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建築土木用CF長繊維入りセメント板の研究開発
1997.C.6.1.2 建築土木用CF長繊維入りセメント板の研究開発 (CFセメント板材料グループ) 横浜第36研究室 大島 昭夫、黒埼 平野 登、伊原 喜久夫、坂本 賢義 啓裕 中原第34研究室 山田 隆、毎熊 磯山 正 宏則、林田 道弥、吉住 俊彦 1.試験研究の内容 重質残油を原料とするピッチから得られる炭素繊維(以下CFと略す)は、汎用のPAN系C Fに比べ、高弾性率を発現しやすく、変形が小さいことが特長である。この特長を活かした建築 土木用途には、例えば橋梁、橋脚等の埋め込み型枠、高速道路・鉄道等の側壁、遮音壁、海洋構 造物の表装板および建築分野の永久型枠等があり、これらに使用可能なピッチ系CFの特長を活 かすため、高靱性(I 10 =1.3)、高強度(20MPa)、軽量薄型(50mm、100kg/ m 2 )のCF長繊維・セメント複合材を開発し、その実用性を実証する。このため、以下の項目を 目標に検討した。 (1)重質油から得られるピッチ系炭素繊維筋材用樹脂配合の研究開発 効率的成形用樹脂最適配合条件の検討と評価 (2)重質油から得られるピッチ系炭素繊維筋材用セメントマトリックスの研究開発 (イ)押出し成形用セメントマトリックスの基本配合設計と評価 (ロ)筋材との複合化特性の評価 (3)重質油から得られるピッチ系炭素繊維筋材と適合セメントマトリックスの複合化研究開発 短幅金型による筋材、セメントマトリックスの押出実験と評価 1.1 CFRPセメント複合材適用樹脂の研究開発 1.1.1 効率的成形用樹脂配合の研究開発 CFRP筋材(CF筋材)を強化物とするセメント板の製造において、硬化済みのCF筋材をセ メントマトリックスとともに押出成形する従来の手法に対し、未硬化樹脂をCFに含浸させたC F筋材プリフォームを製造し、その後セメントマトリックスとともに押出成形し、セメントの養 生条件で硬化するような樹脂およびCF筋材プリフォームの開発を行う。 新規手法により達成可能な成形の効率化としては、CF筋材とセメントマトリックスを同時に 硬化することによるプロセスの短縮化と連続化等が挙げられるが、一次養生条件では硬化する樹 脂配合を見いだしたが、最終的に得られたセメント板の物性が不十分なため、一次養生条件で硬 化する樹脂配合は断念した。そこで本年度はセメント物性の向上が期待できる二次養生条件、す なわち180゚C以上の耐熱性を有する樹脂開発を行った。 ピッチ系CFを樹脂含浸し、合糸後、ポリプロピレン繊維によりブレーディングし、硬化した 筋材を押出成形によりセメント板中に挿入しながら、CF長繊維入りセメント板を得るプロセス を図1.1−1に示す。 ピ ッ チ 系 C F ト ウ ( 束 ) 1 0 μ m φ × 3 , 0 00本 (3K) 樹 脂含浸 合 糸 3 ,000本 (3K ) × 2 0 束 3.1mmφ P Pブレーデ ィング 硬化 1)ボ イ ド の 低 減 2 )セメント とのアン カー効果 セメント養 生 時 に硬 化 (本 開 発 研 究 ) C F 筋 材 L = 500mm C F セメ ン ト 複 合 材 図1.1−1 CF強化セメント材料の製造プロセス 1.2 炭素繊維筋材用セメントの研究開発 1.2.1 押出成形用セメントマトリックスの基本設計と評価 高強度、高靭性(I 10 =1.3)かつ軽量(比重2.0以下)で押出成形性の良好なセメントマトリック スの開発を目標として本年度はポリプロピレン繊維が靱性に与える影響を検討した。さらに、骨 材/セメントの粒子径・配合比のセメントマトリックスの靱性・強度への影響を検討した。 本研究では補強繊維として発がん性などの問題がないポリプロピレン繊維を選定し、押出成形 用マトリックスの開発を進めた。マトリックスの開発は、当初スクリュー径70mmの小型押出 試験機を使用し、ラボベースでマトリックスの押出性、成形性を評価した。次に、押出成形した セメントマトリックスをオートクレーブ(AC)を用いて高温高圧で硬化させ、曲げ試験等を実施 して強度特性を評価し、当面の研究用配合を確定した。 1.2.2 筋材との複合化特性の評価 筋材とセメントマトリックス複合化特性を評価するには、補強すべきピッチ系炭素繊維素線と セメントマトリックスとの相性を明らかにすることが肝要である。 ピッチ系炭素繊維素線としては、すでに市販されている素線の中から、本テーマで開発する複 合化セメント板の厚みとの整合性をはかり3.1mmφを目標に選定した。次いで、選定したピ ッチ系炭素繊維素線とセメントマトリックスの複合体をラボベースで作成し、接着性を評価する ため引き抜き試験を実施した。 1.3 CFRP筋材と適合マトリックスとの複合化研究 CFRPとセメントマトリックスとの複合化を図りCFの特性を確実に発揮させるためには、 複合体の製造方式選定が極めて重要である。一般に、セメント板を製造する方法として、流し込 み成形法、プレス成形法、押出成形法等があるが、CF等の補強筋材を連続的に挿入でき、生産 性に優れたフレキシブルな生産工程が適用でき、加圧成形可能な押出方式を選定し、成形条件の 検討を行った。 押出方式による建築土木用セメント板製造工程を図1.3−1に示す。図中には、本開発テー マで開発すべき要素技術項目も示している。 は、本テーマでの重要開発項目 セメント原料配合 CF長繊維 混練 挿入技術 CF入り建築土木用セメント板製品 図1.3ー1 定量切出 真空押し出し機 2次養生工程 金型 製品引取り 1次養生工程 押出方式におけるCF入りセメント板製造工程 1.4 CFRP長繊維入りセメント板の特性評価 金型で成形したCF長繊維入りセメント板を、橋梁、橋脚、建築物などの永久型枠、道路、鉄 道などの遮音板、海洋構造物に適用するため、曲げ強度特性の評価を行った。 1.5 複合材の特性安定化および製造技術の最適化研究 押出成形プロセスで製造するCFRP筋材入りセメント板の力学特性の安定化を計るため、養 生方法・加工方法の検討を行った。この場合、CF筋材とセメントとの接着性や複合体としての 強度特性が発揮できる二次養生温度、時間、圧力等の操業条件を明確にすることが必要である。 2. 試験研究の結果と解析 2.1 CFRP筋材適用樹脂の開発 2.1.1 効率的成形樹脂配合の検討 本年度は、セメント2次養生の温度を現状の150℃から、物性向上が期待できる180℃に 上げるため、180℃以上の耐熱性を有する樹脂の開発を重点に置いて検討した。多官能エポキ シ樹脂と耐熱性硬化剤を組み合わせることにより、ガラス転移温度(Tg)が200゚Cを越える 配合を開発した。この配合を用い、CFRP板を成形し、高温アルカリ処理を行い、図2.1− 1に示す処理前後における粘弾性挙動に大きな変化が見られないことを確認し、これを最終配合 として選定した。(表2.1−1)これらの配合は樹脂含浸時、40゚Cにおいても安定であるこ とを確認した。(図2.1−3)また、低温硬化剤を用いた樹脂配合と今回開発した耐熱性樹脂 配合の硬化時の粘度挙動を図2.1−2に示す。 現在、もう一つの目標である無溶剤含浸について、炭素繊維トウのK数との関係および、加熱 含浸と貯蔵安定性との関係を含浸プロセスも含め検討中である。 表2.1−1 配合 検討配合の性状 主使用樹脂 硬化剤 粘度 硬化性 耐熱性 安定性 1−1 ビスフェノール型 潜在性低温硬化アミン △ ○ × ◎ 1−2 低粘度多官能型 潜在性低温硬化アミン ○ △ △ ◎ 2−1 低粘度多官能型 潜在性アミン ○ × △ ◎ 3−1 ビスフェノール型 耐熱性アミン △ × ○ △ 3−2 低粘度多官能型 耐熱性アミン ○ × ◎ △ 注:平成7年度検討結果を含む 10 2 10 2 10 1 10 0 10 -1 10 -2 10 -3 10 10 1 0 0 50 100 150 200 250 温度 ℃ 図2.1−1 10 2 10 1 10 0 10 -1 10 -2 CFRP板のの昇温粘弾性曲線 粘 度 Pa・s 潜在性低温硬化アミン硬化剤系 0 耐熱性アミン硬化剤系 20 40 60 80 100 120 140 温度 ℃ 図2.1−2 樹脂の昇温粘度曲線(2゚C/min) 160 tanδ 弾 性 率 GPa アル カリ 処 理 前 アル カリ 処 理 後 10 3 50 温度 40 30 10 1 潜在性低 温硬化アミン硬化剤系 20 耐熱性アミン硬化剤系 10 粘度 10 0 10- 1 0 1 2 3 4 5 6 0 時間 h 図2.1−3 樹脂の40゚C定温粘度曲線(加熱時安定性評価) (2℃/min→40℃昇温後40℃保持) 現在までの検討結果を表2.3−2にまとめた。 表2.1−2 現在までの検討結果 開発項目 開発目標 現状 無溶剤含浸 低粘度化 40℃加熱で可能 加熱時安定性 含浸時粘度2Pa・s以下 加熱時の安定性が課題 限界K数把握 1次養生時 低温硬化 不可能(断念) 同時硬化 (60℃,6h硬化可能) 180℃2次養生 最終硬化時 耐熱性180℃以上 注:平成7年度検討結果を含む 可能(達成) 今後 温度 ℃ 粘 度 Pa・s 10 2 2.2 CFRP筋材用セメントの研究開発 2.2.1 押出成形用の基本設計と評価 セメントマトリックス の靱性に、ポリプロピレン繊維が与える影響を明らかにした。次に、 骨材/セメントの粒子径・配合比が、セメントマトリックスの靱性・強度に及ぼす影響を明らか とするため、粒子径10∼20μm、骨材/セメントの配合比1.0∼1.5の範囲で検討を行い、 粒子径、骨材/セメント配合比の最適値を明らかにした。 2.2.2 筋材との複合化特性の評価 CFRP筋材の選定を行うため、直径3.1φのCFRP筋材のブレーディング形状を変化させ、 接着強度を引き抜き試験により評価した。その結果、最適なブレーディング形状を明らかにし、 セメントマトリックスとの付着強度が、10MPa以上ある炭素繊維筋材を開発した。図2.2 −1および図2.2−2に各種筋材の平均付着強度およびその変動率を示す。この炭素繊維筋材 をセメントマトリックスの補強材として用いた場合、曲げ補強効果に優れることを実験により明 らかにした。 20 B 18 平均 付 着 強 度 MPa 16 14 12 10 8 6 4 2 0 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 図2.2−1 各種筋材の平均付着強度 45 46 47 60 C 50 変動率 % 40 30 20 10 0 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 図2.2−2 各種筋材と平均付着強度の変動率 2.3 CFRP筋材と適合マトリックスとの複合化研究 CFRP筋材を最適な状態でセメントマトリックスと複合化させるため、加圧成形可能な押出 成形を選定し、成形条件と金型の検討を行った。金型については、炭素繊維筋材とセメントマト リックスとの複合化特性に最も影響を与えるため、炭素繊維筋材挿入方法などの基礎的な設計を 完了した。この金型を使用して、CFRP筋材とセメントマトリックスとを複合化したセメント 板の押出成形実験を行い、以下の項目を明らかにした。 2.3.1 セメント混練技術 混練時間とモルタル硬度変化の関係を定量化し、管理基準を明確にした。 2.3.2 CFRP筋材挿入技術 金型にCFRP筋材位置を微調整できる構造を付与することにより、筋材挿入位置を安定化 させた。 2.3.3 押出成形安定化 押出成形圧力、押出成形速度の最適値を実験により明らかにした。 2.3.4 複合材養生技術 押出成形後の変形、収縮を低減する養生条件を確立した。 2.4 CFRP長繊維入りセメント板の特性評価 この金型で成形したCF長繊維入りセメント板を、橋梁、橋脚、建築物などの永久型枠、道路、 鉄道などの遮音板、海洋構造物に適用するため、曲げ強度特性の評価を行った。 曲げ強度特性は、厚さ50mmのCF長繊維入りセメント板を、サポートスパン600mm、 裁荷速度1.0mm/minで4点曲げ試験法により評価した。CFRP筋材(3.1φ)で補強 したセメント板の荷重・たわみ曲線を図2.4−1に示す。 図より、初期クラックが荷重;約17kN(曲げモーメント;5.1kNm)、たわみ;3.7 mmで発生しているが、CFRP筋材の補強効果により荷重31.8kN(曲げモーメント;9. 5kNm)、たわみ;41.3mmまで終局破壊の耐力が向上していることがわかる。これより、 CFRP筋材の引張強度、セメントマトリックスの靱性、およびCFRP筋材とセメントマトリ ックスとの接着強度が良好であることが明らかになった。 2.5 複合材の特性安定化および製造技術の最適化研究 押出成形プロセスで製造するCFRP筋材入りセメント板の力学特性の安定化を計るため、養 生方法・加工方法の検討を行った。養生については、蒸気養生とオートクレーブ養生の組み合わ せにより力学特性が安定することを見いだした。また、加工については、CFRP筋材の加工性 が良いため、複合材の加工性は良好であり、付着特性への影響は小さいことを明らかにした。 3.研究開発の成果 3.1 CF筋材用樹脂の研究開発 CFRPセメント複合材の効率的成形のポイントの一つである、セメント養生条件で同時硬化 可能な樹脂配合については、達成できなかったが、ガラス転移温度が200゚Cを超える配合を選 定できた。 3.2 CF筋材用セメントマトリックスの研究 押出成形用の基本設計と評価により、セメントマトリックス の靱性に、ポリプロピレン繊維が 与える影響、骨材/セメントの粒子径・配合比が、セメントマトリックスの靱性・強度に及ぼす 影響を明らかとした。 3.3 筋材との複合化特性の評価 直径3.1φのCFRP筋材のブレーディング形状を変化させ、接着強度を引き抜き試験により 評価した結果、最適なブレーディング形状を明らかにし、セメントマトリックスとの付着強度が、 10MPa以上ある炭素繊維筋材を開発した。 3.4 CFRP筋材と適合マトリックスとの複合化研究 加圧成形可能な押出成形を選定し、成形条件と金型の検討を行い、さらに、炭素繊維筋材挿入 方法などの基礎的な設計を完了した。この金型を使用して、CFRP筋材とセメントマトリック スとを複合化したセメント板の押出成形実験を行い、セメント混練技術、CFRP筋材挿入技術、 押出成形安定化、複合材養生技術を確立した。 3.5 CFRP長繊維入りセメント板の特性評価 曲げ強度特性の評価を行った結果、曲げ強度特性は、CFRP筋材の補強効果により荷重31. 8kN(曲げモーメント;9.5kNm)、たわみ;41.3mmまで終局破壊の耐力が向上して いることを確認し、CFRP筋材の引張強度、セメントマトリックスの靱性、およびCFRP筋 材とセメントマトリックスとの接着強度が良好であることが明らかになった。 3.6 複合材の特性安定化および製造技術の最適化研究 CFRP筋材入りセメント板の力学特性の安定化を計るため、養生方法・加工方法の検討を行 い、蒸気養生とオートクレーブ養生の組み合わせにより力学特性が安定することを見いだした。 また、加工については、CFRP筋材の加工性が良いため、複合材の加工性は良好であり、付着 特性への影響は小さいことを明らかにした。 4.まとめ 平成8年度は、ピッチ系CF素線とセメントマトリックスを複合化させた建築土木用途セメン ト板の開発を最終目標として、セメントマトリックスとの複合化に適したCF筋材用樹脂の開発、 CF筋材とマトリックスを複合化する配合の開発及びCF筋材と複合化したセメント板の製造技 術確立を目的に開発を推進すると共に、サンプルとして製造したCF複合化セメント板の性状特 性の評価を実施した。 この結果、セメントマトリックスとの複合化に適したCF筋材用樹の開発では、耐熱性を有し、 耐アルカリ性の芳香族アミン系硬化剤を用いた低粘度配合を開発できた。 また、CF筋材とマトリックスを複合化する配合材の開発では、ポリプロピレン繊維の影響、 骨材/セメントの粒子径・配合比を検討し、それらの最適値を明らかにした。また、筋材のブレ ーディング形状の最適化を図り、セメントマトリックスとの付着強度が10MPa以上ある、C F筋材を開発した。さらに、筋材と適合マトリックスとの複合化による押出成形実験より、セメ ント混練技術、筋材挿入技術、押出成形安定化、複合材養生技術を確立した。 一方、CFRP長繊維入りセメント板の曲げ特性評価により、耐力の向上を確認した。靭性値 についてはI 10 指数で3.5以上を達成したことはすでに平成7年度に報告した。 Copyright 1997 Petroleum Energy Center all rights reserved.