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若手教員のための保健体育科指導資料集

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若手教員のための保健体育科指導資料集
学校体育指導資料 第45集
若手教員のための保健体育科指導資料集
若手教員(初任者)における資質と指導力向上に向けた取組
∼チェックシートの活用と授業実践について∼
高等学校編
平 成 28 年 3 月
茨城県教育庁学校教育部保健体育課
はじめに
知・徳・体のバランスのとれた「生きる力」を育むことを目指した学習指導要領が年次
進行により実施され,早4年が経過しようとしております。
各学校におきましては,生涯にわたって健康を保持増進し,豊かなスポーツライフを実
現することを目指し,授業の工夫・改善に努めるなど,学習指導の充実が図られてきたこ
とと思います。
今後の体育・保健体育の方向性としては,幼児期に育まれた健康な心と体等の基礎の上
に,小・中・高等学校段階を通じて育成すべき資質・能力を明確化し,バランスよく育成
していくとともに,2020 年に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契
機としながら,各学校段階を通じて運動やスポーツへの関心を高め「する,みる,支える」
などの多様なスポーツとの関わり方を楽しめるようにしていくことが求められておりま
す。
このような状況を踏まえ,本年度は,これからの保健体育教育を担う若手教員の資質・
指導力の向上をねらいとして,大学の有識者の方々や各学校のベテランの先生方にも協力
を得て,本指導資料集を作成しました。
本指導資料集は,器械運動,陸上運動,球技の領域における授業実践や保健体育科教員
のためのチェックシートを提案するなど,若手教員の指導力の向上を目指すとともに,さ
らには,生徒が楽しく,意欲的に運動に取り組むことができるような事例も紹介しており
ます。
各学校におかれましては,指導に当たって心構えやチェックシートを活用するとともに,
授業の実践例を参考にしながら,生徒が運動の特性に触れる楽しさを味わい,確かな知識
や技能が身に付けられるよう,各校の実態に合わせながら本書を活用し,授業を実践して
いただきますようお願いいたします。
さらに,運動した結果として体力向上が図れるような授業づくりの工夫や,学校教育活
動全体を通じた体力つくりの推進も併せてお願いいたします。
最後になりましたが,本資料の作成に献身的にご協力いただきました作成協力委員の皆
様に,心から御礼申し上げます。
平成 28 年3月
茨城県教育庁学校教育部保健体育課長
直江 克也
:::::目次::::::::::::::::::::::::::::::
はじめに
若手教員(初任者)における資質と指導力向上に向けた取組
~チェックシートの活用と授業実践について~
 【チェックシートの作成にあたり】……………………………………………
【保健体育科教員に望まれること】
【保健体育の授業で求められる指導力】
【先輩の先生方はどのようにして授業実践力を高めているのか】
【チェックシートを活用し発展した授業実践に向けて】
1 若手教員(初任者)に向けて……………………………………………………
2 授業実践……………………………………………………………………………
(1)「B 器械運動(マット運動)」
(2)「C 陸上競技(長距離走)」
(3)「E 球技」
①ゴール型(サッカー)
②ネット型(テニス)
(4)【授業実践でのひとこま】
(5)【学習環境とその活用】
3 チェックシートと活用方法………………………………………………………
資料1.体育教員のためのチェックシート
資料2.体育教員のためのチェックシート
【チェックシート活用の仕方】
4 授業実践例…………………………………………………………………………
(1)「B 器械運動」指導案
(2)「C 陸上競技(長距離走)」指導案
資料:持久走(集団走)学習カード
(3)「E 球技」ゴール型:サッカー
資料:サッカー(コントロール・パス)
(4)「E 球技」ネット型:テニス
資料:種目テニス【ワークシート】
5 チェックシートの活用事例………………………………………………………
(1)チェックシートの活用事例
<回答例から>
(2)授業実践例(教師の感想より)
①実践例(初任者A教諭の例)
②授業を終えての感想
(長距離,サッカー)
6 資料:学校における体育・健康に関する指導を通して………………………
【運動・スポーツ活動における指導上の留意事項】
7 引用・参考文献,その他 ………………………………………………………
1
7
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15
18
28
32
33
若手教員(初任者)における資質と指導力向上に向けた取組
~チェックシートの活用と授業実践について~
【チェックシートの作成にあたり】
平成 24 年8月 28 日,文部科学省が組織する中央教育審議会は,教職員生活の全体を通
じた教員の資質能力の総合的な向上方策について,学校が抱える多様な課題に対応し新た
な学びを展開できる実践的な指導力を身に付けるためには,教員自身が探究力を持ち学び
続ける存在であるべきであるという「学び続ける教員像」の確立を盛り込み,真の意味で
「学び続ける教員像」を具現化していくための政策を推進する答申がなされました。
こうした国・県の施策・動向を踏まえ,平成 27 年度に組織した当委員会(学校体育推
進委員会)においては,特に若手保健体育科教員(初任者)に焦点を当て,教員としての
資質及び授業における指導力の向上を目指し,授業における指導内容及び指導方法の充実
を図ることをねらいとして,保健体育科教員としての心構えに関する確認事例等を「チェ
ックシート」としてまとめ,提案することにしました。
若手教員(初任者)研修については,教育公務員特例法(昭和 24 年法律第 1 号)第 23
条の規定に基づくものであり,現職教員研修の一環として1年間の研修を実施し,基礎的,
基本的な資質能力の向上を図ることとされています。
本県の教育委員会では,実践的指導力と使命感を養うとともに幅広い知見を得させるこ
とを目的として,採用1年次の教員(初任者)に加え,採用2年次の教員(2年次教員)
及び,採用3年次の教員(3年次教員)に対して実施されています。2年次教員に対して
は,主に授業力の育成を図り,さらに,3年次教員に対しては,課題対応力の育成を図る
ことを目的として,それぞれ1年間の研修が実施されています。
更に,学校教育部保健体育課では,保健体育科教員の授業における指導力及び資質の向
上に併せ,学校における体育・保健体育の授業,及び運動部活動の充実・改善を図ること
をねらいとして,様々な体育授業に関する実践事例等について,学校体育指導資料集とし
て毎年作成してきています。
若手教員(初任者)の先生が,所属する学校の管理職及び全教職員などから様々な指導
及び助言による校内研修や,茨城県教育研修センターの主催する研修会,校外における各
ちゅうちょ
(授
研修などの内容に加え,
実際の授業における指導場面において 躊躇 することなく指導
業実践)することができるよう,本篇の内容を参考とされ,自らの保健体育科の教員とし
ての資質や授業に対する留意点について,自ら確認していただければと願い,本資料を作
成いたしました。
―1―
【保健体育科教員に望まれること】
一般に,教員は自身の専門教科の授業を行うだけでなく,同校の同僚,先輩教員,生徒,
保護者との人間関係はもちろんのこと,教員としての生きる姿勢や普段の日常生活に際し
て様々な場面における言葉かけや行動,また,身の回りの多くの方との良好な人間関係の
構築など,様々な場面に応じて適切な対応ができるとした,コミュニケーション能力を身
に付けていることが必要不可欠と考えられます。
 さて,茨城県教育委員会の求める教師像については,下記のように記されています。
○教育者としての資質能力に優れた,人間性豊かな教師
○使命感に燃え,やる気と情熱をもって教育にあたることができる活力に満ちた教師
○広い教養を身に付け,子どもとともに積極的に教育活動のできる指導力のある教師
○子どもが好きで,子どもとともに考え,子どもの気持ちを理解できる教師
○心身ともに健康で,明るく積極的な教師
(平成 27 年度教員ハンドブックより)
こうしたことを踏まえ,教員としての成長をめざし自己を振り返るため,本書「チェッ
クシート」の活用をお勧めします。自己の言葉かけや行動,心構えなどについて適宜,セ
ルフチェックしながら見直しを図る(再確認)とともに,将来,望ましい保健体育科教員
として,自己研鑽を繰り返し行いながら,様々な経験と実践を積み重ねていくことこそ大
切であると考えます。
【保健体育の授業で求められる指導力】
保健体育科教員は,科目「体育」と「保健」双方の授業を担当します。これらの授業を
実施するにあたって、必要な授業時間数や教育課程を示したものが文部科学省より発刊さ
れている学習指導要領です。
学習指導要領は,学校教育法施行規則第 84 条に「高等学校の教育課程については,こ
の章に定めるもののほか,教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する高等学校学
習指導要領によるものとする」とあるように,学習指導要領は,法律でその内容の法的拘
束性が明示されています。
授業を行う以前に,学習指導要領の趣旨を踏まえ,教科の目標,科目「体育」
「保健」
の目標について十分に理解しておきましょう。
ただし,学習指導要領をさらに詳しく説明している学習指導要領解説に示されている指
導内容はあくまでスタンダードであり,具体的に一つひとつの授業で生徒に身に付けさせ
るべき学習成果をどのように設定していくか,それらをどのような活動を通して身に付け
させるか,また,単元の設定時間数をどれくらいとるか,更に,どのような領域をどのよ
うに選択させるかなどは,学校或いは一人ひとりの教員に任されています。いわば,一つ
ひとつの授業における教育的効果は,目の前にいる生徒の能力や特性などの実態に応じて,
―2―
より良いものを築きあげた上で実施しなければならないことになります。
では,
「指導力」とは,どのような能力で構成されるものなのでしょうか。
教員の指導力に関する様々な事例集,研究著書が数多く出版・刊行されていますが,大
きくは教科の指導内容に対する深い理解力と,その内容をより効果的に生徒に学習させる
力に分けることができると思われます。これらは当然「知っている」だけでなく,それら
の「知識を活用して実際に指導する力」が求められていることは言うまでもありません。
はじめに,以下に示す各問いについて,いずれも6段階(6:かなりそう思う,5:そ
う思う,4:どちらかといえばそう思う,3:どちらかといえばそう思わない,2:そう
思わない,1:全くそう思わない)程度で,自己を振り返ってみると良いと思います。
<教授内容知識>
1.運動の理解力
1)指導する技能の行い方を理解している。
2)指導する技能のポイントやコツを理解している。
3)指導する技能に関して生徒がつまずきやすいポイントを理解している。
4)指導する技能の習得過程(順序)を理解している。
2.教材・教具の構想力
1)全ての生徒に学習機会を保証する教材を用意することができる。
2)生徒の運動意欲を喚起する教材を用意することができる。
3)生徒の人間関係に配慮した教材を用意することができる。
4)運動技能習得のポイントやコツが理解しやすい教具を用意することができる。
<教授方法知識>
3.教授技術
1)授業中に準備や後片付けを生徒がスムーズに行えるよう指示することができる。
2)授業中に活動の内容を分かりやすく説明することができる。
3)授業中に生徒に集中して話を聞かせることができる。
4)授業中に生徒に積極的に褒めたり適切な助言を行ったりすることができる。
4.人間関係構築力
1)授業で生徒に運動の楽しさを味わわせることができる。
2)授業中にユーモアを交えながら生徒と関わることができる。
3)授業中に起こっている生徒間の人間関係の変化に気付くことができる。
4)授業中に生徒の態度が改まるよう叱責することができる。
―3―
どうですか?
「かなりそう思う」を6点,
「全くそう思わない」を 1 点として,合計得点を算出して
みるとともに,それぞれの各問いに対して,どれくらいできる自信がもてますか?
上述した項目は,生徒に受けた授業を良かったと思うかどうかを問う時に,生徒が高く
評価する授業を行っている先生ほど高い得点を得る傾向にあった項目です。
ぜひ初任者の先生は,これらの項目を指標として自分自身の授業実践力を高めるために
活用してください。
教員として採用されて間もない頃は,高い得点が取れないのはごく当たり前のことです。
先輩の先生方も,日頃の授業実践をより良くしようと努力していく中で,徐々に上述の項
目に対する保健体育科教員としての力量を高めているのだろうと考えます。
【先輩の先生方はどのようにして授業実践力を高めているのか】
初任者と言われる時期を超え,中堅教員と呼ばれる時期に差し掛かっている保健体育科
の先生に対して,初任期を経て「どのようなことができるようになったのか(力量形成)
」
,
「なぜそれらのことができるようになったのか(影響要因)
」について聞き取り調査を行
いました。
その結果について,以下,各先生の言葉を示しながら,初任期に求められる授業の力量
形成とその影響要因についての一部を紹介したいと思います。
<初任期の苦労>
教職歴3年 男性教諭
「最初の年はとても悲惨でした。体育では生徒を楽しませる自信もあったし,できるだ
ろうという自信もある程度あったのですが,自分の授業中,自分が担任しているクラス
の生徒がある問題を起こしてしまい,このことで大問題となってしまったことがありま
す。このことでは,多数の先生に多大な迷惑をかけてしまいました。
問題となった原因の一つには,自分自身に規律指導の力が不足していたからなのです。
授業も最初の頃は良かったのですが,次第に規律が乱れ始め,生徒が僕の言うことをあ
まり聞かなくなってしまったのです。
」
教職歴4年 女性教諭
「正直,一年目は辛かったです。大多数の生徒は(私の授業を受けていて)ほんとにつ
まらなかっただろうと思います。正直,生徒には悪いなぁとずっと思っていました。
―4―
特に,保健の授業では,体育と違って座学の講義中心となることが大部分で・・・。
体育の授業は,保健とは違って,話す場面が短いのですが,保健は約 50 分間,生徒の
前に立って話さなければならないので・・・。
」
<初任期の力量形成>
教職歴4年 男性教諭
「自分の場合は,採用された1年間は職場の先生に恵まれたと痛感します。毎日が少
しでも先輩教員に近づけるようになるため,いろいろと勉強させてもらいました。
(まず)ある競技種目で日本代表コーチを務めている先生がいらっしゃって,その先生
が生徒に対して話す機会を間近に見て得ることができたことは,今となってみれば,大
きな力になっているものと思います。僕らは,言葉で伝えることにより,生徒の理解力
を高め,できるようにさせることが仕事なので,話のつなぎ方とか話す順序などといっ
た,正に伝える力は,多くをその先生から学んだものと思います。
また,生徒の面倒見の良い別の先生がいらっしゃって,その先生は,
「いつでも授業
を見に来ていいからね。
」と言ってくれました。その先生は,特に保健の授業で生徒に
対して,上手に発問を仕掛け,多くの生徒から活発な意見を引き出したりしていました。
その授業形態は,対話っていうか,生徒とうまく意見のやりとりしながら,とても楽
しそうに授業をされていたので,授業の流れっていうのはこうやればいいのかと,自分
なりに取り入れたりしていました。
こんな感じで,日々試行錯誤を繰り返す中,日常生活での生徒との対話や,授業にお
いては,教員の適切な「発問」の大切さについてよく考えるようになりました。
体育の授業では,うまくいかないことはほとんどなかったのですが,自分が今まで専
門としてきたサッカー以外の種目では,高度な技術指導の仕方に躊躇することが多く,
そんな時には,部活動の顧問教員に直接聞いたりして参考にしてきました。
また,保健の授業に関しては,生徒に対して,より分かりやすく説明できるための具
体的な方法について,先輩教員によく質問しています。
」
教職歴4年 男性教諭
「昨年から体育主任を任されるようになり,実践報告書や様々な事業計画書などを書か
なきゃいけなくなったということもあり,自主的に各地で開催される様々な研修会,研
究会などに参加しています。
この前も,実技指導者講習会に参加したのですが,卓球の指導については,とてもた
めになりました。単にゲームだけではなく,生徒が互いに楽しめるとともに運動量にお
いても十分に確保できる授業紹介がとても参考になりました。研究会で発表される先生
の実践報告や実技講習会で情報を得ることは大事だと思っています。
学校の中だけではなく,学校外での様々な情報を得ることは大切なんじゃないかなっ
て思います。
」
―5―
教職歴4年 女性教諭
「同僚の先生から,それぞれが行う授業について互いに意見交換する機会はなかったの
ですが,初任者研修,二年次研修などの研究発表の場で話し合うことができました。ま
た,教育委員会指導主事による学校訪問では,教材研究について協議したりすることが
できました。
また,体育実技に関する副読本や授業実践モデル集など,初任者である一年目には気
付きませんでしたが,資料室にある書籍は結構役に立つことがわかり,授業以外などで
も十分に活用できる話題が見付かることもよくあります。
保健については,兵庫県神戸市内の学校に勤務する先生のホームページ上で,授業に
ついて公開しているのが好きでよく見ています。全てを使うことではありませんが,発
問の仕方とか,板書の仕方,資料に使うイラストなどを参考にしています。
また,各研修会で得られる動画などはタブレットに保存しておき,授業で活用したり
しています。
」
以上のように,多くの教員は採用されてからの一年目には苦労しています。むしろほと
んどの先生がそうであると思います。
実技を伴う体育では,教員が思い描くように技能が上達しない生徒は多数を占めるでし
ょう。また,自身との年齢差が少ない生徒に対しては,規律指導の効果が上がらないこと
も多いと思います。教育的に厳しい指導ができても,個に応じた指導力が不足していれば,
生徒は教員に理解を示さないものです。また,保健では,生徒に対して話を聞く態度を育
成することなどは容易ではありません。
これらの状況を克服し対処できている先生は,校内研修会はもちろんのこと,職場の先
輩教員などからの指導・助言から多くを学んでいるようです。
また,初任研や二年次研,三年次研などの基本研修だけでなく,各地で行われている研
究会などに自主的に参加するなど有益な情報を取り入れることで,授業における指導法を
獲得しているようです。
ますます情報化が加速している現代社会では,優れた実践に関する様々な情報がインタ
ーネット上で,常時公開されているので,それらを活用することも有効な方法の一つと言
えます。
一方で,情報の入手だけでなく,自らの授業を研修会等で発表し,第三者から意見や助
言をもらう事は,教員としての力量形成に大いに役立つと思います。
力量アップを目指す,自ら教員としての努力を怠たることなく,生徒のためにも,常に
学び続ける教員であってください。
そう遠くないうちに,みなさんが後輩教員を育てなければいけない時期が来るのですか
ら。
―6―
【チェックシートを活用し発展した授業実践に向けて】
体育・保健体育の授業においては,文部科学省が発行する「高等学校学習指導要領(平
成 21 年3月告示)及び教科に関する解説書(高等学校学習指導要領解説 保健体育編・
体育編,平成 21 年 12 月)
」の趣旨を十分に踏まえ,学校を取り巻く地域の特性と,学校
の特色,生徒の実態に応じた年間指導計画の下に実施されることになります。
特に,生徒の体力の実態に色濃く影響を受ける保健体育科の年間指導計画,及び単元計
画は,入学する生徒の義務教育段階の運動経験が大きく左右すると言えます。
それぞれの学校が有する体育施設の現状や,保健体育科を構成する教員の専門性を基盤
とする特色ある授業計画が望まれるものです。
また,設置している部活動などの状況を踏まえるとともに,特色ある体育的行事の設定
や運営も大いに期待されるところです。
********************************************
1. 若手教員(初任者)に向けて
********************************************
保健体育科の教員は,上記に述べたように体育・保健体育の授業実践のみならず,学校
の職員で組織する,校務分掌や各種委員会,学年,学級など,様々な組織を兼務するとい
った,広範な業務を担当しなければなりません。
生徒にとっては,若手教員もベテラン教員も同じ「先生」
若手教員であっても高度の専門的な能力が要求されています。
平日は,学校組織の一員として,また学級(クラス)担任としての業務を並行して行い,
複雑・多様化する業務に加え,学校を取り巻く地域や保護者の対応,各種提出物の作成な
どの業務に対応しています。加えて,運動部活動の顧問としては,放課後の練習をはじめ,
土日や祝祭日に開催される試合への引率,長期休業を利用しての他校との合同練習会や合
宿など,顧問としての業務は年間を通じて多種多様であり,さらには,県外での研修会へ
の参加,試合の引率や大会競技役員としての業務を並行して行う場合も多々あります。
―7―
*******************************************
2. 授業実践
********************************************
茨城県学校体育推進委員会(以下「委員会」とする)では,委員が自ら自校において行
っている実践を踏まえ,若手教員(初任者,以下「初任者」を省略する。
)を対象とした
「チェックシート」に盛り込む内容について検討しました。
これらの授業実践を下記に紹介していくとともに,授業における事前の準備物,単元の
導入段階における工夫点,使用する教材,授業に適した学習形態,運動が苦手な生徒に対
する手立て,安全面に配慮すべき事項などについて,簡略化して表にまとめたので,今後
の授業において参考にしてください。
(1)
「B 器械運動(マット運動)
」
高等学校学習指導要領及びその解説(保健体育・体育編)に記載されている,
「B器
械運動」
,
「1 技能(ア)
」
「マット運動では,回転系や巧技系の基本的な技を滑らかに
安定して行うこと,条件を変えた技,発展技を滑らかに行うこと,それらを構成し演
技すること」をねらいとして授業を実践しました。
発表会の演技部門では,自己の技能レベルに合った技を選択して発表させました。
種目名と技の順番,難易度の設定,得点や採点,合計点数などを書き込むワークシ
ートを作成し,生徒が自ら書き込むことで,採点の仕方や競技会の運営の仕方なども
学習させました。
教員:「技能を高めるためには,繰り返す練習も大切だけ
ど,まさかの“けが”をしないための心配りも大事!」
<安全面における約束事①>
<安全面における約束事②>
―8―
<安全面における約束事③>
【表:器械運動における授業(マット運動)実践における事前の確認事項】
事前準備
・グループ名簿の作成,ワークシートの作成
導入段階
・模範演技を行うとともに,模範映像を視聴させ一連の技を確認
教
具
・マット(練習用・発表用)
※発表用は幅が広いロングマットを使用,ワークシート
方
法
・発表会 (演技者,採点者,運営係などの役割分担をする)
苦手な生徒
への対応策
・自己の技能レベルに合った技を選択(難易度をA~Eに分類)
・教員と生徒の双方から動きを補助
・マットの硬さや斜度などの工夫
健康・安全
面への配慮
・安全確認,運動の観察,使用する用具の点検
(2)
「C 陸上競技(長距離走)
」
高等学校学習指導要領及びその解説(保健体育・体育編)に記載されている,
「C陸
上競技」
「1 技能(ア)
」
「~(略)長距離走では,ペースの変化に対応するなどして
走ること」をねらいとして授業を実践しました。
長距離走では,比較的多くの生徒が苦手意識を抱いている実態に対して,生徒の興
味・関心を高めるために導入段階においての工夫が必要であると考えます。当委員会
では,視聴覚教材を活用したオリエンテーションを実施することにより,長距離走の
得意な生徒だけでなく,苦手意識をもつ生徒が,少しでも興味・関心を高めた上で授
業に参加することができるよう,場の工夫をしました。
教員:「単に独りでもくもくと走るのではなく,グループで励まし合っ
て走ろう。走行中に仲間の呼吸が聞こえるかな?」
<ICT機器活用の様子>
<集団走で走る生徒の様子>
―9―
<グループ発表の様子>
【表:陸上競技における授業(長距離走)実践における事前の確認事項】
・グループ名簿の作成,ワークシートの作成
事前準備
※新体力テスト20mシャトルランの結果を参考資料として活用し,同
等の技能レベルの集団になるようにグループ分け
・プロジェクターで,箱根駅伝大会の映像を映し出し,様々な説明を加え
導入段階
ることにより興味・関心の高揚を促した(教室にて)
・箱根駅伝大会の映像,新体力テスト個人記録票,PC,プロジェクター,
教
具
デジタルタイマー,ストップウォッチ
教
材
苦手な生徒
への対応策
健康・安全
面への配慮
・集団走(走能力別でのグループ走)
・自己設定したペース配分や仲間のペースに応じたランニング
・仲間と励まし合い,助け合いながら完走できるようグループに指示
・AED(自動体外除細動器)の準備,出席確認時の健康観察,
間(ペア)による健康観察(待機時など)
,運動の観察
(3)
「E 球技」
① ゴール型(サッカー)
高等学校学習指導要領及びその解説(保健体育・体育編)に記載されている,
「D
球技」
,
「1 技能(ア)
」
「ゴール型では,状況に応じたボール操作と空間を埋めるな
どの連携した動きによって空間への侵入などから攻防を展開すること」をねらいと
して授業を行いました。
チームごとの練習においては,相手がいない状況でのチームだけのボールコント
ロール,次に相手がいる状態でのボールコントロールというように,技能の上達段
階を踏まえ徐々に試合形式に近づく学習ができるよう,内容の体系化を踏まえた授
業となるよう工夫しました。
生徒:「今日は,最初に対面パス,次に左右のボールコントロ
ール!ダイレクトにパスがつながるようにしよう!」
<ランニングの様子>
<準備運動の様子>
― 10 ―
<グループワークの様子>
【表:球技(ゴール型)における授業(サッカー)実践における事前の確認事項】
事前準備
・グループ名簿の作成
導
入
・さまざまなボールコントロールの動作の紹介
※インサイド,アウトサイド,太腿や胸を使ったボールコントロール
教
具
・サッカーボール,デジタルタイマー
教
材
・対面パス,左右・上下の枠外へボールコントロール,4対1など
苦手な生徒
への対応策
健康・安全
面への配慮
・相手のいない状況からのボールコントロール
・相手にパスを出す時の留意(スピードやパスする方向の足)
・出席確認時の健康観察,待機時において仲間の健康観察,運動の観察
②ネット型(テニス)
高等学校学習指導要領及びその解説(保健体育・体育編)に記載されている,
「E
球技」
,
「1 技能(イ)
」
「ネット型では,状況に応じたボール操作や安定した用具の
操作と連携した動きによって空間を作りだすなどの攻防を展開すること」をねらい
として授業を行いました。
ICT機器(タブレット・スマートフォン等)を活用して実技者を撮影するとと
もに,ラケット面やフォームなど動作のポイント解析を行った。また,注意事項に
ついて確認しました。
ワークシートには,本時で説明する内容と詳細なルールについて明記し,グルー
プ内で確認し合いながら取り組めるよう工夫しました。
教員:「ラケットやボールの整理整頓だけでなく,ネットやコート整備
も大事だったね。確認してからはじめよう!」
<教材の整理整頓の様子>
<安全点検:コートとネット>
― 11 ―
<チームでの話合いの様子>
【表:球技(ネット型)における授業(テニス)実践時の工夫点のまとめ】
・グループ名簿の作成
事前準備
※テニス部,中学時にテニスの経験者を中心にグループ分け
導
入
・近距離でのストローク(フォア・バック)※すくい上げあり
教
具
・テニスラケット,ボール,タブレット等
方
法
・タブレット等でストロークやボレー動作の映像撮影
苦手な生徒
への対応策
健康・安全
面への配慮
・撮影者と実技者が映像を交互に見ながら,修正点について互いにアドバ
イス
・ダブルスゲームにおける簡易ルールについて個別に説明
・出席確認時の健康観察,用具の点検(テニスラケット,コートのゴミ,
小石,ネットなど)
・ラケットを振る際,周囲の確認を励行するよう注意
― 12 ―
(4)
【授業実践での一コマ】
<ボールの整理整頓>
<経過時間を伝える工夫>
<事故防止対策>
<ネットの緩み点検>
<ラケットの整理整頓>
<筆記用具の整理整頓>
<AEDの準備>
<事故防止対策2>
<事故防止対策2>
耳を隠す
<ICT機器の活用>
<時間厳守>
<学習カード>
<運動に合った適切なシューズ>
― 13 ―
<話合い・言語活動>
<熱中症対策>
<準備運動>
<倉庫内整理整頓>
<グランド整備>
(5)
【学習環境とその活用】
学習の効果を高めるには,学習にふさわしい雰囲気の醸成と環境の整備に努めること
が必要です。学習環境は,物的環境と人的環境の二つの面から考えることができます。
【物的環境】
○明るく快適な環境 採光,照明,換気,室温,騒音,色彩等への配慮,倉庫,
階段,トイレなど衛生面で行き届いた清掃など。
○すっきりとした落ち着いた環境 きれいな黒板,掲示物や展示物などの配置,
棚やロッカー,用具が取り出しやすい倉庫,机・椅子の整頓など。
○学習のねらいや内容に即した環境 座席配置,コンピュータ,プロジェクター,
テレビ等の利用しやすい配置,学習内容に即した掲示物など。
○必要なものと不要なものの区別をはっきりとさせ,無駄のない環境を構成する。
○板書や掲示物では,誤字,脱字,筆順などに気を付け,内容にも教育的効果を
加える。
【人的環境】
○全ての生徒に目を向ける。
○指示,発問,説明等が分かりやすいこと。
(要点を押さえた話し方,声の大き
さなど)
○表情豊かな教師であること。温かく見守り,適切に生徒の質問や応答を受け止
め,認め,励ます,相槌を打つなど,豊かな表情で生徒に接するなど。
(平成 27 年度教員ハンドブックより)
― 14 ―
教員としての
心構え
資料1
― 15 ―
自分自身
対生徒
対同僚
自分の経験してきた競技種目外の部活動でも,積極的に携わり指導を行っている。
常に健康管理に留意した生活をしている。
③
常に時間を守る生活を志し,任された仕事は責任を持ってやり遂げている。
①
②
説明や指示をする際,その状況に応じて(日光,風向き)声の大きさ等を考慮している。
③
少なくとも担当するクラス全員の生徒氏名を覚えている。
①
学校の内外を問わず,どの生徒にも公平な態度で関わっている。
困ったり悩んだりした時に,同僚や先輩教員などに相談している。
③
②
出張や年休の際,関係部(科,学年)へ事前の連絡や報告ができている。
同僚・先輩教員等とのコミュニケーションが図られている。
②
①
質問項目
1.体育教員のためのチェックシート
大いに当てはまる やや当てはまる 当てはまらない
回答項目(該当箇所に一つだけ○印)
3. チェックシートと活用方法(資料1,資料2)
― 16 ―
⑦ できるだけ多くの生徒を褒めるよう心掛けて指導している。
⑥ 生徒の発達段階に応じ,技能と生涯スポーツへの動機付けを目指す授業を実施している。
⑤ 全生徒に対して危険予測・危険回避能力を高めるための指導をしている。
④ 学習活動における約束事(集合するときは駆け足など)を履行させている。
③ 生徒の興味・関心を促すため,発問の仕方や場の設定を工夫している。
② 授業の始めには,必ず本時の学習内容とねらいについて説明している。
① 授業開始時に出席等の点呼をとりながら個別の健康観察を行っている。
⑩ 屋内外の温度計等の測機器が設置され,定期的に観測して状況に応じた指導をしている。
⑨ 生徒の万が一の事故に備え,学校内及び保護者への連絡体制等が整備されている。
⑧ 応急手当に関する用具やAEDの保管は適切であり,その使用方法を熟知している。
⑦ 養護教諭と連携し,健康に問題のある生徒や,運動制限のある生徒を把握している。
⑥ 授業で使用する施設,機器,用具等の定期的な安全点検を実施している。
⑤ 事前に十分な教材研究を行い授業を実施している。
④ 生徒の実態に即して適宜,年間指導計画に修正を加えながら授業を実施している。
③ 体育科職員の統一見解の下,取扱う単元の学習評価方法について共通理解を図っている。
② 体育科職員の統一見解の下,取扱う単元の学習指導方法について共通理解を図っている。
① 高等学校学習指導要領及びその解説(保健体育編・体育編)を確認し授業を計画している。
質問項目
2.体育教員のためのチェックシート
⑮ 毎時間,自らの授業の振り返りを実施している。
⑭ 評価機会を複数回設けるなどして,評価の信頼性を高めている。
⑬ 態度の育成や技能の獲得等に,一定の学習期間及び評価期間を設けて評価している。
⑫ 生徒の自己評価(学習カード等)を活用(参考)にし,適切な評価を実施している。
⑪ 技能の達成状況に対して,指導内容の見直しと工夫改善を実施している。
⑩ ICT機器等を活用した授業を実施している。
⑨ 授業見学者に対して体調に応じた参加の仕方を指導している。
Ⅱ 授 業 ⑧ 運動の苦手な生徒や,努力を要する生徒への手立てが十分にできている。
Ⅰ 授業前
分類
資料2
大いに当てはまる
やや当てはまる
当てはまらない
回答項目(該当箇所に一つだけ○印
【チェックシート活用の仕方】
「体育教員のためのチェックシート」
(資料1,資料2)は,前述したように保健体育
科教員としての普段からの心構えや,保健・体育の授業前及び授業における様々な状況下
において,自らをチェックし指導力の向上及び体育授業の改善ができることをねらいとし
たシートです。
資料1の「1. 体育教員のためのチェックシート」は,保健体育教員としての心構えとし
て,
「対同僚」
,
「対生徒」
,
「自分自身」の3つに大別しました。
それぞれの質問項目①から③に当てはまる回答として,
「大いに当てはまる」
,
「やや当
てはまる」
,
「当てはまらない」の中からそれぞれ1つを選
び,回答欄に○を付けます。
資料2の「2. 体育教員のためのチェックシート」は,区
分 I・II に大別し,各々「Ⅰ授業前」では①から⑩項目,
「Ⅱ
授業」は,①から⑮項目の各質問に当てはまる回答を1つ
選び,○を付けます。
回答の結果,
「当てはまらない」の項目に○をした部分について,自らの「今後,改善
すべき課題」として置き換えることとします。その課題解決に向けた工夫・改善,修正す
る具体的な方法などを検討し,普段の授業実践において検証しながら改善していくといっ
た繰り返した作業ができると良いでしょう。
この「小さな発見と少しの改善,検証」の繰り返しは,いずれ望ましい保健体育教員と
しての資質・指導力の向上に繋がっていくものと考えています。必ずチェックし終えたら,
修正・改善していく方向や目指す姿を自ら設定し,どうしたらより良い授業ができるかを
考え,次の授業で検証してみることが大切です。
どうしてもわからない点などは,所属校の先輩・同僚教員に聞くなどして,多くの人か
らの意見を参考にしてみましょう。
また,一度のチェックで終わらずに,定期的にチェックシートを活用して自らの成長を
振り返ることで,体育教員としての心構えや,授業における様々な内容の実践力が養われ
ることを期待しています。
※ 教員の資質能力の向上については,教育基本法第9条において,
「法律に定める学校の教員は,自己の崇高な使命を深く自覚し,
絶えず研究と修養に励み,その職責の遂行に努めなければならな
い」
,
「前項の教員については,その使命と職責の重要性にかんが
み,その身分は尊重され,待遇の適正は期せられるとともに,養
成と研修の充実が図られなければならない」こととされている。
教員の資質能力の向上は,教員自身の責務である。
― 17 ―
4. 授業実践例
当委員会では,あらかじめチェックシート「当てはまらな
い」の欄に比較的多く回答されるであろうと思われる質問項
目について,下の課題1から課題4としてまとめてみました。
また,これらの課題1から課題4の各項目の解決に向けた
具体的な指導方法については,P.19~P.27 に示す3領域(4
授業実践)で授業を実践しましたので,その指導案を参考と
して示します。
【課題1】
○学習の目標やねらいの明確化 ○発問の工夫
○危険予測・危険回避を高める指導
○努力を要する生徒への手立て ○ICТ機器を活用した指導
【課題2】
○安全確保(応急手当や緊急時への対応) ○生涯スポーツへの動機付け
○生徒,自らの授業の振り返りができる指導
【課題3】
○個別の健康観察 ○自己評価(学習カード)の活用
○適切な期間を置いた評価機会 ○信頼性・妥当性を高めるための計画的な評価
【課題4】
○定期的な安全点検 ○学習活動における約束事
○できるだけ良いところを見付け褒める ○指導内容の見直しと工夫改善
各領域の指導案中,※印で示す内容は,資料1及び資料2の各項目と対応していますの
でぜひ参考としてください。
― 18 ―
(1)
「B 器械運動」
【予想される課題1】
ねらいの明確化,発問の工夫,危険予測・危険回避
努力を要する生徒への手立て,ICТ機器の活用など ~解決のための授業実践例~
【本時の学習と指導(11 時間目/12 時間中)
】
(1)本時の学習目標
○自己の技能や体力の程度を踏まえて,途切れることなく流れるような技の組み
合わせを選ぶことができるようにする。
(思考・判断)
○自己の能力に合った回転系や巧技系の技を組み合わせて行うことができるよう
にする。
(運動の技能)
(2)準備するもの
・ロングマット6本・ショートマット6本・エバーマット2枚・学習カード
・ICT機器・アクティブスポーツ 2015(大修館書店)
(3)展開
学習活動・内容
は
じ
め
10
分
指導上の留意点
評価の観点・方法
1 用具の準備をする。
※資料2-Ⅰ授業前⑥ ・リズミカルかつダイナミッ
2 出席確認・健康観察をする。
クに動作が行えるよう具体
的なアドバイスをする。
※資料2-Ⅱ授業前①
3 準備運動(自校体操)をする。 ・技の組み合わせ例をいくつ
か挙げて説明する。
・曲に合わせて行う。
4 本時のねらいと学習内容の確認 ・本時の学習目標と内容につ
いて説明する。
をする。 ※資料2-Ⅱ授業②
・発表グループの確認をする。
※資料2-Ⅱ授業③
(出席番号順:5人編成)
5 発表のための演技練習をする。 ・グループ活動が効率よく, <思考・判断>
スムーズに行えるよう具体 ・動作を止めず流れる
・グループ練習を行う。
的な留意点を理解させる。
ような技の組み合わ
※資料2-Ⅱ授業⑤⑥⑦⑧
な
特に交替時や移動時に時
せを選んでいる。
・連続演技の練習をグループごと
か
間を掛け過ぎないよう注意
に行う。
※資料2-Ⅱ授業⑧
35
することができるよう理解
(この際にICT機器や目視での
(観察)
分
させる。
観察を取り入れる。
)
※資料2-Ⅱ授業⑩
※資料2-Ⅱ授業④⑤ <運動の技能>
※
・制限時間を設ける。
(10 分程度) ・練習で習得した技能を十分 ・自己の能力に応じて,
ま
に発揮できるよう,できる
・良い点や改善点などをワークシ
技を組み合わせて演
と
だけ具体的に助言する。
ートに記入する。
技することができ
め
る。
※資料2-Ⅱ授業⑫
※資料2-Ⅱ授業⑪⑫
(略) 6 発表演技を行う。
・仲間の良い点を挙げられる
※資料2-Ⅱ授業⑥
・1 人ずつ練習の成果を発表する。 よう助言する。
(観察)
― 19 ―
(2)
「C 陸上競技」
【予想される課題2】
ねらいの明確化,教師の発問の工夫,生徒の安全確保
意欲の喚起付け,授業の振り返りなど
~解決のための授業実践例~
【本時の学習と指導(1時間目/6時間中)
】
(1)本時の学習目標
○集団走の特徴を理解することができるようにする。
(知識,理解)
○グループで設定したタイムに応じたペースで走ることができる。 (運動の技能)
(2)準備するもの
特になし
(3)展開
学習活動・内容
指導上の留意点
評価の観点・方法
1 出席確認,健康観察をする。
・健康観察,
見学者の確認をする。
※資料2-Ⅱ①④
※資料2-Ⅱ授業①
は 2 集団走の特徴について説明する。 ・AEDの準備をする。
※資料2-Ⅰ授業前⑧
じ (1)世界大会での映像や,箱根駅伝
予選会での各チームの集団走等 ・本日のグループを発表する。
め
を映像で確認。
※あらかじめ,体力テスト(シ
(10)
※資料2-Ⅰ授業前⑩
ャトルラン)の記録を参考
に,
5~6名のチーム分け
発問1:なぜ,各チームで集団走を取り入れてい をしておく。
るのですか?
※資料2-Ⅱ授業③
※資料2-Ⅰ授業⑤
・チーム内で話し合う。
・箱根駅伝予選会のレース映像を
・本時のチーム集団走について役 見せながら説明を加える。
割分担を話し合う。
・集団走の目的は「安定したペー <知識,理解>
スで走る」
ことにつながること ・集団走の特徴について
理解している。
を理解させる。
(ワークシート)
本時のねらい
※資料2-Ⅱ授業②
・集団走の特徴を学び,最後まで諦めずに協力して走ることができる。
・話し合いの中でチームの予測タイムを的確に決め,走ることができる。
3 準備運動をする。
・準備運動では,グループ内で声
(1)グループごとに分担して行う。 を掛け合うなどして協力して
(10種類) 行わせる。
(2)仲間でコミュニケーションを図 ・積極的に話合いができる雰囲気
りながら行う。
作りに留意する。
(サークルに
なる等)
― 20 ―
4 集団走で走る。
・10 分×2セット程度
※資料2-Ⅱ授業③
発問2:チームの予想タイムを決めよう。
<運動の技能>
・複数の隊形を紹介する。
な
か (1)ウォーミングアップで一周走 (先頭,中央,後方の位置) ・設定したタイムに応
り,そのタイムから予測する。 ・安定したペースの走りがリラッ じたペースで走る
(35)
(2)前半と後半の2班編成で測定す クスにつながること,
「デットポ ことができている。
(観察)
る。
イント」や「セカンドウインド」
(3)スタートした隊形とゴールした などについても説明を加える。
隊形が同じになるように走る。
※資料2-Ⅱ授業⑥
※資料2-Ⅱ授業⑧ ・コース外からの声援が,走って
(4)スタートからゴールまで仲間の いる仲間の,
走る意欲や頑張る
励みになることを促す。
ペースの変化に応じて走る。
※資料2-Ⅰ授業前①
※資料2-Ⅱ授業⑧
(5)仲間の後ろで距離を保ちながら ・見学者にはタイムを読み上げさ
走ることや,集団の中で自分の位 せる。
※資料2-Ⅱ授業⑨
置を保持して走る。
<知識,理解>
(6)測定していない兄弟グループ
・集団走の特徴について
は,コース外から役割分担ごと,
理解している。
授業に参加する。
(ワークシート)
・一周ごとのタイムを教える。
・ワークシートの記載状況を確認
※資料2-Ⅱ授業⑪ する。
・グループの特徴をワークシートに
※資料2-Ⅱ授業⑫
記入する。
※資料2-Ⅱ授業⑪
・明るく元気に応援する。
※資料2-Ⅱ授業⑦
・仲間の体調の様子を観察し,異変
があればすぐに確認する。
※資料2-Ⅱ授業⑤
ま
と
め
(10)
5 本時のまとめをする。
・グループで走ってみた感想を話
・ワークシートに本時の反省を記入 し合わせる。
する。
・本時の成果と次時に活かせるよ
・本時のまとめと次時の説明をす う助言をする。
る。
※資料2-Ⅱ授業⑮
― 21 ―
※資料2-Ⅱ授業⑮
持久走(集団走) 学習カード
チーム
班 係り
キャプテン
副キャプテン
タイム係
記録係
励まし係(2名)
月
日 ( )
氏 名
活 動 内 容
・集団走の特徴を見る。話し合いの進行をする。
・集団走の特徴を見る。キャプテンをサポートする。
・タイムを測定する。一周ごとに読み上げる。
・タイム(兄弟チーム)・予測タイム・感想を記入をする。
・とにかく励ます。準備体操をする。
・
・集団走の特徴をチェックしてもらおう!
※ 兄弟チームに記入してもらう
でき た もう少し
チ ェ ッ ク 項 目
1
ペースが一定である
3
2
1
2
ペースメーカーがいる
3
2
1
3
隊形を維持して走っている
3
2
1
4
チームの状況(疲労)に応じて隊形を変えている
3
2
1
5
励まし合いながら走っている
3
2
1
・ペース走の記録
※ 実際のタイムは兄弟チームに記入してもらう
予 想 タ イ ム
実 際 の タ イ ム
1周
分 秒
分 秒
(+ ・ -) 分 秒
2周
分 秒
分 秒
(+ ・ -) 分 秒
3周
分 秒
分 秒
(+ ・ -) 分 秒
4周
分 秒
分 秒
(+ ・ -) 分 秒
5周
分 秒
分 秒
(+ ・ -) 分 秒
合 計
分 秒
分 秒
(+ ・ -) 分 秒
誤 差(+・-)
・集団走の感想(タイム・ペース・気分など自由に記入)
※チームで記入(兄弟チームの意見を参考にしながら)
― 22 ―
(3)
「E 球技」
①ゴール型(サッカー)
【予想される課題3】
健康観察,学習におけるねらいと目標,学習カードの
活用,適切な評価,信頼性を高める評価の方法など
~解決のための授業実践例~
【本時の学習と指導(4/15 時間目)
】
(1)本時の学習目標
○次のプレイを予測したボールコントロールができるようにする。(運動の技能)
○コントロール&パスについて,ポイントを理解できるようにする。
(知識・理解)
(2)準備するもの 特になし
(3)展開
学習活動・内容
指導上の留意点
評価の観点・方法
1 集合・あいさつ,健康観察を行う。 ・健康観察,見学者の確認をする。
※資料2-Ⅱ前①
は
じ
め
(10)
※資料2-Ⅱ前①
2 用具の準備・準備運動をする。
※資料2-Ⅱ前⑥
(1)ジョギングを取り入れた準備
運動,ストレッチング
(2)係り分担で用具の準備
(3)本時のねらいにつながる基本 ・本時のねらいを確認しながら,
動作の練習
準備運動,用具の準備,基本練
・二人組でインサイド,アウ
習が各個人で行うことができる
トサイドを使ったボールコ
よう指示する。
ントロールの練習
※資料2-Ⅱ前②
本時ねらい
・次のプレイを予測したコントロール&パスができる。
※資料2-Ⅱ前②
3 次のプレイを考えたコントロー ・積極的な練習参加を促す。
ルの練習をする。
※資料2-Ⅱ前③⑥
な
(1)技術のポイント
・ミスを怖がらずに行わせる。
・インサイド・アウトサイドを使
い分けるよう指示する。
・パスを受ける前に,周りの味 ・周りをよく見る。
(状況判断)
か
(35)
<運動の技能>
・パスを受ける前に,
周りの状況を確認
して,次のプレイ
を考えたコントロ
方やスペース観て,次のプレ ◎努力を要する状況の生徒への手
ールプレイをする
イしやすい位置にワンタッチ 立て
ことができる。
※資料2-Ⅱ前⑧
コントロールする。
(観察)
・仲間からのアドバイスを有効に
する。
(2)手を上げた味方の方向に,ワ ・あわてず落ち着いてプレイする。
― 23 ―
※資料2-Ⅱ前⑭
ンタッチでコントロールし,中央 ・ボールの出し手は,パスのスピ
エリアから出てパスをする。
ードを相手の動きに合わせるよ
う指示する。
●
・コントロールしやすい体の向き
↓
に気付くことができるよう助言
する。
・味方は声を出してパスを要求す
るよう助言する。
※資料2-Ⅱ授業⑭
4 4対1で練習をする。
1分30秒×5回
(1)技術のポイント説明を聞く。
・積極的な練習参加を促す。
・声を掛け合う。
※資料2-Ⅱ授業③⑥ ・周りをよく観る。
○ボールを受ける前に3人の味方を ・受け手側のサポート。
観ておく。パスを出す方向にコン ◎努力を要する状況の生徒への手
トロールする。
立て
※資料2-Ⅱ授業⑧
(1)2タッチ以内でパスを出す。
(2)守備がボールを奪ったら,パ ・コントロールしやすい足(右足・
スを出した攻撃と交代する。
左足)にパスを入れる。
(3)10 本のパスで攻撃と守備を交 ・パスを出しやすいように周りが
代する。
移動しながらサポートする。
(4)ワンタッチパスも心掛ける。
5 本時のまとめをする。
ま (1)成果や課題を学習カードに記
入する。
と
※資料2-Ⅱ授業⑫⑬
め
(5) (2)本時のまとめと次時の説明を
・本時の活動とパスをつなぐため
<知識・理解>
の出し手と受け手のポイントを
・コントロールとパ
学習カードに記入する。より判
スについて,ポイ
断する。
ントを理解してい
※資料2-Ⅱ授業⑫⑬⑮
聞く。
― 24 ―
る。
(学習カード)
サッカー(コントロール・パス)
月
学年
練習1
組
日
( )
氏名
※ よくできた2点,できた1点,できなかった0点を記入
よくできた
内 容
できた
できなかった
点数
右足コントロール(左側に出る時)
左足コントロール( 〃 )
右足コントロール(右側に出る時)
左足コントロール( 〃 )
右足コントロール(後側に出る時)
左足コントロール( 〃 )
合 計
練習2
①ボールを受ける人のポイント
・
・
②パスを出す人のポイント
・
・
③パスを待っている味方のポイント
・
・
― 25 ―
点
②ネット型(テニス)
【予想される課題4】
安全点検,規律・きまりなどの約束事,褒める指導
指導内容の見直し,工夫した発問・場の設定など
~解決のための授業実践例~
【本時の学習と指導(4時間目/11 時間中)
】
(1)本時の学習
○練習やゲームで自分の役割を果たし,協力して教え合ったり励まし合ったり
することができるようにする。
(関心・意欲・態度)
○ラケットの面をつくりフォアハンド及びバックハンドによるストロークが
でき,相手コートに正確に返球することができるようにする。
(運動の技能)
(2)準備するもの
テニスボール・ラケット・ICT 機器(タブレット等)
(3)展開
学習活動・内容
指導上の留意点
評価の観点・方法
は
じ
め
10
分
・コート,ネットの状況
1 用具の準備をする。
※資料2-Ⅰ授業前⑥
を確認できるように
する。
(安全確保)
2 出席確認・健康観察をする。
※資料2-Ⅱ授業①
※資料2-Ⅱ授業⑤
・リズミカルにダイナミ
3 準備運動をする。
ックに行うよう助言
※曲に合わせて行う。
する。
4 本時のねらいと学習内容の確
認をする。 ※資料2-Ⅱ授業② ・本時の学習内容と流れ
・グループ分け
を説明する。
※資料2-Ⅰ授業前⑤
※資料2-Ⅱ授業②
(男子3班・女子2班)
※基本8人編成
な
か
35
分
※
ま
と
め
(略)
・班の中で活動が効率よ
5 ストローク練習をする。
く,スムーズに行える
(グループ練習)
ように理解させる。特
・球出し:1 名
に交代や移動に時間
・ICT 機器で撮影:2 名
をかけすぎないよう
・玉拾い:残りの生徒
に注意して行わせる。
グループでフォアハンド・バ
ックハンド・フォアボレー・バ
※資料2-Ⅱ授業④
ックボレーの連続練習を行う。 (ICT 機器や目視での
観察を取り入れる。
)
※資料2-Ⅱ授業③④⑧
・時間で交代する。
(5 分程度)
※資料2-Ⅱ授業⑩
・良い点や改善点をワークシー
トに記入する。
※資料2-Ⅱ授業⑫ ・練習で習得した技能が
6 簡易ダブルスゲームをする。
発揮できるよう助言
・グループごとにダブルスのゲ
する。
ームを行う。
※資料2-Ⅱ授業⑥
― 26 ―
<関心・意欲・態度>
・練習やゲームで自分の
役割を果たし,協力し
て教え合ったり,励ま
し合ったりしている。
(観察)
※資料2-Ⅱ授業⑦
<運動の技能>
・自分の能力に応じて,
基本的技術であるス
トローク(フォア・バ
ック)やボレー(フォ
ア・バック)を身に付
けている。 (観察)
※資料2-Ⅱ授業⑪
種目 テニス 【ワークシート】
☆自分のフォームを見直して,正しいストローク&ボレー技術を身に付けよう!
①
②
◎実施方法◎
①2グループに分かれよう
●実施グループ
・1名ずつ①~④を連続で
ストローク&ボレーを行う。
③
④
・4球打ったら、担当撮影者の所で
フォームチェックを行う。
※実施者以外はボール集め
撮
影
者
A
球出し
撮
影
者
B
●球出し&撮影グループ
・コーチは球出しを担当
・撮影者は一人ずつ担当し,実施者に
ストロークのフォームを見せ,
アドバイスをする。
②グループ全員が終了後に
ワークシートをまとめる。
グループで出たこと(良い点,改善点など)
例:ラケット面の向きが素晴らしい。
例:ボールを打った後の動き出しが遅い。
◎グループでの感想
― 27 ―
― 28 ―
○
○
○
⑥ 生徒の発達段階に応じ,技能と生涯スポーツへの喚起づけを目指す授業を実施している。
⑦ できるだけ多くの生徒を褒めるよう心掛けて指導している。
指導した内容について,適切な期間をおき評価を実施している。
評価機会を複数回設けるなどして,評価の信頼性・妥当性を高めている。
⑮ 毎時間,自らの授業の振り返りを実施している。
⑭
⑬
⑫ 生徒の自己評価(学習カード等)を活用(参考)にし,適切な評価を実施している。
○
○
○
技能の上達状況等に対して,指導内容の見直しと工夫改善を実施している。
⑩ ICT機器等を活用した授業を実施している。
⑪
○
⑨ 授業見学者に対して,学習内容によっては体調に応じた参加の仕方を指導している。
運動の苦手な生徒や,努力を要する生徒への手立てが十分にできている。
○
⑤ 全生徒に対して危険予測・危険回避能力を高めるための指導をしている。
○
③ 生徒の興味・関心を促すため,発問の仕方や場の設定を工夫している。
④ 学習活動における約束事(集合するときは駆け足など)を理解させている。
○
② 授業の始めには,必ず本時の学習内容とねらいについて説明している。
① 授業開始時に出席等の点呼をとりながら個別の健康観察を行っている。
屋内外の温度計等の測機器が設置され,定期的に観測して状況に応じた指導をしている。
○
⑨ 生徒の万が一の事故に備え,学校内及び保護者への連絡体制等が整備されている。
⑩
○
⑧ 応急手当に関する用具やAEDの保管は適切であり,その使用方法を熟知している。
⑦ 養護教諭と連携し,健康に問題のある生徒や,運動制限のある生徒を把握している。
○
○
⑤ 事前に十分な教材研究を行い授業を実施している。
授業で使用する施設,機器,用具等の定期的な安全点検を実施している。
○
⑥
○
④ 生徒の実態に即して適宜,年間指導計画に修正を加えていた授業を実施している。
○
○
○
○
○
○
○
やや当てはまる 当てはまらない
③ 体育科職員の統一見解の下,取扱う単元の学習評価方法について共通理解を図っている。
○
大いに当てはまる
回答項目(該当箇所に一つだけ○印
○
高等学校学習指導要領及びその解説(保健体育編・体育編)を参考として授業を計画・実施している。
質問項目
2.体育教員のためのチェックシート
② 体育科職員の統一見解の下,取扱う単元の学習指導方法について共通理解を図っている。
①
Ⅱ 授 業 ⑧
Ⅰ 授業前
分類
実際の記入例
5. チェックシートの活用事例
(1)チェックシートの活用事例
下記の資料は,教職2年目の保健体育科教員(平成 26 年度採用)に「2. 体育教
員のためのチェックシート」を使って回答してもらった結果です。
「大いに当てはまる」が3項目,
「やや当てはまる」が 15 項目,
「当てはまらない」
が7項目でした。
さて,回答例をみてみましょう。
「大いに当てはまる」の欄に回答された項目は,授業前Ⅰでは,
「養護教諭と連携
し,健康に問題のある生徒や,運動制限のある生徒を把握している」の1項目。
授業Ⅱでは,
「授業開始時に出席等の点呼を取りながら個別の健康観察を行ってい
る」
,
「学習活動における約束事を理解させている」の2項目であった。
これらの3項目については,指導が十分であるものと思われます。
一方で,
「当てはまらない」の欄に回答された項目では,授業前Ⅰでは,
「高等学
校学習指導要領及びその解説(保健体育編・体育編)を参考として授業を計画・実
施している」
,
「授業で使用する施設,機器,用具等の定期的な安全点検を実施して
いる」
,
「屋内外の温度計等の計測器が設置され,定期的に観測して状況に応じた指
導をしている」の3項目ができていないと回答されます。
授業Ⅱでは,
「運動の苦手な生徒や,努力を要する生徒への手立てが十分にでき
ている」
,
「技能の上達状況に対して,指導内容の見直しと工夫改善を実施している」
,
「指導した内容について,適切な期間を置き評価を実施している」
,
「評価機会を複
数回設けるなどして,評価の信頼性・妥当性を高めている」の4項目ができていな
いと回答されます。
(※表中では字体を変え,文字を大きくしております。
)
<回答例から>
回答されたチェックシートを分析してみると,はじめに高等学校学習指導要領及
びその解説(保健体育編・体育編)を一読し,理解を深める必要があると思います。
学習指導要領及びその解説書は,前述したように学校教育法に基づき国が定める
教育課程の基準であり,教育の目標や指導すべき内容等を体系的に示しています。
各学校は,学習指導要領に基づいて,その記述の意味や解釈などの詳細について
説明した教科別の解説を踏まえ教育課程を編成し,年間指導計画や授業ごとの学習
指導案等を作成し,実施する必要があるからです。
次に,体育活動中の事故が毎年発生しています。
授業で使用する施設,機器,用具等の定期的な安全点検については,学校が行う
定期点検はもとより,保健体育科が主導で適宜行う必要があります。
特に,毎年7月から9月にかけ,高温多湿により猛暑日となる場合が多く,状況
に応じては,運動を中止することも必要な措置と言えま
す。また,生命にかかわる重大な事故につながる可能性
が高い熱中症などについては,事前に活動する場所の環
境測定を行い,その状況に応じた適切な活動の仕方を判
断しましょう。判断に迷うなどわからない時には,保健
体育科内,養護教諭,管理職等に相談しましょう。
※ 環境省 熱中症予防情報サイト
http://www.wbgt.env.go.jp/
環境省 熱中症環境保健マニュアル
http://www.wbgt.env.go.jp/heatstroke_manual.php
― 29 ―
体育活動時の事故発生要因としては,
「児童生徒主体の要因」
「環境の要因」
「運動
の要因」が互いに関係し合うとされ,それらは以下のように4つに分類することが
できますので,以下を参考としてください。
①個体の要因
本人の要因で,体調,体格,体力・運動能力,技術レベル,誤った行為,ル
ール違反,故意,不注意,過信,疲労などの身体的,精神的・心理的要因等が
挙げられる。
②方法の要因
スポーツの内容・運動量・運動強度・方法等の要因で,走,跳,投,蹴,泳
などの各動作やパフォーマンスが不適切な方法による要因などが挙げられる。
③環境の要因
スポーツの施設設備,用具,自然環境や社会環境等の要因で,体育館,グラ
ウンド,道場,コート,プール等の体育施設,気象,天候,地理,地形等の自
然環境,高温,多湿,炎天下などと運動時の人的環境,社会環境,周辺状況の
不備・不適切の要因等が挙げられる。
④指導・管理の要因
スポーツの指導方法・内容,管理体制等の要因で指導者,教師,コーチ,管
理者の資質,指導方法及び安全管理等の要因などが挙げられる。
(2)授業実践例(教師の感想より)
①実践例(初任者A教諭の例)
初任者A教諭は,
「2.体育教員のためのチェックシート」の活用後,特に資料2Ⅱ授業⑧「運動の苦手な生徒や,努力を要する生徒への手立て」が十分にできていな
いことに改めて気付き,
「C 陸上競技」長距離走(集団走)の取り組みを参考例とし
て授業で実践してみました。
長距離走の単元計画では6単位時間を設定しています。
1時間目は,オリエンテーションとして視聴覚教材を活用し,長距離走(駅伝)に
ついて説明を加え,走りに適した服装や効果的な準備運動,動き方(フォーム)や呼
吸法,靴の選び方などについて導入を行い,また,長距離走の魅力について専門家な
どからの意見を参考にするなど,生徒の過去の苦しい経験を解消できるよう工夫を凝
らしています。
2時間目には,試しの走りとして走力を測定するため,20 分間走を行い走った距離
を測定しています。
― 30 ―
3時間目には,20 分間走の測定結果をもとに,トップランナー(上位レベル)
・ラ
ンナー(中位レベル)
・ファンランナー(下位レベル)の3つの群に分け,それぞれ能
力別のグループ単位で目標となるタイムについて話し合いを行ってから集団走を行っ
ています。
4・5時間目はこれまでの集団走の様子(走力・リーダーシップ・励まし合う様子
など)から,さらに小グループ分けを行っています。生徒の走る様子や一人ひとりの
感想などを参考に適切にグループ分けができているようです。
最後の6時間目には,個人タイムの測定とグループ内でのそれぞれのタイムを合計
してグループ単位で総合タイムを集計し競い合いを行っています。
集団走ではある程度,走力が同等な者同士が同一グループになることが最低条件で
あり,グループのペースに合わせて走ることにより,脱落したりペースを乱したりす
ることがなく,比較的容易にスピードが維持でき,一人ひとりが持つ力を十分に発揮
した授業ができたと語ってくれました。
また,参加した生徒の感想からは,
「みんなと一緒に走れて辛さが半減した」
,
「声
を掛け合って走れたことが楽しかった」
,
「仲間からの励ましで頑張れた」などの意見
が出ていました。
多くの学校が行う長距離走について,授業(学習)形態を変え,導入段階や走り方
に工夫を凝らした授業実践では,長距離走が比較的苦手な生徒や,努力を要する生徒
などが集団から遅れをとりそうになった時でも,絶えず隣で走っている仲間からの励
ましや声掛けが大きな効果を発揮し,多くの生徒が自己の持てる力以上に能力を発揮
し頑張る姿が見られています。
また,仲間と力を合わせてゴールした時の生徒の喜びに満ちた笑顔や,最後まで走
ることができたという達成感も味わわせることができた授業となったようです。
②授業を終えての感想(教師)
(長距離走)
授業の導入段階において,生徒に集団走(箱根駅伝予選会)の映像を見せたため,
全体的なイメージを持って授業に入ることができたと思う。長距離走の苦手な生徒が,
常にグループ内で励ましてもらえることにより,後半の走りでも最後まで諦めずに走
ることができていたように思われる。
併せて,長距離走の得意な生徒の中には,自己の持てる力を出し切らず,比較的ペ
ースを落として仲間に配慮した走りになったが,グループとしての仲間意識の向上が
みられた。
(サッカー)
ボールコントロールの練習では,敵がいない状況から敵がいる状況へと段階的に難
易度を上げて,実際のゲーム形式により近づけたことにより,重要なポイントなどを
随時,意識したり確認したりしながら練習に取り組むことができたと思う。
― 31 ―
また,グループ分けにも配慮した。リーダーとなるサッカー部員を均等に配置し,
その他の運動部への参加状況や,友人関係,普段からの授業において仲間の様子など
を参考にしてグループ分けを行いました。その結果,仲間同士が互いに話し合い,助
け合うなどの場面が多く見られ,グループ内の雰囲気も良く,活気あふれる授業につ
ながったと思います。
6. 資料:学校における体育・健康に関する指導を通して
学校における体育・健康に関する指導は,教科としての体育科,保健体育科の指導の効
果を一層高め,体力の向上と心身の健康の保持増進を図っていく資質や能力を身に付ける
という観点から有効な教育活動である。
この活動を通して,学校生活はもちろんであるが,家庭や地域社会との連携を図りなが
ら日常生活においても自ら進んで運動・スポーツを適切に実践する習慣を身に付け,生涯
を通じて運動・スポーツに親しむための基礎を培っていくことが大切である。
なお,運動部活動の指導に当たっては,平成 25 年4月茨城県教育庁保健体育課刊行の
「第 31 集学校体育指導資料『望ましい運動部活動の在り方』
(三訂版)
」を踏まえ,適切
な運動部活動指導に努めることが大切である。
(教員ハンドブックから)
【運動・スポーツ活動における指導上の留意事項】
1 体育科,保健体育科の目標や各教科,道徳,特別活動,総合的な学習の時間等の目標
を十分に踏まえて指導する。
2 生徒の健康や体力の状況を的確に把握し,具体的な課題を設定して,計画的に指導す
る。
3 指導に当たっては,生徒に運動の楽しさや必要性を理解させ,興味を持って,自主的,
継続的に運動を実施するよう方向付ける。
4 画一的な指導のみに終始せず,生徒の体力の状況や興味・関心などを的確に把握し,
個に応じた指導をする。
5 集団で活動する場合は,安全に能率よく行動させるために,体育科,保健体育科で身
に付けた集団行動の様式を活動の内容と関連付けて指導する。
6 運動・スポーツ活動を行う際には,生徒の顔色・動作及び応答の様子などが平常と異
なっていないかどうかによく注意を払い,健康状態を把握した上で指導に当たるように
する。
7 生徒の体力に応じた運動の質と量を考えて,適切な運動量を定めるようにする。
8 生徒の発達の段階を踏まえ,助け合い,学び合い,教え合い,関わりをもちながら自
発的・自主的に活動できるようにする。
9 施設・用具の使用については,安全管理に十分配慮し,具体的な点検の観点を定め,
定期的及び使用前に必ずチェックし安全確保に努める。
― 32 ―
7. 引用・参考文献,その他資料
○2015.3. 茨城県教育委員会,
「平成 27 年度 教員ハンドブック」-信頼される教師を目指して○2013. 独立行政法人 日本スポーツ振興センター
「学校の管理下における体育活動中の事故の傾向と事故防止に関
する調査研究」
○2015.12.21 中央教育審議会答申
「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」
~学び合い,高め合う教員育成コミュニティの構築に向けて~
○2009.12. 文部科学省
「高等学校学習指導要領解説 保健体育編・体育編」
○Armour, K.M., & Yelling, M. (2007). Effective professional development for physical
education teachers: The role of informal, collaborative learning. Journal of Teaching
in Physical Education, 26, 177–200.
○Patton, K., & Griffin, L.L. (2008). Examining teacher change: Two teachers’
experiences and patterns of change in a physical education teacher development
project. Journal of Teaching in Physical Education, 27, 272–291.
○Ward, P., & O’Sullivan, M. (2006). Professional development in urban settings.
Journal of Teaching in Physical Education, 25, 348-466.
○環境省 熱中症予防情報サイト
http://www.wbgt.env.go.jp/
○環境省 熱中症環境保健マニュアル
http://www.wbgt.env.go.jp/heatstroke_manual.php
― 33 ―
作成協力委員(順不同,敬称略)
おか で
よしのり
○岡 出 美則
み
た
べ
いさむ
○三 田部 勇
よしの
さとし
よしだ
じゅん
たむら
まさる
○吉野
○吉田
○田村
聡
淳
勝
筑波大学体育系教授
筑波大学体育系准教授
茨城大学教育学部准教授
県立水海道第一高等学校教諭
県立下妻第一高等学校教諭
第45集 学校体育指導資料
若手教員のための指導資料集
若手教員(初任者)における資質と指導力向上に向けた取組
~チェックシートの活用と授業実践について~
高等学校編
平成28年3月発行
編集・発行
茨城県教育庁学校教育部保健体育課
〒310-8588
茨城県水戸市笠原町978番6号
TEL029(301)5353
FAX029(301)5369
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