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第6章 不確実性と情報
第6章 不確実性と情報 事前と事後 意思決定の時点と状況が判明する時点に 差があるケース 情報の非対称性 一部の人々は知っているが他の人々は知 らないというケース 1 期待効用理論 s (< ∞) 個の状態 xi が生起しうる くじ=確率のリスト L=(π1,π2,… ,πs) 状態1が確率π1,状態2が確率π2,…, 状態sが確率πsで生じることを表す 期待効用 U(L)=π1u(x1)+π2u(x2)+・・・+πsu(xs ) 2 危険回避の測度 金銭くじ 結果が金銭表示(状態に金額が対応) 効用関数 u(x) < ∞ 危険回避度 2状態:確率π1, π2で生起,結果は x1, x2 くじ L=(π1,π2) の期待効用 x* ⇔ U を確実に得るために必要な金額 金額の期待値 3 危険回避度による分類 危険回避的 u’’(x) < 0, 危険中立的 u’’(x) = 0, 危険愛好的 u’’(x) > 0, 4 危険回避的 5 危険中立的 6 危険愛好的 7 リスク・プレミアム 定義: この金額を支払っても確実に所得が得られる方を好む 危険回避的 危険中立的 危険愛好的 8 中古車市場の分析 仮定: レモン(低品質)とプラム(高品質) 情報の非対称性 売り手は自分の車の品質を知っている 買い手は車の品質を知らない レモンが100台,プラムが100台 売り手:レモンは50万円,プラムは100万円 買い手:レモンは60万円,プラムは120万円 レモンの原理 逆選択 9 需要曲線と供給曲線 供給曲線 売り手:レモンは50万円,プラムは100万円 階段状の供給曲線 需要曲線 買い手:レモンは60万円,プラムは120万円 レモンに対する需要曲線: 60万円で水平のDL 曲線 プラムに対する需要曲線: 120万円で水平のDP 曲線 10 確率:πP =1/2, πL =1/2 と予想する 平均的な中古車に対する需要曲線: 平均的に支払っていい価格 90万円で水平のD0 曲線 11 供給曲線 需要曲線 120 DP 90 D0 100 60 50 100 DL 200 12 市場均衡 情報の非対称性 市場均衡は E0 か? → No! レモンのみ:(60万円,100台) 余剰が最大化されている(社会的に望ましい)のは, E0 では,レモンのみが売られている 買い手は90万円払おうとはしない. 需要曲線はD1になる 市場均衡は E1 買い手と売り手の間の情報格差 レモン:(60万円,100台),プラム:(120万円,100台) 市場の失敗 13 E2 120 100 90 60 50 D0 E0 E1 100 DP DL 200 14 隠された情報(情報の非対称性1) 隠された情報 売り手は自分の中古車の品質が分かる 買い手はレモンとプラムを区別できない ↓↓ 逆選択 買い手にプラムを提供することが困難 →不確実性下の市場の失敗 プラムの売り手は中古車を販売せず,レモン の売り手のみが残る レモンの原理,グレシャムの法則 15 隠された行動(情報の非対称性2) 観察されないことが歪んだ行動を引き起こす 保険の例 保険購入そのものが事故確率を変化させる 保険会社が認識できない→隠された行動 注意を払って費用を減少させるインセンティブなし ↓↓ モラル・ハザード(道徳的危険) 16 シグナリング 情報を持つ側が観察可能な他の特質をシグ ナルとして相手に送信→情報の非対称性を 緩和 疾病・生命保険:自己申告(既往歴,食生活, 喫煙) 中古車:走行距離・事故歴・修理歴 労働者:学歴・職歴・資格 17 スクリーニング 一定の品質を保証するための方法 疾病・生命保険:被保険者の健康診断 中古車:車検 労働者:入社試験・資格試験 自己選択:情報を持たない側が相手に複数 の契約を提示し,その中から相手に選択させ る 18 保険市場の経済分析 個人サイド 初期資産W>0を保有する個人 確率0<π<1で損害D(0<D≦W)を被る可能性 保険加入前 事故時の資産水準 Z0e=W-D 無事故時の資産水準 Z1e=W 保険加入 付保率α (0≦α≦1) 保険によってカバーされる損害の割合 19 保険料 αp (0<p<D) pはα=1の時の保険料 保険金 αD 保険加入後の資産水準 事故時 Z0=W-D-αp+αD 無事故時 Z1=W-αp 個人はリスク回避的な効用関数を持つとする u=u(Z),u”(Z)<0 期待効用 EU=πu(Z0)+(1-π)u(Z1) 20 保険会社サイド 保険会社はリスク中立的 保険会社の期待利潤 EΠ=(1-π)αp-π(αD-αp)=αp-παD αp=W-Z1,αD=D+Z0-Z1より EΠ=W-πD-πZ0-(1-π)Z1 仮定:保険市場は完全競争的 → 期待利潤=0の保険契約を提示 機会線 21 最適な保険水準 期待効用最大化 ← 制約:機会線 1階の条件 整理すると より,Z0=Z1 =Z0 W-D-αp+αD=W-αp ∴α=1 → 完全保険 22 機会線 45° 保険加入後の無差別曲線 I Z0 保険加入前の無差別曲線 E Z 0e 0 Z1 Z 1e 23 損害防止努力の可能性 損害防止努力 → 事故発生確率の低下 保険制度:モラルハザードの可能性 注意深い運転,健康的な生活 損害防止努力には費用が伴う 完全保険では努力のインセンティブなし インセンティブを与えるシステム コインシュアランス,小損害免責(一部費用負担) 保険料割引 24 損害防止努力の基本モデル 損害防止努力 e>0 実施 → 事故発生確率の低下+費用 事故発生確率 実施:π(e),未実施:π(0) 費用:k>0 実施したときの期待効用 EUe=π(e)u(Z0)+(1-π(e))u(Z1)-k 実施しなかったときの期待効用 EU0=π(0)u(Z0)+(1-π(0))u(Z1) 25 損害防止努力インセンティブ 自発的防止努力の条件:EUe≧EU0 α=1のときZ0=Z1(完全保険)→ 努力しない 左辺はαの減少関数 左辺はゼロ,右辺は正だから Z1はαの減少関数,Z0はαの増加関数 αが小さいほど損害防止努力を自発的に行う 一定以上の付保率を認めないこと コインシュアランス,小損害免責の有効性 26 α=0のとき,自発的に努力すると仮定 → EUe>EU0 防止努力の実施と未実施が無差別になる付保 率 が存在 のときのみ自発的に防止努力する 右辺が小さいほど防止努力が実施されやすい kを小さくする:(事前的)保険料割引 π(0)-π(e) を大きくする:事故発生確率の大幅低下 27 年金の経済分析 共通の設定 2期間モデル 第1期:若年期,第2期:老年期 各期の収入:Y1, Y2 (Y1>Y2≧0) 各期の消費:C1, C2 (≧0) 個人はリスク回避的 若年期で死亡する確率 π (0≦π<1) 個人の期待効用 EU=u(C1)+(1-π)u(C2) 28 貯蓄の分析 貯蓄 S=Y1-C1 ,利子率 r 将来所得:Y2+(1+r)S= Y2+(1+r)(Y1-C1) 予算制約:C2 = Y2+(1+r)(Y1-C1) = -(1+r)C1+(1+r)Y1+Y2 期待効用の最大化 EU=u(C1)+(1-π)u(-(1+r)C1+(1+r)Y1+Y2) 1階の条件 ∂EU/∂C1=u’(C1)-(1-π)(1+r)u’(-(1+r)C1+(1+r)Y1+Y2)=0 よって, 同じもの 29 C2 予算線 貯蓄後の無差別曲線 C2* S 貯蓄前の無差別曲線 E Y2 C1* Y1 u -(1+r) C1 30 年金の分析 年金制度(賦課方式) 若年期に(1-π)M保険料 → 老年期にM>0の年金 若年期に死亡すると年金額はゼロ 予算制約 C1+(1-π)M=Y1 C2=M+Y2 2期間にまたがる予算式 31 期待効用は 1階の条件は よって, 同じもの 32 C2 予算線 45° 年金利用後の無差別曲線 C2* P 年金利用前の無差別曲線 E Y2 C1* Y1 -1/(1-π) C1 33 貯蓄と年金の比較 貯蓄と年金のいずれが有利か? 死亡確率πと利子率rに依存 死亡確率が高くなればなるほど年金が有利 利子率が高くなればなるほど貯蓄が有利 34 C2 年金の予算線 貯蓄の予算線 45° 年金利用後の無差別曲線 S 貯 蓄 有 利 貯蓄利用後の無差別曲線 P 初期の無差別曲線 E (1+r)(1-π)>1 C1 35 C2 年金の予算線 年金利用時の無差別曲線 45° 年 金 有 利 貯蓄利用時の無差別曲線 P 貯蓄の予算線 初期の無差別曲線 S (1+r)(1-π)<1 E C1 36