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平成24年度戦略的基盤技術高度化支援事業 「無欠陥
平成24年度戦略的基盤技術高度化支援事業 「無欠陥ダイカスト技術の開発と 高強度・高機能・薄肉アルミ製品の実用化」 研究開発成果等報告書 平成25年3月 委託者 四国経済産業局 委託先 公益財団法人高知県産業振興センター 目 次 第1章 研究開発の概要 1.1 研究開発の背景・研究目的及び目標 1.2 研究体制(研究組織・管理体制、研究者氏名、協力者) 1.3 成果概要 1.4 当該研究開発の連絡窓口 第2章 研究開発の経緯 第3章 研究開発の経過 第4章 無欠陥ダイカストマシンの開発 4.1 はじめに 4.2 シングルサーボ射出マシンの開発 4.3 マルチサーボ射出マシンの開発 4.4 まとめと今後の課題 第5章 自動車、農業機械用のアルミ軽量化部品の開発 5.1 はじめに 5.2 農機用フライホイールの材質調査 5.3 農機用フライホイールの金型設計製作及び鋳造実験 5.5 自動車用アーム金型の設計製作及び鋳造実験 5.6 まとめと今後の課題 第6章 自動車用アルミ大型化一体化部品の開発 6.1 はじめに 6.2 自動車用アルミボディ部品の調査 6.3 ターゲット部品検討とドア金型設計製作と鋳造実験 6.4 まとめと今後の課題 最終章 全体総括 第1章 1.1 研究開発の概要 研究開発の目的 地球温暖化ガスの抑制 、エネルギー枯渇問題 が緊急課題となっており、 将来 の 製 品タ ー ゲッ トと し て 考え て いる 自動 車 、 農業 機 械産 業に お い て は、 ハ イ ブリ ッ ド車 、高 効 率 エン ジ ン、 電気 自 動 車 、 燃 料電 池車 な ど の 開発 実 用 化及 び 拡大 が進 み つ つあ る 。そ して こ れ ら全 て に共 通す る 重 要 課題 と し て軽 量 化が あり 、 1 0% 軽 量化 する こ と によ り 5~ 10 % の 温 暖化ガス削減効果があると言われている(図 1.1)。 たとえば自動車重 量の 約 7 0% は 鉄 ( 鋼) が 用 いら れ て い る( 図 1.2)が 、 今 後の 軽 量 化 の 方 策としていくつかの材料、すなわち鋼(高張力鋼板:ハイテン)、ア ル ミニ ウ ム、樹脂(CFRP)、マグネ シウム 等が考えられる(図 1.3)。 鋼に お い ては 近 年、 ハイ テ ン の使 用 が増 加し て お り軽 量 化に も寄 与 し て いる が 重 量の 限 界が あり 、 C FR P は大 幅な コ ス ト増 、 リサ イク ル の 問 題が あ り 、ま た マグ ネは 耐 食 性、 リ サイ クル 性 、 コス ト に問 題が あ り 、 それらの採用には限界があると考えられる。 到達目標 安 価 ← 低 コ ス ト 化 鋼(ハイテン) アルミ → 高 価 CFRP 重い← 軽量化 図 1.1、車 両 重 量 と燃 費 図 1.2、自 動 車 材 料 の重 量 推 移 1 →軽い 図 1.3、各 材 料 の軽 量 化 とコスト すな わ ち 軽量 化 を 達 成 す る た めに は 軽 量 ・高 強 度 材料 へ の 置 換、 高 機 能化 、 薄 肉化 な どが 必要 で あ り、 軽 量材 料と し て アル ミ ニウ ム 、 マ グ ネ シ ウ ム、樹脂射出成型、CFRP(炭素 繊維強化樹脂)、高 張力鋼板など があ る が 、 本 研 究に おい て は 、 コ ス ト面 、機 能 面 、軽 量 化効 果な ど か ら ポテンシャルが高いアルミニウムに着目した。 アル ミ ニ ウム の 製 造 プロ セ ス とし て 鋳 造 法が あ る が、 従 来 の ダイ カ ス ト法 、 金 型鋳 造 法、 砂型 鋳 造 法な ど は、 強度 ・ 品 質面 、 コス ト面 よ り ま だ十 分 と はい え ない 。す な わ ち、 金 型鋳 造法 、 砂 型鋳 造 法で は基 本 的 に 凝固 時 間 が長 い こと によ り 粗 大な 結 晶 組 織と な り 材料 特 性 が 低く 、 寸 法 精度 、 生 産性 も よく ない 。 一 方、 量 産性 、低 コ ス トを 考 慮す ると ダ イ カ スト 法 が 有力 で ある が、 品 質 面す な わち 、鋳 造 欠 陥( 巻 き込 み不 良 、 湯 まわ り 不 良、 収 縮巣 不良 な ど )が 不 可避 とな り 、 その 高 強度 ・高 機 能 ・ 薄肉 へ の 用途 拡 大が でき て い ない 。 そこ で近 年 、 高圧 ダ イカ スト 法 や 真 空ダ イ カ スト 法 が開 発さ れ て いる が 、超 高圧 ・ 高 速・ 複 雑な 特殊 な 方 法 で あ り 、品質、コスト、生産性においてまだ不十分である。 そ こ で軽量化、高付加価値化に対応した鋳造技術開発として、高強度、 高機 能 、 薄肉 化 を可 能と す る 低コ ス トで 新し い ア ルミ ニ ウム ダイ カ ス ト 法の 開 発 が望 ま れて いる 。 従 来技 術 のダ イカ ス ト にお い ては 、高 速 ・ 高 圧で 溶 融 アル ミ を射 出し 、 凝 固さ せ て鋳 造品 を 生 産す る が、 高速 で あ る が故 に 空 気や 介 在物 を巻 き 込 み、 ま た注 湯過 程 、 流動 過 程で 凝固 が 進 行 し湯 回 り 不良 、 凝固 収縮 に よ り厚 肉 部に 収縮 巣 が 発生 す ると いう 品 質 的 問題 が あ る。 そ こで 近年 、 更 なる 高 速化 、欠 陥 を 押し つ ぶす ため の 高 圧 化、 減 圧 応用 に よる 巻き 込 み 空気 の 低減 など 改 善 が行 な われ てい る が 、 品質 向 上 は不 十 分で あり 、 ま たデ メ リッ トと し て 金型 や ダイ カス ト マ シ ンが複雑、高価になるという欠点がある。 本事 業 で は、 逆 に 低 速・ 低 圧 化に よ り 、 これ ら の 問題 を 解 決 する こ と を目 標 と する 。 その ため に 電 動サ ー ボの 制御 性 ・ コン パ クト さ・ 省 エ ネ ルギ ー の メリ ッ トを 活か し 、 単数 あ るい は 複 数 の 小型 電 動 サ ーボ シ リ ン 2 ダー を 最 適位 置 に配 置し 、 低 速低 圧 で射 出す る こ とに よ り高 品質 ダ イ カ ストを可能にする方法を開発した。 1.2 研究体制 図 1.4 に示すように、本事業の総括事業代表者(プロジェクトリーダー:P L)を中心として、企業、県および法人との間で互いに緊密な連携関係を構築 して、本事業を推進していく。 なお、研究者および連絡窓口等を表 1.1 に示す。 高須工業株式会社 公立大学法人高知工科大学 PL 高知県工業技術センター 株式会社 財団法人高知県産業振興センター 図 1.4 表 1.1 機関名 研究体制 研究機関と主な役割 研究代表等・連絡先 主な役割 総括事業代表者 (高知工科大学) 大塚幸男 TEL:0887-57-2316 FAX:0887-57-2320 E-mail:[email protected] 研究開発事業全体の 統括 高須工業株式会社 三谷信夫、池本義郎、濱田正雄、富田眞仁、 永野誠 TEL:088-866-0666 FAX:088-866-0511 E-mail:[email protected] ・無欠陥ダイカスト マシンの開発 ・自動車、農業機械 用アルミ軽量化部品 の開発 3 公立大学法人 高知工科大学 大塚幸男 TEL:0887-57-2316 FAX:0887-57-2320 E-mail:[email protected] ・無欠陥ダイカスト マシンの開発 ・自動車、農業機械 用アルミ軽量化部品 の開発 ・自動車用アルミ大 型一体化部品の開発 高知県工業技術センター 眞鍋豊士 TEL:088-846-1111 FAX:088-845-9111 E-mail:[email protected] ・無欠陥ダイカスト マシンの開発 ・自動車、農業機械 用アルミ軽量化部品 の開発 高知県産業振興センター (事業管理機関) 田村義之、西村路 TEL:088-845-6600 FAX:088-846-2556 E-mail:[email protected] [email protected] 本事業のコーディネ ートおよび進捗管理 連絡窓口 公益財団法人高知県産業振興センター (担当:西村、田村) 連絡先:TEL:088-845-6600 FAX:088-846-2556 1.3 成果概要 (1)従前の金型開閉手動式のシングル電動サーボ射出マシンを用いて、薄 肉平板の鋳造実験を行い、各種ノウハウを確立した。 (2)量産時の高い稼働率を狙って〔金型迅速交換機能、開閉機構を持つマ シン〕+〔射出、加圧・押し出し機構、真空、型温調整機能を備えた農業機械 用フライホイール金型〕を組み合わせたコンパクト・シンプルなシングルサー ボ射出マシンを考案し、設計製作後、実験工場に導入し、フライホイールの鋳 造実験を開始した。射出系や真空系などの改良を行い、順調に可動できるよう になり、その品質を確保した。 (3)従来法による自動車用アルミシャシー、ボディ部品の材質調査を行い、 引張強度、伸びとも、アルミ鍛造>スクイズダイカスト>真空ダイカストであ ることが確認できた。特に従来ダイカスト品は、品質のばらつきが大きく、鋳 4 造欠陥を減らすことにより、鍛造に近い強度・伸びが期待できることがわかっ た。 (4)新しいマルチサーボ射出マシンの構造検討を行い、2基の射出サーボ と加圧押し出しサーボを持つマシンを設計製作した。鋳造部品としては、自動 車用シャシー部品であるリアアッパーアームの金型を設計製作し、鋳造実験を 行い、マシンの改良を行い、品質確保を行った。 (5)大型薄肉一体化部品として小型電気自動車のリアドアへの展開を検討 し、マルチ射出マシンでの方案を鋳造CAEで決定し、金型設計製作を行った。 金型完成後、鋳造実験および各種条件の最適化を行い、品質の確保ができた。 1.4 当該研究開発の連絡窓口 大塚幸男(公立大学法人高知工科大学) TEL:0887-57-2316 FAX:0887-57-2320 E-mail:[email protected] 5 第2章 研究開発の経緯 平成21年度ものづくり中小企業製品開発等支援補助金(試作開発等支援事 業)により、将来、軽量なアルミ部品を低コストで量産すべく、高知工科大学 の開発した、従来ダイカストの問題点(高価な型、設備、品質不安定)を解決 できうる次世代アルミダイカスト鋳造技術をベースに、その生産ノウハウを得 るための基礎実験用金型、および基礎実験装置(金型手動開閉式、シングル電 動サーボ射出)の設計製作を行い、基礎研究開発を進めてきた。 6 第3章 研究開発の経過 平成21年度においては、新アルミダイカスト基本技術の基礎研究開発のた めに、アルミ鋳造品の試作金型および射出装置を作成し実験を行った。開発し た金型装置は、射出装置が一基(シングルサーボ射出)で、平板試験品、およ びアーム形状試験品のダイカスト製品が試作可能なものであった。しかしなが ら、この基礎実験装置は、ほとんどが手動式で、量産実験ができなかった。そ こで本開発テーマ「無欠陥ダイカスト技術の開発と高強度・高機能・薄肉アル ミ製品の実用化」として、平成22年度においては、対象部品として農業機械 エンジン用のフライホイールを取り上げ、量産実験を実施できる新ダイカスト マシンを設計製作し、実験を開始した。まずは、この新ダイカストマシンでの 技術確立を推進してきた。さらに将来、本格的な事業化を図る場合、この新ダ イカスト技術の利点を発揮しやすい無欠陥・高品質・大型部品への展開を考え、 平成23年度においては、射出装置のマルチ化、加圧・押し出し機構の開発を 行い、自動車用のシャシー部品であるリアアッパーアームの試作を行った。さ らに平成24年度については更なる大型薄肉部品として小型電気自動車のド ア部品の開発を行った。 7 第4章 4.1 無欠陥ダイカストマシンの開発 はじめに 従来 技 術 のダ イ カ ス トに お い ては 、 高 速 高圧 で 溶 融ア ル ミ を 射出 し 、 凝固 さ せ て鋳 造 品を 生産 す る が、 高 速で ある が 故 に空 気 や介 在物 を 巻 き 込み 、 ま た注 湯 過程 、流 動 過 程で 凝 固が 進行 し 湯 回り 不 良、 凝固 収 縮 に より 厚 肉 部に 収 縮巣 が発 生 す ると い う品 質的 問 題 があ る 。そ こで 近 年 、 更な る 高 速化 、 欠陥 を押 し つ ぶす た めの 高圧 化 、 減圧 応 用に よる 巻 き 込 み空 気 の 低減 な ど改 善が 行 な われ て いる が、 品 質 向上 は 不十 分で あ り 、 また デ メ リッ ト とし て金 型 や ダイ カ スト マシ ン が 複雑 、 高価 にな る と い う 欠 点 がある(図 4.1)。 そこで欠陥のないダイカストを低コストで可能にするオリジナル無欠陥ダ イカスト法(図 4.2)を実用化する。(装置コスト半減を目標とする。) 真空バルブユニット 射出サーボ(複数) 射出装置(油圧) 図 4.1 従来の真空ダイカスト 図 4.2 射出サーボ(複数) 本開発の新ダイカスト その基本的な技術ポイントを以下に示す。 ・流動必要距離を短くするために、複数の 電動サーボシリンダーを最適位置 に配置し射出することにより低速・低圧射出でも湯回り不良を無くす。 ・高真空により空気巻き込みを皆無とする。 ・凝固収縮を補うために小型電動サーボにより凝固遅れ部位を加圧するこ とにより収縮巣を無くす。等 8 4.2 シングルサーボ射出マシンの開発 4.2.1 従前の実験装置を用いたA2サイズの平板テストピースの実験 従前の手動金型開閉式・シングル電動サーボ射出実験装置(図 4.3)を用 い、無欠陥ダイカストを実現するための実験を行うとともに、実用化に向け た知見を得るために、電動サーボによる精密射出制御、超高真空の実現、 凝 固 遅 れ 部 位 の 加 圧 制 御 、 さ ら に は 特 殊 離 型 剤 、 金 型 温 度 制 御 、 等に ついて試験、評価を行った 。高須工業㈱が、鋳造試験および装置改良を担 当し、高知工科大学が金型温度等の各種測定、鋳造品のシミュレーションお よび実機評価、高知県立工業技術センターが鋳造品の欠陥検査、鋳造組織、 機械特性、成分測定等の試験評価を実施した。 電動サーボによる射出制御、金型温度、真空度などの各要素技術実験を行 い、薄平板の品質向上が可能となった(図 4.4)。特に離型剤、金型表面性状 の効果、射出速度、金型温度管理、射出スリーブ・チップかじり対策などが 重要であることがわかり、湯回り不良欠陥を減少させることができた。この 従前装置で得られた知見を新開発ダイカストマシンに展開した。 図 4.3 基 礎 実 験 装 置 図 4.4 試 作 ダイカスト品 の写 真 例 (試 作 品 の2mm厚 x600mmx400mm) 4.2.2 新シングルサーボマシン設計・製作 従前装置の実験より得た知見をもとに、量産化可能なダイカストマシンの 構想検討を行った。量産時の高い稼働率を狙って〔金型迅速交換機能、開閉 9 機構を持つマシン〕+〔射出、加圧・押し出し機構、真空、型温調整機能を 備えた金型〕を組み合わせたコンパクト・シンプルなマシンを考案し、マシ ンメーカーで詳細設計を行い、製作後マシンメーカーでの立ち合い確認後、 実験工場(図 4.5、高須工業㈱/H23年2月15日)に導入した。後述(5.3) のフライホイール金型により、射出鋳造実験を行った。 図 4.5 開発した実験装置 導入後の問題点として、射出速度や真空能力などに問題があり、以下の具体 的な対策を行った。 (1)射出速度の安定化 ・射出サージ圧対策として、高速―低速の切り替え、圧力制御するプログラ ムを考案 (2)真空能力の向上 ・新方式の真空法開発、真空能力の増強により、真空度、吸引時間改良 (3)溶湯温度低下防止 ・湯温、注湯方法、スリーブ改良、各種潤滑剤などを実験し対策 これらの改善、および各種鋳造条件(射出速度、鋳造サイクル、金型温度管理 など)の最適化により鋳造品の品質確保を推進した。 10 4.3 マルチサーボ射出マシンの開発 新シングルサーボマシンの構想検討を進める際に、マルチサーボ射出にも対 応可能な金型構造、マシン構造を考案した。マルチ射出機構を、上記新シング ルマシンにセットすることにより容易にマルチ射出が可能となった。H23年 度においては、複数の射出機構(2基)が可能となるアームの金型を設計製作 し、新シングルマシンにマルチ射出の電気系の制御回路を追加することにより 対応した(H24.2.16導入)。また、加圧・押し出しのためのサーボも 追加し、加圧・押し出しを可能とした。さらにH24年度には大型薄肉部品ド ア金型へ展開し、マルチ射出マシンの更なる改良をおこない、その技術確立が できた。 4.4 まとめと今後の課題 (1)従前のシングル電動射出シングル射出マシンを用いて、薄肉平板の鋳 造実験を行い、各種不良を改善し、各種ノウハウを確立できた。 (2)新しいシングル射出マシンの設計製作を行い、実験工場に導入し、鋳 造実験を行った。フライホイール金型を用いて、射出の安定化、真空能力の向 上などを行い、順調に鋳造実験を進めることができた。 (3)2基の射出機構と加圧押し出し機構を持つ新しいマルチ射出マシンの 設計製作を行い実験工場に導入した。アーム金型を用いてその制御方法等につ いて開発を進めた。 (4)大型薄肉部品ドア金型への展開を行い、マルチ射出マシンの更なる改 良おこない、その基本技術の確立ができた。 (5)今後の課題としては、新ダイカストマシンの生産性、作業性の更なる 改善、周辺設備の整備を行うとともに、自動車部品メーカー、農機メーカーへ の新ダイカストマシンのPRを行う。 11 第5章 5.1 自動車、農業機械用のアルミ軽量化部品の開発 はじめに 農業機械用エンジン部品であるフライホイールを取り上げ、従来品(重力鋳 造品)の品質、強度を調査した。次に、前記、新開発のシングル射出マシンで 鋳造可能とすべく、新ダイカスト金型設計を行い、金型メーカーにて製作し鋳 造実験を行い、品質改善を図った。 5.2 農機用フライホイールの材質調査 農機用フライホールの材質調査:農機用エンジン部品であるフライホールに ついて、従来品(重力鋳造品)の品質調査を実施した(図 5.1)。大きな欠陥は、 見当たらなかったが、重力鋳造法であるため、微細な引け巣(ポロシティ)が 観察された。材料強度は、AC4C―T6基準(引張強度225N/mm 2、 伸び3%)以上であった。 図 5.1 5.3 従来法(高須工業)フライホイール機械加工品 農機用フライホイールの金型設計製作 上記、新開発のシングル射出マシンで鋳造可能とすべく、従来法よりも加工 代を少なく(3mm⇒1.5mm)した形状で、金型構想設計を行い、マシン メーカーにて製作し(図 5.3)、鋳造実験を行った。図 5.4 に示すように、鋳造 形状は概略でき、その後鋳造条件最適化を進めた。 12 図5.2 フライホイール金型 図5.3 フライホイール粗材 また並行して、本フライホイールの鋳造シミュレーションを実施した。 図 5.4、図 5.5 のように、巻き込み欠陥、および引け巣欠陥が予想されるた め、以下の対策を行った。 巻き込み (A)湯回り不良 図 5.4 引け巣予測 予測 湯流れCAE結果例 図 5.5 (高速化すると巻き込み欠陥予測) 凝固CAE結果例 (厚肉部にひけ巣発生) ・射出速度の安定化 ⇒マシン射出能力向上、及びプランジャー速度安定化等により対策で きた 13 ・ 真空度の向上 ⇒新方式真空法考案、及び真空能力の増強により改良した。 ・ 射出~充填までの温度低下防止 ⇒注湯方法、スリーブ改良、各種潤滑、離型剤などを実験し、対策で きた。 (B)引け巣 ⇒指向性凝固の確保(均肉形状、方案の変更実施)及び、加圧力の安 定化を実施 以上の対策により湯回り、ガス巻込不良はなくなり大幅な品質向上ができた。 試加工を行ったところ、厚肉部に微小な引け巣があることがわかったが、今後 主として加圧力の安定化で対策可能と考えられる。また実験後、T6熱処理し た粗材から切り出した引っ張り試験片の材料強度は、AC4C―T6基準(2 25N/mm2、3%)をクリアーできた。 5.4 自動車用アーム金型の設計製作及び鋳造実験 アルミシャシー部品として、市販鋳造品(フロントナックル、サスペンショ ンメンバー、リアキャリア等)、鍛造品(アッパーアーム、ロアーアーム等) の品質レベルを明らかにすべく、材質調査(X線、引っ張り強度、衝撃強度、 成分、硬さ、ミクロ組織など)を実施した。図 5.6 からわかるように、引っ張 り強度、伸びとも、鍛造>スクイズダイカスト>真空ダイカストの順に低下し、 ばらつきも悪化することがわかる。したがって、本開発のダイカスト法により、 鋳造欠陥を無くすことにより、鍛造に近い、ばらつきの少ない高強度・高伸び の材料特性が期待できることがわかった。 これらより今後のターゲットとして、その形状の複雑さや複数の射出シリン ダーを生かせる部品として市販車と同形状のリアアッパーアームを決定した。 14 450 引張強度(N/mm2) 400 350 鍛 造 300 鍛造 250 S Q ダ イ カス ト 真空ダイカスト 200 Frアッパーアーム シートバックサポート Frハイマウントナックル Frロアアーム Frサスメンバー 150 100 50 0 0 5 10 15 20 伸び(%) 図 5.6 アルミシャシー部品の引張強度・伸びの調査結果 選定したリアアッパーアームを3Dスキャンし、その外形形状データからC ADモデルを作成した。その後、方案設計を行い、湯流れ・凝固の解析(図 5.7、 図 5.8)を行い、充填・凝固状況を確認し、金型製作を行った。 図 5.7 湯流れ解析CAE結果例 図 5.8 凝固解析CAE結果例 その鋳造実験を行ったところ、湯回りや巻き込み不良はなかった。しかしなが ら、シミュレーションでも予測された中央ボス部の凝固遅れにより、ボス部に ひけ巣が発生した。押し湯加圧経路を確保できるようにボス部とビスケット部 の間の肉厚を上げることにより、ひけ巣サイズは小さくなることがわかり、実 15 用上問題ないレベルに低減できた。図 5.9 にアーム粗材の写真を示す。 図 5.9 アーム実験結果素材 5.5 まとめと今後の課題 ①従来法(重力鋳造法)の農機用エンジンのアルミフライホイールの材質調 査を行い、微小引け巣や材料強度のレベルを確認した。 ②従来法よりも機械加工代を半減した形状で、農機用フライホイールの新開 発ダイカスト用の金型を設計製作し、鋳造実験を行った。湯回り不良や巻き込 み不良については各種鋳造条件を見直し、品質向上させることができ、材料強 度も基準を満足するレベルが確認できた。 ③自動車用のアルミシャシー部品の材質調査を行い、引っ張り強度、伸びと も、アルミ鍛造>スクイズダイカスト>真空ダイカストであることが確認でき た。特に従来ダイカスト品は、品質のばらつきが大きく、鋳造欠陥を減らすこ とにより、鍛造に近い強度・伸びが期待できることがわかった。 ④自動車用シャシー部品であるリアアッパーアームをターゲットとして決 定し、複数(2本)の射出シリンダーによる方案を検討し、シミュレーション を行い湯道や押し湯方案を決め、金型を作成し鋳造実験を行った。この金型で 品質の決め込みを行った、その結果湯回りや巻き込みはなくなった。一方、ボ ス部に引け巣があったが、押し湯加圧経路の確保により実用上問題ないレベル に改善できた。 16 ⑤今後の課題としては、実際の農機部品メーカー、あるいは自動車部品メー カーへダイカスト部品を納入すべく、技術PR・試作受託から始め、少量生産、 量産に結びつける。 17 第6章 6.1 自動車用アルミ大型化一体化部品の開発 はじめに 市販自動車で比較的大型薄肉のダイカスト品を購入し、その設計方法、 品 質、 材 料 特性 等 を 調 査す る 。 次に 、 具 体 的に 小 型 電気 自 動 車 にお い て の アル ミ ボ ディ 部 品 と して リ ア ドア を 選 定 し、 金 型 を設 計 製 作 し、 軽 量 薄 肉ボ デ ィ部品のダイカスト製造法 を確立する。 6.2 自動車用アルミボディ部品の調査 アルミボディ部品として市販鋳造品(ドア、シートバックフレーム等)の材 質調査(X線による内部欠陥、引っ張り強度、成分など)を実施した。図 6.1 に示すように、従来法での薄肉ダイカスト品は、引け巣や介在物不良があり、 それにより強度や伸びが低下している。特に大型、複雑形状の難造品のため、 前述のシャシー部品に比べると材料強度はそれほど高くない。これらボディ部 品調査結果より、ターゲットとして下記の小型電機自動車のドア部品を選定し た。 450 400 350 300 250 200 150 100 シートバックF(真空DC) 50 ドアインナー(真空DC) 0 0 図 6.1 5 10 15 20 アルミボディ部品と引張強度と伸び実験結果 18 6.3 ターゲット部品の検討 新マルチサーボマシンに搭載可能な金型サイズは最大600mmx500 mm、その射出シリンダーは2基であり、注湯量は最大16kgとなる。この サイズと注湯量に収まるような大型部品の検討を行った。候補としては、サス ペンションメンバー、シートフレーム、ドアなどが考えられたが、本プロセス のメリットを活かせ、かつPR効果の大きな部品としてドア部品を選定し、具 体的には小型電気自動車(試作車)のリアドア(600mm幅x450mm高 さx2~2.5mm肉厚)を選定し、各種方案・条件でのシミュレーション(図 6.2、図 6.3)を行い、方案を決め込み、金型製作を行った。 図 6.2 ドア鋳造方案例 図 6.3 CAE結果例(充填時温度) 鋳造実験においては、大型薄肉品のため、当初湯回り不良が発生したが、金型 温度の確保のため、ヒータ、ガスバーナーの改良を行い、また各種離型剤の最 適化を行い、外観品質を確保することができた。図 6.4 に鋳造した粗材の写真 を示す。 図 6.4 鋳造したドア部品粗材 19 6.4 まとめと今後の課題 ①従来法で作られたアルミ大型一体化された薄肉品(市販品)の材質調査し た結果、難造品といわれるように、シャシー部品に比べると、ひけ巣や介在物 が多く、強度や伸びは高くないことが確認できた。 ②大型薄肉部品として小型電気自動車(試作車)のリアドアへの展開を検討 し、マルチ射出マシンでの方案を鋳造CAEで決定し、金型設計製作を行った。 金型完成後、鋳造実験を行い、各種条件の最適化を行い、品質の確保ができた。 ③今後、本開発プロセスでの試験品の材料強度などの確認を進め、自動車部 品メーカー、農機部品メーカーへの技術PR、試作受託など行い、実生産につ なげる。 20 第7章 全体総括 (1)従前の手動式シングル射出マシンを用いて、薄肉平板の鋳造実験を行 い、各種ノウハウを確立した。 (2)量産時の高い稼働率を狙って〔金型迅速交換機能、開閉機構を持つマ シン〕+〔射出、加圧・押し出し機構、真空、型温調整機能を備えた農業機械 用フライホイール金型〕を組み合わせたコンパクト・シンプルなシングルサー ボ射出マシンを考案し、設計製作後、実験工場に導入し、フライホイールの鋳 造実験を開始した。射出系や真空系などの改良を行い、順調に可動できるよう になり、シングル射出マシンの技術確立ができた。 (3)従来法による自動車用アルミシャシー、ボディ部品の材質調査を行い、 引張強度、伸びとも、アルミ鍛造>スクイズダイカスト>真空ダイカストであ ることが確認できた。特に従来ダイカスト品は、品質のばらつきが大きく、鋳 造欠陥を減らすことにより、鍛造に近い強度・伸びが期待できることがわかっ た。 (4)新しいマルチ射出マシンの構造検討を行い、2基の射出サーボと加圧 押し出しサーボを持つマシンを設計製作した。部品としては、自動車用シャシ ー部品であるリアアッパーアームの金型を設計製作し、鋳造実験を行い、マシ ンの改良を行い、2基サーボ射出マシンの性能確保ができた。また、アームの 品質も実用上問題ないレベルに向上できた。 (5)大型薄肉部品として小型電気自動車のリアドアへの展開を検討し、マ ルチ射出マシン(2基サーボ)での方案を鋳造CAEで決定し、金型設計製作 を行った。金型完成後、鋳造実験を行い、マシンのレベルアップと各種条件の 最適化を行い、品質の確保ができた。 (6)今後の進め方としては、農機部品メーカー及び自動車部品メーカー等 への技術PRを行い、アルミダイカスト部品の試作受託からスタートし、将来 の少量生産、量産への展開をはかる。 21