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【連載 日本再生への道(57) 】インバウンド観光の現状と課題

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【連載 日本再生への道(57) 】インバウンド観光の現状と課題
インバウンド観光の現状と課題
わが国は、急激な人口減少・超高齢社会へと突入している。特に地方部から都市部への人口流入も進
んでいることから、民間研究機関は、全国の半数の自治体を「消滅可能性都市」に指定した。このよう
新 の 統 計 で は、
達成するとの目標を掲げている。最
・6%増と
年以降、翌
危ぶまれる状況にある。こうした現
山間地域では集落の維持・存続すら
への過度の人口移動も相まって、中
あり、東京圏をはじめとした都市部
して注目されている。
背景に、地方創生の一つの処方箋と
少に伴う国内旅行者数の減少などを
ンバウンド観光については、人口減
東京から富士山を経て京都・大阪に
前述の通り、訪日外国人旅行者数
は増加傾向にあるが、その訪問地は、
12
2015.6.18[木] 金融財政ビジネス 第 3 種郵便物認可
日本総研
小林味愛
な中、地域が生き残るためには、①地域内のモノを特に地域外で売ること②地域外からの来訪者(観光
日外国人旅客数は590万人となっ
地方創生の観点からの考察
客または移住者)を増やすことによる地域内での消費拡大─が必要不可欠であり、観光による地域経済・
ており、前年同期比で
年には3000万人を
産業の活性化が求められている。特に、インバウンド観光については、人口減少に伴う国内旅行者数の
なっている。また、訪日外国人旅行
し、政府は
減少などを背景に、地方創生の一つの処方箋として注目されている。本稿では、インバウンド観光を促
消費額は、調査開始の
年1 〜 4月 の 訪
進するための前提として必要となる地域の意識の醸成や人材の育成に焦点を当てて、地方創生の観点か
年の東日本大震災による落ち込みを
除き毎年増加傾向となっており、
年1 〜
㌻)。
わが国は、他国に先駆けて「人口
減少・超高齢社会」の危機に直面し
状を打破していくために、官民の垣
この点、アジア各国の経済成長や
ビザ要件の緩和なども背景に、訪日
(2) 地 域 に お け る 観 光 の 現 状 と
課題
ている。国立社会保障・人口問題研
根を越えて「地方創生」に関する議
8700万人まで減少し、高齢化率
究所の推計では、
(1)総論
年の総人口は約
・4%増加した(図表1、
3月は7066億円と前年同期比で
年 に は2兆 円 を 突 破 し、
14
至 る い わ ゆ る「 ゴ ー ル デ ン ル ー ト 」
うことが期待されており、特に、イ
15
13
外国人旅行者数は増加傾向にあり、
こうした傾向は地方部でより顕著で
43
10
15
論が展開されている。地方創生にお
求められる意識醸成
らその現状と課題を事例の紹介を通じて考察する。
30
に依然として集中している。例えば、
64
年には1000万人の大台を突破
いて、観光も一つの重要な役割を担
13
60
%程度まで上昇する。
は将来的に
41
載
連
日本再生への道
そこで、今後さらなる増加が期待
される訪日外国人旅行客をいかにし
ドし魅力を伝える人材の育成が必要
不可欠であり、また、最も難しいこ
とでもある。特に、共通認識・意識
・1 %)
、
て地域に呼び込み、地域内での消費
・5 %)
、 大 阪 府(
都 道 府 県 別 の 訪 問 率 は、 東 京 都
(
・9%)が上位を占めて
の醸成については、住民のみならず
備などの受け入れ体制を構築したう
上、多言語対応、無線LAN環境整
して価値化し、移動手段の利便性向
ーズに応じて地域資源を観光資源と
在しないが、地域で実践され始めて
当然、方程式のように共通の解は存
材を育成することができるだろうか。
取り組みをリードし魅力を伝える人
それでは、地域の様々な関係者の
共通認識・意識をどのように醸成し、
0.3 0.7
6.5
4.9 6.1
3.0
京都府(
を拡大していくかが課題となる。こ
光推進に関する意識が低いとのアン
(注)
2015年の実績は、
訪日外国人旅客数は1- 4月、
訪日外国人旅行消費額は1- 3月までの累計。
(出所)
JNTO資料および観光庁
「訪日外国人消費動向調査」
をもとに日本総研作成
0.5
年 に「 ト
い る( 図 表2)
。 ま た、
国人旅行者」と一言でいっても、地
ケート調査結果もあり、事業者や住
既存の観光事業者もインバウンド観
外国語の口コミ数の都道府県別割合
域によって訪日外国人旅行客の国
民も含めた地域の関係者が一体とな
の 点、「 イ ン バ ウ ン ド 」 や「 訪 日 外
は、東京都、京都府、大阪府の3都
籍・地域の順位は異なり、また、旅
って取り組みを進めるための意識醸
リップアドバイザー」に投稿された
府で全体の口コミ数の約6割を占め
行形態も団体旅行ではなく個人旅行
ている。
成が必要である(図表3、
㌻)。
が増えていることから、地域ごとに
えで、効果的なプロモーションを実
いる事例を紹介することを通し、そ
27.9
30
適切なターゲットを選定し、そのニ
施する必要がある。
たい。
地域の取り組み事例
こから得られる示唆を検討していき
ただし、その地域を訪問すること
を「選択」してもらうためには、な
によりも「その地域でしか経験でき
(1) 里 山 ツ ー リ ズ ム に 関 す る 住
民の理解(飛騨市古川町)
沖縄県
鹿児島県
宮崎県
大分県
熊本県
長崎県
佐賀県
福岡県
高知県
愛媛県
香川県
徳島県
山口県
広島県
岡山県
島根県
鳥取県
和歌山県
奈良県
兵庫県
大阪府
京都府
滋賀県
三重県
愛知県
静岡県
岐阜県
長野県
山梨県
福井県
石川県
富山県
新潟県
神奈川県
東京都
千葉県
埼玉県
群馬県
栃木県
茨城県
福島県
山形県
秋田県
宮城県
岩手県
青森県
北海道
(出所)
観光庁
「訪日外国人消費動向調査」
をもとに日本総研作成
1341
1.9 0.2 0.2 0.9 3.4 0.2 0.2 0.9 0.5 0.2
0.5 0.6
0.5 1.7 1.9 0.2
0.6 0.3 0.7 0.3 0.3 0.2 0.3 1.7 0.4 0.8
ない魅力(その地域を訪問する理由
付 け )」 を 磨 く と い う 視 点 を 常 に 念
頭に置く必要がある。そして、これ
岐阜県飛騨市古川町では、訪日外
国人向けツアーサービスなどを提供
を実現するためには、その魅力のス
トーリーづくりも当然行う必要があ
する「美ら地球」が中心となって飛
し
るが、前提として、その魅力や魅力
騨地域に残る景観、民家、文化など
ぼ
を磨くための取り組みに関する住民
の「里山資源」を活用し、ツーリズ
ちゅ
を含めた地域の様々な関係者の共通
ムを通じて交流人口・定住人口を増
2015.6.18[木]
金融財政ビジネス 第 3 種郵便物認可
13
34.1
40
20000
20278
11.3
6.9 6.4
9.1
3.5 3.3 4.8
0
835 835 679
6.2
10.7
10
08
07
06
05
04
11.8
13.4
20
7066 10000
4298
5000
861 622 836 1036
590
411
0
09 10 11 12 13 14 15
614 673 733
15000
14167
10861
8135
11490
(億円)
25000
訪日外国人旅行者数
(左軸)
(参考)
訪日外国人観光客数
(1-4月)
(左軸)
訪日外国人旅行消費額
(右軸)
(参考)
訪日外国人旅行消費額
(1-3月)
(右軸)
(万人)
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200 521
0
03
14
認識・意識の醸成、取り組みをリー
〈図表2〉
都道府県別訪問率
(観光・レジャー目的、
2014年)
48.5
(%)
50
34
14
27
48
〈図表1〉
訪日外国人旅行者数および訪日外国人旅行消費額の推移
リングは、飛騨の田んぼや農作業の
を持つ取り組みを行っている。この
イ(貸家ビジネス)─という四つの
ン&ビレッジウオーク④ロングステ
リング②アート&カルチャー③タウ
具体的には、主に①飛騨里山サイク
た の で あ ろ う か。 特 に、「 里 山 」 と
では、どのようにして地元の人々
から受け入れられる体制が構築でき
了し続けている。
本一となるなど、外国人観光客を魅
プアドバイザー」の口コミ評価で日
経路であるクチコミサイト「トリッ
長であり、外国人観光客の主要認知
に触れ合うことができるところが特
との会話をはじめ、地域の日常生活
く、たまたま居合わせた地元の人々
るというわけではないが、地域の理
このように、単にボランティアツ
ーリズムを実施したから成功してい
という。
に参加するために来日する人もいる
海外からもこのボランティアツアー
ンターネットで公募している。単に
するもので、ボランティア人材はイ
お手入れを希望する住民の家を掃除
農作業、寺社仏閣の手伝い、手打ち
索していたことなどがあったという。
しており、有効な地域活性化策を模
ど、村を取り巻く環境が厳しさを増
者が木の伝統的なふき方を学んだり、 心の通過型観光であり、明日香村で
古民家を掃除するのみでなく、参加
うどん作り、浴衣着付け、茶道の稽
楽しむことができる点が特長であり、 居住者の高齢化進展・産業の衰退な
家主とコミュニケーションをとって
古、和菓子作り、まき割り、トレッ
しては、明日香村の観光が日帰り中
れている。同事業が始まった背景と
り、
入れて民家ステイ事業を実施してお
年から教育旅行として学生を受け
ツーリズム協議会が主体となって、
プログラムを実施しており、なかで
いうこれまで観光資源として活用さ
解を促進するために、地域の実情に
キングなど、受け入れ家庭ごとに趣
「 飛 騨 民 家 の お 手 入 れ お 助 け 隊 」 は、
も飛騨里山サイクリングの参加者数
れてこなかった住民の日常生活の一
応じて日常から地域の人々と数多く
味や家業を活かした体験をすること
風景を観光客に見てもらうのみでな
年は年間約2000人を集め、その
部を観光資源として価値化すること
の接点を持つための地道な取り組み
意識が高い、
理解がある、
意欲的
意識が低い、
関心がない、
消極的
その他
意識が高い、
理解がある、
協力的
意識が低い、
関心がない、
理解がない
その他
の消費額が少なかったことや、村内
4つの
HAPPY
地元企業
い
(出所)
「美ら地球」
提供資料をもとに日本総研作成
この民家ステイ事業では、みそ作り、
〈図表4〉
「美ら地球」
が実施する
事業の好循環の意識
14
(出所)
一般財団法人地域活性化センター
「
『インバウンド観光施策』
の現状と課題 調査研究報告書」
をもとに日本総研作成
14
2015.6.18[木] 金融財政ビジネス 第 3 種郵便物認可
やし、地域の里山資源が継承される
うち約7割(約1400人)は、個
については、非常にハードルが高い
を実施し続けていることが、結果と
ことを目指した事業を実施している。
人旅行割合の多いオーストラリア、
と考えられる。観光は一般的には、
して外国人観光客を魅了できる観光
67.5%
67.9%
年からは海外の学生も受け入
米国をはじめとした外国人観光客で
観光客が地域を訪れることによって
資源の価値化に繋がっていると考え
25.3%
は、毎年2倍以上増加している。
あったという。この飛騨里山サイク
発生する交通渋滞や風紀の乱れなど
企業などの満足度も向上するという
やりがいある仕事と
新たなライフスタイルを
得られる
否 め な い。 こ の 点、「 美 ら 地 球 」 は、 満足度のみならず、地域住民や地元
地元の人々との信頼関係を構築する
好循環が生み出されている(図表4)。
奈良県明日香村では、飛鳥ニュー
(2) 教 育 旅 行 の 受 け 入 れ の た め
の住民の理解(奈良県明日香村)
た め に、「 飛 騨 民 家 の お 手 入 れ お 助
け隊」をはじめとしたボランティア
ツーリズムや飛騨地域の古民家に係
る調査の情報共有の場の設定など、
日常から地域の人々と数多くの接点
ワカモノ
旅人の
「もう一泊、
もう一食」
が
生まれる
期待以上のその土地
ならではの魅力に
触れられる
住民
7.1%
15.6% 16.5%
12
旅人
自分の住む場所に
誇りを持てる
【観光事業者の意識】
(N=154)
【住民の意識】
(N=109)
つな
のいわゆる「観光公害」が懸念され、
られる。さらには、外国人観光客の
11
地域住民に疎まれる面があることも
〈図表3〉
インバウンド観光の推進に対する住民
および観光事業者の意識
各国をはじめとして、欧米や中東か
ASEAN( 東 南 ア ジ ア 諸 国 連 合 )
が で き る。 海 外 か ら は、 ア ジ ア や
境が整えられつつあるという。この
入れ家庭もともに満足するような環
かったとしても、海外の学生も受け
企画できる人材の育成を目指し、
活かしてインバウンドツーリズムを
者の急増などを踏まえ、地域資源を
本稿では、インバウンド観光を推
進するに当たり、必要となる地域の
このような教育旅行生の受け入れ
は、明日香村の「若いファン」をつ
上る。
れ人数(累計)は、約1300人に
が向上するという好循環を生み出す
に携わるそれぞれの関係者の満足度
そ の 際、(1) で 述 べ た 通 り、 事 業
り、地道な取り組みが求められる。
共通認識・意識を醸成する必要があ
実施する場合は特に、事業に関する
れば成し遂げることが困難な事業を
ように、地域全体の協力を仰がなけ
業に必要な知識・技術を習得する雇
の現場で実際に働きながら起業・就
コースと異なり、外国人向けツアー
指すものであり、これまでの三つの
ログラムプロデューサーの育成を目
けの着地型観光事業を起業できるプ
これは、富山県内において外国人向
「 グ ロ ー バ ル コ ー ス 」 が 新 設 さ れ た。
年度に同塾に四つ目のコースとして
る。しかし、インバウンド観光を真
るための取り組みは必要なことであ
いく地域では、当然、言語に対応す
れる。インバウンド観光を重視して
みで終わってしまう場合も見受けら
の問題に対応するための取り組みの
パ ン フ レ ッ ト 作 成 を は じ め「 言 語 」
ンバウンド」というと多言語対応の
材 の 育 成 に つ い て 述 べ て き た。「 イ
関係者の共通認識・意識の醸成や人
くることに繋がり、帰国後に次は家
仕組みを地域の実情に応じて構築す
らも教育旅行生が数多く訪れており、
族で明日香村を訪れたり、大人にな
用型訓練コースである。具体的には、 に促進するために欠かすことのでき
富山県では、①おもてなし力の向
上②お客様に満足いただける観光ガ
(3) イ ン バ ウ ン ド 観 光 を 担 う 地
域人材の育成(富山県)
インバウンドの人材育成に関する
これまでの取り組みの多くは、観光
事業計画の策定が求められる。
事業立ち上げが可能となるレベルの
る予定であり、最終的には、実際に
の実務研修や海外研修などが行われ
前述した「美ら地球」での約半年間
インバウンド観光を「自分ごと」と
「他人ごと」であったかもしれない
通り、全地域に通じる全く同じ解決
的に担う人材の育成である。前述の
して地域のインバウンド観光を中心
関係者の共通認識・意識の醸成、そ
ない根底にある取り組みは、地域の
年度までの海外からの受け入
ってから再び明日香村を訪れるとい
る必要がある。
イドの育成③魅力ある観光地域づく
事業者などを対象とした研修会や外
なる可能性もある非常に有意義な取
学の壁」も勘案すると、十分な受け
年6月に「とやま観光未来創
りをリードする人材の育成─を目指
然、受け入れ家庭専用のマニュアル
け入れ家庭が増えてきたという。当
とを繰り返してきた結果、徐々に受
家ステイに対する理解を促進するこ
者が受講料を支払って一流の講師陣
アップコース─の三つであり、受講
ース②観光ガイドコース③観光魅力
コースは、①観光おもてなし入門コ
造塾」を開講した。当初からの設置
で画期的な取り組みであろう。
的に担う事業者を生み出すという点
は、地域のインバウンド観光を中心
が新たに取り組むグローバルコース
の育成に注力されてきたが、富山県
国語対応のできるスタッフ・ガイド
っているが、このような取り組みを
インバウンド観光の促進は、確か
に地方創生において重要な役割を担
地道に作り上げていく必要があろう。
して捉えられる環境を時間をかけて
度 に 宿 泊 す る こ と と な る た め、
「語
るたびに数十から数百人の学生が一
り組みである。ただ、1校受け入れ
入れ家庭を確保することが非常に難
し、
や年6回のセミナーなども実施され
による指導を受けるもので、インバ
自体が地方創生そのものとも言える。
通じた地域の意識改革や人材の育成
ているが、一度受け入れを体験する
ウンド観光の人材育成に特化したも
結語
と「もう一度受け入れたい」と希望
のはなかった。しかし、外国人旅行
11
策があるわけではないが、これまで
しいようにも思える。しかし、担当
〜
う長期的な視点からのリピーターに
15
者が一軒一軒丁寧に説明に赴き、民
14
する家庭も増え、仮に言葉が通じな
2015.6.18[木]
金融財政ビジネス 第 3 種郵便物認可
15
12
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