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消費者市民社会に向けた、消費者・生活者の役割と課題
第1章 章 消費者市民社会に向けた消費者・生活者の役割と課題 消費者市民社会に向けた消費者 消 費者市民社会に向けた消費者 費 費者 者市 者 市民 民社会に向けた消費者 社会に向けた消費者 生 社会に向けた消費者・生 生活者の 生活者の役割と 活者 者の の役割 役割と課題 割と課題 と課題 第 3節 戦後、国民の所得生活水準は上昇し、日本は世界有数の経済大国となった。身の回りを見渡せば、家庭 日本は世界 本は は世界 世 有数 有数の経 の経 経済大 済大国 済大国 には便利な家電製品が普及し、職場ではIT化が進み、車社会化に伴い交通網の整備もされた。 が進み 第1章 社会の主体としての 社 会の主体として ての 消費者・生活者∼幸福の探求 者・生活者∼幸 幸福 の では、物質的な豊かさとともに、国民は精神的にも豊かに、言い換えれば幸せになってきたのであろう する上で重要な要素となる。経済主体、社会変革の主体としての消費者・生活者が積極的に活躍するこ とによって得るべきものは何かを探るに当たっても「幸福度」について焦点を当てることが不可欠にな る。幸福度は主観的なものであるが故に比較分析するのが難しいが、ここでは、我が国の幸福度はどの ような要因で左右されているのか、特に幸福度とストレスの関係、そしてストレスが少ない人からスト レスフリー社会を探ってみることにする。 1.国民の幸福度 1 国民の幸福度 (1)現在の幸福度 ● 所得上昇は幸福度に結び付いていない 国民の経済的豊かさを表す指標として、1人当たり実質GDPの変化を見てみると、バブル崩 壊後の不況時に低下はしたものの、長期的に見れば上昇傾向にあり、1981年の273万4千円から 2005年の424万4千円まで上昇している(第1−3−1図) 。 第1-3-1図 生活満足度は上昇していない ●生活満足度及び1人当たり実質GDPの推移● 生活満足度 (左目盛) (千円) 4.0 4,500 1人当たり実質GDP (右目盛) 3.8 3.60 3.6 4,244 3,859 3,934 3,867 3.46 3,500 3,188 2,885 2,734 3.35 4,000 3,964 3,729 3.4 3.2 消費者市民社会に向けた消費者・生活者の役割と課題 か。消費者・生活者が求める社会を探る上では幸福の源泉を探ることが消費者市民社会の将来像を検討 (生活満足度) 3.38 3,000 3.34 3.26 3.19 3.12 3.0 2.8 1981 84 87 90 93 96 99 2002 3.07 2,500 2,000 2005 (年) (備考) 1.内閣府「国民生活選好度調査」、 「国民経済計算確報」 (1993年以前は平成14年確報、1996年以後は平成18 年確報) 、総務省「人口推計」 により作成。 2. 「生活満足度」 は 「あなたは生活全般に満足していますか。 それとも不満ですか。 (○は一つ) 」 と尋ね、 「満足している」 から 「不満である」 までの5段階の回答に、 「満足している」 =5から 「不満である」 =1までの得点を与え、各項目ごとに 回答者数で加重した平均得点を求め、満足度を指標化したもの。 3.回答者は、全国の15歳以上75歳未満の男女 (「わからない」、 「無回答」 を除く) 。 57 一方、 「生活全般に満足しているかどうか」 (生活満足度)を5段階評価の平均得点で見てみると、 84年の3.60が最高で、90年以降は生活満足度が逓減し、2005年には3.07となっている。 これは他の先進諸国でも見られる「幸福のパラドックス」と言われる現象であり、我が国にお いても日本の1人当たり実質GDPの動きと満足度の動きは正の相関をしておらず、経済成長が 日本国民の生活全般の満足度につながらなくなっていると言える68。 ● 先進国でも幸福度は高まらず では、所得水準が低い途上国と先進国では違いがあるのであろうか。5段階評価の幸福度を調 査している世界79か国を対象に、購買力平価で見た国民1人当たりGDPと幸福度を変数とした 散布図を作って見ると、所得水準が低いグループでは右肩上がりの正の相関の可能性はあるが、 所得水準が高い先進国では所得上昇にかかわらず幸福度はほぼ水平、つまり幸福感が高まらない と言える(第1−3−2図) 。 第1-3-2図 (幸福度) 3.6 1人当たりGDPと幸福度には明確な相関が見られない ●1人当たりGDP (constant 2000 US$) と幸福度の関係● 3.4 3.2 日本 3.0 2.8 2.6 2.4 2.2 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 30,000 35,000 40,000 45,000 50,000 55,000 (米ドル) (備考) 1. 1人当たりGDPについては「WDI」、幸福度については以下のデータを使用。 Veenhoven, R., World Database of Happiness, Distributional Findings in Nations, Erasmus University Rotterdam. Available at : http://worlddatabaseofhappiness.eur.nl(2008/11/18) 2.分析結果 2 (幸福度) =2.9031+ (1.79E−05) × (1人当たりGDP) + (−2.13E−10) × (1人当たりGDP) (71.809)(2.836) (−1.324) ( ) 内はt値 R2=0.2400、※ ● 所得の不平等と幸福度は相関していない 一方、所得の不平等の変数としてジニ係数69を使って、76か国を対象に幸福度との関係を見て みると、相関が見られない。このように社会全体の状況よりも個人の置かれた状況が幸福度全体 にも影響を与えていることがうかがえる。 (第1−3−3図) 。 68 ほかの先進諸国の推計としては「幸福のパラドックス」を示したものとしてアメリカ(Diener, et. al. (1993) 、Blanchflower and Oswald (2000)、Lachman and Weaver(1998))、西ドイツ(Schyns(1998) ) 、 ドイツ(Frey and Stutzer (2007) ) 、スイス(Frey and Stutzer (2000))などがある。 69 ジニ係数が大きいことは不平等が大きいことを意味している。 58 第 3 節 社会の主体としての消費者・生活者∼幸福の探求 所得の不平等と幸福度にも相関は見られない 第1-3-3図 ●幸福度とジニ係数の関係● (幸福度) 3.8 3.6 第1章 3.4 3.2 日本 3.0 2.6 2.4 2.2 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 (ジニ係数) (備考) 1.ジニ係数については 「WDI」、 幸福度については以下のデータを使用。 Veenhoven, R., World Database of Happiness, Distributional Findings in Nations, Erasmus University Rotterdam. Available at : http://worlddatabaseofhappiness.eur.nl(2008/11/18) 2.ジニ係数は各国最新のものを使用 (日本は厚生労働省「平成17年所得再分配調査」等価再所得によるジニ係数) 。 3.分析結果 −2 (幸福度) =3.0285+ (0.0003) × (ジニ係数) 、 R =−0.0134 (23.75) (0.08) ※ ( ) 内はt値 コ ラ ム 幸福の経済学 消費者市民社会に向けた消費者・生活者の役割と課題 2.8 経済成長が人々の幸せに結び付いていないという「幸福のパラドックス(paradoxes of happiness)」が明示的に議論されるようになったのは1971年にブリックマンとキャンベル の二人の心理学者によって所得や富といった生活の客観的状況を良くすることは個人の幸福 に何も影響していないという結論を示してからである。 「イースターリンのパラドックス」と も言われているが、イースターリンが1974年に所得との関係を詳細に分析し、一国内では所 得の高い人が幸福度が高いという相関が見られるにもかかわらず、国際比較では少なくとも 先進国間では一国の所得水準と幸福度の平均値に相関がないことを示した70。その後、この パラドックスを解く「幸福の経済学」という分野が生まれ、年齢、失業、家族形態、ソーシャ ルキャピタルといった要因について実証分析が行われてきた。所得についても、絶対的な所 得よりもむしろ他人の所得との相対関係が幸福度に影響しているとの報告がされている。ま た行動経済学でノーベル賞を得たカーネマンは脳の活動で幸福度を測る実験や生活の質、満 足度と健康との相関関係を研究している71。 ただし、最近の研究では、社会の中の裕福なメンバーと貧しいメンバーを対比して一国に おける幸福度と所得の関係を見た場合、その関係は、裕福な国と貧しい国を対比して国家間 の幸福度と所得の関係を見た場合と類似の関係を示すということを指摘するもの72もあり、 その要因も含めて経済学者などの間で論争が続いている。 70 Easterlin(1974) 71 Kahneman, et. al. (2006) 72 Stevenson and Wolfers(2008) 59