促している1。近年、我
が国の知的財産制度は、職務発明制度の改革や審査請求期間の短縮等、種々の見直しや検
討が行われてきており、こうした状況に応じて、企業経営における知財戦略の評価方法や、
採るべき知財戦略にも大きな変化が生じていることが予想される。かかる情勢から、
「知財
戦略指標(改訂版)」についても、見直しが必要な時期が来ている。
そこで、本調査研究では、こうした新たな「知的財産戦略指標」の策定にも資するべく、
企業の直面する知財制度・環境の変化が知財戦略に与える影響を、統計データに基づき実
証的に分析することをその主な目的とする。とりわけ、特許出願や審査請求・権利化に係
る特許ポートフォリオ戦略を中心として、ライセンスなど知的財産権の活用状況を含めた
我が国企業の知的財産戦略について、様々な視点から実証的な分析を行う。さらに、諸外
国における知的財産指標の実態を調査することで、我が国の「知的財産戦略指標」策定に
対する示唆を得ることもその目的の一つとしている。
また、我が国には、企業の知的財産活動の実態を把握する目的で特許庁が実施している
アンケート調査「知的財産活動調査」があるが、定量的な知財戦略指標の策定に資するべ
く、この調査項目の見直しを行うことも本調査研究の目的である。
以下では本調査研究における主要目的である第Ⅱ部の諸分析の概要を述べ、最後に得ら
れた結果からの含意を述べる。
第Ⅱ部の第1章では、審査請求期間の短縮や審査請求料金の改定といった特許制度の変
更が、企業の審査請求行動に与える影響を分析している。第2章では、企業の権利取得・
審査請求行動がどのような要因によって影響を受けているかを分析している。第3章では、
国内保有特許と海外保有特許について企業の国際的特許ポートフォリオ戦略について分析
を行っている。第4章は、企業の研究開発戦略と財務構造との関係について分析を行って
いる。第5章では、企業の直面する技術市場の環境(混雑度や集中度)が企業の特許ポー
トフォリオ戦略に与える影響を分析している。第6章では、特許の多角化戦略と企業価値
との関係について分析を行っている。第7章では、職務発明制度について、その導入理由
と有効性を、訴訟リスクや研究者のインセンティブの観点から分析している。各章の概要
は次のとおりである。
第1章「日本企業の審査請求行動の分析」
(長岡貞男、西村陽一郎、山内勇、大西宏一郎
1
平成 12 年 12 月に特許庁より公表された「知財戦略指標(改訂版)
」は次の URL からダウンロードできる。URL:
http://www.jpo.go.jp/torikumi/hiroba/tizaikai.htm
-1-
著)では、我が国における審査請求率の変化を、多項制の利用の広がり、審査請求期間の
短縮、審査請求料金体系の改定、企業・産業特性といった要因に着目して分析を行った。
主要な結果は以下のとおりである。
(1)クロスセクションでも時系列的な変化においても、請求項数が多いあるいはそれを
増大させた企業の審査請求率は高く、日本における長期的な審査請求率の上昇には、多
項制の利用の拡がりが大きく寄与したと考えられる。
(2)審査請求期間の短縮は審査請求率の大幅な上昇をもたらしたが、特に、審査請求期
間の最終年で審査請求を行う割合が高かった企業ほどその影響を受けた。また、研究開
発集約度が低い企業にとってもその影響は大きかった。
(3)技術分野のクロスセクションによる予備的な結果であるが、料金制度の変更(審査
請求料金の値上げと年金の低下)は、2005 年の時点では、審査請求率を低下させる効果
を持つことが確認された。ただし、審査請求料金の値上げについては審査請求率に対し
て負の効果が認められたものの、特許料の値下げについてはその影響の評価は技術分野
のクロスセクション分析では困難であった。
第2章「バイオ特許を用いた審査請求行動の分析」
(中村健太、小田切宏之著)は、日本
に優先権を有するバイオ関連特許を対象に、企業の審査請求・権利化行動に影響を与える
要因を分析している。主要な分析結果は以下のとおりである。
(1)外国出願されている発明ほど、早い段階で特許審査請求が行われる。
(2)出願人の主観的な価値と密接な関係があると考えられる請求項数や特許技術の範囲
は、審査請求のタイミングにはあまり影響を与えていない。
(3)前方引用件数を基に作成した客観的な価値の指標は、審査請求までの経過期間に負
の効果を持つ。
(4)審査請求期間の短縮後は民間企業の審査請求が相対的に早まった可能性がある。
(5)補完的資産が高いと考えられる上場企業や出願件数の多い出願人ほど審査請求まで
の経過期間が長い。
第3章「日本企業による国内特許と海外特許の保有・利用の比較分析」
(長岡貞男、西村
陽一郎著)では、日本企業における国内保有特許比率の高さの原因を、海外における事業
展開と外国特許出願の関係及び特許の利用面からみた海外特許と国内特許の差に着目して
分析している。主な分析結果は以下のとおりである。
(1)事業展開がグローバルであり、また高度な研究開発を行っているような産業ほど、
海外出願比率が高い。
(2)企業別にみても、輸出比率が高く、研究開発集約度が高いほど外国保有特許の割合
が高い。また、海外にライセンスを行っている企業ほど、外国特許の保有率が高くなる。
(3)他方で、日本企業が保有している国内特許と外国特許について、自社実施率、他社
実施率及びブロッキング特許の割合といった利用構造にはかなりの類似性が存在する。
-2-
第4章「研究開発戦略と企業の財務構造」
(小谷田文彦、舟岡史雄、徳井丞次著)は、企
業の研究開発戦略と財務構造との関係に着目し、企業の負債比率が研究開発費やその成果
によってどのような影響を受けるかを分析している。主要な結果は以下のとおりである。
(1)研究開発費をとらえる指標は、有意ではないが負債比率を高める効果を持ちうる。
(2)研究開発活動を目に見える形にする有形固定資産や特許数の指標が大きいほど、外
部からの資金調達が容易になるため、負債比率が上昇する。
(3)ライセンスにより特許を活用している企業ほど、研究開発活動の透明性が増すため、
外部資金が調達しやすく負債比率が高まる可能性がある。
第5章「企業の特許ポートフォリオ管理に関する定量分析」
(元橋一之著)は、企業規模
や技術市場における特許の混雑度や集中度が、企業の保有特許に対するライセンス率、未
利用率、クロスライセンス率、有償ライセンス率に与える影響を確かめた。主要な結果は
以下のとおりである。
(1)特許の実施に関する企業の意思決定をみると、特許の集中度が高く、かつ混雑度が
高い(総クレーム数が多い)技術分野に面している企業ほど、未実施割合が高い。
(2)自社実施かライセンスかの判断については、企業の補完的資産が大きいほど、自社
実施の傾向が強まり、また技術市場では集中度が高い技術市場に面している企業ほど自
社実施割合が高くなる。
第6章「多角的特許取得と企業価値」
(頼末晃、小田切宏之著)は、企業価値が、当該企
業の主要技術分野における特許を集中的に取得することで高まるのか、あるいは様々な技
術分野における特許を多角的に取得することで高まるのかを分析した。主要な結果は以下
のとおりである。
(1)範囲の経済性により、特許を多角的に取得している企業ほど、企業価値が高くなる。
(2)多角化の程度が高すぎると、範囲の不経済性により企業価値が低下する可能性があ
る。
第7章「発明補償制度と訴訟リスク、企業戦略に関する分析」
(大西宏一郎、永田晃也著)
は、対価請求訴訟に対するリスクに注目して、企業が発明補償制度を導入する理由を分析
している。主要な結果は以下のとおりである。
(1)売上高に占めるロイヤリティ支払い額や自社実施特許に占める防衛特許の割合は、
企業のリスク回避度を表していると考えられるが、こうした割合が高い企業ほど補償費
を多く支払っている。
(2)研究従事者数や発明者数、ライセンス 1 件当たりの収入額は、訴訟リスクを表して
いると考えられるが、こうした値が大きいほど、企業の支払う補償費が大きくなる。
(3)支払い義務が不明瞭であった海外特許に対しての補償費支払額が、国内特許と比べ
て著しく低い。
以上、各章の概要を述べてきたが、最後に各分析から得られる含意を述べる。本調査研
-3-
究は、企業の知財戦略に影響を与えている要因や、制度変更の効果などに対して、
「知的財
産活動調査」及び IIP パテントデータベースなどを活用して計量経済学の手法による実証
分析を行っている。中にはデータの制約から現段階では確定的な結果が得られていない分
析もあるが、特許制度や知財環境の変化に応じた企業の効率的な知的財産活動や、あるい
は望ましい特許制度の在り方そのものを考える際に、いずれの分析も有益な知見を提供し
ているものと考える。
(長岡
-4-
貞男)
Ⅱ.
日本企業の知的財産戦略に関する分析
1.
日本企業の審査請求行動の分析
(1)
分析目的と仮説
日本企業による特許出願自体はあまり増加をしていないが特許審査請求件数は、長期的
にみて大幅に増加してきている。図 1 に示すように、1990 年から 2003 年の間に、産業の
実質研究費は 19%増加したのに対して、特許出願件数は 12%増加にとどまり、他方で特許審
査請求件数は 90%増加した。加えて、2001 年 10 月から実施された制度変更(審査請求期間
の7年から3年への短縮)によって、審査請求が前倒しされかつ審査請求率自体の上昇をも
たらしたために1、審査請求件数の増加が 2004 年以降急増しており(2003 年に対して 2004
年は 35%増加した)、特許庁の審査能力に大きな負荷をかける状況になっている。米国では
1990 年から 2005 年の間に特許出願件数は 16 万件から 39 万件へと大幅に増加し「patent
explosion」が起こっているとされているが、審査請求件数で評価すると日本でも 1990 年
から 2004 年の間に 13 万件から 32 万件へと増大しており、同様な状況にある。
図1
研究開発費、特許出願動向及び特許審査請求動向
500,000
450,000
140,000
特許出願件数(左軸)
審査請求件数(左軸)
産業の実質研究開発費(右軸)
120,000
400,000
100,000
350,000
300,000
80,000
250,000
60,000
200,000
150,000
40,000
100,000
20,000
50,000
0
0
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
1
1997 年出願の平均審査請求率は約 55%であった (特許庁 特許行政年次報告書 2005 年版) のが、特許庁の平成 17 年度
知的財産活動調査によれば、2004 年出願の平均審査請求率は 76%に上昇することが見込まれている。
-5-
本研究では、このような審査請求件数の増大の要因を、パネルデータによって分析する
ことを第一の目的とする。原因に関する仮説として以下を中心に検討する。
(ⅰ)
多項性の利用の広がり
出願件数が増加しない中、審査請求件数が長期的に大幅に増加してきたことを説明する
可能性がある要因は、多項性の利用の広がりである。審査請求される発明の平均請求項数
は 1986 年の 1.2 から、1994 年の 4.5、2002 年の 6.7 と拡大している。このような多項性
は出願された各特許の価値を高めるので、特許出願件数を与件とした審査請求件数を増大
させると考えられる。図2は 1986 年、1994 年、2002 年における最終審査請求率を請求項
数別に示しているが、クロスセクションのデータで、単独の請求項の特許出願と比べて、
請求項数が 10 を超える特許出願は最終審査請求率が約 10%ポイント高い。また、2002 年で
は、ほとんどすべての請求項数のクラスにおいて、最終審査請求率が過去と比べて上昇し
ていることも分かる。ただし、特許出願件数自体への影響を含めて考えると、多項性は単
独でも特許化可能な複数の発明を一つにまとめて出願を行うことを可能とする点では、出
願件数自体を減少させる効果があることに留意する必要があり、審査請求件数自体への影
響では全体としてどちらが優勢となるかは理論的には明確ではないが、審査請求率を高め
ることは確実である。
図2
請求項数と最終審査請求率
90.0%
1986年
1994年
2002年
85.0%
80.0%
75.0%
70.0%
65.0%
60.0%
55.0%
50.0%
45.0%
-6-
31
-
21
-3
0
16
-2
0
11
-1
5
810
67
5
4
3
2
1
40.0%
(ⅱ)
審査請求が可能な期間の短縮
審査請求が可能な期間が長い方が、特許化の価値の見定めを可能とする期間が長く、同
じ出願件数に対して審査請求件数は小さくなると考えられる。図3に示すように、審査請
求は法改正以前において7年目になされる比率が非常に多かったことは、企業がこのよう
な見極めには時間を要することを示している。2001 年 10 月以降の制度変更、出願にかか
る審査請求期間の短縮は、特に発明の価値に不確定性が大きい産業分野で審査請求件数を
増大させる効果があったと予想される。
図3
制度改正以前の審査請求パターン(1990 年出願特許)
60.00%
18.00%
16.00%
審査請求率(左軸)
50.00%
14.00%
累積審査請求率(右軸)
40.00%
12.00%
10.00%
30.00%
8.00%
20.00%
6.00%
4.00%
10.00%
2.00%
0.00%
0.00%
出願と
同時
1年目
2年目
3年目
4年目
-7-
5年目
6年目
7年目
(ⅲ)
審査請求料金
審査請求料金の上昇(それによる増収を年金の低下で利用者に還元)は、特許性の乏しい
発明の審査請求を減少させる効果がある。2004 年4月以降の出願に係る審査請求費用の大
幅な上昇は、企業による今後の審査請求行動に重要な影響があると考えられる。対象とな
る審査請求の大半はまだ行われていないが、一部は行われつつあり、その検討を行うこと
は可能である。
(ⅳ)
企業特性と産業特性の影響及び相互作用
企業が保有する補完的資産の規模、発明の質、企業の研究開発や知的財産管理・戦略 (米
国などへの海外出願をどの程度行っているか)、知的財産保護の強さ、市場環境なども、企
業の出願と審査請求行動に影響を与える。
本研究のもう一つの目的は、そもそもどのような審査請求制度(審査請求期間、審査請求
料金の水準)が望ましいかを分析するための手がかりを得ることである。特許審査請求制度
においては、特許出願をすべて審査するのではなく、審査請求に応じて審査することで、
企業が特許化を求める発明かどうかを選別する時間を与える。このような制度によって、
特許審査に要する資源を節約することができるばかりでなく、審査請求率を下げることが
できるので、これによって権利者による不要な特許化を防ぐことで、特許権者の利益を損
なうことなく、同時に誰でも利用できる公知技術のプールを拡大することができると考え
られる。この点は審査請求期間をめぐる従来の議論の中で必ずしも明確になっていなかっ
たと考えられる。
他方で、特許性が乏しい出願をしながら審査請求を行わないことによって、他の企業の
行動を制約することも可能であり、長い審査請求期間は、このような濫用の機会を拡大す
る可能性がある(ただし、第三者も審査請求を行うことが可能であることに留意する必要が
ある)。後者の問題をより重視すれば、審査請求期間は短いのが良い(極端な場合は米国の
ように審査請求期間がゼロの場合が良い)ことになる。また、審査請求制度を特徴付けるも
う一つの要素は審査料金の水準及びその年金との組み合わせである。特許審査請求期間の
短縮がもたらす可能性がある比較的質の低い発明への審査請求の拡大は、審査請求料金の
値上げ(その年金値下げによる還元)によって抑制することが可能である。
なお、企業の審査請求行動に関する研究は皆無に近い。理論的研究として、
Lambrecht(2000)2、実証的な研究として、Sanyal(2005)3、また長岡・西村が知的財産研究
2, 3
P.30 参考文献1、2参照。
-8-
所の研究プロジェクトで従来行ってきた特許の保有と利用に関する分析が参考になると思
われる。
(2)
審査請求行動の理論的な考察:概要
特許出願される発明の中には、実施をするには様々な条件整備が必要であり、特許によ
る排他権を直ちに必要としない出願も多い。特許出願をすべて審査するのではなく、審査
請求に応じて審査する特許審査制度の目的は、企業が特許化を求める発明かどうかを選別
する時間を与えるためである。このような制度によって、特許審査に要する資源を節約す
ることができるばかりでなく、特許権者の利益を損なうことなく、誰でも利用できる公知
技術のプールを拡大することができる。
特許登録がなされないと差止めができないので、企業が技術を特許権によって有効に保
護するためには、特許登録することが企業にとって必要である。他方で、特許登録を行う
ことで、特許登録料が発生するので、実施の予定が当面無い場合には、審査請求を保留す
ることが企業にとって合理的であり、企業はこうした特許化の利益とコストを勘案しなが
ら、審査請求の水準と審査請求のタイミングを決定する。
特許化をしなかった場合の機会損失が大きい場合、審査請求期間の短縮は、企業にとっ
て有用な特許かどうかの判断ができる情報の量を制約するので、特許の審査請求の確率は
高まると考えられる。そのような影響は、特許化の価値に不確定性が大きく、同時に審査
請求後の3年から7年の間に多くの有用な情報が入る場合により大きいと考えられる。ま
た比較的マージナルな発明を多く出願している企業に影響が大きいと考えられる。
こうした企業の審査請求に対する意思決定は、将来の技術動向や市場環境に関する不確
実性の下での投資意思決定とみなせる。この点で、他社との競争の色合いの強い出願に対
する意思決定とはかなり性質が異なっている。
また、審査請求制度は、審査請求期間中であればいつでも権利を行使できるという意味
では、一種のオプションとしての性質を持っている。この性質の下では、企業は審査請求
の意思決定を先に延ばすことができ、それにより出願特許の価値を見極める時間を増やす
ことができる。しかしその一方で、特許登録が遅れることで企業にとっての機会費用が高
くなるというトレードオフが存在する。すなわち、意思決定を遅らせることができるオプ
ションとしての性質は、情報を蓄積して不確実性を減少させるというメリットを持つ一方
で、収入を獲得する期間(投資回収期間)を短縮させるというデメリット(本節では論を簡
単化するために特許登録をしないと収益は確保できないと仮定している)も持っている。
次節では、こうした審査請求制度の持つトレードオフが、審査請求期間、審査請求料金、
年金の変更によってどのように変化するかを簡単な理論モデルによって分析する。モデル
から得られる結果はおおむね次のとおりである。
-9-
審査請求可能期間が短縮されれば、企業は出願特許の価値を見極めることが難しくなる
ため、企業からみて本来は審査請求するに値しない特許までもが審査請求されるようにな
る。すなわち、得られる情報量が減少することで企業の審査請求に対する基準が甘くなり、
最終的な審査請求率が上昇する。
また、審査請求可能期間の短縮は、特に請求可能期間の比較的早い時点における審査請
求率を上昇させると考えられる。これは、請求可能期間が短縮されることによって、意思
決定を遅らせるメリットが相対的に小さくなることに起因する。例えば、請求可能期間が
7年であればその有用性が明らかになるが3年では明らかにならないような出願特許につ
いては、先に延ばすメリットがなくなるため、最終的に審査請求するのであれば早い段階
で審査請求を行い、期待される収入獲得期間を長くした方が得だからである。
審査請求料金の値上げの効果については、最終的な審査請求率を低下させる方向に働く。
なぜなら、請求料が値上げされれば、各企業はコスト上昇に見合う発明を選別するために
審査請求基準を厳しくするからである。ただし、将来の利益が重要であるにもかかわらず、
意思決定を遅らせても不確実性が解消しないような産業では、この審査請求料の値上げ分
を補うために、審査請求を早めて投資回収期間を長くすることが望ましくなる。このとき、
最終的な請求率は低下するものの、審査請求期間の早い段階での請求率は上昇する。
年金の値下げは、査定された場合の特許の維持費用を減少させるため、審査請求を行い
やすくすることで最終審査請求率を上昇させる効果がある。この点、年金の低下は出願特
許が査定された場合にのみ期待収入を上昇させるため、特許の価値が高いことが明らかで
ある場合ほどそのメリットが大きくなる。したがって、特許の価値が明らかになりにくい
産業では、投資回収期間を長期化するメリットの方が大きいため、年金の値下げの効果は
特に前半の審査請求行動を大きく増加させる。逆に、意思決定を少し遅らせれば技術動向
が明らかになる産業では、請求可能期間の早い段階での審査請求行動が抑制され、後半の
審査請求率が上昇する。
(3)
理論分析
(ⅰ)
モデルの背景
審査請求を直接扱った論文はほとんど存在しないが、審査請求の意思決定問題は、特許
の更新料支払いの意思決定問題に類似しており、こうしたテーマを扱った研究が参考にな
る。
特許の有効期限や更新料の影響を理論的に分析したものとしては、Pakes(1986)4 、
4
P.30 参考文献3参照。
-10-
Scotchmer(1999)5、Cornelli and Schankerman(1999)6、Deng(2006)7 などがある。これら
の先行モデルはいずれもリアルオプション理論のアイデアを用いたモデルとなっている。
リアルオプション理論とは、金融商品の価値評価に用いられることの多いオプション理
論を、金融資産以外の資産の価値評価に応用した理論であり、その特徴は、意思決定の柔
軟性を考慮できる点にある。例えば、意思決定の先延ばしや投資プロジェクトの打ち切り
など、各段階で状況に応じた意思決定を迫られる問題の分析に適している。ただし、権利
行使日が予め決まっていれば解析的に解けることが多い(権利行使日が決まっていなくて
も、期間が無限であれば解けることが多い)が、特許の更新や審査請求に関する権利は、
行使日の定めがない期限付きのオプションであるため、シミュレーションによる解法に頼
らざるを得ない。しかし、今回の分析に当たっては、そもそもパラメータを推定するため
のデータが不足しているため、シミュレーションによる分析は難しい。
そこで、ここでは、先行研究のオプション理論の応用手法を参考にしつつ、それを解析的
に分析が可能なレベルに単純化したモデルによって分析を行う。
(ⅱ)
モデルの枠組み
ここでは前述のとおりオプション理論のアイデアを単純に表現するため、審査請求可能
期間 T が2期間のモデルを考え、制度変更が企業の審査請求プロファイルに与える影響を
分析する(請求可能期間が7年ならば 1 期間を 3.5 年、3年ならば 1 期間を 1.5 年と考え
ればよい)。以下で、モデルの枠組みを述べる。
第 t 期における企業の意思決定は次のように表現される。第 t 期首に企業は、出願特許
i の真の価値 q̂i を知らずに、自身の予想する主観的価値 q i , t に基づいて、審査請求を行うか
行わないかを決定する 8。このとき、各企業は自社が t 期に出願した特許群の真の価値が
平均 µ 、分散 σ 2 の対数正規分布に従っていることは経験的に分かっている 9。すなわち、
個別の特許 i の真の値( q̂i )は知らないが、t 期の出願特許の分布が log(qˆ ) ~ N ( µ , σ ) に従っ
2
ていることは知っている。
企業は意思決定を 1 期間遅らせることで、毎期新たに、特許の真の価値に関する情報を
入手することができ、予想値を真の値に近づけるよう改訂することができる。これは、企
業の予想と真の価値との間に差がある場合には、毎期自然がその差を埋めるようなシグナ
ル (qˆ i − qi , t −1 + δ i , t ) を送ってくる(ただしノイズ δ i, t ~ N (0, σ 2 ) を含んでいる)ので、企業はこ
れを利用して、予想を改訂することができるからである。 (qˆ i − qi , t −1 ) が正しい改訂値であ
5, 6, 7 P.30
8
9
参考文献4、5、6参照。
q i , t は査定率も織り込み済みの価値であり、t 時点で期待される特許 i からの収入のフローを表している。
企業が知っているのは、t 期における個別の特許 i の価値 qi, t に関する予想の分布ではなく、出願特許に関する真の価値
q̂ i の分布である。
-11-
るが、企業はこれを直接観察することはできないので、 (qˆ i − q i , t −1 + δ i , t ) から推計する。推
計値 ε i , t は次のように求めることができる。
ε i , t = m(qˆ i − qi , t −1 + δ i , t )
(1)
ここで、 m は真のシグナル (qˆ i − qi , t −1 ) とノイズの分散の比で決まるパラメータであり、
m = 1 /{1 + var(δ i ,t ) / var(qˆ i − qi , t −1 )} として得られる(簡単の為に企業に共通であるとする)。
(1)式は、企業が意思決定を先延ばしにして技術・市場動向を観察することで、特許の価
値についてより正確な予想ができるようになる状態を表している。
このとき、t 期に企業が予想する特許 i の価値は、次のように書くことができる 10。
qi , t = qi , t −1 + ε i , t
(t ≥ 1)
(2)
ここで、企業は情報が全く存在しない初期時点(t= 0))では、特許の価値を出願特許の
平均的な価値と予想するものとする( qi, 0 = µ )11。したがって、 q i , t を µ と q̂i のみの式に書き
t
直すと qi , t = ∑ (1 − m ) k −1 m ( qˆi + δ i , k ) + (1 − m )t µ となることが分かる。
k =1
今、審査請求料を C 、割引因子を β 、t 期に審査請求した出願特許から得られる t+1 期
以降のレント・フローの期待割引現在価値を S で表せば、t 期における審査請求の期待オ
プション価値 V (t , qi , t ) は次式のように書くことができる 12。
V (t , qi , t ) = max{ qi , t − C + β S , β V (t + 1, qi , t +1 ) }
(3)
この式は、t 期における特許 i に対する審査請求権(オプション)の期待価値が、当期
に審査請求したときに得られる期待利益と、意思決定を次の期に先延ばしにした場合の審
査請求オプションの期待割引現在価値との大きい方で決まることを表している。
S は査定率、特許権の維持・残存期間、出願によって得られる利益、年金などすべての
要素を考慮した、審査請求後の出願特許の主観的な現在価値とみなせる。また、特許の価
値が高いほど査定率が高く特許の維持期間も長いと考えられ、さらに、それによって年金
の期待総額も大きくなると考えられる。そこで、年金を γ で表し、 S を次のように単純化
して定式化する。
S (qi , t , γ ) = a qi , t − b qi , t ⋅ γ
(4)
( a 、 b はそれぞれ正の定数である。また、 S (qi , 0 , γ ) < 0 となる発明はそもそも出願されな
いため、 S ( q i , 0 , γ ) ≥ 0 を仮定する。)
10
(2)の定式化の下では lim q i , t = qˆ i が成立し、時間の経過とともに予想が真の値に近づいていく状況を表現している。
t→ ∞
このとき、特許のコーホート i と時間 t の両方について情報 ε t の期待値をとると、その期待値は
Ei , t [ε t ] = Ei , t [qi , t − qi , t −1 ] = 0 となり、各企業の期待の誤りの事前平均はゼロとなることが分かる。
11
12
(3)式における β S の部分は、審査請求後の特許という資産を保有していることから生じるレントのフローと考えられ
る。また、 S は査定率、特許権の維持・残存期間、出願によって得られる利益、年金などすべてを考慮した、審査請求
後の出願特許の現在価値とみなせる。
-12-
以上の設定の下、次節でモデルの解を導出し制度変更の影響を分析する。
(ⅲ)
モデルの解
企業は各期において、審査請求を行うときの期待利潤と行わないときの期待利潤(次期
の審査請求オプションの期待割引価値)とを比較して、審査請求を行うかどうかの意思決
定をする。
すなわち、t 期に出願特許 i を審査請求する X i , t = 1 か、しない X i , t = 0 かの意思決定は、次
式のように書くことができる。
qi , t − C + β S (qi , t , γ ) ≥ β E[ V (t + 1, qi , t +1 ) ]
⎩0 otherwise
X i , t = ⎧⎨1 if
(5)
審査請求可能期間を過ぎた場合、審査請求のオプション価値は 0( V (T + 1, ⋅ ) = 0 )とな
ることに注意すれば、審査請求可能期間が2期間のモデルでは、各ステージにおける個別
の特許 i についての意思決定は次のようになる。
q i , 2 − C + β S (q i , 2 , γ ) ≥ 0
⎩0 otherwise
(6)
q i , 1 − C + β S ( q i , 1 , γ ) ≥ β E[ V ( 2, q i , 2 ) ]
⎩0 otherwise
(7)
X i , 2 = ⎧⎨1 if
X i , 1 = ⎧⎨1 if
企業は個別特許 i についての意思決定時点では真の価値 q̂i が分かっていないため、自然
から受け取る情報が(1)式のメカニズムに従っていることは知らないが、事後的に出願特
許コーホート全体でみた場合には、企業の予測改訂メカニズムは qi , t = qi , t −1 + m(qˆi − qi , t −1 + δ i , t )
に従っているはずである。したがって、事後の状態を考えれば、コーホート全体の中で「第
t 期に審査請求される特許の割合」が求まる。すなわち、審査請求をすべき真の価値の臨
界値が求まる。
以下では、こうした意思決定終了後の状態を考えることで、出願特許コーホートの中で
審査請求される特許の割合(審査請求率)の変化を考察していく。
第2期の意思決定は事後的にみると、 q i , 2 = q i , 1 + m(qˆ i − q i , 1 + δ i , 2 ) という予測に従ってい
るから、これを(6)式に代入することで、第2期に審査請求をする企業の保有している出
願特許の真の価値 q̂i の臨界水準 q 2 が平均的には、次の(8)式を満たす水準として導出され
る。
(1 + β a − β b γ ){µ + m(2 − m)(q 2 − µ )} − C = 0
(8)
また、第 1 期に審査請求する臨界値 q 1 を求めるには、次の式をコーホートで事後的に評
価する必要がある。
β Pr[ q i , 2 ≥ C − β S (q i , 2 , γ )] ⋅ { q i , 2 − C + β S (q i , 2 , γ )} = q i , 1 − C + β S (q i , 1 , γ )
-13-
ここで、 Pr[ q i , 2 ≥ C − β S (q i , 2 , γ )] は、コーホートでみたときの最終的に審査請求される出願
2
特許の割合を表しており、 Pr ⎡⎢ qˆ ≥ C − µ (m − 1) A ⎤⎥ = Pr [qˆ ≥ q 2 ] と書くことができる(ただし、
⎣
m( 2 − m) A
⎦
13
。
A = 1 + aβ − bβγ である )
この最終審査請求率を x で表すと、第 1 期の臨界値 q 1 は次の(9)式を満たす水準で決ま
る。
A[(1 − β x + β x m){m q1 + (1 − m) µ} − β x m q1 ] − (1 − β x)C = 0
(9)
以上の議論から、第 1 期と第2期における企業の審査請求基準 q 1 と q 2 がそれぞれ(9)式
と(8)式を満たすように求まることが分かった。次節では、これらの基準が審査請求期間
の短縮などの制度変更によってどのように変化するかをみる。
(ⅳ)
比較静学
ある企業が出願した特許のコーホートの真の価値の分布を F (qˆ ) で表すと、第 1 期の審査
請求率 r1 、第2期の審査請求率 r2 、最終審査請求率 x はそれぞれ次のように書くことがで
きる。
∞
r1 = ∫ q f (qˆ )dqˆ = 1 − F (q 1 )
(10)
1
q
r2 = ∫ q f (qˆ )dqˆ = F (q 1 ) − F (q 2 )
(11)
1
2
∞
x = ∫ q f (qˆ )dqˆ = 1 − F (q 2 ) = r1 + r2
(12)
2
以下では、実際の審査請求プロファイルをみて最も現実的と考えられる q 2 < µ < q 1 のケー
ス(審査請求期間の前半に請求される割合は後半よりも相対的に小さいケース)に焦点を
当てて分析を行う。
まず、審査請求可能期間の短縮の効果をみる。ここでは、審査請求可能期間の短縮を、
得られる情報量の減少( m の低下)とみなして比較静学を行う。
∂q 2
∂m
=
2(1 − m)( µ − q 2 )
m ( 2 − m)
>0
∂x − f (q ) 2(1 − m)( µ − q 2 ) < 0
=
2
∂m
m( 2 − m )
∂ q1 A[− βµ x m − m{(2 − βm) x m − βx}(q 1 − µ )] + βx m C
=
∂m
Am(1 − 2βx + βxm)
13
S (q i , 0 , γ ) ≥ 0 であるから、 a ≥ b γ ⇔ A ≥ 0 が成立する。
-14-
∂q
ただし、x m = ∂x ( < 0 )である。このとき、 1 の符号は、一般には不明であるが、βx m C
∂m
∂m
の絶対値が大きすぎなければ正になる。
この結果から、審査請求可能期間が短縮された場合( m の低下)の効果として次のこと
が言える。
(a) 質の低い特許までが審査請求されるようになり、最終審査請求率が常に上昇する。
(b) 審査請求費用が大きすぎない場合、審査請求期間の早い段階でも請求率を上昇さ
せる。
したがって、審査請求可能期間が短縮されれば、出願特許の価値を見極めることが難し
くなるため、本来企業にとって審査請求するに値しない特許までもが審査請求されるよう
になり、最終審査請求率が上昇する。また、この情報量の減少は、意思決定を遅らせるメ
リットを相対的に小さくすることで、特に審査請求期間の比較的早い時点における審査請
求率を上昇させると考えられる。
次に、審査請求料金値上げの効果( C の上昇効果)をみていく。
∂q 2
∂C
=
1
>0
A m ( 2 − m)
∂ q1 − AxC {( 2 − m) βmq1 + (1 − m)2 βµ } − xC βC − (1 − βx)
=
∂C
Am(1 − 2βx + βxm)
∂q
ただし、 xC = ∂x ( < 0 )である。ここで、 1 の符号は一般には不明であるが、 m が小
∂C
∂C
さく β x が大きい場合には負になりやすいことが式から見て取れる。
これらの結果から、審査請求料金が値上げされた場合(C の上昇)の効果としては、次
のことが言える。
(a) 審査請求されるべき出願特許の選別が厳しくなり、最終審査請求率が低下する。
(b) 審査請求プロファイルの変化は一般には不明であるが、得られる情報量が少なく
将来が重要である場合、前半の請求率が上昇し、後半の請求率が大きく低下する。
したがって、審査請求料が値上げされれば、企業は審査請求に慎重になるため最終的な
請求率は低下する。その際、不確実性が大きく長期的な利益が重要な産業では、審査請求
を早めて投資回収期間を長くした方が得になるため、最終的な請求率は低下するものの、
審査請求期間の早期の請求率は上昇する。
続いて、年金値下げの効果( γ の低下効果)をみる 14。
∂q 2
∂γ
14
=
β b{µ + m( 2 − m)(q 2 − µ )}
(8)式と
A m( 2 − m)
>0
A > 0 より µ + m(2 − m)(q2 − µ ) > 0 が成立する
-15-
∂q1
∂γ
=
− β {b(1 − βx)C − xγ } − A{m(2 − m)q1 + (1 − m)2 µ}
(1 − 2 βx + βxm)m
∂q
ただし、 xγ = ∂x ( < 0 )である。ここで、 1 の符号は (1 − 2 β x + β xm) が負であれば正にな
∂γ
∂γ
る(逆も然り)。すなわち、 m が小さく βx が大きい場合には年金の値下げによって、前半
の請求率が上昇することが分かる。
これらの結果から、年金が値下げされた場合( γ の低下)の効果としては、次のことが
言える。
(a) 特許取得の期待利益が上昇することで、最終審査請求率が上昇する。
(b) 得られる情報量が少なく将来が重要である場合には、前半の請求率は上昇するが、
後半の請求率に関しては不明である。逆に得られる情報量が大きく短期的な利益が
重要である場合には、前半の審査請求率が低下し、後半の審査請求率が大きく上昇
する。
したがって、年金が値下げされれば、最終的には審査請求が行いやすくなるが、このと
き、不確実性が大きく長期的な利益が重要視される産業では、特に前半の審査請求率が上
昇する。逆に、技術変化のスピードが速い産業では、意思決定を少し遅らせて価値を見極
めてから審査請求される特許が多くなる。
さらに、平均的な特許の質の上昇が与える効果(μの上昇効果)もみておく。これは本
研究においては、平均クレーム数の増加と解釈できる。
∂q 2
∂µ
∂q 1
∂µ
=−
=
(1 − m) 2 < 0
m ( 2 − m)
− βx µ {mq 1 (2 − m) + (1 − m) 2 µ} + (1 − βx + βxm)(1 − m)
m(1 − 2βx + βxm)
∂q
ただし、 x µ = ∂x ( < 0 )である。ここで、 1 の符号は (1 − 2 β x + β xm) が負であれば、負に
∂µ
∂µ
なる(逆も然り)。すなわち、 m が小さく βx が大きい場合には特許の質が高いほど、前半
の請求率が上昇することが分かる。
したがって、クレーム数の増加は最終審査請求率を上昇させ、不確実性の高い産業に対
しては審査請求を前倒しにさせる効果があり、逆に技術動向の早い産業に対しては審査請
求を先延ばしにさせる効果がある。
-16-
(4)
データ
本稿では、企業の審査請求行動を分析するために、特許庁の承認統計である「知的財産
活動調査」の個票データ、知的財産研究所が提供している IIP パテントデータベースによ
る国内特許データ、そして日本経済新聞社が提供している財務データベース『日経 quick』
による企業の財務データの3つのデータソースを利用した。
分析のベースは、これら3つのデータベースに共通して収載されている企業である。具
体的な対象企業の抽出作業では、まず大西・岡田 (2005)15 で行った平成 15 年度「知的財
産活動調査」と証券コードのマッチングデータを平成 17 年度「知的財産活動調査」につな
げることにより、上場企業 753 社を抜き出した。その上で、それら企業と IIP パテントデ
ータベースとの接続をすることによって 753 社の国内企業の特許データを得た 16。
多項性及び審査請求可能期間の短縮の影響の分析期間は 1986 年、1994 年、2002 年の3
年とした。これら3つの年を利用した理由について、まず 2002 年は審査請求期間が3年に
短縮された後であり、しかも現時点で審査請求期間が終了している最新データであるとい
う理由がある 17。1994 年は審査請求期間が7年で、かつ IIP パテントデータベースに収載
されているデータの中で審査請求期間が終了している最新データだからである。1986 年は、
80 年代の審査請求行動と対比させるために、1994 年から 2002 年までの8年間の時間的な
ラグを、1994 年に同様に適用したことによる。結果として、これら3期間すべてに特許出
願を 1 件以上している企業は 753 社中 430 社しかなかったが、これらの残った 430 社を最
終的な分析データとした 18。
審査請求料金改定の分析に当たっては、2002 年と 2005 年の出願・審査請求データにつ
き、
それぞれ 2003 年 12 月末及び 2006 年 12 月末までに公開済のデータを利用した。また、
料金改定インパクトの分析に必要となる登録率は 1986 年のデータから、権利維持期間は
1980 年のデータから算出した。ただし、公開済までの期間に整合性を持たせるため、各年
について翌年 12 月末までに公開されたデータに限って分析を行った 19。
15
P.30 参考文献7参照。
IIP パテントデータの名寄せ作業については章末 P.36 の補論を参照。
17 なお、2002 年以降の IIP パテントデータベースに含まれない特許出願データ、審査請求データについては、特許庁の
厚意により最新データを補完していただいた。この場を借りて深く感謝したい。
18 なお 753 社中 1986 年に1件以上出願している企業 430 社、1994 年に特許出願している企業 527 社、2002 年に特許出
願している企業 727 社である。
19 権利維持期間については、80 年の公開日データが入手できなかったため、便宜的に出願から3か月間(80 年6月末ま
で)のデータを用いて計算を行った。
16
-17-
(5)
計量分析
(ⅰ)
多項性の影響
以下では、1986 年、1994 年及び 2002 年の3年間の企業レベルのパネルデータによって、
審査請求率の決定要因を分析する。統計モデルは以下のとおりである。
cexaminei ,t = α 0 + α 1 ln claimi ,t + α 2 ln empi ,t + βα 3 ln appi ,t
(13)
+ dummiesindustry + dummyt + dummyindustry × dummyt + ε i ,t
被説明変数(cexaminei,t)は企業 i によって t 年に出願された特許の各年に審査請求され
た比率の合計(累積審査請求率)である。説明変数は、各企業が保有する特許の平均の請求
項数(claimi,t)、出願件数(appi,t)、従業員数(empi,t)(あるいは売上高(salesi,t))及び産業ダ
ミー、年ダミーである。請求項数の係数の予想される符号はプラス、従業員数は企業が発
明を利用できる補完的資産の規模を代理していると考えられるのでその係数の予想される
符号はプラス、出願件数はコントロール変数である。各企業の審査請求率の分散は、出願
件数に反比例すると考えられるので( σ 2 (ε i ,t ) ∝ 1 / app i ,t 、図4を参考)、出願件数によって
加重した回帰分析を行う。2002 年は特許審査請求可能期間の短縮化が行われた後であるが、
この小節の分析ではその影響は時間ダミーあるいは産業×時間ダミーで吸収する(なお、
2002 年のデータを除いた分析でも、定性的な結果は同じである。ただし、平均請求項数の
対数の係数は少し小さくなる)。
企業別の固定効果(企業の発明の活用能力など企業レベルの欠落変数)が存在すること、
また産業別のトレンドの格差が存在する可能性を考慮して、以下の差分による分析と固定
効果分析も行う。
dcexaminei = α 1 d ln claimi + α 2 d ln empi + α 3 d ln appi
(14)
+ dummiesindustry + dummiest + (crossdummies) + dε i
図4
最終審査請求率(出願2002年)
最終審査請求率(出願
2002 年)
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
0
1000
2000
3000
4000
-18-
5000
6000
7000
8000
結果は表1のとおりである。モデル(1)及び(2)のみアンバランスドパネルによる推計
結果である。プールしたデータによる分析(モデル(1)~(4))、差分による分析(モデル
(5)と(6))及び固定効果モデル(モデル(7)と(8)、企業ダミーを利用)の結果は、全体と
して整合的である。企業による特許出願の請求項数(claimi,t)の係数は高度に正であり、産
業分野をコントロールしても請求項数が多い企業において、特許審査請求率が高い。また
請求項数が 1986 年から 1994 年、1994 年から 2002 年の間に増加した企業において特許審
査請求率がより増大したことを示唆している。請求項数(claimi,t)の係数を約 0.08 である
とすると、請求項数が平均で 1986 年の 1.2 から 2002 年の 5.8 まで増大したことによって、
特許審査請求率は 12.8%ポイント増大する。これは、この期間の審査請求率の上昇に対応
する。
他の説明変数については、従業員数並びに売上高で評価した企業規模はプールした推計
モデルでは有意に正であるが、差分のモデルや固定効果モデルでは有意ではない。出願件
数と請求項数を与件として、従業員数並びに売上高が多い場合には補完的な資産の水準が
高く、特許が活用されやすいと考えられ、モデル(1)~(4)においてこれが正の符号を示
していることは理論的に予想される結果である。ただ時系列のコンテキストでは、表2よ
り従業員数が年々減少していることから、特に従業員数の変化が必ずしもこのような補完
的資産の変化を示していない可能性がある。
出願件数(appi,t)の係数はプールした推計モデル、差分推計モデル、固定効果推計モデル
でも有意に負の符号を持っている。補完的資産を与件として、出願件数が大きい企業ある
いはそれが増加した企業では、特許が利用される可能性が小さくなると考えられるので、
理論的な予想と整合的である。
-19-
表 1-a
産業ダミー*1994年ダミー
(2)
cexamine
OLS
アンバランス
0.07976***
[0.01252]
0.05155***
[0.00666]
-0.08899***
[0.00534]
-0.1443
[0.11160]
-0.14736
[0.12117]
YES
32産業
YES
産業ダミー*2002年ダミー
YES
パネル
ln(claim)又はdln(claim)
ln(emp)又はdln(emp)
ln(app)又はdln(app)
1994年ダミー
2002年ダミー
産業ダミー
(1)
cexamine
OLS
アンバランス
0.08655***
[0.01229]
0.05378***
[0.00669]
-0.09064***
[0.00534]
-0.07016***
[0.01785]
0.03916
[0.02419]
YES
32産業
推計結果(企業規模=従業員数を用いた推計)
(3)
(4)
(5)
(6)
(7)
(8)
(9)
(10)
cexamine
cexamine
dcexamine dcexamine
cexamine
cexamine
cexamine
cexamine
OLS
OLS
OLS
OLS
固定効果
固定効果
OLS
OLS
バランス
バランス
バランス
バランス
バランス
バランス
バランス
バランス
0.09988*** 0.09334*** 0.05334*** 0.05902***
0.00057
0.00143
0.098589*** 0.08029***
[0.01483]
[0.01513]
[0.01509]
[0.01592]
[0.02135]
[0.02237] [0.0169597] [0.016657]
0.04905*** 0.04673*** -0.02556
-0.03024
-0.00869
0.02007
0.0078967 -0.0398593*
[0.00873]
[0.00867]
[0.02449]
[0.02564]
[0.02583]
[0.02797] [0.0217542] [0.0228097]
-0.08572*** -0.08383*** -0.09216*** -0.09141*** -0.04727*** -0.04902*** -0.086652*** -0.085639***
[0.00703]
[0.00705]
[0.00704]
[0.00709]
[0.00814]
[0.00860] [0.0101852] [0.0098689]
-0.08402*** -0.1699 -0.11664*** -0.15102
-0.04181
-0.04694 -0.083490*** -0.1462361
[0.02074]
[0.11763]
[0.01691]
[0.14178]
[0.02873]
[0.06734] [0.0228366] [0.0898929]
0.01519
-0.19573
0
0
0.0503
-0.02743
-0.0036075 -0.1669902
[0.02865]
[0.13337]
[0.00000]
[0.00000]
[0.03825]
[0.07131]
[0.032839] [0.1041961]
YES
YES
YES
YES
32産業
32産業
32産業
32産業
YES
YES
YES
YES
YES
YES
YES
YES
企業ダミー
YES
YES
337企業
337企業
定数項
0.57784*** 0.67997*** 0.59696*** 0.70488***
0.00732
0.02221
0.97240*** 0.76009*** 0.8793218** 1.423551***
[0.06193]
[0.09008]
[0.07211]
[0.09843]
[0.07051]
[0.11130]
[0.18968]
[0.20544] [0.4434246] [0.4732108]
サンプル数
1491
1491
1011
1011
674
674
1011
1011
1011
1011
修正済決定係数
0.45864
0.48363
0.43696
0.47121
0.39043
0.39819
-0.30305
-0.27185
0.6322
0.7046
企業数
337
337
337
337
337
337
337
337
(注)括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準、ダミー変数については有意なものだけ掲載、被説明変数
がdcexamineの場合説明変数は各々dln(claim)、dln(emp)、dln(app)で推計。
表 1-b
産業ダミー*1994年ダミー
(2)
cexamine
OLS
アンバランス
0.07888***
[0.01243]
0.04730***
[0.00628]
-0.09064***
[0.00560]
-0.15162
[0.11069]
-0.17163
[0.11905]
YES
32産業
YES
産業ダミー*2002年ダミー
YES
パネル
ln(claim)又はdln(claim)
ln(sales)又はdln(sales)
ln(app)又はdln(app)
1994年ダミー
2002年ダミー
産業ダミー
(1)
cexamine
OLS
アンバランス
0.08473***
[0.01218]
0.05158***
[0.00622]
-0.09423***
[0.00556]
-0.07722***
[0.01746]
0.01162
[0.02305]
YES
32産業
推計結果(企業規模=売上高を用いた推計)
(3)
cexamine
OLS
バランス
0.10287***
[0.01456]
0.04831***
[0.00802]
-0.08891***
[0.00713]
-0.09545***
[0.02009]
-0.01488
[0.02684]
YES
32産業
(4)
cexamine
OLS
バランス
0.09603***
[0.01491]
0.04483***
[0.00798]
-0.08591***
[0.00716]
-0.18149
[0.11740]
-0.22843*
[0.13292]
YES
32産業
YES
(5)
dcexamine
OLS
バランス
0.04716***
[0.01493]
-0.05568***
[0.01396]
-0.08719***
[0.00700]
-0.11864***
[0.01565]
0
[0.00000]
YES
32産業
YES
企業ダミー
(6)
(7)
(8)
(9)
dcexamine
cexamine
cexamine
cexamine
OLS
固定効果
固定効果
OLS
バランス
バランス
バランス
バランス
0.05531***
0.00155
0.00281
0.100772***
[0.01574]
[0.02144]
[0.02243] [0.0165347]
-0.05445*** -0.01345
-0.00429
-0.008721
[0.01434]
[0.02317]
[0.02473] [0.0170429]
-0.08646*** -0.04652*** -0.04667*** -0.084013***
[0.00709]
[0.00822]
[0.00869] [0.0100727]
-0.15151
-0.04072
-0.04577 -0.084927***
[0.14009]
[0.02862]
[0.06742] [0.0223181]
0
0.05323
-0.03257
-0.0074009
[0.00000]
[0.03667]
[0.07097] [0.0302761]
YES
32産業
YES
YES
YES
YES
YES
337企業
定数項
0.38999*** 0.51976*** 0.40669*** 0.53650***
0.02436
0.03647
1.05506*** 0.95220*** 1.036289**
[0.07645]
[0.10059]
[0.09328]
[0.11419]
[0.06926]
[0.10973]
[0.25267]
[0.26973] [0.4623475]
サンプル数
1521
1521
1011
1011
674
674
1011
1011
1011
修正済決定係数
0.46136
0.48448
0.43954
0.47258
0.40412
0.41056
-0.30261
-0.27284
0.6323
企業数
337
337
337
337
337
337
337
(注)括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準、ダミー変数については有意なものだけ掲載、被説明変
数がdcexamineの場合説明変数は各々dln(claim)、dln(emp)、dln(app)で推計。
-20-
(10)
cexamine
OLS
バランス
0.07870***
[0.0164824]
-0.04861***
[0.0164887]
-0.08254***
[0.0097792]
-0.1356722
[0.0895039]
-0.1407339
[0.1032845]
YES
YES
YES
337企業
1.7123***
[0.4825409]
1011
0.7073
337
表2
記述統計量(上はアンバランスドパネル、下はバランスドパネル)
変数名
出願年 サンプル数 平均値
標準偏差 最小値 最大値
cexamine
1986
377 0.6958645 0.296802
0
1
cexamine
1994
460 0.6684532 0.2483135
0
1
cexamine
2002
654 0.775946 0.1981892
0
1
claim
1986
377 1.170699 0.3201476
1
5
claim
1994
460 4.014099 2.276851
1 30.0625
claim
2002
654 5.837504 2.934166
1 28.7717
emp
1986
377 5124.313 10010.89
25
77981
emp
1994
460 3800.125 7181.341
29
69748
emp
2002
654 3092.008 6205.375
17
65551
sales
1986
377 254670.6 564475.5
520 6024909
sales
1994
460 264150.4
908793
2526 15900000
sales
2002
654 275999.5 688866.9
683 8739310
app
1986
377 235.2308 773.6389
1
11891
app
1994
460 232.2326 537.9177
1
4226
app
2002
654 279.8226 947.1419
1
12722
変数名
出願年 サンプル数 平均値
標準偏差 最小値
cexamine
1986
337 0.7357944 0.2484347
0
cexamine
1994
337 0.6597434 0.2185908
0
cexamine
2002
337 0.7583228 0.1858786
0
claim
1986
337 1.166567 0.2830881
1
claim
1994
337 3.924101
1.81678 1.0677
claim
2002
337 6.057413 3.242939 1.6591
emp
1986
337 4470.436 8111.427
25
emp
1994
337
4522.62 7813.517
179
emp
2002
337 3356.448 6192.556
82
sales
1986
337 233008.1 542978.5
520
sales
1994
337 280676.5 613430.7
7016
sales
2002
337 287399.7 690033.4
3370
app
1986
337 261.2967 814.3156
1
app
1994
337 299.7804 601.6085
1
app
2002
337 305.8249 725.8713
1
(ⅱ)
最大値
1
1
1
5
19.875
28.7717
64797
69748
65551
6024909
6163885
8739310
11891
4226
7212
審査請求が可能な期間の短縮の影響
以下では、1994 年と 2002 年(審査請求期間の3年が終了している利用可能なデータのす
べて)の2年の企業レベルの差分データによって、審査請求率の変化の決定要因を分析する。
統計モデルは以下のとおりである。
dcexaminei = α1d ln claimi + α 2 d ln empi + α 3d ln appi + α 4 recamine7 i
+ α 5 rdinti + α 6uspati + α 7 successi + α 8citationi + dummiesindustry + dε i
(15)
ここで、新たに導入した説明変数 recamine7 i は、1994 年に各企業によって出願された発
明の審査請求全体の中で7年目(最終年)に審査請求が行われていた割合である。この割合
が高い企業は特許の価値について高い不確実性に直面している企業であり、これが高い企
業の方が審査請求期間の短縮によって審査請求率を高める可能性が高いと考えられる。
不確実性に加えて、企業特性として発明の質と出願のグローバル化の影響を検討する。
説明変数 rdinti は 2004 年時点における研究開発集約度(研究開発費対売上高)であり、研
究開発集約度が高い企業の方が権利行使の価値が高い質の高い発明を生み出すことができ
るとすれば、審査請求期間の短縮が審査請求率を高める傾向は小さいと考えられる。
また、
-21-
米国出願率 uspati は 2003 年における米国出願件数対国内出願件数であり、これが高い企
業は発明の質が高いと考えられる。加えて米国の特許審査の結果を多くの発明に関して企
業が入手しており、米国の特許保護の対象となっていることから、審査請求期間の短縮が
審査請求率の上昇をもたらす効果はより小さくなると予想される。そして、上記2変数に
加え、平均特許査定率(successi)及び平均被引用件数(citationi)も含めて推計を行った。
すなわち、審査請求した特許のうち、実際に登録された特許件数の比率(=特許査定率)
が平均的に高く、後方特許から引用される回数が平均的に多い特許を保有する企業ほど、
質の高い発明を生み出すことができると考えられる。
分析結果は表3である。最終年に審査請求をする割合( recamine7 i )が高い企業が、審査
請求期間の短縮に対応して審査請求率をより高めたことが示唆されている。企業規模(empi
及び salesi)の係数は 5.1 節の結果と比べて、負で若干有意になっている(従業員・売上高
規模でみて大きい企業の方が審査請求率を低下させる)。この原因は、過去(1994 年)の雇
用と出願件数の比率が高い企業は補完的な資産が高く、比較的質の低い発明でも出願する
傾向にあるために、審査期間短縮によって審査請求比率を高める傾向が強いからだと考え
られる。この可能性は 1994 年時点の雇用/出願件数の対数を説明変数として導入したモデ
ル(4)で確認できる。
請求項数の対数の係数はモデル(1)と 5.1 節の結果と比べて少し係数の大きさは低下し
ているが高度に有意である。出願件数(appi)の係数は差分の推計で有意に負の符号を持っ
ている。これは 5.1 節の結果と同様なものとなっており、出願件数のみが増加した企業で
は、特許が利用される可能性が小さくなることはかなり頑健的に言えよう。
表3
dln(emp)
dln(sales)
dln(claim)
dln(app)
rexaminelag7
通信
rdint
uspat
success
citation
定数項
サンプル数
修正済決定係数
(1)
diff
-0.02298
[0.03178]
(2)
diff
-0.08104*
[0.04387]
推計結果
(3)
diff
-0.01614
[0.06186]
(4)
diff
(5)
diff
(6)
diff
-0.03469* -0.05484** -0.06378*
[0.01765]
[0.02283]
[0.03357]
0.06540***
0.02499
-0.0332
0.06321***
0.01596
-0.03497
[0.02183]
[0.02786]
[0.02628]
[0.02168]
[0.02760]
[0.02546]
-0.11055*** -0.11441*** -0.11960*** -0.10678*** -0.11634*** -0.11097***
[0.01327]
[0.01678]
[0.01710]
[0.01273]
[0.01608]
[0.01664]
0.06370** 0.09983*** 0.13179*** 0.07401*** 0.12159*** 0.13189***
[0.02794]
[0.03448]
[0.04070]
[0.02817]
[0.03541]
[0.04007]
0.40913***
0.29414
0
0.44048***
0.27856
0
[0.13607]
[0.26891]
[0.00000]
[0.13612]
[0.26461]
[0.00000]
-0.34774*** -0.25234**
-0.26593** -0.24325**
[0.13241]
[0.12216]
[0.12523]
[0.10201]
-0.00913
0.18034*
0.0203
0.23475**
[0.05794]
[0.10094]
[0.05918]
[0.10315]
0.05179
0.05134
[0.07835]
[0.07724]
0.0119
0.00934
[0.00915]
[0.00899]
-0.01616
-0.03454
0.01646
-0.01092
-0.01862
0.02495
[0.10919]
[0.15070]
[0.17581]
[0.10821]
[0.14925]
[0.17051]
424
260
156
424
260
156
0.26962
0.27964
0.29393
0.2758
0.28685
0.31322
(注)括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
-22-
モデル(2)、(3)、(5)式及び(6)式において企業の研究開発集約度(rdinti)は負で有
意である。すなわち、質の高い発明を生み出す企業では審査請求期間の短縮が審査請求率
の上昇をもたらす効果はより小さくなり、理論的な予想と整合的である。審査請求におい
てグローバル化が進んでいる企業では、審査請求率への影響は小さいと理論的には予想さ
れるが、米国出願率(uspati)は(3)式及び(7)式において若干有意に正の符号を持ってい
る。
また、業種レベルでみると、図5に示すように、(1)制度改正前に比較的審査請求率が
低かった業種(鉄鋼、精密機械など)で大幅な審査請求率の上昇があったこと、(2)医薬品、
ゴム、繊維など7年目の審査請求の割合が6割以上と非常に高かった産業では審査請求率
の上昇が見られなかったことが指摘できる。前者も、比較的価値が低い特許が多い産業で
審査請求率が高まった可能性を示唆しており、後者は、例えば医薬品産業では特許の価値
に関する不確定性の水準に7年と3年では大きな差が無いことを示唆している。
図5
90%
審査請求率の上昇
業種別の審査請求率の変化(1994 年出願
94年の最終審査請求率
対
2002 年出願)
80%
7年目審査請求の割合
80%
70%
70%
60%
60%
50%
50%
40%
40%
30%
30%
20%
10%
20%
0%
業
窯
薬
医
学
化
10%
品
製
ス
他
設
建
の
ビ
ー
サ
そ
品
食
ム
ゴ
造
器
属
器
車
機
動
自
械
機
社
商
密
精
機
・金
鉄
非
維
繊
鋼
鉄
気
電
-10%
-20%
0%
-23-
表4
式
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(1)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(2)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
(3)
変数名
diff
emp
emp
sales
sales
claim
claim
app
app
rexaminelag7
diff
emp
emp
sales
sales
claim
claim
app
app
rexaminelag7
rdint
uspat
diff
emp
emp
sales
sales
claim
claim
app
app
rexaminelag7
rdint
uspat
success
citation
出願年 サンプル数
x
424
1994
424
2002
424
1994
424
2002
424
1994
424
2002
424
1994
424
2002
424
x
424
x
260
1994
260
2002
260
1994
260
2002
260
1994
260
2002
260
1994
260
2002
260
x
260
x
260
x
260
x
156
1994
156
2002
156
1994
156
2002
156
1994
156
2002
156
1994
156
2002
156
x
156
x
156
x
156
x
156
x
156
表5
記述統計量
平均値
0.0839286
4037.389
3049.163
278846.7
272024.5
3.956659
5.968275
244.5566
254.4104
0.4386375
0.0938264
4876.308
3619.292
276414.4
289610.5
3.843287
6.050808
333.9577
346.7115
0.4219148
0.0437151
0.2127609
0.0999079
4763.449
3416
292044.1
279167.1
3.705597
5.833279
330.3526
286.0705
0.4006322
0.0460288
0.1449775
0.3178813
3.657051
標準偏差
0.2267313
7427.016
5840.114
943696.7
719822.2
2.208286
3.242234
547.6917
656.6209
0.3500036
0.2050745
8024.987
5950.896
558901.5
569072.1
1.618775
3.317057
634.6188
772.9604
0.3382033
0.0641906
0.7081102
0.1884689
7623.708
5572.353
606429.9
565209
1.506966
2.860361
614.7638
494.4194
0.3191538
0.0775193
0.2771837
0.1923786
1.983646
最小値
最大値
-1
0.8
29
69748
82
65551
2526 15900000
3370
8739310
1
30.0625
1.41379
28.7717
1
4226
1
7212
0
1
-0.6666666 0.7142857
137
49177
160
36895
3534
4975438
5405
4808424
1
12.1333
2.33333
28.7717
1
4226
2
7212
0
1
0 0.876433
0
9.9
-0.4938271 0.5714285
258
48421
182
36895
9459
4975438
11922
4808424
1
8.81818
2.37143
24
3
3842
2
4518
0
1
0.0001135 0.876433
0
3
0
1
0
11
変数の定義
変数名
cexamine i,t
定義
データ
企業iがt年に出願した特許の最終審査請求率。
IIPパテントデータベース
dcexamine i,t 企業iがt+1年に出願した特許の最終審査請求率-企業iがt
IIPパテントデータベース
年に出願した特許の最終審査請求率の差分。
claim i,t
企業iがt年に出願した特許の平均請求項数。
IIPパテントデータベース
emp i,t
企業iのt年度における従業員数。
日経NEEDS
sales i,t
企業iのt年度における売上高。
日経NEEDS
app i,t
企業iがt年に出願した特許件数。
IIPパテントデータベース
rexaminelag7 i 企業iが1994年に出願した特許のうち出願後7年目に審査請
IIPパテントデータベース
求した比率。
rdint i
企業iの研究費対売上高。
平成16年知的財産活動調査
uspat i
企業iの米国出願特許件数対国内出願特許件数。
平成16年知的財産活動調査
success i
企業iの1997~99年の特許査定率の加重平均値。
IIPパテントデータベース
citation i
企業iが保有する特許の平均被引用件数(2002年時点)。
NBER Patent Citations Data
-24-
(ⅲ)
2004 年度の料金改定の影響
以下では、2002 年と 2005 年に出願された特許の中で、それぞれ年度始めから 1 年半以
内に公開された月単位のデータを抽出して 2004 年度の料金改定の影響を分析する。ここで
の分析は、技術分野レベルの差分データを用いる。
なお、この節の審査請求率は、それぞれ年度始めから1年半以内に出願された特許のう
ち審査請求された特許の割合である。
図6に見られるように、2002 年と 2005 年の累積審査請求率を比較すると、大幅な低下
が見られ、請求料金改定の効果を示唆している。
統計モデルは以下のとおりである。この推計式の前提は、審査・特許料金の比例的な変
化が審査請求率に与える影響は各技術分野で等しいとの点にある。すなわち、価格の2つ
の要素 x(審査料)と y(特許登録料)の変化が、価格の比例的な変化にもたらす影響は
x/(x+y)(dx/x)+y/(x+y)(dy/y)で与えられる。
dcexamin12 i = α 1 rex d ln examfeei + α 2 rre d ln renewfeei + α 3 d ln claim i + dε i
(16)
被説明変数(dcexamin12)は技術分野 i において出願から 12 か月の間に審査請求された特許
の累積比率の差分をとったものである
20
。ここでも出願件数によって加重した回帰分析を
行う。
図6
経過月数別の累積審査請求率の変化(2002 年出願 対 2005 年出願)
0.23
経過月数別累積審査請求率 2002年
0.21
経過月数別累積審査請求率 2005年
0.19
0.17
0.15
0.13
0.11
0.09
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
経過月数
20
2005 年度の出願データのほとんどは 2005 年6月末までに出願されたものであり、また、審査請求に関するデータは
2006 年 12 月末までのものである。したがって、約 1 年半の審査請求データが取れるはずであるが、早期公開の影響をで
きるだけ除去するため、1 年間の累積審査請求率で最終審査請求率の動きを代表させる。
-25-
説明変数は、技術分野ごとの審査請求料(examfeei)の対数の差分に 2002 年時点における
審査請求料と特許料の合計額に占める審査請求料の割合(rex) をかけたもの、特許料
(renewfeei)の対数の差分に特許料の占める割合(rren)をかけたもの、及び請求項数(claimi)
の対数の差分である。2004 年度の料金改定では、審査請求料金を値上げしたが、これによ
って審査請求率は低下すると考えられる。また、審査請求料の値上げと同時に特許料の値
下げも行ったが、これは審査請求率を上昇させる効果を持つことが予想される。
前節と同じように、請求項数の変化に反映される特許の価値の変化が、審査請求率に影
響を与えるので、この効果を説明変数 claimi で考慮する。ここで、両者の料金体系の平均
的な変化を表6によって確認すると、両者の合計費用の変化は請求項数が多ければ値下げ
の意味を持ち、請求項数が少なければ値上げの意味を持っていることが分かる(2005 年の
請求項数の加重平均は 7.75 であるから、平均的な特許を想定した場合、トータルではほと
んど変化は見られない)。
表6
平均的な料金体系の変化
審査請求料
請求項数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
料金改定前
86,300
88,300
90,300
92,300
94,300
96,300
98,300
100,300
102,300
104,300
106,300
108,300
110,300
112,300
114,300
116,300
料金改定後
172,600
176,600
180,600
184,600
188,600
192,600
196,600
200,600
204,600
208,600
212,600
216,600
220,600
224,600
228,600
232,600
期待特許料
(80年平均権利維持期間:8.4年
86年平均登録率:58.3%)
料金改定前
124,249
133,449
142,648
151,848
161,048
170,248
179,447
188,647
197,847
207,047
216,246
225,446
234,646
243,846
253,045
262,245
-26-
料金改定後
56,773
60,830
64,888
68,946
73,003
77,061
81,119
85,176
89,234
93,292
97,349
101,407
105,465
109,522
113,580
117,638
合計
料金改定前
210,549
221,749
232,948
244,148
255,348
266,548
277,747
288,947
300,147
311,347
322,546
333,746
344,946
356,146
367,345
378,545
料金改定後
229,373
237,430
245,488
253,546
261,603
269,661
277,719
285,776
293,834
301,892
309,949
318,007
326,065
334,122
342,180
350,238
分析結果は表7である。(1)と(2)どちらのモデルにおいても、審査請求料は有意に負
の効果を持っている。すなわち、請求料金の値上げは審査請求率を低下させる方向に働く。
特許料に関しては有意ではないが(技術分野が同じでも特許の登録率や維持年数のばらつ
きが大きいので特許料にもばらつきが大きいことを反映していると考えられる)、符号は負
になっており、特許料の値下げは審査請求率を上昇させる効果を持つことを示唆している。
表7
推計結果
(1)
dcexamin12
-0.08173*
[0.04294]
-0.00714
[0.06500]
(2)
dcexamin12
rdlnexamfee
-0.10394**
[0.04485]
rdlnrenewfee
-0.03726
[0.06725]
dlnclaimav
0.05401
[0.03376]
Constant
-0.01395
-0.02568
[0.01929]
[0.02052]
サンプル数
117
117
修正済決定係数
0.06677
0.07936
(注)括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準
-27-
ただし、企業は、審査請求を行う際に審査請求料と期待特許料の合計額を考慮して意思
決定を行っているはずである。そこで、これらふたつの料金改定のトータルの効果を次の
推計式で分析する。
dcexamin12 i = α 1 d ln totalfee i + α 2 d ln claim i + dε i
(17)
新たな説明変数(totalfeei)は、審査請求料と特許料の合計額である。結果は表8のとお
りである。当然のことながら、審査請求にかかる総合的な費用が上昇すれば、審査請求率
は低下することが分かる。
前述のとおり、今回の料金改定は、請求項数の少ない出願特許に対しては期待審査請求
費用を上昇させ、請求項数が多いものについては期待費用を低下させる。したがって、料
金改定により、相対的に質の高い(請求項数の多い)特許の審査請求率を上昇させ、質の
低い(請求項数の少ない)特許の審査請求率を低下させるという、狙い通りの効果を持っ
ていたことが分かる。
表8
推計結果
(1)
dcexamin12
-0.06694***
[0.02044]
(2)
dcexamin12
dlntotalfee
-0.07339***
[0.02064]
dlnclaimav
0.05447*
[0.03243]
Constant
-0.02784***
-0.03222***
[0.00398]
[0.00473]
サンプル数
117
117
修正済決定係数
0.07736
0.09174
(注)括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準
表9
変数名
cexamin12
cexamin12
claimav
claimav
examfee
examfee
renewfee
renewfee
examfee/totalfee
renewfee/totalfee
rdlnexamfee
rdlnrenewfee
記述統計量
出願年 サンプル数
2002
117
2005
118
2002
117
2005
118
2002
117
2005
118
2002
117
2005
118
2002
117
2002
117
x
117
x
117
平均値
0.163575
0.137157
6.448333
6.613247
143309.7
195053
159220.5
81592.53
0.477349
0.522651
0.15069
-0.36964
-28-
標準偏差
0.069568
0.056834
2.390149
1.696618
50777.79
6786.472
57401.25
44240.78
0.124531
0.124531
0.158819
0.093611
最小値
0
0
3.52632
3.95652
92855.56
184426.1
5143.86
1010.345
0.195868
0.052336
-0.18897
-0.58216
最大値
0.476191
0.355972
25.8182
14.5
271872.8
226600
434250
358724.9
0.947664
0.804132
0.654616
-0.08518
(6)
結論
本章による分析の主要な結論は、以下のとおりである。日本企業の審査請求行動につい
ての企業別あるいは技術分野別のパネルデータの分析によれば、
1.
日本企業による長期的な審査請求率の上昇の重要な原因は、特許の平均請求項数の
増大にあると考えられる。クロスセクションでも時系列的な変化においても、請求項
数が多いあるいはそれを増大させた企業の審査請求率は高い。日本では、分析の対象
とした企業における平均の特許の出願件数自体は 1986 年から 2002 年の間に平均 260
件から平均 305 件とそれほど増大していないが、一件当たりの特許出願に盛り込まれ
る発明は約5倍となり、個別の特許の価値が高まったために、審査請求率は徐々にで
はあるが長期的に大きく上昇したと考えられる。
2.
2001 年の 10 月以降の出願に適用された審査請求期間の短縮は審査請求率の大幅な
上昇をもたらしたが、以下の特性を有している企業でその影響は大きかった:(1)従
来7年目に高い割合で審査請求を行っていた企業、及び(2)研究開発集約度が低い特
許を保有している企業。産業別には、特許価値の不確実性の高い医薬品産業で審査請
求率はほとんど上昇しなかったのが注目されるが、医薬品の場合には特許の不確実性
が長期にわたって解消しない(3年目では解消しないが中期的にはかなり解消される
ような特許価値の不確実性に直面している企業ではない)ことにその原因があるので
はないかと考えられる。
3.
2004 年に行われた料金制度の変更(審査請求料金の値上げと年金の低下)は、2005
年の時点では、出願された特許の審査請求をある程度抑制した効果が認められる。2002
年と比べて、最初の 18 か月で約 2.5%ポイント程度審査請求率が低下している。技術分
野のクロスセクションによる予備的な結果であるが、そのうち約 1.2%ポイントが審査
請求料金改定の影響であると推計される。同時に行われた特許料の値下げは審査請求
率を高める効果があるがその影響の評価は技術分野のクロスセクション分析では困難
であった。
審査請求期間を短くしたことで、他企業を牽制するために特許性が乏しい出願が放置さ
れることを抑制することが期待されているが、審査請求行動についての本章の実証的な分
析が示すように、審査請求期間の短縮は比較的質の低い発明についても審査請求を企業が
行うことを促し、審査請求率を上昇させる効果がある。理論的な分析はなぜそれが必然か
を示している。このため、審査請求期間の短縮で、特許数の増大と質の低い特許の割合の
増加がもたらされる危険性がある。他方で、審査請求料金の値上げ(プラスその年金値下げ
による還元)は、審査請求の質を高める効果があり、審査請求期間の短縮のこのようなマイ
ナスの経済効果を相殺する効果があり、補完的な制度改革として重要だと言えよう。
(長岡
貞男、西村
-29-
陽一郎、山内
勇、大西
宏一郎)
参考文献
1.Lambrecht, B. (2000), “Strategic Sequential Investments and Sleeping Patents,”
in Brennan, Michael J., and Lenos Trigeorgis, eds., Project Flexibility, Agency, and
Competition, The Oxford University Press
2.Sanyal, P. (2005) “The Patent Explosion: Quantifying Changes in the Propensity
to Patent”, Working Paper
3.Pakes, A. (1986) “Patent as Options: Some Estimates of the Value of Holding
European Patent Stocks”, Econometrica, Vol.54, No.4, 755-784
4.Scotchmer, S. (1999) “On the Optimality of the Patent Renewal System”, RAND
Journal of Economics, vol.30, No.2, 181-196
5.Cornelli. F. and Schankerman, M. (1999) “Patent Renewals and R&D Incentives”,
RAND Journal of Economics, vol.30, N0.2, 197-213
6.Deng, Y. (2006) “The Effects of Patent Regime Changes: A Case Study of the European
Patent Office”, International Journal of Industrial Organization (forthcoming)
7.大西・岡田 (2005)「補完的資産が片務的ライセンス契約に与える影響」『特許統計の
利用促進に関する調査研究報告書』知的財産研究所、110-126
-30-
付録
審査請求の動向
1.審査請求可能期間の短縮
1.1
付録表 1
名寄せ企業ベース
業種別
1986年
業種
食品
繊維
パルプ・紙
化学
医薬品
石油
ゴム
窯業
鉄鋼
非鉄・金属
機械
電気機器
造船
自動車
その他輸送用機器
精密機器
その他製造
水産
鉱業
建設
商社
小売業
その他金融
不動産
鉄道・バス
陸運
海運
通信
電力
ガス
サービス
加重平均・合計
付録表2
最後の1年
0ヶ月目の 間の審査 最終審査
請求率 請求率合 請求率
計
7.0%
1.8%
0.1%
4.1%
5.8%
39.2%
6.9%
5.9%
0.3%
15.2%
7.6%
4.9%
1.3%
4.1%
50.0%
10.4%
21.6%
9.5%
40.2%
22.2%
4.0%
35.4%
31.3%
41.8%
25.5%
40.0%
13.4%
18.7%
33.4%
20.7%
18.4%
35.9%
25.0%
39.9%
27.9%
31.0%
75.9%
67.8%
62.2%
66.4%
69.0%
86.9%
58.6%
73.7%
38.5%
69.6%
77.7%
63.9%
56.1%
69.5%
100.0%
71.5%
87.4%
83.3%
7.2%
11.3%
33.3%
35.4%
3.1%
33.3%
92.2%
39.4%
66.7%
0.0%
0.0%
14.3%
50.0%
35.7%
50.0%
29.1%
3.6%
16.0%
7.7%
31.1%
51.5%
35.5%
29.0%
90.7%
66.9%
70.6%
69.6%
1994年
最後の1年
サンプル
0ヶ月目の 間の審査 最終審査
数(企業
請求率 請求率合 請求率
数)
計
16
12
4
55
15
3
7
11
9
27
57
69
3
28
2
10
14
2
0
13
8
3
0
0
0
1
1
0
1
1
5
377
0.7%
0.7%
3.6%
0.7%
4.8%
0.0%
0.6%
1.6%
0.3%
9.1%
1.7%
3.1%
9.0%
1.7%
0.1%
3.6%
6.2%
1.0%
0.0%
5.2%
8.7%
0.0%
0.0%
0.0%
0.0%
10.0%
0.0%
0.2%
28.5%
0.0%
4.9%
3.1%
-999
1000-1999
2000-2999
3000-3999
4000-4999
5000-7499
7500-9999
10000-14999
15000-19999
20000-29999
30000-39999
40000-49999
50000加重平均・合計
70.3%
70.9%
49.5%
62.6%
61.1%
37.8%
64.4%
68.7%
54.2%
65.4%
71.1%
63.0%
58.3%
60.6%
44.6%
54.2%
64.0%
73.5%
66.7%
70.5%
53.5%
48.0%
0.0%
20.2%
50.0%
60.0%
25.9%
61.0%
83.9%
0.0%
49.2%
63.1%
19
14
5
67
17
2
7
15
10
31
70
78
4
33
3
15
22
2
1
26
14
5
1
2
2
1
1
4
2
1
12
486
2.2%
2.1%
4.0%
1.4%
3.3%
13.0%
1.7%
2.2%
12.1%
3.5%
4.7%
4.9%
20.1%
0.9%
20.8%
1.7%
8.1%
0.0%
0.0%
10.1%
21.5%
33.3%
42.9%
0.0%
3.3%
5.6%
0.0%
31.7%
16.1%
4.1%
14.4%
5.5%
61.0%
58.6%
54.8%
62.2%
52.6%
67.7%
53.1%
65.1%
49.4%
55.5%
60.8%
57.1%
50.6%
57.8%
46.4%
56.5%
56.5%
79.0%
67.5%
52.3%
30.4%
66.7%
57.1%
100.0%
37.8%
69.0%
100.0%
43.3%
57.7%
58.2%
39.0%
57.0%
83.8%
76.1%
63.4%
72.5%
62.2%
91.2%
68.7%
75.4%
83.6%
78.4%
81.6%
77.4%
74.3%
72.4%
84.7%
77.8%
80.6%
81.7%
72.5%
82.2%
79.5%
100.0%
100.0%
100.0%
77.8%
81.7%
100.0%
89.1%
85.0%
77.8%
81.5%
77.8%
サンプル
数(企業
数)
25
19
4
88
22
5
11
20
18
42
109
122
3
44
4
18
29
2
1
40
17
3
1
1
3
2
1
3
8
3
17
685
従業員数別
1986年
従業員数
34.2%
26.1%
25.8%
38.7%
31.9%
15.3%
37.4%
36.9%
22.8%
23.0%
29.9%
22.7%
13.1%
17.4%
19.7%
31.9%
27.6%
60.4%
33.3%
18.2%
10.9%
24.7%
0.0%
11.5%
50.0%
10.0%
7.4%
20.8%
13.2%
0.0%
5.0%
26.6%
2002年
最後の1年
サンプル
0ヶ月目の 間の審査 最終審査
数(企業
請求率 請求率合 請求率
数)
計
最後の1年
0ヶ月目の 間の審査 最終審査
請求率 請求率合 請求率
計
12.1%
11.1%
3.9%
2.8%
0.8%
4.7%
4.2%
1.4%
1.0%
1.7%
7.7%
0.4%
0.3%
7.7%
30.6%
33.3%
30.5%
26.6%
34.5%
25.6%
23.1%
25.4%
13.5%
16.1%
23.9%
2.9%
14.3%
29.0%
79.6%
77.6%
67.6%
59.0%
65.4%
63.9%
65.0%
49.4%
49.3%
47.7%
50.6%
24.2%
23.9%
69.6%
1994年
最後の1年
サンプル
0ヶ月目の 間の審査 最終審査
数(企業
請求率 請求率合 請求率
数)
計
123
81
33
32
18
26
18
20
6
7
4
3
6
377
3.6%
3.6%
2.0%
1.6%
4.9%
1.3%
1.1%
1.9%
5.0%
0.5%
0.0%
9.3%
0.5%
3.1%
30.0%
24.3%
23.3%
26.2%
30.9%
26.9%
20.8%
23.9%
17.7%
7.5%
48.6%
21.9%
6.7%
26.6%
67.1%
63.7%
58.1%
59.3%
66.3%
65.4%
48.3%
55.2%
51.0%
33.0%
64.4%
73.9%
55.6%
63.1%
-31-
2002年
最後の1年
サンプル
0ヶ月目の 間の審査 最終審査
数(企業
請求率 請求率合 請求率
数)
計
182
108
57
32
22
32
16
16
8
4
2
6
1
486
6.1%
4.4%
5.1%
4.0%
5.7%
7.6%
5.6%
5.3%
1.7%
3.6%
9.1%
2.4%
3.5%
5.5%
58.5%
58.4%
55.2%
54.9%
47.0%
54.0%
49.2%
63.7%
53.1%
54.2%
53.2%
55.8%
54.4%
57.0%
80.8%
77.9%
75.2%
71.7%
67.7%
74.9%
73.7%
76.1%
70.8%
80.2%
76.0%
75.6%
67.1%
77.8%
サンプル
数(企業
数)
321
138
67
39
26
32
22
18
7
3
8
2
2
685
1.2
特許ベース
付表3
請求項数別
1986年
請求項数
1
2
3
4
5
6-7
8-10
11-15
16-20
21-30
31加重平均・合計
付表4
1994年
5.0%
8.4%
8.4%
6.7%
7.3%
4.7%
4.6%
3.0%
0.0%
0.0%
0.0%
5.4%
22.1%
26.2%
28.6%
32.4%
29.1%
31.5%
37.7%
39.4%
30.0%
50.0%
75.0%
22.8%
50.7%
61.1%
61.1%
62.7%
57.8%
58.6%
63.3%
62.4%
60.0%
70.0%
87.5%
52.0%
276968
27874
6007
2580
1022
937
480
165
50
30
8
316121
4.8%
5.7%
5.8%
5.4%
5.6%
5.1%
5.2%
6.0%
6.9%
7.9%
9.0%
5.4%
24.6%
21.0%
21.3%
22.2%
22.9%
24.5%
26.2%
27.5%
27.6%
29.2%
33.1%
23.4%
A01
A21
A22
A23
A24
A41
A42
A43
A44
A45
A46
A47
A61
A62
A63
B01
B02
B03
B04
B05
B06
B07
B08
B09
B21
B22
B23
B24
B25
B26
B27
B28
B29
B30
B31
B32
B41
B42
B43
B44
B60
B61
B62
B63
B64
B65
B66
B67
B68
B81
B82
C01
C02
C03
C04
C05
C06
C07
55.7%
55.8%
56.3%
56.9%
57.9%
58.7%
60.3%
63.1%
64.5%
67.3%
72.6%
57.4%
77249
58999
55799
42348
29436
34903
24898
14482
5796
3717
1667
349294
9.3%
7.6%
5.6%
5.4%
4.1%
4.3%
4.4%
4.4%
4.3%
4.6%
4.7%
5.3%
35.3%
45.0%
48.3%
50.6%
52.4%
52.8%
54.5%
55.6%
56.3%
56.9%
57.2%
50.7%
60.1%
68.3%
67.8%
69.6%
69.4%
70.5%
71.9%
73.2%
75.2%
76.0%
75.1%
69.8%
24643
35911
45772
45766
42177
60439
52627
34828
13023
7445
2779
365410
IPC 別
1986年
IPC
2002年
最後の1年
最後の1年
最後の1年
サンプル
サンプル
サンプル
0ヶ月目の 間の審査 最終審査
0ヶ月目の 間の審査 最終審査
0ヶ月目の 間の審査 最終審査
数(出願特
数(出願特
数(出願特
請求率 請求率合 請求率
請求率 請求率合 請求率
請求率 請求率合 請求率
許数)
許数)
許数)
計
計
計
IPC
1994年
2002年
最後の1年
最後の1年
最後の1年
サンプル
サンプル
サンプル
0ヶ月目の 間の審査 最終審査 平均請求
0ヶ月目の 間の審査 最終審査 平均請求
0ヶ月目の 間の審査 最終審査 平均請求
数(出願特
数(出願特
数(出願特
請求率 請求率合 請求率
項数
請求率 請求率合 請求率
項数
請求率 請求率合 請求率
項数
許数)
許数)
許数)
計
計
計
農業;林業;畜産;狩猟;捕獲
ベイキング;食用の生地
屠殺;肉処理;家禽または魚
食品または食料品;他のクラ
たばこ;葉巻たばこ;紙巻た
衣 類
頭部に着用するもの
履 物
小間物;貴金属宝石類
手持品または旅行用品
ブラシ製品
家具(乗物用いすの装備ま
医学または獣医学;衛生学
人命救助;消防(はしごE06
スポーツ;ゲーム;娯楽
物理的または化学的方法ま
破砕,または粉砕;製粉のた
液体による,または,風力テ
物理的または化学的工程を
霧化または噴霧一般;液体
機械的振動の発生または伝
固体相互の分離;仕分け(一
清 掃
固体廃棄物の処理;汚染土
本質的には材料の除去が行
鋳造;粉末冶金
工作機械;他に分類されな
研削;研摩
手工具;可搬形動力工具;手
切断手工具;切断;切断機
木材または類似の材料の加
セメント,粘土,または石材
プラスチックの加工;可塑状
プレス
紙製品の製造;紙の加工(全
積層体
印刷;線画機;タイプライター
製本;アルバム;ファイル;特
筆記用または製図用の器具
装飾技術
車両一般
鉄 道
鉄道以外の路面車両
船舶またはその他の水上浮
航空機;飛行;宇宙工学
運搬;包装;貯蔵;薄板状ま
巻上装置;揚重装置;牽引装
びん,広口びんまたは類似
馬具;詰め物,かわ張りされ
マイクロ構造技術⑦
ナノ技術⑦
無機化学(セラミック製品を
水,廃水,下水または汚泥
ガラス;鉱物またはスラグウ
セメント;コンクリート;人造石
肥料;肥料の製造(物質の造
火薬;マッチ
有機化学(炭素の酸化物,硫
7.9%
18.3%
37.5%
14.1%
10.8%
11.2%
32.4%
10.7%
16.5%
14.2%
12.5%
8.3%
7.1%
13.2%
15.7%
7.7%
7.4%
4.7%
13.5%
8.0%
22.9%
7.5%
14.1%
6.8%
7.1%
4.8%
6.5%
9.0%
8.9%
11.7%
14.4%
12.3%
6.4%
17.7%
24.5%
5.9%
3.0%
8.9%
7.8%
12.9%
5.4%
11.2%
4.5%
6.8%
6.5%
9.1%
6.1%
10.4%
14.3%
20.2%
28.8%
12.5%
23.4%
18.9%
24.2%
18.9%
17.4%
22.3%
21.1%
9.4%
16.5%
29.3%
21.8%
28.1%
23.7%
20.7%
16.4%
21.1%
24.7%
11.4%
20.5%
19.2%
21.9%
20.9%
19.4%
20.9%
24.9%
19.4%
21.4%
27.4%
20.0%
25.1%
22.4%
25.2%
28.7%
19.8%
17.4%
20.7%
23.8%
29.0%
15.0%
33.9%
23.4%
14.2%
23.0%
18.0%
36.5%
30.0%
52.4%
78.2%
83.7%
66.9%
49.3%
63.6%
62.2%
59.5%
62.6%
53.4%
40.6%
59.6%
60.9%
70.9%
70.0%
57.0%
59.6%
52.6%
59.4%
59.0%
68.6%
48.9%
61.5%
63.0%
59.5%
50.6%
56.5%
59.3%
52.4%
60.6%
64.7%
63.7%
63.4%
70.3%
77.5%
62.3%
39.7%
46.4%
47.0%
60.4%
55.8%
53.7%
56.1%
48.7%
49.7%
58.4%
59.1%
80.0%
62.9%
1.19
1.33
1.36
1.29
1.62
1.34
1.14
1.24
1.27
1.28
1.17
1.10
1.36
1.21
1.18
1.32
1.13
1.20
1.24
1.25
1.43
1.10
1.16
1.19
1.20
1.21
1.16
1.22
1.12
1.19
1.16
1.22
1.25
1.14
1.45
1.35
1.11
1.23
1.09
1.29
1.10
1.12
1.08
1.22
1.31
1.20
1.10
1.36
1.21
9.9%
9.5%
6.4%
7.9%
17.0%
0.0%
5.7%
26.7%
20.4%
25.8%
27.2%
22.2%
29.2%
33.1%
59.5%
61.5%
53.6%
62.0%
70.4%
70.8%
57.2%
1.39
1.21
1.24
1.30
1.25
1.29
2.21
3734
229
104
2747
148
269
37
242
139
247
64
2428
7809
220
1340
4295
622
232
133
1632
35
425
213
73
3213
2641
5916
1271
1047
658
431
705
4141
232
151
1628
8092
661
396
240
6060
393
1969
676
338
7055
1278
260
70
0
0
1611
1102
1352
2712
135
24
7464
5.7%
6.4%
14.0%
6.8%
7.8%
9.3%
9.0%
11.8%
7.4%
7.1%
7.4%
5.9%
4.2%
4.8%
7.4%
3.8%
5.9%
3.9%
3.1%
3.7%
5.7%
5.6%
5.2%
5.4%
3.4%
1.6%
4.4%
5.0%
5.6%
7.6%
5.0%
6.1%
3.2%
6.8%
7.8%
1.9%
5.4%
6.2%
4.0%
11.0%
3.0%
9.1%
3.1%
6.3%
10.9%
4.8%
2.5%
3.5%
3.2%
25.7%
32.7%
25.2%
28.1%
17.1%
14.6%
9.0%
13.4%
15.9%
28.2%
22.3%
16.9%
36.7%
30.1%
34.4%
28.9%
19.7%
13.5%
25.0%
27.1%
28.3%
23.5%
21.2%
21.7%
20.0%
16.3%
20.0%
22.7%
20.5%
20.6%
20.0%
15.1%
27.5%
19.7%
26.9%
35.9%
21.6%
33.4%
25.5%
22.7%
23.7%
22.2%
23.9%
21.1%
19.5%
25.4%
14.0%
28.4%
27.7%
57.4%
75.5%
59.8%
63.7%
48.7%
53.8%
51.3%
56.4%
51.5%
56.0%
47.3%
56.5%
63.9%
65.4%
68.1%
59.7%
54.8%
52.5%
64.1%
62.0%
56.6%
54.1%
57.9%
56.0%
56.4%
49.8%
60.0%
59.8%
56.2%
57.1%
59.3%
54.0%
59.7%
56.5%
65.3%
66.9%
52.2%
58.0%
53.3%
53.6%
59.1%
61.8%
56.1%
54.0%
48.6%
58.4%
43.3%
62.9%
57.4%
3.14
4.35
5.79
4.16
7.38
3.96
3.40
4.41
4.15
3.69
3.30
3.57
4.43
4.25
4.14
4.80
3.55
4.00
4.32
3.98
4.34
4.41
4.28
4.56
3.38
3.50
3.89
4.34
3.72
3.85
4.19
3.66
4.08
3.25
4.57
4.48
5.17
4.10
3.48
4.23
3.69
4.25
3.33
4.09
4.29
3.98
3.55
3.74
3.70
7.0%
4.3%
2.2%
3.8%
3.4%
9.0%
5.5%
29.3%
25.0%
24.7%
25.7%
17.0%
31.3%
37.0%
63.8%
59.0%
51.4%
60.4%
55.1%
62.7%
59.0%
4.82
4.04
4.92
4.17
4.25
5.37
5.08
-32-
5996
220
107
2573
193
569
78
374
365
840
148
5493
11608
396
3716
4527
575
259
128
1838
53
412
537
571
2918
2169
4800
1239
1373
829
614
933
5293
370
167
1882
7588
940
675
181
9562
591
2677
731
329
11318
2672
402
94
0
0
1217
2198
1209
2166
147
67
7038
7.7%
7.6%
15.5%
7.0%
9.8%
11.6%
5.9%
8.2%
6.1%
7.4%
3.3%
6.9%
6.5%
6.9%
12.5%
4.9%
5.6%
5.7%
23.3%
1.7%
2.3%
8.3%
5.7%
6.1%
3.5%
3.2%
4.9%
5.0%
7.6%
4.9%
5.2%
5.4%
3.9%
2.8%
8.9%
2.5%
3.5%
8.3%
4.4%
5.1%
2.6%
9.8%
5.5%
9.8%
13.5%
5.0%
3.3%
4.4%
2.3%
1.2%
11.3%
3.4%
6.2%
2.5%
3.6%
13.1%
3.1%
3.1%
44.2%
47.6%
40.5%
44.8%
34.3%
29.3%
37.6%
28.7%
34.7%
40.8%
45.7%
43.9%
53.1%
39.8%
53.4%
51.0%
50.5%
51.6%
52.2%
53.5%
47.1%
43.5%
47.3%
45.7%
56.6%
53.7%
54.9%
47.5%
52.9%
44.9%
42.5%
54.2%
53.0%
50.3%
48.5%
64.7%
42.6%
43.7%
41.6%
42.3%
59.2%
56.8%
58.1%
36.2%
49.2%
51.4%
49.3%
56.6%
38.6%
50.3%
43.7%
52.2%
48.8%
53.6%
53.3%
37.4%
56.3%
53.6%
65.1%
76.7%
77.4%
69.1%
55.9%
61.8%
54.1%
56.0%
57.4%
64.1%
59.2%
66.5%
71.5%
62.3%
83.0%
70.5%
69.5%
68.8%
77.8%
67.9%
51.7%
67.0%
68.6%
64.9%
72.8%
70.6%
73.6%
73.2%
71.7%
67.4%
65.7%
72.5%
69.3%
72.2%
73.3%
75.9%
56.8%
65.5%
65.0%
61.4%
74.3%
82.4%
72.6%
66.2%
72.9%
68.6%
66.3%
72.7%
63.6%
68.9%
85.9%
73.4%
70.3%
69.7%
76.9%
66.8%
71.9%
67.8%
4.85
5.06
5.79
5.08
4.37
4.92
5.18
4.72
5.23
4.48
4.02
4.83
6.29
4.35
5.73
6.60
5.00
6.38
5.34
6.33
6.78
5.44
6.33
6.05
4.80
5.83
5.36
5.61
5.91
5.50
5.09
5.47
5.75
5.01
5.08
6.85
7.35
5.38
4.53
5.27
5.06
5.19
4.49
4.66
6.97
5.41
4.70
4.11
4.14
9.90
10.17
7.50
5.91
6.52
5.88
5.28
7.88
7.29
5653
210
84
2920
102
768
85
282
380
887
184
5955
12145
422
9408
3984
663
157
90
1662
87
230
558
1548
2018
1519
3958
1351
1151
659
504
559
3929
356
202
2295
9035
875
572
215
9944
579
3120
459
266
10668
2031
362
44
167
71
1835
2555
1173
1997
214
32
3404
C08
C09
C10
C11
C12
C13
C14
C21
C22
C23
C25
C30
D01
D02
D03
D04
D05
D06
D07
D21
E01
E02
E03
E04
E05
E06
E21
F01
F02
F03
F04
F15
F16
F17
F21
F22
F23
F24
F25
F26
F27
F28
F41
F42
G01
G02
G03
G04
G05
G06
G07
G08
G09
G10
G11
G12
G21
H01
H02
H03
H04
H05
有機高分子化合物;その製
染料;ペイント;つや出し剤
石油,ガスまたはコークス工
動物性または植物性油,脂
生化学;ビール;酒精;ぶど
糖工業(多糖類,例.でん粉
原皮;裸皮;生皮;なめし革
鉄冶金
冶金(鉄治金C21);鉄また
金属質材料への被覆;金属
電気分解または電気泳動方
結晶成長(晶析による分離
天然または人造の糸または
糸;糸またはロープの機械的
織 成
組みひも;レース編み;メリヤ
縫製;刺しゅう;タフティング
繊維または類似のものの処
ロープ;電気的なもの以外の
製紙;セルロースの製造
道路,鉄道または橋りょうの
水工;基礎;土砂の移送
上水;下水
建築物(積層材,積層体一
錠;鍵(かぎ);窓または戸の
戸,窓,シャッタまたはロー
地中もしくは岩石の削孔;
機械または機関一般(燃焼
燃焼機関(それらのために周
液体用機械または機関(液
液体用容積形機械;液体ま
流体圧アクチュエータ;水力
機械要素または単位;機械
ガスまたは液体の貯蔵また
照明(電気的特徴または要
蒸気発生(ガス発生用の化
燃焼装置;燃焼方法
加熱;レンジ;換気(庭園,果
冷凍または冷却;加熱と冷凍
乾 燥
炉,キルン,窯(かま);レトル
熱交換一般(伝熱,熱交換
武 器
弾薬;爆破
測定(計数G06M);試験
光学(光学素子または装置
写真;映画;光波以外の波を
時 計
制御;調整
計算;計数(ゲームに使用す
チェック装置
信号(指示または表示装置
教育;暗号方法;表示;広告
楽器;音響
情報記憶
器械の細部
核物理;核工学
基本的電気素子
電力の発電,変換,配電
基本電子回路
電気通信技術
他に分類されない電気技術
加重平均・合計
4.6%
4.8%
7.6%
5.4%
7.6%
8.3%
4.7%
1.7%
4.5%
4.0%
7.2%
3.5%
8.3%
5.8%
10.9%
11.1%
17.0%
8.0%
14.6%
9.1%
17.9%
16.0%
17.9%
13.0%
10.7%
13.3%
13.7%
5.1%
3.5%
7.1%
6.1%
5.3%
8.4%
7.3%
9.4%
4.3%
5.8%
5.7%
4.2%
5.2%
5.2%
6.9%
14.4%
8.0%
5.9%
2.9%
2.0%
5.6%
3.3%
3.2%
4.6%
5.4%
3.9%
6.1%
2.5%
14.3%
2.8%
4.2%
4.3%
5.0%
2.8%
4.0%
5.4%
35.3%
33.3%
27.0%
31.1%
33.6%
37.5%
23.3%
16.9%
23.0%
20.3%
21.3%
21.9%
29.4%
33.8%
40.1%
27.8%
15.4%
23.2%
14.6%
25.7%
20.6%
22.3%
25.6%
23.6%
23.2%
23.3%
22.7%
22.6%
30.4%
16.2%
21.2%
28.1%
25.1%
19.0%
22.4%
15.8%
26.2%
21.2%
22.0%
21.8%
23.1%
25.9%
13.0%
20.3%
22.0%
26.3%
17.9%
22.0%
19.4%
16.9%
26.1%
21.2%
21.2%
23.7%
22.4%
22.3%
16.0%
19.7%
20.8%
20.1%
21.9%
18.7%
22.8%
64.0%
62.2%
59.4%
61.5%
60.7%
62.5%
48.8%
47.7%
57.1%
48.6%
57.6%
46.6%
61.5%
69.1%
72.5%
66.0%
71.6%
58.2%
70.8%
65.6%
69.0%
72.4%
71.6%
73.7%
65.9%
72.1%
70.4%
48.0%
53.1%
39.9%
51.1%
63.6%
57.3%
54.3%
54.4%
41.4%
60.3%
56.1%
52.6%
51.6%
55.0%
52.8%
61.0%
52.9%
52.9%
48.9%
43.4%
48.9%
51.8%
42.7%
55.5%
51.3%
46.4%
60.6%
43.3%
54.5%
40.5%
45.2%
49.2%
51.2%
46.3%
45.6%
52.0%
1.38
1.41
1.37
1.37
2.17
1.42
1.28
1.26
1.62
1.23
1.32
1.15
1.30
1.25
1.20
1.49
1.17
1.20
1.23
1.32
1.17
1.19
1.12
1.16
1.16
1.20
1.30
1.12
1.11
1.08
1.10
1.15
1.16
1.19
1.09
1.11
1.10
1.08
1.09
1.14
1.14
1.16
1.21
1.24
1.21
1.17
1.11
1.06
1.08
1.08
1.21
1.09
1.10
1.14
1.10
1.13
1.18
1.15
1.09
1.12
1.09
1.13
1.20
8192
3196
1065
559
2454
24
43
2100
2555
3111
1251
832
998
346
469
424
507
1843
48
486
554
1684
324
3138
698
377
906
1501
5285
296
2406
437
6376
247
447
444
1580
2806
2326
252
464
798
146
138
17250
7081
13240
464
3362
18257
1395
1075
2794
1289
15756
112
2082
35576
7660
5770
22185
5237
316057
2.7%
2.3%
2.1%
1.7%
6.7%
12.5%
0.0%
1.5%
2.0%
4.2%
3.1%
5.4%
2.9%
2.0%
3.2%
4.7%
4.2%
4.4%
0.0%
2.3%
7.5%
7.7%
5.8%
6.1%
6.2%
5.5%
5.8%
2.2%
2.0%
5.4%
3.3%
2.6%
4.1%
6.2%
2.7%
1.8%
4.5%
3.7%
2.2%
4.9%
3.1%
3.4%
15.7%
7.8%
5.0%
3.8%
2.6%
2.6%
3.4%
11.7%
3.6%
4.2%
6.3%
7.9%
7.7%
3.4%
1.9%
7.6%
2.9%
10.3%
8.6%
5.4%
5.4%
39.9%
36.5%
31.5%
30.6%
40.7%
31.3%
22.2%
17.0%
23.6%
22.5%
22.9%
22.3%
29.3%
26.2%
33.6%
34.0%
31.5%
21.1%
48.8%
28.0%
21.8%
21.4%
19.2%
20.8%
22.4%
18.7%
28.4%
21.7%
23.3%
17.4%
22.5%
30.6%
25.7%
32.8%
19.3%
22.8%
22.4%
19.2%
19.0%
23.8%
18.8%
21.4%
12.6%
26.2%
22.5%
26.1%
20.3%
19.6%
20.2%
17.7%
18.1%
25.3%
21.0%
17.5%
19.0%
27.6%
20.2%
19.2%
19.2%
19.2%
18.5%
21.3%
23.4%
63.3%
60.7%
59.6%
56.0%
68.8%
75.0%
40.7%
56.0%
60.5%
54.8%
55.5%
56.2%
54.4%
55.7%
61.1%
60.9%
63.3%
57.4%
62.6%
56.4%
66.7%
66.5%
58.6%
59.5%
68.6%
64.9%
73.2%
55.7%
56.2%
49.8%
54.0%
60.1%
61.1%
61.7%
53.6%
52.7%
64.1%
60.0%
56.7%
55.9%
58.1%
53.4%
53.5%
54.6%
55.1%
55.6%
47.9%
59.0%
52.7%
53.7%
58.6%
65.0%
55.7%
65.0%
52.5%
44.8%
44.1%
57.5%
54.1%
58.1%
56.6%
54.3%
57.4%
4.73
4.86
4.60
3.56
4.58
9.75
4.19
3.09
3.83
4.51
4.13
4.86
4.54
3.47
4.07
4.43
3.66
4.38
4.31
4.65
3.58
3.72
3.44
3.49
4.05
3.34
3.67
3.99
4.21
3.57
4.18
3.31
3.73
4.19
3.79
3.24
3.79
3.96
4.13
3.67
3.39
3.96
4.02
3.84
4.47
5.22
5.05
4.04
4.14
5.78
3.65
4.55
5.01
5.00
5.48
4.79
5.38
5.04
4.10
5.25
5.19
4.28
4.49
9128
3886
1014
847
2873
16
27
1500
2064
2318
861
569
910
298
411
553
717
1762
123
725
1410
3105
1425
7925
1609
1287
1245
2177
4605
299
2324
494
9717
274
964
281
2125
3513
2627
370
520
771
159
141
17595
9568
13972
505
2322
17219
2304
1507
2711
1996
10652
29
1237
31612
7834
4033
22843
5485
349358
2.1%
2.4%
5.3%
4.8%
6.1%
5.3%
0.0%
2.0%
2.2%
4.6%
3.2%
1.9%
3.3%
4.0%
5.1%
2.7%
3.1%
4.6%
2.9%
5.4%
10.5%
9.6%
6.6%
7.4%
7.2%
6.4%
6.8%
3.5%
4.5%
7.7%
5.2%
4.5%
3.7%
5.1%
3.0%
2.6%
6.5%
4.9%
4.6%
4.7%
4.0%
2.1%
11.2%
11.5%
5.3%
4.9%
2.2%
4.7%
4.5%
7.2%
6.6%
5.4%
6.5%
5.3%
9.3%
0.0%
7.4%
4.4%
4.0%
3.7%
5.6%
4.0%
5.3%
61.6%
56.7%
52.8%
54.1%
53.2%
63.2%
53.3%
55.5%
59.8%
55.3%
54.6%
54.4%
53.0%
60.1%
58.1%
61.4%
65.0%
46.0%
50.7%
51.6%
47.7%
50.0%
50.4%
47.0%
54.0%
57.3%
59.9%
59.6%
59.9%
26.5%
53.3%
49.3%
57.3%
53.1%
48.6%
53.9%
48.7%
51.0%
52.2%
43.6%
53.3%
51.0%
40.1%
52.6%
54.0%
51.4%
46.5%
45.5%
50.3%
43.6%
52.5%
48.6%
48.2%
48.1%
44.9%
40.0%
46.1%
50.9%
53.3%
50.5%
46.9%
52.6%
50.7%
73.0%
70.6%
70.7%
75.5%
73.5%
89.5%
73.3%
69.1%
79.2%
74.3%
78.9%
74.9%
63.9%
71.4%
74.1%
74.1%
81.1%
68.3%
73.9%
71.8%
77.1%
77.9%
67.0%
72.0%
78.6%
76.5%
84.4%
73.4%
77.8%
46.1%
71.6%
76.4%
73.9%
71.5%
63.2%
63.9%
69.6%
70.9%
69.2%
58.5%
73.5%
66.4%
69.1%
73.1%
72.4%
67.3%
57.2%
58.3%
68.4%
66.6%
70.4%
69.3%
69.4%
77.5%
67.0%
50.0%
68.2%
69.9%
70.9%
70.9%
67.6%
69.4%
69.8%
2.審査請求料金改定の分析
特許ベース(翌年 12 月末までに公開されたデータ)
付表5
請求項数別
2002年
請求項数
1
2
3
4
5
6-7
8-10
11-15
16-20
21-30
31加重平均・合計
2003年
2004年
2005年
最初の
最初の 2006年12
最初の 2006年12
最初の 2006年12
サンプル
サンプル
サンプル
サンプル
0ヶ月目の 12ヶ月間 最終審査
0ヶ月目の 12ヶ月間 月末まで
0ヶ月目の 12ヶ月間 月末まで
0ヶ月目の 12ヶ月間 月末まで
数(出願特
数(出願特
数(出願特
数(出願特
請求率 の累積審 請求率
請求率 の累積審 の合計審
請求率 の累積審 の合計審
請求率 の累積審 の合計審
許数)
許数)
許数)
許数)
査請求率
査請求率 査請求率
査請求率 査請求率
査請求率 査請求率
22.0%
17.3%
13.1%
11.9%
8.6%
9.0%
8.1%
8.4%
7.5%
7.6%
6.6%
11.3%
32.8%
26.3%
20.1%
18.2%
14.4%
15.1%
13.6%
13.6%
12.9%
14.0%
11.9%
17.9%
71.1%
73.9%
71.9%
72.1%
70.7%
72.1%
74.8%
75.2%
76.4%
77.1%
74.7%
73.1%
5804
7776
9027
8993
7798
11756
10857
7758
3354
2232
1097
76452
24.3%
17.8%
13.4%
11.2%
8.9%
8.6%
7.6%
7.7%
6.7%
7.8%
6.7%
10.8%
35.1%
27.6%
21.2%
18.3%
14.9%
14.3%
13.8%
13.8%
13.7%
14.1%
12.6%
17.8%
66.6%
72.6%
70.4%
72.2%
72.7%
73.2%
74.0%
74.4%
76.8%
76.2%
74.2%
72.8%
5242
7519
9332
9601
9063
13635
13031
9765
4153
2742
1210
85293
24.9%
19.4%
12.9%
10.7%
9.1%
8.3%
7.7%
7.1%
7.7%
9.1%
9.0%
10.6%
-33-
35.6%
28.8%
20.7%
17.4%
15.6%
15.0%
14.5%
14.6%
15.2%
17.4%
17.2%
18.0%
47.7%
44.9%
39.3%
35.6%
34.9%
34.4%
33.8%
32.9%
33.4%
34.1%
30.6%
36.2%
4508
6736
8861
9556
9238
14331
13884
10477
4483
2925
1299
86298
20.2%
15.8%
10.6%
9.6%
8.6%
8.0%
7.3%
8.1%
7.3%
9.6%
13.0%
9.6%
29.0%
23.8%
16.8%
15.7%
13.7%
13.5%
13.4%
14.6%
14.7%
16.7%
20.3%
15.9%
31.3%
25.5%
19.1%
17.9%
15.9%
15.9%
15.9%
17.0%
18.0%
20.0%
22.7%
18.3%
4020
6325
8657
9781
9755
14804
14150
10351
4344
2562
1022
85771
6.96
7.04
5.86
5.91
11.48
5.68
6.27
4.80
5.81
7.65
6.17
7.58
5.68
6.05
5.48
6.48
4.76
5.46
5.29
5.10
5.10
5.08
4.96
4.99
4.38
4.29
4.92
6.23
6.06
8.85
5.27
4.25
5.01
5.27
5.45
3.95
5.15
5.29
5.76
4.79
5.07
6.08
7.03
4.97
6.86
7.70
7.45
7.10
6.44
9.19
6.40
7.38
8.06
7.40
8.11
6.20
7.05
7.47
5.84
7.16
8.42
6.75
6.71
8782
4651
1063
547
2848
19
15
784
2018
2327
969
513
645
273
370
402
354
1508
69
634
1903
3252
1517
6105
1978
1087
1316
2290
5071
427
2257
440
10188
277
1439
191
1420
4345
2356
234
351
876
152
78
16890
11606
13605
429
2028
25834
1982
1906
4322
2135
7887
10
843
35959
8017
3087
27015
6907
365386
特許ベース(翌年 12 月末までに公開されたデータ)
付表6
IPC 別
2002年
IPC
コード
A01
A21
A22
A23
A24
A41
A42
A43
A44
A45
A46
A47
A61
A62
A63
B01
B02
B03
B04
B05
B06
B07
B08
B09
B21
B22
B23
B24
B25
B26
B27
B28
B29
B30
B31
B32
B41
B42
B43
B44
B60
B61
B62
B63
B64
B65
B66
B67
B68
B81
B82
C01
C02
C03
C04
C05
C06
C07
IPC
最初の
最初の
サンプル
0ヶ月目 12ヶ月間 最終審査 平均請求
0ヶ月目 12ヶ月間
数(出願
の請求率 の累積審 請求率
項数
の請求率 の累積審
特許数)
査請求率
査請求率
農業;林業;畜産;狩猟 16.6%
ベイキング;食用の生地 9.1%
屠殺;肉処理;家禽また 17.6%
食品または食料品;他 11.9%
たばこ;葉巻たばこ;紙 5.9%
衣 類
10.2%
頭部に着用するもの
5.3%
履 物
16.1%
小間物;貴金属宝石類 3.0%
手持品または旅行用品 11.1%
ブラシ製品
5.6%
家具(乗物用いすの装 11.6%
医学または獣医学;衛 11.6%
人命救助;消防(はしご 7.3%
スポーツ;ゲーム;娯楽 26.3%
物理的または化学的方 10.7%
破砕,または粉砕;製粉 8.7%
液体による,または,風 6.1%
物理的または化学的工 47.6%
霧化または噴霧一般 3.0%
機械的振動の発生また 5.9%
固体相互の分離;仕分 18.8%
清 掃
7.2%
固体廃棄物の処理;汚 10.5%
本質的には材料の除去 7.5%
鋳造;粉末冶金
5.4%
工作機械;他に分類さ 5.4%
研削;研摩
7.9%
手工具;可搬形動力工 9.2%
切断手工具;切断;切断 5.3%
木材または類似の材料 5.2%
セメント,粘土,または 3.3%
プラスチックの加工;可 6.3%
プレス
5.0%
紙製品の製造;紙の加 6.7%
積層体
5.9%
印刷;線画機;タイプラ 11.4%
製本;アルバム;ファイ 11.6%
筆記用または製図用の 5.4%
装飾技術
2.2%
車両一般
7.2%
鉄 道
10.8%
鉄道以外の路面車両 14.0%
船舶またはその他の水 20.9%
航空機;飛行;宇宙工学 11.8%
運搬;包装;貯蔵;薄板 9.3%
巻上装置;揚重装置;牽 9.3%
びん,広口びんまたは 11.1%
馬具;詰め物,かわ張 0.0%
マイクロ構造技術⑦
3.6%
ナノ技術⑦
0.0%
無機化学(セラミック製 7.3%
水,廃水,下水または 10.3%
ガラス;鉱物またはスラ 5.1%
セメント;コンクリート;人 6.7%
肥料;肥料の製造(物質 8.3%
火薬;マッチ
12.5%
有機化学(炭素の酸化 5.1%
26.6%
25.0%
41.2%
20.4%
11.8%
21.7%
10.5%
22.6%
13.4%
18.9%
5.6%
16.8%
17.7%
19.3%
38.3%
14.8%
14.7%
9.1%
47.6%
9.2%
5.9%
20.8%
15.3%
14.2%
12.0%
10.5%
11.9%
15.7%
17.9%
13.7%
14.4%
7.8%
12.8%
15.0%
17.8%
12.0%
17.1%
24.9%
13.5%
13.0%
13.6%
19.6%
21.0%
31.3%
11.8%
15.7%
11.8%
14.8%
28.6%
7.1%
20.0%
13.4%
18.3%
14.3%
16.4%
20.8%
25.0%
8.7%
70.3%
79.5%
88.2%
72.5%
52.9%
64.3%
52.6%
53.2%
61.2%
73.3%
58.3%
68.1%
75.1%
68.8%
86.2%
72.6%
64.7%
63.6%
90.5%
66.4%
35.3%
60.4%
76.6%
67.3%
74.3%
73.5%
74.6%
73.9%
72.5%
73.3%
69.1%
74.4%
73.0%
72.0%
73.3%
80.5%
65.3%
71.7%
70.3%
65.2%
76.1%
90.2%
78.1%
68.7%
78.4%
70.1%
66.2%
69.1%
100.0%
60.7%
60.0%
73.8%
74.2%
74.1%
76.4%
58.3%
75.0%
70.6%
4.88
4.95
5.06
5.07
5.24
5.86
4.42
5.84
5.31
5.77
4.28
4.91
6.90
4.61
5.48
7.41
4.88
7.09
6.05
6.97
6.47
5.33
6.86
6.45
5.30
6.93
5.98
6.23
6.26
5.34
5.94
5.27
5.98
5.11
5.30
7.17
8.02
5.70
4.65
5.85
5.38
5.57
4.93
5.09
7.41
5.44
4.65
4.96
5.57
9.29
9.40
8.62
6.16
6.80
6.27
5.17
7.50
8.87
1167
44
17
607
17
157
19
62
67
180
36
1152
2751
109
2128
803
150
33
21
304
17
48
111
324
401
294
791
280
218
131
97
90
819
100
45
507
1843
173
111
46
1769
102
629
67
51
1959
355
81
7
28
5
381
504
293
450
48
8
990
15.4%
8.2%
6.7%
10.2%
0.0%
15.1%
16.7%
12.2%
9.2%
11.9%
0.0%
10.2%
12.4%
6.8%
21.9%
6.1%
13.8%
14.3%
14.3%
9.1%
0.0%
9.5%
12.1%
8.1%
9.4%
8.8%
8.5%
8.4%
8.1%
12.1%
11.8%
6.4%
7.3%
6.1%
8.8%
6.4%
8.7%
12.7%
3.7%
8.5%
5.5%
23.1%
13.0%
8.0%
7.9%
8.2%
3.9%
11.9%
0.0%
5.0%
0.0%
7.4%
7.4%
5.8%
9.4%
4.8%
0.0%
5.4%
24.3%
14.8%
20.0%
19.7%
7.7%
25.4%
16.7%
23.0%
14.5%
24.4%
3.6%
20.9%
18.1%
20.3%
31.5%
11.7%
21.4%
17.1%
14.3%
17.6%
7.1%
23.8%
16.5%
11.4%
18.1%
17.7%
16.3%
15.3%
23.8%
18.6%
26.4%
11.5%
13.8%
7.6%
20.6%
10.3%
15.6%
19.7%
9.2%
9.9%
12.4%
29.8%
19.1%
26.5%
23.7%
14.0%
8.4%
16.4%
25.0%
12.5%
19.0%
13.1%
16.1%
17.5%
16.0%
4.8%
0.0%
9.8%
2003年
2004年
2005年
2006年12
最初の
サンプル
月末まで 平均請求
0ヶ月目 12ヶ月間
数(出願
の合計審 項数
の請求率 の累積審
特許数)
査請求率
査請求率
2006年12
最初の
サンプル
月末まで 平均請求
0ヶ月目 12ヶ月間
数(出願
の合計審 項数
の請求率 の累積審
特許数)
査請求率
査請求率
2006年12
サンプル
月末まで 平均請求
数(出願
の合計審 項数
特許数)
査請求率
69.3% 5.03
78.7% 6.76
60.0% 5.27
67.4% 5.67
23.1% 2.77
60.0% 5.74
33.3% 3.33
51.4% 4.72
63.2% 5.78
73.1% 5.25
71.4% 6.86
69.5% 5.10
75.0% 7.39
65.3% 6.34
81.8% 5.58
72.9% 7.61
82.1% 5.85
85.7% 5.80
85.7% 4.29
72.3% 7.67
71.4% 7.07
76.2% 5.95
69.2% 6.87
65.7% 6.56
75.8% 5.55
74.3% 6.60
78.8% 5.69
73.5% 6.77
76.9% 6.82
66.4% 4.80
72.7% 4.90
75.6% 5.77
72.7% 6.83
75.8% 4.42
64.7% 4.57
74.0% 7.04
62.8% 8.80
60.7% 6.77
61.5% 4.11
60.6% 7.18
74.8% 5.75
83.7% 6.42
76.0% 5.93
84.1% 7.28
78.9% 9.87
70.7% 6.14
66.0% 4.74
80.6% 5.51
75.0% 6.25
62.5% 11.43
81.0% 15.43
76.8% 8.29
70.6% 6.00
76.4% 7.89
76.0% 6.93
59.5% 5.64
100.0% 6.27
67.4% 9.66
1244
61
15
675
13
185
12
74
76
193
28
1276
3392
118
2286
874
145
35
7
527
14
42
91
370
425
339
924
275
260
140
110
78
861
66
34
561
1905
173
109
71
2192
104
839
113
38
2140
382
67
4
40
21
419
591
309
470
42
11
991
-34-
13.6%
6.7%
13.3%
5.5%
0.0%
8.0%
28.6%
11.7%
8.0%
9.4%
7.5%
8.4%
9.9%
14.3%
16.9%
8.4%
2.7%
2.2%
13.3%
5.7%
0.0%
9.8%
7.8%
9.6%
5.3%
5.0%
6.5%
11.6%
12.0%
10.4%
9.7%
19.5%
5.3%
8.5%
21.7%
4.1%
11.6%
7.4%
5.3%
1.8%
6.2%
16.9%
15.4%
16.7%
21.2%
10.2%
4.6%
12.7%
0.0%
0.0%
0.0%
4.5%
10.1%
9.4%
9.4%
7.1%
0.0%
6.9%
23.3%
20.0%
13.3%
16.5%
6.7%
16.6%
38.1%
29.9%
13.3%
19.2%
15.0%
16.0%
17.0%
34.5%
26.8%
13.9%
10.8%
19.6%
20.0%
12.5%
0.0%
9.8%
16.5%
12.1%
9.7%
9.4%
13.4%
19.2%
16.0%
18.3%
16.1%
33.3%
11.7%
10.6%
39.1%
8.4%
22.5%
12.5%
9.7%
5.3%
12.2%
20.8%
21.8%
21.4%
27.3%
16.8%
6.5%
20.6%
0.0%
2.4%
0.0%
12.4%
16.3%
19.5%
16.8%
21.4%
16.7%
11.9%
36.7%
30.0%
20.0%
36.6%
20.0%
31.9%
42.9%
37.7%
25.3%
33.9%
30.0%
34.4%
30.4%
41.7%
47.9%
30.4%
36.9%
39.1%
46.7%
31.9%
0.0%
31.7%
36.9%
29.2%
42.5%
34.4%
35.3%
33.6%
39.1%
41.5%
33.9%
41.4%
27.9%
25.5%
47.8%
23.4%
36.2%
21.0%
27.4%
17.5%
40.9%
37.7%
46.9%
32.5%
36.4%
29.9%
34.9%
38.1%
14.3%
26.8%
33.3%
28.7%
35.9%
33.3%
37.0%
35.7%
16.7%
28.0%
5.20
5.58
4.80
5.75
4.27
5.58
3.24
5.96
6.76
4.56
4.73
5.33
7.54
5.35
5.51
7.73
5.29
7.61
4.80
7.92
7.63
5.61
7.12
6.90
5.93
6.64
5.76
6.87
6.69
5.43
5.60
5.43
6.50
6.17
5.39
8.20
9.17
6.01
5.23
6.39
6.31
6.46
5.74
5.52
6.55
6.10
5.48
5.11
7.14
13.76
10.62
9.38
6.33
8.45
6.98
5.96
5.67
9.50
1114
60
15
678
15
163
21
77
75
224
40
1244
3504
84
2466
912
111
46
15
407
8
41
103
281
360
320
770
250
225
164
124
87
866
47
23
534
2056
176
113
57
2369
130
754
126
33
2097
367
63
7
41
21
485
552
267
405
28
6
902
11.0%
9.6%
11.1%
5.7%
0.0%
9.7%
10.3%
7.0%
1.4%
5.0%
3.1%
7.3%
8.9%
3.2%
15.5%
7.5%
5.0%
8.0%
18.8%
7.1%
5.0%
9.7%
11.1%
10.3%
5.9%
3.8%
6.0%
9.1%
7.2%
5.6%
8.7%
8.3%
7.2%
0.0%
12.1%
3.6%
9.4%
6.0%
0.0%
8.6%
5.8%
12.8%
10.9%
2.5%
3.9%
8.0%
4.3%
6.1%
10.0%
3.0%
29.0%
6.7%
9.8%
8.1%
7.3%
6.3%
0.0%
9.7%
17.6%
25.0%
11.1%
13.8%
0.0%
20.5%
13.8%
18.3%
10.0%
13.6%
18.8%
14.1%
13.7%
11.6%
24.6%
12.6%
11.7%
20.0%
18.8%
13.3%
5.0%
12.9%
20.0%
16.6%
8.7%
11.1%
10.6%
13.8%
15.1%
9.7%
22.8%
19.8%
13.5%
1.6%
15.2%
7.5%
15.3%
12.1%
4.8%
8.6%
11.2%
16.8%
20.3%
7.4%
11.8%
14.7%
6.8%
16.7%
10.0%
9.1%
29.0%
12.6%
15.2%
11.6%
16.0%
9.4%
0.0%
13.3%
19.5%
26.9%
22.2%
16.8%
0.0%
22.7%
20.7%
21.1%
14.3%
16.8%
18.8%
17.2%
17.0%
14.7%
29.3%
13.9%
15.0%
20.0%
25.0%
14.5%
10.0%
16.1%
20.0%
20.6%
10.5%
13.9%
12.9%
15.7%
17.5%
12.9%
26.0%
20.8%
16.5%
8.2%
15.2%
9.1%
16.8%
17.1%
6.7%
14.3%
13.0%
18.1%
21.6%
7.4%
13.7%
17.3%
8.4%
16.7%
10.0%
24.2%
29.0%
14.9%
16.8%
14.3%
18.0%
15.6%
0.0%
14.5%
5.45
6.13
4.00
6.00
4.58
5.19
4.31
5.00
5.46
4.89
5.19
5.27
7.85
5.93
5.29
7.57
5.68
6.60
6.19
7.25
14.50
6.23
7.16
6.67
5.86
7.08
5.57
6.52
5.48
5.98
6.40
5.81
6.60
5.34
4.27
7.51
8.52
5.69
4.59
4.66
6.28
5.38
6.01
5.20
5.37
6.15
5.00
4.98
8.90
12.70
11.84
8.96
7.07
8.47
7.21
5.81
7.60
9.32
1088
52
9
716
12
185
29
71
70
220
32
1416
3757
95
2305
921
120
50
16
392
20
31
90
223
390
288
867
254
292
124
127
96
862
61
33
505
1839
199
104
35
2785
149
779
121
51
2133
369
66
10
33
31
430
512
258
400
32
5
791
C08
C09
C10
C11
C12
C13
C14
C21
C22
C23
C25
C30
D01
D02
D03
D04
D05
D06
D07
D21
E01
E02
E03
E04
E05
E06
E21
F01
F02
F03
F04
F15
F16
F17
F21
F22
F23
F24
F25
F26
F27
F28
F41
F42
G01
G02
G03
G04
G05
G06
G07
G08
G09
G10
G11
G12
G21
H01
H02
H03
H04
H05
有機高分子化合物;そ 5.0%
染料;ペイント;つや出 5.6%
石油,ガスまたはコーク 18.3%
動物性または植物性油 11.2%
生化学;ビール;酒精; 7.9%
糖工業(多糖類,例.で 0.0%
原皮;裸皮;生皮;なめ
鉄冶金
6.2%
冶金(鉄治金C21);鉄 5.1%
金属質材料への被覆 8.8%
電気分解または電気泳 4.8%
結晶成長(晶析による 5.4%
天然または人造の糸ま 10.6%
糸;糸またはロープの機 8.8%
織 成
10.7%
組みひも;レース編み; 8.2%
縫製;刺しゅう;タフティ 4.1%
繊維または類似のもの 9.9%
ロープ;電気的なもの以 0.0%
製紙;セルロースの製 6.4%
道路,鉄道または橋り 8.2%
水工;基礎;土砂の移送 11.5%
上水;下水
9.5%
建築物(積層材,積層 9.0%
錠;鍵(かぎ);窓または 7.4%
戸,窓,シャッタまたは 10.4%
地中もしくは岩石の削 7.5%
機械または機関一般( 8.7%
燃焼機関(それらのた 10.4%
液体用機械または機関 9.1%
液体用容積形機械;液 12.4%
流体圧アクチュエータ 8.9%
機械要素または単位; 7.9%
ガスまたは液体の貯蔵 6.0%
照明(電気的特徴また 8.0%
蒸気発生(ガス発生用 7.0%
燃焼装置;燃焼方法
12.6%
加熱;レンジ;換気(庭 13.3%
冷凍または冷却;加熱 13.2%
乾 燥
14.6%
炉,キルン,窯(かま) 1.3%
熱交換一般(伝熱,熱 2.4%
武 器
10.3%
弾薬;爆破
15.8%
測定(計数G06M);試 10.2%
光学(光学素子または 14.1%
写真;映画;光波以外の 8.0%
時 計
13.0%
制御;調整
9.5%
計算;計数(ゲームに使 14.3%
チェック装置
9.2%
信号(指示または表示 6.2%
教育;暗号方法;表示 15.7%
楽器;音響
11.4%
情報記憶
23.5%
器械の細部
0.0%
核物理;核工学
8.9%
基本的電気素子
11.9%
電力の発電,変換,配 9.1%
基本電子回路
10.5%
電気通信技術
14.0%
他に分類されない電気 10.1%
加重平均・合計
11.3%
9.5%
12.6%
24.8%
20.0%
14.0%
25.0%
75.6%
74.3%
71.3%
77.6%
74.7%
50.0%
7.36
7.85
6.19
5.73
13.20
5.25
2233
1043
202
125
656
4
11.2%
11.8%
12.3%
12.0%
15.1%
13.0%
14.0%
18.7%
12.4%
7.4%
17.7%
0.0%
7.2%
16.4%
22.2%
15.5%
18.2%
17.7%
16.9%
12.8%
15.6%
17.3%
14.3%
19.5%
12.9%
13.8%
10.0%
13.1%
7.0%
17.8%
18.4%
18.2%
17.1%
10.3%
6.6%
17.2%
21.1%
15.5%
21.0%
13.0%
16.9%
15.7%
20.8%
14.2%
14.8%
23.5%
25.9%
30.4%
0.0%
9.4%
19.3%
15.2%
18.3%
20.4%
14.7%
17.9%
70.8%
80.1%
76.6%
77.4%
80.6%
74.0%
80.7%
72.0%
82.5%
87.7%
73.9%
80.0%
76.8%
73.9%
78.7%
70.8%
73.8%
76.3%
76.2%
78.2%
76.9%
80.9%
45.5%
76.2%
73.3%
76.5%
68.0%
65.8%
57.9%
73.4%
72.5%
74.8%
65.9%
66.7%
68.9%
58.6%
68.4%
76.2%
71.3%
62.8%
59.7%
68.1%
68.2%
71.7%
72.2%
75.4%
78.0%
77.0%
66.7%
73.3%
74.4%
73.7%
75.8%
71.5%
73.6%
73.1%
5.61
6.11
8.28
6.34
10.76
6.59
5.21
5.35
7.31
4.61
5.39
5.00
5.80
4.93
5.16
5.08
5.02
4.38
4.51
4.74
9.37
6.20
25.82
5.77
4.04
5.15
5.48
5.52
3.53
5.45
5.17
5.84
4.95
5.91
7.09
9.86
4.95
7.31
8.40
7.76
6.65
6.34
10.01
6.29
7.73
9.08
8.21
8.46
9.33
8.66
8.18
6.12
8.05
9.05
7.48
7.29
161
468
479
208
93
123
57
75
97
122
333
10
125
353
572
284
1239
350
231
266
416
931
77
466
101
1923
50
275
57
286
716
468
41
78
167
29
19
3256
2722
2857
77
357
5423
360
324
957
464
2088
3
191
7834
1579
695
5774
1481
76448
5.1%
5.5%
3.9%
3.5%
8.5%
0.0%
0.0%
8.1%
3.3%
6.7%
6.5%
6.7%
6.6%
2.8%
0.0%
8.7%
8.7%
5.4%
8.3%
12.1%
14.9%
12.9%
11.1%
12.6%
10.0%
7.3%
10.8%
5.7%
7.3%
8.3%
9.5%
8.4%
6.5%
0.0%
7.2%
16.7%
5.4%
11.9%
9.0%
19.2%
9.6%
5.7%
29.0%
16.7%
7.9%
12.6%
10.4%
9.4%
8.3%
13.1%
12.8%
6.2%
16.7%
10.4%
20.8%
20.0%
14.9%
12.3%
7.2%
11.7%
14.6%
10.8%
10.8%
10.0%
10.1%
9.4%
6.1%
15.7%
50.0%
0.0%
14.4%
13.8%
14.2%
18.3%
13.4%
14.6%
13.9%
6.6%
21.4%
11.6%
16.5%
8.3%
15.3%
27.0%
22.4%
16.8%
22.6%
18.1%
16.5%
16.4%
10.5%
13.6%
17.9%
15.1%
14.5%
12.6%
11.4%
15.0%
16.7%
12.0%
17.5%
16.5%
28.8%
21.9%
9.4%
38.7%
41.7%
13.7%
19.3%
15.9%
14.1%
14.4%
19.2%
17.2%
13.1%
26.2%
29.3%
30.7%
20.0%
16.3%
19.3%
13.6%
21.0%
21.3%
16.4%
17.8%
74.8%
73.9%
73.2%
80.9%
65.2%
50.0%
50.0%
70.0%
82.5%
77.5%
73.9%
73.1%
70.2%
72.2%
82.4%
81.6%
76.8%
70.9%
33.3%
69.4%
79.4%
75.0%
71.8%
74.9%
82.3%
77.8%
87.2%
74.0%
75.8%
54.8%
73.3%
75.9%
73.6%
65.7%
69.7%
88.9%
70.1%
73.1%
72.6%
71.2%
78.1%
78.0%
74.2%
66.7%
76.1%
70.0%
66.7%
51.6%
71.5%
67.8%
78.6%
70.7%
74.2%
82.5%
76.7%
60.0%
69.5%
73.3%
75.1%
71.8%
72.8%
73.1%
72.8%
7.69
7.91
6.97
6.21
13.37
5.00
4.00
5.69
6.70
7.98
7.14
8.77
7.18
6.97
6.30
7.69
4.33
6.26
5.92
6.95
5.21
5.13
5.20
5.19
4.41
4.75
5.38
5.77
6.39
4.62
5.88
4.65
5.34
7.90
5.92
4.17
5.30
5.55
6.33
7.00
5.23
8.13
6.81
4.33
7.76
8.76
8.47
6.95
8.41
10.43
7.11
8.07
9.41
7.61
8.53
9.80
7.20
8.61
6.86
8.34
9.54
7.68
7.63
2495
1081
254
115
861
4
2
160
456
521
230
134
151
36
91
103
69
388
12
124
389
661
280
1348
441
261
360
488
1171
84
516
83
2128
70
346
36
241
896
468
52
73
159
31
12
3764
2941
3014
128
397
5753
500
389
1242
451
2292
5
141
8703
1754
776
6542
1754
85284
-35-
7.5%
7.1%
5.2%
5.6%
6.0%
0.0%
0.0%
5.8%
6.6%
6.3%
7.0%
8.5%
7.5%
4.3%
1.7%
6.0%
17.3%
15.6%
0.0%
5.1%
6.3%
11.3%
6.0%
9.6%
7.3%
6.2%
7.8%
6.2%
7.9%
7.2%
4.8%
7.1%
8.4%
8.7%
11.4%
15.0%
8.3%
13.4%
7.9%
5.4%
7.2%
2.7%
10.8%
21.1%
8.6%
13.4%
8.9%
7.0%
8.6%
12.1%
12.3%
6.0%
16.5%
9.2%
20.1%
0.0%
9.9%
12.6%
7.0%
11.7%
15.2%
9.7%
10.6%
11.6%
14.0%
13.1%
17.6%
13.4%
0.0%
0.0%
6.3%
12.3%
11.9%
13.6%
11.9%
11.7%
6.5%
11.9%
11.0%
21.0%
23.1%
42.9%
7.3%
19.4%
20.7%
11.1%
17.1%
17.1%
10.4%
19.1%
12.9%
12.7%
12.4%
9.5%
17.9%
15.2%
14.5%
18.2%
15.0%
14.6%
22.3%
13.4%
16.2%
13.3%
7.7%
13.5%
26.3%
14.6%
20.4%
14.8%
18.0%
17.2%
19.3%
16.7%
12.4%
27.1%
28.8%
30.2%
20.0%
16.6%
20.8%
13.1%
19.9%
23.4%
19.3%
18.1%
26.7%
31.7%
33.2%
33.3%
24.3%
40.0%
0.0%
35.4%
41.4%
25.3%
27.1%
37.5%
28.3%
10.9%
20.3%
26.0%
25.9%
38.5%
57.1%
24.8%
38.2%
40.5%
27.2%
34.3%
44.1%
37.0%
32.2%
44.2%
48.9%
22.7%
26.7%
45.2%
33.5%
30.4%
27.9%
40.0%
37.9%
44.5%
27.4%
35.1%
24.1%
28.4%
21.6%
47.4%
35.6%
35.9%
27.5%
40.0%
46.3%
36.5%
34.6%
36.3%
42.2%
48.5%
47.5%
40.0%
42.4%
39.1%
37.8%
41.3%
39.7%
35.1%
36.2%
8.28
8.24
6.62
5.81
12.30
5.80
5.00
5.49
6.68
8.68
8.58
9.11
6.93
7.02
5.54
6.82
4.95
5.80
6.71
5.99
5.68
5.25
4.97
5.32
4.51
5.06
4.79
5.92
6.39
4.53
5.54
4.57
5.60
6.62
6.79
5.55
5.90
5.80
5.95
6.32
6.67
9.13
7.24
4.63
7.90
9.50
8.96
7.70
7.21
10.80
6.97
8.40
10.29
8.10
9.12
9.80
7.26
9.06
7.04
9.03
9.74
8.21
7.92
2335
1053
268
108
686
5
1
189
514
537
199
176
120
46
59
100
81
403
7
137
319
627
235
1178
463
211
230
513
1202
97
589
84
2334
69
351
20
206
761
554
37
83
222
37
19
3917
2731
3491
100
454
5772
407
468
1302
513
2438
5
151
9094
1803
777
7004
1859
86280
6.0%
4.8%
6.1%
4.0%
8.6%
20.0%
0.0%
5.3%
6.5%
11.4%
6.9%
6.1%
2.5%
12.5%
4.3%
12.5%
10.9%
8.6%
0.0%
9.3%
8.2%
7.6%
12.5%
6.7%
8.2%
6.4%
5.2%
5.5%
6.3%
3.7%
8.6%
11.6%
7.4%
10.9%
7.9%
9.7%
8.9%
11.4%
11.3%
3.4%
9.5%
3.2%
0.0%
0.0%
7.8%
11.5%
8.7%
6.1%
6.9%
11.8%
12.2%
8.9%
16.3%
26.2%
19.8%
0.0%
12.8%
10.6%
7.7%
11.8%
12.5%
11.2%
9.6%
9.5%
9.1%
11.3%
15.3%
13.5%
20.0%
0.0%
11.3%
11.9%
18.4%
13.9%
13.2%
4.2%
22.9%
10.1%
17.9%
10.9%
15.6%
0.0%
11.2%
15.2%
15.1%
16.8%
15.7%
14.4%
12.3%
14.1%
9.3%
10.1%
9.2%
14.0%
15.8%
12.9%
14.1%
13.6%
9.7%
12.6%
18.2%
21.3%
15.5%
14.3%
6.9%
10.7%
9.5%
13.3%
18.1%
14.2%
19.5%
12.5%
19.0%
14.0%
16.4%
24.1%
35.6%
28.2%
0.0%
15.0%
17.6%
11.7%
19.1%
19.6%
18.0%
15.9%
11.0%
10.9%
14.3%
16.9%
15.9%
20.0%
0.0%
12.0%
14.9%
21.0%
14.4%
13.2%
7.5%
27.1%
10.1%
19.6%
10.9%
18.0%
8.3%
11.2%
18.2%
17.2%
18.3%
17.6%
16.3%
16.6%
15.2%
9.5%
11.1%
11.0%
14.4%
15.8%
14.8%
18.8%
14.1%
12.9%
15.8%
20.9%
23.4%
15.5%
15.9%
6.9%
17.9%
28.6%
15.6%
20.0%
16.3%
20.7%
20.5%
22.4%
15.0%
18.2%
26.0%
38.2%
29.8%
0.0%
15.8%
19.7%
13.9%
23.6%
22.9%
20.1%
18.3%
8.23
8.36
6.65
6.03
11.83
4.60
10.67
5.57
6.79
8.42
7.01
8.96
5.96
5.83
6.38
7.68
3.96
5.93
6.33
6.26
5.05
5.85
5.08
5.33
5.24
5.21
5.54
6.24
6.85
5.35
6.08
4.92
5.66
8.20
6.52
6.26
5.63
6.10
6.73
5.50
5.37
9.49
5.32
5.43
7.83
9.29
8.98
8.10
6.71
10.32
6.29
7.60
9.93
7.01
8.97
5.00
7.19
8.70
6.53
8.22
9.61
7.72
7.75
2242
1122
231
124
687
5
3
150
403
414
202
114
120
48
69
112
92
372
24
107
329
577
327
1218
416
235
269
548
1230
109
501
95
2338
64
403
31
190
842
531
58
63
188
56
21
4016
2651
3206
82
464
5775
401
450
1373
427
1967
2
133
9066
1951
822
7121
1620
85758
補論
IIP パテントデータベースの名寄せ作業手順
ここでは、本章で実施した IIP パテントデータベースの名寄せ作業の方法を簡単に説明
する。IIP パテントデータベースでは、企業名が複数の別名で収録されているケースがあ
る。理由は、企業自体が名称変更や合併・買収などを実施すること、特許庁の原データの
方で企業名の入力形態に違いがあることによる。正確に特許件数をカウントするためには、
別名で収載された企業名を統一する必要がある。
まず、企業自体に要因があるものについては、名称変更や合併・買収がどのように行わ
れたのか知る必要がある。本章では、各企業がホームページ等で公開している沿革を調査
し、企業の変遷についての情報を得、目視で企業名を識別した。ただし、沿革を公開して
いない企業については調査を断念した。また、我々が得た沿革データは企業の変遷が網羅
されているわけではない。その点で、不完全である可能性は否めない。
入力形態の違いについては、同一企業がそれぞれ漢字名(新字体と旧字体の違いもある)、
ひらがな名、カタカナ名、英語名で入力されているケースがある。また半角・全角による
違い、単純に入力ミスにより別名で登録されているケースもあった。なお、特許庁が付与
している出願人番号は必ずしも正確ではなく、同一企業にもかかわらず複数番号が付与さ
れているケースも多く、またそもそも出願人番号が付与されていない企業も多数存在した。
本章では、すべての企業がそれぞれ漢字、カタカナ、ひらがな、英語、半角・全角など別
名で登録されている可能性を考え、あらゆるケースを想定し目視でチェックした。また、
名称変更や合併・買収が行われた企業では、それについても同様にチェックした。
名寄せ作業の際、名称が同一であっても、別会社が存在することがわかったため、ホー
ムページ等から企業の所在地(工場、営業所を含む)を調査し、都道府県が異なる場合は
別企業として扱った。
以上のような名寄せ作業の結果、今回分析対象企業 753 社は、3752 件の異なる名称で登
録されていた。
-36-
2.バイオ特許を用いた審査請求行動の分析
(1)はじめに
バイオテクノロジーは、医療機器、医薬品、診断・予防・治療技術に留まらず、農業・
食料品、環境、エネルギーなど幅広い産業にインパクトを与えつつある技術領域である。
日本では、1995 年の科学技術基本法及び 1996 年から始まる科学技術基本計画、また、2002
年の BT 戦略大綱策定などを通じて、国家戦略目標である4つの重点科学技術分野(バイ
オテクノロジー、情報技術、環境、ナノテク・材料)の一つと位置付けられることとなっ
た。そして、1990 年代後半以降、日本のバイオテクノロジー分野への公的部門による研究
開発費は急激に増加し、政府系研究機関や大学による特許出願も活発化している。こうし
た背景を受け、Nakamura et al. (2006)1 では、1991 年から 2002 年にかけて日本に優先
権を有するバイオ特許について、産学官といった出願人属性、あるいはそれらの共同出願
パターン等が、引用情報によってウエイト付けされた特許価値といかなる相関を持つかを
検討した。本研究では、前掲の論文で使用したデータ・セットに出願経過情報を結合し、
それら特許の出願後の意思決定、すなわち出願審査請求に焦点を当てる。
審査請求制度は、特許出願のうち特許取得を希望する出願についてのみ審査を行うこと
によって、審査の促進を図ることを目的としている。この背景には、そもそも審査を必要
としない出願が多数存在しているという現状がある。例えば、出願後の技術進歩によって
既に経済的価値を失っているケースや、出願人自身が実施する予定はないが、第三者の後
願を排除する目的で出願されたもの等が含まれる。これらのケースでは、一定期間第三者
に権利が設定されないことが保証されることが重要であり、必ずしも特許取得を希望して
いない可能性がある。現行の特許制度では、3 年間の審査請求期間(2001 年9月 30 日以前
の出願は7年間)が設けられており、この期間内に審査請求がされない場合は、取り下げ
とみなされるため、結果的に特許審査に係る資源の節約がなされる。一方、出願人にとっ
ての審査請求制度のメリットは、請求期間中であればいつでも審査を請求できることであ
る。このことは、出願時には判明していない将来の技術的あるいは経済的不確実性に応じ
て、最適なタイミングで審査請求を行うことができる可能性を意味する。また、権利取得
の必要がない出願について、新たな経済的負担が発生することもない。こうした特徴から、
審査請求はアメリカン・オプションの一種であるとみなすことができる。特許の出願や保
有をオプションとみなす方法論は、Pakes (1986)2 によって端緒が開かれたものであり、
その後多くの研究で採用されている。審査請求を同様のコンセプトの下で解釈することに
より、特許価値に不確実性が大きい状況下では審査請求が先送りされ、また、出願時に価
1, 2
P.62 参考文献1、2参照。
-37-
値が高いとみなされる特許ほど早期に審査請求される可能性が示唆される。そこで本研究
では、審査請求に関するタイミングの決定要因を実証的に分析し、そうした含意との整合
性を検証する。
また、Nakamura et al. (2006)から派生する問題意識としては、出願人属性と審査請求
パターンとの関連性を挙げることができる。企業研究者による特許出願は、企業収益への
貢献が主要な目的となっている。したがって、出願後の審査請求も戦略的な意思決定に基
づいてなされると推測される。これに対して、大学や公的研究機関では、特許出願から収
益を上げることを主要な目的とはしていない可能性がある。近年では、政府のプロパテン
ト政策の影響を強く受けたことにより、業績評価や機関評価の際に、特許出願件数が考慮
されることが多い (文部科学省, 20043)。ゆえに、審査請求に関する意思決定基準につい
ても企業と公的部門とでは大きく異なっている可能性がある。この点についても回帰分析
で明らかにしたい。
本章の構成は以下のとおりである。まず(2)節では、本章で利用するバイオテクノロ
ジー関連特許データ、及びそれら特許に対応する経過情報について、利用したデータソー
ス、バイオ技術の定義などデータ・セット構築に関する手続について述べる。
(3)節では、
出願年別、技術分野別、出願人タイプ別にみた日本のバイオ特許の審査請求率及び審査請
求のタイミングを概観し、記述統計量並びにノンパラメトリック推定を用いてその特徴を
検討する。
(4)節では、サバイバル分析を行い、審査請求のタイミングに関する決定要因
を推定する。そして、最後に(5)節で結語を述べる。
(2)データ・セットの概要
本稿では、後述するバイオ特許データベースを土台として、これに『特許電子図書館(The
Industrial Property Digital Library:IPDL)』(以下では IPDL とする)から得た審査請
求日等を追加することによって分析用データ・セットを構築した。以下ではデータソース
及び分析用データ・セット(サンプル)の概要を述べる。
(ⅰ)バイオ特許データベース 4
特許データは、Thomson ISI 社の『ダウエント・イノベーション・インデックス(Derwent
Innovation Index:DII)
』及び『ダウエント・ワールド・パテント・インデックス(Derwent
World Patent Index:DWPI)』(以下では総称して「ダウエント」)から抽出した。抽出対象
3
P.62 参考文献3参照。
バイオ特許データベースは、岡田羊祐氏(一橋大学)、藤平章氏(公正取引委員会)との共同研究の中で整備されたも
のである。本研究でのデータ利用を許諾して下さったことを、ここに謝して記したい。
4
-38-
は、以下の条件を満たす特許群である。すなわち、2004 年3月1日時点で入手可能な、①
優先権主張国が日本で、②優先権主張日が 1991 年1月1日以降の、③バイオテクノロジー
関連特許全体である。バイオテクノロジー関連技術の定義は、特許庁(2003)を援用した。
特許庁(2003)では、国際特許分類(International Patent Classification: IPC)及び当
該技術に関連する複数のキーワードを組み合わせて作られた検索式を用いて 19 のバイオ
テクノロジー関連技術を定めている 5。技術分野の概要は、表 1 を参照されたい。なお、
これら 19 の技術分野は非排他的なものであり、1件のバイオ特許が複数の技術分類に該当
する可能性がある点に注意を要する。
19 本の検索式及び上述のデータの規格に従って、ダウエントから特許データを抽出した
ところ、30,937 件の特許データが得られた 6。抽出した特許書誌情報は、出願番号、出願
日、登録日、優先権主張国、IPC、出願人、特許国、特許種別コード、特許番号、前方引用
件数、後方引用件数、優先権を共通に持つ特許(特許ファミリー)である。これらの情報
から無関係あるいは明確に誤りと判断できるデータを除外したところ、30,502 件の特許デ
ータが得られた 7。なお、分析に使用するに当たり、出願人の名寄せ及び個人出願人の帰
属の調査を行っている。方法等は P.63 の補論 1 を参照されたい。
5
①バイオテクノロジー基幹技術、②ポスト・ゲノム関連技術、③その他の技術の3種類に大別される。
ダウエントの特許データはファミリー単位で管理されているため、30,937 件は特許ファミリーの数である。
7 バイオ特許データベースの特徴及び、日本のバイオ特許の出願動向は、Nakamura et al. (2006) で議論している。本
稿と併せて参照されたい。
6
-39-
その他の技術
ポスト・ゲノム関連技術
バイオテクノロジー基幹技術
表1: バイオテクノロジー関連19技術分野の定義
#
技術分野名称
技術概要
1
遺伝子工学技術
遺伝子の試験管内組換え技術、遺伝子工学に関するDNA/RNA、ベクター/プラス
ミド、宿主等およびその調製、使用(方法)、それにより得られた/そこで使用する新
規遺伝子/蛋白質
2
遺伝子解析技術
SNPs、多型を含む遺伝子の配列等、DNA構造情報を解析する技術、その過程に用
いられるバイオインフォマティクス技術
3
発生工学技術
分子レベルで発生/分化を研究する発生学の知見に基づく細胞の操作/分化/増
殖、その技術を応用して得られた新規な動物や細胞
4
蛋白工学技術
蛋白質の構造の一部を人為的に改変して蛋白質の機能を改変する技術、その過程
に用いられるバイオインフォマティクス技術、それにより得られた改変体(遺伝子、蛋
白質)
5
糖鎖工学技術
糖鎖およびその構造/機能解析、糖鎖合成関連遺伝子、糖鎖を修飾することにより
蛋白質や細胞の機能に変化をもたらす技術、それにより得られた糖鎖等、およびそ
の生産
6
遺伝子機能解析技術
遺伝子機能を実験的に解析する機能解析技術
7
蛋白質構造解析技術
蛋白質の配列と高次構造を決定する技術、蛋白質の構造/機能をインシリコで解析
する技術(プロテインインフォマティクス)
8
蛋白質機能解析技術
蛋白質の機能を実験的に解析する技術
9
糖鎖遺伝子技術
糖鎖の生合成、転移に関与する酵素遺伝子/蛋白質とそれに関連する技術、その
利用
10
ゲノム創薬技術
疾患関連遺伝子の同定技術、得られた新規遺伝子/蛋白質、ポスト・ゲノム関連技
術により医薬のリード化合物を探索、決定、最適化する技術
11
遺伝子治療・診断技術
遺伝子導入により疾病を治療したり、遺伝情報により診断を行う技術
12
ナノバイオテクノロジー
分子や細胞の観察、測定、機能解析技術、分子や細胞の操作技術、ナノ構造体作成
技術
13
バイオインフォマティクス
wetの系で得られた遺伝子、蛋白質、糖鎖等のデータより構造/機能に関する情報
を得る技術、上記情報を集積したデータベース、上記データベースより有用な情報を
抽出/表示する技術、上記過程において利用される要素技術
14
細胞
ライフサイエンス分野で用いられる動植物、ヒト細胞/組織、外来遺伝子による修飾
を受けた上記細胞、その培養装置
15
微生物・酵素
微生物、酵素、およびその生物触媒機能を利用して有用物質を製造する技術
16
組換え植物
遺伝子組換え技術を応用した植物の育種改変、そのための要素技術
17
組換え動物
遺伝子組換え技術を応用した動物の育種改変、そのための要素技術
18
バイオ医薬品
バイオ医薬品およびそれを製造するバイオプロセス技術
19
バイオ化学品
生物的手法による化学品およびその生産技術
-40-
(ⅱ)特許経過情報
『IIP パテントデータベース』
(財団法人知的財産研究所)は、特許庁の整理標準化デー
タを基に、1964 年1月から 2004 年1月までに出願公開・登録された特許について各種情
報を収録したものである。同データベースの整備により、日本で出願された特許について
も大規模データを用いた経済分析が可能になった。本稿の中核をなすデータは、出願日や
審査請求日等の出願経過情報である。同データベースはそれらのデータを含んでおり、有
力なデータソースになり得る。ただし特許法(第四十八条の三)は、出願日から起算して
3年ないし7年(2001 年9月 30 日以前の出願)を出願審査請求期間と定めているため、
出願日と審査請求日とは最大で7年のタイム・ラグが存在する。一方、IIP パテントデー
タベースに記録されている最新の審査請求日は、2003 年 11 月 20 日である。この日から逆
算すると、1996 年 11 月 22 日以降に出願された特許は、データベース収録時点で7年ある
いは3年の審査請求期間を満了していない。審査請求日は請求期限終了直前に集中する傾
向があるため、データの観測期間が審査請求期限以前に終了する場合、当該特許に関する
審査請求情報(審査請求の有無や審査請求日)は観察されない可能性が高い 8。我々のバ
イオ特許の約 56%が 1996 年 11 月 22 日以降の出願であることをかんがみると、IIP パテン
トデータベースによって審査請求情報が得られる可能性は限定的であり、最新の審査請求
情報を収集することの意義は大きいと考えられる。そこで、2007 年1月下旬から2月上旬
にかけて、IPDL にて上記バイオ特許 30,502 件の出願経過情報を検索し、30,206 件に関し
て対応するデータを得た。なお、今回新たに IPDL から抽出したデータに含まれる、最新の
審査請求日は 2006 年 12 月 25 日であったため、それ以前の審査請求状況は IPDL に反映さ
れているものとした。優先権情報等を中心にこれらの情報を精査し、新規に異常値と認め
られたデータを除外したところ、29,758 件の特許データが利用可能であった 9。以下では、
これらを基本のデータ・セット(サンプル)として分析に用いる。
表2では、バイオ特許 29,758 件について、IPDL から得られた査定種別及び最終処分種
別を請求期間別に示した 10。表3は、
「審査請求の有無」
、
「審査請求期間」及び「未請求の
理由」を基にサンプルを7タイプに集約したものである。これらによれば、88.4%(26,299
件)が審査請求期間7年の特許である。また、審査請求期間7年の特許(以下、7 年特許
と称す)のうち、15.1%(3,974 件)は 2006 年 12 月 25 日時点で請求期限(出願日から7
年)に到達していない。一方、審査請求期間3年の特許(以下、3年特許と称す)は、す
べて審査請求期間を終了していることが分かる。
8 1996 年 11 月 22 日以降に出願された特許であっても、2003 年 11 月 20 日以前に出願審査請求を行っているものについ
ては、IIP パテントデータベースから審査請求に関する情報を得ることができる。
9 日本以外に優先権が設定されている特許が散見された。
10 抽出したデータが、
「審査請求日なし」かつ「最終処分種別値なし」である特許のうち、2006 年 12 月 25 日までに審
査請求期限に到達している特許は、「未審査請求によるみなし取下」へ算入した。
-41-
表2: 審査請求状況
パネルA: 審査請求期間7年
審査請求日あり
審査請求日なし
査定種別
査定種別
合計
登録査定
拒絶査定
査定無し
総計
査定無し
6643
143
0
6786
0
6786
拒絶
0
1
0
1
0
1
取下
1
22
213
236
52
288
放棄
0
5
44
49
9
58
変更
0
0
2
2
0
2
未審査請求によるみなし取下
0
0
10
10
8218
8228
国内優先権に基づくみなし取下
0
0
3
3
27
30
出願無効(方式)
0
0
0
0
6
6
出願無効(登録)
1
0
0
1
0
1
出願却下処分(方式指令)
0
0
0
0
49
49
出願却下処分(登録)
42
1
0
43
0
43
値なし(審査請求済み)
60
3626
3147
6833
0
6833
0
0
0
0
3974
10807
6747
3798
3419
13964
12335
26299
最終処分
特許/登録
値なし(審査請求期間中)
合計
パネルB: 審査請求期間3年
審査請求日あり
審査請求日なし
査定種別
査定種別
合計
登録査定
拒絶査定
査定無し
総計
査定無し
379
1
0
380
0
380
拒絶
0
0
0
0
0
0
取下
0
3
38
41
4
45
放棄
0
0
7
7
0
7
変更
0
0
0
0
0
0
未審査請求によるみなし取下
0
0
5
5
766
771
国内優先権に基づくみなし取下
0
0
0
0
0
0
出願無効(方式)
0
0
0
0
0
0
出願無効(登録)
0
0
0
0
0
0
出願却下処分(方式指令)
0
0
0
0
0
0
出願却下処分(登録)
1
0
0
1
0
1
18
225
2012
2255
0
2255
0
0
0
0
0
0
398
229
2062
2689
770
3459
最終処分
特許/登録
値なし(審査請求済み)
値なし(審査請求期間中)
合計
-42-
表3: 分析対象特許のタイプ
特許のタイプ
審査請求の有無
審査請求期間
未審査の理由
1
審査請求あり
7年
13964
2
審査請求あり
3年
2689
3
審査請求なし
7年
未審査請求による見なし取下
8218
4
審査請求なし
3年
未審査請求による見なし取下
766
5
審査請求なし
7年
2006年12月25日時点で審査請求
期限(7年)に未達
3974
6
審査請求なし
3年
2006年12月25日時点で審査請求
期限(3年)に未達
0
7
審査請求なし
7年・3年
件数
取下・放棄等
147
合計
29758
図1は出願年別の出願推移及び各特許タイプ(表3参照)を示したものである
11
。バイ
オ特許全体の出願件数は、1999 年以降年間 2,500 件を超え、明らかな増加傾向にある。た
だし、2002 年及び 2003 年の出願件数が著しく小さい。これは、出願公開制度に伴う切断
(truncation)バイアスによるものであり、十分に注意を要する
12
。ダウエントから特許
データを抽出した時点では、2002 年出願の一部及び 2003 年出願の国内出願特許は公開に
至っていない。ただし、上記期間に出願された特許が国内優先権を伴う出願の場合、我々
のデータ・セットに含まれる可能性がある 13。
(3)審査請求状況
上述した手続によって構築したデータ・セットを用いて、バイオ特許の審査請求状況を
簡潔にまとめることとする。
11
12
13
件数の詳細は P.65 付表1に示した。
公開済み特許についてもダウエントへの収録ラグゆえにデータが得られなかった可能性がある。
国内優先権を主張している場合、優先日から 18 か月経過後に公開される。
-43-
図1:バイオ特許の推移(特許タイプ別)
4500
4000
3500
件数
3000
タイプ7
タイプ6
タイプ5
タイプ4
タイプ3
タイプ2
タイプ1
2500
2000
1500
1000
500
0
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997 1998
出願年
1999
2000
2001
2002
2003
図2:特許タイプ別構成比の推移(7年)
100%
90%
80%
70%
60%
タイプ7
タイプ5
タイプ3
タイプ1
50%
40%
30%
20%
10%
0%
1991
1992
1993
1994
1995
1996
出願年
1997
1998
1999
2000
2001
図3:特許タイプ別構成比の推移(3年)
100%
90%
80%
70%
60%
タイプ7
タイプ6
タイプ4
タイプ2
50%
40%
30%
20%
10%
0%
2001
2002
出願年
-44-
2003
(ⅰ)審査請求率
図2、図3から審査請求率(タイプ 1 の比率)の推移をみることができる。図2では、
7年特許を対象としているが、審査請求期間を満了しているのは 1999 年出願までである。
最終的な審査請求率は 50%台前半から 60%台前半で推移している。図3は、3年特許に関す
る請求率である。明らかに、7年特許よりも審査請求率が高い。7年特許の請求率は趨勢
的に増加傾向にあるものの、審査請求期間の短縮後、請求率が大幅にジャンプしているこ
とが分かる
14
。これは、制度変更によって審査請求期間を最大限利用することによって得
られる特許価値に関する情報量が低下したことに起因する。つまり、真の特許価値を十分
に見極めることが困難になるため、本来特許化の必要がない低価値あるいは不確実性の大
きな出願についても審査請求を行い結果的に請求率が上昇したと理解できる。
図4は技術分類別の審査請求率等を表したものである。分野ごとに特許数が大きく異な
るので比較は難しいが、特許が集中している分野の値をみる限り、技術分野間で請求率が
大きく異なることは言えない 15。
次に図5では、出願人に上場企業を含む特許に関して産業別の集計を行っている。合計
で 1000 件以上の出願がある産業に注目すると、食料品産業及び電気機械産業では、請求率
が高い値を示している一方、化学工業や医薬品産業において請求率が低い
16
。医薬品産業
は、研究開発集約的であり、また、特許1件の価値が高いことで知られる。特許1件を生
み出すために投じられた研究開発費や、将来的な価値と比すれば、審査請求料は必ずしも
高くないようにも思われるが、実際には、審査請求期間中にかなりの絞り込みが行われて
いることが見て取れる。
最後に、図6で出願人属性別の請求率を眺める。図の左半分(企業、公的研究機関、大
学)は単独出願、右半分は二人以上の出願人による共同出願である。公的機関において審
査請求率が著しく高い。単独出願では、80%以上の特許が審査請求されている。同様の傾向
は、共同出願でも観察できるものであり、民間企業とは異なった基準で審査請求がなされ
ている可能性が示唆される。一つの説明は、審査請求料の減免措置に求めることができる。
公的機関の審査請求料は基本的に無料である。したがって、個々の出願についてその価値
を精査し、審査請求の有無を決定することが、むしろコスト増に繋がる可能性がある。ゆ
えに、公的機関において、高い審査請求率が観察されたと推測できる。ただし、同じく減
免措置の対象となり得る大学については目立った特徴は見られない。したがって、その他
の可能性、例えば、公的研究機関では業績評価や機関評価の際に出願のみならず特許の登
録数が用いられている等が示唆される。
14
1999 年出願が 61.9%であるのに対し、2001 年出願の請求率は 76.7%に達する。
(2)節で指摘したとおり、多くの場合、一つの特許が複数の技術分野に跨っている点に注意を要する。
16 その他、繊維品産業も合計 1000 件以上のバイオ特許を出願している。
15
-45-
図4:技術分類別審査請求状況
80.0%
12000
70.0%
10000
60.0%
8000
件数
50.0%
40.0%
6000
審査請求あり
審査請求なし
審査請求率
30.0%
4000
20.0%
2000
10.0%
0.0%
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
技術分類
図5:産業別審査請求状況
2500
80%
70%
2000
60%
50%
件数
1500
40%
1000
審査請求あり
審査請求なし
審査請求率
30%
20%
500
10%
0
0%
非製造業
その他製造業
精密機械器具
輸送用機械器具
電気機械器具
一般機械
金属製品
非鉄金属
鉄鋼
窯業・土石製品
ゴム製品
石油精製
医薬品
化学工業
出版・印刷
紙・パルプ
繊維品
食料品
図6:出願人別審査請求状況
12000
90%
80%
10000
70%
件数
8000
60%
50%
6000
40%
4000
30%
20%
2000
10%
0
0%
企業
公的機関
大学
企業+企業 企業+公的 企業+大学
-46-
審査請求あり
審査請求なし
審査請求率
(ⅱ)審査請求までの期間
図7(7年特許)及び図8(3年特許)は、審査請求がなされた特許について、出願日
から審査請求日までの日数を図示したものである
17
。これらを比較する限り、審査請求期
間の短縮前後で審査請求パターンに目立った変化を見いだすことはできない。審査請求期
間の最初(厳密には出願と同時)と最後(7年ないし3年期限直前)に審査請求が集中し
ている。特に、期限直前の審査請求は顕著に多く、請求期間を最大限に利用して特許の価
値を見極めようとする出願人の意図がうかがわれる。
0
5000
件数
1.0e+04
1.5e+04
図7: 審査請求までの期間(7年特許)
0
500
1000
1500
経過日数
2000
2500
0
500
件数
1000
1500
図8: 審査請求までの期間(3年特許)
0
17
200
400
600
経過日数
800
厳密には、(審査請求日-出願日+1)を経過期間として用いている。脚注 19 参照。
-47-
1000
(ⅲ)ノンパラメトリック推定
生存時間分布を記述する方法として、生存関数(survival function)がある。これは、
T を生存時間を表す確率変数であるとすると、T がある時点 t を超える確率、つまり t まで
生存する確率(分析の対象とするイベントが発生しない確率)を意味する
18
。生存関数は
Kaplan-Meier 法(カプラン・マイヤー法)を用いることでノンパラメトリックに推定でき
る。本稿では、審査請求をイベント、出願から審査請求までを生存期間とし、時間の変化
とともに生存確率がどのように変化するかを検討する 19。
図9は生存曲線を7年特許と3年特許とに分けて表示したものである。まず、両曲線と
も、請求期限間近での生存率低下が著しく、審査請求が集中している様子が見て取れる。
次に、出願から3年目までに注目すると、3年特許において生存率が低い、換言すれば、
早期の審査請求が行われていることが分かる。3年の審査請求期間では、期間中に解消さ
れると予測される不確実性の大きさは限定的であり、そのため、特許価値を判断するのに
必要な情報が十分に得られないことが事前に判明した場合、早期に請求を行う可能性が示
唆される。しかしながら、期間中に得られると予測される情報の量と不確実性の大きさと
を勘案し、審査請求時期を決定するという方法自体は、審査請求期間の長さとは無関係に
合理的だと考えられる。そこで、図 10 では、7年特許の生存時間のみ 3/7 倍して生存関数
の推定を行っている。生存関数の差は、ログランク検定や一般化 Wilcoxon 検定(ウイルコ
クソン検定)を用いて検定可能である。これらの方法は生存関数が交差する場合の検出力
が弱いことが知られているが、今回のケースに関しては、p 値=0で帰無仮説が棄却される。
したがって、2つの生存関数は一致しないが、両曲線を目視する限り、請求期間が 3/7 倍
に短縮されたことによって、審査請求に関する意思決定メカニズムが変更され、その結果
として請求のタイミングが期間短縮の効果以上に加速あるいは減速したといった傾向は認
められない。
18
生存時間分布は、ハザード関数や累積ハザード関数を用いた表現も可能である。詳細は、P.62 参考文献4に挙げた
大橋・浜田 (1995) などを参照されたい。
19 Kaplan-Meier 法では0期の生存率は1であり、0期にイベントが発生することを想定していない。そこで、実際には、
(審査請求日-出願日+1)を経過期間として用いている。また、観測期間中に審査請求が行われなかった特許は、検閲
データとして扱われる。検閲データに関する経過時間の算出方法は表4を参照されたい。
-48-
0.00
0.25
0.50
0.75
1.00
図9: 生存曲線
0
500
1000
1500
経過日数
seven = 0
2000
2500
seven = 1
0.00
0.25
0.50
0.75
1.00
図10: 生存曲線(請求期間調整済み)
0
500
経過日数
seven = 0
1000
seven = 1
次に幾つかの産業をピックアップして生存関数を描いてみよう。図 11 は、出願人に医薬
品産業に属する企業を含む7年特許の生存関数である(industry6=1:医薬品産業、
industry6=0:それ以外の特許)。図5において、医薬品産業の審査請求率は比較的低いこ
とを確認したが、審査請求を行う速度も遅いことが分かる。図 12 は、図5において、高い
審査請求率を示した電気機械産業の生存関数である。(7年特許、industry14=1:電気機
械産業、industry14=0:それ以外の特許)。電気機械産業の生存関数は下側に位置し、比
較的早期から審査請求を行っていることが分かる。後の回帰分析では、こうした違いがど
のような要因によるものなのかについて若干の検討を行う。
-49-
0.00
0.25
0.50
0.75
1.00
図11: 生存曲線(医薬品産業)
0
500
1000
1500
経過日数
industry6 = 0
2000
2500
industry6 = 1
0.00
0.25
0.50
0.75
1.00
図12: 生存曲線(電気機械産業)
0
500
1000
1500
経過日数
industry14 = 0
2000
2500
industry14 = 1
(4)回帰分析
本節では、審査請求のタイミング(審査請求までの期間)が特許属性や出願人属性とど
のように関連しているかをサバイバル分析の手法を用いて検討する。
おそらくサバイバル分析の手法として最も一般的なモデルは Cox の比例ハザード・モデ
ルであろう。このモデルは、ベースライン・ハザードあるいはハザード関数の関数形を特
定化せずに解析可能なため、特定化の誤りは排除できるといった利点がある。しかしなが
ら、我々のデータは比例ハザード性の仮定(ハザード率に対する共変量(説明変数)の効
-50-
果が時間によらず一定だという仮定)を満たさないため、以下の推定ではワイブル分布を
仮定した加速ハザード・モデル(accelerated failure time (AFT) model)を採用する 20。
その他の留意点としては、出願と同時に審査請求がなされる特許の扱いがある(図7、図
8参照)。それらの特許については、審査請求を行うという意思決定が出願以前になされて
いるとみなすこともできる。この場合、データに左側検閲(lift censoring)が発生して
いると解釈できる。こうした可能性を考慮し、左側検閲を反映させたモデルを用いた推定
も行ったが、モデルの当てはまりに改善は見られなかった
21
。なお、推定は7年特許と3
年特許とを分けて行う。
(ⅰ)従属変数
「審査請求日-出願日+1」を審査請求までの経過日数とし、従属変数(TERM)に用いる。
ただし、観測期間中に審査請求が行われなかった特許(右側検閲データ)については、表
4に示した観測終了日を基に経過日数を算出し、従属変数とした 22。
表4: 分析対象特許のタイプ
観測開始日
観測終了日
件数
7年
出願日
審査請求日
13964
なし
3年
出願日
審査請求日
2689
審査請求なし
あり
7年
未審査請求による見なし取下
出願日
出願日から7年後
8218
4
審査請求なし
あり
3年
未審査請求による見なし取下
出願日
出願日から3年後
766
5
審査請求なし
あり
7年
2006年12月25日時点で審査請求
期限(7年)に未達
出願日
2006年12月25日
3974
6
審査請求なし
あり
3年
2006年12月25日時点で審査請求
期限(3年)に未達
出願日
2006年12月25日
0
7
審査請求なし
あり
7年・3年
取下・放棄等
出願日
取下書・放棄書
差出日等
147
特許のタイプ
審査請求の有無
打ち切りの有無
審査請求期間
1
審査請求あり
なし
2
審査請求あり
3
打ち切りのタイプ
合計
29758
注) タイプ7の観測終了日は、上記差出日の他、出願日から1年3ヶ月後(国内優先権に基づくみなし取下)、出願無効処分発送日(出願無効)、出願却下処分書発送日(出願却下)を用いた。
20
比例ハザード性の検定は、P.62 参考文献5に挙げた Grambsch and Therneau (1994) の方法による。指数分布、対数
正規分布、対数ロジスティック分布などを当てはめた推定も行ったが、表7に示した結果と比較して当てはまりが良く
なかった。
21 審査請求がなされなかった特許は、右側検閲データとして扱っている。
「(ⅰ)従属変数」を参照。
22 実際には、
「観測終了日-出願日+1」を用いた。
-51-
(ⅱ)説明変数
従属変数及び各説明変数の定義、記述統計量は表 5、相関係数は表 6 に示す。
①
外国出願系変数
日本企業が海外に出願する場合には、特に翻訳作業に伴う費用が大きいといわれている。
こうした費用の存在から、しばしば出願国数(特許ファミリーのサイズ)は特許の主観的
評価を表す指標として利用される。ただし、ダウエントでは、当該特許が審査請求後、登
録に至り、特許番号が付与されると新たに特許ファミリーへ追加されるため、ファミリー・
サイズが増加する。つまり、ファミリー・サイズは審査請求の有無に依存した数値であり、
本研究における説明変数としては適当ではない。そこで、本稿では、同一発明の海外出願
状況を表す変数として、米国出願ダミー(US)、欧州出願ダミー(EP)、PCT 出願ダミー(PCT)
を用いる。US、EP は、特許ファミリー内にそれぞれ米国出願、EPC 出願が含まれる時に 1
をとるダミーである。また、PCT は分析対象特許自身が PCT 出願による場合 1 をとるダミ
ーである。経済性の高い特許ほど早期に審査請求されると推測されるので、これらの変数
の符号は負が予想される。また、外国出願の過程でサーチ・レポートや国際予備審査の結
果を得ることによって特許性の判断を行うことができる。したがって、特許価値に関する
不確実性は低減する可能性があり、審査請求を保留するインセンティブは下がると推測さ
れる。
②
特許属性系変数
請求項数(CLAIM)は、出願人が当該特許について保護されることを期待する技術領域の
数であり、いわば特許の保護範囲の代理変数といえる。上述の外国出願と同様に、特許に
関する主観的な価値を反映していると考えられ、符号条件は負が予測される。ただし、審
査請求料及び特許料は、請求項数の増加関数なので、特許の経済的価値に不確実性が大き
い場合、請求項数が多い特許ほど審査請求が行われない可能性がある。後者の影響が強い
場合、正の符号を取ると考えられる
23
。同じく、技術範囲を表す変数として、PAT_SCOPE
を用いる。これは、表1で示した 19 分類のバイオ技術が当該特許にいくつ含まれている
かを指標化したものである。つまり、PAT_SCOPE が大きいほど、当該特許のクレームでカ
バーされる関連技術分野の範囲が広いことを意味する。したがって、CLAIM と同じく、負
23
本研究で利用している請求項は、出願時(優先権主張時)の出願人によるクレーム数であり、バイオ特許データベー
スの作成時に、IIP パテントデータベース(知的財産研究所)から抽出したものである。クレーム数は IIP パテントデー
タベース上のデータの欠落により、実際のデータ・セットより小さな値となっている。
-52-
の効果が期待される。
技術に科学が与えている影響を捕捉する上で有効な指標としてサイエンス・リンケージ
がある。バイオ分野は、顕著にサイエンス・リンケージが強いことで知られている(玉田
他, 200324 )。本稿では、特許のサイエンス・リンケージの広がりを示す指標として
SCIENCE_RATIO を用いて、その効果を調べる。変数の効果は先験的に明らかではないが、
仮に、科学に近い技術ほどその商業的価値は未知数であり、科学技術の進展とともに真の
価値が判明すると考えれば、SCIENCE_RATIO の符号は正が予想される。ただし、この変数
は外国出願ダミーとの相関が高いため、推定においては多重共線性が生じる可能性がある。
最後に、前方引用件数に関連した変数(DCITING)について説明する。出願人が審査請求
のタイミングを図るのは、出願特許の真の価値と主観的価値とが必ずしも一致しないこと
を認識しているからである。そこで、実際に真の特許価値が高い特許ほど審査請求対象に
なっているのかを評価するために、前方引用件数を代理変数とする。前方引用件数は、時
間とともに当該技術が複数の出願人や審査官によって再評価されていくプロセスを反映す
るので、特許価値の客観的な指標として有望である。ただし、審査請求の有無が引用件数
を増加させる可能性も否定できないため、その点については注意を要する。また、前方引
用件数は、時間とともに増加するため、切断バイアス(truncation bias)を考慮する必要
がある。そのため、実際には、Jaffe and Lerner (2001)25 及び Hall, Jaffe and Trajtenberg
(2002)26 の手法に倣って、年次や技術分類ごとに異なる引用性向を調整して平均ゼロとな
るように正規化した変数を用いる 27。
③
出願人属性系変数
出願人属性を表す変数として2グループの変数を使用する。第一に、民間企業(CORP)
、
公的研究機関(GOV)、大学(UNIV)、及びそれらの共同出願、民間企業による共同出願
(CORP_CORP)、民間企業・公的研究機関による共同出願(CORP_GOV)
、民間企業・大学による
共同出願(CORP_UNIV)を表すダミーを用いる。Nakamura et al. (2006) では、正規化し
た前方引用件数を用い、出願人別の特許価値を比較している。これによれば、企業によっ
て出願された特許が、単独・共同を問わず最も価値の高い特許を生み出している。一方、
公的研究機関は、一機関当たりの特許出願件数は多いものの、平均的な特許価値は低く、
また大学は一機関当たりの出願件数は少なく、また平均的価値も低い。この結果から類推
すると、CORP 及び CORP_CORP が負の効果を示すと考えられる。ただし前節では、公的研究
機関の審査請求率が著しく高いことを確認している。したがって、政府系特許は必ずしも
価値が高くないものの、審査請求がなされている可能性がある。よって、GOV の係数は負
24, 25, 26
27
P.62 参考文献6、7、8参照。
詳細は補論2を参照されたい。
-53-
の符号を持つと考えられる。また、政府系あるいは大学出願人ダミーの効果が、7年特許
と3年特許とで異なるか否かも注目される点である。1990 年代後半以降、公的部門を対象
としたプロパテント政策が進展し、公的部門の特許出願性向が大きく上昇したことが知ら
れている。それらの施策が公的部門の審査請求行動にも何らかの影響を及ぼしたとすれば、
その効果は3年特許(2001 年以降の出願)をサンプルとした分析に表れる可能性がある。
第二のグループとして、上場企業ダミー(LISTED)、バイオ・ベンチャーダミー(JBA)、
上場企業の産業ダミーを加える。豊富な補完的資産を有する企業は、質の低い発明からで
も事業化の利益を生み出すことができるため、そのような発明までも特許化するインセン
ティブを持ち、結果的に平均的な特許価値を低下させる可能性がある。よって、LISTED は
正の効果が期待される。一方、バイオ企業は、企業規模も小さく、多くの補完的資産を有
するとは考えにくい。ゆえに、逆の効果が推測される。また、当該特許の第一出願人がそ
の年に出願したバイオ特許の数を表す変数 PAT_SIZE を加える。本変数も、補完的資産の規
模の代理変数とみなすことができる。
前節では、医薬品産業及び電気機械産業を例示し、産業間の差異を指摘した。こうした
差異が何に起因するのかは必ずしも明白ではない。もちろん、特許に含まれる技術が異な
るのであって、産業特性の問題ではないという可能性も考え得る。そこで、産業ダミー(上
場企業のみ)及び技術分類ダミーを併用して産業固有の効果を確認する。
-54-
表5: 基本統計量
パネルA: 審査請求期間7年
審査請求あり
変数のタイプ
変数名
説明
従属変数
TERM
審査請求までの日数(経過日数)
13964
1704.78
外国出願
US
米国出願ダミー
13964
外国出願
EP
欧州出願ダミー
13964
外国出願
PCT
PCT出願ダミー
特許属性
CLAIM
特許属性
PAT_SCOPE
特許属性
Mean
Std. Dev.
審査請求なし
Min
Max
896.91
1
2573
12333
0.23
0.42
0
1
0.23
0.42
0
1
13964
0.08
0.27
0
13500
7.20
7.81
それぞれの特許の特性を示す技術分野の総数によ
り技術分野の範囲を表した指標。
13964
2.04
SCIENCE_RATIO
特許のサイエンス・リンケージの広がりを示す指標。
「非特許引用件数」を「後方引用件数 + 1」で除して
算出。
13964
特許属性
DCITING
正規化した前方引用件数
13964
出願人
CORP
民間企業による単独出願
13964
0.70
0.46
0
1
12335
0.76
0.43
0
1
出願人
GOV
政府機関による単独出願
13964
0.07
0.26
0
1
12335
0.02
0.14
0
1
出願人
UNIV
大学単独出願
13964
0.03
0.16
0
1
12335
0.03
0.17
0
1
出願人
CORP_CORP
共同出願(企業・企業)
13964
0.05
0.22
0
1
12335
0.05
0.21
0
1
出願人
CORP_GOV
共同出願(企業・政府系)
13964
0.03
0.18
0
1
12335
0.02
0.14
0
1
出願人
CORP_UNIV
共同出願(企業・大学)
13964
0.03
0.18
0
1
12335
0.04
0.19
0
1
出願人
LISTED
出願人が上場企業か否かを示す
13964
0.53
0.50
0
1
12335
0.59
0.49
0
1
出願人
JBA
バイオ・ベンチャーダミー
13964
0.02
0.14
0
1
12335
0.03
0.18
0
1
出願人
PAT_SIZE
第一出願人による年間総特許出願件数(バイオ特許)
13964
15.36
22.64
1
191
12335
15.22
19.87
1
191
Min
Max
Obs
Min
Max
特許請求項の数(クレーム数)
Obs
Obs
Mean
Std. Dev.
Min
Max
2426.55
246.70
222
2557
12335
0.09
0.28
0
1
12335
0.12
0.32
0
1
1
12335
0.07
0.26
0
1
1
183
11824
7.34
7.99
1
223
1.39
1
12
12335
2.03
1.44
1
14
0.10
0.22
0
0.98
12335
0.05
0.16
0
0.96
1.76
5.32
0
148
12335
0.65
2.55
0
97
パネルB: 審査請求期間3年
変数のタイプ
変数名
審査請求あり
説明
Obs
Mean
Std. Dev.
審査請求なし
Mean
Std. Dev.
従属変数
TERM
審査請求までの日数(経過日数)
2688
847.42
326.74
1
1099
770
1093.32
38.00
462
1096
外国出願
US
米国出願ダミー
2688
0.14
0.34
0
1
770
0.05
0.21
0
1
外国出願
EP
欧州出願ダミー
2688
0.15
0.36
0
1
770
0.04
0.19
0
1
外国出願
PCT
PCT出願ダミー
2688
0.30
0.46
0
1
770
0.08
0.27
0
1
特許属性
CLAIM
1433
10.66
10.24
1
124
556
13.79
14.99
1
107
特許属性
PAT_SCOPE
それぞれの特許の特性を示す技術分野の総数によ
り技術分野の範囲を表した指標。
2688
2.54
1.83
1
13
770
2.64
2.04
1
11
特許属性
SCIENCE_RATIO
特許のサイエンス・リンケージの広がりを示す指標。
「非特許引用件数」を「後方引用件数 + 1」で除して
算出。
2688
0.10
0.21
0
0.9
770
0.06
0.17
0
0.8
特許属性
DCITING
正規化した前方引用件数
2688
0.03
0.30
0
9
770
0.01
0.14
0
3
出願人
CORP
民間企業による単独出願
2688
0.58
0.49
0
1
770
0.71
0.46
0
1
出願人
GOV
政府機関による単独出願
2688
0.10
0.31
0
1
770
0.03
0.18
0
1
出願人
UNIV
大学単独出願
2688
0.07
0.25
0
1
770
0.06
0.24
0
1
出願人
CORP_CORP
共同出願(企業・企業)
2688
0.04
0.20
0
1
770
0.03
0.18
0
1
出願人
CORP_GOV
共同出願(企業・政府系)
2688
0.05
0.22
0
1
770
0.03
0.17
0
1
出願人
CORP_UNIV
共同出願(企業・大学)
2688
0.06
0.23
0
1
770
0.04
0.20
0
1
出願人
LISTED
出願人が上場企業か否かを示す
2688
0.47
0.50
0
1
770
0.59
0.49
0
1
出願人
JBA
バイオ・ベンチャーダミー
2688
0.08
0.27
0
1
770
0.05
0.22
0
1
出願人
PAT_SIZE
第一出願人による年間総特許出願件数(バイオ特許)
2687
23.32
38.72
1
191
770
27.24
40.48
1
191
特許請求項の数(クレーム数)
-55-
表6: 相関マトリクス(7年特許・審査請求あり) TERM
TERM
US
EP
PCT
CLAIM
PAT_SCOPE SCIENCE_RATIO
DCITING
1.000
US
-0.036
EP
0.016
0.717
1.000
PCT
0.036
0.272
0.428
1.000
-0.020
0.118
0.161
0.001
1.000
PAT_SCOPE
0.029
0.204
0.243
0.158
0.263
1.000
SCIENCE_RATIO
0.035
0.634
0.689
0.355
0.136
0.310
DCITING
0.040
0.332
0.336
0.097
0.065
0.051
0.270
1.000
CORP
0.248
0.066
0.081
0.058
-0.019
-0.049
0.045
0.071
GOV
-0.308
-0.033
-0.045
-0.050
0.016
0.073
-0.020
-0.056
UNIV
-0.101
0.008
-0.009
0.011
0.019
0.032
0.015
-0.017
CLAIM
CORP_CORP
1.000
1.000
0.027
-0.009
-0.010
-0.016
-0.017
-0.055
-0.024
0.004
CORP_GOV
-0.024
-0.051
-0.051
-0.031
-0.010
-0.023
-0.038
-0.028
CORP_UNIV
0.041
-0.012
-0.008
-0.017
0.024
0.022
0.006
-0.005
LISTED
0.211
0.074
0.076
0.044
0.027
0.003
0.049
0.059
JBA
0.016
-0.012
0.004
0.009
0.005
-0.011
-0.013
-0.008
-0.025
0.052
0.063
-0.004
0.105
0.145
0.046
0.023
PAT_SIZE
CORP
CORP
GOV
UNIV
CORP_CORP
CORP_GOV
CORP_UNIV
LISTED
JBA
1.000
GOV
-0.426
1.000
UNIV
-0.253
-0.045
1.000
CORP_CORP
-0.352
-0.063
-0.038
1.000
CORP_GOV
-0.286
-0.051
-0.030
-0.042
1.000
CORP_UNIV
-0.280
-0.050
-0.030
-0.041
-0.034
0.323
-0.298
-0.177
0.091
0.003
0.014
1.000
JBA
-0.034
-0.040
-0.024
0.075
0.031
0.071
-0.130
1.000
PAT_SIZE
-0.064
0.324
-0.089
-0.057
0.007
-0.078
0.093
-0.071
LISTED
PAT_SIZE
1.000
1.000
(ⅲ)推定結果
推定結果は表7(7年特許)及び表8(3年特許)に示す。両表とも、
(1)式から(5)
式は、全サンプルによる推定、(6)式はサンプルを企業出願に限定した推定(CORP=1又
は CORP_CORP=1)、
(7)式は、サンプルを米国、欧州、及び PCT 出願を行っていない特許
に限定した推定である。
まず、外国出願系の変数を眺めると、7年特許、3年特許共に同一発明が米国あるいは
欧州特許庁に出願されている場合、すなわち当該特許の主観的評価が高い場合、特許ファ
ミリー内の国内特許が早期に審査請求されていることが分かる。一方、PCT の係数は、7
年特許において有意に正を示した。つまり当該特許が PCT 出願の場合、審査請求までの期
間は長いことになる。PCT 出願では、各国国内手続移行までに最大で 30 か月の猶予が認め
られており、そのことが同出願方法を用いることの一つのメリットになっている。なぜな
-56-
らば、出願人は、外国出願の可能性を留保しつつも、費用負担を先延ばしすることができ
るからである。つまり、外国出願を行う際に PCT を選択すること自体が、不確実性の大き
さを示しているものと理解できる。ただし、3年特許においては、PCT の符号は逆転し、
負を示している。企業活動の国際化が進展するにつれて、企業はより多くの国で特許を取
得する必要に迫られており、そのことが、PCT 出願を選択させるインセンティブになって
いる。つまり、以前より積極的な意味で PCT 出願を選択する出願人が増加したため、近年
の出願に関しては US や EP と同様の効果を示したものと推測される。
次に特許属性系の変数について議論しよう。
まず、請求項数を表す変数 CLAIM であるが、
7年特許、3年特許共に有意な結果は得られず、また符号も安定しなかった。したがって、
請求項数が多いほど重要特許であり、審査請求に至る可能性が高いという関係は認められ
ない。同じく、技術の範囲を表す変数である PAT_SCOPE は、3年特許においてのみ有意に
負の符号を示した。このことから最近の出願については、より広範な技術ほど出願人の主
観的価値が高く、審査請求までの期間が短いと解釈できる。ただし、PAT_SCOPE は、大学
や公的研究機関において高い。したがって、出願人ダミーでコントロールしきれなかった
公的部門の効果を捕捉している可能性もある。実際、企業のみを対象とした分析(表8の
(7)式)では、PAT_SCOPE の係数は非有意ながら正である。
サイエンス・リンケージの変数 SCIENCE_RATIO は、一部の回帰式で統計的に有意な符号
を持ったが、依然として多重共線性の疑いが残る。前方引用件数 DCITING は、3年特許の
(7)式では有意な結果は得られていないものの、それ以外では有意に正の符号を持った。
前方引用件数が多く客観的に価値が高いということは、特許価値の不確実性が小さいこと
と同値である。したがって、DCITING が審査請求を有意に早める効果を持つのは合理的な
結果だと言えよう。なお、前述の(6)式において DCITING の係数が有意に推定されなかっ
たのは、ファミリー内に米国及び欧州への出願がない特許のみをサンプルとしたため、デ
ータ作成時に十分な前方引用件数が蓄積されていなかったことによると推測される。
次に、出願人属性の効果を検討する。両期間を通じて、GOV の係数は有意に負を示して
いる。つまり、他の要因をコントロールした上で、出願人が政府系研究機関であることが
有意に審査請求までの機関を短縮する効果を持つ。一方、大学出願人の変数 UNIV は非有意
かつ符号も一貫しない。1990 年代後半以降、公的部門を対象としたプロパテント政策が進
展し、公的部門の特許出願性向が大きく上昇した。しかしながら、7年特許と3年特許の
推定結果を比較する限り、それらの施策が審査請求行動に特段の影響を及ぼしたとは認め
られない。
また、企業による出願、特に企業による単独出願 CORP の係数は7年特許において有意に
正を示しており、出願人が企業であることが審査請求の先送りに繋がることが分かる。基
本的には企業だけが防衛的出願を行うインセンティブを持つことや、企業ほど審査請求料
や権利維持費用に対してコスト意識が高く、特許価値に関する不確実性が大きい場合の審
-57-
査請求を嫌うといった傾向を示唆している。上場企業ダミーLISTED 及びバイオ・ベンチャ
ーダミーJBA が有意に正の符号を持ったのも同様の理由によると考えられる。ただし、審
査請求期間短縮後においては、CORP の係数は負の符号を持つものの係数の大きさ及び有意
性は低下し、企業出願人が特有の効果は認められない。共同出願ダミーは7年特許をサン
プルとした推定で有意な係数を得ている。民間企業・公的研究機関による共同出願
(CORP_GOV)及び民間企業・大学による共同出願(CORP_UNIV)の符号は、それぞれ GOV と
CORP の符号と等しい。よって、民間企業・公的研究機関による共同出願では公的機関が、
また、民間企業・大学による共同出願では企業が審査請求に関してイニシアチブを取ってい
たと示唆される。
第一出願人がその年に出願したバイオ特許数 PAT_SIZE は両期間で、有意に正に推定され
た。豊富な補完的資産を有する企業は、質の低い発明からでも事業化の利益を生み出すこ
とができるため、そのような発明までも特許化するインセンティブを持つ。そうした特許
は、最終的に審査請求に至らない、あるいは長期間にわたって審査請求が保留される可能
性が高いことを示している。最後に産業ダミーについて述べると、医薬品産業ダミーは有
意に推定されなかったものの、電気機械産業ダミーは有意に負の係数を持った。したがっ
て、技術や特許属性等の様々な要因をコントロールした上でも、審査請求までの期間が短
いことが示された。
-58-
表7: 推定結果(7年特許)
(1)
US
EP
(3)
0.114
(3.42)***
-0.532
(-17.85)***
-0.129
(-4.01)***
0.188
(5.58)***
-0.545
(-18.45)***
-0.078
(-2.53)**
PCT
審査請求期間7年 (4)
(5)
(2)
CLAIM
PAT_SCOPE
SCIENCE_RATIO
0.086
(0.64)
0.017
(0.33)
-0.113
(-0.95)
-0.743
(-17.83)***
0.081
(0.61)
-0.011
(-0.20)
-0.549
(-18.13)***
-0.119
(-3.64)***
0.154
(4.40)***
0.002
(1.53)
-0.108
(-0.92)
0.026
(0.48)
DCITING
CORP
0.163
(5.41)***
GOV
-0.945
(-21.98)***
UNIV
0.070
(1.26)
CORP_CORP
0.093
(1.87)*
CORP_GOV
-0.237
(-4.51)***
CORP_UNIV
0.156
(2.96)***
LISTED
0.226
(2.77)***
JBA
0.287
(4.98)***
PAT_SIZE
0.002
(5.04)***
Constant
8.150
(246.02)***
p
1.061
技術分類ダミー
YES
産業ダミー
YES
Observations
26297
Log Likelihood
-33610.57
注 : 下段括弧内はz 値。* は10%水準で有意;
0.139
0.167
0.139
(4.58)***
(5.54)***
(4.54)***
-0.961
-0.935
-0.928
(-22.13)***
(-21.72)***
(-21.28)***
0.055
0.061
0.025
(0.97)
(1.09)
(0.44)
0.064
0.099
0.070
(1.27)
(1.97)**
(1.40)
-0.246
-0.232
-0.261
(-4.63)***
(-4.40)***
(-4.94)***
0.142
0.163
0.140
(2.67)***
(3.09)***
(2.63)***
0.220
0.229
0.219
(2.68)***
(2.81)***
(2.64)***
0.291
0.279
0.275
(5.02)***
(4.84)***
(4.79)***
0.002
0.002
0.002
(4.93)***
(5.28)***
(5.64)***
8.135
8.142
8.149
(244.01)***
(245.98)***
(241.79)***
1.054
1.061
1.081
YES
YES
YES
YES
YES
YES
26297
26297
25323
-33875.02
-33594.49
-32195.88
** は5%水準で有意; *** は1%水準で有意。
-59-
-0.531
(-17.49)***
-0.094
(-2.85)***
0.137
(3.92)***
0.002
(1.55)
-0.118
(-1.00)
0.039
(0.72)
-0.009
(-6.50)***
0.142
(4.65)***
-0.935
(-21.42)***
0.023
(0.41)
0.074
(1.47)
-0.262
(-4.97)***
0.140
(2.64)***
0.216
(2.61)***
0.271
(4.71)***
0.002
(5.71)***
8.154
(242.02)***
1.081
YES
YES
25323
-32178.12
(6)
-0.335
(-15.92)***
-0.108
(-4.75)***
0.034
(1.47)
-0.001
(-0.74)
-0.030
(-0.35)
0.068
(1.79)*
-0.006
(-6.35)***
-0.040
(-1.57)
0.097
(1.85)*
0.168
(4.31)***
0.004
(9.56)***
8.094
(474.23)***
1.828
YES
YES
19753
-19268.63
(7)
0.001
(0.80)
-0.084
(-0.45)
-0.052
(-9.23)***
0.169
(4.41)***
-1.044
(-19.24)***
0.077
(1.05)
0.079
(1.26)
-0.364
(-5.75)***
0.141
(2.10)**
0.313
(3.06)***
0.296
(4.03)***
0.003
(4.78)***
8.205
(189.37)***
1.000
YES
YES
19708
-24719.09
表8: 推定結果(3年特許)
(1)
US
EP
(3)
-0.117
(-4.01)***
-0.242
(-5.87)***
-0.120
(-3.09)***
-0.119
(-4.03)***
-0.216
(-5.30)***
-0.148
(-3.83)***
PCT
審査請求期間3年 (4)
(5)
(2)
CLAIM
PAT_SCOPE
SCIENCE_RATIO
0.023
(0.20)
-0.102
(-1.68)*
0.014
(0.12)
-0.090
(-1.43)
-0.081
(-0.70)
-0.025
(-0.39)
-0.224
(-3.87)***
-0.246
(-4.01)***
-0.077
(-1.19)
0.001
(0.41)
-0.246
(-1.72)*
-0.052
(-0.48)
DCITING
CORP
0.051
(1.20)
GOV
-0.388
(-6.81)***
UNIV
-0.015
(-0.26)
CORP_CORP
0.031
(0.42)
CORP_GOV
-0.029
(-0.43)
CORP_UNIV
-0.013
(-0.22)
LISTED
0.157
(0.92)
JBA
-0.024
(-0.50)
PAT_SIZE
0.001
(2.39)**
Constant
6.962
(159.35)***
p
1.674
技術分類ダミー
YES
産業ダミー
YES
Observations
3457
Log Likelihood
-4264.43
注 : 下段括弧内はz 値。* は10%水準で有意;
0.033
0.052
0.035
(0.77)
(1.22)
(0.57)
-0.364
-0.374
-0.448
(-6.35)***
(-6.57)***
(-5.36)***
-0.003
-0.007
0.040
(-0.04)
(-0.12)
(0.46)
0.021
0.026
-0.013
(0.28)
(0.35)
(-0.12)
-0.021
-0.022
-0.117
(-0.31)
(-0.33)
(-1.20)
-0.022
-0.010
-0.042
(-0.35)
(-0.16)
(-0.47)
0.107
0.150
0.034
(0.62)
(0.88)
(0.13)
-0.010
-0.012
-0.007
(-0.20)
(-0.24)
(-0.09)
0.001
0.001
0.001
(1.39)
(1.61)
(2.27)**
6.989
6.989
7.043
(157.01)***
(158.09)***
(108.53)***
1.666
1.675
1.632
YES
YES
YES
YES
YES
YES
3457
3457
1989
-4292.57
-4256.44
-2412.14
** は5%水準で有意; *** は1%水準で有意。
-60-
-0.217
(-3.72)***
-0.223
(-3.55)***
-0.085
(-1.32)
0.001
(0.55)
-0.236
(-1.65)*
-0.050
(-0.46)
-0.152
(-2.32)**
0.035
(0.56)
-0.453
(-5.42)***
0.042
(0.48)
-0.019
(-0.18)
-0.118
(-1.21)
-0.041
(-0.45)
0.039
(0.15)
-0.007
(-0.10)
0.001
(2.40)**
7.041
(108.50)***
1.632
YES
YES
1989
-2409.73
(6)
(7)
-0.139
(-2.57)**
-0.198
(-3.50)***
-0.094
(-1.60)
-0.000
(-0.30)
0.054
(0.11)
-0.024
(-0.22)
-0.161
(-2.98)***
0.035
(0.50)
0.000
(0.23)
0.129
(0.41)
-0.035
(-0.50)
-0.018
(-0.09)
0.043
(0.62)
0.003
(4.35)***
7.038
(86.80)***
2.133
YES
YES
1316
-1315.43
-0.166
(-0.48)
0.032
(0.48)
-0.453
(-5.01)***
0.089
(0.95)
-0.028
(-0.25)
-0.151
(-1.44)
-0.046
(-0.45)
-0.021
(-0.07)
-0.047
(-0.58)
0.001
(1.69)*
7.003
(100.28)***
1.690
YES
YES
1563
-1814.70
(5)おわりに
本研究では、1991 年から 2002 年にかけて日本に優先権を有するバイオ特許を用いて、
審査請求行動に関する決定要因を分析した。具体的には、出願日から審査請求日までの経
過期間を従属変数としたハザード・モデルを推定し、以下の結果を得た。まず、同一発明
の外国出願が、国内特許に関する審査請求までの期間を短縮する効果を確認した。一方、
請求項数や特許技術の範囲が出願人の主観的価値を反映していると推測し、経過期間との
相関をみたが、両者の間に明確な関係は得られなかった。ただし、前方引用件数を基に作
成した(客観的)価値指標が経過期間に対して説明力を持った。これらの結果から判断す
ると、特許価値に不確実性が小さく、価値が高いとみなされる特許ほど早期に審査請求さ
れると結論付けて良いだろう。また、出願人のタイプが経過期間に与える影響を推定した
ところ、審査請求期間短縮以前は、出願人が民間企業であることが経過期間を延長させる
効果を持ったが、制度改正後はそうした効果は認められなかった。大学や公的研究機関と
いった公的部門については、近年のプロパテント政策と審査請求行動との関連性を探った
が、特に影響は認められなかった。また、上場企業や出願数の多い出願人ほど審査請求ま
での経過期間が長いことが示された。これは、豊富に補完的資産を有する企業ほど、質の
低い発明からでも事業化の利益を生み出すことができるため、経済的価値の不確実が発明
までも特許化するインセンティブを持つことと関連がある。つまり、それらの出願人は、
審査請求期間を特許ポートフォリオの最適化を行う期間として利用していると示唆される。
(中村
-61-
健太、小田切
宏之)
参考文献
1.Nakamura, K., Okada, Y., and Tohei, A. (2006) “Does the Public Sector Make a
Significant Contribution to Biomedical Research in Japan? A Detailed Analysis of
Government and University Patenting, 1991-2002”, CPDP25-E, Competition Policy
Research Center (CPRC).
2.Pakes, A. (1986) “Patents as Options: Some Estimates of the Value of Holding
European Patent Stocks,” Econometrica, 54, 755-784.
3.文部科学省 (2004) 『我が国の研究活動の実態に関する調査報告(平成 15 年度)』、文
部科学省.
4.大橋靖雄・浜田知久馬 (1995) 『生存時間解析-SAS による生物統計』、東京大学出版
会.
5 . Grambsch, P. M. and Therneau, T. (1994) “Proportional Hazards Tests and
Diagnostics Based on Weighted Residuals,” Biometrika, 81, 515–526.
6.玉田俊平太・児玉文雄・玄場公規 (2003) 「重点4技術分野におけるサイエンスリン
ケージの計測」、RIETI Discussion Paper Series 03-J-016.
7.Jaffe, A. B. and Lerner, J. (2001) “Reinventing Public R&D: Patent Policy and
the Commercialization of National Laboratory Technologies,” RAND Journal of
Economics 32, 167-198.
8.Hall, B. H., Jaffe, A. B. and Trajtenberg, M. (2002) “The NBER Patent-Citation
Data File: Lessons, Insights, and Methodological Tools,” in A. B. Jaffe and M.
Trajtenberg eds., Patents, Citations & Innovations: A Window of the Knowledge Economy,
Cambridge, MA: MIT Press.
9.岡田羊祐・中村健太・藤平章 (2006) 「日本のバイオテクノロジー特許出願の動向分
析-民間部門と公的部門の競争と協調-」競争政策研究センター共同研究報告書 CR 06-06,
公正取引委員会競争政策研究センター.
-62-
補論1
出願人の名寄せ及び個人出願人の帰属について
ダウエントの出願人情報は英語標記であり、また誤記や表記ゆれなど不完全なものが散
見された。そこで、『IIP パテントデータベース』(財団法人知的財産研究所)及び特許電
子図書館を用いて出願人名を日本語化すると同時に正確な出願人情報を補完した。具体的
には、出願番号、公開番号や登録番号などをプライマリー・キーとしてダウエントと IIP パ
テントデータベースとのマッチングを行い、日本語標記による出願人名を得た後、名寄せ
作業を行った。英語出願人名と日本語出願人名が同一であると判断できる場合には、その
日本語標記の出願人名をそのまま採用することとした。ただし、出願時点と現在時点で名
称の異なる法人が数多く存在するので、出願時点での名称に統一して分類・整理した。さ
らに、出願人の数や名称などの対応関係が不完全な特許については、特許電子図書館を利
用して、公報ベースの出願人を確認して補完する作業を行った。
多くの国立研究機関(あるいは国立大学)は 2001 年まで(国立大学は 2004 年まで)法
人格を持たなかったため、出願人は所属機関長となるか、あるいは個人名による出願がほ
とんどであった。そこで、個人出願人の属性を明確に把握する必要があった。例えば、国
立研究機関の研究者によって生み出された特許は、その機関の研究を源泉としているもの
であり、いわゆる個人発明家による出願と同等に扱われるべきではない。そこで、個人出
願人の出願時点での所属機関が何であったかを、インターネット検索エンジン(Yahoo!及
び Google)を利用して、できる限り明らかにするように努めた。したがって、例えば、本
データ・セットにおける大学特許は、大学研究者の個人出願も含んでいる。
補論2
前方引用件数の正規化 28
本研究で用いた、前方引用件数の正規化の手法について述べる。特許1件ごとの価値は
大きく異なっており、また引用件数にはコーホート効果が伴う。そこで、Jaffe and Lerner
(2001)、あるいは Hall, Jaffe and Trajtenberg (2002)の手法に倣い、技術分野 k ( k =1,
2, …, K )の t 年( t =1, 2, …, T )における特許1件当たりの前方引用件数と、「参
照基準」となる引用件数との差を、ここでは「正規化された引用件数」
(平均ゼロ)と定義
する。変数の構成手法の詳細は下記のとおりである。
まず、特許 i が得た総引用件数を Ci と表記する(表記を簡潔にするために時間を表す
添字は省略)。また、技術分類 k に相当する特許の際には 1、それ以外の技術分野の場合
に は ゼ ロ を と る 変 数 f ik を 定 義 す る 。 こ れ よ り 、 特 許 i の 技 術 範 囲 を 表 す 代 理 変 数
( pat_scopei )を
28
P.62 参考文献9に挙げた岡田羊祐・中村健太・藤平章 (2006) の筆者執筆部より転載。
-63-
(1)
K
pat_scopei = ∑ f ik
k =1
と定義する。これは、各特許の技術特性を、関連する技術フラグの数の単純和で表したも
のである。この技術範囲の指標を利用して、技術分類 k における特許 i のウエイトを下
記のように定義する。
f ik
( 1 / K ≤ gik ≤ 1 )
pat_scopei
g ik =
これより、技術分野 k におけるウエイト付けされた引用件数を
nt
Ck = ∑ Cik gik
i
と定義する。ここで、 nt は t 年における総特許件数である。 t 年における総引用件数は、 t
年におけるすべての技術領域に関する引用件数 Ck の総計と一致する。
ほとんどのバイオ関連特許は複数の技術フラグを持つ。それゆえ、各技術分野の引用件
数の期待値を
Cke =
Ck
nt
∑ fik
i =1
と定義しよう。これより、各特許における期待引用件数を
K
(
Cie = ∑ f ik Cke
k =1
)
と定義できる。最後に、引用件数を正規化するために、実際の引用件数と期待引用件数の
差をとる。すなわち、
(2)
dciting i = C i − C ie
である。この正規化によって、技術特性による引用件数の差が調整される。また、この平
均値は各年共にゼロであるから、年次別の効果(コーホート効果)もこの指標には含まれ
ていない。ただし、標準偏差は大きく、回帰分析などを行う際には、不均一分散に注意す
る必要がある。
-64-
付表1:バイオ特許の推移(特許タイプ別)
出願年
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
合計
タイプ1
タイプ2
タイプ3
タイプ4
タイプ5
タイプ6
タイプ7
合計
1105
0
986
0
0
0
6
2097
52.7%
0.0%
47.0%
0.0%
0.0%
0.0%
0.3%
100.0%
1250
0
1118
0
0
0
5
2373
52.7%
0.0%
47.1%
0.0%
0.0%
0.0%
0.2%
100.0%
1375
0
988
0
0
0
7
2370
58.0%
0.0%
41.7%
0.0%
0.0%
0.0%
0.3%
100.0%
1341
0
906
0
0
0
10
2257
59.4%
0.0%
40.1%
0.0%
0.0%
0.0%
0.4%
100.0%
1352
0
820
0
0
0
11
2183
61.9%
0.0%
37.6%
0.0%
0.0%
0.0%
0.5%
100.0%
1309
0
872
0
0
0
18
2199
59.5%
0.0%
39.7%
0.0%
0.0%
0.0%
0.8%
100.0%
1381
0
799
0
0
0
15
2195
62.9%
0.0%
36.4%
0.0%
0.0%
0.0%
0.7%
100.0%
1394
0
822
0
0
0
9
2225
62.7%
0.0%
36.9%
0.0%
0.0%
0.0%
0.4%
100.0%
1549
0
905
0
30
0
19
2503
61.9%
0.0%
36.2%
0.0%
1.2%
0.0%
0.8%
100.0%
1176
0
1
0
1994
0
31
3202
36.7%
0.0%
0.0%
0.0%
62.3%
0.0%
1.0%
100.0%
1381
649
1
203
1950
0
13
3548
38.9%
18.3%
0.0%
5.7%
55.0%
0.0%
0.4%
100.0%
0
1694
0
510
0
0
2
2206
0.0%
76.8%
0.0%
23.1%
0.0%
0.0%
0.1%
100.0%
0
346
0
53
0
0
1
400
0.0%
86.5%
0.0%
13.3%
0.0%
0.0%
0.3%
100.0%
13964
2689
8218
766
3974
0
147
29758
46.9%
9.0%
27.6%
2.6%
13.4%
0.0%
0.5%
100.0%
-65-
補論3
技術取引先の決定要因としての能力格差と取引費用
(1)研究の目的
筆者らは、中村・小田切 (2004) 以降、技術取引における相手企業選択の問題に関して
実証的な考察を重ねてきた1。そこでは、潜在的な取引相手として国内企業と外国企業が存
在している状況を想定し、両者の間での選択問題に対して三つの要因(①日本と海外との
技術格差、②当該企業の受容能力、③取引費用)がいかなる効果を持つかを「知的財産活
動調査」の個票を用いて分析した。本稿は、同調査の平成 17 年版を分析対象とした継続研
究である。
(2)仮説
相手企業選択の問題は、企業の境界の問題と極めて関連が深い。そこで、中村・小田
切 (2004) では、企業の境界を説明する二つの主要な理論である「取引費用理論」と
「能力理論」を援用し本研究における仮説を設けた2。仮説 1 は取引費用理論、仮説 2、
仮説 3 は能力理論から導かれるものである。
仮説 1:特許による専有可能性が低い業種に属する企業は、外国企業ではなく国内企業
との技術取引(技術供与・技術導入)を選好する。
仮説 2:国内と比較して、海外の技術レベルが相対的に高い業種では、外国企業からの
技術導入が比率的に高い。一方、日本の技術レベルが相対的に高い業種では、
外国企業への技術供与が比率的に高い。
仮説 3:受容能力の高い企業は、外国企業からの技術導入が比率的に高い。
(3)実証分析の概要
(ⅰ)データ
前年度までと同様、
「知的財産活動調査」の個票を基本資料とする3。本年度の研究では、
同調査平成 17 年版から、「特許権又は実用新案権に関するライセンス収入・支出」を抽出
1
2
3
分析結果は、P.72 参考文献1、2、3で挙げた中村・小田切 (2004, 2005, 2006) として纏めてある。
議論の詳細は、中村・小田切 (2004) を参照されたい。
現時点で利用可能なデータは平成 14 年調査から平成 17 年調査までの 4 年分である。
-66-
し、クロスセクション分析に用いる4,5。また、以前の調査結果(平成 14 年~平成 16 年)
から同様のデータを入手し、併せてパネル分析も行う。
(ⅱ)サンプル
サンプルは製造業企業である。平成 15 年、平成 16 年、平成 17 年調査については、4 か
ら 25 の業種番号を回答している場合、製造業企業とみなした6。ただし、申請者氏名から
明らかに企業ではないと判断できるものについては、サンプルから除外した。また、平成
14 年調査については、以下の処理を施した。まず、「知的財産活動調査」の発送名簿から
企業を抽出した7。企業でかつ 4 から 25 の業種番号を回答している場合、当該企業を製造
業企業とみなした。ただし、複数の業種を回答している企業については次の処理を施した。
複数回答の中に平成 15 年、平成 16 年調査の業種番号と同じものが含まれている場合、そ
の業種番号を 14 年調査の業種とした。一致する番号が得られない場合は、サンプルから除
外した。なお、両年と一致し、かつ平成 15 年調査と 16 年調査の業種番号が異なる場合は、
平成 15 年調査を優先した。
(ⅲ)従属変数
技術供与、技術導入に占める対外国企業取引の割合を従属変数とする。すなわち従属変
数は以下のように定義される。
z
海外供与比率 = 対外国企業のライセンス収入 / 全ライセンス収入
z
海外導入比率 = 対外国企業のライセンス支出 / 全ライセンス支出
ここで、ライセンス収支は、特許権又は実用新案権の有償実施許諾契約に関するライセン
ス総額である。また、これらの変数は、グループ内外の別に応じて定義される。
4
平成 17 年版は、平成 16 年度実績のデータである。
調査項目の変更のため、特許権件数データ(中村・小田切, 2004; 2005)や契約件数データ(中村・小田切, 2006)
を利用することはできなかった。
6 業種番号については、http://www.jpo.go.jp/shiryou/toukei/h17_tizai_katudou.htm(平成 17 年度知的財産活動調
査結果(特許庁))を参照。
7 発送名簿で個人に分類されている回答の中に株式会社が 2 社含まれていたが、これらは分析対象外とした。
5
-67-
(ⅳ)技術取引実施状況
表 1 は海外供与比率、導入比率の集計値を示したものである。これによれば、以前の分
析と同様に一部の企業が活発に対外取引を実施している状況が見て取れる。グループ外取
引を例にとれば、対外国企業取引を行っている企業は、全サンプルの 50%に満たないが、
それら企業の海外供与比率、海外導入比率はおよそ 70%に達する。なお、表 2 は 4 年分の
データをプールした非バランス・パネルについて海外供与比率、導入比率の統計量を示し
たものである。
表1
変数名
技術取引実施状況(17 年調査)
全サンプル
グループ内
定義
海外供与比率
外国企業へのライセンスによる収入/全ラ
イセンス収入
海外導入比率
外国企業からのライセンスへの支出/全ラ
イセンス支出
or 外
内
外
合計
企業数
142
平均
0.521
標準偏差
0.475
正値をとるサンプル
最小値
0
最大値
1
企業数
87
194
224
平均
0.850
0.672
0.689
標準偏差
0.295
0.345
0.336
最小値
0.018
0.013
0.006
最大値
1
450
484
0.290
0.319
0.402
0.413
0
0
1
1
1
1
内
89
0.217
0.402
0
1
22
0.879
0.261
0.190
1
外
合計
509
558
0.346
0.328
0.424
0.417
0
0
1
1
245
258
0.719
0.709
0.323
0.326
0.001
0.001
1
1
注 : 「全サンプル」は、それぞれの項目において対外国企業+対国内企業の金額が正の企業。「正値をとるサンプル」は海外技術供与、導入比率が正、すなわち対外国企業の金額が正の企業。
表2
変数名
海外供与比率
海外導入比率
定義
外国企業へのライセンスによる収入/全ラ
イセンス収入
外国企業からのライセンスへの支出/全ラ
イセンス支出
技術取引実施状況(4 年分パネル)
全サンプル
グループ内
or 外
企業数
平均
標準偏差
正値をとるサンプル
最小値
最大値
企業数
平均
標準偏差
最小値
最大値
内
外
579
1720
0.496
0.274
0.473
0.395
0
0
1
1
326
716
0.881
0.659
0.241
0.349
0.006
0.001
1
1
合計
1911
0.305
0.411
0
1
834
0.698
0.336
0.001
1
内
外
410
1941
0.254
0.332
0.419
0.420
0
0
1
1
120
908
0.867
0.709
0.260
0.332
0.025
0.001
1
1
合計
1891
0.326
0.416
0
1
880
0.700
0.331
0.001
1
注 : 「全サンプル」は、それぞれの項目において対外国企業+対国内企業の金額が正の企業。「正値をとるサンプル」は海外技術供与、導入比率が正、すなわち対外国企業の金額が正の企業。
-68-
(ⅴ)説明変数
説明変数は、企業の受容能力、あるいはより広い意味での企業の能力を表す変数として
RDS(研究開発集約度=研究開発費/売上高)と LNSALES(売上高対数値)、海外との相対的
な技術格差を表す変数として、RDSGAP8(日米の研究開発集約度で測った業種別の技術格差
指標)、また取引費用に関連した変数として APPRO9(特許によるイノベーションの専有可
能性)を用いる。このうち RDSGAP および APPRO については当該企業の属する業種の値を用
いている。さらに PC は、当該企業が親会社を持つ場合に 1、SUB は当該企業が子会社を持
つ場合に 1 の値をとるダミー変数である。これら親会社あるいは子会社が国内企業か海外
企業かは不明であることに注意されたい。各変数の定義及び記述統計量は表 3、相関係数
は表 4 に示した。
表3
説明変数の記述統計量
変数
変数名
定義
企業数
平均
標準偏差
最小値
R&D集約度
RDS
研究費/売上高
2704
0.040
0.046
規模
技術格差(R&D集約度)
LNSALES
RDSGAP
売上高の自然対数値
米国のR&D集約度/日本のR&D集約度
2704
2602
10.303
0.924
1.920
0.383
0.742
0.206
17.695
2.038
0.203
0.615
0
最大値
0.485
専有可能性
APPRO
特許による専有可能性
2704
0.339
0.075
親会社ダミー
PC
親会社あり=1
2648
0.308
0.462
0
1
子会社ダミー
SUB
子会社あり=1
2657
0.778
0.416
0
1
注 : サンプルは4年間プールした金額データにおいて技術取引を行っていると認められる企業。すなわち表3のうち少なくとも1つの項目において「全サンプル」に含
まれる企業の集合。ただし、RDSが0未満、0.5以上の企業は除いた。
表4
変数
変数名
R&D集約度
RDS
相関マトリクス
RDS
LNSALES
RDSGAP
APPRO
1
0.092
1
PC
SUB
1
規模
LNSALES
-0.061
1.000
技術格差(R&D集約度)
専有可能性
RDSGAP
APPRO
0.131
0.288
-0.087
-0.108
親会社ダミー
PC
-0.059
-0.003
0.075
-0.043
子会社ダミー
SUB
0.010
0.519
-0.030
-0.090
1
-0.098
1
注 : サンプルは4年間プールしたデータから技術取引を行っていると認められ、かつ全ての説明変数が定義可能な企業、2514社。
8
RDSGAP ( = 米国の研究開発集約度 / 日本の研究開発集約度) は以下のデータを用いた産業変数である。日本の研究
開発費、売上高データは総務省の「科学技術研究調査報告」、米国データは NSF(National Science Foundation;国立科
学財団)の「Research and Development in Industry」による。両データとも、「知的財産活動調査」よりも一期前の値
を入手した。なお、
「Research and Development in Industry」は、NAICS(North American Industry Classification System;
北米産業分類システム)ベースなので、「知的財産活動調査」の産業分類への変換を行っている。
9 専有可能性データは P.72 参考文献4に挙げた後藤・永田(1996)のサーベイによる。ただし、本分析での専有可能性は
製品イノベーションに関する専有可能性と工程イノベーションに関する専有可能性の加重平均値である。ウエイトは、
研究開発費の目的別支出構成を用いている(後藤・永田(1996)から入手)。なお、同データは ISIC(International Standard
Industrial Classification;国際標準産業分類)ベースなので、「知的財産活動調査」の産業分類への変換を行ってい
る。
-69-
(ⅵ)推定方法
推計方法は、0 と 1 でセンサーした両側 Tobit model である。ただし、4 年間のプール
ド・データ(pooled data)については、変量効果両側 Tobit model を用いる。
(4)推定結果
推定結果は表 5 に示した。[1]から[4]式は平成 17 年版調査を用いたクロスセクショ
ン推定、
[5]から[8]式は 4 年間のデータを用いたパネル推定である。グループ内取引に
関する推定では(特に[1]、
[3]、[7]式)、十分な数のサンプルが確保できないため、モデ
ルの当てはまりが良くない。また、グループ内の取引は、企業内取引に準ずるものであり
(Nakamura and Odagiri, 2005)10、本研究の仮説とは異なったメカニズムで取引先企業
が決定されている可能性があり、結果の解釈には注意を要する。そこで以下では、グルー
プ外取引の結果を中心に各変数の効果を議論する。
受容能力の代理変数 RDS(研究開発集約度)は、[4]、[8]式で RDS の係数は、有意に正
の値を示しており、外国企業が保有する特許の中から必要な技術をサーチし導入するため
には高い受容能力が要求されるとした仮説 3 と整合的である。また、[2]、
[6]式において
も、RDS の係数は有意に正であり、研究開発集約的な企業ほど海外供与比率が高いことが
分かる。これは、そうした企業ほど、モニタリング能力が高いため、比較的モニタリング
が困難だと考えられる外国企業への技術供与が可能になるという関係を示唆している。
規模の変数 LNSALE も広義の能力を表す指標として理解できる。係数は有意に正であり、
大企業ほど技術供与・導入ともに外国企業と取引する比率が高い。RDS と LNSALE はグルー
プ内取引においても有意な結果を得ている([5]、[7]式)。確かに、グループ内企業と雖
も海外企業との取引が受容能力やモニタリング能力を必要とするかもしれない。ただし、
単に規模が大きく、研究開発集約的な企業ほどグループ企業を広く海外に展開させている
という関係を捉えている可能性も否定できない。
技術格差の変数 RDSGAP は、外国の技術レベルが相対的に高い場合、大きな値をとる変数
である。したがって仮説 2 より導かれる符号条件は、技術供与に対して負、技術導入では
正である。[4]及び[8]式で、RDSGAP は統計的に有意な係数を得た。また、技術供与につい
ても、非有意ながら係数の符号は負を示しており、海外技術の相対的レベルが取引相手の
決定に及ぼす効果が示唆される。
APPRO の係数は海外供与比率([2]、[6]式)、導入比率(
[8]式)に対して有意に正の
値を示しており、専有可能性が取引費用を低下させる効果が観察される。仮説 1 で示した
10
P.72 参考文献5参照。
-70-
ように、特許による専有可能性が低い業種では、海外企業との取引費用が相対的に高くな
り、その結果、モニタリングが容易な国内企業を技術取引相手に選択する傾向があると示
唆される。一方、グループ内の技術取引([5]、[7]式)では専有可能性の効果は有意に推
定されておらず、相手企業の立地と取引費用との関係は見いだせない。
最後に、親会社ダミーPC、子会社ダミーSUB について触れておこう。親会社ダミーPC は
グループ内導入については、パネル推定([7]式)で有意な結果を得た。これは、親会社
を持つ企業、すなわち自ら子会社である企業は国内親会社あるいはグループ内研究開発専
門企業からの技術導入が多くなることを示唆している。一方、グループ外導入については、
[8]式で PC の係数は有意に正で推定された。この結果の解釈は難しいが、親会社を有す
る企業ほど、国内で獲得可能な技術の大部分をグループ内から導入するため、結果的に海
外導入比率が上昇した可能性がある。同じく[8]式で、子会社ダミーSUB の係数は有意に
正の値を示した。子会社を有する企業、すなわち親会社ほどグループ外企業からの導入時
に外国企業が取引相手になる可能性が高い。グループ外から技術を導入する場合、相手企
業が外国企業であれば親会社が一元的に契約を行い、導入された技術をグループ内で共有
するといった関係が示唆される。
表5
推定結果
平成17年データ
RDS
LNSALES
RDSGAP
APPRO
PC
SUB
Constant
Sigma
2
パネル推定
[1]
[2]
[3]
[4]
[5]
[6]
[7]
供与
供与
導入
導入
供与
供与
導入
[8]
導入
グループ
非グループ
グループ
非グループ
グループ
非グループ
グループ
非グループ
-2.820
2.177
11.130
3.189
3.428
1.080
15.640
1.716
(-0.58)
(1.85)*
(0.93)
(2.30)**
(2.24)**
(2.15)**
(1.87)*
(3.45)***
-0.150
0.123
0.334
0.195
0.132
0.103
0.606
0.145
(-1.10)
(3.20)***
(0.77)
(5.17)***
(3.76)***
(6.17)***
(2.60)***
(8.43)***
-0.438
-0.083
1.605
0.279
-0.093
-0.068
0.748
0.122
(-0.93)
(-0.55)
(0.86)
(2.09)**
(-0.68)
(-1.06)
(0.95)
(2.20)**
4.944
2.102
8.258
0.948
0.077
1.277
7.184
1.102
(2.01)**
(2.92)***
(0.88)
(1.29)
(0.09)
(3.60)***
(1.56)
(3.02)***
-0.262
-0.133
-3.286
0.051
0.006
-0.089
-2.503
0.127
(-0.48)
(-0.94)
(-1.44)
(0.38)
(0.04)
(-1.51)
(-3.17)***
(2.34)**
1.786
0.394
-2.822
0.297
-0.016
0.005
-1.069
0.142
(1.83)*
(1.45)
(-0.96)
(1.37)
(-0.08)
(0.06)
(-1.20)
(2.04)**
-0.301
-2.563
-7.812
-3.121
(-0.20)
(-4.82)***
(-1.10)
(-6.08)***
3.436
1.027
23.416
1.060
(2.86)***
(6.25)***
(1.05)
(7.10)***
Sigma_u
Sigma_e
0.895
0.719
0.102
0.747
(15.90)***
(27.79)***
(4.07)***
(31.02)***
0.619
0.430
4.152
0.397
(10.17)***
(21.69)***
(5.11)***
(23.08)***
Rho
0.676
0.737
0.001
0.779
Year dummies
Yes
Yes
Yes
Yes
500
1465
343
1682
308
796
266
971
Observations
126
381
72
440
Number of groups
Log Likelihood
-129.45
-350.65
-45.62
-421.05
-492.38
-1174.26
-242.49
-1377.21
Wald chi2 ( 6 or 9 )
7.40
48.29
2.96
58.06
33.53
67.91
16.53
139.59
注 : 下段括弧内はz 値。ただし[1]から[6]式については、不均一分散に対して頑健な値。* は10%水準で有意; ** は5%水準で有意; *** は1%水準で有意。
-71-
(5)おわりに
本稿では、4 年分の「知的財産活動調査」をパネル化し、中村・小田切 (2004) の再検
討を行った。実証結果は概ね仮説を支持しており、以前の研究結果と整合的である。すな
わち以下の結果を得た。第一に、特許による専有可能性が低い業種に属する企業ほど、外
国企業ではなく、モニタリングが容易な国内企業との技術取引(技術供与・導入)を選好
する。これは、取引費用の議論と整合的である。第二に、国内の技術レベルに比べて海外
の技術レベルが相対的に高い産業ほど、外国企業からの技術導入が比率的に高いと(仮説
2)。第三に、受容能力の高い企業ほど外国企業からの技術導入が比率的に高い(仮説 3)
。
ここから、外国企業からの技術導入ほど高度な受容能力を要するという関係が示唆される。
(中村
健太、小田切
宏之)
参考文献
1.中村健太・小田切宏之 (2004) 「技術取引先の決定因としての能力格差と取引費用」
、
『特許統計データの経済学的分析に関する調査研究報告書』、知的財産研究所、83-102.
2.中村健太・小田切宏之 (2005) 「特許生産関数の推定と企業間比較」、『特許統計の利
用促進に関する調査研究報告書』、知的財産研究所、84-109.
3.中村健太・小田切宏之 (2006) 「企業のライセンス行動に関する研究 -バーゲニング・
モデルの実証分析-」
、『「アンチコモンズの悲劇』に関する諸問題の分析報告書』、知的財
産研究所、101-125.
4.後藤晃・永田晃也 (1996) 「サーベイデータによるイノベーション・プロセスの研究」
、
科学技術政策研究所「専有可能性と技術機会」ワークショップ報告論文.
5.Nakamura, Kenta and Odagiri, Hiroyuki (2005) “R&D Boundaries of the Firm: An
Estimation of Double-Hurdle Model on Commissioned R&D, Joint R&D, and Licensing in
Japan,” Economics of Innovation and New Technology, 14(7), 583-615.
-72-
補論4
企業のライセンス行動に関する研究
-バーゲニング・モデルの実証分析-
(1)研究の目的
特許が技術革新を阻害する可能性、すなわち「特許の藪」や「アンチコモンズの悲劇」
といった問題が危惧されている。とりわけ、ライセンサーとライセンシーの利害が一致し
ない場合において、
「アンチコモンズの悲劇」の克服がより困難であると懸念される。例え
ば、ラインセンサーが研究開発専業的な企業の場合、ライセンス契約の合意は難しい可能
性がある。専業企業は専ら研究開発のサプライヤーであり、ユーザーではない。したがっ
て、クロスライセンスやパテントプールの有効性は低い1。また、専業企業は唯一の製品が
技術なので、潜在的なライセンシーに対して高額のライセンス価格を提示し、結果的に交
渉が決裂する可能性も想定される。こうした問題意識から筆者らは、中村・小田切 (2006)
において研究開発専業的な企業がライセンス交渉においてバーゲニング・パワー(交渉力)
を行使しているのかを実証的に検討した2。本稿は、
「知的財産活動調査」の平成 17 年版を
分析対象に加えた追試研究である。議論の詳細は前稿を参照されたい。
(2)ライセンス価格の決定要因に関する理論的背景
特許権者(ライセンサー)がライセンス契約を受け入れる条件は、ライセンス価格が第
三者に実施許諾を与えることに対する機会費用と当該特許に係る研究開発費の合計と等し
いか、それよりも高い場合である。同様に、ライセンシー側の条件は、ライセンス価格が
迂回発明に要する研究開発費以下の場合である。こうした条件の下、両者が Nash 交渉を行
うと、ライセンス価格 p は、ライセンサーの研究開発投資 c、機会費用 VS、ライセンサー
の交渉力θ及びライセンシーが迂回発明に要する研究開発費 VB の増加関数として決定され
る。以下の実相分析では、各要素に対応する代理変数を定義し、ライセンス価格への効果
を見る。
(3)データとサンプル
特許庁の承認統計である「知的財産活動調査」
(以下、知財調査)の個票をプールして用
いる。現時点で利用可能なデータは平成 14 年調査から 17 年調査の 4 年分である。分析対
象は、知財調査において特許権又は実用新案権に関する有償実施許諾契約を締結している
1
2
研究開発専業企業とパテントプールの関係については、P.80 参考文献1に挙げた Aoki and Nagaoka (2004) を参照。
分析結果は、P.80 参考文献2に挙げた中村・小田切 (2006) として纏めてある。
-73-
ことが確認できる個人、法人、公的機関である。そのうち、次項で定義する従属変数が得
られたものをサンプルとした。
(4)従属変数
従属変数はライセンス価格である。本来、価格は個々の契約内容に依存するが、知財調
査は企業ごとの集計データであり、契約ベースのデータは得られない。そこで、
「有償ライ
センスに係る収入の総額」を「有償で他社への実施許諾を与えている権利の総数」で割っ
たものを「特許1件当たりの平均的なライセンス価格」とみなす。ここで分子のライセン
ス収入は、①対日本企業で、かつ②特許権及び実用新案権に関するものの合計額とする3。
また分母の実施許諾権利数は、国内特許に限定する。
特許一件の価値は業種によって大きく異なる。ライセンス価格に対して業種あるいは技
術分野固有の影響が疑われる場合、業種平均からの乖離を従属変数に用いることによって
業種間の差異を正規化するといった方法が有効である。具体的には次式のとおりである。
従属変数 = log(ライセンス収入 / 有償実施許諾権数)
− log(ライセンス収入 / 有償実施許諾権数)の業種平均
本稿の回帰分析では、①平均ライセンス価格の対数値(PRICE、PRICE2)と、②PRICE2 か
ら業種平均を用いて正規化した DPRICE のそれぞれ従属変数に用いる4。
(5)説明変数と仮説
従属変数及び各説明変数の定義、記述統計量は表 1、相関係数は表 2 に示す。
(ⅰ)ライセンサーの研究開発投資 c
c はライセンス対象特許一件の開発に要した研究開発費である。そこで、平均的な c は、
研究開発費をその年に生み出された特許の数で割った値として定義できる。本研究では、
研究開発費をその年の国内特許出願件数で割った値 RDA を平均的な c の代理変数とする。
3
ライセンス収入を対グループ外日本企業に限った分析も行う。なお、分子に実用新案権を含むのはデータの制約によ
るが、実用新案権に関するライセンス収入(平成 15 年調査、対日本企業)は特許権によるライセンス収入の 40 分の 1
程度であり、その影響は極めて小さい。
4 PRICE2 はライセンス収入を対グループ外日本企業に限ったもの。
-74-
(ⅱ)機会費用 VS
VS はライセンサーが第三者に実施許諾を与えることに係る機会費用である。これは、ラ
イセンサーが製品市場で当該特許を実施した場合の独占利潤の大きさに依存する。補完的
資産が豊富であれば、発明が商業化に結びつく可能性は高い。ゆえに、ライセンス・アウ
トによる機会費用も大きくなると考えられる。そこで、売上高の対数値 LNSALES を補完的
資産の代理変数とみなし、正の効果を期待する。
ただし、補完的資産が当該企業の平均的なライセンス価格を低下させる可能性もある。
豊富な補完的資産を有する企業は、質の低い発明からでも事業化の利益を生み出すことが
できるため、そのような発明までも特許化するインセンティブを持ち、結果的に平均的な
特許価値を低下させる可能性がある。また、ライセンサーが垂直統合企業の場合、技術供
与によってライセンシーが事後的な競合相手になることを避けるインセンティブを持つ。
補完的資産を多く有する企業ほど、競争の激化によるレント消失効果が大きいとすれば、
そのような企業はライセンスに対して消極的になる5。あるいは、あまり重要でない発明の
みライセンスすることも考えられる6。したがって、これらの効果が優越する場合、LNSALES
の符号は負を示す。
(ⅲ)迂回発明に要する研究開発費 VB
迂回発明の費用の代理変数として特許の専有可能性を用いる7。専有可能性のデータは後
藤・永田 (1996) 8のサーベイから入手可能である。変数名は APPRO とする9。専有可能性
は迂回発明の費用と正の相関を持つと考えられるので、APPRO の符号は正が期待される。
なお、同データは非製造業をカバーしていないため、APPRO を用いた推定は、サンプルを
製造業企業に限る。
(ⅳ)ライセンサーの交渉力θ
ライセンサーの交渉力を決める要因として市場構造と、研究開発専業企業的な特性を考
5
P.80 参考文献3に挙げた Arora and Fosfuri (2003)を参照。
P.80 参考文献4、5に挙げた Gallini (1984)、Katz and Shapiro (1985)を参照。
7 勿論、ライセンシーの技術能力も迂回発明の費用との関連性が強い。ただし我々が分析に用いているデータは、ライ
センサー側からライセンス情報を捕捉したものであり、ライセンサーとライセンシーがセットになった情報ではないた
め、ライセンシーの技術能力を考慮した分析は不可能である。
8 P.80 参考文献6参照。
9 APPRO は製品イノベーションに関する専有可能性と工程イノベーションに関する専有可能性の加重平均値である。
ウエ
イトは、研究開発費の目的別支出構成を用いている(後藤・永田(1996)から入手)。なお、同データは ISIC(International
Standard Industrial Classification;国際標準産業分類)ベースなので、「知的財産活動調査」の産業分類への変換を
行っている。
6
-75-
える。
① 市場構造の変数
ライセンサーが独占状態で、ライセンシーが競争的であれば、ライセンサーの交渉力は
大きくなると推測される。そこで、ライセンサーとライセンシーが同一業種に属すると仮
定し、技術市場の競争状況を表す代理変数(PSHARE、PHHI)を使用する。同様に、製品市
場の競争状況を表す代理変数として SHHI を用いる。なお、係数の符号は、PSHARE、PHHI
で正、SHHI で負が期待される。
② 研究開発専業企業的な特性
研究開発専業企業の台頭がアンチコモンズの悲劇をより深刻なものにするという仮説の
論拠として、それらの企業は他社権利の実施許諾を受ける必要がないため、アグレッシブ
なライセンス交渉が可能だという指摘がある。技術のサプライヤーへのコミットメントの
程度を表す代理変数として FV_RATIO、LICENSE_IN を用いて仮説の検証を行う。
しかし、専業企業は補完的資産を持たないため、自らイノベーションを商業化すること
ができないため、研究開発投資が回収できる水準であれば、安価であっても実施許諾を与
える可能性がある。つまり、専業企業が高い交渉力を持つためには、技術のサプライヤー
にコミットしていることだけでは不十分であり、それに加えて保有技術の希少性などライ
センシーに対して交渉力を行使できるような要因が必要だと推測される。この関係は、次
に定義する 2 変数(FV_RATIO、LICENSE_IN)と市場の競争状況を表す変数(PSHARE、PHHI、
SHHI)との交叉項を用いることによって検証する。
③ 有償ライセンス比率(FV_RATIO)
定義は、国内権利の他社への実施許諾件数に占める、有償での実施許諾件数である。他
社権利の実施許諾を受ける必要がない企業は、クロスライセンスに応じるインセンティブ
を持たないため、有償ライセンス比率が高いと推測される。したがって予想される係数の
符号は、正である。
④ 技術導入比率(LICENSE_IN)
定義は、ライセンス支出(対国内グループ外企業)を売上高で割ったものであり、研究
開発専業的な企業において小さな値を示すと考えられる。ライセンス支出が大きい企業ほ
ど、他社の報復的な価格設定によって被る損害は大きい。したがって、そのような企業は、
高額なライセンス価格を設定するインセンティブを持たないだろう。ゆえに、LICENSE_IN
の係数は負の符号が予測される。
-76-
表1
変数名
従属変数
PRICE
従属変数・説明変数の記述統計量
説明
定義
企業数
平均
標準偏差
最小値
最大値
平均ライセンス価格
(有償ライセンス収入/有償実施許諾権利数)の
自然対数値
1137
1.161
2.345
-5.809
9.080
1042
1.054
2.370
-5.809
9.080
従属変数
PRICE2
平均ライセンス価格(グループ外)
(有償ライセンス収入(グループ外)/有償実施
許諾権利数)の自然対数値
従属変数
DPRICE
平均ライセンス価格(正規化あり)
PRICE2-PRICE2の業種平均
1042
0.004
2.020
-7.022
7.008
説明変数
RDA
特許あたりの平均的研究開発投資額
研究開発費/国内特許出願件数
1137
50.685
138.859
0
2608.889
説明変数
LNSALES
機会費用(補完的資産)の大きさ
売上高の自然対数値
1137
10.896
2.398
0.742
17.695
説明変数
APPRO
迂回発明の費用
特許による専有可能性(後藤・永田, 1996)
887
0.341
0.082
0.203
0.615
説明変数
PHHI
ライセンサー側の市場構造
業種内国内特許ハーフィンダール指数
1137
0.108
0.111
0.028
0.993
説明変数
PSHARE
ライセンサー側の市場構造
業種内国内保有特許シェア
1137
0.031
0.065
0.000
0.614
説明変数
SHHI
ライセンシー側の市場構造
ハーフィンダール指数
1137
0.085
0.077
0.024
0.673
有償ライセンス比率
有償での実施許諾件数/国内権利の他社への
実施許諾件数
1137
0.670
0.564
0.000
10.500
ライセンス支出(対国内グループ外企業)/売
上高
1137
0.003
0.031
0
0.917
説明変数
FV_RATIO
説明変数
LICENSE_IN
技術導入比率
説明変数
FV_RATIO*PHHI
交叉項
1137
0.072
0.113
0.000
2.016
説明変数
FV_RATIO*SHHI
交叉項
1137
0.058
0.085
0.000
1.040
表2
PRICE
PRICE2
DPRICE
相関マトリクス
RDA
LNSALES
PRICE
平均ライセンス価格
1.000
PRICE2
平均ライセンス価格(グループ外)
0.969
1.000
DPRICE
平均ライセンス価格(正規化あり)
0.849
0.881
1.000
RDA
特許あたりの平均的研究開発投資額
0.064
0.075
-0.001
1.000
LNSALES
機会費用(補完的資産)の大きさ
-0.094
-0.138
-0.108
0.087
1.000
APPRO
迂回発明の費用
0.172
0.184
0.010
0.306
-0.137
APPRO
PHHI
PSHARE
SHHI
FV_RATIO
LICENSE_IN FV_RATIO*PHHI
FV_RATIO*SHHI
1.000
PHHI
ライセンサー側の市場構造
-0.046
-0.053
-0.014
-0.096
0.050
-0.025
1.000
PSHARE
ライセンサー側の市場構造
-0.054
-0.087
-0.060
-0.019
0.435
-0.021
0.288
1.000
SHHI
ライセンシー側の市場構造
-0.052
-0.061
0.001
-0.027
0.174
-0.169
0.562
0.177
1.000
FV_RATIO
有償ライセンス比率
-0.361
-0.356
-0.260
0.011
-0.012
0.024
0.057
0.160
0.055
1.000
LICENSE_IN
技術導入比率
0.060
0.064
0.075
-0.026
-0.218
0.013
-0.056
-0.034
-0.042
0.033
1.000
FV_RATIO*PHHI
交叉項
-0.251
-0.250
-0.188
-0.045
0.035
-0.014
0.550
0.305
0.323
0.758
-0.022
1.000
FV_RATIO*SHHI
交叉項
-0.252
-0.255
-0.146
-0.015
0.125
-0.124
0.393
0.206
0.732
0.586
-0.016
0.659
1.000
n=816
(6)推定結果
前年度研究とほぼ整合的な結果が得られた。表 3 の[1]、[2]式は PRICE を従属変数と
した回帰式、
[3]から[6]式は PRICE2、
[7]式は DPRICE を従属変数としたものである10。
10
[7]式の説明変数 DRDA、DLNSALES、DFV_RATIO、DLICENSE_IN は、DPRICE と同様の方法で正規化を行っている。
-77-
ライセンサーの研究開発投資 c に対応する変数 RDA の変数は[1]、[2]式で有意に正を
示しており、仮説と整合的である。すなわち、特許 1 件当たりの研究開発費が大きいほど、
ライセンス価格は高くなる傾向にある。ただし、産業変数である APPRO を追加した[3]式以
降、及び業種平均で正規化した[7]式では RDA、DRDA の z 値は有意水準に達していない。
このことから、RDA がライセンス価格に与える正の効果は、主として業種要因によるもの
だと理解できる。次に機会費用 VS について検討する。代理変数は売上高対数値 LNSALES で
ある。係数の符号はすべての回帰式で有意に負を示しており、大企業ほど平均的なライセ
ンス価格が低いことが分かる。この結果から、
「補完的資産が機会費用を介してライセンス
価格に与える正の効果」を、
「豊富な補完的資産が平均的なライセンス価格を低下させる負
の効果」が優越していることが分かる。迂回発明に要する研究開発費 VB の効果は、専有可
能性の変数 APPRO によって捕捉される。
[3]から[6]式では、有意に正の係数を得た。こ
のことから、専有可能性の高い業種、すなわち迂回発明の費用が大きい業種においてライ
センス価格が高いといえる。
次に交渉力θの代理変数に関して議論する。市場構造の変数は、PHHI、PSHARE、SHHI で
ある。これらの係数はいずれも有意には推定されず、ライセンサー、ライセンシーが直面
する競争状況が交渉力に与える効果は確認できなかった。研究開発専業企業的な特性、す
なわち技術のサプライヤーにコミットする程度を、FV_RATIO、LICENSE_IN で表し、その効
果を推定した。予想される符号は、FV_RATIO が正であり、LICENSE_IN が負であった。しか
し、FV_RATIO の係数は有意に負であり、有償ライセンスの割合が低く、クロスライセンス
やパテントプールの利用比率が高い企業が高額のライセンス価格を設定していることが分
かる。このことから、クロスライセンス等に利用可能な特許を多く保有する企業ほど、有
償ライセンスの対象となる特許においても平均的な価値が高いという関係が示唆される。
また、主として有償ライセンスに依存して実施許諾を行っている企業を研究開発専業的な
企業だと見なせば、特許の自社実施を行わない専業企業にとって、ライセンス収入はキャ
ッシュフローを確保する手段として極めて重要であり、交渉決裂による不効用も甚大であ
るがために、比較的安価なライセンス価格であっても契約を受け入れるインセンティブが
高いと理解できる。LICENCE_IN は正規化後の推定式[7]では、仮説通り負の符号を持った
が、有意な効果は認められない。
最後に市場構造の変数とコミットメントの変数との交叉項を眺めておこう。前節では、
ライセンサーの交渉力を高めるような市場構造の下で、ライセンサーが技術のサプライヤ
ーにコミットした場合、ライセンサーは交渉力を行使可能であるとした。したがって、
FV_RATIO と PHHI との交叉項であれば正、FV_RATIO と SHHI であれば負の係数を予測した。
しかし、交叉項の係数は符号条件も満たすものの有意性は低く、研究開発専業的な企業が
市場構造に起因する交渉力を背景にアグレッシブなライセンス行動をとるといった仮説は
支持されなかった。
-78-
表3
推定結果
[1]
[2]
[3]
[4]
[5]
[6]
PRICE
PRICE
PRICE2
PRICE2
PRICE2
PRICE2
RDA
0.001
0.001
0.001
0.001
0.001
0.001
(2.26)**
(2.28)**
(1.52)
(1.51)
(1.51)
(1.49)
LNSALES
-0.156
-0.162
-0.173
-0.173
-0.173
-0.174
(-5.90)***
(-5.84)***
(-4.13)***
(-4.14)***
(-4.13)***
(-4.13)***
4.150
4.173
4.146
4.171
(3.91)***
(3.93)***
(3.91)***
(3.93)***
-0.095
-0.639
-1.555
-0.685
-1.671
(-0.19)
(-0.56)
(-0.87)
(-0.60)
(-0.85)
APPRO
PHHI
PSHARE
[7]
DPRICE
DRDA
0.001
(0.43)
DLNSALES
-0.337
(-1.78)*
0.731
(0.60)
SHHI
FV_RATIO
LICENSE_IN
0.772
0.640
0.925
0.923
1.474
1.634
(1.01)
(0.90)
(0.92)
(0.92)
(0.61)
(0.63)
-1.205
-1.209
-1.174
-1.362
-1.123
-1.307
(-6.24)***
(-6.41)***
(-5.77)***
(-5.08)***
(-3.47)***
(-5.19)***
2.406
2.408
2.636
2.699
2.623
2.687
(1.61)
(1.61)
(1.32)
(1.34)
(1.31)
(1.33)
FV_RATIO*PHHI
1.321
FY14
-1.230
DLICENSE_IN
-0.176
(-5.33)***
(-0.31)
1.400
(0.67)
FV_RATIO*SHHI
DFV_RATIO
(0.67)
-0.650
-0.842
(-0.26)
(-0.31)
-1.709
-1.712
-1.658
-1.621
-1.656
-1.616
(-9.88)***
(-9.96)***
(-8.40)***
(-8.51)***
(-8.48)***
(-8.24)***
-1.656
-1.655
-1.612
-1.574
-1.614
-1.574
(-9.13)***
(-9.21)***
(-8.03)***
(-8.23)***
(-8.05)***
(-8.10)***
-1.469
-1.470
-1.384
-1.351
-1.381
-1.345
0.480
(-7.96)***
(-7.99)***
(-6.62)***
(-6.64)***
(-6.67)***
(-6.43)***
(1.71)*
4.864
4.902
3.689
3.785
3.653
3.743
(14.58)***
(15.41)***
(5.87)***
(5.88)***
(5.63)***
(5.83)***
Random or Fixed
Random
Random
Random
Random
Random
Random
Random or Fixed
Fixed
R-squared
0.245
0.246
0.267
0.268
0.267
0.268
R-squared
0.274
FY15
FY16
Constant
FY14
0.173
(0.67)
FY15
0.285
(1.14)
Constant
0.730
(2.07)**
Observations
1137
1137
816
816
816
816
Observations
1040
Number of groups
689
689
482
482
482
482
Number of groups
634
注 : 下段括弧内は不均一分散に対して頑健なz 値。* は10%水準で有意; ** は5%水準で有意; *** は1%水準で有意。FY14は平成14年調査を表す年ダミーで、FY15、FY16も同様。
(7)おわりに
本研究は、特許ライセンス価格の決定要因を明らかにすることを通じて、研究開発専業
企業がアンチコモンズの悲劇をより深刻なものにするという懸念の信憑性を図った昨年度
研究の追試である。両分析の結果は、ほぼ一致した。すなわち、特許の開発費用、専有可
能性が平均的なライセンス価格を高めることを確認した。一方、企業規模で測った補完的
資産の規模はライセンス価格に対して負の効果を示し、このことから、補完的資産の規模
が大きくなるほど、保有特許の平均的な質、ライセンス対象特許の平均的な質ともに低下
することが示唆された。また、仮説では、研究開発専業企業的な特性、すなわち技術のサ
プライヤーにコミットすることが交渉力を高めると推測したが、これを支持する結果は得
-79-
られなかった。むしろ、専業企業は補完的資産を保有しないため、特許の自社実施が困難
であり、そのため安価なライセンス契約であっても受け入れるインセンティブを持つとい
える。
(中村
健太、小田切
宏之)
参考文献
1.Aoki, Reiko and Sadao Nagaoka (2004) “The Consortium Standard and Patent Pools,”
Keizai Kenkyu, 55(4), 345-357.
2.中村健太・小田切宏之 (2006) 「企業のライセンス行動に関する研究 -バーゲニング・
モデルの実証分析-」
、『「アンチコモンズの悲劇』に関する諸問題の分析報告書』、知的財
産研究所、101-125.
3.Arora, Ashish and Fosfuri, Andrea (2003) “Licensing the Market for Technology,”
Journal of Economic Behavior & Organization, 52(2), 277-295.
4 . Gallini, Nancy T. (1984) “Deterrence through Market Sharing: a Strategic
Incentive for Licensing,” American Economic Review, 74, 931-941.
5.Katz, Michael L. and Shapiro, Carl (1985) “On the Licensing of Innovations,”
RAND Journal of Economics, 16(4), Winter, 504-520.
6.後藤晃・永田晃也 (1996)「サーベイデータによるイノベーション・プロセスの研究」、
科学技術政策研究所「専有可能性と技術機会」ワークショップ報告論文.
-80-
3.
日本企業による国内特許と海外特許の保有・利用の比較分析
(1)はじめに
日本企業の重要な特徴の1つは、その高い特許性向、特に、国内保有特許が海外で保有
する特許件数と比較して著しく多いことにある。本研究では、このような特徴を「平成 16
年知的財産活動調査」の個票データを利用して確認するとともに、その原因を分析するこ
とを目的とする。本研究で注目する原因の1つは、海外における事業展開の程度が外国特
許保有に与える影響である。日本企業の輸出などによるグローバル展開が一部の大企業に
限られていれば、外国保有特許数は小さくなる。また、日本企業が防衛目的で多数の特許
を出願している点が指摘されることもあり、特許の利用面からみた海外特許と国内特許の
差が原因となっているかどうかも分析したい。
本稿の構成は以下のとおりである。
(2)節において日本企業による国内特許と海外特許
の保有・出願について比較分析を行う。
(3)節において特許の利用の観点から日本企業が
保有する国内特許と海外特許の比較を行う。(4)節において本稿の結論を述べる。
(2)日本企業による国内特許と海外特許の保有・出願の比較分析
(ⅰ)業種間の変動
以下では、まず、国内保有特許に対する外国保有特許の比率、及び国内特許出願件数に
対する米国出願件数の比率を概観する。図1にみるように、両者の間には、いくつかの例
外はあるが、強い相関が存在する。米国出願比率が最も高い産業は卸売業、次に医薬品産
業であり、医薬品産業では米国出願比率が 42%と外国保有特許が 3.9 倍となっている。こ
れに続いて、通信・電子・電気計測器工業、食品工業、自動車以外の輸送用機械工業、精
密機械工業等において特許出願の国際性が高い。これに対して、製造業の中でも油脂・塗
料工業、窯業、鉄鋼業、また非製造業(建設、運輸・公益)では低い。
また、国内保有特許に対する外国保有特許の割合では、米国以外の国における特許権の
保有が反映されており、国内特許出願件数に対する米国出願件数の割合と比してこれが高
い業種では、海外出願の中で権利取得のグローバル化が進展している。こうした条件に当
てはまるのは、医薬品工業、金属製品工業、総合化学・化学繊維工業などである。
-81-
図1
国内保有特許に対する外国保有特許の比率及び国内特許出願件数に対する米国出願
件数比率
70%
6
米国/日本(出願;単純平均)
60%
米国/日本(出願;加重平均)
5
海外/国内(保有;単純平均)
海外/国内(保有;加重平均)
50%
4
40%
3
30%
2
20%
1
10%
通
信
・電
窯
業
鉄
鋼
業
建
設
運
業
輸
・公
益
業
0
全
体
卸
売
医
業
子
・電 薬
品
気
工
計
業
測
22
器
以
工
外
業
の
食
輸
品
送
工
8用
業
10
機
以
械
外
工
の
業
電
化
気
学
機
工
械
業
器
具
精
工
密
業
機
械
工
ゴ
ム
業
教
製
育
品
機
工
関
業
(大
学
等
自
)
動
4車
24
工
以
業
外
33
総
の
-3
工
5以 合化
業
繊
外
学
の
・化 維
工
研
学
業
究
繊
開
維
発
・分 工
業
析
試
験
情
業
報
通
金
信
属
業
製
品
工
プ
業
ラ
機
ス
械
チ
工
ッ
業
ク
公
製
的
品
研
33
究
-3 非鉄 工業
機
6以
金
関
(独 外の 属工
業
サ
立
ー
行
ビ
政
ス
法
業
人
を
油
含
脂
む
・塗
)
料
工
業
0%
(注1) 外国保有特許の比率(スケールは右軸)及び国内特許出願件数に対する米国出願件数比率(スケールは左軸)。
(注2) 「平成 16 年知的財産活動調査」(特許庁)のデータを用いて筆者作成。
このような業種別の海外特許取得性向の差を決定する主要な要因には、
(1)海外におけ
る事業展開の重要性と(2)発明の水準の2つがあると考えられる。つまり、日本企業の
事業の国際化が進んでいる場合、すなわち、輸出、海外直接投資あるいは国際ライセンス
のいずれかにおいても、海外の事業基盤あるいは市場がある場合には、海外における出願
の必要性は高い。また、発明の質が高い場合にも、外国出願に伴う翻訳等諸経費の負担能
力が高いので、海外への出願比率は高くなると考えられる。
-82-
以下ではまず業種のレベルで2つの要因との関係を観察する。図2は業種ごとの企業の
輸出比率の平均と外国にライセンスをしている企業の割合を平均した変数と国内保有特許
に対する外国保有特許の比率の関係を示している11。タイトな関係ではないが正の関係が
見られる。すなわち、輸出比率が高いあるいは外国にライセンスをしている割合が高い産
業分野では外国保有特許の比率が高い。
図2
海外事業志向と外国特許保有の比率
外国特許保有/国内特許保有
3.50
3.00
2.50
2.00
1.50
1.00
0.50
0.00
0.00
海外事業志向
海外事業志向
0.05
0.10
0.15
11
0.20
0.25
0.30
海外直接投資による海外生産も研究開発投資の利益を回収する上で重要であり、海外での特許権の保護はこのような
文脈で重要になるが、データと時間の制約によって本章ではこれを分析の対象としていない。今後の課題としたい。な
お、輸出を支援するための海外販売拠点投資、あるいは海外生産の場合も海外子会社へのライセンスによって支援され
ている場合には、それぞれ輸出とライセンスで間接的に捕捉されている。
-83-
また次に図3は、各産業の売上に占める研究開発の比率と国内保有特許に対する外国保
有特許の比率の関係を示しているが、こちらではかなり強い正の関係が見られる。研究開
発集約度が高い産業では、グローバルな市場で有用性が高い研究が行われているために、
外国特許保有比率が高いことを示唆している。
図3
3.50
研究開発集約度と外国特許保有比率
外国保有特許比率
3.00
2.50
2.00
1.50
1.00
0.50
研究開発集約度
0.00
0.000
0.020
0.040
0.060
0.080
-84-
0.100
0.120
0.140
(ⅱ)企業間の変動
図4は、電気機械器具産業(156 社)について、企業をその研究開発集約度と輸出志向で
4つのグループに分けて、国内保有特許に対する外国保有特許の比率を示している。同産
業を含む企業サンプル全体で研究開発集約度で上位 25%の企業を高度に研究開発志向
(hrdint)、同様に輸出比率で上位 25%企業を高度に輸出志向(hexport)とする。それぞれ研
究開発集約度で対売上比率で 4.7%であり、輸出比率で 19.5%である。これをみると、研究
開発集約度が高いグループでもそうでないグループでも、輸出志向が高い企業グループで
は外国保有特許の比率が高い。他方で、業種レベルの動向とは異なって研究開発集約度の
影響は高度に輸出志向の企業の間では逆の結果となっていること示している。
図4
研究開発集約度と輸出志向で企業を分類した場合のグループ別の米国出願比率 (通
信・電子・電気計測器工業)
0.35
0.3
0.25
0.2
0.15
0.1
0.05
0
lrdint
hrdint
lrdint
lexport
hrdint
hexport
(注) 高度に輸出志向(hexport)企業は輸出比率(1990 年度)で 19.5%以上の企業。高度に研究開発志向(hrdint)企業は研
究開発集約度で対売上比率で 4.7%以上の企業。
-85-
次にライセンスの影響をみるために、図5では、輸出志向が高い企業群について、研究
開発集約度のグループごとに更に国内あるいは外国に特許をライセンスしているかどうか
で企業を4つのグループに分けて、外国特許保有比率の平均を示している。研究開発集約
度が低い企業群の中では、国内にも海外にもライセンスをしている企業グループでは、ラ
イセンスをしていない企業あるいは国内にしかライセンスをしていない企業よりも外国特
許保有比率は高い。ただし、研究開発集約度が高い企業では、ライセンスの追加的な影響
は見られない。また、ライセンスをしていない企業あるいは国内にのみライセンスしてい
る企業では、研究開発集約度が高い企業の方が外国特許保有比率は高いが、外国にもライ
センスを行っている企業に関してはそのような傾向は見られない。
以上の観察が示唆しているのは、特定の産業内に注目した場合、企業による外国への特
許出願・保有に最も基本的な影響があるのは、輸出のようである。外国へのライセンスや
研究開発集約度の高さもこれを高めるが、それぞれ他の要因が小さい場合に影響が大きい
ようである。
図5
ライセンスパターンと研究開発集約度で企業グループを分類した場合の外国特許保
有比率(輸出志向が高いグループ)
2.5
2
1.5
1
0.5
lrdint
both
foreign
domestic
no
both
foreign
domestic
no
0
hrdint
(注) 高度に輸出志向(hexport)企業は輸出比率(1990 年度)で 19.5%以上の企業。高度に研究開発志向(hrdint)企業は研
究開発集約度で対売上比率で 4.7%以上の企業。Domestic は国内のみに特許をライセンスしている企業、foreign は外国
のみに特許をライセンスしている企業、both は両方にライセンスをしている企業。
-86-
(ⅲ)企業レベルの回帰分析
次に、回帰分析によって、企業ごとの外国特許保有比率の変動要因を分析する。推計す
る方程式は以下のとおりである。
①被説明変数
外国特許保有比率(patf/patd)あるいは米国特許出願件数の国内特許出願件数に対する
比率(usjp)
②説明変数及びコントロール変数
輸出比率(1990 年;exportratio90)、外国への特許ライセンスの有無(licensef)、企業
規模(売上高の対数、ln(sales))、研究開発集約度(研究費/売上高;rdint)、特許査定率
の対数(ln(success))、輸出比率と研究開発集約度の交差項(interaction)、産業ダミー(2
桁分類)
推計結果は表1のとおりである。まずモデル1から3では被説明変数が外国特許保有比
率の場合であり、モデル4と5は米国出願比率が被説明変数の場合である。以下では主と
してモデル1から3に依拠する。モデル1は産業ダミーが無い推計であり、モデル2はあ
る推計であり、これを基本推計と考える。産業ダミーが無い推計では、輸出比率は有意で
はなく、他方で研究開発集約度は高度に有意であり、かつ外国への特許ライセンス・ダミ
ーも有意である。他方で、産業ダミーを導入した推計では、輸出比率の係数がかなり大き
く有意となり、企業規模の係数の大きさも少し増大する反面、研究開発集約度と外国への
特許ライセンスは係数の大きさが大幅に低下し有意性が低下する。したがって、モデルに
入っていない産業レベルの欠落変数(それは産業の技術機会と正の相関が高い変数だと予
想される)が重要であることが示されている。産業分野ごとに、海外直接投資の可能性、競
争の内外の状況、特許権の行使の可能性についての内外の状況などが異なると考えられ、
産業ダミーはこれらを吸収している。個別の産業ダミーの中では医薬品工業のダミーのみ
が正で有意であった。
発明の質が低い分野に偏っている場合には、海外保有特許比率が低下すると考えられ、
モデル3では、個別企業の特許査定率を説明変数に追加しているが、有意ではない。モデ
ル4では、輸出比率と研究開発集約度の交差項(interaction)を導入しているが、これは負
で高度に有意であり、相乗的な影響はないことを示している。輸出比率が高い企業グルー
プでは研究開発集約度の影響が上の節でみた電気機械産業のケースと整合しており、研究
開発利益あるいは輸出利益の確保において特許権の効果に収穫逓減効果が大きい、あるい
は研究開発利益の集約度と輸出比率が重複的な要因を反映している可能性を示唆している。
まとめると、事業展開がグローバルでありまた高度な水準で研究開発に従事している企
業の海外出願比率が高い。
-87-
表1
外国特許保有件数/国内保有特許件数比率の要因
モデル
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
OLS
OLS
OLS
OLS
OLS
国内特許 国内特許 国内特許 国内特許 国内特許
patf/patd patf/patd patf/patd
usjp
usjp
exportration90
0.2
1.68***
1.56***
3.1***
0.32***
[0.41]
[0.39]
[0.43]
[0.60]
[0.10]
licensef
0.31**
0.13
0.09
0.11
0.03
[0.15]
[0.13]
[0.14]
[0.13]
[0.03]
ln(sales)
0.1*
0.12**
0.16***
0.14***
0.03*
[0.05]
[0.05]
[0.06]
[0.05]
[0.01]
rdint
18.27***
4.46**
5.21**
9.27***
0.15
[1.79]
[2.14]
[2.34]
[2.61]
[0.56]
モデル(3)でln(success) 、モデル
-0.04 -29.02***
(4)でexportration90*rdint
[0.4]
[9.35]
産業ダミー
無し
有り(略)
有り(略)
有り(略)
有り(略)
サンプル数
312
312
275
312
301
修正済決定係数
0.3
0.51
0.513
0.5245
0.145
(注)括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
(3)日本企業による国内特許と海外特許の利用の比較分析
本節では、特許の利用状況が国内の特許と外国の特許で異なるかどうか、そしてそれが
日本企業の保有する国内特許がその外国特許と比べて非常に多い原因となっていないかど
うか、特に、単に他の企業の事業の牽制を行うためのブロッキング特許が国内では多く取
得されているために国内特許の保有数が多いかどうかを検討する。「平成 16 年知的財産活
動調査」では、ブロッキング目的の特許を「防衛特許」として定義して調査しており、以
12
下の分析ではこれを用いる。また、海外では「PATVAL サーベイ 」においてブロッキング
目的の特許という定義で特許単位の調査がなされている。以下では両調査を用いながら分
析する。
(ⅰ)保有特許の利用状況:国内特許対外国特許
①全体的な傾向
図6(各企業グループに対応する棒グラフの右2つ)は、「平成 16 年知的財産活動調査」
によって、企業の規模別に自社実施率、他社実施率及びブロッキング特許比率(保有特許の
中で自社で利用せずかつ他社に実施させないことを目的に保有している特許の割合)を内
12
「PATVAL サーベイ」については章末 P.105 の付録を参照。
-88-
外特許に関して比較している。これをみるとこれらの3つの指標において、国内特許と海
外特許との間で著しい差は無い。自社実施率において国内特許が 52%、外国特許が 50%、他
社へのライセンスによる実施率において国内特許が 8.0%、外国特許が 8.5%、そしてブロッ
キング特許の割合が国内特許でも外国特許でも 20%である。企業規模別にみても、国内特
許と海外特許の利用パターンは非常に類似している。したがって、例えば、国内特許では
未利用の特許が非常に多いあるいはブロッキング特許が非常に多いので国内の権利数が海
外権利数よりも多いとの説明は成立しないことが分かる。
また、大変興味深いことに、日本企業によるこのような特許利用のパターンは欧州企業
のそれとも非常に類似している。「PATVAL サーベイ」によれば、欧州企業の自社実施率、
他社実施率及びブロッキング特許比率は、それぞれ 51%、6%、そして 19%であるが、これら
は日本企業の対応する数値に非常に近い。企業規模別のパターンでは、自社実施率が逆 U
字型であること、ブロッキング特許の割合は大企業の方が高いことは、日本企業の国内特
許、その外国特許及び EU の特許で共通しているが、他社実施率については、日本企業の特
許では U 字型であるので、欧州企業の特許では企業規模の拡大で単調に減少する。
図6 企業規模別特許の利用構造
70%
PATVAL
知的財産活動調査(国内)
知的財産活動調査(海外)
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
大企業
中小企業 零細企業
自社実施
全体
大企業
中小企業
零細企業
他社実施
全体
大企業
中小企業
零細企業
全体
ブロッキング目的
(注1) 大企業(従業員数 250 人以上)、中小企業(従業員数 100 人以上 250 人以下)、零細企業(従業員数 100 人未満)。数
値は各規模別の単純平均。
(注2) 「PATVAL サーベイ」及び「平成 16 年知的財産活動調査」(特許庁)のデータを用いて筆者作成。
-89-
②産業・技術分野別
国内特許と外国特許において、自社実施率、他社実施許諾率そしてブロッキング特許の
割合が類似している点は、産業別にみても概略成立する。以下の図7は、自社実施・他社
実施許諾・ブロッキング特許の割合を産業別に示しているが、大きな例外はあるものの、
両者の水準は比較的似ている。自社実施特許については、精密機械工業、繊維工業、電気
機械器具工業において、
海外自社実施特許の割合が国内特許と比較してかなり高く、一方、
運輸・公益業、石油製品・石炭製品工業、卸売業、食品工業において国内特許と比べて低
い(図7-a)。他社実施許諾特許では、繊維工業、医薬品工業、金属製品工業、運輸・公益
業において、海外他社実施許諾の比率が国内特許と比べて高く、逆に、その他工業、公的
研究機関(独立行政法人を含む)、その他のサービス業において国内特許と比べて低い(図
7-b)。最後に、石油製品・石炭製品工業、ゴム製品工業、鉄鋼業、情報通信業で、外国特
許のブロッキング特許の割合が国内特許と比べてかなり高く、逆に、繊維工業、精密機械
工業等では国内特許と比べてかなり低い (図7-c)。こうした差は、企業の差を反映してい
る可能性もあり、より厳密な検討が必要である。付録表1(P.106)には、欧州企業の技術
分野別のブロッキング特許の割合を示しているが、石油石炭製品、化学などの分野で高く、
一般機械で低いのは共通する。
図7-a 産業別自社実施特許
70%
80%
国内自社実施率(単純平均)
70%
海外自社実施率(単純平均)
60%
国内自社実施率(加重平均)
海外自社実施率(加重平均)
60%
50%
50%
40%
40%
30%
30%
20%
20%
0%
0%
金
窯
属
業
製
品
工
業
機
械
工
プ
業
ラ
ス
卸
チ
売
ッ
ク
業
製
品
精
工
密
業
機
22
4械
以
24
工
外
以
業
の
輸 外の
送
工
用
業
機
械
非
工
鉄
業
通
電
金
信
気
属
・電
機
工
械
子
業
・電 器
具
気
工
計
業
測
器
工
8業
10
食
以
品
外
工
の
業
化
学
工
業
建
設
業
繊
総
維
合
工
自
化
業
動
学
・化 車
工
学
業
繊
維
工
運
業
輸
・公
33
益
-3
6以 医薬 業
石
品
外
油
工
の
製
業
公
サ
品
ー
的
・石
ビ
研
ス
究
炭
業
機
教
製
関
育
品
(独
機
工
関
業
立
(大
行
政
学
法
等
人
)
を
含
そ
む
の
)
他
の
業
種
10%
全
体
10%
(注) 「平成 16 年知的財産活動調査」(特許庁)のデータを用いて筆者作成。
-90-
油
製
品
・石
炭
全
製 体
品
8工
10
以 繊 業
外 維工
の
化 業
非 学
鉄 工
総
金 業
合
属
化
自 工
学
動 業
・化 車
学 工
繊 業
維
運
工
輸
業
・公
医 益
薬 業
品
工
電
気 食 業
機 品
械 工
4- 器 業
24 具
以 工
外 業
の
工
機 業
械
プ 精
密 工
ラ
33 スチ 機械 業
-3
ッ
6以 ク 工業
外 製品
の
サ 工業
ー
ビ
ス
22
業
以
外
窯
の
業
輸
送 卸
通
用 売
信
機 業
・電
金 械
子
属 工
・電 製 業
公
気 品
的
計 工
研
測 業
究
器
機
工
関
業
(独
そ 建設
立
の
行
他 業
政
の
法
業
教
育 人を 種
機
含
関
む
(大 )
学
等
)
石
通
信
・電
そ
全
の
子
体
・電 他
の
33
気
業
-3
公
6以 計測 種
的
石
器
外
研
油
工
の
究
製
業
サ
機
品
ー
関
・
ビ
(独
石
ス
炭
業
立
製
行
品
政
工
法
業
人
を
含
運
む
輸
)
・公
益
医
業
薬
品
工
業
建
非
設
鉄
業
金
属
工
業
教
22
育
卸
以
機
売
外
関
業
の
(大
輸
学
送
等
用
)
機
械
工
業
電
気
機
窯
械
業
器
具
精
工
密
業
機
4械
24
工
以
業
外
の
工
8業
10
食
以
品
外
工
の
業
化
学
工
プ
業
ラ
機
ス
械
チ
工
ッ
ク
業
製
品
工
業
繊
維
工
自
業
動
総
車
金
合
工
属
化
業
製
学
・化 品
工
学
業
繊
維
工
業
図7-b 産業別他社実施許諾特許
25%
国内他社実施許諾率(単純平均)
80%
海外他社実施許諾率(単純平均)
20%
国内他社実施許諾率(加重平均)
海外他社実施許諾率(加重平均)
15%
10%
0%
60%
50%
国内ブロッキング特許率(単純平均)
海外ブロッキング特許率(単純平均)
国内ブロッキング特許率(加重平均)
海外ブロッキング特許率(加重平均)
30%
0%
(注) 「平成 16 年知的財産活動調査」(特許庁)のデータを用いて筆者作成。
-91-
70%
60%
50%
40%
30%
5%
20%
10%
0%
(注) 「平成 16 年知的財産活動調査」(特許庁)のデータを用いて筆者作成。
図7-c 産業別ブロッキング特許
80%
70%
60%
40%
50%
40%
20%
30%
20%
10%
10%
0%
(ⅱ)保有特許の利用構造の比較分析:国内特許対外国特許
回帰分析によって、企業ごとの国内特許と外国特許の利用構造の変動要因を分析する。
推計する方程式は以下のとおりである。
①被説明変数
国内保有特許件数(patd)、国内自社実施率(=国内特許自社実施件数/国内保有特許件
数;intd)、国内他社実施許諾率(=国内他社実施許諾件数/国内保有特許件数;licd)、国
内ブロッキング特許率(=国内ブロッキング特許件数/国内保有特許件数;blockd)、海外
保有特許件数(patf)、海外自社実施率(=海外特許自社実施件数/海外保有特許件数;intf)、
海外他社実施許諾率(=海外他社実施許諾件数/海外保有特許件数;licf)、海外ブロッキ
ング特許率(=海外ブロッキング特許件数/海外保有特許件数;blockf)、国内・海外特許
自社実施率の差分(dint)、国内・海外他社実施許諾率の差分(dlic)、国内・海外ブロッキ
ング特許率の差分(dblock)
②説明変数及びコントロール変数
企業規模(従業員数の対数、ln(emp))、従業員当たり研究費(対数、ln(rd/emp))、従業員
当たり売上高(対数、ln(sales/emp))、従業員当たり輸出額(対数、ln(exp/emp))、特許査
定率(success)、審査請求経過所要年数(aveyear)、特許の藪度(thicket_ind)、特許の藪度
及び従業員当たり研究費(対数、ln(rd/emp))・従業員当たり売上高(対数、ln(sales/emp))・
従業員当たり輸出額(対数、ln(exp/emp))との交差項、産業別総売上高成長率(growth_ind)、
産業別参入済企業数(firms_ind)、産業ダミー(2桁分類)。
③推計結果
表4及び表5は推計結果である。特筆すべき結果のみをここで述べる。まず、企業規模
を示す従業員数(emp)は国内特許件数(patd)に正で有意な影響を及ぼし((1)、(5)、(9)、
(13)式)、国内自社実施率や国内他社実施許諾率に負で有意な影響を及ぼしている((2)、
(6)、(7)、(10)、(11)、(14)式ただし、(3)、(15)式はサンプル数が減少したため有意
性はない)。これらの結果は Nagaoka and Nishimura(2005)の結果と整合的であり、補完的
資産を大規模に保有している大企業ほど多くの特許出願がされるので(特許性向が高いの
で)実施率が低くなることを示唆する13。他方で国内ブロッキング特許率に若干有意性は落
ちるものの正の影響を及ぼす。すなわち、補完的資産を大規模に保有している大企業ほど
13
Nagaoka Sadao and Yoichiro Nishimura (2005) “Acquisitions and Use of Patents: A Theory and New Evidence
from the Japanese Firm Level Data,” Hitotsubashi University Innovation Institute of Research Working Paper,
WP#05-14.
-92-
類似製品の参入から大きな損害を潜在的に被る可能性が高いため、より積極的にブロッキ
ング特許を保有する傾向を示す(ただし、 (16)式はサンプル数が減少したため有意性はな
い)。同じ傾向は固定資産と相関関係の強い従業員当たり売上高(sales/emp)の係数からも
見て取れる((2)、(4)、(6)、(8)、(10)、(12)、(14)式)。
発明の質を示すと思われる特許査定率(success)をみると、国内ブロッキング特許率
(blockd)に対して正で統計的に有意な影響を与えている((16)式)。この結果は、「PATVAL
サーベイ」において価値の高い特許がブロッキング特許となっている結果と整合的である
(P.107 付録表2)。
企業が直面する不確実性や企業の特許戦略性向を示すと考えられる審査請求経過所要年
数(aveyear)は国内自社実施率に対して負で統計的に有意な影響を及ぼし((14)式)、他方で
国内ブロッキング特許率(blockd)に対して正で統計的に有意な影響を与えている((16)
式)14。前者の結果は Nagaoka and Nishimura(2005)の結果と整合的であり、後者の結果は
特許を戦略的に利用する傾向が強い企業はブロッキング特許を保有する傾向にあることを
示す。
海外についての推計結果に目を向けると、国内についての推計結果と同じ傾向である。
相違点は、企業規模を示す従業員数(emp)が海外他社実施許諾率(licf)や海外ブロッキング
特許率(blockf)について有意な影響を及ぼしていないこと((3)、(4)、(7)、(8)、(11)、
(12)、(15)、(16)式)、特許査定率(success)や審査請求経過所要年数(aveyear)の係数の有
意性が低下することである。これらは海外特許の利用構造が変化したことが原因ではなく、
海外特許の利用構造を把握できるサンプル企業数が大幅に減少したことが原因であると考
えられる。
表6は海外と国内の特許の利用構造の差(海外-国内)に関する推計結果である。モデル
(1)~(3)は定数項のみで回帰した結果、モデル(4)~(6)では定数項を除き産業ダミー
のみで回帰した結果、モデル(7)~(12)では、定数項を除き産業ダミー並びにその他の説
明変数を追加し回帰した結果となっている。
モデル(1)~(3)では他社実施許諾率及びブロッキング特許率につき国内外の構造に差
がある。すなわち、国内と比較してより海外において特許が他社実施許諾され、逆に、海
外と比較してより国内においてブロッキング特許として利用されている。
モデル(4)~(12)をみると、機械工業、電気機械器具工業、精密機械工業に属する企業
では国内と比較して海外自社実施率がより高い水準にあり、運輸・公益業では、国内自社
実施率が海外よりも高い水準にある((4)、(7)、(10)式)。これは、機械工業、電気機械
器具工業、精密機械工業において海外事業がある程度展開されている実態と整合的である。
また、医薬品工業、金属製品工業、運輸・公益業では、海外他社実施許諾率が国内と比べ
14
審査請求をできる限り遅延させようとする企業は特許制度を自社にとって利益あるよう活用しようとする特許に関し
て戦略的な志向性が高い企業だと考えられる。
-93-
て高い((5)、(8)、(11)式)。特に、医薬品工業では、海外で事業展開しようとも販売網
などの補完的資産でボトルネックとなり自社で特許を実施できず、海外競合他社にライセ
ンシングしている実情とこの結果は整合的である。最後に、機械工業、精密機械工業にお
いて、国内ブロッキング特許率が海外と比較して高い水準にある((6)、(9)、(12)式)。
モデル(7)~(12)において産業ダミーを除く各説明要因がどのような影響を被説明変数
に及ぼしているのかを検討すると、
これらの変数は国内・海外特許自社実施率の差分(dint)、
国内・海外他社実施許諾率の差分(dlic)及び国内・海外ブロッキング特許率の差分(dblock)
に全く影響を及ぼしていない。
最後に産業ダミー変数を含む、あらゆる変数の係数がゼロである仮説を F 検定で行った
結果をみる(表6の下から2行目から3行目)と、ほとんどの推計モデルにおいて、全変数
の係数がゼロである仮説を棄却することができている(ただし、(9)、(12)式において 5%
有意水準で仮説棄却はできない)。
-94-
表4-a 推計結果(国内特許の利用構造;単純推計)
企業レベ
ルの変数
モデル (1)
NBREG
patd
ln(emp)
0.7602***
[0.0208]
ln(rd/emp+avg
0.2913***
[0.0216]
/100)
ln(sales/emp_firm) 0.4613***
[0.0516]
ln(emp)*thicket_in
d
ln(rd/emp+avg/10
0)*thicket_ind
ln(sales/emp)*thic
ket_ind
growth_ind
モデル (2)
OLS
intd
-0.0353***
[0.0063]
-0.0214***
[0.0062]
-0.0584***
[0.0132]
モデル (3)
OLS
licd
-0.0048
[0.0038]
0.0011
[0.0037]
0.0145*
[0.0079]
モデル (4)
OLS
blockd
0.0226***
[0.0055]
0.0106*
[0.0055]
0.0240**
[0.0116]
モデル (5)
NBREG
patd
0.7388***
[0.0232]
0.3072***
[0.0239]
0.4430***
[0.0586]
1.5172**
[0.6697]
-0.9174
[0.6135]
0.9956
[1.2842]
モデル (6)
OLS
intd
-0.0319***
[0.0068]
-0.0254***
[0.0068]
-0.0518***
[0.0145]
-0.3004
[0.2031]
0.277
[0.1776]
-0.3962
[0.3445]
モデル (7)
OLS
licd
-0.0092**
[0.0040]
-0.0017
[0.0040]
0.0019
[0.0085]
0.3916***
[0.1194]
0.1996*
[0.1044]
0.8204***
[0.2025]
モデル (8)
OLS
blockd
0.0207***
[0.0060]
0.0131**
[0.0059]
0.0294**
[0.0127]
0.1388
[0.1780]
-0.184
[0.1557]
-0.3289
[0.3019]
firms_ind
産業レベ
ルの変数
thicket_ind
産業ダミー
34industries 34industries 34industries 34industries 34industries 34industries 34industries 34industries
-1.2502
1.1757*** -0.005
-0.0976
-1.0849
1.1382*** 0.0219
-0.0924
[1.0499]
[0.2712]
[0.1618]
[0.2374]
[1.0505]
[0.2713]
[0.1595]
[0.2377]
サンプル数
1157
1157
1157
1157
1151
1151
1151
1151
対数尤度
-5899.8684
x
x
x -5876.8388
x
x
x
修正済(疑似)決定係数
0.1224
0.1178
0.08
0.0349
0.1223
0.1193
0.1135
0.0367
(注)avgは各変数の平均値、括弧内は標準誤差、NBREG推計モデルの場合、修正済決定係数の代わりに疑似決定係数を掲載、*は
10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
定数項
ln(emp)
ln(rd/emp+avg
/100)
ln(sales/emp)
モデル (9)
NBREG
patd
0.7430***
[0.0219]
0.3084***
[0.0220]
0.3451***
[0.0530]
モデル (10)
OLS
intd
-0.0267***
[0.0063]
-0.0236***
[0.0058]
-0.0473***
[0.0129]
モデル (11)
OLS
licd
-0.0101***
[0.0038]
-0.0066*
[0.0035]
0.0061
[0.0077]
モデル (12)
OLS
blockd
0.0168***
[0.0054]
0.0168***
[0.0050]
0.0247**
[0.0110]
1.2053*
[0.6918]
-0.8521
[0.6407]
2.6111*
[1.3421]
0.0972*
[0.0558]
0.0010***
[0.0003]
-14.3124**
[5.6590]
無し
-0.3936**
[0.1968]
0.2164
[0.1714]
-0.4501
[0.3372]
-0.0475**
[0.0191]
0
[0.0001]
4.6508***
[1.6743]
無し
0.4997***
[0.1174]
0.2175**
[0.1023]
0.8509***
[0.2011]
0.0131
[0.0114]
0
[0.0000]
-5.6786***
[0.9988]
無し
0.1573
[0.1689]
-0.2496*
[0.1471]
-0.227
[0.2894]
-0.0247
[0.0164]
-0.0002**
[0.0001]
-0.3596
[1.4370]
無し
success
企業レベ
ルの変数
aveyear
ln(emp)*thicket_in
d
ln(rd/emp+avg/10
0)*thicket_ind
ln(sales/emp)*thic
ket_ind
growth_ind
firms_ind
産業レベ
ルの変数
thicket_ind
産業ダミー
モデル (13)
NBREG
patd
0.8367***
[0.0530]
0.4184***
[0.0419]
0.2648***
[0.1026]
0.4073
[0.4125]
0.0707
[0.0754]
1.9933
[1.8156]
-3.4791**
[1.5948]
4.8173
[3.0853]
-0.1114
[0.1670]
0.0002
[0.0004]
-27.4844
[16.9721]
無し
モデル (14)
OLS
intd
-0.0367***
[0.0132]
-0.0189
[0.0119]
-0.0597***
[0.0230]
-0.1096
[0.0984]
-0.0386**
[0.0182]
-0.2276
[0.4565]
0.7084**
[0.3394]
0.804
[0.7108]
-0.0421
[0.0474]
-0.0001
[0.0001]
-1.8501
[4.1488]
無し
モデル (15)
OLS
licd
0.0007
[0.0072]
-0.0064
[0.0065]
0.0106
[0.0125]
0.0275
[0.0534]
0.0088
[0.0099]
0.5724**
[0.2477]
-0.6932***
[0.1841]
0.9677**
[0.3856]
0.0101
[0.0257]
0.0001
[0.0001]
-6.5910***
[2.2506]
無し
モデル (16)
OLS
blockd
0.0063
[0.0128]
0.0191*
[0.0115]
0.0207
[0.0222]
0.2395**
[0.0950]
0.0448**
[0.0176]
0.0159
[0.4408]
-0.0725
[0.3277]
0.3431
[0.6862]
-0.1251***
[0.0458]
-0.0002
[0.0001]
-1.3951
[4.0057]
無し
-1.7496*** 0.8586*** 0.0948*** 0.0738
-2.0774*** 1.1481*** -0.0562
-0.0448
[0.2298]
[0.0578]
[0.0345]
[0.0496]
[0.6180]
[0.1477]
[0.0801]
[0.1426]
サンプル数
1151
1151
1151
1151
336
336
336
336
対数尤度
-5945.7317
x
x
x -2124.2837
x
x
x
修正済(疑似)決定係数
0.112
0.0874
0.0543
0.0427
0.0893
0.0838
0.0939
0.0472
(注)avgは各変数の平均値、括弧内は標準誤差、NBREG推計モデルの場合、修正済決定係数の代わりに疑似決定係数を掲載、*は
10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
定数項
-95-
表4-b 推計結果(国内特許の利用構造;加重推計)
企業レベ
ルの変数
モデル (1)
OLS
intd
ln(emp)
-0.0270***
[0.0044]
ln(rd/emp+avg
0.0033
[0.0056]
/100)
ln(sales/emp_firm) -0.1180***
[0.0121]
ln(emp)*thicket_in
d
ln(rd/emp+avg/10
0)*thicket_ind
ln(sales/emp)*thic
ket_ind
growth_ind
モデル (2)
OLS
licd
0.0112***
[0.0036]
0.0219***
[0.0045]
0.0348***
[0.0098]
モデル (3)
OLS
blockd
-0.0468***
[0.0048]
0.0136**
[0.0061]
0.0078
[0.0132]
モデル (4)
OLS
intd
-0.0254***
[0.0056]
-0.0221***
[0.0068]
-0.1096***
[0.0146]
-0.0946
[0.1880]
1.1954***
[0.1959]
-0.6017
[0.3986]
モデル (5)
OLS
licd
0.0087*
[0.0045]
0.0272***
[0.0054]
-0.0112
[0.0117]
0.3152**
[0.1506]
-0.3819**
[0.1570]
2.3045***
[0.3193]
モデル (6)
OLS
blockd
-0.0472***
[0.0062]
0.0253***
[0.0074]
0.0419***
[0.0159]
-0.1257
[0.2051]
-0.4473**
[0.2138]
-1.5494***
[0.4349]
firms_ind
産業レベ
ルの変数
thicket_ind
産業ダミー
定数項
サンプル数
修正済決定係数
34industries 34industries 34industries 34industries 34industries 34industries
1.3614
-0.0273
0.2313
1.2476
0.0824
0.2154
[1.1617]
[0.9356]
[1.2638]
[1.1414]
[0.9143]
[1.2452]
1149
1149
1149
1143
1143
1143
0.1667
0.2345
0.1756
0.1999
0.2731
0.204
(注)avgは各変数の平均値、括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
モデル (7)
OLS
intd
-0.0194***
[0.0054]
-0.0120**
[0.0057]
-0.0988***
[0.0122]
企業レベ
ルの変数
産業レベ
ルの変数
モデル (10)
OLS
intd
ln(emp)
-0.0194*
[0.0117]
ln(rd/emp+avg
-0.0177
/100)
[0.0119]
ln(sales/emp)
-0.1075***
[0.0258]
success
0.015
[0.1374]
aveyear
0.0265
[0.0216]
ln(emp)*thicket_in -0.2537
0.3871*** -0.1355
-0.5442
d
[0.1783]
[0.1441]
[0.1954]
[0.3985]
ln(rd/emp+avg/10 0.9324*** -0.1256
-0.3359*
1.3718***
0)*thicket_ind
[0.1815]
[0.1467]
[0.1989]
[0.4371]
ln(sales/emp)*thic -0.4122
1.5308*** -1.3063*** 0.3058
ket_ind
[0.3623]
[0.2929]
[0.3971]
[0.7505]
growth_ind
-0.0345*
-0.0634*** -0.0960*** -0.0067
[0.0193]
[0.0156]
[0.0212]
[0.0407]
firms_ind
-0.0002*** 0
-0.0002*** -0.0003***
[0.0001]
[0.0000]
[0.0001]
[0.0001]
thicket_ind
2.9271
-6.9438*** 6.1894*** 1.8298
[2.0493]
[1.6567]
[2.2458]
[4.2764]
無し
無し
無し
無し
産業ダミー
定数項
サンプル数
修正済決定係数
モデル (8)
OLS
licd
0.0096**
[0.0044]
0.0204***
[0.0046]
0.0062
[0.0099]
モデル (9)
OLS
blockd
-0.0480***
[0.0059]
0.0150**
[0.0063]
0.0496***
[0.0134]
モデル (11)
OLS
licd
0.0032
[0.0065]
0.0187***
[0.0066]
-0.0223
[0.0144]
0.2051***
[0.0765]
0.0237**
[0.0120]
0.8406***
[0.2220]
-0.6285**
[0.2435]
0.0358
[0.4181]
-0.0905***
[0.0227]
-0.0002***
[0.0001]
-4.8203**
[2.3823]
無し
モデル (12)
OLS
blockd
-0.0571***
[0.0123]
0.02
[0.0125]
0.0718***
[0.0272]
0.092
[0.1446]
0.0236
[0.0227]
-0.4778
[0.4194]
-0.1303
[0.4601]
-0.8975
[0.7899]
-0.1778***
[0.0428]
-0.0001
[0.0001]
7.5619*
[4.5009]
無し
1.0199*** -0.0341
0.4664*** 0.9919*** 0.02
0.3407*
[0.0658]
[0.0532]
[0.0721]
[0.1725]
[0.0961]
[0.1815]
1143
1143
1143
336
336
336
0.1325
0.1974
0.1292
0.1255
0.2525
0.1907
(注)avgは各変数の平均値、括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
-96-
表5-a 推計結果(海外特許の利用構造;単純推計)
ln(emp)
ln(rd/emp+avg
/100)
ln(exp/emp)
企業レベ
ルの変数
ln(emp)*thicket_in
d
ln(rd/emp+avg/10
0)*thicket_ind
ln(exp/emp)*thick
et_ind
growth_ind
モデル (1)
NBREG
patf
0.9985***
[0.0775]
0.3141***
[0.0772]
0.2617***
[0.0550]
モデル (2)
OLS
intf
-0.0455**
[0.0179]
0.0014
[0.0185]
0.0016
[0.0124]
モデル (3)
OLS
licf
-0.0027
[0.0095]
-0.0109
[0.0098]
0.0149**
[0.0065]
モデル (4)
OLS
blockf
0.009
[0.0159]
0.0045
[0.0164]
-0.0041
[0.0110]
モデル (5)
NBREG
patf
0.9288***
[0.0885]
0.2816***
[0.0966]
0.1965***
[0.0624]
5.5647**
[2.7174]
1.7605
[1.4439]
5.5692***
[1.5118]
モデル (6)
OLS
intf
-0.0385*
[0.0210]
-0.017
[0.0226]
0.0098
[0.0144]
-0.2862
[0.5661]
0.5417
[0.4101]
-0.3125
[0.3584]
モデル (7)
OLS
licf
-0.0093
[0.0106]
0.0161
[0.0114]
-0.0008
[0.0072]
0.2628
[0.2852]
-0.7723***
[0.2066]
0.6569***
[0.1806]
モデル (8)
OLS
blockf
0.0064
[0.0187]
0.0019
[0.0201]
-0.0032
[0.0128]
0.1563
[0.5038]
0.0907
[0.3649]
-0.0163
[0.3190]
firms_ind
産業レベ
ルの変数
thicket_ind
産業ダミー
34industries 34industries 34industries 34industries 34industries 34industries 34industries 34industries
0.7086**
0.6769
0.5007
0.1596
0.7647**
[0.2844]
[1.4766]
[0.3716]
[0.1872]
[0.3307]
サンプル数
239
239
239
239
239
239
239
239
対数尤度
-1441.9545
x
x
x -1433.2746
x
x
x
修正済(疑似)決定係数
0.0906
0.1962
0.0678
0.075
0.0961
0.1934
0.1464
0.0624
(注)avgは各変数の平均値、括弧内は標準誤差、NBREG推計モデルの場合、修正済決定係数の代わりに疑似決定係数を掲載、*は
10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
定数項
ln(emp)
ln(rd/emp+avg
/100)
ln(exp/emp)
-1.0638
[1.2749]
0.5617*
[0.3212]
0.1232
[0.1694]
モデル (9)
NBREG
patf
0.7761***
[0.0846]
0.3030***
[0.0593]
0.2023***
[0.0586]
モデル (10)
OLS
intf
-0.0340*
[0.0194]
-0.0127
[0.0181]
0.0205
[0.0124]
モデル (11)
OLS
licf
0.0012
[0.0095]
-0.0044
[0.0089]
0.0046
[0.0061]
モデル (12)
OLS
blockf
-0.0052
[0.0166]
0.0188
[0.0155]
-0.0082
[0.0107]
0.1857
[0.2802]
-0.5969***
[0.1956]
0.5348***
[0.1769]
-0.0116
[0.0329]
0
[0.0001]
-1.3383
[2.1320]
無し
0.181
[0.4887]
-0.2149
[0.3412]
0.1066
[0.3086]
-0.1210**
[0.0575]
-0.0004**
[0.0002]
-0.713
[3.7191]
無し
success
企業レベ
ルの変数
aveyear
ln(emp)*thicket_in
d
ln(rd/emp+avg/10
0)*thicket_ind
ln(exp/emp)*thick
et_ind
growth_ind
firms_ind
産業レベ
ルの変数
thicket_ind
産業ダミー
7.5984**
-0.5445
[2.9611]
[0.5705]
2.0315
0.5562
[1.4172]
[0.3984]
5.9508*** -0.4729
[1.7467]
[0.3602]
0.2717
-0.0614
[0.2701]
[0.0671]
0.0001
0.0005**
[0.0007]
[0.0002]
-72.7024*** 5.7268
[21.8778] [4.3418]
無し
無し
モデル (15)
OLS
licf
0.0001
[0.0108]
0.004
[0.0111]
0.0077
[0.0069]
0.032
[0.0904]
-0.016
[0.0156]
0.3809
[0.3467]
-0.9613***
[0.2366]
0.4397**
[0.1916]
-0.0294
[0.0372]
0
[0.0001]
-2.0719
[2.5595]
無し
モデル (16)
OLS
blockf
0.0002
[0.0183]
0.0172
[0.0187]
-0.0062
[0.0116]
0.1912
[0.1525]
0.0416
[0.0264]
0.1136
[0.5847]
-0.1398
[0.3990]
0.1669
[0.3230]
-0.1089*
[0.0627]
-0.0004**
[0.0002]
-0.4588
[4.3161]
無し
0.5830*** 0.0534
0.3442*** -2.0535** 0.9429*** 0.0866
0.1139
[0.1492]
[0.0733]
[0.1278]
[0.9736]
[0.2204]
[0.1115]
[0.1880]
サンプル数
239
239
239
239
200
200
200
200
対数尤度
-1473.066
x
x
x -1239.7867
x
x
x
修正済(疑似)決定係数
0.071
0.0761
0.0714
0.0051
0.0805
0.0828
0.1188
-0.0009
(注)avgは各変数の平均値、括弧内は標準誤差、NBREG推計モデルの場合、修正済決定係数の代わりに疑似決定係数を掲載、*は
10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
定数項
-0.5503
[0.6435]
モデル (13) モデル (14)
NBREG
OLS
patf
intf
0.7721*** -0.0495**
[0.0924]
[0.0214]
0.5620*** -0.0031
[0.0823]
[0.0219]
0.2295*** 0.0113
[0.0615]
[0.0136]
1.2867*
-0.3487*
[0.7388]
[0.1788]
0.2279
-0.0379
[0.1453]
[0.0309]
8.0524*** -0.9728
[3.0766]
[0.6855]
-1.6092
0.7918*
[1.7554]
[0.4677]
4.6045*** -0.2333
[1.7096]
[0.3787]
-0.052
-0.0506
[0.2764]
[0.0735]
0.0009
0.0004**
[0.0007]
[0.0002]
-67.8390*** 7.6519
[22.6247] [5.0601]
無し
無し
-97-
表5-b 推計結果(海外特許の利用構造;加重推計)
ln(emp)
ln(rd/emp+avg
/100)
ln(exp/emp)
企業レベ
ルの変数
ln(emp)*thicket_in
d
ln(rd/emp+avg/10
0)*thicket_ind
ln(exp/emp)*thick
et_ind
growth_ind
モデル (1)
OLS
intf
-0.0366**
[0.0143]
-0.0225
[0.0223]
0.0309**
[0.0138]
モデル (2)
OLS
licf
0.0389***
[0.0086]
-0.007
[0.0134]
0.0067
[0.0083]
モデル (3)
OLS
blockf
-0.0372***
[0.0124]
0.0657***
[0.0194]
-0.0197
[0.0120]
モデル (4)
OLS
intf
-0.0048
[0.0179]
-0.0820***
[0.0263]
0.0489***
[0.0147]
-1.4873***
[0.5545]
1.8120***
[0.5031]
-1.2721***
[0.4548]
モデル (5)
OLS
licf
0.0172*
[0.0104]
0.0348**
[0.0153]
-0.0098
[0.0086]
1.1125***
[0.3221]
-1.2779***
[0.2922]
1.2331***
[0.2641]
モデル (6)
OLS
blockf
-0.0048
[0.0156]
0.0672***
[0.0229]
-0.0196
[0.0128]
-1.9005***
[0.4826]
-0.3744
[0.4378]
-0.7529*
[0.3958]
firms_ind
産業レベ
ルの変数
thicket_ind
産業ダミー
定数項
サンプル数
修正済決定係数
34industries 34industries 34industries 34industries 34industries 34industries
0.4866
0.1876
0.6531
-0.394
0.8465
0.2137
[1.2770]
[0.7677]
[1.1120]
[1.2467]
[0.7241]
[1.0849]
236
236
236
236
236
236
0.3441
0.4626
0.4443
0.3921
0.535
0.4855
(注)avgは各変数の平均値、括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
ln(emp)
ln(rd/emp+avg
/100)
ln(exp/emp)
モデル (10)
OLS
intf
0.0336*
[0.0184]
-0.0232
[0.0193]
0.0455***
[0.0127]
モデル (11)
OLS
licf
-0.0008
[0.0107]
0.012
[0.0113]
-0.0211***
[0.0074]
モデル (12)
OLS
blockf
-0.0380**
[0.0171]
0.0890***
[0.0179]
-0.0369***
[0.0118]
-2.2563***
[0.5603]
1.3773***
[0.4814]
-1.3037***
[0.4926]
0.0051
[0.0504]
0.0004***
[0.0001]
19.6681***
[4.9863]
無し
1.6480*** -1.3079**
[0.3271]
[0.5218]
-1.3051*** -1.0456**
[0.2811]
[0.4483]
1.3460*** -0.0294
[0.2876]
[0.4587]
-0.0789*** -0.0586
[0.0294]
[0.0469]
0
0.0001
[0.0001]
[0.0001]
-12.9204*** 10.7055**
[2.9111]
[4.6434]
無し
無し
success
企業レベ
ルの変数
aveyear
ln(emp)*thicket_in
d
ln(rd/emp+avg/10
0)*thicket_ind
ln(exp/emp)*thick
et_ind
growth_ind
firms_ind
産業レベ
ルの変数
thicket_ind
産業ダミー
定数項
サンプル数
修正済決定係数
モデル (14)
OLS
intf
0.0138
[0.0196]
-0.0399
[0.0249]
0.0356**
[0.0139]
-0.1635
[0.2193]
0.0143
[0.0347]
-1.6116***
[0.5800]
1.7298***
[0.5360]
-0.8823*
[0.5126]
-0.0031
[0.0539]
0.0004**
[0.0002]
13.1259**
[5.1855]
無し
モデル (15)
OLS
licf
0.0129
[0.0112]
0.0330**
[0.0143]
-0.0138*
[0.0080]
-0.024
[0.1255]
-0.0554***
[0.0198]
1.2845***
[0.3319]
-1.4362***
[0.3067]
1.0634***
[0.2933]
-0.0301
[0.0309]
0.0002**
[0.0001]
-9.9129***
[2.9670]
無し
モデル (16)
OLS
blockf
-0.0331*
[0.0187]
0.1051***
[0.0238]
-0.0574***
[0.0133]
0.0746
[0.2091]
0.0098
[0.0331]
-1.3076**
[0.5530]
-1.4002***
[0.5111]
0.4747
[0.4888]
-0.0228
[0.0514]
0.0002
[0.0001]
9.7651**
[4.9444]
無し
-0.0339
0.1016
0.5432*** 0.1776
0.1128
0.4745**
[0.1498]
[0.0874]
[0.1395]
[0.2388]
[0.1366]
[0.2277]
236
236
236
197
197
197
0.1853
0.3704
0.2105
0.2377
0.4963
0.2682
(注)avgは各変数の平均値、括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
-98-
表6-a 推計結果(国内特許及び海外特許の利用構造;単純推計)
モデル (1) モデル (2) モデル (3) モデル (4) モデル (5) モデル (6) モデル (7)
dint
dlic
dblock
dint
dlic
dblock
dint
-0.0198
[0.0129]
-0.0057
[0.0134]
0.0025
[0.0094]
モデル (9) モデル (10) モデル (11) モデル (12)
dblock
dint
dlic
dblock
ln(emp)
0.0189
-0.0141
-0.0048
0.0161
[0.0121] [0.0153] [0.0061] [0.0145]
ln(rd/emp+avg
-0.0222*
-0.0025 0.0109*
-0.0305*
/100)
[0.0132] [0.0160] [0.0065] [0.0162]
0.003
0.0009
-0.0022
0.0071
ln(exp/emp)
[0.0086] [0.0106] [0.0043] [0.0100]
-0.3085
-0.1456
0.151
ln(emp)*thicket_ind
[0.4079] [0.1672] [0.3657]
ln(rd/emp+avg/10
-0.1516
-0.1962
0.2669
0)*thicket_ind
[0.3241] [0.1290] [0.2946]
ln(exp/emp)*thicke
0.0514
0.0828
-0.1422
t_ind
[0.2829] [0.1155] [0.2429]
定数項
0.0096 0.0137*** -0.0150** 定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し
[0.0077] [0.0042] [0.0069]
建設業
-0.1005** 0.0462**
-0.0401
0.1151
0.0013 -0.2882**
0.0823
-0.0052 -0.2802**
[0.0412] [0.0223] [0.0342] [0.1279] [0.0518] [0.1126] [0.1409] [0.0561] [0.1266]
食品工業
-0.1126***
0.0353
-0.0435
-0.0067
0.0741
-0.1728
-0.0638
0.0516
-0.1374
[0.0398] [0.0220] [0.0374] [0.1129] [0.0459] [0.1056] [0.1381] [0.0551] [0.1318]
繊維工業
0.0613
0.0517
-0.0665 0.2666**
0.0816 -0.2734** 0.2536**
0.0813 -0.2707**
[0.0617] [0.0361] [0.0537] [0.1221] [0.0514] [0.1125] [0.1254] [0.0523] [0.1166]
パルプ・紙工業
0.0379
0.0096
0.0466
0.1742
0.0495 -0.2621*
0.121
0.0334
-0.2463
[0.0920] [0.0510] [0.0783] [0.1578] [0.0634] [0.1347] [0.1795] [0.0712] [0.1576]
医薬品工業
-0.0831* 0.0624***
-0.0542
0.0533 0.1171**
-0.2
-0.0004 0.0915*
-0.1586
[0.0436] [0.0237] [0.0411] [0.1172] [0.0485] [0.1212] [0.1339] [0.0541] [0.1368]
8-10以外の化学工
-0.0324 0.0404**
-0.0293
0.1676
0.0385
-0.1566
0.1487
0.033
-0.1473
業
[0.0315] [0.0179] [0.0296] [0.1043] [0.0425] [0.0975] [0.1084] [0.0435] [0.1024]
石油製品・石炭製
-0.2127**
-0.0501 0.1687**
-0.1161
0
0.0893
-0.1388
-0.0045
0.0947
品工業
[0.0832] [0.0435] [0.0700] [0.1391] [0.0561] [0.1259] [0.1448] [0.0578] [0.1324]
プラスチック製品工
-0.0966***
0.0309
0.0249
0.0059
0.0456
-0.0981
-0.0612
0.0177
-0.0659
業
[0.0372] [0.0204] [0.0342] [0.1231] [0.0481] [0.1111] [0.1540] [0.0601] [0.1421]
ゴム製品工業
0.02
-0.0152
0.0149
0.0555 0.1438**
-0.2713
-0.0189
0.1197
-0.2373
[0.0633] [0.0416] [0.0668] [0.1606] [0.0688] [0.1806] [0.1969] [0.0815] [0.2117]
窯業
-0.1036*
0.0336
0.0763
0.1865
0.0525
-0.135
0.1997
0.0637
-0.1429
[0.0552] [0.0283] [0.0495] [0.1327] [0.0527] [0.1205] [0.1346] [0.0534] [0.1218]
鉄鋼業
-0.0362
0.0304
0.1326
0.0389
0.0759
0.0672
0.0587 0.0896*
0.0572
[0.0651] [0.0350] [0.0837] [0.1173] [0.0497] [0.1311] [0.1213] [0.0515] [0.1333]
金属製品工業
-0.0208 0.0722***
0.0028
0.0278 0.1084**
-0.0321
-0.0057 0.0978*
-0.0167
[0.0362] [0.0220] [0.0346] [0.1179] [0.0510] [0.1093] [0.1291] [0.0547] [0.1210]
機械工業
0.0631***
0.0029 -0.0410** 0.1931**
0.0616 -0.1984** 0.1920*
0.0661 -0.2008**
[0.0205] [0.0115] [0.0187] [0.0975] [0.0405] [0.0917] [0.0988] [0.0407] [0.0933]
0.0683***
0.0102
-0.0309 0.2514**
0.0452 -0.1925** 0.2765**
0.0608 -0.2040**
電気機械器具工業
[0.0218] [0.0119] [0.0194] [0.1016] [0.0413] [0.0955] [0.1077] [0.0438] [0.0995]
通信・電子・電気計
0.0604**
-0.0037
-0.0397 0.1914*
0.0179
-0.1507
0.4086
0.1263
-0.2462
測器工業
[0.0279] [0.0156] [0.0252] [0.1043] [0.0449] [0.0967] [0.3197] [0.1345] [0.2818]
自動車工業
0.0613**
0.0003
0.0034
0.1855
0.0485
-0.1215
0.1017
0.0147
-0.0848
[0.0307] [0.0162] [0.0279] [0.1147] [0.0480] [0.1089] [0.1636] [0.0666] [0.1557]
22以外の輸送用機
0.0042
0.0231
0.0452 0.2457*
0.0682
-0.0969
0.1792
0.0463
-0.0774
械工業
[0.0589] [0.0307] [0.0508] [0.1282] [0.0521] [0.1159] [0.1649] [0.0656] [0.1497]
精密機械工業
0.0684*
0.0081 -0.0827** 0.2375**
0.0378 -0.2027* 0.3155**
0.0768
-0.2368
[0.0383] [0.0228] [0.0364] [0.1160] [0.0474] [0.1118] [0.1595] [0.0649] [0.1447]
4-24以外の工業
0.0486 0.0352*
0.0102
0.178
0.0126
-0.1748
0.1557
0.0054
-0.1613
[0.0366] [0.0210] [0.0350] [0.1157] [0.0481] [0.1095] [0.1205] [0.0494] [0.1149]
運輸・公益業
-0.2507*** 0.1183***
-0.0431 -0.6980** 0.7518***
-0.0657 -0.6684** 0.7704***
-0.0833
[0.0766] [0.0400] [0.0639] [0.2896] [0.1158] [0.2412] [0.2933] [0.1172] [0.2439]
卸売業
-0.0464
0.0036 0.1230** 0.4854*
-0.2928**
-0.2504
0.4465 -0.2769**
-0.2925
[0.0541] [0.0315] [0.0554] [0.2904] [0.1161] [0.2437] [0.3224] [0.1278] [0.2787]
飲食店・宿泊業
0.0922 0.3750***
0
0
0
0
0
0
0
[0.2761] [0.1442] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000]
公的研究機関(独
-0.0177 -0.0919***
0.0628
0
0
0
0
0
0
立行政法人を含
[0.0690] [0.0340] [0.0554] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000]
33-35以外の研究
-0.0503 -0.0929** 0.1180*
-0.3799*
-0.0496
-0.1318 -0.4068*
-0.0434
-0.154
開発・分析試験業
[0.0766] [0.0385] [0.0639] [0.1980] [0.0789] [0.1641] [0.2161] [0.0854] [0.1842]
その他の業種
-0.0339 -0.0778*
0.0353
0
0
0
0
0
0
[0.0832] [0.0416] [0.0592] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000]
サンプル数
1329
1195
1032
1329
1195
1032
349
327
258
349
327
258
F値
0
0
0
2.47
2.26
1.46
2.24
3.12
1.51
2.04
2.94
1.39
Prob > F
x
x
x
0
0
0.0404
0.0004
0
0.0533
0.0011
0
0.0875
修正済決定係数
0
0
0
0.0394
0.0376
0.0158
0.0931
0.1534
0.0537
0.0872
0.1553
0.0465
(注)括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
-99-
モデル (8)
dlic
-0.0068
[0.0053]
0.006
[0.0055]
-0.0003
[0.0038]
表6-b 推計結果(国内特許及び海外特許の利用構造;加重推計)
モデル (1) モデル (2) モデル (3) モデル (4) モデル (5) モデル (6) モデル (7) モデル (8)
dint
dlic
dblock
dint
dlic
dblock
dint
dlic
-0.0659*** -0.0036
[0.0115] [0.0047]
0.0135
0.0056
[0.0116] [0.0055]
-0.0045
-0.0062
[0.0102] [0.0042]
モデル (9) モデル (10) モデル (11) モデル (12)
dblock
dint
dlic
dblock
ln(emp)
0.0341*** -0.0632***
0.0006 0.0390***
[0.0098] [0.0156] [0.0062] [0.0146]
ln(rd/emp+avg
-0.0309***
0.0105
0.0059 -0.0414***
/100)
[0.0108] [0.0152] [0.0066] [0.0150]
ln(exp/emp)
0.0074
0.0104
-0.0039
0.0039
[0.0082] [0.0119] [0.0047] [0.0096]
-0.2646
-0.2117
-0.1746
ln(emp)*thicket_ind
[0.4788] [0.1872] [0.4295]
ln(rd/emp+avg/10
0.2903
0.0343
0.4168
0)*thicket_ind
[0.4512] [0.1788] [0.4660]
ln(exp/emp)*thicke
-1.1016*** -0.2172
0.2151
t_ind
[0.3961] [0.1506] [0.3135]
定数項
-0.0260*** -0.0062* -0.0227***定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し 定数項無し
[0.0062] [0.0032] [0.0058]
建設業
0.0103 0.0745*** -0.0978*** 0.5577***
-0.0015 -0.3773*** 0.5218***
-0.0329 -0.4142***
[0.0396] [0.0187] [0.0305] [0.1255] [0.0493] [0.0987] [0.1447] [0.0568] [0.1257]
食品工業
-0.1651*** 0.0686***
0.0325 0.3440**
0.0886 -0.2428** 0.2970*
0.0413 -0.2748*
[0.0530] [0.0230] [0.0478] [0.1462] [0.0574] [0.1113] [0.1798] [0.0703] [0.1541]
繊維工業
0.098
0.013
-0.027 0.5603***
0.042 -0.2941** 0.5595***
0.0288 -0.3175**
[0.0947] [0.0465] [0.0788] [0.1796] [0.0706] [0.1321] [0.1823] [0.0719] [0.1397]
パルプ・紙工業
-0.0048
0.0212
-0.065 0.5005***
0.0678 -0.3754*** 0.4002*
0.0113 -0.4020**
[0.1070] [0.0525] [0.0851] [0.1931] [0.0755] [0.1412] [0.2177] [0.0850] [0.1762]
総合化学・化学繊
-0.0001
0.0086 0.1014*** 0.5071***
0.0541
-0.1192 0.3972**
-0.0148
-0.142
維工業
[0.0287] [0.0123] [0.0284] [0.1022] [0.0404] [0.0874] [0.1627] [0.0637] [0.1540]
油脂・塗料工業
-0.2146***
0.017 0.2448*** 0.2888**
0.0423
0.0449
0.217
-0.0305
0.0129
[0.0510] [0.0221] [0.0421] [0.1252] [0.0477] [0.1010] [0.2033] [0.0772] [0.1868]
医薬品工業
-0.0174 0.0662*
-0.0872 0.4914***
0.0965 -0.3693** 0.4643**
0.0567 -0.3918**
[0.0684] [0.0348] [0.0741] [0.1599] [0.0660] [0.1523] [0.1829] [0.0743] [0.1792]
8-10以外の化学工
0.0579** -0.0917*** -0.0315 0.6446*** -0.0798* -0.3089*** 0.6289*** -0.1013** -0.3242***
業
[0.0253] [0.0126] [0.0225] [0.1044] [0.0424] [0.0915] [0.1141] [0.0461] [0.1079]
石油製品・石炭製
-0.1358* -0.1511*** 0.2066*** 0.3002*
-0.0304
-0.0317
0.2831
-0.0511
-0.0544
品工業
[0.0770] [0.0372] [0.0616] [0.1803] [0.0705] [0.1363] [0.1855] [0.0728] [0.1469]
プラスチック製品工
-0.1009**
0.014
0.0352 0.3782***
0.034 -0.2094** 0.3068*
-0.0258
-0.2441
業
[0.0514] [0.0215] [0.0438] [0.1289] [0.0449] [0.0990] [0.1738] [0.0634] [0.1526]
ゴム製品工業
-0.1008** 0.0669***
-0.0037 0.4800*** 0.1380** -0.3808*** 0.3585*
0.0656 -0.4260**
[0.0422] [0.0254] [0.0561] [0.1244] [0.0556] [0.1353] [0.1893] [0.0797] [0.1947]
窯業
-0.0089
0.0294
-0.0134 0.5768***
0.0591 -0.2986*** 0.6061***
0.0689 -0.3044***
[0.0541] [0.0205] [0.0453] [0.1322] [0.0459] [0.1043] [0.1315] [0.0459] [0.1048]
鉄鋼業
-0.2160*** -0.0166
0.1157 0.3268***
0.0333
-0.1466 0.4114***
0.0614
-0.1534
[0.0528] [0.0172] [0.0787] [0.1226] [0.0465] [0.1292] [0.1266] [0.0482] [0.1312]
非鉄金属工業
0.0555*
-0.014 -0.0579** 0.5776***
0.0183 -0.4239*** 0.6024***
0.0182 -0.4361***
[0.0292] [0.0135] [0.0241] [0.1012] [0.0409] [0.0860] [0.1016] [0.0412] [0.0893]
金属製品工業
-0.0785 0.0519**
-0.0208 0.3893***
0.0663
-0.1692 0.3609**
0.0347
-0.1982
[0.0538] [0.0259] [0.0422] [0.1379] [0.0554] [0.1060] [0.1552] [0.0621] [0.1306]
機械工業
0.0541*** 0.0161*
-0.1021*** 0.5601*** 0.0809** -0.3422*** 0.5810*** 0.0788** -0.3546***
[0.0183] [0.0091] [0.0176] [0.0942] [0.0386] [0.0787] [0.0953] [0.0390] [0.0827]
電気機械器具工業
-0.0831*** -0.0096 -0.0273*** 0.5369***
0.0248 -0.3219*** 0.6227***
0.0502 -0.3307***
[0.0100] [0.0064] [0.0098] [0.1067] [0.0422] [0.0912] [0.1130] [0.0441] [0.0943]
通信・電子・電気計
-0.0005 -0.0247**
-0.0066 0.5398***
-0.0055 -0.2233*** 0.9422***
0.2114
-0.2005
測器工業
[0.0216] [0.0098] [0.0199] [0.0999] [0.0403] [0.0853] [0.3622] [0.1443] [0.3119]
自動車工業
0.0057
-0.014
0.0093 0.5938***
0.0327 -0.2723*** 0.4477**
-0.0569 -0.3058*
[0.0198] [0.0090] [0.0225] [0.1076] [0.0445] [0.0918] [0.1886] [0.0750] [0.1756]
22以外の輸送用機
0.0877
0.0103
0.0543 0.6933***
0.0488 -0.2342* 0.5796***
-0.0207
-0.2742
械工業
[0.0567] [0.0247] [0.0670] [0.1342] [0.0534] [0.1355] [0.1894] [0.0741] [0.1787]
精密機械工業
0.0091 0.0345** -0.0562* 0.5594***
0.032 -0.3217*** 0.7372*** 0.1101*
-0.3082**
[0.0288] [0.0138] [0.0289] [0.1099] [0.0439] [0.0934] [0.1705] [0.0658] [0.1442]
4-24以外の工業
0.1744***
-0.0274 -0.0914*** 0.7094***
-0.0122 -0.3487*** 0.6978***
-0.033 -0.3663***
[0.0378] [0.0188] [0.0316] [0.1087] [0.0436] [0.0881] [0.1189] [0.0474] [0.1040]
運輸・公益業
-0.1962*** 0.0747***
-0.0463
-0.2076 0.7180**
-0.2354
-0.1436 0.7432**
-0.2201
[0.0525] [0.0254] [0.0406] [0.8302] [0.3215] [0.5792] [0.8239] [0.3209] [0.5815]
情報通信業
0.1692*
0.029 -0.1529*
0
0
0
0
0
0
[0.0929] [0.0405] [0.0897] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000]
公的研究機関(独
0.0003 -0.1365***
0.1263
0
0
0
0
0
0
立行政法人を含
[0.0878] [0.0373] [0.0839] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000]
33-35以外の研究
0.004 -0.2297***
0.0258 0.4922*** -0.2282*** -0.3596*** 0.3870*
-0.2815*** -0.4684**
開発・分析試験業
[0.0770] [0.0350] [0.0586] [0.1568] [0.0637] [0.1224] [0.2128] [0.0846] [0.1898]
その他の業種
0.0028 -0.1364***
0.0026
0
0
0
0
0
0
[0.1741] [0.0320] [0.0512] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000] [0.0000]
サンプル数
1327
1193
1028
1327
1193
1028
349
327
258
349
327
258
F値
0
0
0
5.22
6.1
4.02
3.62
4.86
3.57
3.62
4.59
3.28
Prob > F
x
x
x
0
0
0
0
0
0
0
0
0
修正済決定係数
0
0
0
0.1053
0.1366
0.0957
0.1785
0.2484
0.224
0.1936
0.2542
0.2207
(注)括弧内は標準誤差、*は10%有意水準、**は5%有意水準、***は1%有意水準。
-100-
表7-a 各変数の記述統計量(国内特許の利用構造)
(obs=1157)
patd
intd
licd
blockd
emp
rd/emp
sales/emp
(obs=1151)
patd
intd
licd
blockd
emp
rd/emp
sales/emp
growth_ind
firms_ind
thicket_ind
(obs=336)
patd
intd
licd
blockd
emp
rd/emp
sales/emp
success
aveyear
growth_ind
firms_ind
thicket_ind
変数名
patd
intd
licd
blockd
emp
rd/emp
sales/emp
サンプル数 平均値 標準偏差
1157 189.1073
645.631
1157
0.54654 0.2844279
1157 0.0684266 0.1661699
1157 0.2187055 0.2380124
1157 1192.587 2974.198
1157 1.902121 10.66594
1157 59.42785 90.35898
変数名
patd
intd
licd
blockd
emp
rd/emp
sales/emp
growth_ind
firms_ind
thicket_ind
サンプル数
1151
1151
1151
1151
1151
1151
1151
1151
1151
1151
平均値
190.0383
0.5459849
0.0685563
0.219498
1188.842
1.909172
59.52962
0.0746298
225.1894
0.0140217
標準偏差
最小値
最大値
647.1834
0.5
9860
0.2841819
0
1
0.1665288
0
1
0.238135
0 0.9552239
2967.188
2
38950
10.6932
0 328.4667
90.52594 1.458333 1619.355
0.4590098 -0.6292538 10.85895
112.8681
11
417
0.0312842
-0.019
0.118
変数名
patd
intd
licd
blockd
emp
rd/emp
sales/emp
success
aveyear
growth_ind
firms_ind
thicket_ind
サンプル数
336
336
336
336
336
336
336
336
336
336
336
336
平均値
444.9896
0.4790483
0.063425
0.2480356
2566.024
2.075285
78.86042
0.3492938
2.862619
0.0636541
221.5119
0.0155952
標準偏差
最小値
最大値
982.9255
1
9483
0.2508223
0
1
0.1368158
0 0.9319372
0.2374765
0 0.9368635
4866.751
12
38950
6.109374
0 107.6385
135.8829
9.25 1619.355
0.2272507
0
1
1.238373
0 6.721461
0.3328352 -0.6292538 1.054003
115.0409
17
417
0.0312468
-0.019
0.118
patd
intd
1
-0.1667
0.0703
0.0284
0.5683
0.0615
0.0728
1
-0.1458
-0.4767
-0.114
-0.0428
-0.1
patd
intd
1
-0.1667
0.0701
0.0275
0.5716
0.0613
0.0726
-0.007
0.0054
0.0356
1
-0.1442
-0.4778
-0.1114
-0.0426
-0.0982
-0.0679
0.0803
0.0333
patd
intd
1
-0.1758
0.0648
-0.003
0.5518
0.1899
0.0128
-0.1242
0.1308
-0.0185
0.0088
0.0221
1
-0.1824
-0.4408
-0.0706
-0.0375
-0.0099
0.1007
-0.1671
-0.0404
0.0327
-0.0038
licd
1
-0.1212
0.0493
0.0124
0.0334
licd
1
-0.1217
0.0486
0.0123
0.0328
0.0693
0.0043
0.0984
licd
1
-0.0552
0.0717
-0.0155
0.0177
-0.0398
0.0615
0.0487
0.0578
0.1751
blockd
1
-0.01
0.0294
0.0651
emp
1
0.0013
0.0605
rd/emp
sales/emp
1
0.0262
blockd
emp
rd/emp
1
-0.0083
0.029
0.0646
-0.0368
-0.0972
-0.0439
1
0.0016
0.0577
-0.0177
-0.0648
0.016
1
0.0261
0.0536
-0.0642
-0.0098
blockd
emp
rd/emp
1
-0.0821
0.0959
0.0175
0.0216
0.0819
-0.1533
-0.0723
-0.1005
1
-0.0014
-0.0031
-0.1167
0.0889
-0.0697
-0.0826
-0.0043
最小値
最大値
0.5
9860
0
1
0
1
0 0.9552239
2
38950
0 328.4667
1.458333 1619.355
1
sales/emp growth_ind firms_ind thicket_ind
1
-0.0197
-0.0805
-0.0649
sales/emp
1
0.0335
-0.061
0.0443
0.0572
0.0565
0.0518
-101-
1
0.0796
-0.0422
-0.0378
-0.1103
-0.0649
1
-0.1888
0.3268
success
1
-0.8036
-0.033
0.0402
-0.0448
1
0.101
1
aveyear growth_ind firms_ind thicket_ind
1
-0.0004
-0.0426
-0.0044
1
-0.2108
0.4717
1
0.0954
1
表7-b 各変数の記述統計量(海外特許の利用構造)
変数名
(obs=239)
patf
intf
licf
blockf
emp
rd/emp
exp/emp
(obs=239)
patf
intf
licf
blockf
emp
rd/emp
exp/emp
growth_ind
firms_ind
thicket_ind
(obs=200)
patf
intf
licf
blockf
emp
rd/emp
exp/emp
success
aveyear
growth_ind
firms_ind
thicket_ind
patf
intf
licf
blockf
emp
rd/emp
exp/emp
サンプル数 平均値 標準偏差
最小値
最大値
239 495.8796 1790.992
0.3
22915
239 0.4806785 0.3144793
0
1
239 0.0682752 0.1540355
0
1
239 0.2194789 0.2595848
0 0.9882813
239 2504.958 4058.368
12
34700
239 2.478523 7.163851
0 107.6385
239 21.97777 107.5871 0.0045662
1381.25
変数名
patf
intf
licf
blockf
emp
rd/emp
exp/emp
growth_ind
firms_ind
thicket_ind
サンプル数
239
239
239
239
239
239
239
239
239
239
変数名
patf
intf
licf
blockf
emp
rd/emp
exp/emp
success
aveyear
growth_ind
firms_ind
thicket_ind
サンプル数 平均値 標準偏差
最小値
最大値
200 545.0756 1945.083
0.3
22915
200 0.475766 0.315428
0
1
200 0.0758981 0.1627798
0
1
200 0.219371 0.2575574
0 0.9882813
200
2636.43 4234.334
12
34700
200 2.610355 7.770968
0 107.6385
200 24.48488 117.2764 0.0045662
1381.25
200 0.3202774 0.2087346
0
1
200 3.037321 1.225715 0.0027379
6.33516
200 0.0748311 0.3649264 -0.6292538 1.054003
200
214.14 116.1611
17
417
200 0.017615 0.034198
-0.019
0.118
平均値
495.8796
0.4806785
0.0682752
0.2194789
2504.958
2.478523
21.97777
0.0774844
216.6987
0.0172176
patf
intf
licf
blockf
emp
1
-0.0798
0.0662
0.0212
0.3726
0.0753
-0.0147
rd/emp
1
-0.1528
-0.4078
-0.0949
0.0954
-0.0243
1
-0.0609
0.0734
-0.0129
0.0541
1
-0.0733
-0.0451
-0.1116
1
0.0021
-0.0602
patf
intf
licf
blockf
emp
1
-0.0798
0.0662
0.0212
0.3726
0.0753
-0.0147
0.0002
-0.0525
0.001
1
-0.1528
-0.4078
-0.0949
0.0954
-0.0243
-0.0353
0.2182
0.1368
1
-0.0609
0.0734
-0.0129
0.0541
0.0308
-0.0041
0.1085
1
-0.0733
-0.0451
-0.1116
-0.0856
-0.1265
-0.017
1
0.0021
-0.0602
0.0044
-0.0368
-0.0189
patf
intf
licf
blockf
emp
rd/emp
1
-0.0757
0.0611
0.0329
0.3741
0.072
-0.0174
-0.0539
0.0824
-0.0076
-0.04
0.0122
1
-0.1674
-0.425
-0.1161
0.1128
-0.0306
-0.0787
0.0015
-0.0308
0.2005
0.0911
1
-0.0653
0.0748
-0.0155
0.052
0.0858
-0.0946
0.0227
0.0274
0.1438
1
-0.0573
-0.0401
-0.117
-0.0036
0.0734
-0.0762
-0.1348
-0.0322
1
0.0006
-0.0638
-0.1449
0.1149
-0.0424
-0.019
-0.0511
1
0.0173
-0.0206
0.0121
0.0416
0.079
0.0421
exp/emp
1
0.0218
rd/emp
標準偏差
最小値
最大値
1790.992
0.3
22915
0.3144793
0
1
0.1540355
0
1
0.2595848
0 0.9882813
4058.368
12
34700
7.163851
0 107.6385
107.5871 0.0045662
1381.25
0.357485 -0.6292538 1.054003
115.9646
17
417
0.0335655
-0.019
0.118
1
exp/emp growth_ind firms_ind thicket_ind
1
0.0218
0.0331
0.0742
0.0365
1
0.0252
0.0087
-0.033
exp/emp
-102-
1
-0.0394
0.0282
0.0328
0.0043
-0.0385
1
-0.2165
0.4898
success
1
-0.8142
-0.0056
-0.0798
-0.0523
1
0.1337
1
aveyear growth_ind firms_ind thicket_ind
1
0.0105
0.0742
0.022
1
-0.186
0.5278
1
0.1378
1
表7-c 各変数の記述統計量(国内特許及び海外特許の利用構造)
変数名
サンプル数 平均値 標準偏差
最小値
最大値
1329 0.0096186 0.2816113
-1 0.9454545
1195 0.0137241 0.1464249 -0.8142857
1
1032 -0.015029 0.222781
-1 0.9303958
変数名
サンプル数 平均値 標準偏差
最小値
最大値
349 0.0121182 0.2682157
-0.9 0.939759
327 0.0024576 0.109726 -0.6468579 0.6666667
258 -0.027586 0.2084065 -0.7771084 0.8245614
349 2678.948 4698.176
12
35580
349 2.456893 6.108016
0 107.6385
349 19.27938 90.37717 0.0045662
1381.25
dint
dlic
dblock
dint
dlic
dblock
emp
rd/emp
exp/emp
(obs=349)
dint
emp
rd/emp
exp/emp
(obs=327)
dlic
emp
rd/emp
exp/emp
(obs=258)
dblock
emp
rd/emp
exp/emp
dint
emp
1
-0.0983
0.0904
-0.166
1
0.0563
-0.0283
dlic
emp
1
-0.0012
0.0055
0.0184
1
0.0487
-0.0257
dblock
emp
1
0.047
-0.1659
0.007
1
0.022
-0.0519
rd/emp
1
0.0278
rd/emp
1
0.0269
rd/emp
1
0.0251
exp/emp
1
exp/emp
1
exp/emp
1
④まとめ
以上をまとめると、産業分野の差、及び企業間の差はあるものの、国内特許と外国特許
の利用構造はかなり類似している。すなわち、自社実施率、他社実施率及びブロッキング
特許の割合において、国内特許と外国特許は類似している。日本の特許制度と米国などの
特許制度の差、企業の国内の補完的資産と海外の補完的資産の整備の差など、国内特許と
外国特許の利用のパターンに影響する基本的な要因がかなり異なるにもかかわらず、これ
が成立しているのが興味深い点である。
(4)結論
本稿では日本企業の国内保有特許が海外で保有する特許件数と比較して著しく多いのは
なぜかを中心的な研究課題として、
(2)節において日本企業による国内特許と海外特許の
保有・出願について比較分析を行い、
(3)節において特許の利用の観点から日本企業が保
有する国内特許と外国特許の比較を行った。結論は、日本企業が保有する国内特許と外国
特許の利用パターンは非常に良く似ており、主たる原因は日本企業のグローバル化がまだ
-103-
進んでいない点に求められると考えられる。
より詳細には以下のとおりである。
第1に、国内出願と比較して米国に出願し、国内保有特許と比較して海外保有特許を多
数保有している産業は医薬品産業である。これに続いて、通信・電子・電気計測器工業、
食品工業、自動車以外の輸送用機械工業、精密機械工業等において特許出願の国際性が高
い。これらの産業に共通している特徴は事業展開がグローバルでありまた高度な水準で研
究開発に従事している企業の海外出願比率が高い。
第2に、各産業内の企業間の差に注目しても、輸出比率が高く、研究開発集約度が高く、
また海外にライセンスを行っている企業が、有意に国内特許に対する外国特許の保有比率
が高い。
第3に、産業分野の差、及び企業間の差はあるものの、国内特許と外国特許の利用構造
はかなり類似している。すなわち、自社実施率、他社実施率及びブロッキング特許の割合
において、国内特許と外国特許は類似している。日本の特許制度と米国などの特許制度の
差、企業の国内の補完的資産と海外の補完的資産の整備の差など、国内特許と外国特許の
利用のパターンに影響する基本的な要因がかなり異なるにもかかわらず、これが成立して
いる。
(長岡
-104-
貞男、西村
陽一郎)
付録
「PATVAL サーベイ」は 1993 年から 97 年にかけて欧州特許庁に出願された欧州特許の発
明者(フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、イギリス在留者)を調査対象と
して、欧州委員会の支援の下 2003 年5月から 2004 年1月にかけて実施された調査である。
この調査は、9624 名の発明者が回答し、9017 特許(ドイツ 3346 特許、フランス 1486 特許、
イギリス 1542 特許、イタリア 1250 特許、オランダ 1124 特許、スペイン 269 特許)をカバ
ーしている調査である。また、対象の技術分野はバイオテクノロジー、医薬、化学、コン
ピュータ、通信、電気工学、機械工学、計測器などである。
また、
「PATVAL サーベイ」では6つの利用態様((1)自社実施特許、(2)他社実施許諾特
許、(3)クロスライセンス特許、(4)他社実施許諾・利用特許、(5)ブロッキング特許、(6)
休眠特許)に分けて特許の利用を調査している。本調査では、自社実施とは、社内において
製品の生産や販売活動に供された特許をさし、他社実施許諾特許は自社実施特許ではない
が、第三者に実施を許諾している特許をさし、クロスライセンス特許は他社と相互に実施
を許諾した特許をさす。また、他社実施許諾・利用特許とは第三者に実施許諾し、かつ自
社実施している特許をさし、ブロッキング特許とは、自社実施も他社実施許諾もしておら
ず将来実施予定にない特許のうち、競合他社の実施をブロックする目的のために供される
特許をさし、休眠特許とは(1)~(5)で利用されている特許以外の休眠した特許をさすと
している。
付録の表1は「PATVAL サーベイ」において特許の利用構造を技術分野別に示したもので
ある。「PATVAL サーベイ」では有機精密化学(Organic Fine Chemistry)、石油化学・基礎
素材化学(Chemical & Petrol Industry, Basic Materials Chemistry)、医薬・化粧品
(Pharmaceuticals & Cosmetics)、高分子化学(Macromolecular Chemistry & Polymers)で
は高い。他方で、化学工学、バイオ、原子工学、環境技術、農業・食物、機械装置は低い。
-105-
付録表1 特許の利用構造(技術分野別)
技術分野別
自社実施 他社実施 ブロッキング目的
23.09%
6.05%
37.22%
Organic Fine Chemistry
Chemical & Petrol Industry, Basic Materials
49.43%
4.18%
27.00%
Chemistry
34.85%
9.85%
25.00%
Pharmaceuticals & Cosmetics
44.29%
3.81%
24.29%
Macromolecular Chemistry & Polymers
47.71%
4.13%
23.39%
Engines, Pumps & Turbines
37.83%
3.48%
21.74%
Telecommunications
51.02%
14.29%
20.41%
Agriculture, & Food Chemistry
56.25%
3.87%
20.24%
Mechanical Elements
49.77%
10.09%
19.25%
Materials Processing, Textiles & Paper
46.05%
1.32%
18.42%
Semiconductors
43.71%
6.59%
17.96%
Information Technology
Electrical Devices, Electrical Eng. & Electrical
55.52%
2.76%
17.93%
Energy
38.62%
6.90%
17.93%
Optics
52.42%
3.90%
16.91%
Transport
48.80%
11.20%
16.80%
Surface Technology & Coating
62.79%
8.01%
16.54%
Consumer Goods & Equipment
44.96%
6.59%
16.28%
Materials & Metallurgy
54.22%
9.64%
16.27%
Thermal Processes & Apparatus
62.14%
5.36%
15.71%
Machine Tools
64.32%
2.62%
15.38%
Handling & Printing
47.74%
11.56%
15.08%
Medical Technology
50.00%
7.53%
15.07%
Audio-visual Technology
51.22%
4.88%
14.63%
Space Technology Weapons
58.84%
7.93%
14.63%
Civil Eng., Building & Mining
50.21%
8.94%
13.19%
Analysis, Measurement, & Control Technology
50.21%
12.55%
12.97%
Chemical Engineering
38.89%
18.52%
12.96%
Biotechnology
47.06%
5.88%
11.76%
Nuclear Engineering
37.59%
9.02%
11.28%
Environmental Technology
Agricultural & Food Processing, Machinery &
70.91%
7.27%
9.70%
Apparatus
50.50%
6.38%
18.69%
Total
(注1)数値は技術分野別単純平均。
(注2)「PATVAL サーベイ」のデータを用いて筆者作成。
-106-
個別特許別にみると、比較的価値の高い特許でさえもブロッキング特許となっている。
付録表2 特許価値別特許の利用構造
特許の価値
自社実施
他社実施
ブロッキング目的
総計
<30k
5.71%
2.70%
10.44%
7.23%
30k-100k
17.03%
13.93%
16.68%
16.98%
100k-300k
21.04%
15.96%
19.72%
20.54%
300k-1m
22.31%
24.72%
21.43%
22.24%
1m-3m
15.34%
20.67%
17.15%
15.76%
3m-10m
10.84%
12.81%
7.33%
9.87%
10m-30m
4.04%
4.72%
3.35%
3.80%
30m-100m
2.29%
1.57%
1.79%
2.06%
100m-300m
0.60%
1.57%
0.70%
0.67%
>300m
0.80%
1.35%
1.40%
0.87%
Total
100.00%
100.00%
100.00%
100.00%
特許の価値の平均
9,472 (39,551) 5,452 (17,126) 7,845 (38,039) 6,580 (31,450)
被引用件数の平均値
0.60 (1.41)
0.85 (1.72)
0.94 (2.17)
0.95 (1.88)
異議申し立て・無効審判請求された特
9.96%
11.11%
6.66%
8.13%
許の比率
サンプル数
492
306
1441
7710
(注)kは千ドル、mは百万ドルをさす。
(注1) 数値は特許の価値階級別単純平均。
(注2)「PATVAL サーベイ」のデータを用いて筆者作成。
-107-
4.
(1)
研究開発戦略と企業の財務構造
はじめに
この研究の目的は、企業の研究開発活動の注力度合いやその特徴が、その企業の財務面
に表れる資金調達行動にどのような影響を与えているかを分析することである。我々がこ
の関係に着目して分析を行う意図は、企業の資金調達行動の違いには、企業の外からみた
その企業の将来の収益性に対するリスクの評価や不透明性が反映されていると考えるから
である。したがって、企業の研究開発活動と財務面の関係を調べることによって、研究開
発活動の成果に対する、企業外から評価した不確実性や不透明性の大きさをとらえること
ができる。
研究開発活動が平均的に高い収益率をあげていることは多くの研究結果で確認されてい
るが、その一方で、研究開発活動が企業の将来収益に及ぼす不確実性の大きさ、すなわち
研究開発活動に伴う収益性のリスクの大きさを分析する研究はまだ十分になされていると
は言えない。
また、企業が特定の研究開発活動に注力することによって、その企業の将来収益性や存
続に対するリスクが高まったと金融機関や金融市場から評価されて、資金調達方法を制約
され、より調達コストの高い方法で資金調達を行わなければならなくなったり、あるいは
調達金利のリスクプレミアムが高まるなどすれば、こうした研究開発活動に伴うリスクは、
その企業が資本コストの上昇という形で負担していることになる。近年では、企業の社内
研究開発活動の成果の正当な帰属の大きさをめぐって、発明を行った社員と企業との間で
係争が持ち上がって注目されることも多いが、こうした場合にも問題になるのは、研究開
発のリスクを負担する企業の貢献の大きさの評価である。
ところで、研究開発活動のリスクに対する社外からの評価を考えるときには、研究開発
そのものが成功する確率の評価に加えて、それから得られる利益の評価の不透明性が問題
となる。こうした観点からは、研究開発の成果が特許化されるもので、また、ライセンス
契約などの取引になじみやすいものであれば、社外からの評価の不透明度が軽減されると
考えられる。これに対して、研究開発の成果を実現するためには、社内に蓄積されてきた
製造ノウハウなど様々な経営資源と組み合わせることが必要となるような場合には、不透
明性の度合いが高まると考えられる。
こうした問題意識から、我々は、企業の研究開発に対する取り組みの度合いと、それに
よって生み出される研究開発成果の特徴が、企業が資金調達を行う場合のリスク評価にど
のように反映され、その結果、企業の資金調達行動にどのように影響を与えているかを分
析する研究に取り組んできた。次節では、研究開発活動と企業財務の関係の研究をサーベ
イする。こうした文献では、どちらかと言えば企業の資金調達方法に対する制約が研究開
-108-
発活動への取り組みにどのような影響を与えるかという方向の因果関係に着目した研究が
多くなされている。これに対して、我々の問題関心のように、企業の研究開発活動に対す
る取り組みの度合いや特徴が、逆に企業の資金調達方法をどのように制約しているかとい
う観点からの研究は、それほど多くない。第3節では、今回行う推定の定式化を説明し、
第4節ではその結果を報告する。最後に、第5節で今後の課題に言及する。
(2)
企業財務と研究開発活動の関係についての先行研究
企業における内部資金が企業活動にどのような影響を与えるかに関しては、様々な仮説
がある。その中でも研究開発投資については、企業規模が大きく、豊富な内部資金を持つ
企業の優位性が主張されてきた。その理由は、企業規模の大きさが、研究開発の成果をど
のくらい占有できるかということに大きく影響するからである。
そもそも研究開発投資をどのくらい行うかは、その成果の占有可能性の程度に大きく左
右される。なぜなら、研究開発の産出となる知識は極めて公共財的であり、何らかの対処
がなされない限り簡単に他者に模倣されてしまうからである。
知識や技術は、その使用に関して競合性がない。また、一度漏出してしまった知識の使
用を排他的に禁止することが難しい。もちろん特許制度により、ある程度は新知識の排他
性が保証されるが、特許制度によって新知識が保護される期間は有限で、かつ効果は限定
的であり完璧とはいえない。すなわち、知識は非競合性、非排除性の特性を備え、公共財
的な性質をもっていることが分かる。
研究開発投資により新知識を生み出した企業にとっては、その知識をなるべく他企業に
使わせないことが利益に繋がる。つまり知識の占有可能性がその知識を得るために行った
投資の収益率に直結する。ここで資金調達上の問題が生じることになる。研究開発投資は
その成果に関して不確実であり、また、資金を提供する主体と研究開発投資の実施主体の
間には情報の非対称性がある。研究開発の成功確率をより正確に評価できるのは研究開発
投資を行う企業自身であり、外部に存在し資金提供を行う主体ではない。外部にある資金
提供のための主体は、その研究開発活動に関する情報の非対称性を緩和するために、研究
開発活動を行う企業の情報が必要になるが、この情報開示そのものが新知識の占有可能性
を低下させることになってしまうため、そのような情報の開示は結局、実施されない。し
たがって、情報の非対称性はそのまま維持されることになる。
この場合、研究開発活動を行う主体はその資金を外部に求めることができないため、自
ら資金を調達しなければいけないことになる。そして、この内部資金は一般に企業規模の
大きい企業の方が潤沢に保有している傾向がある。このことから、研究開発活動と企業規
模の大きさが関連していると主張されるのである。
-109-
さらに、研究活動に外部性があることが、様々な実証研究によって確かめられている1。
研究開発活動に外部性があるということは、研究開発投資のリターンが研究開発投資を行
った企業以外にも行き渡ってしまうことを意味する。研究開発活動の成果が他者から与え
られる環境があるということは、研究開発投資にはフリーライドの誘因が存在すること、
研究開発の成果に関する占有は限定的であることを示唆している。
以上の例から分かるように、研究開発投資に関する資金をどのように調達するかという
ことは、研究開発活動を円滑に行う上で大きな問題となる。企業は研究開発のための資金
を内部又は外部の資本市場で調達しなければならない。外部の資本市場に頼る限り情報の
非対称性の問題に直面するのであるから、内部資金の豊富な企業の方が有利になることが
推測できる。また、外部に公表する情報が企業の占有可能性を維持するために限定的であ
る限り、内部資本が少ない企業の研究開発投資は最適な水準を下回ることになる。したが
って、より大きな内部資本市場を持つ大企業の方が過小投資問題を回避できるとし、大企
業の優位性を主張している研究が多く存在している2。
研究開発投資と内部資本市場の関係についての代表的な先行研究は Hall(2002)3である。
Hall(2002)は、小規模企業や新興の企業にとっては、たとえ venture capital による援助
があったとしても、研究開発に関する資本投資は、大企業よりも中小企業にとっては大き
な負担となること、さらに、資本市場が整っていない場合、venture capital は過小資本
供給に対する限定的な解決方法にしかならないことなどを示している。
また、Hall(2002)は、所有と経営の分離によって、内部資本市場の存在がモラルハザー
ドの問題を生じさせることも指摘している。豊富な内部資金が存在し、また、外部からの
監視コストが高すぎることによって、その使途に関する意思決定が経営者のみによって行
われる場合、投資計画は企業の所有者である株主の利潤最大化に結び付かない可能性があ
る。具体的には経営者は、企業の利潤最大化ではなく、成長率、市場でのシェア、名声等
を高めるために、内部資本を活用してしまうかもしれない。これは、成功の見込みのない
研究開発投資が行われてしまう可能性も暗示している。
すでに述べた情報の非対称性に関する議論は様々な文献でも指摘されているが、Yew et.
al.(2006)4 は、研究開発投資と負債による資金調達には相反する効果が存在すると指摘し
ている。Yew et. al.(2006)は負債比率の上昇は、経営者に対する規律として働き、利益を
生むような経営計画に経営者を向かわせるため、研究開発投資のような投資がより実行さ
れる可能性があることを指摘している。これは、内部資金の制約がかえって、経営者の研
究開発への指向を高めることを主張していることから、研究開発活動と内部資金の潤沢さ
(負債比率の低さ)の関係を論じる先行研究とは異なった視点である。
1
例えば、P.119 参考文献1に挙げた Griliches(1992)を参照。
例えば、P.119 参考文献2に挙げた Cohen(1995)を参照。
3, 4 P.119 参考文献3、4参照。
2
-110-
そのほかにも、Chiao (2002)5 は、Hall(1992)の「研究開発にはリクスが伴うため、企
業は研究開発投資よりも実物投資に対するファイナンスを好む。
」という仮説を踏まえて実
証分析を行っている。分析の結果、著者が Non
science-based とした産業では負債は実物
投資、研究開発投資の両方の資金供給の手段となるが、science-based sector に分類した
産業では、負債は実物投資の資金供給の手段のみであり、研究開発に対する資金供給の手
段とはならないことを示している。
これまで紹介してきた分析は、
「説明変数を負債、又はキャッシュフローとし、それらが
被説明変数である研究開発活動に対してどのような影響を与えているかを分析した研究」
とまとめることができる。そして、その結果は研究開発投資が情報の非対称性と資金制約
によって影響を受けることを示している。
その一方で、
「負債比率を被説明変数とし、それが研究開発投資とどのような関係にある
か」を分析した研究も存在している。これらの研究は、企業の経営戦略に注目し、
「企業の
優位性を形成するような無形資産を戦略的に投資しようとする企業の財務は、必然的に負
債比率が低い状況となる」という考え方をもとに分析が行われている。
O’Brien(2003)6 は、「研究開発投資が生み出すような企業特有の資産は基本的に、無形
資産であり、これは良い担保としては機能しないため、これらの戦略的な投資と負債比率
は負の相関を持つ」という仮説をもとに分析を行っている。そして O’Brien(2003)は技術
開発への重点投資を企業の戦略的な経営手段と捉えて肯定的に評価すると同時に、
「財務構
造によってその企業の研究開発に対する戦略が明らかになっている」としている。
O’Brien(2003)によれば、研究開発に重点投資するためには、企業の財務構造の中に
financial slack とも言うべき財政的な余裕が存在しなければならない。そして、この
financial slack は必然的に低い負債比率を生み出すことになる。また、financial slack
の必要性として、
(1)研究開発を中断させることなく行うため(2)新製品の開発が完成
したときに、必要な場面で必要なだけの資金を用意するため(3)企業が知識を購入する
ことによって知識の基盤を拡大させることが可能であるときに、それを実行するため、と
いう3つが挙げられている。
O’Brien(2003)は以上の議論を以下のように要約できる仮説に置き換えた。それは「技
術開発戦略を重視する企業の財務構造は、financial slack を確保するために、leverage
が低くなっている。そして、研究開発投資はより高いパフォーマンスに結び付くから、企
業のパフォーマンスと leverage は負の相関を持つ」というものである。
O’Brien(2003)は以上の仮説を検証するために、被説明変数を負債比率とし、説明変数
を研究開発への意欲、利潤率、その他の調整変数としたモデルを推計した。ここで、負債
比率は、企業の負債の簿価を企業の市場価値で割った比率としている。研究開発への意欲
5, 6
P.119 参考文献5、6参照。
-111-
は、同一の産業分類に所属する企業の中での研究開発売上高比率の順位とし、利潤率は資
産に対する利益の比率とした。研究開発への意欲を以上のようにした理由は、研究開発へ
の意欲は絶対的な研究開発投資の額ではなく、ライバル企業と比較したときの研究開発へ
の熱意であると解釈するからである。
O’Brien(2003)は、以上による実証分析を行い、負債比率に対して、研究開発への意欲、
利潤率は負で有意との結果を得た。
このことは仮説通り負債比率と研究開発投資への意欲、
パフォーマンスが負の関係を持つことを示している。
この研究の意義は、研究開発投資において企業の財務構造は決して外生的な変数ではな
いことを示したことにある。O’Brien(2003)は、企業経営者が研究開発戦略をどう考えて
いるかが財務構造に表れることを主張している。
また、Balakrishnan and Fox(1993)7 は、分散分析を行うことにより、企業の負債比率の
分散が、企業の研究開発投資のような企業の持続的な優位性を生み出す特殊な資産のため
の 投 資 の 分 散 と 強 い 関 係 が あ る こ と を 示 し た 。 こ の 結 果 に よ り Balakrishnan and
Fox(1993)は、企業の経営戦略と資本構造の強い関係を強調している。
上記のような、企業の長期的な競争優位を企業固有の資産に求める分析は「経営資源に
基づく戦略(Resorce Based View)」に基づいていると言うことができる。Jose and
Vicente-Lorente (2001)8 は、この RBV の視点から実証分析を行っている。企業の優位性の
源泉となる資産は、基本的に取引が難しく、模倣も容易ではない資産である。そのような
財のマーケットは必然的に不完全にならざるを得ず、このことは投資のための資金調達の
観点では新たなコストの要因にもなる。Jose and Vicente-Lorente (2001)は分析の結果、
明瞭な戦略的資産は負債比率に対して負の効果を持つことを確かめている。
以上をまとめると、負債比率と研究開発に関する研究には以下のような2つの視点が存
在する。それは、
(1)研究開発投資における情報の非対称性により、研究開発投資は外部
資金の調達よりも内部資金によって賄われる。したがって、内部資金が大きい(負債比率
が小さい)企業ほど、研究開発投資が大きくなる。
(2)RBV アプローチに基づくと、企業
の持続的な競争優位を維持するために必要な無形資産を獲得するためには研究開発投資の
ような戦略的な投資が必要になる。これらは内部資金で賄う必要があるため、研究開発費
のような戦略的な投資を強く指向する企業の意思決定は低い負債比率という財務形態で表
出する、とまとめられる。以上のうち前者は負債比率から研究開発投資へ、後者は研究開
発費から負債比率への因果関係に注目した分析と考えられる。この双方は共に意義のある
分析であると考えられるが、本論文では、研究開発における企業の戦略的意思決定に注目
し、後者の問題意識に基づく分析を試みることにする。
7, 8
P.119 参考文献7、8参照。
-112-
(3)
モデル
以下においては、Jose and Vicente-Lorente (2001)、O’Brien(2003)のモデルを参考に
して、研究開発費のような戦略的な投資と負債比率との関係を検討する。推計するモデル
は、
(1) Leverage = f ( RD, YS , OI , ID, TD, SD)
として示すことができる。ここで、Leverage は企業の負債比率を表し、本論文では負債の
簿価を総資産で割ったものとして定義している。また、RD は研究開発投資売上高比率、YS
は有形固定資産総資産比率、OI は売上高営業利益率、ID は産業ダミー、TD は時間ダミー、
SD は規模ダミーを示す。
O’Brien(2003)によれば、もし企業が高い競争優位を維持するために戦略的な投資を重
視するのならば、企業は必然的に高い負債比率を覚悟しなければならない。この戦略的投
資の代理変数として、研究開発投資売上高比率を採用した。また、企業要因の調整変数と
して、有形固定資産総資産比率、売上高営業利益率を用いた。企業が負債として外部から
資金を得るときには、担保となる資産を多く保有している方が有利であることが考えられ
る。したがって、有形固定資産総資産比率は負債比率に対して正の効果を持つことが予想
される。また、営業利益が大きいほど、企業は外部資金に頼る必要が少なくなるはずなの
で、売上高営業利益率は負債比率に対して負の効果があると考えられる。
さらに、本論文では企業の知的財産活動の負債比率に対する効果を検討する。上記の研
究開発は企業内部の活動であるので、企業外の主体がその内実を把握することが難しい。
このことが企業の資金調達における情報の非対称性を生み出す。しかしながら、研究開発
投資の成果である特許は外部からも認識が可能な情報である。また、その生み出された特
許を企業がどのように活用しているか、特に、外部企業と提携し、どのように利用してい
るかは外部からも認識が可能である。そして、もし、これらの研究活動の成果やその成果
を活用した企業行動が、当該企業の技術に関する名声を高めることになるのならば、特許
や特許を用いた企業間連携が盛んな企業に対しては、情報の非対称性が緩和される可能性
がある。つまり、目に見える特許情報が企業の資金調達を容易にする効果を持つかもしれ
ない。もし、この仮説が妥当であるならば、研究開発活動の成果であり、外部からも確認
することが可能な、特許やそれを用いた企業間の連携は負債比率に対して正の効果をもつ
可能性がある。この仮説を検証するために、次のようなモデルを推計する。
(2) Leverage = f ( RD, Pat1, Pat 2, YS , OI , ID, TD, SD)
ここで、 Pat1 、 Pat 2 は、特許に関する変数とし、より具体的には、 Pat1 は、企業の研究者
数1人当たりの所有特許数、Pat 2 は、他社使用許諾特許数の所有特許数に対する割合とす
る。本論文ではこのような特許に関する企業活動が負債比率とどのような関係にあるかを
検討する。
-113-
さらに、ダミーを用いた調整変数として、産業ダミー、時間ダミー、企業規模ダミーの
3つを採用した。産業ダミーに関しては、各産業の収益に関するリスクに注目し、各産業
に関して営業利益の変動係数を計測し、その変動係数の大きさをもとに産業を区分したダ
ミー変数を作成した 9。
また、利用可能なデータは3期間(平成 15 年度、16 年度、17 年度)であるので、時間
(年度)に関してダミー変数を用いた。最後の企業規模ダミーは、負債比率が企業規模に
よって大きく異なる可能性があることを考慮して採用した。具体的には、平成 16 年度の総
資産をもとに、総資産が 500 億円未満、総資産が 500 億円以上 5000 億円未満、総資産が
5000 億円以上、の3種類の企業に分類し、規模を示すダミーとした。
データについて、研究開発費、特許関連の知的財産データに関しては特許庁の「知的財
産活動調査」
、その他の企業の財務データに関しては有価証券報告書を用いている 10。推計
方法は、最小2乗法とパネル分析であり、標本数は 269 企業 11 である。
(4)
推計結果
推計式(1)と推計式(2)を最小2乗法で推定した結果は表1に示されている。また、
表2はパネル分析の結果である。被説明変数は、負債比率(レバレッジ)である。コント
ロール変数として加えた説明変数の中では、売上高営業利益率が、いずれの推定式でも有
意にマイナスに効いているほか、総資産に基づく企業規模を表すダミー変数で一部有意と
なっている。売上高営業利益率が高い企業で負債比率が低い結果については、収益性が高
いことが自己資本による資金調達を容易にしているとみるべきか、あるいは平均的に収益
性が高いのは高リスクの反映で、このために負債による資金調達に制約がかかっていると
みるべきか、の2つの仮説が考えられるが、それと整合的な結果である。
次に、企業の研究開発活動にかかわる説明変数の効果を順にみていくと、まず企業の研
究開発活動に対する取り組みの度合いを表す変数として入れた、企業の売上高に対する研
究開発費の比率は、負債比率に対してマイナスの係数を持つものの、残念ながら予想に反
して有意とはならなかった。ただし、今回の推定で説明変数として使った売上高に対する
研究開発費の比率が、果たして企業の研究開発投資の水準を適切に反映した変数であるか
は疑問の残るところであり今後のさらなる検討の余地が残る点である。
研究者1人当たりの所有特許件数、特許所有件数当たりの他社許諾特許数を変数に加え
9 各産業における資本金 1000 万円以上の企業の 1986 年から 2005 年の営業利益の変動係数を計測することによって作成
した。データは、財務省『法人企業統計年次調査』をもとにしている。
10 推計に用いたデータは、有価証券報告書データと「知的財産活動調査(特許庁)
」データを企業ごとに統合すること
によって作成されている。この作業に際して、大西宏一郎氏(文部科学省科学技術政策研究所)から企業コードのマッ
チング情報の提供を受けた。この場を借りて深く感謝申し上げたい。
11 選択された企業は、平成 15 年度、16 年度、17 年度の3期間において、研究開発費、研究者数、所有特許数のいずれ
もがゼロであることのない(3年を通じて正の値をとる)企業である。
-114-
た推計式(2)は、その企業の研究開発活動の成果が特許化や成果になじみやすいもので
あるかどうかの効果を考慮している。もちろん、企業が取り組む技術分野によっても取得
特許件数は大きく異なることが知られているが、この効果は産業ダミーを説明変数に加え
ることによってコントロールされていると考えることができる。推定結果をみると、研究
者1人当たりの所有特許件数は、表1のダミー変数を加えた最小2乗法による分析では有
意ではないが、表2のパネル分析での結果では、有意な正の効果が得られている。この結
果は、研究開発投資の中でもその成果が特許化できるものは、社外から評価した不透明性
が低くなることによって、負債による資金調達に対する制約が軽減されることを示唆して
いる。
推定式(2)では、さらに所有特許数に対する他社利用許諾特許件数の割合を説明変数
として加えているが、これは企業の研究開発活動の成果が特許化になじみやすいだけでな
く、ライセンス契約その他を通じた他者との技術取引の対象にすることができやすいもの
であるかどうかの度合いを表していると考えられる。推定結果をみると有意性は低いが、
これもプラスの係数が得られた。
以上の推計結果を要約すると、次のとおりである。
・総資産の有形固定資産に対する比率は負債比率に対して有意に正であった。
・売上高に対する研究開発費の比率は、負債比率に対して負であるが、有意ではなかった。
・研究者1人当たりの特許所有件数は、負債比率に対して有意に正となる傾向が見られた。
・所有特許数当たりの他社利用許諾特許件数は、負債比率に対して有意ではないが正とな
った。
研究者1人当たりの特許所有件数が負債比率に対して有意に正の効果を持つことは、
「研
究開発の成果を目に見える形にする特許取得は、企業の資金調達を容易にする」という仮
説を支持している。さらに、研究者1人当たりの他社利用許諾特許件数が負債比率に対し
て有意に正の効果を持つことは、特許取得に加えてその特許をライセンス契約その他の技
術取引の対象としても活用することによって、企業の研究開発活動の社外からみた不透明
性が低下し、企業の資金調達を容易にするより一層の効果を持つことが分かった。
-115-
表1:最小2乗法による分析
1
2
3
負債総額/総資産
被説明変数
定数項
0.559
[0.000]
0.545
[0.000]
0.544
[0.000]
研究開発費/売上高
-0.085
[0.218]
-0.089
[0.197]
-0.089
[0.195]
0.002
[0.203]
0.002
[0.197]
所有特許数/研究者数
他社許諾特許数/所有特許数
0.023
[0.694]
有形固定資産/総資産
0.404
[0.000]
0.409
[0.000]
0.41
[0.000]
営業利益率/売上高
-1.23
[0.000]
-1.23
[0.000]
-1.24
[0.000]
産業ダミー1
-0.096
[0.000]
-0.091
[0.000]
-0.091
[0.000]
産業ダミー2
-0.005
[0.819]
-0.002
[0.932]
-0.002
[0.919]
平成15年度ダミー
-0.011
[0.435]
-0.012
[0.415]
-0.012
[0.408]
平成16年度ダミー
0.008
[0.564]
0.008
[0.566]
0.008
[0.574]
総資産ダミー1
-0.086
[0.000]
-0.083
[0.000]
-0.082
[0.000]
総資産ダミー2
-0.046
[0.021]
-0.042
[0.033]
-0.042
[0.035]
決定係数
修正済み決定係数
0.219
0.211
0.221
0.211
0.221
0.21
標本数
807
807
807
[ ]内はp値
-116-
-117-
0.154
0.157
807
修正済み決定係数
決定係数
標本数
[ ]内はp値
0.496
[0.000]
定数項
807
0.241
0.233
0.481
[0.000]
-1.34
[0.000]
807
0.186
0.459
-1.23
[0.000]
807
0.157
0.154
0.497
[0.000]
-1.28
[0.000]
807
0.159
0.163
0.481
[0.000]
-1.28
[0.000]
807
0.261
0.25
0.451
[0.000]
-1.3
[0.000]
807
0.185
0.46
-1.24
[0.000]
0.244
[0.001]
0.002
[0.419]
-0.02
[0.812]
807
0.163
0.159
0.482
[0.000]
-1.28
[0.000]
0.33
[0.000]
0.004
[0.021]
-0.091
[0.199]
0.004
[0.015]
-0.097
[0.171]
807
0.159
0.164
0.477
[0.000]
-1.288
[0.000]
-1.28
[0.000]
0.428
[0.000]
0.008
[0.008]
-0.231
[0.057]
営業利益率/売上高
0.334
[0.000]
0.004
[0.017]
-0.095
[0.178]
0.337
[0.000]
0.321
[0.000]
-0.082
[0.249]
0.326
[0.000]
0.24
[0.001]
-0.015
[0.856]
有形固定資産/総資産
0.419
[0.000]
-0.226
[0.065]
0.065
[0.277]
-0.087
[0.220]
負債総額/総資産
807
0.265
0.251
0.447
[0.000]
-1.308
[0.000]
0.428
[0.000]
0.114
[0.267]
0.008
[0.010]
-0.233
[0.055]
807
0.184
0.46
-1.241
[0.000]
0.246
[0.001]
0.019
[0.799]
0.002
[0.408]
-0.021
[0.808]
807
0.164
0.159
0.479
[0.000]
-1.286
[0.000]
0.333
[0.000]
0.063
[0.293]
0.004
[0.018]
-0.093
[0.190]
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
最小2乗法 平均値による回帰 固定効果 変量効果 最小2乗法 平均値による回帰 固定効果 変量効果 最小2乗法 平均値による回帰 固定効果 変量効果
他社許諾特許数/所有特許数
所有特許数/研究者数
研究開発費/売上高
被説明変数
表2:パネル分析
(5)
今後の課題
本研究は「企業の負債に代表される財務指標が、研究開発活動とどのような関係にある
のかを分析した」とまとめられる。推計の結果、企業内での活動であるため、外部から認
識することが難しい研究開発活動においては、負債比率と有意な関係を示すことができな
かった。しかし、外部からも観察可能な特許関連の企業活動が、企業の資金調達を有利に
する可能性を示すことができた。
企業の財務行動と研究開発活動に関する先行研究は、企業の資金調達活動における情報
の非対称性に焦点が集まっていることを反映して、負債比率と研究開発投資の研究が中心
となっている。本研究の結果は、特許に関する活動と負債比率の関係を示すことにより、
新しい視点による分析となったと考えている。
しかし、研究開発の成果は単純に数で測れるものではない。また、企業は特許によって
企業の情報が外部に漏出することを懸念して、特許化を行わない可能性もある。さらに、
特許がどの程度取得可能かは、企業の取り組んでいる技術分野の技術機会の効果が大きい。
これらの要因を調整した上でないと、上記の仮説を強く主張するのは難しいと考える。
また、この研究で我々は、被説明変数として負債比率(レバレッジ)を選択している。
これは、研究開発投資のような社外からみて不確実性と不透明性が大きい投資のための資
金調達の割合が大きいと、負債に頼った資金調達が困難になってくると考えられるためで
ある。今回の研究では、貸借対照表の簿価に基づく総資産負債比率を使った。しかし、成
長性に対する期待の高い企業が多くの研究開発投資を行っていても、それほど資金調達制
約に直面することはないかもしれない。企業の成長性に対する評価は、株式市場での時価
総額に反映されるので、総資産負債比率のより適切な指標としては、自己資本部分を時価
総額で評価して、市場評価の総資産(負債+時価総額)に対する負債の比率を使うことが
考えられる。さらに、研究開発投資を含む企業の投資に対する評価指標としては、負債比
率のほかに、企業が発行する社債の格付けがある。総資産負債比率に替えて社債格付けを
被説明変数として使うことも考えられる。主要な説明変数である、企業の研究開発活動に
対する注力度合いを、ここでは企業の売上高に対する研究開発費の比率で捉えているが、
これが適切な指標であったか吟味する必要がある。研究開発成果の特徴をとらえる指標と
しては、研究開発活動の規模(ここでは研究者数)に対する所有特許件数や、その中で他
社利用許諾の特許の割合を説明変数として用いることによって、研究開発成果が特許化さ
れる割合や、それがライセンス取引になじみやすいかどうかの程度を捉えていると考えて
いる。これらの説明変数のほかに、研究開発分野の多角化度合いなども検討してみる余地
があると思われる。
(小谷田
-118-
文彦、舟岡
史雄、徳井
丞次)
参考文献
1 . Griliches, Z.“The Search for R&D Spillovers.“ Scandinavian Journal of
Economics.;Supplement 94(0), S29-47,(1992).
2.Cohen, W. “Empirical Studies of Innovative Activity.” in P.Stoneman (ed.),
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3.Hall, B. H. “The Financing of Research and Development.” NBER Working Paper,
No.8773,(2002).
4.Yew Kee Ho, Mira Tjahjapranata, and Chee Meng Yap“Size, Leverage, Concentration,
and
R&D
Investment
in
Generating
Growth
Opportunities.”The
Journal
of
Business,volume 79, pages 851–876,(2006).
5.Chiao, Chaoshin“Relationship between debt, R&D and physical investment, evidence
form US firm-level data.”Applied Financial Economics, 12, 105-121,(2002).
6.O'Brien, J. P. “The capital structure implications of pursuing a strategy of
innovation” Strategic Management Journal, 24, 415-431, (2003)
7.Balakrishnan, Srinivasan and Fox, Isaac,“Asset Specificity, Firm Htetrogeneity
and Capital Structure.” Strategic Management Journal, 14, 3-16,(1993).
8 . David, Jose and Vicente-Lorente“Specificity and Opacity as Resource-Based
Determinants of Capital Structure: Evidence for Spanish Manufacturing Firms.”
Strategic Management Journal, 22, 157-177,(2001).
-119-
5.
(1)
企業の特許ポートフォリオ管理に関する定量分析
はじめに
2003 年に内閣総理大臣をヘッドとする知的財産戦略本部が設置され、国をあげての「知
的財産立国」を目指した取り組みが開始された。特許制度には、産業の発展によって有益
な発明を特許権として保護することによって発明を促す役割と、特許申請された発明を広
く公開し、技術の流通を促す役割がある。
「知的財産立国」はこの権利の取得と利活用の好
循環によって経済の活性化を実現し日本の産業競争力を高めるという考え方に従っている。
このような政府の取り組みと同時に企業における知的財産制度に対する関心も高まってい
る。これまで企業の知的財産部門は、特許等の出願事務を担当する管理部門の一部として
捉えられてきたが、最近では研究開発セクションや事業部門との連携を強化するために企
業経営の中枢的なセクションとして位置付けられるようになってきた。
本稿においては企業の知財戦略について、特許ポートフォリオ管理という観点から分析
を行う。権利化された特許はその内容によって自社で実施されたり、ライセンシングによ
って他社に対して実施許諾が行われる。ライセンシングの形態も有償の個別ライセンスや
クロスライセンスなど様々な方法が存在し、企業として自社の特許ポートフォリオの価値
を最大化させるための特許活用戦略は知財戦略の重要なコンポーネントいえる。特許庁の
実施している「知的財産活動調査」は、知的財産権の保有件数とその実施状況に関する詳
細な調査が行われており、またライセンシング活動に関するデータも利用可能である。本
稿においては、これらのデータを用いて、特許ポートフォリオ管理に関する指標を作成し、
その決定要因について定量的な分析を行う。
(2)
企業の特許ポートフォリオ管理に関するフレームワーク
企業が特許出願や権利の取得を行う背景には様々な理由が存在する。自社において特許
権を行使して、独占的な利益を確保することが特許保有の大きな目的といえるが、自社で
製造設備をもたないベンチャー企業においてはライセンシングによって研究開発に対する
リターンを得るという意図が大きい。また、すべての保有特許が自社実施やライセンシン
グによって実施されているとは限らない。将来的に権利行使が見込まれることから未実施
特許を保有するということや他社による迂回技術の開発を阻止するために防衛的に特許の
フェンスをはりめぐらすという戦略もありうる。
-120-
図1:保有特許ポートフォリオの分析フレームワーク
特許ポートフォリオ
実施していない
実施している
ライセンシング
自社実施
未実施特許
開放意思なし
(防衛特許)
ライセンシング特許
自社実施特許
クロスライセンス
有償ライセンス
このような企業の特許ポートフォリオ管理の実態とその背景について分析を行うために
図 1 のようなフレームワークを考える。ここでは、企業が保有する特許については、まず
未実施特許と実施特許に分類され、更に実施特許についてはライセンシングか、自社実施
に分類される。
「知的財産活動調査」においては、これらのそれぞれの特許件数の他、ライ
センシング特許のうち更にクロスライセンスや有償ライセンスの件数が、また平成 16 年調
査に限られるが未実施特許のうち他社への開放意思のないものの件数が調査されている。
このフレームワークを用いることによって、複雑な特許ポートフォリオ戦略は①未実施
特許を保有するインセンティブと②実施特許のライセンシングと自社実施のバランスの2
段階で整理することが可能である。以下、それぞれの観点から戦略のタイプとのその背景
となる要因について述べる。
まず、未実施特許を保有するインセンティブとしては以下のようなファクターが考えら
れる。
・ 現在は研究開発途上であるが、将来的に自社で実施が見込まれることから、あらかじめ
特許として権利化することが適当な場合:例えば医薬品産業のように研究開発のプロセ
スに長い時間がかかる場合、研究開発の成果が製品として上市される前に特許として権
利化されることが通常行われている。このような理由によって特許保有が行われるのは、
「研究開発が長期にわたり製品化までの期間が長く」かつ「当該特許が将来的に高い収
益をもたらすことが期待される」場合であると考えられる。研究開発の成果が短期間の
-121-
間に商品化できるものは、出願から権利取得までの間に商品化が行われれば未実施特許
を保有することはなくなる。また、必ずしもすべての研究開発の成果が商品化できると
は限らないので、研究開発のリスクとリターンの双方を勘案した収益期待値が高い場合
にコストをかけて未実施特許の保有が行われることとなる。
・ 将来のライセンシングを想定して特許を保有する場合:大学の TLO のように研究の成果
をいわば商品としてライセンスするビジネスを考えると、商談にいたっていない特許は
すべて未実施ライセンスにカウントされる。大学のように自ら特許の実施を行わない機
関は極端なケースであるが、例えば上記の製薬メーカーのように未実施特許を多く保有
する企業は、当該特許をライセンスするというケースも多い。この場合は上記の自社実
施を想定する場合と実態的には同じファクターを考えることが適当である。また、将来
的なクロスライセンスに備えるために未実施特許を保有するということも考えられる。
エレクトロニクス産業のように1つの製品に多くの特許が存在し、1 社によってすべて
の技術を自前で用意することが困難な産業においてはクロスライセンスによる特許権
の相互利用が広く行われている(Grindley and Teece,1997)1。クロスライセンス契約
を有利に進めるためには自社の特許ポートフォリオを充実させることが重要である。実
際にクロスライセンスに用いられている特許は実施特許に分類されるが、将来的にバー
ゲニングツールとして使って行きたいと考えるものについては未実施特許に分類され
ることとなる。
・ 他社の迂回技術を阻止するためのブロッキングパテント:特許によって保護されている
製品に代替的な他の技術が存在する場合、その技術の自社実施は行わないがあえて他社
がその代替技術を使って市場に参入することを阻止するために権利を取得するという
ケースもありうる。通常、特定の製品の独占的利益を特許権によって確保するためには、
複数の特許で周辺技術を固めることが必要といわれるが、このようなパテントフェンス
という行為も自社で実施していないものが含まれる場合は、未実施特許にカウントされ
る。
次に自社実施かライセンシングかという判断については、以下のファクターが影響する
と考えられる。
・ 企業特性によるファクター
¾ 製造・マーケティングなどの補完的資産:大企業とベンチャー企業を比較すると大
企業の方が製造・マーケティングなどの補完的資産を豊富に有する。そのような場
合、同じ技術内容でも自社実施によってより大きな期待収益が見込まれるので自社
実施割合が高くなると考えられる。逆にベンチャー企業においては補完的資産をよ
り豊富に有する大企業に対してライセンスを進めることによって、保有特許の価値
1
P.134 参考文献1参照。
-122-
をより高めることができる。
¾ 知的財産戦略の違い:このところ企業の経営戦略における知財戦略の位置付けが高
まっているが、その内容は企業によって様々なパターンが存在すると考えられる。
自社実施を重視するかライセンスを重視するかは上記の補完的資産の有無の他、企
業ごとの知財戦略によっても大きな影響を受けると考えられる。例えば、IBM はオ
ープンイノベーションポリシーを打ち出しており、パテントコモンズの設定や知財
のライセンシングを積極的に進めている。
・ 製品市場に関するファクター:企業がおかれている製品市場の競争状況によっても自社
実施かライセンシングかの判断は影響を受ける。ライセンシングを行うか否かの判断は、
ライセンシング料収入による Revenue 効果と技術の独占状況が緩和されることに伴う
Rent Dissipation 効果のバランスが関係する(Arora and Fosfuri, 2003)2。製品市
場がより完全競争に近い状況であると Rent Dissipation 効果によるダメージが相対的
に小さくライセンシング性向が高くなると考えられる。逆に製品市場を独占していて大
きなレントが発生している状況において、ランセンシングを行うことによってあえて製
品市場における競争を招くインセンティブは小さいと考えられる。
・ 製品技術特性に関するファクター
¾ 技術市場における競争状況:上記の製品市場における市場競争と同様に特定の技術
分野において技術独占が行われている場合(例えばパテントフェンスで技術の囲い
こみができている状態)には、やはりランセンシングを行うインセンティブは小さ
いと考えられる。一方で多数の特許権者において権利の持ち合いが行われている場
合は(クロス)ライセンスが必要となり、ライセンスに対するインセンティブが高
まると考えられる。
¾ サイエンス型産業:学術機関などにおける科学的な知見がイノベーションに大きな
役割を果たす産業(例えばバイオ医薬産業)においては、イノベーションにおける
形式知の重要性が高くなり、ライセンシングに伴うトランザクションコストが低減
す る 。 し た が っ て 、 ラ イ セ ン ス 性 向 が 高 く な る と い わ れ て い る ( Arora and
Gambardella,19943; Arora and Ceccagnoli, 20054)。
(3)
知財活動調査による特許実施状況の把握
「知的財産活動調査」においては、知的財産権の実施状況について調査が行われている
が、ここでは図1のフレームワークに従って図2の示すそれぞれの各種指標を作成した。
自社で保有している特許については、
(a)自社実施もライセンスもしていないもの、
(b)
2, 3, 4 P.134
参考文献2、3、4参照。
-123-
自社で排他的に実施しているもの、
(c)自社で実施しているが他社にもライセンスしてい
るもの及び(d)自社実施はしないが他社にライセンスしているものに分類することがで
きる。なお、
(a)の特許についても将来実施に可能性があるなど何らかの理由によって保
有しているはずであり、知的財産戦略とは、
(a)~(d)の自社保有特許を有効に活用し
て、かつ他社権利の活用も念頭においた自社の知的資産ストックの構築・活用を効果的に
行っていく戦略ということができる。保有しているが実施していない特許(a)について
は、平成 16 年調査において(a1)防衛目的のものの数についても明らかになっている。
また、ライセンスしている特許(c+d)については、その形態ごと(クロスライセンス
や有償実施)の特許数も把握することができる。
これらのデータを用いて以下の指標を作成する。
„
No_Use:保有特許のうち実施していない特許割合
„
DEFENCE:実施していない特許のうち防衛特許割合
„
OWN:実施特許のうち自社で実施している特許の割合
„
LICENCE:実施のうちライセンス特許割合
„
CROSS:ライセンス特許のうちクロスライセンスによるものの割合
„
FEE:ライセンス特許のうち有償によるものの割合
これらの指標を企業属性別にみた指標については、表1のとおりである。
図2
「知的財産活動調査」による特許利用関係指標
実施せず
(a)
うち防衛目的(a1)
自社で排他的
に実施(b)
自社実施+
ライセンス
(c)
ライセンスのみ
自社実施せず
(d)
クロスライセンス (cd1)
有償ライセンス (cd2)
指標のリスト
NO_USE: a/All
--- DEFENSE: a2/a
OWN: (b+c)/(b+c+d)
LICENSE: (c+d)/(b+c+d) --- CROSS: cd1/(c+d)
--- FEE: cd2/(c+d)
-124-
表1:知財ポートフォリオ関係指標(特に記述のないものは 2004 年データ)
# of firms No-USE Defense(*)
OWN
LICENSE
FEE
CROSS
By Year
2001
2002
2003
2004
By Start Year
-1950
1951-70
1971-90
1991By Employment Size
-30
31-100
101-200
201-1000
1001By Industry
Food Industry
Textile, Pulp, paper, publishing
Chemicals (excl. Drugs)
Drugs
Metal and metal products
General machinery
Electronics and electrical
Transportation machinery
Precision machinery
Other Manufacturing
Construction
ICT services
Wholesale and retail
Financial services
R&D and related service
Other services
779
789
787
789
52.6%
54.4%
54.6%
54.3%
84.5%
85.5%
86.8%
88.5%
20.9%
20.2%
12.6%
12.4%
47.4%
55.8%
42.0%
56.4%
22.2%
23.3%
20.5%
21.4%
972
697
356
182
54.4%
45.7%
48.4%
49.8%
71.2%
70.5%
64.6%
61.3%
90.0%
91.6%
85.1%
83.5%
8.3%
10.5%
12.8%
11.3%
58.7%
58.7%
54.5%
68.7%
18.7%
19.9%
16.3%
16.3%
122
205
268
973
618
35.5%
35.7%
40.0%
47.6%
61.8%
57.3%
65.6%
75.7%
74.5%
65.1%
77.5%
92.8%
93.1%
91.2%
86.6%
19.1%
6.9%
7.4%
7.6%
13.3%
72.3%
61.9%
58.0%
56.2%
60.7%
9.1%
10.2%
12.6%
18.4%
20.8%
103
56
332
72
209
239
377
130
86
190
126
62
119
9
93
59
56.1%
45.0%
53.0%
68.8%
42.5%
43.7%
50.5%
56.9%
45.2%
45.0%
51.7%
68.5%
43.1%
54.1%
59.1%
56.4%
69.7%
79.8%
75.9%
48.8%
70.9%
75.0%
67.3%
62.8%
77.7%
76.2%
63.6%
52.3%
74.8%
0.0%
43.0%
27.5%
90.7%
96.5%
89.9%
66.9%
94.8%
94.1%
90.6%
90.3%
91.1%
94.0%
77.9%
89.5%
93.5%
66.7%
59.8%
40.0%
10.3%
2.6%
7.4%
23.6%
6.2%
4.0%
12.3%
6.1%
5.1%
6.0%
19.0%
9.4%
8.2%
14.5%
42.8%
62.3%
56.0%
61.4%
64.2%
86.2%
51.8%
52.6%
50.5%
79.0%
39.8%
47.7%
64.8%
43.9%
70.0%
100.0%
67.8%
77.4%
3.4%
25.2%
11.6%
0.7%
20.0%
25.8%
34.7%
9.4%
40.4%
34.1%
3.7%
0.0%
0.0%
0.0%
5.0%
3.9%
(*) Data for 2003
まず従業員数でみた企業規模別の状況であるが、規模が大きくなると実施割合が小さく
なる。1000 人を超える企業においては、No_USE が 61.8%となっており、所有特許の半分以
上は自社実施、ライセンスのいずれにも使っていないことが分かった。自社実施の割合
(OWN)については小規模企業と大企業で小さく、中堅企業で大きい逆U字型のパターンと
なっている。ライセンス性向(LICENCE)はその逆で小規模企業と大企業で大きいU字型で
ある。自社技術をライセンスすることは競合製品が現れやすくなり、自社製品の市場競争
の激化を招く可能性が高い。生産規模の小さい企業はこの Rent Dissipation Effect が相
対的に小さいのでライセンス傾向が高くなると考えられる(Arora and Fosfuri, 2003)。
しかし、その一方で大企業においてはそのパテントプールの大きさを生かしたクロスライ
センスの割合(CROSS)が高まる。このクロスライセンス効果の影響で全体でみるとライセン
-125-
ス性向はU字型となると考えられる(Motohashi, 2006)5。
業種別にみた状況については医薬品産業が特徴的な傾向を示している。No_USE が 68.8%
と非常に高くなっている。前節で述べたように No_USE が高いのは、医薬品産業の研究開発
プロセスは長く、特許として保護されている化合物の数は多いが実際新薬として上市され
るものの数が少ないことによるものと考えられる。医薬品産業は特許による技術の専有可
能性が他の業種に比べて高いことが分かっており(Cohen et. al, 20026:科学技術政策研
究所、19977)、ライセンス市場を通じた取引も活発であることは米国における調査におい
ても確認されている(Anand and Khanna, 20028)。また、R&D service や Other service
において LICENCE が高くなっているのは、これらの分類に企業年齢の若いベンチャー企業
が多く含まれており、これらの企業においては研究開発の成果を自社で実施するのではな
く、他社へライセンスするビジネスモデルを採っていることによるものと考えられる。
表1をみるとより詳細な特許利用状況が明らかになる。以下、いくつかの特徴について
ピックアップした。
・ 防衛特許の割合は企業年齢の高い企業ほど高くなる。
・ クロスライセンス割合は企業規模の大きい企業ほど大きくなる。
・ 「繊維・パルプ・紙業・印刷業」
、「化学」、「一般機械」において防衛特許割合が高い。
逆に「医薬品」、
「情報サービス」
、
「R&D サービス」、
「その他サービス」においては防衛
特許割合が小さく、よりオープンな知財戦略をとっている。
・ クロスライセンス割合は「精密機械」、「エレクトロニクス」において高い。
(4)
特許ポートフォリオ戦略の決定要因:企業ファクターと技術ファクター
前節で述べたように特許の実施状況はそれぞれの企業がおかれている企業特性や技術市
場の状況と関係が深いと考えられる。ここでは特許ポートフォリオ戦略の決定要因として
企業ファクターと技術ファクターを取り入れ、定量的分析を行う。
まず企業特性については、企業の補完的資産の大きさの代理変数として前節で用いた企
業年齢と従業員規模を用いる。なお、それぞれ自然対数をとったものを用い、従業員規模
については非線形的な関係が見られたので2乗項を含める。また、企業の知財戦略に関す
る変数としては、企業の知財戦略へのコミットの度合いに関する代理変数として知財部門
を担当する職員数の自然対数をとったものを加える。更に、コントロール変数として特許
ポートフォリオの大きさ及び産業ダミーを加える。これらの説明変数をまとめると以下の
とおりである。
5, 6, 7, 8
P.134 参考文献5、6、7、8参照。
-126-
・ Age:企業年齢の自然対数
・ Emp:従業員数の自然対数
・ Emp2:Emp の2乗項
・ Ipemp:知財セクション従業員の自然対数
・ Patsize:所有特許数の自然対数
・ 産業ダミー
技術市場における競争状況については、研究者用の個別特許データベース IIP パテント
データベースを用いて指標の作成を行った。具体的には IPC サブクラスレベルで出願人数、
総特許数及び総クレーム数を求め、更に特許数とクレーム数についてハーフィンダール指
数を算出した。これらは 2004 年1月までに登録があったすべての特許を用いて行い、その
意図としては IPC サブクラスという詳細分類ごとに、すでに取得された特許による技術の
混雑度や集中度を示したものである。
表2は化学、情報・通信、医療・医薬、電気機械、一般機械及びその他という技術大分
類レベルで IPC サブクラスごとの指標の平均値を求めたものである。情報・通信や電気機
械において出願人、特許件数、クレーム数といった技術スペースにおける特許の混雑度が
高くなっており、同時に集中度(ハーフィンダール指数)が低くなっている。
表2:技術市場の競争指標
出願人数
(技術大分類)
化学
情報・通信
医療・医薬
電気機械
一般機械
その他
13
19
15
19
14
12
特許数 クレーム数
31
96
41
78
38
34
77
264
143
205
83
81
-127-
HHI
HHI
特許数 クレーム数
0.352
0.308
0.353
0.309
0.326
0.398
0.399
0.330
0.400
0.336
0.363
0.431
技術の混雑度と集中度の関係についてより詳細な技術分類ごとにみたのが図3である。
ここでは総クレーム数(対数値)とクレーム数による HHI をプロットした。まず全体的に
この両者の間には負の相関関係が見られる。IPC サブグループごとの混雑度は出願人が増
えることによってもたらされることが多いため、集中度が低下すると考えられる。しかし、
遺伝子工学のようにクレーム数が多いが集中度も高い技術分類も見られる。逆に工作機械
や処理・分類・混合などはクレーム数、集中度とも小さな値になっている。また、電子回
路・通信、電子部品・半導体などのエレクトロニクス関係はクレーム数が大きい一方で集
中度が低くなっており、逆に繊維、有機化学、紙などは少数の特許が特定の権利者によっ
て保有されている構造となっている。
図3:詳細分類でみた総クレーム数と HHI
0.60
遺伝子工学
0.55
家庭用品
HHI(クレーム数)
0.50
繊維
洗剤
農水産
車両、鉄道
鉱業
紙
0.45
印刷、筆記具
医療機器
医薬品
エンジン
食料品
無機化学
原子核工学
機械要素 照明、加熱
バイオ、ビール
材料加工
制御・計算機 表示・情報記録
包装、容器
土木
電子部品、半導体
工作機械
高分子 光学・複写機
冶金
電子回路・通信
処理、分離、混合
有機化学
0.40
0.35
0.30
0.25
0.20
1.5
1.7
1.9
2.1
2.3
2.5
Log(平均クレーム数)
-128-
2.7
2.9
表3:「知的財産活動調査」と IIP パテントデータベースの接続状況
データ数
14
15
16
17
5,456
6,072
4,878
3,399
接続数
3,253
3,219
2,822
2,262
これらの IPC サブクラスごとの技術市場の状況を企業レベルに集計して、
「知的財産活動
調査」の企業データとの接続を行った。この作業によって、
「知的財産活動調査」から得ら
れる特許ポートフォリオの管理指標とそれぞれの企業が面する技術市場の環境の関係に関
する分析が可能となる。IIP パテントデータと「知的財産活動調査」は特許庁における出
願人番号を用いて接続可能であるが、マッチングのパフォーマンスは表3のようになった。
「知的財産活動調査」は毎年 3000~5000 程度のサンプルが存在するがその6割程度につい
ては IIP パテントデータと接続することができた。
IIP パテントデータベースによる IPC サブクラスごとの技術市場指標を企業ごとにそれ
ぞれが保有する特許によって加重平均して、企業の属性によって再集計したものが表4で
ある。まず産業別の状況であるが、技術分類でみた状況のとおり繊維・パルプ・紙や医薬
品産業において HHI が高い一方で特許数やクレーム数は少なくなっている。また一般機械
についても同様のパターンを示している。一方で、エレクトロニクス関係では HHI が低く
特許数やクレーム数は比較的多くなっている。なお、金融サービスで特許数が多くなって
いるのではビジネスモデル特許が含まれる G06F13/00 の特性を反映したもので、企業の保
有する特許数ではないことに留意が必要である。企業規模別には明確なパターンが見られ
なかったが企業年齢が低い企業ほど HHI が低く特許数の多い技術分類に面しているという
ことが分かった。これはベンチャー企業が、技術機会が急速に広がっている分野において
誕生していることが影響していると考えられる。このように IPC サブクラスごとに技術ス
ペースが拡大しているものも存在し、特許数やクレーム数が技術スペースの混雑度を必ず
しも表していない場合がある。また、技術市場の競合状況は、同一技術分類内の特許数だ
けではなく、それぞれの技術が競合関係にあるのか補完的関係にあるのかによっても異な
ることにも留意する必要がある(Reitzig,20049)。
9
P.135 参考文献9参照。
-129-
表4:企業属性別にみた技術市場の競争指標
HHI
特許数
By Start Year
-1950
1951-70
1971-90
1991By Employment Size
-30
31-100
101-200
201-1000
1001By Industry
Food Industry
Textile, Pulp, paper, publishing
Chemicals (excl. Drugs)
Drugs
Metal and metal products
General machinery
Electronics and electrical
Transportation machinery
Precision machinery
Other Manufacturing
Construction
ICT services
Wholesale and retail
Financial services
R&D and related service
Other services
HHI
平均出願 平均特許 平均ク
クレーム
人数
数
レーム数
数
0.105
0.097
0.090
0.089
0.121
0.112
0.105
0.099
75
85
98
98
337
508
578
629
928
1331
1658
1958
0.094
0.097
0.105
0.096
0.101
0.114
0.117
0.123
0.112
0.112
90
82
81
84
83
422
448
486
437
458
1078
1154
1266
1182
1392
0.074
0.114
0.087
0.108
0.104
0.116
0.100
0.113
0.109
0.109
0.065
0.088
0.109
0.053
0.095
0.081
0.092
0.131
0.110
0.133
0.118
0.132
0.107
0.126
0.119
0.126
0.075
0.097
0.131
0.067
0.107
0.095
120
64
83
71
71
71
87
54
78
83
110
137
72
276
86
101
315
230
363
197
373
497
658
269
436
512
478
969
294
1025
424
364
1035
616
953
791
947
1147
1835
653
1324
1199
1200
3906
792
4558
1487
1059
先に述べた企業特性を示す変数に加えて、ここでは以下の技術市場に関する変数を加え
て、特許ポートフォリオ管理指標の決定要因分析を行った。
・ HHI:クレーム数によるハーフィンダール指数
・ Count:総クレーム数
・ HHIcount:HHI と Count の交差項
結果については表5-1~5-3に示す。
-130-
表5-1:回帰分析結果(1)
no_use no_use no_use
-0.002
0.001
0.002
(0.18)
(0.08)
(0.20)
emp
0.034
0.025
0.025
(1.12)
(0.83)
(0.83)
emp2
-0.003 -0.002 -0.002
(1.15)
(0.89)
(0.85)
lipemp
0.004
0.002
0.001
(0.37)
(0.21)
(0.10)
patsize
0.057
0.054
0.055
(9.01)** (8.48)** (8.53)**
hhi2
-0.133
0.680
(1.10)
(2.05)*
count3
0.030
0.045
(3.46)** (3.87)**
hhicount
(0.12)
(1.89)
Constant
0.18
(0.00)
(0.11)
(1.66)
(0.04)
(0.85)
Ind dummy
YES
YES
YES
Observations
1608
1608
1608
R-squared
0.19
0.19
0.19
Absolute value of t statistics in parentheses
* significant at 5%; ** significant at 1%
age
defense
0.030
(1.27)
0.250
(3.72)**
-0.022
(4.00)**
0.018
(1.05)
-0.001
-0.100
0.186
(0.71)
defense
0.028
(1.17)
0.255
(3.78)**
-0.022
(4.05)**
0.018
(1.07)
0.001
-0.060
-0.016
(0.89)
(0.09)
(0.38)
YES
691
0.11
0.02
(0.08)
YES
691
0.11
defense
0.029
(1.23)
0.254
(3.76)**
-0.022
(4.02)**
0.018
(1.03)
0.001
-0.070
0.998
(1.02)
0.005
(0.19)
(0.16)
(0.97)
(0.12)
(0.42)
YES
691
0.11
表5-2:回帰分析結果(2)
license
-0.003
(0.36)
emp
-0.045
(1.89)
emp2
0.002
(1.24)
lipemp
0.000
(0.03)
patsize
0.020
(4.18)**
hhi2
0.085
(0.32)
count3
0.033
0.037
(4.98)** (4.18)**
hhicount
0.02
(0.48)
Constant
0.17
(0.01)
(0.07)
(2.10)* (0.15)
(0.69)
Ind dummy
YES
YES
YES
Observations
1448
1448
1448
R-squared
0.16
0.17
0.18
Absolute value of t statistics in parentheses
* significant at 5%; ** significant at 1%
age
license
-0.006
(0.75)
-0.035
(1.44)
0.002
(0.82)
0.003
(0.36)
0.025
(5.17)**
-0.070
(0.76)
license
-0.002
(0.28)
-0.047
(1.94)
0.003
(1.31)
0.001
(0.07)
0.021
(4.44)**
own
0.027
(2.94)**
0.084
(3.04)**
-0.006
(2.52)*
-0.009
(1.16)
-0.016
(2.94)**
-0.154
(1.48)
own
0.024
(2.60)**
0.093
(3.36)**
-0.006
(2.84)**
-0.008
(1.04)
-0.015
(2.64)**
own
0.022
(2.39)*
0.094
(3.42)**
-0.006
(2.94)**
-0.007
(0.84)
-0.015
(2.69)**
-1.246
(4.12)**
-0.015 -0.045
(2.03)* (4.44)**
0.19
(3.26)**
0.60
0.65
0.87
(6.45)** (6.58)** (7.83)**
YES
YES
YES
1447
1447
1447
0.13
0.13
0.14
-131-
表5-3:回帰分析結果(3)
cross
0.007
(0.34)
emp
0.025
(0.35)
emp2
0.000
(0.07)
lipemp
0.001
(0.04)
patsize
-0.010
(0.66)
hhi2
-0.341
(0.19)
count3
0.009
0.013
(0.47)
(0.35)
hhicount
0.23
(0.85)
Constant
(0.01)
0.04
(0.16)
(0.02)
(0.14)
(0.44)
Ind dummy
YES
YES
YES
Observations
603
603
603
R-squared
0.19
0.18
0.20
Absolute value of t statistics in parentheses
* significant at 5%; ** significant at 1%
age
cross
0.004
(0.20)
0.016
(0.22)
0.000
(0.06)
0.006
(0.27)
-0.008
(0.53)
0.832
(2.47)*
cross
0.011
(0.54)
-0.003
(0.04)
0.002
(0.31)
0.002
(0.09)
-0.004
(0.25)
fee
-0.042
(1.55)
0.038
(0.39)
-0.002
(0.32)
0.019
(0.66)
-0.012
-0.550
-0.616
(1.35)
fee
-0.049
(1.80)
0.052
(0.53)
-0.003
(0.47)
0.024
(0.82)
-0.015
-0.700
-0.020
(0.79)
0.70
(1.97)*
YES
603
0.11
0.76
(1.92)
YES
603
0.11
fee
-0.046
(1.68)
0.028
(0.28)
-0.002
(0.22)
0.025
(0.85)
-0.009
-0.440
0.443
(0.18)
-0.021
(0.43)
(0.22)
(0.60)
0.92
(1.86)
YES
603
0.11
まず、未実施特許の割合(No_Use)については、企業規模などの企業特性を示す指標に
は統計的に有意な係数は得られなかった。ただし、パテントポートフォリオの規模が統計
的に有意となっており、ポートフォリオが大きくなるほど未実施特許割合が高くなる傾向
が分かった。技術市場の特性については、集中度が高いが混雑度が高い技術市場において
未実施特許割合が高くなるという傾向が見つかった。この点について更に詳細な検討を加
えるために Defense(未実施特許のうち他社に開放する意思がない特許の割合)に関する
分析も行った。結果としては技術市場に関する指標に統計的有意な係数が得られなかった。
技術の集中度が高い分野において未実施特許の割合が高いという傾向は、特許を実施しな
い要因としてブロッキングパテントの影響が強く現れていると考えることができる。しか
し、特許クレーム数とも正の相関関係が見られ、大量の特許が存在する技術スペースにお
いてパテントフェンスを構築することは困難である。この点については更に詳細な分析に
よって背景にある要因分析を進めることが必要である。
次に実施特許についてのライセンシングか自社実施かの判断であるが、企業年齢が高く、
企業規模が大きい企業ほど自社実施割合が高いという補完的資産に関する仮説どおりの結
果が得られた。ライセンシングについては統計的に有意な結果が得られていないが、係数
については自社実施と逆の結果となっている。技術市場の状況については、集中度が低い
-132-
ほど自社実施割合が高く、技術分野当たりのクレーム数が大きいほどライセンシング割合
が 高 い と い う 結 果 が で た 。 こ れ も ラ イ セ ン シ ン グ に よ る 技 術 市 場 に 関 す る Rent
Dissipation 仮説と整合的な結果といえる。
最後にライセンシングの内容に関する詳細な分析であるが、全体的に統計的に有意な結
果が得られなかった。これらの変数については missing observation が多くサンプル数に
問題がある可能性がある。統計的に有意な結果としては、唯一、技術市場における集中度
が高くなるとクロスライセンス性向が高まるという結果が得られている。この点について
は、多数の特許保有者が乱立する状況より、少数の大手企業が特許を保有しあっていると
いう状況の方がクロスライセンスを行いやすいことを示していると考えられる。
(5)
まとめ
本稿においては企業の知財戦略について、特許ポートフォリオ管理という観点から分析
を行った。企業の特許ポートフォリオ管理は、まず未実施のまま保有するかあるいは実施
するか、次に実施する際には自社実施なのかライセンスかという 2 段階で考えると分かり
やすい。ここでは「知的財産活動調査」と IIP パテントデータベースを用いて、上記のそ
れぞれの判断がどのような要因によって影響を受けるのかについて定量的な分析を行った。
企業における補完的資産の保有状況などの企業規模に関する変数と技術市場における
特許の混雑度や集中度に関する変数との関係について分析を行ったところ、まず未実施特
許の保有については技術市場の状況と関係があることが分かった。具体的には集中度が高
く、かつ技術分野ごとのクレーム数が多い技術分野に面している企業ほど未実施割合が高
いという傾向である。自社実施かライセンシングかの判断については、まず企業の補完的
資産が大きいほど自社実施の傾向が強まるという仮説どおりの結果が得られた。また、技
術市場の状況については、集中度が高い技術市場に面している企業ほど自社実施割合が高
いという技術市場における Rent Dissipation 仮説と整合的な結果が得られた。
(元橋
-133-
一之)
参考文献
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ータによる日米比較研究」、調査研究レポート No.48、科学技術政策研究所第1研究グルー
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and New Innovation, 13(5), pp. 457-476
-135-
6.多角的特許取得と企業価値
(1)
はじめに
1980 年代前半、特許権の保護を強化しようとするプロパテント政策がアメリカに芽吹い
た。1990 年代に入ると、その潮流が日本にも訪れる。イノベーションに対する特許権の付
与、均等論の採用による技術の保護範囲の拡大、特許権侵害時の損害賠償金の上昇を通じ
て、プロパテント政策が次第に定着していった1。
その流れの中で、イノベーションの専有可能性を確保する方法として特許が最も重要な
手段の一つとして捉えられるようになってきた。後藤・永田(1996)2はイノベーション専
有可能性を確保するための手段を 7 つに分けて、過去3年間のプロジェクトに対する効果
についてアンケート調査している。(製品イノベーションの場合)製造業全体で 7 つの手段
のうち、
「製品の先行的な市場化(40.7%)」
「特許による保護(37.8%)」
「製造設備やノウハ
ウの保有・管理(33.1%)」の順で、イノベーションの専有可能性を確保する手段として重
要視しているとの調査結果をまとめている。
しかし、企業にとって成し得たイノベーションをただ単純に特許化することに弊害はな
いのか。企業レベルの視点から考えられる弊害の第一は、特許出願によって重要な情報が
公開されることだろう。つまり、出願内容が公開特許公報という形で公開される(日本で
は出願後1年6か月経過後)という制度によって、他者への情報のスピルオーバーが促さ
れてしまうということである3。このため、特許権の保護範囲外にある類似商品が発明され
ることも考えられる。そしてもう一つは、特許取得、保持に伴うコストの問題である。直
接的には出願時に1~3年分の特許料、更新時には1年ごとの更新料等が発生する。また
特許を管理するためのコスト、それに伴う人件費なども発生する。これらの管理コストは
直接的な特許料、更新料よりもはるかに大きいという試算もあり、軽視することはできな
い4。さらに、平成 15 年「知的財産活動調査」では、国内企業の国内特許権の自社実施率
はわずか3割ほどで、残りの少なくとも6割の特許が未使用であると推測されている。
これらの問題点についての認識から、近年、知的財産権を重要な経営資源として位置付
け、戦略的に管理・活用することが求められるようになった。ただし一般に、知的財産戦
略を客観的に自己評価することは難しい。そこで、日本では唯一の知的財産に関する承認
統計調査である本調査研究を用いて、各企業が自社の知的財産戦略の状況をより客観的に
1
日本におけるプロパテント政策については、P.148 参考文献1に挙げた通商産業省特許庁編(1997)
『これからは日本
も知的創造時代』通商産業調査会が参考になる。
2 P.148 参考文献2参照。
3 日本の特許制度については、P.148 参考文献3に挙げた竹田和彦(2004)で詳しい解説がなされている。
4 具体的に特許をマネージメントし、コストを削減した例は P.148 参考文献4に挙げた Rivette and Kline (2001)を参
照。
-136-
自己評価することで、経営者の知財マインドの向上等、知的財産戦略の改善及び、21 世紀
に向けた企業の競争力向上を期待する。
本章では、多角的に取得された特許が企業価値にどのような影響を与えるかについて実
証分析する。
(2)
先行研究
実証研究の分野では単純な特許数と企業価値との相関は見いだせていない。Hall・
Jaffe・Trajtenberg(2000)5ではいくつかの先行研究を紹介して、企業価値に対して特許数
が説明力を持たないとまとめている。それらの先行研究を踏まえて、特許の前方引用数を
用いて特許に「質」の概念を含有する Trajtenberg(1990)6, 7、審査請求について審査途中
の特許と不受理された特許について考慮した Ernst(1995)8 などと研究が進んだ。
一方で、特許を生産するインプットとして研究開発に着目した研究が数多くなされてい
る。Hall・Jaffe・Trajtenberg(2000)はおおむね研究開発費が企業価値と正の相関を持つ
とまとめている。これらの先行研究を踏まえて、研究開発の多角的投資についての研究が
進められた。基本的な論点は、範囲の経済性に関する議論から得られる。つまり、多角的
に研究開発を行うと、①資源の共有、②企業内部の知識のスピルオーバーの効果により、
研究開発の効率性を上げることができるということである。しかし、研究開発の多角的投
資が企業にとって負の効果をもつとの研究も存在する。Holmstrom(1989)9 は多角的な研究
開発投資に対する管理コストが生じることを論じている。また、Aygyres(1996)10 は
transaction cost の観点から、多角的な研究開発投資が不経済を生じるとの実証結果を得
ている。
ただし、研究開発の成果として特許を捉えた上で、特許の多角的な取得についての研究
はほとんどない。特許の多角化が企業価値にどのような影響を与えているかについてを実
証的に明らかにする。
(ⅰ)
舟岡・徳井・小谷田(2004)11
舟岡・徳井・小谷田(2004)では、知的財産活動の多角化が進むほど特許出願 1 件当たり
の研究開発費が減少することを実証し、研究開発投資の範囲の経済性を明らかにした。そ
の基礎となる理論として以下の2点を挙げている。
① 知識の公共財的性質から導かれる範囲の経済
5, 7, 8, 9, 10, 11
P.148 参考文献5、6、7、8、P.149 参考文献9、10 参照。
同様の分析は、P.149 参考文献 11、12 に挙げた Lanjouw・Schankerman(1999)、Hall・Jaffe・Trajtenberg(2005)など
がある。
6
-137-
② 内部の技術知識の spillover による範囲の経済
前者については、知識が一般的に「非競合性」
「非排除性」という公共財的特性を満たす
財であると考えれば、ある技術知識が同じ企業内の複数の分野で活用可能であると説明し
ている。後者については、多くの研究開発を行うことで、各研究計画間の技術の spillover
が大きくなり、その効果が研究開発の効率性を高める可能性があると述べている。
分析では「知的財産活動調査」の個票データを用いて、まず企業規模別、技術分野別に
範囲の経済性の効果を分析している。結果のエッセンスを抜き出すと、
①(規模で分けない)全企業では範囲の経済性が有意に観察される
②特許出願数で測った研究開発の効率性を被説明変数にとると、中小規模の企業について
は範囲の経済性が認められるものの、大規模企業では有意の結果が得られない
③食料品、医薬品、金属加工、無機化学、繊維、電気電子、電子通信の分野では研究開発
の成果に範囲の経済性が存在している
④工学一般、測定光学、時計制御の分野では範囲の経済性が認められない
の 4 点であった。
さらなる分析として、
変数に研究開発に関する多角化度を表す Tdiv という変数を導入し
ている。ここで
12
Tdiv i = ∑ (
j =1
pat ij
pat i
)2
12
、
pat i = ∑ pat ij
i =1
である。ただし、patj は j 番目の技術分野における i 番目企業の特許取得数を示す。それ
らのHHI(ハーフィンダールインデックス)を計算することで、特許の集中度を表して
いる。研究開発の多角化が進展するほど値は小さくなる。特許出願一件当たりの研究開発
費を被説明変数とし最小 2 乗法にて分析している。結果は、Tdiv の値が正で有意となって
いる。つまり、研究開発の多角化が進むほど、特許出願件数当たりの研究開発投資で計っ
た研究開発の効率性が上がることが実証された。この結果は研究開発の範囲の経済性が働
いていることを示唆している。
(ⅱ)
Henderson ・Cockburn(1996)12
Henderson・Cockburn(1996)では、上記①の「知識の公共財的性質から導かれる範囲の経
済」を表す変数として、年に 50 万ドル以上支出されている研究開発活動数(SCOPE)を、
②の「内部の技術知識の spillover による範囲の経済」を表す変数として 1 年当たりの研
究開発費のHHIを導入している。さらには、当該企業に対して外部からの spillover の
存在も考慮し、競合関係の企業の持つ特許に関する News のうち、自社の研究開発に関連す
12
P.149 参考文献 13 参照。
-138-
るものを変数に組み込んでいる。また、SCOPE の 2 乗項を変数に加えることで、SCOPE と被
説明変数のU字型の関係についても考慮している。これらを説明変数とし、特許数に回帰
することで、知的財産活動の範囲の経済性の効果がアウトプットとしての特許数にどのよ
うな影響を与えるかを実証分析している。
結果では知的財産活動の範囲の経済性の効果が認められることが明らかになっている。
また、SCOPE の2乗項が負で有意となっており、範囲の経済性の不経済性が認められる
ことが明らかになった。
(ⅲ)
Haneda・Odagiri(1997)13
この先行論文からはモデル作成のための根本的な理論を得る。Wildasin(1984)14 のq理
論より、その発展形を作成したものである
15
。q 理論の基本的な考え方は、合理的な株式
市場を仮定して、企業の現在価値が当該企業の資本ストックから発生した利潤の現在価値
と等しくなるというものである。さらに株式市場が将来的な利潤を織り込むと仮定すると、
特許が公開されると同時にその特許の持つ効果が株価に含有されることになる。そのため、
特許といった利潤に対する貢献度が不確実な場合には有用である。
Vt=企業価値、At=有形資産、Kt=無形資産とすると、以下のように書ける。
Vt = a( At +βKt )
→ qt = Vt / At = a (1 +βKt / At )
ここで Vt すなわち(株主資本+負債総額)を総資産(At)で割ったものがいわゆるトー
ビンのqである。t は年次である。また、a は有形資産への投資に対する調整費用に依存す
る正のパラメータで、aβは無形資産へのそれである。つまり、βは有形資産に対する無形
資産の相対価値を表すパラメータである。
logをとって、
log(1 + x) ≒ xを用いると
log q ≒α+β(Kt / At )
但しα=log a である。
Kt(無形資産)を研究開発費と特許数で加重平均する。加重をθとすれば以下のように
書ける。
Pt
RDt
+ (1 − θ ) ⎤ …
log q = α+β⎡θ
(1)
⎢⎢ At
At ⎥⎥
ただし RD は研究開発費、P は特許数である。
13, 14
P.149 参考文献 14、15 参照。
q 理論は P.149 参考文献 16 に挙げた Grilichies(1981)以来多くの実証分析で採用されている。具体的に q 理論を使
った実証分析は P.149 参考文献 17、18 に挙げた Griliches(1990)、Megna・Klock(1993)などを参照。
15
-139-
本先行研究では RD をさらにフローとストックに分解し、ストックの価値を現在価値(the
rate of depreciation)に換算しているが、今回の分析では用いないことから詳しい説明
は省く。ここに、技術の多角度を測る指標を線形で加えることで、本研究のモデルを作成
する。
(3)
仮説
本章では、多角的に取得された特許が企業価値にどのような影響を与えるかについて実
証分析する。また、研究開発の多角的投資に対する不経済性を分析する。
第1、2章で紹介した先行研究では、多角的な研究開発投資は利点、欠点の両者が存在
するとまとめられる。
利点1、知識の公共財的性質から導かれる範囲の経済性
利点2、内部の技術知識の spillover による範囲の経済性
欠点1、知的財産の管理コストが増加することによる範囲の不経済性
欠点2、transaction cost が増加することによる範囲の不経済性
これらの先行研究から以下の仮説を導き出す。
仮説1
多角的な特許取得は企業価値を上げる
多角的に特許を取得するほど、範囲の経済性の効果を通じて研究開発の効率性が上がり、
企業価値は高まるであろう。
仮説2
過剰に多角的な特許取得は企業価値を下げる
過剰に多角的な特許取得をすれば、特許の管理、保持に伴うコストが増加することで、
不経済性が生まれるのではないか。
また、Hall・Jaffe・Trajtenberg(2000)により紹介された先行研究のほとんどで、業種ご
との差異が認められている。特に医薬品産業については、特許の数が他の産業よりも少な
いことが知られており、その特殊性は注目すべきである。よって本章においても、産業ご
とのダミーを付した分析を行う。
(4)
モデル
先行論文の Haneda・Odagiri(1997)を引用して、それに少し手を加える。第2章の(1)
-140-
式を再度引用すると、
Pt
RDt
+ (1 − θ ) ⎤ …
log q = α+β⎡θ
(1)
⎢⎢ At
At ⎥⎥
ここに以下で説明する技術分野別HHIと、産業ダミー、年次ダミーを加え以下のモデル
式を得る。
ln q = β 0 + β 1UBHHI it + β
(5)
RD it
P
+ β it + β 4 D1 + β 5D 2
A it
A it
2
3
変数
変数の定義と基本統計量については巻末を参照されたい。そのうち幾つかの変数につい
て詳しい説明を加える。
(ⅰ)
被説明変数
lnq:トービンのq
q=(株価×発行済み株式数)/総資産
⇒lnq=ln[(株価×発行済み株式数)/総資産
]
ここで株価は、期末の 12 か月移動平均値を用いた。つまり各企業について、期中の毎月
の株価の終値の平均をとったものである。株価のとり方は多様であるが、短期的な変動を
省くためにこれを用いた。そして上記の理論的背景により、q の両辺に log をとり、lnq
を作成した。
(ⅱ)
①
説明変数
UBHHI:Hall・Jaffe・Trajtemberg(2001)16 による技術分野別所有特許の HHI(ハーフ
ィンダールインデックス)
舟岡・徳井・小谷田(2004)では、技術分野別所有特許の HHI として、
12
pat j
j =1
pat i
Tdiv i = ∑ (
12
) 2 、 pat i = ∑ pat ij
i =1
を作成している。ただし、patj は j 番目の技術分野における i 番目企業の特許取得数を示
16
P.149 参考文献 19 参照。
-141-
す。
本章では0の値や小さな値から生じる集中度の上方バイアスをさけるために Hall・
Jaffe・Trajtemberg(2001)で提唱された HHI(UBHHI)を用いる。ただし
⎛ Nj * HHI − 1 ⎞
⎟
UBHHIi = ⎜⎜
Nj − 1 ⎟⎠
⎝
Nj=技術分野 j における特許数である。つまり、
⎛ Nj * HHI − 1 ⎞
⎟
UBHHIi = ⎜⎜
Nj − 1 ⎟⎠
⎝
→ UBBHIi = HHI −
HHI − 1
Nj + 1
と展開すると、Nj が十分大きいときに UBHHI≒HHI が成り立つ。一方で N が小さいときに
は、HHI が割り引かれて集中度の上方バイアスが避けられる。
なお、「知的財産活動調査」では、特許を IPC(国際特許分類)コードに従って 12 個の
技術分野に分けている。定義より、UBHHI は企業が多角化すればするほど値が小さくなり、
一つの技術分野に集中して出願するほど、値が大きくなる。
②
D1~20(産業ダミー)
順に、食品工業(D1)、繊維工業(2)、パルプ・紙工業(3)
、総合化学・化学繊維工
業(4)、油脂・塗料工業(5)、医薬品工業(6)、その他化学工業(7)、石油製品・石
炭製品工業(8)、プラスチック製品工業(9)、ゴム製品工業(10)、窯業(11)、鉄鋼業
(12)、非鉄金属工業(13)、金属製品鉱業(14)、機械工業(15)、電気機械器具工業(16)、
通信・電子・電気計測器工業(17)、自動車工業(18)、その他輸送用機械工業(19)、精密
機械工業(20)を「知的財産活動調査」による回答に応じて付した。上記すべてに属さな
い「その他工業」を基準としている。
(6)
データ
各変数のデータの出所は巻末の変数表に記した。「知的財産活動調査」平成 14、15 年に
回答している企業の中で、
① 東証一部に上場している製造業
② 特許出願件数(国内外)
、特許登録件数(国内外)、技術分野別出願件数、研究費が2年
分すべて記入されている企業
を抽出し、分析1、2のデータとする 17。サンプル数は 222 社×2年で 444 である。
17
RD(研究費/総資産)が 1 を超えるものを異常値として省いた(サンプル数4)。また全ての変数の平均値、標準偏
差について、「知的財産活動調査」全体の抽出された本サンプルの間に大きな違いは見られなかった。
-142-
(7)
分析1
分析1では仮説1を実証する。仮説を再度書くと、
仮説1
多角的な特許取得は企業価値を上げる
である。具体的には UBHHI の係数は負を予想する。産業ダミーを付したものが表1、そう
でないものが表2である。
産業ダミーを付した分析では、どの分析も UBHHI の係数が負で有意な結果が得られた。
つまり、様々な技術分野に特許を出願すれば、範囲の経済性の効果により研究開発の効率
性が上がるということを通じて、企業価値が高まるといえるだろう。先行研究との結果と
も合致している。
国内出願特許数と国内特許権利保有数は共に有意な結果が得られなかった。特許数と企
業 価 値 と の 相 関 が 見 い だ せ な い の は 、 Hall ・ Jaffe ・ Trajtenberg(2000) や Haneda ・
Odagiri(1997)らの先行研究の結果とも合致している。これは、特許の「質」を考慮してい
ないためと思われる。外国出願件数がどの分析でも正で有意な結果が得られた。これは外
国出願特許の質の高さが関係しているものと考えられる。国内に出願するよりコストがか
かるにもかかわらず外国に特許出願された技術は、企業にとって重要な技術であることが
考えられるからである。また、国外に輸出される製品を構成する技術は、国外でも競争力
を持つと考えられるため、質の高い技術であると推測できる。
研究費の係数が有意に推定されなかったことは特筆すべき点である。Hall・Jaffe・
Trajtenberg(2000)にまとめられた幾つかの先行研究では、研究開発費と企業価値との間に
は強い正の相関を見いだしている。これは「知的財産活動調査」における「研究費」と有
価証券報告書に記載されている「研究開発費」との定義の違いがもたらすものと思われる
18
。
また、産業間の差異も確認された。特に多くの先行研究でも指摘されているように、医
薬品工業(D5)が正で有意である結果は、同産業の特徴を表している。医薬品産業は一
つの特許がそのまま製品となりやすいという産業の特性上、相対的に特許の件数が少なく、
一つの特許のもつ占有可能性が大きいという傾向がある。そのため、特許などの無形資産
の持つ価値が高く、qが高い傾向を持つ。
産業ダミーを付さない分析ではほとんどの変数について有意な結果が得られなかった。
これはやはり特許取得について産業間のばらつきが大きいことによるだろう。
18
「研究開発費」のデータを用いて実証分析したところ、正で有意な結果が得られた。「研究開発費」を用いた実証分
析は章末 P.150-153 の付録を参照。
-143-
<表 1-分析 1:多角的な特許取得による範囲の経済性(産業ダミーあり)->
Coef.
t
Coef.
UBHHI
-0.114186**
PAT_APPL
-3.045076
(-0.15)
PAT_STC
-4.798698
(-0.67)
F_PAT_APPL
137.3837*
(1.7)
F_PAT_STC
10.64354
(1.52)
RD
0.5336668
(0.61)
0.8180232
YD
-0.021666
(-0.9)
-0.0188727
D1
t
Coef.
t
(-2.55) -0.1188091*** (-2.66) -0.1098764** (-2.46)
-0.2018255** (-2.51)
-1.798727
176.9986**
-0.209387***
(-0.11)
-6.068723
(-0.96)
14.49741**
(2.21)
(0.97)
0.5488751
(0.64)
(-0.79)
-0.0330823
(-1.43)
(2.31)
(-2.61) -0.1935577** (-2.42)
D2
-0.1250316
(-1.37)
-0.1256383
(-1.39)
-0.1231071
(-1.34)
D3
0.012831
(0.19)
0.0138335
(0.21)
0.0155532
(0.23)
D4
0.0189043
(0.22)
0.0281734
(0.32)
0.0171815
(0.2)
D5
0.2668701***
(2.82)
0.2705094***
(2.87)
0.267425***
(2.83)
D6
-0.0565912
(-0.89)
-0.0559567
(-0.88)
-0.0529518
(-0.84)
D7
0.0510524
(0.52)
0.0552962
(0.56)
0.0490132
(0.5)
D8
-0.1854757** (-2.46) -0.1956866*** (-2.61) -0.1826502** (-2.46)
D9
-0.1251056
(-1.48)
-0.1268253
(-1.5)
-0.1167547
(-1.43)
D10
-0.1105785
(-1.42)
-0.1138791
(-1.47)
-0.1009795
(-1.32)
D11
-0.152688
(-1.9)
-0.1530607*
(-1.91)
-0.1508918*
(-1.89)
D12
-0.1018824
(-1.44)
-0.1039549
(-1.47)
-0.0966842
(-1.38)
D13
-0.1076525
(-0.83)
-0.1081264
(-0.83)
-0.1089127
(-0.84)
D14
-0.0315717
(-0.51)
-0.0431601
(-0.71)
-0.0281552
(-0.46)
D15
0.0925765
(1.47)
0.0904492
(1.44)
0.1031252*
(1.69)
D16
0.0463622
(0.64)
0.0282029
(0.39)
0.0662063
(0.92)
D17
-0.1364593** (-2.12)
-0.1402185**
(-2.18) -0.1325941** (-2.07)
D18
0.0145305
(0.16)
0.0053037
(0.06)
0.023105
(0.26)
D19
0.0327161
(0.41)
0.0282595
(0.35)
0.0552512
(0.71)
D20
-0.0822546
(-0.7)
-0.0805197
(-0.69)
-0.0691001
(-0.62)
_cons
0.0638299
(1.21)
0.0609815
(1.16)
0.0694533
(1.32)
Adj R^2
0.1561
0.1554
-144-
0.1543
<表 2-分析 1:多角的な特許取得による範囲の経済性(産業ダミーなし)->
(8)
Coef.
t
Coef.
t
Coef.
t
UBHHI
-0.0683979
(-1.57)
-0.0752996*
(-1.73)
-0.0609958
(-1.4)
PAT_APPL
-15.06644
(-0.82)
-5.759373
(-0.4)
PAT_STC
-1.491061
(-0.22)
-4.520105
(-0.78)
F_PAT_APPL
159.3297**
(1.96)
F_PAT_STC
14.25934**
(2.05)
17.91251***
(2.74)
RD
2.482862***
(3.65)
2.878442***
(4.4)
2.530431***
(3.75)
YD
-0.0231855
(-0.92)
-0.0188815
(-0.75)
-0.0359919
(-1.49)
_cons
-0.0435091
(-1.24)
-0.0466958
(-1.35)
-0.0383762
(-1.13)
Adj R^2
0.0779
211.2988***
(2.73)
0.0728
0.0734
分析2
分析2では Henderson ・Cockburn(1996)が指摘したように、範囲の経済性の効果のU字
性について実証する。つまり、範囲の経済性の効果を享受しようと過剰に技術的な多角化
をすすめると、知的財産に対する管理コストや transaction cost が増加するため、研究開
発の効率性を悪化させてしまう可能性がある。この考えに従い、分析2では UBHHI の2乗
項を変数に組み込むことで、それらの関係を実証する。再度仮説を述べれば、
仮説2
過剰に多角的な特許取得は企業価値を下げる
具体的には、UBHHI_2 の係数が負であると予想される。分析1と同様、産業ダミーを付
した結果が表3、そうでない結果が表4である。
Henderson ・Cockburn(1996)が研究開発の範囲の不経済性を見いだせたのに対し、
UBHHI_2 の係数は有意に推定されなかった。つまり、多角的な特許取得の範囲の不経済性
が認められないとの結果が得られた。多角的な研究開発活動が行われ、その結果多角的に
特許が得られたとすると、それらの特許の管理、保持に伴うコストは投資家に意識されず、
多角的な特許取得の不経済性は認められないと理解できる。ただ、有意ではないものの
UBHHI の係数がプラス、UBHHI_2 の係数がマイナスに推定されたことは注目するべき点であ
る。対象サンプルを増やすなどの検討が必要であると思われる。
-145-
<表3-過剰に多角的な特許取得による範囲の不経済性―(産業ダミーあり)>
Coef.
t
Coef.
t
Coef.
t
UBHHI
0.0740778
(0.3)
0.0490745
(0.2)
0.0941804
(0.38)
UBHHI_2
-0.1536949
(-0.77)
-0.1372433
(-0.69)
-0.1666661
(-0.84)
PAT_APPL
-2.904809
(-0.15)
-1.255073
(-0.08)
PAT_STC
-4.657581
(-0.65)
-5.875677
(-0.92)
F_PAT_APPL
134.9458*
(1.67)
F_PAT_STC
10.94968
(1.56)
14.75948**
(2.24)
RD
0.5327687
(0.61)
0.8261636
(0.98)
0.5483457
(0.64)
YD
-0.0221389
(-0.92)
-0.0191873
(-0.8)
-0.0333801
(-1.44)
D1
175.8497**
(2.3)
-0.2015588** (-2.51) -0.2094192*** (-2.61) -0.1933936** (-2.42)
D2
-0.1256808
(-1.37)
-0.125738
(-1.39)
-0.1238375
(-1.35)
D3
0.0102611
(0.15)
0.0118249
(0.18)
0.0127462
(0.19)
D4
0.0180502
(0.21)
0.0279605
(0.32)
0.0163268
(0.19)
D5
0.2621292***
(2.77)
0.2661415***
(2.81)
0.2622478***
(2.77)
D6
-0.0634572
(-0.99)
-0.0620517
(-0.97)
-0.0604381
(-0.95)
D7
0.0461361
(0.47)
0.0508892
(0.52)
0.0437313
(0.45)
-0.1847685** (-2.45)
-0.195257
(-2.6)
-0.181879**
(-2.44)
D8
D9
-0.1258464
(-1.49)
-0.127612
(-1.51)
-0.1176179
(-1.43)
D10
-0.1123609
(-1.45)
-0.1156358
(-1.49)
-0.1030377
(-1.35)
D11
-0.1516266*
(-1.89)
-0.1522991*
(-1.9)
-0.1497256*
(-1.88)
D12
-0.1053008
(-1.49)
-0.1069522
(-1.51)
-0.1004486
(-1.43)
D13
-0.1163191
(-0.89)
-0.1159068
(-0.89)
-0.1182761
(-0.9)
D14
-0.0358513
(-0.58)
-0.0470021
(-0.77)
-0.032805
(-0.54)
D15
0.0927134
(1.47)
0.0906984
(1.45)
0.1031409*
(1.69)
D16
0.0460089
(0.63)
0.0277788
(0.39)
0.0654661
(0.91)
D17
-0.1429145**
(-2.2)
-0.1461434**
D18
0.0151804
(0.17)
0.0056096
(0.06)
0.0236784
(0.26)
D19
0.0306873
(0.38)
0.0265493
(0.33)
0.0526898
(0.68)
D20
-0.0820746
(-0.7)
-0.0806666
(-0.69)
-0.0689764
(-0.62)
_cons
0.021425
(0.28)
0.0232353
(0.31)
0.0233574
(0.31)
Adj R^2
0.1553
0.1543
-146-
(-2.25) -0.1396421** (-2.16)
0.1537
<表4-過剰に多角的な特許取得による範囲の不経済性―(産業ダミーなし)>
Coef.
t
Coef.
t
Coef.
t
UBHHI
0.0315159
(0.13)
-0.0070327
(-0.03)
0.050471
(0.2)
UBHHI_2
-0.0819796
(-0.41)
-0.0560659
(-0.28)
-0.0915285
(-0.46)
PAT_APPL
-14.77211
(-0.8)
-5.342586
(-0.37)
PAT_STC
-1.375101
(-0.2)
-4.32393
(-0.74)
F_PAT_APPL
158.8314
(1.96)
F_PAT_STC
14.39688**
(2.07)
18.06945***
(2.76)
RD
2.475781*
(3.64)
2.876724***
(4.39)
2.523663***
(3.74)
-0.0233435*** (-0.93)
-0.0189469
(-0.75)
-0.0361365
(-1.49)
-0.0629603
(-0.93)
-0.064924
(-0.96)
YD
_cons
-0.0673713
Adj R^2
0.0761
(9)
(-0.99)
211.3213***
0.0708
(2.73)
0.0718
まとめ
分析1では、多角的な技術分野における特許取得が企業価値にプラスの影響を与えると
の仮説について実証分析した。結果は仮説どおりであり、研究開発の範囲の経済性の効果
によって、多角的な技術分野での特許取得は企業価値にプラスの影響を与えると実証され
た。また、出願、保有外国特許数が企業価値にプラスの影響を与えることが実証され、質
の高い特許が投資家に評価されていることもわかった。ただし、多角的な特許取得が与え
るマイナスの影響もある。これを次節で分析 2 として検討した。しかし分析 2 の結果から
は、多角的な特許取得が与えるマイナスの影響は実証できなかった。ただ有意ではないも
のの、係数値をみる限りは、過剰に多角的な特許取得は企業価値を下げるとの結果であっ
た。さらなる規模のサンプルで調査する必要があるだろう。
(10)
結論、課題
本章では、多角的に取得された特許が企業価値にどのような影響を与えるかについて実
証分析した。多角的な研究開発活動は範囲の経済性の効果により、その効率性を上げるこ
とがいくつかの先行研究で示されている。本章では、特許を多角的な研究開発活動のアウ
トプットとして捉え、特許と企業価値との相関関係を実証分析した。結果は、特許を多角
的に取得している企業ほど、企業価値が高いと実証された。また、多角的に特許を取得す
ると、特許の管理、保持に伴うコストが増加し、非効率が生じるという範囲の不経済性の
-147-
効果についても分析した。結果は統計的に有意でないものの、それを暗示させるものであ
った。
今後の課題としては、サンプル数が少ないために、自由度が少なく、産業別の分析にお
いては統計的に信頼性の薄い結果となってしまったことを挙げる。サンプル数を増やして
再度実証分析することが望ましい。
(頼末
晃、小田切
宏之)
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19.Hall, Bronwyn H・ Jaffee, Adam・ Trajtenberg,Manuel (2001),The NBER citations
data file lessons, insights and methodological tools, NBER working papers 8498
-149-
付録
<表8-分析 1,2 基本統計量->
Variable
Obs
Mean
Std. Dev.
Min
Max
lnq
444
-0.0028229
0.2645281
-0.77189250
1.016863
q
444
1.034397
0.3053503
0.46213760
2.76451
UBHHI
444
0.5199008
0.2820381
0.14935060
1
UBHHI2
444
0.3496631
0.3477925
0.02230560
1
PAT_APPL
444
0.0010831
0.0009127
0.00000322
0.0050424
F_PAT_APPL
444
0.0001134
0.0001726
0
0.0012001
PAT_STC
444
0.0028711
0.0024696
0.00001440
0.0163273
F_PAT_STC
444
0.0018166
0.0023205
0
0.0176708
RD
444
0.025964
0.019622
0.0000866
0.097385
RDA
444
0.029839
0.021566
0.00094
0.100899
<表9-相関係数表―>
UBHHI
UBHHI2
PAT_APPL F_PAT_APPL PAT_STC F_PAT_STC
RA
UBHHI
1
UBHHI2
0.9846
1
PAT_APPL
-0.1368
-0.1159
1
F_PAT_APPL
-0.0055
0.0009
0.3116
1
PAT_STC
-0.1075
-0.0859
0.6596
0.2182
1
F_PAT_STC
-0.0939
-0.0748
0.488
0.4149
0.5322
1
RA
0.0402
0.0436
0.2844
0.2348
0.231
0.3956
1
RDA
0.0555
0.0648
0.3001
0.3242
0.28
0.4253
0.7917
※
RDA
1
研究費について
以下で研究費の定義について「知的財産活動調査票」から一部を抜粋すると、
「研究費とは、会社等の内部で使用した研究費で、人件費、原材料費、有形固定資産の購
入費(又は有形固定資産の減価償却費)及びその他の経費をいう。また、自己資金のうち
内部で使用した研究費及び外部から受け入れた資金による研究費(委託研究費)
は含むが、
委託研究(共同研究を含む)等のため外部へ支出した研究費は含まない。」とある。
-150-
「研究費(RA)
」と「研究開発費(RDA)
」をプロットしたのが以下の図である。両者が一
致している企業が多くを占めるが、
それ以外のサンプルで RA が RDA を上回っていることが
確認できる。よって、企業は研究開発活動を進める際に発生した費用を「研究開発費」と
して費用計上しない場合があるとの可能性を推測させる。これについては今後更なる分析
が必要である。
<図2-研究費と研究開発費のプロット図―>
0.1200000000
0.1000000000
0.0800000000
R
D 0.0600000000
A
0.0400000000
0.0200000000
0.0000000000
0
0.02
0.04
-151-
0.06
RA
0.08
0.1
0.12
<表 10-「研究開発費」での分析(産業ダミーあり)―>
Coef.
UBHHI
t
Coef.
t
-0.1111092** (-2.49) -0.1142312*** (-2.57)
-6.686442
Coef.
t
-0.106644**
(-2.4)
-7.100054
(-1.12)
11.35456*
(1.73)
PAT_APPL
-5.550473
(-0.28)
PAT_STC
-5.428804
(-0.76)
F_PAT_APPL
115.7905
(1.43)
F_PAT_STC
8.593921
(1.24)
RDA
1.752419**
(2.03)
1.943816**
(2.32)
1.899212**
(2.24)
YD
-0.0245056
(-1.02)
-0.0226245
(-0.94)
-0.0340978
(-1.48)
D1
0.0838616
(0.72)
0.0813774
(0.7)
0.0794512
(0.72)
D2
-0.1197881
(-0.97)
-0.1275931
(-1.04)
-0.1189531
(-1.00)
D3
-0.0296261
(-0.23)
-0.0355155
(-0.28)
-0.0315311
(-0.25)
D4
0.0807266
(0.72)
0.0768053
(0.69)
0.0756019
(0.7)
D5
0.0846211
(0.67)
0.0872205
(0.7)
0.075266
(0.62)
D6
0.2814499**
(2.11)
0.2846878**
(2.13)
0.2694025**
(2.13)
D7
0.01195
(0.11)
0.0092906
(0.08)
0.0077838
(0.07)
D8
0.1452203
(1.05)
0.1465788
(1.06)
0.1401791
(1.05)
D9
-0.1077402
(-0.91)
-0.1194575
(-1.02)
-0.1125539
(-0.98)
D10
-0.0579916
(-0.48)
-0.0619708
(-0.52)
-0.0610623
(-0.51)
D11
-0.024079
(-0.2)
-0.0289919
(-0.24)
-0.0223098
(-0.19)
D12
-0.0647677
(-0.53)
-0.0667965
(-0.54)
-0.0688935
(-0.58)
D13
-0.0109077
(-0.09)
-0.0159469
(-0.14)
-0.0116501
(-0.1)
D14
-0.0166281
(-0.1)
-0.0200417
(-0.12)
-0.0213137
(-0.13)
D15
0.0521482
(0.48)
0.0385711
(0.36)
0.0483905
(0.46)
D16
0.152621
(1.42)
0.1462455
(1.37)
0.1517571
(1.45)
D17
0.077665
(0.66)
0.0568424
(0.49)
0.0827282
(0.73)
D18
-0.0785262
(-0.7)
-0.0836009
(-0.74)
-0.0839369
(-0.78)
D19
0.0944823
(0.73)
0.0849161
(0.66)
0.0953863
(0.75)
D20
0.107791
(0.92)
0.1009361
(0.87)
0.1180559
(1.03)
_cons
-0.0340655
(-0.3)
-0.0347032
(-0.3)
-0.0267474
(-0.25)
Adj R^2
0.1636
145.7232*
0.1642
-152-
(-0.41)
(1.88)
0.1634
<表 11-「研究開発費」での分析(産業ダミーなし)->
Coef.
t
Coef.
t
Coef.
t
UBHHI
-0.0766533*
(-1.78)
-0.0826222*
(-1.92)
-0.0714842*
(-1.66)
PAT_APPL
-14.10865
(-0.78)
-9.034292
(-0.63)
PAT_STC
-3.20356
(-0.47)
-6.124421
(-1.07)
F_PAT_APPL
111.2002
(1.37)
F_PAT_STC
12.59298*
(1.84)
14.58092**
(2.25)
RDA
3.072647***
(4.88)
3.376523***
(5.58)
3.184032***
(5.16)
YD
-0.0273497
(-1.1)
-0.0241432
(-0.97)
-0.0361578
(-1.51)
_cons
-0.0519905
(-1.51)
-0.0561146
(-1.65)
-0.0514914
(-1.54)
Adj R^2
0.096
152.9849*
(1.96)
0.096
0.0985
<表 12-変数表―>
変数名
変数
lnq
トービンのq(企業価値)
定義
出所
(負債総額+株式時価
日経NEEDS
総額)/総資産
東洋経済株価CDROM
RD
研究費
研究費/総資産
国内出願特許数 /総
資産
PAT_APPL
国内出願特許数
国内登録特許数 /総
PAT_STC
国内登録特許数
資産
F_PATAPPL
外国特許出願数
外国特許出願数 /総
F_PATSTC
外国特許登録数
資産
H.14、H15 知的財産活動調査
外国特許登録数 /総
資産
技術分野別シェアのハー
UBHHI
第四章参照
H.14、H15 知的財産活動調査
フィンダール指数
知的財産活動調査に
D1~20
産業ダミー
H.14、H15 知的財産活動調査
よる業種分類
H15 データを 1 とする
YD
年次ダミー
ダミー変数
-153-
7.
(1)
発明補償制度と訴訟リスク、企業戦略に関する分析1
はじめに
長岡・西村 (2005)2は、企業の導入している発明補償制度が契約理論と整合的であるか
どうかを分析することにより、企業が研究者のインセンティブを高めるために積極的に導
入している(インセンティブ仮説)のか、あるいは特許法第 35 条に対応するために消極的
に導入している(規制仮説)のか、どちらの要因がより大きいのか検討している。そして
分析結果では、規制による要因が大きいことを見いだしている。
しかし、35 条への順法意識が重要な要因であるならば、特許を実施しているすべての企
業で補償費が支払われていなければならない。にもかかわらず、現実には支払っていない
企業が多数存在する3。例えば、2003 年の知的財産研究所によるアンケート調査では、特
許の実施実績に対して補償費を支払っていない企業は、大企業で 26%、中小企業では 80%
に及ぶ。なぜ、これだけの企業が補償費を支払っていないのであろうか。
従業員が 35 条に拠って「相当の対価」の不足分を請求した対価請求訴訟の数は意外に少
ない。判例でみると 1979 年から 2005 年の 26 年間でわずか 33 件である(石井 2006)4, 5。
このことは、企業が対価請求訴訟に巻き込まれる確率が極めて低いことを示している。つ
まり、補償費を払わなくても企業が抱えるリスクはわずかなのである。しかし、企業がリ
スク回避的である場合には状況が異なる。たとえ確率が低くても高額な支払いと訴訟費用
が必要となる対価請求訴訟はできるだけ回避しようとするかもしれないのだ。その場合、
企業は補償制度を一種の「保険制度」と考え、補償費を「保険料」として支払うことによ
り、対価請求訴訟を未然に防ぐであろう。
本章では、企業が発明補償制度を導入する理由として、このような訴訟リスクに対する
態度が強く影響していることを実証的に明らかにする。
1
本章を作成するに当たり、未来工学研究所の長谷川光一氏には有益なご助言を頂戴した。この場を借りて感謝したい。
P.170 参考文献1、2参照。
3 補償制度を導入していない企業が存在することは、P.170 参考文献3に挙げた大西 (2006)でも明らかである。
4 判例はあくまでも「例」であり、すべての裁判を網羅したものではない。ちなみにオリンパス事件前 10 件、事後が
23 件である。しかし、2003 年の知的財産研究所による調査によれば、企業内で対価が問題になった事例は、アンケート
調査回答企業のうち、大企業で 8.3%、中小企業では 3.7%しかなかった。
2, 5
-154-
(2)データからみた補償費の支払い状況
まず、本節では、業種や企業特性の違いにより補償費の支払い状況にどれくらい差があ
るのかをみる。
本章全体を通じて用いるデータは、特許庁の承認統計である平成 17 年度「知的財産活動
調査」の個票データである。平成 17 年度調査は、平成 15 年に特許・実用新案・意匠・商
標出願のいずれかを5件以上出願した国内の法人、個人、大学及び公的研究機関等、7,880
件を対象に平成 16 年度の知的財産活動について調査を実施している。調査票の回収は
3,782 件(回収率は 48.0%)、そのうちの有効回答数 3,681 件となっている。
アンケート調査では、職務発明に対する補償費の額を質問している。補償費の定義は、
「会社の定める補償制度に基づいて発明者、創作者等に支払った補償費」である。有効回
答数 3,681 件のうち、3,237 件(回答率 88%)で補償費項目がきちんと回答されていた。
まず、補償費を支払っている企業と支払っていない企業で、企業特性に差があるかどう
かをみたのが表1である。平成 17 年度調査回答企業では、支払っている企業が 1,434 社、
支払っていない企業が 1,803 社であり、支払っていない企業が多いことを示している。た
だし、この中には、研究開発をほとんどしていないサービス産業も含まれている。
全体的に企業規模が大きく、特許保有件数、実施件数の多い企業が補償費を支払ってい
ることを示している。従業員数では、支払っている企業の方が3倍ほど、研究従事者数で
は6倍弱程度大きい。また特許利用件数では 10 倍も支払っている企業の方が、件数が多い。
図1は従業員階級別でみた補償費の支払いの有無である。
従業員数が 1,001 人以上では、
約 76%の企業が補償費を支払っているのに対し、従業員規模が 50 人以下の企業では、約7%
の企業しか補償費を支払っていない。ただし、従業員数が 50 人以下の企業では、そもそも
研究開発活動をあまりしていないからかもしれない。そこで、研究従事者規模別に、補償
費の支払い状況をみたのが図 2 である。研究従事者が 50 人以下の企業では約 31%の企業し
か補償費を支払っていないのに対し、51 人以上ではいずれの階級も支払っている企業の割
合が 80%を超えている。ただし、ある程度研究開発を大規模にしている企業の中にも、少
なからず支払っていない企業があることは注目に値する。
-155-
表1
補償費の支払いの有無からみた企業の特徴
補償費=0
補償費支払い企業
1803
1434
53461.40
174274.88
一社あたり従業者数
748.81
2370.35
一社あたり研究関係
従業者数
48.78
340.30
一社あたり研究費
(百万円)
857.80
6876.63
一社あたり所有国内権利
数
61.29
435.66
一社あたり国内利用権利
数
13.94
143.92
一社あたり国内自社実施
権利数
10.69
124.56
一社あたり国内他社権利
数
4.08
30.51
企業数
一社あたり売上高
(百万円)
図1
従業員規模別補償費支払い企業の割合
1001人~
301~1000人
101~300人
51~100人
~50人
0%
10%
20%
30%
40%
50%
-156-
60%
70%
補償費支払い企業
補償費=0
80%
90%
100%
図2
研究従事者数別補償費支払い企業の割合
1001人~
301~1000人
101~300人
51~100人
補償費支払い企業
~50人
補償費=0
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
次に、企業が実際に補償費としていくら支払っているのかをみたのが図3である。まっ
たく支払っていない企業を除いた場合でも、総額 100 万円以下しか支払っていない企業の
割合が全体の約 61%、1,000 万円以下では約 91%にのぼる。他方で、年間数億円払っている
企業もわずかであるが存在している。2000 年以降補償費の上限を廃止している企業が多い
が、実際に高額な補償金を支払っている企業はわずかである可能性を示していると言えよ
う。
表2は、業種別の補償費の支払い状況をみたものである。業種別の支払い企業の割合に
ついては、製造業に限ってみれば、自動車産業が 78%と最も多く、続いて総合化学・化学
繊維業が 77%となっている。逆に支払っていない企業が多い業種は、
印刷業9%、
食品業 24%、
繊維業 28%である。製造業全体では、業種番号が後半の、いわゆる技術の累積性が強い産
業で支払っている企業が多い傾向を示している。このような業種では、特許出願や保有件
数、実施件数が多いことによるのかもしれない。
1社当たりの補償費では、製造業において、通信・電子・電気計測器産業が 1,300 万円
と最も多く、次に精密機械産業の 830 万円が続いている。この場合でも、業種番号が後半
の技術の累積性が強い業種で補償費が高いことを示している。
-157-
図3
補償費階級別支払い状況
2000
1800
1803
1600
1400
1200
1000
872
800
600
439
400
200
84
12
12
8
30-50
50-100
100-200
0
0
0-1
1-10
10-30
7
200百万円
製造業以外では、公的試験研究機関の補償費が高い。公的な研究機関では政府が統一さ
れたガイドラインに従って支払われていることが想定されるが、そのような非営利団体の
方が補償金額が高いことは、インセンティブによる補償金の支払いが多くないことを間接
的に示唆していると言えるかもしれない。
時系列での補償費の推移をみるために、過去3年間の業種別の1社当たり補償費をみた
のが表3である。ただし3年間連続で補償費を回答している企業はわずか 428 社しかなか
った。業種全体では、平成 14 年度では 840 万円、平成 15 年度では 950 万円、平成 16 年度
では 910 万円と段階的に補償費が増加しているわけではないことを示している。
-158-
表2
業種番号 業種名
業種別補償費支払い状況
補償費回答企業数(A) 補償費支払い企業数(B) B/A×100
1社あたり補償費
(百万円)
1
農林水産業
8
1
12.5
0.03
2
鉱業
2
2
100.0
0.60
3
建設業
166
73
44.0
0.88
4
食品産業
156
38
24.4
0.34
5
繊維産業
50
14
28.0
0.67
6
パルプ・紙産業
17
9
52.9
0.98
7
印刷業
11
1
9.1
0.09
8
総合化学・化学繊維産業
79
61
77.2
3.95
9
油脂・塗料産業
27
11
40.7
1.77
10
医薬品産業
83
36
43.4
3.83
11
5~7以外の化学産業
163
82
50.3
1.75
12
石油製品・石炭製品産業
13
7
53.8
2.45
13
プラスチック製品産業
100
48
48.0
1.24
14
ゴム製品産業
37
21
56.8
2.56
15
窯業
66
32
48.5
1.81
16
鉄鋼業
27
17
63.0
4.66
17
非鉄金属産業
59
35
59.3
2.38
18
金属製品鉱業
124
44
35.5
0.46
19
機械産業
264
167
63.3
2.85
20
電気機械器具産業
269
171
63.6
5.50
21
通信・電子・電気計測器産業
153
103
67.3
13.14
22
自動車産業
107
83
77.6
7.79
23
19以外の輸送用機械産業
38
25
65.8
3.39
24
精密機械産業
99
60
60.6
8.32
25
4~24以外の工業
115
51
44.3
0.90
26
運輸・公益業
31
19
61.3
2.26
27
情報通信業
126
44
34.9
1.73
28
卸売業
201
17
8.5
0.11
29
小売業
85
3
3.5
0.02
30
金融・保険業
39
7
17.9
0.07
31
不動産業
16
1
6.3
0.03
32
飲食店・宿泊業
14
1
7.1
0.11
33
教育機関(大学等)
70
34
48.6
1.01
34
技術移転機関(TLO)
21
10
47.6
1.81
35
公的研究機関(独立行政法人を
34
26
76.5
8.95
36
33~35以外の研究開発・分析
60
22
36.7
1.02
37
33~36以外のサービス業
158
23
14.6
0.11
38
その他の業種
41
34
82.9
0.80
99
1から38に属さない個人
108
1
0.9
0.00
3237
1434
44.3
2.74
総計
-159-
表3
業種別1社当たり補償費の支払金額の推移(百万円)
業種番号 業種
企業数
2002
2003
2004
3
建設業
23
1.8
1.9
2.0
4
食品産業
16
0.7
1.2
1.2
5
繊維産業
3
0.7
0.4
0.7
6
パルプ・紙産業
4
0.8
2.1
0.8
8
総合化学・化学繊維産業
23
6.6
5.0
7.0
9
油脂・塗料産業
6
6.8
5.1
6.5
10
医薬品産業
10
4.1
13.3
27.3
11
5~7以外の化学産業
30
2.3
2.8
2.3
12
石油製品・石炭製品産業
4
0.6
0.6
0.3
13
プラスチック製品産業
12
2.1
1.4
6.2
14
ゴム製品産業
10
4.6
4.6
7.2
15
窯業
12
9.1
6.2
6.8
16
鉄鋼業
1
12.0
6.0
6.0
17
非鉄金属産業
12
6.8
9.4
10.3
18
金属製品鉱業
10
0.5
0.7
0.8
19
機械産業
45
3.6
3.8
3.8
20
電気機械器具産業
54
18.8
23.9
16.5
21
通信・電子・電気計測器産業
34
31.3
32.9
30.5
22
自動車産業
38
2.8
6.6
6.3
23
19以外の輸送用機械産業
7
0.9
0.8
1.2
24
精密機械産業
18
11.9
14.2
17.3
25
4~24以外の工業
13
3.4
3.7
3.6
26
運輸・公益業
5
5.8
4.9
3.9
27
情報通信業
3
1.7
1.0
0.7
28
卸売業
5
0.3
0.4
0.4
29
小売業
1
0.0
0.0
0.0
30
金融・保険業
3
0.7
0.3
0.1
31
不動産業
2
0.0
0.0
0.0
33
教育機関(大学等)
1
0.0
0.0
0.0
34
技術移転機関(TLO)
6
2.7
3.0
3.9
35
公的研究機関(独立行政法人を
9
13.1
14.6
22.2
36
33~35以外の研究開発・分析
6
8.9
3.4
4.0
37
33~36以外のサービス業
1
4.0
1.0
1.0
38
その他の業種
1
0.0
0.1
0.2
428
8.1
9.4
9.1
総計
-160-
(3)
仮説の設定
先に述べたとおり、企業がリスク回避的である場合、たとえ確率が低くても高額な支払
いと訴訟費用を要求される可能性のある対価請求訴訟は避けたいであろう。また対価請求
訴訟の発生は、それだけで企業イメージの低下につながるかもしれない。企業は、発明補
償制度を導入し、補償費を「保険料」として支払うことにより、一種の「保険」として補
償制度を機能させることが可能である。したがって、
仮説1:リスク回避的な企業ほど、多額の補償費を支払っている、
という仮説を検証することとしたい。企業のリスク回避度をどのようにして測るかは難し
い問題である。ここでは、ライセンスロイヤリティや防衛特許件数などのデータを用いて、
リスク回避指標を作成した。詳細は後述する。
他方で、それぞれの業種や技術分野、企業特性の違いによって、対価訴訟が発生するリ
スクが異なることも考えられる。例えば、特許の貢献度が明確な技術分野では、企業と発
明者で貢献度の算定に違いが生じることが少ないかもしれない。また、金銭に価値をおく
研究者が多い企業では、それだけ訴訟が起きる確率が高い可能性がある。このようなリス
クの違いは、企業が支払う「保険料」としての補償費の支払い額に影響を与えているであ
ろう。そこで、
仮説2:構造的に対価訴訟発生リスクが高い企業ほど、補償費の支払いが多い、
という仮説を検証する。
ところで、長岡・西村 (2005)でも実証されているが、企業は本当にインセンティブ契約
として補償制度を導入している可能性はないのであろうか。日本のように発明の対価を支
払う必要がない米国でも、ベンチャー企業に代表される中小企業では、特許発明に対して
賃金を支払っている企業も存在している(Zenger and Lazzarini 20046、Honig-Haftel and
Martin 19937)
。本章では、改めてインセンティブ契約によって補償費を支払っているかど
うかを検証してみたい。具体的には、国内外の有償特許ライセンス当たりのライセンス収
入が補償費に与える影響をみる。もしもインセンティブ契約として補償費を支払っている
のであれば、
国内外特許ライセンス収入に対する補償費の支払いは同等であるはずである。
しかし、もしも 35 条に従って導入しているならば、海外特許に対して十分対価を支払って
いない可能性が高い。本章の推計期間である 2004 年度では、35 条が海外特許にまで適用
6, 7
P.170 参考文献4、5参照。
-161-
されるかどうかまだ不確定だったからである 8。そこで、
仮説3:特許法第 35 条に基づいて補償費を支払っている企業ほど、国内外の特許ライセ
ンス収入に対する補償金額に違いがある、
という仮説を検証することとしたい。なお、本仮説の検証において、ライセンスデータを
用いる理由は、特許ライセンスは発明者からみた評価リスクが小さいので、インセンティ
ブ契約に適しているからである。
(4)
推計方法と変数の説明
(ⅰ)
推計方法
図3でみたように、補償費の支払い金額は大きく右側に裾が伸びるような分布である。
単純に OLS で推計した場合には、外れ値の影響を受ける可能性が大きい。そこで、この問
題を回避するために、本章では、最小絶対値メディアン回帰モデルを用いて推計を行った。
推計は、本章で用いた変数に対応する項目をすべて回答している企業に限定して行った。
また、分析では製造業に属する企業のみを用いることとした。具体的に推計に用いた企業
数は 852 社である。これ以外の企業は、分析に用いたいずれかの項目が欠落している企業
である。なお、852 社での平均とメディアンはそれぞれ 2.2 と 0.2 である。
(ⅱ)
①
変数の説明
被説明変数
本章の被説明変数は、企業が職務発明に対して支払った補償費である。
②
説明変数
(a)
企業のリスク回避度
企業が補償制度を従業員訴訟に対するリスクヘッジ手段として用いている可能性がある。
その場合、リスク回避的な企業ほど、補償費を多く支払っていることが考えられる。本章
では、企業のリスクに対する態度を表す変数として2つの変数を作成した。
8
2006 年 10 月 17 日の最高裁判決により、特許法第 35 条による「相当の対価」の対象には海外で取得された特許の実施
による収益も含まれることが確定した。
-162-
ライセンスロイヤリティ支払い金額/売上高:リスク回避的な企業ほど、特許侵害訴訟を
回避するために、高いロイヤリティを支払う、若しくは侵害しているかどうかグレーゾー
ンにある特許に対してもロイヤリティを支払う可能性がある。したがって、売上高1単位
当たりのロイヤリティ支払い金額が高い企業ほど、リスク回避的な企業と言えるかもしれ
ない。そのような企業では、同様に対価請求訴訟を避けるために、補償費を多く支払って
いる可能性があり、補償費と正の相関が考えられる。
しかし、この変数は、企業自体の技術力の相対的な低さを表す可能性もある。その場合
には、保有特許の質も低いことが考えられ、結果的に補償費とはマイナスの関係を示すで
あろう。
防衛特許件数/自社実施件数:自社の事業を守るために、自社実施件数と比較して防衛特
許を多数保有している企業ほど、リスク回避的であると解釈できる。その場合、仮説が正
しければ、自社実施件数1件当たりの防衛特許件数が多い企業ほど、補償費を多く支払っ
ている可能性がある。なお、平成 16 年度の「知的財産活動調査」には、防衛特許件数がな
いので、ここでは平成 15 年度調査のデータを用いた。
(b)
企業のリスク要因
対価請求訴訟のリスクが高い企業ほど、それを回避するために補償費を多く支払ってい
ることが考えられる。本章では、企業のリスク要因として以下の変数を用いることとした。
研究者数、特許保有件数:研究者数、あるいは発明者数が増加すればするほど、一人一人
に対する細かなモニタリングが困難になる。また、研究者数が多い企業ほど異質な研究者
を抱える可能性も強まる。そのような企業では、対価請求訴訟を未然に防ぐために、高い
補償費を支払っている可能性がある。
特許ライセンス収入/有償ライセンス特許件数:特許1件当たりのライセンス収入が多い
ような特許の価値が高い企業では、対価請求訴訟が発生した場合に、高額な補償費を請求
される可能性が高い。したがって、そのような企業ほど、補償費を多く支払っていること
が考えられる。他方で、ライセンス時には特許1件当たりの市場価値が明示的に取引され
るために、企業からみても発明者からみても、発明者の貢献度合いを測ることが容易であ
る。そのために、1件当たりのライセンス収入が大きい特許に対して、相応の高い補償費
を支払っている可能性もある。
-163-
非研究従事者数/研究従事者数:発明を実施するために多くの補完的資産を使用している
企業では、それだけ発明者の貢献度合いを正確に把握することができないかもしれない。
その場合、企業と発明者で情報の非対称性から、発明の貢献度合いに対する期待が異なり、
最終的に、発明者が期待通りの補償をもらっていないとして、訴訟を起こす可能性が高く
なる。したがって、補完的資産が大きい企業ほど、発明者に対して多くの補償費を支払っ
ていることも考えられる。
(c)
インセンティブ仮説
特許ライセンス収入/有償ライセンス特許件数(国内と海外):企業がインセンティブを
高めることを目的に補償費を支払っている場合、国内外のどちらの特許であるかは区別す
る必要がないために、同じライセンス収入ならば同じような金額を支払うことが考えられ
る。他方で、インセンティブを高める目的で支払っていない場合には、企業は、35 条の規
定が及ぶかどうかが不確定であった海外特許によるライセンス収入に対して、補償費を支
払わないか、あるいは払ったとしても国内のライセンス収入と比較して低額しか支払わな
いことが考えられる。
(d)
その他要因
経常利益/従業員数:企業は従業員に補償費を支払いたい場合でも、企業自身に十分な資
金的余裕がない場合には払えない。その影響をみる変数として、1人当たりの経常利益を
説明変数とした。
対価請求訴訟経験ダミー:過去に従業員対価請求訴訟を経験した企業は、他社よりも多く
の補償費を支払っている可能性がある。このデータは石井(2006)に示された判例による
対価請求訴訟のデータを用いた。
特許侵害訴訟ダミー:特許侵害訴訟を抱えている企業は、経験効果が働き訴訟を避ける傾
向にあるかもしれない。したがって、特許侵害訴訟経験がある企業では、補償費が高いこ
とが考えられる。
(e)
コントロール変数
出願件数、実施特許件数、ライセンス特許件数:多くの企業は、発明が特許出願や登録に
至った場合に一律で固定的な補償を支払っている。また、特許が実施された場合には、特
-164-
許法第 35 条の規定に明確に従えば、個々の特許の貢献度合いに応じてすべての特許に補償
費が支払われるはずである。したがって、そのような単純な件数の増加による補償費の増
大効果をコントロールし、マージナルな効果を明らかにするために、出願件数(国内+海
外+国際出願)、自社実施件数、ライセンス特許件数を変数として挿入した推計も試みるこ
ととした。
それぞれの変数の基本統計量と変数間の相関係数を、それぞれ表4と表5とした。
表4
基本統計量
変数名
平均値
標準偏差
最小値
最大値
補償費(百万円)
2.23
8.14
0
131.00
ライセンス支払額/売上高(百万円)
0.00
0.00
0
0.06
特許侵害訴訟経験ダミー
0.46
0.50
0
1.00
防衛特許件数/自社実施特許件数
0.60
1.62
0
24.86
研究従事者数
149.92
501.10
0
8000.00
特許保有件数
383.72
1746.46
0
36761.00
非研究従事者数/研究従事者数
28.48
125.37
0
2100.00
ライセンス収入/ライセンス特許件数(百万円)
13.52
301.94
0
8760.40
ライセンス収入/ライセンス特許件数(国内特許)(百万円)
1.45
9.98
0
175.50
ライセンス収入/ライセンス特許件数(海外特許)(百万円)
4.51
109.87
0
3209.00
職務発明対価訴訟経験ダミー
0.01
0.08
0
1.00
経常利益/従業員数(百万円)
3.09
6.38
-38.67
104.64
特許出願件数
119.43
544.68
0
9423.00
自社実施特許件数
149.16
738.44
0
17200.00
ライセンス特許件数
31.65
324.19
0
8000.00
-165-
-166-
0.79
0.81
0.00
0.01
0.10
0.10
0.13
0.10
0.86
0.70
0.56
特許侵害訴訟経験ダミー
研究従事者数
特許保有件数
非研究従事者数/研究従事者数
ライセンス収入/ライセンス特許件数
ライセンス収入/ライセンス特許件数(国内特許)
ライセンス収入/ライセンス特許件数(海外特許)
職務発明対価訴訟経験ダミー
経常利益/従業員数
特許出願件数
自社実施特許件数
ライセンス特許件数
0.12
0.07
0.10
0.68
0.79
0.02
0.02
0.09
0.15
0.25
0.07
0.85
0.75
0.65
特許侵害訴訟経験ダミー
防衛特許件数/自社実施特許件数
研究従事者数
特許保有件数
非研究従事者数/研究従事者数
ライセンス収入/ライセンス特許件数
ライセンス収入/ライセンス特許件数(国内特許)
ライセンス収入/ライセンス特許件数(海外特許)
職務発明対価訴訟経験ダミー
経常利益/従業員数
特許出願件数
自社実施特許件数
ライセンス特許件数
1.00
ライセンス支払額/売上高
補償費
0.06
0.05
0.05
0.01
0.04
0.04
0.04
-0.02
-0.02
0.05
0.05
1.00
0.60
0.66
0.81
0.05
0.20
0.08
0.09
0.01
-0.05
0.74
1.00
1.00
0.66
0.95
0.95
0.10
0.14
0.11
0.06
0.01
0.00
1.00
-0.02
0.01
-0.01
0.02
-0.01
-0.01
-0.02
0.00
1.00
0.00
0.00
0.01
-0.01
0.00
0.05
0.05
0.04
0.04
0.07
0.10
0.05
0.04
1.00
0.07
0.13
0.14
0.00
0.00
1.00
表5b 変数間の相関係数(サンプル数 457 件)
0.06
0.05
0.11
0.03
0.02
0.03
0.10
0.13
-0.03
0.06
0.10
0.04
1.00
0.36
0.17
0.19
0.05
1.00
0.02
0.09
0.10
1.00
0.73
0.89
1.00
0.77
1.00
1.00
ライセンス ライセンス
ライセンス
ライセンス 特許侵害訴
非研究従事
収入/ライ 収入/ライ 職務発明対
経常利益/ 特許出願件 自社実施特 ライセンス
研究従事者 特許保有件
収入/ライ
支払額/売 訟経験ダ
者数/研究
センス特許 センス特許 価訴訟経験
従業員数
数
許件数
特許件数
数
数
センス特許
上高
ダミー
ミー
従事者数
件数(国内 件数(海外
件数
特許)
特許)
0.08
0.05
0.10
0.00
0.07
0.02
0.05
0.23
-0.04
0.07
0.10
0.18
0.03
1.00
0.09
0.09
0.07
-0.03
0.06
0.06
0.02
-0.02
0.00
0.07
0.06
-0.10
1.00
-0.01
0.01
0.10
0.13
0.07
0.00
0.14
-0.01
-0.05
0.05
0.05
1.00
0.77
0.74
0.77
0.05
0.41
0.13
0.12
0.02
-0.06
0.69
1.00
0.71
0.97
0.95
0.08
0.22
0.13
0.08
0.01
0.01
1.00
-0.02
0.02
0.00
0.03
-0.01
-0.01
-0.03
-0.01
1.00
0.00
0.00
0.01
-0.01
0.00
0.05
0.06
1.00
0.04
0.06
0.09
0.11
0.08
0.04
1.00
0.07
0.14
0.17
-0.01
0.00
1.00
0.51
0.26
0.32
0.10
1.00
0.02
0.07
0.09
1.00
0.81
0.94
1.00
0.79
1.00
1.00
ライセンス ライセンス
ライセンス
ライセンス 特許侵害訴 防衛特許件
非研究従事
収入/ライ 収入/ライ 職務発明対
経常利益/ 特許出願件 自社実施特 ライセンス
研究従事者 特許保有件
収入/ライ
支払額/売 訟経験ダ 数/自社実
者数/研究
センス特許 センス特許 価訴訟経験
従業員数
数
許件数
特許件数
数
数
センス特許
上高
ダミー
ミー
施特許件数
従事者数
件数(国内 件数(海外
件数
特許)
特許)
0.05
ライセンス支払額/売上高
補償費
1.00
0.08
補償費
補償費
表5a 変数間の相関係数(サンプル数 852 件)
(5)
推計結果
表6は、最小絶対値メディアン回帰モデルによる推計結果である。
(1)式では、企業の
リスクに対する態度を表す、売上高に占めるライセンスロイヤリティ料の係数は、プラス
であり、1%水準で有意な結果となっている。この結果は仮説 1 と一致する。すなわち、多
額のロイヤリティ料を支払っているようなリスク回避的な企業ほど、補償費を多く支払っ
ているのである。なお、この変数が企業の技術力を表しているならば、係数がマイナスに
なるはずであるが、そういう結果ではない。
次に、研究従事者数、特許保有件数の両変数の係数は共に、それぞれ 1%水準で有意にプ
ラスという結果を得た。研究者が多い企業、あるいは発明者が多い企業では、それだけで
単純に補償費が増加する傾向を示している。この結果は、(3)~(5)式のように、特許出
願件数、自社実施件数、ライセンス特許件数をコントロールしても依然として有意な結果
となっており、研究者の増加によるモニタリングの困難度合いが、補償費を増加している
ことを示していると言える。この結果は仮説2と一致する。
研究従事者1人当たり非研究従事者数の係数がプラスで1%水準で有意な結果となった。
補完的資産を保有している企業ほど、補償費を多く払っていることを示している。他方で、
ライセンス特許 1 件当たりの収入の係数もプラスで1%水準で有意である。すなわち、高額
な対価請求訴訟を回避するために、高額な補償費を支払っていることを示している。この
結果は、仮説2と一致する。
職務発明対価訴訟経験ダミーはプラスであり、1%水準で有意である。過去に対価請求訴
訟を経験している企業は、補償費を多く支払っていることを示している。現在までの職務
発明対価訴訟では企業側が敗訴するケースが多い。判決の結果を受けた後、補償費の支払
い金額を上方修正していることを示している。
従業員一人当たりの経常利益の係数は有意にプラスという結果を得た。十分な資金があ
る企業ほど、高額な補償費を支払っていることを示していると言えよう。
また、特許侵害訴訟ダミーは、1~5%水準でプラスで有意な結果を得た。やはり訴訟を
抱えている企業では、補償費を多く支払うことにより訴訟を避ける傾向があることが分か
る。
(2)式は、(1)式に業種ダミーを入れて推計した結果である。業種による違いをコント
ロールしても、有意水準が若干低下した変数はあるが、変数の係数に大きな違いがないと
いう結果を得た。推計結果の頑健性が強いことを示している。
-167-
表6
推計結果
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
補償費
ライセンス支払額/売上高
23.824**
28.663***
20.269***
7.171
17.262***
(9.599)
(10.080)
(6.844)
(14.162)
(6.667)
防衛特許件数/自社実施特許件数
0.164***
(0.020)
ln研究従事者数
0.259***
0.244***
0.130***
0.103**
0.135***
(0.037)
(0.041)
(0.030)
(0.050)
(0.029)
ln特許保有件数
0.172***
0.189***
(0.026)
(0.028)
非研究従事者数/研究従事者数
0.003***
0.003***
0.001***
0.001***
0.002***
(0.000)
(0.000)
(0.000)
(0.000)
(0.000)
0.000***
0.000***
0.000***
0.000***
(0.000)
(0.000)
(0.000)
(0.000)
ライセンス収入/ライセンス特許件数
ライセンス収入/ライセンス特許件数(国内特許)
0.040***
ライセンス収入/ライセンス特許件数(海外特許)
0.006***
(0.002)
0.000
職務発明対価訴訟経験ダミー
1.521***
1.524***
1.003***
(0.436)
(0.295)
(0.417)
(0.291)
0.011*
0.009**
-0.001
0.005
(0.006)
(0.006)
(0.004)
(0.006)
(0.004)
0.201***
0.157**
0.129**
0.577***
0.116**
(0.076)
(0.079)
(0.053)
(0.101)
(0.052)
ln特許出願件数
0.214***
0.206***
0.200***
(0.029)
(0.049)
(0.029)
ln自社実施特許件数
0.056**
0.094**
0.050**
(0.024)
(0.039)
(0.023)
lnライセンス特許件数
0.566***
0.578***
0.507***
経常利益/従業員数
特許侵害訴訟経験ダミー
4.579***
4.512***
(0.414)
0.009
(0.023)
(0.041)
(0.023)
-1.093***
-1.007***
-0.565***
-0.872***
-0.584***
(0.111)
(0.185)
(0.126)
(0.195)
(0.124)
業種ダミー
no
yes
yes
yes
yes
サンプル数
852
852
852
497
852
定数項
Standard errors in parentheses
* significant at 10%; ** significant at 5%; *** significant at 1%
(3)式は、コントロール変数として出願件数、実施特許件数、ライセンス特許件数を入
れて再推計した結果である。なお、推計ではこれら3つの変数と相関関係が強い特許保有
件数は除外して行った。結果として、(1)(2)式と大きな違いはなかった。
他方で、3つの係数はそれぞれプラスで有意な結果となった。特許件数、実施特許件数、
ライセンス特許件数が増加すれば、それに合わせて補償費が増えることを示している。係
数を比較した場合、ライセンス特許件数の係数の値は 0.57 であり、自社実施特許件数の係
数値(0.06)のほぼ 10 倍の値となっている。この結果は、ライセンス特許件数の方がセン
シティブに金額を増加させていることを示している。この理由として、ライセンス特許の
-168-
方がより発明者の貢献度合いが明確であることが考えられる。もしくは、企業が自社実施
特許の貢献度合いを過小評価していることを示しているのかもしれない。他方で、特許出
願時の係数(0.21)とライセンス特許件数の係数を比較した場合、後者がおよそ3倍弱大
きい。この結果は、通常、出願時補償はライセンス特許時の補償に比べ、低額であること
を反映していると思われる。以上の結果は、ライセンス実績が最も補償費を増加させるこ
とを示している。
(4)式では、実施特許1件当たりの防衛特許件数を変数として、推計した結果である。
結果では、この変数は1%水準でプラスで有意であり、防衛特許件数が多い企業ほど、補償
費を多く支払っていることを示している。防衛特許自体は、実施された特許と違い、単純
な増加が補償費の増加につながらない。つまりこれは、防衛特許が多いようなリスク回避
的な企業ほど、補償費を多く支払っていることを示していると言える。この結果は仮説1
と一致する。
(5)式では、特許1件当たりのライセンス収入を国内特許に基づくものと海外特許に基
づくものに分けて推計したものである。推計結果では、どちらの変数の係数とも1%水準で
有意にプラスであるが、国内特許の係数の値(0.04)が海外特許の係数値(0.006)の約7倍
と大きな開きがあるという結果を得た。この結果は、仮説3と整合的である。すなわち、
長岡・西村 (2005)が示したように、35 条に基づいて導入している企業が多いことを示し
ていると言えよう。
(6)
おわりに
本章の分析結果は以下のとおりである。まず、企業のリスク回避度を表す変数では、売
上高単位当たりのロイヤリティ支払い金額が多い企業、自社実施特許1件当たりの防衛特
許が多い企業で、補償費を多く支払っている傾向があった。つまりリスク回避的な企業が
補償費を高く払っているのである。この結果は、出願件数、実施特許件数をコントロール
した場合でも変わることがなかった。すなわち、補償対象1件当たりにマージナルにプレ
ミアムを支払っていることを示していると言える。
また、研究従事者数、発明者数の多い企業ほど、ライセンス特許1件当たりの収入が高
い企業ほど、補償費が高くなる傾向にあった。前者がモニタリングの程度、研究者の異質
性を表すならば、また後者が特許当たりの請求額の高さを表すならば、そのような訴訟リ
スクが大きい企業ほど、補償費が高くなることを示していると言える。
さらに、国内外のライセンス特許1件当たりのライセンス収入が補償費に与える効果を
分析し、国内と海外特許では、補償費の支払いに大きな差があることが明らかとなった。
2004 年時点では、海外特許に対して 35 条が適用されるかどうかは不確定であったことが
-169-
影響していると考えられる。この結果は、インセンティブ契約として補償制度を導入して
いないことを示している。
以上の結果は、企業は 35 条をリスク要因として考えており、補償制度を研究者のインセ
ンティブを高める手段ではなく、対価請求訴訟を防ぐ手段としてしか利用していないこと
を強く示唆している。この結果は、大西 (2006)において、実績補償制度を導入しているに
もかかわらず、導入企業の特許の質の向上につながっていないという結果とも整合的であ
る。
最後に、本章の問題点を述べる。まず、発明補償制度を導入することによって特許の質
が上がり、その結果補償費が増加したという内生性の問題が考慮されていない。また、リ
スク回避度を測る変数は、十分に適切な指標であるとは言い難い。今後の課題としたい。
(大西
宏一郎、永田
晃也)
参考文献
1.長岡貞男・西村陽一郎 (2005) 「職務発明による補償制度の実証分析」
『特許統計の利
用促進に関する調査研究報告書』 知的財産研究所,pp.26-40.
2.石井康之 (2006) 「職務発明対価の判例動向とインセンティブとしての意義」
『知財ぷ
りずむ』No.50, pp.46-62.
3.大西宏一郎 (2006) 『発明報奨制度は企業内研究者のインセンティブを高めるのか-
パネルデータによる検証-』 知的財産研究所.
4.Zenger, T. R. and S. G. Lazzarini (2004) “Compensating for Innovation: Do small
Firms Offer High-powered Incentives That Lure Talent and Motivate Effort?,”
Managerial Decision Economics 25, pp.329-345.
5.Honig-Haftel, S. and L. R. Martin (1993) “The Effectiveness of Reward Systems
on Innovative Output: An Empirical Analysis,” Small Business Economics 5,
pp.261-269.
-170-
Ⅲ.
1.
「知的財産活動調査」調査項目の見直し
「知的財産活動調査」における調査項目の見直しの方向性について∗
(1)
はじめに
「知的財産活動調査」は、我が国の知的財産政策を企画立案するに当たっての基礎資料
を整備するため、我が国企業等の知的財産活動の実態を把握することを目的に、平成 14
年度から特許庁が実施しているアンケート調査である。
このアンケート調査は、企業のライセンス収支や産業財産権の実施状況など、実際に企
業の担当者に聞かなければ手に入らない、数多くの研究上非常に有益な情報を提供してい
る。また、こうした情報を提供する調査は世界的にみても稀であり、この貴重なデータを
用いることで、企業の知的財産戦略や知的財産政策の効果などについて、より精度の高い
先進的な分析を行うことが可能となっている。
当該調査は平成 19 年度で6年目となるが、こうしたアンケート調査は継続的に実施する
ことで、時間を通じた知財戦略の変化を把握することができるようになるため、ますます
その価値が高まっていくことが予想される。
さらに、この間、調査の有用性を一層高めるべく、調査項目や推計手法等の見直しにつ
いて、特許庁により、あるいは特許庁委託の調査研究委員会により検討が重ねられてきた。
本調査研究においても、来年度の「知的財産活動調査」が3年ぶりの大規模調査(悉皆
調査+標本調査)の年であることを踏まえ、より精度の高い分析が可能となるよう、更な
る改善案を検討する。
その際、主に調査票の問題点について、統計データの利用者の立場から、専門的知見を
有する本調査研究委員会の委員が検討を行った。
次節では、
「知的財産活動調査」の質問項目の分類に従い、(1)知的財産部門の活動状
況、
(2)産業財産制度の利用状況、
(3)産業財産権の実施状況、
(4)知的財産権侵害に
関する訴訟のそれぞれについて、各委員から指摘のあった問題点及びその改善案を整理し
ていく。
(2)
「知的財産活動調査」の問題点とその改善案
(ⅰ)
知的財産部門の活動状況について
知的財産部門の活動状況については、例年、企業における知的財産担当者数・活動費用と、
∗
本章で考察する問題並びに改善案は、各委員による分析・提案を基に、委員会での議論及び特許庁からのコメントを反
映してまとめたものである
-171-
ライセンス収支・譲渡状況について聞いている1。
本調査における知的財産活動部門の活動状況に関する調査項目は、他の調査統計ないし
公表資料からは把握できないデータを提供するものである。かかるデータは、知的財産活
動の実態を構造的に明らかにするものであることから、政策立案に資する基礎データとし
て極めて重要である。
そこで、まず、知的財産担当者数と活動費用について調査項目の問題点を整理し、その
後ライセンス収支と譲渡状況についての議論を行う。
①
知的財産担当者数・活動費用に関する問題点
企業の知的財産部における担当者数と活動費用に関する調査において、問題として挙げ
られるのは次の3点である。
(a) 「知的財産担当者数」と知的財産活動費に含まれる「人件費」との間で、回答内容
に矛盾が生じているケース(担当者がいないにもかかわらず人件費が存在するケース、
あるいはその逆のケース)が目立つ。
(b) 本来「うちその他費用」に含めるべき調査系費用を誤って「出願系費用」に含めて
いる回答や、
「出願系費用」について、合計額とその内訳の合計値とが一致しないケース
が多い。
(c) 「権利維持費用」と「権利所有件数」との間で回答内容に矛盾のあるケース(権利
維持費用が0より大きいにもかかわらず権利所有件数に0と回答しているケースなど)
が目立つ。
②
知的財産担当者数・活動費用に関する改善案
(a) 「知的財産担当者数」と「人件費」の間での回答内容の矛盾について
(a-1)知財担当者数と人件費の設問を近接させる等、設問配置を工夫する。
(a-2)レイアウト上の工夫に加え、最低限考慮されたい事項を注ではなく記入欄外の
ただし書等として付ける。例えば次のとおり(平成 17、18 年調査の設問及び設問番
号による例を示す)。
・設問I-1の文言を「貴社での直近の会計年度における知的財産担当者(他の業
務との兼務者を含む)※1の有無についてお答えください。」とする。
・人件費は現状のまま知的財産活動費の内訳として記入してもらう。ただし、人件
費の欄外に「I-1でご記入頂いた知的財産担当者の雇用にかかる費用」とただ
1
ただし、調査年度によって質問項目について若干の変動がある。
-172-
し書を付ける。
・人件費の注※5に「兼務者にかかる人件費は、実際に知的財産業務に従事した割
合で按分した値をご記入ください。
」と追記する。
(b) 「うち出願系費用」と「うちその他費用」の混同と、
「出願系費用」と「出願系費用
内訳」の合計が一致しないケースについて各項目及び定義を見直す2つの改善案を
提示する。
(b-1)案1としては知的財産活動費を「費目別」内訳と「目的別」内訳の2つの内訳
として把握するものである。
知的財産活動費の「費目別」内訳
・うち人件費
・うち固定資産の減価償却費
・うちその他費用
同活動費の「目的別」内訳
・うち出願系費用
・うち権利維持費用
・うち係争系費用
目的別内訳は、出願、権利維持、係争にかかる「手続費用」の他、各目的に知的財
産活動従事者が従事する稼働時間等を考慮して按分して記入する。これは「科学技
術研究調査」において研究開発費の費目別内訳が人件費、原材料費、有形固定資産
の減価償却費(及び購入費)、その他費用として把握される一方、同費用の性格別内
訳が基礎研究、応用研究、開発研究の区分で把握されているのと同様の考え方に基
づくものである。
ただし、この場合、出願、権利維持、係争等にかかる「手続費用」はすべて費目別
内訳のその他費用に含まれることになる。もし、これら手続費用の実態を詳細に把
握したいのであれば、その他費用の内訳として調査する。
案2としては、「知的財産活動費」を「知的財産管理部署の活動に要する基礎的
費用」として再定義して、出願、権利維持、係争等にかかる「手続費用」を別に把
握するものである。
知的財産活動費(知的財産管理部署の活動に要する基礎的費用)
・うち人件費
・うち固定資産の減価償却費
・うちその他費用(消耗品費、光熱費等)
出願費用
権利維持費用
-173-
係争費用
(b-2) (b-1)の改善案1、2が採用された場合、定義の大幅な変更を伴うため、デ
ータの連続性を損なうことになる。そのため、前年等との比較、レイアウト変更の
限界、記入者の負担を考慮すると、注を付記することが現実的な改善策であると考
えられる。例えば次のとおり(平成 17、18 年調査の設問及び設問番号による例を示
す)。
・内訳を聞く設問Ⅰ-3の欄外に「各欄にご記入頂いた金額の合計が、設問I-2
の「うち出願系費用」にご記入頂いた金額と一致することをご確認ください。」と
注を付記する。
(c) 「権利維持費用」と「権利所有件数」との間での回答内容の矛盾について
(c-1)権利維持費用と権利所有件数とは必ずしも一致する必要はないが、明らかな誤
りが多い場合は、ただし書をつけることで一定の改善効果を持つと考えられる。例
えば次のとおり。
・
「
「権利維持費用」に0より大きい額を記入した場合は、
「権利所有件数」について
も忘れずにご記入ください」等のただし書をつける。
(ⅱ)ライセンス収支・譲渡状況に関する考察
本調査のライセンス収支の状況については、特許の価値を金銭的に把握する唯一の指標
であり、特許の経済価値に関する分析を行うために貴重なデータとして有益なものである。
特許の譲渡に関する統計は、今後、知財取引が増加していくと思われ、時系列比較の観点
から引き続き調査を行うことが必要である。
ライセンス収支・譲渡状況に関する調査項目については、次の5点について考察を加え、
改善についての示唆を得る。
(a)ライセンス収支のトレンド
(b)ライセンス額のレベル
(c)データの回答状況
(d)有償ライセンスに関する項目とのクロスチェック
(e)企業ごとのアウトライセンス単価
-174-
①
ライセンス収支・譲渡状況に関する改善案
(a) ライセンス収支のトレンドについて
ライセンス収支について平成 14 年から平成 17 年のサンプル数、最大値、合計値などを
調べたところ、次のような傾向が明らかになった。
(a-1)平成 14 年度調査はライセンス収支の「有無」を聞かなかったため、欠損値が
多い。
(a-2)ライセンス収入(支出)の最大値が合計値に占める割合がかなり高く、1社の
動向によって全体(合計)が大きく左右される可能性を示唆している。
(b) ライセンス額のレベルについて
ライセンス収支の額について、企業活動基本調査の結果との比較を行ったところ、次の
ようなことが分かった。
(b-1)「知的財産活動調査」(平成 15 年度調査)の合計額は、企業活動基本調査の合
計額と比較してかなり小さく、
「知的財産活動調査」で全体像やトレンドを把握する
のは難しい。
(b-2)
「知的財産活動調査」におけるライセンス項目は簡便化の方向に進んでいるが、
このまま簡便化を続けると、企業活動基本調査の質問項目と変わりがなくなる。差
別化を図るためには、グループ内外の区分、国内外・地域ごとの区分は残しておく
ことが望ましい。
(c) データの回答状況について
平成 14 年から 17 年の4回にわたる調査について、どの年度に回答しどの年度に回答し
なかったかという組み合わせ(16 通り)ごとに、そのカテゴリに属する企業数と研究開発費
を調べた。この結果、次の2点が明らかになった。
(c-1)ある年度のみ回答している企業がかなりの割合で存在している。すなわち、す
べての年度に未回答というのではなく、ある年度についてのみ未回答という企業が
かなり多い。
(c-2)年度によっては回答しているという企業群の研究開発費(最大値・平均値)を
みると、かなり大きな企業も含まれていることが分かる。
これら2点を考慮すると、過去に回答した経験のある企業を中心に督促を行うことで、
回収率を上昇させることができる可能性がある。これにより、影響の大きい大企業の回収
-175-
率の上昇も期待できる。
(d)有償ライセンスに関する項目とのクロスチェック
各年度について、
「所有権利数のうち有償で他者に実施許諾をしている割合」を聞く設問
と、
「ライセンス収入額」を聞く設問の回答数を、回答なし、0回答、正数回答のカテゴリ
別に集計して整合性を確認したところ、次の点が明らかになった。
(d-1)ライセンス収入額が0であるにもかかわらず、有償ライセンスの割合で正数を
答えているものや、その逆のケースがかなり存在している。
(d-2)ライセンス収入額が未回答であっても、有償ライセンスで0と答えているもの
が多く、これは未回答の中に収入額が0という意味のものが多く含まれていること
を示唆している。
有償ライセンスの割合を聞く設問とライセンス収入額を聞く設問については、現在設問
Ⅰ-5.Ⅰ-6.でライセンス収支額、設問Ⅲ-1.の中で、有償実施について聞いてお
り、設問の場所が離れているが、
「Ⅲ.産業財産権の実施状況について」に設問をまとめる
等の工夫を行う。また、整合性を意識させるように設問を工夫することで、データ精度を
向上させることができる可能性がある。例えば、
(
「うち、他社への実施(使用)許諾件数」
に0より大きい件数を記入した場合は、後の設問Ⅲ-2、Ⅲ-3についても忘れずにご記
入ください。
)等の注意書きを欄外に加える。
(e)企業ごとのアウトライセンス単価
ここでは、特許1件当たりのライセンス額や、業種別の企業の平均的なアウトライセン
ス単価を調べた。その際、サンプルを「全体」と「単価が 10 億円以上(あるいは以下)」
のライセンスとに分けて単価平均を比較したところ、次のようなことが分かった。
10 億円以上を除くと、サンプル数自体はさほど変わらないが、ライセンス単価の平均は
大きく下がる。すなわち、少数の企業(契約)が全体に対して大きな影響を持っており、
これらの企業の動向によって、全体の額が大きく変動してしまう危険性を含んでいる。し
たがって、拡大推計を行うのではなく、パネルデータとして推移を把握することが妥当で
ある。
(ⅲ)
産業財産制度の利用状況について
産業財産制度の利用状況については、国内外における出願・審査請求状況について聞い
ている。
-176-
本調査における産業財産権の利用状況については、審査業務の企画立案等のために必要
なデータを提供するものである。
①
産業財産制度の利用状況に関する問題
産業財産制度の利用状況については、平成 14 年調査から一貫して、出願件数と審査請求
件数について、当該年度の「実績」とその後3年間(平成 17 年以降は2年間のみ)におけ
る各年の「見込み」を回答させている。そこで問題となるのが、次の2点である。
(a)出願件数、審査請求件数に対する「見込み」の予測値としての有用性
(b)「審査請求件数」と「審査請求予定件数」との整合性
②
産業財産制度の利用状況に関する考察
(a)出願件数、審査請求件数に対する「見込み」の予測値としての有用性
出願件数と審査請求件数に対する企業の「見込み」がどの程度信頼できるかを調べた
ところ、次のような傾向が明らかになった。
(a-1)各年の「実績」を拡大推計した値は、特許庁統計(内国人・外国人を含む)
に比較して、特許出願件数で 87-92%、審査請求件数で 85-89%であり、一貫して過
小評価傾向にある。「知的財産活動調査」の調査対象は内国人のみなので、内国人
に限った特許庁統計に比較すると、特許出願件数で 99-105%となり、審査請求件数
では 98.5-104%となり、おおむね一致する。
(a-2)各年の「見込み」を拡大推計した値についても、やはり過小評価傾向であるが、
過小評価の度合いの変動が大きい。特に、審査請求件数についてこの変動が大きく、
予測値としての有用性には疑問がある。一方、出願件数について内国人のみに限る
と、逆に過大評価の傾向があり、審査請求件数については 2002-2003 年は過大評価、
2004-2005 年は過小評価している。
(a-3)各年の「見込み」は「実績」のトレンドとしての動きも十分に予測できていな
い。今後は、予測性の乏しい原因を分析し、どのような補正を行えば予測性を向上さ
せることができるか研究を進めていくべきである。
・特許出願件数については、2001 年から 2003 年にかけて、「実績」の集計値は減少
傾向であるのに対し、「見込み」の集計値は増加傾向である。また、2003 年から
2005 年については「実績」の増加に対して、
「見込み」の増加が過大となっている。
この傾向は内国人出願件数に限っても、同様である。
-177-
・審査請求件数については、2001 年から 2002 年にかけて「実績」は減少傾向にある
が、「見込み」は増加傾向を示している。また、2003 年以降、 「実績」は急速に
伸びているが、
「見込み」は微増にとどまっている。内国人による審査請求件数に
限っても、同様の傾向がある。
(b)審査請求件数の「見込み」と「審査請求予定件数」との整合性に関する考察
産業財産制度の利用状況については、平成 17 年調査以降、出願実績件数のうち経過年
数ごとにどれだけ審査請求を行う予定であるかを聞いている。そこで、ある年度に予定
されている「審査請求予定件数」の合計が、当該年度における審査請求の「見込み」件
数と整合的であるかを調べた。
(1) 2004 年に出願(実績)のうち2~3年以内に審査請求予定のものは、2006~2007
年に審査請求されることになる予定であり、(2) 2005 年に出願(見込み)のうち1~
2年以内に審査請求予定のものは、2006~2007 年に審査請求されることになる予定であ
り、(3)2006 年に出願(見込み)のうち0~1年以内に審査請求予定のものは、2006
~2007 年に審査請求されることになる予定である。これら(1)、(2)、(3)の合計が、
2006 年審査請求見込み件数と一致するかどうかを調べた結果、次のことが分かった。
(b-1) 全体でみる限り、(1)+(2)+(3) は審査請求「見込み」の 103%となり、ほ
ぼ一致する。
(b-2)しかし、規模別、産業別では、55%~164%(例外的に 701%もある)と変動が大
きく、回答者はこの意味での整合性を余り考慮していない可能性がある。
以上の点を考慮すると、審査請求予定件数を経過年数ごとに聞くのは、回答者の負担
が大きいだけでなく整合性もとれていないため、有用性が低い。したがって、経過年数
ごとの予定件数を聞くのであれば、合計が整合的となるように回答欄の作り方を工夫す
る必要がある。あるいは総数として各年度の審査請求件数の見込みのみを聞く方が有効
である。
(ⅳ)産業財産権の実施状況
産業財産権の実施状況については、権利所有件数とその利用状況について聞いている。
利用状況については、自社実施件数、他社への実施許諾件数とその内訳を聞いており、権
利者に尋ねなければ把握できない貴重な情報を提供している。知的財産権が自社実施され
ているかどうか、またライセンスをされているかどうかは、知的財産政策の立案上不可欠
な情報である。
「プロパテント政策」が機能しているかどうかを評価していく上では、企業
などが保有している知的財産権の数の把握では不可能であり、その利用状況を分析できる
-178-
情報が不可欠である。なお、
「知的財産活動調査」における自社実施についての回答率は現
状でもそれほど低くはなく、注意深い分析によって、現状でも非常に有用な分析を行うこ
とが可能であることは、既に過去の研究からも明らかになっている。また、ライセンスに
関する情報も、技術市場の発達の度合い、企業のオープン・イノベーションへの対応など
を研究する上で、他では入手が困難である。したがって研究者の立場からみても、継続的
な調査を強く支持する。
①
産業財産権の実施状況に関する問題点
産業財産権の実施状況については、まず回答率と設問に対する誤解に関して議論し、さ
らに、今後追加すべき設問項目についても考察を加える。すなわち、次の3点について改
善案を考察する。
(a)他の設問と比較しても回答率がとりわけ低いという問題
(b)設問に対する誤解が生じている可能性があるという問題
(c)今後調査すべき項目
②
産業財産権の実施状況に関する考察・改善案
(a) 回答率の低さに関する問題
産業財産権の実施状況については、質問票が回収された企業の中でも特に回答率が低く、
全設問に回答した企業は、企業数の単純平均で 55.5%、特許出願件数で重み付けした回答
率は 32.2%のみである。また、未回答の比率と企業規模の関係は逆 U 字型となっており、
大企業(出願件数で評価)では回答率が最低となっている。さらに、外国権利数にいたって
は、未回答の割合が国内権利数の約2倍にまでなっている。
回答率を改善するには、回答者に対するヒアリング等を行うことによって、回答率が低
い原因を踏まえて検討する必要がある。
(b) 設問に対する誤解が生じている問題
(b-1)所有権利のうち自社実施している割合や他社への実施許諾(クロスライセンス、
有償ライセンス、パテントプール)をしている割合が「100%」 であるとした企業が
多くの業種で存在しており、また、大企業でも少なからず存在している。これは、
「実
施(使用)」の意味や設問の趣旨を誤解している可能性がある(例えば、自社実施にブ
ロッキングや将来実施する可能性がある発明を含めている)。
-179-
「実施」の意味の誤解をなくすためには、定義を明確にする必要がある。
特に、時点を明確にすることで、過去に実施したことがあるが現在は実施してい
ない発明や、将来の実施予定が「実施」の中に含められないように配慮する必要が
ある。
このためには、注やただし書で「実施の件数は、現在(調査対象年に)実施してい
る件数をお答えください」という文言を付加することが考えられる。
(b-2)ほかに、より初歩的な誤解として、割合(%)で回答すべきところと件数で回答
すべきところの混同が見受けられた。回答者の答えやすさを考慮し、割合(%)で記入
をお願いしていたが、そもそも、クロスライセンス、パテントプール等が利用され
ている状況を把握するのに、割合(%)で回答させる記入欄は誤解を招く。割合(%)の
書き込みの場合に、「うち割合」ではなく、行う可能性(「0%」と「100%」としか書
いていない)を記入している例が見受けられた。企業側からすると割合(%)の方が記
入しやすいかもしれないが、質問の趣旨を理解させるためと、できるだけ精度の高
いデータを取得するためには「件数」で聞いた方がよいと思われる。また、件数で
調査していた 15 年から、割合で調査した 16 年とを比較した場合、母集団が異なる
ので一概には比較しにくい面もあるが、あまり回答率に変化は見られなかったので
(若干回答率の低下が見られたが)
、できるだけ精度の高いデータを取得するために
も「件数」で記載させる方が良いと思われる。
(b-3)さらに、「所有件数」と「自社実施件数」、「他社への実施許諾件数」には回答
しているものの、「利用件数」には無回答であるケースが多く、「利用件数」の定義
が十分に理解されていない可能性があるため、理解しやすく整理する必要がある。
定義の一例としては次のようなものがあげられる。
例:利用件数とは、所有件数のうち、
「自社実施している」及び、
「他社に実施許
諾している」件数の合計をさします。その際、
「自社実施して」おり、かつ「他
社に実施許諾している」件数を重複排除してください
(c) 今後調査すべき項目
調査をより有用なものとするためには、分析を行う上で意義のある変数を調査項目とし
て加えることが考えられる。ここでは特に、(c-1)標準関連特許、
(c-2)未利用特許の
内訳(「防衛目的」
、
「開放可能」
)、
(c-3)企業秘密(ノウハウ)
、
(c-4)技術分野の4点に
着目して、追加が期待される変数について検討していく。
(c-1)パテントプールについては、回答者数が非常に少なく、標準関連特許が重要に
なってきていることをかんがみると、むしろ標準機関にコミットしている(無償ある
いは RAND 条件で供与している)特許件数を調査する方が良いかもしれない。ただし、
-180-
この場合標準関連特許はライセンスへのコミットをしている特許であり、必ずしも
実際にライセンスされているかどうかは不明であることに留意が必要である。
(c-2)未利用特許については、その原因別の内訳、例えば「防衛目的」の権利、「開
放可能」な権利を分析することが非常に重要である。
過去において一度だけ「防衛目的」の権利数を尋ねているが、防衛特許の比率は
多くの産業でかなり高く、また、未利用特許の主要な原因であると考えられるため、
これを今後も定期的に行っていく必要がある。なお、その際、
「防衛目的」の定義を
明確にすることが重要である。
一つの案としては、
「防衛目的」を「自社実施も他社への実施許諾も行っていない
権利であって、自社事業を防衛するために他社に実施させないことを目的として所
有している権利」と定義することにより、回答者にとって比較的わかりやすい表現
になると思われる。
また、過去の調査では未利用特許の中で「開放可能な権利数」を調査しているが、
この項目も企業の技術市場の発展に対する姿勢を表すものとして重要である。
「開放
可能な権利数」は、「相手方を問わずライセンス可能な権利」(いわゆるオープン・
ライセンスと一般開放) と「相手方次第あるいは相手を限定してならライセンス可
能な権利」(条件付き開放)がある。排他的なライセンスは後者の一例である。技術
の実施に必要な固定投資が大きい場合には、このような相手を限定したライセンス
が効率的となる。この2つの類型を区別して企業には答えて頂くのが研究上は最も
有用であるが、どちらの調査でも有益である。
(c-3)企業が知的財産を保護する方法として、特許権など公開の代償に排他権を得る
か、企業秘密として保護するかの選択がある。企業秘密(ノウハウ)については、
営業秘密保護の強化、先使用権保護の強化、海外への意図せざる技術流出の危険性
への企業の認識の高まりなどによって、その重要性が増してきていると考えられる
が、こうした状況を把握する統計的なデータは存在しないのが現状である。届出さ
れた発明数とその内訳:特許出願された件数、企業秘密(ノウハウ)とした件数、
特許化せずに公開した件数(他社の特許化を防ぐための公知化)を調査することに
よって、ノウハウ保護がどの程度利用されているかを産業分野別、企業の特性別に
把握することが可能となるとともに、ノウハウと特許の選択がどのような要因から
影響を受けているかを分析することが可能となり、知的財産制度の政策企画と研究
にとって非常に重要な情報となると考えられる。なお関連して、特許出願に対する
先使用権の重要性を評価することは興味深い研究ではあるが、実際に先使用権がど
の程度利用されているかという情報を得ることは難しい。個別発明における先使用
権の利用は統計をとりづらいが、先使用権の活用が問題となる企業秘密(ノウハウ)、
すなわち、企業ごとの出願しなかった総計の情報は得られる可能性があり、今後こ
-181-
れを実施に向けて準備していくことが強く望まれる。とりわけ、届出された発明の
出願しなかった件数のうち、企業秘密(ノウハウ)とした件数、特許化せずに公開
した件数(他社の特許化を防ぐための公知化)のようなデータが得られれば研究上
非常に有益である。
(c-4)技術分野ごとの正確な知財の取得・活用状況を把握するために、分野別に研究開
発費と出願件数を尋ねることは有用である。ただし、これはかなりの負担を回答者
に課すことになるため、実現に困難が伴うことが予想される。
(ⅴ) 知的財産権侵害に関する訴訟について
知的財産権侵害に関しては、平成 14 年から平成 16 年までの3年間にわたり、訴訟や警
告件数を財産権別・地域別に聞いている。
本調査項目について、知的財産権を考える上ではそのリスク面のことも考慮する必要が
あるため、訴訟件数を調査する必要がある。特に、日本の訴訟件数はある程度把握できる
ものの、日本企業が世界のどの地域にてどういう訴訟を起こしているか、あるいは起こさ
れているかということは全くデータが無いため、日本、米国、欧州、アジアと地域ごとに
項目を分けて調査を行うことが必要である。
この調査項目については、毎年調査をしてもデータ自体はあまり大きく変化するもので
はないので3年に一度の調査で良いとして、平成 17 年からは調査項目からはずしたという
経緯がある。
①知的財産権侵害に関する訴訟についての問題点
ここでは、過去の調査票の問題点を把握することで、再度調査項目に加える場合の示唆
を得る。その際の着目点としては、次の4点である。
(a)調査項目の変遷と回答状況
(b)未回答者の属性
(c)他の設問との回答状況の比較
(d)回答の正確性
②知的財産権侵害に関する訴訟についての考察
(a) 調査項目の変遷と回答状況
調査項目の変遷と回答状況をみることで、どの設問が回答率に大きな影響を与えていた
-182-
かを推測することができる。
平成 14 年調査は特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権のそれぞれについて訴訟
の有無を聞き、有の場合にはさらに、訴える場合と訴えられる場合に分け、地域ごとに警
告・訴訟件数を聞くという非常に回答負担の大きい設問となっていた。これを受けて、平
成 15 年では平成 14 年から調査項目の簡素化を図った。しかし、未回答の割合は逆に大幅
に増加した。この未回答の増加に最も大きな影響を与えた変更は、設問の最初で聞いてい
た訴訟の有無を除去したことと予想される。すなわち、回答率を上昇させるためには、ま
ず訴訟の有無を聞くことが重要であると推測される。
平成 16 年調査では平成 15 年からいくらかの変更を加え、回答率は全般的に改善してい
る。これは、回答負担の大きかった対象企業の国籍欄を廃止した効果と、それまで直近会
計年度で発生した訴訟のみ記入させていたところを、係争中の訴訟も記入させるようにし
たことで書きやすくなった効果によるものと考えられる。
(b) 未回答者の属性
未回答者には客体ごとの傾向・特徴があるのかを調べることで、どういう属性を持つ企
業・個人が設問に答えていないかを知ることができる。
まず企業と個人とに分け、企業については資本金、従業員数、特許所有件数の3つの属
性により未回答の分布をみた。
それによれば、資本金や従業員数に関する設問に対して未回答の企業は当設問に対して
も未回答である割合が高い。また、資本金、従業員数、特許所有件数が少ない企業は未回
答の割合が相対的に高い。逆に、資本金が 100 億円超の企業、従業員数が 500 人以上の企
業、特許所有件数が 100 件以上の企業は、回答する割合が相対的に高いという傾向が見ら
れる。
(c) 他の設問との回答状況の比較
ここでは、侵害状況を聞く設問の回答状況と他の設問の回答状況とを比較する。これに
より、侵害状況の設問に対する未回答のパターンが、当該設問特有のものであるかが明ら
かになる。
侵害状況に関して何らかの回答をした者は、知的財産担当者数、知的財産活動費、出願
状況、産業財産権の所有状況についても回答率が高いという傾向が見られる。他方、回答
率の低い侵害状況に回答した者でも、産業財産権の売買や産業財産権の収支に関しては記
入しないケースが多く、これらの設問が企業にとってどの程度答えにくいものであるかを
示唆している。
-183-
また、侵害状況に関する設問に対して未回答であっても、回答状況の良い担当者数、活
動費、出願状況などでは0と答えている者も多いことから、侵害状況に対する未回答の中
には0を意味するものが多分に含まれていることが予想される。
(d) 回答の正確性
平成 16 年に発生した訴訟が平成 17 年に係争中である可能性は非常に高いと考えられる。
したがって、平成 16 年と 17 年のデータをパネル化し、16 年の訴訟発生件数と 17 年の係
争中の訴訟件数とを比較すれば、ある程度回答の正確性を推し量ることができる。
すると、平成 16 年の訴訟発生件数が未回答のところは 17 年の係争中の訴訟件数でも未
回答のものが圧倒的に多く、0という記入も目立つ。これは、回答率の低さと、未回答の
中に0を意味するものが多く含まれていることを示唆している。
平成 17 年に係争中の訴訟件数は過去からの累積を含め、平成 16 年の訴訟発生件数以上
であることが期待されるが、その逆のケースも見られる。したがって、当該設問に対する
回答が正確に記入されているかには疑問の余地がある。
さらに、訴訟件数が2件以上の回答は非常に数が限られているため、侵害状況について
は有りか無しかという情報だけでも正確に記入してもらう方が有用であると考えられる。
したがって、回答率や正確性を改善するためには、まず訴訟の有無を聞くことが重要で
ある。また、0件の件数を省略せずに記入して頂くことを設問に注意書きする等により、
回答率の向上を図ることができる。
ただ、
複数の訴訟を抱えるケースは少ないこともあり、
場合によってはその情報のみ取ればよいかもしれない。訴訟の件数まで聞くのは3年に1
度でもよく、過去に訴訟有りと答えていれば、それが件数の回答率・精度を高める効果も
期待できる。
-184-
2.
(1)
「知的財産活動調査」の見直し案のまとめ∗
知的財産担当者数・活動費用(設問I-1~3)に関する改善項目案
(ⅰ) 設問I-1の文言を「貴社での直近の会計年度における知的財産担当者(他の業務
との兼任者を含む)※1の有無についてお答えください。
」とする。
(ⅱ) 設問I-1の「知的財産担当者数」と設問I-2の「うち人件費」の設問を近接さ
せる等レイアウトを工夫するか、あるいは、設問I-2の「知的財産活動費」の「う
ち人権費」の欄外に「設問Ⅰ-1でご記入頂いた知的財産担当者の雇用にかかる費用。
」
と追加する。さらに、
「うち人件費」の注※5に「兼務者にかかる人件費は、実際に知
的財産業務に従事した割合で按分した値をご記入ください。」と追記する。
(ⅲ) 設問I-3の欄外に「各欄にご記入頂いた金額の合計が、設問I-2の「うち出願
系費用」にご記入頂いた金額と一致することをご確認ください。」と注を付記する。
(ⅳ) 設問I-3「「権利維持費用」に0より大きい額を記入した場合は、後の設問Ⅲ-
1「権利所有件数」についても忘れずにご記入ください。
」等のただし書をつける。
(ⅴ) 今後の課題として、「知的財産活動費」について、科学技術研究調査の研究費の調
査のように「費目別」内訳と「目的別」内訳の2つの内訳として把握できるようにす
るか(案1)
、「知的財産活動費」を「知的財産管理部署の活動に要する基礎的費用」
として再定義し、
「出願費用」
、
「権利維持費用」、
「係争費用」等を別の項目として調査
すること(案2)を検討する。
(2)
ライセンス収支・譲渡(設問I-5~7)に関する改善項目案
(ⅰ) 設問I-5~7のライセンス収支のグループ内外の区分、国内外・地域ごとの区分
は残しておく。
(ⅱ) 過去に回答した経験のある企業を中心に督促を行う。
(ⅲ)設問Ⅲ-1の有償ライセンスの割合を聞く設問と設問I-5~7のライセンス収支
を聞く設問について整合性を意識させるようにレイアウト等を工夫する。
(ⅳ)設問I-5~7のライセンス収支の項目の統計処理については、拡大推計を行わず、
パネルデータとして経年の推移を把握する。
(ⅴ)
設問Ⅰ-5のグループ内外の有償実施許諾の有無の設問について、グループ内と
グループ外の記入欄を別々の列にする等レイアウトを変更する。
∗
ここでまとめられている見直し案は、各委員による分析・提案を基に、委員会での議論及び特許庁からのコ
メントを反映して、委員会の意見としてまとめられたものである
-185-
(3)
産業財産権の利用状況(設問Ⅱ)に関する改善項目案
(ⅰ) 設問Ⅱ-1-1の審査請求予定件数について、経過年数ごとの予定件数を聞くので
あれば、合計が整合的になるように回答欄の作り方を工夫する。あるいは、経過年数
ごとには質問をせず、各年度の審査請求件数の見込みを総数的に聞くのみとする。
(ⅱ) 設問Ⅱ-1-1~4について、「その他の地域」欄を追加する。
(ⅲ) 設問Ⅱ-1-1について、審査請求件数は当該年よりも前に出願したものも含めて
カウントする旨明記する。
(ⅳ) 設問Ⅱに、新たに、先使用権の利用の情報に結び付く「企業秘密・ノウハウとした
件数」を質問する。また、この質問の前提として、「届出された発明の件数」
、「うち、
出願されなかった件数」
、
「うち、出願がなされた件数」を質問し、
「うち、出願されな
かった件数」の内訳として「うち、企業秘密・ノウハウとした件数」
、「うち、出願せ
ずに公表した件数」を質問する。
(4)
産業財産権の実施状況(設問Ⅲ)に関する改善項目案
(ⅰ) 設問Ⅲ-1の「実施」の定義について、「実施」の時点を明確にすることで、過去
に実施したことがあるが現在は実施していない発明や、将来の実施予定が「実施」の
中に含められないように定義を明確にする。
(ⅱ) 設問Ⅲ-1の「うち、クロスライセンスにより他社に実施許諾」
、
「うち有償で他社
に実施許諾」
、
「うち、パテントプールにより他社に実施許諾」について、
「件数」で調
査していた 15 年から、「%」で調査した 16 年で比較した場合、あまり回答率の変化は
見られなかったので(むしろ若干回答率の低下が見られた)より精度の高いデータを
取得するために「件数」で記載させることにする。
(ⅲ) 設問Ⅲ-1の「うち、利用件数」の定義を、明確にする。例えば、
『利用件数とは、
所有件数のうち、「自社実施している」及び、
「他社に実施許諾している」件数の合計
をさします。その際、
「自社実施して」おり、かつ「他社に実施許諾している」件数を
重複排除してください。
』と定義する。
(ⅳ) 設問Ⅲ-1の「うち、パテントプールにより他社に実施許諾」については、回答者
数が少ないため、設問から削除する。
(ⅴ) 設問Ⅲ-1に新たに「未利用特許件数」の項目を追加し、さらに、「うち、防衛目
的の件数」を質問する。
「防衛目的」については、
「防衛目的」と「ブロッキング目的」
を明確に区別できるように、例えば、
「自社実施も他社への実施許諾も行っていない権
利であって、自社事業を防衛するために他社に実施させないことを目的として所有し
ている権利」と定義する。
-186-
(ⅵ) 設問Ⅲ―1に、
「開放可能な権利数」の項目を追加し、
「相手先企業を問わず、ライ
センス契約により他社へ実施許諾が可能な権利の件数」、若しくは「相手方次第あるい
は相手方を限定してならライセンス可能な権利」(いわゆる条件付回答)と定義して、
両方の調査あるいはどちらかの調査を実施する。
(ⅶ) 設問Ⅲの産業財産権の実施状況について、既に登録になっている権利のみが対象で
あり、出願中未登録の件数や既に取り下げられている件数を含めないことを明記する。
(ⅷ) 今後の課題として、研究上の有益性から、技術分野ごとの研究開発費と出願件数を
質問することを検討する。
(5)
知的財産権侵害に関する訴訟(平成 16 年度調査の設問Ⅳ)に関する改善項目案
(ⅰ) 設問Ⅳの最初において、平成 16 年度調査と同様に、訴訟の有無を質問する。訴訟
の有無の調査は、3年に一度ではなく、毎年継続して行うようにする。
(ⅱ) 設問Ⅳの注等に、「係争中の訴訟がない場合は、0と記入してください」旨を明記
する。
(6)
今後の課題
(ⅰ) 中小・零細企業の記入負担を軽減するため、大企業と中小・零細企業との調査票を
切り分けて中小企業・零細企業の調査票を簡易なものとすること、その検討の前提と
なる拡大推計の手法、調査対象範囲等について検討する。
(ⅱ) 知的財産活動費の定義の見直しを検討する。
(ⅲ) 技術分野ごとの研究開発費や出願件数の調査を検討する。
-187-
Ⅳ.
1.
海外における知的財産指標の作成・利用について
はじめに
特許統計は近年急速に整備されてきている。それはイノベーション政策における意思決
定、企業の知財戦略の評価、技術動向の把握などに有用となる指標を作成するに当たって、
基本的かつ有益な情報を提供する。こうした特許統計の重要性を踏まえ、欧州特許庁(EPO)
と経済協力開発機構(OECD)は共同で特許統計に関するワークショップを開催している。
このワークショップは 2003 年に始まり、今年で3回目となる1。そこで報告される研究は、
データベースの構築やその手法に関する研究だけでなく、実際に特許データを用いた政策
志向的な研究、知財指標の作成方法やその意義に関する研究も含まれている。
以下では、本調査研究報告書の趣旨にかんがみて、2006 年秋に開催された「政策意思決
定のための特許統計」ワークショップにおいて報告された研究の中から、特に特許指標に
関する研究を採り上げ整理・紹介していく。これにより、海外においてどのような知的財
産指標が作成され、活用されているかを把握し、
「知財戦略指標」の策定に対する示唆を得
る。
2.
ワークショップの概要
今回のワークショップはウィーンで開催され、5つのセッションに分けられ 14 の研究報
告が行われた(別に2つの基調講演も行われた)。各セッションの概要は以下のとおりであ
る 2。
セッション1(タイトル:
「統計的利用のためのデータベース」)は、日米欧の各国にお
けるデータベース構築の試みを紹介するセッションとなっている。ここでは、Rob Heijna
(EPO) 、 Bronwyn Hall (University of California Berkeley) 、 Kazuyuki Motohashi
(University of Tokyo)、Colin Webb (OECD)の4名の専門家が、それぞれの国における特
許データベース事情に関して報告を行った。中でも、今年は EPO が開発を続けてきた世界
規模の統計データベースである PATSTAT が完成したことを受けて、その紹介がこのセッシ
ョンの大きな目的のひとつになっている。
セッション2(タイトル:
「特許データベースにおける名寄せ」)は、より精度の高いデ
ータを得るためのデータクリーニングや名寄せの方法を中心に紹介するセッションとなっ
ている。ここでは、Bernard Felix (Eurostat)、Marc Nicolas (EPO)、Alan Porter (Search
1
当ワークショップは、2005 年は開催されていない。
ワークショップのプログラムは次の URL から入手できる。
http://academy.epo.org/schedule/2006/ac04/patstat.programme.pdf
2
-188-
Technology, Inc. and Georgia Institute of Technology)が、各所属機関における名寄せ
の取り組みやその成果について報告を行った。
セッション3(タイトル:
「経済学的利用のためのデータ収集と特許の価値」)は、実際
に特許データを利用した経済学的な研究を紹介するセッションとなっている。ここでは、
Kazuyuki Motohashi(University of Tokyo)が、日本の特許 DB である IIP パテントデータ
ベースを用いた研究報告を行った。
セッション4(タイトル:
「技術開発マッピングのための特許の利用」)は、特許データ
を用いた国際比較あるいはそのための指標作りの試みを紹介するセッションとなっている。
ここでは、Hyun-Soo Ahn (KIPO)、Helene Dernis (OECD)、Peter Hingley (EPO)が、引用
データやパテントファミリーデータなどから作成した指標を基に国際比較を行った。
セッション5(タイトル:
「特許制度分析のための統計利用」)は、各国の特許制度を分
析する上で、どのように特許データを用いることができるかを紹介するセッションとなっ
ている。ここでは、George Lazaridis (EPO)、Sadao Nagaoka (Hitotsubashi University)、
Frederick Joutz (George Washington University)が、それぞれ特許データを用いて、企
業の出願や審査請求行動について独自の研究を報告した。
3.
知的財産指標に関する研究報告
本章では、今回のワークショップで行われた報告の中から、特に特許データを用いた知
的財産指標に関する報告を採り上げ、その概要を紹介する。それにより、海外においてど
のような知的財産指標が作成され、活用されているかを知ることができ、「知財戦略指標」
の策定に対して有益な情報を得ることができる。
ここではまず、EPO が開発した世界規模の特許データベースである PATSTAT がどのよう
なものであるかを解説した Rollinson and Heijna の報告を紹介し、その後、PATSTAT を含
む特許データベースを用いた知的財産活動指標の作成・活用に関する取り組み(Webb、
Ahn、
Dernis、Hingley の報告)を紹介する。
(1)
世界規模の統計データベース(PATSTAT)
はじめに、今回のワークショップの中心議題の一つである PATSTAT の有用性に関する
Rollinson and Heijna (EPO) の 報 告 “EPO Worldwide Patent Statistical Database
(PATSTAT)”を紹介する。概要は以下のとおりである。
PATSTAT とは、EPO が各国関係省庁の協力を得て統計分析用に開発したデータベースで、
主要世界各国の出願データと引用特許データを一つにまとめ上げた、世界規模の特許デー
-189-
タベース(world-wide patent database)のことである3。
これまで、異なる国のデータベースから特許データを集めてきて分析に使用するには、
データの質の違いや標準化の問題など解決すべき問題が多く、また、そのため研究者個人
で質の高いデータセットを構築するには莫大な時間と費用をかけなければならなかった。
しかし、PATSTAT は各国のデータを可能な限りハーモナイズするように設計されている上、
研究者に対してはほぼマージナルコストで提供されている。
また、PATSTAT では、特許データを扱う上で避けられない出願人・発明者名の名寄せや
データクリーニングに関しても、ある程度の精度で行われている。
さらに、現在は、引用情報やパテントファミリーに関するデータの整備・拡充が急速に
進められている。とりわけ、パテントファミリーに関しては、EPO、JPO、USPTO に出願さ
れた特許について、優先日を共有している特許群を三極パテントファミリー(Triadic
patent families)というカテゴリの下で整備しており、このデータを使用すれば、各国で
共通した特許の価値指標を作成することも可能となる。
以上が James Rollinson and Rob Heijna の報告の概要であるが、PATSTAT を用いた研究
はまだ始まったばかりであり、今後研究が蓄積されていくにつれてその有用性も明らかに
なっていくだろう。特に、引用情報やパテントファミリーのデータは、出願特許の重要性
を測る上で非常に有益であると考えられる。被引用件数や引用件数が多いほど、
あるいは、
同一の発明を他国にも出願しているほど、当該出願特許は企業にとって重要であると考え
られるためである。
したがって、今後はこうしたデータを用いた実証分析に加え、特許の重要性を測る指標
の開発も進んでいくことが予想される。
(2)
引用情報を利用した特許指標
先に紹介した PATSTAT の持つ情報として引用データの重要性を述べたが、ここでは、引
用データを用いた指標作成に関する “Patent Citations Indicators”という Webb(OECD)
の報告を紹介する。概要は以下のとおりである。
OECD では、知識のフローやイノベーションの進展を国際的に比較する目的で、引用デー
タベースの構築を 2003 年より始めている。
この引用データを用いることで、各国企業の知財戦略・活動を評価する際に有用な様々
な指標を作成することができる。ただし、引用データを使用するに当たっては、各国にお
けるデータの質の違いを考慮する必要がある。例えば、各国のサーチ基準の相違や、引用
情報を付加する主体(出願人や審査官)の相違などの違いに注意する必要がある。
3
DOCDB(Bibliographic DB)、PRS(Patent register for legal data)などをはじめ、各国関係省庁からもデータの提
供を受け、約 70 カ国の特許データをカバーしている。
-190-
こうした点に注意しつつ、知財戦略指標を作成するとすれば、例えば、
(ⅰ)引用文献に
占める非特許文献の割合、(ⅱ)1特許当たりの平均被引用件数、(ⅲ)被引用件数のうち
3年以内のものの割合、
(ⅳ)新規性による拒絶理由とともに挙げられた引用文献の割合と
いった指標が考えられる。
(ⅰ)の指標は、科学との関連の深さを測る指標として用いることができる。
(ⅱ)の指
標は技術の重要性を測る指標として用いることができる。
(ⅲ)の指標は、技術進歩の速度
を測る指標として用いることができる。そして、
(ⅳ)の指標は研究開発の重複や効率性を
測る指標として、あるいは、出願特許の質を測る指標として用いることができる。
実際にこれら4つの指標を当該引用データベースから計算してみると、これらの指標の
間には弱いながらも正の相関があることが分かる。特に、C12(生化学;ビール;酒精;ぶ
どう酒;酢;微生物学;酵素学;突然変異又は遺伝子工学)、C07(有機化学)、A61(医学
又は獣医学;衛生学)といった技術分野において、これら4つの指標の値が比較的高い。
すなわち、こうした技術分野では、科学との関連が深く、技術が重要で進歩が早いが、一
方で、重複した研究開発も行われているといった関係があることが分かる。
以上が Webb の報告の概要であるが、ここで挙げられた指標はいずれも知財戦略を評価す
る上で重要な指標であると考えられる。これらの指標が示す、技術の重要性、技術進歩の
速度、研究開発効率といった要素は、特許の価値や市場動向あるいは開発コストといった、
企業の研究開発インセンティブを大きく左右する重要な要素である。
報告内で例示された指標は、飽くまで引用データの応用例の一部であり、ほかにも企業
の知財戦略の判断材料として有用な指標を多数作成することができると考えられる。この
意味で、
「知財戦略指標」の策定に当たって、引用情報に着目することは非常に有用なこと
と考えられる。
(3)
国際比較のための特許指標
ここでは、比較的入手しやすく扱いやすい特許データを用いて、特許指標を作成して国
際比較を行った Ahn (KIPO)の報告“Korean Patent Trends - Using Patent Data to Assess
Republic of Korea's Performance”を紹介する。概要は以下のとおりである。
出願件数は特許指標としては最も単純であるが、各国の技術力や研究開発の動向をおお
まかに把握する上では有用である。例えば、韓国内の出願件数をみると、90 年代以降、他
国からの出願はスムーズに伸びてきており、中でも 05 年度時点で韓国への出願件数が多か
った国は、1位は韓国、2位は日本、3位は米国、4位はドイツの順になっていることが
分かる。
また、特許データを使うと、各国における相対的な技術の強弱を測る RTA(Revealed
Technology Advantage)と呼ばれる指標も作成することができる。この指標は、ある国の
-191-
特許件数について特定の技術分野が占める割合と、当該国の総特許件数が世界各国の総特
許件数に占める割合との比率として求めることができる。特に、特許件数の観点から、国
ごとにどの技術分野に相対的な強みあるいは弱みを持っているかを把握することができる。
この指標を用いると、欧米は化学や医薬にかなりの強みを持っているのに対し、アジア諸
国は化学や医薬分野が相対的に弱いことが分かる。国別にみると、日本は、高分子化学、
測定・光学・写真、情報記憶・信号に相対的な強みを持っており、米国は、有機化学、医
薬品、高分子化学分野で特に強みを持っている。また、韓国は、自動車や情報通信技術分
野に相対的な強みを持っていることが分かる。
特許管理指標としては、審査請求率、登録率、特許維持期間などが挙げられる。これら
の指標を韓国に出願された特許について計算すると次のようなことが分かる。韓国におい
ては、日本から出願される特許が最も審査請求率が高い(アジア諸国は全体的に高い)
。ま
た、登録率に関しても日本が最高となっている(平均 66%に対して日本の登録率は 83%であ
る)。ただし、韓国におけるアジア諸国の特許維持期間は相対的に短い(平均維持期間はオ
ランダが最も長い)。
ほかに、国際共同研究(International Joint Research)に関してみてみると、中国が
最も活発であり、日本や韓国は最も消極的な国々であることが分かる。
以上が Ahn の報告の概要である。ここで採り上げられた指標は、シンプルながらも各国
が自身の技術力の相対的な位置を把握するための客観的な情報として有益なものである。
また、これらの指標を応用すれば、知財戦略指標として、一国内の産業あるいは企業ごと
の技術力の相対的な位置を示す指標を作成することが可能となるかもしれない。
(4)
科学技術活動指標
特許データは国家レベルの科学技術活動を測る上でも重要な意味を持っている。ここで
は、こうした活動を測る指標を作成して国際比較を行った Dernis (OECD)の報告“National
Patent Indicators”を紹介する。報告の概要は以下のとおりである。
特許データを加工することで、国家間における技術の広がり、各国の市場性(market
attractiveness)や技術変化など国ごとの科学技術活動の程度を測る指標を作成すること
ができる。
その際、問題となるのがデータの制約とその比較可能性である。特に、国家間で標準化
されたデータを入手することは難しい。また、指標を計算するに当たって、計算手法が異
なれば得られる結果も大きく異なるという問題もある。さらには、どこまでを件数として
カウントするかといった定義の問題も存在する。例えば、日本企業の多くは中国に進出し
ており、こうした企業が中国に出願した場合、それを中国の出願件数として含めていいの
かといった問題などがある。
-192-
ここでは、発明の時点として優先権主張日を用い、発明を貢献した国としてその発明者
の居住国を用い、複数の国に発明者がいる場合はフラクショナルカウントを行うといった
方法をとることによって、できるだけ国家間で統一的なカウントができるよう注意を払い
つつ、上述の科学技術活動を測る指標を作成する。
まず国家間の技術の広がりを測る指標として考えられるのは、ある国に出願される特許
を発明者の国籍別に数え、その割合をとったもので、これは、ある国において他国の技術
がどれだけ入ってきているかを示す指標となる。実際にこの指標を計算してみると次のよ
うなことが分かる。まず、米国特許商標庁に登録された特許の出願国をみると、割合が高
い順に、米国が約 55%、日本が約 19%、ドイツが約6%となっており、自国が過半数を占め
るものの、外国からの技術流入も頻繁に行われていることがうかがえる。一方、フランス
特許庁に対する出願国の割合をみると、自国が実に 83%を占めており、続くドイツが約6%、
日本が約4%と、技術の流入があまり活発でないことを示唆する結果となっている。さらに、
中国国家知識産権局に対する値をみると、自国が約 38%、日本が約 24%、米国が約 14%と、
他国から技術を頻繁に導入している状況がみてとれる。
各国の市場性を測る指標としては、各国に出願された特許を発明者の国籍別・技術分野
別に数え、その割合をとったものが考えられる。この指標は、各国が他国の市場・技術分
野に参入するときの期待利益の大きさを表している。例えばバイオと情報通信技術の分野
に着目して、この指標を計算してみると、次のようなことが分かる。すなわち、イギリス
では、米国からの出願が圧倒的に多く、バイオと情報通信どちらの分野についても出願さ
れている。次に出願数が多い国は日本であるが、出願しているのは主に情報通信の分野で
ある。また、ドイツでは、日本からの出願が最も多く、情報通信技術の分野がかなりの割
合を占めている。続いて出願が多いのは米国であるが、こちらも出願されているのは情報
通信技術の割合が高い。
各国の技術動向を測る指標として考えられるのは、各国に出願された特許の出願国別の
割合を時系列にとったもので、これによりどの国の技術が相対的に普及・進歩しているか
を知ることができる。例えば、中国の国家知識産権局に出願された特許から各国の技術動
向をみると、95 年から 01 年にかけて、自国の技術が進歩してきているとともに、日本の
技術も普及してきていることが分かる。
このほかにも国家レベルのデータを使うことで様々な指標を作成することができると考
えられる。例えば、技術知識のストックを測る指標や、各国のイノベーションの能力を測
る指標などは国家間の科学技術活動の比較を行う上で有用である。
以上が Dernis の報告の概要である。技術の広がりや市場性・技術変化を測る指標は、企
業がどの技術分野に参入するかを判断する場合などに重要な役割を果たすと考えられる。
したがって、報告の中で実際に計算されていた国家レベルでのこうした指標を、企業レベ
ルで計算することができれば、企業の知財戦略を考える上で非常に有益な情報を提供する
-193-
ものと考えられる。
(5)
PATSTAT に含まれるパテントファミリーデータ
特許データを用いて国際比較を行う場合、出願国バイアスの問題やデータの質の違いを
考慮することが重要である。また、重要特許を抽出して分析を行うにはパテントファミリ
ーデータを用いることが考えられる。ここでは、PATSTAT の持つパテントファミリーデー
タに関する Hingley (EPO)の報告“Patent Families”を紹介することで、こうした問題を
検討していく。以下で報告の概要を述べる。
特許データは国家間のイノベーションや科学技術活動に対して有益な情報を提供するが、
各国の特許統計の質の違いなどにより必ずしも正確な国際比較が行えるわけではない。
PATSTAT データベースを構築するに当たっては、こうした問題に対処すべく、可能な限り
データの標準化が行われた。
さらに、特許指標を用いて各国の技術動向を比較する際には、特許の質の偏りも考慮す
る必要がある。これに対するひとつの解決策は、パテントファミリーデータを用いること
である。パテントファミリーデータは複数の国に出願された発明であるから、それだけ企
業にとって重要な発明であると考えられる。
パテントファミリーデータを用いれば、地域ごとの特許行動の相違を調べたり、研究開
発過程における世界規模での技術変化のパターンを分析したりと、様々な分析を行うこと
ができる。とりわけ、日米欧という出願大国に絞った三極パテントファミリーのデータは、
特に重要な発明を抽出しつつ、出願国バイアスを少なくすることで、より精度の高い分析
を行うことを可能にしている。
この三極パテントファミリーの時系列の傾向をみてみると、三極それぞれで増加傾向が
みてとれる。優先権主張年をベースに 1999 年から 2000 年の三極パテントファミリーの増
加分をみてみると、米国は 27,994 件から 28,201 件と微増に留まっているが、日本では
24,115 件から 30,857 件、欧州では 17,525 件から 21,816 件とその増加率は極めて高くな
っている。
さらに、優先権主張年が 2001 年の三極出願について、自国以外の他の2地域への出願割
合をみてみると、日本が 15.5%、米国が 21.2%であるのに対し、欧州は 31.2%とその高さが
うかがえる。
ここで、データの信頼性を確認する意味で、PATSTAT のデータと、EPO の PRI というパテ
ントファミリーを管理している他のデータベースとの比較を行う。すると、ファミリーの
定義などにより件数や傾向に若干の違いはあるものの、両者は全体的にはほぼ整合的であ
ることが分かる。
すなわち、パテントファミリーは各国でその割合が高まりつつあるのに加え、データの
-194-
整備も進展しつつあるということがいえる。
以上が Hingley の報告の概要である。報告にあったように、パテントファミリーは件数
としてもその重要性が増してきているのに加え、その分析上の有用性によっても注目され
てきている。報告では国家レベルの分析であったが、企業別あるいは技術分野別といった
より詳細な分析を行うことで、企業の知財戦略や技術動向について、特許の質や技術の広
がりを考慮した質の高い分析を行うことが可能になると考えられる。
したがって、
「知財戦略指標」の策定に当たっては、パテントファミリーデータを用いた
指標を作成することや、その特質を活かした分析を行うことが重要であると考えられる。
4.
まとめ
今年は EPO の開発してきた PATSTAT が完成したこともあり、その紹介や研究上の利用可
能性を示唆した報告が多かった。特に、名寄せやカウント方法などデータ処理に関する技
術的な内容を含む報告が目立った。このデータ処理作業はより正確な分析を行う上では欠
かせない作業であり、これを効率的に行う定型的な手法が確立されれば、研究の質や生産
性も一層高まると考えられる。
また、今後 PATSTAT の拡張に伴い、サイテーションやパテントファミリーに関するデー
タの整備が進んでいけば、特許の価値や各国の技術動向などを表す、より精度の高い指標
を作成することが可能となる。それにより、出願・権利化行動ひいてはイノベーション動
向に対する国家レベルあるいは企業レベルでの判断材料の信頼性が増すと同時に、知財戦
略指標の策定に資する正確で質の高い実証研究が蓄積されていくことが予想される。
(山内
-195-
勇、長岡
貞男、元橋
一之)
参考資料:ワークショップのプログラム
Patents Statistics for Policy Decision Making
A Conference Organised by the
European Patent Office (EPO) and the
Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD)
with the support of the
JPO, USPTO, WIPO, NSF and the European Commission
Vienna, Austria – October 23-24, 2006
October 23
Registration, 9h00
Opening session, 9h30-10h00
Chair: Wolfram Förster (EPO)
- Austrian Patent Office Representative
- EPO: Paul Kyriakides (Vice-President, DG 2)
- OECD: Nobuo Tanaka (Director for Science, technology and Industry)
Keynote speaker, 10h00-10h30:
Dietmar Harhoff (University of Munich, CEPR): Patent constructionism
Coffee break, 10h30-11h00
Session 1, 11h00-13h00: Databases for statistical uses.
Chair: William Meredith (WIPO)
- EPO Worldwide Patent Statistical Database (PATSTAT). James Rollinson, Rob Heijna (EPO)
- The NBER Patent Database Project. Bronwyn Hall (UC Berkeley, US)
- The University of Tokyo-JPO database. Kazuyuki Motohashi (University of Tokyo, Japan)
- Patent Citations Indicators. Colin Webb (OECD)
Lunch, 13h00-14h30
Session 2, 14h30-16h00: Harmonization of names in patent databases
-196-
Chair: Bruno van Pottelsberghe (EPO)
- Harmonising the Name of Applicants – The Eurostat Approach. Bernard Felix (Eurostat) and
Bart van Looy (KUL, Belgium)
- An attempt to categorise the EPO applicants. Marc Nicolas (EPO)
- Patent Data and Analysis: Text Mining Opportunities. Alan Porter (Search Technology, Inc.
and Georgia Institute of Technology, US)
Coffee break, 16h00-16h30
Session 3, 16h30-18h00: Roundtable: Data collection on the economic use and impact of
patents
Chair: August Goetzfried (EUROSTAT)
- Introduction: Licensing or not Licensing? Empirical Analysis on Strategic Use of Patent
in Japanese Firms. Kazuyuki Motohashi (Tokyo University, Japan)
- Panelists: Wes Cohen (Duke University, US), Dominique Guellec (OECD), Sadao Nagaoka
(Hitotsubashi University, Japan) and Bruno van Pottelsberghe (EPO)
October 24
Session 4, 9h00-10h30: Using patents for mapping technological development
Chair: Lawrence Rausch (NSF, US)
- Korean Patent Trends - Using Patent Data to Assess Republic of Korea's Performance. KIPO
(Korea)
- National Patent Indicators. Hélène Dernis (OECD)
- Patent Families. Peter Hingley (EPO)
Coffee break, 11h00-11h30
Session 5, 11h00-12h30: Using statistics for monitoring the patent system
Chair: Kazuyuki Motohashi (University of Tokyo, Japan)
- An Analysis of Induced Withdrawals. George Lazaridis, Bruno van Pottelsberghe (EPO)
- How Does the Patent Examination System Work? Evidence from Japan. Sadao Nagaoka
(Hitotsubashi University, Japan)
- Forecasting Patent Applications: A Bottom-up vs. Top-down Approach. Frederick Joutz
-197-
(George Washington University, US)
Keynote speaker, 14h00-14h30:
Wesley Cohen (Duke University and NBER, US): Current Concerns over Patent Policy and
Associated Data Needs.
Closing session, 14h30-15h30: Panel discussion on the future of patents statistics
Chair: Dominique Guellec (OECD)
- Task force members draw lessons from the conference, report their views and projects on
patent statistics: EC, EPO, JPO, NSF, OECD, USPTO, WIPO.
Training session on Patstat (EPO), 16h00-17h30:
Rob Heijna and James Rollinson of the EPO will explain the technical presentation of the
EPO Worldwide Patent Statistical Database (PATSTAT). Topics will include: Loading the data;
How to obtain patent counts; Assumptions to be aware of when using the database.
-198-
Ⅴ.
本調査における分析の「知的財産戦略指標」への活用
本報告書第Ⅱ部の第1章から第7章にかけて、新たな「知的財産戦略指標」の策定にも
資するべく、企業の直面する知財制度・環境の変化が知財戦略に与える影響を実証的に分
析してきた。また、第Ⅳ部では、海外における特許指標の作成・活用に関する取り組みを
紹介した。
以下では、これらの実証分析及び海外の特許指標への取り組みが「知的財産戦略指標」
の策定や改訂にどのように利用できるかを、特許出願・審査請求、知的財産権の権利化・
活用状況などに着目しつつ検討する。
第1章「日本企業の審査請求行動の分析」
(長岡貞男、西村陽一郎、山内勇、大西宏一郎
著)は、企業の保有する技術をどう保護していくべきかについて考える際に有用な情報を
提供している。そこでは、近年の審査請求制度の変更が、企業による特許の権利化・審査
請求行動に与える影響を分析している。とりわけ、我が国における審査請求率の長期的な
変化を、多項制の利用の広がり、審査請求期間の短縮、審査請求料金の改定、企業・産業
特性による相違といった要因に着目して分析を行っている。これにより、企業の戦略的な
観点からの権利取得活動について示唆を得ることができる。
分析からは、審査請求率が高まるのは、請求項数が多い場合、出願件数と比べて補完的
資産が多い場合であることが確認された。さらに、もともと審査請求の意思決定を先延ば
しにしていた企業ほど審査請求期間短縮によって審査請求率が上昇し、逆に売上に占める
研究開発費の水準が高く高度な研究開発を行っていた企業ほど審査請求率の上昇が小さく
抑えられていることが明らかになった。
こうした意味で、企業の戦略的な権利取得活動を評価するに当たっては、各企業の出願
特許の請求項数や補完的資産の規模を考慮することが重要である。また、審査請求可能期
間短縮の下で審査請求効率を高めるには、企業の判断能力を高めることは言うまでもない
が、外国特許庁における審査結果を利用するという手段も有効な方法であると考えられる
ので、出願・審査がグローバルに行われているかを表す外国出願件数なども、効率的な審
査請求行動の観点から有用であると考えられる。
第2章「バイオ特許を用いた審査請求行動の分析」(中村健太、小田切宏之著)もまた、
企業の戦略的な権利取得活動の評価に資する分析である。そこでは、バイオ関連特許を対
象に、企業の審査請求行動を分析している。
分析から、出願特許について審査請求を行いやすくする要因、あるいは審査請求を早め
る要因としては、外国出願されていることや客観的価値が高いことが重要であることが分
かった。外国出願の有無は価値の指標となるだけでなく、サーチ・レポートや国際予備審
査の結果を得られることから不確実性の低さの指標ともなりうる。また、本章では客観的
価値を前方引用件数から計算している。
-199-
こうした特許の客観的な価値やその不確実性に関する指標を作成することで、企業は、
出願特許について審査請求を行うか否か、あるいはどのタイミングで審査請求を行うか等
について有益な判断材料を得ることができると考えられる。
したがって、企業の権利取得行動を戦略的な観点から評価するに当たっては、外国出願
の有無や前方引用件数などを考慮することで、効率的な権利取得・審査請求活動について
の示唆を得ることができると考えられる。
第3章「日本企業による国内特許と海外特許の保有・利用の比較分析」
(長岡貞男、西村
陽一郎著)は、企業の国際的な知財戦略を評価する際に有益な情報を提供している。そこ
では、日本企業における国内保有特許比率の高さを、海外における事業展開の重要性、発
明の水準、特許の利用構造の3つの要因に着目して分析している。これにより、日本企業
の保有する国内特許と海外特許について、その国際的ポートフォリオ戦略に関する示唆を
得ることができる。
分析からは、事業展開がグローバルであり高度な研究開発を行っている企業ほど海外出
願比率が高くなることが確認された。これは、海外における事業展開を積極的に行ってい
る(輸出比率が高い、あるいは外国にライセンスする割合が高い)企業ほど、外国特許保
有比率が高くなることを意味している。
この結果から企業の国際戦略の評価指標に対する含意を検討すると、事業の国際化を進
展させ、発明の質を高めることと、企業内の外国特許保有比率を高めることは補完的に進
めることが重要であることを示唆している。
したがって、国際的な知財戦略を評価するに当たっては、企業のグローバリゼーション
や研究開発効率との関連性から、外国特許保有比率に着目することでより質の高い指標を
作成することが可能になると考えられる。
第4章「研究開発戦略と企業の財務構造」
(小谷田文彦、舟岡史雄、徳井丞次著)は、経
営の観点から企業の知的財産戦略を評価する際に有益な情報を提供している。そこでは、
企業の研究開発行動と財務構造との間の関係に着目し、負債比率が企業の戦略的な意思決
定やその成果によってどのような影響を受けるかを分析している。
分析からは、研究開発費への投資が負債比率を低下させる効果を持ちうることが示唆さ
れた。それに対して、有形固定資産への投資や、研究開発の成果ともいえる特許件数は負
債比率を高める効果があることが確認された。さらに、他社利用許諾特許件数も負債比率
を高める効果を持つ可能性があることが分かった。
すなわち、研究開発投資は外部から評価することが難しいため、それをとらえる指標の
みでは外部資金を調達することは容易ではないが、研究開発の成果を特許件数やライセン
ス活動のように目に見える指標として示すことで外部資金の提供を受けやすくなることが
分かった。
したがって、企業が戦略的な意思決定に応じて機動的に外部資金を調達できる状態にし
-200-
ておくためには、研究開発という不確実性の高い活動を、目に見える指標として示すこと
が重要であると考えられる。
すなわち、企業経営を知財戦略の観点から評価する際には、研究開発費のような基本的
な指標だけでなく、研究開発活動の透明度を高めるべく、特許取得件数や実際に特許を活
用していることを示すライセンス件数などの指標を考慮することが必要であると考えられ
る。
第5章「企業の特許ポートフォリオ管理に関する定量分析」
(元橋一之著)は、企業のラ
イセンス戦略の評価に資する情報を提供している。そこでは、企業規模や技術市場におけ
る混雑度・集中度と、企業の特許ポートフォリオとの関係について分析を行っている。具
体的には、技術分野ごとに、混雑度を測る指標(出願人数、総特許数、総クレーム数)と
集中度を測る指標(特許数とクレーム数のハーフィンダール指数)を算出し、それらが企
業の保有特許に対する未利用率、ライセンス率、クロスライセンス率、有償ライセンス率
に与える影響を確かめている。
分析から、特許数のうち特定の出願人が保有している割合が高く、さらに、総クレーム
数が多い技術分野では、未実施特許の割合が高くなることが分かった。また、実施される
特許については、技術市場の集中度が低いほど自社実施の割合が高く、混雑度が高いほど
ライセンシング割合が高くなることが明らかになった。さらに、技術分野の集中度が高く
なるとクロスライセンス性向が高まることも確認された。
したがって、企業が特許ポートフォリオを効率的に管理していくためには、出願・権利
化を検討している技術分野における混雑度と集中度を把握することが重要であると考えら
れる。
すなわち、知的財産管理の観点から企業のライセンス戦略を評価するに当たっては、出
願人数や特許数に代表される混雑度の指標や、ハーフィンダール指数といった集中度の指
標などを用いて企業の直面する技術分野の特性を理解することが重要であると考えられる。
第6章「多角的特許取得と企業価値」
(頼末晃、小田切宏之著)は、経営資源としての知
的財産権の管理・活用状況を評価する際に有益な情報を提供している。そこでは、特許の
多角化戦略と企業価値との関係について分析を行っている。
分析からは、多くの技術分野で特許を取得している企業ほど企業価値が高まるという結
果が得られた。すなわち、出願特許が特定の技術分野に集中していない方が企業価値が高
いことが分かった。ただし、明確にではないものの、特許取得をあまり多角的に行いすぎ
ると、むしろ企業価値にとっては悪影響を及ぼす可能性が示唆された。
したがって、企業価値を考慮する際には、出願する技術分野の多様性が重要であり、ま
たその際、多角化の程度も考慮することが重要であるといえる。
すなわち、企業価値の観点から知財管理戦略を評価するに当たっては、特許を取得する
技術分野の集中度を考慮することが重要であると考えられる。
-201-
第7章「発明補償制度と訴訟リスク、企業戦略に関する分析」
(大西宏一郎、永田晃也著)
は、企業経営における法務リスク管理体制やインセンティブ制度の評価に資する分析であ
る。そこでは、企業による発明補償制度の導入が、従業員による対価請求訴訟の回避を目
的としていることを明らかにしている。また、企業が従業員のインセンティブ向上を補償
制度の導入目的としているか否かについても分析を行っている。
分析から、売上高に占めるライセンスロイヤリティ支払い額や自社実施特許に占める防
衛特許の割合が高い企業ほど、補償費を多く支払っていることが確認された。加えて、研
究従事者数、発明者数の多い企業やライセンス特許 1 件当たりの収入が高い企業ほど補償
費が高くなることも確認された。すなわち、リスク回避的な企業ほど、また、比較的訴訟
リスクの大きい企業ほど、補償費の支払額が大きくなっていることが分かった。さらに、
支払い義務が不明瞭であった海外実施特許に対しては、国内実施特許と比較してあまり補
償費が支払われていないことも明らかになった。
これらの結果は、企業が補償制度を、インセンティブの向上ではなく訴訟回避の道具と
して導入していることを示唆している。
この分析は、企業の訴訟リスクに対する態度を評価する際に、ロイヤリティ率や防衛特
許の割合、研究従事者数や発明者数などの指標が役に立つことを示唆している。さらに、
企業内におけるインセンティブ制度の効率性を評価する際にも、こうした指標が重要な情
報を提供することを含意していると考えられる。
続いて、第Ⅳ部で紹介した海外における知財指標作成の取り組みが、企業の知的財産戦
略を評価する上でどのように活用できるかを検討する。
近年、海外で特に重要視されているデータは引用データやパテントファミリーデータで
ある。本調査研究においても、一部これらのデータを用いて分析を行っている。
引用データに関しては、技術の重要性、科学との関連性、研究開発の効率性などを考慮
する際に非常に有用である。このデータを用いれば、特許の価値や技術動向などに関して
ほかにも様々な影響を評価することができるようになる。
パテントファミリーデータもまた、技術の重要性を測る指標として重要である。企業に
とって有用な発明ほど複数の国に出願されると考えられるからである。また、技術の国際
的な広がりを分析する際にも有益である。
したがって、引用データやファミリーデータを用いた指標を作成し、その特質を活かし
た分析を行うことで、特許の質や技術動向を考慮したより精度の高い企業の知財戦略の評
価が可能になると考えられる。
(事務局)
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禁 無 断 転 載
平成18年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書
我が国企業の国際競争力強化にむけた
知的財産戦略の評価に関する
調査研究報告書
-知的財産統計に関する調査研究-
平成19年 3 月
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