西郷隆盛像

九州歴史資料館
飛び出すむかしの宝物
解説シート
西郷隆盛像
謎の西郷像
出土遺跡
にしじんまち
西新町遺跡
西郷隆盛は幕末の薩摩藩の武士で、江戸城無血開城や明治新政府樹立など明治
維新に大きな功績を残し、明治 10（1877）年の西南戦争で新政府軍と戦い、鹿
児島県の城山の地で自刃しました。そのため死後、賊軍の将とされましたが、
明治天皇の意向や勝海舟・黒田清隆らの努力があって明治 22（1889）年に大日
たいしゃ
本帝国憲法発布に伴う大赦で名誉を回復されました。
西郷隆盛像はいくつかありますが、東京都上野公園の愛犬を連れた西郷像が
最も古く、除幕式は明治 31（1898）年に行われました。この西郷像は肖像画や
弟の西郷従道の風貌を参考にして作られています。西郷隆盛は、明治天皇が写
真を欲しがった時でも断ったほどの写真嫌いで西郷の顔写真は一切残っていな
いためで、参考にされた肖像画は現在よく知られている写真のような肖像画で、
銅版画家エドアルド・キュッソーネの描いたものです。キュッソーネは弟 の 西
郷従道と従兄弟の大山巌をモンタージュ風に合成したとされています。
本品は上野の西郷像と同じく浴衣姿で、ポーズがほぼ鏡写しになっています。
腰に兎罠を挟んでいないことや刀を差していないという違いもあり、上野の西
郷像のミニチュア品ではないので、東京で作られた物ではないでしょう。西郷
しゅうゆうかん
人気にあやかった博多人形と考えられます。旧制 修 猷 館中学校の生徒の持ち物
でしょうか。
西郷隆盛像
上野の西郷像は、彫刻家の高村光雲の作品です。頭部が
横に大きいのでずんぐりとした体格に見えますが、これは
足元から見上げた場合の遠近感で適正に見えるように頭
を大きく作っているので、実際の西郷の体つきではないよ
うです。
当初は像を皇居内に建てる案もあったそうですが、朝敵
となった経歴があることから実現しませんでした。また、
服装が偉人の銅像としては異例の浴衣姿になったのも西
郷への反感を持つ政治家がまだ多くいたからだといわれ
ています。
上野の西郷像
除幕式に招かれた西郷夫人は「うちの主人はこんなお人
じゃなかったですよ」と感想を漏らしたといいますが、顔
が似ていないとも人前に浴衣姿で出るような人ではない
という意味ともいわれています。
一方、鹿児島市の市立美術館のそばには、陸軍大将の軍
服を着た西郷像があります。昭和 12（1937）年に没後 50
年祭記念として作られたもので、東京渋谷の忠犬ハチ公像
を作った鹿児島の彫刻家安藤照が作成しました。上野の西
郷像と比べると、肖像画に近い細長い顔立ちです。
西郷隆盛の本当の顔については長い間謎とされていま
したが、平成 15 年に大分県日田市で西郷隆盛の新たな肖
鹿児島の西郷像
像画が発見されたというニュースがありました。描いたの
は平野五岳という当時高名な画家です。西南の役勃発直
前の明治９（1876）年に、大久保利通の密命で鹿児島に
行ったが、西郷には会えなかったとされています。 しか
し、肖像にえがかれた羽織が西郷南洲顕彰館に遺品とし
て残っており、実際、西郷に会ったのではないかとされ
ています。10 年後に描かれた肖像画ですが、もし、実際
に会っていれば西郷隆盛の顔を知る人物による唯一の西
郷像となります。
本品西郷像の頭部アップ
参考文献：福岡県教育委員会 2008『西新町遺跡Ⅷ』福岡県文化財調査報告第 218 集
写真：当館撮影
（文化財調査室
秦）