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国立大学改革 - Kei-Net
特集2 国立大学改革 -学部改組の動向を中心に- この特集では、近年の国立大学改革について、新設学 部を中心に見ていく。 2013 年度頃から、多くの国立大学が学部の改組を行 っている。教員養成系学部総合科学課程(いわゆるゼロ 免課程)の廃止、 「地域系」や「国際系」学部の新設、 学士課程と大学院を一貫した教育課程の新設、理、工、 農学系学部の定員増、学士課程から大学院への入学定員 の移行、入試区分や教育課程の大くくり化など、さまざ CONTENTS Part1 国立大学改革の方向性 ………………………p28 Part2 各大学の取り組み 東京工業大学 …………………………………p32 滋賀大学データサイエンス学部 山口大学国際総合科学部 ……………p35 ……………………p38 まな変更がなされている。同様の流れは 2017 年度も続 く予定である。 先行して取り組む大学も見られる。 新設学部の教育内容を見ると、社会的なニーズの高い Part.1 では、近年の国立大学改革の背景にある高等教 人材の育成に向け、分野横断的な教育を行っていること、 育政策の動向<図>や、新設学部の全体的な特徴をまと 課題発見・解決能力を段階的に高める教育を行っている めた。Part2 では、東京工業大学の全学的な教育改革と、 こと、企業や地域等との連携に力を入れていることなど 2017 年度新設の滋賀大学データサイエンス学部、2015 に特徴がある。また、新設学部で多面的・総合的に評価 年度新設の山口大学国際総合科学部の教育の取り組みに する大学入学者選抜や学士課程教育の改革に、他学部に ついて、詳しく紹介する。 <図>国立大学改革の近年の動向 (文部科学省「国立大学改革プラン」 (2013 年 11月)より ) Kawaijuku Guideline 2016.11 27 Part 1 国立大学改革の方向性 2016年度からの 「第3期中期目標期間」を期に 学部の改組などさまざまな改革が進む 2016 年度は、多くの国立大学で学部の改組がなされた。その背景には、文部科学省 の「大学改革実行プラン」 (2012 年6月)や「国立大学改革プラン」(2013 年 11 月) などに基づき、各大学で「ミッションの再定義」が進められたこと、そしてそれらを受 けて、 「第3期中期目標期間」(注1) (2016 ~ 2021 年度)において、改革が促進された ことがある。ここでは、これらの背景を概観するとともに、近年の国立大学改革の方向 性を、学部新設の動きを中心に見ていく。 今後の大学教育改革の方向性を示した 「大学改革実行プラン」 先行させることとされた。そこで、「ミッションの再定 義」が進められるとともに、2013 年 11 月には「国立大 学改革プラン」が策定され、改革の方向性が示された。 文部科学省は、2012年6月、 「大学改革実行プラン」を 「ミッションの再定義」は、各国立大学と文部科学省 とりまとめた。 「我が国の高等教育の将来像」 (2005 年1月) 、 が意見交換を行い、研究水準、教育成果、産学連携等の 「学士課程教育の構築に向けて」 (2008 年12月) 、 「新たな 実績から、各大学の強み・特色・社会的役割について、 未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」 (2012 分野別に整理したものである。医学、工学、教員養成の 年8月)などの答申を受け、国・公・私立の大学教育に 3分野について先行して検討し、2014 年度までに 13 の 関するさまざまな課題について、第2期教育振興基本計 分野について再定義がなされ、公表されている。 画期間(2013 ~ 2017年度)における改革の方向性を示 「国立大学改革プラン」は、「大学改革実行プラン」 、 したものである。プランでは、以下の2つの柱・8つの および「日本再興戦略」「教育振興基本計画」(2013 年 方向性に基づき、社会との関わりの中で、新しい大学づ 6月閣議決定)、「これからの大学教育等の在り方につい くりに向けた改革を迅速かつ強力に推進するとされた。 て(第三次提言)」(2013 年5月教育再生実行会議)等 Ⅰ.激しく変化する社会における大学の機能の再構築 を踏まえて、国立大学改革の方針をまとめたものである。 1.大学教育の質的転換と大学入試改革 各国立大学は、2013 ~ 2015 年度の「改革加速期間」 2.グローバル化に対応した人材育成 において、「強み・特色の重点化」「グローバル化」 「イ 3.地域再生の核となる大学づくり ノベーション創出」「人材養成機能の強化」の4つの視 4.研究力強化 点から機能強化を図り、その取り組みの成果をもとに、 Ⅱ.そのための大学のガバナンスの充実・強化 2016 年度からの第3期中期目標期間では、各大学の強 5.国立大学改革 みや特色を生かした目標・計画を立て、組織再編や資源 6.大学改革を促すシステム・基盤整備 配分の最適化を進めることとされた。2016 年度に多く 7.財政基盤の確立とメリハリある資金配分の実施 の国立大学で学部改組が行われたのは、この施策の影響 8.大学の質保証の徹底推進 が大きい。 各国立大学は、「国立大学改革プラン」や「ミッショ 「国立大学改革期プラン」などを踏まえて 各大学が「第3期中期目標・中期計画」を立案 「大学改革実行プラン」において、国立大学は改革を ンの再定義」などに基づいて「第3期中期目標・中期計 画」の素案をまとめたが、文部科学省は 2015 年6月に、 「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて (注1)第3期中期目標期間…国立大学法人は、法人化が行われた平成 16(2004)年度以降、6年ごとに教育・研究・社会貢献等に関する中期目標・中 期計画を立案し、自主的・自立的な運営を行うこととされている。各大学は、目標の達成状況について自己点検・自己評価を行うとともに、 「国立 大学法人委員会」の評価も受けながら、計画を見直し、さらに改革を進めていく。 28 Kawaijuku Guideline 2016.11 特集2 ■ 国立大学改革 ―学部改組の動向を中心に― (通知) 」をまとめ、各大学に目標の再検討を求めた。 大学教育地域科学部が教育学部に改称したように、総合 通知の中では、 「アクティブ・ラーニングの導入等、 科学課程の廃止に伴って学部名を「教育学部」とする大 大学教育の質的転換」 「多面的・総合的な入学者選抜へ 学も見られるほか、大阪教育大学の教育協働学科(2017 の転換」 「グローバル化の推進」 「予算上、三つの重点支 年度新設予定)のように、教員をサポートする人材の養 (注2) 援の枠組みを新設 」などの見直しの方針が示された。 成をめざす学科の新設も見られる。 「大学改革実行プラン」 「国立大学改革プラン」や、高等 総合科学課程や人文社会科学系学部の廃止や定員の縮 教育や高大接続改革に関する答申等で示された方向性を 小などに伴い、「地域系」や「国際系」の学部を設置す 再確認し、さらなる改革を求める内容となっている。 る大学も増えている。 中でも、 「 『ミッションの再定義』等を踏まえた組織の 「地域系」の学部には、高知大学地域協働学部、愛媛 見直し」として、 「特に教員養成系学部・大学院、人文 大学社会共創学部などがある。地域のさまざまな課題を 社会科学系学部・大学院については、 (中略)組織の廃 発見し、解決できる人材の育成を目的としている。多く 止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組む は教員養成系学部総合科学課程や人文社会科学系学部の よう努めることとする」とされた。近年、教員養成系学 改組により新設された学部だが、工学部建設学科を母体 部の中で教員免許の取得を卒業要件としていない総合科 の一つとする宇都宮大学地域デザイン科学部のように、 学課程(いわゆるゼロ免課程)を廃止したり、人文社会 理、工、農学系のコースを持つ場合もある。地域系学部 科学系学部とともに「国際系」 「地域系」に改組したり、 の教育内容は、その地域が抱える課題や大学の持つ教育 理、工、農学系学部の収容定員(以下、定員)を増やし シーズによって大きく異なっている。地域系学部につい たりする国立大学が多いのは、そうした背景もある。 ては『Guideline2016 年7・8月号』「注目の学部・学 ただし、この見直し方針に関しては、日本学術会議な 科 第 34 回 地域系」で詳しく紹介しているので、そ どから「人文社会科学系の軽視につながる」といった批 ちらもご参照いただきたい。 判も広まった。そこで文部科学省は 2015 年9月に、 「新 「国際系」の学部科としては、長崎大学多文化社会学 時代を見据えた国立大学改革」を公表。 「人文社会科学 部、山口大学国際総合科学部(38 ページ参照)、千葉大 系などの特定の学問分野を軽視したり、すぐに役立つ実 学国際教養学部などがある。これらの学部に共通する特 学のみを重視していたりはしない」と説明しつつ、「我 徴が、海外体験・海外留学を必須にしていることだ。例 が国社会を取り巻く環境の大きな変化があり、国立大学 えば、長崎大学では1年次夏休みの短期留学に、山口大 には社会の変化に柔軟に対応する自己変革が必要」とし 学では2年次後期から1年間の長期留学に、千葉大学で て、総合科学課程や人文社会科学系学部の見直しの必要 は卒業までに最低1回の海外留学に、原則的に参加する 性を改めて強調した。 こととなっている。また、海外留学の準備のために、 総合科学課程や人文社会科学系学部が縮小し 「地域系」や「国際系」の学部新設が増加 これらの背景を念頭に置きながら、近年の国立大学の 改組の状況を見ていこう。<表>は、 「国立大学改革プ ラン」が策定された 2013 年度以降の、各大学の学部改 組の状況をまとめたものである(2017 年度は予定)。 TOEIC・TOEFL などの検定試験の目標スコアを設定し、 低年次から実践的な英語学習に力を入れる大学も多い。 「地域系」のコースと「国際系」の「アプローチ」から なる福井大学国際地域学部などもある。 理系学部を増員するとともに 「資源」や「情報」に関する学部の新設も見られる まず、教員養成系の学部を持つ多くの大学が、総合科 総合科学課程や人文社会科学系学部の定員を減らし、 学課程を募集停止した。2016 年度には 15 大学が募集停 理学、工学、農学系の学部の定員を増やす大学もある。 止し、2017 年度にも6大学が募集停止を予定している。 例えば弘前大学は 2016 年度に、人文学部(現・人文社 一部の大学については教員養成課程の定員を増員してい 会科学部)で 80 名、教育学部で 70 名、定員を減らし、 るが、多くの大学は他学部に定員を振り替えており、全 理工学部で 60 名、農学生命科学部で 30 名、定員を増や 体として教員養成系学部の定員は縮小傾向にある。福井 した。学士課程では 60 名の減員となるが、理工学研究 (注2)三つの重点支援の枠組み…「世界最高の教育研究の展開拠点(16 大学)」 「全国的な教育研究拠点(15 大学)」 「地域活性化の中核的拠点(55 大学) 」 の3つからなる。各大学はいずれかを選択し、国立大学法人運営費交付金の配分もそれを加味して行われることとなった。 Kawaijuku Guideline 2016.11 29 科や医学研究科などを中心に、大学院の定員を増員し、 新たな大学入学者選抜を先行して実施する学部もある。 全体的に理系を重視した体制にしている。 徳島大学生物資源産業学部では、求める人物像として、 「理工学部」の新設も目立つ。2016 年度には、岩手大 「関心・意欲・態度」 「探究力」 「表現力」 「知識・教養」 「思 学 工 学 部、 徳 島 大 学 工 学 部 が理 工 学 部 に改 組 した。 考・判断力」「協働力」の6つの観点を定めた。そして 2017 年度には、高知大学理学部、大分大学工学部が募 それらを「総合問題」「集団討論」「集団面接」「個人面 集停止し、理工学部を新設する予定である。 接」「調査書」「志望動機書」「学びの設計書」といった 「社会的な要請の強い分野への転換」も進んでいる。 選抜方法と組み合わせ、多面的・総合的に評価している。 秋田大学は 2014 年度に工学資源学部を改組し、資源・ 佐賀大学では、第3期中期目標・中期計画中に「佐賀 エネルギー戦略の発展・革新を担うグローバル人材を養 大学版CBT」「特色加点」「継続・育成型の高大連携カ 成する国際資源学部を新設した。徳島大学は 2016 年度 リキュラム」の3つの入試改革に着手する。それに先立 に、生物資源を活用した産業を創出できる人材の養成を ち、2016 年度には、芸術地域デザイン学部地域デザイ 目的とする生物資源産業学部を新設した。2017 年度には、 ンコースの個別試験において、前期日程は「総合問題」 、 滋賀大学データサイエンス学部(35 ページ参照)や、 後期日程は「問題解決・提案力テスト」を実施した。 名古屋大学情報学部が新設される予定である。両学部と 徳島大学、佐賀大学とも、詳細は『Guideline2016 年 (注3) も、ビッグデータ、人工知能、IoT などを活用する ことで、課題解決や新たな価値の創造ができる人材の養 成をめざしている。 ほか、学部名の変更はなくても、 「エネルギー」 「環境」 「防災」などの学科やコースを新設した大学が多く見られる。 新設学部が中心となり 学士課程教育、大学入学者選抜の改革を推進 7・8月号』 「特集 高大接続改革」を参照いただきたい。 大学入学者選抜や学士課程教育の大くくり化、 学位プログラムの導入が進む もう一つ、近年の国立大学の学部改組に特徴的なこと として、大学入学者選抜や学士課程教育の「大くくり化」 が進んでいることである。例えば、鳥取大学工学部は 2015 年度、従来の8学科を、機械物理系学科、電気情 新設学部では、それぞれの育成する人材像に基づいて 報系学科、化学バイオ系学科、社会システム土木系学科 特色ある教育活動がなされているが、課題発見・解決能 の4つに再編し、学生が柔軟に学べるようにした。東京 力の育成に力を入れている点が、分野を問わず多くの学 大学文学部は、これまで思想文化学科、歴史文化学科、 部に共通する特徴である。そのため、課題発見・解決の 言語文化学科、行動文化学科の4学科構成だったところ 理論を学び、低年次の演習・実習で実際の課題に触れた を、2018 年度からは人文学科の1学科とする予定であ り課題解決のプロセスを体験したりして、3・4年次で る(大学入試は従来通りの科類別募集)。 企業や自治体と連携したプロジェクトを行い、卒業論文 以前から、日本の大学では教育・研究の内容が専門分 としてまとめるといった教育が、多くの新設学部で行わ 野別に細分化されており、学生が分野横断的な幅広い知 れている。35 ページ以降の滋賀大学データサイエンス 識・技能を身につけたり、進路変更に対応したりするこ 学部、山口大学国際総合科学部のほか、ガイドライン とが難しいという課題が指摘されていた。学科別に授業 7・8月号で紹介したように、 「地域系」の学部も、こ 科目を設けたり、大学入試を実施したりすることで、学 うした流れの教育を特徴としている。 内で業務が重複しているという指摘もあった。2016 年 学部の新設を機に、全学的な教育改革を推進する大学 度「ひらく 日本の大学」(2ページ参照)でも、国立大 もある。宮崎大学では、地域資源創成学部の教育成果を 学のうち、大学入学者選抜の共通化を実施(検討)して 波及させ、全学的な地域志向型一貫教育を実施し、「宮 いる大学は 33%(25%)、カリキュラムの共通化を実施 崎ブランド」を有した人材の輩出をめざしている。宇都 (検討)している大学は 35%(28%)に上っており、今 宮大学では、地域デザイン科学部の実績をもとに、文理 後もこの傾向は続くだろう。一方で、コース制やプログ 融合を含め幅広い分野を融合した新しい大学院組織を設 ラム制を導入しカリキュラムを大くくり化しても、募集 置するとしている。 区分は細かいままの大学もある。 (注3)IoT…モノのインターネット(Internet of Things)。さまざまなモノがインターネットに接続され、相互に制御する仕組みのこと。 30 Kawaijuku Guideline 2016.11 特集2 ■ 国立大学改革 ―学部改組の動向を中心に― <表>国立大学の学部改組の動き(2013 年度以降) 電気通信大学 改組 年度 2016 2016 2014 2017 2017 2016 2013 2014 2016 2016 東京工業大学 2016 東京海洋大学 横浜国立大学 2017 2017 人文社会科学部 理工学部 国際資源学部/理工学部 人文社会科学部 人文社会科学部 地域デザイン科学部 理工学部 法政経学部 国際教養学部 情報理工学域 理学院/工学院/生命理工学院/物質理工 学院/情報理工学院/環境・社会理工学院 海洋資源環境学部 都市科学部 新潟大学 2017 創生学部 福井大学 山梨大学 2016 2016 国際地域学部 信州大学 2016 経法学部 静岡大学 名古屋大学 名古屋工業大学 三重大学 滋賀大学 京都工芸繊維大学 大阪教育大学 神戸大学 和歌山大学 島根大学 山口大学 徳島大学 2016 2017 2016 2016 2017 2016 2017 2017 2016 2017 2015 2016 地域創造学環 情報学部 (*) 創造工学教育課程(6年一貫) 愛媛大学 2016 社会共創学部 2015 2016 2016 2017 2016 2016 2014 2017 2016 2017 2016 2017 2017 地域協働学部 人文社会科学部 農林海洋科学部 理工学部 大学名 弘前大学 岩手大学 秋田大学 山形大学 茨城大学 宇都宮大学 群馬大学 千葉大学 高知大学 福岡教育大学 佐賀大学 長崎大学 熊本大学 大分大学 宮崎大学 鹿児島大学 琉球大学 ※ 2017 年度については 2016 年9月 20 日時点判明分 新設学部 募集停止した学部 人文学部 工学部 工学資源学部 人文学部 人文学部 工学部 法経学部 情報理工学部 理学部/工学部/生命理工 学部 経済学部 (*) 情報文化学部 データサイエンス学部 地域創生 Tech Program(*) 工芸科学部(夜間主) 国際人間科学部 国際文化学部/発達科学部 人間科学部 国際総合科学部 生物資源産業学部/理工学部 工学部 福祉健康科学部 理工学部 地域資源創成学部 工学部 情報文化課程/人間環境教育課程 総合人間形成課程/工学部建設学科 スポーツ科学課程/生涯教育課程 海洋生命科学部海洋環境学科 人間文化課程/理工学部建築都市・環境系学科 学習社会ネットワーク課程/生活科学課程/健康 スポーツ科学課程/芸術環境創造課程 地域科学課程 生涯学習課程 特別支援学校教員養成課程/生涯スポーツ課程/ 教育カウンセリング課程 生涯教育課程/総合科学教育課程/芸術文化課程 人間発達科学課程 経済学部情報管理学科 工芸科学部先端科学技術課程 特別支援教育教員養成課程 総合教育課程 総合科学部総合理数学科 総合人間形成課程/芸術文化課程/スポーツ健康 科学課程 人文学部 農学部 理学部 芸術地域デザイン学部 多文化社会学部 募集停止した学科等 (教育学部の場合は学部名を付していない) 生涯教育課程 生涯教育課程/芸術文化課程 共生社会教育課程/環境教育課程/芸術課程 国際文化課程/人間環境課程/美術・工芸課程 地域共生社会課程/生涯スポーツ福祉課程 情報社会文化課程/人間福祉科学課程 人間社会課程 生涯教育総合課程 生涯教育課程 (河合塾調べ) *…学部ではなく課程やプログラム 学部横断型の教育プログラムを導入する大学も目立つ。 を目的としている。 例えば静岡大学では、地域創造型人材の育成をめざす地 ほか、学士課程の定員を大学院に移行する動きもある。 域創造学環を新設した。学生は5つのコースに分かれ、 例えば、2016 年度には電気通信大学が 70 名、弘前大学 人文社会科学部・教育学部・情報学部・理学部・工学部・ が 60 名(前述)、岩手大学が 45 名、学士課程の定員を 農学部の全ての授業科目から必要な科目を選び、文理融 減らし、大学院の定員を増やした。2015 年度「ひらく 合・学部横断型のカリキュラムで総合的に学ぶ。 日本の大学」調査によると、国立大学の 20%が学士課 理工系の大学では、学士課程と大学院の一貫教育を導 程の入学者を減らすことを検討し、32%が大学院の入 入する大学も見られる。東京工業大学では、 「学院」を 学者を増やすことを検討している。理工系の大学を中心 創設した(32 ページ参照) 。名古屋工業大学でも、学士 に、こうした動きが続く可能性もある。 課程と大学院博士前期課程を合わせた6年一貫教育を行 以上、近年の国立大学改革について、学部改組の動き う創造工学教育課程を新設した。いずれも、学生が将来 を中心に見てきた。次ページからは3大学の新設学部の の見通しを持ちながら柔軟に学べるようにすることなど 取り組みについて、詳しく紹介する。 Kawaijuku Guideline 2016.11 31 Part 2 各大学の取り組み 入学段階から大学院修了時までを見通した上で 柔軟な選択が可能な教育改革を実施 東京工業大学 東京工業大学では、 「世界最高の理工系総合大学」をめざして、2016 年度から抜本的な教 育改革を進めている。学部と大学院を統一した「学院」の創設、科目ナンバリング、達成度 評価の導入などによって学生が将来の見通しを持って柔軟に学べる体制を整えたほか、クォー ター制の導入、留学の推奨、英語による授業の拡充などにより、国際化にも力を入れている。 教育改革の狙いと具体的な内容について、丸山俊夫理事・副学長(教育・国際担当)に聞いた。 『世界最高の理工系総合大学』をめざし さまざまな教育改革を進める 丸山俊夫理事・副学長 学士課程・大学院を6学院 19 系に再編し 連続性の高いカリキュラムを実現 2016 年度から始まった教育改革の目的を、丸山理事・ 最も大きな変化は、 「学院制」<図1>を導入したこと 副学長は次のように語る。 である。従来の3学部・6大学院を、理学院、工学院、 「本学は『世界最高の理工系総合大学』をめざしており、 物質理工学院、情報理工学院、生命理工学院、環境・社 世界トップクラスの研究と教育を通じて、グローバル社 会理工学院の6つの「学院」に整理・統合した。 会に貢献できる人材を輩出することを使命にしています。 「従来は学部、大学院それぞれでカリキュラムが構築さ そのためには、科学技術分野の卓越した専門知識・技術 れ、分断されていた感がありました。しかし、本学は9 を修得することに加えて、さまざまな能力を涵養するこ 割程度の学生が大学院に進学します。そこで、学院を創 とが必要になります。例えば、与えられた課題を効率よ 設することで、連続性の高いカリキュラムとし、大学入 く解くだけでなく、グローバルな課題を主体的に発見し、 学段階から、大学院修了までを見通して、自分の興味・ 問題解決を図り、イノベーションを創出できるような能 関心に応じて体系的に学ぶことができるようにしました」 力が求められます。世界中の人々と協力するために、コ (丸山理事・副学長) ミュニケーション力や、異文化を理解して相手を思いや また、学士課程の 23 学科を 17 系、大学院の 45 専攻 る姿勢も身につける必要があります。そして、その基盤 を 19 系と 1 専門職学位課程に再編した。 として深い教養も求められます。2016 年度からの教育 「材料系を例に取ると、これまでは金属工学科、有機 改革は、これらの多岐に渡る能力を育成できる教育環境 材料工学科、無機材料工学科の3つが存在し、学生は2 を整えることを目的としています」 年次にどれかを選択することになっていました。しかし、 大学入学者選抜では第1類~7類の類別に学生を募集 金属工学科の卒業生でも、社会に出ると、有機材料や無 (注) し、学士課程1年目 は共通の必修科目と学生の興味・ 機材料に関する知識・技術が求められることもあります。 関心に基づいた共通の選択科目を学修する。その後2年 また、学ぶうちに興味・関心が変わることもあるでしょう。 目以降の学び方は、大きく変わる。それぞれの特徴を詳 その場合、これまでの学科体制では転学科をしなくては しく見ていこう。 なりませんでした。現在の新しい教育体制では、 『材料系』 という大くくりの構成とすることで、それぞれの学生が 自分のニーズに合わせて、幅広く材料について学んだり、 (注) 東京工業大学では、学年進行から達成度進行に変更したことに伴い、学年・年次の呼称を「学士課程1年目」もしくは「学士課程1年次相当」としている。 32 Kawaijuku Guideline 2016.11 特集2 ■ 国立大学改革 ―学部改組の動向を中心に― 学士課程 学士課程 <図1>学院・系の構成(1年目) <図2>達成度進行によるカリキュラム 大学院課程(修士・博士課程) (2∼4年目) 理学院 工学院 物質理工学院 情報理工学院 生命理工学院 環境・社会 理工学院 ● 数学系 第1類 ● 物理学系 第1類 物理学系 物理学コース ● 化学系 第1類 化学系 化学コース ● 地球惑星科学系 第1類 地球惑星科学系 地球惑星科学コース ● 機械系 第4類 ● システム制御系 第4類 ● 電気電子系 第5 類 ● 情報通信系 第5 類 ● 経営工学系 第3類 ● 材料系 第2類 入 材料系 ● 応用化学系 第3類 ● 数理・計算科学系 第1類 応用化学系 類 入 数理・計算科学系 試 ● 情報工学系 第5 類 ● 生命理工学系 第7類 生命理工学系 生命理工学コース ● 建築学系 第6類 建築学系 建築学コース ● 土木・環境工学系 第6類 ● 融合理工学系 第4類 ● 社会・人間科学系 ● イノベーション科学系 ● 技術経営専門職学位課程 数学系 数学コース 科目を履修順にナンバリング。 教育体系が明確で履修計画が立てやすく、 達成度合いも一目瞭然。 100番 第5 類 第4類 く さ 機械系 び 型 システム制御系 教 育 電気電子系 経営工学系 1 年目 2 年目 経営工学コース 学士課程 情報工学系 類 第6類 学士課程 機械コース 専門科目 情報通信系 400 500 に進学する場合、5つのコースの 番∼ エネルギーコース エネルギーコース エンジニアリング デザインコース エネルギーコース 土木工学コース 地球環境共創コース 博士後期課程 専門科目 原子核工学コース ライフエンジニア リングコース 次の課程の科目を 先取り受講できる! 原子核工学コース エンジニアリング 4 年目 デザインコース エネルギーコース 5 年目 6 年目 7 年目 ライフエンジニア 入 入 原子核工学コース (最短1年※) 学 学 修士課程 通常2年 ライフエンジニア リングコース 原子核工学コース ※修士課程と博士後期課程で計3年以上の在学期間が必要です。 数理・計算科学コース 融合理工学系 修士課程 専門科目 ライフエンジニア リングコース エネルギーコース リングコース 約8割の学生が修士課程へ入学 応用化学コース 土木・環境工学系 600番 ライフエンジニア リングコース 3 年目 材料コース 通常4年 (最短3年) 情報工学コース 番 中から進学先を選択できます。 エンジニアリング デザインコース システム制御コース 電気電子コース 教養科目 情報通信コース 学 例えば工学院機械系の大学院課程 200番∼300番 ★ ★ 博士後期課程 知能情報コース 系 研 究 室 8 年目 学士課程3年と大学院課程3年の最短6年で 博士の学位を取得できます。 コース コース 研 究 室 研 究 室 知能情報コース 9 年目 通常3年 (最短1年※) ライフエンジニア リングコース ★他大学から入学可 ( 『東工大ハンドブック』より) エンジニアリング デザインコース エンジニアリング デザインコース エネルギーコース 社会・人間科学コース ※社会・人間科学系、イノベーション イノベーション科学コース (博士課程) 科学系、技術経営専門職学位課 技術経営専門職学位課程 程は大学院のみ (東京工業大学ホームページより) エンジニアリング デザインコース 原子核工学コース どの能力を明記し、それらの能力が身についたかどうか も評価することとした。 「学院制」の導入、 「達成度進行」への変更により、 学士・ 修士・博士後期課程を一貫させたカリキュラムを実現し、 途中で研究対象を変えたりと、柔軟に学びを進めること 学生は自身の達成度に合わせて学ぶことができるように ができるのです」 (丸山理事・副学長) なる。学院・系の選択、学士課程の卒業研究にあたる「特 学院制の導入に伴って、科目の整理・統合も行った。 定課題研究」への着手、学士課程の卒業など、時期に応 「例えば、以前は金属工学科・有機材料工学科・無機 じて達成度評価を行い、次の段階に進めるかどうかを判 材料工学科のそれぞれで『熱力学』という授業を設けて 定する。高度な内容を早期から学ぶ意欲があり、達成度 おり、内容も異なっていました。現在はそれらを統合し、 も高い学生であれば、例えば、学士課程3年、修士課程 複数の教員で内容を協議しながら授業を行うことにして 1年、博士後期課程2年と、計6年間で修了することも います。教員は自分の専門分野を重点的に扱おうとしが 可能である(標準的な在学期内では9年間) 。 ちですが、熱力学など、どの分野でも必要になる科目につ いては、どの教員の授業を受けても、標準的な知識・技 能がきちんと身につくようにします」 (丸山理事・副学長) 学年進行から達成度進行に変更し 意欲と達成度に基づいて柔軟に学修 国際化を推進するためクォーター制を導入 さらに、国際化にも力を入れている。 「例えば、英語版のシラバスを作り、世界中に公開して います。各科目の科目コードも示すことで、海外の大学 に本学の教育内容やレベルをイメージしてもらい、単位 また、 「学年進行」から、何をどれだけ学んだか・身に 互換をしやすくしています。さらに、2019 年度以降は、 つけたかによって柔軟に学ぶことができる「達成度進行」 原則として大学院のすべての専門科目を英語で実施する <図2>に変更した。 予定です(現在は3~4割が英語で実施) 。世界中の大 そのため、ナンバリングを実施し、学士課程が 100 ~ 学から優秀な学生を受け入れ、 『グローバルキャンパス』 300 番台、修士課程が 400 ~ 500 番台、博士後期課程 を実現したいと考えています。また、留学生の受け入れ・ が 600 番台という科目コードを振り、科目の基礎・応用 本学からの送り出しの双方を促進するため、1年間を4 などの段階や、科目間の関係性を明確にした。学生は、 期(クォーター)に分けるクォーター制を導入し、海外 いま履修している科目が、カリキュラムの中でどの位置 の多くの大学と学事暦を揃えました。なお、学士課程3 づけになっているのかを把握でき、見通しを持って学ぶ 年相当の第2クォーターには必修科目を設定しないこと ことができる。教員にとっても、他の科目との関連を意 としました。直後の夏休みと合わせて、長期間の海外留 識しながら授業内容を調整できるという意義がある。 学ができるようにするとともに、留年せずに留学するこ 成績評価にはアウトカム(学修成果)ベースの評価を とを可能にしています」 (丸山理事・副学長) 導入した。これまでは知識・技能を中心に評価していたが、 クォーター制の導入に伴い、授業の進め方も変化した。 現在は、シラバスに、その授業でどのような力が身につ 基本的に1クォーター内で完結させるため、2単位科目 くのか、例えばコミュニケーション力、問題解決能力な の授業は週に2回実施することとなった。学生にとって Kawaijuku Guideline 2016.11 33 は、短い期間に集中的に学ぶことで知識・技能の定着が れた学生を、 「教養卒論」のティーチング・アシスタント 促進される。教員にとっても、学生の理解度が把握しや に登用する予定である。 すくなり、きめ細かな指導が可能になる。 「東工大立志プロジェクト」などを開講 さらに充実した教養教育を展開 「アカデミック・アドバイザー」や 「学修コンシェルジュ」など学生支援を強化 これらの教育改革を機能させるためには、学生、教員 東京工業大学では、伝統的に人文社会科学系の教養教 双方への支援も重要になる。そこで、2016 年度には、さ 育を充実させており、入学時から博士後期課程まで、教 まざまな支援制度を整えた。 養教育と専門教育の両方を途切れなく連動させ、織り交 その一つが、 「東工大学修ポートフォリオ」である。年 ぜながら学び続ける「くさび型教育」を実施している。 度の初めに、将来希望する進路などの目標と、学修計画 2016 年4月には「リベラルアーツ研究教育院」を組織し、 を立てる。そして、作成したレポートや TOEFL などの さらに強化を図っている。冒頭に述べたように、世界の 資格取得状況、留学やインターンシップの活動状況など 人々と協力し、グローバルに活躍するためには、ベース を記録し、成績が出た段階等で達成度を振り返る。ポー として深い教養が重要になるからだ。 トフォリオの記載内容は、 「アカデミック・アドバイザー」 リベラルアーツ研究教育院では、4つの科目から構成 (学生1名につき教員2名が担当)が確認し、コメントを される「教養コア学修」を提供している。学士課程入学 つけて学生に通知する。定期的に面談も受けながら、学 直後の必修科目「東工大立志プロジェクト」は、大学で 生は自身の状況に即した学修計画を立てていく。 の学びに向けた自己発見と動機付けを行うことを目的と また、 「学修コンシェルジュ」制度も導入された。新し している。週に2回の授業のうち、1回目は、池上彰特 い教育システムの意義を理解させるガイダンスなどを行 命教授をはじめ、哲学者の永井均氏、劇作家の平田オリ い、学ぶ意味や、将来の進路とのつながりなどを考えさ ザ氏など、外部講師も含めて計6名を招聘し、人文・社 せるきっかけを作り、積極的な学修につなげる役割を担 会科学系の幅広い講義を聴講し、学生は「ふりかえりノ っている。学生の中には、 「希望の業種・職種に進むため ート」に、講義の内容から考えたことなどをまとめる。 には、何を学ぶ必要があるか」といったキャリア面に関 2回目の授業では、28 名前後のクラスに分かれ、学生4 する悩みを持つこともある。そこで、同窓会である蔵前 ~5名のグループで、講義の内容について議論し、クラ 工業会の協力を得て、社会で活躍している卒業生6名を ス内で発表する。このサイクルを、6名の講師の講義ご 「学修コンシェルジュ」に任命。現実社会を念頭に置いた とに繰り返し、授業の最終回ではグループごとに、大学 アドバイスを送っており、学生からも好評である。 での学びや将来の目標などについて「志」をまとめる。 教員へのサポートを強化するため、 「教育革新センター」 「この授業の効果は抜群で、履修生は、自分の意見を も設置した。専任教員を3名おき、ファカルティ・ディ きちんと整理して伝え、相手の考えも尊重して聞くグル ベロップメント(教員の職能開発)や学修環境の整備な ープワークを楽しんでいるようです。将来、多様な人々 ど、さまざまな支援を行っている。 と共同で仕事をする上で、この姿勢はとても大切で、早 「2019 年度から、大学院の全ての専門科目を英語で実 めにそれに気づかせる意義は大きいと考えています」と、 施する予定ですが、英語で教えた経験がない教員もいま 丸山理事・副学長は手応えを感じている。 す。そこで、年数回、イギリス、オーストラリアの機関・ さらに、学士課程3年目では、教養教育で学んだこと 大学から、英語による教授法を専門とする教員を招いて、 を自分の将来にどう生かすのかをレポートにまとめる「教 英語での授業の進め方に関する研修を実施しています。 養卒論」 、修士課程では、目標に向かってチームを導くリ そのほか、eラーニングコンテンツの企画・制作など、 ーダーシップ力を身につける「リーダーシップ道場」 、博 ICT技術を活用した教育の支援にも取り組んでいます。 士後期課程では、高度な教養的知識をグループによる研 教育改革を実現するためには、学生に意識改革を求める 究や発表を通じて共有する「学生プロデュース科目」が だけでなく、教員も自分の教育方法を見直し、よりよい 必修になっている。 「リーダーシップ道場」では、ファシ 授業へと改善していく努力が必要になると考えています」 リテーターの能力も高め、一定の基準を満たして認定さ 34 Kawaijuku Guideline 2016.11 (丸山理事・副学長) 特集2 ■ 国立大学改革 ―学部改組の動向を中心に― ビッグデータなどデータから新たな価値を創造する データサイエンティストの育成をめざす 滋賀大学データサイエンス学部 情報通信とデータ蓄積の技術の急速な発展により、現代社会では大量のデータを入手するこ とが可能となった。例えば、コンビニエンスストアのレジで記録される購買情報などはリアル タイムで入手・観察でき、このような大量のデータは「ビッグデータ」と呼ばれている。近年、 ビッグデータ分析による新しいビジネスの創出などに対する社会的な期待が高まっている。こ のビッグデータを含む多様なデータの分析を行う職業がデータサイエンティストである。デー 竹村彰通教授 タサイエンティストを養成する、日本初の学部として 2017 年度に誕生する滋賀大学データサ イエンス学部について、学部長に就任予定の竹村彰通教授に話を聞いた。 データを分析し、価値ある情報を引き出す データサイエンティスト そこで滋賀大学では、データを処理するためのソフトウ 現代社会では日々多くの情報が流通している。例えば、 数学的基礎から実際の統計手法までを学び、さらにそれ 高校生がスマートフォンで SNS に書き込んだメッセー らを使った価値創造を行うことができるデータサイエン ジはデジタルデータとして蓄積され、蓄積されるデータ ティストを養成する学部としてデータサイエンス学部を 量は飛躍的に増大している。このような 「ビッグデータ」 設置する。 を分析し、ビジネスや医療、教育、行政などさまざまな 分野で役に立つ、価値ある知見を抽出できる人材の需要 も増大している。 ェアの扱い方やプログラミング、データ解析するための 1年次から4年次までを通じた 徹底したプロジェクト型の演習(PBL) データサイエンティストは、データの分析だけにとど データサイエンス学部の教育課程の特徴は、実際の事 まらず、データの活用方法も考え、新しいビジネスのア 例を教材として学ぶ PBL(Project-Based Learning)演 イディアなどを創出する専門職である。高度なデータ処 習である。滋賀大学では「データ駆動型 PBL 演習」と 理能力とデータ分析力が必要とされ、統計学とコンピュ 呼び、学生は4年間を通して、ケーススタディで学ぶ基 ータ科学などの知識が欠かせない。現代社会ではデータ 礎的なレベルから、実際のデータを利用して学生自身が に基づく経営や政策の意思決定が求められることから、 解決策を提案する実践的レベルまで段階的に履修する< 活躍の場は民間企業から自治体まで幅広い。 表1>。そこでは、PPDAC サイクル(注1)による価値創 データ活用について教育分野を例に挙げて紹介しよう。 造の体験や社会的価値の創出が目標とされている。 例えば、タブレット端末で電子教材を使用して学習を進 1年次の「データサイエンス入門演習」では、企業や めている場合は、演習問題を解く過程で、生徒がつまず 自治体などから外部講師を招き、事例を通して学ぶケー きやすい問題や間違いが多い問題などをデータの蓄積を ススタディを講義形式で行う。また、学生はグループ別 もとに分析し、学習の進度に合わせて、再度出題するよ に滋賀県内の企業の工場や自治体の現場等を訪問し、実 うにプログラムを改良することで学習効果を高めること 際の現場も体験する。これは学生の学習意欲を刺激する ができる。 意味もある。 このような専門人材の社会的な需要は高まっているが、 「1年次から、工場など実際の現場で、どのようなデ これまで日本では統計学とコンピュータ科学の両方を学 ータが収集されているかを体験することで、学生の学習 べる学部がほとんどなく、人材不足が指摘されている。 意欲の向上につながることを期待しています」(竹村教 (注 1)Problem,Plan,Data,Analysis,Conclusion Kawaijuku Guideline 2016.11 35 <表1>1年次から4年次までを通じた、データ駆動型 PBL 演習 学年 1年次 2年次 3年次 4年次 科目名 データサインエンス入門演 習 データサインエンスフィー ルドワーク演習 データサインエンス実践価 値創造演習Ⅰ・Ⅱ データサインエンス上級実 践価値創造卒業演習Ⅰ・Ⅱ 演習内容 企業・自治体等の外部講師 によるケーススタディ(講 義形式)、現場訪問、ケー ススタディの分析課題の抽 出など フィールドワークによる分 析プランの策定、企業・自 治体等からの提供データを 分析、分析結果に基づく提 案など 企業・自治体等との連携に よ る プ ロ ジ ェ ク ト、 ミ ー ティング・現場体験をもと にデータの種類・分析方法 を確定、データの収集・分 析、分析結果に基づく提案 など 3年次のプロジェクトでの 分析結果・提案を改善、卒 業研究の作成、研究報告会 の実施など 具体例 など 【ケーススタディ/フィールドワークの具体例】 メーカーの工場、流通企業のデータ分析部門、自治体 の健康・福祉部門ほか 【プロジェクトの具体例】気象・防災プロジェクト データ:降水量、河川流水量、地形など 価値創造:豪雨時の被害予想、避難勧告のタイミング、 避難ルート確保など 連携先:他大学、自治体、気象情報サービス事業者など 【対象領域:データの具体例】 POS(店舗のレジデータ)、購買履歴、保険、財務、観光、 交通、GPS、疫学、バイオ、医療・健康、教育、公的統計、 歴史文書ほか (資料・取材をもとにガイドライン編集部で作成) 授) 験をもとに、分析すべき課題を設定する。そして、活用 その後、グループでの学習を通じてケーススタディで するデータやデータの加工・研磨・処理の方法と分析方 学んだ事例の分析課題を抽出する。 法を確定し、これらに基づいて、実際にデータを収集し、 2年次の「データサイエンスフィールドワーク演習」 分析ソフトを使って、分析結果を出す。この分析結果を では、1年次の活動を踏まえて、メーカー、流通企業、 活用して、価値創造のための解決策をプロジェクトで提 自治体などでフィールドワークを重ねて、データ分析の 案する。竹村教授は「生のデータを扱って分析すること、 プランを策定する。そして、企業や自治体などから提供 卒業後に企業の現場等ですぐに対応できる高い専門性を されたデータを活用して、実際に分析を行い、分析結果 持った学生を輩出することをめざしています」と、社会 を活かした解決策を提案する。提案結果は評価報告会を のニーズに即応できる人材の育成が目標であることを強 行い、ケーススタディの場合は、実際の解決策と比較し 調する。 たり、教員、外部講師に加えて、他の学生グループから 4年次の「データサイエンス上級実践価値創造卒業演 の評価も受ける。 習Ⅰ・Ⅱ」では、3年次の演習結果を見直して、改善を 「ここでの提案は、解決策の提示にとどまらず、デー 検討する。そして、その結果を卒業研究としてまとめ、 タ分析による新しい価値の創造を体験し、3年次以降の 研究報告会では、指導教員やプロジェクトを組んだ企業 PBL 演習につなげる意味があります」 (竹村教授) や自治体などの担当者のほか、学外有識者からも評価を 3年次以降は、企業や自治体等との連携によるプロジ 受け、研究結果の質の向上をめざす。 ェクトを行い、実際の現場での課題解決に取り組む予定 なお、これら PBL 演習を進めるために、3年次では、 だ。<表1>では、 プロジェクトの具体例として、 「気象・ 複数の対象領域のデータ分析を学ぶための講義と演習科 防災プロジェクト」が挙げられているが、それ以外にも 目が設定され、学生は異なる3領域のデータを扱うこと 連携先として、他大学(医学系、バイオ系ほか) 、自治 となっている。領域は、POS(店舗のレジの売り上げデ 体や自治体の研究機関、民間企業などが幅広く検討され ータ)、購買履歴、保険、財務、観光、交通、GPS、疫学、 ている。 バイオ、医療・健康、教育、公的統計、歴史文書など複 3年次の「データサイエンス実践価値創造演習Ⅰ・Ⅱ」 数の分野が用意される。さまざまな領域のデータを扱う では、プロジェクトの参加者とのミーティングや現場体 ことによって、特定の分野や分析方法に偏ることなく、 36 Kawaijuku Guideline 2016.11 特集2 ■ 国立大学改革 ―学部改組の動向を中心に― <表2>滋賀大学データサインエンス学部 3つの履修型 履修型 学びの志向 予想される進路 データエンジニア型 情報工学・コンピュータへの関心が強く、アルゴリ ズムやアプリケーションの最先端をより深く学びた い IT 系企業、シンクタンク、製薬企業、医療機関、企 業のデータ分析部門、大学院等 データアナリスト型 統計学・数学への関心が強く、データ解析の最先端 をより深く学びたい 経営コンサルタント、シンクタンク、製薬企業、医 療機関、企業の財務経理 / マーケティング / 生産管 理、企業のデータ分析部門、大学院等 データコンサルタント型 データサインエンスの技術を領域分野の現実の問題 に応用したい 企業の財務経理 / 経営企画 / マーケティング / 生産 管理、国、地方自治体等 (資料・取材をもとにガイドライン編集部で作成) 多くの現実の課題に対応できるようになることが学生に は期待されている。 入試で必要な数学は数学Ⅱ・数学Bまで 数学より「社会への関心」が大切 統計学とプログラミングが基本も 学生の志向に合わせた3つの履修型を設定 前期日程・後期日程ともに大学入試センター試験の入 データサイエンス学部では、前述の PBL 演習に加え、 検査は「英語」と「数学」で、数学の必須の出題範囲は、 1年次から統計学とコンピュータ科学を基礎から学ぶ。 数学Ⅰ・数学A、数学Ⅱ・数学B(数学Bは「数列・ベ 特にプログラミングは、学生によって能力・知識に幅が クトル」)といわゆる文系数学の範囲である。数学の選 あるため、数学や統計に苦手意識を持つ学生にも配慮し 択問題として数学Ⅲも出題されるが、全員が必須ではな た内容にする予定だ。数学については「数学科で学ぶ数 い。「統計学を学ぶ上では、数学Ⅱ・数学Bまでの範囲 学とは異なりますし、プログラミングについても全員が を学習していれば、入学後に困ることはありません」と エンジニアになることをめざしているわけではありませ 理学部や工学部などで求められる数学とは異なると竹村 ん」 (竹村教授)と各学生の志向に合わせて履修ができ 教授は説明する。 る教育課程であることを説明する。 後期日程は、「英語」と「総合問題」が課される。総 履修型は3つ設定されており、データサイエンスの基 合問題は社会や日常生活での課題を取り上げた図や表を 礎は共通して学ぶが、それ以外の科目は、技術者をめざ 含む文章が題材となり、そこからデータを読み取り、分 す「データエンジニア型」 、統計分析に力点を置く「デ 析し、まとめることが求められる。この総合問題はサン ータアナリスト型」 、 企業や自治体などの実務に近い「デ プル問題を作成次第、滋賀大学ホームページで公開する ータコンサルタント型」と学生の関心や希望する進路に 準備が進んでいる。 合わせた履修が可能だ<表2>。 入学志望者の適性について、竹村教授は「グラフや資 竹村教授は「現在では、全てゼロからプログラムを作 料のデータを見てさまざまなことを考えるのが好きな人 成しなくても、既存のソフトなどを組み合わせて、一つ が、データサイエンス学部に向いています。そういう点で のシステムとして機能させることもできます。プログラ は、数学が好きというよりは、社会の出来事に関心があ ミングの知識は必要ですが、自身がゼロからプログラム ることが大切です」と社会への関心が学ぶ上で大切であ を書けなくても、データの使い方を考え、そのためにど ることを指摘した。そして、 「社会的な問題を扱うことも のような既存のプログラムを組み合わせれば良いかがわ 多いので、身近な地域のデータなどにも関心を持ってほ かる人材こそ必要なのです」と語り、企業や自治体等の しい。それぞれの地域の強みや特色は、必ずデータに現 現場のニーズとプログラミングの技術者との橋渡しがで れます」と、データサイエンスは世界規模の課題だけで きる人材の必要性を指摘する。このほか、分析した結果 なく、地域創生の課題にも対応できるなど、応用範囲の をわかりやすく伝えるためのプレゼンテーションを学ぶ 幅広さや今後の可能性の広がりについても示してくれた。 試科目は5教科7科目である(注2)。前期日程の個別学力 科目が必修であることも特色の一つである。 (注2)理科、地歴、公民の選択科目によっては6教科7科目 Kawaijuku Guideline 2016.11 37 「デザイン科学」 に基づいて課題解決能力を高め グローバルに活躍できる人材を育成 山口大学国際総合科学部 山口大学は、2015 年度、教育学部と経済学部を改組し、国際総合科学部を新設した。国際 社会の課題を解決できる能力や、文化的背景の異なる人たちと協働するために必要なコミュニ ケーション能力の育成をめざしており、TOEIC(LR)730 点以上の取得を卒業要件の一つとし ている。高い目標を課しているが、1期生の3分の1近くが、1年次終了段階で目標スコアを 達成するなど、英語力を飛躍的に向上させている。学部設置の背景や、育成する人材像、教育 糸長雅弘学部長 の特色などについて、糸長雅弘学部長にうかがった。 ません。そのため、近年は九州を訪れる外国人観光客が デザインの各プロセスにおける 基礎的な考え方と方法論を重視 増加していますが、隣接する山口県まであまり足を運ん でもらえていません。そうした課題を解決できる学生を 山口大学国際総合科学部が育成をめざすのは、グロー 育てることも、本学部の使命です」 バル社会で活躍できる人材、および地域の課題にグロー そこで、教育目標に「デザイン科学に基づく課題解決 バルな視点で取り組むことができる人材である。その背 能力」 「幅広い知識とその活用能力」 「コミュニケーショ 景を、糸長学部長は次のように語る。 ン能力と共働力」を掲げ、さまざまな取り組みを行って 「山口県は瀬戸内工業地域の一翼を担い、特定の分野 いる<図1>。 で卓越した技術を持ち、世界的なシェアを誇る中堅企業 を数多く擁しています。それらの企業は、アジアを中心 とする海外進出を積極的にめざしています。しかし、英 「デザイン科学」に基づき 課題解決能力を段階的に育成する 語で交渉できる人材、異文化の人々が出会う場でコーデ 「デザイン科学に基づく課題解決能力」について、糸 ィネートできる人材が不足しているのが実情です。本学 長学部長は次のように説明する。 部では、そのニーズに応えて、異文化コミュニケーショ 「 『デザイン』と聞くと『造形』のイメージが強いかも ン能力の高い学生を育てたいと考えています。また、地 しれませんが、 『デザイン科学』はそれに留まらず、観察、 域社会の課題解決に取り組むことができる人材の育成も、 分析、価値提案、設計、最適化、実装、評価といったプロ 本学部の重要な使命にしていますが、その際にもグロー セスを経て、さまざまな新しい価値を創造する学問です。 バルな視点が大切になります。例えば山口県は、食材、 本学部では、デザイン科学に基づいて、コラボレーション、 歴史・文化、自然など、さまざまな観光資源に恵まれて フィールドワーク、プロトタイピング、参加型デザイン いますが、それぞれが点在し、うまく結び付けられてい など、課題解決に必要なさまざまな考え方や方法論を、 しっかり身につけさせていきます」 <図1>国際総合科学部カリキュラム概念図 1年次 科学技術 リテラシー 科目 短期語学研修(1ヶ月) 基礎 科目 2年次 3年次 そこで、必修科目として『ロジカル シンキング入門・演習』 『デザイン科学 4年次 入門Ⅰ・Ⅱ』 『デザイン科学演習Ⅰ~Ⅳ』 課題解決科目 コア科目 基礎科目 科学技術史、日本文化論、 現代アジア論等 科学技術リテラシー科目 デザイン科学入門・演習、 自然科学、生物多様性等 海外留学 (1年間) 科学技術コミ ュニケーション、 知的財産と技 術経営、 デザインの心 理学等 プロジェクト型 課題解決研究 展開科目 科学技術社会論、インクルーシ ブデザイン、現代日本思想論等 就職 商社 国際機関 行政機関 等 コミュニケーション科目 イン科学」に基づく課題解決の考え方 を修得する。 さらに、PBL(Problem/Project Based Learning)型の少人数教育を通じて、課 (国際総合科学部パンフレットより) 38 Kawaijuku Guideline 2016.11 などを設け、1年次終了までに「デザ 特集2 ■ 国立大学改革 ―学部改組の動向を中心に― <図2>課題解決科目の体系 課題解決能力 題解決能力を実践的に身につける、 「課題解決科目」を 各年次に用意している<図2>。例えば1年次第3・4 クォーターの『課題解決能力演習』では、教員が与えた 課題の解決策をグループで検討する中で、第2クォータ ーまでに身につけたデザイン科学の代表的な考え方であ るデザイン思考やロジカルシンキングの能力を高めてい く。グループワークを行うことで、コーディネーターと 文理融合の知識とデザインの思考・手法に 基づく、グループでの課題解決の実践 プロジェクト型課題解決研究 社会調査の実践とローカルおよびグローバルな 視点からの地域理解・連携の実践 地域理解・連携演習Ⅱ 海外留学 地域理解・連携演習Ⅰ 山口と世界 議題解決のための情報収集能力とその分析能力 社会調査法Ⅰ・Ⅱ しての基本的な能力を身につけることも目的としている。 コーディネーターとしての基本的な能力 課題解決能力演習 他にも、1年次第3・4クォーターの『社会調査法Ⅰ・ 基本的なアカデミックスキル Ⅱ』 、2・3年次の『地域理解・連携演習Ⅰ・Ⅱ』などを 通じて、課題解決能力を段階的に向上させていく。 基礎セミナー 国立大学法人の学部等の設置に係る計画書類(平成27年度開設) (山口大学国際総合科学部)より こうして培った課題解決能力育成の集大成の場になる のが、4年次の必修科目である『プロジェクト型課題解 を持つ人たちが集まって、検討を加えることです。特定 決研究』である。5名程度の学生でプロジェクトチーム の視点からだけでは発想に広がりが生まれませんから、 を作り、約 20 の企業、自治体及びNGOから、現実に 文系分野だけでなく科学技術に関しても、ある程度の素 抱えている課題を提示してもらい、社会人と一緒に議論 養を備えて、多角的な観点からアプローチできる力を育 し、解決策を探究する。すでに約 10 社の企業と、山口市、 みたいと考えています」 (糸長学部長) 美祢市、長門市、周防大島町などの自治体、1つのNG また、知的財産に関する教育も重視し、 『知的財産入 Oから協力が得られることが決まっている。 門Ⅰ・Ⅱ』 『知的財産演習Ⅰ・Ⅱ』 『知的財産と技術経営』 例えば、JA(全国農業協同組合連合会)とは、JA を必修科目としている。 が所持する古民家、倉庫などを、地域のために活用する 「これまでの日本企業は、欧米諸国に比べると、知的財 方法を探る。ANA(全日本空輸)とは、岩国錦帯橋空 産戦略が不足していました。例えば優れたアイデアを生 港の利用者を増やすために、山口観光とセットになった み出しても、優れた知的財産戦略がなければ、他国や他 旅行プランを考案する。周防大島町とは、他県からの移 企業との競争に敗れ、利益を取られてしまう可能性があ 住者を増やすための方策を検討したり、町内にある「日 ります。そこで、本学部では、知的財産関連の知識もし 本ハワイ移民資料館」に未整理のまま保管されている資 っかり学ばせることにしています。本学は、2004 年度に 料を活用して、地域の活性化計画を作成したりすること 『知的財産センター』を設置したほか、2015 年度には文 を構想している。 部科学省の『教職員の組織的な研修等の共同利用拠点(知 これらのプロジェクトは、大学側が企業等と連携して 的財産教育) 』に大学で唯一指定されるなど、この分野 設定するもので、 「プログラムコース」と呼ばれる。 『プ の実践には蓄積があります。それらを活用している点も、 ロジェクト型課題解決研究』には、そのほかに、学生自 本学部の大きな特徴です」 (糸長学部長) 身が発案し、連携先の企業等も開拓する「オリジナルコ ース」もある。2年次の段階で、有力企業の社長と交渉 して協力の内諾を得た、意欲的な学生もいるという。 科学技術や知的財産に関する幅広い科目を設置 教育目標の「幅広い知識とその活用能力」に関連して、 1年次夏休みに短期語学研修、 2年次秋から3年次夏に 1 年間の長期留学を実施 さらに、 「コミュニケーション能力と共働力」を高める ため、全ての学生が原則として海外留学に参加すること としている。 「物質・エネルギー・環境Ⅰ・Ⅱ」 「保健・医療・福祉Ⅰ・ まず1年次夏休みには、フィリピンのセブ島で、1 カ Ⅱ」 「生物多様性Ⅰ・Ⅱ」 「バイオテクノロジーⅠ・Ⅱ」 月間の短期語学研修を実施する。英語力の向上を目的と などといった、現代科学の主要論点に関する科目も、必 したプログラムで、朝7時からボキャブラリーテスト、 修科目として設定している。 午前中はネイティブ教員とのマンツーマンレッスン、午 「課題解決策を探る際に大切になるのは、多様な視点 後は世界各国から集まった大学生や社会人とのグループ Kawaijuku Guideline 2016.11 39 <図3> TOEIC 平均スコアの推移 660 ■平均点 640 620 それに選択科目として、 『IELTS Study 1~3』を設けて 600 いる。2年次以降は、 英語4技能に関する発展的な科目や、 580 『TOEIC Study 1~8』などを選択科目として置いてい 560 540 るが、ほとんどの学生が履修しているという。 520 入学直後から集中的に英語を学ぶ効果は大きく、山口 500 6/7(553.7点) 8/2(573.3点) 10/28(639.0点)12/6(659.3点) ※実施日(点数) (糸長学部長提供) 大学の全学生が受験する1年次6月初旬の TOEIC(LR) のスコアを見ると、全学平均が約 450 点であるのに対し レッスン、夜は 10 時までの自主学習と、徹底的に英語 て、国際総合科学部の学生の平均は 553 点となっている。 の学習に取り組む。希望者対象だが、ほぼ全員が参加し 大学入試センター試験の英語の平均点は他学部とほとん ている。 ど変わらないが、大学入学後のわずか2カ月間で、他学 2年次秋から3年次秋までの1年間は、留学協定大学 部の学生に比べて 100 点以上スコアを伸ばしているのだ。 に交換留学に行く。協定大学は世界各国に広がっており、 さらに、1年次夏休みの短期語学研修の効果も大きく、 自分の関心のある地域を選ぶことができる。1期生(今 研修前後のスコアを比較すると、平均で約 80 点アップ 年度の2年生)の留学先を見ると、欧米やオセアニアの している。さらに、 1年次終了時の平均スコアは 663 点で、 大学と、アジアの大学がそれぞれ半数程度である。留学 その時点で約3分の1の学生が卒業要件の 730 点をほぼ 先では、世界中の学生とともに、現地の文化や歴史等に 達成しているという。 ついて学び、国際社会で活躍するための幅広い知識と視 「もっとも、英語コミュニケーション科目を受講したり、 野、高いコミュニケーション能力を身につけていく。 短期語学研修に参加したりするだけでは、これだけ短期 アメリカのウォルト・ディズニー社が行う「ディズニ 間でスコアをアップさせるのは困難でしょう。やはり、 ー国際カレッジ・プログラム」に参加できるコースもある。 2年次秋からの長期留学という明確な目標があり、将来 半年間、ディズニーランドでインターンシップを経験し はグローバルに活躍したいという思いがあるからこそ、 ながら、同社の社員による観光経営に関する講義などを 自主的に英語力を高めようというモチベーションにつな 受講する。残りの半年間は、近隣の留学協定大学である がっているのだと思われます」 (糸長学部長) バレンシア大学で授業を受ける。 なお、1期生は、約8割が2年次秋から交換留学に出 なお、長期留学中に渡航先の大学で取得した単位が、 向いているが、長期留学前に TOEIC600 点をクリアでき 20 単位を上限として卒業単位に互換されるため、学生は なかった場合は、3年次春から半年間の留学に参加する 4年間で大学を卒業することが可能である。 などのプログラムも用意されている。 さまざまな特色のある国際総合科学部だが、どのよう TOEIC のスコアが 2 カ月で 100 点アップ 目標と意欲があれば英語力は飛躍的に伸びる な学生の入学を期待しているのだろうか。糸長学部長は 国際総合科学部では、高い水準の英語能力を持った人 「国内外の課題を解決するためは、多角的な視点が要 材を輩出するため、卒業要件として TOEIC(LR) で 730 求されますから、幅広い分野と日本のみならず世界の出 点以上を達成することを定めている。また、2年次秋か 来事に興味・関心のある人に入学してほしいと考えてい らの海外留学に参加するための要件として、渡航先の大 ます。一般入試では、大学入試センター試験で5教科ま 学が求める英語力の水準(TOEFL、IELTS など)をクリ たは6教科を課しているのはそのためです。一方、平成 アするほか、学内規定として TOEIC(LR) で 600 点以上 29(2017)年度入試から導入した AO 入試では、英語 を取得することを求めている。 力に長けた学生を求めています。そのため、英語を交え そこで、 「英語コミュニケーション科目」を充実させ、 た講義を聴講し、英語による部分を含むグループディス 目標スコアの達成に向けた学修を促している。1年次は カッションやレポートの著述を行う講義等理解力試験を 必修科目として、 『Basic Speaking』 『Basic Listening』 実施しています。さまざまな学生に入学してもらい、本 『Basic Writing』 『Basic Reading』のほか、TOEIC の試 験対策を目的とした『TOEIC 準備』 『TOEIC Basic Study』 、 40 Kawaijuku Guideline 2016.11 次のように語る。 学部での教育を通じて、 『タフなグローバル人材』を育成 したいと考えています」