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スルメイカの解剖
中学校2年 28 スルメイカの解剖 「無脊椎動物 の仲間」 中学校第2学年の単元「動物の仲間」では、無脊椎動物を取り扱い、節足動物や軟体動物の観察を行い、 それらの動物と脊椎動物の体のつくりの特徴を比較することを中心に扱うことになった。 実際触ってみるとなると、節足動物を苦手とする生徒が多いので、軟体動物を用いることが好ましい。 軟体動物の中では、食用としているタコ、イカ、貝などがよいが、解剖するとなるとイカが扱いやすい。 ここでは、安価(高くても1杯 200 円ほど)で、冷凍ならいつでも入手できるスルメイカを用いた解剖 方法を紹介する。 ねらい ①軟体動物であるイカを解剖し、無脊椎動物の体のつくりの特徴を脊椎動物と比較し、共通点や相違点 について考察させる。 ②自然界には様々な動物が生存していることに気付かせ、生命を尊重する態度を育てる。 教 材 1.スルメイカ (1)スルメイカの形態 イカやタコの仲間は頭足類とよばれ、軟体動物に属している。これらは、巻き貝の仲間から進化し たといわれており、進化の過程で殻が退化したと考えられている。イカの体内の軟骨が貝殻の名残で ある。頭足類の仲間には、オウムガイや中生代のアンモナイトのように、巻き貝と同じような殻をも っているものもいる。イカは大きく、コウイカ目とツツイカ目に分かれる。スルメイカは、軟体動物 門・頭足類・二鰓類・ツツイカ目に属する。 「外套膜」 ・・・・胴の部分は先が細く尖った円錐形で、外套膜という。体の後部にあるヒレはひし 形をしている。全体的に赤褐色で、背部の方が濃い色をしている。 「眼」 ・・・・・・スルメイカの眼は透明の膜に覆われていない。脊椎動物の目とよく似た構造をも っていて、レンズを通して眼球内に入射した光が網膜上に像を結ぶ。 「腕」・・・・・・腕は 10 本といわれているが、本当の腕は8本(4 対)である。背中から、腹側に 向かって左右の第一腕から四腕になっており、第三腕と第四腕の間から、長い触 腕が出ている。触腕を入れて 10 本である。腕は外套膜の約半分の長さで、2列 の吸盤がある。雄の右第四腕の先端部には微小な乳頭突起が2列に並び、交接腕 となっている。また、第三腕は左右の一番外側にきて、安定翼状の突出部がある。 「漏斗」 ・・・・・糞や墨や不用な水を排出するところである。 「鰓・鰓心臓」 ・・呼吸のための新鮮な水は、外套膜のすき間から入り、外套腔の中にある鰓でガス 交換をする。鰓の付け根には、鰓心臓がついている。 「心臓・血色素」 ・心臓は、三角形の薄い膜でできた小さな気管であり、鰓心臓から太い血管をたど ると見つかる。血色素は銅(Ⅱ)イオンを含む青色のヘモシアニンをもっている. ヘモシアニン本体は無色透明だが、酸素と結び付くと青色になる。太い血管に過 酸化水素水を注射すると青くなる。 83 がく 「口」・・・・・・ 「カラストンビ」と言われる顎版があり、口の中には、歯舌というおろし金のよ うなものをもっている。 雌雄の区別は交接腕(図1)でも分かるが、生殖 右第四腕(交接腕) 左第四腕 巣をみる。雌の卵巣は外套膜の三角に尖ったところ にあり、卵を体外に出すときにくるむ粘液を分泌す る包卵腺という器官がある。未熟なときは糸のよう であるが、熟すと「白子」のようになる。さらに熟 すと輸卵管もふくらむ。雄は、複雑な生殖器官は左 側だけにある。精巣は雌の卵巣と同じところにある が、精子を運ぶ管や精子をためるところや精包をつ くる袋など複雑なつくりの塊になっている。 図1 左右第四腕 右第一腕 右第四腕 右第ニ腕 安定翼 右第三腕 眼 漏斗 触腕 外套膜 ヒレ 図2 腹側 84 (2)スルメイカの解剖の手順 ①イカをよく洗い、トレイに置き、(1)の下線部分( 「外套膜」 「ひれ」 「腕(10 本…2 本長い触腕)」「吸盤」「漏斗」 「口」「眼」)の形態 を観察する。 ②イカの「吸盤」はタコと違い、角質環がある。角質環(図3)を 図3 角質環 取り出し突起のようすを観察する。 ③イカの腹側を上にして、外套膜の中央から少し左右にずれたとこ ろから解剖バサミ(先の丸い方を内側にする。)で、内臓に注意し ながら切っていく(図4)。 ④外套膜を端まで切ったら、すぐに広げてしまってはいけない。外 套膜についているフックの凹凸がはまっているのを確認する(図 5・6) 。 肝臓 ⑤外套膜を開けて、内臓の様子を観察する(図7) 。 図4 外套膜を切る 鰓 生殖器 内臓 図5 フック 図7 内臓 図6 フックの凹凸 ⑥内臓部分と外套膜の間の血管を観察する(図8)。この血管に3%の過酸化水素水を注射器で注入す ると、血管内のヘモシアニンと酸素が反応して青色になる(図9)。 鰓付近の血管に過酸化水素水を注入すると鰓の血管のようすがよく分かる(図 10・11) 。 鰓・鰓心臓・心臓を取り外す(図 12)。鰓心臓はそれぞれの鰓についていて二つある。心臓は一つ。 血管 図9 過酸化水素水の注入 図8 血管 大静脈 鰓 図 11 青色になった血管・鰓 図 10 血管のようす 85 鰓心臓 鰓 心臓 図 12 鰓・鰓心臓・心臓 ⑦外套膜をはずす(図 13) 。 ⑧口の周りから、腕を切る。 ⑨口を観察し、顎(カラストンビとも言われる。 )を取り外す(図 14・15)。 ⑩顎を取り除いたときに、口の中を開いてみると歯舌(図 16・17)が見られる。歯舌は透明で薄い のでよく探してみる。見つかったらすぐに双眼実体顕微鏡で観察するか、後で観察する場合には水 につけておく。 図 13 肝臓をはずす 図 16 歯舌 図 14 口・カラストンビ 図 15 カラストンビ 図 17 歯舌拡大 ⑪口から食紅を溶かした水を太い注射器で注入する(図 18)。食道、胃、もう嚢、大腸、肛門と赤く なっていく。胃に色がつかない場合は、胃を押してみると流れていく。 ⑫このようにして消化管に色をつけてから、消化管を取り出す。まず、肝臓から墨汁嚢とともに大腸 を外す(図 19)。 ⑬口のまわりを切っていく。食道が色づいているので、 切らないよう注意して取り出していく(図 20)。 途中、目の間に脳も見られる。消化管を取り出し、イカも脊椎動物と同じで口から肛門まで一つの 管になっていることを確認する(図 21) 。 86 肛門 図 18 食紅を溶かした水を注入 肝臓 直腸 図 19 赤くなった直腸 食道 脳 目 口 図20 頭部 直腸 もう濃 胃 生殖腺 すい臓 墨汁嚢 食道 図 21 取り出した内臓 肝臓 口 … 一番大きい。イカの塩辛に使われる。 墨汁嚢 … 黒色で細長く銀色に光っている。セピアメラニンという色素をつくる。 腸 … 直腸は肝臓に墨汁嚢とともにくっついている。 胃 … 三角形で赤っぽい。 すい臓 … 消化管ではない。つぶつぶしている。 生殖腺 … 消化管ではない。胃よりヒレ側にある。 87 ⑭眼球を取り出し眼球(図 22)が大きいことなどを観察した後、眼球の中の水晶体(図 23)を取り 出してみる。眼球をつぶすときに、黒い液体が飛び出すので注意すること。 ⑮外套膜の背側についている軟骨を取り出してみる(図 24) 。 図22 眼球 図23 水晶体 図24 軟骨 (3)解説・留意点 ①生徒に解剖をさせる場合は、授業時間を 2 時間連続でとるほうが丁寧にできる。1時間で行う場合 は、消化管の確認(④)を中心に行うとよい。 ②外套膜の長さが 20cm 以下のものは、ほとんどが未成熟で生殖腺が発達していない。30cm ほどの ものを買って冷凍しておくとよい。 ③解凍に時間がかかるので、授業の1∼2時間前には冷凍庫から出しておく。水につけておくと速く 解凍することができる。 ④生徒にとって、消化管を取り出すことが難しいようであれば、食紅水を注入して肛門までつながっ ていることを確認するだけでよい。 ⑤生徒には、解剖実験は体のつくりを学ぶために行うので、食物に感謝するように解剖の教材にも感 謝し、丁寧に解剖するように指導してほしい。 参考文献 1.富山県総合教育センター: 「デジタル理科室 イカの解剖と内臓の構造」 (2009 年3月6日) http://rika.el.tym.ed.jp/cms/ 2.烏賊と電脳のホームページ(2009 年8月3日) http://www.d1.dion.ne.jp/~osa_uno/japanese/squid/ 3.静岡県総合教育センター: 「中学校理科観察実験集Web版 (2009 年8月3日) http://www.center.shizuoka-c.ed.jp/ 4.イカ面白倶楽部のホームページ(2009 年8月3日) http://www.zen-ika.com/index.html 88 イカを解剖してみよう(発展)」