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貧酸素水塊が底棲生物に及ぼす影響評価手法と底層DO目標の
B-1003-i 課 題名 B-1003 貧 酸 素 水塊 が底棲 生 物に及ぼす影 響 評 価 手 法と底 層 DO目 標の達 成 度評 価 手 法の開 発に関 する研 究 課 題代 表 者 名 堀 口 敏宏 (独 立 行政 法 人 国 立環 境 研 究 所 環境 リスク研 究 センター生 態 系影 響 評 価 研 究 室室 長 ) 研 究実 施 期 間 平 成22~24年 度 累 計予 算 額 63,815千 円 (うち24年 度19,452千 円 ) 予 算額 は、間 接経 費を含 む。 本 研究 のキー 海 洋保 全、水 管 理、流 域 圏、海洋 生 態、水 圏 現 象 ワード(5~10個 以 下程 度 ) 研 究体 制 (1)DO目 標 値 設 定のための初 期 生 活 史標 準 試 験 法 の確 立に関 する研 究 ((独)国 立 環 境研 究 所、大 阪 市 立 大 学、愛知 県 水 産 試 験場 ) (2)貧 酸素 水 塊が初 期 生活 史 段 階の内 湾 代表 種に及ぼす影 響 の解 析 と評 価に関する研 究( 愛 知県 水 産 試 験 場、(独 )国 立 環 境 研 究所 、) (3)底 層DO目 標の達 成度 評 価 手 法の開 発に関 する研 究(大 学共 同 利 用 機 関法 人 情 報・システム研 究 機 構 統 計 数理 研 究 所、(独 )国立 環 境 研 究所 、横浜 薬 科 大 学、広 島大 学 、放 送 大 学) 研 究協 力 機 関 埼 玉県 環 境 科 学 国際 センター 研究概要 1.はじめに(研 究背 景 等 ) 閉 鎖性 海 域 の 水 環境 改 善 の ため 既 に 30年 間 に わ た って 水 質 総 量 規制 制 度 が 導入 さ れ て いる が 、 東 京 湾 、伊 勢 湾 、 瀬 戸内 海 な ど の総 量 規 制 制度 を 導 入 して い る 海 域 の環 境 基 準 達成 率 は 低 い状 態 が 続 いて い る。 一 方 、 現 行の 環 境 基 準で あ る COD、T-N及 びT-Pは 、 汚 濁 負 荷量 の 抑 制 によ り 制 御 可 能と 考 え ら れ てい る 指 標 で ある が 、 生 物生 息 環 境 を直 接 的 に 表現 す る 指 標 とは 言 い 難 く、 ま た 、 目標 と す べ き海 域 の状 態 と な る 指標 ( 状 態 指標 ) と 目 標を 達 成 す るた め に 制 御 すべ き 指 標 (制 御 指 標 )と を 分 け て検 討 する 必 要 が あ る。 こ う し て、 生 物 生 息環 境 を 表 現す る 状 態 指 標の 候 補 と して 、 広 く 水棲 生 物 ( 特に 底 棲生 物 )の 生 息 に 影 響を 与 え る 主要 な 要 素 の 一 つで あ る 底 層 の溶 存 酸 素 量( 底 層 DO)、 及 び 水 棲植 物 の生 育 な ど 浅 海域 に お け る良 好 な 環 境条 件 を 示 し景 観 的 な 要 素も 併 せ て 示す 透 明 度 につ い て の 目標 設 定を 含 む 「 閉 鎖性 海 域 中 長期 ビ ジ ョ ン」 が 平 成 22年 ( 2010年 )3月 1日に 策 定 さ れ た。し かし な がら 、 魚 介類 の 成 体 の DO耐 性( 魚 介類 の 生 息 域 確保 )や 、幼稚 仔 の DO耐性 や 成 体 の産 卵 行 動 へ の DO影 響( 再 生 産の 場 の 確 保 )等に 関 す る 情報 が 不 足 し てい る こと か ら 、底 層 DO目 標 値 の妥 当 性 に 関 して 十 分 とは 言 えな い 。DO目 標 設 定に 適 し た 標 準的 な 実 験 方 法 が提 案 さ れ て いな い と い う問 題 も あ る。さ ら に 、COD やT-N、T-Pと 異 な り 、DO目 標 は 75% 値 や 平均 値 で の評 価 に 適 さ ない た め 、連続 測 定 が 不 可能 な 場 合に そ の達 成 度 を 評 価す る 手 法 が確 立 さ れ てい な い 。 これ ら の 問 題 解決 に 向 け 、 平 成 22年度 か ら 24年 度ま で 3年 間 、 本 研究 「 貧 酸 素 水塊 が 底 棲 生物 に 及 ぼ す 影響 評 価 手 法 と底 層 DO目標 の 達 成 度評 価 手 法 の 開 発 に関 す る 研 究 」を 実 施 し た。 2.研 究 開 発 目 的 底層 DO濃 度の 低 下 や 欠乏 に よ る 魚 介類 等 の 海 産 生物 へ の 悪 影 響を 軽 減 し 、良 好 な 海 域環 境 の 回 復に 資 する べ く 、 特 に環 境 の 影 響を 受 け や すい 生 活 史 初期 の 魚 介 類 に着 目 し 、 室内 実 験 、 現場 調 査 ( 具体 B-1003-ii 的 には 東 京 湾 と 三河 湾 を 対 象 )並 び に 統 計 学的 手 法を 駆 使 し て 、底層 DO目 標値 の 導 出 の ため の 標 準的 試 験法 を 確 立 す ると と も に 、科学 的 根 拠 に 裏付 け られ た 底 層 DO目 標 値 の 導出 を 図 り 、そ の目 標 値 を適 用 する た め の 水 域区 分 を 提 案し 、 併 せ てそ の 達 成 度評 価 の た め の手 法 の 確 立を 図 る こ とを 本 研 究 の目 標 とす る 。 ( 1) DO目 標 値設 定 の た めの 初 期 生 活史 標 準 試 験 法の 確 立 に 関 する 研 究 浮 遊期 ~ 着 底 初 期個 体 群 へ の影 響 ( 初 期生 活 史 試 験) に 関 す る 実験 プ ロ ト コル を 完 成 させ 、 内 湾 代 表 種( マ コ ガ レ イ、 ア サ リ )の 実 験 デ ータ 等 か ら シミ ュ レ ー シ ョン 用 パ ラ メー タ を 推 定す る こ と 。ま た 、海 産 生 物 幼 生の 忌 避 行 動あ る い は 鉛直 運 動 へ の貧 酸 素 の 影 響も 調 べ る こと 。 ( 2) 貧 酸 素 水 塊が 初 期 生 活史 段 階 の 内湾 代 表 種 に及 ぼ す 影 響 の解 析 と 評 価に 関 す る 研究 サ ブテ ー マ (1)の当 該 デ ー タ等 を 用 い て、 貧 酸 素 水 塊が マ コ ガ レ イと ア サ リ の初 期 生 活 史に 及 ぼ す 影 響 をシ ミ ュ レ ー ショ ン し 、 その 加 入 量 の減 少 に 対 する 貧 酸 素 水 塊に よ る 影 響の 寄 与 の 定量 評 価 を 行う こ と。 さ ら に 、 底層 DO目 標値 の 適 用 のた め の 水 域 区分 を 検 討 す るこ と 。 ( 3) 底 層 DO目標 の 達 成 度評 価 手 法 の開 発 に 関 す る研 究 新 たな 底 層 DO目標 達 成 の 判定 手 法 の 開発 や 新 た な モニ タ リ ン グ 並び に 計 算 手法 を 導 入 した 環 境 基 準 達成 の 判 定 手 法の 開 発 を 完成 さ せ、サ ブ テ ー マ (2)に よ る 水 域 区分 に 新 た な底 層 DO目 標達 成 度 判 定 手 法 を適 用 ・ 評 価 し、 本 手 法 の確 立 を 図 るこ と 。 3.研 究 開 発の方 法 (1)DO目標 値 設 定のための初 期 生活 史 標 準 試 験 法の確 立 に関する研 究 1 )ア サ リ 幼 生 の供 給 初期生活史段階の貧酸素影響評価を試験する材料としてアサリ幼生及び着底初期稚貝の生産を 行 った 。 2 )流 水 式 装 置 を用 い た ア サリ 幼 生 及 び稚 貝 、 マ コガ レ イ 稚 魚 の貧 酸 素 耐 性試 験 上 述の 種 苗 生 産 によ り 供 給 され た ベ リ ジャ ー 幼 生 (D 型 幼 生 、 アン ボ 期 幼 生、 フ ル グ ロウ ン 期 幼 生 )及 び 着 底 初 期稚 貝 を 用 いて 水 温 約 20℃ あ る い は25℃ で 流水 式 の 貧 酸素 耐 性 試 験 を行 っ た 。 貧 酸 素 耐性 試 験 は 、2つ の 200Lポ リ プロ ピ レ ン 製タ ン ク 内の 精 密 ろ 過 海水 に 空 気 と窒 素 を 別 々に 曝 気 し た 海 水( そ れ ぞ れ 、 DO 100%海 水 及び DO 0%海 水 と いう ) を 定 量 送液 ポ ン プ で混 合 し て 掛け 流 す 流 水 式 連続 曝 露 と し た 。試 験 水 槽( 5Lプ ラ ス チッ ク 容 器 )は 気 密 性 を 高 めつ つ 換 水 率を 高 め て 使 用し た 。 そ の結 果 、低 DO実 験 区( 1 mg/L以 下 の 貧 酸素 実 験 区)を 安 定 し て再 現 す る こと が で き た。試 験 区 は 6区と し 、試 験 海 水 の 通水 量( 流速 )は約 30L/ 区 / 日と し た 。試 験 期 間 は、原 則 とし て 96時間 と し 、 24時 間 毎 に 取り 上 げ て 実体 顕 微 鏡 観 察 に よ り 生 死 を判 定 し た 。 マコ ガ レ イ 稚魚 に つ い ても 同 様 に 試 験 を行 っ た 。 3 )水 柱 実 験 に よる ア サ リ 幼生 貧 酸 素 応答 試 験 80cmの ガ ラス シ リ ン ダー 内 に 高 塩 分・ 低 DOの海 水 と低 塩 分 ・ 高 DO海 水 を 混合 し な が らシ リ ン ダ ー 底部 よ り 静 か に注 入 す る こと に よ り 塩分・ DO躍 層を 作 成 し た 。シリ ン ダ ー 上部 か ら 各 発育 段 階 の ア サリ 浮 遊 幼 生 を投 入 し 、約 24時 間後 に 13層 に 分 けて 回 収 し 、直 ち に DO・水 温・塩 分 を 測 定し 、後 日 アサ リ 浮 遊 幼 生を 計 数 し た。 ま た 、 底部 に 沈 降 した 幼 生 は 回 収後 直 ち に 生死 別 に 計 数し た 。 4 )海 洋 生 物 幼 体の 貧 酸 素 応答 試 験 甲 殻類 幼 生 な ど 海洋 生 物 の 生活 史 初 期 段階 の 個 体 が貧 酸 素 水 に 遭遇 し た 際 の応 答 を 調 べる た め の 室 内実 験 系 の 開 発と 貧 酸 素 忌避 行 動 を 明ら か に す るこ と を 目 的 とし た 。 鉛 直的 な 塩 分 勾配 を 有 す る ガ ラス 円 筒 管 (対 照 区 :海 水 容 積 約 1.6 L)と 、 塩 分 に加 え て 酸 素 濃度 に も 鉛 直的 な 勾 配 を持 つ ガ ラ ス 円 筒管 ( 試 験 区 :同 上 ) を 作製 し 、 ア サリ ・ ヨ シ エビ ・ サ ザ エ の生 活 史 初 期段 階 の 個 体群 の 貧 酸 素 忌 避や 耐 性 行 動 を 調 べ た 。 幼生 等 の 貧 酸素 忌 避 ま たは 耐 性 行 動 の有 無 を χ 2 検 定 法 によ り 検 討 し た 。 (2)貧 酸 素水 塊 が初 期 生 活 史 段 階の内 湾代 表 種に及 ぼす影 響の解析 と評 価に関 する研 究 1 )東 京 湾 の マ コガ レ イ に 対す る フ ィ ール ド 調 査 と解 析 マ コガ レ イ 仔 魚 は 2011年 1~ 3月 に 内 湾 域の 10定 点 にお い て マ ル 稚ネ ッ ト の 傾斜 曳 網 に より 採 集 し た 。稚 魚 は 内 湾 域の 25定点 に お い て 2010年 3~ 10月に ソ リ ネ ット 及 び 桁 網 によ り 採 集 した 。 仔 稚 魚 の 調 査定 点 で は CTD/DOロ ガー に よ る 水 温と DO濃 度 の観 測 も 行 っ た。成 魚 の再 生 産 特 性( 生 殖 腺 体 指 数 [GSI]の経 月 変 化 、組織 学 的 観 察に よ る 生 殖 腺の 発 達と 退 行 、生 殖周 期 )と 、横浜 市 漁 業 協同 組 合 柴 支 所 のマ コ ガ レ イ 漁獲 統 計 資 料 を 用 い て 産卵 量 指 数 を推 定 し た。2006年 ~ 2010年 の調 査 結 果 も 合 わ せて 、 産 卵量 指 数 、仔 魚 密度 及 び 稚 魚密 度 の 量 的 関係 と 環境 因 子 と の 関係 を 調 べ 、仔稚 魚 の 空 間 分布 の 時系 列 変化 か ら 貧 酸 素水 塊 が 及 ぼす 影 響 を 解析 し た 。 B-1003-iii 2 )三 河 湾 の ア サリ に 対 す るフ ィ ー ル ド調 査 と 解 析 ア サリ 浮 遊 幼 生 は三 河 湾 東 部渥 美 湾 に 設定 し た 1~ 4定 点 に お いて 水 中 ポ ン プを 用 い 、 表層 か ら 海 底 直 上ま で 2~ 3m間隔 で 200Lの 海 水を 汲 み 上 げ 50μmの ネ ット で ろ 過 し採 集 し た。調 査 は平 成 22~ 24年 ( 2010~2012年 ) の 3年間 、 5月 ~11月 、原 則 月 2回( 平 成 22年 ( 2010年 ) は6~ 10月 、 月 1回) 行 っ た。ま た、同 時 に多 項 目 水 質計 で 深 度、水 温、塩 分、ク ロ ロフ ィ ル aおよ び 溶 存 酸素 を モ ニ タ ーし た 。 得 られ た プ ラ ン クト ン 試 料 は濃 縮・ 凍 結 保 存し 後 日蛍 光 抗 体 法 によ り ア サ リ浮 遊 幼 生 を同 定 、成 長段 階 毎( D型 期 、ア ン ボ 期 およ び フ ル グ ロウ ン 期 ) に 計数 し た 。 貧 酸素 水 塊 が 発 達す る 前 の 6月 と 底 層 に貧 酸 素 水 塊 が存 在 し た 7、9月に 1定 点 で4時 間 毎 に6回、上 記 の 方法 で ポ ン プ 採集 を 行 い 、アサ リ 浮 遊 幼 生の 日 周鉛 直 移 動 を 調査 し た 。ま た 、平成 24年 の6,7月調 査 時に 海 水 中 か ら沈 降 し て くる 浮 遊 幼 生を 捕 集 す る目 的 で 調 査 期間 中 海 底 上に セ ジ メ ント ト ラ ッ プ を 設置 し た 。 3 )数 値 モ デ ル によ る 解 析 東 京湾 に お け る マコ ガ レ イ 仔稚 魚 及 び 三河 湾 に お ける ア サ リ 浮 遊幼 生 に 対 する 貧 酸 素 水塊 の 影 響 を 数値 モ デ ル に より 調 べ た 。東 京湾 と 三 河 湾 の 流 動及 び 酸 素 環 境を 再 現 す るシ ミ ュ レ ーシ ョ ン を 行 い 、 マ コガ レ イ 仔 稚 魚の 漂 流 過 程及 び 酸 素 環境 に 対 す る応 答 と 、ア サ リ 浮遊 幼 生 の 漂流 過 程 及 び 酸 素 環境 に 対す る 応 答 を 、 そ れ ぞれ 、 モデ ル 化 し た。 ア サ リに 関 し て は、 忌 避 応答 な ど 水 柱実 験 で 得 ら れ た低 酸 素環 境 に 対 す る応 答 を 組 み込 み 、 ア サリ 浮 遊 幼 生漂 流 モ デ ル を改 良 し た 。 4 )ア サ リ に 対 する DO環 境基 準 値 ( 試案 ) の 導 出 2010年 3月 に 示 さ れた 閉 鎖 性 海域 中 長 期 ビ ジョ ン に 沿っ て 、ア サ リ に対 す る DO環境 基 準 値 の導 出 に 向 けた 考 え 方 を 整理 し 、 生 息域 の 確 保 のた め の 底 層 DO目 標 値 と再 生 産 の 場の 確 保 の ため の 底 層 DO目 標 値を 試 算 し た 。 (3)底 層 DO目 標の達 成 度 評 価 手法 の開発に関 する研 究 3名の 分 担 者(金 藤 、岩 瀬、岡 田 )は 、 各 所 属機 関 にお い て 研 究 課題 を 分 担 し、個 別 の 課題 に 関 す る 統計 的 理 論 構 築の 研 究 を 遂行 し た 。 また 、 分 担 課題 の 進 展 具 合を 、 年 数 回開 催 し た 研究 会 に お い て 確認 し 、 相 互 にそ の 方 法 論を 検 討 し た。 ま た 、 3名 の PD( 奥 田 (2010, 2011) 、 赤 石 ( 2011) 、 神 山( 2012) ) は 、研 究 分 担 者 が構 築 し た 理論 に 対し て シ ミ ュ レー シ ョ ン 等の 作 業 を 担当 し た 。 4.結 果 及 び考 察 (1)DO目標 値 設 定のための初 期 生活 史 標 準 試 験 法の確 立 に関する研 究 1 )ア サ リ 幼 生 の供 給 D 状 期 、 アン ボ 期 、 フ ルグ ロ ウ ン 期の 浮 遊 生 活 史 段階 及 び 着 底 初期 稚 貝 を 試験 に 供 し た。 2 )流 水 式 装 置 を用 い た ア サリ 幼 生 及 び稚 貝 、 マ コガ レ イ 稚 魚 の貧 酸 素 耐 性試 験 ア サリ の ベ リ ジ ャー 幼 生( D型幼 生 、ア ン ボ 期幼 生 、フ ルグ ロ ウ ン 期幼 生 )及 び 着 底初 期 稚 貝 、ま た 、マ コ ガ レ イ 着底 稚 魚 の 貧酸 素 水 に 対す る 斃 死 率曲 線 を 得 る とと も に 、 24時 間 ~96時 間 の半 数 致 死 濃度 ( LC 5 0 ) を算 出 し た 。 ま た 、 5%致 死 濃 度 ( LC 5 )の 推 定 を 試 みた 。 3 )水 柱 実 験 に よる ア サ リ 幼生 貧 酸 素 応答 試 験 DOが 十 分 に あ る対 照 区 で は浮 遊 し て いる 幼 生 の 割 合が 高 く 、DOが 少な い 実 験 区 ほど シ リ ン ダー の 底 に沈 降 し た 幼 生( 非 遊泳 個 体) が 多 く みら れ 、沈 降 中 に占 め る 斃 死 率も 高 く な った 。 DOが 幼 生 に 与 える 行 動 影 響 から す る と 、底 層 DOは3mg/L以 上 が望 ま し い こ とが 明 ら か とな っ た 。 4 )海 洋 生 物 幼 体の 貧 酸 素 応答 試 験 ア ンボ 期 の ア サ リ幼 生 は DOが 2.7-2.6 mg/L以 下 の 貧酸 素 水 に お いて 忌 避 行 動を 取 る こ とが わ か っ た 。ま た 、 ヨ シ エビ 幼 生 に つい て は 、 ミシ ス 期 が 2.6-2.1 mg/L以 下 、 ポ ス トラ ー バ (P) 4期 が2.7-2.1 mg/L以 下、P15期に な る と 1.7-1.2 mg/L以下 の 貧 酸 素水 に 対 し て それ ぞ れ 忌 避行 動( P<0.05)を示 し 、 着 底生 活 が 長 く なる に し た がっ て 忌 避 行動 の 閾 値 が低 下 す る こ とが 示 唆 さ れた 。 サ ザ エ稚 貝 に つ い て は、 2.4-2.3 mg/Lを 下 回 ると 水 底 に 留ま り 、 貧 酸 素に 対 す る 対 応行 動 を 示 すこ と が わ かっ た 。 (2)貧 酸 素水 塊 が初 期 生 活 史 段 階の内 湾代 表 種に及 ぼす影 響の解析 と評 価に関 する研 究 1 )東 京 湾 の マ コガ レ イ に 対す る フ ィ ール ド 調 査 と解 析 産 卵量 指 数 、仔 魚密 度 及 び 稚 魚密 度 の 量 的関 係 に つ いて 、仔 魚 密 度と 稚 魚 密 度 は概 ね 相 関 した が 、 産 卵量 指 数 と 仔 魚密 度 と の 間に は 相 関 が認 め ら れ なか っ た 。 こ れよ り 、 孵 化か ら 仔 魚 期の 間 に 生 残 率 に関 与 す る 因 子が 存 在 す ると 示 唆 さ れた 。 一 方 、フ ィ ー ル ド 調査 と 室 内 実験 の 結 果 から 、 マ コ ガ レ イ仔 魚 は 冬 季 の水 温 に よ り、 ま た 、 着底 後 の 稚 魚は 夏 季 の 貧 酸素 水 塊 に より 、 そ れ ぞれ 、 減 耗 す B-1003-iv る とみ ら れ た 。 2 )三 河 湾 の ア サリ に 対 す るフ ィ ー ル ド調 査 と 解 析 水 柱平 均 の 季 節 的な 出 現 傾 向は 貧 酸 素 水塊 の 発 達 直前 の 5~ 6月 お よ び 貧酸 素 水 塊 が 解消 し た 10月 に 大き な ピ ー ク がみ ら れ た。ま た、7月 に も小 さ な ピー ク が 出 現 した が こ の 時の 出 現 数 は三 河 湾 の 貧 酸 素水 塊 の 発 達 と反 比 例 し てい た 。 鉛 直分 布 の 傾 向は 、 貧 酸 素 水塊 が 発 達 して い な い とき は 表 層 か ら 海底 直 上 ま で 均一 に 分 布 する か 底 層 に多 く 分 布 する パ タ ー ン がみ ら れ た が、 貧 酸 素 水塊 が 底 層 に 発 達す る と そ の 上部 ( 躍 層 上) に 分 布 が限 ら れ た 。 昼 夜観 測 か ら 、 アサ リ 浮 遊 幼生 は 貧 酸 素水 塊 が 無 い時 期 は 昼 間 底層 に 分 布 し、 夜 間 表 層に 移 動 す る パタ ー ン が 見 られ 水 柱 全 体を 移 動 し てい た 。 し かし 、 貧 酸 素 水塊 が 底 層 に存 在 す る と昼 夜 移 動 も そ の上 部 に 限 ら れ、 昼 間 表 層に 夜 間 や や分 布 深 度 が深 く な る パ ター ン を 示 した 。 ま た 、平 成 24年 度 に 行っ た セ ジ メ ント ト ラ ッ プの 結 果 で は貧 酸 素 水 塊の 層 が 薄 か った こ と も あり 、 明 確 な結 果 は 得 ら れ なか っ た 。 3 )数 値 モ デ ル によ る 解 析 東 京湾 に お け る マコ ガ レ イ 仔稚 魚 及 び 三河 湾 に お ける ア サ リ 浮 遊幼 生 を 対 象に 、そ れ ぞ れ の 貧 酸 素 水 塊の 影 響 を 調 べる 数 値 モ デル を 作 製 し 、マ コ ガ レイ 仔 稚 魚 の 産卵 か ら 着 底生 活 ま で の漂 流 シ ミ ュレ ー ショ ン と と も にア サ リ 浮 遊幼 生 の 孵 化か ら 着 底 まで の 漂 流 シ ミュ レ ー シ ョン を 実 施 し 、マ コ ガ レイ で は冬 季 の 高 水 温と 夏 季 の 貧酸 素 水 塊 によ る 減 耗 を 、アサ リ で は 浮 遊幼 生 の 漂 流や 貧 酸 素 水 塊 に よる 沈 降と 斃 死 の 影 響を 、 そ れ ぞれ 評 価 し 、そ の 概 要 をと り ま と め た。 4 )ア サ リ に 対 する DO環 境基 準 値 ( 試案 ) の 導 出 2010年 3月 に 示 さ れた 閉 鎖 性 海域 中 長 期 ビ ジ ョ ン に 沿っ て 、ア サ リ に対 す る DO環境 基 準 値 の導 出 に 向 けた 考 え 方 を 整理 す る と とも に 、生 息 域 の 確 保 の ため の 底 層 DO目 標 値 と 再生 産 の 場 の確 保 の た め の 底 層DO目 標 値 を、 そ れ ぞ れ、 2 mg/L及 び 3mg/Lと 試算 し た 。 (3)底 層 DO目 標の達 成 度 評 価 手法 の開発に関 する研 究 1 )底 層 溶 存 酸 素量 達 成 度 評価 手 法 の 構築 US EPA Guideline (2003)Ambient Water Quality Criteria for Dissolved Oxygen, Water Clarity and Chlorophyll a for the Chesapeake Bay and Its Tidal Tributaries を 読解 し 、こ こ で 提案 さ れ て い る 底 層溶 存 酸 素 量 達成 度 評 価 方法 の 一 つ であ る CFD手 法 に 関 し て精 緻 に 検 討し た 。 そ の 結果 と し て 、 CFD法 の 実 用上 の 課 題 を見 つ け 、 そ の改 良 に よ り 新た な 評 価 方 法の 提 案 を 行っ た 。 は じめ に CFD手 法 の定 義 と そ の 解釈 を 述 べ 、こ の 手 法 の実 用 上 の 課題 を 示 し 、 最後 に そ の 改良 法 を 提 示し た 。 CFD 曲 線で は 、 曲 線 の形 か ら 各 海域 の 溶 存 酸素 量 の 達 成度 評 価 を 、 視覚 的 に 行 う事 に な る 。し か し 、 こ の 様な 視 覚 的 評 価 は 誰 で も 使え る 物 で はな い 。そ こ で 、本 研 究 で 提 案し た 直 線 化さ れ た 後 の状 況 で 、 各 係数 の 推 定 値 を求 め れ ば 、そ の 値 に よっ て 定 量 的な 達 成 度 評 価が 行 え る 。こ の 点 が 今回 の 特 徴 で あ る。 2 )溶 存 酸 素 基 準値 に 対 す る離 散 測 定 回数 の 最 適 解判 定 法 の 解 析的 方 法 論 の確 立 測 定地 点 毎 の 連 続測 定 に お いて 、 DOの環 境 基 準 値 a[mg/L]に対 し て 、 常に そ の 基 準 値を 上 回 る DO の 値が 測 定 さ れ るこ と は 【 望ま し い 状 態】 で あ る 。 1回 で もDOの 値 が 基 準値 を 下 回 るこ と は 【 望 ま し くな い 状 態 】 であ る 。 【 望ま し く な い状 態 】 が 発生 す る ( 想 定さ れ る ) 測定 地 点 に 対し て 、 連 続 測 定の 一 部 分 の 測定 ( 12回 / 年 ( 1回 / 月 、 2回 / 月「 夏 季 の み 」) の 値 か ら【 望 ま し くな い 状 態 】 が 発生 し た こ と を、定 め た判 定 期 間 (1年 間、3年 間)に お い て、ど の 程度 正 確 に 検 出で き る か 超幾 何 分 布 を用 い て 解 析 的に 検 証 し た。 誤 判 定 率の 観 点 か ら各 地 点 で の 測定 回 数 を 増や せ ば , 誤判 定 率 の 改 善 は望 ま れ る が 、必 ず し も 測定 回 数 を 増や す こ と で線 形 の 効 果 が見 ら れ な い こ と を 示 した 。 そ の た め 、現 状 の 公 共 用水 域 調 査 (年 12回 )の 実 施 回 数 を全 海 域 に お いて 増 や す 直線 的 効 果 は認 め ら れ な い 。そ れ よ り も 誤判 定 率 の 観点 か ら よ り、 こ の 割 合に 改 善 を も たら す 地 点 のみ の 測 定 回数 を 増 や す こ とが 適 切 な 費 用対 効 果 の 観点 か ら 必 要で あ る 。 その 地 点 の 選 択は 、 先 に 述べ た 年 間 基準 満 足 日 数 割 合か ら 選 択 す るこ と が 可 能で あ る 。 5.本 研 究により得られた主な成 果 (1)科 学 的意 義 今 まで 実 際 の 海 域に お け る DOに 対 す る生 物 の 応 答 につ い て は 不 明な 点 が 多 く 、特 に DO耐 性 が低 い と 考え ら れ て き た生 活 史 初 期段 階 あ る いは 発 生 初 期段 階 の 個 体 に関 す る 知 見は ほ と ん ど無 か っ た 。 本 研究 の サ ブ テ ーマ (1)に よっ て 、 ① 貧酸 素 水 塊 の 影響 を 調 べ る ため の 流 水 式連 続 曝 露 試験 装 置 を 作 製 し、 試 験 プ ロ トコ ル を 提 示す る こ と がで き た 。 これ に よ り 、 急性 影 響 の ほか 、 慢 性 影響 や 他 の 有 B-1003-v 害 因子 と の 複 合 影響 を 調 べ るこ と が 、 試験 装 置 ・ 手法 の 確 立 と いう 意 味 で 可能 と な っ た。 ま た 、 ② 貧 酸素 水 塊 の 影 響を 調 べ る ため の 水 柱 実験 装 置 も 作製 し た 。 こ れに よ り 、 海産 生 物 幼 生・ 幼 体 の 忌 避 行動 等 を 調 べ る実 験 も 可 能と な っ た 。以 上 に よ り、 東 京 湾 の マコ ガ レ イ (着 底 稚 魚 )と 三 河 湾 の ア サリ ( 浮 遊 幼 生と 着 底 初 期稚 貝 ) 等 を対 象 に 実 際に 貧 酸 素 耐 性試 験 あ る いは 応 答 試 験を 行 い 、 デ ー タを 獲 得 す る こと が で き た点 が 、 第 一の 科 学 的 意義 で あ る 。 サ ブテ ー マ (2)では 、 初 期 生活 史 段 階 の個 体 を 用 い て貧 酸 素 水 塊 に対 す る 影 響を 直 接 実 験で 調 べ 、 デ ータ を 得 る こ とに よ り 、 数値 モ デ ル に反 映 さ せ るパ ラ メ ー タ 推定 の た め の方 法 論 を 確立 す る こ と が でき た と 同 時 に、 室 内 実 験結 果 及 び フィ ー ル ド 調査 ・ 観 測 結 果を 盛 り 込 んだ 数 値 モ デル を 構 築 す る こと に よ り 、 貧酸 素 水 塊 が及 ぼ す 影 響の 定 量 評 価を 行 う こ と が可 能 と な った 点 が 、 科学 的 に 意 義 深 い。 ま た 、 三 河湾 の 干 潟 生態 系 に お ける 鍵 種 で あり 、 重 要 漁 獲対 象 種 で もあ る ア サ リに つ い て 、 発 育初 期 段 階 で ある 浮 遊 幼 生の 出 現 及 び分 布 と 現 場 DOと の 関 連に 関 す る フィ ー ル ド 調査 デ ー タ が 得 られ た こ と 、 また 、 シ リ ンダ ー 実 験 (水 柱 試 験 )に よ っ て 、 この フ ィ ー ルド 調 査 デ ータ の 特 徴 を 裏 付け る よ う な 、貧 酸 素 水 塊に 遭 遇 し た時 の ア サ リ浮 遊 幼 生 の 挙動 を 明 ら かに し た こ とが 、 貧 酸 素 水 塊が 底 棲 生 物 に与 え る 影 響を 考 慮 す る上 で き わ めて 重 要 な 科 学的 成 果 で ある 。 さ らに 、 と り わ け、 ア サ リ 浮遊 幼 生 を 例に 室 内 実 験と 野 外 調 査 、及 び 数 値 モデ ル に よ るシ ミ ュ レ ー ショ ン を 組 み 合わ せ て 、 科学 合 理 性 のあ る プ ロ セス を 経 て 底 層 DOの 環 境基 準 値 ( 試案 ) を 導 出 ・ 提 示で き た こ と が、 単 に 科 学的 根 拠 を 有す る 具 体 的な 基 準 値 案 を提 示 し た こと に 留 ま らず 、 今 後 、 さ まざ ま な 種 に 対す る 底 層DOの 環 境 基準 値 案 を 科 学合 理 的 に 導 出す る た め のプ ロ セ ス を構 築 で き た とい う 意 味 で 、き わ め て 大き な 科 学 的成 果 で あ ると 同 時 に 特 筆す べ き 環 境政 策 上 の 成果 で あ る 。 サ ブテ ー マ (3)では 、US EPAで 開 発 さ れた 達 成 度 評 価法 に つ い て の解 釈 を 行 い 、ま た 、こ の 方法 の 実 用上 の 課 題 で あっ た 曲 線 間の 比 較 の 方法 と し て 曲線 の 線 形 化 によ る 数 量 的な 比 較 を 可能 と し た 点 が 、こ れ ら の 方 法を 実 用 的 に用 い る 場 合の 科 学 的 な有 効 性 で あ る。 高 々数 地 点 か ら の連 続 的 測 定デ ー タ と ある 程 度 の サン プ リ ン グ 地点 の 数 が 整備 さ れ た 離散 測 定 デ ー タか ら 、 対 象 とな る 空 間 にお い て 時 間情 報 も 取 り入 れ た 空 間 的把 握 の 統 計的 方 法 論 の確 立 は 、 理 論 的な 面 か ら 様 々な 課 題 が ある 。 し か し、 こ れ ら を本 課 題 の 研 究期 間 に 解 決す る こ と によ っ て 、 本 課 題に 特 化 し た 解法 に 止 ま らず 、 様 々 な環 境 状 態 を把 握 す る 新 たな 手 法 の 構築 へ の 一 助と な る こ と が 期待 で き る 。 (2)環 境 政策 への貢 献 <行 政が既に活 用した成 果> 環 境省 の 生 活 環 境項 目 新 規 基準 等 検 討 会海 域 ワ ー キン グ グ ル ー プ( W G)に おけ る 下 層 DOの 環 境 基 準案 の 検 討 に おい て 、本 研 究 成果 で あ る ア サリ に 対す る 環 境 基 準値( 試 案 )の 試 算 結 果を 提 示 し 、 当 該W Gの報告 書 作成 に 貢 献 した 。 <行 政が活 用 することが見 込まれる成 果> 平 成25年 度(2013年 度 )中 に 透 明度 と と も に新 た な環 境 基 準 と して 導 入 さ れる 予 定 で ある 底 層 DO ( 下層 DO) に 関し て 、 2010年3月 に 示 さ れた 「 閉 鎖性 海 域 中 長 期ビ ジ ョ ン 」に 沿 っ て 、環 境 基 準 案 が 示さ れ て い な いア サ リ に 対す る DO環境 基 準 値 導 出に 向 け た 考 え方 を 整 理 し 、生息 域 の 確 保の た め の 底層 DO目 標 値と 再 生 産 の場 の 確 保 のた め の 底 層 DO目 標 値 と して 、 そ れ ぞれ 、 2 mg/L及 び3 mg/L を 導出 し た 。 す なわ ち 、 ア サリ を 対 象 に、 科 学 的 根拠 を 有 す る 環境 基 準 値 ・目 標 値 の 試案 を 提 示 す る こと が で き た 。 ま た 、科 学合 理 性 の ある 底 層 DO環 境 基 準 値・ 目 標 値を 導 出 す る ため の 方 法 論が 構 築 さ れた 。換 言 す ると 、 室 内 実 験結 果 及 び フィ ー ル ド 調査 ・ 観 測 結果 を 盛 り 込 んだ 数 値 モ デル を 用 い ると い う 、 科 学 合理 性 の あ る 底層 DO環 境基 準 値 ・ 目標 値 の 導 出 手法 を 提 示 す るこ と が で きた 。 ま た 、海 産 生 物 幼生 あ る い は 幼体 の 貧 酸 素水 塊 に 対す る 忌 避 行 動に 着 目 し て 、 底 層 DOの保 全 目 標 値 に対 す る 基 礎 的情 報 を 提 供す る こ と がで き た 。 平 成22年( 2010年 )3月 に 策 定 され た「閉 鎖 性 海 域 中長 期 ビ ジ ョ ン」の 4.2.3に お い て「 底 層 DOの 目 標値 の 達 成 評 価法 」 の 項 目が あ る 。 この 部 分 で 議論 さ れ て い る課 題 を 解 決す る こ と が本 研 究 の 目 的 の一 つ で あ る 。本 研究 を 推 進 する こ と に よ っ て 、「 閉 鎖性 海 域 中 長期 ビ ジ ョ ン 」の 底層 DO目 標 値 の 達成 評 価 に 関 して 行 政 上 の運 用 が 可 能と な る 理 論的 根 拠 を 与 える こ と が でき た 。 ま た、 年 間 何 回 の 測定 を 行 う 必 要が あ る の かと い っ た 課題 に 関 す る一 つ の 数 理 的な 回 答 を 行っ た 。 換 言す る と 、 底 層 溶存 酸 素 量 の 基準 満 足 判 定に お い て 、こ れ ま で 年何 回 測 定 す れば 合 理 的 であ る か と いっ た 課 題 に 対 して 、 測 定 回 数と 測 定 回 数毎 の 誤 判 定率 を 実 証 的お よ び 理 論 的に 提 示 す るこ と が で きた 。 B-1003-vi 6.研 究 成 果の主な発 表 状 況 (別添.作 成 要 領 参 照) (1)主な誌 上 発表 <査 読 付き論 文> 特 に記 載 す べ き 事項 は な い 。 <査 読 付論 文に準ずる成果 発 表> 特 に記 載 す べ き 事項 は な い 。 (2)主な口 頭 発表 (学 会 等) 1) 李 政 勲・ 児 玉 圭太 ・ 朴 正彩 ・ 小 宮朋 之 ・ 石井 光 廣 ・ 白 石 寛明 ・ 堀 口敏 宏 : 平成 22年 度日 本 水 産 学 会 秋季 大 会 ( 2010)「 東 京 湾 に おけ る マ コ ガレ イ 着底 稚 魚 の 摂 餌生 態 と 成 長 」 2) 池 田 健・矢 持 進:日本 土 木 学 会関 西 支 部( 2011)「 2010年 大 阪 湾に お け る 貧 酸素 と 海 洋 生物 幼 体 の 貧酸 素 応 答 に 関す る 研 究 」 3) 池 田 健 ・ 矢持 進 ・ 睦 谷 一馬 : 日 本 水産 学 会 近 畿 支部 (2011) 「 酸 素 ・ 塩分 勾 配 モ デル を 利 用 し た 海洋 生 物 幼 体 の貧 酸 素 応 答に 関 す る 検討 」 4) 山 田 智 ・蒲 原 聡 ・ 和久 光 靖 ・ 中村 雅 廣 ・ 柘 植朝 太 郎 ・ 竹 内喜 夫 ・ 中 嶋康 生 ・ 岩 田靖 宏 : 平 成 23年 度 ア サ リ勉 強 会 ( 2011)「 三 河 湾 東部 ( 渥 美 湾) に お け る アサ リ 浮 遊 幼生 の 鉛 直 分布 と 貧 酸素 水 塊 」 5) K. Kanefuji, K. Iwase, M. Okada: American Statistical Association, Statistics and the Environment Section (2011) “Statistical Assessment Methods for Ambient W ater Quality Criteria for Dissolved Oxygen ” 6) 奥 田 将己・ 李 政 勲・ 児玉 圭 太・ 石 井 光廣・ 大 畑 聡・安 藤 晴 夫・ 金 藤浩 司・ 堀 口 敏宏: 2011統 計 関 連 学会 連 合 大 会 ( 2011) 「 溶 存 酸素 の 水 質 評価 基 準と し て の 利 用を 見 据 え たマ コ ガ レ イ稚 魚 生 残率 へ の 影 響 評価 」 7) 堀 口 敏宏 ・ 蒲 原聡 ・ 山 田智 ・ 和 久 光靖 ・ 岩 田 靖 宏・ 石 田 基雄 ・ 鈴 木 輝明 ・ 白 石寛 明 : 第21回 環 境 化 学討 論 会 ( 2012)「 流 水 式 曝 露試 験 装 置 によ る アサ リ 幼 生 及 び稚 貝 の 貧 酸素 耐 性 評 価 」 8) 市 川 哲也 、 田 中啓 介 、 堀口 敏 宏、 蒲 原 聡、 山 田 智、 鈴 木 輝明 : 海 洋理 工 学 会 平成 24年 度春 季 大 会 ( 2012)「 三 河 湾 にお け る ア サ リ浮 遊 幼 生 貧酸 素 影響 モ デ ル の 開発 」 9) K. Kanefuji, R. Akaishi, K. Iwase, M. Okada. : American Statistical Association, Statistics and the Environment Section (2012) “Simulation models for ambient water quality criteria for dissolved oxygen” 7.研 究 者 略 歴 課 題 代 表者 :堀 口 敏宏 東 京 水 産 大学 水 産 学 部 卒業 、東 京 大 学 大 学 院農 学 系 研 究 科博 士 課 程 修了 、博 士 (農 学)、現 在 、独 立 行政 法 人 国 立 環境 研 究 所 環境 リスク研 究 センター生 態系 影 響 評 価 研究 室 室 長 研 究 参 画者 (1):堀 口 敏 宏 (同 上 ) (2):矢 持 進 鹿 児島 大 学 水 産 学部 卒 業、農 学 博士 (東京 大 学 )、大 阪府 水 産 試 験 場主 任 研 究 員 、現在 、大阪 市 立 大 学大 学 院 工 学 研究 科 教 授 (3):蒲 原 聡 三 重大 学 水 産 部 卒業 、名 城 大 学 大学 院 総 合 学 術研 究 科 博 士 課 程 修 了、博士 (学 術 )、現在 、愛知 県 水 産試 験 場 漁 場 環境 研 究 部 主任 研 究 員 (4):石 田 基 雄 東 海大 学 海 洋 学 部卒 業、愛 知 県 水産 試 験 場 副 場長 、現 在、一 般 社団 法 人 全 国水 産 技 術 者 協会 東 海・北 陸 支部 長 (5):金 藤 浩 司 広 島大 学 大 学 院 工学 研 究 科 博士 課 程 修 了、学 術博 士、統 計数 理 研 究 所 助手 、助 教 授、 現 在、大 学 共 同利 用 機 関 法 人情 報 ・システム研 究 機 構 統計 数 理 研究 所 教 授 B-1003-vii (6):岩 瀬 晃 盛 東 京理 科 大 学 大 学院 理 学 研 究科 修 士 課 程修 了 、理 学 博士 (東京 理 科 大 学)、広 島 大 学工 学 部 教 授 、 現 在、横浜 薬 科 大 学 薬学 部 教 授 (7):岡 田 光 正 東 京大 学 大 学 院 工学 系 研 究 科修 士 課 程 終了 、工学 博 士(東 京大 学 )、広 島大 学 大 学 院工 学 研 究 科 教 授、現 在、放 送大 学 社 会と産 業 コース+社会 経 営 科 学プログラム教 授、広 島大 学 名 誉 教授 B-1003-1 B-1003 貧酸素水塊が底棲生物に及ぼす影響評価手法と底層 DO目標の達成度 評価手法の開発に関する研究 (1) DO目標値設定のための初期生活史標準試験法の確立に関する研究 (独)国立環境研究所 環境リスク研究センター 生態系影響評価研究室 堀口 敏宏 大阪市立大学 大学院工学研究科 矢持 進 愛知県水産試験場 漁場環境部 蒲原 聡 石田 基雄 愛知県水産試験場 (平成22、23年度) <研究協力者> 愛知県水産試験場 岩田靖宏、本田是人、山田智、和久光靖、曽根亮太 平成22~24年度累計予算額:14,628千円 (うち、平成24年度予算額:3,671千円) 予算額は、間接経費を含む。 [要旨] 東京湾、伊勢湾などの閉鎖性水域においては、水域環境改善のために30年に亘って水質総量 規制が実施されているが、その環境基準達成率は低いままである。一方、目標とすべき海域環 境の指標と制御すべき指標とを分けて検討し、 目標とすべき海域環境の指標を決める必要があ る。底層の溶存酸素量(DO)は、海産生物の棲息に影響を与える主要な要素の1つとされた(閉 鎖性海域中長期ビジョン(平成22年3月1日))。しかし、魚介類の貧酸素耐性に関する情報が 不足しているため、貧酸素耐性の標準的実験方法の開発と合わせて、新たな知見を得る必要が ある。 本研究では、内湾代表種であるマコガレイとアサリを用いて生活史初期段階における貧酸素 耐性試験のプロトコル作成を目標に実施した。試験対象としたマコガレイの生活史初期段階は、 着底稚魚とした。アサリの生活史初期段階は、D型期、アンボ期、フルグロウン期の各浮遊幼生 ステージ及び着底初期稚貝とし、三河湾産母貝から得た幼生を飼育してこれら試験に供した。 これらに対する流水式の貧酸素耐性試験装置を開発するとともに、貧酸素耐性試験を実施した。 貧酸素耐性試験装置に関して、5L水槽の流水かけ流し条件下で1mg/L以下の貧酸素環境の安定的 再現が可能となった。これにより、マコガレイ稚魚及びアサリ幼生 ・稚貝の貧酸素耐性の知見 を得た。 合わせて、甲殻類幼生など海産生物の生活史初期段階の個体が貧酸素水塊に遭遇した際の行 動や生残等を調べるための室内実験系・手法の開発をも目標に水柱試験装置の開発も行い、数 種の海産生物幼生を用いた試験を行い、貧酸素水 に対する応答特性を調べた。 [キーワード] 貧酸素耐性、マコガレイ稚魚、アサリ浮遊幼生・稚貝、標準試験法、忌避行動 B-1003-2 1.はじめに 閉鎖性海域の水環境改善のため、既に30年間に亘って水質総量規制が実施されている。しか しながら、東京湾、伊勢湾・三河湾、瀬戸内海などの総量規制制度を導入している海域の環境 基準達成率は低い状況が続いている。中央環境審議会水環境部会の答申「第6次水質総量規制 の在り方について(平成17年2月)」において、今後の総量規制推進のための課題として「目標 とすべき水質の検討」を挙げた。すなわち、今までの5次にわたる CODの総量規制により、COD 負荷量が大幅に削減されてきているにもかかわらず、 COD環境基準の達成率が改善しないこと に対処するため、目標とすべき水質についてさらに検討を行う必要があることが指摘された。 これを受けた「今後の閉鎖性海域対策に関する懇談会」では、今後の閉鎖性海域対策を検討 する上での論点整理(平成19年3月)を行った。その結果、現在の環境基準であるCOD、T-N及び T-Pについては、汚濁負荷量の抑制により制御可能と考えられている指標であるが、生物生息環 境を直接的に表現する指標とは言い難いこと、また、目標とすべき海域の状態となる指標(状 態指標)と目標を達成するために抑制すべき指標(制御指標)とを分けて検討する必要がある ことが指摘された。生物生息環境を表現する状態指標の候補としては、広く水棲生物の生息に 影響を与える主要な要素の一つと考えられる底層の溶存酸素量(底層 DO)、及び水棲生物の育 成など浅海域における良好な環境条件を示し景観的な要素も併せて示す透明度を挙げた。 このため、今後の「第7次水質総量規制のあり方(平成21年3月諮問)」の検討に資するため、 平成20年度から、「閉鎖性海域中長期ビジョン策定に係る懇談会」を設置し、その中の目標設 定WGにおいて、底層DOならびに透明度の目標設定に関する検討を行ってきている。底層 DOの 目標設定においては、底層DO濃度の低下や欠乏による魚介類等の海産生物への悪影響を軽減し、 良好な海域環境を回復するための目標となる数値目標を設定すべく、魚介類の生息域確保や再 生産の場の確保、さらには無生物域の解消のための必要な DO濃度を推定するために多数の文献 情報の収集と整理を行ってきた。その過程で下記のような問題に直面している。 (1)魚介類成体の貧酸素耐性(生息域確保)、幼稚仔の貧酸素耐性や成体の産卵行動への影響 (再生産確保)等の情報が不足しているとともに、DO基準値に適した標準的な実験方法が提案 されていない。 (2)CODやT-N、T-Pと異なり、DO目標は75%値や平均値での評価に適さないため、連続測定が 不可能な場合にその達成度を評価する手法が確立されていない。 したがって、統一的、かつ科学的な目標設定がきわめて困難な状況に直面しており、現状で は数多くの仮定や単純化によって目標を設定せざるを得ないとともに、その妥当性の評価も困 難な状況にある。 2.研究開発目的 上記の問題を解決するため、本研究では3つのサブテーマを設けて、科学的根拠に裏付けられ た底層DO目標値の導出と個体群に及ぼす影響の評価、水域区分の提案、並びにその達成度評価 のための手法開発に向けて研究を推進した。本編では、サブテーマ(1)「DO目標値設定のた めの初期生活史標準試験法の確立に関する研究」について記述する。 B-1003-3 海産生物の浮遊期や着底期などの生活史初期段階の個体の 貧酸素耐性を調べる試験プロトコ ルを作成するとともに試験装置も考案し、内湾代表種(マコガレイ(Pseudopleuronectes yokohamae)とアサリ(Ruditapes philippinarum))を用いて実際に試験を行い、それぞれのデー タを獲得・蓄積して、サブテーマ(2)「貧酸素水塊が初期生活史段階の内湾代表種に及ぼす 影響の解析と評価に関する研究」において実施する数理モデルによるシミュレーションのため のパラメータ設定に向けたデータ整備を図る。 なお、マコガレイ及びアサリの生活史初期段階における貧酸素耐性を試験するプロトコルの 作成に向けて、マコガレイ稚魚は種苗生産施設から購入する。また、アサリについては幼生飼 育を行い、D型期、アンボ期、フルグロウン期それぞれの浮遊幼生 と着底初期稚貝を得る。試 験装置は、国環研が設計し、貧酸素耐性試験を実施するのに最適な装置を開発するとともに、 マコガレイ稚魚及びアサリ幼生・稚貝の貧酸素耐性を明らかにする。マコガレイ稚魚及びアサ リ幼生の貧酸素耐性試験結果は、サブテーマ (2)のシミュレーションに供する。 また、アサリ幼生及び稚貝の貧酸素耐性試験では、試験法確立の一環として、効率的な生死 判定法の開発も重要となるため、試験後のアサリ幼生等に クロレラを摂食させ、その取り込み の有無による生死判定法の有効性も検討する。 3.研究開発方法 (1)DO目標値設定のための初期生活史標準試験法の確立 内湾代表種であるマコガレイとアサリを対象に、東京湾産マコガレイの稚魚と三河湾産アサ リの浮遊幼生及び着底初期稚貝を用いて、 DO目標値設定のための初期生活史標準試験法の確立 を図り、貧酸素に関する耐性(急性影響試験)のデータを獲得・蓄積した。 また、数値モデル によるシミュレーションのために水柱実験によるアサリ浮遊幼生の貧酸素応答も調べた。 一方、貧酸素水塊に遭遇した海産生物の幼体が斃死以前に示すとみられる忌避応答などを定 量的に調べ、比較可能とするための試験系の開発に向けて、アサリとヨシエビ(Metapenaeus ensis)、 並びにサザエ稚貝(Turbo cornutus)を供試生物とする検討も行った。 (2)貧酸素耐性試験 1)マコガレイ a マコガレイ稚魚の飼育管理 財団法人神奈川県栽培漁業協会で種苗生産されたマコガレイ種苗を購入後、国立環境研究所 環境リスク研究センター海水系実験室で駿河湾海洋深層水 と市販の配合飼料を用いて飼育し、 実海域で貧酸素水塊に初めて曝されると考えられる月齢の個体( 5ヶ月齢)を実験に用いた。 b 貧酸素耐性試験 マコガレイ稚魚を用いて行った実験の方法概略は、以下の通りである。 実験期間:24時間 実験方法:流水式 供試種:マコガレイ(5ヶ月齢、標準体長 50.4 ± 5.9 mm) 実験区:6、各区でn = 8 B-1003-4 実験水温:約21℃(供試種の生息水域の夏季の底層水温と類似) 給餌量:実験開始の前日から餌止め、実験期間中は給餌なし 水質測定項目:水温、DO、pH、塩分 観察・記録項目:狂奔遊泳や斃死など エンドポイント:斃死(半数致死濃度(LC50 )、半数致死時間(LT 50 )など) 特記事項:開始の仕方(低DO海水に供試種投入、供試種投入後にDO低減)、DOの維持 貧酸素 流水式連続曝露試験装置の概要 P 混 合 比 率 に 差 P P 流 量 は 同 じ 対照区 P 貧酸素区 1 200L タンク DO 100 % 200L タンク DO 0 % 貧酸素区 2 貧酸素区 3 Air かけ流し N2 図(1)-1 試験装置の概要 2)アサリ a アサリの種苗生産 初期生活史段階の貧酸素影響評価を試験する材料として供するために、 22年度(2010年度) 春季・秋季、23年度(2011年度)春季1回目・春季2回目・秋季、24年度(2012年度)春季の計6 回アサリ幼生の生産を行った。 鳥羽・深山(1992)の温度刺激法をもとに、10℃と25℃にそれぞれ冷却,加温させた精密ろ 過海水(ROSUIKI, R-31精密ろ過装置)に三河湾産のアサリを交互に20分間浸漬して、放精・放 卵させ受精卵を得た。受精卵は mメッシュのナイロンネットでろ過してきょう雑物を取り 除き、500Lパンライト水槽内で海水をかけ流して3時間洗浄した後、48時間静置した。24時間後 には、トロコフォア幼生となり、48時間後にはD状期幼生となった。この上水を30 mメッシュ のナイロンネットを用いて濃縮し、別の500Lパンライト水槽に移し培養を開始した。飼育水は、 B-1003-5 精密ろ過した後、紫外線照射(セン特殊光源, UZ40TMR)した海水を水槽容量の2倍を1日に換 水する量で注水し、弱いエアーレーションを施した。餌料はパブロバ Pavlova lutheriを、3×104 cells/mlの濃度になるように1日1回給餌した。幼生の成長を調べるために、孵化後2日目から16 日目まで幼生の殻長を毎日30個体測定した。また、着底初期稚貝は、砂を敷き詰めた着底水槽 で育成し回収するとともに、愛知県・六条潟で採集した天然稚貝も用いた。 b 貧酸素耐性試験 貧酸素耐性試験は、種苗生産に合わせて、平成22年度(2010年度)と平成23年度(2011年度) は春季と秋季の2回行った。平成24年度(2012年度)は春季のみ行った。 貧酸素耐性実験は、以下のように実施した。すなわち、2つの200Lポリプロピレン製タンク内 の精密ろ過海水に空気と窒素を別々に曝気した海水(それぞれ、 DO 100%海水及びDO 0%海水 という)を定量送液ポンプで混合して掛け流す流水式連続曝露とした(図(1)-2)。気密性を高 めつつDOの低濃度実験区を安定的に再現するために、ア.5Lのプラスチック容器を試験水槽と して使用して換水率を高めるとともに、イ.天然ゴムパットで表面を覆い、且つ、ウ.通気性 が低いファーメドチューブを継ぎ目なしで使用した(図(1)-2)。その結果、流水条件でも低DO の実験区(1 mg/L以下の貧酸素実験区)を安定して再現することができるようになった。さら に、電磁弁とタイマーを組み合わせて夜間にDO 0%の母水槽に窒素を定期的に曝気させ、母水 槽のDOをより低いレベルで安定的に維持させるよう改良を図った (図(1)-3)。 試験水槽(実験区)は、春季実験と同様に、 6個(6区)とした。試験海水の通水量(流速) は約30L/試験水槽/日とした。また、これら6個の試験水槽は外水槽内に設置され、水温が25℃ となるように設定・制御された。 各試験水槽に7つの塩化ビニル製円筒ケース(両端をφ50μmのメッシュで覆ったもの:図 (1)-2)を設置し、それぞれのケースに、ベリジャー幼生約 20~100個体程度を収容した (但し、 後述するように、7つの塩化ビニル製ケースのうち、3つは24時間後あるいは96時間後の取り上 げ・ホルマリン固定用 * 、残り4つは24時間後、48時間後、72時間後及び96時間後の取り上げ・ 実体顕微鏡観察用とした)。 また、ベリジャー幼生の分注法は、操作・取扱時の幼生の損傷を最小限に抑えるため 、攪拌 して分布密度が均一となるようにした大型ビーカーの中から50mLビーカー及び10mLスピッツ 管を用いて海水とともに試験水槽へ分注した(実際に収容されたホルマリン固定用の幼生は概 ね100~200個体程度、実体顕微鏡観察用はいずれも30~60個体程度であった)。試験期間は、 原則として96時間とし、試験開始前にパブロバを与え、試験期間中は無給餌とした。 所定の時刻に取り上げた塩化ビニル製円筒ケースは、クロレラ高密度海水(50万cells/cm 3 の密 度)中に1時間静置し、ベリジャー幼生にクロレラを摂取させた(体内に取り込んだクロレラを 観察することによる簡易生死判定法の検討のため)。この後、実体顕微鏡観察用の塩化ビニル 製円筒ケース以外は3%中性ホルマリンで固定後、冷蔵庫で保存し、後日、光学顕微鏡で検鏡し た。実体顕微鏡用試料は、試験終了後直ちに実体顕微鏡により幼生の生死を判定し、クロレラ の取り込み状況も調べた。ホルマリン固定は、1回目は全て24時間後、2回目はD型のみ24時間後 でアンボ期以降は96時間後とした。 B-1003-6 図(1)-2 図(1)-3 c アサリ浮遊幼生の貧酸素耐性を調べる流水式の試験装置 電磁弁とタイマーを組み合わせた改良型の流水式 試験装置 水柱実験によるアサリ幼生貧酸素応答試験 アサリ浮遊幼生は、後述するように、斃死の前段階として、遊泳停止の行動をとることが明ら かとなった。また、海域分布調査結果(後述)では、海域底層に貧酸素水塊が発生すると、アサ B-1003-7 リ浮遊幼生は底層で分布数が少なくなり、底層より上層に多く分布していた。これを受けて、ア サリ浮遊幼生が貧酸素水の影響を受けて取る行動を、忌避、遊泳停止からの沈降、斃死の3つの パターンから把握することとし、シミュレーションによる貧酸素影響評価に用いるアサリ幼生の 貧酸素応答式を得るため、水柱実験を行った。 密度成層水柱による浮遊卵の比重測定法(Coombs,1981;田中,1991)に準じて、斉藤ほか (2002),石田ほか(2005)が実施した塩分勾配作製手法を用いてDO勾配を作製した。石田ほ か(2005)によると、幼生はD状期の初期には一旦やや高塩分層に分布し、その後アンボ期から フルグロウン期にかけて次第に低塩分層(塩分21-23付近を中心とする層)へ浮上する傾向を強 めることが報告されている。そこで、D状期では分布の中心に近い塩分層が、アンボ期からフル グロウン期では浮上過程の塩分層が低DOとなるように、全体の塩分20-28のうち塩分24-28を目 処に貧酸素層とした。塩分およびDO勾配を作成する実験装置を図(1)-4に示した。円筒ガラスシ リンダー(内径50 mm,高さ800 mm)に近いフラスコには塩分20の海水を、シリンダーから遠 いフラスコには塩分30の海水をそれぞれ用意し曝気を施した。連結したこの 2つのフラスコか ら、ぜん動ポンプ(Iwaki, PST-100)で円筒シリンダーに海水を注入した。この際、曝気を空気 から窒素ガスへ切り替えていき、最後に円筒シリンダーの底に低 DOの海水を注入することによ り、DO勾配を作製した。空気から窒素ガスへの切り替えのタイミングは、鉛直方向に3等分し たシリンダーへの海水の注入量を目安とし、 1段目の注入までは空気のみの曝気、2段目の注 入までは空気と窒素ガスの混合曝気、3段目の注入は窒素ガスのみの曝気と連続して変化させ た。ここでは、底層のDOが0近くから飽和に近くなる範囲の間に、3つの成長段階でそれぞれ8 実験区(A区からG区と対照区)を作製した。対照区は全量を空気の曝気とし高濃度区とした。 浮遊幼生は、明条件と暗条件で塩分選択行動が変わらない(石田ほか, 2005)ことから、恒温 室内を暗条件として実施した。また、幼生の水温ストレスを避けるため、飼育水温に近い 23℃ に室温を設定した。 DO成層の崩壊を避けるため、円筒シリンダーの水面からピペットを用い静かに幼生を注入し、 24時間後の幼生の鉛直分布を調べた。幼生の取上げは、試験開始24時間後に予め設置したガラス 管を用いて、底層からサイフォンで100 mlずつ13回採取した。なお、水面から1層、2層と順に命 名し、最下層を13層とした。採取した海水は、 直ちにDO(東亜ディーケーケー株式会社製, ピペット アサリ 浮遊幼生 ポータブル溶存酸素計DO-31P型)と塩分(東亜 電波工業株式会社製, WM-22EP)を測定した後、 3%中性ホルマリンで固定し、後日、幼生数を 計数した。この幼生数を実験に供した全幼生数 サンプルビン 100ml 低酸素、 高塩分海水 高 高酸素、 低塩分海水 で除したものを浮遊率とした。 酸素濃度 本研究では、低DOに対するアサリ浮遊幼生 の行動影響の指標として、遊泳を停止してシリ 低 ンダーの底に沈降する行動の多寡を判断基準 スターラー にした。そこで、全ての海水を採取した後、シ リンダーの底に沈降した幼生を培養水と同様 の海水で洗浄して回収し、直ちに実体顕微鏡下 図(1)-4 定量ポンプ ガラスシリンダー 内径 : 50mm 高さ : 800mm アサリ浮遊幼生シリンダー実験装置 B-1003-8 で生死別に幼生を計数した。アサリ浮遊幼生は、殻が半透明で内容物が透けて見えることから、 沈降した幼生を観察し、繊毛活動が有り内蔵塊が縮動しているものを生存個体、動かないものを 斃死個体とした。なお、1シリンダーあたり、1,977-4,333 個体の幼生を使用した。 3)海洋生物幼体の貧酸素応答試験 貧酸素水塊に遭遇した海産生物の幼体が斃死するまでに忌避を含めた何らかの応答を示すと 考えられるが、詳しい知見はきわめて少ない。そこで、本研究では、海産生物幼体が貧酸素水 塊に遭遇した際の行動の変化を定量的に調べ、比較できるような試験系の構築を試みた。当該 実験には、夏季に出現する貧酸素水塊に曝される可能性があるものとして、 アサリ(Ruditapes philippinarum)とヨシエビ(Metapenaeus ensis)、並びにサザエ稚貝(Turbo cornutus)を供試生物とし た。アサリ幼生は孵化後12日(アンボ~フルグロウン期)のものを、ヨシエビ幼生は孵化後7日(ミ シス期)、14日(ポストラーバ4日齢期(以降、P4期とする))、25日(ポストラーバ 15日齢期(以降、 P15期))のものを、サザエ稚貝は孵化後98~107日のものをそれぞれ用いた(図(1)-5)。 図(1)-5 供試生物 A,アサリ幼生(アンボ期) C,ヨシエビ幼生(ミシス期) B,サザエ稚貝, D,ヨシエビ幼生(P4期) E,ヨシエビ幼生(P15期) 本実験では、Tanaka(1990)による連続密度勾配カラム(高さ約85cm)の形成過程にN2 ガスを加 えることで密度勾配と同時にDO濃度勾配を作成した(図(1)-6)。実験には、塩分のみ勾配をつけ たカラム(対照区)と塩分とともにDO濃度にも勾配つけたカラム(実験区)を用い、カラム内の供試 生物の分布から貧酸素応答について検討した。実験は25±1℃、表層の光量約100μmol/m 2 /sec、12 時間明期:12時間暗期の条件で行った。塩分は4つの密度球(密度1.0150、1.0175、1.0200、 1.0225g/cm 3 )をカラム内に入れ、水温一定の条件下で密度から推定した。また、DO濃度は溶存酸 B-1003-9 素計(オキシガード社製)で水深10cmごとに計測した。DO濃度の計測時間はヨシエビ幼生では8 時間間隔で、3回目のサザエ稚貝では6時間ごとに、それ以外では実験前と実験後で計測した。 な お、アサリ幼生は25個体、ヨシエビ幼生は15個体、サザエ稚貝は10個体を各濃度勾配カラムに 加え、注入30分後から3時間ごとに分布水深の観察を行った。 図(1)-6 塩分勾配カラム(対照区)と塩分・酸素濃度勾配カラム(実験区) 対照区:塩分のみの勾配、実験区:DO濃度および塩分勾配 対照区と実験区においてχ 2 検定により分布に有意な差(P<0.05)があるかどうか推定した。また、 底層以浅のDO濃度が分布に影響を及ぼしているかを検討するため、底層を除いてさらに検定を 行った。すなわち、分布の有意差(P<0.05)が見られなくなる水深まで検定を行い、その境界域の DO濃度を生物が忌避する上限値とした。なお、χ 2 検定の方法について、ミシス期幼生は各層10cm ごとに区切り、層別の分布数を対照区と実験区で比較した。この際に、対照区に著しく分布の 偏りがある場合には検定の信頼性が損なわれる恐れがあるため(石居, 1985)、「集中が見られ る層」と「それ以外の層」の2層に分けた。なお、本実験では「底層」に分布しているとは、生 残する幼生がカラム底にいる状態のことを指す。 4.結果及び考察 (1)マコガレイ稚魚の貧酸素耐性 マコガレイ当歳魚(5ヶ月齢)のDO濃度別斃死率を片対数でプロットし、直線を当てはめて 半数致死濃度(LC50 )を推定した結果、24時間及び1時間(それぞれ、24h及び1h)LC50 が1.5 mg/L 及び1.1 mg/L となった(図(1)-7)。1歳魚の24h LC 50 は0.77 mg/L であったことから、当歳魚(5 B-1003-10 ヶ月齢)の方が低酸素ストレスに弱いと考えられる。また、貧酸素条件下では 、生きていても ほとんどの個体が仰け反り、呼吸数(鰓蓋の開閉速度)が増すことから、生残した個体が健全 に成長し、個体群に加入できる可能性は小さいと考えられる。 マコガレイ当歳魚のDO耐性試験 マコガレイ当歳魚のDO耐性 100 90 斃死率(%) 斃死率(%) 80 70 系列1 0h 系列2 1h 3h 系列3 8h 系列4 24 h 系列5 60 50 40 30 20 10 0 1.00 DO (mg/L) DO(mg/L) 10.00 24h LC50 = 1.5 mg/L 1h LC50 = 1.1 mg/L 図(1)-7 マコガレイ当歳魚のDO別斃死率 (2) アサリ生活史初期個体の貧酸素耐性 1)アサリの種苗生産 10~15 個体/mLの収容密度で幼生の飼育を開始した。幼生の生産例として、平成24年度(2012 年度)の成長と飼育水温の変化を図(1)-8に示した。D状期幼生(105μm)、アンボ期幼生(133μm)、 フルグロウン期幼生(177μm)を貧酸素影響実験及び貧酸素応答試験に供した。その後も飼育を 継続し、殻長346μmの着底初期稚貝を貧酸素影響実験に供した。D状期からフルグロウン期(孵 化後16日目)までの生残率は35%で、30L水槽を用い10 個体/mLの収容密度で実施した幼生飼育 事例(上妻,1994)の収容15日目の生残率21%と比較してもほぼ順調な歩留りであった。また、 孵化後3日目(110.1±5.5 m)から15日目(177.9±13.1 m)までの日間成長量は5.7 m/dayであ った。上妻(1994)の孵化後3日目(114±1.6 m)から15日目(185±19.4 m)までの日間成長 量は5.9 m/dayであったことから、本研究のアサリ浮遊幼生の生産における成長はほぼ順調であ った。なお、平成22年度春季・秋季、23年度春季1回目・春季2回目・秋季の歩留りは各々67%、 58%、28%、37%、12%であり、平成23年度秋季以外はほぼ順調な生産であった。 種苗生産に供試する親貝の生理状態などに左右されるためか、種苗生産によって得られた浮 B-1003-11 遊幼生及び着底初期稚貝の生残率には相当のばらつきが生じることが、アサリ種苗生産の経験 上、知られており、また、本研究でも記録されている。浮遊幼生及び着底初期稚貝の健全性に 依存して、これらを用いて行う貧酸素耐性試験の結果が変動することは明らかである。そのた め、一連の試験の品質管理のため、フルグロウン期幼生の時点での生残率が 21%以上の場合に 限り、その幼生等を用いた貧酸素耐性試験結果を有効あるいは妥当と判断し、フルグロウン期 幼生の時点での生残率が21%未満の場合、その後の全ての試験結果を棄却することが望ましい。 ここでは、種苗生産時にフルグロウン期までの生残率が21%を上回ったもののうち、平成24年 度(2012年度)(春季)の種苗生産結果と、その後の貧酸素耐性試験結果を記述する。 300 31 殻長 水温 30 Fullgrown 177μ m 28 200 Umbo 133μ m 150 29 D 105μ m 27 26 25 100 24 23 50 水温(℃) 平均殻長(μ m) 250 22 0 21 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 飼育日数(日) 図(1)-8 アサリ浮遊幼生の殻長と飼育水温の変化 アサリ初期生活史段階の貧酸素影響評価を目的に、標準試験法を確立しデータを得るべく、 試験用アサリ幼生の飼育を行い、D状期、アンボ期、フルグロウン期の各浮遊生活史段階及び 着底初期稚貝を貧酸素耐性試験に供した。 2)貧酸素耐性試験 実体顕微鏡による観察結果に基づいて、D型幼生、アンボ期幼生、フルグロウン期幼生及び着 底初期稚貝のDO-斃死率関係を調べた。但し、殻のみの数は斃死率の算出の際に除外した。即 ち、 斃死率={( 斃死個体数)/(可動個体数+瀕死個体数+斃死個体数) }×100 として算出した。 また、実体顕微鏡による生体試料観察に基づくベリジャー幼生の生死判定結果は以下の通り とした。 生存:自由遊泳、回転、繊毛運動、内臓塊の収縮等(但し、自由遊泳はおろか、その場での回 B-1003-12 転運動もできず、ほぼ静止した状態でありながら、繊毛運動あるいは内臓塊の収縮等が見られ たものは「生存」個体として算定したが、外見上、健常とは見なせないので「瀕死」として併せて 記録した)。 斃死:上記のいずれにも該当しないもの。 殻のみ:軟体部が見られないもの フルグロウン期幼生についてもこれに準じ、斧足による移動等が観察された個体も「生存」と した。 種苗生産により供給されたアサリ浮遊幼生(D状期、アンボ期、フルグロウン期の各浮遊幼 生)を用いて貧酸素耐性試験を実施した。平成 24 年度は、前述のように、電磁弁とタイマーを 組み合わせて夜間に DO 0%の母水槽に窒素を定期的に曝気させ、母水槽の DO をより低いレベ ルで安定的に維持できるよう、流水式実験装置の改良を図った(図(1)-3)。その結果、平成 23 年度までは 1 mg/L 以下であった DO の最低試験濃度を 10 分の 1 程度に低下させ、0.1 mg/L 以 下のレベルでも DO を安定的に再現して実験することができた(表(1)-1)。本試験で得られた結 果からアサリ幼生の斃死率曲線を得た(図(1)-9)。また、これに基づいて、片対数グラフでの 直線回帰により、アサリ浮遊幼生及び着底初期稚貝の半数致死濃度( LC50 )を推定した(表(1)-2)。 なお、D型幼生、アンボ期幼生、フルグロウン期幼生及び着底初期稚貝におけるクロレラ摂 食率の観察結果及び実体顕微鏡によるそれぞれの生残率の観察結果との比較から、低DO区ほど クロレラの摂食率が低く且つばらつきが大きくなることがわかった。概ね、 摂食率と生残率と の関連付けは可能と考えられたが、浮遊幼生は貧酸素ストレスにより摂食率が低下し、やがて 餓死に至る可能性もあり、摂食率に基づく貧酸素による斃死率の推定には注意を要する場合が ある。 D型幼生 mean s.d. アンボ期幼生 mean s.d. フルグロウン期幼生 mean s.d. 着底稚貝 mean s.d. 表(1)-1 各試験区における DO 実測データ 貧酸素試験区1貧酸素試験区2貧酸素試験区3貧酸素試験区4貧酸素試験区5コントロール 0.15 0.61 1.18 2.35 3.96 5.10 0.10 0.26 0.19 0.21 0.63 0.41 貧酸素試験区1貧酸素試験区2貧酸素試験区3貧酸素試験区4貧酸素試験区5コントロール 0.06 0.28 1.03 2.22 3.55 5.02 0.03 0.05 0.19 0.26 0.26 0.16 貧酸素試験区1貧酸素試験区2貧酸素試験区3貧酸素試験区4貧酸素試験区5コントロール 0.08 0.21 1.30 2.25 3.87 4.88 0.07 0.13 0.75 0.36 0.60 0.17 貧酸素試験区1貧酸素試験区2貧酸素試験区3貧酸素試験区4貧酸素試験区5コントロール 0.05 0.11 0.86 1.40 2.76 4.13 0.03 0.04 0.09 0.26 0.19 0.53 B-1003-13 フルグロウン期(96 h) D-shaped larvae (96 h) Full-grown larvae (96 h) 100 100 90 90 80 80 70 70 Mortality (%) Mortality (%) D型幼生(96 h) 60 50 40 y = -32.977Ln(x) + 43.501 R2 = 0.7352 30 60 50 40 30 20 20 10 10 0 y = -25.365Ln(x) + 28.416 R2 = 0.9094 0 0 1 2 3 4 5 6 0 1 2 DO (mg/L) 3 4 5 6 DO (mg/L) Umbo larvae (96 h) アンボ期(96 h) 100 90 80 Mortality (%) 70 60 50 40 30 y = -26.817Ln(x) + 30.125 R2 = 0.847 20 10 0 0 1 2 3 4 5 6 DO (mg/L) 図(1)-9 表(1)-2 アサリ幼生のDOに対する斃死率曲線 DOに対するアサリ浮遊幼生及び着底初期稚貝の半数致死濃度(LC50 ) 水温 D型 25℃ アンボ期 25℃ フルグロウン期 25℃ 着底稚貝 25℃ 24h < 0.15 < 0.06 < 0.08 < 0.05 48h 72h 96h 120h 0.4 0.5 0.9 no data 0.1 0.15 0.5 no data < 0.08 0.2 0.4 0.5 < 0.05 < 0.05 < 0.05 < 0.05 *赤字は片対数グラフによる直線回帰で得た推定値であることを示す。 3)水柱実験によるアサリ幼生貧酸素応答試験 塩分、DOおよび幼生の鉛直分布を成長段階ごとに図(1)-10に示した。塩分は、成長段階毎の 各実験区とも1層(20.4-22.3)と13層(26.5-28.3)の間は逆転がなく、ほぼ均等な密度勾配を持 つ成層状態が再現された。DOは、1層および13層がそれぞれD状期幼生では5.0-5.9 mg/Lおよび 0.69-5.34 mg/Lの幅、アンボ期幼生では5.13-5.99 mg/Lおよび0.7-5.4 mg/Lの幅、フルグロウン期幼 生では3.76-5.97 mg/Lおよび0.79-4.72 mg/Lの幅にあった。対照区の塩分成層に応答した幼生の分 布は、D状期幼生では全体の92.1%が浮遊し、塩分26.8-28.3(12,13層)の下層に43.1%と密度が 高くなった。アンボ期幼生は全体の90.2%が浮遊し、塩分25.9-27.9(11-13層)の下層に46.4%が 分布し、13層を頂点としたなだらかな分布となった。フルグロウン期幼生は全体の94.9%が浮遊 し、そのうち塩分21.2の1層に12.3%が分布した。 B-1003-14 DO (mg/L) 図(1)-10 アサリ浮遊幼生発育段階毎のDO濃度、塩分及び幼生の鉛直分布(△:DO濃度、□: 塩分、○:幼生(上層)、●:幼生(下層)) それぞれの対照区で幼生の密度が高い層(下層:以下,下層と称する。下層より上を上層と 称する。)と同じ層のDOを平均した。下層の平均DOは、D状期幼生では0.73-5.54 mg/L、アンボ 期幼生では0.61-5.62 mg/L、フルグロウン期幼生では0.87-4.78 mg/Lの幅にあった。沈降率は、D 状期幼生では下層の平均DO 2.35-5.54 mg/Lでは6.7-8.3%と低かったが(図(1)-10-F,G,Con)、1.39 mg/Lでは42.0%と高くなり(図(1)-10-E)、0.73-1.02 mg/Lでは80.9-99.5%とさらに高くなった(図 (1)-10-A~D)。アンボ期幼生では、下層の平均DO 3.12-5.62 mg/Lでは6.7-10.8%と低かったが(図 (1)-10-D~G,Con)、0.61-1.28 mg/Lでは76.1-99.6%と高くなった(図(1)-10-A~C)。フルグロウ ン期幼生では、下層の平均DO 2.03-4.78 mg/Lでは5.1-20.5%と低かったが(図(1)-10-E~G,Con)、 0.87-1.09 mg/Lでは85.0-96.8%と高くなった(図(1)-10-A~D)。沈降中に占める斃死率は、D状 期幼生では下層の平均DO 5.54 mg/Lでは16.5%と低かったが(図(1)-10-Con)、2.55 mg/Lでは 53.0%と高くなり(図(1)-10-G)、0.73-2.35 mg/Lでは70.6-100%とさらに高くなった(図(1)-10-A ~F)。アンボ期幼生では、下層の平均DO 3.12-5.62 mg/Lでは5.2-16.8%と低かったが(図(1)-10-D B-1003-15 ~G,Con)、1.28 mg/Lでは20.7%と高くなり(図(1)-10-C)、さらに0.61-0.70 mg/Lでは71.8-73.8% と高くなった(図(1)-10-A,B)。フルグロウン期幼生では、下層の平均DO 2.71-4.78 mg/Lでは 4.3-11.9%と低かったが(図(1)-10-F,G,Con)、0.87-2.03 mg/Lでは28.3-49.2%と高くなった(図 (1)-10-A~E)。 成長段階毎に各データから対照区の沈降率を差し引いて、沈降率( Y:%)とDO(X:mg/L) の関係を図(1)-11のグラフに示した。なお、沈降率がマイナスの値になる場合はゼロとした。成 長段階順に、 Y= 100 1 + (X/1.26) 5.16 Y= 100 1 + (X/1.45) 3.88 100 1 + (X/1.43) 5.17 Y= の関係式が得られた。D状期幼生、アンボ期幼生およびフルグロウン期幼生の半数沈降濃度は、 1.26 mg/L.45 mg/L.43 mg/Lであった。D状期幼生、アンボ期幼生およびフルグロウン期幼生の各 沈降率は、順にDO 3 mg/Lでは1.1%、5.6%、2.1%、DO 2 mg/Lでは8.5%、22.1%、15.0%、DO 1 mg/Lでは76.8%、80.7%,86.4%であった。このように、同成長段階ではDOが低下するに従って 沈降率は上昇し、DOが2 mg/Lから1 mg/Lに低下すると、成長段階順に、9.0倍、3.7倍、5.8倍と 急上昇した。 成長段階毎に各データから対照区の沈降中に占める斃死率を差し引いて、沈降中に占める斃 死率(Y:%)とDO(X:mg/L)の関係を図(1)-11のグラフに示した。なお、沈降中に占める斃 死率がマイナスの値になる場合はゼロとした。成長段階順に、 Y= 100 1 + (X/1.88) 1.60 Y= 100 1 + (X/0.78) Y= 3.40 100 1 + (X/0.49) 1.59 の関係式が得られた。D状期幼生、アンボ期幼生およびフルグロウン期幼生の沈降中に占める半 数致死濃度は、1.88 mg/L、0.78 mg/L、0.49 mg/Lであった。D状期幼生、アンボ期幼生およびフ ルグロウン期幼生の各沈降中に占める斃死率は、順にDO 3 mg/Lでは32.2%、1.0%、5.4%,DO 2 mg/Lでは47.6%、3.8%、9.8%、DO 1 mg/Lでは73.3%、29.7%,24.6%となり、同成長段階では DOが低下するに従って上昇した。D状期幼生の沈降中に占める斃死率は高DOから高く、他の成 長段階と比較して2.8-32.2倍高かった。また、DO 1 mg/Lの沈降中に占める斃死率は、幼生の成 長に伴って減少した。このこと D状期 (Ⅰ) 性実験の結果(堀口ほか,2012) と符合した。 アンボ期幼生のC区およびフ ルグロウン期幼生のA区など一 部において上層への忌避の可 能性がある行動がみられたが、 それ以外はいずれの成長段階 においても、下層の浮遊率が低 percentage of death The沈降中に占める of sedimentation (%) outへい死率(%) 伴って高まるという、貧酸素耐 percentage of The 沈降率(%) sedimentation (%) は、貧酸素耐性が幼生の成長に フルグロウン期 (Ⅲ) 100 100 80 80 80 60 60 60 40 40 40 20 20 20 0 100 0 1 2 3 4 0 5 100 6 0 1 2 3 4 0 5 100 6 0 80 80 80 60 60 60 40 40 40 20 20 20 0 0 1 2 3 4 5 0 6 0 1 2 3 4 5 0 6 0 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 -1 DO (mg・l ) 下すると上層の浮遊率も低下 しており、上層への忌避行動は アンボ期 (Ⅱ) 100 図(1)-11 下層のDO濃度に対するアサリ浮遊幼生の沈降率及 び沈降中の斃死率 B-1003-16 みられなかった。以上の浮遊と沈降の行動から、幼生は塩分に応答して浮遊するが、DO 2 mg/L を切るあたりから、浮遊率が低下し、沈降率が急上昇して、沈降中に占める 斃死率も上昇する など、幼生の行動に大きな影響が出ると考えられた。また、観察から約 3時間で鉛直方向の分布 がほぼ形成され、その後の変化も少ないことから、一旦沈降した幼生はほぼ再浮上せずに 斃死 に至ると考えられた。 貧酸素水塊が形成される時期に、アサリ浮遊幼生の生息密度が底層で低下し、底層よりも上 層に高密度に分布する現象は、貧酸素水塊が形成される水深4-5mの躍層付近から下に分布する 幼生が貧酸素水に接触し沈降して斃死し、躍層より上部に分布する幼生が貧酸素水に接触せず にたまたま生き残ったことを表していると考えられた。従って、貧酸素水塊が発達した海域に おいて、躍層付近から下を浮遊する幼生は、貧酸素水塊の DO高低に強い影響を受け、躍層より 上部に分布する幼生の一部に貧酸素水塊から忌避した個体の可能性はあるものの、湧昇流など の物理的な影響を受けない限り、沈降し再浮上せずに 斃死に至ると見るのが妥当と思われた。 幼生への行動影響からすると、沈降率がDO 3 mg/Lから上昇し始めることから、海域における 底層DOは3 mg/L以上が望ましい。今回は,アサリ浮遊幼生の塩分選択性を基に、塩分20-28の範 囲でDOに対する影響実験を行ったが、今後は海域と同レベルの塩分で実験を行い、忌避行動に ついても確認する必要がある。特に、フルグロウン期幼生は、沈降中に占める 斃死率が他の成 長段階と比較して低い、つまり、貧酸素水に対する耐性が高まることから、沈降後の再浮遊に ついても観察が必要である。 4)海洋生物幼体の貧酸素応答試験 上層(表層~水深30cm)と中層(水深30cm~60cm)、下層(60cm~カラム底)の3層に分け、供試生 物の分布傾向について検討した。 a アサリのアンボ期幼生(図(1)-12) アサリのアンボ期幼生は、塩分勾配をつけたカラム(対照区)の上層への集中が見られ、低 塩分(21~23psu)層にアンボ期幼生は集中するという既往知見(石田ほか, 2005)と一致した。一 方、全体の18.4%が下層に分布した。塩分およびDO濃度の勾配をつけた実験カラムでは、実験 区1(底層DO濃度:3.5~3.6mg/L)、実験区2(底層DO 濃度:3.0~3.2mg/L)で分布状況に対照区と 大きな違いが見られず、下層に各々全個体数の21.7%と14.5%が分布した。貧酸素化した実験区 3(底層DO濃度:2.0~2.3mg/L) 、実験区4(底層DO1.7~1.9mg/L)では下層の分布割合が8.2%と4.4% となり、下層における値が減少した。このように、貧酸素化するに伴って、下層 (水深60cm~カ ラム底)の分布率が減少する傾向が見られた。 χ 2 検定を用いて統計的な検討(P <0.05)を行ったところ、2つの酸素・塩分勾配カラム(底層DO 濃度:1.7~1.9mg/L、底層DO濃度:2.2~2.3mg/L)において個体数の分布に対照区と有意差(P <0.05)が見られた。 b ヨシエビ幼生 ヨシエビのミシス期、ポストラーバ期幼生の貧酸素応答について検討した。また、ポストラ ーバ期については、P4期とP15期について比較し、成長による貧酸素応答の違いを検討した。な お、実験中にカラムのDO濃度が大きく低下したため、ミシス幼生とポストラーバ幼生(P4)は実 験開始後16時間目まで、ポストラーバ幼生(P15)は8時間目までを検討対象とした。 B-1003-17 [ミシス期] (図(1)-13) ミシス幼生は対照区で中層(塩分27.1~30.7psu)に集中し、全個体の52%が分布した。また、実 験区においても同様の傾向が見られ、約50%の個体がこの層に集中した。一方、下層における分 布割合は対照区において19.8%であったのに対し、実験区3(底層DO濃度:2.0~2.3mg/L)と実験区 4(底層DO濃度:0.9~1.6mg/L)では、各々10.3%と9.0%で半分以下に減少した。χ 2 検定によりヨシ エビ ミシス幼生の忌避濃度2.1~2.6mg/Lが得られた。 図(1)-12 アサリ幼生(アンボ期)における上層・中層・下層の分布割合 各実験区下の数値は底層のDO濃度(mgO2 /L) 図(1)-13 ヨシエビ幼生(ミシス期) における上層・中層・下層の分布割合 各実験区下の数値は底層のDO濃度(mgO2 /L) [ポストラーバ期]( 図(1)-14及び図(1)-15) ポストラーバ幼生(P4)は対照区および実験区ともに下層に偏在し、分布割合は71.9%に達した。 一方、実験区1(底層DO濃度:2.7-3.1mg/L)、実験区2(底層DO 2.4~2.7mg/L)、実験区3(底層DO 2.0 ~2.3mg/L)、実験区4(底層DO 1.6~1.7mg/L)における下層の分布は各々62.5、48.9、43.0、26.1% であり、底層が貧酸素化するに従ってヨシエビ幼生の分布数が減少する傾向が見られた。 B-1003-18 ポストラーバ幼生P4期から11日経過したポストラーバ幼生P15期の対照区では、下層において 全個体の69%が分布し、この内カラム底に60%が偏在した。実験区1(底層DO濃度:1.2-3.1mg/L)、 実験区2(底層DO濃度:1.3-2.7mg/L)、実験区3(底層DO濃度:1.3-2.3mg/L)では、下層の分布割合 がそれぞれ71.1、66.7、73.3%となり、3者に大きな違いは見られなかった。一方、実験区4(底層 DO濃度:1.2-1.7mg/L)では分布割合が41.9%と値の減少が見られた。 ポストラーバ幼生がカラム底に偏在することから、「底層」と「底層以外」の 2層に分け、対 照区と比較・検討した。その結果、ポストラーバ幼生の P4期は実験区2、実験区3、実験区4で対 照区と有意な差(P <0.05)が認められ、忌避するDO濃度の上限値として2.4~2.7mg/Lが得られた。 また、ポストラーバ幼生のP15期は実験区2のみで対照区と有意差(P <0.05)が認められたことから、 忌避濃度の上限値はDO 1.2~1.7mg/Lと考えられた。 図(1)-14 ヨシエビ幼生(ポストラーバ期 P4) における上層・中層・下層の分布割合 各実験区下の数値は底層のDO濃度(mgO2 /L) 図(1)-15 ヨシエビ幼生(ポストラーバ期 P15) における上層・中層・下層の分布割合 各実験区下の数値は底層のDO濃度(mgO2 /L) c サザエ稚貝(図(1)-16) 対照区では、カラム底から水面に向かって上方移動する稚貝が多く 、さらに水面の直上に分 布する個体も見られた。この傾向は総ての実験(対照区)において確認された。 DO濃度の鉛直 勾配をつけた実験区では、カラム底に留まる個体が増加するケース が見られ、1回目の実験区1(底 B-1003-19 層DO濃度: 1.1~2.2mg/L)では83.7%、2回目の実験区1(底層DO濃度:2.3~2.4mg/L)と実験区2(底 層DO濃度:1.6~1.7mg/L)ではそれぞれ全体の40.0%と55.7%がカラム底に分布した。一方、3回 目の実験区1(底層DO濃度:4.1~4.3mg/L)、実験区2(底層DO濃度:3.6~3.7mg/L)、実験区3(底層 DO濃度:2.4~3.0mg/L)におけるカラム底の分布割合は低下し、各々12.0、10.0、0%だった。な お、これら稚貝の生死を実験終了時に確認したところ、全実験において稚貝の生残が確認され た。そのため、死亡したためにカラム底から動かなかったのではないことがわかる。 稚貝の上方移動に及ぼす貧酸素水の影響を見るために「底層」と「底層以外」に分布した個 体に分け、対照区との有意差(P <0.05)を検討した。その結果、底層DO濃度 2.3~2.4mg/L以下で は貧酸素が上方運動を抑制することが示唆された。 図(1)-16 サザエ稚貝におけるカラム底の分布割合 本実験で得られた、ヨシエビ幼生のミシス期、ポストラーバ期各々の貧酸素忌避濃度を比較 したところ(表(1)-3)、ミシス幼生とポストラーバ幼生(P4)には大きな違いが見られなかった。 しかし、同じポストラーバ期であるP4期とP15期では明らかに差が見られ、成長による忌避濃度 の低下が認められた。大阪湾奥河口域に生息する稚ヨシエビ (体長40-72mm)は貧酸素耐性に優れ ていることが報告されており(Yamochi et al, 1995)、現地の状況と対応していた。このように、 ヨシエビ幼生はポストラーバ後期に忌避酸素濃度が小さくなり、底生期への移行が終了するに 合わせて貧酸素に対して強くなることが示唆された。 表(1)-3 アサリ、ヨシエビ幼生ならびにサザエ稚貝が忌避する DO濃度 アサリ幼生 ヨシエビ 幼生 サザエ稚貝 発育段階 アンボ期 ミシス期 P4期 P15期 稚貝 DO濃度上限値 2.6~2.7 2.1~2.6 2.4~2.7 1.2~1.7 2.3~2.4 B-1003-20 5.本研究により得られた成果 (1)科学的意義 今まで実際の海域におけるDOに対する生物の応答については不明な点が多く、特にDO耐性が 低いと考えられてきた生活史初期段階あるいは発生初期段階の個体に関する知見はほとんど無 かった。本研究によって、①貧酸素水塊の影響を調べるための流水式連続曝露試験装置を作製 し、試験プロトコルを提示することができた 。これにより、急性影響のほか、慢性影響や他の 有害因子との複合影響を調べることが、試験装置・手法の確立という意味で可能となった。ま た、②貧酸素水塊の影響を調べるための水柱実験装置も作製した。これにより、海産生物幼生・ 幼体の忌避行動等を調べる実験も可能となった。以上により、東京湾のマコガレイ(着底稚魚) と三河湾のアサリ(浮遊幼生と着底初期稚貝) 等を対象に実際に貧酸素耐性試験あるいは応答 試験を行い、データを獲得することができた点が、第一の科学的意義である。 また、三河湾の干潟生態系における鍵種であり、重要漁獲対象種でもあるアサリについて、 サブテーマ(2)において、発育初期段階である浮遊幼生の出現及び分布と現場DOとの関連に 関するフィールド調査データが得られたこと 、また、シリンダー実験(水柱試験)によって、 フィールド調査データの特徴を裏付けるような、 貧酸素水塊に遭遇した時のアサリ浮遊幼生の 挙動を明らかにしたことは、貧酸素水塊が底棲生物に与える影響を考慮する上できわめて重要 な科学的成果である。さらに、本研究によって、とりわけ、アサリ浮遊幼生を例に室内実験と 野外調査、及び数値モデルによるシミュレーションを組み合わせて、科学合理性のあるプロセ スを経て底層DOの環境基準値(試案)を導出・提示できたことは、単に科学的根拠を有する具 体的な基準値案を提示したことに留まらず、今後、さまざまな種に対する底層DOの環境基準値 案を科学合理的に導出するためのプロセスを構築できたという意味で、きわめて大きな科学的 且つ環境政策上の成果である。 (2)環境政策への貢献 <行政が既に活用した成果> 環境省の生活環境項目新規基準等検討会海域ワーキンググループ (WG)における下層DOの 環境基準案の検討において、本研究成果であるアサリに対する環境基準値(試案)の試算結果 を提示し、当該WGの報告書作成に貢献した。 <行政が活用することが見込まれる成果> 平成25年度(2013年度)中に透明度とともに新たな環境基準として導入される予定である底 層DO(下層DO)に関して、2010年3月に示された「閉鎖性海域中長期ビジョン」に沿って、環 境基準案が示されていないアサリに対するDO環境基準値導出に向けた考え方を整理し、生息域 の確保のための底層DO目標値と再生産の場の確保のための底層DO目標値として、それぞれ、2 mg/L及び3 mg/Lを導出した。すなわち、アサリを対象に、科学的根拠を有する環境基準値・目 標値の試案を提示することができた。 また、科学合理性のある底層DO環境基準値・目標値を導出するための方法論が構築された。 B-1003-21 換言すると、室内実験結果及びフィールド調査・観測結果を盛り込んだ数値モデルを用い ると いう、科学合理性のある底層DO環境基準値・目標値の導出手法を提示することができた。 また、海産生物幼生あるいは幼体の貧酸素水塊に対す る忌避行動に着目して、底層DOの保全 目標値に対する基礎的情報を提供することができた。 6.国際共同研究等の状況 特に記載すべき事項はない。 7.研究成果の発表状況 (1)誌上発表 <論文(査読あり)> 特に記載すべき事項はない。 <その他誌上発表(査読なし)> 1) 蒲原 聡・和久光靖・山田 智:愛知県水産試験場研究報告, 17: 27-30 (2012)「アサリ浮遊 幼生の貧酸素耐性」 (2)口頭発表(学会等) 1) 池田健・矢持進:日本土木学会関西支部(2011)「2010年大阪湾における貧酸素と海洋生物 幼体の貧酸素応答に関する研究」 2) 池田健・矢持進・睦谷一馬:日本水産学会近畿支部 (2011)「酸素・塩分勾配モデルを利用 した海洋生物幼体の貧酸素応答に関する検討」 3) 堀口敏宏・蒲原聡・山田智・和久光靖・岩田靖宏・石田基雄・鈴木輝明・白石寛明 :第21回 環境化学討論会(2012)「流水式曝露試験装置によるアサリ幼生及び稚貝の貧酸素耐性評価 」 (3)出願特許 特に記載すべき事項はない。 (4)シンポジウム、セミナー等の開催(主催のもの) 特に記載すべき事項はない。 (5)マスコミ等への公表・報道等 特に記載すべき事項はない。 (6)その他 特に記載すべき事項はない。 B-1003-22 8.引用文献 1) Coombs, S. H. (1981): A density-gradient column for determining the specific gravity of fish eggs, with particular reference to eggs of the mackerel Scomber scombrus. Mar. Biol., 63:101-106. 2) 堀口敏宏・蒲原聡・山田智・和久光靖・岩田靖宏・石田基雄・鈴木輝明・白石寛明( 2012): 流水式曝露試験装置によるアサリ幼生及び稚貝の貧酸素耐性評価, 第21回環境化学討論 会, 松山, 同講演要旨集. 3) 石田基雄・小笠原桃子・村上知里・桃井幹夫・市川哲也・鈴木輝明(2005):アサリ浮遊幼生 の成長に伴う塩分選択行動特性の変化と鉛直移動様式再現モデル, 水産海洋研究, 69(2):73-82. 4) 石居進(1985):生物統計学入門: 具体例による解説と演習, 培風館, pp.79-89. 5) 蒲原聡・和久光靖・山田智 (2012):アサリ浮遊幼生の貧酸素耐性. 愛知水試研報, 17:27-30. 6) 斉藤肇・中山和子・渡辺淳・村上知里・小山利郎・中村義治 (2002):ヤマトシジミCorbicula japonica 幼生の個体発生に伴う塩分選好性の変化に関する室内実験. 日本ベントス学会, 第16回大会要旨集, 17. 7) Tanaka, Y. (1990): Changes in the egg and larval densities of striped beakperch (Pisces; Oplegnathidae) during development, 近畿大農紀要, pp.19-24. 8) 田中祐志 (1991):魚卵・仔魚の比重変化と流れの構造に関連した分布・移動. 流れと生物と ―水産海洋学持論―, 川合英夫編, 京都大学学術出版会, 61-78. 9) 鳥羽光晴・深山義文(1992):アサリ産卵誘発方法の比較. 水産増殖, 40(3), 303-311. 10) 上妻智行 (1994):アサリ種苗生産における採卵および幼生飼育技術. 福岡水技研報, 2:67-77. 11) Yamochi, S., Ariyama, H., Sano, M. (1995): Occurrence and hypoxic tolerance of the juvenile Metapenaeus ensis at the mouth of the Yodo River, Osaka, Fisheries Science, 61(3):391-395. B-1003-23 (2) 貧酸素水塊が初期生活史段階の内湾代表種に及ぼす影響の解析と評価に関する研究 (独)国立環境研究所 愛知県水産試験場 環境リスク研究センター 生態系影響評価研究室 漁場環境部 愛知県水産試験場 堀口 敏宏 蒲原 聡 石田 基雄 (平成22、23年度) <研究協力者> 愛知県水産試験場 岩田靖宏、山田智、和久光靖、大橋昭彦、岩瀬重元、柘植朝太郎、 二ノ方圭介、中嶋康生、曽根亮太、戸田有泉 平成22~24年度累計予算額:30,285千円 (うち、平成24年度予算額:11,949千円) 予算額は、間接経費を含む。 [要旨] 「閉鎖性海域中長期ビジョン(2010年3月1日)」で底層の溶存酸素量(DO)が海産生物の棲 息に影響を与える主要要素の1つとされたが、魚介類の貧酸素耐性に関する情報が不足してい るため、実験による貧酸素耐性の把握と共に、フィールド調査による影響解析が必要である。 東京湾ではマコガレイの初期生活史調査と貧酸素水塊の影響解析を行った。 仔魚は内湾域の 10定点においてマル稚ネットの傾斜曳網により、稚魚は内湾域の 25定点においてソリネット及 び桁網により、それぞれ、採集した。調査定点ではCTD/DOロガーによる水温とDO濃度の観測 も行った。成魚の再生産特性データと横浜市漁業協同組合柴支所のマコガレイ漁獲統計資料に より、産卵量指数も推定した。産卵量指数、仔魚密度及び稚魚密度の量的関係と環境因子との 関係を調べ、仔稚魚の空間分布の時系列変化から貧酸素水塊が及ぼす影響を解析した。 アサリ浮遊幼生に及ぼす貧酸素水塊の影響を明らかにするため、初夏~秋季に毎月1回、三河 湾東部の渥美湾(湾奥~湾口にかけての4定点)でアサリ浮遊幼生の鉛直分布と貧酸素水塊との 関連を調査した。採集は水中ポンプを用い、 4~5層で採集し、同時にCTDにより、DO、水温、 塩分、クロロフィルaを測定した。また、貧酸素水塊が発達する夏季にA5地点において周日4時 間毎に4層から採集し、アサリ浮遊幼生の日周鉛直移動を調査した。アサリ浮遊幼生は貧酸素水 塊が未発達あるいは解消後に多く出現し、底層に多く分布した。一方、貧酸素水塊の発達期に は底層にはほとんど出現せず、水温・塩分躍層上の3mにピークが見られた。また、周日観測か ら、アンボ期~フルグロウン期の幼生は貧酸素水塊が未発達の時期には昼間底層に多く、深夜 ~明け方に表層へ移動する日周鉛直移動が観察された。 上記の諸結果を基に、東京湾のマコガレイ仔稚魚と三河湾のアサリ浮遊幼生の孵化後の漂 流・分散に関する数値モデルを作製し、貧酸素水塊の影響評価を試みた。また、アサリに対す る底層DO環境基準値(試案)を導出した。 [キーワード]マコガレイ仔稚魚、アサリ浮遊幼生、分布、時系列変化、数値モデル B-1003-24 1.はじめに 閉鎖性海域の水環境改善のため、既に30年間に亘って水質総量規制が実施されている。しか しながら、東京湾、伊勢湾・三河湾、瀬戸内海などの総量規制制度を導入している海域の環境 基準達成率は低い状況が続いている。中央環境審議会水環境部会の答申「第6次 水質総量規制 の在り方について(2005年2月)」においては、今後の総量規制推進のための課題として、「目 標とすべき水質の検討」を挙げた。すなわち、今までの5次にわたるCODの総量規制により、 COD負荷量が大幅に削減されてきているにもかかわらず、 COD環境基準の達成率が改善しない ことに対処するため、目標とすべき水質についてさらに検討を行う必要があることが指摘され た。 これを受けた「今後の閉鎖性海域対策に関する懇談会」では、今後の閉鎖性海域対策を検討 する上での論点整理(2007年3月)を行った。その結果、現在の環境基準であるCOD、T-N及びT-P については、汚濁負荷量の抑制により制御可能と考えられている指標であるが、生物生息環境 を直接的に表現する指標とは言い難いこと、また、目標とすべき海域の状態となる指標(状態 指標)と目標を達成するために抑制すべき指標(制御指標)とを分けて検討する必要があるこ とが指摘された。生物生息環境を表現する状態指標の候補としては、広く水棲生物の生息に影 響を与える主要な要素の一つと考えられる底層の溶存酸素量(底層DO)、及び水棲生物の育成 など浅海域における良好な環境条件を示し景観的な要素も併せて示す透明度を挙げた。 このため、今後の「第7次水質総量規制のあり方(2009年3月諮問)」の検討に資するため、 2008年度から、「閉鎖性海域中長期ビジョン策定に係る懇談会」を設置し、その中の目標設定 WGにおいて、底層DOならびに透明度の目標設定に関する検討を行ってきている。底層 DOの目 標設定においては、底層DO濃度の低下や欠乏による魚介類等の海産生物への悪影響を軽減し、 良好な海域環境を回復するための目標となる数値目標を設定すべく、魚介類の生息域確保や再 生産の場の確保、さらには無生物域の解消のため の必要なDO濃度を推定するために多数の文献 情報の収集と整理を行ってきた。その過程で下記のような問題に直面している。 (1)魚介類の貧酸素耐性(生息域確保)、幼稚仔の貧酸素耐性や成体の産卵行動への影響(再 生産確保)等の情報が不足しているとともに、DO基準値設定に適した標準的な実験方法が提案 されていない。 (2)CODやT-N、T-Pと異なり、DO目標は75%値や平均値での評価に適さないため、連続測定が 不可能な場合にその達成度を評価する手法が確立されていない。 したがって、統一的、かつ科学的な目標設定がきわめて困難な状況に直面しており、現状では 数多くの仮定や単純化によって目標を設定せざるを得ないとともに、その妥当性の評価も困難 な状況にある。 2.研究開発目的 上記の問題を解決するため、本研究では3つのサブテーマを設けて、科学的根拠に裏付けられ た底層DO目標値の導出と個体群に及ぼす影響の評価、水域区分の提案、並びにその達成度評価 のための手法開発に向けて研究を推進した。 本編では、サブテーマ(2)「貧酸素水塊が初期 生活史段階の内湾代表種に及ぼす影響の解析と評価に関する研究」について記述する。 B-1003-25 環境の変化に鋭敏に反応し、その後の個体数/資源量の減少に大きく寄与すると考えられる初 期生活史段階に着目し、貧酸素水塊が内湾代表種(マコガレイ、アサリ)に及ぼす影響をフィ ールドで調査し、データを解析する。また、サブテーマ(1)の当該データやこれまでに実施 されたフィールド調査・解析結果も含めて、貧酸素水塊が内湾代表種の初期生活史に及ぼす影 響を評価するための数値モデルを作製し、当該モデルによるシミュレーションを行い評価する。 最後に、アサリに対するDO環境基準値導出に向けた考え方を整理し、生息域の確保のための底 層DO目標値と再生産の場の確保のための底層DO目標値を試算する。 3.研究開発方法 貧酸素水塊が初期生活史段階の内湾代表種に及ぼす影響の解析と評価に向け、内湾代表種・ マコガレイとアサリの初期生活史段階に着目し、貧酸素水塊が及ぼす影響に関するフィールド 調査を、それぞれ、東京湾と三河湾で行い、データを解析した。また、東京湾のマコガレイと 三河湾のアサリが初期生活史段階で受ける影響を定量的に把握するため、東京湾と三河湾の流 動モデル・生態系モデルを利用してマコガレイ仔稚魚とアサリ浮遊幼生の孵化後の漂流・分散 と貧酸素水域への遭遇を再現する数値モデルを設計し、貧酸素水塊が及ぼす影響の定量評価を 試みた。その上で、アサリに対するDO環境基準値(試案)を導出した。 (1)東京湾のマコガレイに対するフィールド調査と解析 マコガレイ仔魚は2011年1~3月に内湾域の10定点においてマル稚ネットの傾斜曳網により採 集した。稚魚は内湾域の25定点において2010年3~10月にソリネット及び桁網により採集した(図 (2)-1)。仔稚魚の調査定点ではCTD/DOロガーによる水温とDO濃度の観測も行った。成魚の再生 産特性(生殖腺体指数[GSI]の経月変化、組織学的観察による生殖腺の発達と退行、生殖周期)と、 横浜市漁業協同組合柴支所のマコガレイ漁獲統計資料を用いて産卵量指数を推定した。2006年~ 2010年の調査結果も合わせて、産卵量指数、仔魚密度及び稚魚密度の量的関係と環境因子との関 係を調べ、仔稚魚の空間分布の時系列変化から貧酸素水塊が及ぼす影響を解析した。 仔魚調査定点 稚魚調査定点 図(2)-1 東京湾におけるマコガレイ仔魚及び稚魚の調査地点 B-1003-26 (2)三河湾のアサリに対するフィールド調査と解析 アサリ浮遊幼生は水中ポンプを用い、所定の水深 から200Lの海水を汲み上げ50μmのネットでろ過し 採集した。調査は2010~2012年の3年間行った。2010 A-10 年は6~10月、月1回、渥美湾奥~湾口にかけて4地 点を設定し、表層から海底直上(8~15m)までを A-5 3m間隔で採水した。2011、2012年は5~11月、月2 A-7 回、3地点(2011)および1地点(2012)で、3m(2011) および2m(2012)間隔で表層から海底直上までを採 水した(図(2)-2)。また、水中ポンプには多項目水 St18 質計を縛り付け採水中の深度、水温、塩分、クロロ フィルaおよび溶存酸素をモニターした。得られたプランクトン試料は濃縮・凍結保存し後日蛍 光抗体法によりアサリ浮遊幼生を同定、成長段階毎 図(2)-2 (D型期、アンボ期およびフルグロウン期)に計数 (2010: A10,A5,A7,St18) した。 (2011: A10,A5,St18; 2012: A5) アサリ浮遊幼生採集地点 溶存酸素のある6月(2010~2012年:A5)および 下層に貧酸素水塊が形成された7月(2012:A5)と9月(2011:A10)に4時間毎に上記採集を6 回行い、浮遊幼生の日周鉛直移動を観察した。また、 2012年の6,7月調査時に海水中から沈降 してくる浮遊幼生を捕集する目的で海底上に調査開始時にセジメントトラップを設置し調査終 了時に回収した。得られたサンプルは実験室に持ち帰った後、直ちに生死毎に二枚貝浮遊幼生 を選別・凍結保存し、後日上述の通り蛍光抗体法でアサリ浮遊幼生を検出した。 (3)数値モデルによる解析 1)東京湾におけるモデルを利用したマコガレイ仔稚魚に対する貧酸素化の影響調査 東京湾における仔稚魚漂流シミュレーションの根幹となる、東京湾の流動及び酸素環境を再 現するシミュレーションを行った。また、マコガレイ仔稚魚貧酸素影響モデルの開発にあたり 必要な知見やデータを収集し、マコガレイ仔稚魚の漂流過程及び酸素環境に対する応答をモデ ル化した。その上で、影響解析及び定量評価として、マコガレイ仔稚魚の産卵から着底生活ま での漂流シミュレーションを実施し、冬季高水温と貧酸素水塊による減耗を評価した。 2)三河湾におけるモデルを利用したアサリ浮遊幼生に対する貧酸素化の影響調査 三河湾におけるアサリ浮遊幼生の漂流シミュレーションの根幹となる、三河湾の流動 及び酸 素環境を再現するシミュレーションを行った。また、 アサリ浮遊幼生貧酸素影響モデルの開発 にあたり必要な知見やデータを収集し、アサリ浮遊幼生の漂流過程及び酸素環境に対する応答 をモデル化した。加えて、忌避応答など水柱実験で得られた低酸素環境に対する応答を組み込 み、アサリ浮遊幼生漂流モデルを改良した。その上で、アサリ浮遊幼生の孵化から着底までの 漂流シミュレーションを実施し、貧酸素水塊にさらされた場合の減耗を 影響解析として定量評 価した。これにより、アサリ浮遊幼生の漂流や貧酸素水塊による影響等の概要をとりまとめた。 B-1003-27 (4)アサリに対するDO環境基準値(試案)の導出 2010年3月に示された閉鎖性海域中長期ビジョンに沿って、アサリに対するDO環境基準値の 導出に向けた考え方を整理し、生息域の確保のための底層 DO目標値と再生産の場の確保のため の底層DO目標値を試算した。 4.結果及び考察 (1)東京湾のマコガレイに対するフィールド調査と解析 マコガレイに関して、産卵量(推定値)、仔魚密度及び稚魚密度の時空間分布データ(2006年 ~2010年)を解析した結果、産卵量は2005年~2007年に上昇傾向を示したが、2008年以降に減少 した。一方、仔稚魚の密度は2007年(2006年冬産卵由来)、2009年(2008年冬産卵由来)及び2010 年(2009年冬産卵由来)において著しく低かった。2007年、2009年及び2010年のふ化~浮遊仔魚 出現期における底層水温は2006年や2008年と比べて高く、このことが生活史初期の生残に影響し た可能性が示唆される。なお、2009年及び2010年の仔魚密度の低さは、産卵親魚の密度(資源量) の低下を反映している可能性もある。 仔稚魚の空間分布について、密度が著しく低かった2007年には明瞭な傾向は認められなかった。 一方、2006年と2008年には、仔魚は湾全域に出現し、湾北部において高密度であった。2009年及 び2010年には仔魚は総じて低密度であったが、2009年には湾北部で見られた(図(2)-3)。年変動 が大きいが、主な産卵場は湾北部にあると推察される。また、稚魚は、4月~5月に千葉県沿岸部 に分布量が多かった。夏期には貧酸素水塊の出現・拡大により稚魚の分布域は湾南部に制限され、 密度の低下もみられた(図(2)-4)。以上より、冬産卵のマコガレイには、冬期の水温、夏季の貧 酸素水塊の存在が当歳の加入量に影響する可能性が示唆された(図(2)-5、図(2)-6)。 B-1003-28 Individual m-3 仔魚の分布 × 0 >0 > 0 .01 > 0 .05 > 0 .50 北 2006 24 JAN 31 JAN 13 FEB 11 JAN 1 FEB 12 FEB 2007 0.15 8 MAR 0.10 2008 0.05 29 JAN 12 FEB 4 MAR 0 仔魚密度(ind. m-3) 南 2009 26 JAN 10 FEB 22 FEB 5 MAR 主な産卵場は 北側 2010 30 JAN 10 FEB 図(2)-3 20 FEB 東京湾におけるマコガレイ仔魚の空間分布 稚魚の分布 0-1 >1-2 ml L-1 >2 DO 13 JUN 13 MAY 22 APR 5 AUG 8 JUL Individual m-2 0 > 0 > 0.05 > 0.10 > 12 SEP 14 OCT 2006 25 MAR 4 MAR 21 MAR 11 APR 28 APR 4 JUL 30 MAY 12 MAY 6 JUN 8 AUG 15 JUL 21 JUL 10 OCT 12 SEP 15 SEP 25 AUG 6 OCT 2007 27 MAR 24 APR 10 APR 12 MAR 15 MAY 10 MAY 26 JUN 7 JUN 24 JUL 12 JUL 11 SEP 14 AUG 2 AUG 13 SEP 9 OCT 14 OCT 2008 22 MAR 25 MAR 25 MAR 18 APR 27 MAY 9 MAY 17 JUN 13 JUN 8 JUL 4 JUL 9 SEP 12 AUG 8 AUG 5 SEP 4 OCT 17 OCT 2009 28 MAR 21 APR 31 MAR 20 APR 19 MAY 15 MAY 16 JUN 12 JUN 14 JUL 24 JUL 25 AUG 15 SEP 11 SEP 7 AUG 31 OCT 9 OCT 2010 10 APR 6 APR 24 APR 29 MAY 15 JUN 13 JUL 10 AUG 14 SEP 12 OCT 夏季に形成される貧酸素水塊が稚魚の個体数密度および分布に 影響を与えていることが示唆された 図(2)-4 東京湾におけるマコガレイ稚魚の空間分布 B-1003-29 産卵量および仔稚魚個体数密度 2006 egg× 10 13 産卵量指数 60 40 20 0 2007 2005 2006 2007 2008 2009 12 月 上 旬 か ら 2 月 下 旬 ま で の 水 海温 上変 保化 安 庁千 よ葉 り灯 台 0 .06 . 3Indm 仔魚密度 0 .08 0 .04 0 .02 0 2006 2007 2008 2009 2010 0 .05 2008 1月データなし 2009 * Ind .m 2- 0 .03 ( 稚魚密度 0 .04 0 .02 0 .01 2010 ) 0 2006 2007 2008 2009 2010 年 東京湾産マコガレイの産卵量、仔魚及び稚魚密度の関係と千葉灯標における冬季水温 0 .6 2 00 6 2 00 7 2 00 8 2 00 9 2 01 0 0 .4 0 .2 0 6 8 10 12 表層と底層の平均水温(℃) 現場データ 14 各水温区における仔魚死亡率 60 ふ化から9 ふ化から9日まで 仔魚の死亡個体数 水温と仔魚密度との関係 仔魚密度 個体数 m - 3 図(2)-5 40 20 0 8 10 12 14 16 水温(℃) 室内実験データ 冬季の水温が仔魚個体数密度に影響を与えていることが示唆された 図(2)-6 マコガレイ仔魚の分布密度及び斃死に及ぼす水温の影響 B-1003-30 (2)三河湾のアサリに対するフィールド調査と解析 3年間の季節的出現傾向をみると、ほぼ同じパターンを示した。すなわち、5月~6月に春季及 び10月に秋季の大きな出現のピークがみられ、7月にも小さなピークが現れた。これらの出現を 三河湾での貧酸素水塊(溶存酸素飽和度が30%以下)面積の推移と合わせてみると春季のピーク は貧酸素水塊が発達する直前、秋季のピークは貧酸素水塊が解消した直後であり、貧酸素水 塊が 発達している夏季の出現は非常に少なかった。7月の小さなピークはその時の貧酸素水塊の発達 と反比例する傾向がみられた(図(2)-7)。また、春・秋季の大きなピークは初期幼生であるD型 H22 2010 300 3 ア サリ浮遊幼生(in ds/ m ) 2 10000 三河湾貧酸素水塊面積( km ) 幼生の大量出現によって形成されていた。 250 8000 200 6000 150 4000 100 2000 50 0 A10 A5 St.18 ≦ 30% 8000 6000 300 250 200 150 4000 100 2000 50 0 8000 A5 ≦ 30% 300 250 200 6000 150 4000 100 2000 50 0 *5月上旬 5月中旬 *5月下旬 *6月上旬 *6月中旬 6月下旬 *7月上旬 *7月中旬 7月下旬 *8月上旬 *8月中旬 8月下旬 *9月上旬 *9月中旬 9月下旬 *10月上旬 *10月中旬 10月下旬 *11月上旬 11月中旬 *11月下旬 0 2 H24 2012 三河湾貧酸素水塊面積(km ) 10000 3 ア サリ浮遊幼生(inds/m ) * 5 月上旬 * 5 月中旬 5 月下旬 * 6 月上旬 * 6 月中旬 6 月下旬 * 7 月上旬 7 月中旬 * 7 月下旬 * 8 月上旬 * 8 月中旬 8 月下旬 * 9 月上旬 * 9 月中旬 * 9 月下旬 1 0 月上旬 * 1 0 月中旬 1 0 月下旬 * 1 1 月上旬 1 1 月中旬 * 1 1 月下旬 0 2 2011 H23 3 ア サリ浮遊幼生(in ds/ m ) 10000 三河湾貧酸素水塊面積(km ) 6 月上旬 * 6 月中旬 6 月下旬 7 月上旬 * 7 月中旬 7 月下旬 8 月上旬 * 8 月中旬 8 月下旬 9 月上旬 * 9 月中旬 9 月下旬 1 0 月上旬 * 1 0 月中 1 0 月下旬 1 1 月上旬 0 A10 A5 A7 St.18 ≦ 30% 図(2)-7 各採集年におけるアサリ浮遊幼生出現個体数及び三河湾の貧酸素水塊面積の推移 B-1003-31 Jun. DO (mg/l) larvae (inds./m3) 0 0 12 0 0 3 3 3 6 6 6 9 9 9 12 12 12 15 15 15 0 5000 0 10000 3 6 9 600 1200 0 3 6 9 0 12 0 0 3 3 3 6 6 6 9 9 9 12 12 12 15 15 15 10000 9 12 5000 6 larvae (inds./m3) DO (mg/l) 200 400 A10 A5 A7 St18 15 9 6 12 図(2)-8 3 0 0 3 Aug. DO (mg/l) 0 0 Depth (m) Jul. larvae (inds./m3) 2010年6月~8月の三河湾の各地点におけるDO(左)およびアサリ浮遊幼生(右)の 鉛直分布(赤矢印:幼生の最多出現層 水色網掛け:貧酸素水塊(DO2mg/L以下)) 浮遊幼生の鉛直分布パターンは溶存酸素が底層まで十分にある5,6月は出現のピークが底層付 近にみられるか水柱全体に均一に分布した。しかし、夏季に下層で貧酸素水塊が形成されると出 現のピークは躍層上にみられ、貧酸素の層では出現しなか った(図(2)-8)。10月以降、貧酸素水 塊が解消すると徐々に下層へ分布するようになった。この様なパターンは3年間同じであった。 6月および7月と9月に行った昼夜観測では溶存酸素のある6月の観測ではいずれも昼間、底層に 多く、夜間に表層へ上昇する傾向がみられ、特に成長の進んだフルグロウン期で顕著だった。し かし、下層に貧酸素水塊が形成された7月と9月の調査では6月とは逆に昼間表層に多く、夜間分 布深度がやや深くなった。しかし底層の貧酸素水塊には出現しなかった(図(2)-9)。また、2012 年6,7月調査時に設置したセジメントトラップには7月にアサリ浮遊幼生死亡個体がm 2 当たり約 50個体存在した。これは同時に水柱内に2~5万個体/m 2 の幼生が出現したことに比べ、非常に少な かった。2012年度は貧酸素の発達が弱く、調査時の貧酸素層の厚さが海底上約 2mと丁度セジメン トトラップの口のあたりであったため、正確には評価できなかった 。 2011/9/28-29 (A10) 2010/6/21-22 12:00 16:00 20:00 0:00 4:00 8:00 0 分布中心深度 (m) 満潮 干潮 満潮 干潮 12:00 2 4 4 6 6 8 8 干潮 12 図(2)-9 D-sharped Umbo Full-Grown 0:00 4:00 8:00 0 2 10 20:00 16:00 満潮 干潮 DO:2mg/L 満潮 D-sharped Umbo Full-Grown 10 貧酸素水塊の無い6月(左)と貧酸素水塊が存在した9月(右)におけるアサリ 浮遊幼生発育段階毎の分布中心深度(網掛けは夜間) B-1003-32 (3)数値モデルによる解析 1)東京湾におけるモデルを利用したマコガレイ仔稚魚に対する貧酸素化の影響調査 影響解析及び定量評価 a a-1 計算条件 i) 計算ケース 別途構築したモデルを用いて、産卵・孵化からの漂流シミュレーションを実施した。計算は、 東京湾内の主要な産卵場を初期条件として、漂流先を予測する順追跡とした。東京湾の流れ場 および溶存酸素分布は、別途実施した東京湾における流動・生態系シミュレーション結果を利 用し、環境の違いによる斃死状況を検討するため、2006年と2007年の2ケース実施した。 ii) 初期配置 初期配置は、産卵場における底層とした(図(2)-10)。マコガレイ仔稚魚に見立てた粒子は、 500 m×500 mのメッシュ上に4個配置し、漂流開始時は底層(海底直上層)とした。また、1月 11日12時~31日12時まで、24時間ごとに孵化(計算開始)するように設定した。 iii) 行動様式(漂流水深) 行動様式の条件は、以下の通り。 ・ 孵化後 30 日間は受動的な漂流。 ・ 漂流開始 30 日後、底層漂流に移行。 ・ その後(稚魚)は底層漂流。 iv) 水温影響 水温影響は、孵化(漂流開始)から9日後までの仔魚に対し、24時間毎に 斃死率を判定する。 斃死した粒子は、その場で停止する。水温T(℃)に対する斃死率は以下の式に従う。 ・ 斃死率(%)= 100 1 + (T/10.22) - 6.0 v) DO影響 DO影響は、底層漂流に移行した稚魚に対し、24時間毎に斃死率を判定する。斃死した粒子は、 その場で停止する。DO(mg/L)に対する斃死率は以下の式に従う。 ・ 斃死率(%)= vi) その他の条件 100 1 + (DO/1.55) 24.69 B-1003-33 タイムステップは 60 秒とし、各年 10 月 31 日 24 時まで計算を実施した。粒子の色分けは、 以下の通り。 ・ 漂流 → 粒子色● ・ 湾外へ流出(境界上に停止)、海岸近くなどで停止 ・ 水温影響により斃死 ・ DO 影響による斃死 → → → 粒子色● 粒子色● 粒子色● 図(2)-10 粒子の初期配置 B-1003-34 a-2 計算結果 i) 可視化 漂流開始日から終了するまで、CGアニメーションを作成した。また、漂流開始から終了まで の計算結果(CGアニメーション)から、1月は5日ごと、それ以外は10日ごとの漂流分布を抜粋 したものについて、2006年を図(2)-11に、2007年を図(2)-12にそれぞれ示した。 ii) 存在割合 粒子の存在割合について、時系列グラフを作成し、2006年を図(2)-13に、2007年を図(2)-14に それぞれ示した。このように時系列にまとめることにより、どのような時期に湾外に流出して いるのか、水温の影響を受けて斃死しているのか、貧酸素の影響を受けて斃死しているのかを 確認する事ができる。 次に、初期配置した全粒子数に対する、水温および貧酸素影響を受けないで漂流終了した粒 子、停止(東京湾外へ流出 or 海岸近く)した粒子、水温影響を受けて斃死した粒子および貧酸 素影響を受けて斃死した粒子の割合を算出し、図(2)-15に示した。これによると、水温影響を受 け斃死した粒子に着目すると2006年は80.4 %、2007年は85.5 %となり、ほとんどが孵化した直後 の1月に斃死した。一方、貧酸素影響を受け斃死した粒子に着目すると2006年は1.3 %、2007年は 0 %となり、貧酸素水塊に発達に応じて6~9月に斃死した。また、湾外流出する粒子も孵化直後 の1月に集中しており、2007年は2月5日の時点で全ての粒子が 斃死もしくは停止してしまった。 最終的に湾内で漂流終了した粒子は、2006年でわずか0.3 %であった。 これらの斃死率となった水温と溶存酸素濃度を算定するため、水温および貧酸素影響により 斃死の判定を受けた幼生の水深と水温、水深とDO濃度をプロットし、図(2)-16に示した。これ によると、2007年の水温は2006年と比較して2 ℃程度高く、結果として水温影響による斃死率 が高くなったものと考察される。 B-1003-35 図(2)-11 2006年の漂流計算結果 B-1003-36 図(2)-11 (続き) 2006年の漂流計算結果 B-1003-37 図(2)-11 (続き) 2006年の漂流計算結果 B-1003-38 図(2)-11 (続き) 2006年の漂流計算結果 B-1003-39 図(2)-11 (続き) 2006年の漂流計算結果 B-1003-40 図(2)-11 (続き) 2006年の漂流計算結果 B-1003-41 図(2)-12 2007年の漂流計算結果 B-1003-42 図(2)-12 (続き) 2007年の漂流計算結果 B-1003-43 図(2)-12 (続き) 2007年の漂流計算結果 B-1003-44 図(2)-12 (続き) 2007年の漂流計算結果 B-1003-45 図(2)-12 (続き) 2007年の漂流計算結果 B-1003-46 図(2)-12 (続き) 2007年の漂流計算結果 B-1003-47 3000 ● 漂流(水温と貧酸素の影響を受けない) 2500 粒子数 2000 1500 1000 500 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 100 ● 停止(湾外流出 or 海岸近く) 80 粒子数 60 40 20 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 1200 ● 水温影響により斃死 1000 600 400 200 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 50 ● 貧酸素影響による斃死 40 粒子数 粒子数 800 30 20 10 0 1月 2月 3月 図(2)-13 4月 5月 6月 7月 各粒子数の時系列変化(2006年) 8月 9月 10月 B-1003-48 3000 ● 漂流(水温と貧酸素の影響を受けない) 2500 粒子数 2000 1500 1000 500 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 100 ● 停止(湾外流出 or 海岸近く) 80 粒子数 60 40 20 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 1200 ● 水温影響により斃死 1000 600 400 200 0 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 50 ● 貧酸素影響による斃死 40 粒子数 粒子数 800 30 20 10 0 1月 2月 3月 図(2)-14 4月 5月 6月 7月 各粒子数の時系列変化(2007年) 8月 9月 10月 B-1003-49 100 2006年 1.3 存在割合(%) 80 60 40 80.4 0.8 20 17.2 0.3 0 生存 へい死 100 2007年 0.0 存在割合(%) 80 60 40 85.5 20 0.4 14.1 0.0 0 生存 図(2)-15 漂流終了, へい死 最終時刻の存在割合 停止(湾外流出) , 斃死(水温影響) , 停止(海岸近く) , 斃死(貧酸素影響). B-1003-50 [ 2006年 ] 平均10.1 ℃ 平均1.4 mg/L [ 2007年 ] 平均13.2 ℃ 図(2)-16 漂流中に斃死の判定を受けた幼生の水深と水温およびDO濃度 マコガレイ仔稚魚モデル解析 b b-1 東京湾における流動・生態系シミュレーション マコガレイ仔稚魚漂流シミュレーションの根幹となる、東京湾の流動および酸素環境を再現 するシミュレーションを行った。 i) 入力データの作成 B-1003-51 シミュレーションに必要なデータを収集・整理し、入力データを作成した。 ii) 流動シミュレーション 東京湾全体を対象とした流動シミュレーションを実施し、 2006~2007年における東京湾の流 れ場および水温・塩分分布を再現した。 iii) 生態系シミュレーション 東京湾全体を対象とした水質生態系シミュレーションを実施し、2006~2007年における東京 湾の水質(特に溶存酸素分布)を再現した。 マコガレイ仔稚魚貧酸素影響モデルの開発 b-2 モデル開発にあたり必要な知見やデータを収集し、マコガレイ仔稚魚の漂流過程及び酸素環 境に対する応答をモデル化するとともに、試計算による応答確認を行った i) 文献調査 マコガレイの初期生活史や、海域の酸素環境の変化が仔稚魚に与える影響などについて文献 調査を行い、過去の知見を整理した。 ii) DO 耐性を考慮した漂流モデルの開発 アサリ浮遊幼生の漂流モデルを基本とし、マコガレイ仔稚魚の移動を考慮した漂流モデルを 開発した。DO耐性実験による結果を利用して、貧酸素に対する応答をモデル化した。水温耐性 実験による結果を利用して、水温に対する応答をモデル化した。 iii) モデルの応答確認 構築した漂流モデルのモデル機能の応答確認をするための試計算を実施した。 b-3 マコガレイ仔稚魚に対する貧酸素化の影響調査 開発されたマコガレイ仔稚魚貧酸素影響モデルを用いて、産卵から着底生活までの漂流シミ ュレーションを実施し、貧酸素水塊による影響について評価した。 ・ 水温影響を受け斃死した粒子は、2006 年は 80.4 %、2007 年は 85.5 %。ほとんどが孵化し た直後の 1 月に斃死した。 ・ 貧酸素影響を受け斃死した粒子は、2006 年は 1.3 %、2007 年は 0 %。貧酸素水塊に発達に 応じて 6~9 月に斃死した。 ・ 湾外流出する粒子は、孵化直後の 1 月に集中しており、2007 年は 2 月 5 日の時点で全ての 粒子が斃死もしくは停止した。 ・ 最終的に湾内で漂流終了した粒子は、2006 年でわずか 0.3 %であった。 ・ 2007 年の水温は 2006 年と比較して 2 ℃程度高く、結果として水温影響による斃死率が高 くなった。 B-1003-52 2)三河湾におけるモデルを利用したアサリ浮遊幼生に対する貧酸素化の影響調査 a アサリ浮遊幼生漂流モデルの改良 a-1 斃死率の近似 i) 水柱実験による貧酸素応答試験 アサリ浮遊幼生が貧酸素水に遭遇したときにどうなるのかを明らかにするために、実験室に おいて貧酸素状態を作成した水柱を用いて、幼生の貧酸素水に対する応答を観察した。なお、 この水柱は、水深 10m の三河湾海域の鉛直方向の縮小版ではなく、あくまで、浮遊幼生が貧酸 素水に遭遇したときの応答をみるためのものである。そのため、浮遊幼生が選択する 塩分層を 貧酸素化させて、浮遊幼生を貧酸素水に遭遇させる設定とした。 その結果、水柱において酸素濃度が低いほど、高率で遊泳を停止して沈降し、沈降中の 斃死 率も高いことが分かり、酸素濃度に対する沈降率および沈降中の 斃死率を定式化することが可 能となった(図(2)-17)。 [アンボ期] 100 80 80 80 60 60 60 40 沈降率(%) 100 40 20 20 0 1 2 3 DO(mg/L) 4 5 6 40 20 0 0 0 0 1 2 3 DO(mg/L) 4 5 6 100 100 80 80 80 60 40 20 沈降中へい死率(%) 100 沈降中へい死率(%) 沈降中へい死率(%) [フルグロウン期] 100 沈降率(%) 沈降率(%) [D 状期] 60 40 20 0 1 2 3 DO(mg/L) 図(2)-17 4 5 6 1 2 3 DO(mg/L) 4 5 6 0 1 2 3 DO(mg/L) 4 5 6 60 40 20 0 0 0 0 0 1 2 3 DO(mg/L) 4 5 6 各成長段階の DO に応答した沈降率および沈降中に占める斃死率 B-1003-53 ii) 沈降率と沈降個体中の斃死率の近似 水柱実験による結果(図(2)-17)を用いて近似式を算定するが、実験区のコントロール値は 酸素影響による沈降・斃死ではないものとし、かさ上げ分を差し引いた値により近似式を算出 した(図(2)-18)。 [アンボ期] 100 80 80 80 60 60 60 40 沈降率(%) 100 20 40 20 0 1 2 3 DO(mg/L) 100 100 1 + (DO/1.26) 4 5 6 0 0 1 2 3 DO(mg/L) 100 100 1 + (DO/1.45) 5.16 4 5 6 0 3.88 40 20 60 40 20 0 1 2 3 DO(mg/L) 100 1 + (DO/1.88) 4 1.60 図(2)-18 5 6 3 DO(mg/L) 4 5 6 5 6 5.17 60 40 20 0 0 2 80 沈降中へい死率(%) 60 1 100 100 1 + (DO/1.43) 80 沈降中へい死率(%) 80 40 20 0 0 沈降中へい死率(%) [フルグロウン期] 100 沈降率(%) 沈降率(%) [D 状期] 0 0 1 2 3 DO(mg/L) 4 5 100 3.40 1 +図(DO/0.78) 2.2 水柱実験よ 6 0 1 2 3 DO(mg/L) 100 1 + (DO/0.49) 水柱実験より近似した沈降率と沈降個体中の斃死率 4 1.59 B-1003-54 a-2 モデルの改良 以下の条件により、浮遊幼生を受動漂流させ、貧酸素水に遭遇した個体のみ酸素濃度に対応 した応答を示す設定とした。アサリ浮遊幼生貧酸素影響モデルの模式図を、図(2)-19 に示した。 i) 酸素応答の時間間隔 昨年度までのモデルでは、タイムステップ(60 秒)毎に酸素応答(沈降するか否か)を判断 していたが、シリンダー試験による目視結果( 3 時間程度で分布が形成された)より、酸素応 答は 3 時間毎に変更した。 → 3 時間毎に DO に対する沈降率を判定し、沈降する幼生と沈降しない幼生に分ける。 ii) 忌避行動 昨年度までのモデルでは、沈降しない幼生は 10 cm/min で上昇(1 タイムステップで 10 cm 上昇)することにしていたが、この条件を削除した。 → 沈降しない幼生はそのまま受動漂流。 iii) 沈降する幼生 昨年度までのモデルでは、沈降した幼生はすべて 斃死することにしていたが、シリンダー試 験による沈降中に占める斃死率を適用するように変更しした。なお、動物プランクトンの沈降 速度は約 100 m/day であり、水深 10~20 m の三河湾では 2~3 時間で海底に達することになる。 これは、Stokes の式に従っても同様であり、今回のモデルでは沈降する幼生は 1 ステップで底 層に達するものとした。 → 沈降した幼生について、DO に対する沈降中に占める斃死率を判定し、斃死する幼生としな い幼生に分ける。斃死しない幼生は底層から受動漂流させる。 iv) 酸素応答を受ける上限値 酸素応答を受ける上限値を、セジメントトラップ実験による沈降幼生の存在しなかった 6 月 の平均値(6.67 mg/L)未満に設定した。これは、渥美湾における成層期の DO 濃度の平均値(6.5 mg/L)とも類似している。 → DO<6.67 mg/L の時、酸素応答を判断する。 B-1003-55 100-Rsed(%) 底層へ沈降 受動漂流 Rsed(%) 受動漂流 100-Rmot(%) Rmot(%) へい死 図(2)-19 アサリ浮遊幼生貧酸素影響モデルの模式図 ・ Rsed は DO に対する沈降率(%) ・ Rmot は DO に対する沈降中に占める斃死率(%) ・ DO は、沈降前水深の DO(Rsed を判定した DO)。 ・ 酸素応答は 3 時間に一度、DO<6.67 mg/L の時。 ・ v) その他の条件 孵化(100 μm)、産卵後表層浮上(水深 1 m に初期配置)。 ・ 漂流開始時の水温を成長速度に適用して、各個体群の漂流期間を決定。 ・ D 状期(~130 μm)。 ・ アンボ期(130~180 μm)。 ・ フルグロウン期(180 μm~)、230 μm になった時点で漂流終了。 B-1003-56 b 影響解析及び定量評価 b-1 計算条件 i) 初期配置 ・ 一色干潟周辺海域、渥美湾北部海域および福江湾海域の 5 m 以浅(図(2)-20) ・ 500 m×500 m のメッシュ上に 25 個の幼生に見立てた粒子を配置(100 個/km 2 ) ・ 表層(水深 1 m)に配置 一色干潟周辺海域 (粒子数3650) 渥美湾北部海域 (粒子数1125) 図(2)-20 福江湾海域 (粒子数1325) 粒子の初期配置 ii) 計算ケース ・ 2006 年 6 月 2 日 12 時開始 ・ 2006 年 7 月 2 日 12 時開始 ・ 2010 年 6 月 2 日 12 時開始 ・ 2010 年 7 月 2 日 12 時開始 (貧酸素状況は図(2)-21参照) iii) 粒子の色 ・ 漂流 → 粒子色● ・ 漂流終了(230 μm) → 粒子色● ・ 湾外へ流出(境界上に停止)、海岸近くなどで停止 ・ 貧酸素影響(沈降) → 粒子色● ・ 貧酸素影響(死亡) → 粒子色● → 粒子色● B-1003-57 [ 2006 年 ] 6/1 5 10 15 20 25 30 0m (mg/L) 5m 10 m 7/1 5 10 15 20 25 30 0m (mg/L) 5m 10 m [ 2010 年 ] 6/1 5 10 15 20 25 30 0m (mg/L) 5m 10 m 7/1 5 10 15 20 25 30 0m (mg/L) 5m 10 m 図(2)-21 シミュレーション結果より渥美湾(A-5地点)におけるDO変動 B-1003-58 b-2 計算結果 i) 可視化 漂流開始日から全ての粒子が漂流終了するまで、CGアニメーションを作成した。また、2006 年の計算結果(CGアニメーション)から、約2日ごとの漂流分布を抜粋したものについて、図(2)-22 ~図(2)-27にそれぞれ示した。 B-1003-59 図(2)-22 一色干潟周辺海域からの漂流計算結果(2006年6月) B-1003-60 図(2)-22 (続き) 一色干潟周辺海域からの漂流計算結果(2006年6月) B-1003-61 図(2)-22 (続き) 一色干潟周辺海域からの漂流計算結果(2006年6月) B-1003-62 図(2)-23 渥美湾北部海域からの漂流計算結果(2006年6月) B-1003-63 図(2)-23 (続き) 渥美湾北部海域からの漂流計算結果(2006年6月) B-1003-64 図(2)-23 (続き) 渥美湾北部海域からの漂流計算結果(2006年6月) B-1003-65 図(2)-24 福江湾海域からの漂流計算結果(2006年6月) B-1003-66 図(2)-24 (続き) 福江湾海域からの漂流計算結果(2006年6月) B-1003-67 図(2)-24 (続き) 福江湾海域からの漂流計算結果(2006年6月) B-1003-68 図(2)-25 一色干潟周辺海域からの漂流計算結果(2006年7月) B-1003-69 図(2)-25 (続き) 一色干潟周辺海域からの漂流計算結果(2006年7月) B-1003-70 図(2)-26 渥美湾北部海域からの漂流計算結果(2006年7月) B-1003-71 図(2)-26 (続き) 渥美湾北部海域からの漂流計算結果(2006年7月) B-1003-72 図(2)-27 福江湾海域からの漂流計算結果(2006年7月) B-1003-73 図(2)-27 (続き) 福江湾海域からの漂流計算結果(2006年7月) B-1003-74 ii) 存在割合 初期配置した全幼生数に対する、貧酸素影響を受けて沈降 斃死した幼生、沈降したが斃死し なかった幼生、貧酸素影響を受けないで漂流終了した幼生、および湾外へ流出した幼生の割合 を算出した(図(2)-28)。 [ 2006 年 6 月 ] 存在割合(%) 100 4.2 80 60 42.1 67.6 72.8 40 20 0 44.3 22.6 6.2 16.8 5.0 4.8 一色干潟 渥美湾北部 6.5 7.1 斃死率 平均9.6 % 福江湾 [ 2006 年 7 月 ] 存在割合(%) 100 12.6 80 60 49.9 69.5 78.1 40 35.8 20 0 22.5 1.2 8.1 2.4 5.7 一色干潟 渥美湾北部 図(2)-28-1 沈降斃死, 5.7 8.5 福江湾 漂流最終時刻の存在割合(2006年) 沈降生存, 漂流終了, 湾外流出. 斃死率 平均7.4 % B-1003-75 [ 2010 年 6 月 ] 存在割合(%) 100 5.4 30.5 80 57.8 60 81.9 47.3 40 20 0 37.4 11.5 1.2 4.3 0.5 一色干潟 渥美湾北部 20.3 1.9 斃死率 平均1.2 % 福江湾 [ 2010 年 7 月 ] 存在割合(%) 100 80 3.5 32.5 47.7 60 40 82.3 39.7 26.9 20 0 34.6 5.8 8.4 8.1 4.5 一色干潟 渥美湾北部 図(2)-28-2 沈降斃死, 5.9 福江湾 漂流最終時刻の存在割合(2010年) 沈降生存, 漂流終了, 湾外流出. 斃死率 平均6.3 % B-1003-76 次に、湾外流出を除いた幼生による割合についても算出した(図(2)-29)。斃死率は湾内に存 在している幼生により算出することとし、これを現況における斃死率とした。これによると、 貧酸素化が顕著であった2006年の方が、貧酸素化があまり強くない2010年と比較して、斃死率 が高かった。また、貧酸素化が強い7月の方が、6月よりも斃死率が高いが、2006年7月のように 貧酸素化が顕著で上下層間の躍層が強くなると、ほとんどの幼生は表層付近を漂流するため下 層に沈降しない結果となった。 [ 2006 年 6 月 ] 存在割合(%) 100 80 60 69.8 76.0 15.5 6.5 14.8 17.5 76.5 40 20 11.2 12.3 0 一色干潟 渥美湾北部 斃死率 平均14.9 % 福江湾 [ 2006 年 7 月 ] 存在割合(%) 100 80 71.5 73.5 60 89.4 40 11.4 7.9 20 1.3 9.3 18.6 0 一色干潟 図(2)-29-1 渥美湾北部 17.0 斃死率 平均15.0 % 福江湾 湾外流出を除いた漂流最終時刻の存在割合(2006年) 沈降斃死, 沈降生存, 漂流終了. B-1003-77 [ 2010 年 6 月 ] 存在割合(%) 100 80 68.1 60 88.6 86.6 10.3 1.1 12.1 1.3 40 20 0 一色干潟 29.2 2.7 渥美湾北部 斃死率 平均1.7 % 福江湾 [ 2010 年 7 月 ] 存在割合(%) 100 80 51.3 75.9 60 85.3 40 39.9 20 15.5 6.0 8.7 8.6 0 一色干潟 図(2)-29-2 渥美湾北部 8.7 斃死率 平均8.7 % 福江湾 湾外流出を除いた漂流最終時刻の存在割合(2010年) 沈降斃死, 沈降生存, 漂流終了. 最終的に図(2)-29の斃死率となった溶存酸素濃度を算定するため、貧酸素影響により沈降また は沈降斃死の判定を受けた幼生の水深とDO濃度をプロットした(図(2)-30)。これらのDO濃度 の平均値を、貧酸素影響を受けた水塊中のDO濃度とした。 B-1003-78 [2006 年 6 月] 図(2)-30-1 [2006 年 7 月] ● + ● 平均:2.2 mg/L ● + ● 平均:2.2 mg/L ● + ● 平均:1.8 mg/L ● + ● 平均:2.0 mg/L ● + ● 平均:2.1 mg/L ● + ● 平均:2.3 mg/L 漂流中に沈降または沈降斃死の判定を受けた幼生の水深とDO濃度(2006年) ●沈降斃死、●沈降のみ. B-1003-79 [2010 年 6 月] 図(2)-30-2 [2010 年 7 月] ● + ● 平均:3.8 mg/L ● + ● 平均:2.5 mg/L ● + ● 平均:3.5 mg/L ● + ● 平均:2.2 mg/L ● + ● 平均:4.1 mg/L ● + ● 平均:2.9 mg/L 漂流中に沈降または沈降斃死の判定を受けた幼生の水深とDO濃度(2010年) ●沈降斃死、●沈降のみ. B-1003-80 iii) 斃死率5 %を下回るDO濃度の推定 ここでは、DO環境の違いによる斃死率の変化を試算するため、現況(2006年)に対しDO濃度 を+0.5、+1.0、+1.5、+2.0 mg/Lとした場合(全メッシュ、全期間)の計算を実施し、 5 %の斃死 が生じるDO濃度を推定した(図(2)-31)。各グラフ下に表示した水塊とは、図(2)-30により算定 された貧酸素影響を受けたDO濃度で、底層とはその時の最下層のDO濃度を示している。 へい死率(%) 20 一色干潟 2006年6月 14.8 15 9.3 10 3.1 mg/L 2.8 mg/L 3.8 5 1.0 0.6 0 現況 水塊 底層 20 2.2 1.9 DO+0.5 DO+1.0 DO+1.5 2.7 2.4 3.2 2.9 3.7 3.4 DO+2.0 4.2 mg/L 3.9 mg/L 18.6 へい死率(%) 一色干潟 2006年7月 14.2 15 9.5 10 3.7 mg/L 3.1 mg/L 4.9 5 2.4 0 現況 水塊 底層 図(2)-31-1 2.2 1.6 DO+0.5 DO+1.0 DO+1.5 2.7 2.1 3.2 2.6 3.7 3.1 DO+2.0 4.2 mg/L 3.6 mg/L DO+計算による最終時刻の斃死率(一色干潟周辺海域2006年) B-1003-81 へい死率(%) 20 17.5 15 渥美湾北部 2006年6月 12.7 2.9 mg/L 2.6 mg/L 10 5.9 5 1.6 0.4 0 現況 水塊 底層 1.8 1.5 DO+0.5 DO+1.0 DO+1.5 2.3 2.0 2.8 2.5 3.3 3.0 DO+2.0 3.8 mg/L 3.5 mg/L 20 へい死率(%) 渥美湾北部 2006年7月 15 10 2.6 mg/L 1.7 mg/L 9.3 5.4 5 2.6 0.8 0 現況 水塊 底層 図(2)-31-2 2.0 1.1 DO+0.5 DO+1.0 DO+1.5 2.5 1.6 3.0 2.1 3.5 2.6 0.1 DO+2.0 4.0 mg/L 3.1 mg/L DO+計算による最終時刻の斃死率(渥美湾北部海域2006年) B-1003-82 20 へい死率(%) 福江湾 2006年6月 15 12.3 10 8.2 2.9 mg/L 2.7 mg/L 5 2.7 1.1 0 現況 水塊 底層 へい死率(%) 20 2.1 1.9 DO+0.5 DO+1.0 DO+1.5 2.6 2.4 3.1 2.9 17.0 3.6 3.4 0.1 DO+2.0 4.1 mg/L 3.9 mg/L 福江湾 2006年7月 15 10.1 10 3.3 mg/L 2.8 mg/L 4.7 5 1.0 0.3 0 現況 水塊 底層 図(2)-31-3 2.3 1.8 DO+0.5 DO+1.0 DO+1.5 2.8 2.3 3.3 2.8 3.8 3.3 DO+2.0 4.3 mg/L 3.8 mg/L DO+計算による最終時刻の斃死率(福江湾海域2006年) 貧酸素影響を受けるDO濃度を現況濃度として、斃死率5 %となるDO濃度を推定すると、水塊 濃度では2.6~3.7 mg/Lとなり、平均3.1 mg/Lである。また、底層濃度では1.7~3.1 mg/Lとなり、 平均2.6 mg/Lである。 2010年の検討は行っていないが、図(2)-29-2や図(2)-30-2によると、2010年6月は現況で斃死率 が全て5 %を下回っており、その時のDO濃度は3 mg/L以上であった。 4) 浮遊幼生漂流シミュレーション結果の妥当性 シミュレーション結果については、現状の観測データと比較検証する必要があるが、三河湾 B-1003-83 におけるアサリ浮遊幼生は春から秋にかけて絶えず産卵・出現していることが知られており、 個体群全てを捉えることは計算では不可能であるため、ここでは定性的 な比較を行った。 2010年のフィールド調査の結果を、図(2)-32に示した。これによると、6月の酸素がある時期 には幼生は底層にも分布しているが、7月の貧酸素時には上層に分布している。一方、2010年の シミュレーション結果より、貧酸素影響を受けない幼生について漂流水深のイソプレットと DO 濃度とを比較した(図(2)-33)。それによると、観測と同様の傾向がみられることがわかり、シ ミュレーションでも底層まで酸素がある時は、比較的鉛直的にも広く幼生は分布するが、貧酸 素水塊が強くなってくると、表層に近い水深に固まっ ている結果となった。 A-10 A-5 A-7 St18 [ 6月14日 ] DO (mg/l) 0 A10 A5 A7 St18 3 6 15 Larvae (ind./m3) 12 0 3000 6000 9000 Larvae (ind./m3) DO (mg/l) 0 3 6 9 12 0 0 0 0 0 3 3 3 3 6 6 6 6 9 9 9 9 12 12 12 12 15 15 15 15 図(2)-32 12 9 [ 7月20日 ] 2010年6月と7月における三河湾奥部の調査結果 400 800 1200 B-1003-84 6/1 5 10 15 20 25 30 0m DO (mg/L) 5m 10 m 6/1 5 10 15 20 25 30 0m (個) 5m 10 m 7/1 5 10 15 20 25 30 0m DO (mg/L) 5m 10 m 6/1 5 10 15 20 25 30 0m (個) 5m 10 m 図(2)-33 A-5地点の計算DOと生存幼生の漂流水深(渥美湾北部のケース) B-1003-85 アサリ浮遊幼生モデル解析 c c-1 三河湾における流動・生態系シミュレーション アサリ浮遊幼生漂流シミュレーションの根幹となる、三河湾の流動および酸素環境を再現す るシミュレーションを行った。 i) 入力データの作成 シミュレーションに必要なデータを収集・整理し、入力データを作成した。 ii) 流動シミュレーション 三河湾全体を対象とした流動シミュレーションを実施し、 2006年と2010年における三河湾の 流れ場および水温・塩分分布を再現した。 iii) 生態系シミュレーション 三河湾全体を対象とした水質生態系シミュレーションを実施し、 2006年と2010年における三 河湾の水質(特に溶存酸素分布)を再現した。 c-2 アサリ浮遊幼生貧酸素影響モデルの開発 モデル開発にあたり必要な知見やデータを収集し、アサリ浮遊幼生の漂流過程及び酸素環境 に対する応答をモデル化した。 i) 文献調査 海域の酸素環境の変化が浮遊幼生に与える影響など、 DO耐性に関する文献調査を行い、過去 の知見を整理した。 ii) 酸素環境に対する応答のモデル化 水柱実験による貧酸素応答試験による結果を利用し、酸素環境に対する応答をモデル化して 漂流モデルに組み込んだ。 iii) モデルの応答確認 構築した漂流モデルのモデル機能の応答確認をするための試計算を実施した。 c-3 アサリ浮遊幼生に対する貧酸素化の影響調査 開発されたアサリ浮遊幼生貧酸素影響モデルを用いて、孵化から着底までの漂 流シミュレー ションを実施し、貧酸素水塊にさらされた場合の減耗を評価した。 ・ 湾外流出を除いた漂流最終時刻の斃死率は、2006 年 6 月は 14.9 %、2006 年 7 月は 15.0 %、 2010 年 6 月は 1.7 %、2010 年 7 月は 8.7 %であった。貧酸素化が顕著であった 2006 年の方が、 貧酸素化があまり強くない 2010 年と比較して、斃死率が高い結果となった。また、貧酸素化 が強い 7 月の方が 6 月よりも斃死率が高い傾向にあるが、2006 年 7 月のように貧酸素化が顕 著で上下層間の躍層が強くなると、ほとんどの幼生は表層付近を漂 流するため下層に沈降し ない結果となった。 ・ 貧酸素影響を受ける DO 濃度を現況濃度として、斃死率 5 %となる DO 濃度を推定すると、 B-1003-86 水塊濃度では 2.6~3.7 mg/L となり、平均 3.1 mg/L であった。また、底層濃度では 1.7~3.1 mg/L となり、平均 2.6 mg/L であった。 (4)アサリに対するDO環境基準値(試案)の導出 2010年3月に示された閉鎖性海域中長期ビジョンに沿って(図(2)-34)、アサリに対するDO環 境基準値導出に向けた考え方を整理し(図(2)-35)、生息域の確保のための底層DO目標値と再 生産の場の確保のための底層DO目標値を試算した。前述(サブテーマ(1))の室内実験結果 に基づき、アサリ幼生に対するDOの5%致死濃度(LC5 )は概ね1 mg/Lと推定された(図(2)-36)。 しかし、DOが1 mg/L以下では硫化水素による複合的な影響も危惧される。一方、現時点ではア サリの浮遊幼生や着底初期稚貝に対する硫化水素の影響は不明であるため、生息域の確保のた めの底層DO目標値として2 mg/Lを提案する。また、前述の数値モデルによる、三河湾における アサリ浮遊幼生に対する貧酸素化の影響調査 の結果から、再生産の場の確保のための底層DO目 標値として3 mg/Lを提案する。 閉鎖性海域中長期ビジョン (2010年3月) 魚介類の生息域の確保のための底層DO目標 ← 未 成魚~成魚の「LC5」及び生息分布の現場観測データ 魚介類の再生産の場の確保のための底層DO目標 ←卵・仔稚魚の生存、未成魚~成魚の行動異常・生 理的変化(実験と現場観測) 無生物域の解消のための底層DO目標 ←低酸素耐 性種の生存(実験と現場観測:DO 1 mg/L以下では 硫化水素による複合影響も考慮) 図(2)-34 閉鎖性海域中長期ビジョンの概要 B-1003-87 アサリに対するDO環境基準値 ~導出に向けた考え方~ 生息域の確保のための底層DO目標 ←生 活史初期個体(浮遊幼生)の「LC5」を実験で 導出(流水系、「死」の定義) 再生産の場の確保のための底層DO目標 ←生活史初期個体(浮遊幼生)への影響を実 験、現場観測とモデルシミュレーションで評価 無生物域の解消のための底層DO目標 キーワードは「初期生活史」と「LC5」 図(2)-35 アサリに対するDO環境基準値導出の考え方 D 25C 72h D 25C 96h D型(25℃)72h D型(25℃)96h 1 1.1 0.9 1 0.8 0.9 0.8 0.7 0.5 0.4 0.3 0.2 0.7 mortality (%) mortality (%) 0.6 0.6 0.5 0.4 ca. 0.7 mg/L 0.2 0.1 0.1 0 0.1 0 1 DO (mg/L) 10 0.1 umbo 25C 96h 0.8 0.6 0.7 0.5 0.6 0.5 mortality (%) mortality (%) 0.7 0.3 ca. 1 mg/L 0.4 0.3 0.2 0 0 図(2)-36 ca. 0.5 mg/L 0.1 0.1 1 DO (mg/L) 10 フルグロウン期(25℃)96h 0.4 0.1 1 DO (mg/L) full-grown 25C 96h アンボ期(25℃)96h 0.2 ca. 1 mg/L 0.3 10 0.1 1 DO (mg/L) アサリ幼生に対するDOの5%致死濃度(LC5 ) 10 B-1003-88 5.本研究により得られた成果 (1)科学的意義 今まで実際の海域におけるDOに対する生物の応答については不明な点が多く、特にDO耐性が 低いと考えられてきた生活史初期段階あるいは発生初期段階の個体に関する知見はほとんど無 かった。サブテーマ(1)において述べたように、本研究によって、① 貧酸素水塊の影響を調 べるための流水式連続曝露試験装置を作製し、試験プロトコルを提示することができた。これ により、急性影響のほか、慢性影響や他の有害因子との複合影響を調べることが、試験装置・ 手法の確立という意味で可能となった。また、②貧酸素水塊の影響を調べるための水柱実験装 置も作製した。これにより、海産生物幼生・幼体の忌避行動等を調べる実験も可能となった。 以上により、東京湾のマコガレイ(着底稚魚)と三河湾のアサリ(浮遊幼生と着底初期稚貝) 等を対象に実際に貧酸素耐性試験あるいは応答試験を行い、データを獲得することができた点 が、第一の科学的意義である。 サブテーマ(2)に関しては、初期生活史段階の個体を用いて貧酸素水塊に対する影響を直 接実験で調べ、データを得ることにより、数値モデルに反映させるパラメータ推定のための方 法論を確立することができたと同時に、室内実験結果及びフィールド調査・観測結果を盛り込 んだ数値モデルを構築することにより、貧酸素水塊が及ぼす影響の定量評価を行うことが可能 となった点が、科学的に意義深い。 また、三河湾の干潟生態系における鍵種であり、重要漁獲対象種でもあるアサリについて、 サブテーマ(2)において、発育初期段階である浮遊幼生の出現及び分布と現場DOとの関連に 関するフィールド調査データが得られたこと、また、シリンダー実験(水柱試験)によって、 このフィールド調査データの特徴を裏付けるような、貧酸素水塊に遭遇した時のアサリ浮遊幼 生の挙動を明らかにしたことが、貧酸素水塊が底棲生物に与える影響を考慮する上できわめて 重要な科学的成果である。 さらに、本研究によって、とりわけ、アサリ浮遊幼生を例に室内実験と野外調査、及び数値 モデルによるシミュレーションを組み合わせ て、科学合理性のあるプロセスを経て底層DOの環 境基準値(試案)を導出・提示できたことが、単に科学的根拠を有する具体的な基準値案を提 示したことに留まらず、今後、さまざまな種に対する底層 DOの環境基準値案を科学合理的に導 出するためのプロセスを構築できたという意味で、きわめて大きな科学的成果であると同時に 特筆すべき環境政策上の成果である。 (2)環境政策への貢献 <行政が既に活用した成果> 環境省の生活環境項目新規基準等検討会海域ワーキンググループ( WG)における下層DOの 環境基準案の検討において、本研究成果であるアサリに対する環境基準値(試案)の試算結果 を提示し、当該WGの報告書作成に貢献した。 <行政が活用することが見込まれる成果> B-1003-89 平成25年度(2013年度)中に透明度とともに新たな環境基準として導入される予定である底 層DO(下層DO)に関して、2010年3月に示された「閉鎖性海域中長期ビジョン」に沿って、環 境基準案が示されていないアサリに対するDO環境基準値導出に向けた考え方を整理し、生息域 の確保のための底層DO目標値と再生産の場の確保のための底層DO目標値として、それぞれ、2 mg/L及び3 mg/Lを導出した。すなわち、アサリを対象に、科学的根拠を有する環境基準値・目 標値の試案を提示することができた。 また、科学合理性のある底層DO環境基準値・目標値を導出するための方法論が構築された。 換言すると、室内実験結果及びフィールド調査・観測結果を盛り込んだ数値モデルを用いると いう、科学合理性のある底層DO環境基準値・目標値の導出手法を提示することができた。 また、海産生物幼生あるいは幼体の貧酸素水塊に対する忌避行動に着目して、 底層DOの保全 目標値に対する基礎的情報を提供することができた。 6.国際共同研究等の状況 特に記載すべき事項はない 7.研究成果の発表状況 (1)誌上発表 <論文(査読あり)> 特に記載すべき事項はない <その他誌上発表(査読なし)> 特に記載すべき事項はない (2)口頭発表(学会等) 1) 李政勲・児玉圭太・朴正彩・小宮朋之・石井光廣・白石寛明・堀口敏宏:東京湾におけるマ コガレイ着底稚魚の摂餌生態と成長, 平成22年度日本水産学会秋季大会, 京都, 同講演要 旨集, p.110, 2010. 2) 山田 智・蒲原 聡・和久光靖・中村雅廣・柘植朝太郎・竹内喜夫・中嶋康生・岩田靖宏: 平成23年度アサリ勉強会(2011)「三河湾東部(渥美湾)におけるアサリ浮遊幼生の鉛 直分布と貧酸素水塊」 3) 奥田将己・李政勲・児玉圭太・石井光廣・大畑聡・安藤晴夫・金藤浩司・堀口敏宏:2011統 計関連学会連合大会(2011)「溶存酸素の水質評価基準としての利用を見据えたマコガ レイ稚魚生残率への影響評価」 4) 市川哲也、田中啓介、堀口敏宏、蒲原聡、山田智、鈴木輝明:海洋理工学会平成 24年度春季 大会(2012)「三河湾におけるアサリ浮遊幼生貧酸素影響モデルの開発」 (3)出願特許 B-1003-90 特に記載すべき事項はない (4)シンポジウム、セミナーの開催(主催のもの) 特に記載すべき事項はない (5)マスコミ等への公表・報道等 特に記載すべき事項はない (6)その他 2006年と2007年を対象に、貧酸素水塊がマコガレイの初期生活史に及ぼす影響を数値モデル によりシミュレーションするため、千葉県水産総合研究センターから2006年及び2007年の東京 湾における貧酸素水塊調査で得られた水温・ DOの生データを、また、東京都環境科学研究所の 安藤春夫氏から2006年及び2007年の東京湾における公共用水域常時監視の水温・DOデータを 、 それぞれ、ご提供いただきました。ここに記してお礼申し上げます。また、本研究において実 施されたマコガレイ当歳魚のDO別斃死率実験データ以外に、独立行政法人国立環境研究所が実 施したマコガレイ孵化仔魚の水温別斃死率実験データと、東京湾におけるマコガレイ仔魚の分 布密度調査データ(2006年度及び2007年度)も当該シミュレーションに用いました。また、独 立行政法人国立環境研究所が千葉県水産総合研究センターとの共同調査として実施しているマ コガレイ稚魚の分布密度調査データ(2006年度及び2007年度)も当該シミュレーションに用い ました。関係各位に謝意を申し上げます。 8.引用文献 1) 平成21年度閉鎖性海域中長期ビジョンの策定に係る総合検討調査委託業務報告書(2010年3 月) B-1003-91 (3)底層DO目標の達成度評価手法の開発に関する研究 (独)国立環境研究所 環境リスク研究センター 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 生態系影響評価研究室 堀口 敏宏 統計数理研究所 金藤 浩司 横浜薬科大学 薬学部 岩瀬 晃盛 広島大学 大学院工学研究科 岡田 光正 (平成22年度のみ) 放送大学 社会と産業コース+社会経営科学プログラム 岡田 光正 (平成23年度のみ) 平成22~24年度累計予算額:18,902千円 (うち、平成24年度予算額:3,832千円) 予算額は、間接経費を含む。 [要旨] 底層溶存酸素量達成度評価の一つの方法として、 US EPAが提案した閉鎖性海域内での離 散測定データに基づく累積頻度図法(CFD法)がある。このCFD法の特徴付けや実用上の課 題の検討を行った。さらに、本研究で明らかになった実用上の課題を克服するために、手 法の拡張性に関する検討を行い、一つの解決方法を示した。次に、本課題においては、解 析対象となる情報は、空間内において年数回の測定値で構成されている。そこで、どの程 度の測定回数が対象となる海域の目標達成度を評価する際に必要であるか検討した。具体 的には、閉鎖性海域中長期ビジョン策定に係る懇談会で評価に用いられた 中長期予測シミュレ ーションによって求められた底層溶存酸素量の値を用いた閉鎖性海域内の離散測定の最適 測定回数について数値的および解析的に検討 した。結果として、 公共用水域調査等で行われ ている月1回のサンプリング、つまり 年12回の測定を2倍に増やしても2倍のコストに見合う誤 判定率の改善につながらないことを示した。 [キーワード]累積頻度図法、離散測定回数の最適回数、年間基準満足日数割合 1.はじめに 閉鎖性海域での底層溶存酸素量目標の達成度評価手法の開発では、二つの観点からの取り組 みが重要である。一つは、対象となる閉鎖性海域においては、非常に少数地点(高々2,3地 点)の連続的測定データと広範囲に定期的に測定される離散的測定のデータを有効に統合し 、 評価する方法論の確立が必要である点である。また、もう一つの観点は、最適な離散的測定の サンプリング回数の決定問題である。後者に関しては、初めにシミュレーションベースでその 課題に関する評価を行った。次に公共用水域調査等で行われている月1回のサンプリング回数と 溶存酸素基準値における基準満足度の判断の効率性を検証した。さらに、解析的にこれらの事 象を検証した。 本研究においては、「底層DO目標の達成度評価手法の開発」のために開発の基盤となる事項 B-1003-92 の確認、理論的方法論の検討、理論的プラットフォーム作成の準備作業も継続し た。底層DOを 新たな水質目標とした場合、広範な水域の目標達成状況を連続的測定によって判定することは 現実的でない。また、生活環境項目としての扱いであるため、CODが75%値を採用したように 時間的、また空間的にも完全な達成は要求されない。このため、従来からの年 12回、もしくは 夏期6回のような離散的測定データの利用を前提として、累積頻度図法( Cumulative Frequency Diagram Method)のような時間並びに空間の両者を考慮した新たな底層DO目標達成の判定手法 の適用の合理性評価を行う必要がある。同時に、部分的に得られる連続的測定データ、離散的 測定データの時間的/空間的補間データ、さらにはシミュレーションモデルによる推定データ 等に基づく新たなモニタリング並びに計算手法を導入した環境基準達成の判定手法等の開発に 向けた検討や、さらに最適な測定回数の決定の課題を解決する必要性が挙げられる。 2.研究開発目的 (1) 底層溶存酸素量達成度評価手法の構築 底層DOを新たな水質目標とした場合、a) 目標達成状況を判定するためには定点における連続 観測と平面的な観測を組み合わせて解析する必要がある。しかし、現実的に は多くの地点での 連続的観測は困難である。また、b) DOは、生活環境項目としての扱いであるため、CODが75% 値を採用したように時空間的にも完全な達成は要求されない。これらの観点を考慮して以下の 三つの項目を目的とする。 1. 従来からの年 12 回、もしくは夏期 6 回のような離散的観測データの利用を前提として、累積 頻度図法(Cumulative Frequency Diagram Method)のような時間ならびに空間の両者を考慮し た新たな底層 DO 目標達成の判定手法の開発を行う。 2. また、部分的に得られる連続観測データ、 離散的観測データの時間的/空間的補間データ、 さらにはシミュレーションモデルによる推定データ等に基づく新たなモニタリングならびに 計算手法を導入した環境基準達成の判定手法に利用する。 3. さらに、その結果を実際の水域区分に適用し、底層 DO 目標の導入に不可欠な底層 DO 目標 の達成度評価手法の確立を図る。これについては、主に対象海域の水深の情報が何らかの有 益な情報を有しているので、これらの関係に関する検討を加える。 (2) 溶存酸素環境基準値毎の離散測定回数の最適性 閉鎖性海域での底層溶存酸素量目標の達成度評価手法の開発では、 対象となる閉鎖性海域に おいては、非常に少数地点(高々2,3地点)の連続的測定データと広範囲に定期的に測定され る離散的測定のデータを有効に統合し評価する方法論の確立が望まれている。しかし、現状の 環境基準の判定では、広範囲に定期的に測定される離散的測定のデータのみの判断で各地点の 環境基準の満足・不満足の判定が行われている。そこで、実用上の課題として、各地点の最適 な離散的測定のサンプリング回数の決定問題に対する解決が必要不可欠となっている。これら の課題を実データに基づいて検証するとともに、理論的な確率分布を用いて 検証する。 下記の表(3)-1は、3年間の課題解決の進行状況を示したものである。 B-1003-93 表(3)-1 1)達成度評価法の開 発 2)離散測定回数の最 適性の検証 年度毎の進行状況 H22年度 (2010年度) • US EPA が提案した 累積頻度図法(CFD 法)の検証 • 評価の枠組み検討 • シミュレーションに 基づく数値的検討 H23年度 (2011年度) • 累積頻度図法の拡張 性の検討 H24年度 (2012年度) • 達成度評価法の 開発 • DO 基準の誤判定要 因の検討 • 解析的評価法の開発 • 最適測定回数の 設定の提示 3.研究開発方法 3名の分担者(金藤、岩瀬、岡田)は、各所属機関において研究課題を分担し、個別の課題に 関する統計的理論構築の研究を遂行した。また、分担課題の進展具合を、年数回開催した研究 会において確認し、相互にその方法論を検討した。また、3名の PD(奥田(2010, 2011)、赤石 (2011)、神山(2012))は、研究分担者が構築した理論に対してシミュレーション等の作業 を担当した。 4.結果及び考察 (1)底層溶存酸素量達成度評価手法の構築 US EPA Guideline (2003)Ambient Water Quality Criteria for Dissolved Oxygen, Water Clarity and Chlorophyll a for the Chesapeake Bay and Its Tidal Tributaries を読解し、ここで提案されている底層 溶存酸素量達成度評価方法の一つであるCFD法に関して精緻に検討した。その結果として、CFD 法の実用上の課題を見つけ、その改良により新たな評価方法の提案を行った。はじめに CFD法 の定義とその解釈を述べ、この手法の実用上の課題を示し、最後にその改良法を提示している。 【CFD法の定義】 • 或る i,(i=1,2,…,n)観測時点での領域 D 内の各観測地点の濃度 C の情報に基づいて、領域 D 内を格子状に区切り、各区画内の濃度 C を補間(全ての地点が測定されていない)する。 • この各区画内の濃度が閾値濃度を超えていたら1を、閾値以下であったら0を割り当てる。 この全体の区画数での1である区画数の割合を r i(ratio)とする。つまりi時点での濃度が閾値を 超えている面積比率をr i とする。 各観測時点i=1,2,…,nでこの面積比率を求めて、大きい順に並べる と 1 r1 r2 rn 0 を得る。この場合のnは総観測時点数を意味する。横軸の座標として考えるために書き換えて 0 rn rn1 r1 1 この点列がどのように並んでいるかを見易くするために、r<i>とi/(n+1)とを対応させる。つま り、点 i ri , , i 1, 2, n 1 ,n B-1003-94 と二つの頂点(1,0),(0,1)を結んだ折れ線を作る。これをUS EPAのガイドラインがいうCFD法であ る。 【CFD法の解釈】 • 横軸は閾値を超えている空間的な広がりの面積に関する比率であるから、「空間」情報を 意味し、縦軸は観測時刻情報に基づくものであるから「時間」情報を意味している。 • CFD は閾値を超えている位置の情報(比率にすることから)と、比率の経時変化(順序 統計量とすることから)の情報を意識的に消し去っている。このように位置と順序の情報を積 極的に消し去ることによって浮き出てくる情報を汲み取ろうとする方法の一つが CFD である と理解される。 • 局所的な濃度情報とか経時的な濃度の挙動とかに影響されない「全体」としての対称領域 の濃度の状態を表現しようとするものの一つとして CFD がある。 【US EPAのCFD法の課題】 (0,1)上の値を持つ割合に対する曲線間の比較を行うことは困難である。 【手法の拡張】 比率rは0≦r ≦ 1 を満たす実数である。これを実数全体(-∞,∞)の上へ1:1で射影する関数 はたくさんあるけれども、それらの中で特に、関数 1 r 1 log r 1 r をロジット変換という。CFDは [0,1] × [0,1] の空間内の折れ線である。言い換えると、折れ線 が空間[0,1] ×[0,1] 内に封じ込められていると理解すれば、これを (-∞,∞) ×(-∞, ∞) の空間に解放 することによって直線による表現が可能となる。 一般的な表現は p log x y q log log , 0 1 x 1 y であり、特にp=α, q=1とすると、CFDに対応した表現をすれば y x 1 x となる。 図(3)-1は、平成15年度から16年度の東京湾全体の溶存酸素量2[mg/L]の基準値を用いて、従来 のCFD手法で求められた推定曲線である。図(3)-2は、それをここで新たに示した手法で計算し た推定直線である。 B-1003-95 図(3)-1 東京湾のデータから計算したCFD曲線 図(3)-2 CFD曲線の直線化 図(3)-1のような曲線では、曲線の形から各海域の溶存酸素量の達成度評価を、視覚的に行う ことになる。しかし、このような視覚的評価は誰でも使えるものではない。そこで、図(3)-2の ように直線化された後の状況で、各係数の推定値を求めれば、その値によって定量的な達成度 評価が行える。この点が今回の研究上の特徴である。 【残された課題】 本研究の残された課題として、それぞれの閾値(溶存酸素量の基準値)での CFDの情報から 得られるReference curveのパラメータα,βの推定値と生物の生息状況との対応関係を把握できる データが現段階では存在しないために、環境指数としての検討が現時点では加えられないこと があげられる。逆に、この様なデータが整備されることによって、直感的な評価から数量的な 評価が底層溶存酸素量達成の判定基準としてより有効に用いることが可能となる。 (2)溶存酸素基準値に対する離散測定回数の最適解判定法の解析的方法論の確立 測定地点毎の連続測定において、DOの環境基準値a[𝑚𝑔/𝑙]に対して、常にその基準値を上回る DOの値が測定されることは【望ましい状態】である。 1回でもDOの値が基準値を下回ることは 【望ましくない状態】である。【望ましくない状態】が発生する(想定される)測定地点に対 して、連続測定の一部分の測定(12回/年(1回/月、2回/月「夏季のみ」)の値から【望ま しくない状態】が発生したことを、定めた判定期間 (1年間、3年間)において、どの程度正確に検 出できるか超幾何分布を用いて解析的に検証する。 【前提条件】 事前の検証においては、次の様な『前提条件:時間的周期情報の検出については考慮しない』 ことを仮定する。簡単に言えば元の(基準値を上下している)連続測定データから適当に 12個 の時間箇所から抜いたときに、12個中少なくともそれぞれ1個以上基準値を上下していれば【正 B-1003-96 しい判定】だということ。周期による変動よりもノ イズによる変動の方が圧倒的に大きければ、 時間的周期を考慮しないという前提条件が確保されるであろう。つまり、測定値を時系列とし て扱うのではなくて、同一の(有限)母集団からの無作為抽出によるデータ(この立場を、【理 想状態】と引用する)という立場を採用することになる。連続測定(データ)とは1時間毎または 1日毎であるにせよ、この間隔での継続的な観測・測定データのことである。 【前提】 判定基準値α以上であれば水生生物の個体は生存する。 判定基準値α未満であれば個体は死ぬ可能性がある。(死ぬ個体もあれば生存し続ける 個体も ある。これらの比率は α 未満である濃度値に依存する。) 個体の維持という意味での環境を守るという観点より、判定基準値 α 以上であることに注目し て理論の枠組みを構築する。 【定義】 連続測定データx i ; i=1,2,…,Nが判定基準値α以上である時間比率をr(α)とする。これは基準満足 時間率(日数割合)とでも表現される。ここで、0≦r(α)≦1である。Nからの非復元抽出の大きさ をnとする。自明なことであるが、年12 回(n=12)の測定値y i ; i=1,2,…,nが全てα以上であったから といって、連続測定データx i ; i=1,2,…,N が全てα以上であるとは限らない。 【判定】 r(α)=1 であるときに、yj-α≧0; (すべての j = 1,2,…, 12)となる。【正しい判定:(必ず成立)】 0<r(α)<1 であるときに、 yj-α≧0;(すべての j = 1,2,…, 12)ならば【誤った判定】。 0<r(α)<1 であるときに、 yj-α<0; (すべての j = 1,2,…, 12)ならば【正しい判定】。 0<r(α)<1 であるときに、 yj-α>0 なる j が存在し、且つ yk-α<0 なる k が存在すれば【正しい判 定】。 r(α)= 0 であるときには、 yj-α<0; (すべての j = 1,2,…, 12)となる。【正しい判定:(必ず成立)】 【判定のシミュレーション】 n(=1000)回数の判定結果の中で、【正しい判定】の割合 R(r(α))(正判別率)が 1 つ得られる。こ の割合 R(r(α))は連続測定データの観測場所固有なものである。ここで、1-R(r(α))を『誤判別率』 と定義する。 【検証データ】 平成22年(2010年)3月の閉鎖性海域中長期ビジョン策定に係る懇談会で評価に用いられた下 記のデータを検証データとして利用した。 中長期予測シミュレーションデータ(東京湾 1182 か所【1km 2 メッシュ】) B-1003-97 表(3)-2は、2004年度(4月1日から3月31日まで)の中長期予測シミュレーションの年間の基準 満足日数割合の分布を表したものである。また、図(3)-3は、溶存酸素基準値毎に、各地点での 年間の基準満足日数割合を求め、東京湾での空間分布をメッシュごとに表したものである。 図 (3)-3で青色の部分は、基準満足日数割合が100%の地点を示したものであり、その他の色の部分 は、基準満足日数率によって色分けしている。 表(3)-2 2004年度基準満足日数割合の分布 DOの値α 1 3 4 0.2< r(α)≦0.3 0 0 0 21 0.3< r(α)≦0.4 0 0 0 91 0.4< r(α)≦0.5 0 0 14 79 0.5< r(α)≦0.6 0 0 91 88 0.6< r(α)≦0.7 0 9 0.7< r(α)≦0.8 0 31 0.8< r(α)≦0.9 114 87 109 98 83 138 87 79 0.9< r(α)<1 257 209 175 110 r(α)=1 894 717 603 544 1182 1182 1182 1182 総地点数 図(3)-3 【課題】 2 基準満足日数割合 B-1003-98 0<r(α)<1である各測定地点において年間の測定時点を決める n回のサンプリングに基づいて環 境基準値を満足しないことを"正しく判断"【正しい判断】したい。いいかえれば、0<r(α)<1であ る測定地点では、年間の基準満足日数割合は100%ではない。しかし、n回の測定時点では、その 測定地点が年間の基準満足日数割合を誤って 100%と推定する可能性が生じる。そこで、測定地 点毎にこの誤判別率を評価する。これによって、測定地点によって異なる r(α)毎の最適なサンプ リング回数が決定される。ここでは、n=12から24に変化させた場合、どの程度誤判別率が変化 するか検討する。 例えば、年間基準満足日数割合:0.62 この地点の連続測定値から n 個のサンプルを取 り出し、これに基づいて【正しい判断】を行っ ているか 1000 回シミュレーションする。 1回 2回 ○ × ・・・ 図(3)-4 i回 1000回 ○ × 誤判定率の計算 B-1003-99 各測定地点の真の基準満足日数割合 1:常に基準を満足して いる。 それ以外の値:基準を満 足しない日が存在す る 年12回のサンプリングに基づく誤判定率 図(3)-5 図(3)-6 年24回のサンプリングに基づく誤判定率 基準満足日数割合と誤判定率の概念図 誤判定率の空間分布 (α=2)[n=12 VS. 24 VS. 48] B-1003-100 図(3)-4は、各地点の誤判定率の計算(シミュレーション)の概略を示したものである。図(3)-5 は、各地点の基準満足日割合とその地点のデータから計算される誤判定率の概略図である。 図 (3)-6は、東京湾内の1182地点での溶存酸素量を2[mg/L]としたときの各地点での年間測定回数毎 の誤判定率の空間分布を示したものである。 シミュレーションに基づいて上記の課題を検討したが、解析的に本課題を解決するた めの手 法も開発した。具体的には、超幾何分布を仮定した誤判定率推論手法の開発である。この解析 的手法に基づく結果は、シミュレーションに基づく結果を理論的に補強するものであり、シミ ュレーション結果が間違っていないことも確認ができた。 図(3)-7は、超幾何分布を仮定した場合の年間基準満足日数割合と誤判定率の関係と実測デー タを示したものである。ここでは、溶存酸素量基準を 2[mg/L]とし年間24回の測定を行った例を 示している。個別のシミュレーションに基づく結果が理論曲線の上に適切にプロットされてい ることが読み取れる。 図(3)-7 実データと確率分布を想定した r(α)と誤判定率の関係 B-1003-101 図(3)-8 図(3)-9 超幾何分布を仮定した誤判定率の推定(n=12,24,36) 測定回数と確率分布を想定した場合の r(α)と誤判定率の関係 図(3)-8は年間のサンプリング回数を12,24,36回と変化させたときの年間基準満足日数割合 と誤判定率の関係を示した物である。また、 図(3)-9は誤判定率を固定したとき(例えば、0.05) のサンプリング回数毎の年間基準満足日数割合が 図(3)-9から求めることが可能となる。これに より水域毎の年間基準満足日数割合が何らかの状況で推定出来れば(過去の情報等)、誤判定 率を5%以下に抑えるようなサンプリング回数が決定可能となる。つまり、対象となる閉鎖性海 B-1003-102 域において測定地点毎に考えて、年間12回のサンプリングで良い地点、年間24回のサンプリン グで良い地点、連続測定(1回/日)が必要な地点の分類が出来るような DO基準判定手法が構 築できる。 年間基準満足日数割合を固定した場合、サンプリング数が誤判定率に与える影響も評価でき る地点毎の基準満足日数割合は推定すべき値である(本来は、未知な値である)。それをその 地点での外的要因(例えば、水深等)で予測できないか検討した。現時点では、水深のみの情 報では、基準満足日数割合を適切に推定することはできない。さらなる外的要因の検討を行っ ていく。 実用上は、基準満足日数割合を適切に推定するための良い知見が得られるまでは、以下の方 法で対応しておくことで当面は対処可能である。つまり現時点では中長期予測シミュレーショ ンで得ている値を推定値として用いたり、公共用水域調査のデータの過去何年間分を用いて推 定値とすることが実用上有用である。 また、水深と年間基準満足日数割合の関係について検討した。対象地点【1182地点】の全体 のデータからは、明確な水深と年間基準満足日数割合に関してある種の関連を見出すことはで きなかった。対象地点の範囲が広く、それに伴って水深の範囲(0【M】から約500【M】)が広 いことが挙げられる。海域区分を行うことで何らかの関連性が見出されるかもしれない。水深 のみの情報では、基準満足日数率を適切に推定することはできない。さらなる外的要因の検討 を行っていく。水深約13.5=exp(-2)【M】を境に、年間基準満足日数割合が増大から減少へと変 化している。水深約36=100×exp(-1)【M】より深い地点では年間基準満足日数割合は、ほぼ1で ある。 図(3)-10 水深と年間基準満足日数割合の関係 B-1003-103 表(3)-3より、シミュレーションに基づいてサンプリング回数と誤判定率の算術平均値の関連 を検証し、誤判定率の(算術)平均値の観点から判断すると、測定回数を2倍としても、全ての 溶存酸素基準において必ずしも誤判定率の平均値は2分の1にはならないことが確認できた。こ れらのことから年12回のサンプリングを年24回にしても測定コストに見合う改善が見込めない ことが分かる。 誤判定率の観点から各地点での測定回数を増やせば,誤判定率の改善は望まれるが、必ずし も測定回数を増やすことで線形の効果が見られない。そのため現状の公共用水域調査(年 12回) を全海域において増やす直線的効果は認められない。それよりも誤判定率の観点からより、こ の割合に改善をもたらす地点のみの測定数を増やすことが適切な費用対効果の観点から必要で ある。その地点の選択は、先に述べた年間基準満足日数割合から選択することが可能である。 表(3)-3 溶存酸素毎の平均誤判定率と年間のサンプリング回数の関係 DO[mg/L] 12[/Yr.] 24[/Yr.] 2 0.129 0.090 3 0.102 0.065 B-1003-104 5.本研究により得られた成果 (1)科学的意義 US EPAで開発された達成度評価法についての解釈を行い、また、この方法の実用上の課題で あった曲線間の比較の方法として曲線の線形化による数量的な比較を可能とした点が、これら の方法を実用上用いる場合の科学的な有効性である。 高々数地点からの連続的測定データとある程度のサンプリング地点の数が整備された離散測 定データから、対象となる空間において時間情報も取り入れた空間的把握の統計的方法論の確 立は、理論的な面から様々な課題がある。しかし、これらを本課題の研究期間に解決すること によって、本課題に特化した解法に止まらず、様々な環境状態を把握する新たな手法の構築へ の一助となることが期待できる。 (2)環境政策への貢献 <行政が既に活用した成果> 特に記載すべき事項はない。 <行政が活用することが見込まれる成果> 平成22年(2010年)3月に策定された「閉鎖性海域中長期ビジョン」の4.2.3において「底層DO の目標値の達成評価法」の項目がある。この部分で議論されている課題を解決することが本研 究の目的である。故に、本研究を推進するこ とによって、「閉鎖性海域中長期ビジョン」の底 層DO目標値の達成評価に関して行政上の運用が可能となる理論的根拠を与える ことができた。 また、年間何回の測定を行う必要があるのかといった課題に関する一つの数理的な回答を行っ た。換言すると、底層溶存酸素量の基準満足判定において、これまで年何回測定すれば合理的 であるかといった課題に対して、測定回数と測定回数毎の誤判定率を実証的および理論的に提 示することができた。 6.国際共同研究等の状況 特に記載すべき事項はない。 7.研究成果の発表状況 (1)誌上発表 <論文(査読あり)> 特に記載すべき事項はない。 <その他誌上発表(査読なし)> 1) K. Kanefuji, A. Iwase and M. Okada (2011): JSM Proceedings, Statistics and the Environment B-1003-105 Section. American Statistical Association, Miami Beach, Florida, pp. 3441-3444 “Statistical Assessment Methods for Ambient Water Quality Criteria for DissolveDOxygen.” 2) K. Iwase and K. Kanefuji (2013), Population Geometric Mean of Positive Variables, Research Memorandum,1170, (2013/2/21) (2)口頭発表(学会等) 1) K. Kanefuji, K. Iwase, M. Okada (2011) Statistical Assessment Methods for Ambient Water Quality Criteria for DissolveDOxygen, In JSM Proceedings, Statistics and the Environment Section. Alexandria, VA: American Statistical Association, Miami Beach, Florida, 3441-3444. 2) K. Kanefuji, R. Akaishi, K. Iwase, M. Okada. (2012) Simulation models for ambient water quality criteria for dissolveDOxygen, In JSM Proceedings, Statistics and the Environment Section. Alexandria, VA: American Statistical Association, San Diego, California, USA, 3067-3069 (3)出願特許 特に記載すべき事項はない。 (4)シンポジウム、セミナーの開催(主催のもの) 特に記載すべき事項はない。 (5)マスコミ等への公表・報道等 特に記載すべき事項はない。 (6)その他 特に記載すべき事項はない。 8.引用文献 1) 平成21年度閉鎖性海域中長期ビジョンの策定に係る総合検討調査委託業務報告書(2010年3 月) B-1003-106 Development of Monitoring Technique to Assess Impact to Benthic Life by Hypoxia and of Achievement Evaluation Method for Bottom DO Criteria Principal Investigator: Toshihiro HORIGUCHI Institution: National Institute for Environmental Studies (NIES) 16-2 Onogawa, Tsukuba, Ibaraki 305-8506, JAPAN Tel: +81-29-850-2522 / Fax: +81-29-850-2870 E-mail: [email protected] Cooperated by: Aichi Fisheries Research Institute Dept. Architecture and Building Engineering, Osaka City University The Institute of Statistical Mathematics Graduate School of Engineering, Hiroshima University The Open University of Japan Yokohama College of Pharmacy [Abstract] Key Words: Early life history stages, Hypoxia, Statistical methods, Testing methods, Water quality criteria A flow-through exposure testing method was established to evaluate the effects of hypoxia on the early life history of benthic organisms. Estimated values of lethal concentration 50 (LC 50 ) for dissolved oxygen (DO), which mean the DO concentration where half of individuals tested were dead, were calculated for larvae and juveniles of marbled flounder (Pseudopleuronectes yokohamae) and Japanese littleneck (Ruditapes philippinarum). Other laboratory experiments with specific water column aquaria, where gradient DO concentrations were manipulated, were also conducted to evaluate avoidance by marine benthic organism larvae of hypoxic waters when they encounter them, using the Japanese littleneck (R. philippinarum) and a few representative species in coastal waters of Japan. Monthly field studies were carried out to assess the impacts of hypoxia on early life stages (e.g., horizontal and vertical distribution of larvae and juveniles) of marbled flounder (P. yokohamae) in Tokyo Bay and Japanese littleneck (R. philippinarum) in Mikawa Bay. Hypoxic waters in summer as well as water temperature in winter were considered to be causal factors for mortality of larvae and juveniles of marbled flounder (P. yokohamae) in Tokyo Bay. Meanwhile, most of larvae of Japanese littleneck (R. philippinarum) were observed in nonhypoxic waters which were formed above the thermocline of Mikawa Bay in summer. Japanese littleneck (R. philippinarum) larvae seemed to avoid hypoxic waters, but it was unclear if they certainly B-1003-107 avoided hypoxic waters because of possibility that dead ones due to encountering hypoxic waters fell down at the bottom of the bay. Computer simulations with ecological models on the basis of results of laboratory experiments and field studies mentioned above suggested that water quality criteria values of DO for survival and reproduction of the Japanese littleneck (R. philippinarum) should be set at 2 and 3 mg/L, respectively. Meanwhile, statistical methods were developed to determine whether or not water quality criteria for DO had been achieved. The modified Cumulative Frequency Distribution (CFD) methods were proposed in this study. In particular, linearization of an estimated curve is an important concept on this method. Computer simulation analysis of the relationship between the number of DO measurement of DO taken at a certain monitoring site and the arithmetic mean of probability of mis-evaluation of DO values suggested that the arithmetic mean of probability did not decrease to less than 1/2 even if the number of measurements of DO was doubled. 平成22~24年度環境研究総合推進費 B-1003 貧酸素水塊が底棲生物に及ぼす影響評価手法と 底層DO目標の達成度評価手法の開発に関する研究 (研究代表機関:独立行政法人国立環境研究所) 個体数密度 (10-3 ind m-2 ) 溶存酸素濃度 (ml L -1) 貧酸素水塊が 再生産を阻害 貧酸素水塊が分布を制限 ×○ 底層DO基準値設定と対策実施が生物相回復のため喫緊の課題 (1) DO目標値設定 のための初期生活史 標準試験法の確立 (2) 貧酸素水塊が初 期生活史に及ぼす 影響の解析と評価 (3) 底層DO目標の 達成度評価手法の 開発 有害化学物質 N2 ガス混合器 O2 200L タンク 斃死率、成長 成熟、生殖異常 などの生態影響評価 かけ流し データ提供 東京湾産シャコOratosquilla oratoria の生育段階構造モデル 1992年以降、 個体数が減少、昨年は出荷停止 大型個体は春、小型個体は夏に産卵。春生まれは着底率が低い 産卵・孵化 1歳 小型成体から 生まれた幼生 成長が遅く 小型(<11cm) 着低率 高 2歳+ 漁獲 シミュレーションで推定 1歳 Number 1 10 8 10 6 10 4 10 2 10 年 8 漁獲 Number 基準 7 1 10 8 10 7 6 10 7 4 10 7 2 10 Number 8 春生まれの 幼生生残率 ×10 1 10 7 8 10 7 6 10 7 4 10 7 2 10 Year 5 10 15 20 感度解析で注目 2歳+ 産卵・孵化 成体個体数 漁獲率×0.1 8 7 10 15 20 Number 8 2 10 1.75 10 1.5 10 7 1.25 10 1 10 7 7.5 10 5 10 7 2.5 10 Year 5 水域区分 文献値から推定 大型に成長 成長が早く 大型(≥11cm) 着低率 低 大型成体から 生まれた幼生 文献値 投棄 投棄 成体 初期 Year 5 10 15 20 8 投棄率×0.1 8 8 8 7 7 7 5 10 15 20 Year <本研究の成果> と底層DO目標値導出 1. 初期生活史DO耐性試験法マニュアル作成 ・初期生活史DO耐性試験系の開発と試験法の確立 2. DO目標値適用の水域区分提示(東京湾マコガレイ、三河湾アサリ) ・底層DO目標値の導出と、科学合理性のある導出手法の提案 3. 生活環境項目のためのCFDによる目標達成度評価手法の提案 ・底層DO目標の達成度評価手法の検討とその統計学的検証