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学生における座位の人間工学的検討

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学生における座位の人間工学的検討
2008 年度 社会医学フィールド実習
学生における座位の人間工学的検討
(班員)
伊藤、石垣、北村、小橋、竹中、橋本、森田
(背景と目的)
座るという行為は当たり前に行われているが、それが身体に与える影響は非常に大きい。ヒトにと
って不適切な椅子は、不良な座位をうみだす。不良な座位は、作業効率に影響するばかりでなく、時
に腰痛や肩こり、しびれ、冷え、むくみ等の症状を引き起こす。我々は滋賀医科大学の講義室におい
て、椅子や座位が人の健康に与える影響、負担を調査し、その改善策を提案することとした。
(対象と方法)
最初に以下のような仮説を立て、それに対する調査、実験を行った。
仮説 1.現在の滋賀医科大学 2,4 年生が使う講義室の椅子には問題があり、学生はそれによる苦痛を
感じている。特に 2 年生はクッションの無い固定椅子設置の講義室を使っているため、クッ
ションのある固定椅子設置の講義室を使用している 4 年生より不満が大きいはずである。
↓
調査 1.滋賀医科大学 2 年生、4 年生への、講義中の椅子の座り心地に関するアンケート調査。さら
に 2,4 年生間の結果に対して、有意確率 5%としたχ²検定を行った。
仮説 2.クッションを使うならば、厚いクッションであるほど、座り心地が改善される。
↓
調査 2.X-sensor medical を用いて、A講義室で班員 2 名を対象とした座圧分布の測定(クッション
無し、厚さの異なる 3Dネット構造のクッション 3 枚を用いた場合、一般的に売られているク
ッション 3 枚を用いた場合。)
仮説 3.学生にクッションを使用させるだけで、座り心地は改善されうる。
↓
調査 3.滋賀医科大学 2 年生に対しての、キャンパスクッション(3Dネット二層)の効果に関するア
ンケート調査(学生 26 名に実施)
また、座位に関する文献調査も行った。
1
(結果)
1.2,4 年生へのアンケート調査(回答は、2 年生 60 人、4 年生 67 人)
・ 「これまでに、講義中に腰や肩、お尻が痛くなったことがありますか?」という質問に対して、2
年生の「頻繁に」、「時々」と答えた割合が 87%で、4 年生の「頻繁に」、「時々」と答えた割合が
74%と多く、これらに学年間の差は見られなかった(p=0.05)。
たまに.
10%
ほとんど
ならな
い. 3%
2年生
頻繁に.
48%
ほとんど
ならな
い. 5%
たまに.
21%
頻繁に
頻繁に
時々
時々
時々.
39%
4年生
頻繁に.
38%
たまに
たまに
時々.
36%
ほとんどならない
ほとんどならない
・ 「主に痛くなるのはどこですか?(複数回答可)」という質問に対して多かった答えは、2 年生で
は、「お尻」
(52%)、「腰」(35%)の順に多く、4 年生では、「腰」(38%)、「お尻」
(37%)とい
う順に多かった。
「お尻」
が痛いという人に関しては 2 年生と 4 年生の間で差が見られた(p=0.05)。
その
他. 2%
足. 3%
肩. 8%
その
他.
2%
足. 10%
2年生
4年生
お尻.
37%
肩. 13%
お尻.
52%
お尻
腰
肩
足
その他
腰. 35%
腰. 38%
お尻
腰
肩
足
その他
・ 「講義を受けていると足やお尻がしびれることはありますか?」という質問に対して、2 年生の
78%、4 年生の 67%がしびれたことがあると答えた。
ほとんど
ならない.
22%
頻繁に.
20%
2年生
ほとんど
ならない.
32%
時々. 33%
たまに.
25%
頻繁に
時々
たまに
ほとんどならない
頻繁に.
14%
4年生
時々. 24%
たまに.
30%
2
頻繁に
時々
たまに
ほとんどならない
・ 「講義 1 コマの間に座りなおす回数はどのくらいですか?」という質問に対して、2 年生の 66%
が 4 回以上と答えており、4 年生でも、78%が 4 回以上と答えた。
10回以上.
0回. 0%
14%
2年生
10回以上.
25%
0回. 2%
1~3回.
22%
4年生
1~3回. 32%
0回
1~3回
4~9回
10回以上
4~9回. 54%
0回
1~3回
4~9回
4~9回.
51%
10回以上
・ 「普段、クッションをしくなどの対策をしていますか?」という質問に対して、2 年生の 30%が
「はい」と答えた。一方、4 年生で「はい」と答えたのは 6%であった。2,4 年生の間で差が見
られる(p=0.05)。
はい. 6%
2年生
4年生
はい. 31%
いいえ.
69%
はい
いいえ
いいえ.
94%
はい
いいえ
・ 「講義室の椅子のどこが問題だと思いますか?(複数回答可)」という質問に対して、A 講義室を
使用している 2 年生は、最多が「硬い」で 51%、次いで「狭い」が 34%であった。一方、臨床講
義棟を使用している 4 年生は、最多が「狭い」で 40%、次いで「硬い」が 39%であった。
その他. 1%
低い. 3%
高い. 0%
背もたれが
小さい. 11%
2年生
その他. 4%
低い. 4%
高い. 1%
背もたれが
小さい. 12%
硬い. 51%
狭い. 34%
硬い
狭い
背もたれが小さい
高い
低い
その他
狭い. 40%
3
4年生
硬い. 39%
硬い
狭い
背もたれが小さい
高い
低い
その他
・ 「講義室の椅子を変えるべきだと思いますか?」という質問に対して、2 年生の 74%、また 4 年
生の 84%が「変えるべき」と答えている。この質問に対する学年間の差は見られない。
変えな
いでよ
い. 26%
2年生
変えな
いでよ
い. 16%
4年生
変えるべき
変えないでよい
変えるべき
変えないでよい
変える
べき.
74%
変える
べき.
84%
2.座圧分布の測定
・ クッションの厚さと座圧分布の分散の程度は、必ずしも比例しなかった。
・ 主観的な評価を加えるなら、平らな形状のものが座り心地が良かった。
・ 座圧の経時的変化をみるなら、分厚いクッションの方が、座圧の分散された状態をより長時間保
つことが出来る。
クッション無し
薄いクッション
中くらいの厚さのクッション
最も厚いクッション
3. クッションの効果に対するアンケート調査
・ 「クッションを使ってみて座り心地は改善されましたか?」という質問に対して、
「非常に楽にな
った」が 15%、「多少楽になった」が 77%であった。
・ 「普段座っていて感じる痛みやしびれは、クッションにより改善されましたか?」という質問に
対して、非常に楽になった」が 12%、「多少楽になった」が 76%であった。
・ 「今回使用したクッションを、これからの講義でも使用したいと思いますか?」という質問に対
して、「ぜひ使用したい」43%、「使用しても良い」42%であった。
4
(考察)
[それぞれの調査結果に対する考察]
1.2,4 年生へのアンケート調査
・ アンケート調査の結果、学生の多くは講義中に座ることによる苦痛を感じている。
・ ただし、2,4 年生の間で、不満を抱く割合に有意な差は無かった。実際に対策をしているかどう
かという面でのみ差が見られる。
・ 学年を超えた意見として、椅子を変えてほしいと学生は感じている。特に椅子が「硬い」ことと、
席が「狭い」ことが問題である。
2.座圧分布の測定
・ 座圧分布が分散するほど、クッションの効果が高いと考えるならば、
「使用するクッションが厚い
ほど座り心地が改善される」という仮説はなりたたない。
・ 座りやすさを考えるなら、平らで、座る者がバランスを取りやすいクッションが、より理想的で
ある。
3.クッションの効果に対するアンケート調査
・ 調査の結果から、仮説の通り、クッションを敷くだけでも座り心地は大きく改善されうることが
分かった。
4. 座位に関する文献調査
ⅰ)固定座位姿勢における冷え、腰痛の発生原因
長時間座ることにより生じる、手足の冷えや痺れ、腰痛の原因について調べた。その結果、筋肉ポ
ンプ効果、椎間板ポンプ作用の低下によるものであることがわかった。体を動かさず同じ体位を取り
続けると、筋肉ポンプ効果が弱まり、筋血流量が減少し筋肉性腰痛、冷えを生じる。そしてまた、同
一の座位姿勢が継続すると、椎間板ポンプが作用せず、酸素や栄養の拡散が阻害され椎間板の栄養障
害が生じる。その結果、椎間板が早く劣化するため椎間板障害(腰椎ヘルニア)の原因となる。
ⅱ)座位変化における椎間板内圧と背腰筋負担の変化
一般的に良い姿勢と言われているのは、脊椎を直立した座位姿勢であるが、それは立位のほうが座
位に比べ椎間板内圧が低いという実験結果からである。しかし、座位姿勢における快、不快感には、
椎間板内圧だけではなく背腰筋の負担が大きく関係している。なお椎間板内圧は、椎間板損傷や腰痛
の危険の判断指標になる。座位姿勢における椎間板内圧と筋負担を同時に調べた実験では、背もたれ
の角度が大きいほど両者とも軽減されるという結果が出ている。そこで、結論として椎間板と筋活動
にとって最適な座位姿勢は傾き 110 度から 120 度の背もたれに上半身をあずける姿勢であることが示
される。ちなみに、厚さ 5cm程度の腰部パッドを用いると、腰椎において立位に近い前弯状態が得
られるので、これも効果的である。
5
[調査方法に関する反省]
発表の際に、クッションによる座り心地の改善効果の調査に関して、Case-Control 手法を使用して
いないのかという指摘があった。確かに、クッション使用群とクッション未使用群を同時に調査すべ
きであったが、クッション自体の枚数が少なく、使用群と未使用群に分けて同時に調査することはで
きなかったので、未使用群に対する考察はできなかった。
これが今回の調査における最大の反省点である。
[発表における反省]
発表の際に、
「実際に体が痛くなったときに出来る簡単な対策は何か無いのか」という質問を受けた
が、これに対して十分な回答が出来なかったので、ここで述べておきたい。対策としては、①姿勢を
変える回数を増やすことが考えられる。先の考察で述べたように、姿勢を変えることによって椎間板
ポンプ作用や筋ポンプ作用をよりはたらかせることができるからである。もう一つの簡単な対策とし
て、②背もたれに上半身をあずけることが考えられる。上半身の体重の大部分を背もたれにあずける
ことによって、椎間板と筋肉(背腰筋)の負担を大きく減らすことが出来るからである。
また、
「座圧分布の画像で、ふちの辺りが黄色くなっているものがあったが、それによる影響は無い
のか」という質問を受けた。これに関しても補足したい。確かに座圧分布の経時変化において、大腿
下部の圧が高くなっているものが見られた。これは、クッションの縁による足の圧迫が原因であると
考えられる。これにより大伏在静脈、副伏在静脈、小伏在静脈などが圧迫され、その結果血流が阻害
され、冷えや浮腫が生じる可能性があると考えられる。
(結論)
今回は滋賀医科大学の学生を対象に調査を行った。学生の大半は、いたって健康であるにも関わら
ず、不適切な椅子による苦痛を感じている。車椅子使用障害者や女性事務職員にとっては、座るとい
う行為の影響がさらに大きいと推測でき、健康について高い見識をもつことが求められる。私たちは、
座るという行為の健康への影響について、もっと高い認識をもつべきである。
滋賀医科大学の講義室では、椅子を変えることで座位が改善され、学習効率が上がるかもしれない。
(謝辞)
アンケート調査にご協力いただいた医学科 2,4 年生の皆さん、ならびに、ご指導していただいた
辻村先生に、この場をお借りして感謝の意を申し上げます。
(参考文献)
・ 「オキュペーショナル・エルゴノミックス」,Etienne Grandjean 著,中迫・石橋訳,ユニオンプ
レス社
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