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第12回事故調査報告書 - JMA 公益社団法人 日本山岳協会
第12回 山岳遭難事故調査報告書 日本山岳協会遭難対策委員会総会 2015/6/27 文責 青山千彰 国際山岳事故情報の交換調印 • UIAAが進めている山岳事故調査データベース の構築計画に、我が国から参加することになり、 4月10日、その情報交換に調印した。 • 世界で、年間発生する山岳事故は8-10万近く になると推測される。山岳環境が異なる国々で の登山事故には、事故環境特性が反映される。 データベースはこの違いを明らかにしていくだろ う。救助法、登山技術・知識、慣習などの違い は、今後、我が国の安全登山を考えていく上で、 大きな貢献が期待できる 山岳三団体 (日山協、労山、jRO)にお ける事故の経年変化 埋もれる情報と遭対の責務 • 山岳保険を取り扱う、日山協、労山、jRO、日 本山岳会は、いづれも安全登山を目指し、遭 対活動を実施してきた。 • しかし、未だに、遭対活動の担保となる登山 事故の実態が十分に掴めていないケースが 多く、常態化している。特に、死亡事故でさえ、 事故の状況、原因などの情報が掴めていな い。勿論、個人情報であり、事故者家族の心 痛に配慮すれば、致し方ない事ではあるが、 それで良いのだろうか。 2003-2014 日山協、労山、都岳連共催 日山協、労山、都岳連共催 日山協、労山、都岳連共催 日山協、労山、都岳連共催 日山協、労山、都岳連共催 日山協、労山、jRO 日山協、労山、jRO 日山協、労山、jRO 日山協、労山、jRO 日山協、労山 日山協、労山 日山協、労山、jRO 年度 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 会員数 事故者数 59428 65238 68430 70417 73448 73668 79390 85454 89751 74405 74835 110516 528 420 446 479 516 527 530 574 628 613 703 850 死亡 者数 23 11 28 31 24 22 37 18 21 18 31 38 アンケート 会員事故 会員死亡 死亡/事 回収率(%) 回答数 発生頻度 発生頻度 故者(%) 199 169 96 230 211 247 156 196 214 214 220 221 37.7 40.2 21.5 48.0 40.9 46.9 29.4 34.1 34.1 34.9 31.3 26.0 8.9.E-03 6.4.E-03 6.5.E-03 6.8.E-03 7.0.E-03 7.2.E-03 6.7.E-03 6.7.E-03 7.0.E-03 8.2.E-03 9.4.E-03 7.7.E-03 3.9.E-04 1.7.E-04 4.1.E-04 4.4.E-04 3.3.E-04 3.0.E-04 4.7.E-04 2.1.E-04 2.3.E-04 2.4.E-04 4.1.E-04 3.4.E-04 4.4 2.6 6.3 6.5 4.7 4.2 7.0 3.1 3.3 2.9 4.4 4.5 JROの参加により、会員数は11万人、事故者数850人(登山関係7 50)となった。実際にどの程度、関係しているのか分からないが、 警察事故総数2794に対し750は非常に多いと思われる 600 年度 500 事故者数 400 300 200 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 会員数 33003 38534 41089 42545 44666 46728 48818 51352 51542 53933 54409 55197 事故者数 171 103 90 148 174 222 246 262 335 307 396 505 100 0 30000 35000 40000 会員5.5万人に対し500 名を超えた。共済会によ れば、傷害保険のため、 その内、約400名程度が 山岳遭難事故とのこと 45000 50000 55000 60000 会員数 日山協における会員増と事故者増との相関性 600 日山協 事故者数 500 505 死亡者数 該当数 400 300 396 警察データに確実に登録されてい るのが3団体死亡の38/311人 (12.2%)である。 335 307 222 200 0 2002 148 103 5 262 174 171 100 246 5 2004 90 10 14 2006 9 12 2008 12 13 2010 10 8 2012 19 17 2014 日山協の事故者数の増加に対し、公益社団法人として、どのような 対策が考えられるのか。早急に検討する必要がある 警察データの中身とは 警察の2014年データでは、2749人の事故者総 数であった。この数値は警察/消防が出動した事例 のみ事故者数にカウントものである。 山岳団体会員事故はどの程度含まれているので あろうか? 今、3団体事故調査で、事故後警察・ 消防に届けた回答者679人(/2544人)の割合を参 考にすると、2014年度;850(山750程度)事故者の 内、200人程度が警察データに登録(7.3%)されて いることになる。そうなると、公的に記録された事故 者数は、併せて3299人となる。勿論無届けは1万 人とも言われるが、調査不能である。 2014年 警察庁の事故データ 本データは、毎年6月末に公表され る警察庁の事故統計を基に、再解 析後・データ加工したものである。 警察 2014年の事故統計の特徴 • 依然、事故者数は右肩上がりの増加を続けて いるが、70歳への高齢化シフトによりやや増 加率が落ちてきた。 • 2014年度の山岳遭難事故統計では、御岳山 での遭難事故者(死者57名、行方不明6名、負 傷59名<含む重傷27)は、自然災害事故で あり、山岳遭難事故としては扱わないとして、 事故統計値からは外されている。<保険問題 • もしこの値122名を入れると、2871名となり、 増加率が落ちてきたとは言えなくなる 発生件数 2500 2749 死・不明 負傷者 2293 無事救出 2000 該当者数 遭難者総数 1442 1500 1000 1041 500 311 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 0 2014年も依然、右肩上がりの増加を続ける。しかし、増加率は緩和してきており、こ の傾向が確かであるのなら、2020年度の頃から減少に転じると予測される 60歳以上50.1% 30歳代 40歳代 11.9 20歳代 10.1 7.9 1 19歳以下 5.5 0% 10% 60歳代 26.6% 50歳代 14.4 70歳代以上 23.5% 中高年 40歳以上 76.4% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 前年度で増加してきた弱年層の事故は少なくなり、 再び高齢者の割合が高くなっている。 90% 100% 35.0 30.0 19歳未満 以下 20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 各世代の事故年齢分布割合の経年変化 60歳代 70歳代以上 60 25.0 70 20.0 50 70歳代 15.0 40 10.0 20 30 19 5.0 2014年は、さらに高齢化し、60歳と70歳世代の差が急速に縮まる傾 向を見せている 2014 2013 2012 2011 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 0.0 山菜採り 渓流つり 作業 観光 写真撮影 山岳信仰 自然観賞 狩猟 その他 11.7 1.1 1.5 3.5 0.7 0.4 0.5 0.1 3.4 登山目的から見た事故は、長い間 登山系:非登山系=7:3 であったが、2014年より、登山系 の割合が増加している 登山 ハイキング スキー登山 沢登り 岩登り 65.4 6.7 2.1 1.5 1.2 滑落 17.9 転倒 14.4 転落 3.2 道迷い 41.6 疲労 5.8 病気 6.7 落石 0.6 雪崩 0.3 落雷 0.0 悪天候 1.5 有毒ガス 0.0 鉄砲水 0.1 熊襲撃 1.7 不明 2.3 その他 3.9 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0 30.0 35.0 40.0 45.0 事故の態様に見る各要因の発生割合は殆ど変わらない。2013における道迷いは 41.8%であった。なお、御岳噴火122名犠牲者を有毒ガスに入れると4.2%となる。 100 事故における携帯電話の利用率(%) 90 80 70 59.8 60 47.7 50 40 62.3 63.6 H22 H23 68.5 70.3 H24 H25 74.4 44.9 38.2 30 20 10 0 H18 H19 H20 H21 H26 事故者総数に及ぼす携帯電話の影響は大きく、今後とも、利用範囲の拡大に伴い、 事故者数を押し上げる大きな要因となっていくと考えられる 世代に占める死者・行方不明者の割合 世代に占める死亡行方不明の割合(%) 18.0 16.0 14.0 12.0 10.0 若い世代(40歳未満) 8.0 中年(40歳以上60歳未満) 6.0 高齢世代(60歳以上) 4.0 2.0 0.0 H22 H23 H24 H25 H26 若年/中年/高年の事故者数に占める、死亡・行方不明の割合は、警察データか ら見る限り、図のように高齢化するほど明確に高くなる傾向を示す。しかし、組 織データからは、異なる傾向が出ており、今後の検討課題となっている 山岳遭難事故データベース からの解析 2015年6月現在、事故データは新しく 225人分が加わり、総計2544人のデー タが登録されている。 新規登録事故者の特徴 • 新たに225人が登録された。その内,死亡者 5名は60歳代、男性4,女性1である。伯耆大 山 六甲山系 氷ノ山 北アルプスで、クライ ミング、沢登り、縦走目的で山行中、 • 悪天候、墜落、滑落、鉄砲水などが原因と なっている。さらに、見ていくと、悪天候への 対応ミス、確保器のセッティングミス、能力不 足、ロープ固定の忘れなどである。 • • 一方、重体の29名は、男16,女13、年齢は 60歳後半をピークとし、20歳台~70歳台まで 広く分布する。登山目的は山スキー、クライミ ング系の7名の他は、観光を兼ねた山歩き、 縦走が占める。態様には転倒10,滑落9が主 で、悪天候、道迷い、病気などがある。その 主因はヒューマンエラーでのバランス崩れ、 大丈夫だと思った、見えなかったが多い。「樹 林内の木道で多くの人がスリップ」、「話しな がらスリップ」「土が緩み石が動き出す」「板橋 で滑る」「掴んだ木が折れ滑落」「未熟でグラ ンフォール」など。 新しく登録された事故(225人)のIIC 45 40 39 20-29 35 30-39 該当者数 30 40-49 26 25 50-59 23 20 21 60-69 17 15 15 10 7 5 5 3 9 8 4 9 6 5 4 3 2 2 0 軽症 中症 70-79 重症 重体 IIC 2 結果死亡 3 即死 国際山岳連盟UIAAと 山岳三団体間における山岳 事故データ交換の調印式 • 日山協主催のUIAA国際山岳連盟 Mountaineering Commission登山委員会が、 高槻市関西大学高岳館において、本年4月 10日より11日の2日間で開催された。 今回のUIAA登山委員会の特徴は、UIAAと して、初めて、山岳事故データの交換の協定 に調印したことである • UIAA側からの調印式参加者には、Pierre Humblet(委員長)、Denis Hélène(UIAA書 記長)、Steve Long(TSP委員長)他5名、日 本側からは日山協神崎会長、日本勤労者山 岳連盟川嶋事務局長、jRO中島副会長,他6 名の参加があった。 UIAAによる国際山岳事故データ交換のために、 以下に示す2つの契約書を作成した。 (1) 山岳事故データベース計画のガバナンス (試験期間) Governance of the Mountain Accident Database Project (Testing periode) (2) UIAAとパートナー団体との山岳事故デー タ交換のための協定(試験期間) Co-Operation Agreement for Exchanging Mountain Accident Data Between the Union Internationale des Associations d’Alpinisme and a Partner Organization (Testing Periods)。 契約の特徴 • UIAAにおいて、世界で発生する山岳事故 データベースを構築する。 • その解析データを基に、国際的な対応を検討 し、安全登山活動に寄与する。また、安全登 山教育やレスキュー活動の担保とする。 • 世界規模での倫理、コンプライアンスの遵守 • 厳格な個人情報の取り扱い UIAA事故調査アンケート 調査項目はA4で2p分に限定した、 データ交換の対象となる項目と情報量 • 今回、UIAAアンケート中で使用される項目に 対し、事故調査データベースの中に、該当する 項目の登録データ数Nを明らかにした。 • なお、今回は年齢以外に事故関連要因の経年 変化は少ないとして2001-2015の15年間を一 括処理した。 • UIAAのアンケートは8ブロックに分かれてい る。 以下、各ブロックごとに構成項目を挙げ、 UIAAに提供する場合の「UIAA 項目」「問題 点」と「解析利点」ならびに「検討項目」について まとめた。 どのような情報が交換されるのか UIAA山岳事故データの調査項目 ① 発生日時と場所、 ② 事故者基礎情報、 ③ 計画と管理、 ④ 登山目的、 ⑤ 事故時の環境、 ⑥ 事故原因、 ⑦ 外傷あるいは疾病、 ⑦-1 IIC傷害および疾患分類、 ⑦-2 傷害部位 ⑧ 事故の詳細(自由記述) ① 発生日時と場所 【UIAA項目】 発生日時と場所(場所・地域 ; 州と山名、緯度経度、高度) 【問題点】 事故調査項目には、「緯度・経度」、 「高度」の項目がない。<要追加 【解析利点】 発生日時は最も頻繁に分析され る項目であり、この項目だけでも、国際比較 の価値がある。それぞれの国で、行動時間、登 山シーズンが異なるためである。韓国との登山 慣習の違いから生じた事故は記憶に新しい 【検討項目】 GPSの普及に伴い、正確な事故 発生位置情報が入手可能となった。 しかし、未だに事故調査では緯度経度による 事故発生地点での詳細報告が一般化していな い。国際比較には、高度/緯度など発生場所 の環境を理解する上で、重要な項目である。 なお、GPS は世界的にWGS84を初め、非常 に多くの測地系が利用される結果、変換に混乱 が見られる 400 N=2434 事故発生時刻 350 2001-2015 300 該当数 250 200 150 100 50 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 時刻 韓国では、登山は一般に日帰りが多い。行動はave4~8時間歩行し、山小屋を利 用する場合は到着時間6~7時。当然事故の発生時刻は日本と異なると予想される。 250 転倒 N=1240 滑落/墜落 N=743 200 該当数 150 100 50 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 時刻 該当数 350 300 死亡/重体 N=390 250 軽/中/重症N=2042 2001-2015 200 150 100 50 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 時刻 1 12 350 月 2 300 250 200 11 3 150 100 50 10 冬山 0 4 秋山 春山 9 5 8 N=2544 夏山 6 7 諸外国での登山シーズン表現で、冬山は明確であるが、春夏秋は国 により,取り扱いに大きな差があり、該当月も異なる (1)長野県 (2)兵庫県 (3)山梨県 (4)北海道 (5)群馬県 福岡県 佐賀県 長崎県 熊本県 大分県 宮崎県 鹿児島県 24 3 16 19 46 17 21 沖縄県 2 岡山県 広島県 鳥取県 島根県 山口県 11 14 17 1 1 徳島県 香川県 高知県 愛媛県 6 4 1 12 京都府 奈良県 大阪府 兵庫県 滋賀県 三重県 和歌山県 35 43 20 147 63 56 4 新潟県 石川県 富山県 福井県 78 17 105 17 愛知県 岐阜県 長野県 山梨県 静岡県 9 49 504 140 72 15年間集計 県別事故発生状況 群馬県 栃木県 埼玉県 茨城県 千葉県 東京都 神奈川県 国外 116 40 39 10 1 74 74 22 N=2264 北海道 137 青森県 秋田県 岩手県 山形県 福島県 宮城県 15 18 19 37 70 18 ② 事故者基礎情報 【UIAA 項目】 「性別」、「年齢」、「国籍」、 「資格」「登山目的に関係する経験」 「事故の目撃者」「障害の状態」 【問題点】 「事故の目撃者」の項目は未調査 ここでは、「事故の発見者」の項目を対応さ せるが、事故そのものの目撃ではない。 【解析利点】 年齢比較は、諸外国の事故 年齢分布が最も異なるところで、日本の特殊性 を浮き出せると予想される。資格調査は世界 の登山資格の標準化につながる項目である 【検討項目】 事故年齢分布は、特定の年齢 集団{登山団塊(S15-30)}が高齢化することで、 日本独自の年齢分布曲線を描き出している。 他国には見られない傾向である。 新たなブームが来ない限り、今後10年で、大き く変化し、登山人口が減少する時代が登場する。 超高齢化時代に遭対はどのように対応すべき なのか、遭対・指導はその先を目指すのか。 England2007 Scotland2007 America2004 Japan2013 参考図 30 2001-2005 N=627 25 該当者の割合 2006-2010 N=1040 20 2011-2015 N=845 15 10 5 80-84 75-79 70-74 65-69 60-64 55-59 50-54 45-49 40-44 35-39 30-34 25-29 20-24 15-19 0 5年区切り年齢 山岳遭難データは、経年変化が少ないが、最も変化する年齢分布でも 4~5年単位程度が視認しやすい ③ 計画と管理 【UIAA項目】 「山行予定日数」、「保険加入の Y/N」、「パーティ数」、「ガイドツアーのY/N」 ※保険は山岳保険を利用するため全員Y 【問題点】 「年間登山回数」の追加が必要 「ツアー」は項目にはないが、文書検索で13件 【解析利点】 「年間登山回数」は、特定母集団 (例;全山岳会員数)で、リスク解析のための発生 確立を得るため必要となる。 各事故関連項目を 単なる統計解析とするか、リスク解析とするか、全 く異なる結果が得られる場合がある。 600 500 該当数 400 宿泊 日帰り 477 1151 1247 355 300 200 100 173 68 29 0 7 10 2 3 18 宿泊/日帰りは、Hikingに特定した場合、Hiking と Multi-days Hikingに仕分けす る場合のキーとなる。 400 364 N=2415 350 300 270 274 267 該当数 250 208 200 182 163 150 148 143 135 117 100 77 50 34 25 8 0 パーティ人数 山岳会員事故のため単独行事故は少ない。警察は単独行の危険性を再三指 摘し続けている。海外での登山では,どの程度のパーティが組まれるのか? 250 参考図 発生頻度 200 リスク表現の有効性 150 100 50 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 23 70 リスク・スコア Rs 60 50 40 30 20 10 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 23 時刻 既述したように、発生時 刻の分布曲線は頻度に 着目した場合、11時と, 14時で2つのピーク値を 示し、14時側が少し頻度 が高くなる。 しかし、リスクスコアRsか ら見ると、より重篤な事 故は9時、11時で多くな り、14時のピークが下が る傾向を示す。 参考図 Risk Mapは、活動目的や事故要因などの様々な項目に対し、7つの影響度(こ こでは受傷程度)に対する,発生確率で表すことができるため、今後の事故解析 の主要解析手段となるものである。登山者の暴露回数(登山回数)が分かれば、 発生確率の算出は容易である。図は滑落により、受傷程度が異なる事故者の 発生確率を示したもので、死亡率の高さを示す反面、軽度の事故もあることを示 す。 ④ 登山目的 【UIAA項目】 登山と非登山に分けている。 ハイキング(日帰り)、宿泊ハイキング/トレッキ ング、スクランブリング、クライミング(アイス、 ロック、アルパイン)、ボルダリング、スノー シューイング、キャニオンリング、人工壁、ス キー登山、ケイビング 非登山系では山菜採り、釣り、ハンティング、鉱 物採取 【問題点】 ヴィア・フェラータはない。キャニオリ ングは下り専門で、沢登りとは異なるが、 注釈つきで含める、日本の山歩き、縦走は仕分 けせず宿泊の有無でハイキング(日帰り、宿 泊)とする。 スクランブリングは一部ロープを使 うか、穂高縦走のようにコースから決定する。 【解析利点】 世界規模で調査する場合、登山目的項目は、 最も悩ましい項目で、hiking関連でも24もあり、 地域性が強い。縦走も同様、直訳でしか英単語 はない。今回UIAAで3種(Hiking, Multiday- hiking / Trecking, Scrambling)を単純化するこ とは、何とか国際比較できる段階まできたと解 釈できる 釣り 37 狩猟 釣り UIAA側表現 狩猟 2 山菜採り 山菜採り 106 日本側 山スキー 沢登り 山スキー 207 キャニオリング ボルダリング 400 フリークライミング アイスクライミング ボルダリング 13 アルパインクライミング フリークライミング 縦走 213 アイスクライミング 山歩き 97 0 アルパインクライミング 200 400 600 800 1000 1200 14 359 Multiday-hiking/Trek 1214 Scrambling Hiking 1118 0 200 400 600 800 1000 1200 該当数 Scrambling スクランブリングは、コースから判別するため、解析時間がかかり省略 Canyoningキャニオニングは注釈付きで沢登りを充当した 1400 1600 1400 該当数 1200 1000 800 600 400 200 0 山縦アア 歩走ルイ パス き イク ンラ クイ ラミ イン ミグ ン グ フ リ ー ク ラ イ ミ ン グ ボ沢山観観観観 ル登ス光光光光 ダりキ 山草紅 ー リ 野花葉 ン グ 等 の 鑑 賞 山 菜 採 り 山 菜 採 り 山 菜 採 り 野き 草の こ 渓 流 釣 り 写 真 撮 影 山狩キ仕仕仕仕 岳猟ャ事事事事 ン 信 ピ 森下調 仰 ン 林草査 グ 伐刈研 採り究 等 N=4399 登山は単一の目的で行動が少なく、複数回答で4000を超える ⑤ 事故時の環境 【UIAA項目】 事故時の環境は、天候、気温、 風力、地形、事故地点の表面、斜面方向などを 構成する項目は、ほぼ万国共通となる。 【問題点】 唯一氷河が該当しない。また、上記 6点の項目の内訳では、スペースが小さいため、 代表的なものに止めた。天候では、雹、霰が省 略され、地形では登山道に関する項目、峠、ヘ ヤピンカーブなどは省略されている。また、事故 発生場所として人工物(板橋、梯子等)も省略, その他へ 【解析利点】 国際比較の中で、最も異なる要因が環境であ ることは言うまでもない。ツンドラから熱帯、そし て砂漠地帯まで分布し,それぞれの地で登山 活動がなされている。これらの違いが現れてく ると考えている。 なお、事故要因のSHELL分析でも、環境は、 他の事故要因と組み合わせて使用するKey項 目であるが、非常に項目数が多くなる。ここで は、その最小要因を提供することで、解析を単 純化した。 強風, 53 かなり強い 風, 81 風 斜面 水平 262 少し強い風, 158 登り 664 下り 1404 微風, 1210 1 x<-10 134 0≦x<10 547 -10≦x<0 347 10≦x<30 1033 x≧30 165 気温 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% 氷系 106 雪系 256 水系 事故現場の表面 N=3421 77 根系 533 草系 476 礫系 298 土系 やぶ 草 枯葉 コケ クマザサ 樹林 根 這い松 泥 一般土 腐葉土 ガレバ 砂利 れき(こぶし大) 固い岩 ぼろぼろの岩 スラブ フェイス クラック 雪道 氷結道 土の凍結 クレバス 773河原 河床 水の越流道 岩系 71 176 165 72 63 255 175 32 157 447 56 113 142 156 491 95 116 157 43 256 72 21 13 37 32 8 902 0 200 400 600 該当数 800 1000 ⑥ 事故原因 【UIAA項目】 6ブロックから構成。 動作(スリップ、つまずき、転倒、墜落)、環境 (落石、滑落,クレパス落下、雪庇崩落、雪崩、 落雷、悪天候、溺れ、視界不良)、ナビゲーショ ン(道迷い、予定遅れ)、身体状態(病気、疲労、 暴露)、技術と道具(貧弱な技術、用具破損、不 適当な用具)、エラー(ヒューマンエラー) 【問題点】 動作が分かり難い場合が多く、組み 合わせが難しい。道迷いも予定遅れとの仕分 けが難しい 【解析利点】 事故は複合原因が大多数を占めるため、6ブ ロックの組み合わせとして表している。この組み 合わせパターンで、事故の特徴を表すことがで きる。国際的な比較として、複合原因のパター ンが普遍的なものなのか、地域的特徴がある のか検討することが可能となる。 落下 押される 6 171 転倒 UIAA N=1483 221 アイゼンが外れる 3 ザイルに引っ張られる 19 衝突 10 つまずく 72 滑る 1019 0 500 該当数 1000 1500 引っかかり 72 足場が崩れた 72 疲労 56 病気 9 めまい 14 事故の原因となった動作 足下が見えない 53 足下の確認ミス 405 足・膝の障害 50 バランスが崩れる 739 滑る 1019 0 200 400 600 該当数 800 1000 1200 滑落 転倒 墜落 道迷い 疲労 発病 落石 雪崩 落雷 悪天候のため行動不能 不明 クレパス落下 予定遅れ 雪庇崩壊 溺れ 不適当な用具 用具破損 貧弱な技術 ヒューマンエラー 572 1240 171 77 117 34 72 18 5 45 26 0 6 68 101 N=4097 見え(聞こえ)なかった 気づかなかった 忘れた 知らなかった 深く考えなかった 大丈夫だと思った あわてた イライラしてた 疲れてた 無意識に手が動いた やりにくかった 体のバランスをくずした 47 181 9 12 130 402 65 17 107 54 26 495 事故の原因 1545 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 事故の原因として、ヒューマンエラーの役割が非常に大きい。 1800 ⑦ 外傷あるいは疾病 【UIAA項目】 外傷として 「打撲 裂傷 脱臼 骨折 捻挫 擦傷 刺し傷 脳しんとう」 疾患として「急性高山病 肺水腫 脳浮腫 低 体温症 凍傷 日射病」 などがある。 【問題点】 ほぼ、項目として同じであるが、 UIAA側で大出血 神経障害がなく、日本側で 「擦傷 刺し傷 脳しんとう」がない。 疾病として、山岳で発生する項目はまとめてい るが、一般的な疾病項目がない。 日射病 5 凍傷 64 低体温症 27 脳浮腫 0 肺水腫 山岳疾病 N=104 2 急性高山病 6 0 10 20 30 40 50 60 70 該当数 捻挫 66 骨折 1407 脱臼 142 神経障害 外傷 43 大出血 N=2837 62 裂傷 495 打撲 622 0 200 400 600 800 該当数 1000 1200 1400 1600 呼吸器系 循環器系 消化器系 泌尿器系 感覚器系 神経系 感染症 アレルギー 20 19 14 6 8 15 2 9 外傷あるいは疾病 の調査では左図の ような外傷ならびに 山岳疾病が見られ る。 上表はUIAA調査 ではその他項目に 入れた一般的な疾 病を表す。 ⑦-1 IIC傷害および疾患分類 【UIAA項目】 IIC(Injury and Illness Classification)UIAA医療部会で提案された。 7段階で、0無症、1軽症、2中症、3重症、4重 体、5結果死亡、6即死としている。 【問題点】 IICの判定表があるが、かなり曖昧 性を持っている 【解析利点】 IICの7段階はリスクの影響度とし て,非常に重要な役割を持っている リスク=発生確率×影響度 1400 IIC 1148 1200 該当数 1000 800 562 600 414 400 311 200 0 52 7 0 無症 1 軽症 2 中症 3重症 49 4 重体 5結果死亡 6即死 ⑦-2 傷害部位 【UIAA項目】 体の部位を大きく4つに分ける。 頭部/頸部(頭、顔、首/頸椎)、上肢(肩/肩甲骨、 上腕、肘、前腕、リスト、手/指/) 胴体(胸骨、 助骨、上部背、下部背,骨盤、仙骨)、下肢(尻、 股関節、大腿部、膝、下腿、アキレス腱、くるぶ し、足、足指) 【問題点】 同じ項目で問題なし 【解析利点】 部位をどの程度まで詳細に表す べきか、最も大まかに分けた部位といえる 900 800 700 頭部 上肢 763 胴体 下肢 652 628 500 444 369 400 300 200 300 290 279 200 168 148 145 137 100 198 182 150 132 53 39 66 194 134 29 59 0 頭 顔 首/頸椎 肩/肩甲骨 上腕 肘 前腕 リスト 手/指 胸骨 助骨 上部背 下部背 骨盤 仙骨 尻 股関節 大腿部 膝 下腿 アキレス腱 くるぶし 足 足指 該当数 600 N=4663 傷害部位 おわりに • 本報告は、UIAAの安全登山を目指す山岳遭 難事故データベース計画の一環として、事故調 査データの一部交換に同意し、調印した内容に ついて紹介した。 毎年、世界では8-10万と膨大な山岳事故が発 生している。当計画がその減遭難活動に重要な 役割を果たすことを信じている。 • 当事故調査活動を理解し、支えて頂き、貴重な 情報を寄せて頂いた方々に心より謝意を表した い。