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一般機械器具製造業
M社の事例
<M社の支援について>
M社は、舞台装置、免振・制振装置、トンネル掘削機などの社会インフラに係わる大型機械
設備の製造メーカーである。このような複雑な設備では、危険源や関連する人の種類も多様で
あり、この多様性を考慮したリスクマネージメント手法の確立が急務となっている。
今回の支援では、このような設備の代表例として舞台装置を選定し、装置の設計・施工・使
用・保守などの全ライフサイクルを対象に、適切なリスクマネージメント手法を構築するため
のアドバイスを行なった。また、疲労試験機のリスクアセスメント支援を併せて実施した。
1.事業の概要等
1-1
業種
社会インフラに係わる大型機械設備の製造業。舞台装置、免振・制振装置、疲労試験機、
自動車用シミュレータ、トンネル掘削機などの建設機械、環境設備、防衛関連設備などの
機械設備を製造している。
1-2
規模(従業員数)
従業員数約 180 名。
1-3
主な取引相手
国、地方公共団体、自動車関係企業など。
1-4
リスクアセスメント実施時の立場
主にメーカーの立場から、大型機械設備の設計・施工・使用・保守を対象にリスクアセ
スメントを実施する。
1-5
機械設備のリスクアセスメントに取り組んだ背景ときっかけ
団塊世代の大量退職などを契機として熟練者の技能伝承は年々困難となっており、これ
を補完するトータルなリスクマネージメント手法の確立が急務となっている。また、労働
安全衛生法の改正によってリスクアセスメントの努力義務が課せられたことを行政指導
で知った。
1-6
機械設備のリスクアセスメントを進める上での経営トップの方針・考え方等
豊かで安全な社会づくりには「システムとその制御の最適化」がますます重要になって
いる。「安全性」、「正確性」、「耐久性」などで顧客の幅広いニーズを満たすために、
油圧、電子、制御などの技術を複合化、深化させて、信頼性の高い最適化されたシステム
製品の開発を目指す。
また、地球的規模で環境の悪化やエネルギー危機が懸念される今日、リサイクルなど地
球環境の向上を目指した商品の開発の提案にも積極的に取り組む。
1-7
今回の支援事業に応募したきっかけや目的
関係行政機関から情報を得た。
2.舞台装置のリスクアセスメントに関する支援
2-1
支援企業からの要望
企業からの要望は、舞台装置の設計・施工・使用・保守などの全ライフサイクルを対象
に、適切なリスクマネージメント手法を構築するためのアドバイスであった。
2-2
支援の具体的内容
同社では、リスクアセスメントに関連する文書として、①設計品質表(表1参照)、②問
題点抽出キーワード表(表2参照)、③検図チェックリスト(表3参照)、④機械安全に関
するチェックリスト(機械の包括的安全基準の要求事項を取りまとめたもの。表4参照)、
⑤設計方針書業務フローなどを作成し、設計段階で問題点を事前に抽出し改善を図るとい
う方法を実施している。特に、①~③は機械専門技術者としての視点からリスクアセスメ
ントを行なう際に参考となる数少ない資料と思われる。
これらのうち、設計品質表は機械の制限及び意図する使用の明確化に、問題点抽出キー
ワード表は危険源の抽出に、検図チェックリストは危険源の抽出と保護方策の検討に活用
できると考えられる。
以上の資料を基に、次のような支援を実施した。
<評価すべき点>
(1) 機械・設備の設計段階で確実にリスク低減を図ろうとする会社としての強い意志が感
じられる(設計方針書業務フローなどが根拠)。
(2) 顧客要求仕様の定量化と達成手段の明確化を図ることによって、高度な設計品質を達
成しようとする会社としての強い意志が感じられる(設計品質表などが根拠)。
(3) 災害防止上重要な危険源をほぼ漏れなく抽出し、適切な対策を実施している(検図チ
ェックリストなどが根拠)。
(4) 機械技術者としての専門的視点から、制御部分だけでなく、材料や構造全般にわたっ
て包括的なチェック項目を設定している(問題点抽出キーワード一覧表などが根拠)。
(5) 同社の作業者だけでなく、関係請負人の労働災害を防止するために「現地据付・運転・
調整工事及び保守点検作業における安全のしおり」を作成し、安全教育の徹底を図って
いる。
<改善を要すると思われる点>
(1) 機械の使用上の制限、危険源の種類、危険にさらされる人、人による予見可能な誤使
用、機械・設備の故障と不具合などを明記すると、リスクアセスメントの前提条件がよ
り明確になると考える。
(2) 機械・設備や構造物の新設時だけでなく、これらの変更時や作業方法・手順の変更時
にもリスクアセスメントの実施を推奨する(後述する変更管理の視点)。
(3) 設備的な保護方策によってリスクが低減できる場合と、人の注意力に依存せざるを得
ない場合を明確にしたリスク評価を推奨する。
(4) リスクは必ず残留することを前提に、残留リスクと関係者の実施事項を明確にすべき
と考える。
(5) 舞台装置の施工では多数の関係請負人が関与する。これらの方々を含めて、各人の役
割分担を明確にすべきと考える(関係者の実施事項の明確化)。
以上の点を考慮し、表5に示す様式のリスクアセスメントまとめ表を提案した。この表
は、後述する変更管理を考慮したまとめ表となっている。また、
「会社で取り組むべきリス
クアセスメントと安全管理活動の留意点」と題してパワーポイントを用いて説明を行なっ
た。以下、実施した説明の概略を述べる。
(ア) 機械災害の約8割は保護方策の不具合に起因
産業安全研究所が、首都圏で発生した産業機械による死亡労働災害 129 件(挟まれ・
巻き込まれ災害と激突され災害に限る)を分析したところ、保護方策の不具合に起因し
た災害が 79.1%を占めていた。この内訳は、①固定式ガードの不具合に起因する災害が
34.9%、②可動式ガードの不具合に起因する災害が 51.9%、③保護装置の不具合に起因
する災害が 24.0%、④制御システムの安全関連部の不具合(フールプルーフやフェール
セーフ関連)に起因する災害が 23.3%であった。このうち、ガードの不具合に起因する
災害(上記①と②)は 67.1%を占めており、ガードを確実に設置することで死亡労働災
害の3分の2近くが防止できる。
舞台装置などの大型機械設備では、ガードなどの設備的な保護方策は困難と考える。
しかし、ローテクとも言えるガードを確実に設置するだけで多くの労働災害を防止でき
るのであり、設備的な保護方策の重要性を再認識する必要がある。
(イ) 変更管理の重要性
最近の事故では、変更管理(設備、作業、人、情報など)が不適切であったために発
生しているケースも多いと考えられる。
この変更管理(コンフィグレーション・マネージメント)は、ISO9000 には当初から
要求事項として記載されていた。しかし、当初は、ISO9000 の翻訳時に“形状管理”な
どと訳したために、変更管理の重要性が日本では十分認識されなかったといわれている。
しかし、PMBOK のガイドブックにもあるように、変更管理は実務上重要な概念である。
また、2006 年の労働安全衛生法 28 条の 2(リスクアセスメントとリスク低減措置の努
力義務)の改正では、リスクアセスメントに実施時期として
①
建設物の設置・移転・変更・解体時、
②
設備、原材料(ガス、蒸気、粉じんなどを含む)の新規採用または変更時、
③
作業方法または作業手順を新規に採用または変更時、
④
危険性又は有害性について変化が生じ、または生じるおそれがあるとき
と規定している。これらには、いずれも「変更」または「変化」という用語が記載され
ている。このことからも、リスクアセスメントの実行時には変更管理についても十分な
配慮が必要である。
(ウ) 人材育成と安全教育
労働災害防止のためには、長期的視点からの人材育成と、新人などのちょっとしたミ
スが災害につながらない仕組みの確立が重要と考える。
3.疲労試験機のリスクアセスメント支援
1-1
支援企業からの要望
現在製作中の疲労試験機を対象に、保護方策をアドバイスして欲しい。
1-2
支援の内容
当該試験機には扉インタロックなどが設けられていたが、製作中のこともあり、一部の
固定ガードなどに不具合が認められた。また、操作盤の充電部への接触(感電)防止や、
起動/停止ボタンに対する適切な表示方法などについても指導等を行なった。
4.総合評価または意見
舞台装置などの大規模で複雑なシステムの設計では、危険源や関連する人の種類も様々で
あり、この多様性を考慮したリスクマネージメント手法の確立が急務となっている。今回の
支援では、舞台装置の設計・施工・使用・保守などの全ライフサイクルを対象に、適切なリ
スクマネージメント手法の構築を試みた。しかし、限られた日数での支援では、この達成は
困難であり、今後の継続的な対応が不可欠と考える。
また、舞台装置の使用時はオペレータ、俳優、スタッフなど、労働者性の有無を含めて様々
な人が出入りする。また、舞台装置の施工・保全時は様々な職種の職人や作業員が渾然一体
となって作業する。このような現場では、従来の製造業や建設業とも異なる独自の安全管理
を必要とするのであり、熟練者が有する技能伝承のあり方も含めて今後の検討が必要である。
表1 M社が使用している設計品質表の例(機械の制限及び意図する使用の明確化に活用できる)
注文主
引合番号
納入先
製 番
装置名称
QC区分
品番
装置品番
規 格
名称
部分名称
法 規
製番
No
区分
部位・部品
機能・特性
類似装置
承 認
照 査
担 当
作成年月日
年 月 日
訂正年月日
記 事
要 客先の要求特性値・仕様 重
具 体 的 展 開
求 (要求品質及びねらい 要 達成手段・効率・計数 計算結果又は検討結果
元 の品質)
度
評 価
整理番号
担当
照査
妥当性確認方法
承認
確認
注1)検討項目には、顧客要求事項、従来機との変更内容、構造(強度・撓み、保全スペース、据付け性、形状・寸法、交差・加工精度など)
、性能(係力、速度、使用頻度、
寿命、時間遅れ、加減速特性、騒音など)
、操作方法、検査方法、環境条件、安全性、保全性、経済性などが考えられる。
注2)支援者の側でフォーマットと細部の内容を多少改変している。
表2 M社が使用している問題点抽出キーワードの例(危険源の抽出に活用できる)
No
区 分
1
納入品の構造・取合部
(1) 強度・撓み
重 小項目
要
度
B 応力
キーワード
装置
疲労
脆性
安全率
コーナ部
応力集中
溶接部
残留応力
溶接部溶け △ 防災
込み不足
起震装置
□ 劇場・
動揺装置
○試験装置
磨耗
(2) 保全スペース
(3) 据付けの容易性
微振動
PV値
腐食
異種金属接
触
C 作業スペ エレメント
ース
交換
注油
調整作業
エア抜き
作動速度
C 据付作業
ベース側接
地圧
耐震
現地組立
建屋側
固有振動数
床反力
・
・
注)支援者の側でフォーマットと内容を多少改変している。
○試験装置
不 良 事 例
不良内容
シート取り付け金具破損
シリンダマウント破損
振れ止めリンクに
クラック発生
シートベルトセンサの
ケーブル断線
原 因
開先形状、
板厚選定不良
強度チェック不足
コーナー部
応力集中
耐久性検討不足
面圧
ピ ン 抜 き し ボルト抜き
ろ
しろ
グリス供給
床への振動
エア抜きが不完全だと、ポン 吐出側にエア抜き弁な
プ焼きつき
し
Fly UP