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(次世代自動車分野(マレーシアに関する調査))
平成 25 年度 エネルギー需給緩和型インフラ・システム普及等促進事業 (次世代自動車分野(マレーシアに関する調査)) 調査報告書 平成 26 年 2 月 経済産業省 委託先:株式会社オリエンタルコンサルタンツ 目次 第1章 調査の概要 .......................................................... 1-1 1.1 調査の背景/目的 ....................................................... 1-1 1.2 調査内容 .............................................................. 1-2 1.3 調査地域位置図 ........................................................ 1-3 1.4 調査団構成 ............................................................ 1-4 1.5 調査日程 .............................................................. 1-5 1.6 調査結果概要 .......................................................... 1-8 1.6.1 マレーシア国における電気自動車(EV)関連セクターの概要 ............. 1-8 1.6.2 プロジェクトの内容及び技術的側面の検討 ............................. 1-9 1.6.3 パイロットエリアでの EV バス導入計画の検討 ......................... 1-11 1.6.4 EV バス導入によるエネルギー需給緩和及び環境への影響評価結果 ....... 1-13 1.6.5 実証実験計画の検討 ................................................ 1-13 1.6.6 事業実現に向けたロードマップと課題の検討 .......................... 1-14 第2章 2.1 マレーシア国における EV 関連セクターの概要 ........................... 2-1 マレーシア国の経済・社会状況 ........................................... 2-1 2.1.1 概況 ............................................................... 2-1 2.1.2 主な経済政策 ....................................................... 2-1 2.2 電気自動車(EV)関連セクターの概要 ..................................... 2-4 2.2.1 自動車産業分野 ..................................................... 2-4 2.2.2 グリーン技術分野 ................................................... 2-7 2.2.3 エネルギー政策 .................................................... 2-13 2.2.4 環境政策 .......................................................... 2-17 第3章 プロジェクトの内容及び技術的側面の検討 .............................. 3-1 3.1 提案技術の概要 ......................................................... 3-1 3.2 EV バス現地製造体制の検討 .............................................. 3-3 3.2.1 現状と課題 ......................................................... 3-3 3.2.2 事業実施体制の検討 ................................................. 3-4 3.2.3 EV バス及び充電システム開発 ........................................ 3-5 3.2.4 購入基幹電動部品の仕様 ............................................. 3-9 3.2.5 受注計画 .......................................................... 3-12 3.2.6 資金調達計画 ...................................................... 3-13 3.2.7 事業実施スケジュール .............................................. 3-14 第4章 4.1 パイロットエリアでの EV バス導入計画の検討 ........................... 4-1 対象地域の概況 ......................................................... 4-1 4.1.1 プトラジャヤの概況 ................................................. 4-1 4.1.2 地域開発フレームの確認 ............................................. 4-1 4.1.3 対象地域におけるバス運行状況 ....................................... 4-4 4.2 バス需要予測 ........................................................... 4-6 4.2.1 バス需要予測手法 ................................................... 4-6 4.2.2 バス需要予測結果 ................................................... 4-6 4.3 EV バス・充電システム検討 .............................................. 4-8 4.3.1 EV バス仕様の検討 .................................................. 4-8 4.3.2 EV バス充電システムの検討 .......................................... 4-9 4.4 EV バス導入計画及びメンテナンス計画 ................................... 4-11 4.4.1 EV バス導入計画案 ................................................. 4-11 4.4.2 EV バス及び充電システムのメンテナンス計画 ......................... 4-11 4.5 経済性評価 ............................................................ 4-12 第5章 5.1 EV バス導入によるエネルギー需給緩和効果の評価 ........................ 5-1 EV バス導入前後におけるエネルギー需給の変化 ............................ 5-1 5.1.1 概要 ............................................................... 5-1 5.1.2 電力消費と周辺地域への影響 ......................................... 5-2 5.2 EV バス導入によるエネルギー需給緩和効果及び CO2 排出量 .................. 5-3 第6章 実証実験計画の検討 .................................................. 6-1 6.1 EV バス実証試験ルート、充電インフラ設置位置の検討 ...................... 6-1 6.2 実証実験中の EV バス及び充電システムのメンテナンス計画検討 ............. 6-3 第7章 事業実現に向けたロードマップと課題の検討 ............................ 7-1 7.1 財務的・経済的実行可能性 ............................................... 7-1 7.2 プロジェクトの実施スケジュール ......................................... 7-2 7.3 相手国機関側実施機関の実施能力 ......................................... 7-3 7.4 我が国企業の技術面等の優位性 ........................................... 7-4 7.4.1 EV バス開発競合国・企業の概況 ...................................... 7-4 7.4.2 提案技術の優位性 ................................................... 7-6 7.5 プロジェクトの資金調達の見通し ......................................... 7-7 7.6 相手国の法的・財務的制約等の有無 ....................................... 7-7 7.7 当該プロジェクトの実施に向けた取組状況 ................................. 7-8 表目次 表 1-1 提案する EV バスの仕様案及び性能 .................................. 1-10 表 1-2 プトラジャヤにおけるバス需要予測結果 ............................. 1-11 表 1-3 プトラジャヤにおけるバス需要予測結果 ............................. 1-12 表 1-4 提案システムと競合システムとの比較 ............................... 1-15 表 2-1 「国家重点経済分野(NKEAs)」及び各分野のプロジェクト例 ............. 2-3 表 2-2 電気・電子分野のエントリーポイントプロジェクト(EPP)一覧 ......... 2-3 表 2-3 マレーシア自動車生産台数推移 ....................................... 2-4 表 2-4 Electric Mobility Eco System Blueprint 案に示された EV 推進施策 ... 2-11 表 2-5 マレー半島部における電力供給・利用環境 ........................... 2-15 表 2-6 TNB の電気料金体系表(商業部門) ................................. 2-16 表 3-1 車両登録に必要な性能要求に係る基準一覧 ............................ 3-5 表 3-2 EV バスの仕様案及び性能 ........................................... 3-6 表 3-3 マレーシアの気象条件 .............................................. 3-7 表 3-4 マレーシアにおける充電器に関する基準一覧 .......................... 3-8 表 3-5 グリーン技術ファイナンシングスキーム(GTFC)の概要 ............... 3-13 表 4-1 主な開発指標 ...................................................... 4-1 表 4-2 Nadi Putra 乗客数及びバス所有台数の推移 ........................... 4-5 表 4-3 プトラジャヤ将来人口予測(バス需要予測時) ........................ 4-6 表 4-4 プトラジャヤバス将来需要予測 ...................................... 4-7 表 4-5 Nadi Putra バス導入・更新計画案 .................................. 4-11 表 4-6 バス種別ライフタイムコスト(12 年)比較 .......................... 4-12 表 5-1 バス車種別エネルギー消費、大気汚染物質、CO2 排出比較 .............. 5-1 表 5-2 EV バス導入に伴う電力消費概要 ..................................... 5-2 表 6-1 Nadi Putra 循環 L ラインの概要 ..................................... 6-1 表 7-1 提案システムと競合技術との比較 .................................... 7-6 図目次 図 1-1 バス種別ライフタイムコスト比較(12 年) ............................ 1-13 図 2-1 マレーシア新車市場推移 ............................................ 2-4 図 2-2 マレーシアの一次エネルギー消費量及び各エネルギー源の比率の推移 ... 2-13 図 3-1 EV バスの概要図 ................................................... 3-1 図 3-2 提案する EV バスシステムの概要 ..................................... 3-2 図 3-3 マレーシア型式認定(VTA)の手順 .................................. 3-14 図 4-1 プトラジャヤ土地利用計画図 ........................................ 4-2 図 4-2 Nadi Putra ルート図 ............................................... 4-4 図 4-3 年間乗客数の推移 .................................................. 4-5 図 4-4 プトラジャヤ将来人口予測 .......................................... 4-6 図 4-5 EV バス走行シミュレーション結果 ................................... 4-8 図 4-6 充電器設置箇所候補 ............................................... 4-10 図 4-7 バス種別ライフタイムコスト(12 年)比較 .......................... 4-12 図 5-1 バス種別消費熱量の比較 ............................................ 5-3 図 5-2 バス種別 CO2 排出比較 .............................................. 5-3 図 5-3 バス車種別大気汚染物質(NOx)比較 ................................ 5-4 図 5-4 バス車種別大気汚染物質(SO2)比較 ................................. 5-4 図 5-5 バス車種別大気汚染物質(SPM)比較 ................................. 5-4 図 7-1 プロジェクト実施スケジュール案 .................................... 7-2 図 7-2 電池性能試験 ...................................................... 7-6 第1章 調査の概要 1.1 調査の背景/目的 (1) プロジェクトの背景 マレーシアは 1991 年に国策の「ビジョン 2020」を発表し、2020 年までに先進国入りを 目指している。大規模な公共投資や海外からの民間投資によって、マレーシアは東南ア ジアの中では短期間に顕著な経済成長を遂げた一方で、無秩序に広域化された都市部で の渋滞、大気汚染、自然環境の破壊などの問題が深刻化している。国民の生活向上に伴 い、エネルギー消費量は増大し、CO2 排出量も増加している。 マレーシアは、2002 年に「国家環境政策」 、2009 年に「国家グリーンテクノロジー政策」 「国家気候変動政策」を発表した。また「ビジョン 2010」の実現に向けて 2010 年 6 月 に発表された「第 10 次マレーシア計画」では、持続可能な生産活動や経済成長を進め ていく方針も明記された。 マレーシアにおいて、交通部門は、エネルギー産業部門に次ぐ第二の CO2 排出源であり、 国にとしての低炭素社会構築の機運は高まっている。2011 年 3 月には、マレーシアの EV ロードマップ作成に向けた提言が出され、乗用車、バイク、そして 2013 年 8 月から は EV バスモデル事業が実施されている。 マレーシア政府は、乗用車市場の拡大に伴い弱体した公共交通を立て直し、渋滞問題、 環境問題を緩和する目的で、公共交通へのモーダルシフトを図っている。そのため都市 公共交通を構成する LRT、モノレール、路線バス設備の保有を国営化し、経営強化、サ ービス一元化による利便性向上を推進する使命を持った国営プラサラナ社を財務省傘 下に設立した。同社は、公共交通の環境対策について、ハイブリッド・CNG 等の中間 ステップを踏まず、一気に EV バス化することを表明している。 一方、政府機関を集中させた行政首都プトラジャ市は、環境モデル都市のショーケース として発展中であり、排ガスを発生させる現在の CNG バスから EV バスへのコミュニ ティ型広域置換が検討されるケースである。 マレーシアに於ける EV バス導入は、首都圏のプラサラナ社、及び行政・環境モデル都 市プトラジャヤ市がマイルストーンになる。公共交通の EV 化を推進する上で、プラサ ラナ社のような複合交通事業者に対応するには、バス車両メーカーではなく、都市交通 ソリューションを掲げるインテグレータ的アプローチが必要である。 (2) 事業目的 本調査は、グリーン成長で先進国入りを目指し、2020 年迄に 2000 台の EV バス導入を 計画するマレーシアに、路線バスの EV 化課題を解決する東芝が提案する 10 分間充電方 式の大型 EV バス及び超急速充電システムを導入する。 マレーシアをショーケースに、公共交通バスを EV 化し東南アジアへ展開するモデルを 構築し、先行する中国への巻き返しを図るための導入可能性調査と実証実験環境調査を 行う。 1-1 1.2 調査内容 本調査では、10 分間充電方式の大型 EV バス及び超急速充電システムを現地生産できる 体制の検討、EV バス及び充電システムの実証試験の計画策定、並びに、パイロットエ リアとしてプトラジャ市に EV バスと超急速充電システムを導入するための導入計画の 検討を行う。 マレーシアの経済産業政策、エネルギー政策、自動車交通政策、さらに低炭素社会構築 など環境政策などの上位マスタープラン、並びに、EV バス導入に係る法制度等の関連 規制、各種優遇措置などの個別の関連情報を調査する。 EV バスを現地製造するための技術的課題を検討するため、現地製造パートナーやサプ ライヤなど協力会社、EV バスと充電システムの売り込み先であるプトラジャヤ市やク アラルンプール市とそれぞれの市バス運営会社、EV バスが使用する電力の供給機関な どにインタビュー調査を行い、その結果に基づいて、事業実施体制の検討、EV バス及 び充電システムの開発、コストの検討を実施する。併せて、EV バスの受注計画、事業 実施スケジュールを検討する。 プトラジャヤ市をパイロットエリアと位置付けて、市の 2025 年までの交通需要予測に 基づいて市バスの拡張計画をレビューする。その中で、既存及び新設ルートに EV バス 及び充電システムを導入することの技術的、経済的な実施可能性を検討する。 EV バス導入によるエネルギー需給緩和効果、CO2 削減効果を検討する。 本調査の結果に基づいて、EV バス及び充電システムを実際に現地で運用して技術的課 題の洗い出し、並びに、充電施設の設置による建築や消防等現地法制度との整合性検討 を実施するため、次年度以降に、プトラジャヤ市の既存ルートでの EV バスの走行試験、 充電システムによる充電試験などの実証試験を実施するための実施計画を作成する。 上記の調査結果に基づき、EV バス及び充電システムの現地生産体制の確立、並び、パ イロットエリアとしてのプトラジャヤ市で EV バスを実際に走行させるという目標に向 けたロードマップの作成と想定される課題の洗い出しを行う。 1-2 1.3 調査地域位置図 1-3 1.4 調査団構成 株式会社 オリエンタルコンサルタンツ 担当業務) マレーシア国の関連政策の情報収集・分析 パイロットエリアでの EV バス導入計画の検討 エネルギー需給緩和効果評価 報告書とりまとめ 再委託 株式会社 東芝 社会システムインフラ社 担当業務) EV バスシステム現地製造体制の検討 実証試験計画の検討 株式会社 ピューズ 再委託 担当業務) EV バスシステム現地製造体制の検討 実証試験計画の検討 (EV バス車両・施設計画担当) 株式会社 ハセテック 再委託 担当業務) EV バスシステム現地製造体制の検討 実証試験計画の検討 (超急速充電システム施設計画担当) Atur Trafik 外注 担当業務) パイロットエリアでの EV バス導入計画の検討(バス 需要予測を含む交通計画検討他) 1-4 1.5 調査日程 日 訪問先/活動内容 第 1 回現地調査(2013 年 12 月 8 日-21 日) 協議内容 2013/12/9 プトラジャヤ現地視察 -バス路線、ターミナル視察 2013/12/10 グリーン技術フォーラ ム(Professional Forum for Green Technology) 参加 プトラジャヤ市政府 Putrajaya Corporation 訪 問・協議 天然資源環境省 Dr. Gary William Theseira による気候変動政策に関す る講演聴講他 2013/12/11 クアラルンプール市 Dewan Bandaraya Kuala Lumpur(DBKL) 訪問協議 日本大使館 表敬訪問 rd 2013/12/12 3 Malaysian EV Roundtable 2013 参加 2013/12/13 天然資源環境省訪問 JETRO KUALA LUMPUR 訪問 2013/12/16 2013/12/17 Mr. Mazuki Bin Abdullah Senior Principal Assistant Director Transportation & traffic Division, City Services Department Dr. Leong Siew Mun Director of Urban Transport Unit Urban Transportation Department 相川氏、矢島氏 Malaysia Green Technology Cooporation (MGTC)主催 Ms. Kalson Abd. Ghani Director of Air Division Mr. Tsuneo Tanaka Advisor エネルギー・グリーン Mr.Paul Wong Kok 技術・水省(KeTTHA) Kiong Undersecretary of Policy 訪問 for the Green Technology Sector バス製造会社 Master Defence Sdn Bhd (MASDEF)訪問 Tenaga Nasional (TNB) 訪問 バス製造会社 DRB-HICOM DEFENCE TECHNOLOGIES SDN Ms. Zarina bt Mohd State Chief Engenner Distribution Devision - 調査概要説明 -公共交通の現状と将来計画について -EV バス導入にあたって考慮すべき 事項(充電設備等) -公道での EV バス実証試験実施可能 性について 等 -公共交通の現状と将来計画について -BRT プロジェクトの状況 -EV バスモデル事業の状況 -公道での EV バス実証試験実施可能 性について 等 -EV バス導入にあたって考慮すべき 事項 - 表敬訪問及び調査概要説明 -マレーシアの EV 政策について -EV モデル事業の概要について - 調査概要説明 - 大気汚染、気候変動に関する政策に ついて - 調査概要説明 -マレーシアの商習慣、製造業、グリ ーン技術等の動向について - 調査概要説明 - エネルギー政策、グリーン技術政策 について -EV 政策及びモデル事業について -EV に関する法制度について -グリーン技術推進に係る政府支援策 について -バス製造状況や EV バス製造に関す る関心等について - 電力供給状況について -EV バス、充電器の導入条件につい て -バス製造状況や EV バス製造に関す る関心等について 1-5 日 2013/12/18 2013/12/19 2013/12/20 訪問先/活動内容 BHD(DEFTECH)訪 問 団内会議他 投 資 開 発 庁 MIDA (Malaysian Investment Development Authority) 訪問 バス会社 Pengangkutan Awam Putrajaya Sdn. Bhd. (PAPSB 社) 訪問 プトラジャヤ市政府 Putrajaya Corporation 訪 問 Mr. Mohamad Ismail Abu Bakar Senior Deputy Director Foreign Investment Coordination Division Mr. Rahim CEO of Nadi Putra Ms. Wang Tze Wee Planning Department Mr. Mohamad Fauzi Bin 公共交通委員会 Land Mahasan Public Transportation Commission (SPAD)、 交通省、MGTC 合同協 議 第 2 回現地調査(2014 年 1 月 18 日-30 日) 2014/1/20 2014/1/21 2014/1/22 2014/1/23 現地確認 協議内容 - 調査概要説明 -グリーン技術に対する政府支援策に ついて -バスの運行状況確認 -EV バスシステム導入にあたっての 課題等 - 調査概要説明 - 調査概要説明 -EV バスシステム導入にあたっての 課題等 - バス会社 Pengangkutan Awam Putrajaya Sdn. Bhd. (PAPSB 社) 訪問 データ整理・報告書作 成 Proton 社訪問 プトラジャヤ・セントラル・ター ミナル視察 バス路線視察 データ収集 DEFTECHE 社協議 -マレーシア国における EV 車製造状 況について -EV バス製造体制について 現地確認(Malaka) -EV バスモデル事業視察(現場確認) バス会社 Pengangkutan Awam Putrajaya Sdn. Bhd. (PAPSB 社) 訪問 MGTC/TENAGA 合 同 協議 Mr. Rahim CEO of Nadi Putra - EV バスシステム仕様に関する協議 Mr. Mohamed Khairul Ainor Jamal Analist Built Environment, MGTC - EV バスシステム(充電器)仕様に関 する協議 Mr. Mashirwan Bin Shafil Operation & Maintenance Senior Engineer, TNB 2014/1/24 2014/1/25 バス会社 Pengangkutan Awam Putrajaya Sdn. Bhd. (PAPSB 社) 訪問 現地確認(Malaka) - データ収集・協議 -EV バスモデル事業視察(EV バス試 乗) 1-6 日 2014/1/27 訪問先/活動内容 MGTC/ 交 通 省 合 同 協 Mr. Mohamed Khairul Ainor Jamal 議 Analist Built Environment, MGTC 2014/1/28 ぺタリンジャヤ市訪問 Petaling Jaya 2014/1/29 プトラジャヤ市政府 Putrajaya Corporation 協 議 Mr. Azizul Bin Abdul Aziz Automotive Engineering Division Mr. Lee Lih Shayan Mr. Mazuki Bin Abdullah Senior Principal Assistant Director Transportation & traffic Division, City Services Department エネルギー・グリーン 技術・水省(KeTTHA) 訪問 バス会社 Pengangkutan Awam Putrajaya Sdn. Bhd. (PAPSB 社) 訪問 第 3 回現地調査(2014 年 2 月 17 日-21 日) 2014/1/30 2014/2/17 報告書作成 2014/2/18 報告書作成 2014/2/19 Sustainable Energy Development Authority (SEDA)訪問 MGTC 訪問 20th Feb (Thu) 24th Jan (Fri) プトラジャヤ市政府 Putrajaya Corporation 協 議 -ぺタリンジャヤにおけるバス事業に ついて(EV バス導入の可能性につい て) -進捗状況報告 -進捗状況報告 データ収集・協議 -マレーシア再生可能エネルギー買取 制度について Mr. Mohamed Azrin Mohamed Ali Vice President Built Environment, MGTC Mr. Mazuki Bin Abdullah Senior Principal Assistant Director Transportation & traffic Division, City Services Department Mr. Azhar Othman Planning Department TENAGA National 訪問 バス会社 Pengangkutan Awam Putrajaya Sdn. Bhd. (PAPSB 社) 訪問 協議内容 - EV バスシステム仕様、バス型式登 録に関する協議 Mr. Rahim CEO of Nadi Putra -成果報告 -実証試験に向けた協議 -成果報告 -実証試験に向けた協議 -プトラジャヤ・セントラル・ターミ ナルの電力消費状況確認他 -成果報告 -実証試験に向けた協議 1-7 1.6 調査結果概要 1.6.1 (1) マレーシア国における電気自動車(EV)関連セクターの概要 マレーシア国の経済・社会状況 マレーシアは、2020 年先進国入りに向けて、 「新経済モデル(New Economic Model)」 (2010 年 3 月) 、「第 10 次マレーシア計画」 (2010 年 6 月) 、「経済変革プログラム(Economic Transformation Program)」(2010 年 10 月)を発表し、目標達成に向けた経済政策を推進 している。これらの経済政策の中で、国家重点経済分野(National Key Economic Areas: 略称「NKEAs」)と呼ばれる 12 分野を設定し、同分野への企業進出・投資の促進を図っ ている。マレーシアの実質 GDP 成長率は近年約 5%で推移しており、失業率は 3%台に 止まっている。 (2) 電気自動車(EV)関連セクターの概要 マレーシアにおける電気自動車(Electric Vehicle: 以下 EV)産業育成推進政策について は、上述の NKEAs、国家自動車政策(National Automotive Policy:NAP 2014)及び国家 グリーン技術戦略において、明確に示されている。 このうち、NKEAs の電気・電子分野に関する Entry Point Project No.18(EPP18)におい て、 具体的な導入目標として、2020 年までに EV バス 2000 台及び EV 乗用車 100,000 台、 導入することが示されている。 また NAP2014 においては、アセアンにおける高エネルギー効率自動車(Energy Efficient Vehicle: EEV)の生産ハブとして、マレーシア自動車産業の育成を推進することが明記 された。同政策では、EV を含む EEV の国内生産車に占める比率を 2020 年までに 85% に引き上げることが目標として示された。 こうした目標の達成に向けて、公的・民間セクターをリードする役割として、Malaysia Automotive Institute(MAI)と Malaysia Green Technology Cooperation(MGTC)が政府に 変わる責任機関として指名されている。 マレーシアにおける EV に関するこれまでの取組状況は以下のとおりである。 MGTC が主導する主な活動 ・ EV 車両及び充電器の開発・テストのための“EV Infrastructure Roadmap – Checklist and Recommendations ”を発表( 2011 年 7 月) ・ 充電器に関する IEC 標準規格を国内基準として採用 (2013 年 3 月) ・ EV 関連企業との協力関係の構築 (米国 Tesla 社、中国 BYD 社) ・ EV 関連製品の展示会(EV Pavilion, IGEM)の開催 (2012 年、2013 年 10 月) ・ EV 産業の推進について関係者と協議を行う EV Round Table の開催 現在までの EV パイロット事業の状況 ・ モデル事業“Proton Fleet Test Project”、 “Bukit Bintang Pilot Program”の開始(2012 年 ‐2013 年) ・ 2013 年 12 月現在、パイロット事業で使用されている 50 台以上の EV の累積走行距 離が 200,000 km を超過。マレーシア全体で充電器を 29 か所設置。 ・ EV バイクの商業配達開始。 ・ EV バスモデル事業の開始(2013 年 8 月より KL 市内、2014 年 1 月よりマラッカ州) 1-8 1.6.2 (1) プロジェクトの内容及び技術的側面の検討 提案技術の概要 本調査において提案する EV バスシステムは、東芝の SCiBTM 電池を搭載し、10 分間の 超急速充電によって、バス運行を行うシステムである。 この EV バスシステムのコア技術である SCiBTM 電池は、チタン酸リチウムを負極に使 用しており、低温に強く、急速充電を繰り返しても殆ど劣化しないという特性を持つ。 日本企業のコンソーシアム(東芝、ピューズ、ハセテック、オリエンタルコンサルタン ツ)は、バスの EV 化の障害になっている走行距離、長い充電時間、バッテリー特性そ して初期コスト等の課題を解決するとともに、適切なバス運行管理、エネルギー管理、 長寿命バッテリー搭載 EV バスを組み合わせた、バスシステムを提案する。 (2) 事業実施体制の検討 マレーシアのバス入札においては、現地企業(ブミプトラ企業)が有利であることから、 外国企業が入札に参加する場合は、現地企業と協力することが望ましい。この必要条件 を満たすために、日本コンソーシアムは現地企業と協力関係を結び、日本コンソーシア ムがバッテリー、充電器、推進システムのような基幹技術を提供し、現地企業が組立を 行い、車台の入手、統合、事業管理を行っていくビジネスモデルを考案した。 日本コンソーシアムとマレーシア企業間のこの協同事業は、マレーシア国の事業である だけでなく、マレーシアからアジア諸国への輸出展開の一環としても考えられ、マレー シアと日本の双方の側に有益な事業となりうる。 日本コンソーシアムのパートナーとなるマレーシア企業については、複数企業を対象に、 企業分析及び協議を進めた結果、1 社を最終候補として選定している。 (3) EV バス及び充電システム開発 開発にあたっては、マレーシア国における既存の都市内バス運行状況や関連法規制を勘 案し、以下の条件を見たすものとする。 都市内バスを対象とし、1 回充電(10 分間)で走行可能距離は 30-40 ㎞を確保する。 渋滞発生時にも発着点に戻る余剰電力を確保するため、1走行(30-40 ㎞/Trip)に よる消費電力は、搭載電池容量の 50%程度とする。 バス停での停車時間は非常に短く充電時間は十分確保できないため、充電は基本的 にターミナル又は車両基地で行う。 マレーシア国のバス型式認定に必要な性能条件を満たすものとする。 マレーシア国の気象条件に適応するシステムとする。 マレーシア国における共通仕様として考えられる EV バス仕様案及び走行能力の仕様案 は以下のとおりである。 1-9 表 1-1 提案する EV バスの仕様案及び性能 SPECIFICATION PERFORMANCE LENGTH 11,980 mm POWER 150 Kw WIDTH 2,490 mm VOLTAGE 388 V HEIGHT 3,145 mm CAPACITY 86.1kwh CURB WEIGHT 10,416 MILEAGE 0.72Km/kwh PASSENGER 75 RANGE 60Km+ SEATS 40 GVW 14,954 Kg (Full Charge) Kg 出典:調査団 1-10 1.6.3 (1) パイロットエリアでの EV バス導入計画の検討 地域概況 プトラジャヤ(Putrajaya)は連邦直轄領であり、1995 年からその開発が始まった計画都 市である。同市は、行政新首都としての重要な役割に加え、自然環境と都市環境が調和 しながら共存する都市”Sustainable and Low Carbon Green City”をコンセプトとして発展 を続けている。 プトラジャヤの計画面積は約 4,930 ヘクタールである。2012 年現在のプトラジャヤの人 口は 79,400 人であり、将来(2025 年)は 350,000 人に増大すると予想されている。 (2) 対象地域におけるバス運行状況 プトラジャヤにおけるバス事業は、プトラジャヤ市政府(Putrajaya Corporation)より、 PENGANGKUTAN AWAM PUTRAJAYA SDN.BHD. (以下、PAPSB 社)に委託されている。 “Nadi Putra”として知られる PAPSB 社は、政府系企業として 1999 年に登録され、2007 年 5 月より公共交通輸送サービスを提供する事業者として活動を開始している。 運行ルートは、市内循環ルート 11 路線、市内直行ルート 39 路線、夜行バス 8 路線、隣 接都市間ルート 5 路線を運航し、乗客数は運行開始から年々増加している状況である。 (2012 年 (3) 4,598,439 人/年) バス需要予測 バスの需要予測は、プトラジャヤにおける都市開発計画(人口、労働人口、土地利用) 及び、公共交通計画を踏まえて行った。結果を以下に示す。 表 1-2 プトラジャヤにおけるバス需要予測結果 2012 2015 2020 2025 PJC 人口(人) 79,400 100,000 175,000 347,700 労働人口(人) 80,650 96,600 145,100 218,000 (民間) 25,000 36,300 71,500 139,000 (政府系) 55,650 60,300 73,600 79,000 バス利用数 モノレール利用数 公共交通利用者 モーダルシェア率 バス走行距離(km) バス走行台数 (台) バス需要 (million passenger km) 4,598,439 16,905,000 30,485,000 36,206,617 - - 開業 40,093,383 4,598,439 16,905,000 30,485,000 76,300,000 16% 25% 9,187,500 9,187,500 175 68.98 30% 50% 15,750,000 15,750,000 175 300 300 253.58 457.28 543.10 出典:調査団 1-11 (4) パイロット地域における EV バス・充電システムの検討 検討中の EV バス仕様が、プトラジャヤにおける Nadi Putra の運行条件に合致すること を確認するため、現地で採取した GPS データをもとに走行シミュレーションを行った。 その結果、現在検討中の EV バス仕様で問題は無いことを確認した。 EV バス充電システムについては、現場調査結果を踏まえ、プトラジャヤ・セントラル・ ターミナルと、PAPSB 社のバス車両基地(デポ)を設置場所として提案した。 PAPSB 社のデポは現在 1 か所であるが、第2デポの建設が進められている(2014 年 3 月工事完了) 。プトラジャヤの開発計画にあわせて、第3デポ、第 4 デポが今後整備さ れる予定である。 (5) EV バス導入計画案 PAPSB 社は 2006 年から順次 CNG バスを導入し、現在 175 台の CNG バスを所有してい る。2006 年に導入した CNG バスは、2015-2016 年で更新時期を迎えると予想され、そ の後、導入時期に応じてバス車両更新時期が来る。 またバス需要予測結果に基づき、必要なバス台数を検討した場合、2015 年は 175 台走行、 2020 年には 300 台走行が想定されることから、予備も含め 2015 年には 200 台、2020 年 には 330 台のバスが必要となる。なお 2020 年には LRT が開通し、バス利用者の一部は LRT を利用することが考えられるため、2025 年のバス台数は 2020 年レベルから変更な いと考えている。 EV バスの導入スケジュールは、現地製造体制のスケジュールを勘案し、2015 年-2016 年に実証試験車による走行、2016 年後半より本格運行が見込まれる。2016 年より更新・ 新規バスの一部として、EV バスの導入が考えられる。 プトラジャヤにおけるバス需要予測結果 表 1-3 2013 2015-2016 2017-2020 2021-2025 85,000 100,000 175,000 350,000 5,157,000 9,187,500 km 16,905,000 9,187,500 km 30,485,000 15,750,000 km 36,206,600 15,750,000 km 0 55 60+50+65+100 25 0 30 25+15+30+50 25 PJC 人口 バス乗客数 バス運行距離 導入 (+) 廃棄 (-) 出典:調査団 (6) EV バスの経済性評価 提案する EV バスシステムと、既存の CNG バス、ディーゼルバスのライフタイムコス ト(12 年)を比較した結果、EV バスのライフタイムコストは既存バスと大きな差はない ことが確認された。 EV バスシステムの初期コストは、CNG バスの 2.5 倍、ディーゼルバスと比較して、2.85 倍となっている。しかしながら、メンテナンスコストについては CNG バスの約1/3、 1-12 ディーゼルバスの場合は約1/2倍程度であり、燃料費についても他の2技術よりも低い ことが確認された。 図 1-1 バス種別ライフタイムコスト比較(12 年) 出典:調査団 1.6.4 EV バス導入によるエネルギー需給緩和及び環境への影響評価結果 提案する EV バスシステムと、既存の CNG バス、ディーゼルバスを1年間稼働した場 合のエネルギー消費量、大気汚染物質(NOx、SO2、SPM)、及び CO2 排出量の比較し たところ、いずれも提案する EV バスシステムの優位性が確認された。 1.6.5 実証実験計画の検討 プトラジャヤにおいて提案する EV バスの走行能力実証試験を実施する場合、走行ルー トは、Nadi Putra の路線のうち、ルート距離が約 30 ㎞程度の路線を対象とすることが考 えられる。なお 30 ㎞以上のルートについても、状況を見ながら試験走行を実施し、折 り返し地点での充電のタイミング等について検討することとする。超急速充電器の設置 場所としては、プトラジャヤ・セントラル・ターミナルが考えられる。 実証試験に際しては、開始時期、走行ルートをマレーシア交通省に通知し、事前に許可 を得る必要がある。また、充電器への電力供給方法、設置位置についても、プトラジャ ヤ・セントラル・ターミナルを管理する PAPSB 社及び電力供給を行う TNB との詳細調 整が必要となる。 1-13 1.6.6 (1) 事業実現に向けたロードマップと課題の検討 財務的・経済的実行可能性 公共交通においては、利用者負担を考慮し課金レベルが低く抑えられるため、事業性を 確保することが難しいと言われている。一方、地方自治体においては、その域内の住民 の生活利便性を確保する観点から、必ず公共交通の整備をする必要がある。 パイロット地域のプトラジャヤにおいても、バス事業者 PAPSB 社はプトラジャヤ市政 府(Putrajaya Corporation)からの資金支援に頼っている状況であるが、プトラジャヤの 発展に伴い、既存バス車両の更新、バス需要拡大にあわせた新規車両の購入が発生する 見込みである。 マレーシアのバス事業者が、新規にバスを購入する場合に選択肢となるのは、まず既存 のディーゼルバス、CNG バスであり、今後新たに EV バスが加わることになる。近年で は環境面での性能も重視される傾向にあり、EVバス導入に向けて、まずは提案システ ムの技術成立性、運行実証を行うことが必要である。 マレーシア国においては、公共バス交通のための予算が確保されることに加え、グリー ン技術として、また自動車産業における高エネルギー効率自動車(EEV)としての EV 産業を育成・推進する方向にあり、EV 製造者及び EV 利用者側に、税制上の優遇措置、 開発研究のための補助金、グリーン技術を購入するための低金利ローン等のインセンテ ィブが与えられる。 EV バスは、既存のディーゼルバス、CNG バスと比較して、初期コストが高いことが、 導入における大きなハードルになるが、こうしたインセンティブを利用することで、製 造者側の製造コストを抑え、また購入側も購買意欲の向上に繋がることが期待される。 (2) プロジェクトの実施スケジュール 本事業の今後の実施スケジュールとしては、以下が考えられる。 ・事業実施可能性調査(本調査) ・プロトタイプの開発製造・実証試験を行うための詳細システム調査(約 6 か月) ・プロトタイプの開発製造(約 9 か月)※日本にて実施想定 ・マレーシアへのプロトタイプ輸送、型式認定、走行システム確認(約 3 か月) ・実証試験の実施(約 1 年間) ・フォローアップ調査(約 1 年間) ・受注に基づくバス製造・納品 ・本格運用 (3) 相手国実施機関の実施能力 マレーシア国において、提案する EV バスシステムを導入する候補として、2つのバス 事業会社がある。1社は Syarikat Prasarana Negara Berhad (PRASARANA 社)、そしても う 1 社は、本調査でパイロット地域における導入検討を行った、Pengangkutan Awam Putrajaya Sdn. Bhd. (PAPSB 社)である。 両社ともに、環境への意識は高く、EV バス導入の意欲も高い。また既存のバス運行・ 1-14 メンテナンスともに良好であることから、提案する EV バスシステムを導入、運行する 能力は十分有すると判断される。 (4) 我が国企業の技術面の優位性 EV バス開発に関する各国の状況から、2020 年頃までは、EV バスの技術成立性に専念 する欧州勢が価格競争を仕掛けてくる可能性は低く、ベンチマークすべきは中国メーカ ーであると考える。 今回提案する EV バスシステムは、ボトルネックとなる電池の耐久性に優れ、長寿命の SCiB 電池を使用しているために、競合する大量電池搭載型EVバスと比較した場合、 相当の競争力があると言える。以下に、本提案システムと大量電池搭載型 EV バスシス テムの比較結果を示す。 表 1-4 提案システムと競合システムとの比較 超急速充電型 EV バス (本提案システム) 大量電池搭載型 EV バス バスサイズ 12m 大型バス 12m 大型バス 電池搭載量 320-350kWh (3.5 トン) 80-90kWh (1.2 トン) 充電方法 夜間充電(5 時間) 周回毎充電(約 10 分間) 電池タイプ LFP(リン酸鉄) LTO(負極にチタン酸リチウム) (強み) 低価格 長寿命、高出入力 走行能力 250 ㎞/充電 60-70 ㎞/充電 出典:調査団 (5) 当該プロジェクトの実施に向けた取組状況 マレーシア国においては、2020 年に向けた EV 乗用車、EV バス導入目標数値が示され、 アセアン地域における EV を含めた高効率エネルギー車の製造拠点を目指すことが、国 の政策として明確に打ち出されている。 本調査におけるパイロット地域として検討を行ったプトラジャヤにおいても、実証試験 の実施に向け、関係機関による検討、調整を行っている段階である。 本コンソーシアムは、現地製造体制を考えた事業を目指しており、バス製造国のマレー シアをターゲットとして、事業化を狙っている。 今後に向けては、マレーシア国における製造パートナーとの協議を進めるとともに、日 本国政府による、本邦技術・民間企業の海外進出支援プロジェクトを利用し、1年以上 の実証実験を経て、商用運行に耐えうるシステムであることを実証し、販売活動を開始 したいと考えている。 1-15 第2章 2.1 マレーシア国における EV 関連セクターの概要 マレーシア国の経済・社会状況 2.1.1 概況 マレーシア国は、人口 2930 万人を擁し、一人当たり GNI は約 9,970 ドルであり、中進 国に位置づけられる。産業別にはサービス業、製造業がそれぞれ GDP の約 55%、約 25% を占めている。実質 GDP 成長率は近年約 5%で推移しており、失業率は 3%台に止まっ ている。 マレー系・華人系・インド系の 3 つの主要民族から成るマレーシアでは、1971 年以降、 貧困撲滅や自国の民族構成に配慮した「新経済政策」を採ってきた。この一環として、 富の再分配施策として、政府調達上の優先権等、マレー系及び先住民族(「ブミプトラ(マ レー語で「土地の子」)」)向け優遇策(ブミプトラ政策1)を導入した。 その後、1981 年に発足したマハティール政権では、国産自動車産業等を通じた工業技術 発展等、経済発展政策を発表したほか、自国の未来ビジョンとして、経済等分野におけ る先進国入りを掲げた「ビジョン 2020」を提唱した。 2004 年に発足したナジブ現政権は、経済活性化を主要課題の一つとしているほか、上記 「ビジョン 2020」を受け継ぐ形で、2020 年までに先進国・高所得国への移行達成を最 大の政権目標としている。 2.1.2 主な経済政策 ナジブ政権は、マレーシアを高所得国入りさせるための政策として、 「1.Malaysia, People first, Performance Now」というスローガンを掲げつつ、 「政府変革プログラム(Government Transformation Program)」 (2010 年 1 月)、 「新経済モデル(New Economic Model)」 (2010 年 3 月) 、「第 10 次マレーシア計画」 (2010 年 6 月) 、「経済変革プログラム(Economic Transformation Program)」(2010 年 10 月)を発表し、目標達成に向けた経済政策を推進 している。このうち、 「新経済モデル」、 「第 10 次マレーシア計画」 、 「経済変革プログラ ム」について、以下に概説する。 ① 新経済モデル(New Economic Model)」(2010 年 3 月第一部、12 月第二部発表) 「国民全体の発展」 、及び「持 マレーシアの 2020 年先進国入りに向けて、 「高所得」、 続可能な発展」の目標を同時に達成し、国民生活の質の向上を図るための方向性を 示したものである。実現のための 8 つの戦略改革イニシアティブ(a.民間セクターの 再活性化、b.質の高い人材育成・外国人労働者への依存縮小、c.経済競争力の強化、 d.公共セクターの強化、e.透明で市場志向的なアクション、f.成長に向けた基礎の強 化、g.今後の成長部門の後押し、及び h.持続可能な成長の確保)を提示した。 1 ブミプトラ政策は格差解消達成までの時限立法とされ、導入当初は 20 年のみとされていたが、2006 年発表の「第 9 次 5 カ年計画」(2006~2010 年)において、2020 年までの延長が明記された。 2-1 ② 経済変革プログラム(Economic Transformation Program)(2010 年 10 月発表) 国民所得の引き上げ(経済成長)を達成するため、2020 年までに総額 1.4 兆リンギ ット(RM)の投資を呼び込み、330 万人分の新たな雇用を生み出すことを掲げたプ ログラムである。首相府傘下の業績管理・実施局(PEMANDU)がこれを作成し、 進捗状況の管理を行っている。 具体的には、国家重点経済分野(National Key Economic Areas:略称「NKEAs」)と呼 ばれる 12 分野(表 2-1 参照)を設定し、同分野への企業進出・投資を促すことを図 っている。NKEAs のもと、131 のプロジェクトが Entry Point Projects (EPP)として位 置づけられており、このうち電気自動車に関しては、電気・電子分野の EPP18 に位 置づけられている。 (表 2-2 参照。詳細は 2.2.2 参照) バイオテクノロジーやナノテク等のハイテクノロジーは、上記経済分野の成長を増 加させるものとして重視し、またグリーンテクノロジーや自動車産業等の発展につ いても各担当省庁で追求するものとされている。 ③ 第 10 次マレーシア計画」 (2010 年 6 月発表) 2010 年に発表された第 10 次マレーシア計画(以下「MP10」と略記。 )は、2011~15 年を対象とした 5 か年計画であり、独立への移行期の 1956 年に出された「第 1 次マ レーシア計画」以降、出されてきた 5 か年計画の第 10 次計画に当たる。 MP10 は、 「新経済モデル」 「経済変革プログラム」の実施プランとして位置付けられ ており、各年度の予算と並んで 2011~2015 年における開発予算割当の基礎文書と位 置づけられている。 同計画では、計画終了年(2015 年)において、一人当たり国民所得を 12,140 米ドルま で増加させ、このために年実質 6%成長、財政収支の GDP 比-2.8%、失業率 3.1%を達 成することとしている。5 年間における予算割当規模は 2,300 億リンギットであり、 その 4 割が人材開発等ソフトインフラ分野の投資に充てられる。 2-2 表 2-1 「国家重点経済分野(NKEAs)」及び各分野のプロジェクト例 重点分野 当該分野で予定されているプロジェクトの例 a. 石油・ガス 国際市場展開の強化 b. パーム油・関連製品 パーム油グローバルハブの形成 c. 金融サービス 国際イスラム金融センターの強化 d. 卸売・小売 規制緩和・小売業の近代化 e. 観光 エコツーリズムの振興 f. 情報通信技術(ICT) ICT 利用促進、国家創造産業政策の策定 g. 教育 教育制度改革、産学連携促進、職業訓練センター設立、 中小企業向けインキュベーター設立、戦略分野に特化し た優遇措置 h. 電気・電子 下表参照 i. ビジネスサービス 環境技術関連のサービス産業振興 j. 民間医療 医療観光の振興 k. 農業 IT 活用を通じた農業振興 l. クアラルンプール地域 クアラルンプール国際金融地域の創設、サイムダービー ビジョンバレー創設、公共交通機関整備 出典:JETRO 資料 表 2-2 電気・電子分野のエントリーポイントプロジェクト(EPP)一覧 2020 GNI No. Title of the Entry Point Project (millions) EPP 1 Executing a Smart Follower Strategy for Mature 3,632.22 Technology Fabrication EPP 2 Developing Assembly and Test Using Advanced 1,124.26 Packaging Technology EPP 3 Developing Integrated Circuit Design Firms 3,171 EPP 4 Supporting the Growth of Substrate Manufacturers and 2,248.52 Related Industries EPP 5 Increasing the Number of Silicon Producers 1,446 EPP 6 Growing Wafer and Cell Producers 3,290 EPP 7 Increasing Solar Module Producers 3,290 EPP 8 Developing LED Front-End Operations 2,681 EPP 9 Expanding LED Packaging and Equipment 1,385 EPP 10 Creating Local Solid State Lighting Champions 1,120 EPP 11 Building a Test and Measurement Hub 1,365 EPP 12 Expanding Wireless Communications and Radio 1,822 Frequency Identification (RFID) EPP 13 Growing Automation Equipment Manufacturing 126 EPP 14 Building Transmission and Distribution Companies 351 EPP 15 Building an Electrical Home Appliance Manufacturing 1,0781 Hub and International Distribution Network EPP 16: Development of Balance of Systems for Solar Photovoltaic (PV) EPP 17 Grow the Embedded Systems Industry 7,300 EPP 18 Enabling Electric Vehicle Component 4,965.3 Manufacturing EPP 19 Supporting Regional Rail MRO Services Via Electrical 592.1 and Electronics Component Manufacturing EPP 20 Enabling Industries through Nanotechnology 1,247.9 出典:PEMANDU Jobs 6,400 1,300 2,000 3,200 20,000 21,000 14,000 7,300 3,700 2,800 7,468 4,348 1,200 426 7,993 22,500 14,568 200 798 2-3 2.2 電気自動車(EV)関連セクターの概要 2.2.1 (1) 自動車産業分野 自動車産業の動向 マレーシア国では、1960 年代後半自動車生産国産化を推進してきた。1980 年代には、 マハティール政権下で工業化政策の一環として「国民車計画」を発表し、以降、国民車 メーカー2 社( 「プロトン」 「プロドゥア」)を中心とした国民車主導型の自動車産業育成 が図られてきた。その後、同国自動車産業振興策により、国民車以外のメーカーも増え たことから国内自動車生産の 3 分の 1 を上記 2 社以外のメーカーが占めるようになって きている。 図 2-1 マレーシア新車市場推移 出典:国際貿易産業省(MITI)資料 表 2-3 マレーシア自動車生産台数推移 (千台) 年 総計 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 346 419 448 417 457 549 503 442 531 489 568 534 570 179 225 222 159 167 177 121 119 161 148 171 161 161 プロドゥア 99 114 131 130 118 141 169 156 170 161 196 192 195 トヨタ 20 22 28 40 54 93 80 68 77 64 70 64 74 ホンダ 6 5 6 16 19 23 25 26 32 35 42 23 29 日産 14 16 16 20 26 31 21 19 36 24 31 24 42 その他 28 37 45 52 73 84 87 56 54 58 58 69 68 プロトン 出典:マレーシア自動車工業会 マレーシアの自動車市場は安定して成長しており、2020 年には少なくとも新車販売台数 は 80 万台に達すると予測される。これは 1 人あたりの GDP が他のアセアン主要国を大 2-4 きく上回り、購買力が堅調に成長していることによる。また、この市場成長を下支えす るものとして、マレー半島で 68 路線、3100 ㎞に達する高速道路網に代表される他アセ アン諸国より発達したインフラと、政府補助によって比較的安価に供給されている燃料 価格が上げられる。 (2) 自動車政策 マレーシア政府は、1980 年代中葉以降、従来の国民車を中心とした産業保護育成に加え、 ASEAN 域内及び日本等域外諸国との間における貿易自由化の流れを受け、2006 年 3 月 に国家自動車政策(National Automotive Policy:以下 NAP)を発表した。 NAP は自動車産業政策の方向性を示すものであり、2009 年に見直され、2010 年より施 行に移った。その大要は以下の通りである。 ・ 国内産業保護施策の継続(現地調達部品価値分の物品税減免に係る産業調整金 (Industrial Adjustment Fund: IAF)等) ・ 完成車輸入許可制度(Approved Permit:以下 AP)の廃止見送り(2020 年まで先送り) ・ 高エネルギー効率自動車(Energy Efficient Vehicle: 以下 EEV)への各種インセンテ ィブ導入(EV、HV 等完成車の輸入関税と物品税の 2013 年末までの期限付き撤廃) ・ 製造業ライセンスの規制緩和 ・ 高付加価値製品の輸出奨励のための税制インセンティブ導入 ・ プロトン社再生のための戦略的パートナーシップ確立 2014 年 1 月 20 日には、新たな NAP(NAP2014)が発表され、以下の目的達成のため、同 国の自動車産業の構造改善、グローバルな品質・コスト・製造基準に合った措置が採ら れることとなった。 ・ 自国自動車メーカーを含む、競争力があり持続可能な国内自動車産業の育成 ・ EEV に関する地域ハブとしてのマレーシア自動車産業の育成 ・ 持続可能な形による付加価値の向上促進 ・ 完成車ならびに自動車部品の輸出量増加促進 ・ 国内自動車産業のバリューチェーン全体へのブミプトラ企業の参加促進 ・ 競争的価格によるより安全でかつより良質な製品提供を通じた、消費者利益の保全 上記の目的達成のため、以下 6 種類の措置が NAP2014 文中に盛り込まれた。 ① EEV に関する地域ハブ形成 電気自動車(EV)及び CNG、LPG、バイオディーゼル、エタノール、水素、燃料電 池の 6 種類の代替燃料自動車から成る EEV が、同国国内で生産される完成車に占め る比率を、2020 年までに 85%に引き上げる。 また、これにより、同国自動車産業の設計・エンジニアリング・素材産業・部品試 験・テストプロセス等のバリューチェーン全体の強化、環境保全、高収入雇用機会 創出、及び同国国内企業を対象とした技術移転ならびに新たな経済チャンスの創出 に資することを目指す。 2-5 さらには、EEV の種類を車両重量・燃費効率(100 走行キロあたりリットル)により 8 つに区分するとともに、2017 年 12 月末日までを期限としたマレーシア国内で生産さ れている車種の EV を対象とした車両使用税・輸入税免除を含む、外国直接投資(FDI)、 国内投資(DDI)双方を対象とした補助金・減税等インセンティブが供与される。こ の一方、安全対策の観点から段階的に欧米で義務付けられている車両型式認証 (Whole Vehicle Type Approval: WVTA)取得を課す。 ② 自動車部品メーカーの育成 NAP2014 の下、国内メーカーをグローバル・域内において優秀な水準を満たす自動 車部品メーカーへ育成する。具体的には、180 社をレベル 5 水準、150 社をレベル 4 水準、100 社をレベル 3 水準に引き上げる。 ③ 自動車産業における雇用創出 2020 年までに新規雇用 15 万人分(製造部門 7 万人、アフターケア部門 8 万人)を創 出する。自動車部門全体において、2020 年までに同国国内の熟練・半熟練工が外国 人労働者の 80%を代替する。 ④ 自動車価格の引き下げ 政府・産業部門における取組として、同国国内市場向けに供給されるよりグリーン で安全な自動車の新モデル(日本車を含む)がより競争力ある低価格で提供される ことを目指す。具体的には 2017 年までに自動車の価格を 20~30%引き下げるほか、 財政状況を見て減税の可能性を検討する。 ⑤ ボランタリーな車検の導入(Voluntary Vehicle Inspection: VVI) 同国国民における保有車両の安全性担保の必要性にかかる意識向上を目的として導 入される。 ⑥ ブミプトラ企業向け措置 ブミプトラ企業の人的資本育成、技術開発等を目的とし、2014~2019 年を対象とし た左記企業の競争力強化を目的とした助成を行う。また、アフターケアサービスに 従事する自動車メーカー・企業に対する監督を継続し、自動車業界の中でブミプト ラの株主資本比率を分野別に定めることで、国内自動車産業におけるブミプトラ企 業の参加を実効性ある形で担保する。(例:自動車製造・組立分野では 30~100%) 以上の措置実施のため、合計 20 億リンギットの財政パッケージが提供される。 加えて、措置実施を担保するため、以下 6 点のロードマップ・行動計画が策定された。 これらロードマップ・行動計画は、同国自動車産業の構造転換に向けたガイドラインと しての役割も果たすことが期待されている。 ・ マレーシア自動車技術ロードマップ(Malaysia Automotive Technology Roadmap: MATR) ・ マレーシア自動車サプライチェーン構築ロードマップ ・ マレーシア自動車人的資本形成ロードマップ 2-6 ・ マレーシア自動車再生産ロードマップ ・ 自動車認定取扱施設(Automotive Authorized Treatment Facilities: ATF)枠組み構築 ・ マレーシア自動車ブミプトラ開発ロードマップ なお、2006 年に発行した日本・マレーシア経済連携協定(EPA)では、自動車部品なら びに完成車の関税が、以下の通り定められた。また、5 年間の日本人技術専門家派遣に よるマレーシア国部品産業育成等、自動車関連協力事業が計画・実施された。 ・ 従来 10%であったコンプリート・ノック・ダウン方式(CKD)及び製造用部品関税 は即時撤廃 ・ 補給部品の関税は、2007 年 20%、2009 年 5-0%、2010 年に撤廃 ・ 2000cc 以上の乗用車、3,000cc 以上の MPV、20 トン超のトラック・バスの関税は 2010 年撤廃に向け段階的に引き下げ。それ以外の中小型乗用車は 2015 年における撤廃に 向けた段階的関税率引き下げ。 2.2.2 (1) グリーン技術分野 国家グリーン技術戦略 マレーシア・エネルギー・グリーンテクノロジー・水省(Kementerian Tenaga Teknologi Hijau dan Air: 以下 KeTTHA)が 2009 年に制定した。同戦略は、エネルギーの自給自足 達成及び利用効率改善から成るエネルギー政策、環境保全及び環境影響の最小化から成 る環境政策、国家経済の発展に向けた経済政策、国民生活の質(Quality of Life: QoL) の向上を目指す社会政策の 4 つの柱から構成され、以下の戦略目的達成を目指す。 ・ エネルギー使用率削減と同時に経済発展を加速する。 ・ グリーン技術産業の成長を図り、同産業の国家経済への寄与度を高める。 ・ グリーン技術開発分野におけるイノベーション創出能力を強化し、国際市場にお ける自国グリーン技術の競争力を高める。 ・ 将来世代のために持続可能な発展と環境保全を担保する。 ・ グリーン技術に関する大衆向け教育強化・啓発により同技術の広範な利用を促す。 これら戦略目的達成のため、制度枠組みの強化、グリーン技術開発促進に向けた環境整 備、グリーン技術分野における人的資本形成取組の強化、グリーン技術にかかる研究・ イノベーションの強化、関連する PR や大衆向け普及啓発の実施等に戦略的な主眼が置 かれ、これらの実現に向けた取組が盛り込まれている。 なお、同戦略では、10MP 期間中に達成すべき短期目標(エネルギー、建築物、水・廃棄 物管理、運輸の 4 セクターが対象)のほか、10MP 以降の第 11 次・第 12 次マレーシア計 画において達成すべき中期・長期目標をそれぞれ掲げている。 このほか、同戦略及びこの下で行われる諸取組の達成度を評価する基準として、環境・ 経済・社会の 3 分野について National Key Indicators が設定されたが、今後それぞれのマ 2-7 レーシア計画及び様々な官庁の年次行動計画向けに定量的・定性的な Key Performance Indicators (KPI)へ精緻化されてゆくこととされている。2 (2) 電気自動車(EV) 推進状況 マレーシアにおける EV 産業推進政策については、上述のとおり、国家重点経済分野 (NKEAs)、国家自動車政策(National Automotive Policy 2014)及び国家グリーン技術戦 略において、明確に示されている。 このうち、NKEAs の電気・電子分野に関する Entry Point Project No.18(EPP18)におい て、具体的な導入目標として、2020 年までに EV バス 2000 台及び EV 乗用車 100,000 台、導入することが示されている。またこの目標の達成に向けて、公的・民間セクター をリードする役割として、Malaysia Automotive Institute(MAI)と Malaysia Green Technology Cooperation(以下、MGTC)が政府に変わる責任機関として指名されている。 MGTC は、マレーシアにおける EV インフラロードマップ(EV Infrastructure Roadmap) を作成するコンサルタントとして、KeTTHA に指名されている。このプロジェクトの目 的は、マレーシアの EV 産業がアセアン地域のリーダー的ポジションに成長することを 念頭に、総括的な EV インフラロードマップを策定することである。 マレーシアにおける EV に関するこれまでの取組状況は以下のとおりである。 MGTC が主導する主な活動 EV 車両及び充電器の開発・テストのための“EV Infrastructure Roadmap – Checklist and Recommendations ”を発表( 2011 年 7 月) 充電器に関する IEC 標準規格を国内基準として採用 (2013 年 3 月) EV 関連企業との協力関係の構築 (米国 Tesla 社、中国 BYD 社) EV 関連製品の展示会(EV Pavilion, IGEM)の開催 (2012 年、2013 年 10 月) EV 産業の推進について関係者と協議を行う EV Round Table の開催 現在までの EV パイロット事業の状況 モデル事業“Proton Fleet Test Project”、 “Bukit Bintang Pilot Program”の開始(2012 年 ‐2013 年) 2013 年 12 月現在、パイロット事業で使用されている 50 台以上の EV の累積走行距 離が 200,000 km を超過。マレーシア全体で充電器を 29 か所設置。 EV バイクの商業配達開始。 EV バスモデル事業の開始(2013 年 8 月より KL 市内、2014 年 1 月よりマラッカ州) EV 乗用車については、2012 年より 2 つのモデル事業“Proton Fleet Test Project”、 “Bukit Bintang Pilot Program”が実施されている。MGTC の支援のもと、7 か所の充電設備が Proton によってプトラジャヤ市内に設置された。また Tan Chong からの資金協力を得た 2 KeTTHA 資料「Dasar Teknologi Hijau Negara- National Green Technology Policy」(2010 年)、p.7~20 2-8 First Energy Network によって、Suria KLCC と Lot10 ショッピングモールに充電設備が 設置されている。2014 年 1 月末現在、マレーシア国内の充電設備は 29 か所設置されて いる。 Proton によってプトラジャヤ市内に設置さ First Energy Network によって Lot10 ショッ れた充電器 ピングモール駐車場に設置された充電器 EV バスについては、BYD/AMDAC 社が開発した試験バス(マレーシアにおける EV バ ス第 1 号)1 台が、2013 年 8 月からクアラルンプール市内を試験走行し、次いで 2014 年 1 月からマラッカ州において試験走行を継続実施している。 クアラルンプール市内試験走行時 マラッカ試験走行時 2-9 マラッカ州は、2014 年に 40 台の EV バス導入を検討中である。加えて、現在クアラル ンプール首都圏において整備が進められている BRT Sunway 線事業における EV バス運 用においても、BYD/AMDAC 社製の EV バスが、15 台導入される。 BRT Sunway 線事業概要 路線延長: 5.4 km EV バス台数: 15 台 運行時間: 0600 –2400hrs 日乗車数:16,000(2015) 運行開始予定:2015 年 6 月 出典:MGTC 3rd EV Roundtable また、これに次ぐ、マレーシア第 2 の EV バスプロジェクトとして、マレーシア自動車 協会(Malaysia Automotive Institute:MAI)と、同国企業の ARCA コーポレーション、 豪州政府系の自動車研究所であるオート CRC、メルボルンに拠点を置くスウィンバーン 工科大学が参画する、共同研究・開発事業の開始が、2014 年 2 月 6 日に発表されている。 発表によれば、同事業は、2015 年までに試作車を完成させ、2016 年から商業生産を始 める計画である。 MGTC は、Proton や日産、三菱、GE、パナソニック、Greenlots、Renault などの国内外 の EV 関連企業を招き、EV 関連製品の展示会を開催している(International Greentech & Eco Products Exibition & Confierance Malaysia; IGEM における EV Pavilion 2012、2013) 。 また EV 産業の推進について関係者と協議を行う EV Round Table を開催している。 MGTC では、こうしたモデル事業の結果や、ラウンドテーブルを通じた公的機関、民間 企業を含むマレーシア EV 関連機関との協議結果をもとに、Electric Mobility Eco System Blueprint のとりまとめを進めている。 2-10 IGEM における EV Pavilion 3rd EV Round Table の様子 2013 年 12 月時点での Electric Mobility Eco System Blueprint 案を以下に示す。NAP2014 年の発表を受けて、見直しを行い、2014 年春頃に最終化したものを発表予定である。 Electric Mobility Eco System Blueprint では、戦略的な取組として以下の 3 項目を挙げ、表 に示す具体的な施策を挙げて、取組を進めることとしている。 ① Electric Mobility in Public Transport ② Electric Mobility Ecosystem ③ High Tech Manufacturing Industry 表 2-4 Information Services, Awareness, Capacity Building Programs Electric Mobility Eco System Blueprint 案に示された EV 推進施策 • Pilot demonstration in BRT projects • Human Capital development for EV bus manufacturing • EV bus and taxi driver training • EV maintenance • Pilot demonstration programs; pilot users, car sharing programs • Green Township and Sustainable Living focus • Green commuting practises • Carbon emission awareness • Positioning Malaysia as a preferred location • Encouraging and broadcasting EV pilot programs globally • Human capital availability to support high tech manufacturing • New green industrial ecology • New innovative manufacturing methods Market • Development, adoption and harmonisation of EV bus standards Enhancement • Development, adoption and harmonisation of EV bus charging and infrastructure standards Infrastructure • Engagement sessions with bus operators; sharing of experience Development • Development, adoption and harmonisation of charging infrastructure Programs standards • Engagement sessions with State and Local Authorities to encourage self initiative • Industry development infrastructure requirements; possible sites • Industry incentives 2-11 Policies and • Green energy capacity development for EV charging Financing • Reduction of fuel subsidy, replaced with financing scheme for acquisition Mechanisms of EV buses • EV bus acquisition cost reduction packages • Building code and planning approvals incorporating EV charging station requirements • Incorporation of Electric Mobility elements in city planning approval process • Incentive packages at Federal, State, and Local Authority levels for vehicle purchase and infrastructure development • Green financing mechanism; post GTFS • Incentive for development of innovative EV technology related intellectual property Industry • Restructuring of bus manufacturing industry Development • Local CKD manufacturing of EV bus and • Increasing local content on EV bus Technology • Harmonisation of charging infrastructure Localisation • Local CKD manufacturing of EV bus Programs • Increasing local content on EV bus • Increasing number of local technology developers and solution providers • Kick-start large scale battery manufacturing • EV components manufacture supply chain • Automotive hubs – cater needs of EV 出典:MGTC 3rd EV Roundtable「Electric Mobility EcoSystem Blueprint」 2-12 2.2.3 (1) エネルギー政策 エネルギー需要動向 マレーシアの一次エネルギー消費量は 1990 年に 21.5 百万トン(石油換算。以下同じ) であったが、人口増加と経済成長を背景に、2009 年には 74.6 百万トンまで増加した。 それに合わせてエネルギー生産量も増加しており、1978 年から 2008 年の 30 年間でおよ そ 6 倍となっている。また、経済成長に伴う GDP の増加に比例して一次エネルギー供 給量、最終エネルギー消費量は増加しており、旺盛なエネルギー需要が存在している。 マレーシアでは天然ガスと石油が主要なエネルギー源となっており、この二つを合わせ て一次エネルギー消費量の約 9 割を占めている。2010 年には、天然ガスの消費量が石 油換算で 32.2 百万トン、石油の消費量が 25.3 百万トンであり、それぞれ同国の一次エ ネルギー消費量の 51%と 38%を占めている。 同国は天然ガスの主要な産出国の1つであり、生産量では世界第 10 位である。2010 年 時点で石油換算 59.8 百万トンの天然ガスを生産している。同国は天然ガスの輸出国でも あるが、この天然ガス輸出の大半は LNG(液化天然ガス)である。しかし、2012 年以 降はガスの国内産出量が減少に転じ、輸入量が拡大する見通しである。 その他のエネルギー源では石炭が 300 万トン、水力・その他が 200 万トンであり、それ ぞれ総エネルギー消費の 5%と 3%を占める。新エネルギー、再生可能エネルギーについ ては、現在のところ非常に低い割合にとどまっている。生産量で見ると、送電網に接続 された再生可能エネルギーの容量は 2005 年に 12MW、2009 年に 41.5MW だった。こ のほか、送電網に接続されていないパーム油精製業者によるバイオマス発電やバイオガ ス発電の発電量が 430MW である。 図 2-2 マレーシアの一次エネルギー消費量及び各エネルギー源の比率の推移 一次エネルギー消費量 (キロトン石油換算) 80,000 70,000 水力 60,000 石炭・コークス 50,000 石油製品等 40,000 天然ガス 30,000 原油 20,000 10,000 出典:KeTTHA 2010 2009 2008 2007 2006 2005 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 0 年 Statistics Highlights 2-13 (2) エネルギー政策 MP10 では、マレーシア国におけるエネルギー安全保障、経済効率、環境、社会的問題 への重視に立ち、市場価格設定(天然ガス、石油製品、電力、石炭)、供給者側のイニ シアティブ(LNG・石炭の輸入、再生可能エネルギーの重視、発電における原子力利用 の検討) 、省エネ施策(産業・商業・家庭・交通の各セクター) 、市場の拡大(天然ガス、 電力)、計画目標達成に向けた統合化された連続的なアプローチの 5 点の戦略を柱とし て掲げた新エネルギー戦略が策定された。以下、エネルギー資源のうち左記戦略に基づ く同国の石油、天然ガス、電力の利活用政策について概括する。 a. 石油 マレーシア国では、石油産業は国内エネルギー需要を賄う基幹産業として位置付けられ ている。政府は、1974 年の石油開発法により設立された国営会社ペトロナスを通じ、増 加するエネルギー需要への対応としての国内石油ガス開発を行っている。また、海外で は、23 カ国 75 件にのぼる石油ガス開発等、権益・新規鉱区取得を加速させている。 国内石油市場においては、ガソリン・軽油等の燃料価格は政府統制価格の適用を受けて おり、国際市場価格を下回る燃料油価格が政府補助金により維持されている。 現在、燃料油補助金については財源確保の問題上削減すべきという観点から、2010 年 7 月より同国政府は補助金改革プログラムを推進し、最終的には燃料油価格水準を国際市 場価格へ移行させることを目指している。なお、2014 年 1 月時点における販売価格はレ ギュラーガソリン(95 オクタン)、軽油についてそれぞれリットルあたり 2.77 リンギッ ト(政府補助 2.10 リンギット) 、2.84 リンギット(政府補助 2.00 リンギット)である。 b. 天然ガス 同国では、一次エネルギー供給源としての石油への依存度を減らすため、燃料源分散の 見地から、同国で豊富に産出した天然ガスは主力代替燃料と位置づけられてきた。これ により、政府による政策的な安価な価格設定の恩恵の下、当時は発電用ガス卸売価格が 石炭と同等以下であったことから、発電部門においては天然ガス火力発電がベースロー ド電源となった。 同国における天然ガス需要構造は、発電用(国営電力会社 TNB 及び IPP・独立発電事 業者向け) :非発電用(工業・商業用途) :輸出用(主に日本・韓国・台湾向け)の比率 が概ね 53:40:7 となっており、このうち非発電用部分については、安価なガス固定価 格の恩恵の下、他燃料からの燃料転換や既存需要家の需要増により、年々増加傾向にあ る。 同国の天然ガス使途のうち、天然ガス自動車(NGV)については、2012 年時点におい て、5.4 万台が登録されており、そのほとんどをタクシーが占めるが、バス等公共交通 機関への普及も拡大しつつあり、NGV 充填ステーションの整備も進められている。 (2012 年時点で 174 か所。 ) 2-14 c. 電力 マレーシア国における電力供給を担う発電事業については、マレー半島部の Tenaga Nasional Berhad (TNB)、サバ州の Sabah Electricity Sdn Bhd (SESB)、サラワク州の Sarawak Energy Berhad (SEB)及び SEB の完全子会社 Syarikat SESCO Berhad (SESCO)の政府系電力 会社 4 社と独立系民間発電事業者 (IPP)による供給体制が採られている。 このうち 36.6% の発電者を占める TNB は発電用燃料費の上昇分を政府・ペトロナスから補填されてい る。 当初、TNB が市場を独占していたが、1993 年の電力供給力不足による国内全土の計画 停電を受け、電力供給体制見直しにより、政府系 4 社と並んで IPP 各社が所有する発電 所毎に TNB と長期買電契約(以下、 「PPA」)を締結して事業運営を行う体制に移行した。 一方、送配電事業については、すべて政府系 4 社が独占しており、IPP には開放されて いない。現在、マレー半島部ではほぼ全土が系統連結されており、サバ州では全土の 9 割が系統連結されており、サラワク州では、西部海岸沿いに主要送電線が設置されてい るほか、至近地域において基幹送電線敷設事業が計画中である。このほか、タイ南部・ シンガポール向けに送電線・海底ケーブルの連系を行っている。 表 2-5 マレー半島部における電力供給・利用環境 総設備容量及び総設備容量に 総発電設備出力 21,873MW 占める TNB、IPP の供給能力 (TNB 設備容量 7,096MW、IPP 設備容量 14,777MW) (2012 年 6 月時点) 電力予備率(=(総設備容量 38%(=(21,873MW-15,872MW)/15,872MW) ―ピーク負荷)/ピーク負荷) 発電量に占める使用燃料比率 石炭 44.9%、ガス 42.9%、水力 5.6%、重油等 6.6% 電力料金の改定状況 2014 年 1 月の TNB による改訂電力料金発表により、一般 世帯の約 30%を占める電力使用量 301kWh~1,000kWh の 利用者・世帯を対象に値上げが行われた。 需要家当たりの停電時間数 2012 年の System Average Interruption Duration Index (SAIDI)は 63.25 分/年で、2011 年の 87.3 分に比べ、改 善が見られている。 出典:マレーシア日本人商工会議所「2014 マレーシアハンドブック」、TENAGA 資料 このほか、電力供給法の改正や新たな法規制の導入により再生可能エネルギーを図って おり、マレーシア持続可能エネルギー開発局(SEDA)が利活用を推進している。バイ オガス、バイオマス、小水力や太陽光発電により、30MW の発電設備規模を上限とした 固定価格買取制度(FIT)の運用を開始している。政府は、2015 年までに電力供給全体 の 6%相当の 985MW、2020 年までに全体の 11%相当の 2,080MW まで再生可能エネルギ ー由来の発電比率引き上げを目標として掲げている。 2-15 TNB における電気料金の体系は、用途、電圧および中圧(11kV)以上については時間 帯別料金の有無によって区分されている。 低圧契約(415V 以下)については、容量による基本料金は無く、使用電力量による従 量制料金である。ただし、月間の最低料金が定められている。 なお 2014 年 1 月に政府の燃料補助見直しプログラムの一環として、電気料金の値上げ が実施された。 表に TNB の電気料金体系表を示す。 表 2-6 1. TNB の電気料金体系表(商業部門) 旧レート 料金カテゴリー (1 JUNE 2011) Tariff B - Low Voltage Commercial Tariff 新レート (1 JAN 2014) For Overall Monthly Consumption Between 0-200 kWh/month For all kWh 39.3 sen/kWh The minimum monthly charge is RM7.20 For Overall Monthly Consumption More Than 200 kWh/month For all kWh (From 1kWh onwards) 43.0 sen/kWh The minimum monthly charge is RM7.20 New Structure Effective 1 January 2014 For the first 200 kWh (1 -200 kWh) per month 43.5 sen/kWh For the next kWh (201 kWh onwards) per month 50.9 sen/kWh The minimum monthly charge is RM7.20 2. Tariff C1 - Medium Voltage*1 General Commercial Tariff For each kilowatt of maximum demand per month 25.9 RM/kW 30.3 RM/kW For all kWh 31.2 sen/kWh 36.5 sen/kWh 38.6 RM/kW 45.1 RM/kW For all kWh during the peak period 31.2 sen/kWh 36.5 sen/kWh For all kWh during the off-peak period 19.2 sen/kWh 22.4 sen/kWh The minimum monthly charge is RM600.00 3. Tariff C2 - Medium Voltage Peak/Off-Peak*2 Commercial Tariff For each kilowatt of maximum demand per month during the peak period The minimum monthly charge is RM600.00 出典:TENAGA National 注 1:Midium Voltage(中圧):11kV 以上 注 2:Off-peak hours (10.00 p.m. to 8.00 a.m.) 2-16 2.2.4 (1) 環境政策 概況 マレーシア国の環境行政は、天然資源環境省(NRE)の環境局が所管しており、公害防 止、環境保護及び環境保護にかかる教育・啓発等を担っている。 マレーシア国では、伝統産業であるスズ採掘やパーム油・天然ゴム産業に由来する水質 汚濁や 1960 年代後半から始まった外資導入による工業化に伴う産業公害に対処するこ とを目的とし、1974 年に環境基準法が公害防止基本法として制定された。また、大規模 開発による環境破壊を未然に防ぐため、1985 年には環境影響評価制度も導入された。 2002 年には、環境的に健全かつ持続可能な開発を通じて、同国社会・文化の発展ならび に同国市民の生活の質的向上を実現することを目指した国家環境政策が策定された。 国家環境政策(National Environment Policy) (目的) ・現在及び将来世代のためのクリーンで、安全な、美しく、生産的な環境 ・社会のすべての部門の効果的な参加によるマレーシアの独自で多様な文化と自然遺 産の保護 ・持続可能な消費と生産様式 (戦略) 国家環境政策は、長期的な経済成長や人材開発、環境保護のために、開発事業や全ての 意思決定プロセスにおける環境配慮を取り入れることを模索している。森林、産業等の 既存の政策の環境的要素や国際社会で認識されている問題を取り入れていく。 1. 教育と啓発普及 2. 自然資源と環境の効率的管理 3. 統合化された開発の計画と実施 4. 汚染や環境破壊の防止と管理 5. 制度構築と運営の強化 6. 地域的及び世界的な環境問題への積極的なアプローチ 7. 行動計画の設計と実施 (2) 大気汚染対策 マレーシアは、近年の急激な発展の結果、都市部を中心に、大気環境の悪化が懸念され ている。過去の大気環境調査結果によれば、2009 年におけるクアラルンプール首都圏地 域(クランバレー地域)において、人の健康上問題のあるレベル(Unhealthy Level)を 示した日は 1 年で約 5%であった。しかしながら、シャー・アラムとクアラルンプール の2地域については、過年度調査(2001-2009 年)期間中、Unhealthy Level を記録する 日が地域内でもっとも多い結果となっている。加えて、首都圏周辺では、酸性雨も確認 されている。 大気汚染の要因としては、都市化、産業の発展、自動車の増加、森林火災等があげられ ている。 2-17 マレーシア国における大気汚染対策としては、第 9 次マレーシア計画において新 Clean Air Action Plan が策定・実施された。このアクションプランにおいて、以下に示す取組 が挙げられている。 ・軽油及びガソリンに含まれる硫黄の削減 (EURO 2M 基準の適用) ・自動車排気ガス基準の採用(ディーゼル車 EURO 2、ガソリン車 EURO 3) ・泥炭地火災防止のための能力強化 また第 10 次マレーシア計画においては、次項に示す気候変動対策の観点からの取組が 示されている。 (3) 気候変動対策 “Second National Communication”によれば、マレーシア国の 2000 年の温室効果ガス (GHG)排出量は 222.99 Mt であった。このうち二酸化炭素(CO2)は 167.44 Mt であ り、交通部門はエネルギー産業部門からの排出に次ぐ第 2 の排出源を占めている。 同国では、ナジブ首相が 2009 年のコペンハーゲン COP15 会議において、 「2020 年まで GDP 当たり排出量の 2005 年比 40%の自主的削減を行う」という目標を宣言した。 MP10 の下で、これを国内緩和策における目標として組み込み、省エネルギー及び再生 可能エネルギーに重点を置いた取組を進めている。2010 年には、以下に示す国家気候変 動政策(National Climate Change Policy)を発表している。なお、2014 年 1 月末日現在、 カンクン合意に基づく国としての適切な緩和行動(Nationally Appropriate Mitigation Actions:NAMAs)の国連提出は行っていない。 国家気候変動政策(National Climate Change Policy) (2010 年 11 月発表) (目的) ・ 経済競争力の強化と生活の質的向上のための賢明な資源管理と環境保護の促進を 通した気候変動問題の社会主流化 ・ 気候変動による潜在的影響への対応力の強化のための政策、計画、プログラムの 責務の統合 ・ 気候変動によるネガティブインパクトの低減の手段のより良い活用のための制度 や運営能力の強化 (戦略) 1. バランスのとれた気候変動適応策と緩和策に対応するため、既存の政策の融合の調 整 2. 海外における競争の促進と環境的に持続可能な社会経済成長の実現のため、低炭素 経済を通した気候変動対応体制の構築 3. 持続可能な社会経済成長実現のため、気候変動対応体制の構築や産業開発を含む投 資の支援 4. 環境保護の強化と自然資源の持続性向上のため、バランスのとれた適応策と緩和策 の適用 2-18 5. 再生可能エネルギーと省エネを促進するプログラム管理をエネルギー政策と統合 6. 気候変動への対応力向上のため、政策、計画、プログラム、プロジェクトの横断的 問題の統合のための方法の構築 7. 気候変動関連の人材開発や研究に重点をおいた知識基盤の意思決定の支援 8. 気候変動問題に効果的に取り組むため、全ての利害関係者間の効率的なコミュニケ ーションと調整をした共同事業の改善 9. 気候変動に対応した行動の促進のための啓発普及とコミュニティ参加 10. 共通だが能力に応じた際ある責任の原則に則った気候変動の国際プログラムへの 関与強化 2-19 第3章 3.1 プロジェクトの内容及び技術的側面の検討 提案技術の概要 今日、電気自動車(Electric Vehicle、以下「EV」)は、三菱 i-MiEV、日産リーフなどの 日本メーカーや米国 Tesla 社による EV 乗用車、同じく米国の Proterra 社や中国の BYD 社による EV バスの開発・販売により、世界的に認知されてきている。 EV バスは、化石燃料ではなく電気によって走行し、その基本構造は、エネルギーを蓄 える装置(コンデンサまたはバッテリー)、牽引システム(モーターとインバーター)及 び充電装置からなる。 図 3-1 EV バスの概要図 出典:Bombardier Primove system EV バス開発においては様々な課題があり、例えば、走行距離、長い充電時間、バッテ リーの重量やスペース、バッテリーの寿命の短さなどが挙げられる。 3-1 本調査において提案する EV バスシステムは、東芝の SCiBTM 電池を搭載し、10 分間の 超急速充電によって、バス運行を行うシステムである。 この EV バスシステムのコア技術である SCiBTM 電池は、チタン酸リチウムを負極に使 用しており、低温に強く、急速充電を繰り返しても殆ど劣化しないという特性を持つ。 日本企業のコンソーシアム(東芝、ピューズ、ハセテック、オリエンタルコンサルタン ツ)は、バスの EV 化の障害になっている課題を解決するとともに、適切なバス運行管 理、エネルギー管理、長寿命バッテリー搭載 EV バスを組み合わせた、バスシステムを 提案する。 図 3-2 提案する EV バスシステムの概要 出典:調査団 3-2 3.2 EV バス現地製造体制の検討 3.2.1 (1) 現状と課題 アジアにおける EV バス市場動向 アジア諸国では、EV バス開発に着手している国が複数存在する。 EV産業育成を国家戦略に掲げる中国は、走行距離が短い乗用車EVが大衆に受け入れ られないことから、公共交通での先行導入を行っている。北京では、自動車増加による 大気汚染の深刻化を受け、より環境に配慮した公共交通手段として EV バス導入を開始 した。2010 年の上海万博頃から、キャパシタ+停留所毎のパンタグラフ充電方式、1 日 走行分約 200 ㎞をカバー出来る大量電池搭載の夜間充電方式、国家電網が充電インフラ 設置支援する電池交換方式、合わせて 1000 台以上のフル EV バスが商用運行されており、 技術の蓄積では圧倒的に世界をリードしている。中国政府は、多くの資金提供により EV バス輸出を奨励している。 韓国では、ソウル市を対象に EV バスが開発されている。2020 年までにソウル市は 3500 台の EV バス導入を目指している。 日本においても、これまで複数の EV バス開発・実証実験が行われている。商業運行事 例としては、東京都羽村市、墨田区が 2012 年 3 月に、港区が 2014 年 2 月より、それぞ れコミュニティバスの運行を開始している。 一方、東南アジアのバス市場で車台シェアの高い欧州のバスメーカーは、域外製電池導 入に慎重で開発に時間がかかっており、低コスト化も出来ないことからアジアに展開す る段階に至っていない。 (2) マレーシア国における EV バス製造動向・課題等 2013 年 8 月より、マレーシア国初の EV バスの走行実証試験が開始された。この EV バ スは、KeTTHa 及び MGTC 支援のもと、中国企業 BYD 社と現地企業 AMDAC 社によっ て開発されたものであり、クアラルンプール市内を約 6 か月試験走行した後、2014 年 1 月からはマラッカにおいて、引き続き試験走行を実施中である。また現在建設中の BRT・Sunway ラインにおいても、15 台の EV バスが 2015 年 6 月より走行することが決 まっている。 マレーシアにおけるバス調達においては、現地ブミプトラ企業に、プライオリティーが 与えられる。 (競争入札時に、ブミプトラ企業には加点がなされる。 )そのため、外国企 業が調達に参入しようとする場合には、コンプリート・ノック・ダウン方式(CKD)3又 はコンプリート・ビルト・アップ方式(CBU)4に関わらず、マレーシア企業と協力す る必要がある。 3 CKD 方式:部品単位で輸送して現地で組み立てるノックダウン生産の一種で、より細かく分解された部品(アッ センブリー等)単位で輸送し組み立てる生産方式。 4 CBU 方式:海外で組み立てられた完成車を現地に持ち込む方式。 3-3 またマレーシアの自動車政策(National Automotive Policy)では、現地製造の EV または ハイブリッド車に税制上の優遇措置を与えることによって、外国企業の現地製造拠点設 立を奨励している。 3.2.2 (1) 事業実施体制の検討 ビジネスモデル案 マレーシアのバス入札においては、現地企業(ブミプトラ企業)が有利であることから、 外国企業が入札に参加する場合は、現地企業と協力することが望ましい。この必要条件 を満たすために、日本コンソーシアムは現地企業と協力関係を結び、日本コンソーシア ムがバッテリー、充電器、推進システムのような基幹技術を提供し、現地企業が組立を 行い、車台の入手、統合、事業管理を行っていくビジネスモデルを考案した。 日本コンソーシアムとマレーシア企業間のこの協同事業は、マレーシア国の事業である だけでなく、マレーシアからアジア諸国への輸出展開の一環としても考えられ、マレー シアと日本の双方の側に有益な事業となりうる。 EV バスは新しい技術開発であり、インセンティブの付与やグリーン技術のための税制 上の優遇措置は、マレーシアにおけるグリーン技術産業をさらに推進することに繋がる。 KeTTHA のような政府省庁または MGTC は、グリーン技術開発のうえで重要な役割を 演じることが期待されている。 (2) パートナー企業候補の選定 日本コンソーシアムのパートナーとなるマレーシア企業の選定については、複数企業を 対象に、企業分析及び協議を進めている。 3-4 3.2.3 EV バス及び充電システム開発 3.2.3.1 (1) EV バスの開発 開発にあたっての前提条件 開発にあたっては、マレーシア国における既存の都市内バス運行状況や関連法規制を勘 案し、以下の条件を見たすものとする。 都市内バスを対象とし、1 回充電(10 分間)で走行可能距離は 30-40 ㎞を確保する。 渋滞発生時にも発着点に戻る余剰電力を確保するため、1走行(30-40 ㎞/Trip)に よる消費電力は、搭載電池容量の 50%程度とする。 バス停での停車時間は非常に短く充電時間は十分確保できないため、充電は基本的 にターミナル又は車両基地で行う。 マレーシア国のバス型式認定に必要な性能条件を満たすものとする。 マレーシア国におけるバス型式認定(Vehicle Type Approval:VTA)に必要な性能条件、 基準等は以下のとおりである。 同国は、UNECEの国際車両規格に準拠しているので、提案するEVバス車両がこれ に合致し、動力部の電動化が R100 条項を満たせば良いことを確認した。 Item No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 表 3-1 車両登録に必要な性能要求に係る基準一覧 Subject Particulars of instrument or other documents containing requirements Indicator Performance E.C.E R6 Brake lamp performance E.C.E R7 Brake performance E.C.E R13/R13H Safety seat belt and its anchorage M.S 1175 points E.C.E R14 & R16 Exhaust Emission Peraturan-Peraturan Kualiti Alam Sekeliling (Kawalan Pelepasan Daripada Enjin Petrol/Diesel) 1996. E.C.E R15/R24/R49/R83 ※ガソリン車・ディーゼル車の排出基準であ り、本提案の EV 車は適用外 Seats E.C.E R17/R80 Protection Against Unauthorised M.S 1742 Use E.C.E R18/R97/R116 Head Restraint E.C.E R25 Audible Warning Device E.C.E R28 Tyres M.S. 149/224 E.C.E. R30/R54/R108/R109 FMVSS 109 Constrcution of Public Service E.C.E. R36/R52 Vehicles Speedometer E.C.E. R39 Safety Glass M.S. 595 E.C.E. R43 Rear View Mirrors E.C.E R46 HID Head Lamp Performance M.S ISO 303 (if any) E.C.E R48/R98/R99 3-5 Item No. 16 17 18 19 20 21 22 Subject Particulars of instrument or other documents containing requirements Noise Emission Peraturan-Peraturan Kualiti Alam Sekeliling (Bunyi Bising Kenderaan Motor) 1987. E.C.E R51 Strength of Super Structure (Large E.C.E R66 Passenger Vehicle) (if any) Steering Equipment E.C.E R79 Protection of the Occupants in the E.C.E R94 Event of a Frontal Collision Protection of the Occupants in the E.C.E R95 Event of a Lateral Collision Battery Electric Vehicles E.C.E R100 (if any) Head Lamp Performance E.C.E R112/R113 出典:交通省 Type Approval Performance Requirements (M – Passenger Car) (2) EV バス仕様及び性能 上記の前提条件を勘案し、マレーシア国における共通仕様として考えられる仕様案、及 び走行能力は以下のとおりである。 表 3-2 SPECIFICATION EV バスの仕様案及び性能 PERFORMANCE LENGTH 11,980 mm POWER 150 Kw WIDTH 2,490 mm VOLTAGE 388 V HEIGHT 3,145 mm CAPACITY 86.1kwh CURB WEIGHT 10,416 MILEAGE 0.72Km/kwh PASSENGER 75 RANGE 60 + km SEATS 40 GVW 14,954 Kg (Full Charge) Kg 出典:調査団 3-6 3.2.3.2 充電システムの開発 (1) 開発にあたっての前提条件 開発にあたっては、前段の EV バス開発時の条件に加え、対象地域の電気事業者の供給 能力及びマレーシア国の気象条件に配慮する。 気象条件については、代表地点として、クアラルンプール及びペナン島の気象概況を下 表に示す。気温については、四季のある日本と比較して一年中常夏(25~35℃)であり、 湿度は一年を通じて 70%以上である。また降雨量は 10~12 月の降雨量が 450~685mm と一番多くなる。 EV-Bus 用超急速充電器の仕様には耐環境設計の考慮が必要であり、特に高温炎天下で の連続使用は注意が必要となる。また 320kW の出力と大きい為、充電器の設置場所に ついては耐環境、設備の大きさ、安全性、取扱等を考慮して屋根付きの場所を選定する 必要がある。 表 3-3 場所 クアラルンプール ペナン島 マレーシアの気象条件 項目 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月 最高気温 33 34 33 34 34 34 33 33 33 33 32 32 最低気温 25 25 25 26 26 26 25 25 25 25 25 25 湿度(%) 77 79 79 79 77 69 74 74 75 80 84 84 降雨量(mm) 232 364 263 225 313 23 164 92 141 459 684 455 最高気温 32 32 31 32 32 32 31 32 31 31 31 32 最低気温 25 25 25 25 25 26 25 25 25 25 25 25 湿度(%) 76 81 82 83 83 81 81 77 80 81 80 78 降雨量(mm) 21 250 309 167 241 45 141 203 377 194 252 95 出典:マレーシア気象庁データ マレーシアにおける充電器に関する基準は、以下のとおりである。国際電気標準会議 (International Electrotechnical Commission、IEC)の 5 基準を採用している。 3-7 表 3-4 技術標準 IEC 62196-1 IEC 62196-2 マレーシアにおける充電器に関する基準一覧 内容 プラグ,コンセント,車両カップラ及び車両インレット-電気自動車のコンダク ティブ充電-第 1 部:一般要求事項 プラグ,コンセント,車両カップラ及び車両インレット-電気自動車のコンダク ティブ充電-第 2 部:交流ピン及びコンタクトチューブに対する寸法的両立性及 び互換性の要求事項 IEC 61851-1 電気自動車コンダクティブ充電システム-第 1 部:一般要求事項 IEC 61851-21 電気自動車のコンダクティブ充電システム-第 21 部:電気自動車の交流/直流電 源へのコンダクティブ接続に関する要求事項 電気自動車のコンダクティブ充電システム-第 22 部:交流電気自動車充電スタン ド IEC 61851-22 出典:MGTC ヒアリング (2) 充電器の仕様 上記の前提条件を勘案し、マレーシア国における共通仕様として考えられる仕様案を検 討した。仕様については、各バス事業者の要望、運行条件等にあわせて柔軟に対応する。 3-8 3.2.4 購入基幹電動部品の仕様 EV バス製造コストに大きな影響を及ぼす購入基幹部品として、駆動モータ、インバー タ、空調装置(エアコン)、シャーシについて調査を行った。 日本の EV バスの現状を調査するとともに、実績が豊富で現時点で量産を行っている中 国企業を訪問し、購入基幹部品の仕様の調査を行った。 (1) 駆動モータ、インバータ ①日本の現状 日本の EV バスでは米国の UQM Technologies 社製のモータ、インバータが最も多く採用 されている。 ②中国企業訪問 社名 中山大洋電機股份有限公司(ZHONGSHAN BROAD-OCEAN MOTOR CO.,LTD) 場所 広東省中山市 訪問日時 2014 年 1 月 21 日 出席者 中山大洋電機 ピューズ 実績 卆副総裁、蘭所長、郭総監、胡部長 王、水越 FOTON、上海 VOLVO、BYD、宇通等に納入 電気バス用モータは数 100 台/年生産 スペインで実証実験中の FOTON 製電気バスに搭載されている 性能・仕様 定格 130kW、2,100rpm 最大 250kW、850Nm、4,500rpm φ430x300 170kg 3-9 (2) 空調装置(エアコン) ①日本の現状 新規に車両を開発することは少なく、ほとんどがディーゼルエンジン車から EV への改 造であるため、ベース車に搭載されているシステムを流用することが多い。即ち、冷房 はエンジンで駆動していたコンプレッサを新設した電気モータで駆動し、暖房はエンジ ン冷却水を循環させる代わりに電気ヒーターで温水を生成し循環させる構造をとる。 このような状況のため、現時点では国内で電気バス専用空調装置を販売しているメーカ ーは無い。 ②中国企業訪問 社名 湖南華強電気有限公司(VAQOUNG) 場所 湖南省長沙市 訪問日時 2014 年 1 月 20 日 出席者 湖南華強電気 ピューズ 実績 羅董事長、方総工程師、周副総工程師 王、水越 BYD、宇通、金龍などに納入 2008 年北京オリンピック、2010 年上海万博で電気バスに搭載 中国製電気バスに搭載されて、台湾、オーストラリアに導入実績あり 乗用車用エアコンコンプレッサを北京汽車に 10,000 台納入 性能・仕様 冷暖両用 30kW DC280-800V 入力 3-10 (3) シャーシ ①日本の現状 前述のように、日本国内ではディーゼルエンジン車を EV に改造しているため、シャー シ単体での供給は行われていない。 ②中国企業訪問 社名 金龍連合汽車工業(蘇州)有限公司(Higer Bus Company Limited) 場所 蘇州工業団地 訪問日時 2014 年 1 月 23 日 出席者 湖南華強電気 ピューズ 実績 羅董事長、方総工程師、周副総工程師 王、水越 2013 年の生産台数 26,000 台(主にディーゼル、CNG) 世界 80 ヶ国に輸出 1999 年から電気バスを製造 マレーシアには現地製造会社(SKS など 4 社)と提携してディーゼル車を 500 台程度販売 3-11 3.2.5 受注計画 2.2.2 (2) 電気自動車(EV)推進状況に示したとおり、マレーシア国においては、2020 年までに 2000 台の EV バス導入という目標が EPP18 に明記されており、この目標達成 に向けた様々な取組が進められている。2014 年には少なくとも 50 台の EV バスが、マ レーシア国内に導入される見込みである。 PRASARANA 社については、EV バス導入に積極的な姿勢を見せており、クアラルンプ ール首都圏で整備中の BRT・Sunway ラインにおいて、EV バスを 15 台導入することを 2013 年 10 月に決定している。クアラルンプール首都圏では、 MRT の整備も進んでおり、 今後 MRT 駅の整備とあわせてフィーダーバスの運行も想定される。ペナン島において は、既に EV モーターサイクルのモデル事業が進行中であり、観光地を周回する EV バ スの導入も今後検討される見込みである。 また PAPSB 社については、この後第 4 章に詳述するとおり、プトラジャヤ市の開発と ともに 2025 年までに人口が 4 倍以上増加する見込みであり、こうした街の成長にあわ せて公共交通を整備することが求められている。 新規路線以外にも、PAPSB 社所有バス 175 台は、2016 年以降、順次更新される予定で あり、更新計画に合わせた EV バスの導入を、本調査において提案する。 上記 2 社以外の有力な顧客候補及び導入候補地域としては、マラッカ州のパノラママラ ッカ社(Panorama Melaka Sdn Bhd) 、及び MP10 のもと大型開発事業が進行中であるイ スカンダル開発地域(南部ジョホール州)が挙げられる。 またイスカンダル開発地域(南部ジョホール州)についても、低炭素型の都市づくりが 進められており、環境に配慮した公共交通として EV バスの導入は、同地域の開発の方 向性と合致している。 3-12 3.2.6 資金調達計画 本提案による EV バス開発段階においては、公的支援が不可欠である。マレーシア国に おいては、グリーン技術の普及推進のための公的支援スキームである、Green Tecnology Finacing Schem(GTFC)がある。GTFC はグリーン技術開発推進のため 2010 年に設立さ れた公的資金スキームであり、既に 200 以上のプロジェクトが既に支援を受けている。 支援対象事業は、マレーシア国内又は輸入技術を使用しながらマレーシア国内で実施さ れる事業であり、グリーン技術を開発する生産者及びその技術の使用者に対し、それぞ れ支援スキームがある。概要は以下のとおりである。 表 3-5 グリーン技術ファイナンシングスキーム(GTFC)の概要 FEATURES Financing size PRODUCER OF GREEN USER OF GREEN TECHNOLOGY TECHNOLOGY Maximum: RM50 million per Maximum: RM10 million per company company Financing tenure Up to 15 years Up to 10 years Eligibility criteria Legally registered Malaysian Legally registered Malaysian -owned companies (at least -owned companies (at least 51%) in all economic sectors Participating 70%) in all economic sectors financial All commercial and Islamic banks. institutions (PFIs) GFIs: Bank Pembangunan, SME bank, Agrobank, Bank Rakyat, EXIM bank and Bank Simpanan Nasional (Listing of commercial banks and Islamic banks from Bank Negara Malaysia website.) 出典:マレーシア GTFC サイト この支援スキームは、新事業または、これまで資金援助を受けていないか又は一部支援 を受けたグリーン技術を適用して改良、もしくは拡大する事業が対象となる。なお GTFS は進行中の事業には適用できない。 マレーシア国において EV バスを製造する場合には、本スキームの適用が考えられる。 なお、日本国において EV バス(試験車)を開発製造し、海外に普及推進する場合には、 日本政府によるインフラ輸出支援スキームの利用が考えられる。 3-13 3.2.7 事業実施スケジュール マレーシア国において、EV バスを製造するためには、以下のステップを踏むことが考 えられる。 ・事業実施可能性基礎調査(本調査) ・プロトタイプの開発製造・実証試験を行うための詳細システム調査(約 6 か月) ・プロトタイプの開発製造(約 9 か月)※日本にて実施想定 ・マレーシアへのプロトタイプ輸送、型式認定、走行システム確認(約 3 か月) ・実証試験の実施(約 1 年間) ・フォローアップ調査(約 1 年間) ・受注に基づくバス製造・納品 ・本格運用 マレーシアにおいてバス製造・販売を行うためには、早期にバス型式認定(VTA)を受 ける必要がある。マレーシア交通省における VTA 手順は以下のとおりである。 図 3-3 マレーシア型式認定(VTA)の手順 製造者 交通省(JPJ)による審査 -Document Verification -Physical Inspection -Dynamic Test (Road Worthiness Test) 交通省と VTA 委員会による審査 - Compilation and presentation of Inspection Results by JPJ ; Compliance and specification verification by members ; Determination of vehicle body configuration ; Matter arise related to VTA application ; Approve the VTA application (2/3 majority) 認証発行 出典:マレーシア交通省資料 3-14 第4章 4.1 パイロットエリアでの EV バス導入計画の検討 対象地域の概況 4.1.1 プトラジャヤの概況 プトラジャヤ(Putrajaya)は連邦直轄領であり、1995 年からその開発が始まった計画都 市である。同市は、行政新首都としての重要な役割に加え、自然環境と都市環境が調和 しながら共存する都市”Sustainable and Low Carbon Green City”をコンセプトとして発展 を続けている。 同市は、クアラルンプールとクアラルンプール国際空港の間に位置し、アクセス性に優 れている点で、都市開発における大きな利点がある。これに加え、様々な名所を有する 国際観光都市として発展することも期待されている。 4.1.2 (1) 地域開発フレームの確認 開発計画の概要 プトラジャヤの計画面積は約 4,930 ヘクタールであり、 その約 65%は開発を終えている。 2012 年現在のプトラジャヤの人口は 79,400 人であり、将来(2025 年)には、350,000 人に増大すると予想されている。 行政新首都として、プトラジャヤには多くの政府機関オフィスがある。多くの政府系建 物は建設を終えており、約 51,400 人の公務員が従事している。 表 4-1 Area Planned Population Daytime Population Government Commercial Planned Housing Units Roads (major) Bridges 主な開発指標 4,931 hectares 350,000 500,000 3.8 million m2 3.4 million m2 65,000 units (55% Government) (32% Public) (13%Affordable House) 95.01km 8 bridges 4-1 プトラジャヤ開発計画(Putrajaya Structure Plan)によると、政府系住宅と個人住宅を合 せて、合計 65,000 の住宅建設が計画されている。一方、商業施設の開発と商業従事者数 は、制限されている。しかしながら、将来的な都市開発によって、商業・サービス産業 のための設備開発が勢いを増すと予想される。 上述のとおり、プトラジャヤは、自然と都市環境とが互いに調和し共存する都市として 開発・発展を続けている。プトラジャヤの土地のおよそ 40%は、2025 年にはレクリエー ションとオープンスペースのために使われる予定である。たとえプトラジャヤの人口が 計画人口最大の 350,000 人に達するとしても、レクリエーションとオープンスペース(緑 地) の面積は、一人当り 55m2 であり、 WHO によって推薦される 16m2 と National Physical Plan で推薦される 20m2 を超える見込みである。 図 4-1 出典:Putrajaya プトラジャヤ土地利用計画図 Corporation 資料 4-2 (2) プトラジャヤ及び周辺の公共交通計画の概要 プトラジャヤ市の西部には、プトラジャヤの交通結節点である、プトラジャヤ中央ター ミナルがある。このターミナルは、クアラルンプールとクアラルンプール国際空港間を 結ぶ鉄道の駅であるとともに、プトラジャヤの市内及び周辺都市間を結ぶバスのターミ ナル、タクシー及び自家用車の駐車スペースが整備されている。また市内には、プトラ ジャヤ中央ターミナルと Government Complex 及び Presinct 14 にパークアンドライドが 整備されている。 Putrajaya – Review of the Masterplan Transport Study によれば、プトラジャヤの軌道交通と して、LRT ネットワーク(West- North line 及び East –South Line)が計画されている。 West- North line については、プトラジャヤ・セントラル ターミナルにおけるプラット ホーム及び市内を通過する鉄道橋が一部建設済みではあるが、2014 年 2 月現在、この LRT プロジェクトは停止状態にある。 (3) 低炭素社会づくりに向けた取組(Putrajaya Green City 2025) プトラジャヤ市では、環境に配慮した”Green City”としての開発ポテンシャルを評価 し、必要なアクションを設定するため、 「Putrajaya Green City 2025 (以下、PGC2025 )」を 策定している。本計画では、低炭素社会、都市の熱環境(ヒートアイランド)及び廃棄 物管理が 3 つの主要なテーマとして設定され、以下の 12 のアクションが示されている。 本調査で提案する EV バス事業は、Action 2: Low-carbon Transportation の一環として、実 行されることが期待される。 Action 1: Integrated City Planning and Management Action 2: Low-carbon Transportation Action 3: Cutting Edge Sustainable Buildings Action 4: Low-carbon Lifestyle Action 5: More and More Renewable Energy Action 6: The Green Lung of Putrajaya Action 7: Cooler Urban Structures and Buildings Action 8: Community and Individual Action to Reduce Urban Temperature Action 9: Use Less Consume Less Action 10: Think Before You Throw Action 11: Integrated Waste Treatment Action 12: Green Incentives and Capacity Building 4-3 4.1.3 対象地域におけるバス運行状況 プトラジャヤにおけるバス事業は、プトラジャヤ市より、PENGANGKUTAN AWAM PUTRAJAYA SDN.BHD. (PAPSB 社)に委託されている。 “Nadi Putra”として知られてい る PAPSB 社は、プトラジャヤ市によって所有される政府系企業として 1999 年に登録さ れた。同社は、プトラジャヤで公共交通輸送サービスを提供する事業者として、2007 年 5 月より活動を開始している。 (1) バスルート及び運行範囲 2014 年 1 月現在、PAPSB 社が運行するルート及び範囲は以下のとおりである。 図 4-2 Nadi Putra ルート図 出典:PAPSB 社資料 4-4 (2) 乗客数及びバス所有台数の推移 乗客数及びバス所有台数を下表に示す。乗客数は年々増加している状況である。 表 4-2 2006 Nadi Putra 乗客数及びバス所有台数の推移 2007 2008 2009 2010 2011 2012 バス利用者 バス運行距離 899,513 1,847,198 2,545,102 3,224,656 3,793,788 4,254,893 4,598,439 1,536,258 2,051,792 3,785,153 4,807,399 7,400,669 8,862,251 - km km km km km km 30 55 70 100 150 175 175 バス台数 30 25 15 30 50 25 0 導入(+) 0 0 0 0 0 0 0 廃棄 (-) 出典:PAPSB 社資料 図 4-3 年間乗客数の推移 5,000,000 4,598,439 4,254,893 4,500,000 3,793,788 4,000,000 3,500,000 3,224,656 3,000,000 2,545,102 2,500,000 1,847,198 2,000,000 1,500,000 1,000,000 899,513 500,000 0 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 出典:PAPSB 社資料 (3) プトラジャヤにおけるバス事業の課題 PAPSB 社は毎年、顧客満足度調査を実施している。調査によって得られたバス事業の課 題は以下のとおりである。 [プトラジャヤ市のバス事業の課題] 待ち時間が長い、到着時間が不確実、バス到着時間の表示板設置が限定的 同じ目的地に向う複数のルートがあり、利用者の混乱を誘う。 バス料金支払い方法が不便(バスカードも導入されているが利用者が少ない) ピーク時のバス本数が不足 その他(運転手の運転マナーの悪さ等) こうした顧客からの意見・課題に対し、PAPSB 社はバスルートの再整理(路線の新設を 含む)、バス到着表示板の増設、バス運行ペースの改善、スクールバス等、地域コミュ ニティに密着したサービスの提供、等の対策を講じている。 4-5 4.2 バス需要予測 4.2.1 バス需要予測手法 バスの需要予測は、プトラジャヤにおける都市開発計画(人口、労働人口、土地利用) 及び、公共交通計画を踏まえて行った。なお、将来人口については、開発計画策定時か ら、現況までに一部ずれが生じていることを勘案し、現況推移にあわせて見直しを加え ている。また計画に基づき、2020 年には、LRT が開通することを条件に加えている。 将来の交通需要に対する公共交通の分担率は、PGC2025 を踏まえて設定を行った。 図 4-4 プトラジャヤ将来人口予測 出典: Putrajaya Corporation 資料 表 4-3 2007 計画策定時 49,452 プトラジャヤ将来人口予測(バス需要予測時) 2010 2012 70,700 2015 2020 2023 2025 152,500 281,500 320,000 350,000 (347,700) 修正値 49,452 70,700 79,400 100,000 175,000 250,000 347,700 出典:調査団 4.2.2 バス需要予測結果 バスの需要予測結果を次ページに示す。 4-6 表 4-4 2006 2007 プトラジャヤバス将来需要予測 2008 2009 2010 2011 2012 2015 2020 2025 PJC 人口(人) 43,900 49,452 55,709 62,759 70,700 75,100 79,400 100,000 175,000 347,700 労働人口(人) 40,000 47,000 49,000 51,000 61,000 71,000 80,650 96,600 145,100 218,000 5,000 6,000 8,000 10,000 15,000 20,000 25,000 36,300 71,500 139,000 35,000 41,000 41,000 41,000 46,000 51,000 55,650 60,300 73,600 79,000 (民間) (政府系) バス利用者数 899,513 1,847,196 2,545,102 3,224,656 3,793,788 4,254,893 4,598,439 16,905,000 30,485,000 36,206,617 モノレール利用者数 - - - - - 公共交通利用者 1,847,196 2,545,102 3,224,656 3,793,788 4,254,893 4,598,439 16,905,000 30,485,000 76,300,000 899,513 モーダルシェア率 バス走行距離(km) バス走行台数 (台) バス需要 (million passenger km) 6% 11% 1,536,258 2,051,792 30 13.16 55 19.69 15% 18% 18% 17% 3,785,153 4,807,399 7,400,669 8,862,251 70 39.32 100 44.29 150 53.48 175 61.56 16% 開業 25% 40,093,383 30% 50% - 9,187,500 175 175 300 300 253.58 457.28 543.10 68.98 15,750,000 15,750,000 出典:調査団 4-7 4.3 EV バス・充電システム検討 4.3.1 EV バス仕様の検討 Nadi Putra の運行ルート並びに運行スケジュールに合致する EV バス仕様の検討の為、 現状運行しているバスに乗車し、走行開始から運行ルート 1 回走行終了するまでの GPS データを採取した。対象ルートは、運行距離が全ルートと比較して平均的であり、市内 の主要箇所を運行する L11 ラインとした。 採取した GPS データを元に、EV バスを走行させた場合のエネルギー消費量を算出した。 GPS データ並びにシミュレーション結果から、検討中の EV バス仕様が Nadi Putra の運 行条件に合致することを確認した。 図 4-5 EV バス走行シミュレーション結果 100 EVバス走行シミュレーション(運行ルートL11) 90 速度[km/h] 走行エネルギー[kWh] 標高[m] 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0 300 600 900 1200 1500 1800 2100 time(sec) 2400 2700 3000 3300 3600 出典:調査団 4-8 4.3.2 EV バス充電システムの検討 充電器の設置場所については、現場調査結果を踏まえプトラジャヤ・セントラル・ター ミナルと、Nadi Putra のバス車両基地(デポ)を設置場所として提案する。 第 1 フェーズ:実証実験レベル(EV バス 4 台走行を対象として導入) ① Putrajaya Central 充電器設置場所案 超急速充電器(320kW)を 2 台設置 ② Nadi Putra 車両基地 (50kW/320kW 充電器設置場所案) 4-9 第 2 フェーズ:2016 年 30 台の EV-Bus 化と 5 ルートを対象として導入 プトラジャヤ・セントラル・ターミナルへの増設(3 台追加)、及び現在工事中の P14 デポ 2 へ 1 台新設。 運行距離 30km 未満については各デポで充電する。30km を超える場合には折り返し 地点に超急速充電器を設置する。 図 4-6 充電器設置箇所候補 Depot 2 (工事中) Nadi Putra Depot 1 Putrajaya Central Depot 3 (予定) Depot 4 (予定) 出典:PAPSB 社へのヒアリングを元に調査団作成 第 3 フェーズ:Nadi Putra のバス 175 台を EV 化し全てのルートを対象に導入 超急速充電器(320kW) :31 台 急速充電器 :5 台(各デポ、折り返し点) (50kW) 充電器の台数はバスの EV 化運行計画により詳細に検討する。特に鉄道が新設された場 合、隣接場所のバスターミナルへの充電器の設置が考えられる。 4-10 4.4 EV バス導入計画及びメンテナンス計画 4.4.1 EV バス導入計画案 現在、PAPSB 社は 175 台の CNG バスを所有している。下表に示すとおり、同社は 2006 年から順次 CNG バスを導入している。 EV バスの導入スケジュールは、現地製造体制のスケジュールを勘案し、2015 年-2016 年に実証試験車による走行、2016 年後半より本格運行が見込まれる。2016 年より更新・ 新規バスの一部として、EV バスの導入が考えられる。 表 4-5 2006 PJC 人口 バス利用者数 バス運行距離 必要バス台数 導入(+) 廃棄(-) PJC 人口 バス利用者数 バス運行距離 導入(+) 廃棄(-) 出典:調査団 2007 43,900 899,513 1,536,258 km 30 30 0 Nadi Putra バス導入・更新計画案 2008 49,452 2009 55,709 2010 62,759 2011 70,700 75,100 2012 79,400 1,847,198 2,545,102 3,224,656 3,793,788 4,254,893 4,598,439 2,051,792 3,785,153 4,807,399 7,400,669 8,862,251 km km km km km km 55 70 100 150 175 175 25 15 30 50 25 0 0 0 0 0 0 0 2013 2015-2016 2017-2020 2021-2025 85,000 100,000 175,000 350,000 5,157,000 9,187,500 km 0 0 16,905,000 9,187,500 km 55 30 30,485,000 15,750,000 km 60+50+65+100 25+15+30+50 36,206,600 15,750,000 km 25 25 PAPSB 社の現在の運行スケジュールをもとに、EV バス運行計画の検討を行った。 プトラジャヤ・セントラル・ターミナルを発着する L01 ライン、及び L11 ラインを例に 確認した結果、現在の運行スケジュールに充電(10 分)を組み込んだとしても、運行ス ケジュールに影響を与えないことが確認された。 4.4.2 EV バス及び充電システムのメンテナンス計画 EV バス及び充電システムのメンテナンスについて項目、方法、頻度を検討した。EV バ スについては、エンジンバスと共通のメンテナンス項目と EV バス特有の項目がある。 それぞれについてメンテナンス方法と頻度を設定した。 急速充電器の保障期間は、設置及び検収後 1 年を想定している。サービスメンテナンス プログラム(案)を検討提案した。 4-11 4.5 経済性評価 提案する EV バスシステムと、既存の CNG バス、ディーゼルバスのライフタイムコス ト(12 年)を比較した。 EV バスシステムの初期コストは、CNG バスの 2.5 倍、ディーゼルバスと比較して、2.85 倍となっている。しかしながら、メンテナンスコストについて CNG バスのは約1/3、 でディーゼルバスの場合は約1/2倍程度であり、燃料費についても、他の2技術よりも 小さいことが確認された。 表 4-6 バス種別ライフタイムコスト(12 年)比較 CNG バス EV バス (USD) Diesel バス (USD) (USD) 初期コスト バス車体 227,273 充電設備 小計 520,000 196,970 49,500 227,273 569,500 196,970 オペレーションコスト メンテナンス 269,091 95,014.5 211,144 燃料費(1 年) 20,547 8,128 24,097 燃料費(12 年) 246,568 97,535 203,636 小計 合計 (12 年) 515,659 192,550 414,780 742,932 762,050 697,277 出典:調査団 図 4-7 バス種別ライフタイムコスト(12 年)比較 出典:調査団 注 1:メンテナンス費用:PAPSB 社(CNG バス)、PUES (EV バスとディーゼルバス)より算定 注 2: 燃料費: NG 0.68RM/L, 電気 0.365RM/kWh (Tariff C1 of TNB), 軽油 2.84RM/L (市場価格) 4-12 第5章 5.1 EV バス導入によるエネルギー需給緩和効果の評価 EV バス導入前後におけるエネルギー需給の変化 5.1.1 概要 提案する EV バスシステムと、既存の CNG バス、ディーゼルバスの1台、1年間稼働 した場合のエネルギー消費量、大気汚染物質(NOx、SO2、SPM) 、及び CO2 排出量の 概況を以下に示す。 表 5-1 バス車種別エネルギー消費、大気汚染物質、CO2 排出比較 CNG バス 走行距離 EV バス Diesel バス 56000 km/year 56000 km/year 56000 km/year 燃費/電費 0.43 Nm3/km 1.39 kWh/km 0.500 l/km 燃料消費量 23,932 Nm3/year 77,778 kWh/year 28,000 L/year 99,715 L/year (24Mpa 圧縮) 消費熱量 891,621 MJ/year 626,357 MJ/year 999,506 MJ/year MJ/Nm3 8.05 MJ/kWh 35.7 MJ/L 単位熱量 37.3 燃料費単価 0.68 RM/l 0.365 RM/kWh 0.224 2.84 RM/l RM/kWh NOx 排出量 924 Kg/year 0 Kg/year 485 Kg/year SO2 排出量 0 Kg/year 0 Kg/year 13.8 Kg/year PM2.5 排出量 3 Kg/year 0 Kg/year 10.7 Kg/year PM10 排出量 5 Kg/year 0 Kg/year 12.9 Kg/year CO2 排出量 55.2 t/year 53.6 t/year 74.1 t/year 出典:調査団 注1:単位熱量、排出量原単位は KeTTHA、IPCC,IEA、MGTC 資料 5-1 5.1.2 電力消費と周辺地域への影響 4.4.1 で検討した EV バス導入計画に基づく、電力消費量を下表に示す。 本地域において電力供給を行う Tenaga Nasional Berhad (TNB)と協議をしたところ、当該 地域は、行政首都プトラジャヤと隣接する IT 都市サイバージャヤを管轄する地域であ るため、他地域に比べて電力供給能力は極めて高く、かつ安定しているとのことであっ た。 TNB との協議の結果、EV バスシステムの導入により地域の電力消費は増加するものの、 計画的に供給設備(Sub Station)を準備していけば、周辺地域の電気供給に悪影響を与 えることはない、と判断された。 2015 月間走行距離 (km/month/car) EV バス 車両台数 電費 (kWh/km) 走行による電 力消費量 (kWh/month) 充電器 充電器の電力 消費量 (kWh/month) 合計 (kWh/month) 表 5-2 EV バス導入に伴う電力消費概要 2016 2017 2018 2019 2020 6000 6000 6000 6000 6000 6000 4 34 64 94 124 154 1.39 1.39 1.39 1.39 1.39 1.39 33,333 283,333 533,333 783,333 1,033,333 1,283,333 4,480 38,080 71,680 105,280 138,880 172,480 37,813 321,413 605,013 888,613 1,172,213 1,455,813 出典:調査団 注:1 トリップ約 30 ㎞ルートを 1 日 7 トリップ(7 回充電)すると想定 86.4kWh の電池を積んで SOC=50%で充電する場合、充電時間は 8 分と想定 5-2 5.2 EV バス導入によるエネルギー需給緩和効果及び CO2 排出量 バスが同じ距離を走行した場合、エネルギー消費が最も少ないのは、EV バスであった。 また、NOx、SO2、SPM といった大気汚染物質についても、EV バスの走行による排出 はない。加えて、発電に伴う CO2 排出量を考慮した場合においても、CNG バスとディ ーゼルと比較して、EV バスの CO2 排出量が最も少ないことが確認された。 図 5-1 図 5-2 バス種別消費熱量の比較 バス種別 CO2 排出比較 出典:調査団 5-3 図 5-3 バス車種別大気汚染物質(NOx)比較 図 5-4 バス車種別大気汚染物質(SO2)比較 図 5-5 バス車種別大気汚染物質(SPM)比較 出典:調査団作成 5-4 第6章 6.1 実証実験計画の検討 EV バス実証試験ルート、充電インフラ設置位置の検討 プトラジャヤにおいて EV バスの走行能力を実証するための検討を行った。 実証試験における走行ルートは、下表に示す Nadi Putra の路線のうち、ルート距離が約 30 ㎞程度の路線を対象とする。なお 30 ㎞以上のルートについても、状況を見ながら試 験走行を実施し、折り返し地点での充電のタイミング等について検討することとする。 表 6-1 Nadi Putra 循環 L ラインの概要 Number of bus Number of Trip Distance (km/trip) L01 6 32 27 864 144 11 P. Sentral L02 7 32 43 1,376 197 19 Park and Ride P14 L03 6 32 27 864 144 14 P. Sentral L04 6 32 29 928 155 7 P. Sentral L05 7 32 51 1,632 233 16 Park and Ride P14 6:30-22:00 30 分毎 6:30-22:00 30 分毎 6:30-22:30 30 分毎 6:35-22:05 30 分毎 6:30-22:30 30 分毎 L06 - - 23 0 - - - 運行停止 L07 6 31 40 1,240 207 14 P. Sentral L08 7 30 40 1,200 171 15 P. Sentral L09 6 32 28 896 149 10 P. Sentral L10 6 32 40 1,280 213 13 Park and Ride P14 L11 5 21 26 486 97 7 P. Sentral L12 - - 26 - - - Route No. Distance Distance (km/day) (km/day*car) Bus stop Departure - Operation time 7:00-22:00 30 分毎 7:10-22:00 30 分毎 6:30-22:00 30 分毎 6:30-22:00 30 分毎 8:00-21:30 30 分毎 運行停止 出典:PAPSB 社資料 6-1 現在のプトラジャヤ・セントラル・ターミナルの電力利用枠には余剰があり、EV バス 数台を想定した実証試験を実施することは十分可能である。 超急速充電器の設置場所としては、プトラジャヤ・セントラル・ターミナルに設置する ものとする。具体的な設置場所としては、以下の 4 案が考えられる。 (充電器設置案 1) (充電器設置案 2) (充電器設置案 3) (充電器設置案 4) 実証試験に際しては、開始時期、走行ルートをマレーシア交通省に通知し、事前に許可 を得る必要がある。 また充電器への電力供給方法、設置位置については、プトラジャヤ・セントラル・ター ミナルを管理する PAPSB 社、及び電力供給を行う TNB との詳細調整が必要となる。 6-2 6.2 実証実験中の EV バス及び充電システムのメンテナンス計画検討 EV バスの実証実験中のメンテナンスは、実験開始から実験終了までの間、日本から定 期的に技術者を派遣し、現地事業者を交え、メンテナンスと共に技術移管を行う。 急速充電システムのメンテナンスについては実証実験中は 3 か月に 1 回の充電器保守点 検を実施する。(32 回充電/日、2,880 回/90 日) 保守点検内容としては、保守点検チェックシートに準ずる。 6-3 第7章 7.1 事業実現に向けたロードマップと課題の検討 財務的・経済的実行可能性 公共交通においては、利用者負担を考慮し課金レベルが低く抑えられるため、事業性を 確保することが難しいと言われている。本調査のパイロットエリア・プトラジャヤのバ ス事業者 PAPSB 社においてもその例外ではなく、バス事業単体で経営は成り立たず、 プトラジャヤ市政府(Putrajaya Corporation)からの資金支援に頼っている状況である。 一方、地方自治体においては、その域内の住民の生活利便性を確保する観点から、必ず 公共交通の整備をする必要がある。プトラジャヤにおいても、PAPSB 社に対しプトラジ ャヤ市政府から利用者向けのサービス向上が第一に求められているという。つまり、公 的機関が運営するバス事業においては、その事業収支に関わらず、必ず一定のバス車両 需要が発生する。 マレーシアのバス事業者が、新規にバスを購入する場合に選択肢となるのは、まず既存 のディーゼルバス、CNG バスであり、今後新たに EV バスが加わることになる。事業者 ヒアリングによれば、走行性能、価格を勘案し、バス購入を決定するとのことであるが、 近年では環境面での性能も重視される傾向にある。バス事業者の EV バスに対する関心 は非常に高く、マレーシアへのEVバス導入に向けて、まずは提案システムの技術成立 性、運行実証を行うことが必要である。 商用運行を想定した実証実験用には、マレーシアコストを加味した車両新規設計、バス 事業者ごとに異なる仕様、行き先表示板、料金箱等の営業機器などの新規開発を含めて、 充電器とバス1台のセットで 2 億円程度になると見込まれる。実際にはバス1台のパッ ケージではサンプル数が少なく、事業者側もインフラを伴う事業投資を行うには実績不 足であり、それを補うための他地域での実績、信頼出来るデータの蓄積も必要になる。 量産受注を可能にするためには、製造設備、治具、使用部品の信頼性評価等のために、 更なる投資が必要になるが、今回のコンソーシアムは、製造設備、治具等は、マレーシ ア国側のパートナーとなる車両メーカーで実施するものとする。 今回のコンソーシアムは、世界のバス製造競争力を概観し、基本的に量産製造ではなく、 EV バスの車両性能、システム性能を決定つける電池、超急速充電技術をコアに、日本 企業が利益をあげる仕組みを検討した。本コンソーシアムにおいては、量産数量が見込 めれば、そのための技術開発投資までは実行可能である。但し、実証実験自体はその後 の受注の確約がないため、先の確約の無い状態での販売投資として支出出来る状態では ない。あくまでも実証実験後の回収確度による経営判断となるため、マレーシア側との 商談が重要になると考えている。 一方、マレーシア側においては、公共バス交通のための予算が確保されることに加え、 グリーン技術として、また自動車産業における高エネルギー効率自動車(EEV)として の EV 産業を育成・推進する方向にあり、EV 製造者及び EV 利用者側に、税制上の優遇 7-1 措置、開発研究のための補助金、グリーン技術を購入するための低金利ローン等のイン センティブが与えられる。 EV バスは、既存のディーゼルバス、CNG バスと比較して、初期コストが高いことが、 導入における大きなハードルになる。こうしたインセンティブを利用することで、製造 者側の製造コストを抑え、また購入側も購買意欲の向上に繋がることが期待される。 7.2 プロジェクトの実施スケジュール 実証実験を経て、受注、納入にいたるステップとそのスケジュールは、 に示した通 りである。 まずシステムの仕様確定・機器開発のため、詳細調査に6か月、機器製造に9か月、そ して機器の輸送、型式認定、走行システム調整等に3か月程度を要すと見込んでいる。 (2014 年-2015 年 9 月) 次いで、実証走行を1年程度実施する(2015 年 9 月-2016 年 9 月頃) 。この実証走行では、 乗客なしでの試験走行を経た後、できるだけ早い段階で商用運行をスタートさせること を想定している。加えて詳細な経過監視にさらに1年、電池の寿命及び EV バスの耐久 性の監視をさらに3年程度継続することを想定している。 受注活動については、システムの定期点検を継続的に行いつつ、商用運行も含めた実証 走行1年後に可能になると考える。 マレーシアでは毎年 1 月が年度開始となるため、2017 年の予算確保・執行に向けて、2016 年に積極的に受注活動を行う。2017 年に複数台受 注できれば、納期は約 1 年後の 2017 年度末になると考える。 図 7-1 プロジェクト実施スケジュール案 出典:調査団 7-2 7.3 相手国機関側実施機関の実施能力 マレーシア国において、提案する EV バスシステムを導入する候補として、2つのバス 事業会社がある。1社は Syarikat Prasarana Negara Berhad (PRASARANA 社)、そしても う 1 社は、本調査でパイロット地域における導入検討を行った、Pengangkutan Awam Putrajaya Sdn. Bhd. (PAPSB 社)である。 PRASARANA 社は、マレーシア国における公共輸送機関資産を管理するために、1998 年に設立された国有企業である。マレーシアでは、前マハティール首相時代に、自動車 産業の育成を積極的に行った一方で、公共交通の担い手であり、競争にさらされたバス 事業者の経営が悪化した。公共交通網の投資が出来なかったために、サービスの低下を 招き、国民のさらなる公共交通離れが起こった。当然渋滞解消、環境対策のための広域 的な交通政策、公共交通へのモーダルシフトも進まなかった。そこで国は財務省傘下に PRASARANA 社を設立、モノレール、LRT、バス3部門を一元管理し、相互の利便性 の向上を図った。バス分野では、経営難のバス会社から車両設備を移管し、事業者には 運行サービスに特化させることで経営とサービスの向上を目指すことになった。 PRASARANA 社は、公共輸送機関の資産管理だけでなく、クアラルンプール首都圏やペ ナン等重要な地域において Rapid KL、Rapid Penang のバス運行(都市内・都市間)も行 っている。 PRASARANA 社は、バスのEV化に積極的な姿勢を見せている。環境対応として、ハイ ブリッド電気自動車(HEV)やCNGといった中間段階ではなく、フルEV導入に強い 意欲を示しており、2013 年 8 月から実施されたマレーシア初の EV バス走行試験は、 Rapid KL のルートにおいて約半年間実施された。同社は現在建設が進められている BRT/Sunway ラインにおいて 15 台の EV バスを調達しており、2015 年より運行開始する 予定である。加えて、PRASARANA 社が所有するバス約 500 台が、近い将来更新時期を 迎える予定であり、その一部は EV 化されると見込まれている。 PRASARANA 社は、EV バスシステム導入実行能力、運行実施能力ともに、十分な能力 を持つと考えられる。マレーシア政府が「2020 年に 2000 台の EV バス導入」という目 標を掲げるなか、その達成は、同社の EV バス導入に大きく左右されると考えられる。 一方、PAPSB 社は、プトラジャヤ市政府所有の政府系企業として 1999 年に誕生し、2007 年 5 月よりプトラジャヤにおけるバス事業を開始している。 プトラジャヤは、環境モデル都市として開発が進められており、PAPSB 社が運行するバ ス“Nadi Putra”は、環境に配慮して CNG バスが採用されている。環境技術のショーケ ースとして、行政首都プトラジャヤに EV バスを導入することにより、国内外への高い PR 効果にも繋がることが期待される。 同社は、プトラジャヤ市政府の都市開発に貢献する立場であるため、さらなる環境対応 へのモチベーションも高く、バス整備体制もしっかりしており、EV バス運行を行う能 力を十分有している。 7-3 7.4 我が国企業の技術面等の優位性 7.4.1 EV バス開発競合国・企業の概況 EV バス開発は、欧州、米州、中国で積極に進んでいる。其々の特徴と競争力を以下に 述べる。 (1) 欧州 欧州メーカーは、規格形勢力があり、新興国で使用されているバスは、欧州系のシェア が高い。東南アジアにおいても、信頼性のある欧州シャーシに、現地のボディを架装す ることが一つの生産モデルとなっている。 欧州メーカーは、品質を確保するため、認定に時間をかける。EV バスに関しても欧州 では、様々な技術が開発され、各地で試験されているが、技術が日進月歩の EV バス用 電池採用の評価にも保守的で時間がかかるため、最新のリチウム電池の活用が遅れてい る傾向がある。技術開発には膨大なコストがかかるため、価格も 8000 万円程度となる。 加えて、欧州ではトロリーバスや、LRT、連接バス等比較的高価な車両が普及している ことから、EV バスはプレミアムを受け入れられる欧州域内に専念すると思われる。 (2) 米州 米州では、規格が独立しているため、米州バスメーカーは米州の大きな市場の中の活動 が主である。EV バスについては、GM の出資を受けるベンチャーであるプロテラ社が、 超急速充電をベースにした大型 EV バスを開発しており、注目されている。プロテラ社 も現在7000万円を超える EV バスを将来半額程度にすることがコスト目標であると している。 (3) 中国 中国は、国策で EV 及び EV バスの開発を支援し、実証の場を提供してきた。 中国南方に拠点を構える BYD 社は、実証経験の豊富な中国での経験を活かし、海外に 対し、積極的な攻勢を続けている。EV バスの課題は走行能力とコストであると考え、 走行能力については、走りたい距離に対し、必要な電池を大量搭載するという方式をと っている。これを可能にしたのが、リン酸鉄リチウム電池(LFP)という、安価な鉄系 材料と、民生用の大量生産力、及び 3.2 トンもの電池をタイヤの上部に天井まで積み上 げたデザインである。 中国では自動車産業育成の観点から EV 化を推進すると共に、深刻化する都市の排ガス 対策としても、EV 化が喫緊の課題となっている。政府のある首都北京では視界が閉ざ されるほどの排ガスが問題となっており、国家の威信をかけて対策に乗り出している。 7-4 (4) 日本 欧州、米州、中国に比較して、日本では国内バス市場が小さい。バス事業は、事業者に よる独立採算性を重視されている一方、事業そのものが赤字であり、バス車両への投資 は難しい。よって日系製造メーカーにとって、公共バスは採算の取れる市場ではない。 また日本が、欧州発の国際規格に縛られていないことからも、規格対応をしてバス車両 自体が積極的に海外に進出しているように見受けられない。従い商用車メーカーの事業 主体はトラックとなっている。 一方、日本製のバス車両は、耐久性があるので、東南アジアでも旧型のバスや、二次販 売されたバスがまだ多く走っている。日本のバス車両は20年の使用に耐えられるため アジア製の車両の2倍の耐久性を有する。 7-5 7.4.2 提案技術の優位性 バスという製品が、毎日 200 ㎞走行して 10 年の耐久性を要求されるものであることを 考えると、耐久性が大きなポイントとなる。バスが動かなくなる原因の大半が電池の性 能と言われている。 表 7-1 提案システムと競合技術との比較 大量電池搭載型 EV バス 超急速充電型 EV バス バスサイズ 12m 大型バス 12m 大型バス 電池搭載量 320-350kWh (3.5 トン) 80-90kWh (1.2 トン) 充電方法 夜間充電(5 時間) 周回毎充電(約 10 分間) 電池タイプ LFP(リン酸鉄) LTO(負極にチタン酸リチウム) (強み) 低価格 長寿命、高出入力 走行能力 250 ㎞/充電 60-70 ㎞/充電 競合する大量電池搭載型 EV バスシステムにおいては、大量の急速充電に弱い電池を使 用しているため、300kWhに対し、5時間の夜間充電方式を採用している。また走行 距離を稼ぐために、電池を大量に搭載する旧来の方式を採用している。バスシャーシや、 道路への影響を考えると、バス車両は少しでも軽いことが望ましいにも関わらず、約 3.5 トンの電池を搭載している。 図 7-2 電池性能試験 一方、東芝 SCiB 電池は、 チタン 酸リチウム を負極 に使用しており、低温に強 く、急速充電を繰り返して も殆ど 劣化しない という 特性を持つ。(右図参照。 3C 充電でフルサイクル試 験を継続中。1 万回超えて も容量9割維持を維持。 ) 競合する大量電池搭載型 EV バスのメリットとしては、夜間に充電するため、バス運行 時間外のオフタイム充電であること、電気料金が割安に設定される場合があること、簡 素な充電器で良いこと、低レート充電であるために電池寿命が長くなること、等が挙げ られる。 昼間の多頻度充電作業の負荷も減り、200 ㎞以上の距離を走行可能という意味では、電 力事情の悪い場所では、一日走行分の電力を夜間充電するという、一つのビジネスモデ ルともいえる。 7-6 7.5 プロジェクトの資金調達の見通し 今回提案する EV バスシステムは、まずは既存のバス車両をEVに置換する手法をとる。 バス事業者は、その更新計画にあわせて資金を調達するため、全く新たに、大規模なフ ァイナンスが必要になることはないと考える。 しかしながら、提案するEVバスシステムは、既存のディーゼルバス、CNG バスと比 較して、12 年のライフタイムベースでの経済性は拮抗しているものの、初期コストは、 CNG バスの約 2.5 倍、ディーゼルバスの約 2.85 倍であり、導入においては、ある程度 の負担がかかることが想定される。環境性能を重視する国、自治体、事業団体の選択に 委ねられている。 3.2.6 資金調達計画 で述べたとおり、グリーン技術の育成、EV 産業推進に積極的なマ レーシア国においては、EV バス製造側、EV バス購入側の双方に、支援策が準備されて いる。既存のバスの初期コストを上回る部分は、こうした支援スキームを利用すること で資金調達し、後々のランニングコスト削減分で、回収することが考えられる。 7.6 相手国の法的・財務的制約等の有無 マレーシアは、ブミプトラ政策をとっており、公共調達においてマレーシア系企業を優 遇していることは既に述べたとおりである。また、グリーン技術の開発・販売において も、マレーシア国企業、製品の占める割合によって、与えられるインセンティブが変わ る。そのため、EV バス製造においては、日本側とマレーシア側とのバランスに留意し、 最適な組み合わせを検討する必要がある。 国家自動車政策(NAP2014)において、マレーシア国における自動車産業育成の大きな 方向性は示されたものの、具体的なインセンティブの内容、適用条件はマレーシア国政 府内で検討中の段階であり、継続的な情報収集が必要である。 EV バス車両、充電器については、3.2 EV バス現地製造体制の検討に示すとおり、各種 基準が整備されているため、これら基準に基づき、標準化を目指す。 7-7 7.7 当該プロジェクトの実施に向けた取組状況 マレーシア国においては、2020 年に向けた EV 乗用車、EV バス導入目標数値が示され、 アセアン地域における EV を含めた高効率エネルギー車の製造拠点を目指すことが、国 の政策として明確に打ち出されている。 EV バスについては、2013 年より KeTTHA 及び MGTC のイニシアティブのもと、モデ ル事業がクアラルンプール、マラッカ州において実施され、それぞれ商用運行に向けた 検討が開始された段階である。 本調査におけるパイロット地域として検討を行ったプトラジャヤにおいても、まずはモ デル事業(実証試験)の実施に向け、関係機関による検討、調整を行っている段階であ る。既に PAPSB 社は、実証試験の実施に合意しており、後はプトラジャヤ市政府 (Putrajaya Corporation)による決定を待っている。 一方、東芝、ピューズ、ハセテック、オリエンタルコンサルタンツで構成される、日本 企業コンソーシアムにおいては、インフラ輸出推進対象地域である東南アジアでは、シ ンガポール、マレーシアがスタートポイントであるとして、この地域での実績が周辺国 に波及していくと考えている。 本コンソーシアムは、現地製造体制構築を含めた事業を目指しており、輸入国であるだ けのシンガポールではなく、バス製造国のマレーシアをターゲットとして、事業化を狙 っている。 今後に向けては、マレーシア国における製造パートナーとの協議を進めるとともに、実 証試験の実施に向け、日本国政府の国際実証実験支援スキームに応募する予定である。 この理由は、提案する EV バスシステムは、国が政策に関与する公共交通事業であるこ と、公共の場に充電器を設置するなど、規制・法規への対応が必要であることから、現 地政府の協力を得るには国家プロジェクトが適しているためである。また、コンソーシ アム参加企業側も、回収計画が具体的でない新規事業の位置づけであったり、資金力が 不十分であるなど、単独実施に困難を伴うことが考えられる。 日本国政府による、本邦技術・民間企業の海外進出支援プロジェクトを利用し、1年以 上の実証実験を経て、商用運行に耐えうるシステムであることを実証し、販売活動を開 始したいと考えている。 更には、マレーシアでの実証を熱帯地域での運行実証とし、シンガポール、インドネシ ア、タイ、香港へのアプローチを進める。 7-8