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ご あ い さ つ - NTT物性科学基礎研究所
InN単一量子井戸の格子像および散乱強度 光励起による発光スペクトル GaN ステップフリー面上に形成した InN 超薄膜単一量子井戸からの 紫色狭線 PL 発光 単色性の極めて高い紫色発光が得られる超薄膜 InN 単一量子井戸 (InN SQW) を作 製した。この InN SQW はわずか 1 分子層の InN(厚さ 0.3 nm)を GaN で挟んだ構造で あり、単分子層のステップも存在しない急峻なヘテロ界面を有している。そのため、 量子サイズ効果による発光波長やスペクトル幅の精密な制御が実現できた。今後、 InN を 2 分子層、3 分子層と厚くすることにより、それぞれ、緑色および赤色の狭線 発光が得られると理論的に予測される。 (18 ページ) (a) SiC上に成長されたグラフェンの原子間力顕微鏡図。(b) プラズモン信号の時間依存性。 (c) プラズモン伝搬速度の磁場依存性。 グラフェンにおけるプラズモン伝導の時間分解測定 グラフェンにおけるプラズモンの伝搬速度を測定し、磁場、ゲート電極による遮 蔽効果、電子密度を変化させることにより、2 桁に渡って変化することを示した。速 度を制御することにより、プラズモン信号の制御が可能となる。 (33 ページ) -Ⅰ- (a) 超伝導永久電流アトムチップ上に捕捉された原子の模式図。(b) 蒸発冷却後のTOF画像。νf は、蒸発冷却の 最終掃引周波数を示している。(c) (b)の点線に沿った光学密度。 超伝導永久電流アトムチップにおけるボース・アインシュタイン凝縮体 の生成 超伝導永久電流アトムチップ上に捕捉された 87Rb 原子に蒸発冷却を行うことで、 ボー ス・アインシュタイン凝縮体 (BEC) の生成に成功した。ボース凝縮の検証は、飛行時 間 (TOF) 法を用いて行った。νf が 1.750 MHz の時に相転移を示す 2 成分(凝縮・非凝縮) 運動量分布を測定できたことから BEC が得られているとわかった。 (39 ページ) 走査型電子顕微鏡像 光出力-電流特性、発振スペクトル 電流注入型波長サイズ埋込み活性層フォトニック結晶 (LEAP) レーザ 我々はこれまでに、電流注入により動作する、フォトニック結晶共振器と微小な 埋込み活性層を特徴とする LEAP レーザを開発している。今回、InAlAs を犠牲層に用 いることで、電流注入時の基板を介したリーク電流を大幅に削減することに成功し、 半導体レーザにおいて世界最小しきい値電流および最小消費エネルギー(単位ビット 当たり)で動作する LEAP レーザを実現した。 (45 ページ) -Ⅱ- ご あ い さ つ 日頃より、私ども NTT 物性科学基礎研究 所の研究活動に多大なご支援・ご関心をお寄 せ頂きまして、誠にありがとうございます。 NTT 物性科学基礎研究所では、10 ~ 20 年 後を見据え、速度・容量・サイズ・エネルギー などの点で、従来のネットワーク技術の壁を 越えるような新原理・新概念を創出すること を目指して基礎研究を行っています。そし て、この新原理・新概念を創出する過程で見 出した有望技術を新しい産業の種とすること により、中長期的な NTT 事業への貢献を行っ ています。これらのミッションを達成するた め、物理、化学、生物、数学、電気電子、情 報、医学などを専門とする幅広い分野の研究 者が、機能物質科学、量子電子物性、量子光物性に関する研究分野で研究を進め ています。 研究を進める上で、NTT グループ内の研究協力はもちろんのこと、グローバ ルな連携強化が重要との認識のもと、日本、米国、欧州、アジアの大学や研究機 関との幅広い連携・共同研究を積極的に進めております。また、私どもの研究内 容を紹介させていただく『サイエンスプラザ』や、ナノサイエンスや量子物理に 関する『国際会議』を開催し、私どもの活動をご理解頂くとともに、それに対す る忌憚のないご意見を頂けるように努めております。 これらの活動を通じて、開かれた研究所としての使命を果たすとともに、本研 究所での成果を広く世界に発信するよう努力を致す所存でございますので、今後 とも一層のご指導・ご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。 2013 年 7 月 NTT 物性科学基礎研究所 所長 寒川 哲巨 -Ⅲ- 目 次 ページ ◆ 表紙 ♦ 無磁場電子スピン共鳴による輸送電子スピンのコヒーレント操作 ◆ カラー口絵 ……………………………………………………………………………Ⅰ ♦ GaN ステップフリー面上に形成した InN 超薄膜単一量子井戸からの紫色狭線 PL 発光 ♦ グラフェンにおけるプラズモン伝導の時間分解測定 ♦ 超伝導永久電流アトムチップにおけるボース・アインシュタイン凝縮体の生成 ♦ 電流注入型波長サイズ埋込み活性層フォトニック結晶 (LEAP) レーザ ◆ ごあいさつ ……………………………………………………………………………Ⅲ ◆ NTT 物性科学基礎研究所 組織図 ………………………………………………… 1 ◆ NTT 物性科学基礎研究所 所員一覧 ……………………………………………… 2 Ⅰ . 研究紹介 ◇ 各研究部の研究概要 …………………………………………………………………………… 15 ◇ 機能物質科学研究部の研究紹介 ……………………………………………………………… 17 ♦ 窒化物半導体発光トランジスタ ♦ GaN ステップフリー面上に形成した InN 超薄膜単一量子井戸からの紫色狭線 PL 発光 ♦ AlInN/GaN 格子整合ヘテロ構造のドーピング制御 ♦ Nd2CuO4 と Nd1.85Ce0.15CuO4 における普遍的な超伝導基底状態 ♦ 酸化グラフェン表面で実現するラベルフリータンパク質検出 ♦ 水素インターカレーションと電気化学エッチングにより作製した 3 層エピタキシャル グラフェン振動子 ♦ 疑似的にフリースタンドしたグラフェンナノリボンネットワークの自己組織化 ♦ 脂質膜に高密度に再構成した GluA2 ホモマの機能と構造 ♦ ナノギャップ内の電気二重層チューニングによる人工細胞膜自発展開の静電制御 ♦ 導電性高分子と繊維の複合素材による心拍・心電図の長期計測用ウエアラブル電極 ◇ 量子電子物性研究部の研究紹介 ……………………………………………………………… 27 ♦ ドナー原子を用いた単電子ポンプ ♦ 急峻な電流特性を有するトランジスタを用いた微小信号検出 ♦ フォノンを用いたキャビティエレクトロメカニクス ♦ GaMnAs における強磁性秩序によって誘起されたピエゾ抵抗 ♦ メンブレン電気機械振動子 ♦ 量子ドットのコトンネリング領域におけるショット雑音スペクトロスコピー ♦ グラフェンにおけるプラズモン伝導の時間分解測定 ♦ グラフェン伝導スペクトロスコピーにおける量子キャパシタンスの効果 ♦ 量子メモリと超伝導量子ビットの結合系におけるエネルギー緩和 ♦ トリオン- 2 次元電子正孔クロスオーバの証拠 ◇ 量子光物性研究部の研究紹介 ………………………………………………………………… 37 ♦ 量子ビットのコヒーレント制御における原理的な限界 ♦ シリコンフォトニクス技術を用いたモノリシックな偏波量子もつれ光源 ♦ 超伝導永久電流アトムチップにおけるボース・アインシュタイン凝縮の生成 ♦ 高次高調波を用いた時間分解光電子分光法による GaAs 表面の超高速ダイナミクス 計測 ♦ 無磁場電子スピン共鳴による輸送電子スピンのコヒーレント操作 ♦ デュアルピッチ PPLN 導波路を用いたキャリアエンベロープオフセット信号の 高効率検出 ◇ ナノフォトニクスセンタの研究紹介 ………………………………………………………… 43 ♦ 銅ドープシリコンナノ共振器からの高速自然放出光発生 ♦ 量子ドットナノ共振器による光通信波長帯における高速単一光子発生 ♦ 電流注入型波長サイズ埋込み活性層フォトニック結晶 (LEAP) レーザ ♦ Si-Ge- 石英モノリシックプラットフォーム上に集積された 22-Gbit/s × 16-ch WDM レシーバ Ⅱ . 資料 ◇ サイエンスプラザ 2012 ………………………………………………………………………… 47 ◇ 第 7 回アドバイザリボード(2012 年度)……………………………………………………… 48 ◇ 表彰受賞者一覧(2012 年度)…………………………………………………………………… 49 ◇ 報道一覧(2012 年度)…………………………………………………………………………… 53 ◇ 学術論文掲載件数、国際会議発表件数および出願特許件数(2012 年)…………………… 55 ◇ 国際会議招待講演一覧(2012 年)……………………………………………………………… 57 NTT 物性科学基礎研究所 組織図 2013 年 3 月 31 日付 所 長 牧本 俊樹 企画担当 ナノバイオ研究統括 主席研究員 寒川哲臣 主席研究員 牧本俊樹 ナノフォトニクスセンタ 量子・ナノデバイス研究統括 センタ長 納富雅也 上席特別研究員 山口浩司 機能物質科学研究部 部 長 日比野浩樹 量子電子物性研究部 部 長 藤原 聡 量子光物性研究部 部 長 寒川哲臣 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 1 NTT 物性科学基礎研究所 所員一覧 2013 年 3 月 31 日付 (* は年度途中までの在籍者) 物性科学基礎研究所 所長 牧本俊樹 主席研究員 牧本俊樹 鳥光慶一 * ナノバイオ研究統括 量子・ナノデバイス研究統括担当 上席特別研究員 2 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 山口浩司 企画担当 企画担当主席研究員 寒川哲臣 総括担当主任研究員 中島 寛 武居弘樹 * 研推担当主任研究員 小栗克弥 新家昭彦 * ナノフォトニクスセンタ (NPC) センタ長 NTT リサーチプロフェッサー 納富雅也 都倉康弘(筑波大学) NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 3 機能物質科学研究部 薄膜材料研究G グループリーダ 低次元構造研究G グループリーダ 分子生体機能研究G グループリーダ 4 部長 日比野浩樹 補佐 赤坂哲也 河西奈保子 * 山本秀樹 小林康之 熊倉一英 赤坂哲也 谷保芳孝 Krockenberger, Yoshiharu 平間一行 Lin, Chia-Hung 佐藤寿志 小野満恒二 * 廣木正伸 Banal, Ryan 日比野浩樹 前田文彦 尾身博雄 髙村真琴 Orofeo, Carlo M. 古川一暁 神﨑賢一 * Wang, Shengnan 鈴木 哲 田邉真一 村田祐也 住友弘二 島田明佳 * 樫村吉晃 塚田信吾 中島 寛 * 後藤東一郎 河西奈保子 田中あや NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 量子電子物性研究部 部長 藤原 聡 補佐 林 稔晶 山口 徹 * 唐沢 毅 ナノデバイス研究G グループリーダ ナノ加工研究G グループリーダ 量子固体物性研究G グループリーダ 超伝導量子物理研究G グループリーダ スピントロニクス研究G グループリーダ 藤原 聡 影島博之 山端元音 西口克彦 登坂仁一郎 Lansbergen, Gabriel * 山口浩司 山崎謙治 小野満恒二 岡崎雄馬 山口 徹 岡本 創 林 順三 Mahboob, Imran 畑中大樹 村木康二 蟹沢 聖 佐々木 智 林 稔晶 太田 剛 日達研一 * 高瀬恵子 Rhone, Trevor David 鈴木恭一 熊田倫雄 小林 嵩 山口浩司 仙場浩一 * 狩元慎一 松崎雄一郎 中ノ勇人 田中弘隆 Zhu, Xiaobo 齊藤志郎 角柳孝輔 藤原 聡 赤﨑達志 * 原田裕一 関根佳明 田村浩之 入江 宏 山口真澄 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 5 量子光物性研究部 部長 寒川哲臣 補佐 向井哲哉 俵 毅彦 * 量子光制御研究G グループリーダ 量子光デバイス研究G グループリーダ フォトニックナノ構造研究G グループリーダ 6 清水 薫 武居弘樹 柴田浩行 森越文明 橋本大祐 今井弘光 久保敏弘 * 熊谷雅美 山下 眞 玉木 潔 松田信幸 稲垣卓弘 井桁和浩 向井哲哉 稲葉謙介 東 浩司 Munro, William John 寒川哲臣 後藤秀樹 小栗克弥 * 眞田治樹 国橋要司 舘野功太 石澤 淳 加藤景子 佐々木健一 俵 毅彦 Zhang, Guoquiang 日達研一 増子拓紀 納富雅也 横尾 篤 谷山秀昭 滝口雅人 Birowosuto, Danang 倉持栄一 ⻆倉久史 小野真証 Xu, Hao 新家昭彦 野崎謙悟 Kim, Jimyung * NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) ナノフォトニクスセンタ (NPC) 納富雅也 センタ長 フォトニックナノ構造研究チーム 納富雅也 倉持栄一 野崎謙悟 尾身博雄 松田信幸 新家昭彦 谷山秀昭 滝口雅人 俵 毅彦 横尾 篤 ⻆倉久史 小野真証 柴田浩之 硴塚孝明 長谷部浩一 佐藤具就 赤澤方省 高橋 礼 土澤 泰 西 英隆 InP 系化合物デバイス研究チーム 松尾慎治 武田浩司 シリコンフォトニクス研究チーム 山田浩治 福田 浩 開 達郎 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 7 上席特別研究員 納富 雅也 昭和 63 年東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。同 年日本電信電話(株)入社、NTT 光エレクトロニクス研究所勤務。平成 7 年から 8 年リンシェピング大学(スウェーデン)客員研究員。平成 11 年よ り NTT 物性科学基礎研究所勤務。平成 13 年より特別研究員、平成 22 年 より上席特別研究員。現在 NTT ナノフォトニクスセンタ長およびフォト ニックナノ構造研究グループリーダ。入社以来一貫して人工ナノ構造に よる物質の光学物性制御及びデバイス応用の研究を行う。量子細線、量 子箱の研究を経て、現在フォトニック結晶の研究に従事。工学博士(東 京大学) 。2006/2007 IEEE/LEOS Distinguished Lecturer Award 受賞。平成 20 年度学術振興会賞受賞。平成 20 年度日本学士院学術奨励賞受賞。平成 22 年度文部科学大臣表彰科学技術賞(研究部門)受賞。平成 22 年より文部 科学省国立大学法人評価委員。2013 年 IEEE Fellow。東京工業大学理学 部物理学科連携客員教授を兼任。応用物理学会、APS、IEEE、OSA 会員。 山口 浩司 昭和 59 年大阪大学理学部物理学科卒業。昭和 61 年同大学院理学研究 科物理学専攻博士前期課程修了。同年日本電信電話(株)に入社。以来、 電子線回折、走査型トンネル顕微鏡などの手法により、化合物半導体の 表面物性を実験的に解明する研究に従事。約 10 年前より半導体ヘテロ接 合構造を用いた微小機械素子の研究に取り組んでいる。平成 5 年工学博 士。平成 7~8 年英国ロンドン大学インペリアルカレッジ客員研究員。平 成 15 年独国 Paul Drude 研究所客員研究員。平成 18 年より東北大学理学 部客員教授。平成 20・21 年度応用物理学会理事・常務理事。2011 年国際 マイクロプロセス・ナノテクノロジー国際会議組織委員長や 2012 年分子 線エピタキシ国際会議論文委員長をはじめ、40 以上の学会・国際会議委 員を務める。平成元年度、平成 16 年度、平成 22 年度応用物理学会論文賞、 MNC2008 Outstanding Paper Award、SSDM2011 Paper Award、2011 年英国 Institute of Physics (IOP) Fellow、平成 23 年度井上学術賞受賞。現在、量子・ ナノデバイス研究統括・ナノ加工研究グループリーダ・超伝導量子物理 研究グループリーダを兼務。応用物理学会、日本物理学会、IOP、IEEE 会員。 8 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 特別研究員 藤原 聡 平成元年東京大学工学部物理工学科卒業。平成 6 年同大学院工学系研 究科物理工学専攻博士課程修了。同年日本電信電話(株)に入社、LSI 研 究所勤務。平成 8 年に基礎研究所、平成 11 年より物性科学基礎研究所。 入社以来、シリコンナノ構造の物性制御とそのデバイス応用、単電子デ バイスの研究に従事。平成 24 年 4 月より、物性科学基礎研究所量子電 子物性研究部長、ナノデバイス研究グループリーダ兼務。平成 15~16 年 米国 National Institute of Standards and Technology (NIST, Gaithersburg) 客員 研究員。平成 10 年に国際固体素子 ・ 材料コンファレンス SSDM'98 Young Researcher Award、平成 11 年に SSDM'99 Paper Award 受賞。平成 15 年及び 平成 18 年に日本応用物理学会 JJAP 論文賞受賞。平成 18 年文部科学大臣 表彰若手科学者賞受賞。平成 22~23 年応用物理学会理事。応用物理学会、 IEEE 会員。 村木 康二 平成元年東京大学工学部物理工学科卒業。平成 6 年同大学院工学系研 究科物理工学専攻博士課程修了。同年日本電信電話(株)に入社、基礎 研究所勤務。平成 11 年より物性科学基礎研究所。入社以来、高移動度 半導体へテロ構造の結晶成長とその量子電子物性の研究に従事。現在、 NTT 物性科学基礎研究所量子電子物性研究部量子固体物性研究グループ リーダ。平成 13~14 年ドイツマックスプランク研究所(シュトゥトガル ト)客員研究員。日本物理学会、応用物理学会会員。 谷保 芳孝 平成 8 年千葉大学工学部電気電子工学科卒業。平成 13 年同大学院自 然科学研究科多様性科学専攻博士課程修了。同年、日本電信電話(株) NTT 物性科学基礎研究所、リサーチアソシエイト。平成 15 年、同社入 社、同所勤務。現在、同所機能物質材料研究部薄膜材料研究グループ主 任研究員。ワイドバンドギャップ窒化物半導体の結晶成長、物性、デバ イス応用に関する研究に従事。平成 23~24 年スイス連邦工科大学ローザ ンヌ校 (EPFL) 客員研究員。平成 19 年に 14th Semiconducting and Insulating Materials Conference (SIMC-XIV) Young Scientist Award、平成 23 年に文部 科学大臣表彰若手科学者賞、38th International Symposium on Compound Semiconductors (ISCS2011) Young Scientist Award、平成 24 年に International Workshop on Nitride Semiconductors (IWN2012) Best Paper Award を受賞。応 用物理学会会員。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 9 熊田 倫雄 平成 10 年東北大学理学部物理学科卒業。平成 15 年同大学院理学研究 科物理学専攻博士課程修了。同年日本電信電話(株)に入社、物性科学 基礎研究所勤務。半導体へテロ構造およびグラフェンにおける量子電子 物性の研究に従事。平成 20 年日本物理学会若手奨励賞受賞。平成 24 年 に文部科学大臣表彰若手科学者賞。日本物理学会会員。 西口 克彦 平成 10 年東京工業大学工学部電子物理工学科卒業。平成 14 年同大学 大学院理工学研究科電子物理工学専攻博士課程終了。同年日本電信電話 (株)に入社、物性科学基礎研究所勤務。現在、同所量子電子物性研究部 ナノデバイス研究グループ主任研究員。入社以来、低消費電力化・新機 能化を目指したナノ構造のシリコン・デバイスの研究に従事。平成 20 年 9 月フランス National Center for Scientific Research (CNRS) 客員研究員。平成 24~25 年オランダ・デルフト工科大学客員研究員。平成 12 年に応用物理 学会講演奨励賞、同年 International Conference on Physics of Semiconductors 2000, IUAP Young Author Best Paper Award、同年 Materials Research Society 2000 Fall Meeting, Graduate Student Award Silver を受賞。応用物理学会会員。 齊藤 志郎 平成 7 年東京大学工学部物理工学科卒業。平成 12 年同大学院工学系研 究科物理工学専攻博士課程修了。同年、日本電信電話(株)、NTT 物性科 学基礎研究所、リサーチアソシエイト。平成 15 年、同社入社。入社以来、 超伝導を用いた量子情報処理を目指し、超伝導磁束量子ビットの研究に 従事。現在、量子電子物性研究部超伝導量子物理研究グループ主任研究 員。平成 17~18 年オランダデルフト工科大学客員研究員。平成 24 年度 5 月 1 日より東京理科大学客員准教授。平成 16 年に応用物理学会講演奨励 賞。日本物理学会、応用物理学会会員。 10 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) アドバイザリボード(2012 年度) Name Affiliation Prof. Gerhard Abstreiter Walter Schottky Institute and Physik Department Technishe Universität München, Germany Prof. John Clarke Physics Department, University of California, Berkeley, U.S.A. Prof. Evelyn Hu School of Engineering and Applied Sciences, Harvard University, U.S.A. Prof. Mats Jonson Department of Physics, Göteborg University and Heriot-Watt University, Sweden Prof. Sir Peter Knight Physics Department, Imperial College/The Kavli Royal Society International Centre Chicheley Hall, U.K. Prof. Anthony J. Leggett Department of Physics, University of Illinois, U.S.A. Prof. Allan H. MacDonald Department of Physics, The University of Texas, Austin, U.S.A. Prof. Andreas Offenhäusser Institute of Complex Systems, Forschungszentrum Jülich, Germany Prof. Halina Rubinsztein-Dunlop School of Physical Sciences, University of Queensland, Australia Prof. Klaus von Klitzing Max-Planck-Institut für Festkörperforschung, Germany NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 11 招聘教授/客員研究員(2012 年度) 氏名 12 所属 期間 Dr. Trevor David Rhone 科学技術振興機構 (JST) Feb. 2012 – Feb. 2013 Prof. Jeremy L O'Brien ブリストル大学 Mar. 2012 – May 2012 久保 敏弘 筑波大学 数理物質科学研究科 Apr. 2012 – May 2012 仙場 浩一 国立情報学研究所 (NII) Apr. 2012 – Mar. 2013 Prof. Jorg P. Kotthaus ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン May 2012 – May 2012 楠戸 健一郎 国立情報学研究所 (NII) May 2012 – Mar. 2013 Dr. Rais Shaikhaidarov ロンドン大学 ロイヤル・ホロウェイ校 Oct. 2012 – Nov. 2012 Prof. David Cox サリー大学 Oct. 2012 – Nov. 2012 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 海外研修生(2012 年度) 氏名 所属 期間 Henri Juhani Suominen The University of Edinburgh, U.K. Aug. 2011 – Jul. 2012 Andy Berry University of Victoria, Canada Sep. 2011 – Apr. 2012 Michael Firka University of Victoria, Canada Sep. 2011 – Aug. 2012 Elan Michael Grossman Georgia Institute of Technology, U.S.A. Jan. 2012 – Aug. 2012 Bennett Eleazer Georgia Institute of Technology, U.S.A. Jan. 2012 – Aug. 2012 Yong Fan Jiang The University of British Columbia, Canada Jan. 2012 – Aug. 2012 Gediminas Dauderis Vilnius University, Lithuania Jan. 2012 – Aug. 2012 Maria Anagosti University of Gent, Belgium Jan. 2012 – Aug. 2012 Roger Molto Pallares Chemical Institute of Sarria(IQS), Spain Jan. 2012 – Aug. 2012 Sanna Maria Rauhamaki University of Jyväskylä, Finland Jan. 2012 – Aug. 2012 Alex Yang The University of British Columbia, Canada Jan. 2012 – Aug. 2012 Shibin Thomas Mahatma Gandhi University, India Mar. 2012 – Mar. 2013 Ahmet Taspinar Delft University of Technology, Netherlands Apr. 2012 – Sep. 2012 Robert Amsuss Vienna University of Technology, Austria Apr. 2012 – May 2012 David Tregurtha University of Bath, U.K. Jun. 2012 – Sep. 2012 Mickael Mounaix ESPCI ParisTech (École supérieure de physique Jul. 2012 – Dec. 2012 et de chimie industrielles de la ville de Paris), France Romain Dubourget ESPCI ParisTech (École supérieure de physique et Jul. 2012 – Dec. 2012 de chimie industrielles de la ville de Paris), France Ruaridh Forbes The University of Edinburgh, U.K. Jul. 2012 – Apr. 2013 Paul Koecher Oxford University, U.K. Oct. 2012 – Dec. 2012 Justin Yan The University of British Columbia, Canada Jan. 2013 – Joey Chau University of Toronto, Canada Jan. 2013 – Thomas Ziebarth University of Victoria, Canada Jan. 2013 – Punn Augsornworawat McGill University, Canada Jan. 2013 – Pawel Pactwa AGH University of Science and Technology, Poland Jan. 2013 – NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 13 国内実習生(2012 年度) 氏名 14 所属 期間 坂井 智洋 慶応義塾大学大学院 H24.04.01 ~ H25.03.31 渡邉 敬之 東北大学大学院 H24.04.01 ~ H25.03.31 代 俊 東京大学大学院 H24.04.01 ~ H25.03.31 馬場 達也 東京理科大学大学院 H24.04.01 ~ H25.03.31 大杉 廉人 東北大学大学院 H24.04.01 ~ H25.03.31 松本 俊一 東京理科大学 H24.04.01 ~ H25.03.31 鈴木 元 東京理科大学 H24.04.01 ~ H25.03.31 角井 貴信 横浜国立大学 H24.04.01 ~ H25.03.31 佐藤 貴彦 東京大学大学院 H24.05.28 ~ H25.03.31 呉 龍錫 徳島大学大学院 H24.06.18 ~ H24.12.21 古田 慧梧 富山大学 H24.07.03 ~ H24.08.24 中山 渉 慶応義塾大学大学院 H24.07.17 ~ H24.08.10 茶谷 洋光 徳島大学 H24.08.20 ~ H24.09.10 穂積 貴人 北海道大学 H24.08.20 ~ H24.09.07 齊藤 裕志 東京電機大学 H24.08.01 ~ H25.03.31 ヌルエミー ビンティ 東京電機大学 H24.08.01 ~ H25.03.31 山崎 美穂 東京電機大学 H24.08.01 ~ H25.03.31 フイン ディッフ フック 長岡技術科学大学 H24.10.12 ~ H25.02.18 磯部 真吾 長岡技術科学大学 H24.10.12 ~ H25.02.26 山口 信俊 長岡技術科学大学 H24.10.12 ~ H25.02.18 舘 昌志 東京理科大学 H24.10.16 ~ H25.03.31 田原 知行 豊橋技術科学大学 H25.01.08 ~ H25.02.22 中川 周平 豊橋技術科学大学 H25.01.08 ~ H25.02.22 後藤 貴大 東京電機大学 H25.02.12 ~ H25.03.31 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) Ⅰ.研究紹介 各研究部の研究概要 機能物質科学研究部 日比野浩樹 機能物質科学研究部では、原子・分子レベルで物質の構造を制御することにより、 新しい物質や機能を創造し、物質科学分野における学術貢献を行うとともに、情報 通信技術に大きな変革を与えることを目指しています。 この目標に向かって、3 つの研究グループが、広範囲な物質を対象として研究を進 めています。その範囲は、窒化物半導体、グラフェンから、酸化物高温超伝導体、 さらには、受容体タンパク質などの生体物質に至り、高品質薄膜成長技術や物質の 構造と物性を精密に測定する技術を基に最先端の研究を推進しています。 この 1 年では、InN 超薄膜単一量子井戸からの紫色狭線発光、酸化グラフェン表面 でのラベルフリータンパク質検出、着衣だけで心拍・心電図の常時モニタリングを 可能にする素材の作製などの研究成果が得られました。 量子電子物性研究部 藤原聡 量子電子物性研究部(物性部)は、将来の情報通信技術に大きな変革をもたらす半 導体や超伝導体を用いた固体デバイスの研究を推進しています。高品質薄膜結晶の 成長技術やナノメータースケールの微細加工技術など「ものづくり」技術を開発しな がら、5 つの研究グループが、単電子、メカニクス、量子、スピンなどの新しい自由 度に基づく物性の探索を行い、それらを利用した低消費電力デバイス、量子情報処 理デバイス、高感度センサなどの革新デバイスの創出を目指しています。 今年は、新二次元材料であるグラフェンのエッジプラズモンの伝導速度制御や、 共振器量子電磁力学との古典的アナロジーが成立する“キャビティーエレクトロメカ ニクス”の実現に成功いたしました。また、メンブレン型電気機械振動子による論理 演算動作、シリコンナノトランジスタを用いた確率共鳴センサ動作など新規デバイ スの研究で進展がありました。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 15 量子光物性研究部 寒川哲臣 量子光物性研究部(量光部)は光通信技術や光情報処理技術に大きなブレークス ルーをもたらす革新的基盤技術の提案、ならびに、量子光学・光物性分野における 学術的貢献を目指して研究を進めています。 量光部のグループでは、半導体量子ドットやナノワイヤなどのナノ構造光物性研 究をベースにして、極微弱な光の量子状態制御、高強度極短パルス光による新物性 探索、超音波やフォトニック結晶を応用した光物性制御などの研究がおこなわれて います。 この 1 年で、固体素子上の超伝導ループ回路に冷却原子気体を捕捉しボースアイン シュタイン凝縮を起こすことに成功しました。また幾つかの光学素子を一つのシリ コン基板上に集積することで安定に量子もつれ光子対を発生することに成功しまし た。表面弾性波による半導体中での電子スピン操作の実験では、チャネル形状を適 切に設計することにより、静磁場や振動磁場が全く無くても電子スピン共鳴と等価 な現象が生じることを明らかにしました。 ナノフォトニクスセンタ 納富雅也 ナノフォトニクスセンタ (NPC) は、ナノフォトニクス技術を駆使して、様々な機 能を持つ光デバイスを大量・高密度に集積する大規模光集積技術の確立、および光 情報処理の消費エネルギーの極限的な低減を目指す革新研究を行うために、物性科 学基礎研究所、フォトニクス研究所及びマイクロシステムインテグレーション研究 所の中でナノフォトニクスに関わる研究チームにより、2012 年 4 月に設立されまし た。 現在、NPC では、フォトニック結晶を用いた光スイッチ、光メモリ、レーザなど の光素子の超小型化、極低消費エネルギー化の研究、フォトニックナノ構造による 光物質相互作用の極限的増強を目指した研究、さらにシリコンフォトニクスプラッ トフォーム上の高密度光集積デバイスの研究などを行っています。また、電子線露 光をベースとした高精度な微細加工技術、高度な光半導体集積技術にも精力的に取 り組んでいます。 16 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 窒化物半導体発光トランジスタ 熊倉一英 山本秀樹 牧本俊樹 機能物質科学研究部 発光トランジスタ(LET)は、高速電子デバイスであるヘテロ接合バイポーラトランジスタを基本 素子としており、そのベース層に量子井戸を挿入することで、発光素子としての機能も併せ持っ た素子である[1]。この発光トランジスタは、動作原理的に従来の発光ダイオードよりも高速に光 変調が可能である。従って、照明用発光ダイオードに使用されている窒化物半導体を用いて 発光トランジスタを作製すれば、 高速な可視光通信 [2] 用光源への応用も期待できる。今回我々 は、窒化物半導体発光トランジスタを作製し、その光出力特性を評価した。 今回、Pnp AlGaN/InGaN/GaN 発光トランジスタを作製した[3]。ベース層であるInGaN 層に、 この素子のベース-エミッ ベース層よりもIn 組成の高い3 nmのInGaN 量子井戸を挿入している。 タ間に順バイアスをかけることにより、 エミッタからベースに正孔が注入される。注入された正孔は、 ベース層を拡散し、量子井戸で捕獲され発光再結合する。量子井戸で捕獲されなかった正 孔の一部は、 コレクタに到達する。図 1は、LETに順バイアスをかけたときの発光の様子である。 量子井戸からの強い紫色の発光を観測した。ピーク波長は410 nmであった。次に、ベース層 における量子井戸の挿入位置をエミッタ側、ベース中央、コレクタ側と変化させた。図 2に、量 子井戸の挿入位置が異なる発光トランジスタからの光出力のベース電流依存性を示す。量子 井戸のないLET(通常のHBT)の光出力特性も参考のため載せている。量子井戸の挿入位 置がエミッタに近いほど、光出力が強いことがわかる。これは、エミッタから注入した正孔のベー ス層を拡散する速度が、コレクタに近づくにつれ速くなり、それに伴って量子井戸での正孔の捕 獲確率が減少するためである。従って、LETの光出力は、量子井戸がコレクタに近いものほど 弱くなる。量子井戸がエミッタ側にあるLETからの光出力は、ベース電流が 0.3 mAのときに0.3 mWに達しており、外部量子効率 3.3 %に相当している。今後、発光トランジスタの電気的出 力および光出力の変調特性を評価しつつ、高速応答化を図ることで、可視光通信等への応 用への道が拓けるものと期待される。 [1] M. Feng et al., Appl. Phys. Lett. 84 (2004) 1952. [2] Y. Tanaka et al., IEICE Trans. Commun. E86-B (2003) 2440. [3] K. Kumakura et al., Int. Conf. Solid State Devices and Materials, 2011 Nagoya, A-4-2. 図 1 ベース層に量子井戸を挿入した窒化物半導体 発光トランジスタの動作時の発光の様子。 図 2 量子井戸の挿入位置を変えて作製した発光 トランジスタからの光出力のベース電流依存性。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 17 GaN ステップフリー面上に形成した InN 超薄膜単一量子井戸からの 紫色狭線 PL 発光 赤坂哲也 後藤秀樹* 小林康之 山本秀樹 機能物質科学研究部 *量子光物性研究部 InGaN 量子井戸を発光層とした青色や緑色発光ダイオード(LED) が実現されている。さらに 長波長の赤色 LEDを実現するためにはIn 組成を高くする必要があるが、In 組成が高くなると 結晶性の低下による発光効率の低減が問題となる。これに対し、数分子層 (ML) 以下の極め て薄いInN 量子井戸の厚さを変えて量子準位を制御すれば、近紫外~近赤外領域にわたる 高効率発光が理論的には期待される。ところが、InN 量子井戸の量子準位制御に必要な単 分子層のステップも存在しない急峻なヘテロ界面はこれまで実現できていなかった。我々は、 MOVPE 選択成長により、大きさが 50 µmのGaN step-free 面を初めて形成した[1]。今回我々 は、GaN step-free 面を土台として、その上に、単分子層のステップも存在しないstep-free InN 量子井戸の作製について検討を行った。 GaN step-free 面上にInNの成長を行うと、10 秒で部分的にコアレッセンスしたニ次元核が得 られ、30 秒でコアレッセンスが完了した1MLのInNで表面が覆われた。このとき、InNの表面 はstep-free 面であった。引き続きGaN cap 層を形成して作製したInN 単一量子井戸 (SQW)の 断面をSTEMによるhigh-angle annular dark field (HAADF) 法で観察した(図 1) 。HAADF 法では、原子番号の大きな原子からより強い散乱強度が得られるので、GaよりInの方が散乱 強度が大きい。水平方向に積分した散乱強度を見ると、真中の1 層だけ強度が強く、1ML 厚 のInN 層が形成されたことを示している。このInN SQW 構造の4 Kで測定した顕微 PLスペク トルを図 2に示す。3.03 eVにInN SQW 由来の半値全幅が 9 meVの非常にシャープな紫色発 光が見られる[2]。従来のInGaN 量子井戸からの紫色発光の半値全幅は低温でも数十 meV 程度以上と非常に大きく、step-free InN SQWのシャープな発光は、量子井戸の膜厚や組成 の揺らぎがないために得られたと考えられる。今後、InNを2ML、3MLと厚くすることにより、そ れぞれ、緑色および赤色の狭線発光が得られると理論的に予測される。 本研究は科研費の援助を受けて行われた。 [1] T. Akasaka, Y. Kobayashi, and M. Kasu, Appl. Phys. Express 3 (2010) 075602. [2] T. Akasaka, H. Gotoh, Y. Kobayashi, and H. Yamamoto, Adv. Mater. 24 (2012) 4296. 図 1 Step-free InN SQW の 格子像と積分散乱強度。 18 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 図 2 Step-free InN SQWの低 温 PL スペクトル。 AlInN/GaN 格子整合ヘテロ構造のドーピング制御 谷保 芳孝 Jean-François Carlin* Antonino Castiglia* Raphaël Butté* Nicolas Grandjean* 機能物質科学研究部 *Ecole Polytechnique Fédérale de Lausanne GaN 系窒化物半導体は、白色照明用の発光ダイオード(LED)、Blu-ray 用のレーザダイオー ド(LD)、無線基地局用の高出力トランジスタなどに用いられている。これらGaN 系デバイスは、 格子不整合系のAlGaN/GaNやInGaN/GaN ヘテロ構造を用いて作製されているが、格子歪 に起因するクラック、組成不均一、結晶欠陥によりデバイス特性が制限されている。AlInNは GaNに格子整合するため、格子整合系のAlInN/GaN ヘテロ構造では格子歪は発生しない。 さらに、AlInN/GaN ヘテロ構造は、大きなバンド不連続と屈折率差を有し、キャリヤと光を強く 閉じ込めることができる[1]。AlInN/GaN ヘテロ構造のデバイス応用が可能になると、GaN 系デ バイスの特性向上に加えて新規デバイスの創出も期待できる。 AlInN/GaN ヘテロ構造のデバイス応用に向けて、AlInNのドーピング制御が課題である。 AlInNは不純物をドーピングしていない場合でも高残留ドナー濃度による強いn 型伝導性を示す が、 その伝導性の精密な制御は難しいうえ、p 型は伝導化自体が実現していなかった。我々は、 AlInNをInリッチな表面状態で成長することにより残留ドナー濃度を低減できることを見出し、高 純度化したAlInNにSiをドーピングすることでn 型伝導性をきちんと制御できるようになった。さら に、AlInNの表面に発生するピットが p 型ドーピングの補償中心として働くことを明らかにし、表 面ピット密度を低減したAlInNにMgをドーピングすることでp 型伝導性を得ることに成功した (図 1)[2]。 p 型層にAlInNを用いたInGaN/GaN 多重量子井戸 (MQW)LEDを作製し、InGaN/GaN MQWからの波長 445 nmの青色発光を確認した(図 2) 。これはp 型 AlInNからInGaN/GaN MQW へ LED 動作に十分な量の正孔が注入されていることを示している。AlInNでのpnドーピ ング制御の実現は、GaN 系デバイスの可能性をさらに拡げるものと期待される。 [1] J.-F. Carlin and M. Ilegems, Appl. Phys. Lett. 83 (2003) 668. [2] Y. Taniyasu, J.-F. Carlin, A. Castiglia, R. Butté, and N. Grandjean, Appl. Phys. Lett. 101 (2012) 082113. 図 1 p 型 AlInNのアクセプタ濃度 NA – NDとMg 流量の関係。挿入図はAlInN 表面の原子間力 顕微鏡像。 図 2 p 型層にAlInNを用いたInGaN/GaN 多重 量子井戸 (MQW)LEDの発光スペクトル。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 19 Nd2CuO4 と Nd1.85Ce0.15CuO4 における普遍的な超伝導基底状態 クロッケンバーガー賢治 山本秀樹 内藤方夫* 機能物質科学研究部 *東京農工大 銅酸化物高温超伝導体には一般に電子ドープ型とホールドープ型と呼ばれる2 種類の物質 群があり、この呼び方からは、両者の違いがドーパントの価数のみにあるかの印象を受ける。 しかしながら、実際は超伝導を担うCuO2 面の銅への酸素の配位にも違い(前者は4 配位、後 者は5ないし6 配位)があり、物性はこの局所的な構造の違いにも大きく依存する。この局所 構造の違いは最適な試料作製条件にも影響を与え、4 配位の場合については、超伝導発現 が試料作製後の還元アニール処理と密接に関係していることが知られている。本研究では、 そのアニール条件の最適化により、反強磁性絶縁体だと考えられてきた母物質のNd2CuO4 (NCO) が 超 伝 導 化 すること、NCOの 超 伝 導 状 態 がいわゆる最 適 電 子ドープされた Nd1.85Ce0.15CuO4 (NCCO)のそれと本質的に変わらないことを明らかにした。この結果は、母物 質における反強磁性絶縁体状態が高温超伝導の発現に普遍的に必要というわけではないこと を示唆しており、従来の常識に反するものである。 NCOとNCCOの 薄 膜 試 料はMBE 法により(001)SrTiO3 基 板 上に作 製した。 成 膜 後、 NCCOは超高真空装置中でその場アニール、NCOは管状炉を用いて2 段階法でアニールし た[1-4]。アニールの各ステップにおける薄膜試料の構造は、高分解能のX 線逆格子マップに より調べた。アニールにより両者ともに c 軸長が単調に短くなったことから、超伝導を阻害する頂 点酸素が除去されたことが示唆される。また、アニールを通じて面内格子定数(a 軸長)が不 変であったことから、アニール由来の酸素欠損などによる電子ドープの可能性はないと考えられ る。さらに印加磁場を変えて測定した抵抗率の温度依存性(図 1)の結果は、NCOとNCCO の電子物性が本質的に同じであることを示した。 両者は金属的な抵抗率の温度依存性を示し、 かつ同じ印加磁場強度下では、ほぼ等しい超伝 導転移温度 Tcを示した。これらの結果は、4 配 位のCuO2 面はその固有の性質として金属的な 電子状態を有すこと、キャリアをドープし反強磁 性長距離を壊すと考えられてきた、異価数元素 (Ce) 置換の役割は、バンドフィリングコントロール であること、の2 点を示唆する。 [1] Y. Krockenberger et al., Phys. Rev. B 85 (2012) 184502. [2] Y. Krockenberger et al., Jpn. J. Appl. Phys. 51 (2012) 010106. [3] H.Yamamoto et al., Physica C 470 (2010) 1025. [4] H.Yamamoto et al., Solid State Commun. 151 (2011) 771. 20 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 図 1 (001)SrTiO3 基板上にMBE 成長した後 アニールを施した、超伝導 NCCO(上図) とNCO(下図)の抵抗率の温度依存性。 B = 0, 1, 2, 4, 6, 8, 10, 12, 14 Tのそれぞ れの印加磁場下で測定を行った。 酸化グラフェン表面で実現するラベルフリータンパク質検出 古川一暁 上野祐子* 機能物質科学研究部 *マイクロシステムインテグレーション研究所 酸化グラフェン(GO)は、グラフェンの炭素間二重結合の多くが切断され酸素と結合した材 料である。GOはグラフェンと同様に原子レベルの薄いシート状の構造をもつが、絶縁性や水へ の高い分散性、強い蛍光消光機能など、グラフェンとは異なる特性を発現する。我々はこれら のGOの特長を利用して、GO 表面にタンパク質をラベルフリーで認識し検出する機構を構築し た[1]。 GOは固体基板に固定して用いた。GO 表面に残存するグラフェン様のsp2ドメインに、ピレン をリンカーに用いて先端に蛍光色素 (FAM)が結合したDNA 鎖アプタマを結合させた(図 1 上) 。ここでアプタマとは特定の分子と選択的に立体構造を形成する塩基配列をもつDNAで、 本実験では血液凝固に関連するトロンビンというタンパク質を認識するアプタマを用いた。 通常は1 本鎖 DNAとGOとの強い親和性により、修飾分子全体が GO 表面に吸着しており、 FAM 色素からの発光はGOにクエンチされている。トロンビン存在下では、アプタマ部位がこれ と3 次元的な立体構造を形成するため、アプタマ先端の色素が GO 表面から離れ、クエンチを 免れた発光が観測される(図 1 下) 。この機構は、GO 単一片を用いて実験的に確認した。 蛍光顕微鏡観察から、トロンビン添加後にGO 表面のみから蛍光が検出されることを確認し、 ラベルフリーなタンパク質検出を実証した(図 2 上段) 。このとき、GOの膜厚は約 2.9 nm 増大 することが、 同一のGO 片を対象にした原子間力顕微鏡観察により示された(図 2 下段) 。今後、 アプタマの変更による他種タンパク質の検出や、分子設計による高感度化に取り組み、GO 表 面をバイオセンシングのプラッ トフォームに利用する研究分野を開拓する。 [1] K. Furukawa et al., J. Mater. Chem. B 1 (2013) 1119. 図 1 酸化グラフェン表面の化学修飾と 検出機構の模式図。 図 2 トロンビン添加前後における蛍光顕微鏡像 (上段)と原子間力顕微鏡像(下段) 。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 21 水素インターカレーションと電気化学エッチングにより作製した 3 層エピタキシャルグラフェン振動子 高村真琴 古川一暁 岡本創* 田邉真一 山口浩司* 日比野浩樹 機能物質科学研究部 *量子電子物性研究部 グラフェンは、炭素原子が sp2 結合した数原子層厚の材料でありながら非常に高い機械的 強度を有するため、 微小機械振動子への応用が期待される。近年、 機械剥離法で1 層グラフェ ン振動子が作製され、その機械振動特性が報告されている。機械剥離法は簡便に結晶性の 良いグラフェンを与えるが、作製する位置や形、グラフェンの層数を制御できない。そのため、 2 層や3 層グラフェンの機械振動特性は明らかになっていない。本稿では、3 層エピタキシャル グラフェン振動子の作製とその機械振動特性を報告する。 3 層グラフェン振動子は、出発材料としてSiC(0001) 基板上にエピタキシャル成長させた2 層 グラフェンを用い、基板を電気化学的にエッチングすることで作製した[1]。SiC 上にグラフェン をエピタキシャル成長させる方法では、層数制御したグラフェンをウェハスケールで得ることがで きる。しかし、SiCとグラフェンの界面には基板とSi-C 結合をもつバッファ層が生成される。この ため、グラフェン振動子を層数制御して作製するにはSi-C 結合を断ち切る必要がある。そこで まずSiCとグラフェンの界面に水素をインターカレーションし、その後 SiCを電気化学エッチングす る事で厳密な層数制御を試みた。走査型電子顕微鏡 (SEM)による観察から、両もち梁形状 のグラフェンが金電極間に架橋されていることがわかる[図 1(a)] 。さらに、透過型電子顕微鏡 (TEM)による断面観察から、架橋されたグラフェンは3 層であることがわかる[図 1(b)] 。この事 は、SiC 上に成長した2 層グラフェンとバッファ層が、水素インターカレーションとSiCの電気化学 エッチングにより、架橋 3 層グラフェンとなった事を示している。次に、得られた3 層グラフェン振 動子の機械振動特性を述べる。10-5 Paの真空中で測定した室温での固有振動数 ( f0)は7.52 MHz、振動子の性能を表すQuality factorは約 600であった(図 2) 。図 1のSEM 像から、振 動子の長さと幅を7.6 µm、3.6 µmとして f0を算出すると0.4 MHzとなるが、実際に得られた f0 は10 倍以上大きい。これは電気化学エッチングの過程で振動子の端部が約 60 nm 折れ曲が り、剛性が増したためである。エネルギーの散逸に相当するQuality factorの逆数は、両もち 梁形状の1 層グラフェン振動子で複数報告されている温度依存性と酷似していた。この事はグ ラフェンの層数や振動子のサイズ、作製方法に依存しない、 グラフェン振動子特有のエネルギー 散逸機構がある事を示すものである。 [1] M. Takamura et al., Jpn. J. Appl. Phys. 52 (2013) 04CH01. 図 1 3 層グラフェン振動子の(a)SEM 像および (b) 断面 TEM 像。 22 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 図 2 室温における3 層グラフェン振動子の 固有振動特性。 疑似的にフリースタンドしたグラフェンナノリボンネットワークの自己 組織化 村田祐也 高村真琴 影島博之 日比野浩樹 機能物質科学研究部 炭素の二次元構造をもつグラフェンは、原子層厚さおよび高移動度をもつため高速低電力エ レクトロニクスへの応用が期待される。グラフェンをナノメートル幅のリボン状に加工することにより、 バンドギャップを制御できることが示されている[1]。しかしながら、リソグラフィなどこれまでの手 法では、結晶方位とエッジ構造の制御や生産性の問題がある。一方、SiC(0001) 表面のバッ ファ層 / 基板界面への水素挿入による、疑似的にフリースタンドしたグラフェン(QFMLG:quasifree-standing monolayer graphene)の形成が報告された[2]。バッファ層はグラフェンと同様の 構造をもつが、基板との化学結合のため電気的絶縁性を示す。QFMLGから水素を部分的 に脱離させバッファ層に戻すことで、グラフェンナノ構造を作成できる可能性がある。我々は、 QFMLGからの水素脱離過程を走査トンネル顕微鏡 (STM)により調べ、グラフェンナノリボンネッ トワークが自己組織的に形成されることを明らかにした。 QFMLG 試料を超高真空中で加熱し、水素脱離過程をSTMでその場観察した。630℃以 上で、SiC 基板表面の一原子層高さの穴の周囲から水素脱離領域があらわれ徐々に広がる 様子が見られた(図 1) 。それぞれの水素脱離領域が一定の大きさに達すると、内部に QFMLGナノリボンがあらわれその水素脱離領域を複数に分割することがわかった。最終的に 表面全体が六角形のQFMLGナノリボンネットワークに覆われた。ナノリボンの幅と長さは約 1 ― nmと10 nm、[1120] 方位に伸びており均一なアームチェアエッジをもつ。ナノリボン表面に見ら れるグラフェン 3× 3 構造は、QFMLGと水素脱離領域の境界における電子散乱を反映したも のと考えられる(図 2)[3]。 [1] M. Y. Han et al., Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 206805. [2] C. Riedl et al., Phys. Rev. Lett. 103 (2009) 246804. [3] K. Sakai., Phys. Rev. B 81 (2010) 235417. 図 1 水素脱離過程のSTMその場観察 (a)-(c) 590℃ 経過時間 = (a) 0、(b) 10、(c) 64 分 (182 nm×250 nm)、(d)-(f) 630℃ 経過時間 = (d) 0、(e) 37、(f) 69 分 (273 nm×341 nm)。 図 2 QFMLGナノリボンネットワーク (a) 200 nm× 200 nm、(b) 30 nm×30 nm、(c) 10 nm×10 nm、(d) 2.5 nm×2.5 nm、ひし形 :グラフェン 3× 3 単位胞。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 23 脂質膜に高密度に再構成した GluA2 ホモマの機能と構造 Jelena Baranovic Chandra S. Ramanujan 河西奈保子* オックスフォード大 *機能物質科学研究部 Alpha-amino-3-hydroxy-5-methyl-4-isoxazole propionic acid receptor (AMPAR)は、神経 細胞において興奮性の信号伝達を担うイオンチャネル型グルタミン酸受容体の1つであり、記憶 の形成や学習に分子レベルで重要な役割を果たしている。これまで、その分子構造の観察は、 クライオ電子顕微鏡 (EM)やX 線結晶構造解析により行われている。しかしながら、脂質膜に 再構成された状態での機能と構造の関係については不明な点が多い。これまで我々は、 AMPARのうちGluA3ホモマについて、脂質膜に再構成され活性を有した状態の一受容体の 構造を、原子間力顕微鏡 (AFM)を用いて観察してきた[1]。しかしながら、これまで過去の報 告と比較すると脂質膜面からの高さが低く、 その理由についても明確な解を得ることができなかっ た。 本研究では、AFM 観察によるAMPARの構造と機能について、脂質膜にシナプスと同様の 高密度に再構成したGluA2ホモマを用いて検討を行った[2]。高密度に再構成したGluA2は 脂質膜面からの高さが約 11 nmであり (図 1(a)、(c)) 、さらにクラスタを形成したGluA2(図 1(b)、(d))は8-10 nmの高さを有し、いずれもEMの値と同程度であった。さらに図 2に示すよ うに、観察されたGluA2は細胞膜内に存在する場合と同様の機能を有した。 このことは、膜に再構成されたAMPARの構造および機能は密度に影響されるということを示 した初めての結果である。すなわちシナプスのように高密度に存在する場合は構造のフレキシビ リティが低く、個々のAMPAR が独立して存在する場合と機能・構造ともに異なる可能性がある ことが示された。このように、神経伝達を仲介する受容体タンパク質の構造と機能の相関を解 析することは、脳におけるシナプス伝達メカニズムの分子基盤に関する知見を得るために重要 である。 [1] N. Kasai et al., BBA General Subjects 1800 (2010) 655. [2] J. Baranovic, C. S. Ramanujan, and N. Kasai, J. Biol. Chem. 288 (2013) 8647. 図 1 再 構 成されたGluA2のうち(a) 高 密 度 GluA2と (b)クラスタのAFM 像。(c) 高密度 GluA2の高さのヒ ストグラム。(d)クラスタの断面図。 24 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 図 2 再構成されたGluA2の(a) L-Glu、CTZ 存 在下でのシングルチャネル応答。阻害剤存在 下や対照実験ではシグナルが得られない。 (b)チャネルコンダクタンス。いずれも+80 mV。 ナノギャップ内の電気二重層チューニングによる 人工細胞膜自発展開の静電制御 樫村吉晃 古川一暁 機能物質科学研究部 我々は固体表面に作製した人工細胞膜(脂質二分子膜)の時間的・空間的な成長制御を 目的とし、ナノギャップを通過する人工細胞膜に電圧を印加・開放することによって自発展開の 停止/進行を制御可能なことを見出し、その動作モデルを提案してきた[1]。本研究では、電 気二重層の精密チューニングという観点から、様々な電解質濃度、ナノギャップで自発展開の 制御実験を行い、モデルの妥当性を検討した[2]。 卵黄由来の電気的中性のL-α-PCとアニオン性のL-α-PGの混合脂質(モル比 7:3)に色素 結合脂質 Texas Red-DHPEを1 mol% 混合した。SiO2 基板上に幅 10 µmの流路とその両端 に収容部を作製し、流路内にはナノギャップ電極を備えた。収容部の一端に脂質試料を付着 させ、電極間に直流電圧 (–50 mV)を印加しながら、電解質溶液中(1–100 mM NaCl)に浸漬 させて自発展開を開始し、その時間発展を観察した。 ナノスケールの領域では、電圧印加の効果はナノギャップの幅 (d) と電気二重層の厚さ(D) との相対比に依存する。図 1は代表的なケースについて、ナノギャップ電極間の電気ポテンシャ ルを計算した結果である。d » D の場合 (a)、電場は電気二重層の外側では対イオンによって 遮蔽されてしまい、ナノギャップ表面近傍でしか有効ではない。すなわち、人工細胞膜が通過 可能なチャネルが存在する。一方、d ≈ D の場合 (b, c)にはナノギャップ両端からの電気二重 層同士が重なりをもつようになり、 ナノギャップ全体に渡って有効な電場が生じる。この状況では、 強い電場によりナノギャップ間に脂質分子が静電トラップされ、自発展開膜への分子の供給が なくなるために成長が停止する。図 2は電解質濃度を変えて、自発展開の停止/進行制御に 対する影響を調べた結果である。電気二重層の厚さは電解質濃度 (c)に依存し、NaCl 水溶 液の場合は D ~ 0.304/ c で与えられる。NaCl 濃度が100 mM (D ~ 1 nm)のときは、ナノギャッ プの幅が 5 nm 以下の条件でのみ電圧による成長制御が可能であったが、1 mM (D ~ 10 nm) ではナノギャップの幅が一桁大きい50 nmでも制御することが可能であった。各濃度において、 いずれもd ~ 5.5D が電場制御可能か否かの閾値であることがわかった。この結果は電気ポテ ンシャル計算の結果 (d ~ 5D)ともよく一致し、提案モデルの妥当性を実証することができた。 [1] Y. Kashimura et al., J. Am. Chem. Soc. 133 (2011) 6118. [2] Y. Kashimura et al., IEICE TRANS. ELECTRON 96-C (2013) 344. 図 1 ナノギャップ間の 電気ポテンシャル。 図 2 自発展開制御の電解質濃度依存性 ●:自発展開制御可能、▲:制御不可能。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 25 導電性高分子と繊維の複合素材による心拍・心電図の長期計測用 ウエアラブル電極 塚田信吾 中島寛 河西奈保子 鳥光慶一 住友弘二 機能物質科学研究部 近年の高齢化社会において、異常の早期発見・早期治療による心臓発作等の突然死リス クを軽減する目的で、心拍や心電図の常時モニタリング実現への関心が高まっている。また、 不適切な運動による過剰な負担やストレスによる体調悪化等を防ぐため、心拍・心電図のモニ タリングを通じて体や心の状態を把握することは有効と考えられている。しかし、従来の医療用 電極は、電解質ペーストを使用し肌に粘着させて心拍・心電図を側定するため装着感が悪く 日常生活における連続使用に不向きであった。 我々は生体電極の素材としてシルクや合成繊維の表面に導電性高分子のPEDOT-PSSを コーティングした導電性の繊維を作成した[1]。本素材は柔軟性・親水性・強度に優れ、直接 肌に接触させても炎症や不快感等が生じにく く肌になじみやすい特徴がある。本素材を用いて 心拍・心電図測定用のシャツ型のウエアラブル電極(図 1)を作成し、健常者 10 名を被験者と して装着試験および安全性確認試験を行った。その結果、接触性皮膚炎等の発生はなく、 24 時間以上の連続使用に対して安定な心拍や心電図の長時間計測に成功した。また本電 極は皮膚との接触が安定に保たれる条件において、電解質ペーストを使用することなく従来の 医療用生体電極とほぼ変わらない安定した信号の計測が可能であることがわかった(図 2) [2]。 本電極は電解質ペーストを必要としない特徴と、柔軟で肌触りが良く通気性のある布である ことから、装着者に負担をかけずに長期間の生体信号の計測が可能である。また着衣のみで 手軽に心拍・心電図のモニタリングが可能であることから、基礎研究や将来の医療分野への 応用だけでなく、スポーツ・健康増進等の様々なシーンへの活用が期待される。 [1] S.Tsukada, H.Nakashima and K.Torimitsu, PLoS ONE 7(4) (2012) e33689. [2] 2013 年 2月12日報道発表「着衣だけで心拍・心電図の常時モニタリングを可能にする素材を作製」。 図 1 心拍・心電図測定用ウエアラブル電極(右表 左裏側)灰色のパッチが PEDOT-PSSの生体電極。 26 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 図 2 ホルター心電図計測の結果。24 時間の データから10 分間分を抜粋表示。 ドナー原子を用いた単電子ポンプ Gabriel Lansbergen 小野行徳 藤原聡 量子電子物性研究部 半導体デバイスのサイズ縮小に伴い、デバイス中のドーパント原子個数が数えられる程度に なり、1 個 1 個のドーパント原子に機能を持たせるような新原理デバイスの研究が盛んに行われ ている。近年のナノ加工技術の進歩により、シリコンナノトランジスタ中のシングルドーパントの荷 電状態の観測 [1]、シングルドーパントの電子スピン量子ビットの動作確認 [2]などが実現されて いる。 我々は、ドーパント原子への機能付与に基づく新しいデバイスとして、複数個のドナー原子を 用いた単電子ポンプの動作を実証することに成功した[3]。測定に用いたデバイスは、siliconon-insulator (SOI) 基板上に作製したシリコン細線 MOSFETである(図 1 左) 。ゲートには2 層 構造を採用し、下層は、電子線リソグラフィで形成された微細な3 本のゲート(LG、MG、 RG、但しLGは本実験では未使用) 、上層は、1つの大きなゲートUGで構成されている。また、 レジストマスクに形成した60 nm サイズの開孔を通して、MGとRGに挟まれたシリコン細線チャ ネルの一部の領域に、砒素ドナーがイオン注入されている。単電子転送を行うために(図 1 右) 、 MGに周波数 f のAC 信号を印加し、RGには、固定のポテンシャル障壁を形成するための電 圧を与える。VMG が小さくRGの下に障壁がないとき、電子がソースから注入され (I)、VMGを負 に大きくすることにより、ドナー原子に捕獲され (II)、最終的にはゲート電界により ドナーがイオン化 され、放出された電子がドレイン側に転送される(III)。図 2の転送電流の上層ゲート電圧依存 性に示されるように、ドナー原子を介した単電子の転送による電流プラトーが明瞭に観測された。 さらに、単電子転送に寄与するドナーの個数は調節可能であり、VRGを正方向に変化させ空 乏化領域を縮小することにより、増加させることができる(図 2では最大 6 個まで)ことがわかっ た。また、温度依存性の解析から、砒素ドナーの活性化エネルギーを見積もることができること も確認した。ドーパント原子を用いた単電子ポンプは、ドーパント個数を増やすことにより転送電 流を大きくすることが可能であり、高電流を生成する電流標準への応用などが期待できる。 [1] Y. Ono et al., Appl. Phys. Lett. 90 (2007) 102106. [2] J. J. Pla et al., Nature 489 (2012) 541. [3] G. P. Lansbergen, Y. Ono, and A. Fujiwara, Nano Lett. 12 (2012) 763. 図1 (左)デバイス平面模式図 (W = 80 nm, L = 100 nm) と(右)電荷ポンプ動作のポテンシャル模式図。 図 2 単電子ポンプ電流の上層ゲート電圧依 存性(パラメータは右側微細ゲート電圧) 。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 27 急峻な電流特性を有するトランジスタを用いた微小信号検出 西口克彦 藤原聡 量子電子物性研究部 電界効果トランジスタ(FET)は、ゲートに印加された信号によって電流が変化するスイッチング 素子として情報処理回路に利用されている。一方、スイッチング特性を用いることで、ゲートに 印可された信号を検出できるため、高感度センサにも利用されている。FETセンサは、電流特 性が急峻になるほど、微小なゲート信号で電流が大きく変化するため感度が向上するが、通 常この電流特性の急峻さ(subthreshold swing: SS)は熱揺らぎによって限界が生じる(室温で 60 meV/dec) 。一方、ノイズが大きくなると出力信号が埋もれてしまうため、ノイズを抑制すること もセンサには重要となる。今回、我々は、熱揺らぎの限界を超えるSSをもつトランジスタを用いる ことで、ノイズに埋もれた信号を検出することに成功した[1]。 素子は、ナノスケールの細線チャネルと2 層構造のゲートで構成される(図 1) 。UGを用いて LG 両端のチャネルにソースとドレインを電気的に形成し、LGでチャネルを流れる電流を制御す る。ソース-ドレイン間に強電界を印加すると、インパクト・イオン化によって、電子-正孔対がド レイン端に発生する。正孔は、チャネルのボディ領域に流れ込み、チャネルを流れる電子電流 を増幅し、インパクト・イオン化をさらに促進する。このフィードバックによって電流が急激に増幅 し、熱揺らぎに影響されない急峻な電流特性が得られる[2]。2 層ゲートの細線チャネルを用い ることで、電流の制御性が向上し、またドレイン電圧が大きくなるほど電流特性は急峻になり、 SSは~1 mV/decに達する(図 2) 。 今回、ノイズに埋もれた信号を検出するため、確率共鳴を用いる。確率共鳴は、ノイズを重 畳した微小信号が、系の反応し得る閾値を超えることによって、系が微小な信号に反応する 現象である[3]。FETでは非線形な電流特性が確率共鳴を発現させ、ノイズに埋もれた微小 信号をゲートに印可すると、入力信号と相関をもつ電流(出力信号)が流れる。今回、SSが 小さく電流特性の非線形性が強いほど、またヒステリシス特性を示すほど、入出力信号の相関 が高くなることがわかった(図 3) 。また、ヒステリシス特性を示す素子を並列に接続しアンサンブ ル出力を取ることによって、入出力相関をさらに改善できることを確認した。これらの特徴を利用 することで、ノイズに埋もれた環境でも微小な信号を検出することが可能なセンサの実現が期待 できる。 本研究の一部は最先端・次世代研究開発支援プログラム(GR103)の助成を受けて行われた。 [1] K. Nishiguchi and A. Fujiwara, Appl. Phys. Lett. 101 (2012) 193108. [2] K. Nishiguchi and A. Fujiwara, Appl. Phys. Express 5 (2012) 085002. [3] L. Gammaitoni et al., Rev. Mod. Phys. 70 (1998) 223. 図 1 素子の上面図(左上) 、断面図(右上、 左下)と電子顕微鏡写真(右下) 。 28 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 図 2 電流-LG 電圧特性。 図 3 微小信号検出。 フォノンを用いたキャビティエレクトロメカニクス Imran Mahboob 西口克彦 岡本創 山口浩司 量子電子物性研究部 昨今、光キャビティと機械共振器間の結合に関するキャビティオプトメカニクスの研究が盛ん に行われている [1]。そこでは、機械共振器の運動が光キャビティの共振波長の変化を引き起 こすパラメトリック相互作用により両者の結合が引き起こされる。すなわち、2つの共振の差と和 にあたる周波数に共振器のサイドバンドが現れ、そのサイドバンドを光励起することにより光キャ ビティと機械共振器間の結合が実現される。その結果、 原子系における電磁誘導透明化 (EIT: Electromagnetically-Induced Transparency)と等価な現象が生じ、光と機械共振器間のエネル ギー変換が実現する。類似の現象は2つの機械共振間においても実現できると予想され、高 周波数共振器をキャビティと見なせば同様にエネルギー変換が実現でき、低周波数の共振に 対してモード冷却を実現することが可能となる。 本研究では、機械共振器における第 1モードを通常の機械共振、第 2モードをキャビティとし て扱い、2つの共振モードを用いたフォノン系のみによるモード間結合を実現した。共振器を形 成する梁に張力を加えるとモード混合が起きる。これより、この張力を周期的に変調(ポンプ) すると、その周波数だけ離れた位置にもとの共振のサイドバンドが生じる。このサイドバンドがも う1つのモードと一致した場合、すなわち変調周波数が 2つの共振周波数の差に一致する場 合、2つのモード結合が生じる。 実験は圧電効果を用いた振動制御が可能なGaAs/AlGaAs 機械共振器を用いた(図 1) 。 第 1の共振モードは171.3 kHz、キャビティとして用いる第 2の共振モードは470.9 kHzである。 表面ゲートに電圧を印加すると、 圧電効果によって張力が生じる。この変調周波数を2つのモー ドの差 周 波に一 致させるとモード間 結 合が実 現できる。図 2はこの変 調 周 波 数 (Pump frequency)と第 2モードの励振周波数の関数として、第 2モードの振動振幅を濃淡プロットした ものである。強結合の特徴である反交差特性が明確に観測される。この特性は、EITと同様 に共振スペクトルに透明化現象が生じていることを意味し、さらにノイズに対する1 次モードの応 答においては冷却効果が確認された [2]。 [1] T. Kippenberg and K. Vahala, Science 321 (2008) 1172. [2] I. Mahboob et al., Nature Physics 8 (2012) 387. 図 1 用いた電気機械共振器のSEM 像と 測定セッ トアップの模式図。 図 2 強い張力変調(ポンプ)に対する第 2モード の共振特性。縦軸は第 2モードの励振周波数。 横軸はポンプ周波数。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 29 GaMnAs における強磁性秩序によって誘起されたピエゾ抵抗 小野満恒二1,2 Imran Mahboob1 岡本創 1 Yoshiharu Krockenberger2 山口浩司 1 1 量子電子物性研究部 2 機能物質科学研究部 半導体や金属に歪みを加えると、歪み量に応じて抵抗が変化する。この抵抗変化はピエゾ 抵抗と呼ばれ、半導体においては歪み印加時に異なるバンド間にキャリアが出入りすることによっ て、金属においては物質が幾何学的に変化することで生じる。このピエゾ抵抗は古くからよく知 られている特性であるが、近年、機械振動子の振動を検出するうえで用いられることが多い。 今回、強磁性半導体 GaMnAsをカンチレバーに組み込み、その機械共振時にGaMnAsチャ ネル部に歪みが印加されるような素子を作製し、用いたGaMnAsの強磁性転移温度付近 (Tc ~ 48 K)でピエゾ抵抗の温度依存性および磁場依存性を調べた。 図1は、今回用いたGaMnAsをピエゾ抵抗振動検出器として組み込んだカンチレバーと、そ の測定回路の模式図である。カンチレバーはピエゾセラミック上にマウントしてあるが、このピエ ゾセラミックに交流電圧を印加するとカンチレバーは上下方向に加振される。すなわち、印加交 流電圧の周波数を機械振動周波数付近で変化させ、GaMnAsチャネルに生じたピエゾ抵抗 を測定することで、機械振動スペクトルを得ることができる。ここで振動時に発生するキャパシタ ンスクロストークを抑制する目的で、加振周波数とGaMnAsチャネルに入力した交流信号の差 周波数をロックインアンプの参照信号として用い、ピエゾ抵抗を測定している。図 2はピエゾ抵 抗の温度依存性を示し、(a)はロックインアンプの出力の実部、(b)は虚部である。この特徴的 な温度依存性は、Tc 以下で歪み印加時から時間遅れのあるピエゾ抵抗が新たに発現し、歪 みに対して時間遅れが無視できるGaAs 本来が有するピエゾ抵抗と混在した結果であると考え られる。共振周波数において実部のピエゾ抵抗がちょうど0となる44 Kの実験結果を用いて計 算すると、この時間遅れは230 nsとなる。 今回このTc 以下で発現するピエゾ抵抗成分の観察に成功したことは、GaMnAs中の強磁 性秩序が歪みによって外乱される様子を、動的に捉えたことに相当する[1]。 [1] K. Onomitsu et al., Phys. Rev. B 87 (2013) 060410 (R). 図 1 ピエゾ抵抗測定セッ トアップの模式図。 30 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 図 2 Tc 付近におけるピエゾ抵抗の温度依存性。 メンブレン電気機械振動子 畑中大樹 Imran Mahboob 岡本創 小野満恒二 山口浩司 量子電子物性研究部 メンブレン機械振動子は二次元的な薄膜振動部から構成されている。同じ周波数帯域の両 持ちまたは片持ち梁振動子と比較して Q 値が高く、さらには振動部の表面積が広いため、光 機械システムのミラーや高感度センサへの応用が期待されている[1]。しかしながら、これまで に提案されたメンブレン機械振動子は電気的な駆動が不可能だったため、その応用範囲が限 定的であった。本研究では、この問題を解決するために圧電特性を有するGaAs/AlGaAs ヘ テロ構造より成るメンブレン電気機械振動子を作製し、室温・高真空の下、そのRF 帯域にお ける電気機械特性を調べた[2]。 図 1に示すように、メンブレン機械振動子は4つの金電極を含む直径 30 µmの円形メンブレ ン振動部 [GaAs (5 nm) / Al0.27Ga0.73As (95 nm) / Si-GaAs (100 nm) ヘテロ構造 ]から構成され ている。このメンブレンは、中央の穴から流し込んだフッ化 水 素 酸により下 部 犠 牲 層 [Al0.65Ga0.35As (3.0 µm)]を選択的にエッチングすることによって形成された。メンブレンの機械振 動は、電極 AもしくはB への交流電圧印加によって圧電的に誘起され、また電極 Cに発生す る電圧を測定することで圧電的に検出される。このメンブレン振動子の電気機械特性を用いれ ば、基本 (0, 1)モードを介したXORゲート論理演算が可能となる。電極 AとBをバイナリ入力、 ―― ― 電極 Cをバイナリ出力とすると(図 2 左) 、入力に使う電極 AとBはそれぞれ [110] 方向と[110] ―― ― 方向に沿った配置をとる(図 1) 。AlGaAs 結晶の[110] 方向と[110] 方向では圧電定数の符号 が逆転するため、電極 AもしくはBから圧電的に誘起された機械振動は互いに逆位相の振動 となる。それゆえ、電極 AとB へ同時に同じ交流電圧を印加し(0, 1)モードを励振した場合、 発生した機械振動は互いに打ち消し合い、機械振動が電極 Cにおいて観測されなくなる。そ の結果、図 2 右に示すような、XORゲート(A⊕B)に相応する論理動作が可能となる。その他 にも、高次の機械共振である(1, 1)モードを用いることで、ORゲート(A B)に相応する論理動 作も確認されている。このように、このメンブレン電気機械振動子は、機械振動を用いた複雑 な信号処理が可能であり、従来の用途に留まらない応用範囲の拡大が期待される。 ∩ [1] J. D. Thompson et al., Nature 452 (2008) 72. [2] D. Hatanaka et al., Appl. Phys. Lett. 101 (2012) 063102. 図 1 メンブレン電気機械振動子と測定 セッ トアップ。 図 2 (0, 1)モードを用いたXORゲート(A⊕B)。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 31 量子ドットのコトンネリング領域における ショット雑音スペクトロスコピー 岡崎雄馬1,2 佐々木智 1,2 村木康二1 1 量子電子物性研究部 2 東北大学 ショット雑音は、離散化された電荷の統計的な輸送過程に起因して発生する電流雑音であ る。量子ドッ ト(QD)などのナノ構造におけるショッ ト雑音測定は、通常のDC 電流測定では調べ られない非平衡特性や、エンタングルメントなどの電子相関効果を検出できる手法として注目さ れている。コトンネリングは、クーロンブロッケード領域で観測される高次のトンネル過程であり、 基底状態のみが寄与する弾性過程と、励起準位が同時に関与する非弾性過程に分類される。 この領域のショット雑音測定は、カーボンナノチューブQDの非弾性過程に対して報告されたの みで[1]、半導体 QDではコトンネリング電流が雑音測定の分解能よりも小さく、どちらの過程に 対しても測定が困難であった[2]。 本研究では、100 nm 程度まで小型化した半導体横型 QDをコトンネリング領域に制御し、 低温アンプを用いて電流雑音を高感度に測定した[図 1(a)] 。小型化によりQDの準位間隔 ∆Eを1 meV 程度の大きい値にできたため、雑音測定分解能より十分大きなコトンネリング電流 を実現し、その測定が可能になった。図 1(b)はクーロンブロッケードにおける伝導度のソースドレ インバイアスVsd 依存性である。低バイアス領域(|Vsd| < 1 mV)では弾性コトンネリングによる弱 い伝導度が観測される一方、高バイアス領域(|Vsd| > 1 mV)では励起準位の寄与した非弾 性過程により伝導度の増大が観測される。図 1(c)に、この領域で測定したショット雑音 Soutと電 流 I から求めたファノ因子 [F = Sout /2eI(e は素電荷)]を示した。低バイアス領域では、F ~ 1 のポアソン雑音が確認される一方、非弾性過程が支配的となる高バイアス領域では、F ~ 2.5 程度まで雑音が増大した(スーパーポアソン雑音) 。この雑音増大は非弾性過程に付随して 余剰に電子が放出され、電子のバンチングが起きることに起因すると考えられる[3]。このような ショット雑音の違いを利用して、電子輸送現象の微視的なメカニズムを定量的に区別する新た なスペクトロスコピーが可能となる。 [1] E. Onac et al., Phys. Rev. Lett. 96 (2006) 026803. [2] S. Gustavsson et al., Phys. Rev. B 78 (2008) 155309. [3] Y. Okazaki, S. Sasaki, and K. Muraki, Phys. Rev. B 87 (2013) 041302(R). 図 1 (a) 量子ドットデバイスと測定系。量子ドットからの雑音をLC 共振回路に入力し、その電流雑音強度 Soutを 測定する。 (b, c)クーロンブロッケードの外側における(b)コンダクタンスGおよび (c)ファノ因子 F。 32 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) グラフェンにおけるプラズモン伝導の時間分解測定 熊田倫雄 田邉真一 日比野浩樹 鎌田大* 橋坂昌幸* 村木康二 藤澤利正* 量子電子物性研究部 *東京工業大学 プラズモンとは電荷の集団運動であり、同じ周波数をもつ電磁波の波長より小さい領域(数 10 nm)に閉じ込めることができるという特徴を持っている。特に、 グラフェンにおけるプラズモンは、 その伝搬特性がゲートなどにより変調できると考えられ注目されている。本研究では、強磁場下 でグラフェン端に局在して伝搬するエッジマグネトプラズモンの伝搬速度を測定し、2 桁に渡って 制御可能であることを明らかにした[1]。 実験で用いたグラフェンはSiC 上に成長されたものである。グラフェン全面を覆うようなゲート があるものとないものの2 種類の試料を用いた。測定温度は1.5 Kである。 プラズモンは入射ゲー トに電圧ステップを印可することにより入射され、1.1 mm 離れたところに作製されたオーミック電 極を通して検出される[図 1(a)] 。プラズモンを入射してから検出するまで時間を100 psの時間 分解能で計測することにより、プラズモンの伝搬速度を決定できる。図 1(b)はグラフェン全面を 覆うようなゲートがない試料で測定したプラズモン伝搬速度の磁場依存性である。磁場を増加 させていくと伝搬速度は約 6000 km/sから2000 km/s 程度まで減少していく。一方、グラフェン 全面を覆うようなゲートがある試料では、伝搬速度は100 km/s 程度であり1 桁小さな値となって いる[図 1(c)] 。これは、ゲート電極によりプラズモンの電場が遮蔽されているためである。また、 一定磁場下 (12 T)においてゲートに負の電圧を加え電子密度を減少させていくと、速度は数 100 km/sから数 10 km/sまで振動しながら小さくなっていく。以上の結果により、グラフェンにお けるプラズモンの伝搬速度は磁場、ゲート電極による遮蔽効果、電子密度を変化させることに より、2 桁に渡って制御可能であるといえる。 本研究は科研費の援助を受けて行われた。 [1] N. Kumada et al., Nature Commun. 4 (2013) 1363. 図 1 (a) 試料構造および測定方法。(b) グラフェン全面を覆うゲートがない試料で求めたプラズモン伝搬速度の 磁場依存性。(c) グラフェン全面を覆うゲートがある試料で求めた12 Tにおけるプラズモン伝搬速度のゲート 電圧依存性。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 33 グラフェン伝導スペクトロスコピーにおける量子キャパシタンスの効果 高瀬恵子 田邉真一* 佐々木智 日比野浩樹* 村木康二 量子電子物性研究部 *機能物質科学研究部 グラフェンは炭素原子が蜂の巣状に配列した二次元物質であるが、そのエネルギーバンド 構造は通常の二次元物質のバンド構造とは異なり、相対論で記述されるDirac cone 構造であ る。そのため通常の二次元系では一定である状態密度がグラフェンではフェルミ準位に依存し、 状態密度に比例して定義される量子キャパシタンスが通常の二次元系とグラフェンでは大きく異 なる。本研究では、SiC 上成長グラフェンから作製した高移動度デバイスにおいて、デバイス 中の界面準位とグラフェンの量子キャパシタンスが競合することで、グラフェンのファン・ダイアグ ラムがランダウ準位のエネルギー構造を直接的に表すことを実験・モデル両面から実証した[1]。 これは電気伝導測定によりエネルギースペクトロスコピーが可能となることを示しており、さらに、 この手法が disorderにより幅を持ったランダウ準位のエネルギー幅など基礎物性の解明にも役 立つことを意味する[1]。 試料は、SiC 上に成長した単層グラフェンから作製したトップゲート付きホールバー型デバイス を用いた。極低温・強磁場下で、試料に流した電流と垂直方向の抵抗(ホール抵抗)および 平行方向の抵抗(縦抵抗 Rxx)を測定すると、ランダウ準位充填率ν = (4N+2)(N: 整数)にお いて、ホール抵抗が h/{(4N+2)e2}に量子化され縦抵抗がゼロになる量子ホール効果が観測さ れる。図 1(a)は、Rxx のゲート電圧 Vg、磁場 B 依存性を示したファン・ダイアグラムである。ν = ± 2において広い領域で量子ホール状態が存在し、ν = 0, 4, 8において有限の Rxxピークが現 れる。Rxxピークの軌跡は通常は放射状に広がる直線となるが、図 1(a)では非等間隔な曲線に なっている。これは、グラフェン近傍に存在するSiCダングリングボンド状態やゲート絶縁膜内界 面準位を考慮し、それらがグラフェンと電荷の授受を行うモデルで説明できる[図 1(c)] 。この モデルを適用すると、低磁場におけるグラフェンのキャリア密度のゲート電圧依存性から界面準 位密度が求まる。さらに、グラフェンと界面準位の量子キャパシタンスが競合することがわかり、 その結果、界面準位密度が大きいときにグラフェンのフェルミ準位とゲート電圧がほぼ比例する。 このため、Vg-B 空間の Rxxピークの位置はグラフェンのランダウ準位のエネルギー位置を直接的 に表す。Rxxピークの位置を判別するランダウ準位充填率をモデルを用いて計算すると図 1(b)の ようになり、実験結果[図 1(a)]をよく再現する。 [1] K. Takase et al., Phys. Rev B 86 (2012) 165435. 図 1 (a) Rxx のゲート電圧、磁場依存性。(b) ランダウ準位充填率のゲート電圧、磁場依存性のシミュレーション。 (c) 界面準位が含まれるグラフェンデバイスに対するゲート印加時の模式図。 34 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 量子メモリと超伝導量子ビットの結合系におけるエネルギー緩和 松崎雄一郎 中ノ勇人 量子電子物性研究部 量子情報を実現するための有力な方法のひとつとして、複数の異なる物理系を組み合わせ たハイブリッ ド型の素子の利用が挙げられる。近年、 ハイブリッ ド系の中でも特に、 超伝導量子ビッ トとスピンアンサンブルの結合系が着目を集めている[1]。超伝導量子ビッ トは制御性が高いため 量子プロセッサーとしての役割を担い、スピンアンサンブルはそのコヒーレンス時間の長さから量 子メモリとして用いることができる。また、超伝導量子ビットのエネルギーは可変であるために、 エネルギー差を利用することで、スピンアンサンブルとの相互作用のon/offを任意のタイミングで 切り替えられると考えられてきた。 しかしながら我々は、このようなエネルギー差を利用した相互作用制御法では、量子メモリに 著しいエネルギー緩和が起きてしまうことを発見した[2]。超伝導量子ビットは環境と強く結合し ており位相緩和が起こるが、その影響が相互作用を通じてスピンアンサンブルにも伝播してしま う。その結果、スピンアンサンブルに蓄えた量子状態のエネルギーが環境に放出されてしまい、 エネルギー緩和時間が減少してしまう (図 1) 。この現象は、環境によってハイブリッド系にアン チゼノン効果が引き起こされ、エネルギー緩和が加速したと解釈できる。 このようなエネルギー緩和を抑制するため、我々はデコヒーレンスフリー部分空間を用いる相 互作用制御法を提唱した[2]。これは現在の技術でも実装可能なプロトコルであり、長寿命量 子メモリ実現のために役立つと考えられる。 本研究は科研費の援助を受けて行われた。 [1] X. Zhu et al., Nature 478 (2011) 221. [2] Y. Matsuzaki et al., Phys. Rev. B 86 (2012) 184501. 図 1 メモリ量子ビットのエネルギー緩和時間と超伝導量子ビットの位相緩和時間との関係。結合定数 25 MHz、 エネルギー差 1 GHzの場合の数値計算結果をプロッ トしている。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 35 トリオン- 2 次元電子正孔クロスオーバの証拠 山口真澄 *野村晋太郎 田村浩之 赤崎達志 量子電子物性研究部 *筑波大学物理学域 2 個の電子と1 個の正孔で形成されるトリオンは、残留電子密度が小さい半導体量子井戸 において光励起下の安定な束縛状態であり、電子密度の増加に伴って2 次元電子ガスと正孔 (2DEG-h)という非束縛状態へとクロスオーバする(図 1) 。これは、電子正孔間のクーロン引力 が周囲の2 次元電子ガスによって遮蔽されるからである。しかしながら、試料には必ず空間的 に非一様な乱雑静電ポテンシャルが存在するために、このクロスオーバを確かめるのは簡単で はない。低電子密度において電子は静電ポテンシャルの谷に局在するが、クロスオーバが起こ る電子密度と、この電子の局在が起こる電子密度が重なるためである。 本研究では、非ドープのGaAs 量子井戸の発光スペクトル測定によってクロスオーバを調べ た[1]。これまで一般的に使われてきた変調ドープ型の量子井戸とは異なり、乱雑ポテンシャル の空間長さスケールが大きいため、電子の局在はトリオンと2DEG-hのクロスオーバよりもはるか に小さい電子密度で起こる。したがって、我々の試料では電子の局在とクロスオーバははっきり と区別できる。我々は、電界下における発光線幅の変化からトリオンの有効半径 a*の電子密 度依存性を求めた(図 2) 。スクリーニング長は非線形遮蔽モデルにより見積もられるが、a*は スクリーニング長が減少するne = 2×1014 m–2を超えたところで急激に増大する。これは2 次元 電子ガスの遮蔽によってトリオンが 2 次元電子ガス‐正孔状態へとクロスオーバしている明確な 証拠である。 本研究は科研費の援助を受けて行われた。 [1] M. Yamaguchi et al., Phys, Rev. B 87 (2013) 081310(R). 図 1 トリオン状態と2 次元電子-正孔状態。 36 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 図 2 トリオン半径の電子密度依存性。 挿入図 :スクリーニング長の電子密度依存性。 量子ビットのコヒーレント制御における原理的な限界 井桁和浩 量子光物性研究部 物質量子ビットをコヒーレント電磁場で制御することは、量子情報処理システムにおける最も 有望な要素技術であると考えられる。通常、古典電磁場理論を適用して、パルス面積定理に 従ったブロッホ回転として量子ビッ トを完全に制御する事ができている。しかしながら古典電磁場 というものは、無限強度の極限にすぎず、実際に得られるのは、強くても有限な強度のコヒーレ ント場であり、その有限性に起因した制御エラーは避ける事ができない。 本研究では、任意のコヒーレントな純粋状態と、混合状態も含めた任意の1量子ビットとの相 互作用を完全に量子力学的に取り扱う理論を構築した。π/2 パルス制御に伴うエラー(フィデリ ティエラー)は、既に報告されていたように[1、2]、制御場の平均光子数に反比例した。一方、 得られた結果(図 1)から、エラーの大きさは、量子ビットの初期状態に依存するという、既存 の研究には見られない結果が得られた。我々の結果は、原理的な制御エラーは、制御場と量 子ビッ トとの間に生じるエンタングルメントが原因であることを示している[3]。 本研究の一部は科学技術振興機構 CRESTの援助を受けて行われた。 [1] J.Gea-Banacloche, Phys. Rev. A 65 (2002) 022308. [2] M.Ozawa, Phys. Rev. Lett. 89 (2002) 057902. [3] K. Igeta, N. Imoto, and M. Koashi, Phys. Rev. A 87 (2013) 022321. 図 1 量子ビットの初期状態が上準位および下準位であった場合のフィデリティエラーを、 制御場の平均光子数 Nに対し対数表示した(実線) 。N が大きい場合の漸近曲線 (1/Nに比例)および、関連研究 [1、2]の結果を破線で示す。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 37 シリコンフォトニクス技術を用いたモノリシックな偏波量子もつれ光源 松田信幸 1,3 Hanna Le Jeannic1 福田浩 2,3 土澤泰 2,3 山田浩治 2,3 武居弘樹 1 1 量子光物性研究部 2 マイクロシステムインテグレーション研究所 3 ナノフォトニクスセンタ 量子もつれは量子情報システムにおける基本的なリソースである。とりわけ多くの量子情報処 理プロトコルにおいて、光子の偏波(偏光)状態に符号化された量子状態が用いられている。 また、シリコン等の基板上に集積された平面光波回路は、安定な経路長や微小な素子サイズ を有しており、 大規模量子情報処理システムのプラッ トフォームとして注目されている[1]。したがっ て、集積光回路中で光の偏波に関する量子状態の生成・操作・検出を行う要素技術の構築 は極めて重要となる。我々は、シリコンフォトニクス技術を用い、オンチップ集積型の偏波もつれ 光子対源を初めて実現した[2]。 我々の偏波もつれ光子対源は、長さの等しい2 本のシリコン細線導波路 (SWW) が、シリコ ン細線に基づいた90° 偏波回転素子によって接続されている[図 1(a)] 。各 SWW中では、単 結晶シリコンのコアにおける四光波混合過程により、波長 1.55 µm 帯のH(水平)偏波ポンプ 光に対して、同じく波長 1.55 µm 近傍のH 偏波の光子対が生成される。偏波回転素子は、シ リコンの第 1コアと酸窒化珪素の第 2コアを有する偏芯二重コア構造を有し、基板に対して ±45° 方向に固有軸をもつ複屈折板としてはたらく。したがって適切なデバイス長のもとで、90° の 偏波面回転が得られる[3]。この素子に斜め45° 偏波のポンプ光を入射することで、素子終端 において図 1に示すような偏波もつれ光子対が得られる。SWWにおける偏波モード分散や偏 波依存光損失は、もつれ光子の純度を低下させる原因である。本素子は各 SWWにおけるこ れらの影響が自動的に打ち消される構造をとっており、結果として約 94 %という高い忠実度を 示す量子もつれ状態の生成に成功した。 本研究は科研費の援助を受けて行われた。 [1] A. Peruzzo et al., Science 329 (2010) 1500. [2] N. Matsuda et al., Sci. Rep. 2 (2012) 817. [3] H. Fukuda et al., Opt. Express 16 (2008) 2628. 図 1 (a)モノリシック偏波もつれ光子対源と、(b) 動作原理の概要(Vは垂直偏波を表す) 。 38 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 超伝導永久電流アトムチップにおける ボース・アインシュタイン凝縮の生成 今井弘光 稲葉謙介 山下眞 向井哲哉 量子光物性研究部 冷却原子気体を電磁場で操作し、量子情報処理や量子計測などの研究に応用する試み が近年精力的に進められている。なかでも、超伝導永久電流アトムチップは強く安定したポテン シャル中に原子気体を閉じ込めることを可能とし、原子の状態を量子的に制御するための優れ たデバイスとして期待されている[1、2]。我々は、チップ上に捕捉された 87Rb 原子気体に蒸発 冷却を行うことで、ボース・アインシュタイン凝縮体 (BEC)を生成することに成功した。これにより、 超伝導永久電流アトムチップを用いて量子メモリや原子波干渉計といった量子技術を開発する 道が拓けた。 凝縮体生成の実験は、図 1のように永久電流の磁場とバイアス磁場とによって作られるポテン シャルでRb 原子を捕捉して行った。凝縮の確認は、蒸発冷却後に原子を磁場ポテンシャルか ら解放し、飛行時間 (TOF) 法による原子の運動量分布を測定することで行った(図 2) 。 図 2(a)と(b)は、蒸発冷却の最終掃引周波数 vf が1.770 MHzのときに得られたTOF 画像と光 学密度である。図 2(a)と(b)で示されている広い分布は、原子雲が凝縮していない熱原子の 状態であることを示している。vf が1.750 MHzのときには、BECを示す狭い分布と熱原子の分 布の2つの運動量分布が現れておりBECに相転移したことを示している[図 2(c)、(d)] 。さら に vfを1.735 MHzまで掃引すると熱原子は観測されなくなくなり、ほぼ純粋なBECが得られてい ることがわかる[図 2(e)、(f)] 。 本研究は最先端プログラム、科研費(新領域) 、JST-CRESTの援助を受けて行われた。 [1] T. Mukai et al., Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 260407. [2] C. Hufnagel et al., Phys. Rev. A 79 (2009) 053641. 図 1 超伝導アトムチップ上に捕捉された原子 の模式図。 図 2 15 ms 後のTOF 画像(上図)とその画像内 の点線に沿った光学密度(下図) 。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 39 高次高調波を用いた時間分解光電子分光法による GaAs 表面の超高速ダイナミクス計測 小栗克弥 加藤景子 増子拓紀 量子光物性研究部 高次高調波は、尖頭強度 1013~1014 W/cm2 程度の高強度フェムト秒レーザパルスと希ガスの 非線形相互作用によって発生する極端紫外から軟 X 線領域におけるコヒーレント超短パルスで ある[1]。高次高調波は、発見よりおよそ20 年経過した現在、発生技術が飛躍的に進歩した 結果、シンクロトロン放射光やX 線自由電子レーザ等他の短波長パルス光源とは異なった特徴 をもつユニークな光源としての地位をいまや確立し、その応用技術は広がりを見せつつある[2]。 我々は、単一次数の高次高調波のシャープなスペクトル形状、基本波レーザ光のパルス幅を 引き継ぐ短パルス性、 そして極端紫外領域という波長特性に着目し、原子層オーダの表面プロー ブ特性とフェムト秒オーダの時間分解能を併せもつ時間分解表面光電子分光への応用を図っ てきた[3]。 図 1に、我々の構築した超高速表面光電子分光システムの実験配置図を示す。本実験で は、パルス幅 100 fsのテラワットチタンサファイアレーザシステムをベースとし、GaAs(001)をサン プルとしてを用いた。図 2(a)に、エネルギー密度約 2 mJ/cm2 のポンプ光を照射した場合と未照 射の場合を比較したGaAsにおけるGa–3d内殻光電子スペクトルを示す。プローブ光とポンプ 光が時間的に一致した場合 (0 ps)、Ga–3dピークが約 0.2 eV 低エネルギー側へシフトすること が明瞭に観察された。レーザ光照射から約 1800 ps 後においては、このピークシフト量は大きく 減少した。本実験で観察された内殻ピークのシフトは(図 2(b)) 、レーザ光照射によって表面に 生成した電子-正孔対がバンドの曲がりに従って空間分離した結果、内部電場が生じ、表面 ポテンシャルを変化させること(SPV 効果)に起因すると 考えられる。今後は、本方法の高時間分解能化を図り、 半導体表面におけるSPV 効果のフェムト秒領域のダイ ナミクスを解明する。 [1] C. Winterfeldt et al., Rev. Mod. Phys. 80 (2008) 117. [2] C. La-O-Vorakiat et al., Phys. Rev. Lett. 103 (2009) 257402. [3] K. Oguri et al., Jpn. J. Appl. Phys. 51 (2012) 072401. 図 1 超高速表面光電子分光システム。 40 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 図 2 各遅延時間におけるレーザ光照射 / 無照 射時のGa–3d 内殻光電子スペクトル(a)とそ の時間発展 (b)。 無磁場電子スピン共鳴による輸送電子スピンのコヒーレント操作 眞田治樹 国橋要司 小野満恒二* 量子光物性研究部 *量子電子物性研究部 電子スピンを用いて量子情報演算を行うためには、電子スピン共鳴 (ESR) が不可欠である。 しかし、一般的なESRで必要となる外部磁場の空間領域は電子一個の占める範囲よりもはる かに広いため、実磁場を用いたスピン操作はデバイス応用には不向きである。今回我々は、ス ピン軌道相互作用のつくる有効磁場を利用することによって、外部磁場が一切無くてもESR が 生じることを明らかにした[1]。 図 1に試料構造を示す。厚さ20 nmのGaAs/AlGaAs(001) 単一量子井戸であり、表面に Alからなるトランスデューサ(IDT)を形成してある。トランスデューサに高周波を印加すると y (|| [-110]) 方向に表面弾性波 (SAW) が速度 vSAW = 2.97 km/sで伝搬する。このSAW 伝搬領 域に、スリッ トを開けたTi 薄膜を形成すると、ピエゾ電界の遮蔽によってスリッ トの直下のみにドッ ト状のポテンシャルが伝搬する。この手法で「直線チャネル」と、ESR 条件を満たすように設計 した「蛇行チャネル」を作製し、 輸送中のスピンダイナミクスを計測した。円偏光のポンプ光はチャ ネル上の特定の位置 (y = 0) にスピンを注入し、輸送後のスピン密度をプローブ光のKerr 回転 角によって検出する[2]。試料は電磁石の中に置かれ、x (|| [110]) 方向に外部磁場 (Bext)を印 加することができる。 図 2は2つのチャネルに対して測定した、Kerr 信号の y および Bext 依存性である。直線チャ ネルのグラフに見られる振動は静磁場の周りのスピン歳差運動に起因する。一方、蛇行チャネ ルでは、Bext = 0 Tと46 mTの付近で歳差運動の位相が特徴的に変化する様子が明瞭に観測 された。この振る舞いは、スピン軌道相互作用がつくる振動磁場の影響によるものであり、 Blochシミュレーションでも良く再現できる。これらの実験によって無磁場でもESR が生じることが 実証された。本技術は、固体内を伝搬するスピン量子情報の効率的かつ柔軟な操作手法と して期待できる。 本研究は科研費の援助を受けて行われた。 [1] H. Sanada et al., Nature Physics 9 (2013) 280. [2] H. Sanada et al., Phys. Rev. Lett. 106 (2011) 216602. 図 1 サンプルの概略図(左)と直線・蛇行 チャネルの光反射率イメージ(右) 。 図 2 直線チャネル(上図)と蛇行チャネル(下 図)に沿って移動する電子スピンに対する Kerr 信号の距離および外部磁場依存性。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 41 デュアルピッチ PPLN 導波路を用いたキャリアエンベロープオフセット 信号の高効率検出 日達研一 石澤淳 遊部雅生 量子光物性研究部 キャリアエンベロープオフセット(CEO) 周波数制御光周波数コムは超精密分光や波形整形 の分野で飛躍的な進歩をもたらした。我々は位相変調方式による25 GHzモード間隔光周波数 コムの研究を進めていて、モード同期法(周波数間隔 < 数百 MHz)と比べると、各モードが 分離可能という利点がある。周波数安定化には、1オクターブ帯域のスーパーコンティニューム (SC) 光を利用するf-to-2f 自己参照干渉法 (SRI) [1]が通常用いられているが、位相変調方式 ではCWレーザの中心周波数から離れるにつれて位相雑音が大きくなるため、この方法は難し い。そのため、周波数安定化に2/3オクターブ帯域のSC 光を用いる2f-to-3f SRIに着目した。 SC 光発生用光源にファイバーレーザ、3 倍波生成にデュアルピッチ(DP)の周期分極ニオブ酸 リチウム(PPLN)リッジ導波路を用いたところ、高 SNRで(> 30 dB) CEO 干渉信号検出に成功 した。 DP-PPLNデバイスは、2つの異なる疑似位相整合長 (Λ1, Λ2)を持ったリッジ導波路である [図 1(a)] 。ピッチサイズΛ1 の第 1セグメントでSC 光周波数成分 f1 の2 倍波を生成し、ピッチサ イズΛ2 の第 2セグメントでSH 光 (f2)とSC 光成分 (f1’)との和周波を取る。導波路による光の閉 じ込めと、ピッチサイズを変化させることにより1つのデバイスで3 倍波を生成できる為、高効率 な波長変換を行える[2]。 CEO 信号検出は、ファイバレーザ中の出力を高非線形性ファイバに入射することでSC 光 (~300 mW)を発生させ、ダイクロイックミラーで長・短波長成分に分離する。SC 光短波長成分 (~1200 nm)の2 倍波をSP-PPLNで、長波長成分 (~1800 nm)の3 倍波をDP-PPLNで生成し た後、2つの干渉信号をフォトディテクタに入れたところ、30 dB 以上のSNRでCEO 信号を検出 した[図 1(b)] 。今後は位相変調方式光源へこの手法を適用し、CEO 周波数安定化を目指 す。 [1] A. Ishizawa et al., Opt. Express 16 (2008) 4706. [2] K. Hitachi et al., Electron. Lett. 49 (2013) 145. 図 1 (a) DP-PPLN 導波路の概念図、(b) CEO 信号の検出。 42 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 銅ドープシリコンナノ共振器からの高速自然放出光発生 ⻆倉久史 1,2 倉持栄一 1,2 谷山秀昭 1,2 納富雅也 1,2 1 ナノフォトニクスセンタ 2 量子光物性研究部 シリコン中の不純物は励起子を強く束縛することからフォノンを介さない発光が可能で、さらに 長寿命のスピンをもつことから、近年励起子を介した光操作が可能な量子ビットとして注目され ている。しかしオージェ過程などの非発光過程により、光と不純物の相互作用は効率的ではな い。そこで本研究では銅等電子中心とシリコンフォトニック結晶ナノ共振器に注目した。等電子 中心は深い不純物に強く束縛された励起子であり、オージェ過程がなく発光量子効率が高い [1]。さらに高 Q 値の光ナノ共振器を用いることで、等電子中心の自然放出が加速され(パー セル効果) 、光と不純物の相互作用を大きく増強することが可能である。 我々は新たに開発した銅イオン注入と高速アニールを用いる方法によってSOI 基板に銅等電 子中心をドープし、その上にフォトニック結晶共振器を作製した。PL 測定で得られた Q 値 7200 の共振器における発光スペクトルと発光の時間発展を図 1に示す。1227.5 nm 付近に銅等電 子中心の発光ピーク、その短波長側に共振器由来のピークが見られた。キセノンガスの堆積に よって共振器波長を銅等電子中心の発光波長に近づけたとき等電子中心の発光強度とレート は増大し、完全同調時に最大となった。また図 2に銅等電子中心発光レートの共振器 Q/V 値 依存性を示す。発光レートは共振器の Q/V 値にほぼ比例することが明らかになった。理論との 比較から、この結果は共振器によるパーセル効果が銅等電子中心に働いていることを示してい る。なお最高 Q 値 16000の共振器では、共振器のないSOI 基板と比べて発光レートは約 30 倍 となり発光寿命は1.1 nsであった。これは非発光寿命(約 40 ns)より短いことから、量子効率 はほぼ 1に近いと考えられる。 これらの結果により、高効率で高速に動作する新たなシリコン発光デバイスの開発やシリコン 中の不純物を量子ビッ トとする量子光学デバイスの実現が期待できる。 [1] S. P. Watkins et al., Solid State Commun. 43 (1982) 687. 図 1 (a) 銅ドープナノ共振器の発光スペクトル。挿 入図は銅等電子中心の発光強度。(b) 銅等電 子中心の発光減衰と発光レート。 図 2 (a) 異なるQ 値の共振器内にある銅等電子中心 の発光減衰。(b) 発光レートのQ/V 依存性。Vは モード体積。銅ドープ SOIの発光レートも示す。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 43 量子ドットナノ共振器による光通信波長帯における高速単一光子発生 Muhammad Danang Birowosuto1 ⻆倉久史 1,2 松尾慎治 2,3 谷山秀昭 1,2 納富雅也 1,2 1 量子光物性研究部 2 ナノフォトニクスセンタ 3 フォトニクス研究所 通信波長帯と呼ばれる波長 1.55 µm 帯の光は、光ファイバ中の損失が少なく長距離の光伝 送が可能である。そのため、光ファイバを介した将来の量子情報通信ネットワークにおいて波 長 1.55 µm 帯で動作する単一光子光源は必要不可欠である。そのため近年、光共振器と結 合したInAs/InP 量子ドットが高輝度かつ高速な単一光子光源として注目されている[1]。また、 InP 光ホーン内に置かれた単一 InAs 量子ドットから、波長 1.55 µm、発光寿命 1.12 nsの単一 光子発生が報告されている[2]。しかし、光共振器と結合した量子ドットからの通信波長帯単 一光子発生は未だ報告されていない。 そこで我々はInPフォトニック結晶ナノ共振器と結合したInAs/InP 量子ドットをもつデバイスを作 製し、高輝度で高速な通信波長帯単一光子発生を実証した[3]。このデバイスでは量子ドット 中で励起子よりも速い発光を示す励起子分子とナノ共振器を結合させた。そのフォトルミネッセン ス(PL)スペクトルの温度依存性を図 1に示す。共振器は線欠陥幅変化型共振器で共振器由 来のPL 線幅から求めた共振器 Q 値は2000であった。試料の温度を変化させることで、励起 子分子の波長を調整した。その結果、試料温度が 22 Kのとき、量子ドットの励起子分子と共 振器の波長が一致し、発光強度は増大した。このとき、図 2に示すように励起子分子の発光 は共振器によるパーセル効果によって加速し、発光寿命は離調時の1 nsに比べて5 倍速い0.2 nsとなった。また同時に光子相関測定を行ったところ、発光はアンチバンチング特性を示し、 g(2)(0)は0.1であった。以上より、フォトニック結晶共振器によって量子ドット励起子分子からの単 一光子発光強度および発光レートは増大することが実証された。 このような通信波長帯における高輝度で高速な単一光子発生デバイスは、将来の量子情報 通信ネッ トワークにおいて高速な信号転送を可能にすると期待される。 [1] A. J. Shields, Nature Photon. 1 (2007) 215. [2] K. Takemoto et al., Appl. Phys. Express 3 (2010) 092802. [3] M. D. Birowosuto et al., Sci. Rep. 2 (2012) 312. 図 1 量子ドットナノ共振器のPLスペクトル温度 依存性。X、XXはそれぞれ励起子、励起 子分子の発光線を示す。 44 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 図 2 時間分解量子ドッ ト発光。22 Kで、共振波長 と量子ドッ ト発光波長が一致している。挿入図は 22 Kのときの発光のアンチバンチングを示す。 電流注入型波長サイズ埋込み活性層フォトニック結晶 (LEAP) レーザ 佐藤具就 1,2 武田浩司 1,2 新家昭彦 1,3 野崎謙悟 1,3 谷山秀昭 1,3 長谷部浩一 1,2 硴塚孝明 1,2 納富雅也 1,3 松尾慎治 1,2 1 ナノフォトニクスセンタ 2 フォトニクス研究所 3 量子光物性研究部 CMOS 電子回路では、動作速度向上のため微細化が進んでいる。しかしながら、微細化 に伴い、電気配線層における消費電力の増大や処理速度の律速が顕在化している。これを 解決するために、電気配線層を光回路に置き換えることを目的としたオン/オフチップ光インター コネクションの研究が活発に進められている。このような、光インターコネクションに用いられる光 源には、1ビットの生成に10 fJ 以下といった超低消費エネルギーが求められる。この要求を満 たすために、我々はフォトニック結晶微小共振器と微小埋込活性層を組み合わせた波長サイズ 埋込活性層フォトニック結晶 (LEAP:Lambda-scale Embedded Active-region Photonic-crystal) レーザを開発している[1]。今回、電流注入時のリーク電流を大幅に削減することに成功し、 半導体レーザにおいて世界最小しきい値電流および最小消費エネルギー(単位ビット当たり)で 動作するLEAPレーザを実現した。 図 1に電流注入型 LEAPレーザのSEM 像を示す。InGaAlAs 量子井戸構造からなる微小 活性層(体積 0.12 µm3)が、厚さ250 nmのInPスラブに形成したフォトニック結晶導波路中に 埋め込まれている。犠牲層とInP 基板を介したリーク電流を削減するために、InPスラブ下部の 犠牲層を、従来のInGaAsからバンドギャップの大きいInAlAsに変更した。活性層に電流を注 入するために、横型の p-i-n 構造をZn 拡散および Siイオン注入により作製した。 図 2に作製したLEAPレーザの室温(25℃)連続動作時の光出力- 電流注入特性、および 発振スペクトルを示す。しきい値電流は7.8 µA、出力導波路上の光出力は最大 9 µW が得ら れた。発振波長は、1567.8 nmであった。従来のInGaAs 犠牲層を用いたレーザのしきい値電 流は390 µAであり、InAlAsを犠牲層に用いることで、しきい値電流の大幅な低減に成功した。 さらに、投入電力174 µWで12.5 Gbit/s 直接変調動作が可能であることを確認し、14 fJ/bitと いう超低消費エネルギー動作も実現した。また、発振波長が異なるが同様の構造のLEAPレー ザにおいて、95℃までの高温動作も実現した[2]。 本研究の一部はNEDOの援助を受けて行われた。 [1] S. Matsuo et al., Optics Express 20 (2012) 3773. [2] T. Sato et al., IEEE Photonics Conference (2012) WF-2. 図 1 LEAPレーザのSEM 像。 図 2 LEAPレーザの光出力-注入電流特性 および発振スペクトル。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 45 Si-Ge- 石英モノリシックプラットフォーム上に集積された 22-Gbit/s × 16-ch WDM レシーバ 西英隆 1,2 高橋礼 1,2 開達郎 1,2 土澤泰 1,2 福田浩 1,2 武田浩太郎 1,2 石川靖彦 3 和田一実 3 山田浩治 1,2 1 ナノフォトニクスセンタ 2 マイクロシステムインテグレーション研究所 3 東京大学 将来の光通信網におけるネットワークオペレーションの省エネルギー化に向けて、波長分割 多重 (wavelength-division multiplexing, WDM) 技術を基にしたフレキシブルな帯域割当技術 が検討されている。そのためのデバイス技術として、シリコン(Si)フォトニクス技術による超小型 で低コストな光 - 電気集積型 WDMレシーバの実現が期待されている。今回我々は、NTT 独 自のSi-ゲルマニウム(Ge)- 石英モノリシック集積 WDMレシーバを実現し[1]、さらにこれを用い て長距離伝送実験を行った。 図 1に作製したWDMレシーバの上面図を示す。∆ = ~3 %のシリコン酸化物 (SiOx) 導波路 によって作製された16 ch-200 GHz 間隔のアレイ導波路回折格子 (AWG) 波長フィルタの出力 導波路は、スポットサイズ変換器を介してシリコン細線導波路および Geフォトディテクタ(PD)に 接続され、これらのデバイスがモノリシックに集積されている[2]。SiOx 導波路は、低損失かつ 温度・偏波依存性が小さいため長距離光通信用パッシブ光デバイスに求められる厳しい仕様 にも適応可能である。AWGのSiOxコアとSiO2 オーバークラッドはECRプラズマCVD 法によっ て200℃以下で堆積され、Geデバイスに熱損傷を与えることなくSiOx-AWG が作製されている。 GeはUHV-CVD 法によって成長した[3]。作製したデバイスの面積は1 cm2 である。 作製したデバイスの特性を以下に示す。SiOx-AWGの挿入損失は5.1 dBであった。GePD の特性は、暗電流が –2 V 下で245 nA、感度が1.2 A/W、3-dB 帯域幅は15 GHz 以上であり、 20 Gbit/s 以上の信号受信が可能である。図 2に感度スペクトルを示す。全 chにおいて動作を 確認し、中心 chでのファイバ-PD 感度は0.29 A/W、チャネル間クロストークは–22 dBであった。 次に12.5-Gbit/s NRZ PRBS 231-1 入力信号を、17 ps/km/nmの分散を有するシングルモード ファイバに入力し、20、40、60 km 伝送を行った後、高 NAファイバのバットカップルによって WDMレシーバチップに入力した。図 3に測定したビットエラーレート(BER)曲線を示す。40 km までのエラーフリー伝 送を確 認した。40 km 伝 送 時、AWG 入 力 パワーで規 格 化した BER=10–9 での受光感度は–6.8 dBmであった。これらの実験は室温環境下でデバイスの温度 制御なく行われた。SiフォトニクスWDMレシーバを用いて、世界に先駆けて10 Gbit/s 級長距 離伝送実験に成功した。我々は電気回路との集積化にも成功しており[1]、今後大幅な受光 感度の改善が期待できる。 [1] H. Nishi et al., Opt. Express 20 (2012) 9312. [2] T. Tsuchizawa et al., J. Sel. Top. Quantum Electron. 17 (2011) 516. [3] S. Park et al., IEICE Trans. Elect. E91-C (2007) 181. 図 1 WDMレシーバの上面図。 46 図 2 感度スペクトル。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 図 3 BER曲線。 Ⅱ.資料 サイエンスプラザ 2012 2012 年 12 月 14 日(金)に NTT 厚木研究開発センタにおいて、 “未来への扉を開くフ ロンティアサイエンス”と題した NTT 物性科学基礎研究所の公開イベント「サイエン スプラザ 2012」を開催しました。本イベントは、研究所の最新の研究成果について 内外の方々に広く紹介するとともに、皆様との有意義な議論の場とすることを目的 としています。 講堂において行われた講演会の午前の部では、牧本所長による開会の挨拶、NTT 物性科学基礎研究所各研究部長、ナノフォトニクスセンタ長、マイクロシステムイ ンテグレーション研究所・フォトニクス研究所・コミュニケーション科学基礎研究所・ 環境エネルギー研究所各研究企画部長による研究方針と展示ポスターの概要の説明 に続き、量子電子物性研究部の齊藤志郎特別研究員によるシンポジウム講演会「超伝 導を用いた量子情報処理 ~超伝導量子ビット用の量子メモリの開発~」を行いまし た。午後の部では、独立行政法人・科学技術振興機構・顧問 北澤宏一先生に「世界 の再生可能エネルギー」と題した特別講演を行って頂きました。講演後には活発な質 疑応答もありました。 ポスター展示では、マイクロシステムインテグレーション研究所 9 件、フォトニク ス研究所 8 件、コミュニケーション科学基礎研究所 2 件、環境エネルギー研究所 2 件 を含め、計 52 件の最新研究成果について紹介しました。研究の概要から、そのオリ ジナリティやインパクト、今後の展望を詳しく説明するとともに、研究内容につい て「かなり突っ込んだ」議論も行われ、多くの貴重なご意見を頂きました。毎年好評 の「ラボツアー」については、学生・一般の方を含めできるだけ多くの方に参加して 頂けるよう 9 つのコースを用意致しました。また、就職に興味のある学生の方を対象 とした相談コーナーを開設しました。全ての講演・展示・公開・説明会を終えた後、 夕刻からは社内食堂にて「懇親会」を行いました。ご来場頂いた方々と親交を深める とともに、研究内容についての議論も引き続き行われました。 今回、大学等研究機関・一般企業・NTT グループ等から 179 名の方々にご参加頂き、 お陰様を持ちまして、盛況のうちに終了することができました。ご来場頂きました 方々には、心より感謝申し上げます。ポスター展示、ラボツアーの際やアンケート でお寄せ頂きました様々なご意見は次回のサイエンスプラザに活かしていきたいと 思います。 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 47 第 7 回アドバイザリボード(2012 年度) 2013 年 1 月 28 日から 30 日の 3 日間、NTT 物性科学基礎研究所アドバイザリボード を開催しました。このボードは、外部の研究者によって研究成果ならびに研究計画を 客観的に評価していただき、今後の研究マネジメントに反映させるために設置されま した。最初の会議は 2001 年に開催され、その後は約 2 年ごとに開催され、今回で第 7 回目となります。今回の会議では、6 名の新しいメンバをお迎えしました。 3 日間の会議で、研究成果ならびに研究マネジメントに関し、貴重な提案と助言を いただきました。研究レベルは、以前と同様に世界的にハイレベルで、これを今後も 維持し、成果を世界に向けてタイムリーに発信することが重要であるとのコメントを いただきました。また、人的リソース・研究予算の安定的な確保や、内外の研究協力 の強化など、いくつかの改善点をご指摘いただきました。これらの提言を、今後の研 究所運営に積極的に活用していきたいと考えています。 今回のボードでも、若手研究者との食事会やポスターセッションを開催し、研究所 のメンバとボードメンバとの意見交換の場を設けました。ボードメンバは、NTT 物性 科学基礎研究所員の研究に対する日ごろの姿勢を直接感じることができ、また研究所 メンバは、著名な先生の研究に対する取り組み方を知ることができたとして好評でし た。NTT 物性科学基礎研究所および NTT 幹部との意見交換会では、内外の研究状況 を鑑みた研究所運営について議論するよい機会となりました。次回の開催は、2 年後 を予定しております。 48 Board members Affiliation Research field Prof. Abstreiter Prof. Clarke Prof. Hu Prof. Jonson Prof. Sir Knight Prof. Leggett Prof. MacDonald Prof. Offenhäusser Prof. Rubinsztein-Dunlop Prof. von Klitzing Walter Schottky Inst. Univ. California, Berkeley Harvard Univ. Göteborg Univ. Imperial College Univ. Illinois Univ. Texas Inst. Complex Systems Univ. Queensland Max-Planck-Inst. 低次元半導体物理 超伝導量子干渉デバイス ナノデバイス 低次元系物性理論 量子光学・原子光学理論 低温物性理論 凝縮系物理学理論 ナノバイオエレクトロニクス 量子エレクトロニクス 半導体量子電子物性 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 社外表彰受賞者一覧(2012 年度) 平成 24 年度 科学技術分野の 文部科学大臣表彰 若手科学者賞 熊田 倫雄 半導体 2 次元系における 量子多体効果の研究 2012.4.17 第 32 回応用物理学会 講演奨励賞 松田 信幸 オンチップ偏波もつれ 光子対源 2012.5.11 トポロジカル量子現象 国際会議における 優秀ポスター賞及び ポスタープレビュー賞 入江 宏 Josephson characteristics of superconducting quantum point contact 2012.5.20 Fifth International Conference on Optical, Optoelectronic and Photonic Materials and Applications Poster Paper Award 工藤 寛史(慶應大) 小川 陽平(慶應大) 田邉 孝純(慶應大) 横尾 篤 Fabrication of whispering gallery mode cavities using crystal growth 2012.6.3 応用物理学会論文奨励賞 田邉 真一 Half-Integer Quantum Hall Effect in Gate-Controlled Epitaxial Graphene Devices 2012.9.11 Photonics in Switching 2012 Award for SC1 best paper 野崎 謙悟 新家 昭彦 納富 雅也 松尾 慎治 佐藤 具就 須崎 泰正 瀬川 徹 高橋 亮 First demonstration of 4-bit, 40-Gb/s optical RAM chip using integrated photonic crystal nanocavities 2012.9.13 独立行政法人 日本学術振興会 マイクロビームアナリシス 第 141 委員会 榊賞 日比野 浩樹 低速電子顕微鏡を用いた 低次元構造の解析と形成 制御の研究 2012.9.27 AlInN/GaN MQW UV-LEDs 2012.10.19 For extensive contributions to applied quantum information 2012.11.3 International Workshop on Nitride Semiconductors 2012 Best Paper Award 谷保 芳孝 Jean-François Carlin* Antonino Castiglia* Raphaël Butté* Nicolas Grandjean* (*) Ecole Polytechnique Fédéral de Lausanne Fellowship of the American Physical Society William John Munro NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 49 平間 一行 佐藤 寿志 原田 裕一 山本 秀樹 嘉数 誠 Al2O3 パッシベーションによ り熱的安定化した NO2 吸着・ 2012.11.20 水素終端ダイヤモンド FET IEEE Fellow 納富 雅也 For leadership in the development of photonic crystals and applications 2013.1.1 Hot Article Award, Analytical Sciences 上野 祐子 古川 一暁 林 勝義 高村 真琴 日比野 浩樹 為近 恵美 Graphene-modified Interdigitated Array Electrode: Fabrication, Characterization, and Electrochemical Immunoassay Application 2013.1.10 ⻆倉 久史 シリコンフォトニック結晶 共振器による銅等電子中心 の Purcell 効果 2013.3.27 Krockenberger Yoshiharu Molecular Beam Epitaxy and Transport Properties of Infinite-Layer Sr0.90La0.10CuO2 Thin Films 2013.3.28 第 26 回ダイヤモンド シンポジウム 優秀講演賞 第 33 回応用物理学会講演 奨励賞 応用物理学会超伝導分科会 研究奨励賞 50 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 社内表彰受賞者一覧(2012 年度) 先端技術総合研究所 所長表彰 研究開発賞 小林 康之 熊倉 一英 赤坂 哲也 Krockenberger Yoshiharu 山本 秀樹 GaN 系薄膜素子の剥離・転写プロ セスの研究 2012.12.19 先端技術総合研究所 所長表彰 研究開発賞 佐藤 具就 武田 浩司 新家 昭彦 野崎 謙悟 松尾 慎治 高密度光インターコネクションに 向けた電流注入フォトニック結晶 レーザの研究 2012.12.19 先端技術総合研究所 所長表彰 特許発明賞 塚田 信吾 中島 寛 島田 明佳 住友 弘二 導電性高分子・繊維複合素材によ る生体電極の考案 2012.12.19 物性科学基礎研究所 所長表彰 業績賞 小林 康之 熊倉 一英 赤坂 哲也 層状 BN を利用した GaN 系薄膜の 剥離・転写プロセスの研究 2013.3.25 物性科学基礎研究所 所長表彰 業績賞 塚田 信吾 中島 寛 島田 明佳 鳥光 慶一 住友 弘二 導電性高分子・シルク複合素材を 用いた生体電極の研究 2013.3.25 物性科学基礎研究所 所長表彰 業績賞 Imran Mahboob 岡本 創 畑中 大樹 西口 克彦 小野満 恒二 藤原 聡 山口 浩司 化合物半導体電気機械共振器によ る新機能素子の提案と実証 2013.3.25 物性科学基礎研究所 所長表彰 奨励賞 田邉 真一 SiC 上エピタキシャルグラフェン の電気伝導特性の解明 2013.3.25 物性科学基礎研究所 所長表彰 論文賞 野崎 謙悟 新家 昭彦 松尾 慎治 須崎 泰正 瀬川 徹 佐藤 具就 川口 悦弘 高橋 亮 納富 雅也 "Ultralow-power all-optical RAM based on nanocavities" Nature Photonics 6, 248-252 (2012) 2013.3.25 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 51 52 物性科学基礎研究所 所長表彰 論文賞 松田 信幸 Hanna Le Jeannic 福田 浩 土澤 泰 William John Munro 清水 薫 山田 浩治 都倉 康弘 武居 弘樹 "A monolithically integrated polarization entangled photon pair source on a silicon chip" Scientific Reports 2, 817 (2012) 2013.3.25 物性科学基礎研究所 所長表彰 論文賞 東 浩司 加藤 豪 "Optimal entanglement manipulation via coherent-state transmission" Physical Review A 85, 060303(R) (2012) 2013.3.25 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 報 道 一 覧(2012 年度) 発表月日 発表媒体 見出し 4 月 12 日 毎日新聞 FOCUS LED 新製法(1 面) 半導体に新製法 4 月 12 日 毎日新聞 太陽電池 紫外線発電にも応用 NTT 研 極薄、低コスト化へ 4 月 12 日 日経産業新聞 LED、張り替え容易に NTT 窒化ガリウム薄膜はがす 窒化ガリ系 半導体薄膜素子 4 月 12 日 日刊工業新聞 基板から簡単に剥離 NTT 安価な作製プロセス 4 月 16 日 電経新聞 半導体デバイスの利用範囲を大幅に向上 NTT が世界初の窒化ガリウム系半導体剥離プロセスを開発 半導体デバイスの利用範囲拡大へ 4 月 20 日 科学新聞 GaN 系半導体剥離プロセス 積層技術ベースのメートル法 世界初、NTT 物性研が開発 NTT 研究所 4 月 23 日 通信興業新聞 素子作成に画期技術 LED、太陽電池等に一新 NTT 等の研究グループ 10 月 1 日 通信興業新聞 次世代半導体に一歩 電子スピンの整列に成功 12 月 4 日 日本経済新聞 絶対零度付近の特殊現象見える化 技術の鉱脈 解き放て 1月 1日 日経産業新聞 NTT、ハイテクの礎 40 年 アップルがほれた頭脳 1月 1日 日経産業新聞 1 月 16 日 日本経済新聞 1 月 16 日 日刊工業新聞 1 月 16 日 日経産業新聞 象牙の塔にこもらない 「死の谷」直視 再起へ一歩 LSI の消費電力 1/100 NTT と東工大 2 年以内に試作品 電子波2ケタ幅で制御 NTT と東工大 グラフェン使用 LSI 消費電力 1/100 に NTT と東工大 光信号をナノ制御 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 53 発表月日 発表媒体 2 月 13 日 日経産業新聞 2 月 13 日 日刊工業新聞 3 月 18 日 日刊工業新聞 3 月 19 日 日本経済新聞 見出し 着るだけで心電図計測 NTT が布状電極 実用化めざす ウエアラブル電極開発 NTT 着るだけで心電図計測 電子スピン 向きを自在に NTT など、新たな動作原理を実証 スパコン超える計算能力に道 数年の計算、数秒に 3 月 19 日 日経産業新聞 電子で物理現象 素子試作狙う NTT など 周波数ゆらぎ 100 万分の 1 3 月 19 日 日刊工業新聞 超高精度の振動子 NTT レーザー応用で実現 3 月 25 日 通信興業新聞 MEMS レーザ実現 NTT 研究所 世界で初めて成功 電子スピンの制御に成功 3 月 25 日 通信興業新聞 量子コンピュータの要素技術 NTT 等が共同実験 量子コンピュータ実現へ新知見 3 月 29 日 科学新聞 磁場使わず電子スピンを制御 NTT 東北大 移動スピン共鳴を発見 54 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 学術論文掲載件数、国際会議発表件数および出願特許件数(2012 年) 2012 年に国内外の学術論文誌(英文)に掲載された学術論文の件数は、物性科学基 礎研究所全体で 129 件、国際会議の発表件数は 163 件です。また出願特許数は 57 件に なります。以下に分野別の件数を示します。 学術論文掲載件数(2012.1−2012.12) 機能物質科学 42 量子電子物性 41 量子光物性 31 ナノフォトニクスセンタ 15 0 10 20 30 40 50 60 掲載件数 国際会議発表件数(2012.1−2012.12) 機能物質科学 44 量子電子物性 67 量子光物性 28 ナノフォトニクスセンタ 24 0 20 40 60 80 100 発表件数 特許出願件数(2012.1−2012.12) 機能物質科学 27 量子電子物性 18 量子光物性 8 ナノフォトニクスセンタ 4 0 5 10 15 20 25 30 出願件数 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 55 学術論文の主な掲載先と掲載件数は以下のとおりです。 雑誌名 (IF2011*) 件数 Japanese Journal of Applied Physics 1.058 15 Applied Physics Letters 3.844 11 Physical Review B 3.691 11 Applied Physics Express 3.013 10 Physical Review A 2.878 7 Journal of Applied Physics 2.168 6 Optics Express 3.587 5 Nano Letters 13.198 3 Nature Photonics 29.278 2 Physical Review Letters 7.37 2 The Journal of Physical Chemistry Letters 6.213 2 Langmuir 4.186 2 New Journal of Physics 4.177 2 Nature 36.28 1 Science 31.201 1 Nature Nanotechnology 27.27 1 Nature Physics 18.967 1 Advanced Materials 13.877 1 ACS Nano 11.421 1 Nature Communications 7.396 1 Biosensors and Bioelectronics 5.602 1 Carbon 5.378 1 PLoS One 4.092 1 *IF2011:インパクトファクター 2011(出展:トムソン・ロイター Journal Citation Reports® 2011) 研究所全体では、一論文当たりの平均インパクトファクターは 4.74 です。 国際会議の主な発表先と発表件数は以下のとおりです。 国際会議名 56 件数 31st International Conference on the Physics of Semiconductors 20 2012 International Conference on Solid State Devices and Materials 10 The 17th International Conference on Molecular Beam Epitaxy 7 International Workshop on Nitride Semiconductors 2012 6 11th International Conference on Quantum Communication, Measurement and Computing 4 2012 Materials Research Society Spring Meeting and Exhibit 4 The 20th International Conference on High Magnetic Fields in Semiconductor Physics 4 25th International Microprocesses and Nanotechnology Conference 3 2012 Workshop on Innovative Nanoscale Devices and Systems 3 The American Physical Society March Meeting 2012 3 New Diamond and Nano Carbons Coference 2012 3 The 7th International Conference on Physics and Applications of Spin-related Phenomena in Semiconductors 3 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 国際会議招待講演一覧(2012 年) I. 機能物質科学関連 (1) Y. Kashimura, K. Furukawa, and K. Torimitsu, "Control of molecule transport utilizing lipid bilayer selfspreading on micro/nano-patterned surface", The 6th International Symposium on Medical, Bio- and NanoElectronics, Sendai, Japan (Mar. 2012). (2) K. Hirama, M. Kasu, and Y. Taniyasu, "Nitride/diamond heterostructure: growth and device application", New Diamond and Nano Carbons Conference (NDNC 2012), San Juan, Puerto Rico (May 2012). (3) N. Kasai, A. Shimada, S. Tsukada, A. Tanaka, Y. Kashimura, K. Sumitomo, and K. Torimitsu, "Micro/ nano-fabrication for biological interface", The 7th International Symposium on Organic Molecular Electronics (ISOME2012), Musashino, Japan (June 2012). (4) A. D. Malay, J. G. Heddle, S. Tomita, K. Iwasaki, N. Miyazaki, K. Sumitomo, H. Yanagi, I. Yamashita, and Y. Uraoka, "A gold nanoparticle-catalysed artificial protein capsid", The 6th International Conference on Gold Science Technology and its Applications (GOLD2012), Tokyo, Japan (Sep. 2012). (5) Y. Kobayashi, K. Kumakura, T. Akasaka, H. Yamamoto, and T. Makimoto, "Layered boron nitride as a release layer for mechanical transfer of GaN-based devices", Crystal & Graphene Science Symposium, Boston, U.S.A. (Sep. 2012). (6) H. Hibino, S. Tanabe, and H. Kageshima, "Carrier transport in epitaxial and quasi-freestanding graphene on SiC", International Union of Materials Research Societies-International Conference on Electronic Materials (IUMRS-ICEM2012), Yokohama, Japan (Sep. 2012). (7) T. Akasaka, H. Goto, Y. Kobayashi, and H. Yamamoto, "Extremely narrow photoluminescence line from ultrathin InN single quantum well on step-free GaN surface", International Workshop on Nitride semiconductors, Sapporo, Japan (Oct. 2012). (8) Y. Kobayashi, K. Kumakura, T. Akasaka, H. Yamamoto, and T. Makimoto, "Layered boron nitride as a release layer for mechanical transfer of GaN-based devices", International Workshop on Nitride semiconductors, Sapporo, Japan (Oct. 2012). (9) T. Akasaka, Y. Kobayashi, C. H. Lin, and H. Yamamoto, "Study of nucleus and spiral growth mechanisms of GaN using selective-area MOVPE on GaN bulk substrate", Intensive Discussion on Growth of Nitride Semiconductors, Sendai, Japan (Oct. 2012). (10) Y. Ueno, K. Furukawa, K. Matsuo, K. Hayashi, S. Inoue, H. Hibino, and E. Tamechika, "Aptamer Modified Graphene Oxide Installed in a Microchannel Device: A New Lab-on-a-chip Protein Detection System", 6th International Symposium on Nanomedicine (ISNM2012), Matsue, Japan (Nov. 2012). (11) K. Furukawa and H. Hibino, "AFM Study of Collision of Self-spreading Lipid Bilayers within Micro Pattern", 20th International Colloquium on Scanning Probe Microscopy, Naha, Japan (Dec. 2012). NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 57 II. 量子電子物性関連 (1) S. Saito, X. Zhu, Y. Matsuzaki, W. J. Munro, M. S. Everitt, T. Shimooka, N. Mizuochi, K. Nemoto, and K. Semba, "Coherent coupling between a superconducting flux qubit and a spin ensemble", Pathbreaking Phase Sciences in Superconductivity 2012 (PPSS2012), Osaka, Japan (Jan. 2012). (2) K. Nishiguchi, "Nanoscale electronic devices with low power consumption and high functionality", The Japan-France Frontiers of Engineering Symposium 2012 (JFFoE2012), Kyoto, Japan (Feb. 2012). (3) X. Zhu, S. Saito, A. Kemp, K. Kakuyanagi, S. Karimoto, H. Nakano, W. J. Munro, Y. Tokura, M. S. Everitt, K. Nemoto, M. Kasu, N. Mizuochi, and K. Semba, "Coherent coupling of a superconducting flux qubit to an electron spin ensemble in diamond", Quantum Information and Measurement (QIM2012), Berlin, Germany (Mar. 2012). (4) L. Tiemann, G. Gamez, N. Kumada, and K. Muraki, "NMR Investigation of the v = 5/2 Fractional Quantum Hall State", International conference on topological quantum phenomena 2012 (TQP2012), Nagoya, Japan (May 2012). (5) H. Yamaguchi, I. Mahboob, and H. Okamoto, "Piezoelectric parametric resonators", NEMS-Barcelona, Barcelona, Spain (May 2012). (6) A. Fujiwara, G. Yamahata, K. Nishiguchi, G. P. Lansbergen, and Y. Ono, "Silicon Single-Electron Transfer Devices: Ultimate Control of Electric Charge", Silicon Nanoelectronics Workshop (SNW2012), Hawaii, U.S.A. (July 2012). (7) L. Tiemann, G. Gamez, N. Kumada, and K. Muraki, "Nuclear magnetic resonance studies of the electron spin polarisation in the N = 0 and N = 1 Landau levels", The 20th International Conference on High Magnetic Fields in Semiconductor Physics (HMF20), Chamonix Mont-Blanc, France (July 2012). (8) H. Yamaguchi, I. Mahboob, and H. Okamoto, "Parametric mode-coupling and its application to signal processing in GaAs/AlGaAs electromechanical resonators", 31st International Conference on the Physics of Semiconductors (ICPS2012), Zurich, Switzerland (July 2012). (9) S. Saito, X. Zhu, Y. Matsuzaki, W. J. Munro, K. Kakuyanagi, T. Shimooka, N. Mizuochi, K. Nemoto, and K. Semba, "Coherent operations in a superconductor-diamond hybrid system", 19th Central European Workshop on Quantum Optics (CEWQO2012), Sinaia, Romania (July 2012). (10) H. Yamaguchi, I. Mahboob, H. Okamoto, and K. Onomitsu, "Semiconductor Heterostructures for Novel Electromechanical Devices", Materials Science Week 2012 (MSW2012), Sendai, Japan (Nov. 2012). 58 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) III. 量子光物性関連 (1) Y. Tokura, "Coherent control and detection of spin qubits in semiconductor with magnetic field engineering", APS March Meeting, Boston, U.S.A. (Feb. 2012). (2) W. J. Munro and K. Nemoto, "Inferring superposition and entanglement in evolving systems", The 2nd Institute of Mathematical Statistics Asia Pacific Rim Meeting, Tsukuba, Japan (July 2012). (3) M. Yamashita and K. Inaba, "Diverse quantum phases of Bose-Fermi mixtures trapped in an optical lattice", The 21st International Laser Physics Workshop (LPHYS'12), Calgary, Canada (July 2012). (4) K. Oguri, H. Nakano, Y. Okano, T. Nishikawa, K. Kato, A. Ishizawa, T. Tsunoi, H. Gotoh, K. Tateno, and T. Sogawa, "Ultrafast diagnostics of photo-excited processes in solid using femtosecond laser-based soft X-ray pulse sources", 8th International Conference on Photo-Excited Processes and Applications (ICPEPA-8), Rochester NY, U.S.A. (Aug. 2012). (5) W. J. Munro and K. Nemoto, "Weak force detection using superposed coherent states", International Workshop on Entangled Coherent State and Its Application to Quantum Information Science - Towards Macroscopic Quantum Communication, Tamagawa University, Tokyo, Japan (Nov. 2012). (6) K. Azuma, "Entanglement shared via coherent-state transmission", Quantum Science Symposium 2012, Cambridge, U.K. (Nov. 2012). (7) T. Mukai, "Superconducting Atom Chip in NTT", The 2nd Atom Chip Workshop in Pangkil, Indonesia (Dec. 2012). (8) H. Shibata, "Fabrication of Superconducting Strip Photon Detector using MgB2", International Workshop on Superconducting Sensors and Detectors (IWSSD2012), Daejeon, Korea (Dec. 2012). (9) W. J. Munro, S. Saito, X. Zhu, R. Amsuss, Y. Matsuzaki, K. Kakuyanagi, T. Shimooka, N. Mizuochi, K. Nemoto, and K. Semba, "Realizing Quantum Memories for Superconducting Qubits: Storage and Retrieval of Entangled Quantum States", EQUS Annual Workshop, Wollongong, Australia (Dec. 2012). NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 59 IV. ナノフォトニクス関連 (1) M. Notomi, K. Nozaki, S. Matsuo, A. Shinya, T. Sato, and H. Taniyama, "fJ/bit integrated nanophotonics towards dense photonic network on chip", SPIE Photonics West 2012, San Francisco, U.S.A. (Jan. 2012). (2) S. Matsuo, "High-speed directly modulated buried heterostructure photonic crystal lasers", Photonic West 2012, San Francisco, U.S.A. (Jan. 2012). (3) M. Notomi, K. Nozaki, S. Matsuo, A. Shinya, T. Sato, and H. Taniyama, "fJ/bit integrated nanophotonics for photonic network on chip", The Fourth International Conference on Metamaterials, Photonic Crystals, and Plasmonics (META'12), Paris, France (Apr. 2012). (4) M. Notomi, K. Nozaki, S. Matsuo, A. Shinya, E. Kuramochi, T. Sato, H. Taniyama, and C-H. Chen, "Nonlinear Optical Functions of Photonic Crystals for Ultralow-power Photonic Processing", CLEO: 2012, San Jose, U.S.A. (May 2012). (5) M. Notomi, K. Nozaki, S. Matsuo, A. Shinya, J. Kim, K. Takeda, E. Kuramochi, T. Sato, and H. Taniyama, "Nanophotonic Devices Based on Photonic Crystal", International Conference on Photonic and Electromagnetic Structures (PECS-X), Santa Fe, U.S.A. (June 2012). (6) A. Yokoo, T. Tanabe, E Kuramochi, and M. Notomi, "Fabrication of photonic crystal cavity by using a nanoprobe", The 7th International Symposium on Organic Molecular Electronics, Tokyo, Japan (June 2012). (7) K. Nozaki, A. Shinya, S. Matsuo, T. Sato, Y. Suzaki, T. Segawa, R. Takahashi, and M. Notomi, "Integrable ultralow-power nanophotonic devices on InP photonic crystals", OSA Integrated Photonics Research, Silicon and Nano-Photonics (IPR2012), Colorado Springs, U.S.A. (June 2012). (8) T. Tsuchizawa, H. Nishi, R. Kou, H. Fukuda, H. Shinojima, Y. Ishikawa, K. Wada, and K Yamada, "Silicon-silica Monolithic Photonic Integration for Telecommunications Applications", Integrated Photonics Research, Silicon and Nano Photonics (IPR2012), Colorado, U.S.A. (June 2012). (9) M. Notomi, K. Nozaki, S. Matsuo, A. Shinya, E. Kuramochi, T. Sato, J. Kim, K. Takeda, and H. Taniyama, "Ultralow-power integrated nanophotonics for future chips", The 17th Opto Electronics and Communications Conference (OECC2012), Busan, Korea (July 2012). (10) K. Yamada, T. Tsuchizawa, H. Nishi, R. Kou, H. Shinojima, H. Fukuda, T. Hiraki, Y. Ishikawa, and K. Wada, "Silicon Photonics for Telecommunications", The 17th Opto Electronics and Communications Conference (OECC2012), Busan, Korea (July 2012). (11) M. Notomi, K. Nozaki, S. Matsuo, A. Shinya, E. Kuramochi, T. Sato, K. Takeda, J. Kim, H. Taniyama, "Ultralow-power nanophotonic devices based on buried-heterostructure photonic-crystal nanocavities", 24th International Conference on Indium Phosphide and Related Materials (IPRM2012), Santa Barbara, U.S.A. (Aug. 2012). (12) M. Notomi, K. Nozaki, S. Matsuo, A. Shinya, E. Kuramochi, T. Sato, A. Yokoo, J. Kim, K. Takeda, and H. Taniyama, "fJ/bit Integrated Nanophotonics based on Photonic Crystals", International Conference on Electonic Materials-International Union of Material Researh Societies (IUMRS-ICEM2012), Yokohama, Japan (Sep. 2012). (13) K. Nozaki, A. Shinya, S. Matsuo, T. Sato, K. Takeda, C-H. Chen, Y. Suzaki, T. Segawa, R. Takahashi, and M. Notomi, "Integrable All-Optical Random-Access Memories on InP-based Photonic Crystal Platform", IEEE Photonics Conference (IPC2012), Burlingame, U.S.A. (Sep. 2012). 60 NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) (14) K. Yamada, T. Tsuchizawa, H. Nishi, R. Kou, T. Hiraki, H. Fukuda, Y. Ishikawa, and K. Wada, "Silicon/ Ge/Silica Monolithic Photonic Integration for Telecommunications Applications", 2012 International Conference on Solid State Devices and Materials (SSDM2012), Kyoto, Japan (Sep. 2012). (15) S. Matsuo, "Ultra-low operating energy lasers and switches for optical interconnection", Photonic in Switching 2012, Ajaccio-Corsica, France (Sep. 2012). (16) S. Matsuo, K. Takeda, T. Sato, M. Notomi, A. Shinya, K. Nozaki, H. Taniyama, K. Hasebe, and T. Kakitsuka, "Electrically-pumped Photonic Crystal Lasers for Optical Communications", The 38th European Conference on Optical Communications (ECOC2012), Amsterdam, The Netherlands (Sep. 2012). (17) S. Matsuo, "Electrically driven photonic crystal nanocavity laser", IEEE 23rd International Semiconductor Laser Conference (ISLC2012), San Diego, U.S.A. (Oct. 2012). (18) K. Yamada, T. Tsuchizawa, H. Nishi, R. Kou, H. Fukuda, T. Hiraki, Y. Ishikawa, and K. Wada, "Si/Ge/Silica Monolithic Photonic Integration Platform for Telecommunications Applications", Asia Communications and Photonics Conference 2012 (ACP2012), Guangzhou, China (Nov. 2012). (19) S. Matsuo, "Electrically Driven Photonic Crystal Lasers for On-Chip Interconnect", The 2nd International Symposium on Photonics and Electronics Convergence (ISPEC2012), Tokyo, Japan (Dec. 2012). NTT 物性科学基礎研究所の研究活動 Vol. 23 ( 2012 年度 ) 61