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1 - Kyushu University Library

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1 - Kyushu University Library
目次
第 1 章 序論
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1.1 ヒトの恒常性と体温調節
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
1
1
1.2 温度以外の情報に対して感受性を持つことの問題とその可能性 ・・・・・ 4
1.3 視覚刺激が体温調節反応に与える影響に関する過去の研究
・・・・・・・
9
1.4 本論文の目的
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
11
1.5 本論文の構成
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
12
第 2 章 暑熱・寒冷環境を想起させる映像が心臓血管系反応に与える影響
・・・ 14
2.1 はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
14
2.2 方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15
2.3 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
22
2.4 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
27
第 3 章 映像の物理的特性と印象および生理反応の関係性 ・・・・・・・・・・ 32
3.1 はじめに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
32
3.2 方法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
33
3.3 結果
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
38
3.4 考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
42
第 4 章 暑熱・寒冷環境を想起させる映像が深部体温に与える影響 ・・・・・・ 44
4.1 はじめに
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
44
4.2 方法
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
45
4.3 結果
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
50
4.4 考察
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
56
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
61
第 5 章 総括
5.1 各章の結果のまとめ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
61
5.2 総合考察
5.3 結言
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
66
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
69
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
70
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
78
引用・参考文献
謝辞
第 1 章 序論
1.1 ヒトの恒常性と体温調節
深部体温をある一定の範囲に保つことは、ヒトを含む多くの生物にとって、生命活
動を維持する上で必要不可欠である(Tattersall et al. 2012)
。ヒトは灼熱の砂漠地帯か
ら氷点下数十度の極地に至るまで、広い範囲において活動を行っているが、どのよう
な環境であっても深部体温はほぼ一定に保たれている。これはヒトが優れた体温調節
機能を有しているためである。
ヒトの体温調節反応は、行動性体温調節と自律性体温調節の二種類に大別される。
このうち、行動性体温調節とは例えば、暑いと感じれば日陰に入ったり冷房を付けた
り、寒いと感じれば服を着たり暖房を付けたりするといった行動を行うことを指す。
一方、自律性体温調節は、寒冷環境においては皮膚血管を収縮させ体表からの放熱を
抑制したり代謝による産熱量を上昇させたりすることにより体温の低下を抑え、暑熱
環境においては皮膚血管を拡張させ体表からの放熱を促進したり、発汗で蒸散による
更なる熱放散を生じさせたりすることにより、体温の上昇を防ぐことである(入來
2003)。
図 1.1:体温調節システムの概念図 (Kanosue et al. 2010 より引用)
このような、合理的な体温調節システムが機能するためには、温度の情報を検知す
る温度受容器(sensor)、適切な体温調節反応を生じさせる効果器(effector)、温度受容器
-1-
によって受容された情報に基づき、どのような体温調節反応を生じさせるかを決定す
る制御器(controller)が必要であり、これらの器官同士が連携して動作することが必要
である(Kanosue et al. 2010; Romanovsky 2007)
。図 1.1 に体温調節システムの概念図を
示す。
図 1.1 に示すように、体温調節システムはフィードバック制御とフィードフォワー
ド制御の組合せによって成り立っている。フィードバック制御では、制御したい対象
(深部体温:Tcore)の状態に応じて、効果器を制御することにより、Tcore を一定に保
つよう制御を行う。一見、深部体温を一定に維持するためには、このフィードバック
制御だけでも十分であるように思われるが、フィードバック制御のみでは、深部体温
に変化が生じた後にならないと、効果器の反応が生じないため、体温調節反応に遅れ
が生じてしまう。しかし、例えば外気温が低い状態であれば、このままでは深部体温
が低下することが予想できるため、深部体温が低下する前にあらかじめ体温の低下を
抑止するような反応をすれば、深部体温の低下を防ぐことができる。このような制御
をフィードフォワード制御と呼び、フィードバック制御と同様に体温調節反応におい
て重要な役割を果たしている。
まず、温度受容器については、TRP (Transient Receptor Potential) チャンネルと呼ば
れるタンパク質が温度受容器として機能することが知られている(Patapoutian et al.
2003)。温度受容器によって受容された温度の情報は、脊椎視床皮質経路を経由し体性
感覚野へと伝えられる(Craig 2002)
。この経路を介してヒトは「暑い」
「寒い」といっ
た主観的な温度感覚を知覚し、行動性体温調節を行うことが可能となる。一方、自律
性体温調節の中枢は、視床下部の視索前野 (Preoptic Area; POA)と呼ばれる部位で
ある(Boulant 1998)。また、POA は体性感覚野を介さずに、直接温度受容器からの温
度情報を受け取り、遠心性の経路を介して自律性体温調節を行うための効果器を制御
している(Nakamura & Morrison 2008; Nakamura & Morrison 2010)
。
自律性体温調節反応は、いくつかの段階に分けられる。温熱的に中立に近い環境に
おいては、心臓血管系の反応のみにより、放熱の促進あるいは抑制をする体温調節反
応が生じる。寒冷環境においては、体深部から末梢への熱の移動を抑制するために心
拍出量は減少し、皮膚血流を減少させ皮膚からの放熱を抑制するために末梢血管抵抗
が増加する。逆に暑熱環境においては、心拍出量が増大し末梢血管抵抗は減少する。
-2-
このように、心臓交感神経と血管交感神経が互いに異なる方向に作用する現象は、地
域性交感神経活動と呼ばれ、体温調節反応においてみられる特徴的な反応の一つであ
る(Walther et al. 1970)
。
心臓血管系の反応のみでの体温の維持が難しくなると、異なるメカニズムの体温調
節反応が惹起される。暑熱環境においては汗腺から発汗が生じ、汗の気化熱により体
からの熱の放散を更に促進させる。寒冷環境においては、代謝量を増加させることに
より産熱量自体を増加させ、放熱によって失われてしまう分の熱を補う。
以上のような、体温調節反応を含む体の熱収支は、以下のように理論式により定量
的に記述することが可能である(入來 2003)。
S
M W
E R C
K
ここで、右辺の各項は代謝による熱産生( M )、機械的仕事量( W )、蒸散( E ) 、放射
( R )、対流( C )、伝導( K )による熱の出入りを表し、これらの和である S が貯熱量を
表す。上述した体温調節反応は、上記の式における各項に対応する。たとえば、皮膚
の血流量を減少(もしくは増大)させ皮膚温を低下(もしくは上昇)させることは、
R, C, K を減少(もしくは増大)させる効果がある。また、産熱量を増加させることは
M を増大させ体温を上昇させる効果があり、発汗は E を増大させ体温を下降させる効
果があることが分かる。このように、ヒトの体温調節システムは、理論的に見ても極
めて合理的に設計されていると言うことができる。
-3-
1.2 温度以外の情報に対して感受性を持つことの問題とその可能性
図 1.1 にも示したように、ヒトの体温調節システムは工学分野における自動制御シ
ステムとの類似性で説明されることが多い(入來 2001; Parsons 2002; Kanosue et al.
2010)。この理由は、受容器(sensor)
、制御器(controller)
、効果器(effecter)によっ
て構成されている点が実際に自動制御システムを構成する要素と同一であることに加
えて、ヒトの体温調節システムが、技術者によって意図的に設計された自動制御シス
テムと比較しても遜色の無い優れたシステムであるためである。一方で、両者の間の
決定的な違いは、意図を持って設計されたか進化の過程で自然選択によって獲得され
たか否かである(Dawkins 1986)
。
人工的な自動制御システムにしろ、自然選択によって獲得されたシステムにしろ、
適切な制御を可能とするためには、適切なセンサ(受容器)を選択することは重要で
ある。たとえば、温度を一定に保つための自動制御システムを構築するには、温度に
対して感度を持つセンサを選択することが必要であるし、速度を一定に保つための自
動制御システムを構築するには、速度に対して感度を持つセンサを選択することが必
要である。
このセンサがどの程度優れているかを表す指標として、感度の他に特異性が挙げら
れる(Fraden 2010)。センサにおける特異性とは、検出したい物理量に対しては感度
を持つ一方、検出したくない物理量には影響を受けにくい特性を意味する。
具体的な例を挙げて説明すると、例えば、半導体の一種であるシリコンダイオード
の順方向電圧は、およそ-2 [mV/℃]の温度係数を持つ(温度が 1℃上昇するごとに、順
方向電圧が 2mV 減少する)
。そのため、シリコンダイオードは、図 1.2(a)に示すよ
うな回路において、温度と出力電圧の間に図 1.2(b)に示すような負の比例関係が成
り立つため、温度センサとして機能させることが可能である。一方で、シリコンダイ
オードの順方向電圧は光にも影響を受け、図 1.3 に示すように温度との関係が変化し
てしまう。仮に、図 1.2 に示す温度センサを使用して温度を制御するシステムであっ
たとしたら、このシステムは光の存在する環境においては誤作動を起こす可能性があ
る。これはすなわち、センサの特異性という観点から見ると、不適切なセンサを選択
していることになる。
-4-
Vout
-
R
E
2mV
+
D
Vout
1℃
Temperature
(a)
(b)
図 1.2:シリコンダイオードを用いた温度センサ
Light
Intensity
Vout
Temperature
図 1.3:光によって影響を受ける温度センサの特性
通常は、このような可能性をあらかじめ考慮して特異性の低いセンサを使用しない
か、光が入らないような対策を講じる。このように、将来起こりうる問題をあらかじ
め予測して対策を講じた設計を行うことがきる点は、人工的に設計されるシステムの
特徴である。一方、ヒトの体温調節システムのように進化の過程で自然選択によって
獲得されたシステムは、進化の過程で生じることの無かった現象や将来起こりえる現
象に対する対策を講じることは不可能であり、偶然、適応的に機能したシステムをそ
のまま採用している(Dawkins 1986; Gould 1980)。
ヒトにおいて温度受容器として機能している TRP チャンネルサブファミリーのう
-5-
ち、TRPV1 は 42℃以上の熱に対して感度を持つ一方、カプサイシンに対しても感度
を持つ。また、TRPM8 は 25℃以下の低温に対して感度を持つ一方、メンソールに対
しても感度を持つ(Clapham 2003)。もし、ヒトの生活環境がカプサイシンやメンソー
ルに満ちた物であったならば、温度だけでは無く、これらの化学物質に対しても感度
を持つ受容器に依存して体温調節反応を行う体温調節システムは正しく機能しない。
したがって、
このような形質が自然選択によって獲得されることは無かったであろう。
しかし、実際には進化の過程におけるヒトの生活環境は、カプサイシンやメンソール
が遍在する環境ではなかったため、結果として温度以外の化学物質に対しても感度を
持つという TRP チャンネルを受容器として活用する体温調節システムが選択され、実
際に正しく機能している。しかし、これはあらゆる環境において、体温調節システム
が十分に機能することを意味してはいない。あくまでカプサイシンやメンソールとい
った物質が存在しないことが前提であり、カプサイシンやメンソールといった物質が
存在する場合には、実際に体温調節機能は影響を受ける(Schlader et al 2011)
。
これはすなわち、ヒトの体温調節システムが正しく機能するには、前提条件が存在
することを意味している。そのうちの一つは上述したように TRP チャンネルに作用す
る化学物質が環境に存在しない、ということであり、これ以外にも何らかの前提条件
が存在すると考えられる。ヒトが恒常性を維持できる環境を設計するためには、この
前提条件を満たさない環境に暴露されることは避けなければならない。この前提条件
がどのようなものであるかを考察するには、ヒトが体温調節機能を進化の過程におい
て獲得してきた際の環境がどのようなものであったか、また、現代の社会においてヒ
トが生活している環境が、いかに進化の過程における環境と異なるものであるかを考
慮することが重要である。
ここで、話を再び前述したシリコンダイオードを用いた温度センサの例に戻す。も
し、温度情報の存在と光情報の存在が、図 1.4(a)のように互いに相関している(温
度が低いほど光の強度が低い)と仮定すると、温度と光の両方に対して感度を有する
ことは、図 1.4(b)に示すように実質的には温度に対して特異性を持った感度を有し
ていることと等価になる。
-6-
Light
Intensity
Temperature
Vout
Light Intensity
Temperature
(a)
(b)
図 1.4:光と温度に相関がある場合の温度センサの特性
これをヒトの体温調節に置き換えて、光を視覚情報と置き換えてみるとどうであろ
うか? 温度情報と良く相関した視覚情報が、進化の過程において存在していたとすれ
ば、ヒトの体温調節システムが、視覚情報に対しても感度を持っていたとしても体温
調節機能が破綻することは無い。たとえば、自然環境においては、寒冷な環境におい
ては、雪や氷が存在し、その情報は温度情報としてだけではなく、視覚的な情報とし
て存在したと考えられるし、暑熱な環境においても同様に暑熱環境に関連した視覚情
報が存在していたと考えられる。あるいは、これらの視覚情報に対して直接感度を持
っていないとしても、視覚情報によって惹起される「暑い」
「寒い」という意味的な情
報(印象)に対して、体温調節システムが感度を持つことも可能性として考えられる。
そして、少なくとも実際の温熱環境とこれらの視覚情報が相関している限りは、体温
調節が破綻することはなく、むしろ、より適切な体温調節反応を促す役割を持ってい
る可能性もある。
一方で、進化の過程における環境と現在の環境との相違には留意することが必要で
ある。特に人工環境の普及により、進化の過程においては起こりえなかった環境を作
り出すことは極めて容易となっている(Sechrist 2014)
。映像・メディア技術の発達に
より、温熱的には寒冷な環境において、暑熱環境でしか存在しなかったような視覚刺
激を提示することも可能であるし、温熱的に暑熱な環境において寒冷環境でしか存在
しなかったような視覚刺激を提示することも可能である。もし、ヒトの体温調節シス
-7-
テムがこういった視覚刺激にも感度を持っていたなら、現在の人工環境はヒトの体温
調節、恒常性の維持に支障をもたらす可能性がある。
-8-
1.3 視覚刺激が体温調節反応に与える影響に関する過去の研究
視覚刺激が体温調節反応に対して与える影響に関しては、色(色相)に着目した研
究が多く行われている。なかでも、特に多く行われている研究は、色相-温度仮説
(Hue-heat hypothesis) に基づくものである。これは、赤や黄といったいわゆる暖色系の
色は温熱的にも暖かいという感覚を惹起し、青や緑といったいわゆる寒色系の色は温
熱的にも涼しいという感覚を惹起するという考えである(Bennett & Rey 1972)
。古く
から多くの研究が行われてはいるものの、これまでのところ一貫した結果は得られて
いない。
たとえば、照明光の色を白、黄、琥色、緑、青と変化させ、それぞれにおける温熱
的不快感を評定させる実験の結果、照明光の色は温熱的不快感には影響しないことが
報告されており(Berry 1961)、Bennett らも、異なる色のついたゴーグルを装着させた
状態で室温を変化させ、温熱的快適感の変化を評定させた結果、ゴーグルの色による
影響は無く、また生理的指標である皮膚温や直腸温にも差異が認められなかったこと
を報告している(Bennett & Rey 1972)。Fanger らは非常に極端な青色と赤色の条件の
間において、温冷感が気温に換算して 0.4 [℃]の違いに相当する小さい効果があったも
のの、実質的には無視できる効果であると結論づけている(Fanger et al. 1977)。
このように、色情報のみを視覚刺激として用いた研究においては、温冷感や温熱的
快適感に対して十分な影響を与えるという一貫した結果は得られておらず、単純な色
情報が温冷感に対して影響を与えるとは考えにくい。このひとつの理由として、色情
報と温度の情報が必ずしも一対一で対応しているわけではなく、文化的な背景や個々
人の経験などに依存して、色に対してもつ印象が異なることが一つの理由として考え
られる。
一方で、単純な色刺激ではなく、氷のキューブを視覚刺激として用いた実験におい
ては、皮膚温度感覚に差異が生じたことが報告されており(Kanaya et al. 2012)
、また、
涼しいという印象を生じさせる映像刺激の提示により、総末梢血管抵抗の上昇が生じ
ることが報告されている(Uchikawa et al. 2005)
。また、聴覚刺激を用いた研究では、
暖かいお湯に手を浸した状態でお湯の流れる音を聞かせた後に、お湯の流れる音のみ
を提示した場合に皮膚温の上昇が認められたという報告がある(Kojo 1985)。これら
-9-
を考慮すると、
「暑い-寒い」
(もしくは「熱い-冷たい」
)といった意味的な情報も含
むことが、温度以外の刺激がヒトの体温調節反応に対して影響を与えるために必要な
条件の一つである可能性がある。
しかしながら、暑熱や寒冷環境を想起させる意味的な情報を含む視覚刺激が主観的
な温冷感や生理的な体温調節反応に対して与える影響に対して系統的に行われた研究
の報告はこれまでのところ存在せず、また実際に体温調節に影響を与えるかは明らか
になっていない。
- 10 -
1.4
本論文の目的
これまで述べたように、ヒトが恒常性を維持するためには、体温調節システムは温
度(熱エネルギー)以外の情報からは影響を受けにくいことが重要である。一方で、
これまでに、「暑い」「寒い」といった意味を持った視覚刺激に対してヒトの体温調節
反応が影響を受けることに関して予備的証拠が報告されている。
今日では、人工環境の普及や映像・メディア技術の発達により、温熱的には寒冷な
環境において、暑熱環境に関連した意味を持つ視覚刺激を提示することも可能である
し、温熱的に暑熱な環境において寒冷環境に関連した意味を持つ視覚刺激を提示する
ことも可能である。もし、ヒトの体温調節システムの反応がこのような視覚刺激にも
修飾を受けるなら、現在の人工環境は体温調節、恒常性の維持に支障をもたらす可能
性がある。しかし、これらの影響がヒトの体温調節に対して実際に影響を与えるかに
ついては明らかになっていない。
また、種々の感覚刺激に対するヒトの感受性について研究を行うことは、感性学の
重要な分野である。「感性」の定義については種々ある(Kant 1961; 佐藤 2011)が、
感受性(sensibilities)、印象(impressions)、心地(feelings)、感情(emotions)、感度(sensitivities)
など、幅広い含意を持つ。そして、
「感性」を感覚および感情の感受性ととらえ、感受
性の基盤となる価値基準を探求する(九州大学大学院 統合新領域学府 ユーザー感性
学専攻 Web ページ, accessed on 2015)という感性科学のミッションを鑑みた上でも、
ヒトが恒常性を維持するために感覚刺激に対して適応的な反応を示せるか否かという
観点で検討を行うことは、一つの有意義なアプローチであると考えられる。
そこで本論文は、
「暑い」「寒い」といった意味的な情報を含む視覚刺激が、ヒトの
体温調節反応に対して与える影響について明らかにすることを目的とする。
- 11 -
1.5
本論文の構成
第1章では、ヒトの体温調節システムの概要について説明すると共に、暑熱・寒冷
環境を想起させる視覚的な刺激が体温調節反応に影響を与える可能性、および、当該
分野における研究の概況について述べた。
第2章では、温熱的に中立な環境において、主に心臓血管系指標の計測に基づき暑
熱・寒冷環境を想起させる視覚的な刺激が体温調節反応に影響を与えうるかを、主観
的な印象と心臓血管系指標の相関に基づき検討した結果を述べる。
第3章では、視覚刺激として用いた映像の物理的な特性(色情報)、主観的な印象、
心臓血管系指標の関係性の解析を行い、視覚刺激によって誘起された心臓血管系の反
応が、印象によるものであるのか、それとも、映像の物理的な特性によるものかを検
討した結果を述べる。
第4章では、温熱的に寒冷な環境において、暑熱・寒冷環境を想起させる視覚的な
刺激を呈示することにより、実際にヒトの体温調節が影響を受けるかについて検討し
た結果を述べる。
第5章で本論文の内容を総括し、総合考察を行うとともに、今後の研究の方向性や、
本論文の結果の実社会に対する応用や意義について論じる。
なお、本論文の第2章は、Journal of Physiological Anthropology 誌に掲載された
Takakura J, Nishimura T, Watanuki S: Visual information without thermal energy may induce
thermoregulatory-like cardiovascular responses. 2013 32:26 を再構成したものである。
また、第4章は、International Journal of Biometeorology 誌に掲載決定済みの Takakura
J, Nishimura T, Choi D, Egashira Y, Watanuki S: Nonthermal sensory input and altered human
thermoregulation: effects of visual information depicting hot or cold environments (The final
publication is available at Springer via http://dx.doi.org/10.1007/s00484-015-0956-3.)を再構
成したものである。
なお、本論文第2章および第3章で使用した実験データは、九州芸術工科大学 平
- 12 -
成 17 年度卒業論文(高倉 2006)、第4章で使用した実験データは九州大学大学院 平
成 22 年度修士論文(神谷 2011)においても使用されている。ただし、本論文中に示
す結果は、これらの実験データに対して、新たな解析および考察を加えたものである。
- 13 -
第 2 章 暑熱・寒冷環境を想起させる映像が心臓血管系反
応に与える影響
2.1 はじめに
暑熱・寒冷環境を想起させる映像が体温調節に影響を与えるか否かを検討するため
には、直接的に深部体温や皮膚温を計測する実験を行うことは一つの選択肢として考
えられる。しかし、深部体温を安定的に計測する方法として一般に用いられる直腸温
の計測は実験参加者に対して与える苦痛が比較的大きいという課題があり、また、深
部体温や皮膚温の計測を行う実験では、被験者に実験の意図に気づかれてしまう可能
性が高い。また、深部体温に影響が生じるには、長時間の視覚刺激の呈示が必要であ
ることが予想される。その場合、複数種類の視覚刺激を用いた実験を行うことが困難
であり、得られる結果の一般化ができないという問題が生じる。
そのため、刺激呈示の時間を比較的短時間とする代わりに、使用する視覚刺激の種
類を多くすること、および、直接的に深部体温や皮膚温を計測せずに、体温調節反応
に影響を与えるかを推測可能な実験を計画することが必要である。
第 1 章でも述べたように、体温調節のための放熱の促進や抑制は心臓血管系の反応
によって制御される。したがって、このような心臓血管系の反応を計測することによ
り、間接的ではあるが、体温調節反応が生じているかを推定することが可能である。
また、これらの心臓血管系反応が視覚刺激によって影響を受けたとすれば、これらは
深部体温の変化に先行して生じるはずであるから、深部体温に変化が生じるのを待た
なくとも、比較的短時間に影響の有無を推定することができる。
そこで、第 2 章では、暑熱・寒冷環境を想起させる複数種類の視覚刺激を呈示した
際の心臓血管系指標の反応と、視覚刺激に対する「暑い」
「寒い」という印象の関係に
着目して実施した実験の結果について述べる。
- 14 -
2.2 方法
2.2.1 実験実施条件
実験は、2005 年 10 月 15 日から 11 月 29 日にかけて、九州大学芸術工学研究院環
境適応研究実験施設 No.9(防音電波シールド型人工気候室, ヤマトリサーチ)におい
て実施された。実験室は気温 27 [℃]、相対湿度 50% に設定した。実験参加者の服装
は灰色のTシャツとショートパンツとした。実験室内の実験参加者の視界に入る場所
には色の付いた物や誘目性の高い物は置かず、実験者の服装も灰色のズボンに白色の
上着とした。
実験中は実験室の照明は消灯し、実験参加者の姿勢は椅座位安静とした。
2.2.2 実験参加者
実験参加者は心臓循環器系疾患、血液組成異常および色覚異常を医師から指摘され
たことのない男子大学生および大学院生 15 名(21.9 ± 2.3 才)である。実験参加者
には、事前に実験プロトコルを説明した上で書面により実験参加に対する同意を得た。
また、実験内容は、九州大学大学院芸術工学研究院 実験倫理審査委員会の承認を得た。
実験参加者には、実験の前日及び当日の激しい運動や飲酒を避け、食事および喫煙は
実験開始2時間前までに済ませるように教示した。
実験参加者には、呈示する映像の内容は事前には知らせていない。ただし、コント
ロール条件の実験セッション時には映像が呈示されない旨を伝えた。また、実験参加
者から「映像を見ることによる効果があるのか?」と質問された際には「分からない」
と返答した。
2.2.2
使用した視覚刺激
視覚刺激としては、図 2.1 に示すように、氷山(FILM1)、雪景色(FILM2)、流氷(FILM3)、
熱帯雨林(FILM4)、砂漠(FILM5)、溶岩(FILM6)、せせらぎ(FILM7)、紅葉(FILM8)の 8
種類の映像および 1 種類のコントロール画像(FILM9)の 9 種類を使用した。
これらは、
- 15 -
全て無音で呈示された。また、実験室内の照明は消灯した上で呈示された。
FILM1
FILM2
FILM3
FILM4
FILM5
FILM6
FILM7
FILM8
FILM9
図 2.1:実験に用いた視覚刺激の例
刺激映像は目の位置から約 1.4 メートル前方の視野対角 42 インチ、アスペクト比
16:9 のプラズマディスプレイ(PFM-42B1, SONY) に呈示した。ディスプレイの色調
補正は、モニタキャリブレータ(MonacoOPTIX, MonacoSystems) を用いて行った。映像
は DVD に記録されたものを、パーソナルコンピュータ(PC-MC30F, SHARP) 上で
DVD 再生ソフト(WinDVD 4, インタービデオジャパン) にて再生した。映像の呈示前
後およびコントロール条件は、パーソナルコンピュータ(ThinkPad A31, IBM) により明
るい灰色の画面をモニタ切替器(SWK-VGA2, ロアス) で切り替えて呈示した。
- 16 -
2.2.3 実験プロトコル
実験開始 30 分前に、実験用の衣服に着替えてもらい気温約 27 [℃] に設定した前室
において電極を装着したのち、実験室に入室した。実験室に入室後、着席してもらい
残りのセンサ類を装着した。
実験は、5 分間の安静の後、10 分間映像を呈示し主観評価用紙に記入してもらうま
でを 1 セッションとした。1 セッションの実験プロトコルを図 2.2 に示す。1日あた
り 3 セッションを繰り返して行い、日を変えて同じ時間帯に計 3 回実施した。映像の
呈示順は偏りがないように被験者ごとにランダムとした。
心電図、インピーダンスカーディオグラフは実験の開始から終了まで連続で測定を
行い、連続指血圧は実験セッション開始から映像呈示終了までの 15 分間連続で測定
した。映像呈示開始から 8 分経過後には、実験者が実験室内に入室し上腕血圧の測定
を行うとともに、実験参加者には主観評価を実施してもらった。
The experimenter
enters into the room,
and ask the participant
to answer the questionnaire.
Baseline
(3 min.)
No video image
is presented.
0 min.
Response
(3 min.)
A video image is presented.
5 min.
13 min.
15 min.
図 2.2:実験プロトコル
2.2.4 心臓血管系指標の測定と解析
心電図は双極導出法により導出し、生体アンプ(AB-621G, 日本光電) によって増幅
した。胸部インピーダンスおよび胸部インピーダンス微分値は、頸部および胸部剣状
- 17 -
突起下の周囲にテープ電極を装着し、インピーダンスプレチスモグラフ(AI-601G, 日
本光電) および微分ユニット(ED-601G,日本光電) により計測した。連続指血圧は、左
手第三指から非観血式連続血圧計(Finapres 2300,ohmeda) により計測した。これらの計
測器のアナログ出力信号を、垂直分解能 16[bit] の A/D 変換ボード(MaP-211, ニホン
サンテク) によりサンプリング周波数 1[kHz] で A/D 変換し、パーソナルコンピュー
タ(ThinkCentre A51p, IBM) に取り込み記録した。
なお、心電図には生体アンプに内蔵されたノッチフィルタを使用し、商用周波数の
雑音を除去した。また、胸部インピーダンス微分波形に対しては、波形を周期が RRI の
繰り返し波形と仮定し、線形フーリエ結合器の重みを LMS アルゴリズムにより逐次
更新し波形を再構築する手法(Barros et al. 1995)を適用し、雑音の除去を行った。こ
の際、波形の再構築には第 10 次高調波までを用い、重み更新収束の時定数は 417
[msec] とした。
心拍数は、心電図波形より R 波を検出し、R 波が出現してから次の R 波が出現する
までの時間を RRI [msec]として、瞬時心拍数 HR [bpm] を、
HR
60 10 3
RRI
により求めた。R 波の検出はプログラムにより行った後、波形を目視確認し誤検出は
手作業により修正した。
心拍変動を求めるため、瞬時心拍数の時系列データに対して 3 次のスプライン補間
を行った後、サンプリング周波数 6[Hz] で再サンプリングを行い等間隔時系列データ
を得た。その時系列データに対し最大エントロピー法(日野 1977; 常磐野ら 2003)
により周波数分解能 0.002 [Hz] でパワースペクトルを求めた。計算アルゴリズムには
Burg 法を用い、予測誤差フィルタの打ち切り次数は一律に 80 とした。パワースペク
トルの帯域ごとの積分値を数値積分で求め、それぞれ VLF [bpm2] ( 0.02 ≦f <
0.06[Hz] )、LF [bpm2] ( 0.06≦f < 0.15 [Hz] )、HF [bpm2] ( 0.15≦f < 0.40 [Hz] ) とした。
一回拍出量 SV[ml] は、Kubicek の式(Kubicek 1966)により算出した。すなわち、
胸部インピーダンスを Z0 [Ω]、胸部インピーダンス微分波形の拍動内最小値を dz/dt min
[Ω/sec]、左心室駆出時間を LVET [sec]、電極間距離を L [cm]、血液比抵抗を ρ [Ω cm] と
して、
- 18 -
L
Z0
SV
2
dz
LVET
dt min
により求めた。また、心拍出量 CO [l/min] は、一回拍出量 SV [ml] および瞬時心拍数
HR [bpm] より
CO
SV HR 10
3
により求めた。なお、血液比抵抗 ρ = 135.0 とし、左心室駆出時間 LVET は、胸部イ
ンピーダンス微分波形が拍動内最小値の 15 %に達した時刻から、拍動内最小値を取
った後に最初の明瞭なピークが出現するまでの時間とした。波形の特徴点の抽出はプ
ログラムにより行った後、波形を目視確認し、明らかな誤検出は手作業で修正し、ま
た体動等によるアーチファクトの混入が大きい拍動および特徴点の判断が困難な拍動
は解析対象から除外した。
収縮期血圧 SBP [mmHg] および拡張期血圧 DBP [mmHg] はそれぞれ、血圧波形の
拍動内の最大値および最小値とした。また、平均血圧 MAP [mmHg] は、血圧波形の拍
動内における平均値とした。
総末梢血管抵抗TPR [mmHg/l/min] は、心拍出量CO [l/min] および平均血圧MAP
[mmHg]より、
TPR
MAP
CO
により求めた。
これらのうち、心拍変動以外の値については、一拍毎にその値を算出し、プロトコ
ルの安静時の後半 3 分間の平均値を Baseline、映像提示 5 分目から 8 分目までの平均
値を Reponse として、その変化量を算出した。また、心拍変動の各成分については、
上記の Baseline 区間と Response 区間の 3 分間のデータから算出し、その変化量をそれ
ぞれの成分について算出した。
計測される信号波形と心臓血管系指標の算出のために用いた各特徴点の関係を図
2.3 に示す。
- 19 -
RRI
Electrocardiograph
LVET
0.15× dZ
dtmin
dZ
dtmin
Derivation of thoracic impedance
SBP
DBP
Continuous blood pressure of finger
図 2.3:計測される波形と心臓血管系指標の関係
2.2.5 主観評価
各映像に対する印象として、「非常に暑い(+3 点)」から「非常に寒い(-3 点)」の
7 段階での評価を実施してもらった。また、誘意性(valence)についても「非常に快
(+3 点)」から「非常に不快(-3 点)」までの 7 段階での評価を実施してもらった。
また、全身温冷感についても「非常に暑い(+3 点)
」から「非常に寒い(-3 点)」の 7
段階について評定してもらった。このとき、印象については、視覚刺激として呈示さ
れた映像に対してどのように感じたかを回答してもらい、全身温冷感については、被
験者自身の状態をどのように感じているかを回答してもらうように教示を行った。
なお、印象については、上記の「暑い-寒い」および「快-不快」以外にも 13 対の
形容詞対に、また、被験者自身の状態についても温冷感以外に快適感および眠気感も
同時に回答してもらうことで、実験の意図に気づかれにくいようにした。
- 20 -
2.2.6 統計解析
印象の評点および心臓血管系指標に映像条件間に差異が存在するかを確認するため、
Friedman 検定を実施した。なお、下位検定については実施していない。
また、各心臓血管系指標と映像に対する印象の評点の相関関係について検討を行っ
た。この際、心臓血管系指標の変化量を目的変数、印象の評点を説明変数とし、また
被験者を分類変数として取扱う重回帰分析(Bland & Altman 1995)を適用し被験者内
の相関を求めた。相関の有意性は、重回帰分析における印象の評定点の偏回帰係数の
t 検定により判定した。被験者内での相関係数( r )の絶対値は、重回帰分析の結果より
以下の式で算出し、相関係数の符号は、印象の評定点の偏回帰係数の符号により求め
た。
|r|
印象評点の偏差平方和
印象評点の偏差平方和 重回帰分析残差の偏差平方和
統計処理は数値解析ソフト(R 2.12.1, R Development Core Team)を用いて行い、両
側検定において、P < 0.05 を有意、P < 0.1 を有意傾向と見なした。
- 21 -
2.3
結果
各映像に対する「暑い-寒い」という印象の評点の Box & Whisker プロットを図 2.4
に、
「快-不快」という印象の評点の Box & Whisker プロットを図 2.5 にそれぞれ示す。
なお、Box & Whisker プロットでは、バーの上端および下端はそれぞれ最大値と最
小値を表し、ボックスの上端および下端はそれぞれ 75 パーセンタイル値と 25 パーセ
-3
-2
-1
0
1
hot
cold
Impression Score
2
3
ンタイル値を表す。また、ボックス中の太いラインは中央値を表す。
F1
F2
F3
F4
F5
F6
F7
F8
F9
2
1
0
-1
-3
-2
pleasant
unpleasant
Impression Score
3
図 2.4:各映像に対する「暑い-寒い」という印象の評価
F1
F2
F3
F4
F5
F6
F7
F8
図 2.5:各映像に対する「快-不快」という印象の評価
- 22 -
F9
図 2.6 に各映像に対する心臓血管系指標の変化量を示す。なお、図中の記号の意味
は図 2.4 および 2.5 と同様である。
(b)
-5
-10
-5
0
0
ΔSV [ml]
5
ΔHR [bpm]
5
(a)
F1
F2
F3
F4
F5
F6
F7
F8
F9
F1
F2
F3
F4
F5
F6
F7
F8
F9
F1
F2
F3
F4
F5
F6
F7
F8
F9
F1
F2
F3
F4
F5
F6
F7
F8
F9
(d)
-10
-5
0
ΔSBP [mmHg]
-15
-0.4
-20
-0.2
0.0
0.2
ΔCO [l/min]
5
0.4
(c)
F1
F2
F3
F4
F5
F6
F7
F8
F9
(f)
F1
F2
F3
F4
F5
F6
F7
F8
0
-5
F9
(g)
(h)
2
0
-4
-5
-3
-2
-1
0
1
ΔHF [bpm^2]
5
ΔTPR [mmHg/l/min]
-10
-10
-5
0
ΔMAP [mmHg]
ΔDBP [mmHg]
5
5
(e)
F1
F2
F3
F4
F5
F6
F7
F8
F9
(i)
F1
F3
F4
F5
F6
F7
F8
F9
F3
F4
F5
F6
F7
F8
F9
10
5
0
-5
ΔVLF [bpm^2]
10
0
-15
-10
20
15
(j)
-10
ΔLF [bpm^2]
F2
F1
F2
F3
F4
F5
F6
F7
F8
F9
F1
F2
図 2.6:各映像に対する心臓血管系指標の変化量
- 23 -
「暑い-寒い」という印象の評点は、Friedman 検定において映像間に差異が存在す
ることが確認された(
2
=102.4, P<0.05)
。また、「快-不快」という印象の評点につ
いても、Friedman 検定において映像間に差異が存在することが確認された(
2
= 54.7,
P<0.05)。
一方で、心臓血管系指標の変化量については、Friedman 検定において、心拍数の変
化量(ΔHR)、一回拍出量の変化量(ΔSV)
、心拍出量の変化量(ΔCO)、収縮期血圧の
変化量(ΔSBP)、拡張期血圧の変化量(ΔDBP)、平均血圧の変化量(ΔMAP)
、総末梢
血管抵抗の変化量(ΔTPR)
、心拍変動の各周波数帯域の変化量(ΔVLF, ΔLF, ΔHF)の
いずれにおいても、映像間に有意な差異の存在は認められなかった。
一方、相関分析においては、「暑い-寒い」という印象の評点と、心拍数の変化量
(ΔHR)
、心拍出量の変化量(ΔCO)
、および総末梢血管抵抗の変化量(ΔTPR)との
間に統計的に有意(P < 0.05)な相関が認められ、相関係数はそれぞれ r = 0.190(ΔHR)
、
r = 0.229(ΔCO)、r = -0.247(ΔTPR)であった。また、平均血圧の変化量(ΔMAP)お
よび拡張期血圧(ΔDBP)の間の相関が有意傾向(P < 0.1)であり、相関係数はそれぞ
れ、r = -0.163(ΔMAP)、r = -0.157
(ΔDBP)
であった
(いずれの指標においても df =119)。
ここで、正の相関係数は印象の評点がより高い(暑い)ほど、心臓血管系指標変化
量の値がより増加し、負の相関係数は印象の評点がより低い(寒い)ほど、心臓血管
系指標変化量の値がより増加していることを表す。一方、
「快-不快」という印象の評
点と心臓血管系指標の変化量の間には、すべての指標において相関関係は認められな
かった。
また、全身温冷間の評定点(TS)との間の相関においては、「暑い-寒い」という
映像に対する印象の評点と全身温冷感の間に有意な相関(r = 0.439, P<0.05)が認めら
れたが、「快-不快」という印象の評点との間には相関は認められなかった。
「暑い-寒い」という評点との相関解析の結果の一覧を表 2.1 に、
「快-不快」とい
う評点との相関解析の結果の一覧を表 2.2 にそれぞれ示す。
- 24 -
表 2.1:心臓血管系指標と「暑い-寒い」という印象との相関
Cardiovascular
Intra individual
Indices
Correlation
P-value
Significance
coefficients (r)
ΔHR
+ 0.190
0.037
*
ΔSV
+ 0.008
0.934
n.s.
ΔCO
+ 0.229
0.012
*
ΔSBP
- 0.099
0.282
n.s.
ΔDBP
- 0.157
0.085
†
ΔMAP
- 0.163
0.074
†
ΔTPR
- 0.247
0.006
**
ΔHF
+ 0.111
0.224
n.s.
ΔLF
+ 0.071
0.437
n.s.
ΔVLF
+ 0.190
0.036
*
TS
+ 0.439
< 0.0001
*
*:P<0.05, †:P<0.1
n.s.:Not significant
(df=119)
- 25 -
表 2.2:心臓血管系指標と「快-不快」という印象との相関
Cardiovascular
Intra individual
Indices
Correlation
P-value
Significance
coefficients (r)
ΔHR
+ 0.054
0.560
n.s.
ΔSV
- 0.090
0.328
n.s.
ΔCO
+ 0.137
0.133
n.s.
ΔSBP
- 0.115
0.211
n.s.
ΔDBP
- 0.105
0.253
n.s.
ΔMAP
- 0.131
0.153
n.s.
ΔTPR
- 0.027
0.767
n.s.
ΔHF
- 0.037
0.689
n.s.
ΔLF
- 0.079
0.392
n.s.
ΔVLF
- 0.069
0.451
n.s.
TS
- 0.067
0.465
n.s.
n.s.:Not significant
(df=119)
- 26 -
2.4
考察
本実験の心臓血管系指標の変化量においては、心拍数(ΔHR)および心拍出量(ΔCO)
は「暑い-寒い」という印象の評定点と有意な正の相関があり、総末梢血管抵抗(ΔTPR)
とは有意な負の相関があった。また、拡張期血圧(ΔDBP)および平均血圧(ΔMAP)
においても負の相関に有意傾向が認められた。すなわち、映像に対する印象がより暑
いほど、心拍数と心拍出量はより増大し、映像に対する印象がより寒いほど、総末梢
血管抵抗、拡張期血圧、および平均血圧がより増大する傾向を示している。
実際の暑熱環境においては、心拍数および心拍出量は増大し、総末梢血管抵抗、拡
張期血圧、平均血圧は減少するし、寒冷環境においては、心拍数および心拍出量は減
少し、総末梢血管抵抗、拡張期血圧、平均血圧は増大する(Rowell et al. 1969; Crandall
& Gonzalez-Aloso 2010; Kinugasa & Hirayansgi 1999; Yamazaki & Sone 2000)
。従って、
これらの心臓血管系指標に関しては、
「暑い・寒い」という印象を受けた際の反応と、
実際の暑熱・寒冷環境における反応と類似していると言うことができる。
一方、心拍変動の VLF 成分は、暑熱環境においても増加するが、寒冷環境において
も増加し、その増加量は寒冷環境における場合の方が大きいことが報告されている
(Sollers et al. 2002; Fleisher et al 1996)
。すなわち、横軸に温度、縦軸に心拍変動の VLF
成分を取ってグラフとした際には左右が反転した J 字型の曲線を描く(図 2.7)
。
VLF component
of heart rate
variability
cold
neutral
hot
temperature
図 2.7:暑熱・寒冷環境における心拍変動 VLF 成分の変化
- 27 -
従って、本実験において認められた単純な正の相関は、実際の温熱環境における反
応と類似しているということはできない。ただし、反転した J 字型局曲線の右側の部
分に相当する部分であれば正の相関が観測されることもあり得る。また、心拍変動の
VLF 成分は、その名の通り非常に周波数の低い変動成分である。そして、刺激は静止
画像ではなく動画像であるから、時々刻々とその内容は変化しており、それに伴い映
像に対する「暑い-寒い」という印象も変化すると考えられる。ΔHR と「暑い-寒い」
という印象の間に有意な相関が認められているが、このような心拍数の変化が同一の
映像を見ている間に時系列的に生じたとすれば、心拍変動の VLF 成分はその影響を受
けている可能性も考えられる。従って、心拍変動の VLF 成分の変化量(ΔVLF)が実
際の温熱環境における反応と類似しているか否かについては、本実験の結果からは判
断をつけることができない。
以上をまとめると、暑い・寒いという印象の評点との相関が、有意もしくは有意傾
向であった 6 項目の心臓血管系指標のうち、1 項目(ΔVLF)については判断がつかな
いものの、少なくとも 5 項目(ΔHR, ΔCO, ΔTPR, ΔDBP, ΔMAP)については実際の温
熱環境における反応と方向が同一であると言うことができる。
続いて、これらの反応の機序について考察する。体深部の熱は、血流により末梢へ
と運搬され、体表から外気中へと放出される。これを単純な熱移動モデルにより表現
すると、体深部から体表への熱移動量(Qcrsk)は以下のように表すことができる(Parsons
2002)
。
Qcrsk
(K
C pb mb )(Tcore
Tskin )
ここで、K は熱伝導率、Cpb は血液の熱容量、mb は深部から体表への血流量、Tcore は深
部温、Tskin は末梢(皮膚)の温度をそれぞれを表す。この式中の K および Cpb は一定
値であるため、mb の値が重要な役割を果たし、この mb を決定するのは心拍出量と総
末梢血管抵抗である。本実験において有意な相関関係が認められた指標のうち、相関
係数の絶対値は、総末梢血管抵抗が最も大きく、次いで心拍出量が大きかった。すな
わち、体温調節により密接な両指標に対しての影響が大きかったと言うことができる。
ところで、心拍出量は心拍数と一回拍出量の積によって表される。すなわち、心拍
- 28 -
出量の変化を生じさせる原因としては、心拍数と一回拍出量のいずれか、もしくは、
両方の変化が必要である。本実験の結果においては、心拍数と「暑い-寒い」という
印象の評点に有意な相関が認められた一方、一回拍出量とは相関が認められなかった。
すなわち、心拍出量の変化は心拍数の変化によるものであることが示唆される。実際
の温熱環境における心拍出量の増大は、一回拍出量よりも心拍数に依存することが知
られている。また、血圧は心拍出量と総末梢血管抵抗の積によって表されるが、温熱
環境による変化においては、心拍出量の変化と比較して総末梢血管抵抗の変化の方が
大きい。すなわち、暑熱環境においては血圧は低下し、寒冷環境においては血圧は上
昇する(Rowell et al. 1969; Kinugasa & Hirayanagi 1999; Yamazaki & Sone 2000)
。本実験
の結果においても、映像に対する印象が暑いほど平均血圧および拡張期血圧は減少し、
映像に対する印象が寒いほど平均血圧および拡張期血圧が増大する傾向が見られた。
従って、これらの各種心臓血管系指標同士の関係性を勘案しても、本実験において
「暑い-寒い」という印象と相関した心臓血管系指標の変化は、暑熱・寒冷環境にお
いて特徴的に生じる交感神経地域性反応(Walther et al. 1970)とよく類似していると
言うことができる。
一方で、心臓血管系の指標は本実験において着目している「暑い-寒い」以外の印
象によって影響を受ける可能性も考えられる。たとえば、Ekman らは、
「快-不快」
といった感情により、心拍数および皮膚温が影響を受けることを報告している(Ekman
et al. 1983)。他にも「快-不快」、あるいは「好き-嫌い」といった感情によって心臓
血管系の指標が影響を受けるという報告は多数存在する。しかし、これらの研究にお
いて用いられる視覚刺激としては、たとえば(IAPS; International Affective Picture
System)(Lang et al. 2008)など、極めて強い意味を持った刺激が用いられる。それに
対して、本実験で用いた視覚刺激は、図 2.5 に示した主観評価結果の通り、
「快-不快」
という評価軸においては、それほど強い意味を有していない。また、相関分析におい
ても、
「快-不快」という評点と心臓血管系指標の間には有意な相関は認められておら
ず、本実験においては「快-不快」という印象は心臓血管系指標の反応には影響を与
えているとは考えにくい。このことからも、本実験において認められた心臓血管系指
標の反応は、主に映像に対する「暑い-寒い」という印象を想起させる映像によるも
のであると考えられる。
- 29 -
また、各映像条件の間では、心臓血管系指標変化量に有意な差異が認められていな
いのに対し、個人内の相関係数を用いて検討した結果、
「暑い-寒い」という印象の評
点との有意な相関が認められている。このことは、映像刺激そのものの違いよりも、
映像によって各個人がどのような印象を受けたかが、心臓血管系の反応を生じさせる
上で重要であった可能性を示唆している。この点については、次の第 3 章でもより詳
細に検討する。
では、このような生理反応が生じるメカニズムはどのようなものであろうか?一つ
の考えられる説明としては、古典的条件付け(Nolen-Hoeksema et al. 2009)が考えられ
る。古典的条件付けとは、生得的に獲得されている刺激に対する反応(たとえば、食
事という刺激に対して、唾液が分泌されるという反応)があったとする。この刺激を
US (unconditioned stimuli)と呼ぶ。この US に随伴して、何らかの別の刺激(たとえ
ばベルの音)の提示を繰り返したとし、この刺激を CS(conditioned stimuli)と呼ぶ。
すると、CS のみが提示されても US に対する反応が生じるようになる学習の形態のこ
とを、古典的条件付けと呼ぶ。
仮に、本実験に参加した被験者が暑熱あるいは寒冷な環境という US に対して、暑
熱あるいは寒冷な環境に存在する視覚情報を CS とした条件付けが成立していたとす
れば、視覚情報のみによって、実際の暑熱・寒冷環境において生じる生理反応が生じ
ることはあり得ると考えられる。一般には、古典的条件付けは、被験者が実際にその
状況を体験しないと成立しないと考えられがちである。従って、本実験に関して言え
ば、被験者のうちほとんどが、FILM1 にあるような北極海や FILM5 にあるような砂
漠地帯を訪れたことが無い日本在住の学生であるため、古典的条件付けによる生理反
応が生じることは無いように思われる。しかし、実際に古典的条件付けによる生理反
応が生じるためには、CS そのものが存在しなくても、CS によって想起される意味的
な情報(心的イメージ)のみで十分であることが明らかになっている(Dadds et al.
1997)
。従って、本実験で使用した映像の「暑い-寒い」といった意味が理解可能であ
る被験者においては、古典的条件付けと同様な生理反応が生じることは可能である。
また、脳機能画像研究により、知識として「知っている」ことと、実際に「経験して
いる」ことを司る機能が共通の脳部位であることも明らかになってきている(Wheeler
& Buckner 2004)。本実験においては、反応に関わっている脳部位や神経科学的な基盤
- 30 -
は明らかでは無いものの、これらの知見を考慮すると、条件付けか、あるいは、それ
に類似したメカニズムにより反応が生じたと考えることに矛盾は無いと考えられる。
以上述べたように、暑熱・寒冷環境を想起させる映像を提示した際の心臓血管系指
標の反応と、映像に対する「暑い-寒い」という印象の評点の間に相関関係が認めら
れ、
これらの相関の方向性は、
実際の温熱環境における反応と類似したものであった。
すなわち、本実験により温熱的負荷を伴わない映像刺激のみによっても、体温調節反
応が惹起される可能性が示唆された。
- 31 -
第3章
映像の物理的特性と印象および生理反応の関係性
3.1 はじめに
第 2 章の実験において、映像に対する「暑い-寒い」という印象と、心臓血管系指
標の反応の間に有意な相関が存在することが示された。また、
「快-不快」といった他
の印象との間には相関は認められず、
「暑い-寒い」という印象に起因する可能性が高
いと考えられる。一方で、印象以外の要因が心臓血管系反応に対して影響を与えた可
能性については、第 2 章の結果のみからは否定できない。具体的には、映像の物理的
な特性(例えば、色や明るさ)が、直接心臓血管系の反応に影響を与えている可能性
も考えられる。
従来から、生理心理学の分野においては、提示した刺激の印象やそれによって惹起
された感情と生理反応の関係を調べる研究は数多く行われている。しかし、その刺激
の物理的な特性そのものが生理反応に影響を与えた可能性については、考慮されない
ことも少なくなかった。特に画像は色や明るさ等、複数の物理的特徴量を有する刺激
であり、この影響を無視することはできないと考えられる。
そこで、第 3 章では第 2 章の実験において提示した映像の物理的な特徴(色や明る
さなど)を、画像のデータ解析により抽出し、印象および心臓血管系反応との相関を
算出した。加えて、構造方程式モデルを用いた検討を行うことにより、第 2 章で認め
られた心臓血管系反応が、映像の物理的な特性によるものであるのか、それとも、映
像に対する印象によるものであるのかについて検討を行った。
- 32 -
3.2 方法
3.2.1 映像の物理特性の算出
第 2 章で使用した映像の色および輝度情報を算出するため、動画像の解析を行った。
動画像は毎秒 30 枚の静止画像(フレーム)によって構成されており、また、この各フ
レームはピクセルの集まりによって構成されている
(図 3.1)
。この 1 つのピクセルは、
赤(R)、緑(G)、青(B)の 3 色の画素によって構成されており、R,G,B の値は 0 か
ら 255 の範囲の値を持つ(図 3.1)
。よって、この情報を解析することにより、映像の
色や明るさの情報を抽出することが可能である。
H
R t (i, j ) 185
G t (i, j ) 205
t
B t (i, j )
W
229
i
j
図 3.1:映像データの構成
映像のデータは映像が記録された DVD を DVD プレイヤー(DVP-NS300, SONY)
で再生し、映像信号をビデオキャプチャ(GV-MVP/RZ2, アイ・オー・データ機器) に
よりパーソナルコンピュータに mpeg2 形式で取り込んだ。その後、画像変換ソフト
(MPG2JPG 4.10, NOVO) により 3 フレーム(0.1 [sec]) ごとに、24bit ビットマップファ
- 33 -
イル(RGB それぞれ 8 [bit])として出力した。このビットマップファイルに対して解
析を行った。全フレーム数を T、各フレームの幅を W、高さを H として、t フレーム
目の i 行、j 列のピクセルの赤色成分を Rt(i, j) 、緑色成分を Gt(i, j)、青色成分を Bt(i, j)
として、赤色含有量( R )、緑色含有量( G )、青色含有量( B )はそれぞれ以下の
式により算出した。
R
1
T
1
T
G
B
1
T
T
t 1
1
HW
T
1
HW
t 1
T
t 1
1
HW
H
W
i 1 j 1
H
W
i 1 j
H
W
i 1 j
R t (i, j )
255
G t (i, j )
255
1
B t (i, j )
255
1
また、各映像の平均輝度( Y )は、比視感度による重み付けを行い、以下の式で算
出を行った。
Y
0.299 R
0.587G
0.114 B
3.2.2 相関の算出
第 2 章において、
「暑い-寒い」という印象の評点と心拍数の変化量(ΔHR)、心拍
出量の変化量(ΔCO)、総末梢血管抵抗の変化量(ΔTPR)の 3 つの心臓血管系指標の
間には有意(P<0.05)な相関が認められ、その反応の方向性が実際の温熱環境におけ
る変化と一致していた。そこで、これらの指標と 3.2.1 にて算出した各映像の物理特
性( R , G , B , Y )との相関を求めた。この際、心臓血管系指標の変化量を目的変数、
各映像の物理特性を説明変数とし、また被験者を分類変数として取扱う重回帰分析
(Bland & Altman 1995)を適用し被験者内の相関を求めた。被験者内での相関係数の
絶対値は以下の式で算出し、相関係数の符号は、映像の物理的特性の偏回帰係数の符
- 34 -
号により求めた。
|r|
映像物理特性の偏差平方和
映像物理特性の偏差平方和 重回帰分析残差の偏差平方和
また、
「暑い-寒い」という印象の評点を目的変数、各映像の物理特性を説明変数と
し、上記と同様の方法で相関係数を算出した。回帰分析は数値解析ソフト(R 2.12.1, R
Development Core Team)を用いて行い、両側検定において、P < 0.05 を有意、P < 0.1
を有意傾向と見なした。
3.2.3
構造方程式を用いたモデルの比較
3.2.2 の相関解析において、映像の物理的特徴と有意な相関(P<0.05)が認められた
場合、もしくは、相関が有意傾向(P<0.1)であった心臓血管系反応については、構造
方程式を用いて、図 3.2(a)から(c)に示す以下の 3 つの仮説を表現するそれぞれのモデ
ルの推定を行った。
(仮説a)
画像の物理的特性は、
映像に対する印象および心臓血管系反応に直接影響を与えるが、
映像に対する印象は心臓血管系反応には影響を与えない( 図 3.2(a) )
。
(仮説b)
画像の物理的特性は、映像に対する印象に直接影響を与えるが心臓血管系反応には影
響を与えず、映像に対する印象は心臓血管系反応に影響を与える( 図 3.2(b) )
。
(仮説c)
画像の物理的特性は、映像に対する印象および心臓血管系反応に直接影響を与える。
また、映像に対する印象も心臓血管系反応に影響を与える( 図 3.2(c) )
。
- 35 -
(a)
Impressions
to video images
Physical features
of video images
(b)
Cardiovascular
responses
Impressions
to video images
Physical features
of video images
(c)
Cardiovascular
responses
Impressions
to video images
Physical features
of video images
Cardiovascular
responses
図 3.2:映像・印象・心臓血管系反応の関係を表す 3 種類のモデル
- 36 -
構造方程式モデルは、相関行列に基づき推定を行い、求めたモデルそれぞれについ
て、赤池の情報量規準(AIC)を求め、モデルの尤度の比較を行った。AIC とは、モ
デルの当てはまりの良さを表す指標であり、その値が小さいほどモデルの当てはまり
が良いことを表す(Akaike 1972)。構造方程式のモデル推定およびモデル適合度の算
出は、数値計算ソフトウェア(R 3.0.2, R Development Core Team)上で、SEM Package
(Fox 2006)を使用して行った。
- 37 -
3.3
結果
3.3.1 映像の物理的特徴
図 3.3 に FILM1 から FILM9 それぞれの映像についての赤色含有量( R )、緑色含
有量( G )、青色含有量( B )、および輝度( Y )の算出結果を示す。ただし、ここ
で示す値は、あくまで呈示した映像のデータの特性を表すものであり、実際に実験参
加者の目に到達した光量と厳密に比例するわけではない点には注意が必要である。
1.0
G
R
B
Y
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
FILM1
FILM2
FILM3
FILM4
FILM5
FILM6
FILM7
図 3.3:各映像の物理的特徴
- 38 -
FILM8
FILM9
3.3.2 相関係数
表 3.1 に各画像の物理的特徴と心臓血管系指標変化量の相関係数を示す。総末梢血
管抵抗の変化量(ΔTPR)は、
青色含有量との間に統計的に有意な相関(r = 0.1845, P<0.05)
が認められ、緑色含有量との間の相関が有意傾向(r=0.1604, P<0.1)であった。また、
心拍数の変化量(ΔHR)は、青色含有量との相関が有意傾向(r=-0.1591, P<0.1)であ
った。心拍出量の変化量(ΔCO)は、いずれの画像特徴とも相関は認められなかった。
表 3.1:画像特徴と心臓血管系反応との相関
R
G
B
Y
ΔHR
+ 0.1028
- 0.1099
- 0.1591†
- 0.0524
ΔCO
- 0.0606
- 0.0902
- 0.0693
- 0.0851
ΔTPR
+ 0.0726
+ 0.1604†
+ 0.1845*
+ 0.1486
*:P<0.05, †:P<0.1 (df=119)
表 3.2 に、各画像の物理的特徴と「暑い-寒い」という印象の評点との相関係数を
示す。青色含有量との相関(-0.5097, P<0.05)
、緑色含有量との相関(-0.3397, P<0.05)
、
輝度との相関(-0.2822, P<0.05)がいずれも統計的に有意であった。一方、赤色含有量
との間には相関は認められなかった。
表 3.2:画像特徴と「暑い-寒い」という印象評点との相関
Impression score
of ‘hot-cold’
R
G
B
Y
- 0.0104
- 0.3397*
- 0.5097*
- 0.2822*
*:P<0.05 (df=119)
- 39 -
3.3.3 構造方程式
図 3.4 に総末梢血管抵抗変化量(ΔTPR)に対する、3.2.3 節に示したそれぞれの仮
説に対応する構造方程式モデルの推定結果を示す。映像の特徴としては、ΔTPR との
相関が最も高かった青色含有量( B )を用いた。仮説(a)に対応するモデルではパ
ス係数はいずれも統計的に有意であり、AIC の値は 13.91 であった。仮説(b)に対
応するモデルでは、パス係数はいずれも統計的に有意であり、AIC の値は 10.59 であ
った。仮説(c)に対応するモデルでは、映像の物理特徴から印象へのパス係数、お
よび印象から生理反応へのパス係数は有意であったが、物理特徴から生理反応へのパ
ス係数は有意では無く、AIC の値は 12.00 であった。
(a)
*: P<0.05
Impression score
of ‘hot-cold’
-0.5097*
ΔTPR
B
0.1846*
(b)
AIC = 13.91
Impression score
of ‘hot-cold’
-0.2469*
-0.5097*
ΔTPR
B
(c)
AIC = 10. 59
Impression score
of ‘hot-cold’
-0.2064*
-0.5097*
ΔTPR
B
0.0793
AIC = 12.00
n.s.
図 3.4:総末梢血管抵抗変化量に関する構造方程式モデルの比較
- 40 -
図 3.5 に心拍数変化量(ΔHR)に対する、3.2.3 節に示したそれぞれの仮説に対応す
る構造方程式モデルの推定結果を示す。映像の特徴としては、ΔTPR との相関が最も
高かった青色含有量( B )を用いた。仮説(a)に対応するモデルではパス係数はい
ずれも統計的に有意であり、AIC の値は 11.97 であった。仮説(b)に対応するモデ
ルでは、パス係数はいずれも統計的に有意であり、AIC の値は 10.64 であった。仮説
(c)に対応するモデルでは、映像の物理特徴から印象へのパス係数、および印象か
ら生理反応へのパス係数は有意であったが、物理特徴から生理反応へのパス係数は有
意では無く、AIC の値は 12.00 であった。
(a)
*: P<0.05
Impression score
of ‘hot-cold’
-0.5097*
ΔHR
B
-0.1591*
(b)
AIC = 11.97
Impression score
of ‘hot-cold’
0.1903*
-0.5097*
ΔHR
B
(c)
AIC = 10. 64
Impression score
of ‘hot-cold’
0.1476*
-0.5097*
ΔHR
B
-0.0839
AIC = 12.00
n.s.
図 3.5:心拍数変化量に関する構造方程式モデルの比較
- 41 -
3.4
考察
第 2 章の結果において、
「暑い-寒い」という印象の評点と有意な相関が認められ、
またその反応の方向が、実際の温熱環境における反応と一致していた心臓血管系指標
(心拍数変化量:ΔHR, 心拍出量変化量:ΔCO, 総末梢血管抵抗:ΔTPR)のうち、
ΔTPR は、映像の青色含有量と有意な相関が認められ、緑色含有量との相関も有意傾
向であった。ΔHR においては、青色含有量との相関が有意傾向であった。一方、ΔCO
はいずれの映像の物理特性との相関は認められなかった。この結果のみを見ると、少
なくとも ΔTPR と ΔHR については、
「暑い-寒い」という印象のみによって反応が生
じたのではなく、映像の物理的な特性が生理反応に対して影響を与えた可能性を否定
することはできない。
しかし、構造方程式を用いたモデルの比較の結果、ΔTPR と ΔHR のどちらの場合に
おいても、映像の物理特徴が直接生理反応に対して影響を与えるパスを仮定したモデ
ル(仮説(a)および仮説(c)
)と比較して、映像の物理特徴が直接生理反応に対し
て影響を与えるパスを仮定しないモデル(仮説(b)
)の方が AIC の値は小さい(AIC
の値は小さいことは、
統計的にモデルの当てはまりがより良いことを意味する)。また、
生理反応に対して、印象の評点と映像の物理特徴の両方が影響を与えるパスを仮定し
た場合(仮説(c))では、印象の評点から生理反応に対するパス係数は有意であるの
に対して、映像の物理特徴から生理反応に対するパス係数は有意ではない。従って、
生理反応には映像の物理的特徴は直接影響を与えておらず、
「暑い-寒い」という印象
によって生理反応が生じたと考える方が、統計的にはより妥当な仮定であることが示
された。
また、循環器動態の観点から考察すると、一般に総末梢血管抵抗が増大すると心臓
への静脈環流が増加し、少ない心拍数でも必要な血液を全身に供給することができる
ようになるため、心拍数は減少する(Berne & Levy 2003)
。青色含有量と ΔTPR の間に
は有意な正の相関があり、ΔHR との間の負の相関も有意傾向であるため、青色光が総
末梢血管抵抗を増大させ、その結果として心拍数の減少が生じたという説明も可能で
あるようにも思われる。しかし、上記のような総末梢血管抵抗の増大に伴う心拍数の
低下が生じるには、一回拍出量の増大が伴っていなければならない(Berne & Levy
- 42 -
2003)
。そこで、青色含有量と一回拍出量の変化量(ΔSV)の相関についても算出して
みたところ、有意な相関は認められなかった(r = 0.089, P = 0.3342)。このことから、
上述のような青色光が総末梢血管抵抗を増大させ、その結果として心拍数の減少が生
じたという説明は矛盾する。また、体温調節反応として総末梢血管抵抗の変化が生じ
ている場合には、一回拍出量の変化の影響を上回る心拍数の変化が生じるため、心拍
出量は寒冷な環境であるほど小さくなる(Rowell et al. 1969; Gonz´alez-Alonso et al.
2000)
。しかし、青色含有量と ΔCO の間には有意な負の相関関係は認められていない。
このように、
「暑い-寒い」という印象の評点と心臓血管系指標変化量との相関が複数
の指標において体系的に体温調節時の心臓血管系反応との類似が認められたのとは対
照的に、映像の物理的な特徴と心臓血管系指標の関係は体系立ったものではない。
また、照明光を用いた実験においては、ヒトの生理反応は短波長(青色)の光に対
して感度が高いことが知られている(Brainard et al. 2001; Cajochen et al. 2005)が、こ
のような反応は、光の強度が比較的強く、また、暴露時間が長い場合に生じやすい(Lall
et al. 2010;
Dkhissi-Benyahya et al. 2007)。一方、本研究の実験では、ディスプレイか
ら照射される光の被験者の目の位置での照度は概ね 10 [lx] 未満と非常に弱いもので
あり、また、暴露時間も 10 分と短時間であることから短波長光が直接影響を与えたと
は考えにくい。
以上述べたように、統計的なモデルに従った検討、および、生理的なメカニズムに
基づいた考察の双方を考慮しても、映像の物理的特徴(特に青色含有量)が直接、生
理反応に影響を与えたとは考えにくく、第 2 章で観測された体温調節反応と類似した
心臓血管系反応は、映像に対する印象によって惹起されたものであると考えられる。
- 43 -
第 4 章 暑熱・寒冷環境を想起させる映像が深部体温に与
える影響
4.1 はじめに
これまで述べたように、心臓血管系指標の反応が呈示する視覚刺激により影響を受
け、暑い印象を与える映像を呈示することにより実際の暑熱環境において生じる心臓
血管系反応が、寒い印象を与える映像を呈示することにより実際の寒冷環境において
生じる心臓血管系反応が、それぞれ生じることが明らかとなった。
しかし、これまで第 2 章および第 3 章にて述べた実験は、温熱的に中立な実験環境
で行われおり、また映像の呈示時間も 10 分間と短時間であった。そのため、仮に体温
調節反応と類似した生理反応が生じていたとしても人体の熱収支には大きな影響を与
えない。また、人体における産熱量に直接的に関係する指標(酸素摂取量)
、放熱量に
直接関係する指標(皮膚温)、および、実際の深部体温については計測を行っていない。
そのため、これらの反応が実際に体温調節(深部体温)に対して影響を与えるかは明
らかでなかった。そこで、第 2 章で認められたような生理反応が、深部体温に影響を
与えるかについて検討を行った。具体的には、映像の呈示時間を長時間とし、また、
体温調節に直接関係する指標である酸素摂取量、皮膚温、深部体温の計測を行った。
加えて、実験を行う環境を温熱的に中立な寒冷な環境ではなく、寒冷な環境とした。
その理由は、寒冷な環境においては、外気温と体表面温の差が大きく、人体と環境と
の間の熱交換量も大きくなるため、仮に適切な心臓血管系反応が生じなかった場合に
はより顕著な影響が生じると考えられたためである。第 4 章では、この検討を行った
結果について述べる。
- 44 -
4.2 方法
4.2.1 実験実施条件
実験は、2010 年 7 月初旬から下旬にかけて九州大学芸術工学研究院環境適応研究実
験施設(人工気候室 No.3)において実施した。実験参加者の服装は灰色のTシャツとシ
ョートパンツとした。実験中は室内の照明は消した。実験室内は、実験参加者の視界
に入る場所から誘目性の高い物は排除し、主観評価を行う実験者 1 名は実験参加者の
後方に静かに待機した。実験参加者の姿勢は椅座位安静とした。
4.2.2 実験参加者
実験参加者は健康な男子大学生および大学院生 13 名とした。
実験参加者には事前に
実験プロトコルを説明した上で書面により実験参加に対する同意を得た。また、実験
内容は、九州大学大学院芸術工学研究院 実験倫理審査委員会の承認を得た。実験参加
者には、実験の前日及び当日の激しい運動や飲酒を避け、食事および喫煙は実験開始
2 時間前までに済ませるように教示した。実験参加者には呈示映像の内容は事前に知
らせていない。表 4.1 に実験参加者 13 名の年齢および身体的特徴を示す。
表 4.1:実験参加者の年齢と身体的特徴
Age [years old]
Height [cm]
Weight [kg]
BMI [kg/m2]
20-23
172.4 (±7.5)
61.2 (±13.2)
20.0 (±2.65)
- 45 -
4.2.2
使用した視覚刺激
視覚刺激としては、図 4.1 に示すように、第 2 章の実験にて用いた映像の中から、
寒冷環境を想起させる映像として雪景色(Cold Image)
、暑熱環境を想起させる映像と
して砂漠(Hot Image)を使用した。これらは、第 2 章の実験において「暑い」および
「寒い」という印象の評点が最も高かったものである。また、コントロール映像とし
てグレースクリーン(Control Image)の 3 種類を使用した。これらは、全て無音で呈
示された。また、実験室内の照明は消灯した上で呈示された。
Cold image
Hot image
Control image
図 4.1: 実験で使用した映像の例
映像は実験参加者の目の位置から 1.9 メートル前方の視野対角 46 インチ、アスペク
ト比 16:9 の液晶ディスプレイ(KDL-46X1000, SONY) に呈示した。実験参加者の視
界に入る場所には色の付いた物や誘目性の高い物は置かないようにした。また、実験
参加者の目の位置にて測定したディスプレイ方向の垂直面照度の平均値は、Cold
Image で 9.5 [lx]、Hot Image で 14.1 [lx]、Control Image で 9.1[lx]であった。
4.2.3 実験プロトコル
実験参加者は、実験開始約 40 分前に実験用の衣服に着替え、その際直腸温センサを
装着した。実験室外にて身長・体重・皮下脂肪圧を測定した後、室温 28℃・相対湿度
50%の実験室に入室後約 30 分間で、実験者は椅座位安静状態で電極およびセンサを装
着し、インピーダンスチェックと測定確認を行った。実験は安定した測定と実験参加
- 46 -
者の苦痛の有無を確認し開始した。映像は安静時に灰色画面を 20 分間呈示後、環境温
の変化開始と同時に条件に応じて切り替えた。測定は、酸素消費量、皮膚温、直腸温
について実験の開始から終了まで連続で行った。主観評価(全身温冷感)は実験開始時
から 10 分間隔で行った。また、全身温冷感とは別途、映像に対する「暑い-寒い」と
いう印象および「快-不快」という印象についての評定も実施してもらった。
実験開始から 20 分間は室温を 28℃、相対湿度は 50%に設定し、Control Image を呈
示した。その後、80 分をかけて 16 ℃まで気温を徐々に低下させ、その際に Hot Image、
Cold Image、Control Image のいずれかを呈示した。実験プロトコルを図 4.2 に示す。
Presented
video image
No image
Cold, Hot, or Control image is presented
Room air
temperature
28 C
16 C
Time
0 min.
100 min.
20 min.
図 4.2:実験プロトコル
4.2.4 生理指標の測定と解析
直腸温および皮膚温はサーミスタを用いて、温度データロガー(LT8A, Gram)によ
り 5 秒間隔で記録した。直腸温は肛門括約筋から 13cm の深さまでサーミスタを挿入
- 47 -
し、皮膚温はサーミスタを額・腹・前腕・手背・大腿・下腿・足背の 7 ヵ所にサージカルテ
ープを用いて装着し測定を行った。平均皮膚温(Tsk)は、額(Tforehead)
、腹(Tbody)、
前腕(Tarm)、手背(Thand)、大腿(Tupperthigh)
、下腿(Tlowerthigh)
、足背(Tfoot)の 7 カ所
の皮膚温から以下に表す Hardy-Dubois の 7 点法(Hardy & DuBois 1938)により算出し
た。
Tskin
0.07T forehead
0.35Tbody
0.14Tarm 0.05Thand
0.19Tupperthigh 0.13Tlowerthigh 0.07T foot
また、核心部と末梢の温度差勾配(Tcrsk)を、直腸温(Tcore)および平均皮膚温(Tskin)
を用いて以下の式で算出した。
Tcksk
Tcore
Tskin
酸素摂取量は、呼気ガス測定用マスク(ルドルフマスク,日本光電)を用いて、蛇管
を通し呼気ガス分析装置(AE-300, ミナト医科学)で測定した。測定は呼気モードで
行い、吸気は大気濃度とし、呼気のみの濃度を 5 秒毎に測定した。校正用ガスは N2
をベースとした O2 : 15.0%、CO2 : 5.03%のものを使用した。得られたデータは、A/D
変換ボード(SBL21-501)を通しパーソナルコンピュータに取り込んだ。これらの計測
データは、オフライン処理により実験開始から終了まで 5 分毎に平均値を算出した。
4.2.5 主観評価
各映像に対する印象として、「非常に熱い(+3 点)」から「非常に寒い(-3 点)」の
7 段階での評価を実施してもらった。また、誘意性(valence)についても「非常に快
(+3 点)」から「非常に不快(-3 点)」までの 7 段階での評価を実施してもらった。
また、全身温冷感については実験開始から 10 分おきに「非常に暑い(+3 点)
」から
「非常に寒い(-3 点)」の 7 段階について評定してもらった。
このとき、印象については、視覚刺激として呈示された映像に対してどのように感
- 48 -
じたかを回答してもらい、全身温冷感については、被験者自身の状態をどのように感
じているかを回答してもらうように教示を行った。
4.2.6 統計解析
生理指標は各条件における 5 分毎のデータに対して、時間と映像を要因とした二元
配置分散分析を実施した。分散分析により、映像の主効果、もしくは、時間と映像の
交互作用が有意であった場合には、それぞれの時間において映像条件間の下位検定を
実施した。下位検定には、Holm の方法による多重比較を用いた。温冷感の主観評価
値についても同様に、10 分毎のデータに対して上記と同様の解析を実施した。
なお、13 名の実験参加者のうち、皮膚温および直腸温の測定に欠損のあった 2 名の
データおよび、酸素摂取量の測定に欠損のあった 1 名のデータは解析から除外した。
統計処理は数値解析ソフト(R 2.12.1, R Development Core Team)を用いて行い、両
側検定において、P < 0.05 を有意、P < 0.1 を有意傾向と見なした。
- 49 -
4.3
結果
4.3.1
映像に対する印象
各映像に対する「暑い-寒い」および「快-不快」という印象の評点の Box & Whisker
プロットを図 4.3 と図 4.4 にそれぞれ示す。なお、Box & Whisker プロットでは、バー
の上端および下端はそれぞれ最大値と最小値を表し、ボックスの上端および下端はそ
れぞれ 75 パーセンタイル値と 25 パーセンタイル値を表す。また、ボックス中の太い
ラインは中央値を表す。
extremely
hot
*
*
very
somewhat
neutral
somewhat
very
extremely
cold
Cold
*
Hot
Control
図 4.3:各映像に対する「暑い-寒い」という印象の評価(N=13, * P<0.05)
extremely
pleasant
very
somewhat
neutral
somewhat
very
extremely
unpleasant
Cold
Hot
Control
図 4.4:各映像に対する「快-不快」という印象の評価(N=13)
- 50 -
「暑い-寒い」という印象の評点においては、全ての映像の間で有意な差が認めら
れた。一方、
「快-不快」という印象の評点においては、いずれの映像の間にも有意な
差は認められなかった。
4.3.2
全身温冷感
10 分毎の全身温冷感の結果は、図 4.5 に示すとおりであった。分散分析の結果、映
像と時間の交互作用が有意(F(28,216) = 1.872, P<0.05)であった。各時刻における条件間
比較では、80 分目および 90 分目の時点において、Control 条件と比較して Hot 条件の
温冷感のスコアが低い傾向(P<0.1)が認められた。
Mean±S.E, N=13
. :P<0.1 (Hot vs. Control)
extremely hot
Cold
Hot
Control
very hot
somewhat hot
neutral
somewhat cold
.
very cold
.
extremely cold
0
20
40
60
Time [min.]
図 4.5:全身温冷感の経時変化
- 51 -
80
100
4.3.3
深部体温(直腸温)
図 4.6 に深部体温(直腸温)の結果を示す。分散分析の結果、有意な時間の主効果
に加えて、時間と映像の交互作用が有意であった(F(38, 380) = 1.963, P<0.05)。各時刻にお
ける条件間の比較の結果、85 分から 90 分の区間および、90 分から 95 分の区間におい
て、Hot 条件における直腸温が Control 条件における直腸温と比較して有意に低かった
(P<0.05)。また、65 分から 70 分、75 分から 80 分、80 分から 85 分、95 分から 100
分の区間においては、Hot 条件における直腸温が Control 条件における直腸温と比較し
て有意に低い傾向(P<0.1)が認められた。
図 4.6:直腸温の経時変化
- 52 -
4.3.4 産熱量(酸素摂取量)
産熱量の指標である、酸素摂取量の結果を図 4.7 に示す。分散分析の結果、時間の
主効果は有意であったが、有意な映像の主効果(F(2,22) = 0.182)および、映像と時間の
交互作用(F(38, 418) = 0.927)は認められなかった。
図 4.7:酸素摂取量の経時変化
- 53 -
4.3.5 平均皮膚温
平均皮膚温のグラフを図 4.8 に示す。分散分析の結果、有意な時間の主効果に加え
て、映像の主効果(F(2, 20) = 3.588, P<0.05)および時間と映像の交互作用(F(38, 380) = 2.834,
P<0.05)が有意であった。各時刻における条件間の比較の結果、65 分から 70 分、70
分から 75 分、80 分から 85 分、90 分から 95 分の区間において、Hot 条件における平
均皮膚温は Control 条件と比較して、有意に高い傾向が認められた(P < 0.1)。また、
65 分から 70 分、70 分から 75 分、75 分から 80 分、80 分から 85 分、90 分から 95 分
の区間において、Hot 条件における平均皮膚温は Hot 条件と比較して、有意に高い傾
向が認められた(P < 0.1)。
図 4.8:平均皮膚温の経時変化
- 54 -
4.3.6 核心-末梢温度勾配
核心-末梢温度勾配の結果を図 4.9 に示す。分散分析の結果、有意な時間の主効果
に加えて、映像の主効果(F(2, 20) = 5.438, P<0.05)および時間と映像の交互作用が有意
であった(F(38, 380) = 4.380, P<0.05)。各時刻における条件間の比較の結果、55 分から 60
分、60 分から 65 分、65 分から 70 分、70 分から 75 分、80 分から 85 分、85 分から 90
分、90 分から 95 分、95 分から 100 分の区間において、Hot 条件における温度勾配は
Control 条件と比較して有意に小さく(P < 0.05)、45 分から 50 分、50 分から 55 分の
区間において有意に小さい傾向(P < 0.1)が認められた。また、55 分から 60 分、60
分から 65 分、65 分から 70 分、70 分から 75 分、80 分から 85 分、90 分から 95 分、95
分から 100 分の区間において、Hot 条件における温度勾配は Cold 条件と比較して有意
に小さく(P < 0.05)、50 分から 55 分、85 分から 90 分の区間においては有意に小さい
傾向(P < 0.1)が認められた。
図 4.9:核心-末梢温度勾配の経時変化
- 55 -
4.4
考察
本実験においては、温熱的に寒冷な環境において暑さを想起させる映像を提示した
際の深部体温が、映像を提示しない場合の深部体温と比較して、有意に低いという結
果が得られた。すなわち、暑さを想起させる映像を提示することにより、寒冷環境に
おける深部体温を一定に保つという恒常性の維持に支障をきたすことを示す。
まず、この深部体温に差異が生じたメカニズムについて考察する。図 4.7 に示すよ
うに、酸素摂取量については映像条件の間で有意な差は認められていない。一方で、
平均皮膚温においては、Hot 条件において、Control 条件および Cold 条件と比較して
有意に高い傾向が認められた(図 4.8)。また、核心-末梢間の温度勾配については、
Hot 条件において、Control 条件および Cold 条件と比較して有意に小さいという結果
が得られた。従って、核心温に条件間での差異が生じた原因は、産熱量(酸素摂取量)
の差が原因ではなく、体表からの熱放散(平均皮膚温)および体内での熱移動(核心
-末梢間の温度勾配)が主な原因であったと推測される。
寒冷環境においては皮膚温を低下させ、体表からの熱放散を抑制することは深部体
温を維持する上で重要な役割を果たす(入來 2003)
。本実験においては、Hot 条件で
の皮膚温が高い傾向があり、体表からの熱放散の抑制が抑制されていたことが示唆さ
れ、このことは、核心温を低下させる一因であったと考えられる。
また、核心部から末梢への熱移動を抑制することも、深部体温を維持する上では重
要な意味を持ち、核心部から末梢への熱移動量(Qcrsk)は、以下の式でモデル化する
ことができる(Parsons 2002)。
Qcrsk
(K
C pb mb )(Tcore
Tskin )
ここで、K は熱伝導率、Cpb は血液の熱容量、mb は深部から体表への血流量、Tcore は深
部温、Tskin は末梢(皮膚)の温度をそれぞれを表す。上式の K+Cpbmb の項を一括りに
K1 と表現すれば、以下のように表すことも可能である。
Qcrsk
K 1 (Tcore
Tskin )
- 56 -
ここで、K1 は核心部と末梢部の間の等価熱コンダクタンスを意味する。この式におい
て、もし K1 が一定であると仮定すれば、核心-末梢間の温度勾配(Tcore - Tskin)が大
きいほど、深部から体表への熱移動量は大きくなり、核心温を低くする作用がある
(Wakabayashi et al. 2011)。しかし、本実験においては、Tcore - Tskin の値が他の条件と
比較して有意に小さかった Hot 条件にいて、核心温が有意に低くなるという結果とな
っており、上記の K1 は一定であるという仮定は矛盾する。
一方、K1 を構成する変数のうち、K および Cpb は一定値であるのに対して、mb は心
臓血管系の反応により変化する。もし、Hot 条件における mb の値が他の条件と比較し
て大きかったと仮定すれば、Tcore - Tskin の値が小さかったとしても、Qcrsk の値が他の条
件よりも大きくなることは可能である。この mb は心臓血管系の反応により決定され、
主に心拍出量と総末梢血管抵抗の影響を受ける。本実験の Hot 条件および Cold 条件の
映像を含む映像を使用して心臓血管系の指標を計測した第 2 章の実験においては、映
像に対する印象が暑いほど心拍出量は増大し、総末梢血管抵抗は減少するという結果
が得られている。これと同様の心臓血管系の反応が生じていれば、Hot 条件における
mb の値は他の条件における mb の値よりも大きいことになるため、K1 の値も他の条件
と比較して大きくなり、Tcore - Tskin の値が小さかったとしても、Qcrsk の値は大きくなり
得る。
また、体温調節能力の優れた若年者と、体温調節能力の劣る高齢者の体温調節反応
を比較した先行研究においても、寒冷環境に暴露された場合の高齢者の核心-末梢間
の熱コンダクタンスが大きくなるという結果が報告されている(Wagner et al. 1974)。
加えて、心拍出量が多い、もしくは、総末梢血管抵抗が小さいほど、核心部と末梢部
の温度勾配は小さくなることが知られている(Schey et al. 2010)
。
従って、Hot 条件において核心-末梢間の温度勾配の値が小さかったことは、温度
勾配が小さいことにより、核心から末梢への熱の移動が抑制されたと解釈するよりは、
血液を介した核心部から末梢部への熱移動量が大きかった結果であると解釈する方が
合理的であると考えられる。そして、この血液を介した核心部から末梢部への熱移動
量が大きいことが、皮膚からの熱放散量の増大と並んで、核心温の低下の要因であっ
たと推測される。
続いて、この体温調節への影響が、映像に対する「暑い-寒い」といった印象によ
- 57 -
るものであるかについて考察する。たとえば、Ekman らは、快-不快といった感情に
より、心拍数および皮膚温が影響を受けることを報告している(Ekman et al. 1983)
。
他にも「快-不快」、あるいは「好き-嫌い」といった感情が心臓血管系の指標に影響
を与えるという報告は多数存在する(Collet et al. 1997; Neumann & Waldstein 2001)。し
たがって、こういった感情が惹起されており、それに伴った心臓血管系の反応が生じ
ていたとすれば、結果的に体温調節に影響を与える可能性も考えられる。しかし、図
4.4 に示すように、本実験で使用した映像に対する「快-不快」という印象の評定に
は有意差は認められていない。また、一般に心臓血管系反応に有意な影響を与えるた
めには、IAPS(International Affective Picture System)
(Lang et al. 2008)など、極めて
強い意味を持った刺激を提示することが必要であるが、それらと比較すると本実験で
使用した映像は「快-不快」という意味おいては強い意味を持っていない。また、2
章でも検討したとおり、心臓血管系の変化量と印象の評定点の相関分析においては、
「暑い-寒い」という印象の評点とは有意な相関が認められたのに対して、
「快-不快」
という印象の評点とは有意な相関は認められていない。従って、
「快-不快」といった
印象が、本実験で認められた体温調節の差異の原因であるとは考えにくい。
また、一方で網膜で受容された光は視覚野へと伝わり視覚情報として処理される経
路とは別に、網膜視床下部路を介して、視交叉上核に入力され生理機能に影響を与え
ることが知られている(Reppert and Weaver 2003)
。この経路は非視覚経路と呼ばれ、
体温調節にも影響を与えるため(Cajochen et al. 2005; Yasukouchi et al. 2000)、暑い寒い
といった印象とは無関係に、この経路を介して体温調節に影響した可能性も考えられ
る。しかし、網膜で受容された光の違いがこの経路を介してヒトの生理反応に十分な
差異を生じさせるためには、数十から数百 [lx] 以上の比較的強い照度が必要である
(Aoki et al. 1998; Kakitsuba et al. 2013)と報告されているのに対して、本実験におい
て、被験者の目の位置におけるディスプレイからの光の照度は 10 [lx] 前後であり、上
記の報告された値と比較するとかなり小さい。また、非視覚経路を介して視交叉上核
が光によって受ける影響の大きさは時間帯によって異なる(Khalsa et al. 2003)が、本
実験を実施した日中は影響が少ない時間帯であることを考慮すると、本実験で観測さ
れた体温調節への影響は非視覚経路を介したものである可能性は低い。
以上のように、
「暑い-寒い」という印象以外の要因を勘案しても、本実験で認めら
- 58 -
れた体温調節における有意な差異は、提示された映像に対する「暑い-寒い」という
印象に起因するものであると推測される。
ところで、暑熱・寒冷環境を想起させる映像が体温調節に影響を与えていることは
確認できたが、暑熱・寒冷環境を想起させる映像によって惹起された反応が体温調節
反応であると見なしても良いか否かについては議論の余地が残る。これを判断する上
では、反応に体温調節中枢を介しているか否かが、ひとつの重要な点である。すなわ
ち、以下の図 4.10(a) に示すように体温調節中枢を介しているのであれば体温調節反
応であると見なしてもよいであろうし、図 4.10 (b) に示すように体温調節中枢を介し
ていないのであれば、体温調節に影響を与える反応ではあっても、体温調節反応と呼
ぶことは適切ではない。
(a)
Disturbance (Ta)
feedforward
signal
sensor
Temperature
controller
Visual input
(effectors)
sensor
Controlled
system
(body mass)
Regulated
variable
(Tcore)
feedback signal
(b)
Disturbance (Ta)
feedforward
signal
sensor
Temperature
controller
(effectors)
Visual input
Another
controller
sensor
Controlled
system
(body mass)
Regulated
variable
(Tcore)
feedback signal
図 4.10:視覚刺激が体温調節に影響を与える経路についての対立モデル
(Kanosue et al. 2010 を参考に改変して作図)
- 59 -
仮に、図 4.10 (a) に示すように、体温調節中枢を介した反応であるならば、
「暑い-
寒い」といった意味的な情報が、体温調節中枢である視床下部の視索前野(POA)に
入力されることが必要である。これまでに明らかになっている恒温哺乳動物における
自律性体温調節を引き起こす経路については、大脳皮質(体性感覚野)を介さずに直
接 POA に温度情報が入力されることが知られている(Nakamura & Morrison 2008;
Nakamura & Morrison 2010)。一方で、「暑い」「寒い」といった意味的な情報の処理は
脳のうち皮質レベルで行われるため、POA に対する温度情報の入力が上記の皮質を介
さない経路のみであるならば、図 4.10 (a) のような仮定は成り立たない。ただし、
Nakamura らの研究は、温度受容に関連する神経連絡経路のみを切断して検証した実験
であるのに対して、POA は皮質の複数の領域からの投射を受けていることも明らかに
なっている(Lemaire et al. 2011)。また、これまでの脳機能画像研究により、「暑い-
寒い」といった概念的な情報を理解する部位は皮質の広範な範囲にわたっていること
が報告されている(Thompson-Schill et al. 1997; Whirney et al. 2011;
Fairhall &
Caramazza 2013)ため、図 4.10 (a) に示す仮定を完全に否定することもできない。こ
のどちらのモデルが正しいかについては、たとえば脳機能計測と自律神経系反応の同
時計測(James et al. 2013)や、場合によっては神経連絡路の切断を用いた実験が必要
であり、ヒトを対象として検証をすることは、方法論の確立を含めて今後の課題であ
る。
このように、神経科学的な基盤については更なる検討の余地は残るものの、本実験
により暑熱・寒冷環境を想起させる映像の提示により、実際の暑熱・寒冷環境におけ
る心臓血管系の反応に類似した反応が生じるだけではなく、実際に寒冷環境における
深部体温の維持にも影響を与えることが明らかとなった。そして、その要因は本来で
あれば寒冷環境において深部体温を維持するために生じる、体表からの熱放散の抑制
および核心部から末梢部への血液の移動の抑制が、暑熱環境を想起させる映像を提示
することにより妨げられたことに起因することが示された。
- 60 -
第 5 章 総括
5.1
各章の結果のまとめ
本論文では、ヒトの生命活動の維持において重要なパラメータの一つである、体温
の恒常性維持に対して、特に映像メディア技術の発達した今日の人工的な環境が与え
る影響についての検討を行った。ヒトが体温をある一定の範囲に保つためには、人体
内部および外界の温熱的な環境について正確な情報を受容器から得ることが不可欠で
あり、中枢および末梢に存在する温度受容器がこの役割を果たしていると考えられて
いる。しかし、近年になり、温度以外の視覚的に暑熱・寒冷環境を想起させる視覚的
な情報のみにより体温調節反応に影響を与える可能性を示唆する知見が得られていた。
具体的には、実際の温熱環境は一定であるにも関わらず、
「涼しい」という印象を生じ
させる視覚情報を呈示するだけで、寒冷環境にて生じる生理反応と類似した反応が生
じた。ヒトがこのような特性を持つことは、少なくとも、実際の温熱環境と視覚情報
が一致する環境においては、体温の恒常性維持に対して悪影響を与えることはない。
しかし、たとえば実際の温熱環境としては寒冷環境であるにも関わらず、暑熱な環境
を想起さる映像が呈示されることにより、暑熱環境において生じる生理反応が惹起さ
れるならば、
このような特性は体温の恒常性維持に対して影響を与える可能性がある。
また、今日の人工環境においては、このような実際の温熱環境と視覚的な情報の乖離
は容易に生じうる。従って、このような特性を明らかにすることは、今後の人工環境
を設計する上で重要な課題の一つであると共に、ヒトの感性を研究する上でも有益で
ある。
まず、本論文の第 2 章では、暑熱・寒冷環境を想起させる映像を呈示することによ
り、実際の暑熱・寒冷環境で生じる生理反応が惹起されるかについて、主に心臓血管
系の指標に着目し検討を行った。
被験者は 15 名の男子学生であり、
8種類の動画像
(氷
山、雪景色、流氷、熱帯雨林、砂漠、溶岩、せせらぎ、紅葉)およびコントロール画
像(グレースクリーン)を呈示し、その際の心臓血管系指標(心拍数、一回拍出量、
心拍出量、収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧、総末梢血管抵抗、心拍変動 VLF 成分、
心拍変動 LF 成分、心拍変動 HF 成分)の動画像呈示前からの変化量を計測した。また、
- 61 -
各動画像に対する「暑い-寒い」という印象の評定を実施させた。また、
「暑い-寒い」
という印象以外の要因による影響が無いかを確認するため、
「快-不快」という印象に
ついても評定を実施させた。そして、これらの印象の評点と各心臓血管系指標変化量
の相関関係を求めた。その結果、心拍数の変化量(ΔHR)、心拍出量の変化量(ΔCO)
、
および心拍変動 VLF 成分の変化量(ΔVLF)と「暑い-寒い」という印象の評定の間
に有意な正の相関、総末梢血管抵抗(ΔTPR)の変化量との間に有意な負の相関が認め
られた。また、拡張期血圧の変化量(ΔDBP)と平均血圧の変化量(ΔMAP)との間の
負の相関が有意傾向であった。ここで、正の相関は映像に対する印象が暑いほど、そ
の指標の値が上昇する傾向を表し、負の相関は映像に対する印象が暑いほど、その指
標が減少する傾向を表す。また、
「快-不快」という印象の評点と各心臓血管系指標と
の間には相関は認められず、
「快-不快」という印象は本実験の結果には影響を与えて
いないことも確認できた。
実際の温熱環境における心臓血管系反応は、暑熱環境であれば、心拍数、心拍出量
は上昇し、総末梢血管抵抗、拡張期血圧および平均血圧は低下する。つまり、本実験
において「暑い-寒い」という印象の評点との相関が有意もしくは有意傾向であった
6 つの心臓血管系指標のうち、少なくとも 5 つについては実際の温熱環境における反
応の方向と一致していた。また、体温調節における心臓血管系反応は、心臓交感神経
と血管交感神経がそれぞれ異なる反応性を示す交感神経地域性反応が生じることが特
徴であるが、本実験の結果においてもその傾向が認められた。すなわち、暑熱・寒冷
環境を想起させる映像を呈示するだけでも、実際の体温調節反応と極めて類似した心
臓血管系反応が生じることが示された。これは、本研究によって初めて明らかになっ
たことである。
このような反応が生じた神経科学的なメカニズムについては、古典的条件付けが可
能性として考えられるが、実際にその神経科学的なメカニズムを明らかにしていくこ
とも重要である。このように、背後にある神経科学的なメカニズムについては、十分
明らかではないものの、暑熱・寒冷環境を想起させる映像を提示した際の心臓血管系
指標の反応と、映像に対する「暑い-寒い」という印象の評点の間に相関関係が認め
られ、これらの相関の方向性は、実際の温熱環境における反応と類似したものであっ
た。すなわち、第 2 章の実験により温熱的負荷を伴わない映像刺激のみによっても、
- 62 -
体温調節反応が惹起される可能性が示唆された。
一方で、第 2 章で得られた結果に、印象以外の要因が影響を与えている可能性は否
定できなかった。そこで、第 3 章では、映像の物理的な特性(色や明るさ)が、直接
生理反応に対して影響を与えている可能性について検討を行った。まず、映像の物理
的な特性を解析するため、映像の情報をディジタルデータとして取得し、映像を構成
している各フレーム・各ピクセル RGB(光の 3 原色)の値から、第 2 章の実験で使用
した各映像の赤色含有量( R )、緑色含有量( G )、青色含有量( B )
、および平均輝
度( Y )を算出し、第 2 章において、
「暑い-寒い」という印象の評点と有意な相関
が認められ、その反応の方向性が実際の温熱環境における変化と一致していた、心拍
数の変化量(ΔHR)、心拍出量の変化量(ΔCO)、総末梢血管抵抗の変化量(ΔTPR)
の 3 つの心臓血管系指標との相関を求めた。また、映像の物理特性と「暑い-寒い」
という印象の評点との相関も求めた。
その結果、 B と ΔTPR の間に有意な相関が認められ、ΔHR との間の相関も有意傾向
であった。すなわち、単純な相関分析からは青色含有量という映像の物理的特定が、
生理反応に影響を与えた可能を否定することができない結果であった。そこで、映像
の物理的特性が直接心臓血管系反応に影響を与えているのか、それとも印象という要
因を介しているかを判断するため、ΔTPR と ΔHR に関しては、 B および、
「暑い-寒
い」という印象の評点を変数とし、以下の(a)から(c)の 3 種類の仮説に対応す
る潜在変数を仮定しない構造方程式モデルを推定した。
仮説(a)
:画像の物理的特性は、映像に対する印象および心臓血管系反応に直接影響
を与えるが、映像に対する印象は心臓血管系反応には影響を与えない。
仮説(b)
:画像の物理的特性は、映像に対する印象に直接影響を与えるが心臓血管系
反応には影響を与えず、映像に対する印象は心臓血管系反応に影響を与える。
仮説(c)
:画像の物理的特性は、映像に対する印象および心臓血管系反応に直接影響
を与える。また、映像に対する印象も心臓血管系反応に影響を与える。
- 63 -
上記それぞれの仮説に対応する構造方程式モデルの尤もらしさ(AIC)を比較した。
その結果、ΔTPR、ΔHR のいずれにおいても、仮説(b)に対応するモデルの AIC の
値が最も小さく、画像の物理的特性は、映像に対する印象に直接影響を与えるが心臓
血管系反応には影響を与えず、映像に対する印象は心臓血管系反応に影響を与えると
いう仮定が統計的モデルとしては最も当てはまりが良いことが示された。
また、循環器系の動態に関しても、
「暑い-寒い」という印象と心臓血管系の相関関
係は、体温調節反応として生じる交感神経地域性反応と体系的に対応関係が認められ
たのに対して、映像の物理特徴との相関には、一貫した関係性が認められなかった。
また、過去の研究において青色光(短波長光)が、生理機能に対して直接影響を与え
ることが示された結果とも一致しないものであった。
これらのことから、映像の物理的特徴(特に青色含有量)が直接、生理反応に影響
を与えたとは考えにくく、第 2 章で観測された体温調節反応と類似した心臓血管系反
応は、映像に対する印象によって惹起されたものであると考えられた。
このように、第 2 章および第 3 章の検討の結果、暑熱・寒冷環境を想起させる映像
の提示により、実際の体温調節時に生じる心臓血管系反応と類似した反応が生じ得る
こと、また、この反応は映像の色や明るさといった物理的な特徴によって生じるもの
ではなく、映像に対する「暑い-寒い」という印象によって生じるものであることが
示唆された。しかし、この実験は映像の提示時間が短いこと、温熱的に中立な環境で
行われていること、また、体温を直接測定していないため、実際に体温調節に影響を
与えるか否かが不明であった。そこで、第 4 章では、
「暑い-寒い」という印象を生じ
させる映像を、温熱的に寒冷な環境において呈示し、実際の体温調節に影響を与える
かについての検討を行った。
被験者は 13 名の男子学生であり、
暑い印象を与える映像として砂漠を呈示する条件
(Hot 条件)、寒い印象を与える映像として雪景色を呈示する条件(Cold 条件)、およ
びコントロール画像を呈示する条件(Control 条件)の 3 条件で実験を実施した。実験
室の室温を 28 [℃] に保った状態で 20 分間のベースラインの後、80 分かけて室温を
16 [℃] まで徐々に低下させ、その際の酸素摂取量、皮膚温、深部体温(直腸温)の測
定を行った。また、深部体温と平均皮膚温の値から、末梢-核心間の温度勾配の値も
算出した。また、各映像に対する「暑い-寒い」という印象および「快-不快」とい
- 64 -
う印象も回答してもらった。生理指標については、5 分毎の平均値を求め、時間と映
像を要因とする二元配置分散分析を行った。
その結果、深部体温は時間と映像の交互作用が有意であり、下位検定の結果、Hot
条件における直腸温が Control 条件における直腸温と比較して有意に低いことが示さ
れた。すなわち、温熱的な環境は各映像条件間では同一であるにも関わらず、ヒトの
体温調節は有意に影響を受けることが明らかとなった。
酸素摂取量については、映像の主効果と時間と映像の交互作用いずれも有意ではな
く、産熱量に関しては呈示する映像によって影響を受けていないことが示唆された。
平均皮膚温については、映像の主効果および時間と映像の交互作用が有意であった。
下位検定においては、Hot 条件における平均皮膚温は Control 条件と比較して、有意に
高い傾向が認められた。また、Hot 条件における平均皮膚温も Cold 条件と比較して、
有意に高い傾向が認められた。核心-末梢温度勾配については、映像の主効果および
時間と映像の交互作用が有意であった。下位検定においては、Hot 条件における温度
勾配は Control 条件および Cold 条件と比較して有意に小さかった。
これらのことから、深部体温に映像条件間で有意な差が生じた理由は、体内での産
熱の違いに起因するものではなく、体表からの熱放散および体内での熱移動の差異に
よって生じたものであると考えられた。特に、深部体温が Control 条件と比較して有
意に低かった Hot 条件において、末梢-核心間温度勾配が他の条件と比較して有意に
低く、体内における熱移動モデルに即して考えると、Hot 条件においては、本来であ
れば寒冷な環境で生じるはずの心臓血管系反応が抑制された結果、血液を介した核心
部から末梢部への熱移動量が大きく、そして、この血液を介した核心部から末梢部へ
の熱移動量が大きいことが、皮膚からの熱放散量の増大と並んで、核心温の低下の要
因であったと推測された。ただし、このような結果が、体温調節中枢を介した体温調
節反応であるか否かについては、更なる検討が必要である。
以上のように、神経科学的なメカニズムが明らかではないという課題はあるものの、
本論文は、
(1)暑熱・寒冷環境を想起させる映像を呈示するだけで、実際の暑熱・寒
冷環境で生じる反応と類似した心臓血管系反応が生じること、
(2)実際の温熱環境と
一致しない映像を呈示することで体温調節反応が妨げられ、実際に深部体温の維持に
影響を与える場合が存在し得ること、という2点を実証した。
- 65 -
5.2
総合考察
本節では、第 1 章から第 4 章それぞれの章で述べた事項および得られた結果の関係
性から考察できる点について考察するとともに、今後の研究の方向性について筆者個
人の意見も含めて述べる。
第 2 章の結果においては、「暑い-寒い」という印象の評点と心臓血管系指標変化
量の相関が統計的には有意(P<0.05)であるものの、相関係数はその絶対値が最も大
きいものでも、r = -0.247 と効果量として考えると決して大きなものではない(決定係
数に換算すると 0.061)。また、単純な映像条件間の比較では条件間に差異が存在する
ことは認められなかった。一方で、第 4 章の実験では深部体温に有意な差が認められ
た。その差の平均値は、最大で約 0.15[℃]であるが、同一の実験参加者の異なる条件
間での比較であることや、コントロール条件における深部体温の低下量が約 0.2 [℃]
であることを考慮すると、決して無視することは出来ない量である。第 2 章の実験で
は、
映像の呈示時間は 10 分と短時間であり、実験環境は温熱的に中立な状況であった。
それに対して、第 4 章の実験では映像の呈示時間は 80 分であり、また温熱環境も寒冷
な環境であるという違いがある。両者において、検討の対象とした生理指標が異なる
ため直接的な比較はできないものの、このことは、ある条件(たとえば第 2 章のよう
な条件)においては、ある感覚刺激がヒトの恒常性に与える影響が小さかったとして
も、より厳しい条件(たとえば第 4 章のような条件)であれば、その影響を無視する
ことが出来なくなる場合があることを例示している。したがって、ある感覚刺激が恒
常性に対して望ましくない結果をもたらすことが無いかを検討する際には、想定され
うるもっとも厳しい条件での検証を行うことが望ましいと言える。
一方で、第 4 章で行った実験のような条件での検証を行うことには、時間と費用を
要する。それに対して第 2 章で行った実験は、刺激呈示は比較的短時間であり、かつ、
深部体温(直腸温)といった体温に直接関連する指標の測定を行うこと無く、体温調
節反応に影響を与える可能性を示すことができている。
このことは、第 2 章のように、
結果(深部体温)と原因(心臓血管系反応)の因果関係を考慮した上で、測定する指
標を選択し、検出力の高い統計的方法を用いて、それらの結果の間の関連性を生理学
- 66 -
的な知見に基づいて考察することが、直接的ではないにしても、一つの効率的な検証
方法であることを示唆していると考えられる。
ところで、本論文の第 1 章では、実際の温熱環境と「暑い」
「寒い」という視覚的
な情報が相関している限りは、体温調節反応が「暑い」
「寒い」という視覚情報に影響
を受けることは、むしろ、より適切な体温調節反応を促す役割を持っている可能性も
あると述べた。
しかし、第 4 章の結果では、視覚刺激が呈示されない場合(Control 条件)と、実際
の温熱環境と一致する視覚刺激(Cold 条件)の間では、深部体温や対応調節に関連す
る生理指標に有意な差は認められなかった。すなわち、寒冷な環境において「寒い」
という印象を与える視覚刺激の呈示によって、その視覚刺激が無い場合と比較してよ
り適切な体温調節が促されているわけではない。異なる条件において、適切な体温調
節を促す効果はあることを否定することはできないが、少なくとも本論文の結果から
は、体温調節反応が「暑い」
「寒い」という視覚的な情報に影響を受けることが、適応
的な特性であると言うことはできない。
仮に適応的な特性では無いとすれば、何故このような特性をヒトは有しているので
あろうか?ひとつの説明としては、この特性が進化において「中立」に相当する特性
であるためであると考えられる。進化における中立という概念は、適応的である形質
が正の選択圧を受けて自然選択によって選ばれるだけではなく、適応的でも非適応的
でもない(中立)あるいは、多少は非適応的(弱有害)な形質であっても、進化にお
ける確率的な過程によって選択され得るという考えである(Kimura 1986)
。例えば、
実際にヒトの分子レベルやタンパク質レベルにおける検討では、中立もしくは弱有害
であるものが多くを占めていることが示唆されている(Yampolsky et al. 2005)
。
感覚刺激に対する感受性というレベルのヒトの特性においても、このような中立的
進化が起こり得るという考えは、概念として提唱されており(Speakman 2008)
、実証
することは困難ではあるが、理論上は起こりうる現象である。感覚刺激に対する感受
性(感性)の起源が、進化の過程における適応的な特性であるという観点からの議論
はこれまでもなされている(Johnston 2001)が、適応的であったという仮定だけでは
説明できない点も存在する。中立進化という概念は、感性の起源を探る上でも重要な
観点になる可能性がある。
- 67 -
また、2 章の実験や第 4 章の実験では、実験を実施した当時に入手できる中では上
位機種に相当するディスプレイを用いていたが、2015 年現在では、画面サイズや解像
度がより大きいディスプレイや、3 次元映像の呈示が可能なディスプレイなど、より、
臨場感の高いメディア技術が利用可能となっている(Sechrist 2014)。このことを考慮
すると、本論文の中で示された影響と比較して、より顕著な影響が生じる可能性は高
くなってきていると言える。また、新しい技術の出現は加速度的に生じる(Arthur &
Polak 2006)ため、今後更なるメディア技術が普及していくと考えられる。これらの
技術がヒトの恒常性に対して影響を与えないかを確認するための効率的な方法論を確
立することが必要である。更には、感性を含むヒトの特性を考慮することで新しい技
術の開発の方向性自体をヒトにとって望ましい方向に導くことが重要であると考えら
れる。
- 68 -
5.3
結言
第 1 章の序論でも述べたように、体温を一定の範囲に保つための体温調節システム
が、熱エネルギーを持たない物理刺激(たとえば視覚刺激)に対して感度を持つこと
はシステムの設計という観点から言えば望ましくない特性である。ただし、実際の温
熱環境と視覚刺激の間に相関関係が存在するという前提条件があるならば、ヒトがこ
のような特性を有していたとしても問題となることは無い。そして、ヒトが体温調節
システムを獲得してきた進化の過程においては、実際にこのような前提条件が成り立
ち、体温調節が破綻することがなかったからこそ、現代のヒトがこのような特性を有
していると考えられる。しかし、人工環境の普及や映像メディア技術等の進化により、
ヒトが進化の過程において、自然選択によって獲得してきたシステムが適切に動作す
る前提条件を崩す状況に晒される機会は、今後ますます増大するであろう。また、こ
のことは体温調節システムに限られた話ではない。今後、ヒトにとって、真に望まし
い人工環境の設計や技術の進歩の方向性を考える上でも、本論文は一つの示唆を与え
るものであると考えられる。
- 69 -
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謝辞
学部生時代から今日に至るまで、足かけ 10 年以上の長きにわたりお世話になりまし
た、綿貫茂喜先生に心より感謝いたします。修士過程修了後、就職した後に再び研究
室に戻ってきた私を快く迎えていただき、ご指導いただきました。学部時代、修士時
代も含め、綿貫先生のもとで研究をできたことは、今後も研究者として一生の財産に
なります。
本博士論文の副査である、森周司先生、ならびに、樋口重和先生からは、論文の内
容に対して多くの有益なご指摘・ご助言をいただきました。深く感謝いたします。ま
た、実験を実施するにあたっては、藤原睦弘技官にご協力をいただきました。
綿貫研究室の神谷倫子さん、西村貴孝さん、崔多美さんには実験の実施も担当して
いただき、江頭優佳さん、本井碧さんには、結果の考察や本博士論文には含まれない
研究でもご協力いただきました。人間工学教室の卒業生・在学生の皆様には、研究だ
けで無く、福岡に来る度、公私ともにいろいろとお世話になりました。
大学進学時から今日にいたるまで、実家を離れて過ごす私を、温かく見守ってくれ
た家族に深く感謝します。そして、博士論文執筆中に、傍で支え励ましてくれた妻の
あゆ美には感謝してもしきれません。
今後も研究に励み、またその成果を社会に対して還元していくことが、お世話にな
った皆様への何よりの恩返しになると考え、今後もより一層、精進・努力を続けてい
きたいと思います。
2015 年 2 月
高倉潤也
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