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アッシュストーンを用いた HDPE ジオグリッドの引抜き試験について 1
地 盤工 学会 北 海道 支部 技 術報 告集 第 5 1 号 平成 23 年2月 於 苫小 牧市 アッシュストーンを用いた HDPE ジオグリッドの引抜き試験について 苫小牧高専 国際会員 苫小牧高専 正会員 苫小牧高専専攻科 ○中村 努 吉澤 耿介 遠藤 貴将 1.はじめに 鉄鋼スラグは鉄鋼生産と同時に発生する副産物であり,高炉セメントの原料やコンクリートの骨材と して 多く使用されている.また,地盤工学の分野においても軽量でかつ内部摩擦角が大きく,透水性が大きい性 質を持つことから,裏込め材や路床材,盛土材等幅広く使用されている 1) .一方,製鉄時の副産物として製 鉄所の自家発電用火力発電所から発生する石炭灰についても鉄鋼スラグ同様,幅広い活用が求められている . 本研究で対象とするアッシュストーンは石炭灰に水硬性材料を添加して,混練・造粒し,硬化させた粒状の 材料である.自然砂の採取に伴う環境負荷を削減する観点からも,地盤材料としてアッシュストーンの特徴 を活かした利用の拡大が大いに期待されている. 一方,引張りに弱いという土の弱点を引張強度の大きな強材によって補うという方法は古くから行わ れて おり,特にジオグリッドを用いた補強土工法は,国内外で広く普及している.今後ますます環境への制約が 厳しくなる中で,アッシュストーンの補強土構造物への適用は大きなメリットがあると考えられる.土中で のジオグリッドの補強メカニズムを知るためには,ジオグリッド自体の材料特性のみならず,ジオグリッド と土質材料との相互作用特性を明らかにする必要がある.その中で特にアッシュストーンとジオグリッド間 の摩擦特性を把握することは,ジオグリッドの引抜けや補強土のすべりに対する安定性を検討するうえで重 要となる.しかし,これまでにジオグリッドとアッシュストーン間の摩擦特性を調べた例は無く,今後アッ シュストーンの補強土構造物への適用へ向け設計の際に必要となる両者間の摩擦特性を明らかにする必要が ある.そこで本研究では 3 種類のアッシュストーンを対象にジオグリッドの引抜き試験を実施し乾燥砂を対 象にした試験結果との比較検討を行った. 一般的に礫を含む土質材料を対象にするジオグリッドは,転圧時等のジオグリッドへの損傷による強 度低 下を考慮し,一軸延伸系等の厚いジオグリッドを選択する必要がある.一軸延伸系のジオグリッドのように 横リブの厚いジオグリッドを用いた引抜き試験では,特に乾燥砂や礫等に対し明瞭なピークが現れず 正確な摩擦定数を求めるためには,Ochiai ら 5) 2),3),4) , の提案する「有効面積法」により求める必要があった.しか し「有効面積法」は試験後のデータ整理手順は複雑であり,計算および報告図の作成に手間がかかるため, 広く実務で利用されているとは言えない.このような背景もあり,一般的に補強土構造物の設計の際には土 とジオシンセティックスの摩擦特性試験から得られた強度定数は用いずに,他の土質試験から求めた強度定 数に低減係数を乗じた値が用いられているのが現状である 6) .そこで本研究ではアッシュストーンを対象と した引抜き試験に先立ち,乾燥した豊浦砂を用いて一連の引抜き試験を実施し,強度定数の決定方法につい ても検討を行った. 2.試験概要 2.1 供試体 本研究で用いた土試料は乾燥豊浦砂およびアッシュストーン 3 種類である.それぞれの粒度分布を図-1 に 示す.豊浦砂は多重ふるい空中落下法によって引抜き試験装置土槽中に相対密度約 80%で堆積させた.アッ シュストーンは細粒分を含まない AS(Ⅰ)は突き棒によって,細粒分を含む AS(Ⅱ)および AS(Ⅲ) は 突き固め試験用ランマーによって一層あたり 200 回突き固め,ジオグリッドの上下共に 3 層の計 6 層にて供 試体を作成した.ジオグリッド供試体はポリエステルを素材とする一軸延伸系ジオグリッド(HDPE)2 種類 を用い,その物性を表-1 に,形状を図-2 示す. Pull Out Test of HDPE Geogrid in Ash Stone: Tsutomu NAKAMURA, Kohsuke YOSHIZAWA, Takamasa ENDO (Tomakomai National College of Technology) - 111 - 22 mm 22 mm 豊浦砂 50 Ⅱ) AS( ) 245 mm Ⅲ ( AS 166 mm 通貨質量百分率(%) 100 AS(Ⅰ) 0 10 −2 10 0 10 粒径(mm) 2 図-1 試料の粒度分布 Type (A) 表-1 ジオグリッドの物性 サイズ(mm) ジオグリッド スティフネス (kN/m) 縦 横 厚さ 破断強度 (kN/m) Type (A) 166 22 5 70 1025 Type (B) 245 22 5 112 1050 Type (B) 図-2 ジオグリッドの形状 2.2 試験方法 引抜き試験装置の概略を図-3,写真-1 に示す.土槽のサイズは幅:250×長さ:500×深さ:200mm であり, 地盤工学会基準 7) で推奨しているサイズの試験土槽であり,引抜き口の大きさは 8mm とした 8) .土槽壁面内 側には土試料との摩擦軽減のためにグリースを塗布しメンブレンを貼った.ジオグリッドは土槽中央に敷設 して横リブ毎(土槽外 1 ヶ所を含む)にピアノ線を固定し,土槽後方に取り出して変位を計測する.ピアノ 線はシンフレックスチューブの中を通し,土との摩擦が生じないようにしてある.上方からラバーメンブレ ンを介して空気圧によって垂直応力を載荷し(20, 40, 60 kPa),土槽前方から取り出したジオグリッドをクラ ンプに固定し,クランプ部分で 1mm/min の変位速度となるように引抜いた.礫分を多く含むアッシュストー ンを用いた引抜き試験は同じ条件にて実施しても,結果がばらつくため各条件にて複数回実験を実施し,平 均的な傾向を持つ試験結果を採用した.引抜き摩擦強さ τ pmax は次の式で算出する τ p max = ここに, 6) . Fmax 2⋅L⋅ B τ pmax :引抜き摩擦強さ(kN/m 2 ) F max :最大引抜き力(kN) L:引抜き抵抗長(m) B:供試体幅(m) なお,引抜き抵抗長 L はピーク時の土槽内の供試体長さ,すなわち土槽長さからピーク時の土中端の変位量 を引いた値を用いる. - 112 - 垂直応力 σ F 200 mm 引抜き力 8 mm 250 mm 500 mm 図-3 引抜き試験装置の概略 写真-1 引抜き試験装置 2.3 最大引抜き力の影響 Type (A),(B)のジオグリッドを用い豊浦砂にて実施した,引抜き試験による引抜き力と引抜き量の関係を図 -4,5 に示す.いずれの試験からも明確なピークが現れず,残留(引抜け)状態に至ってからも引抜き力は 増加し続ける.このような現象は引抜き試験装置前壁が存在することによって,特に一軸延伸系の HDPE ジ オグリッドのように横リブの厚いタイプを用いた場合には,引抜きに伴いアーチ作用が発生することにより 9),10) 生ずると考えられる .このように最大引抜き力が明確ではない試験結果から最大せん断応力を評価する 方法については,地盤工学会基準 7) でも規定されていない. 図に示す様な引抜き試験結果から最大引抜き力を決定する際,引抜き力だけではなくジオグリッドの各節 点変位も変化する.特に土中端の変位量は引抜き摩擦強さの算出に影響を及ぼす.そこで,はじめに最大引 抜き力の取り方がジオグリッドの引抜き摩擦強さに及ぼす影響について調べた.図-4,5 の引抜き曲線上にあ る(a)∼(d)の●印は最大引抜き力と推定される付近を引抜き量が約 3mm 間隔となるようにプロットした点で ある.これらの点に対応する諸量を表-2 に,それぞれの点から算出される引抜き摩擦強さと垂直応力の関係 を図-6,7 に示す.表-2 中の引抜き摩擦強さに着目すると,同一の試験結果であっても最大引抜き力の取り方 がわずかに異なることにより,算出される引抜き摩擦強さは 1 割程度の差異がみられた.また図-6,7 より土 とジオグリッド間の破壊線は図中の斜線部分にあると考えることができ,摩擦角は 2°程度の差が見られた. このように図-4,5 に示した,ある程度妥当なピーク位置を推定した場合においても,上述したように強度 定数に差が見られることから,最大引抜き力の決定方法を以下で検討する. 豊浦砂 (a) 8 6 σ=40kPa (c)(d) σ=20kPa (a) (b) 2 Type (A) 20 40 引抜き量;d(mm) 図-4 60 (a) 6 (a) 4 σ=60kPa (d) (d) σ=40kPa (c)(d) σ=20kPa (a)(b) (a) 2 Type (B) 0 0 0 豊浦砂 σ=60kPa (d) (a) 4 8 (d) 引抜き力;F(kN) 引抜き力;F(kN) 10 80 引抜き試験結果(Type (A)) 0 20 図-5 - 113 - 40 引抜き量;d(mm) 60 引抜き試験結果(Type (B)) 80 表-2 引抜き試験結果(豊浦砂) 垂直応力 σ (kPa) ジオグリッド 20kPa Type (A) 40kPa 60kPa 20kPa Type (B) 40kPa 60kPa 黒 点 の記 号 引 抜 き量 d (mm) 土 中 端 の変 位 x 0 (mm) 最 大 引 抜 き力 F m a x (kN) 引 抜 き摩 擦 強 さ τ p m a x (kPa) (a) 12.47 9.47 3.00 13.04 (b) 15.38 12.07 3.10 13.54 (c) 18.21 14.61 3.14 13.78 (d) 21.28 17.61 3.23 14.26 (a) 19.49 10.94 5.40 23.16 (b) 23.14 13.68 5.53 23.84 (c) 26.07 16.21 5.80 25.11 (d) 29.34 18.75 5.76 25.08 (a) 22.41 8.21 7.87 33.29 (b) 25.54 10.14 8.07 34.25 (c) 28.47 12.01 8.22 35.01 (d) 31.41 14.28 8.36 35.76 (a) 8.94 4.87 2.54 10.75 (b) 11.74 7.07 2.66 11.30 (c) 14.81 9.74 2.68 11.45 (d) 17.68 11.88 2.74 11.75 (a) 21.81 14.74 4.75 20.85 (b) 24.94 18.15 4.88 21.61 (c) 27.88 20.35 4.94 21.97 (d) 31.41 23.22 5.04 22.54 (a) 21.47 13.8 6.90 29.89 (b) 24.74 15.74 7.06 30.69 (c) 27.67 18.47 7.20 31.47 (d) 30.67 24.51 7.29 32.26 60 60 豊浦砂 40 引抜き摩擦強さ;τpmax (kPa) 引抜き摩擦強さ;τpmax (kPa) 豊浦砂 (d) (d) 20 (d) (a) (a) (a) 20 40 垂直応力;σ (kPa) 図-6 (d) (d) 20 (d) (a) (a) (a) Type (B) Type (A) 0 0 0 40 60 0 引抜き試験結果(Type (A)) 20 40 垂直応力;σ(kPa) 図-7 60 引抜き試験結果(Type (B)) 2.4 最大引抜き力の決定方法 図-4,5 に 示 すよ う に 明 確 な ピ ー ク が 現 れ ないよう な引抜き試験 結果から最大 引抜き力を推 定する方 法 を 検討する.初めに,最大引抜き力の定義および特徴を以下に挙げる. (1) 引抜き曲線の傾きが緩やかになった後,最大引抜き力に至る. (2) 最大引抜き力を示した後,残留(引抜け)状態に至る. (3) 土中端のジオグリッドの変位量が 5∼15mm 程度発生してから引抜け状態(残留状態)に至る. (1)お よ び (2)は 一 般 的 な 引 抜 き 試 験 結 果 の 特徴を示しており,(1)については引抜き力と引抜き量の関係か ら,(2)については土中のジオグリッドの各節点変位から判断することができる.(3)は引抜きが進むとジオグ リッドに生じるひずみが土中奥へ向かって伝達され,土中端において土とジオグリッドの相対変位がある程 度増加してから残留(引抜け)状態に至ることから,土中端の変位によって判断することができる.図-8 は 豊浦砂を用い,ジオグリッドは Type (A)にて実施した引抜き試験(図-4 中のσ=60 kPa の曲線と同一の試験) - 114 - 40 から得られた,引抜き力と引抜き量の関係および 豊浦砂 σ=60 kPa ジオグリッドの各節点変位と引抜き量の関係を一 8 30 マークは●印が引抜き口付近の変位を示し,下へ 向かって順に土中奥の変位を示しており,一番下 方にプロットされた△印は土中端の変位を示して 力 き 抜 ロットし数値は右軸に示している.各節点変位の 引 引抜き力;F(kN) は実線で数値は左軸に,各節点変位はマークでプ 4 いる.引抜き力と引抜き量の関係において,曲線 の傾きが緩やかになり図-8 中で引抜き量が 25mm 引 抜 口 き 変 の 位 ( 引 抜 土 0 各節点の変位において引抜き初期から引抜き量が 0 20mm 程度までは徐々に節点間隔が広がりひずみ 10 図-8 が土中奥へ徐々に伝達し,その後各節点の変位が 量 ) 20 10 付近を超えると一定の割合で増加する.このよう な状態を残留(引抜け)状態と判断した.一方, き 節点変位;xi(mm) つの図中に表わしたものである.図-8 で引抜き力 中端 変 位 Type (A) 20 30 引抜き量;d(mm) 最大引抜き力の推定方法 0 40 直線的に増加し引抜け状態に至っていることがわかる.以上の結果から(1)∼(3)を統合して判断することに よ り,最大引抜き力を図中の引抜き曲線上に示す●印のように決定でき,その大きさは 8kN 程度と推定される . 3.引抜き試験結果 3.1 アッシュストーンを用いた引抜き試験結果 図-9,10 は Type (A),(B)それぞれのジオグリッドを用いて実施した引抜き試験結果を,アッシュストーン 毎に示したものである.図中の●印は前節で述べた方法にて推定した最大引抜き力を示す点である.これら の図より豊浦砂を用いた引抜き試験と同様にアッシュストーンを対象とした引抜き試験においても明確なピ ークは現れず,引抜け状態に至った後も引抜き力は増加し続けた.また,豊浦砂のように均一な土試料を用 いた場合には引抜き力と引抜き量の関係は垂直応力順になめらかな相似形で示される(図-4,5 参照)が,ア ッシュストーンを用いた場合にはデータのばらつきにより引抜き曲線には凹凸が見られ,データのばらつき 引抜き力;F(kN) 16 16 16 σ=60kPa σ=60kPa 12 σ=60kPa 12 12 σ=40kPa 8 σ=40kPa 8 σ=20kPa σ=20kPa 4 4 AS(Ⅰ) 0 0 20 40 引抜き量;d(mm) AS(Ⅱ) 0 60 0 図-9 20 40 引抜き量;d(mm) 12 引抜き力;F(kN) σ=40kPa 8 σ=20kPa 4 AS(Ⅲ) 0 60 0 20 40 60 引抜き量;d(mm) 引抜き試験結果(Type (A)) σ=60kPa 12 σ=60kPa 12 σ=40kPa 8 8 σ=40kPa σ=60kPa σ=40kPa 8 σ=20kPa 4 4 AS(Ⅰ) 0 0 20 40 引抜き量;d(mm) 60 4 σ=20kPa 0 AS(Ⅱ) 0 図-10 20 40 引抜き量;d(mm) AS(Ⅲ) 0 60 引抜き試験結果(Type (B)) - 115 - σ=20kPa 0 20 40 引抜き量;d(mm) 60 80 80 引抜き摩擦強さ;τpmax (kPa) 引抜き摩擦強さ;τpmax(kPa) AS(Ⅰ)(c=7.2 kPa,φ=36.6°) AS(Ⅱ)(c=5.8 kPa,φ=42.4°) AS(Ⅲ)(c=13.0 kPa,φ=39.0°) 豊浦砂 (c=2.9 kPa,φ=28.0°) 60 40 20 AS(Ⅰ)(c=9.6 kPa,φ=35.0°) AS(Ⅱ)(c=4.7 kPa,φ=34.9°) AS(Ⅲ)(c=3.7 kPa,φ=37.1°) 豊浦砂 (c=1.2 kPa,φ=27.0°) 60 40 20 Type (A) Type (B) 0 0 0 20 図-11 40 60 80 垂直応力;σ(kPa) 引抜き試験結果(Type (A)) 0 20 図-12 40 60 80 垂直応力;σ(kPa) 引抜き試験結果(Type (B)) は細粒分を含む AS(Ⅱ),(Ⅲ)と比較し,礫分を多く含む AS(Ⅰ)が顕著に表れた.図-9,10 中の●印が 示す値から算出された引抜き摩擦強さと垂直応力の関係をそれぞれ図-11,12 に示す.図-11,12 より,Type (A),(B)双方のジオグリッドともに,豊浦砂を用いた場合と比較し,どのアッシュストーンを用いた場合でも 大きな最大引抜き力が発揮され,摩擦強度定数(c,φ)も大きな値が得られた.これは本研究で用いた開 口部の大きな HDPE ジオグリッドが鋭利な形状を持つ礫分とのインターロッキング効果により大きな摩擦抵 抗力を発揮したためと考えられる.以上の結果はジオグリッドを用いた補強土工法に対し,アッシュストー ンを適用することへの大きな可能性を示している.また,アッシュストーンにはジオグリッドとのインター ロッキング効果の増加に加えて,自硬性を有し透水性も大きいという特徴を持つ 11) ことから,さらなる発展 も期待できる.一方,アッシュストーンは他の土質材料と比較し,高いアルカリ性を示す 11) ことから,使用 する際には十分に注意する必要がある.今後,アッシュストーンの用途拡大については,有利な点だけでは なく不利な点や注意すべき事項を十分に検討することが必要であり,さらに様々な研究データの蓄積が待た れる. 3.2 ジオグリッドの形状の影響について 豊浦砂を用いて実施した引抜き試験について,HDPE ジオグリッドの目合いの大きさが試験結果へ及ぼす 影響を明らかにするために,2 種類のジオグリッドによる結果の比較を図-13 に示す.図より Type (A),(B)の 両ジオグリッド共に同程度の摩擦角が得られたが,目合いの小さい Type (A)を用いた場合のほうが粘着力が 大きく得られ,より大きな引抜き摩擦強さを発揮していることがわかる.一般的にジオグリッドの土中抵抗 はジオグリッドの横リブによる受動支圧とジオグリッド表面の摩擦の和であることが知られており 12) ,今回 用いたジオグリッドは横リブ間隔の他は同様の形状をしているため,土とジオグリッド表面の摩擦は同程度 と考えると,Type (A),(B)間の引抜き摩擦強さの差は横リブ 1 本の発揮する抵抗力と考えることができる.図 -14 は Type (A)を用いジオグリッド供試体の土中端の横リブを切断することによる引抜き抵抗力の差を示し たものである.Type(A)および Type (B)の引抜き摩擦強さの違いは図-14 の横リブ 1 本分の引抜き摩擦強さ の 差と同程度であることからも,上述したことの裏付けとなる.また横リブ間隔が小さなジオグリッドほど抵 抗長あたりの横リブの数が多くなり,大きな抵抗力を発揮する.ジオグリッドの目合いの大きさに関する研 究は以前から実施されており 12),13) ,適切なジオグリッドの目合いの大きさが存在し,対象とする土試料の土 粒子径によって決まることが指摘されている 12) .すなわち,ジオグリッドの目合いの大きさと比較して粒径 の小さな豊浦砂を対象とした引抜き抵抗力は,横リブ間隔の小さな Type (A)のほうが大きくなるが,巨礫の ような大きな粒径の材料を対象とした場合には,目合いの小さなジオグリッドではジオグリッドを挟む上下 - 116 - Type (A) (c=2.9 kPa,φ=28.0°) 豊浦砂 引抜き摩擦強さ;τpmax (kPa) 50 50 25 (c=2.9 kPa,φ=28.0°) 横リブカット (c=1.5 kPa,φ=25.3°) 25 Type (A) 豊浦砂 0 0 25 垂直応力;σ(kPa) 図-13 0 50 0 Type (A),(B)の比較 25 垂直応力;σ(kPa) 図-14 Type (A) (c=13.0 kPa,φ=39.0°) Type (B) (c=3.7 kPa,φ=37.1°) 50 50 50 25 25 25 AS(Ⅰ) 0 0 25 垂直応力;σ (kPa) 50 50 横リブの影響(Type (A)) Type (A) (c=5.8 kPa,φ=42.4°) Type (B) (c=4.7 kPa,φ=34.9°) Type (A) (c=7.2 kPa,φ=36.6°) Type (B) (c=9.6 kPa,φ=35.0°) 引抜き摩擦強さ;τpmax (kPa) オリジナル 引抜き摩擦強さ;τpmax (kPa) Type (B) (c=1.2 kPa,φ=27.0°) AS(Ⅱ) 0 AS(Ⅲ) 0 0 図-15 25 垂直応力;σ (kPa) 50 0 25 垂直応力;σ (kPa) 50 Type (A),(B)の比較 の礫は一体とはならず十分なインターロッキング効果が得られない.このため大粒径の材料に対しては,逆 に目合いの大きな Type (B)の方が有利となることが予想される. 図-15 は 3 種類のアッシュストーン AS(Ⅰ)∼AS(Ⅲ)を対象とした引抜き試験から得られた引抜き摩 擦強さと垂直応力の関係について,Type (A)と Type (B)の比較を表したものである.上述した理由から,細 粒分を多く含む AS(Ⅱ)および AS(Ⅲ)については,目合いの小さなジオグリッド Type (A)を用いた方 が 大きな引抜き摩擦強さを示すが,比較的粒径の大きい礫分を多く含む AS(Ⅰ)に対しては両ジオグリッド 共に差はあまりない.さらに大きな粒径の土質材料を対象とする場合には,目合いの大きなジオグリッド (Type (B))の方が有利となることが予想される. 4.まとめ 3 種類のアッシュストーンおよび豊浦砂を対象とし,2 種類のジオグリッドを補強材とした一連の引抜き試 験を実施し,以下の結論を得た. 1. 残留状態に至っても引抜き力が増加し続け,明確なピークが現れないような引抜き試験結果から最大引抜 き力を推定する方法を示した. - 117 - 2. HDPE ジオグリッドは礫とのインターロッキング効果により大きな摩擦抵抗力を発揮するため,豊浦砂と 比較し,アッシュストーンに対して大きな最大引抜き力が得られた. 3. ジオグリッドを用いた補強土工法に対し,アッシュストーンの適用へ向け大きな可能性を示した. 4. 粒径の小さな土試料を対象とした引抜き抵抗力は,横リブ間隔の小さな Type (A)のほうが大きくなるが, 大きな粒径の土試料を対象とした場合には,目合いの大きな Type (B)の方が有利となると考えられる. 謝辞 本研究をまとめるに当たり,太陽工業(株)の原健二氏,神戸大学の鄭珉守氏には貴重なご意見を頂 きま した.末筆ながら,記して感謝の意を表します. 参考文献 1) 鐵鋼スラグ協会:鉄鋼スラグ製品の特性と有用性,http://www.slg.jp/pdf/fs-116.pdf 2) 林重徳,落合英俊,平井貴雄,瀬戸口淳一,萩迫栄治:ジオグリッドの引抜き試験と一面せん断試験の比 較,第 4 回ジオテキスタイルシンポジウム論文集,pp.119-125,1989. 3) Mitachi, T., Yamamoto, Y. and Muraki, S. 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