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3四半期連続のプラス成長ながら国内民間需要は
Nov14, 2016 No.2016-054 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 主席研究員 武田 淳 主任研究員 石川 誠 03-3497-3676 [email protected] 03-3497-3616 [email protected] 日本経済:3 四半期連続のプラス成長ながら国内民間需要は減速 し景気は停滞感を残す(2016 年 7~9 月期 GDP) 7~9 月期の実質 GDP は大方の予想を上回る前期比+0.5%(年率+2.2%)となった。前期比プ ラス成長は 3 四半期連続。ただ、輸出は持ち直したものの、個人消費や設備投資は横這い推移に とどまり、国内民間需要は総じて冴えず停滞状況が続く。需給ギャップが縮小しデフレ脱却に向 けて前進したとはいえ、景気の持続的な拡大には課題を残している。 実質 GDP は予想を上回る高成長 本日、発表された 2016 年 7~9 月期 GDP の 1 実質GDPの推移(季節調整値、前期比年率、%) 次速報値は、前期比+0.5%(年率+2.2%)の比 15 較的高い伸びとなり、4~6 月期の+0.2%から成 10 長が加速する格好となった。事前予想では前期 5 比+0.2%程度(年率 1%程度)のプラス成長が 実質GDP その他 純輸出 0 個人消費 コンセンサスであったが、予想を上回る高成長 となった(当社予想は前期比+0.4%、年率+ 1.8%)。 ただ、特に予想を上回ったのは政府消費(前期 比+0.4%)であり、前の期の 4~6 月期の実績 ▲5 設備投資 公共投資 ▲ 10 ▲ 15 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 ( 出所) 内閣府 が前期比+0.1%から▲0.3%へ下方修正された反動による影響が大きいとみられる。なお、概ね予想通り ではあるが、成長率への寄与という意味では、純輸出(輸出-輸入)が 4~6 月期の前期比▲0.2%Pt から 7~9 月期に+0.5%Pt と大きく改善した点が貢献した。 一方で、国内民間需要は 7~9 月期に前期比+0.1%(年率+0.2%)とほぼ横ばいにとどまり、4~6 月期 の前期比+0.4%から減速した。その中核となる個人消費が 4~6 月期に続いて 7~9 月期も前期比+0.1% となり、民間企業設備投資(4~6 月期前期比▲0.1%→7~9 月期 0.0%)は下げ止まった程度である。さ らに、4~6 月期の成長を支えた民間住宅投資(+5.0%→+2.3%)が減速するなど各項目とも冴えず、 停滞感を残す状況となっている。 デフレ脱却に向けて前進はしたが. .. それでも、7~9 月期の前期比年率+2.2%という成長率は、内閣府が年率+0.3%程度と試算する潜在成長 率を大きく上回った。その結果、2016 年 1~3 月期以降、3 四半期連続で潜在成長率を上回ったことにな り、内閣府が推計する需給ギャップは 4~6 月期の GDP 比▲1.0%から 7~9 月期には▲0.5%へ縮小した計 算になる。 当研究所では、今回の 1 次速報発表前の時点で 2016 年度の実質 GDP 成長率を前年比+0.9%と予想して 本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、伊藤忠経済研 究所が信頼できると判断した情報に基づき作成しておりますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告 なく変更されることがあります。記載内容は、伊藤忠商事ないしはその関連会社の投資方針と整合的であるとは限りません。 Economic Monitor 伊藤忠経済研究所 いたが、今回の 7~9 月期 GDP1 次速報はその実現可能性を高める結果となった 1。さらに、2017 年度も 同程度の成長が続けば、需給ギャップは 2017 年度中に解消することになる。その意味で、デフレ脱却に 向けて前進したと言えるが、持続的な成長を実現するためには国内民間需要の復調が不可欠であり、その 必要条件が円高圧力の低下と企業業績の回復、それによる設備投資の拡大と賃金の持続的な上昇であるこ とは言うまでもない。 既にドル円相場はトランプ米新大統領の経済政策に対する期待が先行する形で 1 ドル=107 円台まで円安 方向に戻しているが、その実現可能性は不透明であり、さらには米国でインフレ懸念が強まればむしろド ル安要因となり易いことや、そもそもトランプ政権がドル安を志向する可能性が懸念される。また、企業 業績の悪化や内外景気の停滞を背景に、設備投資の先行指標である機械受注(船舶・電力を除く総合)は、 7~9 月期実績こそ前期比+7.3%と 2 四半期ぶりに増加したが、10~12 月期の内閣府予想は▲5.9%と再 び減少、設備投資が頭打ちする可能性を示唆している。業種別内訳を見ると、非製造業は緩やかな増加傾 向を維持しているが、製造業でピークアウトが鮮明である。個人消費についても、今回の GDP 統計で明 らかとなった 7~9 月期の家計実質消費支出は前期比横ばいにとどまったが、内訳を見ると耐久財は前期 比+1.5%と 3 四半期連続で増加したものの、食料品などの非耐久財(4~6 月期前期比▲0.4%→7~9 月 期▲0.5%)は減少が続き、衣料品などの半耐久財(▲1.7%→+0.1%)は落ち込んだままなど、消費者 の抑制的な行動が垣間見られた。夏のボーナスが厚生労働省調査でも前年同期比+2.3%と増加が確認さ れ、所得環境は改善しているはずであるが、消費者態度指数が示す消費者マインドの改善ペースは緩慢で あり、消費拡大には持続的な賃金上昇が不可欠であることを示している。先般の政府による景気対策が実 行され、景気が下支えられている間に、上記のような国内民間需要復調のための必要条件が整うことが期 待される。 機械受注と設備投資の推移(季節調整値、年率、兆円) 80 家計消費の財別推移(季節調整値、前期比、%) 4 12 名目設備投資 機械受注(後方3期移動平均) 75 3 2 11 1 70 10 0 ▲1 65 9 60 8 55 7 ▲2 ▲3 その他 非耐久財 耐久財 ▲4 ▲5 ▲6 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 ( 出所) 内閣府 1 半耐久財 サービス 家計消費 2010 ( 出所) 内閣府 今回の GDP1 次速報を踏まえて近日中に予測値を改定する予定。 2 2011 2012 2013 2014 2015 2016