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頭部搭載型ディスプレイを用いた直線歩行への誘導

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頭部搭載型ディスプレイを用いた直線歩行への誘導
情報処理学会 インタラクション 2016
IPSJ Interaction 2016
161B26
2016/3/2
頭部搭載型ディスプレイを用いた直線歩行への誘導方法の検証
西 綾花†1
星野 圭祐†1
梶本 裕之†1
VR 環境下において無限歩行空間を実現する手法は数多く提案されているが金銭的,空間的コストの問題は未解決あ
る.本研究では比較的安価な直線運動のトレッドミルと,頭部搭載型ディスプレイによる直線状の運動誘導とを組み
合わせることを提案する.本稿では Redirected Walking として知られる視界の回転や動作のスケールの変化によるユ
ーザの誘導手法を採用し,VR 空間での被験者の移動を視界の回転を用いて直線に導く方法を提案し,実際に提案手
法を用いて被験者実験を行った.その結果 PD 制御を用いた手法においてユーザの歩行を最も直線状に誘導可能であ
ることが示唆された.
Straighten Walking Path by Using Redirected Walking Technique
AYAKA NISHI†1
KEISUKE HOSHINO†1
HIROYUKI KAJIMOTO†1
Abstract: Virtually infinite space is a holy grail of immersive virtual environment (IVE), and numerous approaches have been
proposed, yet there still is a hardware and spatial cost. We propose to combine linear treadmill and linearization of walking path
by head mounted display (HMD). In this paper, we utilize technique known as Redirected Walking, which allows people to walk
in around a large IVE by presenting imperceptible rotation and scale movement in a virtual scene. We inversely use this technique
to straighten walking path by rotation of fields of view. We conducted an experiment using the proposed method, and showed that
by using PD control algorithm, the walking math became straightened.
1. はじめに
近年,Oculus Rift をはじめとした頭部搭載型ディスプレ
イ(HMD)や,Kinect などの身体姿勢計測機器を安価に入
手することが可能になった.また,無料でクオリティの高
い VR 空間を作成可能な Unity などのゲームエンジンも普
及してきたことにより,誰でも簡単に VR 空間を作成,体
験することが可能になっている.しかし,VR 空間を実現世
界と同じように歩行しようとすると広いスペースや高いコ
スト,バーチャル空間の歩行専用の器具が必要になってし
まうのが現状である。
そこで本研究は,低コストかつ省スペースで違和感のな
い VR 空間での歩行移動を可能とするため, 比較的安価な
1 次元トレッドミルと,HMD による歩行軌道の直線化を組
図 1:提案手法のイメージ図
み合わせて VR 空間上での自由な歩行を可能とする手法を
2. 関連研究
提案する(図 1).本稿ではその前段階として,VR 空間での
2.1 VR 空間の移動
曲線歩行を現実での直線歩行に変換する手法を用いて実際
VR 空間での歩行移動方法をよりリアルに体感させる方
に歩行の誘導が可能か実験し,その結果について報告する.
法について,数多くの研究が行われている.雨宮ら 1)は,
足踏みを利用した VR 空間の移動手法を提案している.こ
の方法はコストが低く現実的な解であるが歩行ではなく足
踏みであるため,脚にかかる力や足裏の感覚などが,実際
に脚を踏み出す感覚とは異なると考えられる.同一の場所
にとどまりながら実際にユーザが脚を踏み出すものとして
米 Virtuix 社による Virtuix Omni 2)が挙げられる.これはす
り鉢状の台の上で足を滑らせることにより VR 空間の移動
†1 電気通信大学
The University of Electro-Communication
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を行う歩行型 VR デバイスである.しかし足を滑らせる感
歩行を直線に誘導するため,以下の 2 つのアルゴリズムに
覚と歩行の感覚は異なるため新たに技能を獲得する必要が
よって VR 映像を回転させた.
rotate = 𝐾𝐾𝑝𝑝 ∗ 𝑑𝑑
あると考えられる.
(1)
rotate = 𝐾𝐾𝑝𝑝 ∗ 𝑑𝑑 + 𝐾𝐾𝑑𝑑 ∗ 𝑉𝑉𝑥𝑥
VR 空間での歩行感覚を提示するには,実際に歩行する
(2)
ことが最も効果的であるといえる.実際に歩行を用いて
ただし y 軸を望ましい進行方向に,x 軸を y 軸と直交す
VR 空間の移動を可能にしている研究として,2 次元トレッ
る方向に取る(図 2).rotate は画像の回転角度の各フレーム
ドミルを用いた手法が提案されている 3) 4).これらは理想
での増加量,d は x 軸における中心の直線からの距離,Vx
的な形ではあるが,2 次元トレッドミルという特殊な装置
は x 軸方向の速度,Kp と Kd はそれぞれ比例ゲイン,微分
が必要となるため,多大なコストがかかり一般に普及する
ゲインを表す.
のは困難であると考えられる.
式(1)は P 制御を表しており,x 軸方向の現在の身体ずれ
大掛かりな装置を用いずに低コストで VR 空間の歩行を
に比例した画像回転を行うというものである.式(2)は PD
可能にするには,VR 空間に合わせて現実空間を実際に歩
制御を表しており,式(1)に追加して x 軸方向の速度に比例
行するのが最も効果的だと考えられる.しかし VR 空間に
するブレーキ成分を追加している.
合わせて現実空間を実際に歩行するには VR 空間と同等の
広さの空間が現実世界に必要となってしまう.
さらに上記の 2 つに対して画面の急激な変化を避けるた
めに,6)で用いられている下記の IIR フィルタによってス
ムージングを行った.本論文において,以下の実験では,
2.2 Redirected Walking
現実世界に広いスペースが必要という問題を解決する
s = 0.8 とした.
rotate ← (1 − 𝑠𝑠) × before_rotate + 𝑠𝑠 × rotate
(3)
方法として,HMD を装着したユーザの視界を気づかれな
ただし,左辺の rotate は新たに適用する回転角度を,右
い程度に VR 空間を回転,また,スケールの調整を行うこ
辺の before_rotate は現在の回転角度を,右辺の rotate は式
とにより歩行を誘導し、現実の空間よりも広い VR 空間を
(1)(2)によって計算された回転角度を表す.また上記の式は
歩行することを可能とする Redirected walking が提案され
約 1/25 秒間隔で更新した.
ている 5).しかし VR 空間に比べて狭い空間とはいえ,
Redirected walking を行うには最低でも 30m 四方の部屋が
必要であることが分かっている 6).よって,ある程度広く
何もない空間と,その広さ分のトラッキング装置が必要と
なるため,一般への普及が容易とは言いがたい.
3. 提案手法
我々はトレッドミルによって身体位置をとどめる手法と
HMD による誘導とを組み合わせた新たな手法を提案する.
図 2:使用した軸および変数
トレッドミルとしては 1 次元直線運動するものを用いる.
このようなトレッドミルはスポーツジムでよく見られるも
のであり,家庭での購入も可能な価格が実現されている.
4. 歩行誘導実験
同時に,Redirected Walking の手法を援用し,HMD を装着
提案手法を用いた歩行誘導が実際に実現可能かを検証
した際の VR 空間での曲線歩行を,現実世界での直線歩行
し,制御の種類や各パラメータを最適化するための実験を
に誘導する.すなわち頭部位置を取得し,ユーザが直線上
行った.
からずれた場合(トレッドミルから離れる場合), VR 空間
を視覚的に回転させることで身体の回転運動を誘発させ,
4.1 実験環境
結果としてユーザの位置を元の直線上,すなわちトレッド
本実験は,6m 四方の部屋で行った (図 3).被験者に
ミル上に保つ. Redirected Walking が VR 空間における直
HMD(Oculus VR 社製,Oculus DK2)を装着させた状態で VR
線歩行を実空間での曲線歩行に変換する手法であったのに
空間内に作成した通路を歩かせた.その際の被験者の頭部
対し,本手法では VR 空間における曲線歩行を実空間での
位置を姿勢計測装置 Kinect(Microsoft 社製, Kinect ver2)で測
直線歩行に変換する手法であるといえる (図 1) .本論文
定した. また,HMD を布で覆うことによって,HMD と顔
ではこの直線上への誘導性能について扱う.
の隙間から現実世界が見えないようにした.
3.1 アルゴリズム
本手法では,歩行を直線に誘導する手法が必要となる.
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これを全 26 試行繰り返した.被験者は 20~24 歳の男女 6 名
(男性 4 名,女性 2 名)であった.また,被験者のうち 1 名
は眼鏡をつけていた.
5. 実験結果
図 5 は,実験中のある1人の被験者の頭の位置を Kinect
で測定した結果である.項目は(Kp,Kd)を表している.黒
の点線が制御なし,赤の線が Kp=1,青の線が Kp=2,緑の
線が Kp=3 を表しており,点線は P 制御,実線は PD 制御
である.
図 3:実験環境
4.2 実験条件
本実験では制御式のパラメータとして表 1 に表す 13 通
りの組み合わせを作成した.なお Kp は,距離を角度に変
換する係数とし,その単位は degree/m である.Kd は角度
に変換する係数とし,その単位は degree*s/m である.以降
これらの単位は省略し,数値のみで表示する.速度を実験
時の VR 空間の通路は図 4 に表す.正弦波状カーブと円の
2 種類である.各通路において,13 条件,合計 26 試行を用
意した.
VR 空間(図 4)における白い四角は 4m 四方であり,現実
の実験環境(図 3)にある赤と青の四角と同じスケールであ
る.
Kp (degree/m)
Kd (degree*s/m)
制御なし
P制御
0
1 2 3
0
0 0 0
1
2
1
4
1
6
2
2
PD制御
2 2
4 6
図 5:歩行軌跡
3
2
3
4
3
6
表 1:パラメータ組み合わせ表
図 6,図 7 は,正弦波状カーブ,円において,各条件の
x 軸方向の最大振れ幅を箱ひげ図で表したものである.
図 6:x 軸の最大振れ幅(正弦波状カーブ)
図 4:VR 環境に作成した通路(右:円,左:正弦波状カー
ブ)
4.3 実験手順
被験者は図 3 の開始地点に立ち HMD を装着した.26 試
行のうちランダムな 1 試行を提示し,被験者は HMD に表
示された VR 空間の通路に沿うように歩行した.1 試行終
了後,自分が現実ではどのような軌跡で歩いたと感じたか
を用紙に記入させた.また,画面に不安を感じた(予期せぬ
方向への画面進行等),歩行に不安を感じた(歩行が不安定
だった等),という 2 項目に対し当てはまるかを回答させた.
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図 7:x 軸の最大振れ幅(円)
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Kp が大きくなるほどに,画面や歩行に不安を感じる人が増
図 9 は,被験者へのアンケート結果である.円に比べ正
えている.
弦波状カーブでは画面や歩行に不安を感じている人が多か
った.
図 8:アンケート結果(正弦波状カーブ)
図 10:歩行経路(Kd=6)
以上制御種類・パラメータについてまとめると,PD 制御
は P 制御よりも特に正弦波状のコースのように往復が派生
する場合に適切であり,Kp に関しては,値が大きくなるほ
ど経路としては安定するが,大きくなるほど,画面や歩行
に不安を感じる割合も増えていることが分かった.Kd に関
しては,今回の実験の範囲内では値が大きくなるにつれて
歩行の幅も少し減少し,アンケート結果も良くなっている.
図 9:アンケート結果(円)
6. 考察
6.1 制御種類・パラメータ
また,今回の実験で画面に不安を感じた事に関してのコ
メントでは,画面が小刻みに揺れたなどの意見があったの
で,式(3)のスムージングにおける s の調整も今後必要と考
えられる.
図 6,図 7 を比較すると,PD 制御の方が x 軸の振れ幅
が小さい事が見て取れる. よって,本手法の制御には,PD
制御が適していると考えられる.
6.2 VR 空間の歩行の違和感と酔いの関係
円を歩行した際の被験者からのコメントで,足の感覚で
PD 制御においては,正弦波状カーブの歩行時と,円の歩
違う道を歩いていることはわかるが,特に違和感や不安は
行時で,パラメータに対する振れ幅の大きさやアンケート
なかった,円を歩いていると感じたという興味深い意見を
結果に違いが見られた.
得た.また,画面酔いを感じた被験者がいなかった.この
円の場合,(Kp,Kd)=(2, 2)の際の最大値 2 m を除けば平
均値が全て 1.5 m 以下になり,安定して小さい振れ幅で歩
ことから,本手法は少なくとも違和感の観点では十分に利
用できる可能性が示唆されたといえる.
行を誘導できている.このことからより厳しい条件である
正弦波状カーブを中心に最適なパラメータを考える.
正弦波状カーブについて,図 6 を見ると Kd による振れ
幅の変化が大きく,どの Kp であっても,Kd=6 の場合に必
7. まとめと今後の課題
本稿では,無限歩行空間を比較的安価に構成するために,
要な幅が最も少ない. 図 10 は,被験者 6 人の歩行経路に
リニアトレッドミルと視覚的な誘導を組み合わせる手法を
おいて Kd=6 の場合を比較したものである.赤の線が(Kp,
提案した.そのための予備的検討として,VR 空間での被験
Kd) = (1, 6),青が(Kp, Kd) = (2, 6),緑が(Kp, Kd) = (3, 6)を
者の移動を視界の回転を用いて直線に導く手法の実現性を
表している.この結果を見ると,VR 空間上の経路に関わら
検証した.結果より直線歩行への誘導が可能であること,
ず,Kp が大きくなるほど中心の線に戻るのが早いことが分
その際には現段階では PD 制御が望ましいことが分かった.
かる.これは Kp が大きいほど,ゲインが大きいためだと
考えられる.今回用いたセットアップ以上に大きく変化の
本研究では視界のみを用いて歩行の誘導を行ったが,今
ある道を歩く可能性を考えると,制御のより早くかかる Kp
後は視覚だけでなく,手に何かを持つことによる誘導など,
= 6 が良いと考えられる.しかしアンケート結果を見ると,
触覚も用いた誘導を行うことでどのような影響が起こるか
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を検証していきたい.今回の実験より,VR 空間の環境にも
よるが,直径 3mの円において,幅 1m 以内にユーザを誘導
することが出来る可能性も示唆された.よって,今後実際
にトレッドミルを用いた実験も行う予定である.
謝辞
本研究は JST-ACCEL「身体性メディア」プロジェ
クトの一環として行われた.
参考文献
1) 雨宮,八木,塩崎,藤田,渡部,
“足踏式空間移動インタフェ
ース(WARP)の開発と評価 の開発と評価”.日本バーチャルリア
リティ学会論文誌 日本バーチャルリアリティ学会論文誌 Vol.6,
No.3, pp.221-228, 2001.
2) Virtuix Omni, http://www.virtuix.com/
3) Hiroo Iwata, “The Torus Treadmill: Realizing Locomotion in VEs.”
Computer Graphics and Applications, IEEE , Volume:19, Issue: 6 ,
pages30-35, 1999
4) Jimmy Chim, Rynson W. H. Lau, Hong Va Leong, and Antonio Si,
Member, IEEE, “CyberWalk: A Web-Based Distributed Virtual
Walkthrough Environment” IEEE Trans. On Multimedia, Vol. 5, NO. 6,
page 504, 2003
5) Sharif Razzaque, Zachariah Kohn, Mary C. “Redirected Walking.” In
Proceeding of Eurographics 2001.
6) Eric Hodgson and Eric Bachmann, Member. “Comparing Four
Approaches to Generalized Redirected Walking: Simulation and Live
User Data.” IEEE Trans Vis Comput Graph. Vol.4, No.19, pp.634-643,
2013.
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