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南極大陸の岩石の中から新鉱物を発見

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南極大陸の岩石の中から新鉱物を発見
平成 23 年 5 月 31 日
資料配付
プ レ ス リ リ ー ス
南極大陸の岩石の中から新鉱物を発見
発表日時 平成23年5月31日(火)午前10時
発表場所 新潟県庁 記者クラブ会見室(4F)
発表者
志村 俊昭(第 50 次日本南極地域観測隊、新潟大学理学部地質科学科 准教授)
本吉 洋一(国立極地研究所 教授)
赤井 純治(新潟大学理学部地質科学科 教授)
発表概要
第 50 次日本南極地域観測隊「セール・ロンダーネ山地地学調査隊」が、2009 年 1 月
における野外調査で採取した岩石から新種の鉱物が発見され、「ヘグボマイト類」の一
種の新鉱物として国際鉱物学連合(IMA)<※1,2>に認定された。日本南極地域観測
隊が、南極大陸を構成する岩石中から新鉱物を発見したのは初めてのことである<※3>。
速報は、国際鉱物学連合のホームページと Mineralogical Magazine に近く掲載される。
また、新鉱物の標本は国立極地研究所南極・北極科学館(東京都立川市)と新潟大学
サイエンスミュージアム(新潟市西区)に後日展示される予定である。
サファイア(青色)、スピネル(薄紫色)
、雲母(茶色)
、緑泥
石(薄緑色)の中に赤色の鉱物として「ヘグボマイト」がみら
れる。
「ヘグボマイト」の単結晶。
新鉱物の名称や特徴など
「ヘグボマイト類」という稀少な酸化鉱物の一種に分類される。新鉱物であるが、命名ルール
が厳密に決まっている種類のため、
「magnesiohögbomite-2N4S(マグネシオヘグボマイト-2N4S)」
という名称になる。簡単には「ヘグボマイト」でよい。
「2N4S」は結晶構造を表す記号で、ノラ
ナイト構造(N)2枚とスピネル構造(S)4枚が層状に重なることにより構成されている。こ
の構造をもつ鉱物としても世界初の新発見である。六方晶系の鉱物で、簡略化した化学構造式は
Mg10Al22Ti2O46(OH)2 である。
コランダム(サファイア)やスピネルを含有する岩石中から、約 0.2mm〜3mm の大きさで、赤
色透明な六角形をした鉱物として発見された。
1
新鉱物発見場所
こ ゆ び
お ね
南極、セール・ロンダーネ山地中央部の「小指尾根」の斜面。キャンプ地からスノー
モービルで約 2 時間移動、そこからさらに約 3 時間、斜面を徒歩で登った場所(標高約
1500m 地点)で採取した岩石から発見された。
セール・ロンダーネ山地は昭和基地の西方約 600km にある、急峻な山岳地帯である。四国とほ
ぼ同等の領域に、約 10 億年前〜5 億年前に形成された岩石が広大に露出している。発見地点は
こ ゆ び
お ね
図の矢印の先端、
「小指尾根」である。この地域の地形が人の手の形のようであることから、日
おやゆび おね
こ ゆ び
お ね
本南極地域観測隊により東から西へ親指尾根〜小指尾根までの五指の名称がつけられている。
山
地の北方には日本の「あすか基地」がある。また、現在は山地の北西方にベルギーの「エリザベ
ス基地」が開設されている。
こ ゆ び
お ね
新鉱物の発見地点付近での地質調査の様子。
写真の右上方の氷河面にスノーモービルを残
置し、斜面を徒歩で登り地質調査中に発見し
た。
セール・ロンダーネ山地中央部、小指尾根付
くすりゆび おね
近から薬指尾根方向を臨む。
2
新鉱物発見の科学的意義
この鉱物が含まれる岩石の絶対年代や、周辺の地質などを総合して考えると、この新
鉱物は約5億2千万年前ごろに出来たと思われる。巨大な大陸同士(西ゴンドワナ大陸
と東ゴンドワナ大陸)の衝突によってゴンドワナ超大陸が出来た後、大山脈が盛り上が
る時期に、この新鉱物が出来たらしい。
たとえばインドがアジア大陸に衝突することで、その境界が盛り上がり、現在のヒマ
ラヤ山脈が形成されている。これと同様に、ゴンドワナ超大陸ができた時、約 6〜5 億
年前頃にこの地域に巨大山脈が存在したことが想定される。今回の発見と解析結果は、
ゴンドワナ超大陸の形成過程を探る重要な手がかりとなるであろう。
また、「ヘグボマイト類」の鉱物は化学組成・結晶構造・成因などが難解で、未解決
の問題が多数あった。今回発見された新鉱物が極めて高精度で分析されたことにより、
これと類似の鉱物(ターファイト類・ニジェーライト類など)の多くの謎が一気に解決
した。岩石学・鉱物学の飛躍的発展が期待される。
「ゴンドワナ超大陸」の復元図。6~5億年前頃に東西ゴンドワナ大陸が衝突し、ゴンドワナ超
大陸が形成された。セール・ロンダーネ山地は、まさにその時の衝突境界に位置している。その
後、
ゴンドワナ大陸は1億8000万年前くらいに分裂をはじめ、
南アメリカ・アフリカが分裂、
インドは北上しアジアに衝突、ヒマラヤ山脈を形成した。さらにオーストラリア大陸が離れてゆ
き、南極大陸は数千万年前頃に独立した大陸となった。
3
第 50 次日本南極地域観測隊「セール・ロンダーネ山地地学調査隊」の行動概要
メンバー
大和田 正明(山口大学)
志村 俊昭(新潟大学)
柚原 雅樹(福岡大学)
束田 和弘(名古屋大学)
亀井 淳志(島根大学)
阿部 幹雄(国立極地研究所(当時))
主な行動日程
第 50 次日本南極観測隊セール・ロ
ンダーネ山地地学調査隊は、2008 年
11 月 16 日に成田空港から出国し,
翌 2009 年 2 月 17 日に帰国するまで
の 95 日間にわたり行動した。往復に
は、成田空港〜ケープタウン〜ノボ
ラザレフスカヤ基地(ロシア)〜エ
リザベス基地(ベルギー)の経路を
航空機で移動した。
現地では全日程テントに居住し、
外部と完全に隔絶された環境で、全
行程をスノーモービルと徒歩により
野外地質調査をおこなった。太陽熱
を利用した水の確保、滞在中の全電
力を太陽光発電により賄うなど、環
境に配慮したオペレーションを実施
した。ほとんどの食糧は独自に開発
したフリーズドライで持ち込んだ。
スノーモービルとソリによる移動の様子。
国立極地研究所発行のセ
ール・ロンダーネ山地の地
質図。
セール・ロンダーネ隊の
キャンプ地(▲)および地
質調査地点(○)を示した。
山地の中央部〜西部にか
けて調査を行った。
4
ベースキャンプ地(BC)の全景。全日程テントで寝泊まりし、山地の地質を調査した。
テント周囲に配置した太
陽電池パネル(テントの手
前の黒い四角形の板)と造
水器(右手前のプラスチッ
ク箱)。生活に必要な電力
は、すべて太陽光発電でま
かなった。また、太陽熱で
雪を溶かし飲料水を造る
など、環境に配慮しながら
調査を続けた。
フリーズドライ食糧による食事。輸送
物資の軽量化・輸送の燃費向上・ゴミの
削減にもなり、これも環境保全に重要な
役割を果たした。
また、あたたかく美味しい食事は、隊
員の精神衛生にも良い効果を与えた。
5
●補足説明
<※1> 国際鉱物学連合(The International Mineralogical Association, IMA)
http://www.ima-mineralogy.org/
1958 年に設立された学術組織で、世界各国の鉱物学会等と協力し、鉱物学に関わる国
際連携を担っている。
<※2> 新鉱物命名・分類委員会(The Commission on New Minerals, Nomenclature and
Classification, CNMNC)
http://pubsites.uws.edu.au/ima-cnmnc/
IMAの8つの委員会の中の 1 つで、新鉱物の命名や鉱物の分類の定義を定めている、
世界最高かつ唯一の組織である。新鉱物かどうかは、この委員会に申請して認定されな
ければならない。世界中で年間約 50 件程度が新鉱物として認定されている。
<※3> 日本南極地域観測隊と新鉱物の関わりとしては、故・鳥居鉄也氏(1918-2008)
が 1963 年に発見したハロゲン化鉱物「南極石」がある。これは南極の池の中で、水中
に溶け込んでいる塩分などが低温条件などにより結晶化したものである。また、日本南
極地域観測隊が南極のやまと山脈で採取した隕石の中から、最近NASAの研究者が新
鉱物「ワソナイト」を発見した。
南極大陸の地殻を構成する岩石中から、日本南極地域観測隊が新鉱物を発見したのは、
今回が初めての事である。
●国際鉱物学連合による認定情報・論文掲載情報
Shimura, T., Akai, J., Lazic, B., Armbruster, T., Shimizu, M., Kamei, A.,
Tsukada, K., Owada, M. and Yuhara, M. (2011) Magnesiohögbomite-2N4S. IMA
2010-084. CNMNC Newsletter, 2011, Mineralogical Magazine (in press).
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