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超高圧処理による冷凍鯨肉の解凍硬直抑制効果 (PDF:262KB)
超高圧処理による冷凍鯨肉の解凍硬直抑制効果 釧路水産試験場 加工部 ●研究の目的 現在、南極海や北西太平洋では持続的な捕鯨再開に向けた鯨類捕獲調査が実施されており、 鯨肉は調査副産物として有効利用されている。しかし、鯨肉は鮮度の良い状態で冷凍される ため、急速解凍時に肉が収縮して硬くなったり、大量のドリップが発生することが問題とな っている。そこで、鯨肉の解凍中の硬直やドリップ防止を目的として、冷凍鯨肉の超高圧処 理について検討した。 ●研究の方法 平成18年9月、北海道釧路沿岸で捕獲されたミンククジラの背側赤身肉を凍結し、-20℃ で0~400Mpaの圧力処理(写真1、2)を行い、筋肉が収縮する時のエネルギーであるATP (アデノシン3リン酸)の量、タンパク質の溶解性(タンパク質変性の指標)、解凍後の筋 肉応力(硬さの指標)、ドリップ量および色調を測定した。なお、解凍は30℃温水への90分 間浸漬(急速解凍)により行った。 ●研究の成果 ①急速解凍後の筋肉応力は200MPa・20分間および400MPa・5~20分間の超高圧処理により低く 抑えられた。また、未処理の鯨肉では約30%の解凍ドリップが発生したのに対し、200MPa・ 20分間および400MPa・10、20分間の処理により約10%まで減少した(図1)。 ②冷凍鯨肉のATP量は超高圧処理によって減少しなかったが、解凍後にはいずれの鯨肉もATP 量は1μmol/g以下にまで減少した(図2)。 ③一方、塩溶性タンパク質(筋原繊維タンパク質)の溶解量は200MPa・20分間で未処理の約6 0%に、400MPaでは5分間で約65%、10、20分間で約35%にそれぞれ減少した(図3)。この ことから、筋肉の収縮に関係するタンパク質が超高圧処理によって変性することにより、 急速解凍による筋肉の硬直やドリップの発生が抑制されたと考えられた。 ④解凍後の色調は、未処理に比べてL*(明度)、a*(赤色度)およびb*(黄色度)値が200MPa ・20分間および400MPa・10、20分間の処理でいずれも高くなり、肉眼的には黄色みが強く、 白っぽくなった(図4)。 ●成果の活用 冷凍鯨肉の超高圧処理は、急速解凍時の筋肉硬直やドリップの発生を抑制できることから、 消費者が手軽に解凍し、美味しい食材として利用できる冷凍鯨肉の製造に活用できる可能性 が示唆された。 しかし、鯨肉の色調は超高圧処理により変化することから、その実用化に向けては、消費 者の嗜好性に及ぼす影響や市場性などについても調査する必要がある。 - 33 - ≪上記の説明資料≫ 写真1 超高圧処理装置 40 筋肉物性 500 ドリップ量 処理装置の試料投入口 ATP量(解凍前) 8 ATP量(解凍後) 20 200 10 100 0 ATP量(μmol/g) 300 筋肉物性(応力:g) 400 30 ドリップ量(%) 写真2 5 10 20 0 200MPa 5 10 4 2 0 0 0 6 0 20 5 400MPa 10 図2 40 水溶性タンパク質 塩溶性タンパク質 0分 5分 10分 20分 150 5分 10 5 0 0 200MPa 200MPa 400MPa 50 20 0 0分 5分 10分 20分 10 20 0 200MPa 5 10 b* 値 15 5 20 400MPa 10 5 処理時間(min.) 0 200MPa 超高圧処理によるタンパク質 溶解性の変化 図4 - 34 - 10分 15 20 100 0分 20 10 0 20 鯨肉の解凍前後でのATP量 a* 値 L* 値 タンパク質量(mg/g) 10 400MPa 30 200 図3 5 処理時間(min.) 鯨肉解凍時の筋肉物性 (硬直度合)とドリップ量 250 0 200MPa 処理時間(min.) 図1 20 400MPa 圧力及び処理時間別 解凍鯨肉の色調 400MPa 20分