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先天性盲ろう乳幼児と家族に対する早期支援
49
先天性盲ろう乳幼児のコミュニケーション方法の形成過程
熊田
横浜国立大学教育人間科学部 中川
国立特別支援教育総合研究所
華恵
辰雄
Learning Process of Communication Methods
for a Congenital Deafblind Baby
Hanae Kumata and Tatsuo Nakagawa
Abstract: The purpose of this study was to examine the learning process of communication methods
for children with deafblindness at home. Object cues, touch cues, and coactive signs were introduced
to a congenital deafblind baby and his parents, and their processes were analyzed. The results
revealed that the baby with deafblindness was able to understand cues and signs, and to produce
manual sign languages for expressive communication. In the process of his learning manual signs,
there was a phase when his expressive signs didn’t always match to his wants and needs. The results
also suggested that signs should be selected based on 1) the baby’s wants and needs, 2) what baby
likes, and 3) what parents use often in daily routine activities. Additional study is needed for
gathering long term data.
要約
本研究は、先天的に視覚と聴覚の両方に障害のある盲ろう乳幼児 1 名を対象に、盲ろう
に特化したコミュニケーション方法であるタッチ・キューやコアクティブ・サインを導入
し、家庭場面におけるコミュニケーション方法の形成過程について明らかにすることを目
的とした。導入の結果、対象児はキューやサインを活動の予告として理解し、要求を手話
で表出することができた。また、手話を表出するまでには、サインを受容する段階、要求
と表出が必ずしも一致しない段階を経ることが示された。盲ろう乳幼児に対するコアクテ
ィブ・サイン導入の選択肢として①子どもの要求や気持ちに添うもの、②子どもの好きな
もの、③一日の活動の中で頻繁に使用するもの等が考えられた。今後、長期間データを収
集した事例の蓄積が必要である。
Ⅰ.はじめに
従来、障害のある子どもとその家族に対する早期からの支援については、障害種を問わ
ずその必要性が提唱されている。中央教育審議会初等中等教育分科会(2010)の特別支援
教育の在り方に関する特別委員会の論点整理においても、その重要性や必要性が述べられ
ている。
熊田 華恵・中川 辰雄
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中でも聴覚障害児については母子関係育成等の視点から早期支援の必要性が叫ばれ、新
生児聴覚スクリーニングの影響もあり、支援プログラムや家族支援の手引き(佐藤 2005,
田中 2008,全国早期支援研究協議会 2005)等が開発・作成されている。
視覚障害と聴覚障害を併せ有する状態である「盲ろう」(以下、盲ろう)児・者が直面
する困難について、福島(1997)はコミュニケーション、情報摂取、移動という 3 点に集
約されると述べている。
盲ろう児者は、全く見えない「盲」と全くきこえない「ろう」が組み合わさっている「全
盲ろう」だけではなく、全く見えない「盲」ときこえにくい「難聴」が組み合わさってい
る「盲難聴」、見えにくい「弱視」ときこえにくい「難聴」が組み合わさっている「弱視
難聴」、見えにくい「弱視」と全くきこえない「ろう」が組み合わさっている「弱視ろう」
と、その状態像は 4 つに分けられる。また、数としては「全盲ろう」は少なく、「弱視難
聴」の状態がもっとも多いと言われている(中澤,2009)。
2006 年に厚生労働省が実施した身体障害児・者実態調査によれば、日本では視覚障害と
聴覚・言語障害を併せ有する者はおよそ 2 万 2000 人、視覚障害と聴覚・言語障害を併せ有
する子どもはおよそ 1200 人であった(厚生労働省,2008)。平成 10 年度に実施した国立特
殊教育総合研究所(現国立特別支援教育総合研究所)の実態調査によれば、特殊教育諸学
校等に在籍している盲ろう児童生徒数は 338 名であった(国立特殊教育総合研究所,2000)。
文部科学省(2012)によると、特別支援学校の重複障害学級に在籍する視覚障害と聴覚
障害の両方を併せ有する児童・生徒数は計 659 名に上った。この統計によると、盲ろうで
ある児童生徒は、その大多数が知的障害や肢体不自由など、複数の障害を併せ有している
ことが報告されている。このような現状から、盲ろう児が視覚障害や聴覚障害特別支援学
校だけでなく、様々な教育機関へ就学することが見込まれ、各教育機関においては盲ろう
児への適切な配慮が求められると考えられる。
一方、視覚障害への配慮と聴覚障害への配慮をすれば盲ろうへの配慮ができるわけでは
ないことが指摘されている。視覚の活用や聴覚の活用に関する指導や支援及び配慮は、そ
の両方を有する盲ろう児にとって大切なことであるが、それぞれの障害の理解と配慮だけ
では本質的な障害理解には至らない(中澤,2001)ため、盲ろう独自の理解と配慮が必要で
ある。
そのため、今後、視覚障害特別支援学校・聴覚障害特別支援学校だけでなく、知的障害
特別支援学校や肢体不自由特別支援学校、病弱特別支援学校といった教育機関では、盲ろ
う児とその家族に対する早期からの支援が求められると共に、諸外国の知見も活かしなが
ら実際的な対応がなされていく必要がある。とりわけ、生後まもない先天性の盲ろう乳幼
児は親子関係の確立やコミュニケーション手段の獲得と拡大を図る大切な時期にあり、適
切な支援の確立を急ぐ必要がある。
現在、先天性盲ろう乳幼児とその家族への支援は、保健師や医師、療育センター(通園
施設)の指導員、特別支援学校の教員等により有償・無償の指導・支援が行われている。
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しかし、盲ろうという障害が統計的に希少であり、支援にかかわる有用な情報が十分には
存在しないことや盲ろうという障害がもたらす影響を共感しにくいこと等から、盲ろうの
特性を十分に理解し得ない保健師や指導員も少なくないと思われる。
中澤(2001)は、「特に先天的もしくは早期に盲ろうになった子どもの場合、言語の自
然習得は望むことができず、コミュニケーションの成立および言語を含むさまざまなコミ
ュニケーション方法の習得には意図的な配慮と方略が必要である。」と述べている。しか
し、日本ではこれまで最早期の盲ろう児のコミュニケーション方法習得の過程や、本人と
その家族に対する早期支援に視点をあてた研究はほとんどみられない。
弱視・難聴児の発達については鈴木(1993)が、生後 5 ヶ月から両親援助指導を開始し
たケースについて、主として対象児の行動の様子や母親自身の変容を報告している。また、
先天的に視覚障害と聴覚障害があり、かつ脳梁形成不全を合併する事例についての報告(黒
田・今村・伊藤・瀧本,2002)があるが、この報告の対象児も視力があり、聴覚活用がで
きる弱視・難聴のケースであり、かつ言語獲得の指導方法は、従来の聴覚障害児をもつ母
親指導が用いられていた。一方、Watkins&Clark(1991)によると、SKI-HI 研究所によって
開発された盲ろう児向けのコミュニケーション手段獲得のための方法であるコアクティ
ブ・サインシステムが全米やカナダで広まっており、家族や支援者が自宅でその方法を習
得することができるビデオテープも作成されている。
上記の現状を踏まえると、日本において盲ろう乳幼児とその家族が地域で安心して生活
するためには、盲ろう乳幼児や養育している家族と直接かかわり、コミュニケーション手
段獲得に効果的な方法を検討し周知していくことが欠かせない。
本研究は、盲ろう乳幼児の事例を蓄積、体系化していくための第一段階として、先天的
に視覚と聴覚に障害があり、かつその程度が重度である「全盲ろう」乳幼児に対して、盲
ろうに特化したコミュニケーション方法であるタッチ・キューやコアクティブ・サイン、
タクタイル・サイン(表 1 参照)を導入した際の、家庭場面におけるコミュニケーション
方法の形成過程について明らかにすることを目的とする。
Ⅱ.方法
1.対象児
1 歳 6 ヶ月の男児であった。レーベル先天性黒内障があり、視覚機能はないと診断されて
いた。聴覚については両側感音難聴、平均聴力レベルは 100dBHL であり、補聴器を両耳に
装用していた。図 1 に対象児の聴力検査の結果を示した。理学療法士の指導を週 1 回、言
語聴覚士の指導を月に 1 回受けていた。
2.生育歴
妊娠 34 週で子宮内胎児発達遅延で緊急入院し、帝王切開にて 1380g で出産した。誕生後
の新生児聴覚スクリーニングで ABR 検査を 3 回行ったが無反応であった。抱いた時にそり
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返しが強いため抱っこはせず、生後 7 ヶ月まで寝かせて過ごした。生後 6 ヶ月よりリハビ
リテーションを開始した。生後 9 ヶ月より近くの教育センターで教育を開始し、座位をと
る練習、離乳食の練習など発達全般に関するアプローチを行った。
図 1 対象児の聴力反応
3.支援目的と方法
1) 支援前の対象児の様子
家庭では仰臥位で過ごすことが多く、髪の毛や耳を引っ張る自己刺激行動があった。乳
幼児用の玩具を片手で握ることができた。お腹がすくと泣き、嫌なこと(例:苦痛、食べ
たくない、飲みたくない)は下唇を膨らませる等の表情や泣く、首を振る、手で払うこと
で知らせることができた。常時抱きあげると泣いた。普通食の米飯を摂取することができ
た。表情の変化が乏しいが、母親が導入した「いただきます」(両手の平を胸の前でわせ
る)、「オシッコ」(下腹部を右手で 2 回触れる)の身振りを自発的に表出した。
2) 保護者の主訴
視覚と聴覚の両方に障害があることから、かかわり方が難しく、どのようにコミュニケ
ーションをとればよいのかわからない。かかわり手が誰であるかにかかわらず、抱きあげ
ると必ず泣く行動が見られた。母親のかかわりは受け入れるが、父親のかかわりを強く拒
否した。
先天性盲ろう乳幼児と家族に対する早期支援
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3)支援目的および方法
保護者の主訴であった「抱き上げると泣く」という行為については、突然に何かをされ、
見通しを持てないことがその理由ではないかと仮定した。Sense International は、前言語期に
ある盲ろう児の特別なニーズを理解する必要性があるとし、「彼ら(盲ろう児)は予測す
ることができない:母親が食べ物を与えるために来てくれたり、世話をするために来てく
れるということがわからない、それは彼らにとってより怖い状況である。なぜなら母親が
彼らに触れたり熱い哺乳瓶を与える時、彼ら(盲ろう児)は単にある一人の大人を近くに
感じているだけだからである。」と述べている。
つまり本児にとって「抱き上げられる」という行為は、誰であるかわからない他者に、
突然に身体を持ち上げられるというものである。何のために身体が持ち上げられ、これま
でとっていた姿勢が変わるのか理由もわからず、それも突然に訪れることに恐怖感を感じ
ているのではないかと仮定した。
また、コミュニケーション方法については、本児の視覚障害と聴覚障害の程度が重度で
あることと、既に「いただきます」(胸の前で両手の平を合わせる)や「オシッコ」(下
腹部を右手で 2 回触れる)等、自発的なサインの使用が見られたこと、母子関係が良好で
あることから、サイン言語のように直接的で即時性の高い手段が適しているのではないか
と考えた。
表 1 盲ろう児のコミュニケーション方法
オブジェクト・キュー
オブジェクト・キューとは、例えば哺乳瓶を触らせることで「ミルク(を飲む)」を
知らせるといったように、人や物、場所、活動に関する実物(具体物)や実物の一部を
触らせることで人や物を知らせたり、活動の予告をするものである。
タッチ・キュー
タッチ・キューとは、身体の一部を触ることで行動や活動の予告を行うものである。
例えば「食べる」ことを予告するために唇を軽く触れる等のタッチ・キューがある。子
どもにこれから何が起こるかを予測させ、驚かせないようにする。
コアクティブ・サイン
コアクティブ・サインは、大人(かかわり手)が子どもの手をとり、子どもの手の上
に大人(かかわり手)の手をのせ、子どもの手が手話の手形になるように形作ったまま、
ともに動作を行う。これを実際の活動の前に行うことにより、将来的に子どもが要求や
意思を手話で表出することを目的としている。後に子どもが自発的にサインを表出する
ようになり、そのサインが完全な手話の手形ではない場合でもその表出を受け入れ、よ
り手話の手形に近くなるように、正しいモデルを示していくものである。
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タクタイル・サイン
タクタイル・サイン(触読手話)は、「子どもに伝える」ために、子どもの片手(も
しくは両手)の下に大人(かかわり手)の手を置く。子どもの眼が全く機能していない、
あるいは視覚障害の程度が重篤である場合に用いられる。
そこで表 1 の中から、家庭の様子を観察した上で、本児が家族によるキューやサインを
活動の予告として理解し、手話により意思を表出することを目的として、家族に下記(1)
~(3)のコミュニケーション方法を具体的に提案した。
(1) 本児を抱く時には必ず両手で本児の両横腹を軽く 2 回触る(タッチ・キュー)こ
とにより、本児が「今から何をされるのか」が理解できるように促す。本児を抱
く前には必ずサインをしてから抱く。サインをする時には「抱っこするよ」等、
音声も併用する。
(2) SKI-HI 研究所によって開発されたコアクティブ・サインシステムを参考に、用い
る手話を日本の手話に置き換え、本児に動作語(食べる、飲む)や形容詞(おい
しい)を導入する。日常生活の中で使用していくために、家族がサインを覚え、
家庭で使用する。コアクティブ・サイン導入の具体的な方法は以下の通りである。
① 「食べる」:食べ物を食べさせる時に本児の右手をとり、本児の右手が手話の「食
べる」の手形になるように形作った状態で、本児の口元に 2 回触れる動作をした後、
食べ物を与える。サインをする時には「食べるよ」等、音声も併用する。
② 「飲む」:飲み物を与える時に本児の右手をとり、本児の右手が手話の「飲む」の
手形になるように形作った状態で、コップを自身の口元へ傾ける動作をした後、飲
み物を与える。サインをする時には「飲むよ」等、音声も併用する。
③ 「おいしい」:本児が食べ物をたくさん食べたり、速いスピードで食べる際に本児
の右手をとり、本児の右手が手話の「おいしい」の手形になるように形作った状態
で、手の平を右頬に 2 回軽く触れる。サインをする時には「おいしいね」等、音声
も併用する。
(3)
本児が「食べる」や「飲む」の手話を自発的に表出した場合は、本児の頭をな
でたり、手話を表出した手を触ったり、本児の手の平の下に母親の手を置き、
母親が手話の「わかる」(右手の平で胸を 2 回触れる)の動作をしていること
を知らせ(タクタイル・サイン)、本児の表出に対してフィードバックする。
フィードバックをする時にも「食べたいんだね」「わかったよ」等、音声を併
用する。
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本児に食べ物を食べさせたり、本児がお腹を空かせて泣いていると思われる時には必ず
「食べる」のコアクティブ・サインをしてから食べ物を与える。「飲む」も同様に、本児
に飲み物を与えたり、本児がのどが渇いて泣いていると思われる時には必ず「飲む」のコ
アクティブ・サインをしてから飲み物を与える。サインを導入する際は必ず本児の行動か
ら要求や気持ちを読み取り、行動の意味を解釈して導入することとし、無理強いはしない
こと、また本児の様子を見ながら少しづつ導入するよう提案した。
Ⅲ.結果
本児が 1 歳 6 か月から 1 歳 11 か月までの間に家族が経過について記した記録、写真、動
画、筆者に報告されたメールや電話の内容、筆者による直接観察から、コミュニケーショ
ンに関するエピソードを時系列にそってまとめ、本児のコミュニケーション方法の形成過
程について分析した。
母親の記録をもとに、本児の一日の生活の流れと、活動の前や最中に母親が使用したキ
ューやサインを表 2 に示す。筆者の家族への提案はゴシック部分のみであるが、その他は
家族が自ら検討し使用したもの(「いただきます」や「オシッコ」等、以前から使用して
いたものも含む)である。
表 2 本児の一日の生活の流れ及び
母親が本児に対して養育上の行動をする前に使用したキューやサイン
(「おいしい」「違う」等、本児の気持ちを読み取って導入したサインを含む)
時刻
本児の活動
7:00
起床
母親が養育上の行動をする前に使用した
キューやサイン
オ ブ ジ ェ ク タッチ・キュー コ ア ク テ ィ
ト・キュー
ブ・サイン
抱っこ
新しいオムツ
オシッコ
抱っこ
8:00
食べる
いただきます
おいしい
違う
飲む
ごちそうさま
朝食
抱っこ
8:20
着替え
幼稚園送り
9:00
帰宅
9:30
10:00
遊び
オムツ交換
着替える服
本児に朝食を食べさせる
本児に飲み物を飲ませる
本児の服を替える
本児を抱き、ベビーカーに乗せる
(本児のきょうだいを幼稚園に連れて
行く)
抱っこ
新しいオムツ
本児を抱き、布団からソファへ移動さ
せる
本児のオムツを交換する
本児を抱き、ソファから椅子に移動さ
せる
本児を抱き、椅子からソファへ移動さ
せる
抱っこ
8:30
母親の養育行動
本児を抱き、ベビーカーからソファへ
移動させる
オシッコ
本児のオムツを交換する
熊田 華恵・中川 辰雄
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抱っこ
10:30
おやつ
11:00
12:00
昼寝
昼食
食べる
いただきます
おいしい
違う
ごちそうさま
本児を抱き、オムツを一緒に捨てる
本児におやつを食べさせる
抱っこ
本児を抱き、ソファへ移動させる
抱っこ
本児を抱き、ソファから椅子へ移動さ
せる
食べる
いただきます
おいしい
違う
飲む
ごちそうさま
本児に昼食を食べさせる
本児に飲み物を飲ませる
抱っこ
本児を抱き、椅子からソファへ移動さ
せる
抱っこ
本児を抱き、ベビーカーに乗せる
(本児のきょうだいを幼稚園に迎えに
行く)
13:40
幼稚園迎え
14:00
帰宅
抱っこ
本児を抱き、ベビーカーからソファへ
移動させる
17:00
夕食
抱っこ
本児を抱き、ソファから椅子へ移動さ
せる
18:30
食べる
いただきます
おいしい
違う
飲む
ごちそうさま
お風呂
入浴
抱っこ
パジャマ
抱っこ
飲む
水分補給
抱っこ
マッサージ
抱っこ
マッサージ
歯磨き
歯ブラシ
本児に夕食を食べさせる
本児に飲み物を飲ませる
本児の服を脱がせる
本児を抱き、風呂場へ連れて行く
入浴後、本児にパジャマを着せる
本児を抱き、椅子に座らせる
本児に飲み物を与える
本児を抱き、ソファに寝転がらせる
本児にマッサージをする
本児を抱き、身体を仰向けにする
本児に歯ブラシをもたせる
終わり
抱っこ
19:00
本児を抱き、寝室へ移動させる
就寝
1.「抱っこ」のサインの形成過程
「抱っこ」については 2011 年 4 月 11 日より、母親が 1 日に 17 回、本児にサインを導入
した。この取り組みを継続した結果、5 月 3 日には、母親が「抱っこ」のサインをすると「本
児が母親の両腕にしがみつく」という行動がみられるようになった。また、5 月 8 日には父
親が「抱っこ」のサインをしたところ、母親と同様、父親の両腕にしがみつくという行動
がみられた。以降、「かかわり手がサインをしてから抱くと、本児がかかわり手の両腕に
しがみつく」という行動が定着し、泣くことはなくなった。
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2.「食べる」「飲む」「おいしい」「米」のサインの形成過程
「食べる」・「飲む」のサインはともに、4 月 11 日より母親が一日 4 回(朝食時・おや
つの時間・昼食時・夕食時に導入した。「おいしい」は本児がたくさん食べる時や速く食
べる時等、本児の様子に合わせて導入した。「米」は 7 月 7 日より米飯を食べる際に導入
した。)コアクティブ・サインを導入した。
母親からの報告によると本児は、コアクティブ・サインを導入されることに嫌がるよう
な様子はなく素直に受け入れていた。導入後数日は、本児の要求とは関係なく、よく右手
を動かしており、導入後 2~3 日は、本児の要求とは関係なく手話を表出していた。
取り組みを継続した結果、本児は 4 月 15 日に食べ物(乳ボーロ)を食べて「おいしい」、
4 月 23 日には要求と一致した「飲む」の手話を自ら表出した。5 月 11 日には、「食べる」
の手話表出も確立した。
7 月 7 日に母親は、本児の様子を細かく観察する中で、本児が遊びで顔に触れている手指
の形が、手話の「米」(親指と人差し指の先を合わせ、中指・薬指・小指は伸ばした状態
で、親指と人差し指の先を口元に 2 回触れる)と同一であることに気づいた。そして本児
が米飯を好むことと、「食べる」と「飲む」のサインが手形は異なるものの、手を置く場
所が同じ口元であり、本児が混乱しているように思えたことから、米飯を食べさせる時に
は本児の手指を「米」の手形に形作り、親指と人差し指の指先を右の口角に 2 回触れた後、
米飯を食べさせることに取り組んだ。その結果、本児は「米」のサインを食べる物の予告
として理解するだけではなく、8 月 13 日に「米」の手話を自発的に表出し、「米飯を食べ
たい」という要求を表すようになった。
コアクティブ・サインの受け入れ
利き手の動きの増加
手話の表出
図 2 本児のコミュニケーション方法の形成過程
3.「違う」等のサインについて
離乳食の練習を始めると食べ物の好き嫌いも出始め、食べ物を与える際に本児が欲して
いない食べ物を与えた場合に手で振り払う仕草が見られたため、母親が「違う」(右手の
親指と人差し指をのばし、他の指は折り曲げた状態で 2 回軽く手首をひねらせる動作。手
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話「違う」)のコアクティブ・サインを 8 月から導入したが、本児が自発的に「違う」の
手話を表出することはなかった。母親は他にも「お風呂」(右手で拳を作り、左胸・鎖骨
のあたりを 2 回こする動作。手話「お風呂」)のコアクティブ・サインを導入したが、本
児が自発的に「お風呂」の手話を表出することはなかった。
4.支援中の対象児の様子
先述したように、母親がコアクティブ・サインを導入する際、本児に嫌がるような様子
はなかった。また、導入直後は表情が変わり、考えているような様子が見られた。また、
導入後は右手をよく動かしていた。導入後 2~3 日で「食べる」「飲む」「おいしい」を手
話で表出したが、例えば右手の手形は手話の「食べる」になっているが、こめかみのあた
りに手を置いて表出していたり、右手の甲が左頬に触れた形で手話の「おいしい」を表出
する等、手形は合っているが手を置く顔の位置が異なる場合もあった。また、手話を表出
するが、本児の要求と一致していないという場面も多く見られた。
5.支援後の対象児の様子
手話の表出と本児の要求が一致し、お腹がすいた時には「食べる」、飲み物が欲しい時
に「飲む」、米飯が食べたい時には「米」、食べ物を食べている時や食べた後に「おいし
い」の手話を表出するようになった。手を置く顔の位置が異なることも少なくなった。保
護者からは、「表情が豊かになり、喜怒哀楽が表現できるようになった。」「他の物(お
もちゃや日常生活で使用する物)を受け入れるようになり、恐怖感を感じなくなり、人や
物への認識を始めた。」「サインを導入する前は泣くことしか表現方法を知らなかったよ
うに感じる。」と報告を受けた。さらに、「盲ろうという障害を知り、どうしたいいのか
分からずにいたが、教育やかかわり方の大切さを知った。正直、かかわり方を知らず、か
かわりを持たなければすやすや寝てとても良い子に感じていた。親子で教育を受け、かか
わり方やコミュニケーションのあり方を知り、ようやくわからないことへの恐怖から解放
され楽しくなった。」との報告を受けた。
「おいし
い」
「飲む」
「食べ
る」
「米」
0
10
20
30
40
日
図 3 要求と一致した手話表出までに要した日数
先天性盲ろう乳幼児と家族に対する早期支援
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Ⅳ.考察
1.タッチ・キューの効果
本児に「抱っこ」することを予告するタッチ・キューを導入し、タッチ・キューをした
母親の両腕に本児が両腕でしがみつくという行為が見られるまでに要した日数は 22 日であ
った。以降、「抱き上げると泣く」という行為がなくなったことから、タッチ・キューは
活動の予告として有効であったと考えられる。同様の事例研究がほとんどなく、22 日とい
う日数について長短の比較・評価をすることはできないが、一日の生活の中で食事や入浴
等、抱き上げられる機会(回数)が 17 回と頻繁にあったことは、「サイン(をされる)→
活動(が始まる)」という理解の促進に役立つのではないかと思われる。
2.コアクティブ・サインの効果
母親を主とする家族の熱心な取り組みの結果として、本児は「食べる」「飲む」「おい
しい」「米」の手話を表出することができるようになった。要求と一致した手話が表出さ
れるまでに要した日数は、「おいしい」が 4 日、「飲む」は 12 日、「食べる」は 30 日、
「米」は 37 日という日数であった。先行研究がほとんどなく、また本児が 9 月 3 日に逝去
し、継続してデータをとることができなかったため比較することはできないが、特に「お
いしい」や「飲む」の手話を表出するまでに要した日数はかなり短く、コアクティブ・サ
インは手話による意思表出を促すために有効であったと考えられる。
本児が短期間で手話を表出するようになったその理由については以下の点が考えられ
る。まず「食べる」や「飲む」という行為が生理的な欲求に基づくものであり、実際の行
為と手話の手形が似ており、対応の理解が容易であるのではないかと考えられる。また食
事は一日に計 3 回(おやつを含めると計 4 回)、必ず繰り返し訪れる機会であり、サイン
を導入する機会(回数)が多く、自然に日常のルーティン活動になるためではないかと思
われる。
そして、本児の学習能力の高さに起因するのではないかと思われる。視覚と聴覚に障害
を有する場合には知的障害を併せ有するケースも多いが、実際には知的障害はなくともあ
るかのように見えてしまうケースもあり、知的障害の正確な有無は測定しがたい。従って
本児には知的障害が無いか、仮に有していたとしてもその程度は軽度であったのではない
かと推測される。
他に、既習の「学習の効果」が考えられる。母親は筆者とかかわる以前に「いただきま
す」(胸の前で両手の平を合わせる動作)や「オシッコ」(下腹部を 2 回右手で触れる)
等の身振りサインを既に本児に導入しており、本児の自発的な表出も確立していた。また、
母親がコアクティブ・サインを導入する際、本児に嫌がる様子はなく、導入直後は表情が
変わり、考えているような様子が見られていたことを併せて考えると、「サインは活動の
予告である」や「サインと活動が結びつく」という学習が既に本児に成立していたことに
よるのではないかと推測される。
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「米」については表出までに 37 日という日数を要しているが、先述したように、筆者が
提案したのではなく、本児が米飯を好むことと、遊んでいる時の手形が「米」に似ている
ことに母親自身が気づき、導入したという点に着目するべきであると考える。SKI-HI(1990)
はコアクティブ・サイン導入のポイントとして、子どもが思わずサインを表出したくなる
ようなものを選択することを勧めている。「米」の手話を一見すると盲ろう乳幼児が理解・
表出するには困難に思えるが、母親がサイン導入の方法を効果的に活用した例であり、特
筆する必要があると思われる。
一方、「違う」や「お風呂」等のサインについては、自発的に表出するには至らなかっ
た。その原因としては、「違う」については「食べる」「飲む」等と異なり具体的・実際
的な活動でなく概念であり、手形との理解が結びつきにくいこと、また「お風呂」につい
ては 1 日 1 回の活動で、予告をする回数が少ないこと、現状では表出しようとする意欲を
かきたてるものではなかったことが考えられる。しかし、本児は入浴が好きで、7 ヶ月時か
ら入浴前に服を脱がせると笑顔を見せるようになっており、病院の身体測定に際して服を
脱がせると怒り出していた。また、服を脱がせてプールに入れると激しく怒った。これら
のことから母親は、「『服を脱ぐ=入浴』であると本児が予想していた」と推測しており、
「活動の予告として服を脱がせた後に『お風呂』のサインを導入して良かった。」と述べ
ている。結果として本児が自発的に手話を表出するには至らなかったが、まずは活動の予
告として「受信」し、理解することが重要であり、継続してデータを取ることができれば
表出の可能性も完全には否定できず、表出に至らない場合にはその原因をより詳細に考察
できるとも思われる。むしろこれらについても先述の「米」と同様に、母親がコアクティ
ブ・サインを導入してコミュニケーションをとることの意義や方法、有益性を実感し、自
ら導入したという点に着目するべきであると思われる。
総じて、本児のように視覚障害と聴覚障害の程度が重度であり、双方の感覚活用が困難
である場合には、コミュニケーション手段としてコアクティブ・サインが効果的であると
考えられる。Watkins&Clark(1991)が述べるように、コアクティブ・サインは機能的であ
り、指示している対象に似ており、表出しやすいため、視覚障害や聴覚障害の程度の軽重
や盲ろうという障害に限らず、障害の重い「重度・重複障害児」がコミュニケーション方
法を学ぶ際にも役立つと思われる。
乳幼児期はコミュニケーション手段の選択と拡大に取り組むべき重要な時期であること
から、サインの導入については早期から盲ろう乳幼児を養育する家族や関係者が取り組む
必要があると思われる。しかし現在、日本では家族や関係者がコアクティブ・サインを学
習し、家庭や学校生活に取り入れることができるような書籍や DVD 等は作成されていない。
今後、日本版の作成を含め、情報提供の在り方の検討が必要であると思われる。
3.コアクティブ・サインを導入する際にかかわり手に求められる要件
1)子どもの行動の意味、要求、感情をとらえる洞察力
先天性盲ろう乳幼児と家族に対する早期支援
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コアクティブ・サインは、活動を予告したり、子どもの要求や感情に沿ったサインを随
時導入していくものである。本事例において、母親が日々の養育において長時間本児と接
し、本児の表情や行動からその意味や要求をとらえてかかわっていたことから、かかわり
手には子どもが現在行っている行動の意味や要求、感情を正確にとらえる力が求められる
と考えられる。家族の中でも母親は日常生活を共に過ごす時間が長いため、コアクティブ・
サインを導入するかかわり手としては最適であると考えられる。学校等の教育機関におい
ては担任の教員(教育相談の場合はその担当者)がその役目を担うことになると思われる
が、家庭での様子について保護者から日常生活の様子を聞き取り、教員と保護者が相互に
情報交換・連携しながら取り組む必要があると思われる。
2)手話の知識
本事例において筆者が母親に紹介したもの以外の手話については、母親が独学で学び、
コアクティブ・サインとして導入したことと、現在日本においてはコアクティブ・サイン
に関する書籍や DVD 等の情報がないことから、盲ろう乳幼児を養育する家族には手話に関
する知識が必要となる。そのためには早期支援に携わる者にもその知識が求められる。中
澤(2001)は、欧米では他の障害の有無にかかわらず盲ろう児教育において手話の活用が
広く行われていることを示し、日本においては特に盲学校の場合、音声言語に他のコミュ
ニケーション方法を併用する場合が少ないと指摘している。詳細は実態調査を行う必要が
あるが、先述したように、盲ろう児が視覚障害や聴覚障害特別支援学校だけでなく、知的
障害特別支援学校や肢体不自由特別支援学校に就学する場合も考えられることから、学校
種を問わず、盲ろう児教育において手話を活用する必要があると思われる。
4.コアクティブ・サインを導入する際に子どもに求められる要件
1)他人に腕や手指を動かされることに対して抵抗がないこと
先述したように本事例の対象児は、手指に麻痺等もなく、母親に手指を持たれて動かさ
れることを嫌がる様子が見られなかったことから、コアクティブ・サインは他人に手指を
持たれ、動かされることを好まない子どもには適さないと考えられる。視覚障害と聴覚障
害以外に併せ有する身体的な障害により腕や手指の動きが制限されている子どもにも適さ
ないのではないかと考えられるが、併せ有する身体的な障害が重度である子どもの中には、
将来的に手話での表出が困難に思える子どもでも、本人なりの手段で意思を表出する子ど
もや、他人に腕や手指を持たれ、動かされることを好む子ども、あるいは活動の予告とし
てコアクティブ・サインを用いることが有効な子どももいる。そのため、身体的な障害の
状態のみから導入の検討を避けることは子どもに対する情報補償、あるいは子どもの学習
の機会や可能性を奪うことにもなりかねないため、留意が必要である。
2)ボディイメージを作っていくこと
熊田 華恵・中川 辰雄
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ボディイメージとは、自己の身体に関する空間的な心像のことである。本事例において
対象児は「食べる」を手話で表出した際に、右手の手形は手話の「食べる」になっている
が、口元ではなくこめかみに手を置いて表出していたり、右手の甲が左頬に触れた形で手
話の「おいしい」を表出する等、手形は合っているが手を置く顔の位置が異なる場合があ
ったことから、子どもが自分の手指を顔や身体のどこの位置に置いて手話を表出するのか
を理解しやすくするために、ボディイメージが必要となると考えられる。しかし生後間も
なく、ボディイメージは十分形成されているわけではないため、ボディイメージの形成を
促進するような試みが必要となる。
そうした試みの一つとして、本事例の家族に対して Alsop(2002)のベビーマッサージの方
法を筆者が日本語に翻訳したものを紹介したところ、母親が 4 月 11 日から 7 月迄、毎日 1
回取り組んだ。父親は 5 月 10 日から、土曜日や日曜日に取り組んだ。従来、本児に対して
は生後 3 ヶ月から、親族の有資格者が本児に対してマッサージを始めていたが、本児は大
変嫌がり泣いていた。生後 6 ヶ月からは病院の理学療法士のもとへリハビリテーションの
ため週 1 回通っていたが、他人に触れられることを嫌がり泣いていた。
しかし、紹介したマッサージを家族が本児に行うと素直に受け入れた。保護者の報告に
よると、特に「マッサージ」のサイン(全身を 2 回さする)を決めてからは心地よさそう
な様子を見せ、マッサージを終了すると、「もっとやって」(下唇を膨らませる)と催促
するくらいマッサージが好きになった。また、母親にマッサージしてもらうよりも父親に
してもらう方を好むようになった。保護者の主訴でもあったように、従来本児は父親のか
かわりを拒否することが多かったため、父親は「大変嬉しかった。」と述べている。さら
に家族は、本児が父親にマッサージしてもらうことを好む理由について、「父親の手が大
きく、常に温かく、包み込まれるような感じで安心するのではないか。」と述べている。
また、病院の理学療法士にも「マッサージ」のサインをしてから本児へのリハビリテー
ションに取り組んでもらうようにすると、泣くことはなくなった。
本児のように、ベビーマッサージ自体がコミュニケーションであり、楽しい活動であり、
毎日の入浴後に取り組むルーティンの活動となれば、一日の生活の見通しをつけることに
もつながるのではないかと考えられる。
さらに、盲ろう児は将来的に通訳介助者等「人」が必ず必要となり、触ったり触られ
たりすることが日常のこととなる。そのためにも、また過敏があるような場合はなおのこ
と早期から、ベビーマッサージのような取り組みを継続する必要があるのではないかと考
えられる。しかし、中には医師の見解が必要な場合もあると思われるため、子ども一人ひ
とりのニーズに合わせることが必要である。
5.コアクティブ・サインを導入する際の留意点
本事例については既に「いただきます」等のサインを母親が導入し、本児が表出手段と
して獲得していたことから、「食べる」、「飲む」、「おいしい」という複数のサイン導
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入を提案した。
しかし、サイン導入がまったく初めての場合は導入するサインを 1 つもしくは 2 つに絞
り、子どもにとってわかりやすくする必要があると考えられる。複数導入すると混乱する
可能性もあると考えられるからである。
また、子どもの理解の混乱を避けるため、「利き手」を考慮に入れる必要がある。手話
には利き手のみを用いるもの、両手を用いるものがある。大人(かかわり手)が子どもに
対し、正面から手をとってサインを導入する場合、留意が必要である。子どもの背後から
手をとって手形を作るようにする方が、誤用が防止できる。
どのサインを導入するかについては、子どもの要求や気持ちに添うもの、子どもが思わ
ず表出したくなるもの、子どもの好きなもの、1 日の活動の中で頻繁に使用すると思われる
もの等について複数の関係者で検討する必要があると考えられる。
6.本児のコミュニケーション方法(手話)の形成過程
本児は、手形の獲得は容易であるが、手を置く顔の位置を獲得することが困難であった。
鳥越(1995)は、聾乳幼児 2 名の手話による発話において、手形や運動による誤用が多く、
位置による誤用が少なかったことを報告している。本児においては、手形の誤用はなく位
置に誤用が多かったことは、やはり視覚の活用が困難であることに起因すると思われ、先
述したがボディイメージを形成していくことの必要性が示唆される。
また、本児においては、コアクティブ・サインを導入した 2~3 日後に、利き手の動きの
増加が観察された。これについては武居(1999)が述べる手話喃語である可能性も推測さ
れるが、詳細については今後の研究に委ねたい。
Ⅴ.おわりに
本事例では、視覚障害と聴覚障害の程度が重度である先天性全盲ろう乳幼児 1 名を対象
としてタッチ・キューやコアクティブ・サインといった盲ろうに特化したコミュニケーシ
ョン方法を導入しその形成過程を考察した。今後は長期間継続してデータ収集し、より詳
細な考察をする必要があると思われる。なお本研究は保護者の了解の下に、平成 23 年 4 月
から逝去した平成 23 年 9 月まで継続して行われた。
最後に本児のご冥福をお祈り致します。
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