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家電小売業界における地域家電店の再編と 流通系列化の意義に関する

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家電小売業界における地域家電店の再編と 流通系列化の意義に関する
家電小売業界における地域家電店の再編と
流通系列化の意義に関する考察
<明治大学経営学部(2011)『学生経営論集』第 38 号 21-43 ページ掲載>
新野 孝駿
景山 和紀
杉原 悠太
目次
I. はじめに
II. 先行研究
1.従来の家電小売業界研究
2.地域家電店における組織化/再組織化
3.再編下におけるメーカー系列の地域家電店
III. 家電小売業界における地域家電店
1.家電小売業界の現状
2.地域家電店の現状
3.課題と解決の方向
IV. 地域家電店の組織化
1.研究対象の明確化
2.他系列主宰チェーンのメリット
3.他系列主宰チェーン参画に関する仮説導出
V. 事例研究:パナソニック
1.パナソニックの系列店展開
2.従来の流通系列化の意義とその変化
3.現在の流通系列化に関する仮説検討と考察
4.純粋系列店における組織化戦略
VI. おわりに
謝辞
引用文献
I. はじめに
「もはや街の電気屋さんの時代ではない」1、はたしてそのように言い切ることができる
のだろうか。結論を先取りして答えれば、その疑問に対する本研究の答えは「否」である。
近年、我が国の家電小売業界において小規模な商圏をターゲットとする地域家電店、いわ
ゆる「街の電気屋さん」が注目を集めている2。たとえば、経済産業省が 2010 年に発表し
た「家電流通実態に関する調査研究」において、高齢者世帯における電器の安全・安心の
確保、家庭における省エネ製品の普及推進などの課題に応える役割として地域家電店とい
う存在の重要性を掲げている3。このように家電小売業界において地域家電店が注目された
原因は、地域の顧客と絶対的な信頼関係を持つことによる。これまで家電小売業界は低価
格で品揃えの豊富な家電量販店が台頭し、地域家電店は駆逐されていくばかりであった。
しかし、2003 年頃の薄型テレビや DVD レコーダーなどの「高機能・複雑化した製品の発
売」によって販売の際に商品説明を要するようになり、また「人口の高齢化・核家族化の
進展」という人口動態の変化が見込まれたこと、太陽光発電やオール電化という信頼関係
を要する「高額商品の販売」が始まったことなど、地域と密着したサービスを強みとする
地域家電店の必要性が高まった4。ここに様々な思惑のなかで、地域家電店の組織化という
流れが生まれた。地域家電店に対するメーカー主宰の系列横断的な組織化、家電量販店主
宰の組織化、地域家電店主宰の組織化、という3つの新たな組織化戦略である。しかし、
それらは従来のメーカー系列店の再編を意味する。その結果、地域家電店のうち大部分を
占めるメーカーの系列店は分水嶺に立たされた。いわば、地域家電店は系列化の意義を考
え直さなければならなくなったのである。
このような点を踏まえて、本研究では家電小売業界における地域家電店の可能性を改め
て示すとともに、地域家電店の再編はどのように起こっているのか、地域家電店がメーカ
ー系列に残る意味として流通系列化の意義は何か、ということを研究することを目的とす
る。構成としては、まずは研究を行う上での前提となる既存研究の確認を行う。つぎに家
電小売業界における地域家電店の現状や課題を提示する。さらに、課題の解決となる地域
家電店の組織化の動きを整理し、実地調査を含むパナソニック系列店の事例研究を行い、
系列店の持つ強みである流通系列化の意義を検討する。研究対象の事例として、パナソニ
1
「街の電気屋さん」とは、地域密着の家電店である。詳しくは後述する。
『日本経済新聞』2011 年8月 17 日付朝刊記事、
『日経産業新聞』
、2009 年 10 月7日付記
事、
『日経 MJ』2011 年8月 19 日、同 2011 年1月5日記事、同 2010 年7月 16 日、同 2008
年5月 28 日付記事。
『日経ビジネス』2011 年7月4日号。
3 経済産業省「平成 22 年度
我が国の情報化社会における基盤整備事業(家電流通実態に
関する調査研究)報告書」
。
4
商品の研究心が旺盛でなく何を買えばいいのかわからない消費者の増加、高機能複雑化
したため操作説明を要する製品の増加、人との繋がりを求める人の増加、親子間での操作
説明機会の喪失、商品設置や宅配を希望する高齢者、高齢で出歩けない高齢者の増加など
が考えられる。山口(2009)
、清水(2011)や引用文献にあげた新聞・雑誌報道に詳しい。
2
-1-
ックを取り上げるのは、系列店政策を維持して専売を行う純粋な系列店のほとんどをパナ
ソニックが占めるためである。このように、再編下における地域家電店と流通系列化の意
義を明らかにしていくのが本論の趣旨である。
II.先行研究
1.従来の家電小売業界研究
家電小売業界に関する研究はこれまでも多くなされてきた。近年の家電小売業界に関す
る研究を二つに大別すると、一つは家電流通の大半を占めている家電量販店の台頭を中心
として考察した中嶋(2008,2010)
、斎藤(2004)らの研究、もう一つはメーカーが行って
きた「流通系列化」を歴史的に説明する中嶋(2011)、市川(2011)、大内(2008)らの研究に分
けられる。このことは、近年の家電小売業界における研究の中心は家電量販店であり、他
のチャネルは過去のものとして見られてきたということを意味する。しかしながら、研究
者の中には、崔(2004, 2011)、川上(2009)のように家電流通において地域家電店は新たな可
能性を持つと述べる者もいた。崔(2004)は、松下電器産業(現パナソニック)が系列店支援
を続けていることに注目して、
「地域に根付いた流通サービスを行う鍛え抜かれた一段の系
列小売商による復活策が講じられる可能性を秘めている」5と示唆的な予測を論中で述べた。
その後、各メーカーが系列店の販売支援施策の強化や再組織化を開始し、ヤマダ電機など
家電量販店も地域家電店の組織化に乗り出し、また地域家電店同士も組織化するなど再編
が活発に行われるようになった。川上(2009)は、この動きに関して、家電量販店の個別研究
を行う中で「系列店の社会化といった新たな現象は伝統的な流通理論の枠組みだけでは十
分に捉えられない」6と今後の研究課題として示している。
2.地域家電店における組織化/再組織化
長谷川(2009)は再編によって激変する地域家電店に注目して、家電流通の研究をさらに発
展させた。彼は、家電流通の進化を「第一期・過渡期・第二期」という3つに分けて詳述
するなかで、家電量販店が再編を迎えた第二期における地域家電店の組織化について先駆
的な研究を行った。組織化する主宰者に注目して組織化される系列店のとりうる転換手段
を5分類し、新たな流通系列化の潮流を明確に表したのである。この近年の再編下にある
家電流通について、長谷川(2010)は「家電メーカーによる地域家電店チャネルの拡大戦略/
選別縮小戦略と、家電量販店による地域家電店との補完的協同の拡大戦略が交錯する局面」
7と述べて纏めている。長谷川(2009,
2010)の地域家電店再編を体系的にまとめた研究があ
る一方で、清水(2011)や立石(2010, 2011)といった事例を考察した研究もある。清水(2011)、
5
6
7
崔(2004)、128 ページ。
川上(2009)、160 ページ。
長谷川(2010)
-2-
立石(2010)はヤマダ電機の子会社であるコスモスベリーズについて、立石(2011)は地域家電
店の共同組織であるアトム電器についての考察を行った。近年の地域家電店の再編に関す
る研究は、長谷川(2009,2010)の「従来の系列店の組織化から、地域家電店の流通に新た
な可能性が生まれる」8という立場で研究を中心にすすめたもの、清水(2011)、立石(2010,
2011)の「家電量販店主宰型チェーン、地域家電店主宰型チェーン」といった事例研究にま
とめられる。
3.再編下におけるメーカー系列の地域家電店
このように近年の家電小売業界における地域家電店についての研究は尐しずつなされる
ようになってきたが、まだまだ数は尐ない。それに加え、これらの研究では地域家電店の
組織化について示しているものの、組織化される側の従来型のメーカー系列店について詳
しく考察していない。そのため再編される地域家電店の中でも系列店について研究の余白
がある。この余白について、流通系列化の理論を援用しながら検討することで、再編下に
おける系列店の強みが明らかにできるものと考える。
III. 家電小売業界における地域家電店
図表-1 は、家電量販店と地域家電店の販売方法による違いを単純にモデル化したもので
ある。家電量販店の販売方法は基本的に低価格を武器とした大量販売であり、地域家電店
の販売方法は顧客のニーズに合わせた提案型販売に、修理や工事・説明などのソフト業務
を加えた提案サービス販売が行われている。このように家電量販店と地域家電店の販売方
法には明確な違いがある。地域家電店はこのソフト業務が高い粗利益率を生んでいる9。川
上(2009)は、大型テレビの販売の事例において「大型テレビを単体売り切り型の製品として
価格重視で販売するのか、それとも地上デジタル放送というソフトを組み込んだシステム
商品としてサービス重視で売るのか」10という表現で価格競争と非価格競争が同時進行する
近年の環境下におけるマーケティング戦略を説いている。
8
長谷川(2009,2010)
山口(2009)によれば、一般的な家電量販店の粗利益率が 18~20%、地域家電店の粗利益
率が 25%~30%前後であり、ソフト業務は原価が余りかからないため、この高い粗利益率
を生むという。
10 川上(2009)
、159 ページ。
9
-3-
図表-1 近年の家電量販店-地域家電店の対顧客販売モデル
出所:筆者作成
1.家電小売業界の現状
① 価格競争時代への突入
1980 年代半ばまでの地域家電店は、家電販売のメインチャネルであった。しかし、1990
年半ば以降、ヤマダやコジマなどの家電量販店による大量仕入れによる低価格販売が台頭
する。またインターネットの普及により、価格比較サイトで製品価格を比較することも可
能になった。このような環境下、多くの消費者は複数メーカーの製品を見比べ、価格を比
較してから製品を購入するという比較購買を行うようになった。低価格、複数メーカーの
品揃えを武器として台頭した家電量販店は、さらにこのような消費者ニーズを捉え、多く
の消費者を獲得し売上を増大した。そして家電量販店のバイイングパワーの増大により家
電メーカーはメインチャネルを地域家電店から家電量販店へと移行させた。以前は 30%以
上あった系列小売店のシェアも、パソコンの伸長や家電量販店の台頭などにより、年々シ
ェアを下げ、
1999 年度には 10%を割り、
2002 年度には 7.5%まで落ち込むことになった11。
② 地域家電店復活の兆候
減尐傾向にあった地域家電店のシェアは 2003 年度以降に、薄型テレビの市場投入により
再び上昇に転じる(図表-2)
。その理由として、①薄型テレビが非常に高価であり、地域家
電店のメインターゲットである比較的所得に余裕がある高齢層の購入比率が高かったこと、
②薄型テレビという新商品を販売する際に一人一人の顧客に対するサービスの質が量販店
に比べて高く、高度な説明・説得が必要な商品への取り組みを強化していた地域家電店は
売上をあげることができたこと、ということがあげられる。薄型テレビの成功の要因を端
11
みずほ総研(2009)『平成 21 年度 我が国の情報化社会における基盤整備事業(家電流通
実態に関する調査研究)報告書』、13 ページ。
-4-
的にまとめれば、
「高齢層の獲得」、
「説明・説得商品の販売」である。ここから地域家電店
の可能性が「高齢層」、「サービスの提供」ということにあることが考えられる。そして、
2003 年度から僅かであるがシェアが回復し、2006 年度には8%台にまで戻した。
図表-2 チャネル別売上高シェアの推移
家電・PC量販店
大型カメラ店
地域家電店
その他
41.1
38.9
37.4
34.6
31.6
30.1
29.9
29.1
28.1
8.7
5.6
8.2
6.7
7.5
8.2
7.5
9.7
7.8
10.2
7.9
11.4
8.1
12.3
7.7
12.5
7.5
12.5
7.9
12.4
43.4
44.3
45.3
45.5
47.3
49.2
49.6
49.9
50.7
51.6
42.4
出所:リック(2011)『家電流通データ総覧 2011』
、34 ページを一部修正12。
ただ、2009 年度には持ち直すものの、2007 年度、2008 年度と再びシェアが下がった。
これは薄型テレビが広く認知されるようになり、説明・説得商品でなくなってしまったた
め、価格訴求力の高い量販店に顧客を奪われてしまったことが要因として考えられる。
③ 今後の地域家電店の可能性
地域家電店を経由する家電販売流通は、シェア7~8%の世界である。川上(2009)は、
「地
域家電店は店舗の生産性も低く、系列店の黒字企業 629 社の平均では、従業員数が 8.7 人、
売上が約2億 5500 万円となっている。メーカー系列店の中には売上 30 億を超える企業が
9社(構成比 1.4%)存在するが、過半数を占める売上1億未満の系列店 338 社(構成比
53.7%)は、平均の従業員数が 3.6 人、売上高は 5300 万円に過ぎない。対する家電量販店首
位のヤマダ電機の総売上は、2007 年の決算で約1兆 7000 億円、1店舗当たりの売上高が
約 50 億円である。これは一店舗当たりの売上高に家電量販店と地域家電店では約 100 倍の
違いがある」13と指摘している。しかし、規模が小さいからといって、小規模時計店・カメ
12
図表を簡略化するため「電材・住設機器店」、
「チェーンストア」、
「ホームセンター」を「そ
の他」に含んだ。
13川上(2009)、141
ページ。
-5-
ラ店を経由する家電流通が消滅したように、地域家電店を経由する流通が、やがて消滅を
辿る完全衰退の世界とは考えられない。というのも、時計やカメラは消費者がどこで購入
しても困ることが尐なく、量販店が強みとする品ぞろえや大量販売による価格競争等の要
因がより決め手になりやすい。しかし、家電製品の多くは購入段階でも、客のニーズに合
ったものかどうかなど、店側の適切な説明やアドバイスが必要であると同時に購入後は配
達や設置・接続が必要であり、商品によっては電気工事が必要となる。さらに、使用段階
でも使い方が複雑なものは操作説明を要し、不具合が生じた場合の対応や一定期間後は安
全点検やメンテナンスなども必要である。また家電リサイクルの必要もある。地域家電店
は、大型製品の配達・設置などから始まり、アフターサービスや安全点検などで小売業者
が直接顧客の家の中へ何度も足を運び上がれる数尐ない業種である。ここに家電量販店と
の明確な差別化の可能性がある。中小商業の商店数平均成長率(▼29.7%)と販売額平均増
加率(23.6%)によれば、地域家電店は、商店数と販売額とも平均以上の増加がみられるとい
う意味で成長業種群に属し、逆の意味で衰退業種群に属す他の業種と同一の扱いはできな
い14。地域家電店は、地理的な近さにおいても、心理的な近さにおいても顔の見える信頼関
係をもとに「電器のアドバイザー」としての役割を持つ。そのため、地域家電店は高齢者
世帯における電器の安全・安心を確保し、家庭における省エネ製品の普及推進などの課題
に応える身近な家電店として、家電量販店と棲み分けた役割を持つチャネルになる可能性
がある。
2.地域家電店の現状
つぎに、地域家電店の現状について確認しておきたい。図表-3 は、1960 年代から 2010
年までのメーカー系列店の店舗数とその推移を示したものである。
主要メーカー5社の系列店の総数は、最盛期の約5万 7200 店から、2010 年現在は約3
万 900 店となり6割弱に減尐した。このような系列店総数の流れを俯瞰したとき、地域家
電店が衰退していることは疑いようもない事実である15。しかし、チャネルシェアは 2005
年から8%付近を横ばいに推移している(前掲図表-2)。地域家電店全体の減尐傾向にも関
わらず地域家電店のシェアが下げ止まっていることは、優良の地域家電店による伸長が著
しく、店舗数の減尐によって失ったシェアを補って、売上高の低下を下支えているものと
考えられる。つまり、一部の地域家電店は拡大傾向にある。家電量販店台頭という悪状況
にも関わらず地域家電店の中には家電量販店からの購入に不満を感じる顧客層の支持を得
14長谷川(2009)、87
ページ。
15従業員規模9人以下の電器店では、店舗数の長期減尐傾向に歯止めがかかっていない。商
業統計表の調査年(97 年、
02 年、
04 年、07 年)順に、
「2人以下では 28836,26363,25021,21911。
3~4人では 15757,15009,14857,12244。5~9人では 8422,7328,7028,6235」と全体的
に減尐傾向になっている。
-6-
ることに成功し、平均よりはるかに高い売上や収益を実現している店舗が存在する16。対し
て、売上や収益をあげられなかった店舗は淘汰されている17。つまり、経営が両極化してい
るのである。この急激な淘汰の波にさらされた後に残っている現在の地域家電店には、地
域家電店ならではのきめ細やかなサービス活動ができる家電量販店と差別化された店舗で
あると考えられる。
図表-3 メーカー系列店の店舗数の推移
57,200
60,000
53,050
50,000
38,200
40,000
36,940
30,900
30,000
三洋電機
三菱電機
22,200
日立製作所
20,000
10,000
25,000
80年代
90年代
17,000
10,000
東芝
26,000
18,600
18,000
00年代
2010年
パナソニック
0
60年代
70年代
出所:リック(2011)『家電流通データ総覧 2011』207 ページ、一部修正。
注:リック『家電流通データ総覧』の 2001 年版から 2010 年版のデータを平均し、00 年代
分を出して加筆した。
3.課題と解決の方向
地域家電店の抱える問題として、みずほ総研(2009)は、①人手不足、②店主の高齢化、
③地域とのコミュニケーション、④技術や経営の知識の習得、⑤オール電化・太陽光発電
への施行工事スキルなどをあげ、それらは地域店同士や専門業者との連携によって解決し
うると述べている18。坂本(2004)も、中小小売業の生き残り戦略として「激しい小売競争に
勝ち抜くためには、資金面を始め、人的な経営資源からいっても、個店の力には限界があ
16黒須(2007)
、162
ページ。
2000 万円程度のパパママ店は、メーカーからも見放されて
いるといわれる。パパママ店ならば年商 4000 万円程度に、老夫婦と若夫婦の4人体制なら
ば年商1億円程度に伸ばせるかどうかが生き残りの目安とされる。
18みずほ総研(2009)『平成 21 年度
我が国の情報化社会における基盤整備事業(家電流通
実態に関する調査研究)報告書』。
17長谷川(2010)によれば、年商
-7-
るため、中小小売業は組織化する必要がある」19という示唆的な結論を下している。現在の
家電量販店主宰か地域家電店主宰かの主体に関わらずチェーン化が行われていることは、
その示唆の延長線上にある動きと考えてもよいだろう。これらの問題は、組織化によって
解決されうる。
IV. 地域家電店の組織化
1.研究対象の明確化
地域家電店の課題の解決は「組織化」によって図られると前章で述べた。長谷川(2009)
は地域家電店の組織化について、主宰者の違いにより、以下のような分類ができるとした
(図表-4)
。
図表-4 地域家電店の組織化戦略と移行
出所:長谷川博(2009)「家電流通の進化:第 1 期・過渡期・第 2 期」
『千葉商大論叢』47 巻
1 号、86 ページ。
この5つの組織化戦略から、地域家電店の形態を①SVPG 型系列店20、②純粋系列店21、
③BFC 型系列店22、④家電量販系列店23、⑤アトム型系列店24という5つに地域家電店を分
19坂本(2004)
、362
ページ。
シャープ・バリュー・パートナー・グループ(SVPG)方式の系列店。2007 年にシャー
プが組織した。従来の流通系列化とは異なり加盟制限を緩和する一方、地域家電店とメー
カーの双方が自立した形での事業推進体制であることを明確化し、同時に系列や月商規模
の枠を越えて成長戦略に取り組む地域専門店を支援することを目的としている。シャープ
は有力商品ブランドをインセンティブとしてメーカー横断的な系列化を図った。
21 パナソニックやソニーなどの流通系列化の名残がある純粋系列店。専売率を下げ、売上
を下げるとリベートが減るため、基本的に1ブランドを中心的に販売する専売店。
22ベリーズ・フレンド・チェーン(BFC)方式の系列店。2005 年からヤマダ電機子会社の
コスモスベリーズが本格的に組織した。BFC は系列であるメーカーの商品以外の仕入れを
ヤマダ電機から行うことで、ヤマダの仕入れ値に近い価格で商品を仕入れることができる。
20
-8-
類できる25。本研究の対象としているのは②の純粋系列店である。
2.他系列主宰チェーンのメリット
本項では、純粋系列店の意義を次章で考察するため、特に他系列店主宰のチェーンに乗
り換えることで得られる地域家電店の「メリット」について考察する。
「SVPG 型系列店」は、主にシャープのブランド力のある商品の仕入れが可能になる。
加盟した場合、小売側は液晶テレビのアクオスに代表される有力ブランドの優先的な扱い
を受けることができる。また従来のメーカー系列店を外れる必要がない。
「BFC 型系列店」は、他メーカーの商品の仕入れをヤマダ電機の仕入れ値に近い価格で
仕入れることができる。二帳合制であるため、メーカー系列を外れることなく、他メーカ
ーの製品を安く仕入れることができる。
「家電量販店系列店」は、全メーカーの商品の仕入れを家電量販店の仕入れ値に近い価
格で仕入れることができる。家電量販店系列となり、商品が安定供給され、工事の受注を
請け負うことなどができる。ただし、一帳合制のためメーカー系列を外れることになる。
「アトム型系列店」は、アトム電器チェーンの FC である。個店経営の自由度はボランタ
リーチェーン(VC)に近いため、独立した経営の維持が可能である。定番品に絞った共同
仕入れによって仕入れ値を圧縮し、家電量販店と同じ価格で販売することが可能になる。
アトム本部が得たノウハウの共有もなされる。ただし従来のメーカー系列を外れることに
なる。
3.他系列主宰チェーン参画に関する仮説導出
このような組織化の動きから、系列を外れる必要として以下3つの仮説を導出した。こ
の仮定を検証することで、純粋系列店の強みを逆説的に導ける。
二帳合制のため、メーカー系列を離脱しなくてもよく、メーカー系列と家電量販店系列が
併存する。長谷川(2009)
、清水(2010)、立石(2011)に詳しい。
23 エイデンやデオデオ、ベスト電機などによるフランチャイズチェーン(FC)型系列店。
コスモスベリーズはコスモス・メンバーズ・ストアという FC 型も取る。家電量販店のバイ
イングパワーにより製品を安く仕入れることができる。業務の提携などが考えられる。
24 アトム本部が行う地域家電店の FC 型系列店である。共同仕入れによって仕入れ価格を
落として、家電量販店と同価格の商品展開を図る。地域家電店のチェーンは他にも大小多々
あるものの、全国展開するチェーンの代表的なものとして、アトム型とした。
25地域家電店の分類として、リック(2011)は、家電小売業界全体を扱う際に地域家電店を①
系列店、②混売地域家電店と2分類している。近年の地域家電店は、チャネルシェアが低
いなかで大きな再編が行われている。そのため、地域家電店に焦点を当てる際にはこのよ
うな単純な2分類は不適当である。川上(2009)や清水(2011)は①メーカー系列店、②
メーカー縦断型系列店、③家電量販系列店と3分類して扱ったが、アトム電器など地域家
電店主宰の組織化の動きを考慮していない点で不足がある。そのため、本研究では長谷川
(2009)に依った。
-9-
仮説1:「純粋系列店は品揃えに限界があるため、他メーカー製品の仕入れを望んでいる」
SVPG 型系列店や BFC 型系列店への加入メリットは系列外のメーカーの仕入れであり、
家電量販店系列やアトム型系列店も全メーカーの取り扱いを行えるというメリットがある。
このことから、系列メーカーだけの商品展開ではなく、他メーカーの商品の取り扱いを望
んでいるのではないか、という仮説を立てた。
仮説2:「純粋系列店は価格を下げるため、仕入れ値を下げなければならない」
家電量販店系列店やアトム型系列店の目的は、家電量販店への相乗りや共同仕入れによ
るバイイングパワーの増強である。このことから、純粋系列店は商品価格の仕入れ値の圧
縮が重要なのではないか、という仮説を立てた。
仮説3:「純粋系列店は後継者不在の危機を、組織化することで対処しなければならない」
純粋系列店は後継者不足に悩まされている。そのため、組織化することで人材を融通し
てもらい、後継者不足による廃業に対処するのではないか、という仮説を立てた。
V. 事例研究:パナソニック
事例研究の対象としてパナソニックを選んだ。理由は純粋系列店として、パナソニック
が一番多いメーカーであるためである。実地研究として、都心・郊外36店舗の地域家電
店を訪問した26。そして調査事例として、パナソニック系列の日の出電器自由が丘店を選ん
だ27。日の出電器自由が丘店は売上高1億 800 万円、従業員数6人、店舗面積 40 坪の規模
の店舗である28。
26
訪問した店舗の地域別の所属をあげる。
()内の数字は SPS 以外の店舗、+後の数字は
パナソニックショップ以外の地域家電店である。都心では、東京都:大田区は8(5)店
+2店、目黒区は1(1)店、渋谷区は4(4)店、杉並区は3(1)店、文京区は3(1)
店。神奈川県:川崎市は4店(2店)、横浜市は2店(1店)。郊外では、長野県:諏訪市
は6店(2店)、佐久市は3店(1店)+2店 。
27
郊外の地域家電店は、家電量販店と顧客の距離が必然的に遠くなるため、家電量販店と
顧客の家電流通の隙間を補う形で経営をしていた。地域家電店と家電量販店が直接の競合
をしているわけではないため、家電量販店に対する地域家電店の事例として不適であると
判断した。そのことを踏まえ、都心で日の出電器自由が丘店の定性調査を行った。2年前、
日の出電器自由が丘の正面にヤマダ電機自由が丘店が進出している。このため、家電量販
店に対する地域家電店を研究する対象として興味深い事例を示すものと考える。
28
パナソニックコンシューマーマーケティング LE 社首都圏 SPS 推進グループ SPS 推進チ
- 10 -
1.パナソニックの系列店展開
パナソニックの系列店展開、いわゆる流通系列化については多くの研究がある29。系列店
展開は、松下幸之助が他社系列の小売店を一軒一軒自らの足で訪ね歩き、松下製品を是非
販売してもらうよう店主達に依頼したことに始まる。「小売商・代理店・松下の三者がさら
にその関係を密にし、相互信頼の念を厚くしてゆかねばならない」30という共存共栄の精神
に基づく。パナソニックは、1932 年に製品別代理店化による卸の系列化、1935 年連鎖店制
度による卸・小売の系列化を行い31、1957 年の販社制度の導入によりナショナル会、ナシ
ョナル店会、ナショナルショップ制度を発足させ32、松下幸之助の水道哲学と共存共栄の理
念の基、流通系列化によって競争優位を築いてきた33。しかし、量販店やディスカウントシ
ームチームリーダーの鷺沼義和氏に、9月2日、自由が丘駅にて伺った話によると、日の
出電器自由が丘店の規模は系列店全店の平均より大きい店舗であるとのことだった。しか
し、系列店の中の優良店に限れば平均的な規模であると考え、優良店のサンプルとして妥
当性があると判断した。
29
参考までに、家電の流通系列化の研究には、戦前から松下が連盟店(系列小売店)を組
織して価格統制を図っていたことを指摘する尾崎(1989)の研究、各メーカーの流通系列
化に起こりに関して、三洋・松下について中嶋(2011)、日立について市川(2011)の研
究、高度経済成長の松下による流通系列化の展開を論じた片岡(1971)、新飯田・三島(1991)
の研究、またそれらを補完する形で同時期の販社制度の形成を論じた研究として孫
(1993,1994)の研究、1990 年代前半までの松下の流通系列化政策を整理した下谷(1994)の研
究、1990 年代前半における家電量販店の台頭によるメーカーのチャネル政策のシフトと系
列店の限界を指摘する崔(1997)の研究、1990 年代前半までの流通系列化を歴史的に整理し
た崔(1998)などがある。
30
松下電器産業(1979)
、131 ページ。
1930 年代、熾烈な乱売競争が行われ、ブランド内価格競争が頻発していた。松下のこの
連盟店制度は「乱売合戦に疲弊していた代理店や小売店を救済し、メーカー・代理店・小
売三者の共存共栄を図ろうとする目的」を持っていた。松下電器産業(1968)による。
32 重電機メーカーや通信・音響メーカーが家電市場に参入し、家電業界の競争が激化、乱
売と値引きが再び横行することになる。販売網の構築による適正利潤の確保を意図して、
一地域一販社制のテリトリー制、代理店への資本参加により販社制を導入した(孫
(1993.1994)を参照)
。また 1949 年に戦前の製品別連盟店を復活させるが、製品の多様化を
契機に 1952 年に「総合連盟店制度」へ変更した。1949 年に 6000 店だった連盟店の数が
1950 年代には4万店に激増した。この制度により、系列小売商は「販売製品の拡大や事務
の効率化、奨励金の支給」
、松下は「製品別・地域別販売状況などの市場情報確保」という
利点があった(下谷(1994)を参照)
。また、1950 年代、小売商を結集して「ナショナル会」
が結成、1957 年には優秀な連盟店を選別した「ナショナル店会」、同 57 年から松下製品の
取扱量が多い専売店・準専売店を選び「ナショナルショップ」とする制度を始めた。
33 連盟店を組織する際に専売率で格付けした細かな小売商援助と安売り防止のための管理
対策を講じることで強固な流通販売経路を構築した。ナショナル連盟店(専売率 30~49%)、
ナショナル店会(同 50~79%)、ナショナルショップ(同 80%超)となっていた。
31
- 11 -
ョップの台頭による地域家電店の経営悪化によって「販売量に見合った報酬を」というリ
ベートの原点に返り、ナショナル店会を解散し販促集団 MAST を発足、2003 年にパナソニ
ックは「スーパープロショップ(2008 年からスーパーパナソニックショップ:SPS)制度」
を発足させ、系列店に対する平等性から公平性への転換を打ち出した。SPS 制度は、全国 1
万 8000 店舗の系列店のうち、意欲ある前向きな店舗を重点的に支援する選択的な支援制度
である。SPS に加盟する条件として「①成長ビジョンがある、②地域密着が実現できてい
る、③小商圏作りが進み、シェアが高い、④顧客管理・客作りが綿密にできている、⑤積
極的に販促展開している、⑥後継者がいる、⑦豊富な商品知識があり、的確に伝えられる、
⑧店舗・品揃えに主張がある」34を自己申告制で達成することがあげられている。現在、パ
ナソニックは経営が二極化した系列店を選別縮小しながら、
「激しい国際競争社会の 21 世
紀を共に勝ち抜くためのパートナー」を選ぶ「平等から公平へ」という系列店政策を行っ
ている。
2.従来の流通系列化の意義とその変化
流通系列化にどのようなメリットがあるのか、ということについて先行研究を整理する。
三島(1993)は、流通系列化の効果を「メーカーにとって協力的な流通業者の確保、価格の維
持、フルライン生産システムに対応した需要量の確保、流通業者にとってメーカーブラン
ドの販売力の恩恵、リベートを含むインセンティブ・システム、ブランド内価格競争の緩
和」35であると述べた。三村(2003)は、流通系列化の目的を「非価格手段を通して、メー
カーが取引業者の行動を制約し、乱売の抑制とブランドイメージの維持、メーカーの販売
活動の協力、販売時点までの商品クオリティの管理と顧客サービスの確保」36としている。
しかし、チャネルの確保や価格の維持は、系列店のチャネルシェアが昔ほど高くない現代
では困難である。そこで、坂本(2005)は近年の市場環境から流通系列化を分析し、流通系列
化のメリットを以下の7点にまとめた。
「①系列店へメーカーのマーケティング戦略の浸透
が図れること、②同一系列店におけるシェアアップの心配がないこと、③販売割当てに対
する販売店の協力を強化できること、④系列店の経営内容を捉えられるため売上債権管理
の上で得策、⑤販売店に対する諸般の指導教育が容易になること、⑥メーカーの生産計画・
販売計画が容易になること、⑦メーカーの販売店に対する管理、統制力が強化され、メー
カーによる流通支配を確立できること」37とである。これらのメリットのために、メーカー
は系列店に対して「リベート、サポート、製品情報、看板、地区組織、ブランド力」38など
34
35
36
37
38
リック(2004)「家電流通データ総覧 2004」
、192 ページ。
三島(1993)、235 ページ。
三村(2003)
、3 ページ。
坂本(2005)、198-199 ページ。
中嶋(2008)、142 ページ。
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のいったメリットを与えているのである。
3.現在の流通系列化に関する仮説検討と考察
実地調査は 2011 年9月2日、前述した日の出電器自由が丘店にて藤田弘店長に行った。
現在のパナソニックショップの抱える問題は、①品揃えが1ブランドに固定される、②値
段が高くなる、③店主の高齢化による後継者問題、という3点である。
仮説1:「純粋系列店は品揃えに限界があるため、他メーカー製品の仕入れを望んでいる」
仮説2:「純粋系列店は価格を下げるため、仕入れ値を下げなければならない」
仮説3:「純粋系列店は後継者不在の危機を、組織化することで対処しなければならない」
上記の三つの仮説は、必ずしも系列店すべてに適当ではないことがわかった。藤田弘氏
はそれぞれ「お客様の商品選択はお店に委ねられているため、品揃えを求めていない」、
「お
客様は量販店のような価格での買い物でなく、サービスを含んだ価格ということを理解し
ている」、「複数店舗を運営しているため後継者の心配はない」ということをあげている39。
インタビューの内容をもとに考察を行った。
検討1:
「品揃え」に関して
地域家電店は売り場面積が限られているため、品揃えでは家電量販店に勝つことは難し
い。併売店として量販店と同様のラインナップを行うことは不利になると考えられる。パ
ナソニックはフルライン生産を行っているため、1ブランドの製品で顧客の需要を賄うこ
とができる。そのため併売の必要がない。また、地域家電店にとって専売店となることは、
メーカーブランドの販売力を借りた営業や、1ブランド専売による他店との差別化訴求、
またライフサイクルの早い家電商品の1つ1つに精通できるメリットがある。商品選択の
幅がないことがデメリットとして考えられるが、顧客層の大半が商品選択を求めず、全幅
の信頼をおいた店舗に委ねているため、問題がないと考えられる。
検討2:
「価格に関して」
39
補足として、藤田弘氏は「地域家電店の持つ顧客は店員一人あたり 300 人が限度」と述
べていた。理由は一人一人のサービスの質を落とすことができないためである。これは他
の地域家電店においても同様のことが考えられる。つまり、地域家電店の需要が急増して
も店舗のキャパシティ上、即座に対応はできない。店員の増員や店舗の増設などを考えて
いく必要がある。今後、地域家電店の需要が高まっても、チャネルシェアの数字として極
端に表れることはなく緩やかに上昇すると予測される。
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様々な付帯サービスを行う以上、家電量販店とは同価格にすることができない。販売価
格が恒常的に上回るため、仕入れ値の圧縮による低価格販売は収益を圧迫するばかりであ
る。Hughes (1994)によれば、低価格で惹きつけた顧客は、より安い価格のストアに惹かれ
やすくストア・ロイヤルティが低いため、値引きでは顧客との信頼関係を築けないとされ
ている。また Reichheld (1993,1996)によれば、わずかな値引きに競合店に行く顧客もいれ
ば、大幅な値引きでも動かない顧客もいるとされる。つまり、価格戦略は一定の影響があ
るものの、ロイヤルティの高い顧客層には影響を及ぼさない。そのため、価格競争に陥ら
ずにサービスの向上や周知によって、地域家電店のサービスを求めている顧客を獲得して
いく必要がある。
検討3:
「後継者に関して」
純粋系列店の中には複数店舗を運営するものもある。そのような店舗に関しては後継者
の心配がないと思われる。また複数の店舗を運営できる比較的経営に余裕のある優良店と
考えられる。しかし、小規模な純粋系列店は厳しい状況に置かれている。小規模な店舗同
士が合併することや廃業、他系列主宰の組織化戦略を取ることも可能性として考えられる。
4.純粋系列店における組織化戦略
まず、組織化戦略の欠点に関して述べる。SVPG 型については「パナソニック製品以外
を扱うためパナソニックからのリベートが減ること」
、BFC 型については「供給が安定して
おらず、また価格も極端に安いわけではなく、加盟料分が損失になること」
、家電量販店系
列については「系列化することで修理の下請化して自由な販売活動ができなくなること」、
アトム型系列に関しては、
「定番品に対する共同仕入れのため、利益を考えた際に商品選択
の幅が狭まり、売りたいものを売る形になり、顧客に適した販売が行えず満足度の低下を
招くこと」といったデメリットが推測される。そのため、パナソニックの数量リベートの
影響を受けない「極端に上か下にあるためリベートを考慮しなくてもよい」店舗が、併売
率を高めるため SVPG 型・BFC 型を志向すると推測され、仕事や顧客がない不調店舗が下
請や低価格による顧客吸引を志向して家電量販店系列やアトム型系列に乗り換えると推測
される。これらを踏まえると、純粋系列店の組織化戦略は図表-5 のように図示できる。
純粋系列店の中の優良店は他系列主宰の組織化戦略に乗る必要がない。そのため、系列
店を維持することが主流であると考えられる。また一部の店舗が併売を行うための仕入先
として、SVPG 型や BFC 型に加盟する流れもわずかにある。一方でメーカーの支援を受け
られない不調店は、家電量販店系列やアトム型系列に加盟生き残りを図ると考えられる。
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図表-5 純粋系列店の組織化戦略
出所:著者作成
VI. おわりに
本研究は、家電量販店の台頭に際して起きた地域家電店不要論に対して地域家電店の重
要性を論じるものであるとともに、地域家電店が大きく再編されようとしている中で従来
型のメーカー系列店がどう生き残るかを論じたものである。結論としては、いまだメーカ
ー系列店の果たす役割は大きいとまとめられた。本研究の成果は以下の3つになる。
第一に、地域家電店と家電量販店という業種は併存できるということを販売方法の違い
と市場動向のデータによって明らかにした。ここで地域家電店と家電量販店は、低価格志
向とサービス志向という二つの違う顧客をターゲットとしている。地域家電店が得意とす
る地域密着のきめ細かなサービスは家電量販店の業態では対応できない。そのため、高齢
化が進展する近未来の市場において、地域家電店の重要性は増加するため、地域家電店は
家電量販店による淘汰という道を辿らず、共存すると予測される。
第二に、組織化の進展は下部構造と上部構造に分けられ、メーカー純粋系列店の持続可
能な発展が推測されることを示した。組織化の進展はメーカーの支援が弱まるにつれて加
速していくと推測される。しかし活発な再編が行われているのは地域家電店としてのサー
ビス性を生かせていない不調店であり、好調なメーカー系列店は従来の衰退するという考
えに反して存続すると推測される。
最後に、メーカー系列店の持つ強みと弱みを、実地調査を含む事例研究によって明らか
にした。すなわち特にその強みについては流通系列化の理論からメーカーとメーカー系列
店の持つメリットを考察し、市場環境が大きく変化した後も残っているメーカーの各種販
売支援、メーカーブランドによる販売力恩恵、専売による差別化、リベートという強みを
明らかにした。それらの強みが、系列店が系列を維持する理由として考えられる。
今後の展望として、メーカーの地域家電店チャネルの選別縮小戦略により、次第に優良
店以外の店舗が他系列に再編されていくことが予測される。また人口動態の変化や市場の
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縮小により、家電量販店がさらに再編に乗り出す動き、地域家電店がガス業者などの他業
種と提携する動きが出現されると考えられる。本研究では、SVPG 型という新たな家電の
流通複合系列化の動きがあることについて触れ、BFC 型など他国に類をみない流通の再編
が行われていることも考慮した。本研究では純粋系列店に対する研究を優先したため、そ
れらに関する考察をまだ十分に行っていない。今後、地域家電店の動きに対してさらに詳
細な考察を行っていきたい。
謝辞
本稿の執筆にあたり、大変有用なコメントを頂いた日の出電機自由が丘店店長の藤田弘
氏、訪問先の紹介や資料を提供して頂いたパナソニックコンシューマーマーケティング LE
社の鷺谷義和氏、ご討論頂いたパナソニックコンシューマーマーケティング LE 首都圏社の
臼井清氏、便宜を図って頂いたパナソニック株式会社顧問の佐藤嘉信氏、各種資料を用意
して頂いた流通経済研究所資料室の方々、店内の拝見や質問をさせて頂いた家電店の方々
に深謝の意を表する。なお、本文の内容は全て筆者の理解の範囲内でまとめており、イン
タビューならびに事実関係に誤解があるとすれば筆者の責任である。
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